設計と測定の基礎( 講義+見学) 磁場発生装置である磁石について、設計思 想や磁場測定の方法を学ぶ。ここでは常伝 導磁石について学ぶ。 2014.6.12 飯沼裕美 [email protected] 1 2 加速器電磁石の例:KEKB リング ビームパイプが2本見える。 陽電子リング 電子リング 電磁石の数は約 偏向:110台×2 四極:450台×2 六極:100台×2 補正:各四極にV/H 3 設計に必要な基礎知識 (電)磁場を表す式:Maxwell方程式 磁極の形:Laplace方程式 コイルの配置 起磁力とは? 目標! 実際の設計で考慮すべきこと。 コイルの冷却 鉄心を選ぶ基準 磁場測定 ハーモニックコイル 見学(午後、日光B4) 4 rot H = J , rot E =0, divD=ρ , divB=0. B=µ r µ 0 H . 真空の透磁率 比透磁率 取り扱う空間内に電流が存在しない場合、 1 rotH = 0 ⇒ rotB = 0 µ µ0 µr (Vは磁気スカラー B = − gradV ポテンシャル) rotB = −rot ( gradV ) = 0 divB = − div( gradV ) = ∇ 2V = 0 ラプラス方程式 空間内に電流が存在しない場合は磁気スカラー ポテンシャルVはラプラス方程式を満たす。 5 ラプラス方程式を円筒座標で表すと 1 ∂ ∂V 1 ∂ 2V ∂ 2V r + 2 2 + 2 = 0 r ∂r ∂r r ∂φ ∂Z Vをr=0のまわりでTaylor展開して V (r, φ,z) = ∑ n!An (z)r neinφ 1 n>0 2次元磁場を過程するとn次のポテンシャルは ビームは中心(r=0)近傍を通る。 Vn (r, φ ) = 1 An r n einφ n! 或は直交座標系では Vn (x, y) = 1 An (x + iy) n n! 通常加速器は水平に設置されるので利用するのはポテンシャル の虚数部から得られるNormal成分。 Nの値によって二極磁場(n=1)、四極磁場(n=2)、六極磁場(n=3)、、、となる。 6 前頁のポテンシャルを与える磁極を作ればよい。 コア(鉄)が飽和していない場合、等スカラーポテンシャル面 (Vn(x,y)=const)が磁極形状を表す。 例1:二極電磁石(Dipole magnet) V (x, y) = Im(A1 (x + iy)) = cy 例2:四極電磁石(Quadrupole magnet) B = − gradV Bx =k y B y =k x By = k V (x, y) = Im(A2 (x + iy) 2 ) = cxy 7 断面形状により、三つの タイプに分けている。 (1)C型 (2)H型 (3)窓枠型(window frame) • C型はギャップへのアクセスが容易だが漏れ磁 場が大きく、高磁場では時期力のためギャップ が変形する。 • H型は変形の心配はないが、アクセスがしづら い。 • 同様に窓枠型も高磁場を出すのに向いているが、 コイルとビームが通る領域が近くなってしまう。 8 磁極の端が無限にx又はy軸に漸近すると、理想的 な磁場が形成されるが、コイルを設置するスペー スを確保するために、あるところで磁極を切断す る必要がある。そのため、磁石の中心から離れる ほどに磁場分布は Bx=ky, By=kx からずれてい く。このズレを補償するために、磁極を円弧で近 似したり、磁極を切断するところにシムを設けた りする。 9 無限に長いコイルに、軸方向(z)に電流Iが流れているときの磁場 Bout(z)を考える。断面が円の場合、楕円の場合はどうなるか? 断面が楕円の場合 宿題 10 By=const., Bx=0 By=Gx, Bx=Gy 11 By=const., Bx=0 By=Gx, Bx=Gy 12 Dipole B0 g µ0 B0 g µ0 + magnet Bi li µ0µr Quadrupole magnet r0 B ⋅ dr B ⋅ dr +∫ , NI = ∫ = NI , 0atθ = 45 µ0 xaxis µ0 k r02 . NI ≅ 2µ0 ≅ NI . 電磁石の起磁力を計算する ストークスの定理 ∫ (rotV ) ⋅ dA=∫ V ⋅ ds S C ∫ (rot H ) ⋅ dA=∫ H ⋅ ds =∫ J ⋅ dA=I ∴ 1 S C µ0 ∫ C S 1 B ⋅ ds =I µr 13 4GeV/cの陽電子を偏向電磁石100台使い1周 させたい。1台あたりの磁場[T]とATを求めよ。 ただし、偏向磁石の長手方向の長さを4m,磁極 の間隔g=10cmとする。 便利な公式 一様な磁場では、磁場に垂直な面内で円運動 10 p(GeV c ) p Bρ = ⇒ B ρ (T ⋅ m) = 2.9979 e 14 1台の磁石で曲げる角度θ=2π/100[rad] 長手方向の長さL=4m なので、 曲率半径ρ≅L/θ =63.7 [m] B=0.21 [T] NI = 1.7E+4[AT] B0 g µ0 ≅ NI . 15 磁極形状 マグネットタイプ(偏向/四極/六極、、、)で決まる。 リターンヨークの太さ あまり細いとfluxが回りにくくなる 全体の大きさ 実際の加速器ではマグネットを置けるスペースに限りがある ことが多い 無駄に大きくすると必要な鉄の量も増える コスト 設置、アライメント コイルスロットの大きさ 必要ターン数のコイルが無理無く入るか。 コイルの冷却も考慮しつつ・・・ 16 (電流密度<1A/mm2の場合) 強制空冷(ファン等で強制的に空冷する。) 間接水冷(ボビン等を水冷する。) 直接水冷(ホローコンダクターを使用する) 自然空冷 孔のサイズ、銅の部分との断面積比をどうやって決めるか。 1. 電流密度、水の流速、コイル抵抗、 2. 温度上昇、等々 詳細はバックアップ資料参照。 17 一般に鉄と呼ばれているのは鉄と炭素の合金。炭素含有量が~0.02%以下のもの(軟 鉄)が電磁石に使用される。 軟鉄にもいろいろあるので電磁石のタイプにより適切なものを選ぶ。 直流電磁石 交流電磁石、パルス電磁石、e.t.c. 磁場を時間変化(周期的あるいはパルス的)させる。例:KEKBキッカーマグネット 機械加工性がよい 経年変化がない 応答性がよい 渦電流(Eddy current)損失が少ない(鉄損が少ない) コイルの電流を変えない。発生させる磁場を変えない(敢えて言うなら秒の単位では、の話)。 例:KEKBリングマグネット ケイ素を入れることにより電気抵抗が上がり渦電流損失が小さくなる ヒステリシス損失が少ない(保持力が小さい) 飽和磁束密度が高い(鉄の場合、飽和磁場:~2T) 強磁性体の比透磁率は外部磁場が小さい時(物質内に磁束密度が小さい時)は大きい。 物質内の磁束密度が大きくなると小さくなる。比透磁率が1に近づいて行く。→飽和効果 鉄の場合、飽和磁場:~2T ヒステリシス効果がある。 残留磁化 保磁力 Br Hc B-H曲線 18 19 磁場測定の目的 加速器に据え付ける前に磁場性能を確認する必要があ る。 設計通りの磁場が出ているか。 強さ、多極成分 不具合はないか?(コイル短絡とか) 同じタイプの電磁石を何台も製作する場合 (大型加速器では何十台、或は100台 オーダー)の個々のバラツキ。 測定される電磁石のパラメタはデータベー ス化され加速器の運転に反映される。 20 加速器用の電磁石磁場測定には高精度が (〜10-4)要求される。 測定方法(原理)だけではなく測定環境(測定する部屋 の温度、冷却水温度、電源の安定度等)に注意する必要 がある。 磁場測定方法 ホール効果 核磁気共鳴 サーチコイル(導体ループに誘導される電圧の測定) dφ E=− dt ファラデーの法則を利用 磁場中でコイルを動かして誘導電圧を測定する。 21 コイルの回転中心を磁場中心に 合わせて回転させる. コイルに誘導される電圧はコイルが 横切る磁束の変化率に比例 四極電磁石の中でコイルを一回転 させた時の電圧(時系列) 1 ∂ ∂V 1 ∂ 2V ラプラス方程式再登場r ∂r r ∂r + r 2 ∂θ 2 = 0 (2次元の場合を考える。) ∞ n ラプラス方程式の解は V ( r , θ ) = ∑ [an sin( nθ ) + bn cos(nθ )]r n =1 磁場成分は Hr = − 1 ∂V ∂V , Hθ = − r ∂θ ∂r 磁場成分の周波数解析を すれば周波数成分と 位相がわかる 22 1. 小さなボビンに巻かれたコイル を磁場中で反転させ誘導電圧を 積分することによりコイル巻き 線を通過する全磁束を求める 2. 長手方向の磁場分布を測定する。 23 24 BC1RP/BC1LP 定格 10A 2500AT/coil, 0.048T Lattice: Leff=0.344m B3/B1<3% (R<40mm) BC(1~4)(R/L)E 定格 20A 間接水冷 14400AT/coil, 0.136T Lattice: Leff=0.344m B3/B1<3% (R<40mm) #1~3 #1 ZV1~25 定格 5A 8100AT/coil, 0.07T Lattice: Leff=0.344m #1~12 #2 長手方向の鉄の長さはBCP/BCE/ZV全て0.2m Full-gapは0.132m,0.266m,0.290m #25のみ測定 25 #2 BCE BCP Opera-3D Leff=0.281[m] (0.295 opera) BCE Leff=0.362[m] (0.370 opera) 20A 16A 12A 8A 4A 長手方向の鉄の長 さはBCP/BCE/ZV 全て0.2m Full-gapは0.132m, 0.266m,0.290m ZV Leff=0.431[m] (0.475 opera) 26 BL=0.01366 T.m BCP 0.0486 定格10A (設計 0.048) B3/B1=6.6E-3 磁場成分の周波数解析を行い、周波数成分と 位相を確認する。 BL=0.02623 T.m BL=0.04781 T.m BCE 0.090 ZV 0.1321 定格 (設計 定格5A (設計 20A 0.07) 0.136) B3/B1=1.9E-2 B3/B1=3.0E-2 4回の測定の標準偏差 1E-6 [T.m], 1E- 27 BCP 定格10A BCE 定格 20A ZV 定格5A 28 Nが2つ!? 左右の極がともにN 極のシグナル めでたし、 めでたし #3,#4をひっくり 返す。 終わり 31 32 冷却に必要な冷却水の流量 q (l/sec) 発熱量 W (kWatt) 冷却水の温度上昇分 ∆t (℃) W (kW ) −3 −3 2 q(l /sec) ≈ = 10 v AF = 10 vFs dh 4.2∆t ここで、ν (m/sec) 流速 :あまり速いと導体の浸食が起こるので 2-3m/s 位に押さえる。 AF (mm) 穴の面積 形状因子 Fs dh (mm) 穴の直径 AF FS = 2 dh 4 AF dh (mm) = C FS = π 孔が円形の場合 4 C:円周 33 コイルの中の水の流れ 管内の流れ方は流量が増加すると層流から乱流に遷移する。層流か乱流かは レイノルズ数(Re)を計算するとわかる。Re>2300だと乱流 −3 Re = 10 4q vd = VT πdVT VT(m2/s):T ℃における動粘度 …~1×10-6@20℃ v(m/s):流速 d(mm)冷却チャンネルの直径 q(liter/s):流量 (例)V=2m/s, d=6mmではRe>2300 多くの場合加速器電磁石冷却水システムは乱流領域である。 34 流体が管内を通過する時、流体の摩擦などによって圧力低下が起こる。 これを圧力損失という。ホロコンの中に冷却水を流す場合に圧力損失を考慮しな いといけない。 コイル(一冷却水路)の圧力損失 ∆Pw (kg/cm2)は乱流領域の場合、 ∆ Pw (kg /cm 2 ) = 0.18 ⋅ LC v1.75 LC (m) 1 FS1.75 d1.25 h コイルまたは冷却水路の長さ 穴が円形である時、dhをm単位で表すと、圧力損失は v1.75 ∆ PW (kg /cm ) = 5 ⋅10 LC 1.25 dh 2 −5 冷却に必要な冷却水の流量 q (l/sec)と圧力損失から 適切なdhを選べばよい。 35 冷却水による銅の導体の浸食、腐食 流れが急激な変化をしている所や、流れの乱れの部分が 局所的に浸食されて銅の部分が薄くなって、その周辺に 酸化銅等が付着することが起こる。 → 水漏れ、コイルの異常な温度上昇 → コイルの破壊 冷却水管の表面皮膜(銅の酸化物)の機械的、化学的剥離 損傷速度は物理的作用と、水の性質(気泡、溶存酸素濃度 、温度、pH等)に依存する。 36 37 外部磁場中で金属板に電流を 流した時、電流に直角な方向に 磁場に比例する電位差が現れる (Hall effect)。 いわゆる市販の『ガウスメーター』 はホール素子をセンサーに組み込んで あるもの。 半導体(InAs、Ge、GaAs)が 主にホール素子として使われる。 温度依存性(ホール電圧の温度変化) プローブのアライメント 38 ホール素子を並べてマッピングすることも出来る 39 µ 陽子、重陽子の磁気モーメント を利用する方法 磁気モーメントは外部磁場のまわりを磁場強度に比例す るLamor周波数で歳差運動する。 磁気モーメントだけに依存するので正確。 E = − µ ⋅ zˆB0 = − gµ N mB0 gµ N B0 ν0 = h 40 水素の原子核(g=5.58554)で、 磁場が1Tの時、 ν0 =42.57629MHz NMR法はサンプルを覆う範囲で<10-3程度 の磁場の一様性がないと、吸収線が見えない。 二極電磁石の中心付近等でfield qualityのよい ところでは使える。 四極電磁石ではダメ。 41
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