GeCr2O4の合成と物性 ~フラストレーションに悩む磁性体の研究~ 東京農工大学 工学部 物理システム工学科4年 香取研究室 塚瀬成久 <スピン> <3d遷移金属元素> ・電子は内部自由度であるスピンを持ち、二つのス ピンを考えたとき、スピン間の相互作用が・・・ ・ 3d遷移金属元素は閉殻構造をとらないため、磁性の原 因となる不対電子を生じる。本研究に関係するCrも含まれ る。 強磁性的⇒二つのスピンは平行になるのが安定 反強磁性的⇒二つのスピンは反平行になるのが安定 <フラストレーションとは?> < GeM2O4 > ・欲求が何らかの障害によって阻止され、満足さ れない状態にあること。欲求不満。 ・物理学の世界にもフラストレーションは存在する。 例えば本研究に関係する「幾何学的フラストレー ション」は格子の幾何学性で磁気秩序が形成でき ない状態のことをいう。 ・ GeM2O4 (M:3d遷移金属元素)という物質は、先ほど 述べたスピネル構造の化学式に当てはまり、さらにパ イロクロア構造であるBサイトに3d遷移金属元素を入れ るので、幾何学的フラストレーションが内在する物質で ある。 ・ GeM2O4 についてわかっていることを表に簡単にまと める。 <幾何学的フラストレーション> ・正三角形格子の各頂点に、スピン間の相互作用が すべて反強磁性相互作用になるようにイジングスピン を配置することを考えると、スピンの配列に競合が生 じるところが出てきてしまう。正四面体でも生じている。 ※1:カゴメ格子面が12.13Kで面内強磁性、面間反強磁性秩 序を形成し、その後11.46Kで三角格子面が面内強磁性、面 間反強磁性秩序を形成 ※2:スピネルが歪んだ構造、他の元素に比べてMnのイオン 半径が小さいためにオリビンになったといわれている。 ※3:47Kで弱い強磁性、17Kで反強磁性、5.5Kで強磁性とス パイラル秩序が混ざった状態へ <スピネル構造> <目的> ・スピネルはMgAl2O4で表される鉱物の名称。宝石。 ・スピネル構造は化学式AB2X4で表される物質が持つ 構造の一つ。Aサイトでは元素Aの周りに元素Xが四面 体配位し、Bサイトでは元素Bの周りに元素Xが八面体 配位する。 ・Bサイトのみに注目すると、パイロクロア格子を形成 している。パイロクロア格子は正四面体が頂点共有し た形をしている。 ・さらに、[1,1,1]方向(図の矢印の方向)から見ると、 三角格子面とカゴメ格子面が交互に積み重なった構 造をしていることがわかる。 ⇒スピネル構造で最近接相互作用が反強磁性のとき、 幾何学的フラストレーションが生じる。 ・このように、今挙げたGeM2O4は、Mに入れる3d遷移金 属元素を変えることでさまざまな秩序を形成し、非常に興 味深い。 ・また、MにCrを入れた場合、今までのGeM2O4とは異な る新たな磁気秩序を形成することが期待される。 ・構造に関しては、CrはMnよりもイオン半径が小さいため、 スピネルよりもオリビン構造になるのではないかと予想さ れる。 そこで本研究では、新たにMがCrの場合の磁性と 構造を知るために、 GeCr2O4という物質の合成と物 性測定を試みている。 <参考文献> [1]安藤悠一:東京農工大学大学院物理システム工学専攻博士前期課程平成25年度 修士論文 [2]Takashi Honda, Yuki Ishiguro, Yusuke Wakabayashi, and Tsuyoshi Kimura (2012)
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