超解像顕微鏡の技術

このページは株式会社ニコンインステックによるPR記事です。 超 解 像 顕 微 鏡 の技 術
及川義朗(株式会社ニコンインステック バイオサイエンス営業本部)
1 .「 超 解 像 顕 微 鏡 」 に つ い て 構造化照明法である。この技術によって XY 方向
光学顕微鏡はその誕生以来、約 300 年にわたって
の解像度は 115nm まで向上する。縞照明は方向性
人類の「見えないものを見たい」という根本的な欲
があるため 1 枚の超解像画像を作り出すには 15
求につきうごかされて発展を遂げてきた。透明な物
枚の画像取得が必要で約 1 秒程度かかるので高速
体を見る位相差観察や微分干渉観察、目的部位だけ
イメージングには対応できないが、生細胞での多
特異的に観察できる蛍光観察などを次々実現し、近
色蛍光観察が可能である。N-SIM により細胞内小
年では光学設計技術の進歩とともに解像度はすで
器官の形態観察、動態観察、また従来の顕微鏡で
に理論的限界値に達するまでになった。 は分離できない 2 種類のタンパク質局在や物質の
装置としての顕微鏡技術は 1990 年代に市場に登
微細な位置関係などを可視化することができる
場したレーザー共焦点顕微鏡が先端研究における
(図2)。 光学イメージングで大きな役割を果たしてきたが、
2010 年ころからまったく新しい装置「超解像顕微鏡」 が市場に登場した。これはいずれも蛍光観察が条件
となるが、光学的な解像限界(回折限界)を超える
性能を実現するため、幾つかの技術が開発され実用
化している。 2 . ニ コ ン の 超 解 像 技 術 の 実 際 ニコンはガラスの溶融から、光学設計、薄膜、製
造、品質管理など世界最先端の光学技術を有してお
り、顕微鏡はニコンの中でもっとも歴史のある製品
図1 超解像顕微鏡 N-SIM の装置外観 として 90 年以上製造販売をしてきた。超解像技術
についても早くから取り組み、構造化照明法による
N-SIM、ローカリゼーション法による N-STORM とい
う 2 種類の異なる技術を採用し、それぞれ製品化し
て発売している。以下にそれら2つの技術について
簡単に説明する。 ( 1 ) 構 造 化 照 明 法 ( N-SIM 図 1 ) 回折光は構造が小さくなるほどその角度が大き
くなるが、これを捉えるための対物レンズの開口
数には限界がありこれが回折限界である。通常、
顕微鏡の照明は均一であるが、この技術では照明
パターンが縞状(周期構造をもった照明パターン)
であり、これにより回折限界を超えた微小構造か
図2 従来画像(上)と N-SIM 画像(下)の比較 ら生じる回折光を取り込むことができ、画像デー
(GFP が発現した微小管) タの成分解析をして超解像画像を作り出すのが
PR記事 ( 2 ) ロ ー カ リ ゼ ー シ ョ ン 法 ( N-STORM) 3 . 超 解 像 顕 微 鏡 の 現 状 と 今 後 解像度は、分離して認識できる 2 点間の最小距離
超解像顕微鏡とよべる製品が市場に登場して
と定義される。同時に励起された 2 つの点像が解像
からすでに数年がたつ。現在でもいくつかの技術
限界以上接近し重なると分離できなくなるが、もし
が並立して存在し、それぞれ長所短所があるため
1 点ずつ重なりなく独立して励起できれば点像が広
研究者が目的に応じて使いわける必要があり、1
がってもその強度中心を求めることができる。ロー
つの技術が他を席巻して独占する状況にはなっ
カリゼーション法とは、このように 1 分子ずつ離散
ていない。しかしながら生物学の研究論文におい
的に分子を光らせてその中心位置を記録すること
ては超解像顕微鏡によって取得されたデータが
を数千回以上繰り返して、点の密度を上げて画像化
徐々に使われるようになってきており、あきらか
する方法である。 に新しい「超解像顕微鏡」という分野が確立され
ニコンの超解像顕微鏡 N-STORM(図3)では有機
ていくであろうことは確信できる。 系蛍光試薬で染色した標本に対し観察時に特殊な
だが共焦点顕微鏡と比較すると超解像顕微鏡
バッファーを添加する。添加したバッファーと励起
は時間分解能、視野サイズ、深部観察などの点で
光のエネルギーの効果により、いくつかの蛍光分子
まだ改善の余地がある。顕微鏡メーカーは、自社
は電子配列が変わり、エネルギー準位が励起状態か
の技術開発により超解像顕微鏡のさらなる性能
らすぐには基底状態に落ちない状態となる。このた
向上に努力するだけでなく、現場の研究者と十分
め分子によって蛍光の発生に時間差が生じるので、
に議論を交わしながら本当に使える、完成度の高
1 画面内に光る分子と光らない分子が共存する状態
い技術に仕上げていき、多くの研究に寄与してい
を作り出せ、標的分子の位置決めが可能となる。
くことが肝要と考えているため、皆様からのご意
N-STORM では約 20nm と非常に高い解像度で観察でき
見をお聞かせ頂けると幸いである。 細胞骨格やシナプスのイメージング等で使われて
いるが、取得時間は数分を要する(図4)。 画像ご提供: 図2:浜松医科大学 矢尾育子先生 標本:Ptk2 細胞の微小管 図4:フロリダ州立大学 マイク・デビッドソン先生 標本:アフリカ緑ザル腎臓細胞の微小管 以下のサイトにて製品や技術、サンプル動画
などをご紹介しております。
図3 超解像顕微鏡 N-STORM の装置外観 ・超解像顕微鏡 N-SIM
http://www.nikon-instruments.jp/jpn/bioscience-pro
ducts/super-resolution/n-sim/index.html
・超解像顕微鏡 N-STORM
http://www.nikon-instruments.jp/jpn/bioscience-pro
ducts/super-resolution/n-storm/index.html
図4 従来画像(左)と N-STORM 画像(右)の比較
(微小管) バイオサイエンス営業本部
http://www.nikon-instruments.jp