6.まとめ - プラズマ・核融合学会

J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.8 (2014)4
68‐469
小特集
高強度・高出力レーザーの物理的・技術的展開と,プラズマ・核融合研究開発
6.まとめ
6. Summary
佐 々 木 明,近 藤 公 伯
SASAKI Akira and KONDO Kiminori
独立行政法人日本原子力研究開発機構原子力科学研究部門
量子ビーム応用研究センター
(原稿受付:2
0
1
4年4月9日)
本小特集では,今後の基礎科学,産業応用を支えるレー
技術など個別の技術のさらなる進歩とともに,レーザーの
ザー技術を紹介した.現在,さらなるレーザーの高強度化
物理の理解に基づいてブレークスルーがなされることが期
により,高強度場科学,高エネルギー密度科学の分野が開
待される.コヒーレント加算技術はそのひとつの例として
拓されると考えられ,すでに広汎なレビューが出版されて
考えられ,各分野において,革新的な技術を見出すことが
いる.高強度場科学については,光による束縛電子のイオ
重要と考えられる[3].一方で,レーザー集光強度が相対論
ン化,レーザー航跡場と電子加速,レーザー駆動イオン加
的,極相対論的になった今,加速器と高強度レーザーの積
速,非線形量子電磁力学などの課題
[1]
,高エネルギー密
極的な組み合わせによる新しい分野の創出が期待できる状
度 科 学 に つ い て は,固 体−プ ラ ズ マ 中 間 状 態(Warm
況であることも申し添えたい.
Dense Matter: WDM)
,高圧凝縮物性研究,相対論プラズ
ヨーロッパでは現在,ELI(Extreme Light Infrastruc-
マ物性研究,実験室宇宙物理,プラズマフォトニクスなど
ture)と呼ばれる超高強度場科学のプロジェクトが進めら
の課題[2]が考えられている.応用分野では,実用化が間近
れ,旧東欧3カ国に3つの柱(pillar)と呼ばれる研究所が
い技術に EUV 光源があり,粒子線癌治療を初めとしてナ
設立されている.チェコには ELI-Beamlines,ハンガリー
ノ加工などさまざまな分野で今後の展開が期待されてい
には ELI-ALPS(Attosecond Light Pulse Sources),ルーマ
る.加速器技術への応用は特に将来重要になる可能性を
ニアには ELI-NP(Nuclear Physics)と呼ばれる,それぞれ
もっている.CPA 技術を用いて実現された TW∼PW 級の
高強度レーザーによる二次粒子(電子,X 線,!線など)の
レーザー装置を活用した研究が進展し,その結果をもとに
発生と応用,アト秒物理,核物理の研究の拠点として,
将来についての議論が進められている.本小特集では,プ
レーザーの研究開発が進められている.ヨーロッパでは,
ラズマ,核融合分野の読者に対して,レーザーの技術の現
以前からドイツマックスプランク研究所(MPQ)や,フラ
状と今後の課題を紹介することを試みた.
ンスの LOA,Ecole Polytechnique,CEA,英国 CLF(Cen-
第1章では,現在までの高強度レーザーの研究について
tral Laser Facility)のように,それぞれの国で特徴のある
の背景,歴史について述べ,高強度レーザーの現状と今後
レーザーと光学の研究が行われてきた.レーザー装置の
の研究課題ついて概説した.次いで,第2章,第3章では
User Facility としての活用も進んでいるが,ELI プロジェ
大阪大学レーザーエネルギー学研究センターや,日本原子
ク ト は,ESFRI(European Strategy Forum on Research
力研究開発機構関西光科学研究所の装置を対象に,具体的
Infrastructure)のロードマップにおいて,EU(ヨーロッ
な研究開発の紹介を行った.第4章では,EUV 光源の実用
パ連合)全体の長期的な科学技術政策の一部として進めら
化を目的として行われているレーザーの研究,産業,医療
応用のために不可欠な,高平均出力化について議論した.
れ,教育,人材育成,産業開発に渡る成果が得られている
[4].
第5章では,エンハンスメントキャビティというプラズマ
このような活動は,ICUIL(International Committee for
発生を促せる高強度レーザーとしては新しいスタイルの研
Ultrahigh Intensity Lasers)と CAN(Coherent Amplifica-
究事例を示した.
tion Network)という,国際的なレーザー研究者のコミュ
高強度レーザーの実現は,レーザー増幅媒質,増幅器の
ニティにより支えられ,さらに国際的なバーチャルラボ,
構成,光学材料,診断などさまざまな面において,精密な
IZEST(International center on Zetta-Exawatt Science and
技術の積み上げによってなされている.例えば,高強度
Technology)において,将来のエクサワ ッ ト(EW:1018
レーザーで安定に高い性能を発揮するためには,増幅媒質
W),ゼタワット(ZW:1021 W)レーザーの実現とそれによ
の熱の 制 御,寄 生 発 振,ASE な ど 光 の 制 御 が 重 要であ
る物理の研究が議論されている.すなわち,超高強度レー
り,それには増幅媒質,光学素子の新材料や,波面の制御
ザーを用いた慣性核融合の高速点火や,福島原発事故を
Quantum Beam Science Directorate, Japan Atomic Energy Agency, Kizugawa, KYOTO 619-0215, Japan
Coresponding author’s e-mail: [email protected]
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!2014 The Japan Society of Plasma
Science and Nuclear Fusion Research
Special Topic Article
6. Summary
A. Sasaki and K. Kondo
きっかけに重要性が改めて注目される原子力技術,核廃棄
を適切な形で集約し,意思決定を行うことが必要になる.
物の診断や処理などの応用も含めた将来像が構想されてい
コミュニティを構築するための手法も含めて検討し,実現
る[5].
することが重要になると考えられる.
ELI プロジェクトは,レーザーが世界の科学技術の重要
な要素であることを示している.レーザーは,核融合,原
参考文献
子力エネルギーの一分野としての量子ビーム技術など多様
[1]近藤公伯:レーザー研究 42, 107 (2014).
[2]兒玉了亮:レーザー研究 41, 5 (2013).
[3]清水富士夫,加藤義章他編:レーザーの5
0年(講談社ビ
ジネスパートナーズ,2
0
1
4)
.
[4]植田憲一:レーザー研究 42, 113 (2014).
[5]田島俊樹:レーザー研究 42, 111 (2014).
な興味の対象となっている.この分野においてこれまで日
本の研究者が重要な役割を果たしてきた実績に基づき,世
界の状況に照らしてインパクトのある目標を設定すること
が重要である.レーザーに関係する多様な興味と,実現に
必要な多くの技術的な問題を考え,コミュニティを構築す
ることが重要と考えられている.それには,研究者の意見
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