時の話題第18号

時 の 話 題 ~平成26年度 第18号(H26.12.25調査情報課)~
庭園の保護と
魅力発信
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庭園は、東京の風格ある街並みの形成に寄与するととも
に、伝統文化を伝える観光資源にもなっている。最近は、2020
年東京オリンピック・パラリンピックに向け、和のおもてな
しを行うことができる施設として注目されている。
庭園の概要、国・都等による庭園の保護と魅力発信のため
の取組についてまとめる。
概要
(1)都内の庭園
六義園の紅葉
東京都が管理している庭園は9箇所(図1)あり、
江戸から大正にかけて作庭された都民の貴重な財産で
ある。これらは国指定、都指定の文化財に指定されて
おり、いずれも我が国を代表する名園である。この他
に都内には、旧安田庭園や椿山荘など国公立や民間の
魅力的な庭園が数多く存在する。
出典:東京都公園協会ホームページ
図1 東京都の文化財庭園一覧
出典:建設局資料より作成
(2)庭園のおもてなしへの活用
近年、庭園は観光客へのおも
てなしの観点からも注目されて
図2 今後催事/イベントの実施を期待する会場
いる。昨年9月に MICE(※)に
関連するイベントで外国人 105
名に対して行われたアンケート
によると、今後催事/イベント
の実施を期待する会場として
「庭園・日本庭園」
(45%)が最
も多く挙げられており(図2)、
外国人からの関心の高さを窺う
ことができる。
出典:平成 25 年 12 月 観光庁「MICE の誘致拡大に向けた
○○○ユニークベニューの利用促進事業 報告書」より作成
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都においては、2020 年東京オリンピック・パラリンピック等に向け、庭園における多言
語対応の充実や「東京の日本庭園おもてなし協議会」の設置(後述)といった動きがある。
※MICE…Meeting(企業等の会議)
、Incentive(企業等の行う報奨・研修旅行)
、Convention(国際会議)
、
○○○○Exhibition/Event(展示会・イベント)のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネス
イベントなどの総称である。
旧古河庭園で紅葉イベント
北区西ヶ原の旧古河庭園で 22 日から、紅葉イベント「錦秋染まる旧古河庭園」が始まる。30 日まで。
洋風庭園のバラで知られる旧古河庭園だが、京都の著名な庭師が手がけた回遊式の日本庭園もあり、紅葉
シーズンには約 230 本のモミジをはじめとする園内の木々が色づき、常緑樹とのコントラストが楽しめる。イベン
ト期間中はケータリングカーによる軽食などの販売が毎日行われ、22 日には狂言の公演(午前 11 時半と午後2
時半、各回約 30 分)、29 日には津軽三味線のコンサート(同)を開催。土日祝日には、ボランティアによる庭園案
内が行われる。
入園料は一般 150 円。午前9時~午後5時(入園は4時半まで)。
(平成 26 年 11 月 17 日付
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産経新聞より抜粋)
国の取組
(1)文化財の保護
文化庁は、文化財として
歴史的価値のある庭園を
保護するための取組を行
っている。重要文化財や史
跡、名勝(※)等として指
定された庭園に対して、現
状変更等に一定の制限を
課す一方、修理等に対する
国庫補助を行うなど、保存
図3 重要文化財・史跡・名勝等に関する規制、援助等
出典:文化庁ホームページより作成
及び活用のために必要な各種の措置を講じている(図3)。
※重要文化財…有形の文化的所産で、我が国にとって歴史上、芸術上、学術上価値が高く、特に重要なもの
史跡…遺跡で我が国にとって歴史上または学術上価値の高いもの
名勝…名勝地で我が国にとって芸術上または鑑賞上価値の高いもの
(2)MICE の誘致拡大に向けた取組
観光庁は、MICE の誘致拡大に向けたユニークベニュー(※)の利用促進事業において、
日本庭園の利用促進等に向け、課題及び対策を整理している。
前年度は、博物館・美術館におけるユニークベニューのケーススタディや、博物館・美
術館の貸出しまでのステップ等を示したハンドブック作成が行われた。しかし、前述のア
ンケート結果(図1)から、日本庭園や城郭など、日本らしさが感じられる施設へのニー
ズが高いことがわかった。そこで、歴史、文化、食文化、伝統文化、ファッション文化等、
地域ブランドを切り口にこれらの施設の開発を進め、MICE 誘致の競争力強化につなげる方
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針である。
※ユニークベニュー…歴史的建造物や公的空間等で、会議・レセプションを開催することで特別感や地域特性を演出
できる会場
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都の取組
(1)庭園の保存・復元
都は、庭園の維持管理を通じて培われた技術の継承を図りながら、庭園の保存・復元に
取り組んでおり、現在、有識者の監修のもとに修復等を行っている。国の特別名勝と特別
史跡に指定されている浜離宮恩賜庭園と小石川後楽園では、江戸時代の大名庭園の復元を
進めている。
小石川後楽園では、戦災後の修復以来となる庭園全域を対象とした復元事業に着手して
おり、平成 24 年度に「円月橋」の修復が完了した。円月橋は、江戸時代(1670 年前後)
に架けられた石造のアーチ橋で、震災や戦火を免れ、今日もなお創建当時の姿を保ってい
る。近年、石材の割れやずれが目立ってきたため、この橋の歴史においてはじめて大修理
が行われることとなった。その他、琵琶湖を模し、庭の中心的な景色をつくり出している
「大泉水」などの修復が現在行われている。
樹木根が入り込んだ円月橋
修復された円月橋
出典:建設局資料
出典:筆者撮影
浜離宮恩賜庭園では、江戸時代の大名庭園の姿をよみがえらせ江戸文化を実感できるよ
う、戦災等で焼失した「茶屋」群などの復元を行っており、平成 22 年に「松の御茶屋」が
完成した。平成 26 年度末には「燕の御茶屋」の復元が完了する予定である。松の御茶屋は
文化体験イベント等の会場としても活用されている。
松の御茶屋跡の発掘調査の様子
復元された松の御茶屋
出典:建設局資料
出典:筆者撮影
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(2)東京の日本庭園おもてなし協議会
都は 10 月、新たに「東京の日本庭園おもてなし協議会」を設置した。当協議会は、2020
年東京オリンピック・パラリンピックを契機に、都内の庭園が連携し、都民及び東京を訪
れる人々に広くその魅力を伝えることを目的とするものである。都が管理する庭園のほか、
国公立・民間など官民の都内 30 庭園(図4)が参加している。
図4 東京の日本庭園おもてなし協議会 会員
出典:建設局資料より作成
今後、①各庭園の連携によるイベントや多言語対応といった、庭園の魅力発信に関する
事項や、②各庭園が行っている庭園管理の手法等、庭園管理に関する事項について検討を
行っていく。
(3)東京いい庭キャンペーン
東京の日本庭園おもてなし協議会は、11 月 28 日を
お茶会の様子
「いい庭の日」に位置づけ、その前後(11/22~12/7)
に「東京いい庭キャンペーン」を実施した。都立や国
公立、民間など都内の 24 庭園が、それぞれの特色を生
かしたイベントやサービスを実施した。
例えば、旧岩崎邸庭園は庭園ガイドやミニコンサー
ト、国営昭和記念公園は「お茶を楽しむ会」を企画し
た。季節柄、菊花展や紅葉のライトアップを実施する
出典:建設局ホームページ
庭園もあった。
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今後の課題
伝統文化の素晴らしさを紹介し、和のおもてなしを世界に発信することができる庭園は、
貴重な歴史的文化遺産であると同時に、都を世界有数の観光都市へと導いていくうえで、
重要な観光資源でもある。
都は今後、庭園の保存や復元を引き続き進め、次世代へと伝えていかなければならない。
また、東京の日本庭園おもてなし協議会の中で、外国人観光客向けの庭園周遊ツアーやパ
ンフレット・ガイドブックの作成など、様々な取組を検討し実施していく必要がある。
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