ケーブルの電気的 等価回路と挿入損失

㊦\11\ノ
NU2010年3月号に「ケーブルの減衰量と挿入損失」という表題で.デジタル伝送用のケーブル
において.インピーダンスマッチングが保たれない場合の問題を扱った.この手法を使用すると,
スピーカーケーブルの断面構造による音質傾向を知ることができる.ケーブルを試聴して選択で
きない場合などに参考にしていただければと思う.
ケーブルの電気的
等価回路と挿入損失
ケーブルの電気的等価回路は図
1に示すように,スピーカーケーブ
ル長は伝送する信号の波長より充
分短いので 図1の回路を集中定
数回路,すなわち1個だけを考えれ
ばよい.挿入損失;ai(以下“IL”
と記す)は図2のように,ケーブル
の両端にケーブルの特性インピー
ダンス(以下“Zo着 と記す)と逼
ったインピーダンスの回路が接続
されたときに.ケーブル内で消費
カーシステムとZoのマッチングを
スピーカーシステムである.パワー
採るのは不可能で スピーカーケ
ーブルに関する限り,減衰量は実
アンプは大きく分けて.半導体アン
際のエネルギーロスではない.た
だし.ケーブル単体を見たときに
出力インピーダンスは大きく異なり.
減衰量のカープから得られる情報
もある.たとえば 絶縁体の比誘
管アンプでは数復である.ただ こ
電率が周波数的に変動していると
減衰量カープの傾きが変わる,表
皮効果が発現する周波数では変曲
性は音声帯域ではほぼ一定であり,
点が現れるなどだ
音声帯域は大変広いので帯域
全体をカバーする特性を評価しな
ければならない.人間の聴力は正
一方,スピーカーシステムのイ
プと真空管アンプがあるが この
半導体アンプでは数十mQ,真空
の出力インピーダンスの周波数特
ケーブルのZoに比べ小さくILを
大きく変化させることはない.
ンピーダンス特性は低域共振の周
波数帯で上昇するのは共通してい
るが それ以上の周波数帯では.
するエネルギー量と定義される.
代表的なスピーカーケーブルの
周波数特性を図3に示すが ここ
で注意しなければならないのは
弦波の場合20Hz−20kHzが可
スピーカーシステムの構成により,
聴帯域とされているが 人の声や
楽器の音は単純な正弦波ではなく,
波形の違いにより音の違いが発生
変動の仕方は異なる,図4に,シ
音声帯域においてはケーブルのZo
は低音域ではl0000程度あるもの
する.それゆえ音楽信号は歪波交
流であり.基本波に加え,多くの
高調波成分を含み.ケーブル特性
としては100kHz程度までの伝送
面積を持った2心平行のスピーカ
が 周波数が上昇するにつれ 設
計次第ではあるが 高音域では数
十Qまで低下して,おおむね100
特性の評価が必要である.たとえ
ングルコーンスピーカーにAVCT
のSP−6P−MKⅡと4mm2の導体断
ーケーブルでのケーブル特性例を
示す.スピーカーのインピーダン
ス;ZSpをlkHzで80のものを16
飢こ意図的に変えてみると,ケー
kHz以上では一定になる特性を持
っている.
ケーブルの両端が20で終端され
ば 同じ音楽信号がデジタルで
44.1kHzと192kHzとでサンプリ
ブルのILの特性には逆のピークが
ングされた音楽信号が違って聴こ
ルのILの特性はスピーカーシステ
たときにケーブル内で失われるエ
えることを考えれば 正弦波での
可聴帝を超えた高周波域でのケー
ブル特性の評価も必要である.
ムのインピーダンス特性の影響を
ネルギーが「減衰量」であるが
図3に示すように,ケーブルの20
は音声帯域で大きく変動するので
両端に接続されるアンプ スピー
2014/3
実際に,スピーカーケーブルの
両端に付く機器はパワーアンプと
発生する.このことから,ケーブ
受けることがわかる.すなわち.
スピーカーシステムに対して.適
した,または音質改善をもくろむ
なら.選択すべきスピーカーケー
135
/、
\」
−、/(\/掴
スピーカーケ÷ガレの昔動輪1」
[表1]2心平行コードの棺造(SQ;導体断面積“mm2’を示す.)
∴∴ ∴ .
∴
∴ “∴
∴
∴ ii/ )
= :・ ∴
lS Q
1 / 1 .1 3
0 .
57
2 .
2 6 ×4 .
5 2
2 S Q
1/ 1.
6 0
0 .
80
3 .2 × 6 .
4
4 S Q
1 /2 .
3 0
1 .1 5
4 .6 × 9 .
2
」
\一一lSQH(mn/mi00p)
主ミミ
一一ISQZo(□)
0
一一lSOIL(dB/3m)
日
一 一
i i−2SQR(mn/mi000)
−2SQZo(0)
I
−2SQIL(OB/3m)
■
r 軍tC 書
「㌢4SQR(mn/mi000)
[図5]平行2心コード
○○4SQZo(n)
I
一章−4SQ点的/3m)
は3kHzである.導体が太くなる
⊥_L __
_
にしたがって,上昇を開始する周
波数は低下し,上昇の割合も大き
0.01 011 1 10 1001000
周波数〔kHZ〕
くなる.ILが上昇をするというこ
とは.スピーカーシステムに送ら
れるエネルギーが少なくなること
[図6]2心平行フィーダー;導体断面積による特性比較
このように導体に発現する表皮効
(92心平行フィーダー型コード;
であるので 導体が太くなるにし
たがって,バランスとして高音域
の音が出にくくなり,低音域強調
型のスピーカーケーブルとなる.
果は スピーカーケーブルの音質
導体間隔の効果
ここでの課題は導体の間隔を変
えたときに音質傾向がどのように
特に低音域を充実させたいとき
変化するかである.構造表を表2
今一つ,RのグラフはILと同
様に高周波域で上昇する.この上
は太い導体の平行コードが役立つ.
に示すが表1の2SQの構造を基
準にして.図7のように導体間隔
昇を開始する周波数はILが上昇す
る周波数と同じであることがわか
が撚ってあっても同じことである,
を変化させる主要因であることが
わかる.
ここでは平行コードと記すが2心
る.Rが周波数の増加にともなっ
て上昇するのは表皮効果が発現す
るからで銅線の10kHzでの表皮
印
を2倍,4倍とした場合の特性変化
を図8に示す.
細密援用(mO/mi00P)
−密接k(n)
深さは約0.6mmと,lSQ導体の半
径とほぼ等しく.Rの上昇の主因
が表皮効果であることがわかる.
ヽ
−密接lL(dB/3m)
β
/うー2倍R(mO/mi00o)
−1−2倍Zo(0)
\__
一一2倍IL(dBI3m)
一一4倍月(mn/mi00P)
L 」
一°4億五(n)
一一4倍IL(dB/3m)
L
T =i
←
OiO1 0、1 1 10 1001000
周波数〔州I〕
[図7]2心平行フィーダー型コード
[図812心平行フィーダ一線タイプ;導体断面積による特性
比較
[表2]2心平行フィーダー型コード揃造(邁体断面積;2mm2(1/1.6mm))
誓
卒 絶 繰 電 線 間 藤
密 接
2014/3
/ 高
(
2 心 平 行 )
\\導 体 外 径
〔本 /同 m l
/
\
〉 絶 縁 厚
〔m m 〕
// 導 体 T中 心
〔m 同
m 距
〕 離 ; 1 / 1 .6 0
0 .8 0
2 倍 間 隔
3 .
2
1 / 1 .6 0
0 .8 0
6 .4
4倍 間 隔
1 / 1 .6 0
0 .8 0
1 2 .8
137
献4).100Hzでの静電容量は
100kHzの倍になることであり,低
音域の音の出が悪くなる.ポリエ
チレン(PE)やフッ素樹脂の
導体に触れた塩素は銅線の表面で
塩化銅を作り.銅の光沢をなくし.
さらには銅線か黒変する.信号伝
送上最も重要な導体表面が侵され
ルドを接地(アース)しなければ
外来ノイズから身を守ることはで
きない.スピーカーケーブルにも
シールドが施されている製品がか
PTFEではgsは小さく,周波数に
よらず一定で安定な音質を得るこ
とができる.比誘電率が周波数に
ることば 長期にわたって良好な
音質を維持できないことになる.
前項で導体が均一で断面が円
なりあるが接地用のリード線が
付けられたケーブルにお目にかか
よらず変わらない材料のものを選
定することが低域から高域まで
形であることが重要であると述べ
広帯域を得る上では重要である.
も均一な厚さで被覆されることが
音質上は重要である.目で見ても
逆に,PVC絶縁で導体が4SQを
超えるような2心のスピーカーケー
たが絶縁材料やシース(外被)
ブルを作ると,低周波域も高周波
域も音の出の悪い,かまぼこ型の
音質傾向のケーブルができる.
導体が絶縁体の中心にない(偏心)
ことがわかる製品は絶縁の最大・
最少厚さに20%以上差があり.通
信ケーブルでは不良品扱いである.
また絶縁材料のなかには経時
的に特性が変化・変質するものが
このような偏心した絶縁体の製
品では,往復導体が作る電磁界が
あるので注意が必要だ その代表
的な例は透明のPVC絶縁である.
PVCは塩ビ管のように本来は固
い材料で 電線用に用いるために
不均一となり,良好な音質は得ら
れない.ケーブルの断面を観察す
る際は ケーブルが作られた製造
ったことがほとんどない.購入者
がアンプのアース輔子に自分で接
続しているのだろうか?
シールド線を接地せずに解放状
態で置くと.シールドの金属部に
は スピーカーケーブルを伝わる
信号の電磁界が渦電流を発生させ
る.この渦電流から発生した電磁
界は,元の音楽信号の電磁界を妨
げる役目を果たす.このために
シールドがない製品に比べ,ケー
ブル内でのエネルギーロスが増え
るので音質が変わる.ケーブル設
技術上の品質にも目を光らせるこ
とが大切である.
が透明にするには大量の可塑剤
が必要である.この過剰な可塑剤
は時間とともに導体および電線の
外に沈み出してくる.可塑剤は
計上はシールドを施すと導体間の
静電容量が大きくなるのでエネル
ギーロスが大きくなる.音質がよ
くなるか悪くなるかはそのセット
③スピーカーケーブルに施された
シールド
次第であろうが厚着をして運動
をするようなものである.
PVCの中の塩素も一緒に運ぶので
どのようなものであっても,シー
可塑剤という液体をPVCに混ぜる
シールドが施されたケーブルは
あとがき
ここではスピーカーケーブルの
内部で実際に失われるエネルギー
である挿入損失の周波数特性を基
に音質傾向を示したスピーカーケ
ーブルの断面を見て,間違えなく好
みの音が出るケーブルを選定する
お手伝いができれば幸いである.
〔参考文献等〕
(1)4、殊更推:通信線路伝送理論,電子通
信学会編,コロナ社(1973)
(2)Um「AVケーブルの教科割:
http//homepage2mifty.com/NEGY/
(3)棍棒邦夫:ケーブルに減衰量と挿入指
先MJ鯛と実験∴2010年3月号,pp.43
−45
[図12]各種プラスチック材料の比諸富率の周波数特性
140
(4)安田武夫:プラスチック材料の各種特
性の試験法と許価結果.プラスチックス,
VoL52.Noj(2001)
MJ