短期原油価格見通し

第 124 号(2014035)
2014 年 12 月 29 日
みずほ銀行 産業調査部
Mizuho Short Industry Focus
短期原油価格見通し ~世界の石油需給動向と 2014 年度・2015 年度の価格見通し~
【要旨】

世界の石油需要が弱含む中、石油生産が堅調に推移してきたため、需給緩和を主要因として、原油価
格は 2014 年夏場以降下落基調となり、12 月には$60/bbl を割れ込む水準にまで急落した。

世界の石油需給緩和状況が短期的に解消する可能性は小さい。然しながら、足許の供給増加を支える
米国シェールオイルの生産拡大が鈍化する可能性を踏まえ、2015 年度後半にかけて、需給バランスが
次第に是正されることに伴う原油価格の緩やかな上昇を予想する。
2014 年度の原油価格は、夏場以降下落基調で、12 月に入り WTI が$60/bbl を割れ込む水
準にまで急落している(【図表 1】)。近年$100/bbl 前後での推移が定着していた原油価格が、
2014 年 6 月下旬からの約半年間で 4 割以上も下落した背景には複数の要因が考えられる
が、その中でも足許の需給緩和傾向が重要な要因となっている。
2014 年 夏 場 以
降、原油価格の
下落が継続
【図表1】 原油価格の推移
≪2007 年 1 月~2014 年 12 月≫
≪2014 年 1 月~2014 年 12 月≫
Brent-WTI(右軸)
($/bbl) ($/bbl)
Brent
50
120
Dubai
WTI
110
40
2014年
100
30
Brent-WTI(右軸)
($/bbl)
Brent
60
Dubai
WTI
50
40
90
30
80
20
70
10
0
60
0
▲ 10
50
▲ 10
'14/12
'14/11
'14/10
'14/9
'14/8
'14/7
'14/6
'14/5
'14/4
'14/3
'14/1
'14/1
'13/1
'12/1
'11/1
'10/1
'09/1
10
'14/2
20
'08/1
'07/1
($/bbl)
150
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
(出所)EIA 資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
石油需給動向やマーケット環境を踏まえ、2014 年度・2015 年度の原油価格見通しを作成
した(【図表 2】)。見通しの前提となる石油需給等の考察を以下に記載する。
【図表2】 短期原油価格見通し(各期平均値)
2013年度
上期実績
下期実績
2014年度
2015年度
通期実績
上期実績
下期見込
通期見込
上期見通
下期見通
通期見通
WTI
($/bbl)
100.1
98.0
99.1
100.1
66.7
83.4
59.5
63.8
61.7
Brent
($/bbl)
106.5
108.6
107.6
106.6
70.5
88.6
63.3
67.6
65.5
Dubai
($/bbl)
103.5
105.7
104.6
103.7
67.6
85.7
61.5
66.4
64.0
JCC
(JPY/litre)
66.6
71.5
69.1
71.1
55.6
63.4
49.2
53.2
51.2
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
(注)為替レートは、2014 年度下期:118 円/$、2015 年度上期:122 円/$、2015 年度下期:124 円/$を前提として作成
© 2014 株式会社みずほ銀行
1/4
エネルギー機関
の石油需要短期
見通しは下方修
正が続く
世界の石油需要は、新興国の需要増加を背景に引き続き拡大する見込みであるものの、
需要成長の鈍化が見込まれている。国際エネルギー機関(IEA)は、月次報告書で公表す
る 2014 年及び 2015 年の石油需要見通しを夏場以降引き下げている。IEA は、直近 2014
年 12 月 12 日に公表した 2015 年石油需要見通しも前月公表値から下方修正した(【図表
3】)。また、米国エネルギー情報局(EIA)も、IEA と同様に月次報告書の石油需要見通しを
2014 年 7 月以降下方修正している。特に、2015 年の石油需要見通しは、6 か月連続で下
方修正を実施している(【図表 4】)。地域別石油需要については、経済成長鈍化に伴う影
響が指摘されていた中国や欧州の需要見通しが引き下げられている(【図表 5、6】)。さらに、
石油輸出国機構(OPEC)も 2014 年 12 月に石油需要見通しを今年初めて引き下げるなど、
需要の弱含みが鮮明となっている。
非 OPEC の生産
拡大で、石油供
給は過剰に
一方、世界の石油供給は、非 OPEC の生産拡大が継続している。IEA は、2014 年の石油
需要の前年比増加量見込み(日量 67 万 bbl)に対して、非 OPEC の石油生産増加量を日
量 189 万としており、仮に OPEC が減産しても需要を満たすだけの石油供給は確保されて
いる。IEA は、2015 年見通しについても、石油需要の前年比増加量(日量 91 万 bbl)に対し
て、非 OPEC の石油生産増加量を日量 131 万 bbl としており、短期的には石油需給が緩和
している状態の継続が想定される(【図表 7】)。但し、2015 年の非 OPEC 石油生産は、2014
年と比べると成長スピードが鈍化する見込みであり、足許の供給過剰が是正される可能性
はある。
【図表4】 世界の石油需要(EIA 短期見通し)
【図表3】 世界の石油需要(IEA 短期見通し)
(百万b/d)
94.5
(百万b/d)
93.5
94.0
93.0
93.5
92.5
93.0
92.0
92.5
91.5
92.0
91.0
90.5
91.5
2014e
見通し公表時期
14/1
14/2
14/7
14/8
2014e
見通し公表時期
14/1
14/2
14/7
14/8
2015e
14/3
14/9
14/4
14/10
14/5
14/11
14/6
14/12
2015e
14/3
14/9
14/4
14/10
14/5
14/11
14/6
14/12
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
(出所)EIA, Short-Term Energy Outlook より
みずほ銀行産業調査部作成
【図表5】 中国の石油需要見通し
【図表6】 OECD 欧州の石油需要見通し
(百万b/d)
11.0
(百万b/d)
13.8
10.8
13.7
10.6
13.6
10.4
13.5
10.2
13.4
10.0
13.3
9.8
13.2
9.6
2012
2013
2012
14/7時点 14/12時点 14/7時点 14/12時点
2014e
2015e
2013
14/7時点 14/12時点 14/7時点 14/12時点
2014e
2015e
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
© 2014 株式会社みずほ銀行
2/4
米国の原油生産
は短期的には生
産拡大が継続す
る見込み
非 OPEC の石油生産拡大は、米国が牽引している。2014 年における非 OPEC 石油生産の
前年比増加量の約 8 割が米国の増産によるものである(【図表 8】)。生産コストが比較的高
いとされているシェールオイル増産に支えられてきた米国の石油生産拡大に関して、足許
の原油価格下落に伴う影響度合いが、供給面での重要なポイントの一つとなる。米国 EIA
は、12 月の月次報告書の中で、2015 年の WTI 原油価格見通しを約$63/bbl まで引き下げ
たが、米国の原油生産は拡大が継続するとしており、短期的には米国の原油生産量は相
応の水準が維持される見通しである(【図表 9】)。一方で、IEA 及び EIA は米国の石油生産
の増加量が 2015 年に鈍化傾向になる見通しを公表しており、原油価格の下落に伴い、米
国シェールオイル生産の成長スピードが鈍化する可能性に留意が必要である。
11 月の OPEC 総
会では減産合意
に至らず
そして、OPEC は、11 月 27 日に開催した定例総会で、日量 3 千万 bbl の目標生産量据え
置きを決定し、減産は見送られた。OPEC の次回総会は 2015 年 6 月の定例総会となる予
定であり、その時点での OPEC の減産に対する判断が注目される。なお、OPEC 増産余力
は、日量約 4 百万 bbl 程度の水準が維持される見込みである(【図表 10】)。また、原油・石
油製品の月次 OECD 在庫日数は、2014 年 10 月には近年の実績を上回る水準となってお
り、在庫は充分な状況といえる(【図表 11】)。2015 年も非 OPEC は石油生産を拡大する見
通しであるため、OPEC が生産量を維持する場合、更なる在庫の積み増しとなる可能性もあ
ろう。
【図表8】非 OPEC 主要増産国の石油供給
(前年比増減)
【図表7】 世界の石油供給
(前年比増減)
(百万b/d)
Non-OPEC 生産増減
▲0.2 +0.0 +0.2 +0.4 +0.6 +0.8 +1.0 +1.2 +1.4 +1.6
OPEC NGLs 生産増減
(b/d)
米国
OPEC 生産増減
2.0
石油需要増減
カナダ
1.5
1.0
ブラジル
0.5
0.0
2012
コロンビア
▲ 0.5
▲ 1.0
▲ 1.5
2013
豪州
2014e
NGLs: Natural Gas Liquids
2011
2012
2013
2014e
2015e (CY)
マレーシア
2015e
(CY)
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
【図表10】OPEC 原油生産量と増産余力
【図表9】米国の原油生産推移と見通し
(百万b/d)
(百万b/d)
9.5
9
($/bbl)
34
150
32
125
30
8.5
Dubai原油価格(右軸)
OPEC増産余力
100
28
75
26
50
8
7.5
24
7
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
2013
2014
2015
13 14 15
年平均
(出所)EIA, Short-Term Energy Outlook より
みずほ銀行産業調査部作成
OPEC生産量
22
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
© 2014 株式会社みずほ銀行
3/4
25
0
(CY)
【図表11】OECD 在庫日数(原油・石油製品)
【図表12】原油価格の変動要因分析
($/bbl)
(在庫日数)
65
140
2011
2010
2012
120
2009
100
2014
60
WTI実績値
$75.8/bbl
(2014/11平均)
投機・地政学要因
需給バラ ン ス要因
生産コスト要因
WTI
80
投機・地政学
要因 $20.5/bbl
60
55
2008
40
2013
生産コスト要因
$59.1/bbl
20
2007
需給バランス要因
$▲3.8/bbl
DEC
NOV
OCT
SEP
AUG
JUL
JUN
APR
MAR
FEB
JAN
MAY
0
50
▲ 20
2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 (CY)
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
(出所)IEA, Monthly Oil Market Report より
みずほ銀行産業調査部作成
供給過剰が徐々
に是正されれ
ば、緩やかに原
油価格が上昇す
る可能性
WTI 原油価格の変動要因を分析すると、2014 年 11 月平均価格である$75.8/bbl について、
生産コスト要因が$59.1/bbl、需給バランス要因が▲$3.8/bbl、投機・地政学要因が$20.5/bbl と
推計される(【図表 12】)。生産コストの急減は見込まれず、また投機・地政学要因も相応に残
存する可能性が高いため、$60/bbl を割れ込む油価水準からの更なる下落は限定的と想定さ
れる。需給緩和状況が短期的に解消する可能性は小さいものの、足許の供給増加を支える
米国シェールオイルの生産拡大が鈍化する点を踏まえ、2015 年度後半にかけて、需給バラ
ンスが次第に是正されることに伴う原油価格の緩やかな上昇を予想する。但し、OPEC 次回総
会での減産に関する判断等、米国以外の石油生産動向にも引き続き注視が必要である。
中長期的な原油
価格は、新規油
田開発コストに
見合う水準に
なお、石油需要は、新興国の需要拡大に伴い、長期的に増加見通しであり(【図表 13】)、
斯かる需要増加を支えるために、将来的には新たな油田の開発が必要となる(【図表
14】)。新規油田開発は、既存の在来型油田開発と比べると難易度が高く開発コストも高くなる
傾向にあることに鑑みれば、中長期的な原油価格は、開発・生産コストに見合う水準にまで上
昇する可能性はあろう。
【図表13】世界の長期石油需要見通し
105
2.6
1.6
100
3.7
2.5
95
2.3
90
▲10.2
85
80
【図表14】世界のタイプ別石油生産見通し
(百万b/d)
5.5
アフリカ
その他
アジア
バンカー
その他 オイル
非OECD
中東
103.9
インド
90.1
5.9
OECD 中国
75
2013
2040 (CY)
(百万b/d)
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1990 2013 2020 2025 2030 2035 2040
その他非在来型油田
タイトオイル
Natural Gas Liquids
EOR
未発見油田
未開発油田
既存生産油田
(CY)
(出所)IEA, World Energy Outlook 2014 より
みずほ銀行産業調査部作成
(出所)IEA, World Energy Outlook 2014 より
みずほ銀行産業調査部作成
みずほ銀行 産業調査部
資源・エネルギーチーム 磯川 晃邦/藤江 瑞彦
TEL:03-5252-6020 E-mail: [email protected]
TEL:03-6838-1216 E-mail: [email protected]
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