SURE: Shizuoka University REpository

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http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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弾性工具を用いた金属薄板のインクリメンタルフォーミ
ングに関する研究
松原, 正基
p. 1-136
1996-03-23
http://hdl.handle.net/10297/3245
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静岡大学 博士論文
弾性工具を用いた金属薄板の
インクリメンタルフォーミングに関する研究
平成8年2月
大学院電子科学研究科
電子応用工学専攻
松原 正基
目 次
1.1インクリメンタルフォーミングの動向と本研究の目的
1.2 本論文の構成
<第1章の参考文献>
<第2章の参考文献>
3.5 まとめ
<第3章の参考文献>
第4章 基本曲面の成形メカニズム
4.1 はじめに
4.2 球面の成形メカニズム
4.2.1球頭ポンチの押込みによる素材の変形
4.2.2 球面成形中の素材の形状変化
4.2.3 球面の成形効率に関する考察
4.3 双曲的曲面の成形メカニズム
4.3.1双曲的曲面成形における局所的変形
4.3.2 双曲的曲面成形における大域的変形
4.4 基本曲面の成形メカニズムに関する考察
4.5 まとめ
<第4章の参考文献>
(1)
62631373743亜〟︻お目桝弘555555弘鮎二円釦〓軋鮎92鋸95
第3章 基本曲面の成形
3.1 はじめに
3.2 球面の成形
3.2.1球面の成形プロセス
3.2.2 諸加工条件が成形品形状に及ぼす影響
3.3 楕円的曲面の成形
3.3.1楕円的曲面の成形プロセス
3.3.2 諸加工条件が成形品形状に及ぼす影響
3.4 双曲的曲面の成形
3.4.1双曲的曲面の成形プロセス
3.4.2 諸加工条件が成形品形状に及ぼす影響
9991417お2325252
第2章 弾性工具を用いた金属薄板のインクリメンタルフォーミング
2.1 はじめに
2.2 伝統的鍛金加工の成形様式に関する考察
2.3 新成形法の提案とその概要
2.4 逐次プレス成形装置
2.5 まとめ
l 1 6 8
第1章 緒論
5.1 はじめに
l
5.2 複合曲面成形のための成形装置
5.3 複合曲面の成形プロセス
l
5.4 まとめ
l
<第5章の参考文献>
6.2 インクリメンタルフォーミングの制御
6.3 成形データベースを用いた形状制御
6.3.1成形データベースを用いた制御アルゴリズム
6.3.2 球面の曲率半径制御への適用例
6.4 ファジィ推論を用いた形状制御
6.4.1ファジィ推論
6.4.2 ファジィ推論を用いた制御アルゴリズム
6.4.3 球面の曲率半径制御への適用例
6.5 まとめ
<第6章の参考文献>
第7章 結論
謝辞
関連論文目録
(2)
13 1 3 1 3 1 5 1 5 1 7
91
209212 為 か
l l l l l l l l l l l l
第6章 インクリメンタルフォーミングにおける形状制御
6.1 はじめに
97 97 97 01 H ll
第5章 複合曲面の成形
第1章 緒論
1.1インクリメンタルフォーミングの動向と本研究の目的
戦後の日本の製造業においては,ごく近年までの長期にわたる高度経済成長の間,
消費者の購買意欲の上昇に乗じて,量産することによりコスト低減を追求する大量
生産が生産形態の主流であった.しかし,近年では市場における工業生産品の飽和
および長引く不況による購買意欲の減退が顕著である.したがって,より多様かつ
個性的な商品を少量生産する多品種少量生産の形態が現在の製造業に求められて
いる.
鍛造および板材成形の分野では,金型を用いたプレス成形が現在までの生産形態
の主流である.この方式は,生産速度が速く,大量生産における生産コストが低い
点において優れている.図1−1に,型鍛造における生産量と単品コストの関係を示
す1).型プレスを用いた板材成形においても,この関係はほぼ同等である.同図
中で金型に費やされるコストは加工コストに含まれる.生産量の増加に対して,材
料コストはほとんど変化がないが,設備および加工コストは大幅に減少する.つま
り型による成形加工はより多量に生産するほどコスト低減が実現する.しかし,生
産量が減少すれば製造コストは急増する.この原因は,この成形法では大規模な加
工装置が必要な上,金型が非常に高価であることによる.図1−2は自動車部品にお
けるプレス成形品の製造コストに占める金型費の割合と生産数量の関係を示した
ものである2).この図より金型に費やされるコストが生産台数に大きく影響され,
生産台数の減少により金型コストが製造コストに多大な影響を及ぼすことが認め
られる.したがって少量生産では,例えば金型を用いない方式の新しい加工技術が
要求されている.
金型の使用割合を減少させたり,あるいは金型(総型)を全く用いない板材の成
形法に関して,近年いくつかの報告がされている3−7,10 ̄15).まず,金型の使用
割合を半減させ金型コストの低減を実現させた例が対向液圧成形法である3).こ
の成形法は,図1−3に示すように液体を密閉充満させた容器上に薄板素材を配置し,
雄型となるパンチを液体の容器内に押し込むことにより,液体に生じる圧力により
ポンチの形状を素材に転写させるものである.液圧による成形では板素材に加えら
−1−
れる圧力分布が一定であるため,変形時の板素材の局所的なひずみ集中が抑えられ,
このため成形限界の向上が得られる.その反面,起伏の激しい複雑な形状の成形に
対しては加工力不足による成形不良が生じ易いという欠点も有する.この成形技術
は現在自動車産業で実用化されており,雌型の廃止によって型費用の40%低減を
実現している.
また,金型を用いない板材成形法の1つとして多点プレス成形法が提案されてい
る4 ̄′7).これは図1−4に示すようにマトリクス状に配置した同一形状の加圧工具
をそれぞれ独立に操作し,平板を徐々に変形させて目的の形状を成形する方式であ
る.本方式は成形品の形状ごとに専用の型工具を必要としないため,生産数がごく
少量の場合においても非常に低コストな生産が可能である.本成形法は船体の外板
のような比較的面積が大きく,単純な曲率分布の2次元曲げ部品に適用されている
が,複雑な曲面形状には適用が困難である.
板金あるいは鍛金加工は,金属板をハンマーおよび当て金などを用いて局所的に
変形させる操作を繰り返し,目的の曲面を創成する板材成形法である8,9).この
成形法は金属加工技術において最も古いものの一つであるが,極少量生産において
は最も効率的な成形法である.しかし,曲面の創成プロセスが完全に技術者個人の
経験と勘によるものであるため,成形法としての汎用性に乏しいという欠点を有す
る.しかし,局所的な板素材の成形を素材全体にわたって逐次繰り返す方式の板材
成形法は,金型を用いたプレス成形と比較して生産速度が遅い反面,専用型費用を
必要とせず,加工装置も小規模であるため生産量が数十程度以下の少量生産に適し
ている.このような逐次的な方式の成形法は,近年ではインクリメンタルフォーミ
ングと称され,種々の新しい方式の生産法が提案・開発されている.
図1−5はボールローラを用いた逐次張出し成形法の概要である10).この成形法
は,周囲を拘束した板材に対しボールローラを押込みながら移動させることにより,
その経路に応じた任意の曲面形状の張出し成形を行うものである.これにより簡単
な成形装置により様々な形状が成形可能である.
図1−6は人間の指の動きを模倣した棒状工具による揺動回転張出し成形法の概
要である13).本方式では工具の移動経路により板材料の流動を制御し,様々なひ
ずみ分布の成形品を得ることが可能である.また目的形状のひずみ分布から工具の
− 2 一
移動経路を決定する試みがなされた.このような棒状工具を用いて板素材を連続的
に張出しあるいはしごき成形を行う方式は他にも報告がなされている14).しかし,
逐次張出し成形では素材の周囲を拘束する必要があり,伸びひずみが支配的である
ため成形が困難な形状も多く,成形の自由度が比較的乏しいという欠点も有する.
インクリメンタルフォーミングのもう1つの特徴として板素材の成形限界の向
上があげられる.一般的なプレス成形では成形品にくびれや割れが生じる問題が数
多く発生する.これは成形中に素材が金型により拘束されるため材料の流動が制限
され,金型の起伏形状によって局所的にひずみが集中し,材料の破断限界を越える
ためである.これに対してインクリメンタルフォーミングでは素材の変形が局所的
であり,この局所領域以外では工具による拘束がない.したがって,成形中の材料
流動が比較的自由でありひずみが局所に集中しないので,インクリメンタルフォー
ミングでは幾何学的な成形限界形状がプレス成形より向上し,より起伏の激しい形
状の成形が可能となる.
本論文では単純な形状の工具対を用いて素材を局所的にプレスし,その操作を成
形条件を選択しながら素材全体にわたって繰り返し,曲面形状を成形する方式のイ
ンクリメンタルフォーミング法を提案する.本成形システムの特徴は,工具に弾性
体を用い,加工中の工具自体の変形形状を素材に転写することである.これにより
1組の工具で多様な形状を素材に与えることができるとともに,変形する素材の曲
率分布が変形領域とその外側の領域で滑らかにつながり,剛体工具による拘束され
た変形よりも良質の曲面の創成が可能となる.
本研究では,この成形原理に基づき,金属薄板の自由曲面成形システムを開発す
ることを最終目的としている.このシステムでは,加工動作とプロセスがコンピュ
ータにより管理,制御され,従来の鍛金,板金加工のように作業者個人の経験と勘
に頼ることなく任意の曲面の成形が可能になる.また,加工点の間隔や加工量を正
確に制御できるため,視覚的にも高品質な製品の成形が可能となる.
− 3 −
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図1−1鍛造における生産数量と製品 図1−2 製造コストに占める金型費の
コストの関係11
割合と生産数量の関係2)
図1−3 対向液圧成形法概要3)
− 4 −
Upperpunchunit
Wor転垂Ce
Lowerpunchunjt
(b)上ポンチ群配列
(a)成形装置概要
図1−4 マトリクス状に配置した複数工具による
多点プレス成形法4)
図1−5 ボールローラを用いた逐次張出し成形法10)
− 5 −
⊂_⊥つの
図1−6 棒状工具による揺動回転張出し成形法13)
1.2 本論文の構成
本論文は全7章より構成されている.第1章は緒論であり,インクリメンタルフ
ォーミングの動向および本研究の目的について述べている.
第2章では,まず伝統的に行われている鍛金加工についてその成形様式の考察を
行い,続いて本研究で提案した逐次プレス板材成形法の概要を述べ,製作した成形
装置について説明している.本成形法の特徴は工具の材質として弾性体を利用し,
工具の押込み時における素材の変形に剛体工具では得られないフレキシビリティ
を与えることにより,緩やかな曲率分布で加工痕をつなぎ,表面が滑らかな曲面形
状を成形できることである.
第3章では,任意の自由曲面を局所的に構成している基本曲面である,球面,楕
円的曲面,双曲的曲面の成形法を提案し,これらの成形のための成形プロセスの検
討を行った.さらにこれらの曲面の成形条件が製品形状に及ぼす影響について実験
的検討を行った.
ー 6 −
第4章では,第3章で成形された球面および双曲的曲面の成形メカニズムについ
て,成形中のひずみ分布および曲率分布の変化のデータからこれらの曲面の変形様
式を解析した.また本成形システムによる球面成形品と,最小仕事に条件により仮
想的に成形された球面を塑性変形エネルギー消費量により比較し本成形法の成形
効率について検討を行った.
第5章では複合曲面の成形を試み,従来の成形装置よりさらに高自由度な板素材
の保持を実現するため,6自由度の多関節ロボットを用いた板材保持装置を製作し
た.また,第3章および第4章で行った考察に基づき,球面および双曲面から構成
される複合曲面の成形をとりあげ.この曲面の成形プロセスについて実験的検討を
行った.
第6章では,本インクリメンタルフォーミングにおける製品形状の制御の手法と
して,データベースを用いた制御システムの検討を行った.ここではデータテーブ
ルを用いた制御アルゴリズムとファジィ推論を用いたアルゴリズムを提案し,適用
例として球面成形品の曲率半径の制御を行った.
第7章は結論であり,本論文の内容を統括的にまとめている.
ー 7 −
<第1章の参考文献>
1)Kalpakjian・S・,“ManufacturingEngineeringandTechnology”,Addison・Wesley
Publishingcompany,(1992),422.
2)山口・定村,”板材成形21世紀への展望”,塑性と加工,35・400(1994),527.
3)池本,”自動車ボデー部品の対向液圧成形法”,塑性と加工,33−375(1992),379.
4)中村ほか6名,”多点プレス成形装置の開発”,第45回塑性加工連合講演会論文集,
(1994),516.
5)中島,”針金束を用いた金型・電極の研究”,日本機械学会誌,72・603(1969),498.
6)岩崎ほか4名,”三条プレスの開発”,三菱重工技報,6−13(1976),946.
7)井関・加藤・高場,”フレキシブルな型工具による逐次成形法”,
平成4年度塑性加工春季講演会,(1992),230.
8)山下・石川・安藤,”鍛金の実際”,美術出版社,(1987).
9)香取・井尾・井伏,”金工の伝統技法”,理工学社,(1986).
10)井関ほか4名了’複数ボールローラによるフレキシブルな逐次張出し成形
に関する研究”,日本機械学会論文集,59・565,C(1993),2849.
11)Mason,B・,Appleton,E・,“SheetMetalFormingforSmallBathesUsing
SacrincjalTooling”,Proc.3rdROMP,(1984),495.
12)Powell,N・N・,Andrew,C・,“IncrementalFormingofFlangedSheetMetal
ComponentswithoutDedicatedDies”,Proc・Instn・Mech・Engrs.,206(1992),41.
13)北澤・清野・村田,”棒状工具を用いた薄板軸対称CNC逐次張出し
成形機の開発”,平4塑性加工春季講演会,(1992),232.
14)松原,”数値制御逐次成形法”,塑性と加工35−406(1994),1258.
15)近藤ほか3名了ピーン成形法に関する研究”,日本機械学会誌,44−386,3(1978),3663.
− 8 −
第2章 弾性工具を用いた金属薄板のインクリメンタルフォーミング
2.1 はじめに
板素材を局所的にプレスあるいは叩き出して曲面形状を創成する方式の板材成
形法は,工芸の分野では壷や置物などの製作法として現在でも健在であるが,工業
レベルでは近年一般的にほとんどみられることはない.しかし,完全に淘汰されて
いるわけではなく,自動車の試作車体あるいは鉄道車両の車体の一部などの成形は,
この方式で現在も行われている1).しかしこれらの成形では,加工装置こそ比較
的新型のメカニカルプレスを用いているものの,成形品の形状の制御は依然として
熟練作業者の視覚に基づく勘によるものである.この成形方式がコンピュータ援用
のもとに自動化され任意の曲面形状を自在に得ることができるようになれば,生産
コストの低減が実現するだけでなく,極少量生産による自由曲面形状の製品への適
用範囲の広がりを期待することができる.
そこで本章では,まず伝統的な鍛金加工の成形様式に関して考察を行い,つぎに
本論文で提案する新しいインクリメンタルフォーミングシステムの概要を示す.
2.2 伝統的鍛金加工の成形様式に関する考察
鍛金加工では図2−1に示すように板素材を手で保持し,様々な先端形状のハンマ
ーおよび当て金を駆使して素材を目的の形状に打ち出す2 ̄3).その1例として半
球面の成形手順を図2−2に示す1).この加工法における加工様式は素材のひずみ
の与え方の違いにより,2種類に大別できる.すなわち軸対称成形の場合,子午線
方向ひずみEoおよび円周方向ひずみ亡。をともに正(引張り)にする張出し(伸ばし)
成形,および円周方向ひずみを負(圧縮)にする絞り成形である.図2−3にこれら
の加工様式の概要を示す.張出し領域では素材をほぼ水平に保持し,木台と呼ばれ
る雌型のくぼみ上で打ち出すことによりel>0,80>0の引張り変形を素材に与える・
一方,絞り加工は素材を金床上で傾斜するように配置し,すき間をつぶすようにハ
ンマリングすることによって円周方向の圧縮ひずみを生じさせる.このときの圧縮
ひずみ量は素材の傾斜量つまり工具と素材のすき間量によって変化する.図2−4は
半球形状の成形例であるが,この張出しおよび絞り領域の配分が製品形状および成
− 9 −
形の効率つまり成形に要する総仕事量に影響を与えると報告されている4).
この成形法では局所的に素材を保持するため,変形に対する拘束力がきわめて小
さく,素材の変形の自由度が非常に高い.また,局所的な曲げひずみおよび材料流
動による引張り・圧縮ひずみがハンマリング地点近傍において生じるが,素材全体
のひずみ分布はハンマリング地点の移動により逐次変化する.したがって,目的の
形状の到達するまでの素材の変形履歴が非常に複雑であり,同一形状の製品を成形
するプロセスは無限に存在する.このため鍛金作業者は,視覚から得られる現在の
加工物の形状に対し,経験や勘をもとにした変形後の形状の予測に基づき,当て金
に対する板素材の傾斜角およびハンマリングの荷重などを常に適切に加減してい
る.また,熟練度に応じて,成形に必要な仕事量がより少なくなるようなプロセス
を収得してゆく.
このプロセス収得の過程を含む鍛金作業の自動化はこれまでにいくつかの試み
がなされている5 ̄7).しかし,現在のところ実用化にかなう報告はされていない.
この原因は以下のように考えられる.
① この成形法では,局所的な変形を素材全体に蓄積するためのステップ数が膨大
であること,および打ち出しの1打毎に素材上の境界条件が変化する.これらが大
きな障害となり,この鍛金加工における素材の変形様式の理論的解析および弾塑性
有限要素法に代表される数値解析の適用を困難なものとしている.そのため,成形
プロセスを理論的に予測し,これを適用して成形を成功させることはほとんど不可
能である.
② また,人間の手による板成形では,大きな変形を素材に与える場合,加工力を
強めるのと同時に素材を保持する力を強めている.つまり素材の拘束力を高め,変
形を促進させている.一方,均し工程のように微小で緩やかな変形を素材に与える
場合では,加工力を弱めるのと同時に素材の保持力を弱め,素材の姿勢を比較的自
由にさせている.このように,状況に応じたフレキシブルな素材の保持を代替でき
る機構を製作することが困難であることも,自動制御化の大きな障害となっている.
ー10−
図2−1鍛金作業の様子
図2−2 鍛金加工における成形手順
−11−
宮H藩
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2.3 新成形法の提案とその概要
従来の鍛金あるいは板金技術を工業的な価値をもつ新成形法として発展させる
には,以下の4つの要求を満足する必要がある.
(1)できるだけ少ない工具で多様な曲面成形が可能であること
極少量生産においては少数の工具と単一の機械で多様な形状を成形できるのが
望ましい.
(2)成形品の表面に加工痕がなく滑らかであること
鍛金加工では加工痕は鎚目と呼ばれ,視覚的付加価値として扱われるが2),工
業製品としては表面には出来るだけ加工痕が無く,滑らかなものが好ましい.金属
工具による打ち出し成形では,加工痕を消滅させるのは非常に困難であるため,エ
ラストマーなどの弾性体の利用が有効である9)
(3)素材の柔軟な保持が可能であること
素材の変形の多様性を確保するために,人間による素材保持と同等のフレキシブ
ルな素材の保持メカニズムが必要となる.
(4)成形プロセスを自動生成できること
インクリメンタルフォーミングでは生産速度が遅いことも欠点の1つである.一
般の工業分野への適用のためには,生産速度の高速化が必要であるが,このために
は成形装置を自動化するだけでなく,目的形状に対してその成形プロセスを自動的
に生成し,形状創成の戦略を高速化させることも重要である.
本研究では,まず(1)∼(3)の3つの条件を満足する新しいインクリメンタルフォ
ーミング法を提案した・本成形法の概要を図2−5に示す.加工の基本単位は剛体あ
るいは弾性体のポンチおよびダイスで板素材を挟み込む操作である.この操作を工
具の押込み量,押込み間隔,工具の形状および姿勢を選択しながら素材全体にわた
って繰り返すことにより目的の曲面形状の創成を行う.本成形法では工具材質とし
て弾性体であるエラストマーを用いることにより,工具形状を板素材にそのまま転
写するのではなく,板素材とともに工具自体も変形しながら成形が行われる.した
がって,単一の工具で多様な曲率の曲面が成形できるとともに,工具による加圧領
−14−
域とその近傍の領域との境界における曲率分布を緩やかにし,素材表面上に工具痕
が残留することを防止している.また,金属工具による成形では絞り加工などの圧
縮ひずみが伴う場合に,加圧の繰り返しによりしわが発生しやすい.したがって,
弾性工具を用いることでこのしわの発生も防止することができる.
また,(3)の柔軟な素材保持のためには,素材をハンドリングしている機構が素
材の姿勢移動に追従することが必要である.これを実現するために図2−6に示すバ
ネ系を用いた板素材保持機構を提案した.本保持機構はコイルスプリング仕1)と平
行板バネ住2)により構成される.ポンチ押込み時の素材の上下動にはklおよびk2
が対応し,変形中の素材の傾斜および水平方向の伸縮にはklが対応する.これに
より柔軟な板素材の保持が実現する.
−15−
∴・忘●∴∴
FormlngParameters
dp:Depthofindentation
Ip:lntervaJofindentation
ShapeoftooIs
図2−5 逐次プレス板材成形法概要
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図2−6 板材保持機構概要
一16−
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2.4 逐次プレス成形装置
前節で提案した新しいインクリメンタルフォーミングを実現するために,成形シ
ステムのハードウェアには以下の4つの能力が必要である.
(1)工具の把持とプレス動作(人間の「利き腕」に対応)
(2)フレキシブルな板素材の保持と姿勢制御および加工点の位置決め
(「もう一方の腕」に対応)
(3)成形品形状の測定(「目」に対応)
(4)(1)∼(3)の各部の統括制御(「脳」に対応)
以上の条件を考慮して,本研究で基本曲面の成形のために開発した実験装置の概
観を図2−7に示す(本実験装置を以後実験装置Aと称する).
工具のプレス動作はステッビングモータとボールねじにより駆動されるサーボ
シリンダにより行われる.サーボシリンダは油圧シリンダなどに比較してストロー
ク制御において優れており,位置制御により加工を行うのに適している.ここでは
これをZシリンダと称する.また,このZシリンダの工具取り付け部にビーム型の
ロードセルを取り付け,加工荷重を検出する.
板素材は板材保持機構により保持され,XYテーブルにより位置決めされる.こ
こで図2−6のklに対応するコイルバネのバネ定数は21.ON/mであり,ポンチ押込
み時前後の素材の水平姿勢保持,および素材中央点の維持に必要な最低限の張力の
みを素材に供給する.つまり,本成形法では加工中の素材の拘束を最小限にするこ
とにより,工具押込み中の素材の水平方向の変位および傾斜をほぼ自由に行わせて
いる.これにより素材保持姿勢と変形中に素材が自ら取ろうとする姿勢が一致し.
不自然な変形のない緩やかな曲率分布の曲面の成形が可能である.成形中の素材の
ハンドリングの状況を図2−8に示す.しかし,フランジ部のような局所的に曲率変
化が大きな形状を成形する場合には,逆に変形中の素材の姿勢を拘束する必要があ
るがこれに対応させる機構については第5章で示す.
成形品の形状測定はレーザ変位計の走査により行われる.このレーザ変位計は測
定範囲は20mm,分解能は0.01mmである.ここではレーザ変位計を走査する代
わりに,成形された板材を保持機構で保持したままXYテーブルを走査させて形状
測定を行う.測定範囲は100mmxlOOmmであり1mm間隔で成形品表面のZ座標
−17−
が計測される・この測定点(Ⅹわ,yわ,Zわ拍=1,…,101,j=1,…,101)を用いて3次元形状,
断面形状および曲率分布などを評価する.
以上の加工動作と形状測定に関する制御はパーソナルコンピュータ(NEC PC_
9801RA21)で行われる.
以上の逐次プレス成形装置の仕様をまとめて,表2−1に示す.
表2−1逐次プレス板材成形装置仕様
M axim u m load
Z−
C ylin der
Stroke
350 m m
S tep distan Ce
0.
01m m
Stroke
Ⅹ400 m m x Y 400 m m
Step distan ce
0.
01m m
M easurable ran ge
20 m m
R esolution
0.
01m m
ⅩY −
T able
L aser
displacem ent
m eter
4.
21 kN (
430 kd )
実験に用いた素材は工業用純アルミニウムAlO50−焼鈍し材およびAllOO_焼鈍
し材であり,板厚t=0.4mmを基本とした.各素材の特性値を表2−2に示す.
表2−2 使用板素材の機械的特性値
M a teri al
F−
V al u e F M P a
W ork −
h ar d en in g ex p o n e n t n
A lu m in u m
A lu m in u m
A lO 5 0 −
0
A l lO 0 −
0
177
173
0.
2 90
0.
251
T e n sil e S tre n gth S t M P a
8 7.
9
93 .
9
T atal elon g a ti on e %
2 7.
2
32 .
9
R a n k F or d v al u e r
0.
66 8
0.
6 77
一18一
(a)Overview ofequipment
伽)Fomigsection
図2−6 逐次プレス板材成形装置(実験装置A)
ー19−
図2−8 成形中の素材のハンドリング
また,本成形法では工具にはエラストマーを用いるが,変形抵抗の高い素材に対
しては加工力が大きくなり,相対的に弾性工具の変形抵抗が小さくなる.これに対
しては工具に用いるゴム材の硬さを適切に選択することで対応することができる.
つまり工具の材質には,素材が0材の場合は硬度70(刀SA)のネオプレンゴム,
1/2H材などを用いた場合ではでは硬度90(刀SA)のウレタンゴムを用いる.こ
れら工具材料の,応カーひずみ曲線および工具押込み速度−ヤング率の関係を図
2−9,2−10および2−11に示す.本成形装置では工具押込み速度は約500mm/mhで
あるので,成形中の弾性工具のヤング率は図2−11より El(。r。)望27MPa,
E2(ure)宣17MPa,El(cr)glO.5MPa,E2(cr芦5.5Mpaとなる.なお,以下の実験にお
いて特に記述のない場合の工具材質はネオプレンゴムである.
−20−
2
bのSOJIS
0.2
Strainc
図2−9 使用工具の応カーひずみ関係(クロロブレンゴム)
0.2
0・0840.1
Strains
図2−10 使用工具の応カーひずみ関係(ウレタンゴム)
ー21−
−ZZ−
封凶α牽オペキー封畢専管胡菅ェ㌢Ⅰ昭二僧工制朝 日一石図
u!uJ/LuLu^uO!leluePu!LPundlOAIPOle^
00L
OL
f
l
音
声
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雪
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…
妄
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i
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l
l
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日
日
l
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l
il 旧
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l
H l
i
l
O
C
2.5 まとめ
本章では,まず新しい板材成形法の提案に先立ち,伝統的に行われてきた鍛金加
工の成形様式について考察を行い,鍛金加工において行われている張出し加工およ
び絞り加工の詳細を明らかにした.
次に,弾性工具を用いた金属薄板の新しいインクリメンタルフォーミングシステ
ムを提案した.本システムの特徴は,①:工具材質にエラストマーを用いることに
より多様な変形を素材に与えることができるとともに滑らかな成形品を得ること
ができる.②:板素材の変形に対する拘束が極めて少ない板材保持機構を採用して
いる.以上の特徴により少数の標準化された工具で多種類の曲面形状が成形できる.
また,本研究で開発した逐次プレス板材成形装置の概要を説明し,使用した板素
材および工具材の特性を示した.
<第2章の参考文献>
1)三浦,”作業現場における打出し板金手加工作業の実際”,板金プレス成形分科会
第26回SMFセミナー資料集,(1992),1.
2)山下・石川・安藤,”鍛金の実際”,(1987),美術出版社.
3)香取・井尾・井伏,”金工の伝統技法”,(1986),理工学社.
4)中島,”鍛金加工の数値制御化”,塑性と加工,20・223(1979),696
5)長谷部・島・小寺,”逐次ハンマリングによる板成形に関する研究”,
第44回塑性加工連合講演会論文集,(1993),601.
6)長谷部・島・渡部,”逐次ハンマリングによるフレキシブル加工に関する研究”,
第42回塑性加工連合講演会論文集,(1991),516.
7)島・長谷部,”インクリメンタルフォーミングとシミュレーション”,塑性と加工,
35・406(1994),1297.
8)山田,”ゴム”,大日本図書,(1968).
9)Thiruvarudchelvan,S.,“Elastomersinmetalforming”,J.Mater.Proc.Tech.,
39(1993),55.
ー23−
第3章 基本曲面の成形
3.1 はじめに
一般的な任意の自由曲面の構成単位となる曲面について考えてみる.まず任意の
連続な曲面上の点は,2つの主曲率Kl,K2をもつ.この主曲率は,Kl≠K2である
場合その方向が互いに直交する.この主曲率の積K(=KIK2)はGaussの曲率と呼ば
れている.K>0となる点は楕円点と呼ばれ,この点における主曲率の中心は,曲
面上の表側あるいは裏側のどちらか一方のみに2つとも存在する.一方K<0とな
る点は双曲点と呼ばれ,この点での主曲率の中心は曲面上の表側および裏側に1つ
ずつ存在する.またK=0となる点は放物点と呼ばれ,この場合はどちらかの曲率
が0,つまり断面が直線となる方向が存在する.このように,任意の曲面上の点は
楕円点,双曲点および放物点のいずれかであり,すべての曲面は楕円的曲面,双曲
的曲面および放物的曲面により構成されている.また,球面は楕円的曲面のうち,
Kl=K2となる特殊な例である1).
ここでは,まず本成形法の曲面成形能力を確認するために,基本的な曲面として
図3−1に示す球面,楕円的曲面および双曲的曲面の成形を試みた.また,放物的曲
面は単純な曲げ変形により成形できるためここでは割愛した.これらの基本曲面は
基準軸上において全域にわたり変曲点がなく曲率分布が連続的であるため,単一工
具により加工が可能であると考えられる.本章では,これらの曲面を成形するのに
適した工具形状および成形プロセスについて検討を行う.
(a)SphericaIsurface (b)EllipsoidalsurFace (C)Hyperbol0idalsurface
図3−1基本曲面
−25−
3.2 球面の成形
3.2.1球面の成形プロセス
球面は2次曲面として代表的な曲面であり,鍛金加工の基本訓練の題材としても
最も代表的である・球面は曲面全体において曲率が一定である.例えば直径
R=60mm・板厚t=0・4mmの円板素材の中心に,ゴム板を裏打ちにしてRp=10mm
のポンチを押し込むと,図3−2に示すように素材の中心部には球状の圧痕が成形さ
れる・この変形を利用し,球面状の圧痕を素材全体に接続することで球面の成形が
実現できると予測される・したがって球面の成形に対して,工具として図3−3に示
す頭部曲率半径がRpの球頭剛体ポンチと上面が平坦な弾性体ダイスを用いる成形
プロセスを提案する.
素材全体にわたり押込みを繰り返すときに,この圧痕を接続する加工経路は無数
に存在するが,ここでは図3−4に示すA∼Dの4通りについて成形実験を行った.
成形実験はポンチ押込み量dp=3・0mm,押込み間隔ep=3.0mmおよびポンチ頭部
の曲率半径Rp=30mmの同一条件で行った・また,板素材は直径60mm,板厚
0・4mmのものを用いた・得られた結果を図3−5に示す.この図ではそれぞれの加
工経路により得られた形状を(a)等高線,仲)断面形状および(C)最良近似球面との差
により定義される形状誤差で比較している.
加工経路Aでは素材上をランダムにポンチ押込みを行っている.このときの加工
点は間隔gp=3・0mmの正方格子点とし,乱数列により生成された順序に従い各点
を1回ずっ押込んでいる・得られた形状は図3−5(1)に示すように球面的ではあるが
局所的な凹凸が激しい.
加工経路Bにより得られた成形品の形状を,図3−5(2)に示す.この加工経路は加
工点をⅩ軸方向に往復させながらY方向に移動させるものである.素材は大局的に
Y方向に成形が進行するため,このY方向を主方向,Ⅹ方向を副方向と称すること
にする・得られた成形品は,副方向であるⅩ軸方向の曲率半径pxが主方向である
Y軸方向の曲率半径pyより小さくなっており,楕円的な曲面が成形されている.
また,Y軸方向に対してはほぼ対称であるが,Ⅹ軸に対しては.加工の進行方向に
曲率が大きくなっている・また,この加工経路の主方向をⅩ軸方向にした場合は,
−26−
Px<pyとなる.
経路Cは外周から中心,経路Dは中心から外周への周回経路である.このとき押
込み間隔は半径方向および各加工軌道円の円周方向が,これらによる成形では図
3・5(3)および(4)に示すようにZ軸に対してほぼ軸対称な形状が得られている.ここ
で,経路CとDで得られた形状に対し,以下に示す球面の方程式で評価を行う.
(∫一方。)2+(グーγ。)2+(Z−Z。)2=月2 (3−1)
成形品の形状測定によって得られる成形曲面形状(Ⅹわ,y毎,Zわ)から2乗誤差関数
8王革恒か一方。)2十仇−γ。)2十(㌔−Z。)2−可2 (3−2)
を最小にするⅩ0,yO,Zo,RをDavidon−Fletcher−Powell法により求め213),得られ
たRを成形品の曲率半径rwとする.さらにこのR=rwの仮想球面と実際の製品形
状とのZ軸方向の誤差ewを形状誤差として次式で定義する.
gw(㌔,堆)=㌔−′(∫打功)
(3−3)
ここで
′(㌔,堆)三g。一
㌦2−(㌔一再2−仇−γ。)2
(3−4)
図3−5中の(C)にこの形状誤差の分布を示す.得られた曲率半径は経路CおよびDと
もポンチ頭部曲率半径Rpよりも大きい.
また,経路Cにより得られた形状は,中心付近の曲率が大きく外周部で小さいの
に対し,経路Dでは逆に中心付近で曲率が小さい形状となっている.
このように本成形法では同一の工具を用い加工点および加工量が同じであって
も,加工経路が異なれば得られる形状が異なる.二のメカニズムを把握し,様々な
加工経路における素材の変形が予測することが必要であるが,関連する考察につい
ては第4章において詳説する.
−27−
(b)3−Dimensionalplot
(a)Contourcurves
図3−2 ポンチの押込みによる素材の変形形状
Elasticdie
図3−3 球状曲面成形用工具
ー28−−
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ar
t
一
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二二二二二二二
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Jl
二二二二二二二二二二二
二コ
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二二二二二二二二
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1 ここここ二二二二二二二二二二r
ヽこ二二二二二二二二二二二二
ン
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ItL二二▼二二=
∴
∵
=
ニ
フ
「
End
(2)PathB
(1)PathA
d
・
,
Star
gp
g
(4)PathD
(3)PatbC
Formin
COndition
・:lndentationpoint
Rp=30mm
<[コ:Mainformingpath
dp=3・Omm
くさコ:SubformJngPath
gp=3・0mm
図3−4 工具押込み経路
−29−
′/
.
一
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\
準
妻
志
+
0 nburpitch:0.5mm
巾)CrosSSeCdon
(a)Contour
(l)PathA
、
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感
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\
、
二
一
.
/
COntOurPitch :0.5mm
巾)Crosssecdon
(a)contour
(2)PathB
rw =5
′
//
/
/
熟 と
、
\
\
\
仲)Ⅹ−SeCdon
/
\
\
、
∵
00ntOurPitch:0.5mm
(a)contour
¢)GeometricaccuraCy
(3)PathC
巾)Ⅹ−SeCtion
(a)contour
¢)Geometricaccuracy
(4)PathD
図3−5 各押込み経路により得られた成形品の形状
−30−
3.2.2 諸加工条件が製品形状に及ぼす影響
本節では,球面の成形の際に選択される成形パラメータ,つまり球頭ポンチ頭部
曲率半径Rp,ポンチ押込み量もおよび押込み間隔gpが成形品の形状に及ぼす影
響を示す.ここで用いた加工経路は図3−4の経路Cである.
まず,図3−6に球頭ポンチの頭部曲率半径がRp=20,50および80mmの場合の
ポンチ押込み畳むと成形品の曲率半径rwの関係を示す.工具押込み間隔石目ま
3.0mmで一定とした.ここで表現しているポンチ押込み量は,成形前の素材表面
の高さを原点とした工具先端の降下量であり,これにはポンチ押込み中に弾性ダイ
スの変形による素材全体の下降量も含まれている.工具の曲率半径によっては成形
品の局所的な凹凸が激しく,球面としての取扱いが不適当な場合もあるが,この場
合は曲率の平均値を表示している・Rp=50mmの場合ではdp=0.5∼3.0mmの範囲
でrw=75∼180mmであり,単一の工具でも広範囲の曲率半径の製品を成形できる
ことが確認できる・また,dpの増加にともないrwの変化量は漸減し,dp>2.0mm
ではrwの変化率虫がかなり小さくなっているので,dpが大きいほど曲率半径
ddp
の制御が容易であることが認められる.
また,工具押込み量が比較的小さい場合には,工具による加圧痕が接続されず成
形品表面に凹凸がみられる.図3−7はポンチ押込み量が成形品のうねり形状に及ぼ
す影響を示している.このうねり形状は,触針式の3次元形状測定器で測定した成
形品の子午線方向の表面形状に対し,大域的な曲線成分を最小2乗法で5次関数近
似し,その近似曲線と表面曲線とのずれから求めたものである.dp=3.0mmでは1
回の工具の押込み時のポンチと素材の接触半径は約6.0mm(>gp)であり,このとき
のうねり形状の最大振幅は約0.01mmであるが,dp=0.5mmではこの接触半径は
約2.2mm(<ep)となり,うねり形状の最大振幅は0.02mm以上となっている.した
がって,ポンチと素材の接触領域が押込み間隔より小さくなるようなポンチ押込み
量の選択は,圧痕が滑らかに接続されず,素材表面のうねりが大きくなるので適当
ではない.
−31−
.
0
5
﹁
.
.
.
EEJ IU⊃POLd罵〓巴⊃ld≧⊃UIOS⊃竜虎∝
250
.
.
.
⋮
=
≡
0
.
1.0 2.0
3.0
Depthofindentation dpmm
図3−6 ポンチ押込み量dpと成形品の平均曲率rwの関係
2
0−
.0
O
SのOuち吋︶︶
2
0
0. 0
∈∈ SSOuち可≧r
dp =3・
0m m
ノヽ
\
ノ∼ \ 〉 ♪へ
\ノ  ̄
■
く
7−
『p ⇒
3mm
図3−7 ポンチ押込み量dpが成形品のうねり形状におよぼす影響
ー32−
図3−8はポンチ押込み間隔gpと成形品の平均曲率半径rwとの関係を示したもの
である.この図より押込み間隔によってもある程度rwを変化させることができる.
しかし,図3−7に示したようにポンチ押込み量dpとgpの関係は,成形品表面のう
ねりに影響を及ぼすため,過大なgpの選択は避けるべきである.また,過小なgp
の選択は工具押込み回数の増加をもたらし,成形時間の増加につながる.したがっ
て,成形品の表面性状および加工時間の制約によりgpの目安が決まるため,fpが
成形品の曲率半径を制御するパラメータになる可能性は少ない.本研究ではこの最
適なgpを3.0mmとしたが,クランクプレス機構を用いた高速なプレス装置を用い
ればさらに小さなgpを選択することが可能である.
図3−9の日印は,加工経路Bによる1通りの加工を1サイクルとし,その繰り
返し数Npがrwおよび最大形状誤差におよぼす影響を示したものである.Npの増
加とともにrwは減少し,かつ最大形状誤差も減少している.つまり同一加工経路
の繰り返しにより成形が進行するとともに曲率の均一化が結果的にもたらされて
いる.
また,仮想球面との形状誤差をさらに減少させるために,図3−5(2)−(C)の形状誤
差をフィードバックし,この形状誤差が負となっている,つまり加工が過剰であっ
た中央部と外周部を非加工域とし,図3−10に示すような加工範囲をr=6∼24mm
に限定した加工経路で成形を試みた.その結果を図3−9に黒印で示す.Np=1でも
誤差が小さいが,Npの増加に対する誤差の減少率も大きい.ここで,Np=3で加工
を行ったときの成形品の外観を図3−11に示す.このように加工量をアナログ的に
制御せずに,ディジタル的に加工および非加工域を設定するだけでも十分な効果が
ある.
−33−
罵 声 軍 票
0
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E∈0.6
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E弊笠N轟上、へ十本目貫?∽区
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uu XBu(仙∂)
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引nl曾山∩〇lOS叩PeU
軌範本態現罵り歪駐n
0
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仙山彗■ PnPOJdlO∂」叩山∩〇lO叩PeU
∈∈d叫SuO罵言Pu二〇一吋201u一
E能登刃a叫墜匪碕想監hヽ策甲の図
図3−10 加工領域を限定した加工経路C
図3−11球面成形品外観
−35−
3.3 楕円的曲面の成形
3.3.1楕円的曲面の成形プロセス
楕円的曲面とは,2つの独立な主曲率を持ち,それぞれの曲率中心はともに素材
の表あるいは裏面のどちらかのみに存在する曲面である.この楕円的曲面を表す代
表的な幾何学方程式として次の2次式が挙げられる.
才十 十号=1(抽:定数)
(3−5)
ここでは上式で表される楕円面を成形目標とする.
前章の球面成形時において図3−4の経路Bにより楕円的な曲面が得られたが,
この方式では目的形状に対して選択しなければならないパラメータが数多くある
ため,以下に示す確実な成形プロセスを提案する.
楕 円的 曲面成形 プ ロセ ス
工程 1 :図 3−12 (
a)の工具 と図 3 −
10 の加 工経 路 を用 いて素材 を曲率半径 が
均一 な球面 に成 形す る.
工程 2 :図 3 −12(
b)
の工具 を用 い て予成形 球面 の Ⅹ軸方 向の 曲率 を増大 させ る
とともに, y 軸方 向の曲率 を減少 させ て楕 円的 曲面 を完成 させ る.
また,目標の楕円面上の点では主曲率の方向はⅩ軸およびy軸方向となる.した
がって,工程2ではこれらの軸に垂直,平行になるように直線的に加工点を移動さ
せる加工経路が適当である.ここでは図3−4の経路Bと同様に往復的な加工経路を
採用したが,この経路の場合図3−5(2)より経路の主方向(y方向)は加工の進行方
向に曲率が大きくなる傾向がみられた.したがって,成形品のⅩ軸に対する対称性
を考慮し,図3−13に示す加工経路を用いた.
工程1は球面の成形工程であるため,ここで使用する工具は図3−12(a)に示すよ
うに,球頭剛体ポンチと上面が平坦な弾性ダイスである.工程2では図3−12(b)の
球頭ポンチと上面が半円柱状の弾性ダイスを使用する.このポンチを素材に1回押
込んだときの素材の変形形状とX,y軸上に生成される曲率分布を図3−14に示す.
中心付近では,各方向の曲率はほぼ同じであるが,ダイスの稜線に平行な方向(Ⅹ
方向)は直交方向(y方向)より大きな範囲で下向きの曲率が生成され,素材全体
ー37−
−8g−
(討工Z貨)とネロ∠錐騨些聯切出財 田一g図
OuH86即0!P lOuO!l〇副旧
菅工苛、伸二悌騨α些押切出射 れ一g図
gSS∂〇OJd(咄
●㌢\佃封コα萱阜専騨苛々些押切出勤‘マ与孝雄逐よ伸
α凹掌嘩Ⅹ‘1配個婆些事α鬱鎚辞去孝菅Ⅰ蜜羊は二二・上し蛸等1・写し甲立
彫+虫網特認糾沌峰阻付け訓昭約月左←ヰ創耶臓腑軋印材・摘立
脚繹S欄鮎伸α凶年噸Ⅹ引立Ⅰ畔㌢了二悼α菅工蜜・ヰ些孝穎雄α管班騨α卓
マ写し封孝雄騨ユ八月封孝セα菅ェ乎二川l一g図・㌢\へエコ苛孝雄逐封聯二個年Ⅹ沌
▼
∈ 0 ・
05
,」
【−
−⊥ −
シ ヽ
l
−
30
−
20
−
10
0
−
0 .
05 ′ヽ−.
一 .一
1 0 T 2 0 不m m
3 l0
1■
l ̄
∈0・
05
ソ
ymm
1 1■
■
■
r1
N ノ 1’
0 20 3b
−
30 −
20 −
1°
0 0
−
0.
05 十
Directionofdieridgeline
(a)ContourcurveS
(Contourpitch:0.2mm)
0)CurvaturedistributioT
OnXandy−aXIS
図3−14 図3−12(b)の工具による1回の押込みで得られた圧痕形状
Fomin
COndition
Rp=30mm
dp=3.0mm
gp=3・0mm
∈l
+
10
∈
N
l0 −
−
3
2l
0 ■
−
1b
0
Xm m
】
1
1b 20 3b
∈EOL
∈
∈ 10
N
l0 −
−
3
2■
0 −
1b
0
y m m l
1b 20 3b
巾)Crosssection
(a)ContourcurveS
(Contourpitch:0.4mm)
図3−15 工程2のみで加工を行ったときの成形品の形状
−39−
成形品の形状に対する評価式は
(∫一方。)2.(γ
α2
−タ。)2.(Z−Z。)2
=1
(3−6)
∂2 ■ C2
とし,球面の場合と同様にDavidon−Fletcher−Powell法により2乗誤差関数
ニ
三一り
eO
(㌔−Z。)2
一方0)2(γむ−γ0)2
α2 ■ ∂2
守 (3−7)
(㌔,捗Zか・(ブ=1,2,…,〃),(ノ…1,2,…,〃)は形状測定による座標データ)
を最小にする係数a,b,Cおよび中心座標Ⅹ0,yO,Zoを求める・これにより得られた楕
円面方程式より,曲面上の点(以後評価点と称する)でのガウス曲率Kおよび平均
曲率Hが
片=KIK2=
弓(Kl十K2)=
(3−8)
(㌔一方。)2
(グリーグ0)2(㌔一g0)2
α4
が C4
(α2十方2
十C2)−((㌔ −∫0)2十(堆−γ0)2
十(ヱ好一Z。)2)
(㌔一方。)2
(弟−γ0)2(㌔一g0)2
α4
ゐ4 ■ C4
(3−9)
により求まる・ここでKlおよびK2は評価点における主曲率であり,その方向つまり
主方向はⅩ軸およびy軸方向である・(6)および(7)式より評価点における主曲率KI
K2は以下の式により求まる.
1 g
Kl=Kェ=−=
PJ
〝十J扉二五
,K2…Kγ三吉=〟十高車二嘉(3−10)
本プロセスにより得られた楕円的曲面の成形例を図3−16に示す・同図中のa,b,C
の値は(5)式により求められた係数であり・Pxおよびpyは(8)式により得られた成形
品中心部での主曲率半径である・ここで,次式で表される近似した仮想曲面のⅩお
よびy軸上断面と成形品の断面形状とのZ方向の誤差ew(Xゎ,y扇を,形状誤差と定
義した.
ew(㌔工満)三㌔−′(㌔,γ訂
(3−11)
ここで,
+++ + 丁 + + ++ + ++
′(㌔,弟)==Z。十C
(γリーグ)
圧雪ぎー一層−
α
ー40−
(3−12)
である.この成形例のⅩ,y軸上の形状誤差を図3−16(のに示す.このときの最大
形状誤差は約0.2mmであり,本プロセスにより十分な精度の2次楕円面の成形が
可能であることが確認できる.
1bolS:Fig.3−12(b)
琵琶云慧態0mm
(a)Formingprocess
…≡器三日:≡芸;::
丸
J
l喝
t
3 0 −2 0 〝
C
l
−3 0 ntourpi
t
ch:
1.
0
仲)Conbu∫CurVeS
∈
∈ 1.
0 き
0
do づ ㌃ 「 b
0 1l0
N
l
−2 0
1 0
−1 0
∈
∈
羞
」
r lO m m ∈
∈
N
・1 0
1 0 X m m
l l
2 0 3 0
1 () l
2 0 1 0
0 ∈
∈
1.
0
き
q〉
3l0
3 0
(C)Crosssection
X mm
2l0
m
l
−
3 0 −
2 0 −
10
y m ワ1
0
1 0 −
1.
0
−
1.
0
(d)Geometricerrorofproduct
¢)Pro丘leofproduct
図3−16 2工程の楕円面成形による成形品形状
−41−
l
30
3.3.2 諸加工条件が成形形状に及ぼす影響
ここでは,楕円的曲面の成形に関与する様々な加工パラメータのうち,ポンチ押
込み量および球頭ポンチの頭部曲率半径が製品のpxおよびpyにおよぼす影響を示
し,任意のpxおよびpyを得る方法について検討を行う.
図3−17はRp=30,40,50mmのときの,工程2のポンチ押込み量dpが製品中心部
のpxおよびpyにおよぼす影響を示したものである・Px,Pyは予成形曲率半径Roに
対してそれぞれほぼ対称に増加および減少している.したがって,楕円面の成形に
おいて任意の主曲率半径px,Pyを目標形状とした場合,以下に示すプロセスで加工
を行えばこの形状を得ることができる.
主 曲率 半径 px, Py を もつ楕 円面の成 形プ ロセ ス
工程 1
PO=(
p x+p y)
/
2 の 曲率 半径 を もつ 球 面 に 予 成 形 をす る.
(
成 形 工 具 :図 3 −
12 (
a),加 工 経 路 :図 3 −
4 の経 路 C )
工程 2
l
P O か ら A p 軸 Ⅹ−Pyl/
2 の 曲 率 半 径 の変 化 を もた らす 押 込 み 量 で
成形す る・ (
成 形 工具 ‥図 3 −12 (
b)
, 加 工経 路 :図 3 −13 )
図3−17 工具押込み量による主曲率半径の変化
ー43−
3.4 双曲的曲面の成形
3.4.1双曲的曲面の成形プロセス
双曲的曲面は,図3−1(C)に示すように曲率の2つの主方向における曲率中心が素
材の表および裏に分離して存在する曲面であり,一般にくら形と呼ばれる.金型に
よるくら形形状の成形においては,しわ発生の加工不良がしばしばみられ,このし
わ発生の原因と対策について報告されている4)・このしわ発生の主な原因として
は金型による材料流動の拘束がある・中央部への材料流動は,素材の外周部から加
工が進行することにより外周部から拘束され・一部の材料が中心に向けて流動し,
中心部において材料あまりを生じることによりしわが発生する.インクリメンタル
フォーミングでは・先述の通り素材全体に対する拘束がないため,この材料流動に
よるしわ発生の解消が期待できる.
双曲面の成形では板素材に2方向の曲率を生成させるプロセスが問題となるが,
本成形方式では素材がある方向に優先的に曲げ変形が生じた場合,その垂直方向の
曲げに対する降伏曲げモーメントが大きくなり・その方向への曲率の生成が困難に
なるので・双曲面の2つの主曲率をそれぞれ別工程で生成することは極めて困難で
ある・したがって,同時にこれらの曲率を生成する工具が必要である.そこで図
3−18に示すように稜線方向が直交するように配置した1組の半円柱状の弾性ダイ
スを工具として用いる.
この工具を1回押込むことにより得られた板素材の曲率分布を図3−19に示す.
Xおよびy軸上の曲率分布はほぼⅩ軸に対して対称になっており,ポンチおよびダ
イスの変形形状が等しいことが認められる・また,球面の成形時と同様に中央部の
曲率と反対方向の曲率がその外側の領域で生じている・中央部の曲率の大きさはポ
ンチ押込み量の増加にともない増大しているが,最終的にほぼ一定の値に漸近して
いる・したがって工具中央部の変形は,ある時点で終了している.また,中央部の
曲率に対し反対方向の曲率が生成される領域はdpの増加とともに外側へ移動して
いる・したがって,中央部の工具の変形が終了した後,工具は外側方向へ変形の主
方向を移動している・つまり,本工具により成形できる曲率の限界は,工具中央部
の変形が終了する時点の曲率までである・図3−20に素材および加工条件は同一で
−44−
工具にウレタンゴムを用いたときの曲率分布を示す.高硬度の工具では中央部の曲
率および反対方向の曲率の最大値が大きく急峻な曲率分布となる.したがって,よ
り大きな曲率を素材に与える場合は工具の硬度を高めればよい.
図3−18 双曲的曲面の成形に用いた工具
−45−
(a)Curvaturedistributiononx−aXis
仲)Curvaturedistributionony−aXis
図3−19 工具1回押込みによる素材上の曲率分布
(工具:クロロブレンゴム)
ー46−
(a)Curvaturedistributiononx−aXis
仲)Curvaturedistributionony−aXis
図3−20 工具1回押込みによる素材上の曲率分布
(工具:ウレタンゴム)
−47−
Directionofdieridgeline
図3−21双曲面の加工経路
次に,この工具押込みの繰り返しによる双曲的曲面の成形の可否を確認するため,
図3−21に示す加工経路で素材全体に工具押込みを行った.まずこの経路で1回加
工を行ったときの成形品の形状を図3−22に示す・得られた形状は中央付近のⅩ軸
方向が平坦になっており・双曲的曲面として不十分な形状であった.そこで,この
領域の曲率を増加させるために図3−21の加工経路による加工を3回繰り返した.
得られた成形品の形状を図3−23に示す・中央部のⅩ軸方向もほぼ一定の曲率が得
られ・滑らかな双曲面形状が得られている・ここでは得られた形状を評価するため
に,次に示す2次の一葉双曲面方程式を用いた.
(∫一方。)2
(グーγ。)2.(2−g。)2
=1
α2
(3−11)
∂2 ■ C2
︷
球面および楕円面の場合と同様に,2乗誤差関数
2り
ニ
︵
、
0
一方。)2(来 ーγ0)2(㌔−Zo)2
α2
(3−12)
∂2 ■ C2
(ガリ,堆,Z打(ブ=1,2,…,〃),(ノ言1,2,…,〃)は形状測定による座標データ)
−48−
を最小にする係数a,b,Cおよび中心座標Ⅹ0,yO,Zoを求める.これにより得られた近
似曲面の方程式より,曲面上の点(以後評価点と称す)でのガウス曲率Kおよび平
均曲率Hが
(3−13)
g=KIK2ニー
(㌔一方。)2(弟−タ。)2(ZリーZ。)2
α4 ゐ4 C4
弓kl十K2)=
((㌔一方。)2十(弟・−γ。)2十(ZリーZ。)2ト(−α2十方2十C2)
(3−14)
(㌔一方0)2(弟−γ0)2(Zか−Zo)2
α4 が C4
により求まる.ここでKlおよびK2は評価点における主曲率であり,主方向はⅩ軸お
よびy軸方向である.(3−11)および(3−12)式より評価点における主曲率Kl,K2および
主曲率半径px,P,は以下の式により求まる・
1 g
Kl=K∫=−=
P∫
〝+J扉二盲
,K2=Kγ=⊥=〃十J扉二五
(3−15)
Pγ
dp =5 ・
0 m m ・g p = 3 ・
0 m m ・N p = 1
.\ 、L _ −3 0 −2 0 −1 0
∈
∈
N
10
0
−8 0 −2 0 −1 0
0
l
l E N∈
一
_一 一 / .
1■
0 2 bX m 3 mb y m m
1.
0 2 P 3 P
−1 0
10mm Contourpitch:0.4mm
仲)Crosssection
(a)Contourcurves
図3−221回通りの加工経路により成形された成形品の形状
一49−
a=95.7
dp=5・0mm
=3.0mm
b=82.6
C=114.4
Px=59.9mm
Py=−80・2mm
∈
10
∈
N
l
l
l
l
l
−
30 −
20 −
10
0
−
3 0 −
2 0 −
10
0 l
l
l
l
l ∈
N
Xm m
l
l
l 20
l 10
3l
10
l −
10
10mm contourpitch:0.4mm
(a)ContourcurveS
O))Crosssection
¢)Profi1eofproduct
図3−23 双曲的曲面成形例
一51−
2l0 3 l
0 ■
m
3・4・2 諸加工条件が成形形状に及ぼす影響
図3−24に工具の押込み量に対する成形品中心での主曲率半径pxおよびpyの変化
を示す・工具押込み量の増加により,Px・Pyの変化を示す・工具押込み量の増加に
より,Px,P,はそれぞれ減少しているが,dp=7.0mm付近で一定値に漸近し,これ
が,この工具て成形できる形状の限界となる.
ここで得られた成形品は,上下工具の頭部曲率半径RpおよびRdが等しいにも
かかわらず,Px<p,となっているが,この原因については次節で述べる,図3_23
中の黒印はダイス側のみ頭部曲率半径をRd=10mmに変更し,同じ加工経路で加工
を行った場合の結果を示したものであるが,Rd=15・5mmの場合とは反対にpx>py
となる・したがって・工具押込み量および上下工具の曲率を適切に調節すればpx,
P,を任意に制御することができる.
22ゝdよl当PO吾02⊃ldと⊃UIOS⊃石屋
0
2.0 4.0 6.0
Depthofindentations dpmm
図3−24 工具押込み量に対する主曲率半径の変化
−53−
3.5 まとめ
本章では逐次プレス板材成形法により,任意の曲面を構成する基本の曲面である
球面,楕円的曲面および双曲的曲面の成形を試みた.得られた結果は以下の通りで
ある.
(1)球頭剛体ポンチと上面が平坦な弾性ダイスにより,球面の成形が可能である.
このとき成形される形状は加工経路により大きく異なり,反復的な加工経路で得ら
れる形状は楕円的となり,円弧状に周回する成形経路により球面が成形される.ま
た,単一の工具でもポンチ押込み量および押込み間隔により広範囲な曲率半径の球
面が得られる・また,同一加工経路の繰り返しおよび加工域の選択より形状精度を
向上させることができる.
(2)楕円的曲面は,球面の予成形である第1工程と,球頭剛体ポンチおよび半円
柱状の弾性ダイスを用いた第2成形工程の2工程により成形できる.この曲面の主
曲率半径は予成形球面の曲率半径と第2工程のポンチ押込み量の選択により制御
することができる.
(3)双曲的曲面は,稜線方向が直交関係に配置された半円柱状の弾性工具対によ
り成形できる・この曲面の主曲率は工具の曲率半径と工具押込み量により制御する
ことができる.
<第3章の参考文献>
1)小机”曲線と曲面の微分幾何”,裳華房,(1977).
2)Fletcher,D・・Powell,M・J・D・,”ARapidlyConvergentDescentMethodfor
Minimization”,ComputerJournal,6(1963),163.
3)Reddy,P・J・・Zimmermann,H・J・・Hussain,A・,“NumericalExperimentson
DFP−Method,APowerfulFunctionMinimizationTechnique”,Journalof
Computational&AppliedMathematics,1(1975),255.
4)須藤,”くら型成形におけるしわの検討”,塑性と加工,14・146(1973),184.
ー54−
第4章 基本曲面の成形メカニズム
4.1 はじめに
前章では,本逐次プレス板材成形法により基本的な単一曲面の成形が可能である
ことを示した.しかし,球面の成形では得られた成形品の曲率半径は球頭ポンチの
頭部曲率半径より大きく,また成形経路により得られる形状が異なる.また,双曲
面の成形では上下工具の曲率半径が等しいにも関わらず,得られた形状の主曲率半
径はⅩ軸方向とy軸方向では異なっている.本成形法を任意の自由曲面の成形に応
用するためには,これらの疑問点を解明しておくのと同時に,基本曲面の成形メカ
ニズムを詳細に把握しておく必要がある.この解析結果をもとにして様々な曲面形
状に対する最適な加工プロセスを決定することが可能になる.また,逐次的な方式
による板材成形の成形メカニズムに関する報告は非常に少なく,成形中の素材の変
形過程を解析することは資料としての十分な価値をもつ.
本章では,インクリメンタル板材成形法による球面および双曲的曲面の成形メカ
ニズムおよび素材の変形過程について,実験的な解析を中心に成形中の素材に生じ
る現象について検討を行う.
4.2 球面の成形メカニズム
円板素材に頭部曲率半径R。の球頭ポンチを1回押込むと素材は容易に変形し,
スプリングバックの影響を無視すればポンチに接触し加圧された領域には曲率半
径R。の球面が転写される.この操作を素材全体に繰り返したときに,図4−1に示
すようにそれぞれの圧痕が各境界で接平面を共有するように接続すると仮定すれ
ば,この素材は曲率半径Rpの球面へと成形される.
しかし,図3−5の実験結果からも明らかなように,最終的な成形品の曲率半径は
R。よりもかなり大きく,その分布は加工経路により異なる.ここでは,まずポン
チ1回単位の押込みによる素材の局所的な変形を解析し,さらに最終的な球面の完
成に至るまでの素材の変形過程およびひずみ分布の変化を解析し,球面成形におけ
る素材の変形機構および加工経路が成形品の形状に及ぼす影響について検討を行
う.
ー55−
図4−1仮想的な球面の成形過程
4・2・1球頭ポンチの押込みによる素材の変形
まず,基本単位の加工における素材の変形状態を把握するため,ポンチの1回押
込み,およびその近傍への2回目の押込みによる素材の変形およびひずみ分布の変
化を実験的に解析した.
板材成形品のひずみ測定は,成形前の素板にスクライブドサークルや格子線を描
き変形後の節点間の伸び量を顕微鏡などで読みとり,ひずみを算出する方法が一般
的であるが1),本成形法による成形品のひずみは1%程度であるので,例えば
10mm間隔の格子を描いた場合,有効桁を3桁とすれば叫mの分解能が測定器に
要求される・しかし,現状ではこの精度で測定することは不可能であるので,本研
究ではこのひずみの測定にひずみゲージを用いた.
これまで用いてきた実験装置Aでは,ひずみゲージを用いたひずみ分布の測定に
は素材の大きさが過小であり,局所的なひずみ測定値の精度が不十分であるため,
ここでは素材および工具の形状を幾何学的に5倍に拡大した実験装置Bを製作し
た・装置の外観を図4−2に示す・本装置は万能試験機(島津製作所,最大荷重1M
N)の加圧面板にポンチおよびダイスを取り付け,板素材を保持器により保持し,
加工点の移動は座標シートを用いて手作業により行った.この実験装置BとAによ
る成形品形状の比較を表4−1に示す・実験装置Bにおける工具形状および成形条件
ー56−
はすべて実験装置Aの5倍で成形を行った結果,成形品の曲率も約5倍となった.
したがって,実験装置Bによる素材の変形は装置Aによるものに相似であり,生じ
ているひずみは同じであるとみなすことができる.
図4−2 実験装置B外観
表 4−
1 実験装 置 A お よび B にお ける成形条件 お よび製 品曲率半径 の比較
E xp eri m en t A
E xp eri m en t B
:dp m m
1.
5
7.
5
In terv al of in d en tati on :ep m m
3.
0
15 .
0
50
2 50
94 .
5
48 0
D ep th of in den tati on
R a diu s of cu Ⅳatu re Of p u n ch h ea d :R ,m m
R adiu s of cu rv atu re Of p rodu ct :rw m m
−57−
この実験装置Bによるひずみ測定は,ひずみゲージを素材のポンチ側およびダイ
ス側の両表面に貼り付けて行った・このひずみゲージの諸元と素材上の貼り付け位
置を図4−3に示す・ここで,工具の加工面圧に対するひずみゲージの感度を確認す
るため,予備実験としてひずみゲージのみを平板ではさみ,加圧を行った.その結
果は実際の成形で予想される面圧15MPaに対し,ひずみの出力値は3.0×10−5であ
り,予想されるひずみのオーダに対し1′100以下であったので,実際のひずみ測定
ではひずみゲージの面圧に対する感度は無視できる.
図4−4に,頭部曲率半径Rp=250mmの球頭ポンチを直径300mmの円板の中心
でdp=5・0mmおよび10・0mm押し込んだ場合の加圧領域近傍のひずみ分布,断面
形状および曲率分布を示す・同図(a)および仲)中の破線はポンチ側およびダイス側
のひずみの平均値,つまり板厚中心でのひずみ分布を示している.図中の記号
Ex(X,y)は素材上の位置(X,y)におけるⅩ方向のひずみを表す.ここで素材中心への
ポンチ押込みでは素材の変形は軸対称であるので,eX(Ⅹ,0)=erkX,ey(0,y)=緑rヲ
となる・同図中の灰色部分は,素材とポンチの接触域(以後ポンチ接触域と称す)
を示している・この領域ではほぼポンチの形状が素材へ完全に転写され,下に凸の
変形がもたらされ曲率がほぼ一定となっている・また・板厚中心ではEr>0,60>
0であり,張出し変形を生じている.
図4−3 ひずみゲージ貼付けおよびポンチ押込み位置
−58−
■.吋†ト.
Contactreg10n
:P u n c h s id e
● ●D ie s id e
、一 一 一 「 一 一
.
_
_
_
′し .
l ▼
′
5 0 1 0 0 ヽ
X 叩m
㌔Lュ吉︶♂
5 0 5
㌔三〇■X︶㌦
0
口 :P unc h s ide
L :D ie s ide
木葉
y 甲m
1血
【’
 ̄一 ̄
 ̄ ̄ ̄
150
(a)Strainandcontactregionbetweenpunchanddie(dp=5.0mm)
㌔Lュ言︶♂
㌔
L
X
︵
O
I
x
︶
♂
_.』●
」.●_  ̄一千芯
▲
_
」
夫;
■
∴◆
■
●
 ̄
」 .y
●
、  ̄  ̄  ̄
m 」m 10 0
5
5 0
¢)Strainandcontactregionbetweenpunchanddie(dp=10.0mm)
ContactregJOn
\_
「
1▼
−
∈__
∴
0 ▲
∝ )
5
・∈−
輩 ̄
■∈:
_
∴∈二 ̄
=
更
:
2
N :
:
−
50
‥
P‥
−
5 0
50 x m m
0 −
5 0 x m m
・0 10 0 5
l
(C)Crosssectiononx・aXis
(d)Curvaturedistributiononx−aXis
図4−41回目のポンチ押込みにより得られる素材のひずみ分布および形状
−59−
これに対してこの接触域の外周では逆に上に凸となっている・この領域ではEr>
0・£0<0であり,絞り変形の傾向がある・また,ポンチ押込み量が大きくなるの
に従い,張出しおよび絞りの境界は外側に移動するが,このときひずみの変化量は
中央部で小さく,ポンチ接触域の境界付近で大きい・つまり接触域中央部でのポン
チと素材間および素材とダイス間の摩擦による拘束のため,素材は主にポンチ接触
域の境界近傍で伸びおよび縮み変形が生じている.
図4−5に1回目のポンチ押込み(dp=10mm)後,Ⅹ=0mm,y=20mmの位置に2回
目のポンチ押込みを行ったときのひずみ分布および変形形状を示す.2回目のポン
チ押込みによるポンチ接触域の大きさは,加工点の進行方向では1回目とほぼ同じ
であるが・その反対方向では小さくなっている・また,1回目のポンチ押込みによ
り生じた圧痕の曲率は・2回目のポンチ押込みによってその大きさが減小している.
この加工過程において,dp=5・Ommの段階では素材上のⅩ=0mmの地点はポンチ
と非接触であるが,ポンチ側およびダイス側のひずみはほぼ同じ大きさへと変化し
ており,形状が一旦平坦化していることがひずみ変化からも確認できる.しかし,
このひずみ変化は素材の表面上で認められるだけで,板厚中心のひずみではほとん
ど変化がない・したがって・このときⅩ=0mmの地点で生じている変形は曲げ変形
のみであり,伸びあるいは縮み変形は生じていない・つまり,この逐次的な成形過
程において,変形の履歴により逐次増減しているのは曲げひずみであり,板厚中心
での引張りおよび圧縮ひずみは常に単調増加あるいは単調減少していると考えら
れる・その後dp=10mmでは,X=0mmの地点はポンチとの接触領域に入り,再び
下に凸の曲率が増加している.
このように連続するポンチ押込みでは・一度生成された圧痕は近傍のポンチ押込
みにより,周辺でその形状をとどめず曲率が減少する・この原因は次のように考え
ることができる・まず,このときの変形の模式図を図4−6に示す.ポンチ押込み時
に変形する素材の領域には,ポンチおよびダイスの両方に接触する領域Aと,ダイ
スのみに接触する領域Bが存在する・領域Aではポンチ形状が転写され下に凸の曲
率が生成されるが,領域Bではダイスの変形による流動によりダイスからの押し上
げ力を受ける・これによりこの領域では曲げ変形を生じ,上に凸の曲率が生成され
るか,あるいは既成の下に凸の曲率が減小する・この押し上げ面圧は弾性ダイスの
−60−
F r l L ’ 、 . ヽ ■ ’ − ■ 7 . . . .
変形量により異なるため,曲率の減小量はポンチ押込み量に依存する.
ContactregJOn
●D ie s id e
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− 、、ヽ −■ y 叩m
100
15 0
50
(a)Strainandcontactregionbetweenpunchanddie(dp=5.0mm)
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≡≡\一章二
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(C)Crosssectiononx−aXis
(d)Curvaturedistributiononx−aXis
図4−5 2回目のポンチ押込みにより得られる素材のひずみ分布および形状
−61−
DeformedregJOnA
図4−6 球頭ポンチ押込み時の変形模式
次に,図4−7は実験装置Aを用いて,素材の中央付近のⅩ軸上で,直線的に加工
点を移動させたときの素材の変形を,等高線で示したものであるが,加工部近傍で
における球状の圧痕生成と同時に・素材全体が徐々にⅩ軸方向に曲げ変形を生じて
いる・このように直線的な加工経路では,加工の進行方向に曲げ変形が蓄積するた
め,図3・4の成形経路Bによる成形品の形状(図3・5(2))は,Ⅹ軸方向に曲率の大
きい非軸対称な形状になる・しかし・図4−8に示すような成形経路が円弧の場合で
は,特定方向への曲げ変形の蓄積は見られない・従って,円弧上を周回する加工経
路(図3・4 経路C,D)では,ほぼ軸対称な形状が成形される.
−62−
>m
m
O
2
∈EON
Contourpitch:0.2mm
X:lndentationpoint
P P
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0
3
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3.0mm
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図4−7 直線的な工具押込み点の移動による素材の形状変化
EEON
m
m
O
2
Contourpitch:0.4mm
X:lndentationpoint
Rp=30mm
dp=3・Omm
gp=3・0mm
図4−8 円弧上を工具押込み点が移動したときの素材の形状変化
−63一
4・2・2 球面成形中の素材の形状変化
次に,前節の局所的な素材変形に対する検討結果に基づき,球状曲面の成形にお
ける成形経路の影響の詳細を考察する・まず・図4−9(a)に示す外周から中心へ向か
う周回プロセスにおいて・成形中の素材の形状,曲率分布および板厚中心における
ひずみ分布の変化を同図m)∼(のに示す・ここで球面としての形状精度を確保する
ために加工領域をr=6∼24mmに限定している・それぞれの半径位置での加工周回
をStageと称し,仲)および栂はStagel,4および7が終了した段階の断面形状お
よび曲率分布(中心からX,y軸上の4方向における平均値)である・ここで,仲)
および(C)は実験装置Aによるものであるが(のは装置Bによるものである.図4−10
は同じ加工条件での成形中の素材変形の過程を,等高線・Ⅹ−Z断面形状および中心
を基準とした各Stage間の変形増分である・このときの変形形状の外観を図4−11
に示す・また,図4−12は各段階終了後の素材上の各位置(瑚15,24mm)での勾配
血/血の変化を示したものである.
Stagel∼3ではポンチ押込みによる変形が外周端に及んでおり,素材中央部は
ほとんど非変形である(図4−10¢))・このとき外周部が起き上がるような変形を
示し,勾配が増加している(図4−12)・また外周部でd洞・deoく0であるので,
この領域では絞り変形を生じている(図4−9(の)・Stage4以後は,主に中央部が
変形し,外周部はほとんど変形していない(図4−10(C))・この段階では中央部で
der>0,dE0>0であり,張出し変形が進行しているが・外周部ではひずみ量および
勾配ともほとんど変化がない(図4−9(の,4−12).
以上の結果より,球面成形における素材の変形様式は,模式的に図4−13のよう
に表される・同図においてポンチを角鮎だけ傾けて示しているが,実際の成形で
はポンチの姿勢が固定されて素材が傾斜する・球面成形の変形様式は中央部が非変
形で外周部が起き上がる変形様式Aと,外周部が非変形で中央部の沈み込む変形様
式Bの2種類に大別することができる・変形様式Aでは外周部に絞り変形を,様式
Bでは中央部に張り出し変形をもたらす.
また,各位置でのひずみは・半径方向,円周方向とも前節において述べたように
ほぼ単調に増加あるいは減少しており,成形中の板厚中心でのひずみ履歴は単調で
あることが認められる.
−64−
また,各段階で生成された下に凸の曲率(図中では負方向)はその後の加工によ
りその絶対値を減少させており(以後はこの状況を曲率が減小すると表現する),
前節で述べた接触領域AからBへ遷移することによる曲率の減小化は,周回単位で
も認められる(図4−9(C)).しかし,Stage7で加工された領域は続く加工がない
ために曲率の減小化を受けず最終製品のこの領域での曲率は大きくなっている.
−65−
y 7654 32 1
l
E nd
S ta 托
FormJngCOndition
ーX
■一・
▲
l
︶ ︶ ︶
Experiment A (B)
R, 50mm(250mm
d, 3.0mm(15.Omm
ep 3・0mm(15.0mm
lp
lp
I
(a)Formingpath
42024
10
20
ヽ\ ′′ 3 0 r m m
、′
■
42 02
㌢
∈
∈
N
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TE∈N・〇.℃︵ゞ
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1
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し.∈∈もLX︸
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l
− Currentstage
ー Previous stage
l
0 30 rm m
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ヽ _
、 ′
−一
一
30 r m m
Stage7
0)Crosssection(experimentA) ¢)Distributionofcurvature(勾
(d)Distributionofstmin(experimentB)
図4−9 外周から中心へ向かう周回プロセスにおける周回単位での
素材の形状およびひずみ分布の変化
−66−
仲)
(C)
(3)and(4)
仲):Crosssectiononx・Zplane
(d:GeometricdifbrenCe
(a):ContourcurveSOfdeformedworkpiece
(2)and(3)
(4)and(5)
1 1
(3)Afterstage3 (4)Afterstage5 (5)Afterstage7
図4rlO 成形中の各Stageにおける変形状態(加工経路:図4−9(a))
Between(1)and(2)
lcontourpitch:0・4mml
l
(1)InitialBlank (2)Afterstagel
言」i圭ナ_X・ 1 −
EEOL
InitidBlank
Stagel
Sta酢3
Stage5
図4−11成形中の各Stageにおける素材の形状(加工経路:図4−9(a))
4−
SpheriCalProduct
6mm
1 2 3 4 5
6 7
FormlngStage
図4−12 図4−9(a)の経路による周回毎の勾配分布の変化
図4−13 素材外周部および中央部における変形様式
ー69−
次に図4−14(a)に示す中心から外周へ向かう周回経路による成形の結果を同図㈲
および(C)に示す・ここで成形経路以外の加工条件は図4−9と同一である.また,図
4−15は成形中の各位置での勾配の変化である.Stagelでは素材中央部に下に凸の
曲率が生成され,この素材中央部は続くStageで曲率が著しく減小し,Stage4で
ほぼ平坦になっている・また中央部の傾斜もStagelから3にかけて減少している.
最終的にStage7終了時点で,成形品の中央部ほど曲率が小さくなっており,図
4−9のStage7終了時の曲率分布(C)と反対の傾向を示している.
以上の2通りの成形経路での変形過程の解析より,本成形法による球状曲面の成
形過程では素材の変形様式,および既成形域の曲率の減小化が最終形状に強く影響
を及ぼしていることが確認された.特に連続的な加工経路では,曲率の減小化の影
響により加工の開始点から終了点に向かって曲率が大きくなる.したがって,均一
な曲率分布を得るためには押込み量や押込み間隔を成形プロセス内で変化させて
調節する必要がある.
曲率を均一化するもう1つの有効な手段は加工経路の繰り返しである.同一のあ
るいは異種の加工経路で繰り返し加工を行うことにより,1サイクル目で得られた
曲率分布のうち,局所的に曲率が小さい領域は,2サイクル目のポンチ押込みによ
り曲率が増加する・このとき素材の形状は,1サイクル目とは異なりすでに全体が
ある程度の曲率が生成されているため剛性が高まっており,図4−6の接触領域Bに
よる曲率の減小量は小さくなる.また,局所的に曲率が大きい領域では2サイクル
目以降の曲率の変化量は非常に小さい.したがって,加工経路の繰り返しにより曲
率分布の大小差が徐々に小さくなる.つまり曲率分布の均しが繰り返し加工により
行われる・図4−16はこの繰返し加工による曲率分布の変化を示したものであるが,
加工サイクル数の増加にともない,曲率の最大最小の差が減小し分布が平坦化して
いる.
−70−
Y l234567
Sta止
Fo rm Jng COndition
End
tX
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Experiment A
lp
Rp 50mm
Dp 3・Omm
l
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(a)Formingpath
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l
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1⊆
0
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二
事
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「 30
rm m
Stage7
O))Crosssection
0:)Distributionofcurvature
図4−14 中心から外周へ向かう周回プロセスにおける周回単位での
素材の形状およびひずみ分布の変化
ー71−
図4−15 図4−14(a)の経路による周回毎の勾配分布の変化
2
−−丁−事・1Tr⊥︼・−=!
0・
060・040・020
0
Formingp寧h:gjFig.3・4)
=30mm
=3.0mm
=3.0mm
−30 0
1
ー0.06+
−
図4−16 同一加工プロセスの繰り返しによる成形品の曲率分布の変化
−72−
4.2.3 球面の成形効率に関する考察
次に,本手法の成形効率について検討を行う.球面の成形法としては,型による
成形2),張出し(パルジ)成形3),鍛金(板金)成形4)など様々な手段があるが,
それぞれの成形品のひずみ分布は大きく異なる.したがって,成形に要するエネル
ギーあるいは仕事量は大きく異なっていると考えられる.また,手板金による半球
形状の成形では,先に図2−4で示したように打ち方により様々なひずみ分布を成形
品に与えることが可能である.しかし,経験により得られた知識として,半球面の
成形の場合,半径方向に張出し6:絞り4の比率による成形が,効率および出来映
えの点で優れているという報告がされている5).ここで表現されている効率とい
う言葉は,成形に要する総仕事量と解釈してよいかは,現時点では判断できないが,
最も少ない仕事量で成形した場合のひずみ分布について解析を行い,このときに消
費される仕事量と本成形法で消費される仕事量とを比較して,本成形法の成形効率
の検討を行うことが必要である.
そこで,変形仕事量が最小になる球面成形品のひずみ分布を,上界法により求め
る.本解析は小山らの報告6)に基づくものであり,成形中の変形履歴については
考慮を行わず,最終的に完全な球面になったときの表面変位から膜ひずみを求める
ものである.また,ここでは工具一素材間に生じる摩擦の影響を無視する.
まず,素材の相当応力叫と相当ひずみEpの関係が
ログ=魚了 (F,n:材料定数)
(4−1)
で与えられたとき,ある変形をしたときの素材全体の内部仕事量は
U=∬0㌔了鹿pdr
(4−2)
…吉巨だ−‥d一・
で表される.上界法においては,表面変位の境界条件と体積一定の条件を満足する
ようなモデルに基づいて計算された消費仕事量を,外部仕事量と等値することによ
り得られる外力の中で最小のものが外力の近似値となる.したがって,円板素材の
内部仕事Uが最小になるひずみ状態により最小の外力が得られることになる.
式(4−2)におけるn値は一般に0≦n≦1であるがここではn=1の場合について考え
る.式(4.2)は以下のように表される.
ー73−
「=;巨‥d・−
(4−3)
したがって,内部仕事最小の条件は相当ひずみの2乗総和Jrep2〝が最小の条
件と一致する・等方性を仮定すれば相当ひずみは円板の半径方向,円周方向および
板厚方向のひずみEr,Eo,Etより,
2
;(er2…。十招 (4−4)
eク≡〕
ひずみが小さい場合では体積一定の条件としてEr+Eo+Et=0が成立するので,
Er=−(Er+go)
(4−5)
したがって,式(4−4)より以下の式で表される.
4
Ep=膏(石eo2十Er・Eo)
(4−6)
つぎに・本解析で用いる変形モデルを図4−17に示す・半径rをN等分した幅
△Ⅹ=仰J)のリング要素に分割し,i番目のリング要素における平均ひずみは次式で
表される半径考の位置のひずみであるとする.
考=J(キー12十宥)/2 (4−7)
変形前の点Pが変形後にP‘に移動したと仮定し,中心0からP,までの距離方は
0からPまでの距離Ⅹの関数として次式で表されると仮定する.
∬=′(ズ)=αガ十は3十ば5 (4−8)
ここで上式において・方とⅩの符号を一致させるために偶数次の項は除外している.
このとき,円周ひずみEoは次式により表される.
Co=(2几r一㍍)/M
=α十は2十ば4_1 (4−9)
また,変形前にAXだけ離れた2点P,Qが・変形後P,,Q,に移動したとすると,
半径ひずみErは中心角中を用いて次式のように表される.
Er=(クーe■−Pe)/Pe
血 1
=−・ −l
(4−10)
Ar cos¢
=(α十3むP十5dr4)(1十
−74−
Ringelement
図4−17 素材変形モデル図
各リング要素内では,ひずみErおよびEoが一様に分布しているとすれば,式(4−
G=享;{(er)■(症十(er)∫・(痛・巧 (4−11)
ここで,Ⅵは各要素の体積であり,成形前の板厚をtとすると以下の式で表される.
巧=几・(考2一考_12)・J (4−12)
したがって,式(4−11)のGを最小にすることは内部仕事の総和を最小にすること
と同等であり,このときのひずみ分布が求めようとするひずみ分布である(以後は
このひずみ分布を理想ひずみ分布と呼ぶ).
図4−18に円板素材の半径が30mm,球面成形品の曲率半径が75.3mmの場合の
理想ひずみEr,Eo,Etの分布を示す・リング要素の分割は20要素で行っている・
Erは全体が引張りひずみで外側に向かって緩やかな単調増加となっている・またEo
はR<13mmの領域では引張り,R>13mmでは圧縮ひずみとなっている.したがっ
一75−
て,前者の領域は張出し変形,後者の領域は絞り変形であり,引張り−絞り領域比
は4・3:5・7である・このひずみ分布では,中央部の張出し領域におけるひずみ量よ
り外周部における絞りひずみのほうが大きい・しかし,実際の加工では絞りひずみ
が大きな場合は,しわの発生による成形不良が生じやすいため,ここで得られたひ
ずみ分布の製品が実際に最も効率のよい製品であるとはっきり判断することはで
きない.
本逐次プレス成形法で得られた球面のひずみ分布を図4−19に示す.円板素材の
半径および製品の曲率半径は図4−18と同一である・このひずみ分布は実験装置A
による成形品のものであり・Erおよび緑はひずみゲージによる実測値,Etは体積一
定則により,Et=−(Er+Eo)により計算した値である・本成形で用いている板材保持機
構では拘束を極小にした板材の保持を行っており,素材上の各位置における引張り
および圧縮ひずみの履歴は単調増加であることが確認されたので,得られた球面形
状は履歴による仕事量のロスを無視し,最終的なひずみ分布により仕事量を評価す
ることができると考えられる・得られたひずみ分布はRく23mmの領域で張出し,
R>23mmの領域で絞り変形を示しており,張出し一絞り領域比は約8:2であった.
図4−18のひずみ分布と比較すると張出し領域のひずみ量が大きく,外周部のErが
小さくなっている.
ここで,図4−18および図4−19のひずみ分布から塑性変形エネルギーを計算し,
これにより両者の比較を行う・これまでの解析と同様にひずみ履歴は無視し,円板
素材から最終的な球面形状まで比例負荷により成形されると仮定する.この場合,
図4−18および図4−19のひずみ分布を成形品に与えるための塑性変形エネルギー消
費量Wは,相当ひずみgpを素材中心からの半径rの関数p(r)として表すと,次式
Ⅳ=加。fr叩ク(悌 (4−13)
ここで,tOは初期板厚,rOは円板素材の半径である・また中は次式で与えられる
ものとする.
ログ=FEク(げ(F,n‥材料定数) (4−14)
一般的な金属材料は0<n<1であるので,ここではn=0およびn=1の2通りについ
て計算を行う.式(4−13)はそれぞれ以下のようになる.
−76−
(4−15)
Ⅳ=2鵬。灯れ㍉(r)オ (n=0)
Ⅳ=加。灯れ㍉(r絢 (n=1) (4−16)
図4−18および4−19の相当塑性ひずみの離散的なデータを4次関数および5次関
数で近似し,式(4−15)および(4−16)からそれぞれの場合で消費された塑性変形エネ
ルギー量W/Fを算出した.結果を表4−2に示す.n=0の場合では本成形で得られ
た球面製品の塑性変形エネルギーは理想ひずみ分布での塑性変形エネルギーのほ
ぼ2倍となり,n=1では4倍以上となった.したがって,本成形法において成形品
は素材の変形を比較的自由にさせることは,表面が滑らかな球面形状をもたらして
いるが,変形に消費されるエネルギー量は最小ではないことが確認された.理想の
ひずみ分布に対して成形品のひずみ分布は半径r=5∼15mmで相当塑性ひずみが
3倍以上になっている.従ってこの消費エネルギー量を低減させるには,素材外周
部の絞り領域を拡げ,r=5∼15mmの引張りひずみを減少させればよい.ただし,
絞り領域を拡げるためには2.1節で議論したように,加工中の素材の傾斜量を増加
させなければならないため,素材の姿勢を拘束する必要が、ある.
表4−2 球面成形品の塑性変形エネルギー消費量
E n ergy con su m p ti on W /
F
n−
V d ue
U n d er th e least
Plasti c w ork con diti on
A ctu al p rodu ct by
in crem en tal fo rm in g
n =0
10 .
9
19 .
1
n =1
0.
118
0.
49 7
ー77−
20
30
RadiaJposition rmm
図4−18板素材の内部仕事が最小の条件により成形される球面のひずみ分布
ー78−
A
N
Strain x10−2
TW′1甲坪野聯甲
NO
Radia一pOS芸0⊃ ﹁∃∃
図サーり 加盟誉竺yご彗璽戸汁で耶Pざ抒翠郵舞茸計89ヰお金洩
−ゴ︶1
4・3 双曲的曲面の成形メカニズム
4・3・1双曲的曲面成形における局所的変形
本節では図3−18で示した双曲的曲面の成形工具を押込んだときに素材に生じる
局所的な変形に対し考察を加える.
図4−20は,成形工具を押込んだときの素材上のポンチおよびダイスにより加圧
を受ける領域を感圧紙(圧力測定範囲0・5∼2・5MPa)により検出したものである.
X軸方向ではダイスによる受圧領域がポンチによる受圧領域より大きく,y軸方向
では反対にポンチによる受圧領域が大きくなっている・したがって,本工具による
成形において,素材上にはポンチおよびダイスの両方から加圧を受ける領域の外側
に・どちらかの工具のみにより加圧を受ける領域が存在する.
図4−21は・一定間隔で工具を押込んだときの素材の変形プロセスとして,素材
の中心軸(y軸)上に工具を連続的に押込んだ場合のy軸上の曲率分布の変化を示
す・このときの加工条件は,工具押込み量dp=5・0mm,押込み間隔lp=3.0mmであ
る・加工点1での押込みにより得られた素材中心部の曲率は,その後の近傍の加工
点への押込みにより徐々に減少している・しかし・加工点が遠のくとともにこの減
小量は小さくなり,曲率は一定値へ漸近している・その他の加工点においても1度
生成された曲率がその後減小しており・最終的に加工点7での押込みが終了した段
階ではy=0∼20mmの領域で曲率がほぼ一定な値に収束している・この状況は球面
における曲率の減小化と類似しており,双曲面成形における素材の変形機構は球面
成形の場合とよく似ていると考えられる.
反対に,素材の端部から中心に向けたプロセスでのy軸上の曲率分布の変化を図
4−22に示す・加工段階1で生成されたy=25mm付近の曲率はその後の近傍の加工
により減小することなく,後までほとんど変化しない・したがって,素材中央部と
外端部ではその変形様式に大きな違いがある.
図4−23に工具押込み時における素材のy−Z断面における素材の変形模式を示
す・工具の押込みによって中央でポンチとダイスの両工具により加圧を受ける領域
(A)では上に凸の曲率が生成される・この外側ではポンチのみに加圧を受ける領
域(B)が存在し・この右端に下向きの曲げモーメントが作用する.この曲げモー
−80−
■巨ト、\−.卜︳う一、...
メントに対して,素材全体がより平坦で剛性が低い場合には素材全体に曲げ変形が
生じる.反対に剛性が高い場合は,全体の曲げ変形は生じないで領域Bにおいて局
所的な変形を生じる.実際の成形では,この加工点が素材の中央部である場合,あ
るいはすでに素材全体にある程度の曲率が生じている場合は,この領域Bの曲げモ
ーメントに対する素材の剛性が高く,この曲げモーメントにより領域Bに局所的な
曲げ変形を生じている.したがって,この領域で下に凸の曲率が生成されるか,あ
るいは先に生成された上に凸の曲率が減小する.これに対して,加工点が素材外端
付近の場合では,加工点の外側の素材は剛性が極めて小さいため,この曲げモーメ
ントにより外端部が下向きに曲げ変形を生じ,領域Bには下に凸の曲率が生成され
ない.
/Punch
/Workpiece
図4−20 工具押込み時における素材上のポンチおよびダイスによる受圧領域
(圧力測定範囲5∼25kがの感圧紙使用)
ー81−
−Z8−
(噺掛川弛卜謝炉神川・車朋輩)
コ掻α艶尊重呼号アブ悼望胡菅工葦埴筆華α丁常習 tg−ウ図
u八山0・9=dp
uuS等L=PlJ=du
lu!Oduopt,luaPuI:X
 ̄ ̄一一一一一一義撫1嶋※大儀Ir−
∠99トCZ圧
一g9−
(訝敵い靴かペ′由9弓硝削航朋輩)
11逐α艶尊重申告了こう専管亜菅ェ葦朋輩車α丁常賓 岩石−中国
(
u 八山6 三人)
℡
(
Llu 引.
=人)
9
(
u u ほ=勺サ ーー
(
u u ∠Z=伽 uo 印$O d −
uuo・9=dp
uuS・SL=Pl]=du
lu!Odu叩el凋Pul:×
八一一一
雛…×糞×糞一一一一一十一
ZCサ99土台 :
図4−23 双曲面成形における素材の変形様式
4・3・2 双曲的曲面成形における大域的変形
次に,図3−18の工具を用いて双曲的曲面を成形する場合に,素材全体にもたら
す大域的な変形過程に対して考察を加える.
図4−24の加工経路で素材の右半面を加工したときの変形過程を図4−25,4−26に
示す・ここでは各列での加工が終了した段階をStagel∼11と定義する.図4−25
は各Stageにおける素材の変形形状および最終的な双曲的曲面の成形品の外観で
ある・また,図4−26(a)は奇数Stageにおける素材のⅩ軸上の曲率分布である・Stage
lで成形された中央部の領域のうち,右側の領域がその後のStageにより曲率の減
小化を受けている・この領域の曲率は最終的にほぼ0に回復した状態で収束してい
る・最終段階であるStagellでは素材の右半面は中心に向かうほど曲率が小さく
なっている・従って前節において議論した曲率の減小化は,直線往復的な加工経路
の場合その加工列単位でも認められる.
図4−260)はStagellでのy軸上の曲率分布である・y方向は加工経路の副方向
(曲率生成が先に行われる方向)であるが,Ⅹ軸上とは異なり全体にわたりほぼ一
定の曲率が得られている・これは経路の副方向を加工列毎に反転させたことが影響
していると考えられる・そこで,仮想的な往復加工を考え・1方向の加工により得
ー84−
られる曲率分布が図4−26(a)中のStagellと同じであると仮定すると,往復加工に
より得られる曲率分布は左右反転させた曲率分布との平均値として計算できる.そ
の結果は図4−27(C)のようになり,全域にわたりほぼ一定の曲率分布が得られる.
したがって,往復的な加工経路を選択した場合,その往復方向の曲率分布は順方向
および逆方向でそれぞれ得られる曲率分布が平均化され,より均一な曲率分布が得
られる.
F o rm ln g S ta g e 1
⊂
.
ち9
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て)
.凸
コ
∽
FormlngCOndition
3 5 7 9
11
冊 卸 q ir璽 無
X
R習…三言琵琵
S ta rt
2 4 6
8
10
●:Indentationpoint
図4−24 加工列単位の変形過程解析に用いた加工経路
ー85−
InitialBlank
Stage6
Sta節目
図4−25成形中の各Stageにおける素材の形状(加工経路:図4朋
Stagel
Hyperboloidal
Product
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∈
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l
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l
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一一
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一一
一
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X mm
Stagell
(a)Curvaturedistributiononx−aXis
七0・04
1
∈
ゞ 0
1
l
−0.04
l
−20 −10 0 10 20
ymm
仲)Curvaturedistributionony・aXis
afterformingstagell
図4−26 図4−24の加工経路での各Stageにおける素材の曲率分布
−87−
て∈∈×ソ
(a)Curvaturedistributi。n
afterformingstagell
ヽ
仲)Reverseindicationof(a)
′
(C)Meanvalueof(?)and(b)
図4−27仮想的な反復加工により得られる曲率分布
次に,Ⅹ軸およびy軸方向の曲率の絶対値が等しい双曲面を得るための最適な加
工経路を求めるために図4−28に示す4つの経路を考察した・灰色の矢印は経路の
主方向,黒色の矢印は経路の副方向を示している・成形条件はすべての経路におい
て押込み間隔lp=3・0mmとし,工具押込み量dp=5・0mmで一定とした.各経路に
よる成形によって得られた製品のⅩ・y軸上の曲率分布を図4−29∼32に示す.各
軸方向の平均曲率を同図左枠外に示す・なお,製品外端では素材保持のための取り
付け穴のため,曲率の測定が不可能であるため曲率分布の表示はⅩおよびy軸とも
 ̄25mmから25mmに限定している.
経路Aでは,y方向には経路を反復させることにより曲率分布の偏りがなく,ほ
ぼ均一な曲率分布が得られている・しかし,y軸方向に経路の副方向があることに
より素材全体がy方向の曲げ変形を優先的に生じ・これによりⅩ方向は降伏曲げモ
ーメントが増大し,工具押込みに対して全体的な曲げ変形より局所的な変形が支配
的になる・従って,Ⅹ方向の曲率はy方向より小さくなり,また曲率の減小量は大
−88−
きくなる.ここでは,Ⅹ>−10mmの領域で曲率の減小化を受けK<0.01となってい
るが,プロセスの終盤であるⅩ<−10mmの領域では曲率が極端に大きくなってい
る.したがって本成形経路ではⅩ軸方向に対称な形状を得ることができない.
経路Bでは加工開始点をy軸上にすることにより,Ⅹ軸方向はより対称に近い形
状が得られるが左半面の加工終了後に加工点がy軸上に戻り,経路が不連続になる
ため,局所的に曲率が大きく減小する領域があり,均一な曲率を素材に与えること
が困難である.
経路Cでは経路Aの加工後,経路の主(Ⅹ)方向を反対にして再度加工を行ってい
るが,反対方向から再度加工することにより,Ⅹ軸方向の形状の対称化および曲率
が過小であった部分の増大化が得られた.また,X,y方向の平均曲率もほぼ等し
くなった.経路Dはこの往復操作を1往復半行ったものであるが,より均一な曲率
分布が得られる.
以上のようにⅩおよびy軸方向に等しい曲率の製品を得るためには,加工経路の
副方向を往復すると同時に,主方向も往復するプロセスが最適なプロセスである.
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(a)PathA
FormlngCOndition
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(C)PathC
■
(d)PathD
図4−28 双曲的曲面成形経路
ー 89−
図4−29 経路Aによる成形品の曲率分布
0.0168
−0.0158
図4−30 経路Bによる成形品の曲率分布
−90−
0.0163
窮
⊃
……………ア
0・
0 3 O n y−
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…・
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…
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/
O n x−
aX is
−
0.
03
図4−31経路Cによる成形品の曲率分布
0.0163
−0.0162
図4−32 経路Dによる成形品の曲率分布
−91−
4・4 基本曲面の成形メカニズムに関する考察
上端が平坦な円柱弾性ダイスに球頭剛体ポンチを押込む操作を単位操作とする
球面の成形では・4・2・1節の結果から明らかなように・1回のポンチの押込みに対
応する板素材の局所的な変形は・図4−33に示すように正あるいは負の曲げ変形と
板厚中心での伸びあるいは圧縮ひずみに分解することができる・このとき半径ひず
みEおよび円周ひずみEは素材の外端部以外では基本的に正であるが,外端部では
加圧領域外の拘束力が弱くなるため,円周ひずみが負となる.
工具押込み位置の移動によりこの変形域が離散的に移動し,素材の曲げ曲げもど
し変形が繰り返されるが,板厚中心のひずみは常に単調増加あるいは単調減少をし
ているのみである・つまり,見かけ上は大変複雑な変形の履歴となっているが,最
終製品形状の観点からすれば,ポンチの押込みは板素材に面内の2軸の伸びひずみ
を局所的に注入しているだけである・この注入された面内2軸の伸び変形と曲げ変
形により板素材は非平面的に変形をし,このとき正の符号をもつGauss曲率が素
材に与えられる・ただし,3次元空間における素材の幾何学的な拘束があるために,
球面状の圧痕が接線を共有するように接続されて工具と同一曲率をもつ球面が成
曲げひずみのみによる変形は可逆的な変形であり,もとの平板に戻すのは容易で
あるが,伸びあるいは縮みひずみを伴った場合は変形前の状態に戻すことが非常に
困難となる・平面のGauss曲率が0であるため,1度成形された素材上のGauss
曲率の符号を反転させるのには非常に大きなェネルギ一畳を必要とする.したがっ
て,球頭ポンチにより局所的に与えられた正のGauss曲率は,変形が素材全体に
適用された場合成形品全体のGauss曲率の符号を正に決定し,製品形状が広義の
楕円的曲面となる・成形経路と成形パラメータを軸対称にすれば,ひずみの与えら
れる経路が軸対称となるので・球面的な成形形状が得られる.
また,曲げ曲げもどし変形は素材の最終形状を決定する上であまり重要性はない
が,成形中に常に繰り返されていることから,この曲げひずみの蓄積により材料特
性の変化,つまり加工硬化をもたらし材料の強度が向上する.
一方,同様な現象が半円柱状の弾性工具対を用いた双曲的曲面の成形においても
予測される・つまり,この工具を押込むことにより曲げ変形と面内2軸の伸び(縮
−92−
み)ひずみが素材に注入されることにより素材は局所的に双曲的な曲面へと変形す
る.この場合には工具の1回の押込みにおいて素材に与えられるGauss曲率の符
号は負であり,これが素材全体に適用されるために製品形状は双曲的曲面となる.
以上より,本成形法では工具の押込みは素材への局所的な面内2軸伸びひずみの
注入を意味し,同時にGauss曲率の符号を指定することにより曲面を成形してい
る.したがって,成形品の形状は注入されたひずみとGauss曲率の符号により決
定される.
図4−33 ポンチ押込み時に素材に生じるひずみの構成
−93−
本章では,球面および双曲面の成形メカニズムを局所的あるいは大域的な変形に
対する考察により明らかにした・得られた結果は以下の通りである.
(1)球頭ポンチの押込みにより一度生成された圧痕は,近傍のポンチ押込みによ
りその形状をとどめず曲率が減少する・この原因は板素材が加圧を受けるときにポ
ンチとダイスの両方に接触する領域の外側に・ダイスのみに接触し,ダイスからの
押し上げ力のみ受ける領域が存在するためである・また成形中の素材には,曲げ曲
げ戻しに基づく複雑な変形履歴をたどるが,板厚中心の伸びおよび縮み変形の履歴
は単調な増加あるいは減少を示す.
(2)直線的な加工経路では進行方向に曲げ変形が蓄積する・したがって,このよ
うな加工経路を選択した場合には,得られる成形品は方向により曲率が異なる楕円
的な曲面となる・また,周回的な成形経路では特定方向の曲げの蓄積が生じないた
め,得られる形状はほぼ軸対称となる.
(3)球面の成形プロセスでは素材外周部は絞り変形,中央部は張出し変形を生じ
る・これは,外周部の加工では加圧領域の外側の領域が起き上がる変形モードが生
じ,中央部の加工では加圧領域の外側は非変形で,内側が沈み込む変形モードが生
(4)本成形法で得られる球面成形品は,塑性仕事最小の仮想プロセスにより得ら
れる理想的な球面に対し,2∼4倍の塑性変形エネルギーを消費している.このエ
ネルギー量は外周部の絞り変形の領域を増加させると減少する.
(5)双曲面の成形では,球面の成形時と同様に工具押込み点の移動による既成曲
率の減小化が生じ・加工の進行方向に向かって成形品の曲率が大きくなる傾向があ
る・しかし,直線的な加工経路を選択した場合,経路を反復させると各方向の曲率
分布が平坦化される.
(6)Ⅹおよびy方向の曲率が等しい双曲的曲面は直線的な加工経路の副方向およ
び主方向を往復させる加工プロセスにより成形できる.
(7)本成形法では工具の押込みは素材への局所的な面内2軸伸びひずみの注入を
意味し,同時にGauss曲率の符号を指定することにより曲面を成形している.
−94−
<第4章の参考文献>
1)山添,”スクライブド・サークル・テストと破断ひずみ”,塑性と加工,11・109(1970),
83.
2)小山・川田・戸澤,”円板の球面成形荷重”,塑性と加工,22−251(1981),1223.
3)中川・阿部・林,”薄板のプレス加工”,実教出版,(1977).
4)長谷部・島・小寺,”逐次ハンマリングによる板成形に関する研究”,
第44回塑性加工連合講演会論文集,(1993),335.
5)三浦,”作業現場における打出し板金手加工作業の実際”,板金プレス分科会
第26回SMFセミナー資料集,(1992),1.
6)小山・川田・戸澤,”円板の球面成形におけるひずみ状態”,塑性と加工,
27・306(1986),846.
7)小山・川田・戸澤,”薄板の複曲面成形における変形とスプリングバック”,
塑性と加工,28・313(1987),180.
8)松原,”板材の鞍形形状への逐次成形”,平成6年度塑性加工春季講演会論文集,
(1994),607.
一一95−
第5章 複合曲面の成形
5.1 はじめに
第3章および第4章において,自由曲面の構成要素となる基本曲面の成形プロセ
スおよび成形メカニズムを明らかにした.しかし,一般的な自由曲面には複数の基
本曲面が1つの曲面上に共存している.したがって,自由曲面の成形においては,
それを構成する各基本曲面の成形が相互に影響を及ぼしあう.一般的な自由曲面を
高精度に加工するためには,この状況を正確に把握することが必要である.
本章では,基本曲面から構成される複合曲面として1つの球面と1つの双曲面か
ら構成される曲面をとり挙げる.また,複合曲面の成形を行うために,素材姿勢の
自由度がより高い板材保持装置および位置決め装置を新たに製作した.本装置を用
いて成形された複合曲面形状に対し,各基本曲面部の形状および形状境界の接続部
の評価を行い,目的とする形状を得るための加工条件および加工経路について検討
を行った.
5.2 複合曲面成形のための成形装置
複合曲面さらには一般的な自由曲面の成形では,曲面上の曲率分布が,基本曲面
より複雑になる.また,局所的な曲率中心の反転に対応して,加工中に素板の表裏
を反転させる必要が生じる.したがって,従来以上に自由度の高い保持機構が必要
になる.そこで,ここでは様々な姿勢で板素材を保持可能な板材保持装置を開発し
た.この保持装置には多関節ロボットを利用する.また装置の加工空間を拡げるた
めにプレス装置の改造も同時に行った.
図5−1は今回製作した板素材の保持装置およびプレス装置の外観である.また図
5−2はこの板素材保持部の概略図である.この板材保持部は6自由度の関節ロボッ
ト(三菱ムーブマスターRV−E2)に取付けられ,任意の位置および姿勢での板素材
の保持を可能にしている.この関節ロボットの仕様を表5−1に示す.また,板素材
保持部はロボットにより制御される6軸に加え,0および中の2軸の回転機構が設
けられている.この0および中軸は3600の回転が可能であるので,この回転を自由
にした場合は成形中の素材は保持装置による姿勢の拘束を全く受けない.さらに,
ー97一
成形中の素材の微少な上下動および水平方向の縮小は4本のコイルバネklが対応
している・このロボットおよびプレス装置から決定される板素材の可動範囲は図
5−2におけるⅩ軸方向が500mm・y軸方向が300mmである.
板材保持部は・自由保持モードと固定保持モードが設けられている.自由保持モ
ードでは∂および¢軸の回転を自由にすることにより,上述のように素材の拘束を
極小に抑え,自由に変形させることにより局所的な変形を滑らかに接続させる.こ
のときロボットは素材の水平方向の位置決めを行う・これに対して固定保持モード
では,0および中軸を固定することによって・ロボットの駆動軸である6軸の制御
により決定される姿勢で加工を行う・これにより,例えばフランジ形状のような,
自由保持モードで得られる成形品の曲率分布よりさらに急峻な曲率分布を成形品
に与えることが可能になる・図5−3に,自由保持モードにおける加工中の実験装置
主要部を示す.
表 5 −1
本 や、
lN D E X
S eh e s
D e
RV −
E 2 T yp e 6(
M itsu b ish i) ee of fr e ed om
D ri vi n d evi ce
A C S erv Om OtOr
R a ted lo a d
19 6 N (
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R ep etition
realCISlO
●●
p o nsitio n in g 0.
04 m m
M a x im u m re su lta n t s e e d
3 500 m m /
S
ー98−
図5−1多関節ロボットを用いた板材保持装置
一99−
0
図5−2 板素材保持機構概要
図5−3加工中の板素材のハンドリング(自由保持モード)
ー100−
5.3 複合曲面の成形プロセス
ここでは成形対象形状として,図5−4に示すような接続部の断面が同一形状の円
弧となる球面および双曲的曲面から構成される曲面を選択した.各曲面部は第3章
および第4章の結果をもとに,最適な加工プロセスを用いて成形を行う.これによ
り得られた成形品の形状に対して,各曲面部の成形が相互の形状に及ぼす影響およ
び境界部の接続について調査し,目的形状を成形するための加工条件および加工経
路について検討を行う.
図5−5は,本逐次プレス装置を用いて板素材を試験的に手で保持して成形を試み,
得られた複合曲面製品である.この曲面中の球面部は図5−6(a)に示す球頭ポンチ
(S45C)と円柱ダイス(クロロブレン)を用い,双曲面部は図5−6(b)に示す1組
の半円柱工具(クロロブレン)を用いて成形を行った.板素材は,基本曲面の成形
と同様に板厚0.4mmの工業用純アルミニウムAlO50−0材を用いた.成形中に素
材は変形状態に応じて姿勢を変更しようとするが,その動作を妨げない程度の力で
保持を行った.成形経路はランダムとして約20分間成形を行い,板素材から図
5−5に示す形状が得られた.成形品の各基本曲面部は,成形経路が不連続なことに
よる局所的な凹凸が見られるが,境界部は滑らかに接続されており,これらの工具
を用いることにより目的の形状が成形できることが確認された.
Sphericalshape
HyperboloidaJshape
l
′
も二㌧声、
Compositeshape
図5−4 球面と双曲面より構成される複合曲面
−101−
£、,−H Y/7 .ヾ∼J ‘Ji7
ノ・一′〉 1▼・ ・・.・
図5−5 球面と双曲面より構成される複合曲面成形例
(a)Sphericalpan
(b)HyperboJicalpan
図5−6 複合曲面の成形に用いた工具
−102−
今回目標形状とした複合曲面を図5−7に示す.球面部の曲率半径および双曲面部
の主曲率半径はすべて50mmとした.成形工程は球面部成形工程および双曲面部
成形工程に分け,それぞれの曲面部は1工程で全域を加工する,まず以下に示すプ
ロセスでこの曲面の成形を試みた.また,各曲面部の成形経路を図5−8に示す
プロセス A:
工程 1:双曲面部(経路H−A,全領域)
工程 2:球面部 (中心より半径r=6∼24mm)
工具の押込み量はそれぞれの曲面部で一定とし,工具を押込みを行う領域は,双
曲面部では全域および球面部では成形形状の向上のために中心より半径r=6∼
24mmに限定している.成形プロセスおよび条件を表5−2に示す.
SphericalSurface
SectionB−B
SectionC−C
図5−7 複合曲面成形目標形状
−103−
r=6∼24mm
End
l End
Path H−A
Path H−B
(1)Hyperboloidalarea
(2)SpheriCalarea
図5−8 成形経路
表5−
2 A Radiusofcur
v ature of
、
≠
久
H erboloida
l art
p
Spher
i3C
0
l part a
15.
5
(
R =
Rd)
punch head Rpm m
Depth ofindentation d m m
50
3.
0
Int9r
va
l ofindentation epm m
30
3.
0
N um berofcycles N p
2
宰
Rd:Radiusofcurvatureofdiehead
この成形プロセスにより得られた曲面の形状およびⅩ軸断面における曲率分布
を図5−9に示す・(a)は等高線による表示,巾)は断面A−A‘,B−B,およびC−C‘におけ
る断面形状,(C)は各断面上の曲率分布である・また(C)中の点線は目標の曲率(=1/50
同図(C)より,Ⅹ=30∼40mmおよび75mm付近で曲率の目標値からの誤差(以後,
曲率の逸脱量と称す)が大きいことが確認できる・このうちⅩ=75mm付近の逸脱
の原因は,この付近が球面成形経路の最終点に当たり,この近傍のみ曲率の減小化
が生じないためである・この曲率の逸脱量は,第4章の結果より同一成形経路によ
る成形の繰返しによって,均し効果を得て減少させることができる.またⅩ=30∼
ー104−
40mmでは,工程2の球面部成形における外周部の成形段階において,球面に変形
する領域の外周でのダイスの押し上げ力により既成の双曲面部が変形したもので
ある.また,このプロセスにおいては成形経路により双曲面部がねじれて成形され
る場合がしばしば見られた.その成形品の1例を図5−10に示す.これは図5−8(1)
における双曲面部の成形経路H−Bで,下端と上端において加工の主方向(Ⅹ方向)
が反対になった場合に生じやすい.双曲面部の成形経路の主方向であるⅩ方向にお
いて,曲率の減小化の影響から加工方向によりその列での曲率分布が異なる.すな
わち加工の進行方向に向かって曲率が大きくなる.双曲面部の曲率の均一化のため
にこのⅩ方向は往復的に加工を進行させる経路をとっているが,端部は加工の開始
点および最終点になるので,加工の開始列と最終列における加工方向が反対になっ
た場合このねじれが生じやすい.
次に,以下に示す加工プロセスBによる成形品の形状を図5−11に示す。
プロセス B
工程 1
工程 2
球面部 (中心より半径r=6∼24mm)
双曲面部(経路H−A,全領域)
この場合においてもⅩ=45∼55mmの領域で曲率の逸脱量が大きく,双曲面の成形
時に既成の球面部の曲率が変化している.このように複合曲面の成形では,各曲面
部の境界上での曲面同士の滑らかな結合のための成形パラメータあるいは経路の
制御が必要である.
この曲面同士の滑らかな結合およびねじれの矯正の手段の1つとして,「均し工
程」を導入する.その例として,プロセスAの工程2終了後,工程3として再度双
曲面部の加工を行う成形プロセスCによる成形品の形状を図5−12に示す.
プロセス C:
工程 1:
工程 2:
工程 3:
双曲面部(経路H−A,全領域)
球面部 (中心より半径r=6∼24mm)
双曲面部(経路H−B,全領域)
第3工程の成形経路は1次方向をy方向としている.これはy方向の曲率分布を
均一化してねじれを矯正すること,および曲率の逸脱部がy方向に帯状に存在して
いるので,この逸脱部を連続的に矯正することを目的としている.またこの逸脱部
−105−
の曲率は図3−19で示される双曲面成形用工具の押込みで生成される曲率より大き
いため,この工具で押し込むことにより曲率を減小させることができる.
このプロセスにより得られた成形品は,Ⅹ=30∼40mmにおける曲率の逸脱量が
減少し,B−B‘およびC−C,断面における曲率のばらつきも小さくなっており,各曲
面部においてほぼ目標の形状が得られている・したがって,この均し工程は各曲面
部同士の滑らかな結合に効果的であることが認められた.
−106−
(a)ContourCurveS
巨5
Xmm
0
1■
0
50 4
由
.
N−
60
−
10
−
15
5 ∈
N
15 lO
−
30
l0 −
一
台
20 −
10
y ¶m
10 20 3b
∝) !
犯
y 叩m
1’
l
1
0 20 0
−
20 −
10 −
5
∈−
N
15 O))Crosssection
HyperboIicalarea spherica−
area
X一
一
mm ・
−
ェ.
A l’
0 20 30 T▲
▲
ゝ
…鈍 れ 二師 ∵
蘇 −
▲
−
∈0 ・
0 5
}
二
ぬ .
…丁
加 ‥
∴l−
0■.
0●
.
5…_
1 0 ∈0.
05
.l −
2 l0
_
ヱ
く
ね .
だ1l0
−
0 .
0 5
1 0 20 y m m
ー_
∴‥
_
_
‥
3 8 ●
.
20 1 m m
l
(C)Curvaturedistribution
図5−9 プロセスAにより得られた複合曲面形状
−107−
l
ー
…3 l0 _
_
C,
∈20
N
10
y m
−3
● l
l l
O))Crosssection
図5−10 ねじれの発生した成形不良例
−108−
A
桁
Contourpitch:0.4mm
C
(a)ContourcurveS
E
l
E 10 t
N
0
1’
0
3■
0 4b 60 −
10
X n? /
8 90
∈
E
N lO
∈ E ヽし
_
d 0 y m m
長 ⊥
.
−
1 0 −
■
10
1■
0 ノ
−
50
y m.
m
1■
0 20 3 0
_
50 −
2 0 _
10
仲)Crosssection
H y p e rbo Iic a la re a r∈0・05
∈
) 0
掛
Å
.
.
10 2 0
.
30
.
.
仙 ▼、
S p h e rica La re a
.
.
’… 訳 し
.X  ̄
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m ノ
・
・
一
・
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竜一0.05
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l
一
丁3 8
0 .0 5
+
∈
k 0 ・
0 5 l
l
_
… 二2 8 _
=1 −0 .0 5
1 0 1
2 0
1
y
m
_
_
_
ぬ
m
1
■_
l
▼
_
,如
一軍 0
‥_ ¥ 1.
0
皇
1 .
0
t
hH 一
一
十一
一一
一
−0 .
0 5 1 1
(C)Curvaturedistribution
図5−11プロセスBにより得られた成形品の形状
ー109−
2 0
y
m
m
l
一
一.
… ‥_
3 0 日
B・′−Unmeasured
.
一
ノ
.
● 工:
享 有完
・
・
㍉
十
A
一
三
伽
一
一
一
一
y
tch:0.4mm
X 占」Un
me
恕 ̄
て Co
n
t
ourp
.
(a)ContourcurveS
0
10 十 30 40
0
E i x mm
∈5
N
60−
15
−
5 80 90
†
∈
∈15
N lO
l −
30 −
0 −
10
y m m
−
3 −
20 −
10 −
5
y m nl
10 2 0
喜一
15十
10 2 0 3 0
仲)Crosssection
し.巴⊃ldと⊃0
;
∈0 .
05 十
−2 0
! 0
_
エ3 0 −
−
_
▼
■
…_
_
…
−0 ・
0 5 丁
10
巨0.
05
− 0
_
ヱ3 0 _
…_
_
1 0 2 0 y m
だ 0
−0 ・
05 十
・
一
一
一
一
一
一
一
一
一
…一
……一
…
一
一
30−
−
20 y m m
_
_
_
■
…_
‖…_
30 ‥
¢)Curvaturedistribution
図5−12 プロセスCにより成形された複合曲面形状
ー110−
5.4 まとめ
本章では自由曲面の成形に向けた最初のアプローチとして,球面と双曲面から構
成される複合曲面の成形を試みた.得られた結果は以下の通りである.
(1)成形品の形状の複雑化に対応し板素材の保持姿勢の自由度を高めるために,
6自由度の多関節ロボットを利用した板材保持装置を開発した.
(2)1つの球面と1つの双曲面から構成される複合曲面を球面→双曲面あるいは
双曲面→球面のプロセスで成形すると,2基本曲面の接続部で曲率が目標値から大
きく逸脱し,曲面同士の滑らかな結合が得られなかった.これは後から加工する曲
面の成形による変形域が他方の曲面内に及び,先に加工した曲面の形状が変化する
ためである.
(3)(2)に対しては「均し工程」を導入することにより,両曲面の境界部近傍の曲
率を設計値へ収束させることができる.同時に各基本曲面内の曲率分布もより均一
にすることができる.
<第5章の参考文献>
1)遠藤,”塑性加工機の知能化とインクリメンタルフォーミング”,塑性と加工,
35−406(1994),1305.
2)小松,,,精密多軸鍛造機械”,塑性と加工,25−279(1984),279・
3)新プレス加工データブック編集委員会編,’’新プレス加工データブック”,
日刊工業新聞社,(1993).
4)山口,”自由曲面の設計’’,精密機械,43,1(1977),49・
−111−
第6章 インクリメンタルフォーミングにおける形状制御
6.1 はじめに
一般的な型プレス成形は素材を金型中に拘束して形状を創成するので,成形品の
形状の制御は金型の形状を修正することで行われている.しかし本成形法のような
素材に対する拘束力が極めて小さいインクリメンタルフォーミングでは,どのよう
にして成形プロセスを制御して目的の形状を得るかが大きな課題である.鍛金加工
では,2.1節で述べたように形状制御は現在でも作業者の経験と勘によるものであ
る.このインクリメンタルフォーミングを様々な手法によりコンピュータ制御化を
行う試みがなされているが卜3),現在のところ実用化に向けた有用な報告はされ
ていない.しかし本成形システムの実用化に対して,この形状制御は極めて重要な
課題であり,本論文では成形に関する知識をデータベース化したエキスパートシス
テム的な制御による形状制御を試みる.
6.2 インクリメンタルフォーミングの制御
インクリメンタルフォーミングにおける形状制御の手法として,有限要素法など
の数値シミュレーションによる形状予測をもとに,加工パラメータおよび成形経路
を決定する方法が考えられる.しかし,本成形法では1つの製品を成形するのに数
百回以上のプレス動作を必要とするので,計算のステップ数および計算時間は莫大
となり,また素材の変形履歴に応じて境界条件も逐次変化するため計算自体もかな
り煩雑になる.したがって,この方式は現時点では実用的ではない.
もう1つの方法は,予備実験などで取得された加工に関する知識をデータベース
化し,このデータベースをもとにして成形プロセスを生成する方式である.この方
式は一般的にエキスパートシステムと呼ばれ,塑性加工の分野では鍛造加工におけ
る工程設計などで実際のシステムに適用されている4 ̄6).この方式は,全く新し
い成形プロセスを想像することは不可能であるが,従来個人的あるいは感覚的に取
得されてきた経験および知識をコンピュータを介して共有および応用することが
できるため,非常に効率的なシステムである.したがって本研究ではこの方式によ
る形状制御の検討を行うことにする.
−113−
インクリメンタルフォーミングにおける自由曲面の創成システムの最終的な構
想を図6−1に示す・制御エンジン部はまず設計された自由曲面を基本曲面に分解し,
次にどの部分から順番に成形するかを決定する.最後にそれぞれの基本曲面の加工
プロセスおよび境界部の整合プロセスをデータベースから取得し,実際の成形を行
う・このようなシステムが実現すれば多品種少量生産システムとしてインクリメン
タルフォーミングの実用化が可能になる.そこで次節以降ではこのシステムの実現
へのステップとして,基本曲面の加工プロセスをデータベースをもとに決定し,こ
れを成形する制御方法の検討を行った.
図6−1インクリメンタルフォーミングにおける自由曲面の制御システム
−114−
6.3 成形データベースを用いた形状制御
6.3.1成形データベースを用いた制御システム
ここで行う形状制御の方式は,過去の加工で記録された加工パラメータと成形品
の形状との関係を整理して得られたデータベースをもとにプロセスを制御して目
的の製品形状を得るものである.
制御の方法として,1工程で最終形状に到達する方式と,目的形状に近い形状を
まず成形して,その後形状誤差を修正する工程により目的形状に達する方式が考え
られるが,本成形法では素材の変形プロセスが複雑であり,修正なしの1工程では
高精度な形状制御は非常に困難であるので,ここでは後者の修正工程を用いた形状
制御方式を採用した.また,図3−7で示したように同一加工経路の繰り返しにより
曲率の均一化が得られることから,この修正工程では曲率半径の制御と同時にこの
均一化も期待できる.
この制御を行うためのシステム構成を図6−2に示す.オペレータより設計形状が
入力されるとデータベースにその形状が渡され,データベースはその形状を成形す
るためのプロセスとパラメータを成形システムに渡す.成形システムはこれにより
加工を行い,続いて成形品の形状測定を行う.
次に,形状制御システムのフローチャートを図6−3に示す・本制御では加工プロ
セスを第1工程および修正工程に分け,それぞれに対するデータベースを用意する・
これは第1工程では平板からの成形であるため,素材に与える曲率変化が修正工程
とは大きく異なるからである.
−115−
塵
成形品
図6−2 システム構成図
図6−3 フローチャート
一116−
6.3.2 球面の曲率半径制御への適用例
ここでは本制御プロセスの適用例として球面成形品の曲率半径の制御を示す.同
一曲率半径の球面を得るための成形パラメータ田p,も,gp)の組み合わせは複数存在
するが,ここでは簡略化のため球頭ポンチの頭部曲率半径Rpおよびポンチ押込み
間隔gpは予め固定されているため,データベースにより決定される成形パラメー
タはポンチ押込み量dpのみである.
第1工程で用いるデータベースは3.2節で得られた各成形パラメータと成形品
の曲率半径の関係のグラフを用いた.
第2工程で用いるデータベースは,図6−1に示す修正工程におけるポンチ押込み
量と曲率半径の変化量の関係をもとにする.この曲率半径の変化量は本工程前の予
成形の曲率半径により異なるため,このデータの使用は予成形の曲率半径を
Rwo=40∼45mmの範囲に限定した・図中の○印はRp>Rwo,lL印はRp<Rwo
となるポンチを用いた場合である・dp=1.0mmの近傍においてRp<Rwoの場合
でも曲率半径が増加しているが,ここで評価している曲率半径が素材全体の平均値
であり,曲率分布の変化による影響もあるため,この領域のデータを制御に利用す
るのは適当ではない.
以上のデータベースを用いてRw=43.0mmの球面の形状制御を行った例を図6−
2に示す.得られた成形品の曲率半径は目的曲率半径に対して−0.05mmであり,高
精度な形状制御が可能であった.
しかし,この方式で任意の曲率半径をもつ球面を成形するには,図6−1のような
資料を,所望とするすべての曲率半径に対して用意する必要がある.押込み量と曲
率半径の変化量との関係に曲率分布が及ぼす影響はここでは考慮されていないの
で,曲率半径を微小に変化させる場合には信頼性に欠ける.
−117−
■ ‥R p=30m m
0
∈∈Jq OL⊃ld≧⊃0−OS⊃萄空u芯SdOL2一
○ ‥R p=50m m
2・0 2・5
3.O
lndentanon depthdpmm
図6−4 修正加工工程におけるポンチ押込み量と曲率半径の変化量の関係
目標 製品曲率半径 ㌦=4 3 .
0m m
【工 程 1 】
第 1 工 程 用 デ ー タ ベ ー ス → d p=3 ・
Om m
R p = 3 0 m m 成形 品曲率 半径
d p =3 .
0m m
ゼ。= 3 .
0m m
N 。= 3
㌦’
=4 3 .
78m m
(
+0 .
78)
R 。=3 0 m m ヲ…≡…霊 : ・
成形品曲率半径
㌦’
=42 .
94m m
(
一
0.
0 6)
N p=1
図6−5 データベースを用いた球面の曲率半径制御例
−118−
6.4 ファジィ推論を用いた形状制御
6.3節で提案した定量的なデータベースを用いた形状制御は,成形曲面の多様性
に対応して巨大なデータベースを用意する必要があり,これを構築するために多く
の予備実験を行う必要がある.一方,実際の鍛金加工においては,作業者が感覚的
に,「大きく形状がずれている」,「微妙にずれている」,「強めに叩く」あるい
は「ごく弱めに叩く」というようなあいまいで定性的な知識および判断により成形
を成し遂げている.そこで,本節では修正工程における成形パラメータの決定にフ
ァジィ推論を用いて曲率半径の制御を試みた.
6.4.1 ファジィ推論
ファジィ制御は,現在工業的分野などで幅広く用いられている.従来ある命題に
対し,「正」か「否」かという2値的な論理(クリスプ論理)で展開されたアルゴ
リズムに対し,ファジィ制御ではメンバーシップ関数という関数を用いたファジィ
集合論によりアルゴリズムが展開される.1例として風呂の湯の熱さという定性的
な感覚を定量化し湯温の制御を行う場合を考える.図6−3(a)に示すように,クリス
プ理論ではあるしきい値を境にして,測定された湯温は熱いか冷たいかのどちらか
に所属する.しかし,本来「熱い」,「冷たい」という表現のもつニュアンスはあ
いまいであり,2億的に扱いながら制御を行うのは不自由さを有する.一方,ファ
ジィ論理では図6−3(b)のようなメンバーシップ関数を用いて,その認識項目に対す
る度合い(グレード)の数値により定量化される.例えば,湯温が40℃であった
場合,クリスプ理論では「冷たい」のグレードが1で「熱い」のグレードが0であ
り,つまり完全に「冷たい」となるが,ファジィ理論では「冷たい」のグレードが
0.6で「熱い」のグレードが0.4となり,つまりやや冷たいというあいまいな認識
を定量化することが可能になる.
ファジィ制御では「湯が熱い場合は水を入れる」というようなプロダクションル
ールにより制御の命題が与えらる.「熱い」という条件部に上述のメンバーシップ
関数が入力され,特定のプロセスを経て「水を入れる」という結論部の注水量を決
定するものである.ここで,高精度な制御を行うためには,命題およびメンバーシ
ップ関数を最適に同定する必要がある.この同定は予備実験あるいは過去のデータ
−119−
をもとに行われるが,ここで経験的な知識を必要とすることから,ファジィ制御は
エキスパートシステムであると言える.
(a)クリスプ論理
(b)ファジィ論理
図6−6クリスプ論理およびファジィ論理による判断値の違い
6・4.2 ファジィ推論を用いた制御システム
つぎに・本成形法で用いたファジィ推論による球面の曲率半径制御のシステムの
概要を述べる・まず,このシステムのフローチャートを図6−7に示す.第1工程は
平板からの成形であり,6・3節で用いたデータベースで簡単に決定できるので,こ
こでは同じものを用いた.
第2工程以後は前工程終了後の成形品の形状データからファジィ推論により修
正加工用のプロセスおよびパラメータが渡される.
−120−
図6−7 フローチャート
ー121−
6.4.3 球面の曲率半径制御への適用例
ここでは,前節の最後に述べた曲率分布が修正工程におけるポンチ押込み量と曲
率半径の変化量の関係に及ぼす影響を考慮に入れ,半径位置により押込み量を変化
させて曲率の分布を修正する制御方式とした.また,制御するパラメータを限定す
るため,成形プロセスは図6−8の外周から中心に向かう周回経路に定め,ポンチ押
込み間隔lpは3mmとし,また成形領域は半径3∼24mmに限定した.
成形品の曲率半径は以下の方法で評価した.
(1)中心より半径25mm以内の成形品の形状データに対して最小2乗法を
用いて球面の方程式をあてはめたときのその球面の曲率半径を成形品の
曲率半径rwとする.
(2)素材の中心よりⅩ軸およびy軸上の4方向の断面形状を平均したデー
タを半径0∼9mm,9∼18mm,18∼27mmの3つの領域に分割し,それぞれ
の領域の曲率半径を最小2乗法により求め,それぞれ半径r=4.5mm,
13.5mm,22.5mmの位置での曲率半径とする.
上記のように3つの領域に分けて曲率半径を求めるのは,4章で議論した球面成
形時の素材上の各領域における変形鱒式の違い,および局所的な曲率の減少化など
の影響により,図3−5(C)のように製品中央部,外周部およびその中間部の3つの領
域に形状誤差の傾向が分類できるためである.
本ファジィ制御のプロセスを図6−9に示す.条件部には前加工終了後の成形品の
形状,成形工具および加工点の位置の情報を入力する.ファジィ推論により決定さ
れる操作部は同図におけるA,B,Cの3点の修正工程でのポンチ押込み量である.こ
の3点の推定押込み量からスプライン関数を用いて各押し込み位置でのポンチ押
込み量を補間する・この押込み量による修正加工後,再度形状の評価を行い,公差
以内(目標曲率半径に対し±0.5mm)でなければ,再度同じプロセスを繰り返す.
今回作成した,球面の曲率半径制御のためのプロダクションルールの一部を表
6−1に,メンバーシップ関数を図6−10に示す.条件部のClは「大きい」,「小さい」
の2項目,C2は「負値」,「正値で小さい」,「正値で中間」,「正値で大きい」
ー122−
の4項目,C3は「中央部」,「中間部」,「外周部」の3項目とした.また操作
部である押込み量は「Z:ゼロ」,「VS:非常に小さく」,「S:小さく」,「M:
中間」,「L:大きく」の5項目とした.プロダクションルールは「もし(吟,Cl
が小さく,C2が正値で大きく,C3が中央部であれば(then),OPは大きく」という
図6−8 成形経路
r=4.5mm 13.5mm 22.5mm
(a)操作対象地点
条件部
Cl:目標曲率半径とポンチ頭部曲率半径との差
C2:現在の曲率半径と目標曲率半径との差
C3:操作対象地点く1点)の半径方向座標
各ポンチ押し込み位置でのポンチ押込み量
(b)ファジィ制御流れ
図6−9 形状修正工程のポンチ押込み量の決定法
−123−
「 Bg
0
10 20 30 40
Cl mm
・\−=−…一三=一・・二__≧…
To
ー10 0 10 20 30 40
C2mm
30
C3mm
・ヾ、、、\\
3
0Pmm
図6−10 メンバーシップ関数
一124−
表6−1プロダクションルール
条件部 (
げ)
操作部 (
仇en )
C l is S m l
a 1,
C 2 is P −
B ig,
C 3 is Inner
C l is S m an ,
C 2 is ●
P −
B ig,
C 3 is O uter O P is L
O P is M
C l is B ig ,
C 2 is P −
B ig,
C 3 is Inn er
C l is B ig ,C 2 is ●
P −
B ig,C 3 is O u ter ●
●
●
O P is S
O P is S
●
●
●
ルールを条件部のすべての組み合わせに対して用意する.これらのプロダクション
ルールおよびメンバーシップ関数は,試行錯誤的に決定したものである.
つぎに,例として目標曲率半径rg。al=75mmの球面を頭部曲率半径Rp=50mmの球
頭ポンチを用いて成形した場合のパラメータ決定の流れを図6−11,6−12に示す.第
1工程終了後のB点における曲率半径が80mmであった場合,条件部はCl=25mm,
C2=5mm,C3=13.5mmとなる.図6−11(a)のメンバーシップ関数より,これらの条
件が該当するプロダクションルールおよびグレード値は同図仲)で表される.ここ
で,操作部のグレード値は条件部のグレード値の論理積(min演算)により表され
る.このグレード値を図6−12に示す換作部のメンバーシップ関数に当てはめ,この
グレード値と各項目の三角形で囲まれた領域の面積の重心となるも軸上の値を次
の修正工程での押込み量とする.本例では次のB点における修正工程での押込み量
は1.53mmである.
このファジィ推論を実際の成形(目標製品曲率半径75.0mm)に対して適用した
結果を図6−13に示す.工程1でのポンチ押込み量dpは過去の成形データより決定し,
これまでの球面成形と同様に素材全体にわたって一定とした.この工程1で得られ
た形状から同図中に示したように各ポンチ押し込み位置でのポンチ押込み量が上
述のプロセスによって推定され,これにより工程2の成形を行った結果,成形品の
曲率半径は目標曲率半径に対して±0.5mm以内となり,目的形状の真球面に対する
誤差もほぼ0.1mm以内となった.また,同じプロダクションルールおよびメンバ
ーシップ関数を用いて各種の曲率半径の球面成形の制御を行った結果を表6−2に示
−125−
す・広範囲の目標曲率半径rg。al=50∼75mmに対して約±0.5mmの精度が得られた.
しかし,rgOal=60・0mmの場合のようにrw<rg。alとなった場合では本プロセスでは修
正加工の適用が不可能であるため,常にrw>r如であることがこの方法の制約条件
となる.
目 標 曲 率 半 径 r g。山= 7 5 m m
使 用 球 頭 ポ ン チ 頭 部 曲 率 半 径 R p = 5 0 m m
B 点 くr = 1 3 .5 m m ) で 現 在 の 曲 率 半 径 r w = 8 0 m m
1
C l = 2 5 m m , C 2 = 5 m m , C 3 = 1 3 .5 m m
三一一一一__
10 20 25 30 40
Cl:目的曲率半径とポンチ頭部曲率半径との差 m
\∴\∵+、
0 5 10 20 30 40
C2:現在の曲率半径と目的曲率半径との差 m
_、、\、\\\\、、ト、
10 13.5 20 30
C3:操作対象地点の半径方向座標 mm
(a)メンバーシップ関数
・C
・C
・C
・C
l is S m d l(
0・
4),
C 2 is P ・
S m an (0 .
8),
C 3 is M id dle (
0,
8 7)⇒O P is M (0 .
4)
l is S m an (
0・
4),
C 2 is P −
S m an (0 .
8),
C 3 is O u ter (
0.
13 )⇒O P is S (0 .13)
l is B ig (
0・
6 ),
C 2 is P −
S m an (
0.
8),
C 3 is M id dle(
0.
8 7 )⇒O P is V S (
0.
6)
l is B ig (
0・
6),
C 2 is P −
S m al 1(
0.
8 ),
C 3 is O u ter (
0 .13)⇒O P is V S (0 .
13 )
仲)該当するプロダクションルール
図6−11ファジィ制御プロセスの操作例
(条件部およびプロダクションルール)
−126−
佃を独=労回議∨≠葛餅智︷dp
囲?−N︰Y﹁℃’萱馨亘口付知日藩秦壷
︵藩扁碧︶
Ⅱ繭昏倒♯閣 r呈=声○ヨヨ
←
︵a︶ 環副苛莞
■
■⊂
ヨ g
ヨ
N
く>
く>
く> _
_
▲
く⊃
−
l く>
−
l
一
_
▲
○
l
N
く>
l
tJ
O w m m
日のPNヨヨ
e︶ 皿冨苛栄一〓彗叫か胆帥
H藤一什刃︹
︵C︶ 環副苛藻
︵d︶ 皿冨苛朱一日茸すか邪恥
国?−∽ uN℃\諌卦呼遍て汁常軌8昏倒塞詞萱蜜豆
−︼N﹂−
ヨ
三 g
山
〇
−
く>
l く>
_
_▲
0
岩
.
l
−
く>
l
N
く>
l
GJ
く>
Ow m m
‖↓皐.∽ヨヨ
表6−2 各種曲率半径の制御例
成 形 品 の 曲 率 半 径 rw m m
目標 曲 率 半 径
rgoal m m
工程 1
工程 2
工程 3
工程 4
(
デ ー タ ベ ー ス ) (フ ァ ジ ィ制 御 ) (フ ァ ジ ィ 制 御 ) (フ ァ ジ ィ 制 御 )
50 .
0
5 7.
1
5 2.
8
60 .
0
6 7.
1
59 .
3
75 .
0
83 .
2
74 .
5
52 .
5
50 .
5
74 .
7
6.5 まとめ
本章では,インクリメンタルフォーミングにおける形状制御システムに関する検
討を行い,データベースおよびファジィ推論を用いた形状制御プロセスを提案した.
これらを,球面成形品の曲率半径制御に適用しその有用性を示した.具体的に得ら
れた結果は以下の通りである.
(1)曲面の成形プロセスを第1工程と修正工程から構成し,それぞれの工程に対
してデータベースを用意し,これによりポンチ押込み量もを決定して球面の曲率
半径の制御を行った・その結果高精度な曲率半径の制御が可能となったが,任意の
曲率半径および曲率分布に対応するには莫大なデータベースを必要とするのが実
用化に向けた問題点である.
(2)(1)の問題点に対して,定性的な表現を用いたプロセスを有するファジィ推論
を修正工程に導入し,ポンチ押込み量dpをそれぞれの半径位置で決定する方式で
制御を試みた・その結果同一のプロダクションルールおよびメンバーシップ関数で,
広範囲の曲率半径(rw=50∼75mm)にわたり曲率半径誤差および形状誤差の小さ
い高精度な球面が得られた.
−128−
<第6章の参考文献>
1)中島,”鍛金加工の数値制御化”,塑性と加工,20−223(1979),696.
2)長谷部・島,”ハンマリングによるフレキシブル成形法に関する研究”,塑性と加工,
35−406(1994),1323.
3)金子・北澤,”パレット逆推論に関する予備的検討”,第44回塑性加工連合講演会
論文集,(1993),605.
4)Osakada,K.,Kado,T.,Yang,G.B.,”ApplicationofAI・TechniquetoProcessPlanning
OfColdForging”,AnnalsofCIRP,Vol.37(1988),239.
5)小豆島,”冷間鍛造工程設計におけるエキスパートシステム”,塑性と加工,
34・387(1993),376.
6)中西ほか6名,”知識ベースを用いた冷間鍛造工程設計支援システム”,塑性と加工,
34・387(1993),416.
7)菅野,”ファジィ制御”,日刊工業新聞社,(1988).
8)寺野・浅居・菅野,”応用ファジィシステム入門”,オーム社,(1989).
9)鹿田,”ファジィ推論アルゴリズム”,塑性と加工,32・361(1991),124.
ー129−
第7章 結論
本研究では金型を用いないフレキシブルな金属薄板の新しい成形法として弾性
工具を用いたインクリメンタルフォーミングシステムを提案し,様々な曲面の成形
を可能にするプロセスの開発と成形の高精度化に関する検討を行った.得られた結
果は以下の通りである.
(1)弾性工具を用いた新しいインクリメンタルフォーミング法を提案した.この
成形法は,1組の工具で素材を局所的にプレス動作を繰り返して曲面形状を成形す
る方式であり,少ない種類の工具で多様な曲面形状を成形することができ,その表
面性状は工業的に十分な品質をもつ.
(2)球面は球頭剛体ポンチと上面が平坦な弾性ダイスにより成形できる.この工
具を用いて成形される形状は加工経路により大きく依存する.直線往復走査的な加
工経路を用いた成形では経路の主方向に曲げ変形が蓄積して,2つの主曲率の大き
さが異なる楕円的な曲面が得られる.一方,周回的な加工経路を用いた成形では特
定方向に曲げが蓄積しないため,軸対称な曲面が得られる.また,球面成形品の形
状誤差は同一加工経路の繰り返しにより減少し,素板の直径が60mm,製品の曲率
半径が50mmの場合では最大誤差0.1mm程度の高精度な球面が成形できる.
(3)球面成形において外周から中心へ向かう周回経路を用いると中心部の曲率が
大きくなり,一方,中心から外周へ向かう周回経路では反対の傾向を示す.この原
因は球頭ポンチの押込みにより1度生成された曲率が近傍のポンチ押込みにより
ダイスからの押上げ力を受けて減少するためである.また,素材外周部での加工で
は加圧領域の外側が起き上がり絞り変形を生じ,中央部の加工では加圧領域の内側
が沈み込み張出し変形を生じる.
(4)楕円的曲面は球面を予成形する第1工程と球頭剛体ポンチおよび半円柱状弾
性ダイスを用いた第2工程から構成されるプロセスにより成形できる.また,この
曲面の2つの主曲率半径は予成形球面の曲率半径と第2工程のポンチ押込み量に
より制御できる.
(5)双曲的曲面は稜線が交差するように配置された1組の半円柱状の弾性工具に
より成形可能である.このプロセスにおいて球面成形の場合と同様に工具押込み点
−131−
の移動により既成曲率が減小化し,加工の進行方向に向かって曲率が大きくなる.
しかし加工経路を往復させれば各方向に生成される曲率分布が平坦化される.した
がって2つの主曲率の絶対値が等しい双曲的曲面は,直線的な加工経路を主方向お
よび副方向にそれぞれ往復させるプロセスより成形できる.
(6)複合曲面あるいは一般的な自由曲面を成形する場合に必要となる素材保持の
自由度を確保するために・多関節ロボットを用いた板材保持装置を開発した.
(7)(6)の装置を用いて1つの球面と1つの双曲面から構成される複合曲面の成形
を試みた・この複合曲面を「球面→双曲面」あるいは「双曲面→球面」のプロセス
で成形すると・得られる成形品形状の各基本曲面の接続部で目標曲率に対する大き
な誤差を生じる・これは後工程側の曲面の成形時に先工程で成形された曲面の境界
部分が変形するためである・この問題に対して,「均し工程」を導入することによ
り境界部の曲率の誤差を減少させることができる.
(7)曲面の成形工程を第1工程と形状修正工程に分割しそれぞれの工程に対して
データベースを用意し,曲面の形状制御を行うシステムを提案した.これを球面の
曲率半径の制御に適用し・目標曲率半径に対し0・1mm以下の精度を得た.この方
式の問題点は,様々な製品曲率半径および曲率分布に対し,数多くのデータを必要
とすることである.
(8)(7)の問題点を解決するために,定性的な表現を用いたアルゴリズムから成り
立っファジィ推論を形状修正工程に導入した.その結果同一のプロダクションルー
ル群およびメンバーシップ関数で比較的広範囲の曲率半径にわたり目的曲率半径
に対し0.5mm程度の形状制御が可能となる.
一般的な型プレスによる板材成形品の寸法許容差は,30∼120mmの寸法に対し
て±0・15mm(A級)から±1・1mm(E級)までの5等級がJISBO407により規
定されている・本インクリメンタルフォーミングシステムではファジィ制御を用い
た場合で直径60mmに対し,±0・5mmの精度が得られた・この精度はC級に属し,
ほぼ一般的な精度での板材成形が実現できた.
以上のように,本論文は実際の工業的適用に耐えうるインクリメンタルフォーミ
ングの新しい手法を提案し,その可能性と全体像を示すことに大部分を費やしてお
り,実用システム開発の先駆けとなるものであった・最後に,本論文に続く研究が
−132−
今後展開すべき方向をプロセスのシミュレーションと併せて以下にまとめて示す.
本研究で残された最大の課題は,成形プロセスの自動生成であるが,塑性力学な
どの厳密な理論に基づく数値シミュレーションを利用して,プロセスを生成するこ
とは不可能である・一方,本間題をェキスパートシステムのみにより解決すること
も難しい・1つの可能性は,変形に対する簡易モデルに基づくシミュレーションを
ベースにして,様々な最適化手法をこれに適用する手法である.そのモデルの基礎
になるのが4.4節での考察である.つまり本成形法における素材の変形は,局所的
な面内2軸伸びひずみとGauss曲率の符号により要約できる.これらのひずみは,
適合条件式などの幾何学的制約条件を用いればある程度限定できる.このひずみを
プロセス全体にわたり積分すれば成形品形状を評価できる.したがって,このひず
み分布の具体的な形を求めることがまず必要である.
技術・技能労働者人口の減少および熟年技術者の経験,知識の伝授が問題となっ
ている現在,インクリメンタルフォーミングに対する期待は大きい.したがって,
本システムの早期の実用化が望まれているところである.
ー133−
謝辞
本研究の遂行にあたり,終始懇篤なる御指導および御鞭接を賜りました静岡
大学 田中 繁一 助教授に心より厚く御礼申し上げます.
また,本研究について常に適切なる御助言と御指導を賜りました静岡大学
中村 保 教授に厚く御礼申し上げます.
さらに,本論文の作成に当たり審査の労をとられ,有益なる御助言を賜りま
した静岡大学 松田 孝 教授,沢木 洋三 教授ならびに野飼 亨 教授に
厚く御礼申し上げます.
また,本研究について種々有益なる御助言を賜りました静岡大学 平岩 正
至 助教授に心より感謝の意を表します.
そして,種々の実験を行うにあたり常に御指導をいただいた今泉 晴樹技官,
協力頂いた静岡大学卒業生 長谷川 孝 君,岩田 雅明 君,林 靖史 君,
横井 裕也 君,鈴木 学 君および静岡大学機械工学科生産加工研究室の皆
さんに感謝の意を表します.
最後に,本研究を6年間にわたり遂行することに対して快諾を頂いた父 広
其および母 恵美子に心よりの感謝の意を表します.
−135−
関連論文目録
<投稿論文>
1・松原・田中・中村,“弾性工具を用いた逐次プレス板材成形法による薄板の曲面成形
(第1報 成形法の提案と基本曲面の成形)”,日本機械学会論文集C編,60−573(1994),
1835−1842.
2・松原・田中・中村・‘‘逐次プレス板材成形法による球面成形に関する考察”,
塑性と加工,35・406(1994),1330−1335.
3・松原・田中・“逐次プロセスによるフレキシブル板材成形システムの開発”,
静岡大学大学院電子科学研究科研究報告,16号(1994),95−103.
4・MatsubaraM・,TanakaS・andNakamuraT・,“DevelopmentofIncremental
Sheet−Metal−FormingSystemUsingElasticTooIs”,JSMEInternationalJournal,
Vol・39No・1C(1996).【掲載予定】
<口頭発表論文>
1・田中・中村・平岩・今泉・松原,“制御逐次プレス板材成形による曲面創成”,平
成4年度 塑性加工春季講演会論文集,(1992),545−548.
2・田中・中村・平岩・今泉・松原,“制御逐次プレス板材成形による曲面創成(各種
基本曲面の成形)”,第43回 塑性加工連合講演会論文集,(1992),433・436.
3・田中・中村・平岩・今泉・松原,“制御逐次プレス板材成形による曲面創成(第3
報成形メカニズムに関する考察)”・平成5年度 塑性加工春季講演会論文集,(1993),
4・田中・中村・平岩・今泉・松原,“制御逐次プレス板材成形による曲面創成(第4
報 球面の成形過程に関する実験的検討)”,平成6年度 塑性加工春季講演会論文集,
(1994),567−570.
5・田中・中村・平岩・今泉・松原,“制御逐次プレス板材成形による曲面創成(第5
報 形状制御に関する試み)”,平成6年度 塑性加工春季講演会論文集,(1994),
6・田中・中村・平岩・今泉・松原,“制御逐次プレス板材成形による曲面創成(第6
報 双曲的曲面の成形メカニズムおよび形状制御)”,平成7年度 塑性加工春季講演
会論文集,(1995),207−208.
7・松原・田中・中村・平岩・今泉,“制御逐次プレス板材成形による曲面創成(第7
報 複合曲面の成形)”,第46回 塑性加工連合講演会論文集,(1995),45−46.
ー136−