Laue 斑点の固有ひろがり

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Title
Laue 斑点の固有ひろがり
Author(s)
柴田, 昇; 岩永, 浩
Citation
長崎大学教養部紀要. 自然科学. 1969, 10, p.21-27
Issue Date
1969-12-25
URL
http://hdl.handle.net/10069/16462
Right
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21
Laue 斑点の固有ひろがり
柴田 昇・岩永 浩
(昭和44年9月30日受理)
A Method
of Estimating
Noboru
the Proper
SHIBATA and
Length
Hiroshi
of a Laue Spot
IWANAGA
Abstract
To determine
Laue
spot
radial
length
taken
distortion.
of
by
the
A method
employing
x-ray
planes
the
photographic
spots
from
crystal
has been
exist
emulsion.
a ZnO crystal
lattice
micro-beam
corresponding
is considered
those
I
the
"effective
specimen
that
precisely
tilting
technique,
Laue
developed
the
or
it
spot
when
to estimate
of
to be
composed
of
a set
of
in the
effective
area
can
diffract
taken
for
of the
by x-ray
is
x-ray
application
micro-beam
from
the
necessary
the
the
area"
An example
specimen
twist
to
crystal
proper
diffraction.
parallel
lattice
sufficient
to
technique
an
radial
length
estimate
of
the
a
proper
is
completely
free
from
length
of
Laue
spot,
method,
the
In
planes.
x-ray
investigation
the
this
It
is supposed
beam
to
of
the
blacken
Laue
is illustrated.
緒論
Laue斑点の形状,ひろがりはLaue斑点を与える試料結晶格子面の形,大きさ,傾き,
ねじれ等の欠陥, Ⅹ線源の大きさ,コリメ-ターと関連してのⅩ線照射領域のひろがりやⅩ線
束の発散,フイルムの形状,位置などによって決まるLaue斑点のひろがり,形状から結晶
格子面の回転,ねじれ等を推定するためには,結晶が完全である場合の格子面の幾何学的条
件, Ⅹ線源のひろがり,コリメーターの大きさ,それらの相対的配置によるⅩ線束の発散角,
試料のⅩ線照射領域の結果として生じるLaue斑点の間有ひろがり-幾何学的ひろがりを知
っておく必要がある。微小焦点Ⅹ線源を用いた場合,結晶格子面の幾何学的条件はLaue斑点
上にかなり忠実に表われてくるので, Lauc斑点の固有ひろがりを無視することはできない。
DragsdorfとWebb15はAI203 whisker中の格子面のねじれを,微小焦点Ⅹ線源と円筒
フィルムを用いた場合の赤道線上のLaue斑点の傾きから求めLaiとPeneva2)は同じ方
法によってえられたLaue斑点の形状から,斑点を生じる格子面の法線方向のずれを求める
柴田昇・岩永
22
浩
方法を展開しCd whisker中の転位の研究に通用した。
我々は微小Ⅹ線束法(X-ray micro-beam法)を用いてZnO単結晶のLaue写真をとり,
結晶の完全皮と結晶成長の関連について研究を行っているが, LaトPenevaの式に従って格子
面の傾きを知る際にeffective radiusなる量を導入して, Laue斑点の固有ひろがりを算定す
る方法を考えたので,それについて報告する。
Ⅱ Laue斑点のひろがり
1.格子面の回転とLaue斑点の半径方向のひろがり
平面フイルムを用いた場合のLaue斑点の半径方向のひろがりをAy′,格子面の回転角を
∂pとすると,
Ay′-1霊P
s<p
(1)
なる関係があり3),この式がLaue斑点のひろがりから,格子面の回転角を求めるのに用い
られている。ここでβはBragg角, poは試料,フイルム問距離である。この式は,完全に平
行なⅩ線束が,大きさを無視できる結晶に入射し,格子面からBraggの条件に従って鏡面反
射をした場合,格子面の回転にともなうLaue斑点のひろがりについて記述してあるのみで
ある。換言すれば, Ⅹ線の回折方向のみを問題にし'て,試料の形,大きさ,それにともなう回
折にあずかる格子面の形状,入射Ⅹ線束の発散角などがLaue斑点に及ぼす影響を無視してあ
る。
微小Ⅹ線束法においては, Ⅹ線照射領域がせまく, Ⅹ線束の発散角も小さいので, Laue斑点
に対する格子面の形状,大きさの効果を無視することができ, (1)式が妥当するように思われ
る。しかしこの場合にはLaue斑点のひろがり白身が非常にせまくなり,照射領域がせまい
と,その中での格子面の傾き,ねじれ等も小さくなるので,格子面の幾何学的形状, Ⅹ線束の
発散角等を無視してLaue斑点の形状から格子の傾き,ねじれ等を求めることは,分単位あ
るいはそれ以下の角変化を問題にするときに適当でないことは明らかである。
LalとPeneva2>はLaue斑点を生じる試料結晶中の格子面の傾きによる格子面の法線の
ずれをLauォ斑点のひろがりから求める方法を展開している。しかしその計算の中では,読
料の厚さによるLaue斑点のひろがりは考慮されているが,入射Ⅹ線に垂直な方向の試料のひ
ろがりや, Ⅹ線源のひろがりがLaue斑点に及ぼす効果について充分考慮されているとは言
いがたい。我々は格子面が完全で,吸収が無視できる場合のLaue斑点の固有ひろがりを求
めるため, Ⅹ線照射領域のうち,実際にフイルム乳剤黒化に役立ちLaue斑点のひろがりを与
えるものの目安として, effective radiusなる昌を導入する計算法を見出したので,以下これ
についてのべる。このような固有ひろがりはLalとPeneva2>の式を用いて格子面の傾きを
求める場合Laue斑点のひろがりを補正するものとして用いることができるであろう。
Laue斑点の固有ひろがり
23
2.格子面のひろがりの効果
第1図は厚さ2doの板状結晶試料に,試料面に垂和こⅩ線が入射した場合の入射面の図
ある。試料のⅩ線照射領域は,底面の半径ro,高さ2doの円筒で近似でき,第1図にはこの
円筒の入射面による断面がAECDで示してある。円筒の中心0にⅩ線源の焦点内の一点S
の入射Ⅹ線SO(S百-R<とおく)が試料表面に垂直に入射するとする。この円筒状照射領
内の0を通る一つの格子面の入射面による断面をPip
l^2とする。Sを出たⅩ線が点Pi,O,Ps
においてこの格子面から回折され,入射Ⅹ線に垂IHに,0からDoだけ離なされた位置に
れた平面フィルムFF′上のFi,Fo,F2に達するとする。OS方向にx軸,それと垂直
に,フイルム面と平行にy軸をとり,Fi,O,F<のy座標をそれぞれyuyo,y%とする。
第1図:入射面におけるX線回折のgeometry.
このような格子面Pip
l^2に平行な格子面群によって生じるLaue斑点のひろが
ため,まずPip
l^2白身によるフィルム上の半径方向の斑点のひろがり
みる。以下においてLaue斑点のひろがりという場合には
味することにする。SOなるⅩ線が,0点において格子面P
l^2から回折される場合のBragg
角をβとすると,Pi,p2におけるBragg角はそれぞれβdQtanO′dQtanO
∂01-してJ
βol′
VV⊥ Ro+dQ ⊥ Ro-do
であるが,実験条件ではRo≫ doであるので
dotanO
SOi-SOj
′--一一-
RQ+do
(2)
なる値を用いてよい。従って. Pi. p2による回折線のy座標は
y2-(Do+dQ)tan(20+8dl)-r1
(3)
3>i- (」>0-</o)tan(20-80i)+ri
たゞし
ri-dotznO
(4)
柴田昇・岩永浩
24
である。tanの項を展開し,∂β1の二次以上の項を省略すると
Jyi-2dQt2Ln20-2ri+2」>010isec220(5)
となる。ここで第1項は明らかに試料の厚み2doから生じるLaue
項,第5項はBragg角変化によるひろがりを与える項で.(1)式と
場合,βの変化はⅩ線を発散させる効果をもつことを示してい
垂直な照射面積に対応するひろがりを与えるものと解釈される
SOに関して反対側にあるため,斑点のひろがりを打消す効果-例
あれば,PlがSOの延長上にある場合にくらべて,Plによる回折線
なる-があることを示している。このことから考えても,試料の
ろがり(横方向のひろがり)の効果は(5)式の中に充分とり入れ
5.試料の横方向のひろがりの効果
2.でのべた試料の横方向のひろがりの効果をとり入れるため,
てPip
l*2に平行な格子面が存在するとして,それらによる回折線のフ
ろがりを考える。これらの回折線のうち,両極端のy座標を与え
るPipsに・lrな格子面による回折線で,それらのフイルム上のy
とすると
yA-(i*0-<*o)tan(20+102)-ro
yc-(Ro+do)加(20-∂Oft)+ro i
(の
ro
(7)
I;oごKO
となるから,求める斑点のひろがりJy2-yc-yAは, (5)式の場合と同じ近似を用いて
4y2
-2do¥axi20
+2γ0
-2」>o∂<92seニ220
(8)
となる。 (5)式と同様,この式の第1項は試料の厚さの効果, 2roは試料の横方向のひろがり
による効果を与え,第5項はBr之号g角の変化∂02による効果であるが,この場合, 102の
効果は(5)式の場合と巽って, X線を収赦させる効果をもつ。
微小Ⅹ線束法においては,入射X線は50 fjt程度のコリメ-メ-を通るために強度が弱く,
Ⅹ線の照射領域も50-60 /x程度であるので,写貢撮影に100時間程度の露出が必要であるこ
とから考えて,第1凶のA点, C点近くのせまい格子面からの反射強度はかなり弱く,フイル
ム乳剤の黒化に充分役立つか否か疑問である。従って. (8)式で与えられるL∂.ue斑点の固有
ひろがりは少しoverestimateになっているおそれがある。この点を補正することは決して単
純でないが,我々は以下のべるような取扱いを行った。
4. effective radius
第1図においてPIP2に平行な格子面Pl′B. P5′Dは格子面PiPsと同じ面積だけX線
照射をうけるからBPs′DPl′なる領域からの回折線はフィルム乳剤を具と化させるのに充分
Laue斑点の固有ひろがり
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な強度をもつと考えてよい。この領域中のPiPsに平行な格子面による回折線のフィルム上
の固有ひろがりAy3は,点Pl′とP2′における格子面からの回折線によってきまるから,
PIノ, P2′からの回折線のフイルム上のy座標をそれぞれyl′, y2′とするとJV3-y2′-yl′
で
Jys
-2dQtan20+2(ro
∂β3-
-2dotznO)
-2Do∂03′sec220
ro -2dotanO
Re
となる。 (5), (8)式と同様,この式の第1項は試料の厚さの効果を,第5項はBragg角変化
の効果を表わしている。第2項は試料の横方向のひろがりの効果を表わす項で,これは(8)式
の2roと(5)式の-2dQ¥2indの2倍の和になっている。最大に見積った試料の横方向のひろ
がりの効果2roと(9)式の2(ro-2dotanO)との差は,第1図でABPa′ CDP5′の領域か
らの回折Ⅹ線に対応するものと考えられる。これらの領域内の格子面からの回折線のうち,ど
こまでのものが実際にフイルム乳剤黒化に充分の強度をもつかを決定することは,試料による
Ⅹ線の吸収を考えなくても単純な問題ではない。しかしこの項は最大値が2roであること,格
子面と入射Ⅹ線とのなす角- Bragg角6-に依存することは確かである。従って,試料
の横方向のひろがりによる効果を
2re-2(ro
-g<*otanO)
(
1
1
)
とおくことができる。たゞLgは0≦g≦2なる値をもち, 」-0ならば試料のABCD領域
からの回折線がすべて乳剤黒化に有効であるとした場合((8)式の場合), g-2ならば試料の
DPl′BP2′領域からの回折線のみが有効であるとした場合((9)式の場合)に対応する。 gは0
の関数と考えられ,試料,コリメータ-, Ⅹ線源等の実験条件によって変わるであろう。
γ。は底面の半径roなる円筒状の照射領域の横方向のひろがりのうち,どれだけの部分が
吸収も含めて写真乳剤黒化に有効であるかを示す量であると見ることができるので, "effetive
radius"と呼び, reを半径とする円を"effective area"と呼ぶことにする。 Y。またはgは,実
験によって求める外ないが,その場合には,照射領域における結晶の完全度が充分よい試料を
用いなければならない。
4. X線源のひろがりの効果
今までのべてきたLaue斑点の半径方向の固有ひろがりは, Ⅹ線源の焦点上の一点から出た
Ⅹ線によるものである。 Ⅹ線の実効焦点の大きさが, Sを中心とする半径xoの円であるとす
ると,格子面上の一点に入るⅩ線の発散角AOは,試料の照射領域のすべての点について近似
的に
(12)
で与えられるとしてよい。このⅩ線の発散角』βのため, Sから出たⅩ線が格子面上の任意の
点で回折されてフイルム上に生じるLaue斑点のまわりに
柴田昇・岩永浩
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dy4- 』βかosec22β
(13)
だけのひろがりをもつことになる。
以上のことから,厚さ2doの完全度のよい試料の表面に垂直に半径roなる円形領域に, Ⅹ
線が照射された場合のLaue斑点の固有ひろがりAyは
Jy-2dotea20+2(.rQ -gdotenO) - (2∂03 -40 )Dosec226
(14)
で与えられる。
Ⅲ一つの適用例
我々はZnO結晶成長機構研究のため, ZnO結晶をⅩ線的に研究している4)。第2図(a)は
ZnO結晶の成長初期に見られるrod状結晶の微小Ⅹ線束法によるLaue写真である。この
rodの大きさは,長さ0.5mm,巾0.2mm,厚さ0.15mm醋度である。 rodは〔2110〕方向にの
び,側面は(0001)と(01了o)とによってとりかこまれていてLaue写真は(DDQl)面に垂
直にⅩ線を入射させたものである。撮影条件は第1図でD0-21mm, i?0-165mm, 2ォ00.15mm, 2r0-0.06mm, 2*0-0.05mmである。第2図(b)はLaue写真の〔1210〕 zoneに
属する(2021), (3032), (40由), (10千1)斑点の部分を5倍に拡大したものである。フィル
ムは表裏二重に乳剤が塗布してあるので,写真では斑点がかなり長く見えるが,裏面の乳剤を
けずり落した後に観測される斑点のひろがりdyは第1表に示した通りである。表には(14)
式を用いた固有ひろがりと,それらから求めた
格子面の回転角を示してある。この表からみ
て,結晶の完全度がよい場合には斑点の固有ひ
ろがりが重要な意味をもちeffective radius
を充分考慮しなければならないことがわかるO
ただhigh angleのLaue斑点のひろがりがあ
まり大きくないのは,写真の露出が充分でない
というおそれや(この写真はCu対陰極, 50kv
0.3mAの条件で100時間露出してある), Ⅹ線の
吸収が考慮されていないこと,厚さの効果に対
する補正がなされてな
いことと関係がないと
はいえない。これらの
うちeffective radius
の中にくみこみうるも
のについては,実験的
にgあるいはr。を決
(b)
第2図(a):微小Ⅹ線法によるZnO結晶からのLaue写真.
(b) : (a)の〔1210〕 zoneの拡大.
Laue斑点の固有ひろがり
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定すればよいが,そのような形で補正できない項については別に考慮しなければならないこと
は当然である。
第1表Laua斑点のAyとひろがりの実測値A}
((1011)斑点の測定値は斑点がうすいため正確でない)
Jy (m ra )
h id
- g- 0
i
-
g= 2
一
0 .08 一 0 .16
2 02 1
0 .14
3032
……
…… ir 0 .10
40由
10 11
∼
j F fm m ) 堊
I
∂P
1.2 ′
< ∂ォ
< 4 .9 ′
0 .16
2 .9 ′
< ∂P
∼
,
: ‥:; ( 0 .18
2 .9 ′
< 8P
-l
< SV< 2 .7 ′
)
(0 .30) (0 .5 ′
i
∼
References
1) R. D. Dragsdorf and W. W. Webb :J. appl. Phys. 29 (1958) 817.
2) K. Lai and S. K. Peneva :J. appl. Phys. 39 (19占8) 5474.
3) A. Taylor : X-ray Metallography, (John Wiley and Sons, 1961) P. 757.
4)岩永浩,柴田昇:長崎大学教養部紀要,自然科学9 (1969) 29.