更新日:2015/1/19 調査部:本村眞澄 公開可 ロシア: 油価下落のロシア経済と石油生産に及ぼす影響 ・2014 年のロシアの石油生産は過去最高の水準を示した。2014 年年央から油価の下落が顕著とな っていたが、ロシアは石油市場の引締めのために石油減産を行う意思は示していない。 ・11 月 27 日の OPEC 総会の直前に開かれたロシア、ベネズエラ、サウジアラビア、メキシコと の会議の後、Rosneft のセチン社長は原油相場支援のための減産を行わないと明言した。 ・Rosneft における原油生産コストは$4/bbl で、サウジアラビアとほぼ同等の水準である。Lukoil の損益分岐油価は$25/bbl と極めて低い水準で、ロシア石油企業は低油価に対しては耐性がある。 ・ロシアの多くの石油企業は 2015 年も計画通り事業を行う予定で、これには北極海での超長期事 業も含まれるが、シェールオイルのようなコストのかかる事業に関しては停止する。 ・ロシアの税体系は石油企業にとっては「重税」であり、油価下落は政府税収の大きな落ち込みと なるが、石油企業にとっては大きなものでなく、2015 年事業を縮小する動きはない。 ・ロシアの SWF(予備基金および国民福祉基金)を含む外貨準備高は約 4,000 億ドルで、サウジ アラビアの$5,328 億には及ばないが、基本的にはロシアとサウジは近い立場にあると言える・ ・2014 年に実施されたロシアの石油税制の改革は、段階的に輸出税を引き下げ、生産税を引き上 げるもので、ロシアによる原油輸出を抑制するインセンティブはない。 ・2003 年にサウジアラビアのアブドラ皇太子(当時、現国王)がモスクワを訪問し、ロシアは対 OPEC 協調を表明した。以来、ロシアは OPEC に協力する政策をとっており、今回のロシアの動 きもその延長上にある。 1. ロシアの石油生産の傾向 1 月 2 日、ロシアエネルギー省中央輸送局(CDU-TEK)が発表した 2014 年石油生産量は、ロ シア全体で、5 億 2,675 万 t (1,058 万 bbl/d) 。対前年比 0.7%増であった1。特に同国の 12 月の 原油生産量は 0.3%増の日量 1066 万 7000 バレルで、ソ連崩壊後では最高水準となった2。 (図1、 表1) 2014 年 8 月から油価は下落傾向にあり、11 月 27 日の OPEC 総会で減産の見送りが決まると、 1 2 Reuters, 2015/1/05 Bloomberg, 2015/1/03 –1– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 翌日、油価は 7.54 ドル(10.2%)下落した。この総会の直前の 11 月 25 日、Rosneft のセチン社 長はベネズエラ、サウジアラビア、メキシコの石油当局者と会談後、「現在の原油価格は、我々に とって危険な水準ではない」とし、原油相場支援のための減産は行わないと述べた3。また、「供 給は需要を上回っているが重大ではなく、1 バレル$60 を割り込む水準に下落しても、ロシアにと っては直ちに供給を減らす必要が生じるほど劇的なものとは言えない」とも述べている4。 減産の見送りは、OPEC の中でも湾岸(GCC)産油国が強く主張したもので、減産を求めるベ ネズエラ、イランの意向を押し切った。油価の下落がロシア経済に打撃を与えるとして、ルーブル が急落したが、OPEC が市場占有で戦いを挑んだ相手は米国のシェールオイルであり、ロシアを 追撃の目標としたものではない。 Alexander Novak エネルギー相は 12 月 16 日、カタールの首都ドーハで開催された「ガス輸出 国フォーラム閣僚会議」のサイドライン話として、「ロシア政府は 2015 年の石油生産量を 2014 年と同水準にする見通しで、エネルギー生産量の意図的な削減は行わない予定。今のところ、石油 会社から、投資計画の修正に関する報告は出ていない。ロシアは OPEC と同意見で、油価が約 50% 下落したのは市場要因によるもので、そのうち安定してくると考えている」と述べている5。 少なくとも政府要人の発言から判断する限り、油価下落局面においても、販売量を確保する必要 性から、ロシアの石油生産を制限する意向はないものと思われる。 一方、Arkady Dvorkovich 副首相は、テレビ番組「Russiya 24」でのインタビューで、「油価 の低迷と投資の減少を受けての悲観的なシナリオに従えば、ロシアの石油生産量は今後 2-3 年で 最大で 5-10%減る可能性がある」と、ロシア高官の中では唯一人悲観的な見通しを述べたが、一 方で油価は今後数ヵ月は低い水準にとどまるか、さらに下落するであろうが、その後は約$80/bbl まで回復するとしている6。 単位\年 石油百万 t 百万 b/d 伸び率(%) ガス Bm3 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 305 323 348 380 421 459 470 480 491 488 494 505 511 518 523 527 6.18 6.54 7.06 7.70 8.54 9.19 9.41 9.61 9.83 9.78 9.92 10.2 10.3 10.4 10.5 10.6 0 6 8 9 11 9 2.5 2.2 2.3 -0.7 1.2 2.2 1.3 1.3 1.0 0.7 591 584 581 595 620 634 641 656 653 663 582 650 670 655 668 640 表1 ロシアの石油・ガス生産の推移(諸データから JOGMEC 纏め) 3 4 5 6 DJ, 2014/11/25 Bloomberg, 2014/11/25 IOD, 2014/12/17 Interfax, 2014/12/26 –2– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 FSU Oil Production (MM tons/y) 800 MMtons/y 700 600 500 400 300 200 100 0 Soviet-Russia(1991~) Azerbaijan Export Kazakhstan Turkmenistan 図1 ロシアの石油生産(諸データから JOGMEC 纏め) 2.ロシア経済の現況 (1)政府の危機意識 12 月 18 日、ロシアのプーチン大統領は、国内外の報道陣を集めて行う毎年恒例の大規模記者会 見で、通貨ルーブルの暴落などで自国経済が急激に悪化している状況から脱するには、最長で2年 かかるとの見通しを示した。更に、ウクライナ情勢をめぐる欧米の対露制裁強化が経済悪化の 25~30%を占めるとの見方を示す一方、大きな影響を及ぼした原油安について「さらに落ちる可能 性がある」と指摘した。ここには政権の危機感が滲んでいる7。 1 月 14 日、ルシアノフ財務相は 2015 年の予算について、原油価格が平均で 1 バレル当たり$50 の場合に、歳入は 3 兆ルーブル(2013 年歳入の約 13%)減少するとの見方を示し、国防費を除い たすべての歳出を 10%削減すべきで、2015 年予算全体としては歳出を当初の 11.7%増を 5%増に とどめるべきとした。また、2015 年の財政赤字については GDP 比で 3%を超えることはないとの 7 各紙, 2014/12/19 –3– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 見通しを示した8。 (2)保有外貨 ロシアの保有する外貨準備は 11 月末時点で、中銀と2つの政府系ファンド(SWF)の保有分を 含めると 3,989 億ドルである。内$1,760 億は安定化基金と国民福祉基金に組み入れられて運営さ れている。外貨準備の内、実際に政府が使える資金は$2,000 億程度とも言われており、市場では ロシアは 1 年程度は持ちこたえられるとの見方がある。一方、民間の対外債務は約$6,000 億あり、 この内 2015 年末返済額は$1,300 億で、管理可能な水準であるとされる9。 石油・ガス収入を蓄える制度として、2004 年に安定化基金(Stabilization Fund)が設立され、 2008 年から予備基金(Reserve Fund)と国民福祉基金(National Welfare Fund)に分割・再編さ れた。表2は、2008 年から 2013 年までの基金のドル建て部分の推移を示す10。この他に、これと 同等あるいはやや上回る規模のルーブル建て部分が別途ある。リーマンショックの後の 2009 年、 経済立て直しのためにこれの活用が図られて減少したが、その後は着実に積み上がり、2013 年に はドル建て部分だけでも 1,760 億ドルに達している。 Sovereign Wealth Fund としては、アブダビの$6,270 億、サウジアラビアの$5,328 億、クウェ ートの$2,960 億等には及ばないが、基本的にはロシアはこれら潤沢な SWF を擁している湾岸諸 国に近い立場と言える。 表2 ロシアの予備基金と国民福祉基金のドル建て部分 予備基金 国民福祉基金 合 計 2008 137.1 88.0 225.1 2009 60.5 91.6 152.1 2010 25.4 88.4 113.9 2011 25.2 88.8 112.0 単位 10 億ドル 2012 62.1 88.6 150.7 2013 87.4 88.6 176.0 (3)資本流出 2014 年のロシアからの資本流出は$1,340 億であった。 2015 年は$1,200 億程度と予想される 9。 これには対外投資も含まれ、純粋は「資本逃避」ではないが、相当な規模である。12 月 4 日のプ ーチン大統領の年次教書演説において、国外に逃避した資本がロシアに戻るならば、その詮索をし ないとし、ロシアへの資本の回帰を呼びかけた。 Reuters, 2015/1/14 倉都康行;ダイアモンド, 2014/12/22 10 田畑伸一郎(2014),「1%台の成長に留まった 2013 年のロシア経済」, ロシア NIS 調査月報 2014 年 5 月号、p.30-52 –4– 8 9 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 (4)経済成長率 1 月 2 日にロシア経済発展相が 2015 年のロシアの GDP 成長率を、 従来の 1.2%から-0.8%成長 へと大きく下方修正した。1 月 14 日、世界銀行は 2015 年のロシアの成長率について、昨年 12 月 時点での予想である-0.7%から-2.9%に下方修正した。但し、2016 年については、0.1%、2017 年には 1.1%増とし、経済的な落ち込みは一過性のものであると予想した11。 (5)インフレーション 2014 年のロシアのインフレ率は 11.4%で、2 桁となるのはリーマンショックの起こった 2008 年以来である。主力輸出品である原油価格の下落、通貨ルーブルの急落、ウクライナ問題を受けた 欧州からの制裁に対抗して食品輸入を禁止したことによる食品値上がり等の理由による12。 ロシア中央銀行は、12 月 11 日に政策金利を 9.5%から 10.5%へと引き上げたものの、15 日の外 国為替市場で1ドル=64 ルーブル台まで値下がりして最安値を更新すると、翌 16 日、政策金利を 10.5%から 17%へと大幅な引き上げを発表した。 (6)為替 この 1 年のルーブルの対ドルの変動を図2に示す。2014 年の 9 月の油価の下落とほぼ全く同じ タイミングでルーブルは安値に転じ、12 月中旬には対ドルで一時最大 Rb80 まで下落した。11 月 10 日、ロシア中央銀行は、通貨ルーブルについて米ドルと欧州ユーロに対して設定していた相場 変動の許容幅を撤廃し、完全な変動相場制に移行したと発表した。これは、ウクライナ情勢をめぐ る米欧の対露制裁や石油価格の急落で、ルーブルの対ドル価値は年初から約4割下落し、為替介入 による許容幅の維持が困難になっていたためである。 12 月 18 日、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ロシアとの貿易決済について、ロシア通貨ル ーブルからドルやユーロに移行するよう政府に指示したことを明らかにした。これは、ルーブル暴 落による損失を回避するのが目的である13。 2015 年 1 月に入っても、$1 に対して Rb60 を超える状態が続いている。この市場の反応は、油 価下落がロシア経済に与えるネガティブな影響を織り込んでのことである。 ルーブル安は当然輸入物価の高騰を招いている一方で、石油会社では原油輸出で獲得した外貨を ルーブルに戻した際の額はこれまでの約 2 倍となる。1998 年のロシア通貨危機の後も、ロシアの 石油企業の立ち上がりは早かった。石油を持つ「輸出企業」にとっては、ルーブル安はある意味で 僥倖である。 11 12 13 Reuters, 2015/1/14 共同, 2015/1/13 共同, 2014/12/19 –5– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 図2 この1年のルーブルの対ドル変動14 (7)中国の対応 12 月 22 日、通貨ルーブルの急落など苦境に陥ったロシア経済について、中国の王毅外相は、香 港の中国系メディアを通じて、「要請があれば可能な範囲で必要な協力を与える」と述べ、対露経 済支援の用意に言及した。また、高虎城商務相は、中露貿易で中国の通貨人民元での決済が広がっ ているとした上で、「中露間で人民元の使用拡大を提案し、ルーブルの変動幅が大きな状況で貿易 決済を保証する安全確実な方法だ」と述べた15。 3.ロシア各石油会社の姿勢 油価、為替等で悲観的な報道が続く中、2014 年のロシアの各石油会社の石油生産量はいずれも 微増乃至微減で、特段の対抗措置等を取っている形跡はない。各石油会社の立場は国の経済とはか なり異なる立場にある。これにはロシアの税制の影響もある。 (1)Rosneft 11 月 27 日、セチン社長は油価がバレル当たり$60、或いはそれ以下にまで下落するであろうと して、巨額の投資を必要とするプロジェクトの一部は延期を余儀なくされると述べたが、油価が $60 を割ってもそれがロシアの石油生産減に繋がることはないとの見通しを示した。一方で、油価 低迷という状況で必要があれば、ロシアは 20 万~30 万バレル/日、即ち生産量の 2%~3%の減産 を実施することが可能とも述べた。11 月 28 日、ロスネフチの広報担当は、ロスネフチの生産コス トはバレル当たり$4 強と非常に安く、世界で最も低い水準にあり、ロスネフチが市場の動向に対 応するために緊急の措置を講ずることはない、と述べた16。 14 15 16 http://jp.advfn.com/exchanges/FX/USDRUB/chart 産経 2014/12/22 Vedomositi, 2014/11/28 –6– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 図3. IEA による原油生産コスト比較17 図3は厳密なものではなく、あくまで目安であるが、ここに見る通り生産コストがバレル当たり $4 というのは、既生産のカテゴリー即ち過去の話での最も低廉な部分であり、現在の中東・北ア フリカの在来型原油では下限が$10 となっている。少なくとも、Rosneft の生産コストは現在では 世界で最も安価な部類と言える。 北極海の石油開発に関しては、カラ海の EPNZ-2 鉱区で 2015-2017 年に坑井掘削する前提で Rosneft は作業をしている。ExxonMobil は撤退しておらず、事業凍結のみで、制裁解除となれば 復帰する18。Bazhenov 層のシェールオイル事業に関しては殆ど報道がなく、特段の動きはないと 思われる。 (2)Lukoil 11 月 27 日、Lukoil の Leonid Fedun 副社長は、ロンドンでの投資家説明会において、OPEC が実行している政策は、石油市場にとって有利であるとして、油価の下落がもたらす一連のプラス の影響について述べた。もし油価が$80/bbl で 7~8 ヵ月続くようであれば、日量にして 600 万 b/d の石油が市場からなくなる可能性がある。それは主に、カナダのオイルサンド、米国のシェールオ イル、およびバイオ燃料だとして、OPEC が採算ぎりぎりの石油生産を締め出す政策をとったこ とを歓迎した。油価の低下がロシア企業にもたらす影響については、ルーブル安と、油価の下落に 17 18 IEA(2013) “Resources to Reserves” Interfax, 2014/12/23 –7– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 伴う税金の支払いの減少により、最小限にとどまると述べ、Lukoil の損益分岐点(breakeven oil price)は$25/bbl であることを明らかにした(後述)。 また配当を増やすという政策は維持し、 もし油価が$70/bbl であれば、2015 年は利益の 50%を配当として支払う予定であるとした19。 油価の下落を受けての Lukoil の 2015 年の石油生産量に関しては、西シベリアでの掘削量を減 らし、同地域での石油生産量を 40~60 万 t 減らす一方、カスピ海の Filanovskoye 鉱床と西シベリ アの Pyakhyatinskoye 鉱床の生産開始があり、全体での石油生産量は安定する見通しであると Alekperov 社長が述べている。但し、Total との共同事業となる Bazhenov 層のシェールオイルの 開発は、油価がバレル当たり$60 では事業の採算が取れないと述べた20。 (3)GazpromNeft GazpromNeft の Alexander Dyukov 社長によれば、油価の下落とルーブル安にかかわらず、 GazpromNeft は 2015 年には生産量および精製量を増やす意向で、生産計画を変更する予定はな く、 たとえ油価がバレル当たり$40~50 になっても国内事業は持続させることが可能であるという。 2015 年の投資額は、前年比で 3.7%増の Rb3,464 億とし、投資額の 3 分の 1 を Novoport 油田、 Messoyakha 油田、および Prirazlomnoye 油田などの大規模な生産事業に割り当てる計画で、事 業の遅滞はない21。 (4)Surgutneftegaz 2014 年の同社全体の石油・ガス生産量は、前年と同じ 6,140 万 t であった。同社の石油生産量 は過去 3 年間横ばいである。石油生産量はピークの 2006 年に 6,560 万 t を生産して以降は毎年 1-4%減少していたが、2011 年、2012 年は連続して増加を記録し、生産量は回復基調にある。サ ハ共和国(ヤクーチア)における石油生産量は、前年比 7%増の 772 万 9,000t となった22。 (5)Tatneft Tatneft も、制裁と油価の下落にかかわらず、2015 年の投資計画を堅持すると述べている。ま た、同社の Nail Maganov 社長によれば、Tatneft の 2015 年の投資額は前年比 40%増の Rb1,030 億($18 億)で、2014 年の生産量は前年とほぼ同水準の 2,620 万 t(日量換算:52 万 6,100b/d)と なる見通しである。2015 年第 1 四半期の予算は油価$80 を織り込んで策定したが、2015 年の計画 について、油価が$100、$60、$40 の場合の 3 つのシナリオを用意している23。 19 20 21 22 23 IOD, 2014/11/28 Interfax, 2014/12/29 Interfax, 2014/12/26 Interfax, 2015/1/13 IOD, 2015/1/02 –8– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 図4 ロシアの石油会社の過去 13 年間の生産履歴(諸情報から JOGMEC 作成) 4.現状の油価と税制がロシア石油企業に与える影響 (1)ロシアの石油税制の改正 昨年 6 月に Rosneft のセチン社長は「Rosneft の時価総額は何故 ExxonMobil のそれよりも低い のかと問われたら、私はすぐに理由を挙げることができる。ExxonMobil は当社の半分しか税金を 払っていないのだ」と語ったことがある24。ロシアの石油産業における著しい特徴は、重税という 厳しい環境に置かれている点にある。オイルマネーは殆ど石油会社に滞留せず、多くが税金として 国に吸い上げられてゆく。 2015 年 1 月 1 日から「ユーラシア経済同盟」が発足したが、自由化に伴い輸送インフラの能力 が許す限り、無関税でベラルーシに輸出できることになる。ベラルーシの対外輸出関税がロシアよ りもかなり低く設定されている場合、ロシアの石油会社はベラルーシ経由で石油・石油製品を欧州 等へ輸出しようとすることが予想される。ロシアとしては今後、自国の石油輸出関税を引き下げて 24 Vedomosti, 2014/12/17 –9– Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 対処する必要に迫られた25。 ロシアの新しい石油・ガス税制は、3 年かけて段階的に石油・石油製品の輸出関税を引き下げて、 その分を天然資源産出税(NRET)の引き上げで相殺しようとするもので、上記のような状況を踏 まえてのものである26。輸出税は 3 年間で石油は 49.2%、石油製品は 62%引き下げ、天然資源産出 税は 3 年間で 86%増、コンデンセート 550%増となる。 改正法案は、2014 年 11 月 11 日に国務院(下院)で、11 月 25 日に連邦評議会(上院)で承認 され、同日 Vladimir Putin 大統領が署名した。 1)産出税の改正 2015-2017 年にかけて、天然資源産出税(NRET) 27を徐々に引き上げる。現行の基本税額 Rb493/t28を、2015 年に Rb775/t、2016 年に Rb856/t、2017 年に Rb918/t となる。税の計算式は、 産出税= Rb493×埋蔵量枯渇係数(CDF)×(平均 Urals 輸出価格[$/bbl]-$15)×対ドル為替 レート[ロシア中央銀行による各課税期間の平均為替レート(Rb/$)]×1/261 2)石油輸出税の改正 産出税の引き上げることにより、石油輸出税29の税率引き下げを達成しようというもの(現行の 税率:59%、2015 年:42%、2016 年:36%、2017 年:30%)。税額の計算式は、「59%×(ウ ラル原油の価格-$25)+$4/bbl」となっている30。 石油製品、天然ガスに関する税制改正については、最後に付録として付けてある。 (2)2014 年 6 月と 2015 年1月の石油諸税の比較 上記の改正を踏まえ、この半年間の油価の下落を踏まえた石油諸税の変化を計算してみる。 坂口泉(2014), 「ロシア石油分野の税制改革-迫られるユーラシア統合への対応-」ロシア NIS 調査 月報、2014 年 12 月号、p.26-40. 26 Interfax, 2014/11/11 27石油産出税の算定式は以下の通り 1t 当たりの抽出税= Rb493×埋蔵量枯渇係数(CDF)×(平均 Urals 輸出価格[$/bbl]*1-$15)×対ドル 為替レート[ロシア中央銀行による各課税期間の平均為替レート(Rb/$)*2]×1/261 【CDF 算出式】 ・埋蔵量枯渇度(Dd) = 0.8~1.0 の場合:CDF= -3.5×Dd+3.8 ・ Dd>1.0 の場合:CDF =0.3 ・ Dd<0.8 の場合:CDF =1.0 *1:地中海およびロッテルダム渡しの平均 Urals 原油価格 *1&2:各月の抽出税算出に必要となるデータは政府から発表される ※申請月の翌月 25 日までに算定し、 納税する 28 Bloomber 等の報道機関は 1t=7.33bbl としている。 29 石油輸出税=(国際価格-$25)×0.42+$4 30 IOD, 2014/11/26 – 10 – 25 Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 1)2014 年 6 月の課税 石油輸出税:財務省の発表で$52.5/bbl 石油産出税:ロシア財務省によれば、2014 年 6 月の Urals blend の平均輸出額は$107.62、為替レ ートとしては、Rb1=$0.029064 ($1=Rb34.4068)であった31。これを、埋蔵量枯渇度を 8 割以下で DFC=1 として注釈の石油産出税の式に当て嵌めると、税額は 493×(107.62-15)×34.41÷261= Rb6019.99/t=$23.87/bbl となる。 2)2015 年の課税 2015 年の平均油価を$60/bbl と仮定すると、公式に当て嵌めると$18.70/bbl となる。同様に石油 産出税は、$1=Rb60 と仮定すると、2015 年から基本税額が Rb775 であることから、775×(60-15) ×60÷261=Rb8017.24/t=$18.23/bbl となる。 図5. 2014 年 6 月の油価に占める税金の割合と 2015 年の予測(JOGMEC による) 以上を図示したものが図5である。 2014 年 6 月時点で、油価は Urals blend で$107.62/bbl、この時政府発表の石油輸出税は $52.50/bbl、石油産出税は$23.87、税は合計で$76.37、実に販売価格の 71%を占める。Lukoil が 31 http://ecodb.net/exec/trans_exchange.php?type=EXCHANGE&b=USD&c1=RUB&ym=M – 11 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 採算分岐価格が$25/bbl と述べたが、これを前提とすると石油会社の余剰の取り分は$6.25/bbl に過 ぎない。 2015 年に関して、仮に Urals blend の平均価格がバレル当たり$60、為替が$1=Rb60 となった 場合、石油輸出税は税制の改訂の効果も併せて$18.70/bbl と著しく縮小し、石油産出税は一方で減 少したとはいえ$18.23/bbl と比較的大きな比重を占める。 税は合計で$36.93/bbl と販売価格の 62% にまで縮小する。残った会社の取り分は$23.07/bbl と Lukoil の場合の採算分岐点の$25 を若干下 回る。 これで言えることは、油価がバレル当たり$107.62 から$60 へと 46%減少しても、会社の取り分 は 26%の減少にとどまるということで、ロシアの石油会社にとってその影響は破滅的なものでは ない。一方で、政府の取り分である税収は$76.37/bbl から$36.93/bbl と 52%減少となる。即ち、 石油会社とは反対に、政府のダメージはかなり大きく、歳入不足から国家予算のカットに迫られる ことになる。油価が平均で$70/bbl まで戻したならば、石油会社としては殆ど痛手はないと言って 良い。 よって、 2015 年は、 ロシアの石油会社は 2014 年に策定した方針に沿っての事業展開が可能だが、 政府は税収の縮小を踏まえて、相当の緊縮財政で臨む必要がある。 4.ロシアの対 OPEC 姿勢と今後の方針 今回の OPEC 総会での決定に関して、ロシアの政府高官、石油産業界は OPEC との協調を述べ ている。これは、ロシアの立場がかなり OPEC(特に湾岸諸国)に近いことを踏まえてのもので ある。以下、その背景を探る。 (1)ロシアが OPEC に加盟しない理由 ロシアは、石油・ガスに大きく依存しており、2013 年の値で、国内の税収の 50.3%32、輸出額 の 66.4%33を占める。即ち、OPEC 加盟諸国と同様に、その経済は石油の輸出に大きく依存してい る。よって、その立場は OPEC に近く、利害を共有していると言って良い。しかし、ロシアは OPEC には加盟せず、適宜オブザーバーとして OPEC 総会に出席するに止めている。 何故ロシアは OPEC に加盟しないのか。 ロシアの油田は、中東のような高い油層圧力・生産性を持つ油田と異なり、概して油層圧は低く、 比較的早い時期に自噴が終了しポンプ井に切り替わる。中東に比べ1坑当たりの生産量は遥かに低 32 33 ロシア NIS 調査月報、2014.5 月号 ロシア NIS 調査月報、2014.9-10 月号 – 12 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 く、これらを停止して生産調整をするには膨大な作業を必要し、生産調整が終わって井戸を再開す ることも同様に現場の負担が大きい。更に、西シベリアの主力油田ではパラフィンの含有量が 2% ~4%あり、寒冷地のシベリアにおいて冬季に生産を停止すると集油パイプライン内で原油が固化 する。これを後から流動化させて再稼働することは非常に困難であり、生産の停止は技術的選択肢 に入っていない。よって、生産量を調整するには、既存油田の坑井における自然減を本来補うため の坑井改修や追加掘削といった新規投資を制限することにより、多少時間をかけて全体の生産量を 抑制する方法が取られる。ロシアが OPEC に加盟しない主な理由は、政治よりも技術的問題にあ る。 また、個別の石油企業は Rosneft を除いて民間企業であり、政府が生産量に関して減産を命じる 法的な根拠がそもそも存在しない。 このためロシアはサウジアラビアとは異なり、輸出量の増大は目指しても、自らの意思で石油市 場をコントロールするプレーヤーとはなりえず、油価の変動に対しては、あくまでも受動的な産油 国の地位に留まると言える。 (2)ロシアとサウジアラビアの協調関係 ロシアと OPEC の具体的な接近は、2003 年 9 月のサウジアラビアのアブドラ皇太子(当時、現 国王)のモスクワ訪問まで遡ることができる。これは、第 2 代サウド国王が皇太子時代にモスクワ を訪問して以来 71 年ぶりの出来事である。アブドラ皇太子とプーチン大統領はこの時の共同声明 の中でロシアの OPEC に対する協調姿勢を謳った。 ソビエト連邦の崩壊による経済の低迷により、1990 年代のロシアの石油生産は日量 600 万バレ ルとソ連時代の 2/3 の水準まで落ち込んでいたが、2000 年からのプーチン政権の発足と折からの 油価の上昇機運から、劇的に復活を果たした。特に水平坑井掘削や水圧破砕といった西側技術の導 入に積極的であった Yukos と Sibneft(現 GazpromNeft)は、年率 15%~20%といった目覚まし い増産を実現し、ロシア全体としても 2000 年代前半には年率 10%弱の良好な増産基調にあった。 2003 年には中国の需要が対前年比 12%増、2004 年には 16%増となる一方で、サウジアラビアの 生産量は日量 950 万バレルで推移し、増産余力の不足が油価高騰の根拠の一つとされていた。こ の時は、ロシアの増産が中国を含むアジアの需要増を一手に引き受けていた観がある。サウジアラ ビアは、 2004年には生産能力を日量1,100万バレルまで引き上げるという体制作りを急いでいた。 これを踏まえ、サウジアラビアのアブドラ皇太子はロシアに対してあまりに急速な増産は控えるよ う要請したと言われている。 その後のロシアの対応を追ってみると、サウジが 1,100 万バレルの生産能力に引き上げた 2004 – 13 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 年において、ロシア側が 6 月 12 日に石油輸出税の税率を 45%から 59%へ引き上げた。輸出に重税 感が出たことから、それまで年率 10%近いロシアの石油の増産ペースは、1 年かけて 2005 年には 対前年比 2.5%と漸増基調へと転換し、その後緩い漸増基調となって行く(表1参照)。 これは、個別の坑井において石油生産の抑制を行ったのではなく、油田に対する新規投資を控え て各坑井での生産量の自然減を導入したり、坑井における水圧破砕といった坑井刺激作業を控えた りした結果である。ロシアの生産の伸びが鈍化したのは技術的な理由からではなく、原油輸出税を 引き上げて、石油会社の増産意欲を抑えたためであり、これは一種の政策的な誘導と言うべきもの である。ロシアは個別企業に対して生産枠を与えるのではなく、税制を通じて石油生産量をコント ロールして来た例と言える。 ロシアとサウジアラビアとの緊密な協調は、2003~2004 年以降、機能するようになったと言っ て良い。 (3)OPEC との関係強化へ 2008 年後半には、リーマン・ショックにより世界的に石油需要が減退し、油価は$40 レベルへ まで暴落した。この時、対 OPEC 協調としてロシアの生産制限が注目された。同年 9 月のウィー ンでの OPEC 総会には、初めて副首相クラスとして、エネルギー担当のセチン副首相が出席し、 対 OPEC 協調を明言した。この時同席したシュマトコ・エネルギー相の発言は、「ロシアは、OPEC のような個別生産者に対する生産量調整を行うのではなく、生産目標をコントロールすることによ り原油価格に影響を与えることが可能である」というもので、前述の通り、ロシアは短期的な生産 調整には参加しないものの、税制等の活用により長期の生産目標を調整することにより OPEC と 協調できるという趣旨を述べた。ロシアの民間石油会社 Lukoil も、ロシア全体で 2008 年の後半 には生産量の 3-4%にあたる日量 30-40 万バレルの削減が可能と述べ、セチン副首相にならい OPEC 協調の姿勢を示した 。この時は、ロシアは既に漸増基調に転換した後で、この程度の減産 は個別の生産調整に拠らずとも可能であった。 表1に見るように、実際には 2008 年のロシアの石油生産量は、対前年 0.7%の減少、通年で日 量 14 万バレル減といった程度にとどまり、OPEC との約束は履行できていないこれは、。実際の 減産が容易でないことを示している。 ロシアは投資の手控えによる自然減以上の減産は殆ど期待できないと見るべきであろう。当面は、 現行通りの生産レベルが継続するものと思われる。 (了) – 14 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 付 録 【石油業界における 2014 年の税制改革】34 2014 年になされた石油・ガス関連の税制改革は、石油と石油製品の輸出関税率を段階的に引き 下げる一方で、石油産出税率が段階的に引き上げられ、相殺することになっている。このため、石 油精製の利益率が低下し、原油の輸出増に繋がる可能性がある。但し、税制改革全体の影響評価は、 2015 年第1四半期を経てみる必要があるとされる。 (1)石油産出税 2015-2017 年にかけて、天然資源抽出税(NRET)を徐々に引き上げ(現行:Rb493/t、2015 年: Rb775/t、2016 年:Rb856/t、2017 年:Rb918/t) (2)石油輸出税 当該引き上げ分を石油輸出税の税率を引き下げによって相殺するというもの (現行の税率:59%、 2015 年:42%、2017 年:30%)。税額の計算式は、「59%×(ウラル原油の価格-$25)+$4/bbl」 となっている。 ガソリン・ディーゼル燃料の輸出税は、石油生産会社がより高品質の石油製品を生産するよう促 進することを目的として、大幅に引き下げて行く。一方で、燃料油の輸出税は徐々に引き上げ、2017 年よりも後は石油輸出税と同じ税額にする。ガソリンおよびディーゼル燃料にかかる物品税も引き 上げる予定。 この税制改革により、国庫へは 2017 年までに Rb5,000 億の増収の効果が見込まれる。税制の改 正法案は 2014 年 11 月に承認されたが、Rosneft の反対にあっていた。Rosneft は、NRET 引き 上げによる同社の大規模な上流事業へのマイナスの影響、および燃料油の輸出税の引き上げによる 同社の製油所へのマイナスの影響の可能性を引き合いに出して、当初は税制改革に反対しており、 何点かの改善を提案していた。 (3)Blue Stream 経由(黒海)でのトルコへのガス輸出でかかる物品税 財務省が提案していた Blue Stream 経由(黒海)でのトルコへのガス輸出における物品税も、 今回の税制改革で導入されることになった。これによると、もしガス購入国が物品税を契約に織り 込むことで政府間で合意すれば、輸出されるガスに対して物品税 30%が課税されることになる。 Anton Siluanov 財務相は 2014 年 7 月、「Blue Stream 経由でトルコ向けに Gazprom がガスを 輸出する際の物品税により、ロシアの国庫にとっては Rb400 億/年の増収となる」と述べた。 (4)鉱床への優遇税制の導入 税制上の優遇措置は、Gazprom が「シベリアの力」ガス・パイプラインによる対中ガス供給に 34 IOD, 2014/11/26 等の記事による – 15 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 おいて Gazprom を支えることになるであろう。資源基盤となるイルクーツク州およびサハ共和国 (ヤクーチア)にその一部もしくは全体が位置する鉱床で生産されるガスに対する NRET は、生 産開始から 15 年間は免税となる。Gazprom は Chayandinskoye 鉱床(ヤクーチア)でのガス生 産開始について 2019 年を予定。Kovyktinskoye 鉱床(イルクーツク州)でのガス生産開始は 2021 年よりも後になるであろう。 (5)固定資産税 「シベリアの力」ガス・パイプラインや他のインフラにかかる資産税は、2035 年まで免税となる。 – 16 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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