シェール資源の産業への影響:概説 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

作成日: 2015/1/16
調査部: 伊原 賢
公開可
シェール資源の産業への影響:概説
(日本 LP ガス協会、米国エネルギー省 DOE、米国エネルギー情報局 EIA、国際エネルギー機関 IEA ほか)
本資料では、シェール資源の産業への影響について、概説する。産業の対象は、LPG、石油化学、自
動車燃料、水処理、シェールオイル採掘とした。本資料のポイントを以下に示す。
① LPG元売り会社は米国産LPGの輸入を拡大することで、市場において中東産に並ぶ指標として
の存在感に期待している。
② 石油化学産業では、エチレンセンターの統合や縮小が始まっている。さらに、シェール革命によ
ってもたらされた米国の安価なエチレン誘導体の輸出に追い討ちをかけられることになろう。エチ
レン誘導体に代表される既存品を顧客であるメーカーに売り込むのではなく、その先にある消費
者の目線を考えて、石油化学製品の高付加価値化を進めていく必要があろう。
③ シェール革命による原油輸入量の急減が見られる米国では自動車燃料の主役は、しばらく従来
のガソリンと軽油で変わりないと見る。シェール革命の米国から世界への進展度合いを見極めな
いと、自動車燃料の覇権争いは理解できない。
④ シェール革命に伴う水圧破砕で水資源利用の重要性が認識されている。水圧破砕のコストを下
げるには、当然リサイクル水の利用が主流になろうが、リサイクル水の利用は、水処理コストを如
何に低減できるかが鍵となる。
⑤ 高品質なプロパント(樹脂コーティングされた砂やセラミック)と増加する生産レートや総推定生産
量との関係がしだいに解明され、シェールオイルは、油価が50米ドル/バレル以上だと採算がと
れることが判ってきた。但し、シェールオイルの採掘は2010年頃より本格化したので、コストを下げ
る技術改良は発展途上だ。原油価格がどこまで下がればシェールオイルの生産増を抑制するか
に関心が集まっている。
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ
るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資
等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負
いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
1. 日本の LPG 業界にも変化:米国からの輸入で安価に
米国では 21 世紀に入るとシェールガスの採掘本格化が始まり、天然ガスを今までよりも安価で大量に
得ることが出来るようになり、米国のあらゆる産業に活気を呼び戻すシェール革命が現れた。
シェールガスの主成分はメタンであるが、エタン・プロパン・ブタンなどの天然ガス液(NGL)も含まれて
いる。プロパンは液化石油ガス(LPG)として消費地に送られる。シェールガスの生産増により、LPG 生産
は 2012 年に 600 万トンであった。米国エネルギー情報局 EIA によれば、2014 年には 1200 万トンに達し
たと見られる。指標となるモントベルビュー渡しの価格も、2012 年のトンあたり 380~400 ドルが 2014 年 12
月にはトンあたり 260 ドルに下落し、LPG 大手のエンタープライズ社は余剰の米国産 LPG の輸出を活発
化させている。米国では LPG は石油製品扱いとなり、戦略物質である原油のように禁輸とはならないの
だ。
さて、我が国は年間約 1600 万トンの LPG を消費しているが、約 1300 万トンを海外からの輸入に頼って
いる。サウジアラビア、カタール、アブダビといった中東諸国やオーストラリアが主な輸入先だが、その長
期契約者向け出荷価格はサウジアラムコ CP という通知価格である。2014 年 6 月からの原油安と需給の緩
和により、2014 年 12 月積みのプロパンは 1 トンあたり 550 ドルと 5 年 4 ヶ月ぶりの安値となったが、価格
設定が不透明、アジアの LPG 需給が反映されていないとの不満が、我が国の LPG 元売り会社には根強
い。しかしながら、LPG は先物市場が整備されていないとして、LPG 輸出国はサウジアラムコ CP を好まし
い価格としてきた。
市場の需給により価格が決まる米国産の LPG が日本に輸入されると状況は一変する。既に 2013 年は
95 万トンが輸入された。モントベルビュー渡しがトンあたり 260 ドルとサウジアラムコ CP の約半分だと、大
西洋周りの船賃を勘案しても、日本着の輸入価格はトンあたり 500 ドルと中東産の LPG より安価となる。日
本が輸入する約1300 万トンに比べ、現状の 150 万トン程度では日本全体に与える影響は限定的だが、米
国からの LPG 輸入は、その調達先の多様化につながり、サウジアラムコ CP という LPG 価格体系に風穴
を開けることとなり、より安価な LPG 獲得につながることが期待された。我が国のアストモスエネルギー社、
ENEOS グローブ社ほかは既にアクションを起こしている。日本 LP ガス協会は、米国産 LPG の日本の輸
入量に占める割合を、2014 年 4 月~9 月の 12%から 2016 年に 20%(最低 200 万トン)へと高める目標を
掲げている。
パナマ運河の拡張で大型LPG 船の通過が可能になると、輸送日数は大西洋周りの 45 日の半分に短縮
される。パナマ運河拡張は 2016 年 1 月に工事完了の見通しで、LPG 元売り会社は米国産 LPG の輸入を
拡大することで、市場において中東産に並ぶ指標としての存在感に期待している。少子高齢化による国
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ
るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資
等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負
いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
内市場の縮小という岐路に直面する我が国の LPG 業界にとって朗報となるかが問われている。
2. 変革期迎える石油化学産業:産油国 随伴ガスを活用
日本の石油化学産業は 1970 年代に二度のオイルショックを経験したが、為替変動や国内外の高度成
長に助けられ、この半世紀は順調に発展した。しかし、21 世紀に入り世界の石油化学産業は大きな変革
を迎えている。
中東の産油国は原油生産に伴う天然ガス(随伴ガス)を用いて自国で大規模なエタンクラッカーとポリエ
チレンなどのエチレン誘導体の製造を開始した。中東で採掘される安価な随伴ガスから製造されるエチ
レン誘導体は、欧州やアジアへの輸出を目指す。中国は中東原油の最大輸入国になりつつあるが、輸入
原油の依存度を下げるために、独自に石炭を原料とした化学産業を展開している。
米国は 21 世紀に入ると原油生産量が減少し輸入量が増加し始め、ピークオイル論が取り沙汰された。
そこにシェールガスの採掘が始まり、天然ガスを今までよりも安価で大量に得ることが出来るようになり米
国のあらゆる産業に活気を呼び戻すシェール革命が現れた。米国の石油化学産業はシェールガスに含
有されるエタンやプロパンから、エチレン、プロピレン、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)留分といった
石油化学の基礎製品を製造している。米国におけるエチレンの製造コストは、エタンの原料コストが全体
の 5~6 割を占める。シェールガス増産による天然ガス由来のエタンの原料価格は原油由来のナフサの
原料価格よりも大幅に安値となり、エチレン製造の大幅なコストダウンにつながり、米国石油化学の国際競
争力の向上にもつながると期待される。世界一安価なエチレンを製造できるようになったのだ。2012 年に
石油メジャーのシェル社は東部のマーシェラスシェールガス田のエタンを利用するエチレンプラントの新
設を発表し、ダウ・ケミカルもメキシコ湾岸でエチレンプラント新設を発表した。北米では安価なエタンクラ
ッカーの新設が次々と計画され建設が始まっている。数年後の米国のエチレン誘導体の生産量は米国
需要の倍近くとなる。その増加分はほとんどが欧州やアジアへの輸出に当てられると考えられる。
中東の石油化学製品輸出の日本への影響は、中国の需要がいまだ堅調なため、まだ大きくないが、日
本の石油化学産業は、中東からのこのうねりに競合できず、2013年よりエチレンセンターの統合や縮小が
始まっている(三菱化学、旭化成ほか)。その矢先にシェール革命によってもたらされた米国の安価なエ
チレン誘導体の輸出に追い討ちをかけられることになろう。シェール革命の影響はあまりにも大きく、かつ
てのオイルショックの時のような助け船が期待できない。
日本の石油化学産業は、従来のように開発した技術(例えばエチレン誘導体)を顧客であるメーカーに
売り込むのではなく、その先にある消費者の目線を考えて、石化製品の高付加価値化を絶えず進めてい
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くだろう。
3. 米国発の自動車燃料サバイバル:世界展開で覇権争い変化
有限な化石燃料と地球温暖化対策から、自動車燃料に多様化が求められている。米国では 2006 年頃
よりシェール革命が起こり 8 年余りを経た。単位熱量あたりで比べると、2014 年 5 月の時点で価格が原油
の約四分の一のシェールガスは、米国では自動車の燃料としても使えている(原油価格下落により 2014
年 12 月の時点は約二分の一)。但し、トラックやバスといった商用車に限られよう。乗用車への普及には、
圧縮天然ガス(CNG)タンクの低コスト化と燃料供給インフラの整備というハードルが立ちはだかる。水素
(H2)は天然ガスよりもエネルギー密度が低いため、ハードルは更に高い。ガスの液体燃料化技術(GTL)
による軽油はディーゼル車の燃料として競争力が見込めるが、供給量が絶対的に足りない。
米国シェールオイルの増産が世界に展開して原油の生産量が仮に増えれば、ガソリン価格の低下も現
実となる。昨年末に米国ガソリン価格は 1 ガロン(3.785 リットル)当たり 2.5 ドルとなり、2009 年 5 月以来の
安値を付けた。いわゆる「逆オイルショック」が起きれば、単価、数量とも見込める市場がこれから出現する。
例えば、米国ビック 3(Ford 社、GM 社、Chrysler 社)とも月ごとの販売台数 1 位はピックアップトラックで、2
位を 1 万台以上引き離している状態が 2013年初より続く。ピックアップトラックの人気は米国の一部ユーザ
ーに限られたものなのか、世界的な展開を見せるのか、「シェール革命」の行く末に注目が集まる。米国
では自動車燃料の主役は、しばらく従来のガソリンと軽油で変わりないと見る。
一方、日本では自動車用のエンジンについては、平成に入って以降 6 回の排出ガス規制強化があり、
2016 年に NOx の規制強化が予定されている。規制値だけ単純に比較しても、1994 年の規制と比較しても
NOx は 1/15、粒子状物質(PM)は 1/70 となる。同時に今年 2015 年に重量車用の燃費基準改訂が予定さ
れており、排出ガス規制強化と燃費向上に同時に対応してきた。よって、ガソリンと軽油は米国と同様、主
役の座をしばらくは渡さないと見る。
エコカーで先んじたハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)に加え、
水素を燃料とする燃料電池車(FCV)が次世代自動車の覇権争いをしている構図は、2013 年11 月に開催
された第 43 回東京モーターショーや 2014 年 11 月のロサンジェルスモーターショー14 でも明らかとなっ
た。リチウムイオン電池を搭載した先進的な電気自動車やハイブリッド自動車の国際安全基準の整備は
今後も進んでいくだろう。
しかし、シェールガス革命の米国から世界への進展度合いを見極めないと、自動車燃料の覇権争いは
理解できない。自動車燃料サバイバルに注目が集まる。
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4. 水処理業界の動き
シェール資源の採掘に欠かせない技術「水圧破砕」に用いられる流体は、界面活性剤、腐食防食剤、
酸、スケール防止剤(スケールインヒビター)、バクテリア殺菌剤等の化学物質、プロパント(水圧破砕で出
来た割れ目の詰め物)を含む。薬剤の調合、地下への圧入頻度は採掘業者の機密であった。2012 年7月
時点では、水圧破砕が行われている 30 州のうち、化学物質の情報公開が義務付けされているのは 14 州
に留まり、水圧破砕作業後の公開にとどまっていた。2011 年には米国内でどのような化学物質が水圧破
砕に使用されているかを登録する FracFocus.org というサイトが開かれた。水圧破砕が行われている地域
住民への情報公開が目的である。サイトの公開情報は、水圧破砕の実施日、場所、井戸の深度、使用水
量、含有化合物名、含有化合物の添加剤中の濃度などを含んでいる。
米国環境保護局 EPA は、採掘するシェール層と帯水層は少なくとも 1.6km は離すように指導している。
地質工学から地下 2~3km 深くに圧入された水圧破砕流体は、地表近くの帯水層に影響を及ぼさないは
ずだが、仮に地下に断層や自然の割れ目が存在すると、その割れ目を通じ、帯水層などの水源を汚染す
る可能性は否定できないという人もいる。廃水タンクからの漏洩、ハリケーンなどの廃水ピットの破壊によ
る地下水や河川水汚染の報告もある。
水圧破砕の環境規制について、連邦政府や各州で環境規制が制定されている。米国石油協会 API の
Hydraulic Fracturing Guideline が詳しい。環境問題は水と大気の問題に大別されるが、この環境規制は日
本の統一規制(岩盤規制)と異なり、連邦法や州法で独立独歩となっており、地域により異なる。扱われる
規制項目は、①水資源の利用、②廃水処理、③地下水汚染、④空気汚染(水圧破砕に用いた一部戻り水
[フローバック水]に含まれるメタンガス、輸送トラックのディーゼル排気)、⑤水圧破砕時、廃水の地下圧入
時に起こる微小地震である。⑤の廃水の地下圧入時の地震誘発はしばしば指摘されるが、②~⑤の環境
リスクは少ないと筆者は考えている。最も関心が高いのは、①水資源の利用に資する使用する水のリサイ
クル率の向上(現状 20%→50%)であろう。
米国エネルギー情報局 EIA によると、2035 年には 63 万本の井戸で水圧破砕が実施されると予測して
いる。仮に今まで通りに水を再生しないで、水資源を使い続けるとすると現状の 15 倍の年間 510 億トンが
必要となる。因みに日本の年間水資源使用量は 830 億トン程度だ。1 回の水圧破砕で用いられる水の使
用量(例えば、米国のバーネットシェール 1.1 万トン、カナダのホーンリバー・シェール 1.5万トン)は、水圧
破砕の方法がスリック・ウォータータイプから水の量が少なくゲルを含むタイプにシフトしたため減少傾向
にあるが、水平坑井数および水圧破砕の回数は増加傾向なので、水の使用量は依然増加傾向にある(詳
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細は、JOGMEC 石油天然ガス資源情報「フラクチャリングのサービス会社から見たシェール資源採掘」、
2014 年 8 月 6 日、伊原賢
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=1408_out_e_fracturing_fluids_trend%2epdf&id=5319)。
このような背景から、水圧破砕のサービス業界としては、井戸から一部戻ってきた坑廃水のリサイクル率
を増して真水の使用量を減らしている。
蒸留や膜処理といった水処理技術と水圧破砕技術との融合が、採掘コストを下げるとともに環境にやさ
しい技術になるかに注目が集まっている。関連する水処理市場は、2013 年の米国のシェール資源採掘
前の井戸まわりで 69 億ドル、シェールガスやオイル生産後で 17 億ドルと推定されている(Don Warlick:
Shale Play Water Management, 2014 年 5 月)。非在来型資源採掘に伴う水処理投資の成長率は年平均
14.2%と予想されている(SPE Oil and Gas Facilities、2014 年 8 月)。
シェール資源採掘で最終的に望まれる廃水処理は無放流処理であろう。如何に初期コスト、操業コスト
を下げるかが課題である。当然リサイクル水の利用が主流になるが、1.5~3 ドル/バレルとされる水処理コ
スト(SPE の月刊誌 JPT、2014 年 10 月)を如何に低減できるかが鍵となる。
日本には水処理にかかる蒸留、逆浸透膜といった世界に誇る技術を有しているが、世界の資源採掘市
場でのプレゼンスは大きいとは言えない。シェール革命に伴う水処理市場に勇気をもって参入することが
期待される。
5. シェールオイル採掘コストのダウン?
シェール革命によって、北米大陸は世界最大の石油・天然ガスの供給地となり、その影響は米国に留ま
らず全世界に及んでいる。シェールオイルの生産増に伴い、原油価格は 2014 年6 月ごろから下落傾向を
示している。米国に集中しているシェール革命の効果は、今後カナダやメキシコに、そして世界に広がっ
ていこう。ここ 2、3 年でテキサス州南部のイーグルフォード・シェールで広く適用されたジッパー型フラク
チャリング(坑井間隔を狭めた中でより多くの割れ目を短い時間で作り、産油量の 2~3 割増が可能)は、メ
キシコでも適用された。石油採掘技術に国境はない。2014 年 11 月 19 日に都内の日本記者クラブで会見
した IEA のファンデルフーフェン事務局長も、北海ブレントが 80 ドルの水準なら米国のシェールオイル開
発事業のほとんどは利益を出せると語っている。
シェールオイルは、シェール(頁岩:けつがん)層に閉じ込められた原油である。軽質油であるが、在
来型油田と比べるとシェール層の流動性は極めて悪く、水圧破砕を適用して採掘する。水圧破砕と出来
た割れ目の支持材(プロパント)が、岩石から坑井へのオイルの流路を確保する際の鍵だ。高品質なプロ
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等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負
いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
パント(樹脂コーティングされた砂やセラミック)と増加する生産レートや総推定生産量との関係がしだいに
解明され、シェールオイルは、油価が 50 米ドル/バレル以上だと採算がとれることが判ってきた。ノースダ
コタ州のバッケン、テキサス州のイーグルフォードに代表されるシェール層において、その採掘が盛んで
あり、米国の生産量は 2011 年に日量 120 万バレル、2014 年に日量 450 万バレルと急増した。この増産に
伴い米国の原油生産量は、米国エネルギー情報局 EIA の 2015 年 1 月月例の短期エネルギー見通しに
よれば、2015 年平均で日量 931 万バレル、2016 年平均で日量952 万バレルと予測された。同見通しでは、
原油価格は 2015 年第一四半期に底値を付けた後、徐々に回復基調に入るとしている。原油価格の低下
と米国の原油生産量への影響には 1 年ほどのタイムラグがあり、米国の原油生産量は 2015 年5 月に日量
947 万バレルとピークを迎えた後、減少傾向に転じ、2015 年 9 月に日量 923 万バレルと底値をつけ、その
後また上昇に転じるとしている。
昨年 11 月 27 日の OPEC 総会の減産見送りは米シェール採掘業界で有名なコンチネンタルリソース
のハム CEO の想定を覆した。「原油価格は短期的に 1 バレル 80 ドル台半ばから 90 ドル強に戻す」とみ
ていたハム氏は「OPECは減産で価格のテコ入れに動く」と読んでいた。そんな楽観論はOPECの決定で
一変した。原油安を静観する OPEC の意向に関して「50~60 ドルまで下げる必要があるとみている」(クレ
ディ・スイス)との観測もある。
さて、シェールガス開発の採算分岐点は 4~6 米ドル/百万 Btu(百万 Btu=25.2 万キロカロリー)とされる。
原油を取り出すときも天然ガスを取り出すときも採掘の手間は、基本的に一緒である。熱量等価という考え
方で原油の採掘コストを考えてみる。1 バレルの原油を燃やすと 150 万キロカロリー(六百万 Btu)の熱量
が得られる。シェールオイルの採掘技術は水平坑井と水圧破砕の組み合わせでシェールガスと同様なの
で、その採掘コストは 24~36 米ドル/バレルと試算される。オイルの密度はガスの 1000 倍なので、ガスよ
りも水圧破砕でできた割れ目を通りにくい。通り易くする手間が、先に述べた 50 米ドル/バレルと 24~36
米ドル/バレルとの差として採掘コストのアップにつながる。シェールオイルの開発は 2010 年頃より本格化
したので、コストを下げる技術改良は発展途上だ。原油価格がどこまで下がればシェールオイルの生産
増を抑制するかに関心が集まっている。採掘技術者の一人として興味深い。
以上
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