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良質な食文化の維持と食の安全の保障に寄与する
実用的なNMRキラルシフト試薬の開発
キラルシフト試薬の開発
実用的な
富山大学
大学院理工学研究部(工学系) 教授 會澤宣一
従来研究との比較
背 景
質の高い食文化の維持や食の安全
を保障するためにも、簡便で正確な食
材の真正証明システムの構築が極め
て重要な課題である。食品中の天然
の動植物由来のアミノ酸や有機酸はL
体であるが、人工添加物中のものは
DLラセミ混合物である。そこで、食品
中のアミノ酸や有機酸の光学異性体
を個別に分析できれば、容易に天然
食品の真正証明が可能となる。
実 験
我々はこれまで、金属イオンとそれに配位する光学活性配位子を用いたキャピラリー電気泳動法
により、果実ジュースに含まれる光学活性有機酸の一斉分析を可能にした。しかしながら、キャピ
ラリー電気泳動法やクロマトグラフ法では、シグナルの重なりが生じやすく、さらにシグナルの同定
には標準試料の測定が必要である。一方、NMRでは、化合物中の各原子に対して個々のシグナ
ルが観測できるため、混合物においても全てのシグナルが重なることはほとんどなく、簡単なアミノ
酸や有機酸であれば、化学シフト値から標準試料がなくても化合物の同定が容易である。これまで、
光学異性体のNMRシグナルの分離には、キラルシフト試薬が用いられてきたが、現在用いられて
いるキラルシフト試薬は合成が煩雑で高価であるため、食品の実用分析には適さない。本研究で
は、安価な有機酸をキラル配位子とし、複数の不斉点をもつ金属錯体をキラルシフト試薬として用
いた、光学異性体の簡便な分析法を開発した。
NMRキラルシフト試薬は、安価な不斉点を2つもつL-酒石酸をキラル配位子とて、
これらが複数配位したSm(III)錯体を用い、DL-アラニン、DL-プロリン、DL-トレオニ
ンの光学異性体のシグナルの分離とそれらの混合物の分析を行なった。NMR装
置は日本電子JNM-ECX500を用いた。
キラル配位子
HOOC
HOOC
H
光学活性アミノ酸類
OH
H
OH
(Sm(III):L-酒石酸:DL-アラニン=1:n:2、pH 8.0)
1:3:2
1:3:2
1
L
NH2
NH
アラ ニン
プロリン
トレオニン
1
1
L
1:3:2
1:3:2
D
D
L
2
D
D
L
2
2
★
アラニンの炭素
の番号付け
OH COOH
*
*
CH CH
アラニンのモル比依存性
(Sm(III):L-酒石酸:DL-アラニン=1:3:n、pH 8.0)
L-酒石酸のモル比依存性
D
L
pH
pH 6.5
6.5
D
H3C
最適なpH、L-酒石酸のモル比、アミノ酸のモル比をDL-アラニンを用いて13C NMRにより決定した。DL異性体のシグナルはL体を過剰に添加して帰属した。
pH依存性
(Sm(III):L-酒石酸:DL-アラニン=1:3:2)
L
*
CH
NH2
L-酒 石酸
結果1 最適条件の決定
COOH
COOH
*
H3C CH
D
L
L
3
D
★
★
3
★
★
▲
▲
▲
L
pH 7.0
7.0
pH
L
L
3
★
★
★ ★
▲
▲
D
D
★
▲
1:4:2
1:4:2
1
LD
1
D
★
1
L D
2
D
2
1:3:3
1:3:3
D
L
★
L
D
L
D
2
L
3
3
★
★
▲
★
▲
★
▲
1:5:2
1:5:2
D
L
L
L
L
L
D
L
2
D
▲
1:3:4
1:3:4
1
D
L
L
D
D
L
★
1
D
D
★★
2
★
2
D
★
▲
3
3
★ DSS
▲ Ltart
3
★
1
pH 8.0
8.0
pH
▲
▲
★
▲
★
★
★
★ DSS
▲ Ltart
★ DSS
▲ Ltart
ppm
▲
▲
★
★★
ppm
ppm
Sm(III):L-酒石酸=1:3が最適
最適pHは8.0
結果2 光学異性体の分析
3
★
★
▲
★★
▲
Sm(III):DL-アラニン=1:2が最適
結果1より測定条件はSm(III):L-酒石酸:DL-アラニン=1:3:2、pH 8.0に統一した。
プロリンの水素
の番号付け
プロリンの炭素
の番号付け
アラニンの水素
の番号付け
ppm
1
DL-アラニンの光学異性体の
H NMRシグナルを分離できる
13
DL-プロリンの光学異性体の
C NMRシグナルを分離できる
トレオニンの炭素
の番号付け
1
DL-プロリンの光学異性体の
H NMRシグナルを分離できる
各アミノ酸の炭素の番号付け
トレオニンの水素
の番号付け
13
DL-トレオニンの光学異性体の
C NMRシグナルを分離できる
1
DL-トレオニンの光学異性体の
H NMRシグナルを分離できる
3種類のアミノ酸の混合物でも個々のアミノ酸の場合と同様に
各々の光学異性体のNMRシグナルが分離できる
まとめ・今後の展望
L-酒石酸のような入手しやすい光学活性有機酸を配位子とし、不斉点を複数もつSm(III)錯体をNMRキラルシフト試薬とすることによって、アミノ酸の光学異性体のシグナルを分離できたま。本法は複数のアミノ酸の混合物にも適応可
能であった。さらに、光学活性有機酸や糖類の分析にも応用できるため食品分析には有用である。また、最近開発された永久磁石を備えた可動式の低磁場NMR装置を用いれば、簡便で安価な食品のその場分析にも応用できる。
【地域社会や産業界での応用分野・活用方法 等】
簡便な食品分析法として食品の真正証明や虚偽記載の検証にも応用可能であるため、地域社会の食文化の向上や食の安全の確保に貢献できる。また、最近開発された永久磁石を備えた可動式の低磁場NMR装置を用いれば、
簡便で安価な食品のその場分析にも応用できるため、食品関連産業においても実用可能である。
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