改定案 第5章 耐震設計手法 5.1 耐震計算法及び照査法の種類 現行(手引き) 第5章 設計手法 5.1 耐震設計の基本 耐震設計の計算法(応答値の算定)は、静的解析法と動的解析法の2つに大別される。適用に 耐震設計は、レベル1地震動、レベル2地震動の大きさの異なる2つの設計地震動に対し、 あたっては、静的解析法を基本とし、振動特性が複雑な構造物等については動的解析法も考慮す 構造物の重要度により、耐震性能を「健全性を損なわない」、「限定された損傷にとどめる」及び るものとする。 「致命的な損害を防止する」のいずれかに設定することを基本とする。 土地改良施設に用いる主な静的解析法として、震度法(固有周期を考慮しない)、震度法(固 有周期を考慮する)、震度法(固有周期と構造物特性係数を考慮する)、地震時保有水平耐力法、 応答変位法がある。 耐震性能の照査方法には、許容応力度法、地震時保有水平耐力法、限界状態設計法がある。 [解 説] [解 説] (1) 土地改良施設の耐震設計に適用する計算法は、各構造物の設計基準、指針類(「2.1 設計一般」 耐震設計について、従来の仕様規定型設計から性能規定、照査型設計への移行が提唱されるきっ 参照)に準じ、表-5.1.1に示す静的解析法(震度法、地震時保有水平耐力法、応答変位法)を用い かけについては、以下のような背景があげられる。 ることを基本とする。震度法は、構造物の振動特性や考慮する地震動のレベルに応じて、「固有周 ・1995年に兵庫県南部地震が発生し、目標とする性能による設計の重要性が明らかになったこと。 期を考慮しない」、「固有周期を考慮する」、「固有周期と構造物特性係数を考慮する」の3つの ・国際問題として規制緩和が求められており、性能を明示し、性能を要求するといった国際標準化の タイプに分類される。ただし、振動特性が複雑な構造物などは、必要に応じて、動的解析法の適用 流れが起きていること。 も検討する。動的解析の適用条件や手法については、解説(3)及び「5.7 動的解析法」を参照され このような情勢を反映して、「コンクリート標準示方書耐震設計編」(1996年土木学会)をはじ たい。 め、兵庫県南部地震以降に制定された国内の耐震設計指針や基準類は、国際標準化機構(ISO)が「構 造物への地震作用」を規定したISO 3010等の性能照査型設計を踏まえて、規準の国際化に備えてき た。特に、2002年3月には「コンクリート標準示方書 構造性能照査編」(土木学会)及び「道路橋示 方書 V耐震設計編」(日本道路協会)が、さらに2002年12月に「コンクリート標準示方書耐震性能 照査編」(土木学会)が改訂され、一段と性能設計への移行が進められている。 本手引きもこのような流れに対応するため、性能照査型設計の考え方を基本とした。 5-1 改定案 現行(手引き) 表-5.1.1 構造物別の標準とする耐震計算法と参照する設計基準、指針類 耐震計算法 (重要度AA種またはA種) 構造物名 レベル1 ①農道橋(橋脚) ②水路橋・水管橋(橋脚) ③頭首工 ④擁 壁 ⑤開 水 路 RC 構造 ⑥ファームポン ド PC 構造 ⑦ため池 ⑧パイプライン ⑨暗 渠 (ボックスカ ルバート) レベル2 耐震計算法 (重要度B種) レベル1 参照する設計基準、指針類 (「2.1 設計一般」参照) 震度法 地震時保有 水平耐力法 震度法 ・土地改良事業計画設計基準設計 「頭首工」2008年 ・土地改良事業計画設計基準設計 「農道」2005年 ・土地改良事業計画設計基準設計 「水路工」2013年 - 震度法 震度法 ・土地改良事業計画設計基準設計 「農道」2005年 - 震度法 震度法 ・土地改良事業計画設計基準設計 「水路工」2013年 震度法 震度法* 震度法 ・土地改良事業設計指針 「ファームポンド」1999年 震度法 震度法* 震度法 動的応答解析 又は塑性すべ り解析による 変形量の計算 レベル1 レベル2 震度法 震度法* 震度法 縦断 方向 応答変位法 応答変位法 応答変位法 横断 方向 応答変位法 及び震度法 応答変位法 及び震度法 応答変位法 及び震度法 ・土地改良事業設計指針 「ファームポンド」1999年 備 考 ・重要度AA種も重要度A種 と同じ設計法を用いる。 道路橋示方書の2012年の 改訂については、本指針 では反映しない。 ・震度法*は構造物特性係数 と固有周期を考慮した設 計水平震度を用いる。PC においては重要度B種も 重要度A種と同じ設計を 行う。 ・土地改良事業設計指針 「ため池整備」2015年 ・重要度区分AA種はレベル1 及びレベル2地震動が対象 となる。A種はレベル1地震 動が対象となる。 ・土地改良事業計画設計基準設計 「パイプライン」2009年 ・左記の設計基準「パイプラ イン」では、応答変位法を 用いた地震動に対する検 討と地盤変状(地盤の永久 変位)に対する検討を行っ たあと、地震応答対策を検 討することとしている。 ・土地改良事業計画設計基準設計 「水路工」2013年 縦断 方向 ⑩杭 基 礎 ⑪ポンプ場 (吸込、吐出し水槽) 応答変位法 及び震度法 震度法 震度法 応答変位法 及び震度法 地震時保 有水平耐 力法 震度法* 応答変位法 及び震度法 震度法 震度法 ・土地改良事業計画設計基準設計 「頭首工」2008年 ・土地改良事業計画設計基準設計 「ポンプ場」2006年 ・土地改良事業計画設計基準設計 「ポンプ場」2006年 ・震度法*は構造物特性係数 と固有周期を考慮した設 計水平震度を用いる。 ・構造物の特性によっては、 応答変位法や地震時保有 水平耐力法を用いる。 5-2 改定案 現行(手引き) (2) 静的解析法 各静的解析法の概要は以下のとおりである。各手法の詳細は、「5.2」~「5.6」を参照されたい。 a. 震度法(固有周期を考慮しない) 震度法は、地震力を静的な力(慣性力)に置き換え、それを構造物に作用させて地震力を計算する 方法である。震度法(固有周期を考慮しない)は、土圧により地震時の振動変位が拘束される構造 物や比較的剛性の高く固有周期の短い構造物に適用する方法で、構造物の固有周期を考慮しない設 計水平震度を用いる。土地改良施設では、擁壁、開水路、ポンプ場(吸水槽、レベル1地震動)、フ ァームポンド(RC、レベル1地震動)などに適用される。 ため池は、土地改良事業設計指針「ため池整備」2000年に基づき、震度法を適用する。 b. 震度法(固有周期を考慮する) 震度法(固有周期を考慮する)は、構造物の振動特性である固有周期を考慮した設計水平震度を 用いる方法であり、固有周期の比較的長い柔な地上構造物等に適用する。土地改良施設では、レベ ル1地震動の場合の橋梁(農道橋、水路橋、水管橋)、頭首工、ファームポンド(PC)及び杭基礎(杭 仕様の決定)などに適用する。 図-5.1.1に、震度法(固有周期を考慮しない)及び震度法(固有周期を考慮する)による一般的 な設計フローを示す。 START 震度法(固有周期を考慮する) START 震度法(固有周期を考慮しない) 断面仮定 設計水平震度の標準値の設定 固有周期の算定 設計水平震度の設定 (地域別補正係数)×(設計水平震度の標準値) 設計水平震度の標準値の設定 断面仮定 設計水平震度の設定 (地域別補正係数)×(設計水平震度の標準値) 慣性力の算定 (設計水平震度)×(重量) 構造計算 安定計算 断面照査 断面変更 慣性力の算定 (設計水平震度)×(重量) 断面変更 構造計算 NO YES 安定計算 断面照査 NO END YES ※ため池の場合、設計水平震度の地域区分は考慮するが、 地域別補正係数は用いない。 END 図-5.1.1 震度法(固有周期を考慮しない)及び震度法(固有周期を考慮する) による設計フロー 5-3 改定案 現行(手引き) c. 震度法(固有周期と構造物特性係数を考慮する) 震度法(固有周期と構造物特性係数を考慮する)は、レベル2地震動を対象とした場合に用いる 方法であり、構造物の固有周期を考慮して求めた設計水平震度に対して、構造物の塑性変形による エネルギー吸収を加味して算出した構造物特性係数を乗じ、低減した設計水平震度を用いる。レベ ル2地震動におけるファームポンド(PC、RC)、ポンプ場(吸水槽)に適用する。 塑性変形を考慮して設計水平震度を低減させるという考え方は、下記の地震時保有水平耐力法と 基本的に同じであるが、後述するように、安全性の照査は限界状態設計法により部材毎に行うとい う点が異なる。 図-5.1.2に、震度法(固有周期と構造物特性係数を考慮する)による設計フローを示す。 START 断面の設定 降伏剛性を用いた固有周期の算定 レベル2地震動の設計水平震度Khc2の算定 Khc2=Cz・Cs2・Khc20 ここに、Cz :地域別補正係数 Cs2 :構造物特性係数 Khc20 :レベル2地震動の設計水平震度の標準値 断面の設計曲げモーメントMd、設計せん断力Vd、変形性能 断面力、剛性残存率、 応答変位の算定 断面耐力の照査 ・破壊モードに対する検討 ・曲げ破壊先行の判定 構造諸元の変更 NO YES END 図-5.1.2 震度法(固有周期と構造物特性係数を考慮する)による設計フロー 5-4 改定案 現行(手引き) d. 地震時保有水平耐力法 地震時保有水平耐力法は、橋梁(農道橋、水路橋・水管橋)の橋脚や頭首工の堰柱等の地震時の 慣性力が支配的な構造物に適用する方法で、レベル2地震動に対し、塑性ヒンジの発生によるエネ ルギー吸収能力を考慮した設計水平震度を用いて、静的に地震時保有水平耐力と残留変形の照査を 行う方法である。 なお、本書では、地震時保有水平耐力法においては、各構造物の現行規定に準じ、上記の塑性変 形によるエネルギー吸収能力を表す係数に対して、”構造物特性補正係数”という用語を用いてい るが、その意味するところは、「c.震度法(固有周期と構造物特性係数を考慮する)」の”構造物 特性係数”と同じである。この用語の違いは、各構造物が参考とする基準類「表-2.1.1参照」の違 いによるものである。 注)震度法と地震時保有水平耐力法の取り扱いについて 本指針で示す橋梁の橋脚や頭首工の耐震計算法は、道路橋示方書によるものである。同示方書で は、平成14年の改定以前は、構造物の弾性域の振動特性を考慮して、地震による荷重を静的に作用 させて設計する耐震計算法を震度法、構造物の非線形域の変形性能や動的耐力を考慮して、地震に よる荷重を静的に作用させて設計する耐震計算法を地震時保有水平耐力法とそれぞれ定義してい た。これに対し、平成14年3月の改定において、地震時保有水平耐力法も、震度を用いて静的な値に 置き換えて耐震計算を行うという観点では、構造物に静的に作用する地震力を震度と構造物の重量 の積として与えられる静的な力に置き換える震度法の1つの手法と言うことができ、地震時保有水 平耐力法も震度法に基づいて行うものとなった。 本指針では、各土地改良施設の現行規定との整合を図るため、地震時保有水平耐力を震度法とは 区別して取り扱うものとする。 図-5.1.3 耐震設計の区分 (土地改良事業計画設計基準設計「頭首工」(2008年より) 図-5.1.4に、地震時保有水平耐力法による橋脚の設計フローを示す。 5-5 改定案 現行(手引き) START 橋脚断面の設定 降伏剛性を用いた固有周期の算定 レベル2地震動の設計水平震度Kh2の算定 Khc=Cz・Cs・Khc0 ここに、Cs :構造物特性係数 Cs μa Khc0 1 2 a 1 :許容塑性率 :レベル2地震動の設計水平震度の標準値 構造諸元の変更 地震時保有水平耐力Paの算出 地震時保有水平耐力の照査 Pa≧Khc・W ここに、W:橋脚の重量 NO YES 残留変位δRの算定 残留変位の照査 δRa≧δR ここに、δRa:許容残留変位 NO YES END 図-5.1.4 橋脚の地震時保有水平耐力法による設計フロー 5-6 改定案 現行(手引き) e. 応答変位法 応答変位法は、地中構造物などのように地盤各部の相対変位に応じて構造物に応力が生じる場合 に、周辺地盤と構造物との相対変位を地盤のばね(地盤ばね定数)を介して構造物に静的に作用さ せて、構造物の応力を求める方法である。パイプライン、暗渠(ボックスカルバート)及びポンプ 場(吸水槽)に適用する。 図-5.1.5に、応答変位法の設計フローを示す。 START 水平変位振幅に用いる諸元 ・(レベル1)設計水平震度と速度応答スペクトル ・(レベル2)速度応答スペクトル 表層地盤の固有周期 波長 管軸上の水平変位振幅 地盤ひずみ 検討対象管路の諸元 ①管体応力・ひずみ(一体及び継手構造管路) ②継手伸縮量(継手構造管路) ③継手屈曲角度( 〃 ) NO 許容値の判定 YES END 図-5.1.5 応答変位法の設計フロー 5-7 改定案 現行(手引き) 表-5.1.2①~②に各解析手法を比較して示す。 表-5.1.2① 耐震計算法の比較 震度法 (固有周期を考慮しない) 震度法 (固有周期を考慮する) ・地震力を静的な力(慣性力) に置き換え、それを構造物に 作用させて計算する方法。 (慣性力)=(震度)×(重量) ・固有周期の比較的短い剛な地 上構造物に使用。 ・部材の照査は、以下の擁壁、 開水路を除き、許容応力度法に より行う。 ・擁壁、開水路のレベル2地震動 に対する部材の照査は限界状 態設計法または許容応力度法 により行う。 ・構造物の固有周期を考慮した 震度を考えて計算する方法。 ・設計震度の設定以外の計算過 程は震度法と同じ。 ・固有周期の比較的長い柔な地 上構造物に使用。 ・部材の照査は許容応力度法に より行う。 震度法 (固有周期と構造物特性係 数を考慮する) ・構造物の非線形域の特性を考 慮した固有周期により震度を 考えて計算する方法。 ・部材の照査は限界状態設計法 による。 ・レベル2地震動に用いられ、 レベル1地震動には用いられ ない。 ・ ・ ・ 耐震計算法 基本 的な考え 方 K hg C・ z K hg0 ここに、 K :設計水平震度 ここに、 K :設計水平震度 h hg Cz Kh C・ z Kh0 :地域別補正係数 Cz :地域別補正係数 K hc2 C・ ・Khc20 z Cs2 ここに、 :設計水平震度 K hc2 Cz :地域別補正係数 :構造物特性係数で0.45 K hg0 :設計水平震度の標準値 K h 0 :設計水平震度の標準値 Cs 2 設計水平震度の K hg0 は地盤種別がⅠ、Ⅱ、Ⅲ種に K hg0 は地盤種別と固有周期によ K hc 20 :設計水平震度の標準値 算 対し、それぞれ0.16、0.2、0.24 り求める。 を標準とする。 ・ 耐震計算に用いる 定 式 K h1 C・ z K h10 備 考 ・ K h1 C・ z K h10 ・ K h 2 C・ z K h 20 ・ K h 2 C・ z K h 20 を標準とする。 設計指針「ファームポンド」で はη(累積塑性変形倍率)=1.0と し、 C s 2 1 0.45 とし 1 4 ている。* ・耐力算定で、横拘束筋は考慮 ・ K hg は、レベル1、レベル2の擁 ・レベル1地震動の橋梁(農道 橋、水路橋、水管橋)、頭首工 せず、終局耐力=最大耐荷力 壁、開水路、レベル1のファー とする。 及びファームポンド(PC)に適 ムポンド(RC)、ポンプ場(吸水 ・レベル2地震動のファームポ 用する。 槽)に適用する。 ンド(PC・RC)及びポンプ場 ・ K h1 、 K h1 、 K h 2 、 Kh 2 は、暗 (吸水槽)に適用する。 渠(ボックスカルバート)の躯 体等の慣性力に適用する。 * 地震時保有水平耐力法では Cs いう。 1 2 a 1 を用い、 a 3.0の場合 Cs 0.45 となる。この場合 C s を構造物特性補正係数と 5-8 改定案 現行(手引き) 表-5.1.2② 耐震計算法の比較 耐震計算法 地震時保有水平耐力法 応答変位法 ・基本的な考え方は震度法(固有周期と構造物特 ・地盤の変形を地盤ばねを介して構造物に静的に 性係数を考慮する)と同様で、構造物の非線形域 の特性を考慮した固有周期により震度を考えて 基本的な考え方 計算する方法。 作用させ、応力等を求める方法。 ・地表面付近の比較的軟弱な地盤内に設置される 地中構造物に使用。 ・部材の照査は限界状態設計法と基本的な考え方 が同様である地震時保有水平耐力法による。 ・レベル2地震動に用いられ、レベル1地震動には 用いられない。 ・ K hc C・ z C・ s K hc0 Cs 耐震計算 に用いる 設計水平震度及び 水平変位幅の算定式 1 2 a 1 ここに、Khc Cz Cs Khc0 μa :設計水平震度 :地域別補正係数 :構造物特性補正係数 :設計水平震度の標準値 :許容塑性率 ・ Khg= Cz・ Khg0 レベル2地震動の杭基礎の安定性の判定でフ ーチングに作用させる場合に用いる。なお、 レベル1地震動は震度法(固有周期を考慮し ない)による。 備 考 ・耐力算定で横拘束筋を考慮し、終局耐力は最大 耐荷力より小さい値とする。 ・レベル2地震動の橋梁(農道橋、水路橋、水管 橋)・頭首工、杭基礎に適用する。 2 πz ・SV・TG・K 'h1・cos (レベル1) π2 2H 2 πz U h (z)= 2・S'V・TG・cos (レベル 2) π 2H U h (z)= ここにUh(z) SV、S'V TG K’h1 H :地表から深さz(m)の位置の 水平変位振幅(m) :速度応答スペクトル(m/s) :表層地盤の特性値(s) :レベル1地震動の基盤面にお ける設計水平震度 :表層地盤の厚さ(m) (レベル1地震動において、固有周期を考慮しない 設計水平震度を、K’h1=Cz・K’hc10 により算出 し、上式により水平変位振幅Uh(z)を求める。) ・パイプライン、暗渠(ボックスカルバート) に適用する。 5-9 改定案 現行(手引き) (3)動的解析法 構造物の形状が単純で、その一次振動モードが卓越し、また、主たる塑性ヒンジが生じる箇所が はっきりしていてエネルギー一定則が適用できる場合には、震度法(固有周期と構造物特性係数を 考慮する)や地震時保有水平耐力法によっても構造物の実際の地震時応答を精度よく近似すること ができる。しかし、吊橋のような複雑な構造物では、地震動の卓越周期より長い固有周期の振動モ ードが多数存在し複雑な振動性状を示す。このような場合には動的解析が必要となる。 また、原子力施設のような極めて重要度の高い構造物に対しては、詳細な耐震検討が要求される ため、動的解析が用いられる場合が多い。 動的解析法は、対象とする構造物あるいは構造物と地盤を振動モデルにモデル化し、地震入力と して地震動波形あるいは応答スペクトルを入力して解析する方法である。この方法は、前述した3 タイプの震度法、地震時保有水平耐力法及び応答変位法に比べ、より実現象に近い挙動を再現する ことができ、原理的にはどのような構造物にも適用できる方法である。 動的解析法の全体フローと考慮すべき項目を示すと、図-5.1.6のとおりとなる。 [対象構造物、対象領域] ・線形、非線形 ・一次元~三次元 [入力地震動の設定] ・入力基盤 ・入力波形 ・最大振幅 ・周波数特性 [構造物あるいは地盤のモデル化] ・構造物のモデル化 ・地盤のモデル化 ・構造物-地盤の相互作用のモデル [動的解析法] (1)応答スペクトル法 (2)時刻歴応答解析法 スペクトルモーダル解析法 時刻歴モーダル解析法 直接積分法 (3)周波数応答解析法 構造物各部の応答値 安全性の評価 図-5.1.6 動的解析法の全体フロー 引用・参考文献 ⅰ)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 ⅴ.耐震設計編(2002) ⅱ)日本水道協会:水道施設耐震工法指針・解説(1997年版)(1997) ⅲ)土木学会:2002年制定 コンクリート標準示方書(構造性能照査編)(2002) ⅳ)鹿島建設土木設計本部:(土木設計の要点)耐震設計法/限界状態設計法、鹿島出版会(1998) 5-10 改定案 現行(手引き) (4)耐震性能の照査手法 耐震性能の照査手法は、許容応力度法、地震時保有水平耐力法、限界応対設計法に区分され、各 構造物の現行規定による手法を採用することを基本とする。各照査手法の一般事項については、 「5.7 耐震性能の照査法(一般)」を参照されたい。 5-11 改定案 現行(手引き) 5.1.1 性能照査型設計の概念 性能照査型設計とは、構造物の目標性能を明確にした上で、想定した材料特性、構造形式や寸 法等の構造諸元の保有性能が、与えられた荷重などの外的条件に対して目標とする性能を満足す ることを、直接的に照査する設計体系である。 [解 説] 従来から用いられていた許容応力度法などの仕様規定型設計は、所定の仕様を満足することによ り目標とする性能を間接的に照査しているに過ぎず、構造物の各状態の挙動を直接、定量的に評価 していないため、構造物の安全性が過大となる可能性がある。 これに対して、性能照査型設計では、外的条件の変化に応じて目標とする性能を変えて、損傷度(損 傷レベル)や変形量等の定量的な判定基準によって直接照査することから、合理的で自由度の高い 設計が可能となる。 近年の動向として、構造物の耐震設計は従来の許容応力度法から限界状態設計法へ、さらには性能 照査型設計へ移行しつつある。このような流れの中で、 「コンクリート標準示方書耐震設計編」 (1996 年 土木学会)では、『耐震性能に対する照査方法』が独立の章として採用され、他の要求性能照 査(耐久・安全・耐疲労等)に先駆けて、性能照査型設計への移行が行われた。非線形解析によって構 造物と構成部材の挙動を追跡し、要求される耐震性能(「健全性を損なわない」、「限定された損傷 にとどめる」、「致命的な損傷を防止する」の3種類に分類)を照査するために必要な情報(最大変形、 残留変形、破壊形態、断面力、応力等)が得られる。また、部材変形が塑性曲率を超えて変形するこ とを考慮して、耐震性能照査型設計では、高塑性領域に至るまでの骨組構造の断面力と変位を予測 するために、RC部材の塑性域における非線形特性をモデル化して、構造物の非線形モデルを設定す る必要がある。本手引きでは、静的非線形解析が必要な施設の場合、バイリニアモデル1)を用いてい る。動的非線形解析では、剛性低減トリリニア型1)などを用いることが必要である。 性能照査型設計法に基本的に必要な設計項目について、表-5.1.1に示す。 表-5.1.1 性能照査型設計に必要な設計項目 要求される目標性能 荷重の種類と与え方 極めて希・希 1回程度・数回程度内 陸直下型・プレート 境界型地震 地盤面・地表面・基盤面 波形・応答スペクトル 構造物の 重要度 極めて重要 重要 被災の影響 が少ない 損傷レベルと照査法 目標性能 機能保持 健全 人命の安全 機能停止 損傷 レベル 無損傷 補修不要 補修必要 補強必要 短期復旧 長期復旧 崩壊しない 評価項目・ 評価方法・解析モデル 評価値 変位 残留変位 応力 ひずみ ひび割れ 降伏 耐力 座屈 安定 静的・動的解析 線形・等価線形・非線 形解析 応答変位法 質点系・FEM系 材料物性値 ヤング係数 ポアソン比 せん断弾性係数 減衰定数 スケルトン ヒステリシス 性能照査型設計においては、表-5.1.1に示すような多岐にわたる設計の項目が必要となる。荷重 の種類と規模や重要度に応じて設定された構造物が保有する目標とする耐震性能に対して、それに 応じた損傷度を設定して照査を行うことになる。損傷度を設定する際には、外力を受けて変化して いく構造物の各状態、たとえば部材の断面におけるひび割れの発生や降伏、さらに破断や構造物の 5-12 改定案 現行(手引き) 崩壊などの限界状態を適切に定義することで、安全性及び経済性の面で合理的な設計が可能となっ ている。 本手引きにおいても、この性能照査型設計への移行を踏まえて、設計体系を整理している。 引用・参考文献 ⅰ)大塚:耐震基準の性能設計化の現状と今後の課題、橋梁と基礎99-6(1999) 1)バイリニアとは2本の直線により関係式を表す図のことで、トリリニアとは3本の直線により関係式を表す図のこと。 5.1.2 耐震設計における性能照査型設計への移行準備 性能照査型の耐震設計法は、構造物の目標とする耐震性能、それに対応する損傷度の考え方と 照査法について、以下のような考え方を基本とする。 (1) 目標とする耐震性能 a.地震動の大きさは、レベル1地震動及びレベル2地震動の2種類とする。 b.構造物の重要度は極めて重要度の高い施設(A種)、重要の高い施設(B種)、被災の影響が少な い(C種)の3種類とする。 c.耐震性能としては、「健全性を損なわない」、「限定された損傷にとどめる」及び「致命的な 損傷を防止する(人命など二次災害を防止する)」の3つのレベルとする。 (2) 損傷度の考え方と照査法 損傷度の考え方としては、補修不要、補修必要及び崩壊しないの3つのレベルを対象とする。 a.照査は、力(応力度、耐力)と変位(応答塑性率、曲率、残留変位等)の2つの系について行 う。 b.照査は、線形若しくは非線形の構造解析等から得られた応答値(応力、断面力、曲率、応答塑 性率や変位等)と安全性の判定基準値(許容応力度、耐力、曲率の限界値、設計塑性率や許容 残留変位)を比較して、安全性を照査する。 [解 説] (1) 目標とする耐震性能 a.地震動の大きさ 本手引きは、既に第2章で説明したように、レベル1地震動とレベル2地震動(タイプⅠ、タイプⅡ) を考慮するものとしている。 地震荷重を設定する場合、地震動の大きさ、すなわち対象とする地震の規模のほかに、地震荷重 を定義する位置(地表面、基盤面等)、与え方(時刻歴波形や応答スペクトル、設計水平震度等)、 決定の仕方(確定論的、確率論的等)など、対象とする構造物や解析法によって荷重の設定方法が 異なってくる。 b.構造物の重要度 構造物の重要度は、「2.5 保持すべき耐震性能」で説明したように、各種構造物に対して極めて 重要度の高い施設(A種)、重要度の高い施設(B種)、被災の影響が少ない(C種)の3種類を設定し 5-13 改定案 現行(手引き) た。このうち、二次災害が人命に関わる等、甚大な被害を被る極めて重要(A種)な構造物について のみ、レベル2地震動に対する耐震設計を行うものとする。 c.耐震性能 目標とする耐震性能は、地震動レベルや重要度と関連づけて定義されるものであり、この関係を 手引きの中で明示することが性能照査型設計において最も重要である。本手引きでは、「2.6各種 構造物の重要度区分と耐震性能の適用区分」において、耐震性能を「健全性を損なわない」、「限 定された損傷にとどめる」及び「致命的な損傷を防止する」の3段階に区分して、地震動レベルや 重要度と関連付けている。 (2) 損傷度の考え方と照査法 a.損傷度の考え方 目標とする耐震性能を満足するためには、構造物の損傷度をどの程度にとどめておくべきかを表 示することが求められる。たとえば、機能が完全に保持されるためには、構造物は健全性を損なわ ない、つまり降伏状態を超えるような損傷がなく補修が不用である状態にとどめておく必要がある。 また、人命の安全性を確保するためには、補修が必要となる損傷を許容する、又は補修が不可能で あるが、構造部材の耐力が維持され、構造物全体の崩壊を防止しなければならない。このように、 目標とする耐震性能を満足するには、構造物の損傷度を明瞭にわかりやすく表現しなければならな い。表-5.1.2にそれらの関係を示す。 表-5.1.2 耐震性能の定義と損傷度との関係 耐震性能 1.健全性を損なわない 2.限定された損傷にとどめる 3.致命的な損傷を防止する 定義(損傷度) 降伏状態を超えるような損傷を生じないこと(補修不要) 施設の機能の回復をより速やかに行うために、3.の状態よ り余裕をもった状態にあること、残留変位が許容以内にあ ること(橋梁、頭首工の場合)(場合により、補修必要) 主要構造部材の耐力が低下し始める手前の状態にあること (構造物全体の崩壊も防止する)(補修必要) b.照査項目 表示された耐震性能を満足しているか否かを判断する照査項目と、その具体値を決めておく必要 がある。本手引きでは、対象とする構造物の種類が多岐にわたることから、すべての構造物に対し て一貫して整合性のとれた照査項目や照査の考え方を適用することは難しく、構造物の特性などか ら照査体系は、表-5.1.3及び表-5.1.4に示すように、6つのグループに分類することにした。特に、 レベル2地震動を考慮すべき重要度AA種の構造物では、部材の塑性化を許して塑性変形能力を考慮 した設計を行うために、力だけでなく変位(若しくは部材の曲率)についての照査が必要となる。 (a) レベル1地震動に対する照査項目 レベル1地震動に対しては、構造設計を弾性域の範囲で行うため、応力度による照査で安全性を確 保することにする。 ただし、パイプラインの継手構造については、管の軸方向の伸縮量が問題となることから、ダク タイル鋳鉄管・FRPM管(以下、ダクタイル鋳鉄管等とは、ダクタイル鋳鉄管及び FRPM管の ことをいう)の場合は、軸方向応力度を許容応力度により、また鋼管の場合は軸方向ひずみによる 5-14 改定案 現行(手引き) 照査以外に継手伸縮量についても検討を行うものとする。また、一体構造の場合は、ダクタイル鋳 鉄管については軸方向応力度、鋼管については軸方向ひずみのみの照査でよいものとする。 (b) レベル2地震動に対する照査項目 大規模なレベル2地震動に対しては、部材が降伏するまでの弾性域の範囲で対処しようとすると、 部材寸法や配筋量が増大し、不合理な設計となる場合がある。そこで、部材の破壊のタイプを、極 力曲げ破壊型として、降伏以後の塑性変形を許して部分的な損傷を許容しても部材の耐力は維持す る、という設計法へ移行するものとした。つまり、塑性変形を許して部材のじん性を利用すること により、部材寸法や配筋を極力活かしながら保持すべき耐震性能を照査、確保する耐震設計が基本 となる。 ここで留意すべき点として、部材の塑性化を許すために、図-5.1.1に示すように、力と変位の関 係が線形関係でなく、力の増分に対して変形の増分の割合が大きく、非線形な部材特性が顕著にな ることである。そのため、部材の耐力を保持しながら塑性変形をどこまで許容させるかという判定 が必要となる。本手引きでは許容値の定義の仕方によって、照査体系を表-5.1.4のように分類した。 表-5.1.3 構造物と照査項目(レベル1地震動) グループ 構造物の種類 照査項目と照査基準 耐震性能 損 傷 度 橋梁・頭首工 健全性を 損なわない 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) 応力度 <許容応力度 杭基礎 健全性を 損なわない 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) 応力度 <許容応力度 変位量 <許容変位量 押込力・引抜力 <許容支持・引抜力 2 ファームポンド (PC、RC) 健全性を 損なわない 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) 応力度 <許容応力度 - 3 暗渠(ボックスカルバ 健全性を ート)、ポンプ場(吸水 損なわない 槽) 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) 応力度 <許容応力度 - 応力 1 4 5-15 変形 継手 構造 健全性を 損なわない 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) (ダクタイル鋳鉄 管等のみ) 軸方向応力度 <許容応力度 継手伸縮量 <照査用最大伸縮量 継手屈曲角度 <許容屈曲角度 (鋼管のみ) 軸方向ひずみ <許容ひずみ 一体 構造 健全性を 損なわない 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) (ダクタイル鋳鉄 管等のみ) 軸方向応力度 <許容応力度 (鋼管のみ) 軸方向ひずみ <許容ひずみ パイプライン 5 擁壁、開水路 健全性を 損なわない 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) 応力度 <許容応力度 - 6 ため池・調整池 健全性を 損なわない 降伏状態を超えるような損傷 を生じない(補修は不要) 極限つり合い法 (円弧すべり法) 安全率FS≧1.20 - 改定案 現行(手引き) (c) 照査に用いる解析方法と解析モデル 照査には評価項目を算出するための必要にして十分な評価方法(解析手法)と、解析モデルが準備 されなくてはならない。評価項目に対して、静的・動的解析法、線形・等価線形・非線形解析法の いずれを用いるか、モデル化をどうするかを決めて、与えられた地震荷重に対して、評価項目の具 体的数値を予測していくことが必要である。 性能設計は、いわゆる限界状態設計法をべースとして構築されている(ISO 3010)。限界状態設計 法には確率論的な概念が導入されていることや各種限界状態を考えており、目標性能との対応がつ きやすい。 「道路橋示方書」の地震時保有水平耐力法は、荷重や材料特性値などに直接的には確率、統計的 なものは用いていないが、部材の各種限界状態等は考慮しており、確定論的な限界状態設計法とい うことができる。ただし、限界状態設計法の適用には、基盤、土質材料等の確率的な取扱いがいま だ確立されておらず、今後の課題となっている。 本手引きでは、地震時保有水平耐力法と限界状態設計法の両者を併用することにしている。また、 解析に当たっては、材料特性値、構成則(コンクリートや鉄筋の応力-ひずみ関係、若しくは部材 の曲げモーメント-曲率関係等)や履歴特性(動的解析のみ)などが必要となる。 それらの数値の精度をよく理解して、解析手法・解析モデルを選択することも重要である。 表-5.1.4 構造物と照査項目(レベル2地震動) 照査項目と照査基準 重要度及び 耐震性能 損傷度 AA種 限定された損 傷にとどめる 場合によっては補修 が必要 慣性力 <地震時保有水平耐力 A種 致命的な損傷 を防止する 構造物の崩壊はない ものの補修が必要 慣性力 <地震時保有水平耐力 AA種、A種 限定された損 傷にとどめる 副次的な塑性化にと どめる (補修せずに供用) 設計水平耐力 <基礎の降伏耐力 作用せん断力 <せん断耐力 2 A種 ファームポンド 致命的な損傷 (PC、RC) を防止する 構造物の崩壊はない ものの補修が必要 断面力 <終局耐力 - 3 暗渠(ボックス A種 カルバート)、ポ 致命的な損傷 ンプ場(吸水槽) を防止する 構造物の崩壊はない ものの補修が必要 断面力 <終局耐力 - グループ 構造物の種類 橋梁・頭首工 * 1 杭基礎 4 応力、耐力 変 形 残留変位 <許容残留変位 - 応答塑性率 変位 継手 構造 A種 致命的な損傷 を防止する 構造物の崩壊はない ものの補修が必要 (ダクタイル鋳鉄管等 のみ) 軸方向応力度 <許容応力度 継手伸縮量 <照査用最大伸縮量 (鋼管のみ) 軸方向ひずみ <許容ひずみ 継手屈曲角度 <許容屈曲角度 一体 構造 A種 致命的な損傷 を防止する 構造物の崩壊はない ものの補修が必要 (ダクタイル鋳鉄管等 のみ) 軸方向応力度 <許容応力度 (鋼管のみ) 軸方向ひずみ <許容ひずみ 健全性損なわ ない 降伏状態を超えるよ うな損傷を生じない (補修は不要) 応力度<許容応力度 - - パイプ ライン 5 擁壁、開水路 6 ため池・調整池 - - - * 道路橋の各部材の詳細については、2002年制定の「道路橋示方書 Ⅴ耐震設計編」を参照のこと。 5-16 改定案 現行(手引き) 図-5.1.1 力の体系から変形の体系へ(塑性変形を考慮する) c.地震時保有水平耐力法と限界状態設計法の関連 部材の終局限界を考える上では、地震時保有水平耐力法は限界状態設計法の一種と考えることが できる。 地震時保有水平耐力法と限界状態設計法の両者とも、各部の部材が塑性化してから変形が進み終 局状態(崩壊)に至るまでの過程を明らかにし、安全性を確保する設計法である。ひび割れ、降伏、 終局状態を考慮して、部材に作用する断面力の算定(構造計算)や断面耐力の算定についてもほぼ 同じプロセスとなる。 両者の異なる点は、限界状態設計法は外力や荷重、材料、部材の耐力と変形性能などを確率統計 的に定量化して限界状態に対する安全率を合理的に決めることに対して、地震時保有水平耐力法は 確定的に安全率を決める点である。 また、照査に関しては、限界状態設計法が部材に作用する曲げモーメントやせん断力及び変形(曲 率)について直接、設計値(耐力、変形性能)と対比させるのに対して、地震時保有水平耐力法は 部材の保有水平耐力と慣性力(地震力)、水平方向の残留変位について照査する点が異なる。 以上のb.及びc.については、「5.1.3 重要度、耐震性能と塑性変形量で表す損傷度(レベル2 地震動)」にとりまとめた。 なお、解析モデルの留意点として、構造物の変位、断面力、応力等を算定するため、解析モデル を地震動の表現形式、照査すべき耐震性能等に応じて適切に設定しなければならない。一般に以下 のひとつを選んでモデル化する。 (a) 多質点系骨組解析モデル (b) 有限要素解析モデル 多質点系骨組解析モデルは、一般によく適用され、有限要素法モデルに比べて解析を簡素化でき るが、構造物の任意の部位における応答性状を解析するためには、1つの部材を複数の線材で表現 するなどの工夫を要する。 5-17 改定案 現行(手引き) 重要度 A種、B種、C種 地震力の大きさ、種類 ・レベル1地震動 ・レベル2地震動(タイプⅠ、Ⅱ) 構造物の耐震性能と損傷度 ・健全性を損なわない(補修不要) ・限定された損傷にとどめる(場合により補修必要) ・致命的な損傷を防止する(補修必要) 安全性の照査*1 力 :断面力と耐力 (慣性力、地震時土圧) 変位:変形性能 ・残留変位と許容残留変位 ・応答塑性率と設計塑性率 ・応答曲率と設計曲率 エネルギー定則による変形性能 の照査 構造解析 (1) 静的構造解析 多質点系骨組解析(線形、非線形) (2) 動的応答解析*2 多質点系骨組解析、有限要素解析 ①応答スペクトル法(線形、非線形) ②時刻歴応答解析法(線形、非線形) *1 本手引きでは、基礎(杭基礎や直接基礎)について、地盤の塑性化まで考慮した安定レベル については、考慮しないものとする。 *2 橋梁・頭首工等や他の構造物で、動的特性が複雑で重要度の高いものについては、動的応 答解析を行うものとする。 図-5.1.2 耐震設計における性能照査の基本概念 引用・参考文献 ⅰ)地盤工学会:地盤・基礎構造物の耐震設計(2001) 5-18 改定案 現行(手引き) 5.1.3 重要度、耐震性能と塑性変形量で表す損傷度(レベル2地震動) レベル2地震動に対する耐震設計では、部材の曲げ破壊モードにおいて塑性域の変形をどこま で許容できるか設定しておく必要がある。そこで、構造物の重要度(AA種、A種)、耐震性能に 対して許容可能な塑性変形量及び損傷度を、表-5.1.5のように設定する。 なお、橋梁(農道橋、水路橋、水管橋)、頭首工及び杭基礎に適用する地震時保有水平耐力法 と、ファームポンド、暗渠(ボックスカルバート)及びポンプ場(吸水槽)に適用する限界状態 設計法について、2種類の設計方法がある。 また、パイプライン(A種)における損傷度は、継手構造のダクタイル鋳鉄管は継手伸縮量 <照査用最大伸縮量と軸方向応力度<許容応力度を照査し、鋼管は軸方向ひずみ<許容ひずみを 照査する。 表-5.1.5 重要度、耐震性能に応じた損傷度を示す塑性変形量 重要度 耐震性能 塑性変形量 損傷度 AA種 場合によって 限定された損 は、補修が必 傷にとどめる 要。 A種 構造物の崩壊 致命的な損傷 はないものの を防止する 補修が必要。 地震時保有水平耐力法 限界状態設計法 残留変位<h/100 (部材の最大耐力Mmに対する曲率 φmから求められる変位よりも小さ く、降伏点変形量に近い) - 特に設定しない。 曲率φ<φm (許容塑性率μaを考慮した時点 (部材の最大耐力Mmに対する曲率 で、少なくとも終局変位μu以内で φm以内) あることが確保されている) [解 説] レベル2地震動では、塑性変形を許容した耐震設計となることから、構造物の重要度(AA種、A 種)で決まる耐震性能に応じた損傷度を満足しているかどうかを定量的に判断するため、変形に関す る許容値を定義しておく必要がある。 地震時保有水平耐力法では、重要度AA種の場合のみ、残留変位δRが許容値h/100(hは橋脚の高さ) に収束するように塑性変形による損傷度を設定し、重要度A種については、特に設定しない。これ は、地震時保有水平耐力法では、設計時に終局変位に対して許容塑性率μ aを3~8と定義して計算 を始めれば、少なくとも終局変位よりかなり安全側の変形しかしないことがすでに確認されている からである。 限界状態設計法では、塑性変形量は表-5.1.5に示したように、部材の曲げモーメントと曲率関係に おいて応答曲率φが最大耐力Mmの曲率φmより小さい範囲に収まる必要がある。ただし、限界状態設計 法の曲げモーメントと曲率関係は、二次剛性を持つバイリニアとなることから一義的に決定されて いるために、発生曲げモーメントが最大耐力Mm以内であれば、特に変形量の照査を行わなくてもよ いことにした。 限界状態設計法では、終局限界の耐力の照査は最大耐力Mmとしており、終局限界の塑性域の曲率φm と1:1に対応することから、耐力の照査を行った時点で必然的に変形量も許容範囲内に収まってい ることになる。このため、照査を特に行なわなくてもよいが、変形がどこまで発生しているか意識 しておくことが望ましい。これは、地震時保有水平耐力法の重要度A種の場合も同様である。 5-19 改定案 現行(手引き) なお、パイプラインについては、表-5.1.4に示したように、構造形式や管種により照査項目が異 なる。鋼管(一体構造)の許容ひずみは、46t/Dとした。 また、地震時保有水平耐力法と限界状態設計法について、表-5.1.6①~⑤に塑性変形量による損 傷度の指標に到るプロセスを示したので参照されたい。 表-5.1.6① 損傷度の指標の比較 構造 物種 耐震設計法 検討項目 地震時保有水平耐力法 1.部材の曲 (1)M-φ げモーメ ントM- 曲率φの 関係(非 線形性の 考慮) Mc:曲げひび割れ曲げモーメント My:軸方向鉄筋降伏時の曲げモーメント Mm:最大曲げモーメント Mu:終局曲げモーメント φc:曲げひび割れ時の曲率 静 定 構 造 φy:降伏時の曲率 φm:Mmを維持できる最大の曲率 φu:終局曲率 φn:Myを維持できる最大の曲率 図-5.1.3 曲げモーメントと曲率 (完全弾塑性型) 限界状態設計法 (1)M-φ Mc:曲げひび割れ曲げモーメント My:軸方向鉄筋降伏時の曲げモーメント Mel:応答曲げモーメント(弾塑性応答) Mm:最大曲げモーメント (=終局曲げモーメントMu) φc:曲げひび割れ時の曲率 φy:降伏時の曲率 φel:応答曲率(弾塑性応答) 図-5.1.4 曲げモーメントと曲率 2.終局耐力の 考え方 図-5.1.5 コンクリートのひずみと応力度 地震時保有水平耐力法は、横拘束筋を始めから考 慮している。終局時の条件は、最外線の圧縮側鉄筋 の中心位置で、コンクリートの終局ひずみ(横 拘束筋考慮)に達した限界状態の終局曲げモーメ ントMu、を終局耐力とする。これは、最大曲げモーメ ントMmよりも少し低下した値となる。 5-20 図-5.1.6 コンクリートのひずみと応力度 限界状態設計法では、圧縮側コンクリートの最外 線の位置で、コンクリートの終局ひずみ(横拘束筋 なし)ε'cuに達した限界状態の終局曲げモーメント Muを終局耐力とする。これは、最大曲げモーメン トMm(最大耐荷力)である。 改定案 現行(手引き) 表-5.1.6② 損傷度の指標の比較 構造 物種 耐震設計法 検討項目 地震時保有水平耐力法 限界状態設計法 3.コンクリ 横拘束筋の影響を考慮して、応力度を増加させた ファームポンドでは、横拘束筋を用いないこと ートの応 応力度-ひずみ曲線を採用。 から、応力度-ひずみ曲線はコンクリート標準示 力度-ひ 方書(2002年制定)を採用。 ずみ曲線 図-5.1.7 コンクリートの応力度-ひずみ関係 (横拘束筋考慮) 静 定 構 造 n 1 1 c 0 ≦ c ≦ cc Ec c 1 A …○ c n cc cc Edes c cc cc< c< cu n Ec cc Ec cc cc 図-5,1.8 コンクリートの応力度-ひずみ関係 (横拘束筋なし) 曲線部の応力ひずみ式 c k1 f cd cc 0.002 0.033 s sy ck ck 2 s sy cc (タイプⅠの地震動) B cu 0.2 cc …○ cc Edes 4A s h ≦ 0.018 sd A …○ k1 1 0.003 f ck ≦ 0.85 cc ck 3.8s sy E des 11.2 c c 2 0.002 0.002 (タイプⅡの地震動) cu 155 f ck 30000 B 0.0025≦ cu ≦ 0.0035…○ ここで、f'ckの単位はN/mm2 後述する暗渠(ボックスカルバート)及びポン プ場(吸水槽)においても、横拘束筋を用いない ことから、同じ応力度-ひずみ曲線を用いる。 4.損傷度と (1) M-φ関係式は完全塑性型のバイリニア (1) M-φ関係式は二次剛性比を考慮したバイリニア M-φ関 (2) 終局耐力Mu<最大耐荷力Mm (2) 終局耐力Mu=最大耐荷力Mmとする。 係 (3) 設計では、安全を考慮して最大耐荷力Mm、曲率φm (3) 損傷度は降伏までの変形の損傷度及び最大耐荷 以内に収まるよう設計する。 力までの変形の損傷度を考える。 5-21 改定案 現行(手引き) 表-5.1.6③ 損傷度の指標の比較 構造 物種 検討項目 5.損傷度の 指標(許 容値) 耐震設計法 地震時保有水平耐力法 限界状態設計法 実際の設計に用いるのはM-φ関係ではなく、 M-φ関係から最大耐荷力Mmのときの曲率φm これを水平耐力-変位(P-δ)関係に換算して、 を許容値とする。(図-5.1.4を参照) 重要度A種の耐震性能は「致命的な損傷を防止す 応答塑性率μ rを算出し、許容値を満足させるもの る」であるから、本来は最大耐荷力Mmに対応する曲 とする。 率φmを超えてさらに変形した範囲を考慮してもよ いが、その範囲において耐力をぎりぎり維持する限 界点を決定することの難しさや解析の繁雑さを避 けること、さらに設計上安全側を考えて、許容値を φmとする。 許容値:曲率φm 静 定 構 造 限界状態設計法では、構造物特性係数Cs2を用い て、構造物の変形性能を考慮し、設計水平震度を低 下させる。 図-5.1.9 P-δ関係とエネルギー定則 z K hc・ 0 W 応答塑性率: r 1 C・ 1 2 2 Pa (エネルギー定則:完全弾塑性型) 許容値:h/100(h:橋脚の高さ) 重要度AA種の耐震性能は「限定された損傷に とどめる」であり、塑性変形の許容値はh/100であ る。 重要度A種では、耐震性能は「致命的な損傷を防止 する」であり、許容塑性率μaを考慮した設計水平 耐力による照査を行った時点で少なくとも終局変 位δu以内であることが確保されている。このため、 残留変位の照査は省略する。 図-5.1.10 荷重変位曲線と表示性能のイメージ 5-22 改定案 現行(手引き) 表-5.1.6④ 損傷度の指標の比較 構造 物種 1.崩壊メカ ニズムの 取扱い 不 静 定 構 造 耐 震 設 計 法 検討項目 地震時保有水平耐力法 限界状態設計法 不静定構造物については、構造系全体の崩壊メ カニズムを考慮して設計を行う必要がある。 骨組構造モデルに設計水平震度を作用させて、 これを漸増させる増分解析(プッシュ・オーバー 解析)による非線形静的解析を行うものとする。複 数の形成される塑性ヒンジにおいて、降伏や終局 状態の順序を追跡して、構造系全体に対して初降 伏時及び終局時がどれかを設定する。 (1) 部材の非線形性の考慮(塑性回転ばねモデル の適用) 柱部及びはり部 ・塑性ヒンジ発生予想箇所:M-φモデル (完全弾塑性型) ・それ以外:M-φモデル(完全弾塑性型) 不静定構造物については、構造系全体の崩壊メカ ニズムを考慮して設計を行う必要がある。 骨組構造モデルに設計水平震度を作用させて、こ れを漸増させる増分解析(プッシュ・オーバー解析) による非線形静的解析を行うものとする。 複数の形成される塑性ヒンジにおいて、降伏や終局 状態の順序を追跡して、構造系全体に対して初降伏 時及び終局時がどれかを設定する。 (1) 部材の非線形性の考慮(塑性回転ばねモデルの 適用) コンクリートの応力度-ひずみ関係は「コンク リート標準示方書」(2002年制定)に従って、コ ンクリート圧縮応力σ'c、終局ひずみε'cuを採用す る。 (2) 構造物全体系の初降伏時及び終局時の設定 図-5.1.11 増分解析による降伏時、終局時の設定 5-23 ただし、ε'cu地震時保有水平耐力法の考え方 に準じて、最外縁圧縮側鉄筋の中心位置で検討す るものとし、かぶりのコンクリートははく離する ものとして、最大耐荷力よりもやや低減する耐力 を終局耐力Muとする。 部材には、M-φモデルを適用。 (2) 構造物全体系の初降伏時及び終局時の設定 図-5.1.12 増分解析による曲げモーメント-曲率 関係と降伏時、終局時の設定 構造物 初降伏時 終局時 構造物 初降伏時 終局時 ラーメン橋脚 δy δu② φy φu② ラーメン橋 杭基礎 暗渠(ボックス カルバート) δy δu① ポンプ場 (吸水槽) φy φu② 改定案 現行(手引き) 表-5.1.6⑤ 損傷度の指標の考え方 構造 物種 不 静 定 構 造 検討項目 2.損傷度とM-φ、 M-θの関係 耐 震 設 計 法 地 震 時 保 有 水 平 耐 力 法 限 界 状 態 設 計 法 静定構造の場合と同じ 静定構造の場合と同じ 静定構造の場合と同じ 静定構造の場合と基本的には同じ。ただ し、 M-φの関係は完全弾塑性型のバイリニア を適用する。 3.損傷度の指標 [参 考] レベル2地震動に対する耐震設計の概念(地震時保有水平耐力法と限界状態設計法) レベル2地震動に対して、塑性域での限界状態を考慮して、耐震設計を行う。 2種類の設計法(地震時保有水平耐力法と限界状態設計法)について、両者の共通点、異なる点を 明らかにする。 表-5.1参1①~③に、レベル2地震動に対する耐震設計法・照査法の比較を示す。 地上構造物に対し限界状態設計法は、耐震設計法としては、塑性変形による地震エネルギの吸収 を考慮してエネルギー定則から導入された構造物特性係数 Cs 2 (=1/ 1 4 、η=δ0/δy)により設計 水平震度Khc2を低減させ、地震時保有水平耐力法と同様の算定を行う。一方、地中構造物には応答変 位法を用いて換算荷重を算定、構造解析を行う。 ・耐震設計法(地震時保有水平耐力法的取扱い。地震動の評価から部材、構造の照査まで一貫して取 扱う。) ・照査法(応答変位法適用時、躯体に作用する外力の評価は行わず、構造計算(断面力の算定)、部 材の耐力の算定及び照査の過程のみを取扱う。) 地震時保有水平耐力法、限界状態設計法の両者とも構造部材の非線形挙動を考慮し、ひび割れ、 初期降伏(鉄筋)、降伏点及び終局状態について部材のそれぞれの状態を明らかにし、照査を行うも のである。 この点では、限界状態設計法は地震時保有水平耐力法と同じ考え方であり、性能照査型の設計法 となる。 (1) 耐震設計法としての限界状態設計法 極めて大きな地震動(レベル2)に対して、部材の塑性変形を考慮し、変形に関する判断基準(限 界状態:ひび割れ、鉄筋降伏、部材の降伏及び終局限界等)を規定して、それに対する安全性を照査 するという限界状態設計法が合理的と考えられる。 これは、地震時保有水平耐力法も同様の考え方である。異なるのは、限界状態設計法が「いくつ かの限界状態を設定し、設計時点における各種の不確定要因を設計変量に考慮することにより、構 造物又は部材が限界状態に達する確率を許容限度以下にするための設計体系」を持つ確率論である のに対し、地震時保有水平耐力法は、確定論的な設計法という点である。 設計水平震度、断面力の算定(構造計算:曲げモーメントM-曲率φ、バイリニア型)は、両者と も基本的にエネルギー定則を用いている。また、終局時の断面耐力の算定についても、限界状態設 計法は、断面内の非線形応力分布から等価応力ブロックに換算して終局耐力で算出するのに対し、 地震時保有水平耐力法は、非線形応力ブロックのまま、終局耐力を算出することが異なるが、基本 5-24 改定案 現行(手引き) 的には、断面耐力の算定法は両者とも同じと考えられる。 照査は、曲げ耐力、せん断耐力、軸方向圧縮耐力及び残留変位等について実施する。なお、不静 定構造物には、プッシュオーバー解析(増分解析)による、崩壊メカニズムの検討を行う必要がある。 (2) 照査法としての限界状態設計法(応答変位法適用時) 暗渠(ボックスカルバート)等に応答変位法を適用する場合、部材の曲げ、せん断に対し、耐力内 に収まるかどうか照査を行う必要がある。 引用・参考文献 ⅰ)土木学会:2002年制定 コンクリート標準示方書(構造性能照査編)(2002) ⅱ)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 ⅴ.耐震設計編(2002) 5-25 改定案 現行(手引き) 5-26 改定案 現行(手引き) 5-27 改定案 現行(手引き) 5-28 改定案 現行(手引き) 5.1.4 静的解析に対する動的解析の役割 静的解析法は、構造物に発生する応力の大きさを静的に計算しようとする考え方に基づいた計 算法である。動的解析法は、主として地震時応答の最大値のみに着目した解析法(応答スペクト ル法)、対象とする構造物をモデル化してこれに地震波形を入力して構造物や地盤の応答を求め る方法(応答解析法)の2つに大別される。 また、動的解析法は、震度法や地震時保有水平耐力法などの静的解析法で設計された橋梁等の 構造物の耐震性能を照査(入力地震動は静的地震動と等価)する場合と、最初から動的解析法に より耐震設計(地震外力、応力計算、安全性の照査をすべて動的に処理)を行う場合に用いられ る。 [解 説] (1) 動的解析法が導入されつつある理由 兵庫県南部地震以降、レベル2地震動に対する検討が求められ、非線形領域の構造物の挙動を明ら かにする必要が出てきている。 橋梁を例にとれば、従来、橋の耐震計算は震度法によって行われてきた。しかし、近年になり、 計算機・解析ソフトの進歩により、動的解析を実施できる環境が整ってきており、様々な新しい型 式の橋や大規模な橋が建設されるようになるにつれて設計の重点が動的解析に移りつつある。耐震 設計法の変遷を、橋の型式の変化という観点から以下に説明する。 橋台、橋脚で両端を支持された比較的小径間の単純桁が建設されていた時代には、震度法(固有 周期を考慮しない)による耐震設計が行われた。震度法(固有周期を考慮しない)では、橋の質量に 地表と同等の加速度が作用すると考えて設計する。震度法(固有周期を考慮しない)の設計計算は、 以下の3つのステップからなる。 ① 設計水平震度Khの決定(外力の決定) ② 静的地震力Kh・W(W:橋の該当部分の重量)による断面力、応力度などの計算(応力計算) ③ 一般には許容応力度法による照査(安全性の照査) その後、連続桁の建設が盛んになると、固定橋脚に作用する大きな地震力への配慮が重要となり、 また、橋脚の高さが高くなると橋に作用する加速度は地表の加速度と異なることから、1自由度系の 振動の概念が設計にとり入れられるようになった。これが震度法(固有周期を考慮する)であり、橋 の固有周期による設計水平震度の補正が行われることになり、また堅固な地盤か、軟弱な地盤かに よって橋に生じる加速度も異なることから、設計水平震度の標準値は固有周期と地盤種別によって 変化する。 最近になり、多点固定の多径間連続桁や吊橋・斜張橋のような可とう性に富んだ橋が造られるよ うになると、これまでのように1自由度系の振動の概念で橋を設計すると、安全すぎたり、反対に危 険となる場合が生じてきた。そのため、橋の振動特性を把握し、地震動に対する応答を考えて設計 するようになった。これが、動的解析法である。複雑でたわみやすい橋が多自由度系として振動す る結果、設計対象とする部材の地震応答がこれまでの1自由度系の振動応答とは異なる場合が生じて きたのである。 つまり、構造物の形状が単純で、その一次振動モードが卓越し、また、主たる塑性ヒンジが生じ る箇所がはっきりしていて、エネルギ一定則が適用できる場合には、震度法(固有周期を考慮する) 5-29 改定案 現行(手引き) や地震時保有水平耐力法によっても構造物の実際の地震時応答を精度よく近似することができる。 しかし、吊橋のような複雑な構造物では、地震動の卓越周期より長い固有周期の振動モードが多数 存在し複雑な振動性状を示す。このような場合には動的解析が必要となる。 動的解析法は、震度法(固有周期を考慮しない、固有周期を考慮する)で設計された橋の耐震性能 を照査する場合に用いることが多い。震度法(固有周期を考慮しない、固有周期を考慮する)の耐震 計算のうち、どの部分を動的解析で検討するかによって、動的解析法は図-5.1.13のように2つに分 けられる。その一つは、震度法(固有周期を考慮しない、固有周期を考慮する)により静的な地震力 を作用させる橋に生じる断面力、変形を求める部分だけを動的解析により検討しようとするもので ある。この場合には、動的解析の入力地震動は静的地震力と等価な効果をもつものとしなければな らない。一方、もう一つの考え方は、地震外力の決定、応力計算、安全性の照査をすべて動的に検 討しようというもので、いわば動的設計とでも呼ぶべきものである。ここでは、入力地震動も耐震 設計で目標とする水準を定めて地震危険度解析などから求め、さらに、安全性についても力のつり 合いだけではなく、変形も含めて動的な効果をとり入れて照査する。 入力地震動設定 設計震度決定 静的地震力に対 する応力計算 動的解析 動的解析 安全性の照査 ・動的耐力による照査 ・使用限界、終極限界 等に基づく照査 安全性の照査 (a) 静的応力計算の確認用動的解析 (b) 動的設計のための動的解析 図-5.1.13 動的解析の分類 従来、橋梁の動的解析は前者の考え方によるものが大部分であった。しかしながら、動的解析が 有効なのは、外力の決定から照査までを一貫して動的にとらえた場合であり、将来の動的解析はこ の方向に移っていくものと考えられる。 なお、動的解析については、「道路橋示方書」(2002年3月)及び「コンクリート標準示方書 耐震 性能照査編」(2002年12月)において示されているところであり、以下の点に留意するものとする。 ・動的解析は入力地震動・各種部材の非線形性を適切に評価すれば、合理的な照査が可能となる。 ・ただし、研究途上の課題(入力地震動の設定、模型実験・要素試験等の適宜実施等)も多い。 ・また、各種入力条件が煩雑なため、動的解析結果の妥当性を確認することが必要である。 ・当面の間は、動的解析を主体とする場合でも従来の静的手法と対比する必要がある。 引用・参考文献 ⅰ)「日本道路協会:道路橋示方書・同解説 ⅴ.耐震設計編(1980)」 ⅱ)土木学会:国鉄建造物設計標準解説、基礎構造物、抗土圧構造物、(1986) ⅲ)川島一彦:斜張橋の耐震設計、橋梁と基礎、Vo1.19 No.8(1985) ⅳ)土木学会:動的解析と耐震設計ライフライン施設(1998) 5-30 改定案 現行(手引き) 5.1.5 部材の非線形性 大規模な地震動レベル(レベル2地震動)では、変形が大きく塑性域(除荷しても変形が残留 する領域)に入り、非線形性を示すため、地震荷重を力としてとらえることが困難である。 大規模な地震動を対象にする設計では、合理的な安全性評価のために震度法で用いていた力の 体系から変形の体系に移行して、耐震設計を行うものとする。 レベル2地震動の耐震設計 地震時保有水平耐力法:終局限界状態時の許容残留変位δRa(m)で規定する。変位は曲げモ (エネルギ一定則) ーメント M-曲率φの関係から、許容応答塑性率μa、応答塑性率μr より残留変位を算定し、許容残留変位δRaと比較照査を行う。 限 界 状 態 設 計 法 :終局限界状態時の最大耐力で照査を行う。曲げモーメントと曲率関 (エネルギ一定則) 係は、二次剛性を持つバイリニアとなり、最大耐力点が塑性変形の最 大値を示すことから、必然的に変形量も許容範囲に収まっていること となり、特に変位についての照査は行わない。 [解 説] (1) 非線形性 従来の、中規模程度(レベル1地震動相当)の地震動の下では、極限耐力に対して、安全率を考え た許容耐力が設計における判断基準になりうる。すなわち、応答と安定の問題は、線形解析による 応答変形の評価とその応答値に対する許容耐力との大小比較による安定性の二段階に分離できるとい う設計思想が成り立つ。しかし、大規模な地震動では、変形が非線形域に入り、地震荷重を力とし てとらえることが困難になってくる。大規模な地震動に対して設計を行う場合は、図-5.1.14に示す ように、力の体系から変形の体系に移行する必要がある。すなわち、変形に関する判断基準(限界 状態:降伏時、終局時)を規定して、それに対して安全性を評価するという地震時保有水平耐力法、 若しくは限界状態設計法への移行が必要となった。すなわち、応答変形と断面力、断面耐力の安定 問題を分離しないで解決することが必要となった。 本手引きでは、非線形特性がバイリニア及びトリリニアでモデル化できると仮定し、エネルギー 定則が成り立つとして、線形応答から非線形応答の変形を評価できるものとした(図-5.1.15参照)。 図-5.1.14 力の体系から変形の体系へ 5-31 図-5.1.15 エネルギー定則による変形評価 改定案 現行(手引き) (2) エネルギー定則 a.レベル2地震動に対する設計方針 エネルギー定則とは、構造物の部材が降伏しないとしたときの最大地震応答(線形応答)から、降 伏したときの最大地震応答(非線形応答)を簡単に求めるための仮定法則である。 レベル2地震動に対して、構造物の地震時の応答を弾性領域内に収めるような構造物を設計しよう とすると、構造物の規模が著しく大きくなったり、場合によっては現実的に不可能な構造となるこ ともある。 このため、レベル2地震動に対してはエネルギー定則の仮定の下で、構造物(部材)の非線形領域 の挙動をモデル化し、損傷を受けても崩壊しない設計とする。 つまり、数百年から千年に一度というような想定供用期間内に発生する確率が非常に低い地震動 に対しては、構造物が崩壊することは許されないが、ある程度の損傷は許容する設計法が各種の構 造物の設計に取り入れられるようになってきた。その場合の地震動レベル(レベル1、レベル2)に対 して、目標とする耐震性能は一般に表-5.1.7のようなものである。 表-5.1.7地震動レベルと目標とする耐震性能 地震動 レベル レベル1 レベル2 設計で想定する地震動 地震動の大きさ 目標とする耐震性能 耐震性の検証方法 供用期間内に数回程度発生す る確率を有する地震動 水平震度 0.2~0.3程度 健全性を損なわない 弾性変形範囲内 部材の発生応力度<許容応力度 部材の発生変位<許容変位 供用期間内に発生する確率は 低いが非常に強い地震動 水平震度 0.7~2.0 致命的な被害を防止する 限定された損傷にとどめる 部材の非線形性を考慮した構造 計算から構造系が崩壊しないこ とを照査する 供用期間内の発生確率が低い大地震の場合には、構造物が地震力に対して強度で抵抗する弾性法 と粘りで抵抗する塑性法の2種類がある。弾性法は応力で地震エネルギを吸収し、塑性法は降伏耐力 を保持しながら塑性変形することによって地震エネルギを吸収する考え方である。大きく変形する ためには、力を受けた場合にもろく崩壊しないようにねばり強さが必要になる。このように、構造 物が塑性変形しながらねばり強く抵抗する性質を「じん性」といい、この降伏耐力に達したときの変 形量δy(図-5.1.16(a))で全体の変形量δpを割った値によりねばり強さの程度を表し、この指標を塑 性率μ(=δp/δy)という。一般には、設計上、過大な変形を制限するために、塑性率に制限を用いて おり、これを許容塑性率と呼んでいる。 このような2つのレベルの地震動に対して構造物の強度とねばりに関する安全性の照査を行う。 b.地震エネルギ吸収能力 (a) 構造物の地震エネルギ吸収能力については、図-5.1.16(b)に示すような関係がある。構造物が弾 性的な挙動をする場合と塑性的な挙動をする場合の、吸収するエネルギは、それぞれ△0ABと□ 0CDEの面積に相当し、それらの面積が等しい場合には、両者の地震エネルギ吸収能力が等しいので 耐震性能は同じということになる。すなわち、図中のタイプAの構造物は、耐力は大きいが小さな 変形量で壊れるもろい構造物であり、タイプBの構造物は、耐力は小さいが、大きな変形ができる ねばり強い構造物を示している。エネルギは、力×変位量で表すことができるので、図中の斜線で 表される面積が同じであれば、タイプBの構造物でも耐力を保ちながら耐震性能を確保できるといえ る。図より、タイプBの構造物がタイプAの構造物と等しい吸収エネルギとなるために必要な変位量 δpは、次式で表される。 5-32 改定案 現行(手引き) δp=1/2{(PE/Py)2+1}・δy ········································ (5.1.1) ここで、たとえば、タイプBの構造物の耐力をタイプAの構造物の50%にして耐震性能を同じに するには、δpはδyの2.5倍の変形(性能)が必要になるといえる。 図-5.1.16 構造物の地震エネルギ吸収能力 (b) 構造物の塑性変形による地震エネルギの吸収 橋梁においては、地震時保有水平耐力法を用いているが、許容塑性率から得られる係数を乗じて いる。「水道施設耐震工法指針」では、限界状態設計法を用いているが、構造物の減衰特性を考慮 して構造物特性係数を乗じて設計地震力を減じている。 引用・参考文献 ⅰ)地盤工学会:地盤・基礎構造物の耐震設計(2001) ⅱ)池田敏雄、岡田勝也、長谷川達也:活断層調査から耐震設計まで、鹿島出版会(2000) 5-33 改定案 現行(手引き) 5.2 設計水平震度 5.2 設計水平震度 5.2.1 一般事項 5.2.1 一般事項 各種耐震計算方法に用いる設計水平震度の算定方法は、構造物の特性のほか、地盤条件、地上 各種耐震設計方法に用いる設計水平震度の算定方法は、構造物の特性のほか、地盤条件、地上 又は地中構造物及び地震動の特性によって異なり、以下のとおり分類され、それぞれ耐震計算方 又は地中構造物及び地震動の特性によって異なり、以下のとおり分類され、それぞれ耐震設計方 法、構造物の特性、地震動レベルに応じて、表-5.2.1のように適用される。 法、構造物の特性、地震動レベルに応じて、表-5.2.1のように適用される。 (1) 構造物の固有周期を考慮しないもの。 (1) 構造物の固有周期を考慮しないもの。 (2) 構造物の固有周期を考慮するもの。 (2) 構造物の固有周期を考慮するもの。 (3) 構造物の固有周期と構造物特性係数を考慮するもの。 (3) 構造物の固有周期と構造物特性係数を考慮するもの。 (4) 構造物の固有周期と構造物特性補正係数を考慮するもの。 (4) 構造物の固有周期と構造物特性補正係数を考慮するもの。 表-5.2.1 設計水平震度の算定方法の適用区分 設計水平震度の算定方法 耐震計算法 構造物 地震動レベル 照査方法 橋梁 レベル1 許容応力度法 擁壁 レベル1、レベル2 許容応力度法 (擁壁、開水路のレ ベル2地震動につい ては限界状態設計 法または、許容応力 度法) 開水路 レベル1、レベル2 フアームポンド(RC) レベル1 ため池 レベル1 (円弧すべり法) 暗渠(ボックスカルバート) (躯体等の慣性力の算定) レベル1、レベル2 -*1 ポンプ場(吸水槽) レベル1 杭基礎(フーチング)*2 レベル1 地震時保有水平耐 杭基礎(フーチング)*3 力法 レベル2 地震時保有水 平耐力法 レベル1、レベル2 「継手構造」*4 管体応力等 「一体構造」 軸方向ひずみ 等 震度法 固有周期を考慮しない パイプライン(水平変位振幅 の算定) 応答変位法 震度法 固有周期と構造物特性係数 震度法 を考慮する 設計水平震度の算定方法 耐震設計法 震度法 固有周期を考慮しない 許容応力度法 地震時保有水平耐 力法 構造物 地震動レベル レベル1 擁壁 レベル1、レベル2 開水路 レベル1、レベル2 フアームポンド(RC) レベル1 ため池・調整池 レベル1 (円弧すべり法) 暗渠(ボックスカルバート) (躯体等の慣性力の算定) レベル1、レベル2 -*1 ポンプ場(吸水槽) レベル1 杭基礎(フーチング)*2 レベル1 杭基礎(フーチング)*3 レベル2 地震時保有水 平耐力法 レベル1、レベル2 「継手構造」*4 管体応力等 「一体構造」 軸方向ひずみ 等 レベル1 許容応力度法 レベル2(タイプⅡ) 限界状態設計法 限界状態設計法 パイプライン(水平変位振幅 の算定) 応答変位法 暗渠(ボックスカルバート) (水平変位振幅の算定) 許容応力度法 レベル2(タイプⅡ) 限界状態設計法 ポンプ場(吸水槽) (水平変位振幅の算定) レベル2(タイプⅡ) ポンプ場(吸水槽)*5 (水平変位振幅の算定) レベル2(タイプⅡ) 限界状態設計法 橋梁 レベル1 橋梁 レベル1 頭首工 レベル1 頭首工 レベル1 フアームポンド(PC) レベル1 レベル1 杭基礎(杭仕様の決定、フーチング)*6 レベル1 フアームポンド(PC) 杭基礎(杭仕様の決定、フーチング)*6 レベル1 ファームポンド(PC、RC) レベル2(タイプⅠ) ファームポンド(PC、RC) レベル2(タイプⅠ) *5 ポンプ場(吸水槽) レベル2(タイプⅠ) 橋梁 レベル2(タイプ1、II) 固有周期と構造物特性補正 地震時保有水平耐 頭首工等 係数を考慮する 力法 杭基礎(杭、フーチング)*7 レベル2(タイプ1、II) 震度法 許容応力度法 固有周期と構造物特性係数を 震度法 考慮する 地震時保有水 平耐力法 許容応力度法 許容応力度法 許容応力度法 *5 固有周期を考慮する 限界状態設計法 照査方法 橋梁 レベル1 暗渠(ボックスカルバート) (水平変位振幅の算定) 固有周期を考慮する 表-5.2.1 設計水平震度の算定方法の適用区分 *5 ポンプ場(吸水槽) 橋梁 固有周期と構造物特性補正係 地 震 時 保 有 水 平 耐 頭首工等 数を考慮する 力法 杭基礎(杭、フーチング)*7 *1~7は [解説] (4)に記載。 レベル2(タイプ1、II) *1~7は [解説] (4)に記載。 5-34 レベル2(タイプⅠ) 許容応力度法 限界状態設計法 レベル2(タイプ1、II) レベル2(タイプ1、II) レベル2(タイプ1、II) 地震時保有水 平耐力法 改定案 現行(手引き) [解 説] [解 説] (1) 固有周期と構造物特性係数の算定 (1) 固有周期と構造物特性係数の算定 a.「固有周期を考慮しない」とは、固有周期を算定する必要がなく、設計水平震度の標準値が地盤 a.「固有周期を考慮しない」とは、固有周期を算定する必要がなく、設計水平震度の標準値が地 種別Ⅰ種、Ⅱ種、Ⅲ種に対して定められていることをいい、適用する耐震計算法は基本的に震度法 盤種別Ⅰ種、Ⅱ種、Ⅲ種に対して定められていることをいい、適用する耐震設計法は基本的に震 である。(地盤種別とは、「4.2.2地盤種別」により求める。) 度法である。(地盤種別とは、「4.2.2地盤種別」により求める。) b.「固有周期を考慮する」とは、「4.2.2地盤種別」により地盤種別を求め、さらに「4.2.3固有周 b.「固有周期を考慮する」とは、「4.2.2地盤種別」により地盤種別を求め、さらに「4.2.3固有 期」により固有周期を求め、それに対する設計水平震度の標準値を求めることをいい、適用する耐 周期」により固有周期を求め、それに対する設計水平震度の標準値を求めることをいい、適用す 震計算法は震度法で、これは修正震度法と呼ばれる。 る耐震設計法は震度法で、これは修正震度法と呼ばれる。 c.「固有周期と構造物特性係数を考慮する」とは、b.の算定方法により求めた設計水平震度の標準 c.「固有周期と構造物特性係数を考慮する」とは、b.の算定方法により求めた設計水平震度の標 値に構造物特性係数を乗じるもので、設計水平震度の標準値を補正することをいい、ファームポン 準値に構造物特性係数を乗じるもので、設計水平震度の標準値を補正することをいい、ファーム ド、ポンプ場(吸水槽)にあっては構造物特性係数を0.45とする。適用する耐震計算方法は震度法で ポンド、ポンプ場(吸水槽)にあっては構造物特性係数を0.45とする。適用する耐震設計方法は震 ある。 度法である。 d.「固有周期と構造物特性補正係数を考慮する」とは、c.と同様の算定方法で、構造物特性係数の d.「固有周期と構造物特性補正係数を考慮する」とは、c.と同様の算定方法で、構造物特性係数 代わりに構造物特性補正係数を用いて設計水平震度を求めるもので、地震時保有水平耐力法に適用 の代わりに構造物特性補正係数を用いて設計水平震度を求めるもので、地震時保有水平耐力法に する。 適用する。 (2) 構造物の特性 (2) 構造物の特性 a.「構造物の固有周期を考慮しないもの」は、慣性力が一様で比較的剛性の高い構造物に適用する。 a.「構造物の固有周期を考慮しないもの」は、慣性力が一様で比較的剛性の高い構造物に適用す る。 b.「構造物の固有周期を考慮するもの」は、長大橋や塔状構造物等のように固有周期が長めの構造 b.「構造物の固有周期を考慮するもの」は、長大橋や塔状構造物等のように固有周期が長めの構 物に適用し、固有周期を考慮して補正した設計水平震度を用いる。 造物に適用し、固有周期を考慮して補正した設計水平震度を用いる。 c.「構造物の固有周期と構造物特性係数を考慮するもの」は、レベル2地震動の大規模地震動におけ c.「構造物の固有周期と構造物特性係数を考慮するもの」は、レベル2地震動の大規模地震動にお る鉄筋コンクリート構造物に適用し、弾性域のみならず、部材の降伏後の塑性域を考慮し、構造物 ける鉄筋コンクリート構造物に適用し、弾性域のみならず、部材の降伏後の塑性域を考慮し、構 の応答による減衰とじん性による塑性変形能力で補正した設計水平震度を用いる。 造物の応答による減衰とじん性による塑性変形能力で補正した設計水平震度を用いる。 d.「構造物の固有周期と構造物特性補正係数を考慮するもの」は、橋脚基部に主たる塑性ヒンジが d.「構造物の固有周期と構造物特性補正係数を考慮するもの」は、橋脚基部に主たる塑性ヒンジ 生じ、これに伴う長周期化と安定したエネルギー吸収の増大を前提として非線形応答に基づく弾性 が生じ、これに伴う長周期化と安定したエネルギ吸収の増大を前提として非線形応答に基づく弾 地震力の低減を見込んでいる。すなわち、その非線形応答をエネルギー定則によって近似的に求め 性地震力の低減を見込んでいる。すなわち、その非線形応答をエネルギー定則によって近似的に た場合の設計水平震度に補正係数を与えたものである。 求めた場合の設計水平震度に補正係数を与えたものである。 (3) 設計水平震度の算定方法の適用区分 (3) 設計水平震度の算定方法の適用区分 表-5.2.1に、それぞれの設計水平震度の算定方法と適用する耐震計算法、構造物、地震動レベル の区分を示す。 表-5.2.1に、それぞれの設計水平震度の算定方法と適用する耐震設計法、構造物、地震動レベルの 区分を示す。 なお、固有周期を考慮しない設計水平震度は、震度法に用いる設計水平震度と表現されることが 多いが、地震時保有水平耐力法や応答変位法の算定の過程にも用いられる。 なお、固有周期を考慮しない設計水平震度は、震度法に用いる設計水平震度と表現されることが多 いが、地震時保有水平耐力法や応答変位法の算定の過程にも用いられる。 (4) 表-5.2.1の留意事項 (4) 表-5.2.1の留意事項 *1暗渠(ボックスカルバート)の(躯体等の慣性力の算定)とは、躯体等の慣性力を応答変位法で求 *1暗渠(ボックスカルバート)の(躯体等の慣性力の算定)とは、躯体等の慣性力を応答変位法で める地盤変位をばね定数に変換した外力と合わせるためにのみ用いることから、照査方法は応答変 求める地盤変位をばね定数に変換した外力と合わせるためにのみ用いることから、照査方法は 位法の項を適用する。 応答変位法の項を適用する。 *2震度法に基づく杭仕様の決定においては、地盤種別、固有周期に応じた設計水平震度を用いる。 ただし、土の重量に起因する慣性力及び地震時土圧の算出においては、地盤種別に応じた次の値 を用いる。(固有周期を考慮しないKhg=Cz・Khg0の標準値Khg0) *2震度法に基づく杭仕様の決定においては、地盤種別、固有周期に応じた設計水平震度を用いる。 ただし、土の重量に起因する慣性力及び地震時土圧の算出においては、地盤種別に応じた次の 値を用いる。(固有周期を考慮しないKhg=Cz・Khg0の標準値Khg0) Ⅰ種地盤:0.16 Ⅱ種地盤:0.20 Ⅲ種地盤:0.24 Ⅰ種地盤:0.16 Ⅱ種地盤:0.20 Ⅲ種地盤:0.24 5-35 改定案 現行(手引き) B種の場合、レベル1地震動において震度法のみで杭仕様が決定される。 B種の場合、レベル1地震動において震度法のみで杭仕様が決定される。 *3地震時保有水平耐力法での基礎の耐力の照査に用いるフーチングの設計水平震度は、液状化判定 時の設計水平震度と同様に、地盤種別に応じて次の値を用いる。 *3地震時保有水平耐力法での基礎の耐力の照査に用いるフーチングの設計水平震度は、液状化判 定時の設計水平震度と同様に、地盤種別に応じて次の値を用いる。 (固有周期を考慮しないKhg=Cz・Khg0の標準値Khg0) (固有周期を考慮しないKhg=Cz・Khg0の標準値Khg0) (タイプⅠ)Ⅰ種地盤:0.30 Ⅱ種地盤:0.35 Ⅲ種地盤:0.40 (タイプⅠ)Ⅰ種地盤:0.30 Ⅱ種地盤:0.35 Ⅲ種地盤:0.40 (タイプⅡ)Ⅰ種地盤:0.80 Ⅱ種地盤:0.70 Ⅲ種地盤:0.60 (タイプⅡ)Ⅰ種地盤:0.80 Ⅱ種地盤:0.70 Ⅲ種地盤:0.60 *4照査方法の詳細について、「継手構造」は、管体応力(ダクタイル鋳鉄管等)、軸方向ひずみ(鋼 *4照査方法の詳細について、「継手構造」は、管体応力(ダクタイル鋳鉄管等)、軸方向ひずみ(鋼 管)、継手伸縮量、継手屈曲角度で、「一体構造」は、管体応力(ダクタイル鋳鉄管等)、軸方向ひ 管)、継手伸縮量、継手屈曲角度で、「一体構造」は、管体応力(ダクタイル鋳鉄管等)、軸方 ずみ(鋼管)である。 向ひずみ(鋼管)である。 *5ポンプ場(吸水槽)のレベル2地震動においては、固有周期と構造物特性係数を考慮する設計水平 *5ポンプ場(吸水槽)のレベル2地震動において、地盤の根入れが10m以上の場合、応答変位法も 震度を用いることを標準とする。なお、構造物の特性によっては、応答変位法や地震時保有水平耐 考慮する。原則として、震度法(固有周期と構造物特性係数を考慮する設計水平震度を用いる) 力法を用いるものとしており、その場合は、表-5.2.1等を参考に、各手法に準じた設計水平震度を を用いる。 用いる。 *6レベル1地震動における橋梁・頭首工の杭基礎の耐震設計は、基礎工、上部工を含めた全体系の *6レベル1地震動における橋梁・頭首工の杭基礎の耐震設計は、基礎工、上部工を含めた全体系 固有周期を考慮し、震度法及び許容応力度法を用いて行う。すなわち、設計水平震度は設計荷重(フ の固有周期を考慮し、震度法及び許容応力度法を用いて行う。すなわち、設計水平震度は設計 ーチング下端作用力)算定時に用いて杭仕様を決定するのみであり、レベル1地震動では構造計算 荷重(フーチング下端作用力)算定時に用いて杭仕様を決定するのみであり、レベル1地震動 法として一般的に変位法を用いる。 では構造計算法として一般的に変位法を用いる。 *7レベル2地震動における橋梁・頭首工の杭基礎は、レベル1地震動で決定された断面に対して基礎 *7レベル2地震動における橋梁・頭首工の杭基礎は、レベル1地震動で決定された断面に対して基 工、上部工を含めた全体系の構造物特性係数を考慮した固有周期を用い地震時保有水平耐力法にて 礎工、上部工を含めた全体系の構造物特性係数を考慮した固有周期を用い地震時保有水平耐力 構造計算を行う。 法にて構造計算を行う。 5-36
© Copyright 2024