Document 686414

金曜1限
生体ナノテクノロジー特論
(高分子合成論)
2015年1月9日
第10回:DDSの設計と実例
参考文献
『図解で学ぶDDS』(じほう)
最先端材料システムOne Point
『総合製剤学』(南山堂)
『ドラッグデリバリーシステム』
(共立出版)
『分子薬物動態学』
(南山堂)
『生体内薬物送達学』 (基礎生体工学講座)
橋田 充, 高倉 喜信 (著) (産業図書, 1994年)
総説
加藤将夫、杉山雄一、薬毒物のわかりやすい体内動態、中毒研究, 7, 395–403 (1994); 8, 85–97 & 163–178 (1995).
(再録)ドラッグデリバリーシステム(DDS)に求められるもの
1. 微量で効き過ぎる薬を有効に活用∼副作用の低減
抗がん剤、生理活性分子など
→効くのは分かっていても、使いようがない薬もある。
→無用な体への吸収を抑える必要あり
2. 生体内のバリアの回避(異物認識されない)
タンパク質や核酸はむき出しのまま用いても効かない。
→消化や排泄を受けてしまう、水溶性薬物は吸収性が低い、
免疫にやられる、etc.
3. 高価な医薬品の使用量の低減、クォリティオブライフ
(QOL)の向上:いつでも、どこでも、誰にでも
これらの解決を図るのがドラッグデリバリーシステム
必要な時に、必要な場所に、必要な量だけ
作用させる工夫が必要。
(再録)ドラッグデリバリーシステム(DDS)のアプローチ
a. 量の制御
b. 部位の制御
c. 時間の制御
1. コントロールドリリース(薬剤放出制御)
2. 新しい投与経路の開発・吸収障壁の克服
3. 体内動態制御、ターゲティング(標的指向化)
4
(再録)薬の体内分布:基本は血流を介した全身への分布
血中に投与/移行した後の運命
血流から
漏れ出る必要あり。
静脈注射
標的
組織
血液循環による全
身分布
肝臓・脾臓に存在する
細網内皮系(RES)/MPS
によるトラップ回避
薬の入った
キャリア
腎臓からの糸球体ろ
過を回避
EPR効果*によってが
ん腫瘍へ集積
MPS
(再録)臓器に移行後の薬物の分布
各組織移行後に、組織/細胞内に分布・吸収させる必要がある。
6
(復習)生理学的モデル
体内動態変化を定量的に理解するために、定式化(モデル化)を考える。
(ファーマコキネティクス)
静脈投与
分布する臓器・組織それ
ぞれを独立した コンパー
トメント と捉え、それが
血流を通じて連結されて
いると考える。
各コンパートメントに、
Kp: 組織-血漿間分配比
C: 各組織での薬物濃度
V: 各組織体積
と、
Q: それぞれの流速、
CL: クリアランス
を与えれば、モデル化可
能。
→複雑すぎる…。
7
(復習)コンパートメントモデル
生体を数個のコンパートメントのみに単純化したモデル。
1-コンパートメントモデル
静脈投与などで、薬物投与後、すべての臓器及び組織中の薬物濃度と血漿中の
薬物濃度が瞬時に平衡に達すると仮定。
X0
X: 総薬物量
V1 組織1
C1
組織2 V2
C2
Ci: 各組織での薬物濃度
Kp, Cp, Vp
Ki: 組織-血漿間分配比 = Ci/Cp
速い
血漿
C4
組織4 V4
C3
V3 組織3
X
C
Vd
“p”はplasmaのp
Vi: 各組織の実質容積
(i = 1–4)
X = VpCp + ∑ViCi
= VpCp + ∑ViKiCp
= (Vp + ∑ViKi)Cp
血中滞留性が高ければ小さい
理想的には、iは標的のみにしたい。
Vd (分布容積) ≡ Vp + ∑ViKi = X/Cp
kel
単回静脈投与の場合
消失速度が、コンパートメント内の薬物量に比例すると考えると、
dX/dt = –kelX (kel : 消失速度定数) ⇐定数にならない場合は非線形モデルとなる
物質収支
X = X0·exp(–kelt)
Cp = C0·exp(–kelt)
(X0 : 投与量)
(C0 : 投与直後の血漿中濃度)
吸収付き1-コンパートメントモデル 薬物を単回経口投与し、消化管における吸収
がある場合など。
Xa: 吸収部位での薬物量
D (投与量; Dose)
ka: 吸収速度定数
消化管
F: 薬物の吸収率
Xa
D: 投与量
F
ka
組織2 V2
C2
V1 組織1
C1
血漿
X
Kp, Cp, Vp
C4
組織4 V4
C3
V3 組織3
Cp
C
kel
= –勾配
Cmax
Vd
kel
9
tmax
(復習)クリアランスの概念
クリアランス:消失速度が血中濃度に比例する、と考えた時の比例定数と定義。
全身クリアランス(CLtot) = (処理された薬物量/時間)/血中濃度 = 薬物消失速度/血中濃度
全身からの薬物消失速度は、各臓器における薬物消失速度の和であると考えられる:
CLtot = ∑CLorg,i
各臓器でのより本質的な消失能力を考えるために、以下を考慮する必要がある。
臓器抽出率:薬物が臓器を1回通過する際にどれだけの割合が非可逆的に消失を受けるか。
蛋白結合、血球分配:多くの薬物は血漿中のタンパク質に吸着し、血球成分にも分配される。
10
1-コンパートメントモデルとクリアランス
生体を数個のコンパートメントのみに単純化したモデル。
1-コンパートメントモデル
静脈投与などで、薬物投与後、すべての臓器及び組織中の薬物濃度と血漿中の
薬物濃度が瞬時に平衡に達すると仮定。
X0
Vd (分布容積) ≡ Vp + ∑ViKi = X/Cp
組織2 V2
C2
V1 組織1
C1
速い
血漿
C4
組織4 V4
C3
V3 組織3
X
Kp, Cp, Vp
C
単回静脈投与の場合
dX/dt = –kelX (kel : 消失速度定数)
X = X0·exp(–kelt)
(X0 : 投与量)
Cp = C0·exp(–kelt)
(C0 : 投与直後の血漿中濃度)
AUC(曲線下面積): 時刻0から無限大までの積分
Vd
kel
X0 = CLtot·AUC
AUC = X0/CLtot = C0/kel
CLtot = kel·Vd
(復習)臓器クリアランス
出口
入口
Cout
CB = Cin
Qi
臓器抽出率をEorg,iとすると
Eorg,i = (QiCin – QiCout,i)/QiCin
ここで、臓器iでの消失速度vel,iは、
クリアランスの定義から、
CLint,i
Eorg,i
vel,i = CLorg,i·CB
= QiCin – QiCout,i
= Eorg,iQiCin
CB = Cinより、
CLint,i
vel
CLorg,i
CLorg,i = Eorg,i·Qi
一方で、 1 – Eorg,i = Forg,i
で定義されるFを、アベイラビリティという。
これを上げるのがDDSの役割
-
-
臓器抽出率、アベイラビリティともに、臓器クリアランスCLorg,iと血流
速度Qiだけから決まる。
Eの最大値は1であることから、臓器クリアランスの上限は血流速度で
決まる。(消失が非常に速い血流律速の場合。)
アベイラビリティが低いことになる。
12
(復習)薬物のタンパクへの結合
アルブミン:分子量約67,000のもっとも豊富なタンパク質(30-45 mg/mL)
で、血中半減期が長い(19-22日)。薬物などを捕捉するポケットが複数あ
り、種々の薬物を吸着する(特に酸性薬物)。
α1酸性糖タンパク質:分子量約44,000で、5本の糖鎖を持つ糖タンパク質。ア
ミノ酸配列が免疫グロブリンなどと類似。血漿中濃度は、0.5–1.0 mg/mLで、
半減期は約5日。主に塩基性の薬物が結合しやすい。急性炎症、火傷、がん、
などが起こると濃度上昇するらしい。
-
血漿タンパク質に結合した薬物は
生体膜を透過しにくい。
臓器での消失を受けるのは、非結
合型薬物のみ。
血漿タンパク以外では、肝臓のタ
ンパクや血球成分への分配が同様
の効果を示す。
http://www.abbott.co.jp/medical/product/tdm/topics_1.html
(復習)薬物の血球成分への分配
Hct: ヘマトクリット
(全血体積に占める血球成分の割合)
1 – Hct
Hct
Cp
CRBC
14
血球成分中薬物濃度
Rb = CB/Cp (血球分配比)
CB = (1 – Hct)Cp + HctCRBC
これより、
薬物キャリアや水溶性の高い薬物では、
血球分配は無視できる。
Rb = CB/Cp = (1 – Hct) + HctCRBC/Cp
CRBC = 0の時、Rb = 1 – Hct
14
臓器クリアランスと固有クリアランス(再)
Cout
出口
入口
Qi
CB = Cin
fB
CLint,i
Eorg,i
fT
固有クリアランス:
消失能力のみを反映したパラメタ。
CLint,i
vel
CLorg,i
臓器iでの消失速度vel,i
= CLint,i·(消失酵素近傍の非結合型薬物濃度)
= CLint,i· fT·CT
定常状態では、細胞の内と外で非結合型薬物濃度が等しくなるとすると、
fB·CB = fT·CT
(fB, fT: それぞれ血中、組織中の非結合型薬剤の割合)
→毛細血管中の薬物濃度はすべてCout,iに等しくなると仮定すると、臓器iでの消失速度velは、
固有クリアランスが低い場合Qi >>fB·CLint,i
vel,i =CLint,ifBCout,i = Qi(Cin–Cout) = CLorg,i·Cin
CLorg,i = fB·CLint,i (固有クリアランス律速)
CLorg,i = (Qi·fB·CLint,i)/(Qi + fB·CLint,i)
アベイラビリティが高いことになる。
モデルの非線形性
1. 代謝反応の非線形性:生体の持つ代謝酵素の量や異物取り込み機構は有限で
あり、薬物や薬物キャリア量が過剰の場合、線形性がなくなる。
薬物動態の投与量依
存性や複数薬物投与
の影響が出る原因に
なると考えられる。
2. タンパク結合の非線形性:生体内のタンパクの結合サイト総量に比べて薬物量
が多くなると、線形性がなくなる(解離定数に大して無視できなくなると特に)。
また、同じサイトに結合する薬物が複数投与された場合、お互いが競合して阻害
することになる。
tion of circlearance.
on-specific
antibodies
specific, unintended distribution of nanomaterial in organs can trigger toxicities
and side-effects, and is therefore not inconsequential.
動物種間での差とアロメトリー
The impact of CDC deposition into the various organs of the MPS
アロメトリー:異なる生物間で体の大きさと生理学的な特性値の間に成立する、
must be thoroughly ascertained before establishing the innocuousness of a formulation. Similarly, when assessing the targeting proper経験的に求められるべき乗の比例関係(両対数線形関係)。
tiesyof
system,
the amount
ofxCDC
found in the desired tissue (e.g., a
B あるいは、
B
= aA·x
y∝
tumour) should be compared to that non-specifically distributed in
log y = log A + B·log x
身近な例:BMI = (体重)/(身長)2 よくある形 y = A(体重)B
身長 ∝ 体重0.5
Table 2
Comparative values of organ weight, blood flow and cycle time in different species. The
種々動物での組織重量、血流量などに対して成り立つらしい。
total
animal weight and total blood volume are given in parentheses. Values extracted
from reference
[25].
動物実験をヒトに外挿するのに活用可能。
以前、
使った
表
g formulations
ere multiplied
not stated in
otubes, PLGA:
Human (70 kg, 4 900 mL)
Rat (250 g, 17.5 mL) Mice (20 g, 1.4 mL)
Organ
Weight Blood flow Cycle Weight Blood Cycle Weight Blood Cycle
time
(g)
(mL/
(g)
flow time (g)
flow time
(min)a
min)
(mL/ (min)a
(mL/ (min)a
min)
min)
Lungs
Kidneys
Liver
Spleen
1,000
310
1,800
180
5,600
1,240
1,450
77
0.9
3.9
3.4
63.6
1.5
2
10
0.75
74.0
9.2
13.8
0.63
0.25
1.9
1.3
27.8
0.12
0.32
1.75
0.1
8
1.3
1.8
0.09
0.175
1.1
0.8
15.6
a
The time it takes for the organ to receive a volume equivalent to the total blood
volume. The value is calculated as total volume/blood flow in the organ.
B.Davies,T.Morris,Physiologicalparametersinlaboratoryanimalsandhumans, Pharm. Res. 10 (1993) 1093–1095.より抜粋。
17
blood%flow%
y"="197.07x0.7969
R²"="0.99889
blood%
10000"
y"="70x"
R²"="1
10000"
1000"
1000"
blood"flow"
100"
(blood"flow)"
10"
blood"
100"
(blood)"
1"
0.01"
0.1"
1"
10"
100"
10"
kidney'
1"
0.01"
0.1"
1"
10"
1000"
100"
spleen&
100"
y"="42.7x0.8619
R²"="0.99602
10000"
(kidney)"
1"
0.01"
spleen"
100"
(spleen)"
10"
1"
10"
liver&
10000"
0.1"
1"
10"
100"
0.1"
ウサギも含めた
(体重: 2.5 kg, 肝臓 77 gとして)
1"
0.1"
kidney"
10"
1000"
0.01"
y"="7.8566x0.8514
R²"="0.99781
100"
liver"
y"="42.7x0.8619
R²"="0.99602
10000"
1000"
y"="40.609x0.8567
R²"="0.99502
1000"
liver"
100"
liver"
100"
(liver)"
(liver)"
10"
10"
1"
0.01"
0.1"
1"
1"
10"
100"
0.01"
0.1"
1"
10"
100"
18
アニマルスケールアップ:分布容積
分布容積について、アロメトリックな関係が成り立つことがある。
分布容積を、fB(血中タンパク非結合型分率)で補正すると、良好な関係を示した。
(特に、能動輸送が起きない薬物について良い結果が得られることあり。)
19
アニマルスケールアップ:腎クリアランス
20
クリアランスについても、アロメトリックな関係が成り立つことがある。
腎排泄される薬物については、良好な関係が経験的に成立している。
アニマルスケールアップ:腎クリアランス
21
メトトレキサート:葉酸代謝拮抗阻害の制がん剤、抗リウマチ薬。
血漿タンパク結合: 50%, 尿中排泄:48% (1 h)
主として腎排泄することで知られる薬物。
CL = 11.0(体重)0.685
アニマルスケールアップ:肝クリアランス
22
アンチピリン:サリチル酸様鎮痛解熱薬。
消失半減期: 12 h, 尿中排泄:48% (1 h)
肝臓におけるシトクロムP450による酸化代謝が主な消失経路。
CL = 0.00816(体重)0.885
ヒト以外では良好な関係が成
立している。
動物間で代謝系に差がある?
経験則に頼ることの限界
(モルモット)
薬物動態評価のためのモデル系構築
ヒト由来の細胞を用いた評価系の方がより有望。動物実験の代替にもなる。
- 肝クリアランスでは、ヒトの肝細胞破砕液由来のミクロソーム(小胞体が細分
化した小胞で、シトクロムP450を含む)を回収し、評価に用いる。
- 腸管吸収などでは、Caco-2 (結腸腺がん患者由来)を用いた評価系。
薬物の透過、輸送体による能動的排出などの挙動を評価。
トランスウェル
薬物
Caco2細胞
半透膜/
多孔性膜
透過した
薬物
消化管粘膜部位での
薬物吸収機構
X.-W. Yang, et al.
Journal of Chinese
Integrative Medicine:
Volume 5, 2007, p. 637.
マイクロ流体デバイスの活用
K. Sato, et al., ANALYTICAL SCIENCES, 2012, 28, 197–199.
- 鋳型を用いてPDMS (シリコンゴム)に
マイクロ流路(1.5 mm幅)を型取り。
- 下のような設計にして腸管吸収を再現。
-
-
肝臓での代謝機構も途中に配置し、
最終的なターゲットとして乳がん細胞を
配置。
薬物動態・薬効の判定に活用可能。
24
ファーマコダイナミクス(薬力学; PD)
ファーマコキネティクス(PK)では薬物の吸収・分布・クリアランスによる薬物濃度の経時
変化を定量化したが、ファーマコダイナミクス(PD)では、作用部位での薬効を扱う。
シグモイドモデル
PK/PD
経口投与
PK/PD解析の目的:
薬効発現に関わる生物学的なプロ
セス込みでの速度論的考察を可能
にし、最も安全かつ有効な薬物・
剤形、投与計画の設計につなげる。
薬効コンパートメントモデル
薬効が遅れて発現することがある。
薬効コンパートメントを設定するとわかりやすい。
薬効コンパートメント
この先は
薬理学が重要
*各コンパートメントは1次の速度論で結合され、薬効コンパートメン
トの分布容積は小さく、全体の濃度変化に影響を与えないと仮定。
横軸:血漿中濃度
横軸:薬効コンパート
メント中濃度
ブナゾシン:末梢血管の交感神経α1
受容体を選択的にブロックし、血管
を広げ、血圧を下げる。
26
PK/PD解析の活用
規模拡大
安全性
有効性(少数, 軽度)
(i) 医薬品開発の段階から安全性の予測を確実なものとするのに有効。
(ii)動物モデルやin vitro試験の薬理作用が臨床的に有用かを科学的に検証。
(iii)臨床での適正使用を可能にする定量的・統計的な評価手法の構築。
(iv)DDS設計の指針を得るのに有効。
27
(再録)3. 体内動態制御、ターゲティング(標的指向化)
疾病部位に薬物を効率的に運ぶ必要がある。
運搬体(キャリア)の利用が有効。
薬物を化学的に修飾したり、
微粒子に閉じ込めたりする。
ターゲットになりうるもの
臓器、がんや炎症部位などの病巣、
レセプターや酵素などの分子レベルの物質
ターゲティングの分類
能動的ターゲティング …積極的に行く仕掛けを組み込む。
受動的ターゲティング …生体の側の特性を活かす。
逆ターゲティング …余計なところに行かせないようにする。
28
受動ターゲッティングと能動ターゲッティング
DDSにより、どれだけ標的に運ばれたか?
下のようなコンパートメントモデルを考える:
標的への一方向性の取り込みをPSinf、標的への累積取り込み量をXRとする。
この時、血中薬物濃度のAUCとの間には、
D
循環血流
コンパートメント
CB
PSinf
↓AUC = D/CLtotを使った。
標的部位
コンパートメント
XR
XR = PSinf·AUC = PSinf·D/CLtot
(標的部位への取り込みは、全身クリアランスに影響を与えないとする。)
CLtot
飽和すると、相対的に標的外でのクリ
アランスを受けやすくなることに注意。
能動ターゲッティング(active targeting):
PSinfの増加によるXRの上昇を期待。
→多くの場合、細胞表面レセプターを標的。(右図)
受動ターゲッティング(passive targeting):
CLtotの減少によるXRの上昇を期待。
→種々の消失機構から逃れる薬物キャリアの利用
が有効。
29
受動ターゲッティングの例
Enhanced Permeability and Retention (EPR)効果:がん組織や炎症組織では、毛
細血管の漏出性が上昇しており、物体が漏れ出やすい。また、リンパ系が未発達(あ
るいは、機能不全)で、物質の排出が起こりにくい。
正常組織
がん組織
未発達なリンパ系
リンパ系からの
排出
低い排出機能
リンパ系
透過性が亢進した
: 低分子薬物
: 薬物キャリア
血管壁
ステルス化された(異物認識を受けにくい)微粒子性薬物キャリアが
よく貯留する。サイズ< 150 nmが閾値と言われている。
Y. Anraku, et al., Chem Commun, 2011, 47, 6054.
架橋PIC micelle (38.0 nm) v.s.
架橋Nano-PICsome (102, 158, 197 nm)
血中滞留性
腫瘍集積
●: 38.0 nm
●: 102 nm
●: 158 nm
●: 197 nm
サンプル
PIC micelle
Nano-PICsome
●: 38.0 nm
●: 102 nm
●: 158 nm
●: 197 nm
サイズ (nm)
MRT (h)
がんへの集積
38.0
89.5
102
107
○ すぐに集積する
○ 遅いが集積する
158
101
△ わずかに集積する
197
–
× 全く集積しない
サイズのチューニングにより機能制御が可能
Y. Anraku, et al., Chem Commun, 2011, 47, 6054.
サイズチューニングの効果
粒径ごとの240時間後のAUCを腫瘍と脾臓で比較
→150 nm前後にしきい値が存在。
腫瘍(C-26)集積
38 nm
脾臓集積
102 nm
298 nm
256 nm
197 nm
158 nm
158 nm
38 nm 102 nm
197 nm 256 nm298 nm
安定な粒子を用いることではっきりしたサイズ効果の確認が可能
32
制がん剤封入高分子ミセルの例
Drug
(Adriamycin)
nano-fibrous-micelles
showed enhanced tumor suppression
activity.
Drug (10mg/kg)
Micelles
Drug
(10mg/kg)
(20mg/kg;
Toxic Death)
K. Kataoka et al.
Days from the first injection
Cancer Res. 1991 etc..
Fillomicelle
制がん パクリタキセル
剤
(微小管脱重合阻害剤)
シスプラチン
対象
副作用
・乳がん、肺がんなど多種
・肺がん、胃がんのキードラッグ
・神経毒性、アレルギー
・強い吐き気、強い腎毒性
臨床
治験
・乳がんにおける著明な効果
・膵がんに対する著しい延命効果
・神経毒性軽減
・腎毒性・吐き気著明に軽減
・抗アレルギー剤の前投与不要
・水分負荷不要 第3相治験
Length
Length
1 µm 8 µm
(DNA合成阻害剤)
・1日3リットル3日間の水負荷
ミセル
の利点
Tumor Cell
Apoptosis
Non-treatment
➡Flexible
Tumor Size
20-100 nm
PEG shell
Relative Tumor Volume
polymeric micelles selectively
deliver drugs to tumor tissue.
Several µm
➡Nano-sized
第3相治験
D. Discher, et al.
Nat. Nanotechnol.
2007, 2, 249.
7
(復習)リンパ管
- リンパ管は、ほぼ静脈に接近したところに位置し、上皮・軟骨・眼球・中枢神経系・
脾臓を除く全身に分布。筋肉の収縮や身体の動きで流れ、胸管から静脈へ戻る。速度は
1-2 L/日と遅い。
- 末梢の組織間液中の代謝産物や細菌・死んだ細胞、がん細胞、免疫細胞などを運び、
標的部位としても重要。特に、樹状細胞のリンパ節への移行は免疫応答上重要。
- 分子量5000以上のものは毛細血管から漏出しにくく、主にリンパ管へ移行する。
すき間が
多い
胸管
弁
34
リンパ節ターゲッティング
-
-
細菌の感染拡大やがん細胞の転移は
主としてリンパ系を介して行われるた
め、化学療法のターゲットとなる。
低分子量の薬物はリンパ系への移行
が難しいため、高分子化・微粒子化
した薬物が効果的。特にリンパ節転
移治療に有望。
『図解で学ぶDDS』p. 48
ワクチン開発に向けての粒径制御の重要性: リンパ節への移行と樹状細胞への取り込み
皮下注射した後の
リンパ節への移行を評価
100 nmの
ポリマー粒子
25 nmの
ポリマー粒子
粒径が小さいほど、樹状細胞に
よく取り込まれた。
100 nm 25 nm
M. Swartz, J. Hubbell et al.,
Nat. Biotechnol. 2007, 25, 1159.
能動ターゲッティングの例
肝臓での能動 ターゲティング:
アシアロ糖タンパク質レセプター
やマンノース、ガラクトースのレ
セプターが標的。
腫瘍細胞に発現する抗原
/レセプター
抗体により腫瘍細胞に
発現する抗原を標的。
『図解で学ぶDDS』p. 103-115
estingly, recent evidence showed that PEG liposomes,
previously considered to be biologically inert, could still
C certain side reactions through activation
D of the
E
induce
h
j
表面へのリガンド(抗体、糖、ペプチド)などの導入は有効な戦略だが、
complement
system33.
f
ver the liposome
omes demonstrate
log-linear kinetics
d
例)表面修飾リポソーム
i
e
キャリアの体内動態を変えてしまうリスクがある点に注意。
q
g
抗体によるアクティブ
c
D
E
ターゲティング
h
q
g
糖をコレステロールに修飾して
脂質膜に突き刺す。
j
i
e
k
s
k
r
p
+
s
p
o
r
n
+ l
+
m
–
+ l
+
Figure 1 | Evolution of liposomes. A | Early traditional phospholipids
+ ‘plain’ liposomes with water soluble drug (a) entrapped into
– the liposomal membrane (these designations are not
the aqueous liposome interior, and water-insoluble drug (b) incorporated into
PEGによる
o
n
m
repeated on other figures). B | Antibody-targeted immunoliposome with antibody covalently coupled (c) to the reactive
ステルス性
phospholipids in the membrane, or hydrophobically anchored (d) into the liposomal membrane after preliminary modification with a
118
膜透過のためのペプチドなどの装着
Early traditional
phospholipids
liposomes
with liposome
water soluble
drugwith
(a) entrapped
intopolymer (e) such as『図解で学ぶDDS』p.
hydrophobic
moiety.‘plain’
C | Long-circulating
grafted
a protective
PEG, which shields the liposome
r-insoluble
drug (b)
incorporated
into the
liposomal
membrane
(these
are not immunoliposome simultaneously bearing both
surface
from
the interaction
with
opsonizing
proteins
(f). designations
D | Long-circulating
targetedprotective
immunoliposome
covalently
coupled
(c) to thetoreactive
polymerwith
andantibody
antibody,
which can
be attached
the liposome surface (g) or, preferably, to the distal end of the grafted
ophobically
anchored
(d)
into
the
liposomal
membrane
after
preliminary
modification
with
a be modified (separately or simultaneously) by different
polymeric chain (h). E | New-generation liposome, the surface of which
can
liposome grafted with a protective polymer (e) such as PEG, which shields the liposome
ways. Among these modifications are: the attachment of protective polymer (i) or protective polymer and targeting ligand, such as
zing proteins (f). D | Long-circulating immunoliposome simultaneously bearing both
antibody (j); the attachment/incorporation of the diagnostic label (k); the incorporation of positively charged lipids (l) allowing for the
an be attached to the liposome surface (g) or, preferably, to the distal end of the grafted
complexation with DNA (m); the incorporation of stimuli-sensitive lipids (n); the attachment of stimuli-sensitive polymer (o); the
iposome, the surface of which can be modified (separately or simultaneously) by different
attachment
of cell-penetrating
peptide polymer
(p); the and
incorporation
of viral
components
(q). In addition to a drug, liposome can loaded
e attachment
of protective
polymer (i) or protective
targeting ligand,
such
as
with magnetic
particles
(r) for magnetic
targeting
and/or
with
gold
n of the diagnostic
label (k);
the incorporation
of positively
charged
lipids
(l) colloidal
allowing for
theor silver particles (s) for electron microscopy.
ration of stimuli-sensitive lipids (n); the attachment of stimuli-sensitive polymer (o); the
V. Torchilin,
ADVANCES
WITH
LIPOSOMES
AS
p); the incorporation
of viralRECENT
components (q).
In addition to a drug,
liposome
can loaded
argeting
and/or
VOLUME
4 with colloidal gold or silver particles (s) for electron microscopy.
Nat. Rev. Drug Discovery, 2005, 4, 146–160.
PHARMACEUTICAL CARRIERS
www.nature.com/reviews/drugdisc
37
『図解で学ぶDDS』p. 111
薬物の吸収改善とDDS
薬物を使える状態で患部まで運ぶ必要がある。
運ぶものに応じた設計
疎水性薬物:可溶化しつつ適宜吸収(徐放)、標的指向性
水溶性薬物:腎排泄回避、細胞膜透過性付与、標的指向性
バイオ医薬品(核酸/遺伝子、タンパク質、ペプチド、細胞など):
薬理活性を保ったままの送達(免疫系回避、分解からの保護)、細胞内導入、
標的指向性
投与経路に応じた設計
経口投与:消化管吸収の改善、肝臓での代謝の回避
経肺投与:吸入手法の開発(肺胞細胞が薄いため、吸収自体はおこりやすい。)
経皮投与:上皮バリアの突破
静脈投与:(特にキャリアを使った場合)血中滞留性、標的指向性
39
医薬品の開発と剤形開発の歴史
『図解で学ぶDDS』(じほう)