高齢化・人口減少時代 地域商業と郵便局の活路

特集
人口減時代に向かう
特集
変化する地域社会との関わり 高齢化・人口減少時代の
地域商業と郵便局の活路
高齢化・人口減少時代の
変化する地域社会との関わり 地域商業と郵便局の活路
人口減時代に向かう
るいは商業が経営体としての機能を維持し
このような「少子高齢化現象」は、地域に
ていくための第一の要素として考慮されな
密着して存立している郵便局や商業にとっ
ければならない。
て、現在の「市場の縮小」を意味するだけで
総務省の調査でも明らかなように我が国
なく、
「未来市場の縮小」をも意味しており、
の高齢化* 1 は急速に進行している。そして、
社会・経済に与えるインパクトは甚だ大きな
このことによる若者世代への負担の増大は、
ものとなっている。
結婚や出産への意欲を減退させる要因とな
り、晩婚化、少子化に一層拍車を掛けている
㈱マネジメントコア前田 代表取締役
中小企業診断士
図 1 年代別人口の推移と将来人口
前田 進
として地域にあることに変わりはない。その
す。必要性が失われないためには、必要とさ
ため、地域の活性化は、そのまま郵便局の活
れる方向に主体をマネジメントしていくこ
路となるはずであり、社会的インフラとして
とが重要である。
の自らの存在をどのように活用して地域に
な問題のひとつは、人口の高齢化と少子化に
き姿を考える上で、まず、①高齢化・人口減
よる減少である。これらの問題は、経済面、
少時代がもたらす市場への影響を述べ、その
社会面に大きなインパクトを与えることに
中で、②地域商業の現状と問題を整理し、③
なる。経済面では生産性の低下につながり、
商業の存立基盤と存立条件を振り返る。そし
社会面では年金制度や医療制度といった社
て、④地域商業活性化と郵便局の活路につい
会保障制度の根幹を揺るがすことになる。こ
て、
「サービス」中心の新たな視点から述べ、
うした背景を受けて、地域経済、社会、特に
地域商業および郵便局のマネジメントにど
本稿で取り上げようとする地域商業もまた、
のように取り入れていくかについて提示し、
市場の縮小や後継者難など直接、間接の影響
それにかかわる先進的な商業の事例をあげ
を受け、衰退の色を濃くしている。
てその方策を提示することとしたい。
し、地域コミュニティの中でその機能を果
する社会の中で、2007 年以降、大きな組織
(1)高齢化・人口減少時代の到来
経営は市場に働きかける活動であり、市場
的変更を余儀なくされて、郵便、荷物、物販、
に収益の源泉がある。企業収益に最も影響す
保険、金融の業務のすべてが従前からの他の
る市場の直接的要素は社会経済であり、その
事業者との全国規模の競合にさらされてい
主たる要素は、人口の量とその人々の質であ
る事実に相違はないが、その存立基盤は依然
る。地域の人口の高齢化・減少は、郵便局あ
17.4
20.2
23.0
24.1
65 歳
以上
26.8
29.1
30.3
140,000
31.6 (千人)
120,000
総人口
(右目盛り)
100,000
60
59.6
68.9
69.7
69.5
68.1
66.1
63.8
62.9
40
35.4
20
24.0
18.2
0
1950
15 ∼ 60.7
64 歳
(生産齢人口)
59.2
58.7
58.1
1970
1990
16.0
1995
80,000
60,000
40,000
20,000
14.6
13.8
13.2
13.0 0∼
12.5
14 歳
11.7
11.0
2000
2005
2010
2012
2020
2025
2015
10.3
0
2030 年
図 2 年代別世帯数の推移
60,000
(千世帯)
合計
49,063
50,287
50,600
50,441
49,837
48,802
15,680
18,028
18,992
19,012
19,031
32,572
31,448
30,826
29,771
2015
2020
2025
50,000
65 歳以上
40,000
13,545
15 ∼
30,000 64 歳
20,000
35,517
34,607
2005
2010
―
たしてきた。総体としての郵便局が、高度化
1.高齢化・人口減少時代が
もたらす市場への影響
14.6
将来予測
―
しているが、個々にはそうした地域に立脚
12.1
―
そこで、本稿では、その存在意義とあるべ
7.1
将来予測
―
義を示す重要なカギとなる。
4.9
80
貢献していけるかは、郵便局の新たな存在意
我が国の抱えている社会・経済面での重要
郵便局は全国的なネットワークを基盤と
16
100
%
世の中の存在主体は、客体の必要が生み出
はじめに
* 1 全人口中、65 歳以上の高齢者人口が 7%を超えた社会を「高齢化社会」
、
14%を超えた社会を
「高齢社会」
と呼ぶ。一般的には、
両者をまとめて
「高
齢化社会」と呼んでいる。
(図 1、2)
。
10,000
0
2030 年
出所:(図 1、2):総務省統計局「日本の統計 2014」
28
17
特集
2.地域商業の現状
(1)商店街に顕在化する問題点
地域商業は様々な問題を抱えている。その
詳しい内容は、拙書『超商店街作りの新しい
ノウハウ』
( 2001)
『
、中心商店街の活路』
( 1999
る潜在的要因となっている。
だろうか。商店街、小売商業を前提として
として認識しているものでは、
「経営者の高
このような「変質していく消費者を意識し
Alderson の指摘を一面的にとらえれば、人
齢化」
、
「業種不足」
、
「集客型の魅力店舗の不
た組織的マネジメント力」の不足が地域商業
口減少に合わせて、立地地域、つまり近隣商
足」
、
「店舗の老朽化」などがあげられている
を中心とした地域とのつながり力を弱め、活
圏の人口の減少に合わせて、売り場規模(店
力の低下につながってきたことは否めない。
舗規模)を縮小し、商品を減らすことになる
(
「全国商店街実態調査」2012)
。
年)に示したので割愛するが、近年現場で起
つまり、これらの意味するところは、商業
これらのマネジメント力の脆弱性、さらには
かもしれない。かつて日本で有数の製鉄所を
きている特徴的な問題について、立地や競
者自身が、商店街を「運営する人材の不足(個
その人材の不足が、商店街衰退の大きな要因
擁して栄え、その廃鉱、閉山後には人口が半
合、消費者などの外部的な要因として起きて
店の経営も含む)
」
、消費者にとって魅力的な
であるといえよう* 2。
減してしまった東北の地方都市で、商店街の
いるもの、施設や組織、構成員などの内部で
「商品や店舗の不足」の状態にあることを実
起きているものに整理してみた(表 1)
。これ
感していることになる。
「店舗の老朽化」に関
しては古くなれば改装、改築するのは道理で
表 1 商店街の問題
環境と要因
立地
外
部
環
境
消費者
競合
商店街
施設
組織
内
部
環
境
現 状
○人口の減少 ○人口の高齢化
○人口の郊外移動
○公共施設の郊外移転(スプロール化)
○道路交通網の整備(未整備)
○消費者ニーズの多様化
○モータリゼーションの進展による
購買行動の広域化 ○流通への参加
3.商業の存立基盤と条件
(1)小売商業の存立基盤
再生に取り組んでいた頃、ある関係者から、
「人口が減少しているので、商店は半分でい
いですね」という発言がなされたことがあ
あるが、問題は簡単ではなく、そこに投資す
小売業について、
W.Alderson
( 1965)
は、
「小
る。この発言に、同席した商業者や筆者を含
る「資金的ゆとりがない」
、さらに言えば、そ
売業は、きわめて動態的な状況によって特徴
めた他の関係者は、思わず絶句してしまっ
の投資の原資となる十分な「収益が出ない」
づけられ、…他のいかなる競争分野より、①
た。人口減少時代だから、商店や商品はその
ということになる。その結果、計画的な投資
移り変わる立地分野への適合、②小さな市場
数だけでよい、という考えは、果たして地域
は行われず、魅力的な商品、魅力的な店舗は
細分のための品揃えの設計、③商品の供給源
の必要に十分応えたことになるのであろう
さらに減少し、
「売上の絶対額」はさらに不足
でなく望ましい取引場所としての店舗イメ
か。地域商業の存立条件はそのような人口と
する。このように、商店街の実態調査からは、
ージの確立、④新規顧客をひきつける絶えざ
いう量にのみあるわけではないはずである。
堂々巡りのような問題が浮かび上がってく
る試み(店舗と販売促進)
、の意思決定が重要
例えば、コンビニエンスストアのローソン
○郊外型大型店・ロードサイドショップ
との競合激化
○他の商店街等との地域間競争の激化
○擬似商店街、ショッピングセンター
への流客
○インターネット流通の拡大
るのである。
な項目である。…この小売り店舗の意思決
は、従来の営業形態と異なる惣菜、生鮮、洗
定範囲を規定するものは、
「店舗の立地と規
剤などの日用雑貨など、スーパーマーケット
模」である* 3」と述べている。
の品揃えを充実して、比較的低価格志向、近
ているのか、その原因となっている潜在的な
つまり、比較的小さな商圏で、地域の顧客
隣志向の高齢者に適合するローソン 100 の
○アーケードの老朽化
○駐車場不足
○歩道の未整備
○店舗の老朽化
真の問題について、もう少し検討しておきた
に合わせた品揃え、そして立地地域に起こる
営業形態を確立している。一方、セブンイレ
い。
様々な変化を見逃さずきめ細かく対応する
ブンのセブン&アイ・ホールディングスで
ことを示唆している。このことは現代の地域
は、比較的価格が高い、金の食品シリーズ、
商業者にも当てはまるものであり、地域商業
高級総菜、小分け惣菜を開発するなどセブン
○リーダーシップの不足
○意識の不統一
○協調性不足
○危機意識の欠如
○マネジメント力不足
○財源不足
○事務局不在
店舗
構成
○魅力的店舗の不足
○空き店舗の増加
○核店舗、核施設の不足
○店舗規模の過小性
個店
経営
○消費者ニーズ・行動変化への対応不足
○経営者の高齢化
○後継者難
○売上高 ・ 利益の低下
○人件費の高騰
○ディスカウント・ストア、カテゴリー
キラー等との価格競争、CVS との競争
○安易な起業・開業
(出所)筆者による商店街実態調査結果より作成
18
らの中でも、近年、商店街自身が大きな問題
高齢化・人口減少時代の
変化する地域社会との関わり 地域商業と郵便局の活路
人口減時代に向かう
このような、商店街に顕在化している問
題はどのような原因によって引き起こされ
(2)商店街の潜在的な問題点
これらの顕在化された問題には様々な原
者とその集団である商店街の存立基盤は立
プレミアムの自社ブランドを開発するマー
因が考えられるが、戦後間もなくから現在に
地地域にある。したがってそれぞれの地域特
チャンダイジングによって良品志向、個別志
至るまでの国をあげての商業政策が、基本的
性を十分に認識してさまざまな経営上の意
向の高齢者に対応している。特に高齢者の利
に国主導の体制下で実現されてきたことも
思決定をしていくこと、そして自ら変化する
用の多い時間帯は、従来の若者社員でなく、
一因として考えられ、商業者自身のマネジメ
立地環境に合わせて、絶え間なく自己変革に
主婦など高齢従業員を配置している店舗も
ント力の脆弱性がみえる。すでに、①市場の
挑戦していくことの 2 点こそが地域商業の
多い。
限界、②競合激化、③商品のコモディティ化、
問題を解決していく重要な方策であるとい
④消費者の意識(生活意識、価値観)の変化、
える。
といった外的変化は顕著であるが、これに対
して①戦略の同質化、②受動的経営体質、③
(2)地域商業の存立条件
発想力の不足、といった実態が明らかとなっ
地域商業が高齢化・人口減少時代に存続
ており、このことが地域商業の活性化を妨げ
していくためには、どのような条件が必要
百貨店でも、ダイシン百貨店(東京都大田
区)のように、近隣に住む小商圏にも焦点を
* 2 本節については、前田進「商店街の価値共創 (co-creation) と再構 (recreation) に関する一考察」日本経営診断学会論集 13, pp.31-36 を参
照してほしい。
* 3 Alderson,Wroe[1965], Dynamic Marketing Behavior,
Richard D. Irwin, Inc.:田村正紀,堀田一善他訳『オルダーソン動態的
マーケティング行動―マーケティング機能主義理論』
,258-259 頁,
千倉書房,1981 年。
28
19
特集
図 3 高齢世帯の消費割合
25
%
25.0
64 歳以下
23.2
24.3
65 歳以上
6
20
19.6
15
15.4
10
9.0
9.0
7.3
5
7.2
食料
住居
光熱・水道
3.9
家具・
家事用品
4.3
3.3
被服及び
履物
図 4 高齢世帯の消費特性
60
%
50
40
その他の消費支出に占める
交際費割合
51.0
34.2
30
20
エンゲル係数(%)
10
0
25.0
23.2
64 歳以下
65 歳以上
出所:(図 3、4)総務省統計局『家計調査』2013 年度
20
3.6
心・安全な暮らしの崩壊」につながる危機を
考え方である* 6。この新たな視点は、顧客と
はらんでいる* 4。したがって、地域商業は、
の関係性を強め、顧客の多様化した欲求に向
受動的な高齢者でなく能動的、行動的な高齢
けて顧客と企業が共同して新たな価値を生
者* 5、地域活動に意欲的な参加型の高齢者
み出してゆくという考え方である。
の存在を意識して、存立基盤としての地域コ
このサービス中心の考え方では、企業に
ミュニティの社会的、文化的な要素に深く関
とっては商品を販売するだけでなく、商品同
わっていくことがもう一つの存立条件であ
様、サービスそのものの品質を高めることが
ろう。
重要であり、そのためには、顧客と直接接触
4. 地域商業活性化と
郵便局の活路
5.8
3.2
0
10.4 10.4
10.5
高齢化・人口減少時代の
変化する地域社会との関わり 地域商業と郵便局の活路
人口減時代に向かう
4.1
(1)商業に関わる新たな理論
0.2
する瞬間(サービス・エンカウンター)にお
いて、企業と顧客が相互作用していくことの
重要性を示唆している。しかもこの「サービ
ス」とは、企業からの一方的な奉仕でなく、
商業は、地域という舞台で必要とされ収益
企業と顧客が互いに持っている「知識や技術
を得て活動していくビジネスの形態である。
といった資源」を相手のために適用するとい
とすれば、地域の弱者に貢献するといった、
う「相互作用」のプロセスを通して、顧客の
一方で、小商圏において日常的な住民や利
社会的な奉仕や犠牲的精神を優先するので
求める価値を協働して創造(価値共創)* 7 し
用者を顧客とする地域商業は、顔見知りの顧
なく、かつての商業が自給自足から市、定期
ていこうとする視点である。つまり、顧客は
客を中心に、人口高齢化・減少時代にふさわ
市などを通じて、
「必要だから生まれた」とい
単なる商品やサービスの受け手でなく、自ら
しい、大規模小売業とは異なる戦略的な活動
う歴史を重視し、商業つまり、ビジネスの側
もその活動に参加しているのである。
を行っていかねばならない。つまり、
「買われ
面から地域活性化に挑戦していかねばなら
このような、関係性を重視するリレーショ
る商品の変更」
、
「シルバー商品・サービスの
ない。現代の民営化された郵便局もまさに比
ンシップ・マーケティングの考え方は、安売
充実」が存立条件になってくる。
較的小規模で、地域に密着してビジネス感覚
りを戦略とするのでなく、
「収益性の向上」に
をもってマネジメントしていく宿命を持っ
貢献し、しかも「顧客満足度」が高い* 8 と考
家庭内経済が縮小、単位当たり消費量の減
ている限り、同様な視座を持って臨むことを
えられている。このようなサービス中心の考
少、買上単価の上昇といった特徴のほかに、
見逃してはならないだろう。これらは、地域
え方は、高齢化・人口減少時代に最も重要な
それらが高級志向を伴うといった複雑性が
という消費市場に対してどのように経営を
視点であると同時に、地域商業の存立条件を
あり、さらには、その他の支出に含まれるサ
していくかというマーケティングの視点を
満たすものでもある* 9。
ービス支出、儀礼的支出の増加、交際費支出
意味している。
保健医療 交通・通信
教育
教養娯楽
その他の
消費支出
少なくとも、高齢化・人口減少時代では、
の増加、交流の仕方の変化、健康維持・管理
小売業とサービス業、つまり地域商業・商
当て、
「地元の皆様が住んで良かったといえ
支出の増加(図 3、4)などがみられる。この
店街や郵便局等のサービス業にも関連する
る商品やサービスづくり」を行って一般の高
ような消費の特性を十分に把握して、収益に
新たな考え方は、これまで主導してきたマス
齢者にも人気である。高島屋、三越伊勢丹、
つながる高付加価値商業の実現がなされな
市場を対象としたマーケティング経営の考
松坂屋などの都市型百貨店では、ファッショ
ければならない。
え方、つまり、製品を中心とした「売り手側
ンブランド、グルメレストラン、リビング・
「地域商業の衰退」は、同時に、購買を伴う
の発想」のいわゆるアメリカ型のマーケティ
雑貨、体験型福袋など高額福袋にチャレンジ
「生活の潤いの減少」
、娯楽的な商業の衰退、
ングに対して、顧客との長期関係性(リレー
して、比較的豊かなシニア層の人気を得てい
あるいは地域商業者によって主として継承
ションシップ)や企業ロイヤルティ(愛顧度)
る。これらはまさに大規模小売業が市場の変
されてきた祭事をはじめ地域独自の楽しみ
を高める、つまり、信用を構築するプロセス
化に柔軟に対応していこうとする戦略を意
事が減少するなど「余暇活動の縮小」
、その結
を重視した「企業と顧客の接触空間」に着目
味している。
果としての「地域コミュニティの崩壊」
、
「安
した、サービス中心のマーケティング経営の
* 4 都心に近いK市では、商業者の代表グループの半数以上が街の安全・安心
に関わる消防団に属しており、多くの事業を少ない人数で兼任している。
* 5 斎藤毅憲・藤野次雄・松浦克己・南智恵子(2003)
『アクティブシニアの
消費行動』中央経済社。村上剛人「少子高齢化社会の進展に伴って地域商
業は再生できるか?―医商連携による街づくりへの取り組みの意義―」
『福岡大学商学論叢』55/2.3、2010 年 12 月。
* 6 Vargo, Stephen L. and Robert F. Lusch(2004a), "Evolving
to a New Dominant Logic for Marketing," Journal of Marketing,
Vo.68, No.1, January, pp.1-17. その他、2006 年、2008 年にも関
連する論文を発表している。井上崇通他編著(2010)
『サービス・ドミナ
ント・ロジック』
,同文館出版を参照されたい。
* 7 Prahalad, C. K. and V. Ramaswamy(2004), The Future of
Competition, Harvard Business School Press, 2004.(有賀裕子
訳『価値共創の未来へ : 顧客と企業の Co-Creation』
,ランダムハウス講
談社,2004 年。
)Ramaswamy, V. and F. Gouillart ,The Power of
Co Creation, A Division of Simon & Schuster, New York, 2010.
(尾崎正弘,田畑萬監修,山田美明訳『生き残る企業のコ・クリエーション
戦略』
,徳間書店,2011 年。
)
* 8 Gronroos(1994), "From Marketing Mix to Relationship
Marketing: Towards a Paradigm Shift in Marketing," AsiaAustralia Marketing Journal, Vol.2, No.1, pp.9-29.
* 9 前田進「日欧米の小売マーケティング経営研究の比較分析」
『千葉商科大学
論叢』第 52 巻第 1 号,2014 年 9 月,pp.145-163。
28
21
特集
(2)地域の活性化と資源ネットワーク
高齢化・人口減少時代の
変化する地域社会との関わり 地域商業と郵便局の活路
人口減時代に向かう
いう商業舞台と住民の生活舞台としての地域
ョップの例、戸越銀座銀六商店街(東京都品
っている郵便局が参画する余地は十分にあ
閉塞感のみられる商店街をはじめとした
社会・行政区域のマクロレベルの活動ネット
川区)で実施されている、必要とされる商店
る。郵便局は自らも地域コミュニティの一員
地域商業が顧客に特定の価値をもたらすた
ワークが、相互作用しながら社会生態系(エ
街を目指しての逸品づくりやイベントを企
であり、グローバルなネット情報以上の地域
めには、単独の資源では限界がある。そこで、
コシステム)を構成している。つまりこのエ
画し、専門技術者にアウトソーシングして実
固有の個別情報を有し、全国に広くネットワ
Prahalad and Ramaswamy( 2004)* 10 は、
コシステムが正常に機能するときは、小売商
行に移している資源ネットワークの例、東和
ークを形成している。各地に窓口があり、地
消費者ごとに異なり、
(企業に)持続性のある
業者、サービス業者が顧客との接触空間での
銀座商店街(東京都足立区)の有志により実
元の住民と郵便・荷物や金融・保険業務を通
価値共創のために、顧客を中心として、事業
経済的活動にのみ従事しているのではなく、
践されている商店街株式会社での、空き店舗
じて深いつながりがあり、地域に無くてはな
パートナーや消費者コミュニティとの関係
地域コミュニティの一員としての役割を果た
を活用した不足業種の経営と支援、高齢者宅
らない存在として強固な信頼関係を築いて
性を高め、各資源をネットワーク化していか
している場合に限られるということになる。
配事業、子育て支援、清掃サービス、全国と
きた存在である。このような地域コミュニテ
ネットワークを組んだ物産館の例、そして健
ィの再構築に不可欠の重要な事務局的な役
軍商店街(熊本県)で実施されている地元タ
割や交流の拠点となる地域活性化のプラッ
ねばならないと述べている。このことを当て
はめれば、商業者は持てる資源のみでは顧客
(3)地域活性化のネットワーク事例
との価値共創を高度に提案することはでき
地域活性化のネットワークのモデルは、岩
クシー会社と連携した高齢者買い物支援、ユ
トフォームとしての中核的役割を担うこと
ず、地域商店街は、地域住民をはじめとした
村田本町商店街(長野県佐久市)で実践され
ニバーサル商品の展示、地域の学習支援、電
は不可能ではない。
顧客の求める価値を共創する市場としての
ている空き店舗を活用した惣菜館、子供育成
動車貸出サービスの例などがある。これら
前述したように、地域の疲弊は単に人口の
プラットフォーム(地域)において、地域の
の学習塾、新規創業者育成、コミュニティ会
は、それぞれの地域の少子高齢化と激しい競
高齢化・減少にのみ起因するものではない。
経済行為者、社会行為者(住民・利用者・顧客、
館やイオンと提携した買い物カードの例、烏
争の中で衰退する地域の活性化に貢献して
そのことを放置した結果によるコミュニテ
土地所有者,農工商支援団体、行政、コンサ
山駅前通り商店街(東京都世田谷区)で実践
いる例であり、今後の地域の資源ネットワー
ィの崩壊こそが、地域の活力を低下させてい
ルタントおよび商業者:郵便局を含むなど)
されている金融機関と連携したスタンプ預
クの方向性を示唆している。
く最大の原因となるのである。高齢化・人口
との価値共創のための資源ネットワークを
金、地域と連携した街の清掃参加者へのスタ
形成していかなければならない* 11。
ンププレゼント、会館を使った高齢者相談
(4)
地域の活性化に向けての
郵便局の役割
減少時代であるからこそ、地域住民、顧客さ
えも仲間として、よりきめこまかく日常的に
関係づくりを行い、新たな環境下での地域コ
言い換えれば、地域商業は,小売商業者と
会、環境整備事業におけるユニバーサルデザ
顧客の接触というミクロレベルの取引を超え
インの導入、行政と協働で実現する福祉のま
この少ない事例が示すように、地域活性化
ミュニティの再構築を目指す、その強い絆づ
て、小売商業者と商業地域が商品や店揃えを
ちづくりのための烏山ネット・わぁ~く・シ
の方策は、急速な経済の成長、拡大の中で忘
くりのプロセスにこそ、地域の活性化の活路
れ去られた、地域社会のぬくもりや近所付き
と郵便局の活路があると思うのである。
補完し合うメソレベルの活動と、商業地域と
図 5 サービス中心の見方と資源ネットワーク
* 10 Prahalad and V. Ramaswamy(2004)
。
* 11 前田進(2013)
。
合いの再現を意味しているかもしれない。こ
れらの実現には互いが必要とされる役割を
果たしていくことを除いては考えられない。
基本的な需要である「衣食住」についても
商品・サービスは充足されても、その提供方
相互作用
企業
サービス
(スキル・ナレッジの交換)
(価値の提案者)
法、手段には大規模小売業や行政のみでは、
十分に行き届かないのが現状である。小さな
顧客
(価値の決定者)
価値共創のプロセス
商いでその存在価値を示している商人以外
では関われない分野となってきている。
道は多様にある。しかし、そのための独創
的な発想、行動は人材が少なく、店主自体が
営業の第一線で活躍する中小商業者、事務局
を殆どもたない商店街では、時間的にも知
相互作用
ノード企業のネットワーク
出所:Vargo and Lusch, Prahalad and Ramaswamy より著者作成
22
消費者コミュニティ
識・技術の面でも限界がある。そこには、知
前田 進
(まえだ すすむ) 明治大学大学院商学研究科博士後期課程修了、
博士(商学)、千葉商科大学大学院 客員教授(商
学研究科)、明治大学商学部 講師、中小企業大学
校客員講師、中小企業診断士。
著書:
『中心市街地商店街の活路』
(ぎょうせい)、
『超商店街づくりの新しいノウハウ』
(ぎょうせ
い)、
『専門店新時代の発想』
(同友館)、
『サービス
ドミナントロジック』
(共著・同文館)など。
能的集団であり、販売以上の多様な業務を行
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