2015年はメガFTA交渉の山場に

経済連携
2015年はメガFTA交渉の山場に
─ 求められるメガFTA時代に対応する事業戦略の構築 ─
TPP交渉をはじめとするメガFTA交渉が2015年に山場を迎える。メガFTAが実現
すれば、日本企業を取り巻く事業環境は大きく変化する。サプライチェーンの再編な
ど、
メガFTA時代に対応する事業戦略の構築が、
日本企業に今求められている。
世界貿易機関(WTO)におけるグローバルな貿易
投資自由化交渉(ドーハ・ラウンド)が停滞する中、貿
活動に大きな影響をもたらす。2015 年には、これら
のメガFTA交渉がいずれも山場を迎える。
易投資の自由化やルールづくりの場として主役に躍
り出たのがメガFTA(自由貿易協定)
交渉である。
大きな影響をもたらすメガFTA
現在世界では、日中韓 FTA、ASEAN10 カ国と周
辺主要6カ国(日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュー
日本はこれまでに 13 件の EPA を発効させ、14 件
ジーランド)の 16 カ国による東アジア地域包括的経
目となる豪州との EPA も 2015 年 1 月 15 日に発効す
済連携(RCEP)、アジア太平洋地域の 12 カ国が参加
る。これらの EPA も日本経済の発展や日本企業の事
する環太平洋経済連携協定(TPP)
、日EU
(欧州連合)
業活動の円滑化に資する重要なものであるが、メガ
経済連携協定(EPA)
、米国と EU の FTA である環大
FTA はその経済規模や人口の大きさ、あるいは参加
西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の5つのメガ
する国の数の多さなどから、実現すればこれまでの
FTAが交渉されている
(図表1)
。
EPA をはるかに上回る影響を参加国の経済や社会、
メガ FTA の実現は、日本の国民生活や企業の事業
また、グローバルな貿易体制にもたらすものとなる。
例えば、TPPはGDPで世界
の約4割、RCEPは人口で世
●図表1 世界のメガFTA交渉
界の約半分を占めており、
APEC(FTAAP)
TTIP
EU
日EU
実現すればこれまでにな
TPP
米国
チリ
ペルー
カナダ メキシコ
日本
豪州
ニュージーランド
ブルネイ ベトナム
シンガポール
マレーシア
い巨大な FTA となる(図表
香港 ロシア 台湾
パプアニューギニア
2)。
メガ FTA が実現すると、
韓国
中国
日本企業を取り巻く事業環
日中韓
インド
ASEAN
インドネシア
フィリピン タイ
カンボジア
ラオス
ミャンマー
R
C
E
P
境は大きく変化する。メガ
FTA により、貿易投資障壁
が削減・撤廃され、知的財産
権保護や電子商取引などの
貿易投資に関連する共通
ルールが作られると、国境
(資料)
みずほ総合研究所
10
を超えた事業活動が一層円
滑になり、域内市場がより一体化する。そうなれば、
準の緩やかな自由化を主張しているのに対し、日本
メガ FTA の域内でいくつもの国境を越えてサプラ
は自由化水準の引き上げを求めているとされ、交渉
イチェーン(バリューチェーン)を構築している日
の難航が伝えられている。
本企業は、拠点再編などによってこれを効率化し、
日EU・EPAは、
2013年4月の第1回交渉会合以来、
域内分業体制を最適化することが可能になる。これ
これまでに 8 回の交渉会合を終えている。EU が重視
は、これまで日本が締結してきた二国間 EPA では実
する日本の鉄道分野の市場開放が進むなど、交渉は
現できない、メガ FTA の大きなメリットである。こ
進展しているが、日本が求めているEUの自動車関税
の点では、メガFTAとは呼ばれないが、
ASEAN経済
の撤廃、EUが求めている日本の自動車や食品などの
共同体(AEC)が2015年末に発足予定であることも、
非関税措置への対応など、目標とする 2015 年内の合
ASEAN 域内に多くの拠点を有する日本企業にとっ
意に向けて解決すべき課題は多い。
2013年5月に交渉を開始したRCEPは、
6回の交渉
ては見逃せない動きである。
また、メガ FTA 参加を契機に国内改革が加速する
会合と 2 回の閣僚会合を終えている。しかし、インド
ことも見込まれる。国内改革の進展により、
これまで
が極めて低い水準の自由化を主張するなど、交渉に
規制によって保護されていた分野への参入が可能に
参加している先進国と新興国の意見の隔たりが大き
なるなど、新たなビジネスチャンスが生まれること
く、2015 年末までの交渉妥結という目標の実現に黄
も期待される。メガ FTA の実現は、国内の事業環境
信号が点っている。
の変化をもたらすため、海外との取引のない国内企
TTIPは、
2013年7月から2014年10月までに7回の
交渉会合を終えている。米・EU間の交渉は、多くの非
業にもその影響が及ぶ。
メガ FTA 実現に伴う国内外の事業環境の変化に
関税措置・国内規制を対象としているが、両者の意見
対応できるかどうかが、企業の競争力を左右する時
の隔たりは大きく、2015 年末までの合意のためには
代が目前に迫っている。メガ FTA 時代に対応した事
双方の相当な歩み寄りの努力が必要となるだろう。
業戦略の構築が、日本企業に今求められている。
TPPの早期合意が鍵に
2015年中の合意に向けた交渉加速に期待
いずれの交渉も 2015 年内の合意に向けて交渉加
5 つのメガ FTA 交渉は、いずれも 2015 年中の合意
を目指しているが、合意への道は容易ではない。
日中韓FTAは、2013年3月に交渉を開始し、これま
でに 6 回の交渉会合が開催されている。すでに二国
間FTA交渉を妥結した中韓両国が、中韓FTAと同水
速が期待されるが、その鍵を握るのが TPP である。
TPP は、日米関税交渉や知的財産分野の交渉の難航
が伝えられているが、大筋合意に向けた最終局面に
ある。
メガ FTA 交渉は参加国が重なっていることもあ
り、互いに刺激し合いながら進行している。そのた
め、交渉が最も進んでいる TPP 交渉が妥結に至れ
●図表2 メガFTAの経済規模(2013年)
GDP
日中韓
ば、他のメガFTA交渉の加速を促すことになる。
人口
2015 年の早い時期に TPP 交渉は大筋合意に至る
兆ドル
対世界比
億人
対世界比
15.7
21.0%
15.4
21.9%
のか。それが、2015 年のメガ FTA 交渉の行方を大き
く左右することになるだろう。
RCEP
21.6
29.0%
34.2
48.7%
TPP
27.7
37.1%
8.0
11.4%
日EU
22.4
30.0%
6.3
9.0%
米EU(TTIP)
34.3
45.9%
8.2
11.7%
世界
74.7
100.0%
70.2
100.0%
みずほ総合研究所 政策調査部
上席主任研究員 菅原淳一
[email protected]
(資料)IMF「World Economic Outlook database」
(October 2014)
より
みずほ総合研究所作成
11