1 2 両生類のよ うに人間 は再生できるようになるのか? " Reg ener at i vehuman. "I si tmer edr eam ordel us i on? 佐藤 伸 AS S i s t antpr of es s o r ,Aki r aSat oh,Ph. D. 岡山大学異分野融合先端研 究 コア ( R CI S) Res ear c hc or ef b∫i nt er di s c i pl i nar ys c i enc es う . 1)石 尾両生類 は特殊 で、人間には まねで きない。 2)進化の過程で高等脊椎動物 は失ったが、有尾 両生類では維持 されているO よ進そ る 有尾両生類 (イモ リ ・ウーパ ールーバ な ど)は高 い再生能力 を持 ち、その高 い再生能力 は長年研 究者 の研 究対象 となって きた。有尾両生類 は手足 を欠損 して も失 った構造 をl ui 復 で きるO再生能力 は手足 に とどまらず 、脳、鯉 、顎、脊椎 、脊髄、尻尾、内臓 等多岐 にわたって確認 されてい る。 この ような高い 再生能力は有尾両生類 だけの ものなのであ ろうか ? なぜ 人は有尾両/ 生類の ように再生で きないのか ?こ の答 えには_ ∴つの 叶能性 を上げることがで きるだろ 1の場合、人間が有尾両生類の ように再生で き うになることは無 い だろう。 しか し、 2の場合、 化の過程 で 再生の機能が 「眠 った」のであれば、 れ をE j党 め させ る こ とは不 可 能 で は ない だろ う。 我 々は現在 までの研 究成果 か ら 2である可能性が高 い ことを兄いだ しているO では、有尾 両生類の 再生 機構 は どの ような ものであるのか を紹介 したい。 ヒ トの四肢 を切 断 した と きの 再生反応 と比べ る と、② の段階で大 きな差が既 に存在 してい る。切断 後有尾向日: . 類 は速やか にその切断面 を 上皮が覆 う事 がで きるo反対 に高等脊椎動物 は連やかな と皮の移 動 は起 こらないo Lか し、その L皮の移動能力の差 は既 に埋 め られることが研究 で判明 している ( 共同 ( 1 ) 通常 の有尾 両生類 の 前肢。組織 構成は人間の四肢 の 成分 とほ とん ど変 わ らない。切片の組織像 も同 じ。 ( 2 ) 切断 による切断面 を周囲の上皮が覆 う。 - ・ : . : ・ ( 3 1切断面珊 瑚より未分化 な細胞が産生 される。 この未分化 な細胞 は = 再生芽細胞" とよばれ、 切断面 よ り先端部 に形成 され る 「 隆起」 は " 再卑芽日 と呼ばれる。 ( 4 )再生芽はl J _ q肢 の 「 発生過程」 を模倣 し、構造 を 再構成す る。 「 発生過程」 とは卵の中で起 こる 受精卵 か ら個 体形 成 までの 一連 の事 象の事 で あるO 1 3 研 究 :近 日発表予定)。有尾 両生類 では切 断面 の被 覆後 、切断面 にある神経 束 と移動 して きた上皮が粕 互作用 し、上皮が A E Cと呼 ばれる構造 に特殊化 され る。 この特殊化 された上皮の成否が 、両生粕の再生 が起 こるか起 こらないか を決める と考 え られる ( 参 考文献 1 ) 。両生類の再生が引 き起 こされ る場合は、 上記の ような 「 再生反応」が起 こる。では、A E Cの誘 導が起 こらず、再生反応が誘導 され なかった場合は どの ような反応が起 こるので あろ うか ? 私 た ちの 研 究室では、再生が起 こらなかった時の反応 に着 E l して研究 を行 った。その結果 、人間 と極めて近い 「 修 復 反応が起 こる」 ことを突 き止め た。 この研究が な され るまで、有尾両生頬 は 「人 とは異 なった再生能 力 しか有 さない。 したが って、再生 に失敗 した とき は人 と同 じような修復 反応す ら起 こらない」 とも考 え られて きた。 しか し、私 た ちの研究 に よって 「 有 尾 両生類 もヒ トと同 じ再生 ( 組織修復 )能力 を有す る。ただ、A E Cがで きた ときには有尾両生類 に特徴的 な再生が誘導 されるだけ」 とい う観点 を与 えること がで きた。 人 と同 じ再生能力 を有尾 両生勤が維持 し ていることを示す ことで、有尾両生類の再生研 究の 価値 を結果的 に高 めた と考えることが で きる。 有尾 両生類は腕一本落 として も再生で きるが、た った 2n l mの骨の欠損 は再生で きない とい う事実があ る ( L A2)。 この事象 に焦点 を当てて私たちの研 究 グループは研 究 を行 った。 この時 に A E Cの誘導 は起 こってお らず、 ひいては有尾両生類 に特徴 的な再生 も誘導 されていない ことは、分子 生物学的手法 によ って明 らかになった ( 参考文献 1)。この分子生物学 的解析の詳細 を触 れることは避 けたい。組織学的な 観察か らは高等脊椎動物 で骨折時 に起 こる 「 軟骨 カ ルス形成」 と同様 の観察像 を得 ている ( 図 3)。 ヒ トな どの高等脊椎動物 では骨折や上図の ような損傷 を骨 に与えた ときには、その損傷部 に軟骨性の カル 図 ス とい う構 造 が作 られ る こ とは周 知の事実 であ る ( 参考 2)。この高等脊椎動物で報告 されているカル スと、有尾両生類の骨損傷時の カル ス形成 を比較 し た。 カル ス軟骨 の形成 プロセ スや、細胞増殖等 を検 定 した ところ高等 脊椎動物 のカル ス形成 と相同の も のである可能性が 強 く示唆 された。 さらに、これが 高等脊椎 動 物 と同様 の軟 骨 カル スであ るの であれ ば 、 高 等 脊 椎 動 物 で 報 告 され て い る BMP( b one mor pl l Ogeni cpr ot ei n)に対 す る応答性 を示す はず で あるO高等脊椎動物では BM P の インプ ッ トによって 損傷部 に形成 され る軟骨 カル スの著 しい増大が観察 されている ( 参考 3) .有尾両生類 で も同 じ作用 を BM P が呈す るのか どうか を検 証す るため に ヒ トリコ ンビナ ン トB MP2を骨の損傷部 に適用 した。毛1 毛両生 類の軟骨性 カル スは高等脊椎動物 での反応 と同様 に 増大 した ( 図 4)。 この こ とか ら有尾両生類の骨の 損傷時 に起 こる反応 は ヒ トと同様 であることが示唆 される。 先述 したが、私 たちの研 究 グループは A ECの誘導 が有尾両生類特 異的 な再生の引 き金 になっているこ とを見つけてい る ( 参考文献 1 、4、5)。上記の骨の 損傷の場合、通常 では A E Cは誘導 されない。私たち の研究成果が正 しければ骨の損傷部 に A E Cを人為的 に誘導 してやれば損傷部 に有尾両生類特 異的 な再生 反応 を促す ことがで きるはずである。 A E Cとは上皮性 の構造で Sp9十,Fgf 8+,Br dU-の細胞集団 と して認識 される ( 参考 文献 6、7、図 5) 。実際 には損傷部 を 被覆す る上皮の般下層 が A E C と して機能 している よ うである。 この 上皮性 の A E Cは通常では骨の損傷郡 に重積 的に働 き掛 けることはで きない。なぜ な らば、 骨 と上皮の間 には非常 に厚 い筋 肉層 などが存在す る ため、損傷部 と A E C との直接 的 な接触 が妨げ られる か らである。 したが って骨損傷部 と上皮 を隔てる筋 層 などの組織 を外科的 に取 り除いた後 に A E Cを誘導 す る試 み を行 った。 その結果 、修復 されなか った骨 の損傷が再生 している個体 を多 く認めることがで き た ( 図 6)。 ヒ ト型の再生 ( 修復)では骨の損傷 は再生で きない ことは上記 の とお りである。ゆえに、 損傷部 に直接 的 に作用で きる A E Cの誘導 によって両 生類型 の再生反応が誘導 され、骨 の再生が促 された 可能性 が高い。 この事 実 を確認す るため に分子生物 学的 なマー カー遺伝子 の党規 を調べ た ところ、有尾 両生類型の再生 に特異 的 な遺伝子の発現 を認め るこ とがで きた ( 参考文献 日 。 この こ とか らもヒ ではない再生反応系が A E Cによって誘導 された と 2 有尾両生類 (ウ ーパー ルーパー)は腕 丸ごと は再 生で きる が た っ た 2mm 程度 の骨の 損 傷は再 生できない 二 塾 忘 重 ● . . . ,:∴ き ヲ ㌻. ● __ 転 図 3 骨の損傷時に観察される力J L / ス形成。石は左四角内の拡大図。 1 4 C ontro一 +BM P た場 合、繊 維 芽細胞 は軟 骨 に分化 しない。 ところが 、 この G F P 陽性 の繊 維 芽細胞 を A E Cの存在 下で骨 の損 傷 部 に移植 した場 合 には軟骨 へ の分化 を認 め る こ と が で きた ( 図 7)。 これ らの研 究結 果 か ら 此Cの 誘 導 が 日高等 脊椎 動 物型 の再生 ( 修復 )H と "有 尾 両 生類 型 の再生 " の分岐 点 に な ってい る事 が 強 く示 唆 され る。本研 究室 で は現 在 、AECに発現 す る遺 伝子 を i 探 求 し、 さ ら に は 細 胞 に 「脱 分 化 」 を促 す 凶 ( 主nducers of虫 differenti ati on;IDE fact ors) 図 4 H&E に加えて AI cl an BI ueによる組を ㌫染 ≡) BMP 色。軟骨は青く染色されている。( の添加によって軟骨性のカルス形成が促進 されている。( 看) Cont r ol 。 の特 定 に励 んで い る。 AEC が二 つ の再生 の分 岐 点 になってい る とい う発見 は、高 等 脊椎 動物 にお いての 四肢 再生能力 を引 き出 す ヒン トに なるの で は ない だ ろ うか ?我 々高等 脊椎 動物 は切 断後 に AEC を再構 成 で きない。 しか し、実 は胎 児期 には AEC に相当す る構造 を観察す る こ とが R -( A ER)と呼 ばれ る A E Cに相 当 で きる.外肱 巣性頂 t す る構造 は、機能 的 に AEC とほほ 等 々であ る と現在 まで の ところ考 え らj tてい る。胎 児期 の ご く初期 の 四肢 発 生期 にお い て 、伸 長 して い る形態形 成 中の肢 芽 ( 四肢 の ノ いこな る構 造 ) の上皮 に観察 され る。高 等 脊椎 動物 は四肢 発生過程 の肢 芽 で も切断す る とそ の 失 った構造 を再生す る こ とがで きないが ( 図 8) 、 E Rを人為的 に切断面 に張 り付 肢 芽先端 に位 置す る A ER けてや る と失 った構 造 を回復 す る こ とがで きる。A と AEC が機 能的 に等価 な ものであ る とい う事 を鑑 み れ ば 、有尾 両 生類 型 の再 生 芽高等 脊椎動物 で も引 き 起 こ しうる とい う事 を示 す 一例 なの で は ない だ ろ う か? 図 5 AEC。AEC は再生芽( A) の上皮に形成され る。 旧、C) 再生芽の切片。AEC は Sp9 遺 伝子発現によって視覚化することができる。 ( D、E) Br dUのパターン。Br dU+の細胞( 緑) は分裂している細胞。青は DAPIによる核染 え るだ ろ う。 ノ 白一 尾 両生類 型 の 再生 の偉大 の特徴 と し て、 「 細胞 の脱 分化」 が考 え られ て い る。切 断前 は コ ラ- ゲ ンを産生 してい る よ うな真 皮 の細 胞 が 再生 過程 で 「 脱分化」 し、未分化 な細胞 へ と変 貌 し、最 終 的 に軟骨 を含め た様 々な細 胞 集 団へ 変 わ る とい う もの で あ る。 この 「 脱 分 化」 が起 こ ってい るの か ど うか を確 認 した。細胞 の変化 を可視 的 に追跡す るた G F P)を恒常 的 に発 現 して い る皮 め蛍 光 タ ンパ ク質 ( FP陽性 の皮膚 膚繊 維 芽細 胞 を実験 に用 い た。 この G 毒 載維 芽細胞 を骨 の損傷部 に A E Cの誘導 な しで移植 し 二 ヽ 磨 轟 避 図 7 AEC の存在下では皮膚繊維芽細胞は多能性を持つ細 胞( 再生芽細胞) に変貌できる。( A) 組托宅 染色像。Ll neS は骨の損傷郡を示す.( B-D) 赤色は軟骨。緑は移植さ 囲6( A、B) Cont r ol 。骨は再生してい ない。( C、D) AEC を誘導 した場 合。骨は緯駕に再生される。 れた繊維芽細胞。音は核を示す。 ( D)移植された繊維 芽細胞は AEC の存在下で軟骨に分化できるようにな 15 C 1 T ‥ ? n . a m k P k r a B mp u . 8 態 : / ats t a g e2 3 ㌦庵 AERgr a f t e d 図8( A) 通常のニワトリ前肢の骨格パターン。 ( B) 切断部を切除された場合のニワトリ前肢骨格パタ ーン。 ( C)切断部に AERを張り付けた時には先端部側の構造が回復される。 有尾両生類 と高等脊椎動物 の切 断後 に起 こる再 生反 応の大 きな違いは AEC/AER が再構 成 されるか どうか ECの再構築 プロセ スについ にある。有尾両生類の A ては私 たちの過去の研究 に よって明 らか にな りつつ )。このプロセ スを参考に して通常 ある ( 参考文献 6 切断後 に A ERの再形成が起 こらないニ ワ トリ肢芽で AERの再誘導 を試みた。詳細 については紙面の都 合上 割愛 させ ていただ くが、損傷後 AER を異所 的に誘導 す ることに成功 している ( 図9 、参考文献 8 )0 E i要 なことは、この AER の再誘導 も有尾 両生類 で得 た知 見の応用であるとい う事であ る。つ ま りは、有尾 両 生類 で明 らか になった、 もしくは これか ら明 らかに される知見は高等脊椎動物 に応用 で きる可能性が高 いこ とを示唆 しているのではないだろうか ?現在の ところ私 たちの研 究 グループは高等脊椎動物 ( マウ ス) を用いた四肢再生研 究 に も取 り組 んでいるO こ れ らの研究成果 も有尾両生類 の四肢 古生研究の知見 が大 いに役立 っている。今後 とも有尾両生姉 と高等 脊椎動物 との両者 において四肢再生研 究 を推進 して ゆ きたい と考 える。 / 打 p ㌧ ・ " = i = コ 1 -◆ L i : _ i_ 逮 図 9 AERを損傷後異所的に誘導することができる。AER の標識遺伝子の Fgf 8で異所的に誘導されたAERを 可視化している. 最後 に 「人が両生規の ように再生で きるか も しれ ない。」 そんな事 を数年前 に言っていれば 「そんな馬鹿 なこ とがある ものか」 と一一 笑 に付 される ことが多か った だろ う。 しか し、近年宥尾両生類 の再生能力は俄 か に注 目を集めつつある。米国 をは じめ と して欧州や 日本で も大型の研 究予算が投 じられ始め た。先人達 が残 した知見が ようや く硯代 生物学 と融合 し、新 し い境地へ と昇華 しようと している。私たちの研 究 グ ループは この絶好の機会 に恵 まれ、鋭意、精力的に 。 。 研 究活動 を行 っている 「重箱の隅」ではな く 「 夢 のある研 究」 を目指す とい う恩 人の言葉 を胸 に研 究 「 夢 は抱 くものではな く、挑 活動 に勤 しんでい る む もの」そんなス タンスで今後 もいたい と切 に願 う。 末筆 なが ら、御研 究会 には過 分 な場 を設けていただ いた うえ、 この ような寄稿 の機 会 まで もうけていた だ き感謝の言葉 もご ざい ませ ん。今後の ます ますの ご盛会 を心 よ り祈念いた します。 また、国枝哲夫 ・ 高橋純夫 ・竹 内栄先生 方には多大 なご尽力 を賜 りま した ことに厚 く御礼 申 し上 げ ます。 当研究室の蒔苗 亜紀 ・平 田絢子研 究員 においては研 究の推進 に多 大 な貢献 を していただ き深 く御礼 申 し上 げます。 参考文献 1・ Sat ohA.et . aI ・ : ' Neur ot r ophi cr egu】 at i onoff l br obl as t dedl f r er ent l at i ondur i ng) i mbsket et a7r egener at i on 〝 , i nt heaxol ot l( Ambys t omamexI C anum〕 Devel opment a)Bi ol ogy,337( 2) . 4441 457,2010 2. 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