画像情報を利用したフィールドサーバによるモニタリング運用事例

画像情報を利用したフィールドサーバによるモニタリング運用事例
深津 時広
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構,〒305-8666
茨城県つくば市観音台 3-1-1
要旨
オープン・フィールドサーバは、多くの利用者が機材の購入からデータ収集までを自身で容易に行えるように
することで、幅広い利用を促進するものである。本発表ではオープン・フィールドサーバの雛型のひとつである
FS Classic およびカメラモジュールを利用した幾つかの現場適用事例に対し、長期間安定してデータを取得する
ための個別の課題やその解決手法などについて述べ、オープン・フィールドサーバの実現を目指す。
キーワード
フィールドサーバ,画像計測,長期安定運用,オープンソース
用し、一定時間毎に通信モジュール・通風ファン・カメ
緒言
ラなどの周辺機器の電源を入れ、Web サーバを起動して
従来のエージェントプログラムによるデータ収集および
圃場における環境情報・作物情報・農作業情報を取得
twitter・flickr などへの自動データ送信を行ったのち、
する手法として、センサネットワーク技術を農業分野に
Arduino 以外の電源を落として消費電力を抑える。コン
応用したフィールドサーバ・システムが開発されている
ピュータのメモリ制限および各種仕様のため、これを安
[1]。近年、このフィールドサーバを多くの利用者が様々
定して稼働させるには色々な工夫が必要となる。
な場面で容易に利用できるよう、オープン・フィールド
具体的には、Twitter は Web サーバ起動前に実行、Web
サーバ(Open-FS)の提案がなされている[2]。Open-FS では、
サーバ記述は最小限に留め flash ROM に配置、時刻把握
利用者が自身で機材購入・組立・設定・設置・運用・デ
用に NTP サーバへアクセス、割り込み処理の併用は不安
ータ利用できることを目指し、オープンソース・ハード
定になるため NTP は割り込み前に 1 回、安定動作および
ウェアやフリーのクラウドサービスを活用し、図面・回
時刻補正のため定期的に再起動(ソフトリセット)、再起
路図をはじめとするマニュアルやケーブル類の部品発注
動時の Ether シールド不安定性を回避するため遅延して
先情報などのノウハウを公開・共有化していく。その雛
電源 on・リセット、センサ電圧読み込みは前後のチャン
型のひとつとして、FS Classic やカメラモジュール(図 1)
ネルに引きずられないよう複数回読み込み、省エネのた
がこれまでに開発されている。これを利用した幾つかの
め 5V(または 6V)を Vin(または USB 5V)に入力、常時稼
モニタリング運用事例を示し、そこで直面した様々な課
働モードへの切り替えスイッチ追加、などである。
題や解決のための手法について以下に述べる。
高解像度カメラの画像転送
一眼レフカメラ(EOS-kiss X5)・Arduino 基板・Eyei-Fi
を利用したカメラモジュールでは、Arduino によって一
定時間毎にカメラの電源 on/off やシャッターを制御し、
Eye-Fi によって周囲のフィールドサーバを通じてデータ
図 1. FS Classic およびカメラモジュール
を Flickr にアップロードし、エージェントによってこれ
を収集している。データのアップロードに関しては、画
FS Classic の安定運用
像が高解像度のためルータの回線速度および Eye-Fi と無
線 LAN 間の通信速度が重要となる(図 2)。回線速度が遅
い場合はデータ転送のため、カメラとフィールドサーバ
FS Classic ではメインコンピュータに Arduino Uno を利
と距離がある場合は Eye-Fi の通信距離が短いため、長時
うカメラの向きを制御するローテータ(CRT-7)を用意し、
これを Arduino によって 6 度ずつ計 120 度回転させるこ
とで目的とする監視を実現することができた(図 3)。
図 2. カメラモジュールによる高解像度撮影
間カメラ・通信モジュールの電源を on にする必要がある。
後者を解決する方法として、カメラモジュール内にアク
図 3. 遠赤外カメラによる熱画像撮影
セスポイントを設置し、これを有線でフィールドサーバ
に接続する方法が考えられる。また EOS-kiss X5 は撮影
時にファインダを塞ぐ必要がある、Eye-Fi のエンドレス
簡易画像モニタリングの構築
モードが動作しない、などの注意点が存在する。特に後
者は長期間撮影時には問題となるため、その場合は
オープン・フィールドサーバに関連して、とりあえず
Linux と USB 接続して gphoto2 でデータ収集する方法が
簡易に遠隔画像計測システムを構築する方法はないかと
考えられる。この場合も gphoto2 との相性問題から画像
いう問い合わせを幾つか受けた。そこで図 4 のように市
取得後にカメラの電源を off/on しなければならない。
販の機材だけで構築したものを提案した。12V 用タイム
スイッチ(TB2012K)を利用することで、バッテリ駆動で
プリペイド通信回線による問題
も簡易に間欠駆動が行えるため、ソーラ・バッテリシス
テムを小型化することができる。またネットワークカメ
Docomo や E-mobile などのデータ通信端末をインター
ネット通信回線に使用する場合、グローバル IP が割り振
ラも 12V 駆動のものを選ぶことで、DC コンバータなど
のはんだ付けといった作業を省くことができる。
られるのでDDNS およびポートフォワードを使用するこ
とでフィールドサーバに容易にアクセスできる。
一方で、
購入が容易なプリペイド通信端末は b-mobile U300 を最
後にプライベート IP しかが割り振られないため、対策を
講じる必要がある。センサデータは Twitter 機能を利用す
ることで回避し、1 眼レフのカメラモジュールは Eye-Fi
経由で Flickr にアップすることで対応可能となる。ネッ
図 4. 簡易遠隔画像計測システム
トワークカメラの場合、異常検知による画像メール送信
機能を利用し、感度を最大にすることでデータの送信が
可能となるが、何故か DY-NC10 以外では動作が確認で
謝辞
きなかった。またプリペイド通信端末の場合は特に、常
時接続を行うと一定時間後に回線が切られてしまうため、
1 日~数時間に 1 度の再起動を盛り込む必要がある。
本報告の一部は,農水省「食料生産地域再生のための
先端技術展開事業・土地利用型営農技術の実証研究」
,文
科省「気候変動適応研究推進プログラム・地球環境変動
鳥獣害監視のための夜間撮影
下における農業生産最適化支援システムの構築」
,
日本学
術振興会「JSPS 科研費・若手(B)24780252」の助成を受
夜間撮影が可能な赤外線カメラは幾つかの種類があり、
けたものである.ここに感謝致します.
単純なものはナイトモード(近赤外)を搭載したネットワ
ークカメラが利用できる。高性能な近赤外カメラの中に
はビデオ出力した持たないものがあるため、その場合は
ビデオエンコーダ(AXIS Q7411)を利用することで Web
による画像収集を行うことができる。また遠赤外の熱画
像カメラ(AVIO S100-50)では、より鮮明で遠距離の監視
ができる。視野角が狭いため、広範囲の監視を行えるよ
引用文献
[1] 深津時広・平藤雅之(2003)圃場モニタリングのためのフ
ィールドサーバの開発,農業情報研究,12(1):1-12.
[2] 深津時広, 平藤雅之, 木浦卓治 (2013). 圃場スマートセン
シングを実現するオープン・フィールドサーバ(Open-FS),
第 30 回センシングフォーラム計測部門大会, 170-174.