394 - 日本オペレーションズ・リサーチ学会

論文誌掲載論文概要
JORSJ Vol. 55, No. 2,TORSJ Vol. 55
● JORSJ Vol. 55, No. 2
ロジーを予め指定する必要がない.このため,混合整
日本株式市場におけるコントラリアンリター
ンに対する格付の影響
佐々木 大輔,宮
浩一(電気通信大学)
数計画問題を解くことで実際にさまざまなテンセグリ
ティが得られることを,数値実験により示す.
k 次近隣距離の近似と立地分析への応用
宮川 雅至(山梨大学)
本研究では,日本株式市場を対象として,格付と短
期コントラリアンリターンとの関係について分析し,
本研究では平面上の任意の地点から k 番目に近い点
主に次の 4 つの分析結果を得た.第一に,短期コント
までの距離(k 次近隣距離)に対する単純な近似式を
ラリアンリターンは主に敗者ポートフォリオから生成
与える.距離の計測には,連続平面上の直線距離と直
される.高格付では不況時において短期コントラリア
交距離を用いる.そして,k 次近隣距離が k の平方根
ンリターンが大きく,低格付では好況時にモメンタム
に比例し,点の密度の平方根に逆比例することを示す.
リターンが確認される.このことは,自己相関係数,
また,近似の精度を規則的およびランダムな点分布パ
ボラティリティ,相互自己共分散によって裏付けるこ
ターンを用いて検証する.さらに,近似式を道路距離
とができる.第二に,格付を説明する各ファクターだ
と比較することで,連続平面上の近似式が道路網上の
けを用いても短期コントラリアンリターンを説明でき
k 次近隣距離を見積もる際に役立つことを確認する.
ないが,格付は短期コントラリアンリターンと関係性
最後に,立地分析への応用として,いくつかの施設が
が高い.第三に,コントラリアンリターンは,低格付
閉鎖された場合の,利用者から最寄りの開いている施
に関しては主に相互自己共分散によって生成され,高
設への平均距離を求める.
格付では主に自己共分散によって生成される.第四に,
高格付のコントラリアンリターンはマーケットリスク
をコントロールしても有意に確認される.
自重を考慮したテンセグリティのトポロジー
最適化
寒野 善博(東京大学)
テンセグリティ(tensegrity)は,直線状の圧縮材
(ストラット)と引張材(ケーブル)がピン接合され
セミ・マルコフ変調ポアソン過程から生成さ
れるランダム・ショックの累積分布評価及び
CDO 価格計算への応用
黄 嘉平(アムステルダム自由大学)
住田 潮(筑波大学)
近年,Collateralized Debt Obligation(CDO)と呼ば
れる金融派生商品が研究者や実務者の間で注目を集め,
その取引高も急速に増加しつつある.しかし,その無裁
てできる構造物の一種である.特に,圧縮材どうしは
定価格を求めるためには,対象となる損失の累積の分布
接続されておらず,引張材に張力を導入することで安
を有限時刻tにおいて評価する必要があり,その困難さに
定な釣合状態となることがテンセグリティの特徴であ
より,価格評価法に関する研究は未だ限定的なものであ
る.任意の形状がテンセグリティとして実現できるわ
る.本論文では,セミ・マルコフ変調ポアソン過程を用
けではないため,これらの条件を厳密に満たす新しい
いてCDOの価格評価モデルを構築し,新たなCDO 価格
テンセグリティを設計することは容易ではない.本論
計算法を提案する.著者達の過去の研究で得られた結果
文では,自重に対するテンセグリティの剛性を最大化
及びラゲール変換法を用いて,各時刻における累積損失
するトポロジー(部材の接続関係)を求める最適設計
額分布を数値的に求めるアルゴリズムを開発し,これに
問題を考え,この問題が混合整数計画問題に帰着でき
よって対応するCDOの価格評価が可能となる.アルゴリ
ることを示す.この手法では,テンセグリティのトポ
ズムの効果を示すため,幾つかの数値計算結果を示す.
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オペレーションズ・リサーチ
● TORSJ Vol. 55
標から個別企業のデフォルト確率を推定する統計モデ
2 種類の施設を統合する施設配置問題:幼保
一体化への適用
鈴木 勉(筑波大学)
本論文では,2 種類の機能・需要の異なる施設を両
ルである.デフォルトは固有ファクターだけではなく,
すべての企業に共通するマクロファクターの影響も受
ける.推定デフォルト確率(推定 PD)と実績デフォ
ルト率(実績 DR)の一致精度を高めるにはマクロ
ファクターを説明変数に加えることが望ましいが,デ
方の機能を持つ新しいタイプの施設に統合するときに,
フォルトに関する時系列データの蓄積が不十分なため,
統合施設の適切な場所を決定する 2 種類の施設の統合
回帰分析などによって具体的な指標を特定することが
配置モデルを定式化する.さらに,これを幼保一体化
難しいという課題がある.一方で,2007 年頃から始
によるこども園の配置場所の選定に応用する.計算例
まった急速かつ大幅な景気悪化によって,実績 DR が
では,幼稚園の定員の余裕分を保育所の不足分に振り
推定 PD を上回る状況が続いており,マクロファク
替えながら,同時に需要点からのアクセシビリティを
ターを加味することの必要性が高まっている.そこで,
向上させる案を作成し,施設統合モデルが,利用者の
本研究では日本政策金融公庫国民生活事業本部が保有
アクセシビリティと施設需要の大きさのバランスのと
する約 54 万件の豊富なデータを用いて時系列データ
れた統合案を決定することに有用であることを示す.
の不足を補い,具体的な指標の選択を行った.その結
信用スコアリングモデルにおけるマクロファ
クターの導入と推定デフォルト確率の一致精
度の改善効果
枇々木 規雄(慶應義塾大学)
果,マクロファクターとして前月デフォルト率が有効
であり,前月デフォルト率を説明変数に追加した新モ
デルを構築すると,推定 PD と実績 DR との乖離が最
大で 0.72%ポイント縮小するなど,推定 PD の一致精
度を改善することができた.
尾木 研三,戸城 正浩(日本政策金融公庫)
小企業向けの信用スコアリングモデルは主に財務指
2012 年 7 月号
(47)395