§9. 正則函数の性質 以下,D を領域,函数 f は D で正則とする. 定理 9.1 (1) f は D で何回でも複素微分可能である. :閉円板,C : の周である円周を反時計回りに 1 周する路 Z f (⇣) n! (n) =) f (z) = d⇣ (8z 2 Int( )). 2⇡i C (⇣ z)n+1 (2) D 証明 (1) と (2) を帰納法で示そう.n = 0 のときは (2) は Cauchy の積分公式.さて f は n 回まで複素微分可能でその n に対して (2) が成り立つと仮定する.このとき Z f (n) (z + h) f (n) (z) (n + 1)! f (⇣) d⇣ z 2⇡i z)n+2 C (⇣ ⇢h ⇣ Z ⌘i n! 1 1 1 n+1 = f (⇣) d⇣. · · · 1 n+1 n+1 2⇡i C h (⇣ z h) (⇣ z) (⇣ z)n+2 n n P P ここで,An+1 B n+1 = (A B) An k B k = (A B) Ak B n k · · · · · · 2 より 1 h ⇣ ゆえに, k=0 1 (⇣ (⇣ n n X k=0 z h)n+1 (⇣ 1 z)n+1 n+1 を n + 1 個の z)n+2 (⇣ 1 (⇣ n k+1 z = h) n X (⇣ k=0 =h z)n (⇣ z n X n k X k=0 j=0 9 > 0 s.t. ⇣ (⇣ ⌘ z)k+1 k+1 = n X k=0 k=0 1 (⇣ 1 と見ると, z)n+2 o 1 (⇣ z)n+2 (⇣ z n k+1 h) (⇣ z j+1 h) (⇣ 1 k+1 (⇣ z)k+1 . の { } 内は, h)n k+1 z)n+2 1 (⇣ h)n z z)n+2 j (再び 2 を用いた). z = 2 (for 8⇣ 2 C) となっているので, h < のとき, ⇣ z h = ⇣ z h = (8⇣ 2 C). M := sup f (z) とし,r を C の半径とすると, z2 1 n n k n n!M r h X X j n!M r h X n の右辺 5 n+2 n+3 2 < n+1 n+3 2 2 2 k=0 j=0 k=0 ゆえに,h ! 0 のときに 1 k r h. < n!M n+3 の左辺も 0 に収束し,f は n + 1 回微分可能であって,(2) の公式が n + 1 のときにも成り立つ.以上で帰納法が完成した. 1 ⇤ 系 9.2 z = r とすると, f (n) (z) 5 n!n kf kC . r z 2 D ,D(z, r) ⇢ D ,C : ⇣ ただし kf kC := sup f (⇣) . ⇣2C 証明 定理 9.1 より f (n) (z) 5 n! 2⇡ Z f (⇣) ⇣ z0 C n+1 kf k d⇣ = n! · n+1C · 2⇡r = n!n kf kC . 2⇡ r r ⇤ 定理 9.3 z0 2 D ,D(z0 , r) ⇢ D =) f (z) = 1 P an (z n=0 z0 )n (8z 2 D(z0 , r)). f (n) (z0 ) しかも an = (8n).(正則函数 f (z) の z = z0 での Taylor 級数展開). n! 証明 8z 2 D(z0 , r):given.そして r0 > 0 をとって z z0 < r0 としておくと 1 1 r0 < r . .このとき,C : ⇣ z0 = r とすると,Cauchy の積分公式より Z f (⇣) 1 f (z) = d⇣. · · · · · · 3 2⇡i C ⇣ z さて ⇣ z = ⇣ z0 1 (z z0 ) = 1 ⇣ z0 1 1 z ⇣ z0 = ⇣ z0 z0 1 ⇣ X z n=0 ⇣ z0 z0 ⌘n z z0 r < 0 < 1 ゆえ,右端の無限級数は ⇣ 2 C につい ⇣ z0 r て一様に収束する.ゆえに積分との順序交換ができて,定理 9.1 より ◆ 1 ✓Z 1 X X f (⇣) f (n) (z0 ) 1 n f (z) = d⇣ (z z ) = (z z0 )n . ⇤ 0 n+1 2⇡i n! (⇣ z ) 0 C において,⇣ 2 C のとき n=0 注意 9.4 n=0 一様収束が心許ない人は,教科書の命題 3.15,命題 3.16 を参照のこと. • 全平面 C で正則な函数を整函数 (entire function) という1.たとえば,ez ,sin z , cos z など.もちろん,tan z は整函数ではない. 定理 9.5 Liouville の定理) 有界な整函数は定数函数に限る. 1高校数学で,整式(多項式)で書ける函数を整函数と呼ぶ輩がいる.複素函数論をまともに勉強 した事がない連中と思われる. 2 M > 0 をとって, f (z) 5 M (8z 2 C) とする.系 9.2 より, f 0 (z) 5 M r が 8r > 0 で成立する.ここで r ! +1 とすると f 0 (z) = 0 を得る.そして z 2 C は 証明 ⇤ 任意ゆえ,f 0 は零函数.したがって f は定数函数である. Liouville の定理を用いて,次の代数学の基本定理を証明してみよう. 定理 9.6 代数学の基本定理) 定数でない多項式は C で根を持つ2. 証明 p(z) は C で零点を持たない n 次多項式とする (n = 1).このとき, p(z) は C 1 で最小値 m > 0 を持つ(演習問題 [4.11] 参照)ので 5 1 (8z 2 C).Liouville p(z) m 1 は定数函数.したがって p(z) も定数函数. の定理から ⇤ p(z) 定理 9.7 1 P f (z) := an z n :収束ベキ級数(収束半径を ⇢ とする), n=0 ⇢0 := sup{R > 0 ; f (z) は z < R で 正則な函数に拡張できる } このとき ⇢0 = ⇢ が成り立つ. 証明 f (z) は z < ⇢ で正則ゆえ,⇢0 = ⇢ である.逆に f (z) が z < R で正則な函 数に拡張できたとする.8" > 0 に対して D(0, R f (z) は D(0, R えに ⇢ = R ") ⇢ D(0, R) ゆえ,定理 9.3 より ") でベキ級数に展開できて,それは元のベキ級数に一致する.ゆ ".ここで " > 0 は任意ゆえ ⇢ = R.よって ⇢ = ⇢0 でもある. ⇤ 系 9.8 整函数の原点での Taylor 級数展開(Maclaurin 展開)の収束半径は 1. z とする.分母を見ると,ez = 1 () z 2 2⇡iZ であり, ez 1 f (0) = 1 であるから,f (z) は z < 2⇡ で正則である. 例 9.9 f (z) = 2⇡i+h e h 1 = e 1 X hn 1 5 = e|h| n! 1 n=1 2⇡i + h ! +1 (h ! 0).ゆえに R > 2⇡ のとき f (z) は e|h| 1 z < R で正則ではない.よって f (z) のベキ級数表示の収束半径は 2⇡ である. より, f (2⇡i + h) = 例 9.10 教科書の例 4.12 は自習. 2因数定理と多項式の次数に関する帰納法より,n 3 次多項式は重複を込めて C に n 個の根を持つ. 定理 9.11 (最大絶対値の原理) 9a 2 D s.t. f (a) = f (z) (8z 2 D) =) f (z) は定数函数. 証明 > 0 をとって D(a, ) ⇢ D とする.このとき,0 < 8r < に対して,Cauchy Z f (⇣) 1 の積分表示式より f (a) = d⇣ .ここで ⇣ = a + rei✓ (0 5 ✓ 5 2⇡) 2⇡i |⇣ a|=r ⇣ a Z 2⇡ 1 とおくと,f (a) = f (a + rei✓ ) d✓ と書き換えられる3.ゆえに 2⇡ 0 Z 2⇡ 1 f (a) 5 f (a + rei✓ ) d✓ 5 f (a) . 2⇡ 0 よって f (a + rei✓ ) = f (a) (8✓).ここで r < も任意であったから, f (z) は D(a, ) 上で定数.ゆえに f (z) は D(a, ) で定数(演習問題 [6.10] 参照).一致の定 ⇤ 理より f (z) は D で定数である. 系 9.12 D :有界領域,f (z):D で正則,D の閉包 D で連続,定数函数ではない =) f (z) の最大値は境界 @D 上でのみとる. 定理 9.13 (Morera の定理) D :領域,f は D で連続,D =) f は D で正則. T :8 三角形閉路に対して Z f (z) dz = 0 T 証明 8a 2 D をとる.r > 0 をとって,D(a, r) ⇢ D とする.f は凸領域 D(a, r) で 正則な原始函数 F を持つ:F 0 (z) = f (z) (8z 2 D(a, r)).F は正則ゆえ,F 0 は複素 微分可能.ゆえに f も D(a, r) で正則.a 2 D は任意ゆえ,f は D で正則. ⇤ 定理 9.14 fn :領域 D で正則 (n = 1, 2, . . . ) で,D の任意の compact 集合上で函数 f に 一様収束 =) f は D で正則. 証明 8a 2 D をとる.r > 0 をとって,D(a, r) ⇢ D とする.T:三角形閉路 ⇢ D(a, r) Z とすると, fn (z) dz = 0.ここで fn は D(a, r) 上 f に一様収束しているので,f は T Z 連続であって, f (z) dz = 0.Morera の定理から,f は D(a, r) で正則.a 2 D は T ⇤ 任意であったから,f は D で正則. 3この等式を正則函数の平均値の性質と呼ぶ. 4
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