高電圧直流給電システム導入拡大に向けた 取り組み

高電圧直流給電システム
情報通信サービスの環境負荷低減に向けた取り組み
テクニカルリクワイヤメント
給電系ガイドライン
高電圧直流給電システム導入拡大に向けた
取り組み
やました
のぶひこ
山下 暢彦
さくらい
とおる
か と う
い わ と
たけし
しんたく
じゅん
/田中 徹 /加藤 潤
あつし
み き お
櫻井 敦 /岩戸 健 /新宅 幹雄
通信ビル・データセンタにおける給電システムは,省エネ化・
低コスト化が期待できる直流380 Vとする高電圧直流(HVDC)
給電システムが注目されており,実導入段階にきています.
本稿では,HVDC給電システムの導入状況と標準化の取り組み,
さらなる普及推進のためNTTグループで策定したテクニカル
リクワイヤメントと給電系ガイドラインについて紹介します.
高電圧直流給電システム
た な か
たかはし
あ き こ
まつもり
ひろあき
高橋 晶子
あ さ き も り
こ う き
/浅木森 孔貴
はなおか
な お き
/花岡 直樹
松盛 裕明
NTT環境エネルギー研究所
ムを,世界に先駆けて開発し現在は導
給電システムと従来の交流給電システ
入段階に移りつつあります.
ム ・ 48 V直流給電システムとの比較
NTTグループでは,通信ビル ・ デー
HVDC給電システムは,商用の交流
を図 1 に示します.交流給電システム
タセンタの電力消費量の増大に伴いさ
200 Vを直流380 Vに変換し,蓄電池
は主にデータセンタで導入されていま
まざまな省エネ化施策に取り組んでい
に充電しつつICT装置に電力を供給し
すが,変換段数が多いことから電力損
(1)
ます.この中で,電力システムの省エ
ます .商用が停止した場合には蓄電
ネ化施策として,NTT環境エネルギー
池から直接ICT装置に電力を供給する
研究所はNTTグループ各社と連携し
ことで,上位のエンジン発電機の起動
直流380 VでICT装置に電力を供給す
時間や駆けつけによる対処時間中の
*
る高電圧直流 (HVDC)給電システ
バックアップとして機能します.HVDC
交流(AC)給電
ICT装置
DC
AC
1
2
AC100
∼200 V
直流電源装置
AC DC
DC DC MB
3
AC
DC
4
2
高電圧直流(HVDC)給電
HVDC電源装置
AC
DC
ICT装置
DC380 V
DC
DC
MB
2
ケーブルの細径化
(設備コスト低減)
(設置自由度向上)
構築コスト削減
バッテリ
変換段数が 2 段
図 1 高電圧直流(HVDC)給電システム
NTT技術ジャーナル 2015.1
MB
変換段数が 2 段のみ→シンプル
1
損失削減
DC
DC
バッテリ
変換段数が 4 段と多い→複雑
システム効率の向上
(電力変換段数:少)
高信頼性
(蓄電池直結)
省スペース
(設備コスト低減)
ICT装置
DC48 V
1
バッテリ
36
*高電圧直流:ICT分野において,直流の給電電
圧は,電気通信用として世界的に直流−48 Vが
使用されています.これに対して,直流300〜
400 V程度の高い電圧範囲を高電圧直流と呼ん
でいます.
直流(DC)給電(48 V系)
UPS
AC
DC
失が大きいこと,蓄電池からICT装置
MB: Motherboard
特
集
間には直流から交流に変換する変換器
め電流が減り,ケーブルの細径化が
際の電圧変動がほかのICT装置に影響
が必要となるため,信頼性を確保する
可能です.
を及ぼさないよう,電圧変動を抑制し
これまで,NTT環境エネルギー研
た新たなヒューズや電流分配装置を開
究所はHVDC給電システムの全体構
発しました.開発した給電装置類や接
通信ビルで導入されており,シンプル
成を整理するとともに,NTTグルー
地方式を図 2 に示します.
な構成のため極めて高い信頼性を維持
プと連携し各種給電装置類
(整流装置,
しています.しかし近年,ICT装置の
電流分配装置,コンセントなど)を開
電力消費の増加に伴い電流が増加する
発し,販売しています.特に,安全性
HVDC給電システムを普及推進す
ため,
ケーブルが太くなる傾向にあり,
に配慮し,感電のリスクを回避するた
るためには国際標準化が必要であり,
ケーブル敷設の施工性やICT装置の設
め露出のないコネクタやコンセントを
NTT環境エネルギー研究所は国際電
置自由度に課題が出てきています.こ
開発するとともに,接地方式を工夫
気通信連合電気通信標準化部門
れ に 対 し てHVDC給 電 シ ス テ ム は,
し,万が一感電しても人体に流れる電
(ITU-T)において積極的に標準化策
48 V直流給電システムと同様のシン
流を抑制するなどの対策を行ってきま
定にかかわり,ICT装置の入力点に対
プルな構成のため,極めて信頼性が高
した.また,電気的安定性を確保する
する要求条件(L.1200)や給電シス
く,変換段数も少ないことから電力ロ
ために,ICT装置で短絡等の事故が生
テム構成への要求要件(L.1201)の
スも低減でき,また電圧を高くするた
じ,ヒューズなどの遮断器が開放する
,3)
制定に貢献してきました(2)(
.これら
対策を要するなどの課題があります.
一方,48 V直流給電システムは,
国際標準化
500 kWシステム:100 kW×( 5 + 1 )
入力盤
電源モジュール盤
出力盤 直流分電盤
HVDC
コンセントバー
ヒューズタイプ
MCCB タイプ
ICTラック
DC380 V
100 kW システム:
15 kW×( 7 + 1 )
商用
AC200 V
整流
装置
電源プラグ
ICT装置
(HVDC対応)
ICT装置
(HVDC対応)
電流分配
装置
ICT装置
(DC48 VやACなど)
ICT装置
(DC48 VやACなど)
電圧変換装置
バッテリ
ケーブル
保護盤
コネクタ
接地方式
図 2 HVDC構成製品のラインアップ
NTT技術ジャーナル 2015.1
37
情報通信サービスの環境負荷低減に向けた取り組み
の国際標準の制定をトリガに各国で
電気料金の削減に貢献しています.
アピールすることができ,ICTベンダ
HVDC給電システムの導入が進むと
今後NTTグループがHVDC給電シ
の開発 ・ 製品化を後押しすることがで
ともに,HVDC対応ICT装置のライン
ステムをさらに普及推進していくには
きます.またGLの制定により,給電
アップが増えてきました.
HVDC対応ICT装置のラインアップ拡
システムの設計要綱などのマニュアル
充とさらなるシステムコストの低減が
に反映することができるため,標準的
必要です.NTT環境エネルギー研究
な設計や施工の確立によりさらなる構
NTTグループのHVDC給電システ
所では,NTTグループがHVDC対応
築のコスト低減が可能となります.
ムの導入では,研究所へのトライアル
ICT装置を調達していく際の技術資料
■TRの規定項目
をはじめとして,NTTファシリティー
として,テクニカルリクワイヤメント
TRはICT装置の入力部に対する要
ズの電力監視システムに実導入を果た
(TR)の制定と給電システムの開発 ・
求条件であり,国際標準との整合を図
すとともに,最近ではNTTコミュニ
調達 ・ 設計 ・ 施工において考慮すべき
るため,ITU-T L.1200をベースとし
ケーションズの大規模システムへの導
インタフェース条件や機能条件などの
て電圧範囲や異常電圧時の動作条件な
入を完了しました.この大規模システ
指針である給電系ガイドライン(GL)
ど基本的な条件を盛り込みました(4).
ムは₅00 kWシステムを 8 システム導
を 策 定 し ま し た.TRの 制定により
規定範囲を図 ₃ に,主な規定項目を図
入し,全体で約 4 MWと非常に大きな
NTTグループは広くHVDC対応ICT装
₄ に示します.ここで,NTTグルー
システムであり,導入コストの低減や
置を調達する意志があることを世界に
プが事業運営していくにあたって,必
NTTグループへの導入
整流装置
基本構成
AC
DC
DC380 V
本TRの
インタフェース
(L.1200準拠)
ICTラック
ICT装置
マザー
ボード
PSU
バッテリ
ICTラック
整流装置
AC
DC
バッテリ
その他の
構成
整流装置
AC
DC
ICT装置
DC380 V
PSU
本TRの引用が
可能
DC380 V
PSU
バッテリ
DC12 V
DC48 Vなど
マザー
ボード
ICTラック
DC 48 V入力装置
AC 100 V入力装置等
DC48 V
AC100 Vなど
PSU: Power Supply Unit
図 3 TRの規定範囲
38
NTT技術ジャーナル 2015.1
特
集
○電圧範囲
ICT装置の動作電圧範囲を規定
○異常時における動作条件
(v)
(v)
異常直流
電圧範囲
異常直流
を超える
電圧範囲
電圧
410
400
動作電圧
範囲
260
最低動作電圧時において上位の遮断器が開放しない
よう,ICT装置の搭載電源について, 1 給電系統当
りの定格容量を規定
異常条件
2k
定格容量:7.8 kW以下
正常条件
500
420
410
400
電圧
ICT装 置 の 動 作 電 圧 範 囲
を逸脱した電圧条件(過
電圧,瞬時停電など)に
おける動作条件を規定
※
○ 1 給電系統当りの定格容量
ICT装置の動作電圧範囲
DC260 V ∼ 400 V
○定格電圧
装置の効率等の特性を適切に比較するため,ICT装
置の定格電圧を規定 L.1200の試験電圧に準拠
260
異常直流
電圧範囲
0
電圧範囲の定義
0 20μ
100 m
試験条件
1
定格電圧:直流380 V
(s)
○安全性
○突入電流
突入電流による遮断器の意図しない保護動作を防止するため,通過電流と
時間を規定
整流装置
AC
遮断器
開放
DC
バッテリ
※
突入電流
※
ICT装置の搭載電源入力部において感電を防止する
構造や危険が減少する設計等の条件を規定
ICT装置
フィルタ
コンバータ
フィルタ
コンバータ
※国際標準L.1200規定項目以外の追加規定項目
図 4 TRの主な規定項目
要な項目について検討を進めました.
から本格導入するニュースリリースを
(₅)
設置されているICT装置に電力を供給
安全性や電気的安定性の観点を重視
発出しました .
する異フロア給電はノイズや迷走電
し,感電リスクを低減するためICT装
■GLの規定項目 流,直撃雷による過電圧等のリスクの
置停止時における蓄積エネルギーのレ
GLは給電システム全体の要求条件
ため禁止されていました.HVDC給電
ベルや定格電圧や最大定格容量等の規
であり,NTTグループが事業運営す
システムでは,接地方式が異なり,ノ
定を設けました.また,これまで48 V
るにあたって安全かつ信頼性を確保し
イズと迷走電流に対するリスクは低減
直流給電システムで規定されていた,
HVDCシステムを導入 ・ 運営するた
できるため,直撃雷によるリスクを低
発振条件や突入電流の詳細条件などに
めの規定を盛り込みました.HVDC給
減する対策について検討を進めまし
ついてリスク評価を実施し,HVDC給
電系GLの規定範囲と主な項目を図 ₅
た.NTT環 境 エ ネ ル ギ ー 研 究 所 と
電システムではリスクが小さいことを
に示します.すでに48 V系の給電系
NTTファシリティーズでは,サージ
明らかとしました.本TRにより,ICT
ガイドラインは発行されていますが,
防護デバイス(SPD)を開発し,過電
ベンダはHVDC対応ICT装置の開発 ・
HVDC給電システムでは,普及拡大を
圧の抑制効果を明らかにするととも
販売がしやすくなり,NTTグループ
特に意識し,安全性を確保しつつ従来
に,SPDの設置条件を整理しました.
は広くHVDC対応ICT装置を調達する
の規定が緩和可能か検討を進めまし
これにより,異フロア給電が可能とな
ことが可能となります.TRの発行を
た.例えば,48 V系では整流装置が
る指標を示すことができました.
また,
契機にHVDC給電システムを201₆年
設置しているフロアから別のフロアに
遮断器開放時における過渡電圧が他の
NTT技術ジャーナル 2015.1
39
情報通信サービスの環境負荷低減に向けた取り組み
TR(2014年 6 月制定)
HVDC給電系GL規定範囲
ICT装置
整流装置
DC380 V
AC
DC
2-3
1
バッテリ
HVDC電源装置
電流分配
装置
2-1
2-2
3
変換
装置
HVDC給電システム
搭載
電源
1
配線条件,異フロア給電,接地
2
2 - 1 定格電圧・容量,入力電圧範囲,
異常条件,EMC*
2 - 2 電流遮断機能,EMC
2 - 3 電源構成,脈動電圧,EMC
3
配線条件,接地,EMC
マザー
ボード
既存タイプICT装置
(DC48 VやACなど)
*EMC(電磁両立性):電気機器が放出する電気的
ノイズを抑え,かつ周囲からの電気的ノイズによっ
て電気機器が影響を受けないための 2 つの性能
図 5 HVDC給電系GLの規定範囲と主な規定項目
ICT装置に及ぼす影響についても評価
テム全体のコスト低減をさらに進め,
し,詳細なモデルにて実験 ・ シミュレー
HVDC給電システムの導入を加速さ
ションを行いました.NTT環境エネル
せていきます.
ギー研究所が開発したヒューズおよび
これにより,情報通信分野のさら
電 流 分 配 装 置 に よ り, 過 渡 電 圧 は
なる省エネルギー化を推進していき
ITU-T L.1200の動作電圧範囲に収ま
ます.
ることを明らかとし,安定した運用が
可能であることを確認しました.
今後の展開
前述したTR,GLにより,NTTグ
ループは本格的な導入体制を整えるこ
とができ,導入戦略を立案しました.
201₆年度から本格導入を開始し,2030
年までにはHVDC給電システムを基
本システムとすることを目指していき
ます.高効率 ・ 高信頼 ・ 低コストな
HVDC給電システムの普及により,電
気料金の削減と導入コストの低減が期
待できます.
今後,ICT装置ベンダなどのステー
クホルダへの働きかけを強めること
で,HVDC対応ICT装置のラインアッ
プを拡充していくとともに,給電シス
40
NTT技術ジャーナル 2015.1
■参考文献
(1) T. Babasaki, T. Tanaka, Y. Nozaki, T. Tanaka,
T. Aoki, and F. Kurokawa: “Developing of
higher voltage direct-current power-feeding
prototype system,
” INTELEC200₉,pp.1-₅,
200₉.
(2) ITU-T L.1200: “Direct current power feeding
interface up to 400 V at the input to
telecommunication and ICT equipment,” 2012.
(3) ITU-T L.1201: “Architecture of power feeding
systems of up to 400,” 2014.
(4) h t t p : / / w w w . n t t . c o . j p / o n t i m e / i m g / p d f /
tr1₇₆002ed1_j.pdf
(5) http://www.ntt.co.jp/news2014/1408/140804a.
html
(後列左から)櫻井 敦/ 浅木森 孔貴/
高橋 晶子/ 花岡 直樹/
松盛 裕明/ 加藤 潤(右上)
(前列左から)岩戸 健/ 山下 暢彦/
田中 徹/ 新宅 幹雄
HVDC給 電 シ ス テ ム の 普 及 を 推 進 し,
NTTグループの省エネ化に貢献するととも
に,世界に広げていきます.また,さらな
る給電システムの省エネ ・ 低コスト化とな
る給電トポロジの研究開発を加速していき
ます.
◆問い合わせ先
NTT環境エネルギー研究所
エネルギーシステムプロジェクト
エネルギー供給方式グループ
TEL 04₂₂-₅₉-388₇
FAX 04₂₂-₅₉-33₁4
E-mail tanaka.toru lab.ntt.co.jp