第27回理論懇シンポジウム「理論天文学・宇宙物理学と境界領域」 国立天文台三鷹キャンパス 2014年12月24-26日 トリプルアルファ反応率の量子力学計算 矢花一浩 筑波大学計算科学研究センター 共同研究者: 赤堀孝彦(筑波大数理物質科学研究科→日立製作所) 船木靖郎(理化学研究所仁科加速器センター) 陽子と中性子の多体系としての原子核 密度汎関数理論 殻模型 AMD 少数系厳密計算 量子モンテカルロ 計算による原子核の構造と反応 2 ・質量 ・崩壊(寿命) ・断面積 ・・・ 元素の起源・星の構造に関わる原子核の情報 ― 構造計算(基底状態、励起状態)から反応(率)へ ― - 水素燃焼 少数核子系反応の厳密計算 - ヘリウム燃焼、・・・ トリプルアルファ反応、 12C(α,γ)16O、・・・ - s 過程、r 過程 原子核質量、ベータ崩壊、(n,γ)反応、・・・ Contents 1.トリプルアルファ反応の歴史と現状 2.炭素原子核 - 12C - の構造 3.トリプルアルファ反応率の難しさ 4.光捕獲反応率の虚時間理論 トリプルアルファ反応を巡る経緯(1) F. Hoyle, 1952 12C核の3α閾値近傍に α 共鳴状態の存在を予測。 Hoyle 状態 12C*(0 +) 2 α α γ線 12C(2 +) 1 後にFowlerらにより 共鳴状態が発見される。 トリプルアルファ反応を巡る経緯(2) α−α反応と、α-8Be反応の2段階過程による記述 ααα = 3∫ ∞ 0 d αα (Eαα ) αBe(Eαα ) dEαα dEαα Γα (Be, Eαα ) K. Nomoto, F.-K. Thielemann, S. Miyaji, Astron. Astrophys. 149, 239 (1985) NACRE compilation, C. Angulo et.al, Nucl. Phys. A656 (1999) 3. 低温 温度により異なる反応メカニズム 2,000万度以下 3つのα粒子が 直接衝突する 高温 1億度以上 ベリリウムの共鳴 状態を経由 8Be* 92keV 炭素12の共鳴状態 (ホイル状態)を経由 12C*(0 +) 379keV 2 トリプルアルファ反応を巡る経緯(3) 量子3体計算に基づく反応率、2009~ CDCC, Ogata, Kan, Kamimura, Prog. Theor. Phys. 122 (2009) 1055. Faddeev+HyperSpherical +R-matrix, Nguyen, Nunes, Thompson, Brown 低温(107K)で、 1026倍の差 NA2<ααα> [cm6 s-1 mol-2] PRL109, 141101 (2012) 107 K NACRE compilation C. Angulo et.al, Nucl. Phys. A656 (1999) 3. Faddeev: S. Ishikawa, Phys. Rev. C87 055804 (2013) Imaginary-time theory, Akahori, Funki, Yabana arXiv: 1401.4390. 109 K Contents 1.トリプルアルファ反応の歴史と現状 2.炭素原子核 - 12C - の構造 3.トリプルアルファ反応率の難しさ 4.光捕獲反応率の虚時間理論 原子核の中の、陽子・中性子の独立粒子運動 基本的な見方 - 1体近似 - 独立粒子運動 - 平均場ポテンシャル 陽子と中性子が原子核の中で 勝手に動いている。 2 ( ) ( ) ( ) − ∆ + = V r φ r ε φ r i i i 2 m 魔法数、殻模型、密度汎関数理論、・・・ 軽い原子核では、独立粒子描像で理解できない状態が多数ある。 12C核のHoyle状態もその一つ 小さなエネルギー(7.27 MeV)で、 12C を3つの α粒子に分解できるため、 クラスター構造が発達する。 cf: 16.0 MeV 陽子の分離エネルギー 18.7 MeV 中性子の分離エネルギー 12C 4He 4He 4He 結合エネルギー 92.16 MeV 28.29 MeV * 3 = 84.87 MeV 原子核の基底状態とHoyle状態の構造(模型による理解) 7.27 MeV 3α threshold Excitation energy (MeV) 12C 10 7.65 MeV + (Hoyle 状態) 02 2 0 + + 01 4.44 MeV + 基底状態 Hoyle状態の現在の理解: α粒子がボーズ凝縮を起こした、空間的に広がった状態 Tohsaki, Horiuchi, Schuck, Roepke, PRL87, 192501 (2002). Funaki, Tohsaki, Horiuchi, Schuck, Roepke, PRC67, 051306 (2003). ( ) Φ (r1 , , r12 ) = AΠ f Ri φ (r1 , , r4 )φ (r5 , , r8 )φ (r9 , , r12 ) i =1,3 12Cの構造: 原子核構造の大規模「非経験」計算の舞台(1) 量子モンテカルロ法(現実的な核力から出発した原子核構造計算) J. Carlson, S. Gandolfi, F. Pederiva, S.C. Pieper, R. Schiavilla, K.E. Schmidt, R.B. Wiringa, arXiv:1412.3081 8Be原子核に現れる 2α構造 Hoyle状態に対する量子モンテカルロ計算(継続中) J. Carlson, S. Gandolfi, F. Pederiva, S.C. Pieper, R. Schiavilla, K.E. Schmidt, R.B. Wiringa, arXiv:1412.3081 実験:7.65MeV、計算: 10.5MeV 原子核の密度分布 エネルギーの収束性 基底状態 Hoyle状態 Hoyle状態 基底状態 虚時間 半径 12Cの構造: 原子核構造の大規模「非経験」計算の舞台(2) 「経験的な核力」を用いているが、それ以外の入力パラメータは、陽子=6、中性子=6のみ。 (Skyrme力) Y. Fukuoka, S. Shinohara, Y. Funaki, T. Nakatsukasa, KY, Phys. Rev. C88, 014321 (2013). 12C 正パリティ arrow : B(E2) value (e 2fm4) Excitation Energy [MeV] 20 linear chain (0+ 3) 15 10 5 0 13 ± 2 7.6 ± 0.4 EXP 12.8 ± 1.5 14.4 ± 0.3 8.6 ± 0.2 CAL Hoyle state (0+ 2) Ground state (01+ ) 14/14 Contents 1.トリプルアルファ反応の歴史と現状 2.炭素原子核 - 12C - の構造 3.トリプルアルファ反応率の難しさ 4.光捕獲反応率の虚時間理論 トリプルアルファ反応を巡る経緯(3) 量子3体計算に基づく反応率、2009~ CDCC, Ogata, Kan, Kamimura, Prog. Theor. Phys. 122 (2009) 1055. Faddeev+HyperSpherical +R-matrix, Nguyen, Nunes, Thompson, Brown 低温(107K)で、 1026倍の差 NA2<ααα> [cm6 s-1 mol-2] PRL109, 141101 (2012) 107 K NACRE compilation C. Angulo et.al, Nucl. Phys. A656 (1999) 3. Faddeev: S. Ishikawa, Phys. Rev. C87 055804 (2013) Imaginary-time theory, Akahori, Funki, Yabana arXiv: 1401.4390. 109 K トリプルアルファ反応率: 3つのα粒子が、核力の作用する範囲まで接近する確率が鍵 最後の融合過程を除けば、クーロン3体問題 ( ) 2 2 2 2 4e 2 4e 2 4e 2 ( ) ( − ∇ + ∇ + ∇ + + + Φ = Φ r , r , r E r 1 2 3 1 , r2 , r3 ) 1 2 3 2 m r r r 12 23 31 クーロン3体問題: 構造の計算は難しくない ヘリウム原子の結合エネルギーの場合 ( ) 2 2 2 e 2 2e 2 2e 2 ∇1 + ∇ 2 + − − − Φ (r1 , r2 ) = EΦ (r1 , r2 ) r12 r1 r2 2m 1929年、Hylleraas 5桁の精度 2008年、 中辻(京大) 32桁の精度 トリプルアルファ反応率計算の難しさ ‐ 実験は(ほぼ)不可能。 ‐ 3つの電荷を持つ粒子の散乱問題の定式化が不明。 (3つの電荷を持つ粒子の「クーロン波動関数」の解析形がない) ‐ 3つの電荷を持つ粒子に対するトンネル現象を扱うことが必要。 反応率は温度とともに1060も変化する。 数値計算の精度に細心の注意を払う必要。 クーロン透過率(2体反応) Pl (E , R ) = kR 2 2 Fl (kR ) + Gl (kR ) クーロン波動関数 Contents 1.トリプルアルファ反応の歴史と現状 2.炭素原子核 - 12C - の構造 3.トリプルアルファ反応率の難しさ 4.光捕獲反応率の虚時間理論 光捕獲反応の反応率の計算: ふつうは、 まず断面積𝜎𝜎𝛾𝛾 E を求め、次にマクスウェル分布で統計平均をする。 vσ ∝ ∫ dEEe − E / kT σ γ (E ) ガモフピーク Energy vσ ∝ ∫ dEEe − E / kT σ γ (E ) 断面積𝜎𝜎𝛾𝛾 E を経ずに、直接反応率を求める。 ⇒ 虚時間理論 KY and Y.Funaki. PRC85,055803(2012) Im t = β = 温度の逆数を 虚数の時間軸とみなす。 Re t 1 kT 虚時間法(2体散乱の場合) 光捕獲断面積の表式 統計平均:温度 𝛽𝛽 = 1/𝑘𝑘𝐵𝐵 𝑇𝑇 M λµ = ∑ ri Yλµ (rˆi ) λ Ek − E f vσ fi ∝ c 2 λ +1 i∈ p * 2 λ フォトンの多重度 ∫ dr φ f (r )M λµφk (r ) 束縛状態(終状態) ( ) =1 φ d r r f ∫ 2 − βE vσ ∝ ∫ dk e k vσ fi 散乱状態(初期状態) eikr ik r ˆ φ (r ) → e + f (r ) r k (2-body) (ハミルトニアンのスペクトル表現) vσ fi ∝ φ f M λµ e − βHˆ Hˆ − E f c 2 λ +1 + Pˆ M λµ φ f Pˆ = 1 − ∑ φn φn n 散乱状態を消去できる。そのかわり、指数演算子 exp[-βH] が現れる。 指数演算子 exp[-βH] の計算 ⇒ 虚時間発展 vσ fi Hˆ − E f − βHˆ ∝ φ f M λµ e c 出発点は、光放出後の束縛波動関数 に、光遷移演算子を掛けたもの。 虚時間軸に沿って、時間発展計算。 期待値として反応率が得られる。 2 λ +1 β= + Pˆ M λµ φ f 1 kT ψ (β = 0) = M λ = 2, µ +φ f − ∂ ψ (β ) = Hψ (β ) ∂β β Hˆ − E f vσ ∝ ψ 2 c 2 λ +1 β 2 ψ トリプルアルファ反応の計算:ハミルトニアン - α粒子は点粒子として扱う。 - ハミルトニアンは現象論的に作る。 H = T + V12 + V23 + V31 + V123 ・α−α間のポテンシャルは、8Beの共鳴状態を再現 ・α−α−α間の3体ポテンシャルを導入、Hoyle状態を再現 トリプルアルファ反応を巡る経緯(3) 量子3体計算に基づく反応率、2009~ CDCC, Ogata, Kan, Kamimura, Prog. Theor. Phys. 122 (2009) 1055. Faddeev+HyperSpherical +R-matrix, Nguyen, Nunes, Thompson, Brown 低温(107K)で、 1026倍の差 NA2<ααα> [cm6 s-1 mol-2] PRL109, 141101 (2012) 107 K NACRE compilation C. Angulo et.al, Nucl. Phys. A656 (1999) 3. Faddeev: S. Ishikawa, Phys. Rev. C87 055804 (2013) Imaginary-time theory, Akahori, Funki, Yabana arXiv: 1401.4390. 109 K 計算に用いる空間領域(α粒子間の距離)に関する収束性 3 1 𝑟𝑟⃗ , 𝑙𝑙 = 0 rmax = 100 fm Rmax= 100 fm rmax = 200 fm Rmax= 200 fm rmax = 400 fm Rmax= 400 fm rmax = 500 fm Rmax= 500 fm 𝑅𝑅 , 𝐿𝐿 = 0 2 重なっている rmax = 600 fm Rmax= 600 fm rmax = 50 fm Rmax= 50 fm 虚時間= 温度の逆数 100 MeV-1 = 1.15 x 108 K =1/kBT 1000 MeV-1 = 1.15x 107 K 27/22 虚時間計算とNACRE反応率は、高い精度で定量的に一致 反応メカニズムが切り替わる温度も一致している。 >1 >1 𝑇𝑇 ≲ 7.4 × 107 K 𝑇𝑇 ≲ 2.8 × 107 K (K.Nomoto, AJ253(1982)798) 𝑇𝑇 = 7.4 × 107 K 三つのα粒子が直接 核融合する反応 12C*を経由 する反応 𝑇𝑇 = 2.8 × 107 K 8Be*+α 反応 虚時間発展した波動関数 ψ (R, r , β ) から、反応メカニズムが分かる。 反応率 𝛽𝛽 = 10 MeV −1 (T = 1.15 × 109 K) 𝛽𝛽 = 200 MeV −1 (T = 5.76 × 107 K) R R r r 𝛽𝛽 𝑟𝑟 𝛽𝛽 ∝ Ψ 2 � − 𝐸𝐸𝑓𝑓 𝐻𝐻 ℏ𝑐𝑐 2λ+1 Ψ 𝛽𝛽 = 400 MeV −1 (T = 2.88 × 107 K) R r 𝑇𝑇 = 7.4 × 107 K 三つのα粒子が直接 核融合する反応 𝛽𝛽 = 1000 MeV −1 (T = 1.15 × 107 K) 12C*(Hoyle 状態)を経由 8Be*+α 反応 𝑇𝑇 = 2.8 × 107 K 29/11 𝛽𝛽 2 虚時間理論から、NACRE(〜野本)の式を導くことができる 必要とされる仮定 1. 3体ハミルトニアンが, α-α と α-8Be の部分に分解できる(分離型仮定) H = H αα + H αBe 2. Hoyle状態が、 α−α と α-8Be の共鳴状態の積で記述できる 虚時間理論とR行列理論を組み合わせて、 3 2π 2 ααα = 6 ⋅ 3 M kT α Γα 8 Be; Eαα 1 × ∫ dEαα 2π Er 8 Be − Eαα 2 + Γα (Eαα ) / 4 3 2 ( ( ) × ∫ dEα 8Be 1 2π Er ( Γα ( ) 12 ( ( C) − E ) ) + Γ (E )/ 4 C; Eα 8Be 2 12 Eαα + Eα 8Be × exp − ⋅ Γγ kT ) α Be 8 α α 8 Be ( ) ( Eαα + Eα 8Be − E 12 C;2 + 12 C 12 E C;0 + − E 12 C;2 + 2 ( ) ( ) ) 2 λ +1 この結果は、ほぼNACREで用いられている式に一致 まとめ 軽い原子核の構造の非経験的に記述が可能に。 基底状態から励起状態へ、構造から反応へ、発展途上。 トリプルアルファ反応の、量子3体理論に基づく計算は2009年から始まった。 低温で、収束した答えが出ていない。 クーロン3体系のクーロン波動関数の欠如が困難の原因。 我々は、光捕獲反応率の虚時間理論を提案した ⇒ NACRE(野本理論)を支持 10-20年のレンジで、元素合成で必要とされる反応率の信頼できる非経験的計算を 行うことが目標。
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