留学生の異文化適応 - JAOS認定留学カウンセラー

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危機管理
留学生の異文化適応
■ メンタルヘルスとサポート制度
海外で留学生が遭遇するメンタルヘルス面での危機的状況を大きく分けると、
①語学力・コミュニケーション力にかかわるもの、②専門分野の教育研究にかか
わるもの、③異文化への適応や生活環境の変化にかかわるもの、④人間関係・対
人関係にかかわるもの、⑤青年期の発達にかかわるもの、などが挙げられる。例
えば日本は、文化的な背景がほぼ同じような人々で構成されており、世界でもま
れなほどハイコンテキストな(以心伝心が成立し、少ない情報でも理解し合える)
社会だといわれている。そのような社会から飛び出して、留学や研修といった形
で欧米諸国のローコンテキストな(以心伝心が成立せず、理解し合うには直接的
で十分な情報が必要な)社会に長く身を置くことになると、いや応なしに何らか
のカルチャーショックを体験する。
オーストリアの精神医学者、アルフレッド・アドラーは、異文化接触がスター
トした時点で直ちに進行する適応のプロセスを5つの段階に分けて考え、異文化
と衝突したときに受ける衝撃によって変化する人間の心のありようを示している。
「異文化接触→自己崩壊→自己再統合→自立→独立」という過程である。異文化に
うまく適応できないと、焦燥感が募ったり、憂うつになったり、食欲不振や不眠
症を起こしたりなどと、まず何らかの身体症状が表われる。さらに症状が悪化し
て心身症に悩む例や、まれには精神障害を引き起こすこともある。
海外に留学生を送り出す留学エージェントや大学、学校は、留学生にとって効
果的かつ安全な留学とは何かを常に考え、留学生をどう支援していくかを考えな
ければならない。ストレスがたまり、心身症などの兆候が見られる場合には、速
やかに専門家との連携を図ることが危機的状況を悪化させない優れた方法である。
欧米諸国のほとんどの大学や学校には、留学生アドバイザーや多文化間カウンセ
ラーが配置されているので、そうした人たちの助言や指示に従わせるのが有効で
ある。派遣する側としては、事態が行き詰まってしまう前に、いち早く問題を発
見し、専門家につないでいくための道筋をつくることが望ましい。アメリカ、カ
ナダ、イギリス、オーストラリアの大学であれば、学生へのサービス機能として
以下のような制度が備わっていることが多く、留学生も該当のオフィスでこれら
のサービスやケアを最大限活用すべきであろう(ほとんどの場合は無料)
。
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JAOS認定 留学カウンセラー養成講座 Vol.3
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1. 危機やトラブルへの対応
留学・教育 交 流 の 意 義
VOL.1
Ⅰ
●international student advising(留学生のための総合的なアドバイス)
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●wellness education(ダイエット、摂食障害、アルコール依存症、薬物依存症な
どに関する支援)
Ⅱ
●security office(暴力行為、ハラスメント、キャンパス内の犯罪などに対する対応)
問題を抱えた学生が最初に相談すべき人は上記の専門家である。もちろん、送
留学カウンセラーに求められる知識
ンパスライフへの適応に関する支援)
VOL.2 VOL.3
●c ounseling(カウンセラーによるメンタル面での助言や相談、異文化適応やキャ
り出し側の担当者や教職員、家族も、精神的なよりどころとなるべき重要な存在
とは、繰り返し強調してもし過ぎることはない。留学生が留学の準備を始める早
留学カウンセラー
えば語学力と気力が必要だと考えがちだが、①自己認識、②柔軟性、③寛容性、
Ⅴ
キャリアデザインとしての
どを維持、向上させるための努力や訓練をしておくことが大切である。留学とい
知っておきたい
留学関連法規
Ⅳ
留学カウンセリング
と手続き
■ 異文化適応と W カーブ
い段階から、身体的な健康、精神的な健康、経済力、コミュニケーション能力な
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Ⅲ
留学生が異文化適応について考える際にも、事前の準備が非常に重要であるこ
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である。必要に応じてそれらの人々とのコンタクトが取れるような体制づくりが
必要になる。
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④包容力、⑤忍耐力、⑥社交性、⑦ユーモア感覚、⑧好奇心などを普段から養っ
ておくことがトラブルを回避する重要な要素になる。人は自文化中心主義(すべ
ての事象を自己の属する文化的な価値観でのみ判断し、他文化の様式や価値観を
認めないこと)に陥りがちだが、それは自己崩壊を起こす原因になりかねない。
普通、異文化への適応においては、誰もが経験するいくつかの過程がある。そ
のことを留学生によく理解させておくことが問題解決の近道となる。それが異文
化適応におけるUカーブ説あるいはWカーブ説である。
思える。日本を離れる前から考えていたさまざまな計画の実行や夢の実現に向か
って、気分的にもハイな状態が続くからである。ところが異文化接触が本格化し
危機管理
異文化に自らを投げ込むとき、初めは見るもの聞くものすべてが新鮮で楽しく
ていくにつれて、自文化と他文化の差異からいろいろな不具合や摩擦や障害(カ
ルチャーショック)が生じ、心理的に不安定な状態が生まれ、小さな自己崩壊が
起こる。それが心身症に発展してしまうケースもある。
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危機管理
図・異文化適応の W カーブ
しかし、ある程度の時間がたつと自然にいろいろなものが許容でき、しだいに
他文化の価値観や行動様式を受け入れられるようになっていく。人間にはある種
の自己治癒力も備わっているため、そうやってさまざまな小さな危機を乗り越え
ていき、適応の再獲得や融合、統合に至るのが普通である。それを図で示すとU
またはWのような曲線になる。初期の段階はハネムーン期、次の段階はショック
期、最後は適応期などと呼ばれる。これはリスガード(S. Lysgaard)やガラホ
ーン(J. Gullahorn)が唱えたもので、異文化体験における人間の心のアップダ
ウンを表したものとしてよく知られている。人によっては谷の期間が何度も訪れ
たり、長くとどまったりするが、山と谷の振幅の大きさには個人差があり、どの
ような曲線になるかは千差万別である。しかしこのような適応の過程は多かれ少
なかれ、誰もが一度は経験するものであり、一度は落ち込んでも多くの人が自然
に回復する。落ち込むのは一時的なものであると留学生によく理解させることが
異文化適応の問題に対応する際、重要であることを、留学生カウンセラーはよく
知っておくべきだろう。
■ リエントリーショック
留学や研修のプログラムを終えた留学生が、帰国後に日本の文化や社会にうま
く溶け込めずさまざまな障害に直面する、いわば「リエントリーショック」と呼
ばれる(逆カルチャーショックとも呼ばれる)症状が表れるのも、最近の特徴で
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JAOS認定 留学カウンセラー養成講座 Vol.3
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1. 危機やトラブルへの対応
ある。主として長期の留学者が、異文化に適応しようと努力した結果として、帰
留学・教育 交 流 の 意 義
VOL.1
Ⅰ
国後に自国の文化と再接触するうえで新たなカルチャーショックを受け、Uカー
慮が必要であることは言うまでもなく、帰国後のフォローアップという点で業務
Ⅱ
フローのひとつとして位置づけておくことが望まれる。
(服部まこと)
留学カウンセラーに求められる知識
ショック期、再適応期と呼ばれる。留学生の帰国後のメンタルケアにも十分な配
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VOL.2 VOL.3
ブのような不適応を起こすケースである。それぞれの段階は帰国直前期、帰国後
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知っておきたい
留学関連法規
留学カウンセラー
キャリアデザインとしての
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留学カウンセリング
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と手続き
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