本ガイドラインにおける基本事項

14 本ガイドラインにおける基本事項
1
2
本ガイドラインにおける基本事項
3
4
5
Ⅰ 進行期分類
6
1.外陰癌
7
International Federation of Gynecology and Obstetrics(FIGO)は 1988 年に外陰癌
8
の従来の臨床進行期分類にかえて,手術進行期分類を採用した。外陰癌は通常手術療法
9
が施行されることが多く,病理組織学的評価が可能であり,重要な予後因子である所属
10
リンパ節転移の評価を病理組織学的に行うことにより,手術進行期分類のほうがより正
11
確に予後を反映することが推測された。
12
13
(1)手術進行期分類(FIGO 1988)
14
0 期:上皮内癌
15
Ⅰ期:外陰または会陰に限局した最大径 2 cm 以下の腫瘍,リンパ節転移はない
16
Ⅱ期:‌外陰および/または会陰のみに限局した最大径 2 cm を超える腫瘍,リンパ節転移
17
18
はない
Ⅲ期:腫瘍の大きさを問わず
19
① 隣接する下部尿道および/または腟または直腸に進展するもの
20
② 一側の所属リンパ節転移があるもの
21
Ⅳa 期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの
22
上部尿道,膀胱粘膜,直腸粘膜,骨盤骨および/または両側の所属リンパ節転
23
移があるもの
24
Ⅳb 期:骨盤リンパ節を含むいずれかの部位に遠隔転移があるもの
25
26
その後,この分類に基づいた症例の生存率分析の結果,いくつかの欠点が判明したこ
ピー不可
コ
27
とから,1994 年にⅠ期のみが改訂され,Ⅰ a 期は腫瘍の最大径が 2 cm 以下で間質浸潤
28
1 mm 以下のものとなった。
29
30
31
(2)手術進行期分類(FIGO 1994)
Ⅰ期:外陰または会陰に限局した最大径 2 cm 以下の腫瘍,リンパ節転移はない
Ⅰa 期:間質浸潤の深さが 1 mm 以下のもの
33
Ⅰb 期:間質浸潤の深さが 1 mm を超えるもの
34
35
36
1
20
32
5・
1
Ⅱ期:‌外陰および/または会陰のみに限局した最大径 2 cm を超える腫瘍,リンパ節転移
はない
Ⅲ期:腫瘍の大きさを問わず,
Ⅰ 進行期分類 15
① 隣接する下部尿管および/または腟または直腸に進展するもの
1
および/または
2
② 一側の所属リンパ節転移があるもの
3
Ⅳa 期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの
4
上部尿管,膀胱粘膜,直腸粘膜,骨盤骨および/または両側の所属リンパ節転移
Ⅳb 期:骨盤リンパ節を含むいずれかの部位に遠隔転移があるもの
5
6
7
この進行期分類の問題点として,
8
1.進行期別の予後が適切に分離しない。特にⅠ期とⅡ期の生存率の差が小さい
9
2.Ⅲ期の中に,予後良好な集団と予後不良な集団が存在する
10
3.転移リンパ節数や形態が進行期分類に反映していない
11
1, 2)
ことがあげられる 。
12
こういった問題点を解決する目的で,FIGO は 2008 年に新たな手術進行期分類を採用
3)
13
した 。Ⅰ期は外陰に限局する腫瘍であるが,2 cm 以下の腫瘍とされていたものとⅡ期
14
で 2 cm をこえる腫瘍としたものを統合した。そのうえで,ⅠA 期は変更せず,ⅠB 期は
15
腫瘍径 2 cm をこえる,あるいは間質浸潤 1. 0 mm をこえる症例とした。これは米国の
16
Surveillance, Epidemiology and End Results Program(SEER) の デ ー タ で,8 cm を
17
こえる腫瘍であってもリンパ節転移陰性では予後良好であったという報告に基づいてい
18
1)
る 。Ⅱ期は腫瘍径を問わず,会陰周囲組織への進展はあるが,リンパ節転移のないも
19
の,Ⅲ期は腫瘍径や会陰周囲組織への進展の有無を問わずに,所属リンパ節転移を認め
20
るものとした。さらに,転移リンパ節数やその大きさ,被膜外進展の有無によりⅢA,
21
ⅢB,ⅢC 期と細分類を行っている。Ⅳ期は上部の尿道,腟への進展,または遠隔転移
22
を伴うものとしており,ⅣA 期は上部尿道,直腸,骨盤骨への進展や固定,潰瘍化した
23
鼠径リンパ節転移,ⅣB 期は骨盤リンパ節転移を含む遠隔転移としている。これらは,
24
FIGO 1988 手術進行期分類の問題点に焦点をあて,改訂された結果である。
25
FIGO 2008 手術進行期分類をもとに,日本産科婦人科学会では日本語訳を作成,2014
ピー不可
コ
4)
年に採用している 。
26
27
28
(3)進行期分類(FIGO 2008)原文 3)
29
Carcinoma of the vulva
30
Stage Ⅰ
31
Tumor confined to the vulva
1
20
ⅠA Lesions ≤ 2 cm in size, confined to the vulva or perineum and with stromal
invasion ≤ 1. 0 mm *, no nodal metastasis
5・
the vulva or perineum, with negative nodes1
32
33
*
ⅠB Lesions > 2 cm in size or with stromal invasion > 1. 0 mm , confined to
Stage Ⅱ‌Tumor of any size with extension to adjacent perineal structures(1 / 3
34
35
36
16 本ガイドラインにおける基本事項
lower urethra, 1 / 3 lower vagina, anus)with negative nodes
1
2
Stage Ⅲ‌Tumor of any size with or without extension to adjacent perineal structures
3
(1 / 3 lower urethra, 1 / 3 lower vagina, anus)with positive inguino─femoral
lymph nodes
4
5
ⅢA( i)With 1 lymph node metastasis(≥ 5 mm), or
6
(ii)1─2 lymph node metastasis(es)
( < 5 mm)
ⅢB( i )With 2 or more lymph node metastases(≥ 5 mm), or
7
(ii) 3 or more lymph node metastases( < 5 mm)
8
ⅢC With positive nodes with extracapsular spread
9
10
Stage Ⅳ‌Tumor invades other regional(2 / 3 upper urethra, 2 / 3 upper vagina)
, or
distant structures
11
ⅣA Tumor invades any of the following:
12
( i )‌Upper urethral and / or vaginal mucosa, bladder mucosa, rectal
13
mucosa, or fixed to pelvic bone, or
14
(ii)‌Fixed or ulcerated inguino─femoral lymph nodes
15
ⅣB Any distant metastasis including pelvic lymph nodes
16
17
18
* ‌
The depth of invasion is defined as the measurement of the tumor from the epithelialstromal junction of the adjacent most superficial dermal papilla to the deepest point of invasion.
19
20
21
22
23
(4)手術進行期分類(日産婦 2014,FIGO 2008)
4)
Ⅰ期:外陰に限局した腫瘍
ⅠA 期:外陰または会陰に限局した最大径 2 cm 以下の腫瘍で,間質浸潤の深さが 1 mm
以下のもの *。リンパ節転移はない
24
ⅠB 期:‌外陰または会陰に限局した腫瘍で,最大径 2 cm をこえるかまたは間質浸潤
25
の深さが 1 mm をこえるもの *。外陰,会陰部に限局しておりリンパ節転移
26
はない
27
28
29
コピ
ー不可
Ⅱ期:‌隣接した会陰部組織(尿道下部 1 / 3,腟下部 1 / 3,肛門)への浸潤のあるもの。
リンパ節転移はない。腫瘍の大きさは問わない
Ⅲ期:‌隣接した会陰部組織への浸潤はないか,あっても尿道下部 1 / 3,腟下部 1 / 3,肛
30
門までにとどまるもので,鼠径リンパ節(浅鼠径,深鼠径)に転移のあるもの。
31
腫瘍の大きさは問わない
33
34
35
36
ⅢA 期:(
i )5 mm 以上のサイズのリンパ節転移が 1 個あるもの,または
1
20
32
(ii)5 mm 未満のサイズのリンパ節転移が 1 〜 2 個あるもの
5・
1
(ii)5 mm 未満のサイズのリンパ節転移が 3 個以上あるもの
ⅢB 期:(
i )5 mm 以上のサイズのリンパ節転移が 2 個以上あるもの,または
ⅢC 期:被膜外浸潤を有するリンパ節転移
Ⅰ 進行期分類 17
Ⅳ期:‌腫瘍が会陰部組織(尿道上部 2 / 3,腟上部 2 / 3)まで浸潤するか,遠隔転移のあ
るもの
1
2
ⅣA 期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの
3
( i )‌上
部尿道および/または腟粘膜,膀胱粘膜,直腸粘膜,骨盤骨固着浸潤の
あるもの
4
5
(ii)固着あるいは潰瘍を伴う鼠径リンパ節
6
ⅣB 期:遠隔臓器に転移のあるもの(骨盤リンパ節を含む)
7
* ‌
浸潤の深さは隣接した最も表層に近い真皮乳頭の上皮間質接合部から浸潤先端までの距離とする
8
9
5)
(5)TNM 分類(Union for International Cancer Control〔UICC〕第 7 版,2009)
10
■ T─原発腫瘍
11
TX
原発腫瘍の評価が不可能
12
T0
原発腫瘍を認めない
13
Tis
上皮内癌(浸潤前癌)
14
T1
外陰,または外陰と会陰に限局する腫瘍
15
T1a 最大径 2 cm 以下の腫瘍で間質浸潤 1. 0 mm 以下
16
T1b 最大径 2 cm をこえる腫瘍か,あるいは間質浸潤が 1. 0 mm をこえる
17
T2
T3
‌大きさに関係なく尿道下部 1 / 3,腟の下部 1 / 3,肛門など隣接した会陰部組織に
18
進展する腫瘍
19
‌大きさに関係なく尿道上部 2/3,腟の上部 2/3,膀胱粘膜,直腸粘膜に進展する,
20
または骨盤骨に固着する腫瘍
21
■ N─所属リンパ節:所属リンパ節は,鼠径リンパ節(浅鼠径,深鼠径)
22
NX
所属リンパ節転移の評価が不可能
23
N0
所属リンパ節転移なし
24
N1
以下の特徴をもつ所属リンパ節転移
25
コピ
N1a 5 mm 未満のリンパ節転移が 1 〜 2 個
N1b 5 mm 以上のリンパ節転移が 1 個
N2
ー不可
26
27
以下の特徴をもつ所属リンパ節転移
28
N2a 5 mm 未満のリンパ節転移が 3 個以上
29
N2b 5 mm 以上のリンパ節転移が 2 個以上
30
N2c 被膜外浸潤を呈するリンパ節転移
31
固着性または潰瘍性の所属リンパ節転移
■ M─遠隔転移
MX 遠隔転移の評価が不可能
1
20
N3
M0
遠隔転移なし
M1
遠隔転移あり(骨盤リンパ節転移を含む)
5・
1
32
33
34
35
36
18 本ガイドラインにおける基本事項
1
(6)FIGO 進行期分類と TNM 分類(UICC 第 7 版)との比較
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
FIGO 進行期分類
T
N
M
Ⅰ
T1
N0
M0
ⅠA
T1a
N0
M0
ⅠB
T1b
N0
M0
Ⅱ
T2
N0
M0
ⅢA
T1, T2
N1a, N1b
M0
ⅢB
T1, T2
N2a, N2b
M0
ⅢC
T1, T2
N2c
M0
ⅣA
T1─T2
N3
M0
T3
Any N
M0
Any T
Any N
M1
12
13
UICC
ⅣB
14
15
16
(7)所属リンパ節:鼠径リンパ節(浅鼠径リンパ節,深鼠径リンパ節)
(図 1)
17
FIGO 進行期分類(2008 年)によると,外陰癌の所属リンパ節の表記は inguinofemoral
18
nodes もしくは inguinal and femoral lymph nodes と記載されている。しかしながら,
19
femoral lymph node は “The femoral nodes are situated medial to the femoral vein
20
within the fossa ovalis” 6),“Deep femoral nodes are located medially along the femoral
21
vessels.” 7),“Deep femoral nodes, which are by classic teaching located beneath the
22
cribriform fascia … ” 8)と記載されている。
23
同部位のリンパ節は日本癌治療学会のリンパ節規約では浅鼠径リンパ節,深鼠径リン
24
パ節と定義されているため 9),本ガイドラインでは所属リンパ節は鼠径リンパ節(浅鼠
25
径リンパ節,深鼠径リンパ節)と定義する。
コピ
26
27
鼠径リンパ節:鼠径靱帯の下方にあるリンパ節
28
浅鼠径リンパ節:大腿筋膜の表層にあるリンパ節
29
深鼠径リンパ節:大腿筋膜より深部にあるリンパ節
ー不可
30
31
2.腟癌
腫瘍が子宮腟部まで拡がり,外子宮口を侵すものは子宮頸癌と診断し,外陰部まで拡
33
がるものは外陰癌と診断されると定められている 10)ため,腟癌と診断される症例は少
34
数である。
1
20
32
35
5・
FIGO は 1971 年に臨床進行期分類を採用している 1
が,その後改訂は行われていな
36
い。腟癌の約 75% はⅡ 〜 Ⅳ期で診断されるため,治療は放射線治療が多く行われてい
11, 12)
Ⅰ 進行期分類 19
1
仙骨リンパ節
卵巣動脈
2
3
閉鎖リンパ節
総腸骨リンパ節
鼠径上リンパ節
外腸骨リンパ節
4
5
6
鼠径靱帯
閉鎖神経
7
8
閉鎖リンパ節
深鼠径リンパ節
臍動脈索
子宮円索
浅鼠径リンパ節
基靱帯リンパ節
9
10
11
図 1 外陰がん・腟がん治療に関係するリンパ節の名称
(日本癌治療学会リンパ節規約 第 1 版〔2002 年 10 月 , 金原出版〕より引用,一部改変)
12
13
14
15
ることから,子宮頸癌と同様に腟癌も臨床進行期分類が採用されている。したがって,
16
下記の進行期分類は内診,コルポスコピー,膀胱鏡,直腸鏡,X 線検査により診断され,
17
CT や MRI 等の画像検査は治療計画の決定には採用してよいが,FIGO 進行期分類を変
18
13)
更してはならないとされている 。
19
FIGO 1971 臨床進行期分類をもとに,日本産科婦人科学会では日本語訳を作成,2014
年に採用している。
20
21
22
11)
(1)臨床進行期分類(FIGO 1971)
原文 23
Carcinoma of the vagina
24
Stage Ⅰ
25
The carcinoma is limited to the vaginal wall
Stage Ⅱ‌The carcinoma has involved the subvaginal tissue
but不
has
ピー
可not extended to
コ
26
Stage Ⅲ The carcinoma has extended to the pelvic wall
28
Stage Ⅳ‌The carcinoma has extended beyond the true pelvis or has involved the
29
mucosa of the bladder or rectum; bullous edema as such does not permit
30
a case to be allotted to Stage Ⅳ
31
the pelvic wall
beyond the true pelvis
Ⅳb Spread to distant organs
1
20
Ⅳa‌Tumor invades bladder and / or rectal mucosa and / or direct extension
5・
1
27
32
33
34
35
36
20 本ガイドラインにおける基本事項
1
(2)臨床進行期分類(日産婦 2014)
4)
2
Ⅰ期: 癌が腟壁に限局するもの
3
Ⅱ期: 癌が傍腟結合織まで浸潤するが,骨盤壁には達していないもの
4
Ⅲ期: 癌が骨盤壁にまで達するもの
5
Ⅳ期: 癌が小骨盤腔をこえて広がるか,膀胱,直腸粘膜を侵すもの
6
ⅣA 期:‌膀胱および/または直腸粘膜への浸潤があるもの,および/または小骨盤腔を
7
こえて直接進展のあるもの
8
ただし,胞状浮腫の所見のみでⅣ期と診断してはならない
9
ⅣB 期:遠隔転移を認めるもの
10
11
(3)TNM 分類(UICC 第 7 版,2009)
14)
12
■ T─原発腫瘍
13
TX
原発腫瘍の評価が不可能
14
T0
原発腫瘍を認めない
15
Tis
上皮内癌(浸潤前癌)
16
T1
腟壁に限局する腫瘍
17
T2
傍腟結合織まで浸潤するが,骨盤壁には達していない腫瘍
18
T3
骨盤壁に達する腫瘍
19
T4‌膀胱および/または直腸の粘膜への浸潤があるもの,および/または小骨盤腔を超
20
えて直接進展のある腫瘍
21
ただし,胞状浮腫の所見のみで T4 と診断しない
22
■ N─所属リンパ節
23
NX
所属リンパ節転移の評価が不可能
24
N0
所属リンパ節転移なし
25
N1
所属リンパ節転移あり
26
腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節,仙骨リンパ節)
28
腟下部 1 / 3:鼠径リンパ節(浅鼠径リンパ節,深鼠径リンパ節)
29
■ M─遠隔転移
31
MX 遠隔転移の評価が不可能
32
M0
遠隔転移なし
33
M1
遠隔転移あり
36
1
20
30
35
ー不可
腟上部 2 / 3:‌骨盤リンパ節(鼠径上リンパ節,閉鎖リンパ節,内腸骨リンパ節,外
27
34
コピ
所属リンパ節は,
5・
1
Ⅰ 進行期分類 21
(4)FIGO 進行期分類と TNM 分類(UICC 第 7 版)の比較
1
UICC
2
FIGO 進行期分類
T
N
M
3
Ⅰ
T1
Any N
M0
4
Ⅱ
T2
Any N
M0
5
Ⅲ
T3
Any N
M0
6
Ⅳa
T4
Any N
M0
7
Ⅳb
Any T
Any N
M1
8
9
10
(5)所属リンパ節(19 頁 図 1 参照)
11
原発巣が,腟上部 2 / 3 の場合:骨盤リンパ節(鼠径上リンパ節,閉鎖リンパ節,内腸
骨リンパ節,外腸骨リンパ節,総腸骨リンパ節,仙骨リンパ節)
12
13
原発巣が,腟下部 1 / 3 の場合:鼠径リンパ節(浅鼠径リンパ節,深鼠径リンパ節)
14
15
3.外陰悪性黒色腫
16
悪性黒色腫は早期より転移を起こしやすい腫瘍であり,予後不良である。悪性黒色腫
17
は腫瘍の深達度や腫瘍の厚さ,潰瘍の有無,リンパ節転移などが予後と関連するた
18
15)
め ,扁平上皮癌に代表される外陰癌とは生物学的特徴が異なり,一線を画すと考えら
19
れる。既に本邦では日本皮膚悪性腫瘍学会の『皮膚悪性腫瘍取扱い規約』が発刊されて
20
おり 16),悪性黒色腫の取り扱いが記載されている。詳細は『皮膚悪性腫瘍取扱い規約
21
第 2 版』を参考にされたい。以下の悪性黒色腫の TNM 分類は皮膚悪性黒色腫に対する
22
ものである。粘膜原発悪性黒色腫の独自の TNM 分類は確立していないため,粘膜発生
23
に分類される外陰の悪性黒色腫は皮膚悪性黒色腫の TNM 分類を準用することにする。
24
25
(1)TNM 分類(American Joint Committee on Cancer〔AJCC〕
不可 ピ ー,2009)
コ
■ T─原発腫瘍(図 2)
16)
26
27
TX
原発腫瘍の評価が不可能
28
T0
原発腫瘍を認めない
29
Tis
Melanoma in situ
30
T1
tumor thickness ≦ 1 mm
31
2
32
T1b 潰瘍あり,または核分裂像が 1 / mm2 以上
33
T2
1 mm < tumor thickness ≦ 2 mm
T2a 潰瘍なし
T2b 潰瘍あり
1
20
T1a 潰瘍なし,かつ核分裂像が 1 / mm 未満
5・
1
34
35
36
22 本ガイドラインにおける基本事項
1
2
3
(a)
(b)
(c)
(d)
角層
4
5
6
7
表皮
8
9
10
11
12
13
14
15
16
図 2 Tumor thickness の計測法
接眼レンズの鏡筒内に micrometer(目盛りが刻まれている円板状のガラス板)を入れ,顕微鏡に取り付けて
tumor thickness を計測する。表皮に対して垂直方向に,表皮顆粒層上層部から最深部の腫瘍細胞(異型メラノサ
イト)までの距離を測る。病変内で tumor thickness が最も厚いと考えられる切り出し面を中心に複数の切片につ
いて計測し,最大のものを採る
(a)
。表面が潰瘍化している場合は,上の起点は潰瘍表面とする(b, d)。原発巣底
部に microsatellite(顕微鏡的衛星病巣)が存在する場合には,それも含めて最大のものを採る(c)。斜めの方向
に測ったり(b),水平方向へ引いた延長線を用いて計測してはならない(d)。
(×印を付けた線は誤った tumor thickness の計測例)
(皮膚悪性腫瘍取扱い規約 第 2 版〔2010 年 8 月,金原出版〕より引用)
17
18
19
20
T3
2 mm < tumor thickness ≦ 4 mm
21
T3a 潰瘍なし
22
T3 b 潰瘍あり
23
T4
tumor thickness > 4 mm
24
T4a 潰瘍なし
25
T4b 潰瘍あり
コピ
ー不可
26
■ N─所属リンパ節
27
NX
所属リンパ節転移の評価が不可能
28
N0
所属リンパ節転移,衛星転移 *1,in─transit 転移 *2 を認めない
29
N1
1 個の所属リンパ節転移を認める
30
N1a 顕微鏡的転移を認める
31
N1b 肉眼的転移を認める
33
N2‌2 〜 3 個の所属リンパ節転移,またはリンパ節転移を伴わない衛星転移または in─
transit 転移を認める
1
20
32
5・
1
34
N2a 2 〜 3 個の顕微鏡的転移を認める
35
N2b 2 〜 3 個の肉眼的転移を認める
36
N2c リンパ節転移を伴わない衛星転移もしくは in─transit 転移を認める
Ⅱ 手術療法 23
N3‌4 個以上の所属リンパ節転移を認める,互いに癒着したリンパ節転移,リンパ節
転移を伴う衛星転移,または in─transit 転移
1
2
注:所属リンパ節は,鼠径リンパ節(浅鼠径リンパ節,深鼠径リンパ節)
,腸骨リンパ節
*1
原発腫瘍の 2 cm 以内に生じた皮膚転移
*2
原発腫瘍と所属リンパ節の間に生じた皮膚転移。ただし,衛星病巣を除く
3
4
5
■ M─遠隔転移
6
MX 遠隔転移の評価が不可能
7
M0
遠隔転移を認めない
8
M1
遠隔転移を認める
9
M1a 所属リンパ節を超える皮膚,皮下またはリンパ節転移
10
M1b 肺転移
11
M1c その他の臓器転移,または転移部位に関わらず血清 LDH の異常高値を示す場合
12
13
Ⅱ 手術療法
14
1.外陰腫瘍
15
(1)手術療法(CQ01, CQ02, CQ03, CQ04, CQ05, CQ06, CQ15)
① ‌レーザー蒸散術(laser vaporization)
16
17
前癌病変である外陰上皮内腫瘍(vulvar intraepithelial neoplasia;VIN)などに,
18
レーザー照射により病巣から十分なマージンを確保し病巣および周囲皮膚を蒸散す
19
る手術療法である。
20
② 局所切除術(wide local excision)
21
VIN,外陰パジェット病に対して,腫瘍から十分なマージンを確保し,表皮・粘
膜,真皮を切除する。
22
23
③ 根治的外陰部分切除術(radical local excision)
(図 3)
24
早期の浸潤外陰癌に対して,比較的広汎に正常皮膚や腟壁のマージンを 2 cm 程
25
度つけて,深さは広汎外陰切除術と同様に深部の筋膜までの皮下組織を切除する。
ピー不可
26
コ
浸潤癌に対して外陰の片側のみを摘出する手術(radical hemivulvectomy)はこの
27
術式に含まれる。鼠径リンパ節郭清を行うためには,別に鼠径部の皮膚切開が必要
28
となる。
29
④ 単純外陰切除術(simple vulvectomy)
(図 4)
30
31
切除するために外陰全体を切除する定型的手術である。浸潤癌が疑われる場合を除
32
き,深い皮下組織の切除は必要でない。
33
1
20
VIN,外陰パジェット病に対して,多発性で広範囲に及ぶ病変に対し,全病巣を
5・
1
腫瘍に対して外側,内側の切除マージンを十分にとりながら,大陰唇の外側に
34
沿って外陰周囲を輪状切開し,浅会陰筋膜(Colles 筋膜)に達するまで皮下組織を
36
⑤ 広汎外陰切除術(radical vulvectomy)および鼠径リンパ節郭清(図 5 a, b)
35
24 本ガイドラインにおける基本事項
1
切り込み,脂肪組織を筋膜から取り除き腟方向へ向け切除する。内側は上方の外尿
2
道口の周囲をめぐり切開し,腟入口部に沿って切開する。鼠径リンパ節郭清を行う
3
ための皮膚切開法により,以下に分類される。
4
1)分割切開法(separate incision)
5
外陰を切除する切開線と独立して両側鼠径部に切開線を入れる(triple inci-
6
sion approach)
。鼠径部の触知によりリンパ節転移が疑われる場合は,転移リ
7
ンパ節直上の皮膚を切除するように切開線を入れる。リンパ節転移が疑われな
8
い場合は,皮膚切除を回避する。
9
2)一括切開法(en bloc incision)
10
外陰を切除する切開線を両側鼠径部に延長して,両側上前腸骨棘から鼠径靱
11
帯を通り,恥丘に達する弧状の皮膚切開を行う(longhorn 状)。皮下組織を,
12
外陰部から鼠径部のリンパ組織を含む脂肪組織に至るまで一括して摘出する。
13
リンパ節転移が疑われる場合は separate 法同様に直上の皮膚を付けて切除す
14
る。
15
16
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18
19
20
21
⑥ 骨盤除臓術(pelvic exenteration)
進行例で骨盤内の周辺臓器に浸潤が及ぶ場合に腟,子宮,膀胱および直腸・肛門
を含めた摘出手術を行う。
⑦ 再建手技(reconstructive surgical procedure)
広汎外陰切除術による外陰部の欠損の状況により,縫縮術,植皮術および皮弁手
術などを行う。
⑧ 鼠径リンパ節郭清(inguinal lymphadenectomy)
22
大腿筋膜(fascia lata)は大腿三角部において篩状筋膜(cribriform fascia)と呼
23
ばれ,これより浅いリンパ節を浅鼠径リンパ節,深いリンパ節を深鼠径リンパ節と
24
いう。大腿静脈内側の最も頭側の鼠径靱帯に近いリンパ節は Cloquet 節(あるいは
25
コピ
26
27
ー不可
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31
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36
1
20
32
5・
1
図 3 ‌根治的外陰部分切除術と鼠径リンパ
節郭清の切開ライン
Ⅱ 手術療法 25
Rosenmüller 節)と呼ばれている。通常,これらの全てのリンパ節を郭清する。
⑨ 骨盤リンパ節郭清(pelvic lymphadenectomy)
1
2
外陰癌手術においては一般に,鼠径リンパ節郭清を延長して,後腹膜経由で骨盤
リンパ節を摘出する。
3
4
⑩ センチネルリンパ節生検(sentinel lymph node biopsy)
5
センチネルリンパ節とは「見張りリンパ節」とも呼ばれ,がんがリンパ管を通っ
6
て最初に行き着くリンパ節である。このリンパ節に転移がなければそれ以上のリン
7
パ節郭清を省略する試みである。
8
⑪ 切除マージン(図 6a)
9
本ガイドラインで腫瘍辺縁部から外科的切除切開部までの距離をいう。
⑫ 外科的切除断端(図 6b)
10
11
外科的に切除した組織の断端部をいう。
12
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15
16
17
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19
20
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22
内側切開線
図 4 単純外陰切除術の切開ライン
コピ
鼠径リンパ節転移が
疑われる場合
鼠径リンパ節転移が
疑われない場合
23
外側切開線
24
25
ー不可
鼠径リンパ節転移が
疑われる場合
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27
鼠径リンパ節転移が
疑われない場合
28
29
30
31
1
20
a:分割切開法(separate incision)
5・
1
b:一括切開法(en bloc incision)
図 5 広汎外陰切除術の切開ライン
32
33
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26 本ガイドラインにおける基本事項
1
2
b
3
4
a
5
6
皮膚切開線
腫瘍
7
8
9
皮膚
10
11
図 6 切除マージン(a)と外科的切除断端(b)
12
13
14
⑬ マッピング生検(mapping biopsy) 16)
15
外陰パジェット病などの境界不明瞭な病巣の境界を推定するために行う。病巣周
16
囲を放射状に 8 方向,あるいはあらかじめ設定した方向に 1 〜 3 cm の部分を画一的
17
に生検する方法である。
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(1)手術療法(CQ11, CQ13)
① ‌レーザー蒸散術(laser vaporization)
腟上皮内腫瘍(vaginal intraepithelial neoplasia;VAIN)などに対する腟上皮の
蒸散を目的とする手術である。
② ‌部分腟壁切除術(partial vaginectomy)
腫瘍の腟壁浸潤が浅い場合,腫瘍からの十分なマージンをもって腟壁を切除す
コピ
る。
③ 全腟壁切除術(total vaginectomy)
ー不可
腟壁に広汎な病変を有する場合,全ての腟壁を切除する。
④ ‌広汎または準広汎全摘出術+腟摘出術+骨盤リンパ節郭清(radical or semiradical hysterectomy + vaginectomy + pelvic lymphadenectomy)
臨床進行期Ⅰ・Ⅱ期で腟上部 1 / 3 に局在している場合に行われる手術療法であ
る。手術では病巣からの十分なマージンをもった腟を切除する。
⑤ 骨盤除臓術(pelvic exenteration)
1
20
32
2.腟腫瘍
5・
1
例に,腟と膀胱および直腸を合めた合併切除を行う。
進行例で直腸・膀胱浸潤,直腸瘻・膀胱瘻が存在する場合や放射線治療後の再発
Ⅲ 放射線治療(CQ07, CQ10, CQ12, CQ15, CQ16)
27
1
Ⅲ 放射線治療(CQ07, CQ10, CQ12, CQ15, CQ16)
2
1.放射線治療の分類
3
① ‌根治的放射線治療(curative radiation therapy, definitive radiation therapy)
4
手術を行わずに治癒を目的として原発巣およびリンパ節領域を臨床標的体積とする
放射線治療。
5
6
② 術前照射(preoperative irradiation)
7
局所進行癌に対し切除率の向上や縮小手術による隣接臓器機能温存を目的として,
手術前に施行する放射線治療。
8
9
③ 術後照射(postoperative irradiation)
10
根治的手術療法後,局所領域再発の危険性が高いと判断される場合に,再発予防を
目的として施行する放射線治療。
11
12
④ 同時化学放射線療法(concurrent chemoradiotherapy)
治療時に化学療法を同時併用する放射線治療。
13
14
⑤ 緩和照射(palliative radiation therapy)
15
疼痛緩和など,症状の緩和を目的として行う放射線治療。
16
17
2.放射線治療の方法
18
① 外部照射(external beam irradiation)
19
体外から高エネルギー放射線を照射する治療法。
20
1)‌3 次元原体照射(three─dimensional conformal radiation therapy;3 D─CRT)
Computed tomography(CT)の 3 次元画像情報を用いた放射線治療計画に基
づく外部照射法。
21
22
23
2)強度変調放射線治療(intensity─modulated radiation therapy;IMRT)
24
3 D─CRT の進化形であり,逆方向治療計画に基づき,空間的,時間的に不均一
25
な放射線強度を持つビームを多方向から照射することにより,病巣部に最適な線
ピー不可
26
コ
量分布を得る外部照射法。
② 密封小線源治療(brachytherapy)
28
放射性同位元素を密封した小さな放射線源を病巣に近接させて照射する治療法。
1)‌腔内照射(intracavitary irradiation)
子宮や腟にアプリケータを挿入し腔内から照射する方法。
1
20
2)組織内照射(interstitial irradiation)
腫瘍やその近傍の組織内にアプリケータを刺入して組織内から照射する方法。
5・
CT や magnetic resonance imaging(MRI)の 31
次元画像情報を用いた放射線治
3)画像誘導密封小線源治療(image─guided brachytherapy;IGBT)
療計画に基づく密封小線源治療。
27
29
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31
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35
36
28 本ガイドラインにおける基本事項
1
2
Ⅳ 化学療法
3
外陰癌,腟癌,その他の外陰がん・腟がんにおいて化学療法のエビデンスは少
4
なく,標準治療はないのが現状である。試行されている化学療法を,目的別に以
5
下に示す。
6
7
1.化学療法の分類
8
① 術前化学療法
9
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進行症例を手術可能にするために試みられる化学療法。
② 術後補助化学療法
手術後に再発高危険因子を有する症例に対して,再発予防を目的として行われる化
学療法。
③ 同時化学放射線療法
放射線治療を行う際にその効果を増強するために行われる,放射線照射と同時に投
与される化学療法。
④ 進行・再発例に対する化学療法
他に治療法がない進行・再発例に対して,病勢の進行を抑制するために行われる化
学療法。
19
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27
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33
34
35
36
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20
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1
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