省スペース型地盤アンカー山留め支保工の開発 Development

大林組技術研究所報
No.78 2014
省スペース型地盤アンカー山留め支保工の開発
元
井 康 雄
三 栖
健 一
富 田 真
(東京本店建築事業部)
堀
内 栄 治
(東京本店建築事業部)
丸 田
平
(東京本店建築事業部)
晃 司
佐 藤 有
(東京本店建築事業部)
希
(大阪本店建築事業部)
Development of Space-Saving Support for Excavation Using Ground Anchorages
Yasuo Motoi
Eiji Horiuchi
Abstract
Kenichi Misu
Koji Maruta
Shinpei Tomita
Yuki Sato
We developed a new space-saving support for excavation using ground anchorages. The top of
earth-retaining walls are loaded to an acute angle by ground anchorages on the back side, and the load controls
the displacement of the walls. The main benefits are as follows: (1) because the ground anchorages occupy the
back side of walls with a width of 2–5 m, this method can be used even if there is not enough space for work;
(2) because ground support materials are installed on the back side of earth-retaining walls, they do not present
an obstacle to underground construction, which greatly increases work efficiency; and (3) ground support
setting construction and the construction of earth-retaining walls can be carried out simultaneously. In addition,
the supports shorten the excavation process and ease labor because anchorage removal work is not critical. The
above benefits were demonstrated through an on-site application.
概
要
本工法は,敷地外周が狭隘な条件での山留め工事に適用可能な,省スペース型の地盤アンカー支保工である。
山留め壁頭部の背面側にブラケットを接合し,その先端に地盤アンカーを鋭角に設置して緊張力を導入するこ
とにより,山留め壁の掘削側への変位を抑制する。主な効果は以下の通りである。1) 山留め壁の背面側に必要
なスペースが幅2m~5m程度に納まるため,敷地に余裕のない条件でも地盤アンカーを採用できる。2) 従来,地
下外周躯体と干渉していた仮設の支保工部材を山留め壁の背面側に配置することで,場内地下工事の作業性が
大幅に向上する。3) 山留め壁建込工事などと支保工設置工事が並行可能である。また,アンカー撤去時期の自
由度が高く地下工事のクリティカルとならないため,工程短縮および労務の平滑化につながる。本工法を試験
施工および平面総延長約258mの山留め工事に適用し,上記1)~3)の効果,および山留め変位の抑制効果を実証し
た。
1. はじめに
保工(以下,新工法)である。山留め壁頭部に,地表面
と縁を切って浮かせた状態のブラケットを設置し,その
先端に地盤アンカーによる緊張力を導入することにより,
山留め壁頭部を背面側に変位させるようなモーメントお
山留めの支保工として用いられる地盤アンカー工法は,
切梁工法や逆打ち工法と比較して,掘削工事や地下躯体
工事との干渉が少なく作業性が高い支保工である。ただ
し,一般に地盤アンカーは水平に対し30~45度の傾角で
設置されるため,定着地盤までの水平距離が長くなり背
面の敷地に余裕が必要である。そのため,背面地盤内の
埋設物との干渉や敷地の使用許可が得られないなどの条
件下においては,適用が困難である。このような条件に
おいて,地盤アンカー適用の可能性を広げることを目的
として,省スペース型の地盤アンカー工法を開発した。
2.
2.1
L=1~2m
敷地境界
Vt
新工法
省スペース型
地盤アンカー
従来の斜め
地盤アンカー
本工法の特徴および適用条件
Mt=Vt・L
Mt:モーメント
Vt:アンカー緊張力の
鉛直分力
地盤・掘削条件によ
り鉛直を最小として
角度を決定
アンカー定着地盤
背面に敷地的
2~5m
鉛直アンカー
余裕が必要
省スペース型地盤アンカー支保工の特徴
Fig. 1 省スペース型地盤アンカー支保工
Space-saving Type Support Using Ground Anchorages
本工法は,Fig. 1に示すような,山留め壁の背面地盤に
幅2m~5m程度で納まる省スペース型の地盤アンカー支
1
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3.1
よび水平力を作用させ,山留め壁の掘削側への変位を抑
制する機構となっている。
2.2
転倒の検討
山留め壁が側圧によって転倒することのないよう,
Fig. 3に示すように,山留め壁とブラケットが接合するO
点を回転中心とした転倒の検討を行う。通常の山留めに
おける,支保工が1段の場合の転倒の検討方法4)に準じ
適用による効果
新工法適用による主な効果は以下の通りである。
(1)狭隘な背面敷地での地盤アンカーの実現
地盤
アンカーを水平に対し75度~90度程度の傾角で設置する
ため,比較的短い水平距離でアンカー定着地盤に到達す
る。そのため,従来は施工が不可能であった敷地条件で
の地盤アンカー採用が可能となる。
(2)地下工事の作業性と安全性の向上
従来,掘削場
内に設置していた仮設の腹起し材などを山留め壁の背面
側にまとめて配置することで,地下外周の本設躯体との
干渉を回避でき,場内地下工事の作業性が大幅に向上す
る。また,支保工撤去時の作業地盤が原則として背面地
盤の地表面レベルとなることで高所作業が回避され,安
全性が向上する。
(3)工期短縮
地盤アンカーや山留め壁との接合部
材の設置作業を,山留め壁建込や本設杭工事などの場内
ているが,新工法においては,アンカー緊張力によるモ
ーメント荷重Mtが転倒モーメントに付加される。掘削側
側圧による抵抗モーメントMp と背面側側圧による転倒
モーメントMaの関係が,(1)式を満足するように山留
め壁の根入れ長さを定める。
Fs 
Mp
Ma
記号
作業と並行可能である。また,地下1階立上がり躯体工事
を1段アンカーの撤去を待たずに進められるため,工程の
短縮および労務の平滑化につながる。
2.3
適用条件

Pp l p
Pa l a  M t
 1 .2
(1)
Fs :安全率,Mp:抵抗モーメント(kN・m)
Ma:転倒モーメント(kN・m)
Pp :山留め壁掘削側受働側圧の合力(kN)
Pa :山留め壁背面側主働側圧の合力(kN)
lp :転倒の回転中心から受働側圧の合力Ppま
での距離(m)
la :転倒の回転中心から主働側圧の合力Paま
での距離(m)
Mt :アンカー緊張力により山留め壁頭部に作
用するモーメント(kN・m)
山留め壁の転倒に対する検討用側圧としては,側圧の
下限および上限値である主働および受働側圧をランキ
ン・レザール式により仮定する。親杭横矢板壁の場合の
根切り底面以深の側圧は,算定した側圧の値にB/a(B:
親杭の負担幅,a:親杭間隔)を乗じて,山留め壁単位幅
あたりに有効に作用する側圧に換算する。その際,主働
側圧となる山留め壁背面側ではB=D(D:親杭の見付け
(1) 山留め壁の種類
本工法は,親杭横矢板壁また
はソイルセメント柱列壁などの,芯材にH形鋼を用いた
山留め壁に適用可能である。
(2) 設置作業スペース
掘削工事前に,山留め壁の
背面側に1m程度のブラケットを接合する作業スペース
が必要である。山留め壁頭部のレベルを,通常の山留め
と同様に施工地盤レベルとする場合は,Fig.2(a)図のよう
に背面地盤を幅2m程度,深さ1m程度ですき取ることが
可能であることが適用の条件となる。Fig.2(b)図のように
山留め壁頭部を地表面から1m程度突出させておくこと
が可能であれば,背面地盤のすき取りの必要がなくなる
ので,ブラケットの接合作業スペースを確保できれば適
用可能である。
1m程度
2m程度
1m程度
すき取り
1m程度
1m程度
背面側
掘削側
背面側
掘削側
(a)壁頭部の突出なし
(b)壁頭部の突出あり
Fig. 2 新工法の設置に必要な作業スペース
Work Space Required for Installation of New Methods
3. 設計上の留意点
新工法を用いた山留めの設計方法は,基本的には通常
の山留めと同様であり,日本建築学会「山留め設計施工
指針」1),同会「建築地盤アンカー設計施工指針・同解
説」2),地盤工学会基準「グラウンドアンカー設計・施工
基準,同解説」3) などに準拠する。ただし従来の地盤ア
ンカー工法と異なる機構で山留め壁頭部に大きなモーメ
ント荷重と鉛直荷重が作用するため,設計においては,
①山留め壁頭部へのモーメント荷重を考慮した転倒の検
討,②アンカー鉛直分力を考慮した山留め壁の鉛直支持
力の検討および③支保工の機構を山留め計算に反映させ
ることが必要となる。
Mt
O
連続壁の場合
の側圧
親杭の幅を考
慮した側圧
la
lp
Pa
Pp
Fig. 3 転倒の検討
Examination of Overturning
2
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幅)とするが,受働側圧となる掘削側地盤は地盤条件に
応じてB=(1~3) Dの範囲(ただし,B/a≦1)で設定する。
3.2
を使用している。床付け深さはGL-6.7mであるが,山留
め壁の背面地盤をGL-1.8mまで法切りしているため,実
質的な掘削深さは4.9mである。支保工として,一般部は
従来の地盤アンカー工法(水平からの傾角30度,間隔
4.2m,自由長4.5m,定着長5.0m)を採用し,親杭5本に
対して,新工法(水平からの傾角80度,間隔4.2m,自由
長7.5m,定着長5.0m)を適用した。アンカー軸方向の導
入緊張力は,一般部では200kN/本,新工法適用区間では
300kN/本とした。なお,新工法のアンカー定着地盤は,
根切り底以浅とすると山留め壁との水平距離が近く,ア
ンカー反力による山留め壁への土圧増加の可能性がある
と考え,山留め壁下端より深い砂礫層とした。
山留め壁の支持力に対する検討
鉛直荷重に対する山留め壁の支持力の検討は,日本建
築学会「山留め設計施工指針」4)に準じて行い,極限支
持力の1/2を山留め壁の許容支持力(Ra)とする。山留め
壁に作用する鉛直荷重(V)の算定に際して,掘削過程
でのアンカー最大軸力の鉛直方向の分力(Vt)を考慮し,
Raが想定される荷重Vを上回るよう,山留め壁の根入れ
長さを設定する。検討方法としては従来のアンカー工法
の場合と同様であるが,アンカー傾角が大きいため鉛直
荷重が従来の2倍近くになることもあるので注意する。ま
た,山留め壁の摩擦抵抗力を考慮できる範囲は,原則と
して根切り底面以深に限定し,地震時に液状化が予想さ
れる地盤では,その範囲の地盤の抵抗力を無視した支持
力の検討を行う。
3.3
Hto=To・cosα L
Kh=KA・cos2α
Mto=Vto・L
Km=KA・L2・sin2α
記号 To :アンカー導入緊張力
Hto :Toの水平方向分力
Vto :Toの鉛直方向分力
L :山留め壁の芯材中心とアンカー頭部
との水平距離
Mto :Toによるモーメント荷重
KA :アンカー軸方向ばね定数
Kh :山留め計算における水平方向ばね定数
Km :山留め計算における回転ばね定数
傾角α
山留め計算におけるプレロードと支保工の評価
To
山留め計算は,従来工法と同様に,梁・ばねモデルに
よることを基本とする。山留め計算におけるプレロード
および支保工の評価を以下のように行う。
(1)アンカー導入緊張力によるプレロード
Fig. 4に,
アンカー導入緊張力による山留め壁へのプレロード荷重
の与え方を示す。アンカー軸方向の導入緊張力をToとす
Vto=To・sinα
Fig. 4 アンカー緊張力の山留め計算上の評価
Evaluation of Tension of Anchorages
in Earth Retaining Calculation
1.8m
1
2
4.9m
30°
6.7m
4.9m
5
6
7
3.1m
3.1m
8
ローム
粘土
砂礫
礫混り細砂
礫混り細砂
細砂
9
約8.2m
10
砂礫
11
砂礫
粘土質
細砂
12
13
約3.8m
従来工法
14
砂礫
15
新工法
Fig. 5 地盤概要および山留め断面
Ground Outline and Earth Retaining Section
約8.2m
試験施工の目的
ブラケット
No.5
No.4
No.3
地盤および山留めの概要
Fig. 5に,地盤概要および山留めの断面を示す。地盤は
GL-4.0m付近までがN値3の関東ローム,その下に砂礫,
砂層が続き,山留めの先端の支持層はN値40程度の砂礫
層である。地下水位は,床付け深さより約1m深く,山留
め壁に水圧が作用しない条件である。山留め壁は,親杭
横矢板壁(親杭H-300×300×10×15,長さL=8.0m,間隔1.4m)
背面側
2.8m
No.10
一般部
比較計測区間 No.9
No.8
新工法適用による山留め変位挙動の確認および従来の
地盤アンカー工法との比較を目的として,関東ローム地
盤での実工事において試験施工を実施した。
4.2m
アンカー頭部
腹起し
4.2m
新工法
適用区間
1.4m
約3.8m
Fig. 6 計測区間の山留め平面
Earth Retaining Plan of Measurement Area
3
N値
10 30 50
埋土
3
4
80°
掘削側
4.2
0
1.8m
4. 試験施工
4.1
土質柱状図
1.0m
ると,水平方向分力Hto=To・cosα,鉛直方向分力Vto=To ・
sinαとなり,Vto による山留め壁頭部へのモーメントは
Mto=Vto・L=To・sinα・Lとなる。山留め計算においては,Hto
を水平方向のプレロード荷重,Mtoを回転方向のプレロー
ド荷重として評価する。
(2)支保工ばね定数
アンカーの軸方向のばね定数
をKAとすると,山留めの水平変位に対しての水平方向ば
ね定数Khは,Kh=KA・cos2α 5)となる。同様に,山留め頭
部(ブラケット接合部)の回転角に対しての回転ばね定
数Kmは,山留め芯材中央からアンカーまでの距離をLと
すると,Km=KA・L2・sin2αとなる(Fig. 4)。
水位
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Fig. 7 山留め壁変位実測値(一般部・従来アンカー工法)
Measured Displacement of Earth Retaining (Conventional Ground Anchorages Area)
Fig. 8 山留め壁変位実測値(新工法適用区間)
Measured Displacement of Earth Retaining (New Method Area)
4.3
山留め計測概要
点)を示す。頭部にアンカー緊張力を導入した際に,山
留め壁頭部が10~19mm程度,すき取り天端深さでは6~
10mm程度背面側に変位した。掘削の進行とともに,山
留め壁変位は掘削側に徐々に進行するが最大約5mmに
とどまり,アンカー撤去直前まで山留め壁頭部が背面側
に戻っている形状を保持した。
新工法を適用し,掘削前に山留め壁頭部にモーメント
と水平力を作用させることで,山留め壁変位を抑制でき
ることを試験施工により確認することができた。
Fig. 6に,計測を実施した区間の山留め平面を示す。図
中,No.を表記した親杭の変位を挿入式傾斜計により計測
した。新工法適用区間の親杭5本に対し地盤アンカー2本
を配置し,アンカー頭部軸力を,ロードセルを用いて計
測した。新工法適用区間の5本の親杭は腹起し材(2-H250
×250×9×14)により連結させた。
4.4
山留め実測結果
Fig. 7に,一般部(従来アンカー工法)の山留め壁変位
実測値(3測点)を示す。なお,図中のGL表記の深さは
親杭天端(設計GL-1.8m)を0とした値で表記している(以
降に示すFig. 8についても同様)。当初設計においては,
硬質な関東ローム地盤であるものの,大型重機の寄り付
きを配慮して側圧係数0.3として山留め計算を行い,2次
根切り時の最大変位は約10mmの計算結果であった。実
施工においては山留め壁の背面側に当初想定していた大
きな上載荷重は作用せず,2次根切り~1段アンカー撤去
直前において最大変位約5mmと,設計計算値の約50%程
度であった。従って,側圧係数も0.15程度であったと推
定される。
Fig. 8に,新工法適用区間の山留め壁変位実測値(3測
5. 適用事例
5.1
事例の概要
平面規模72m×57m,掘削深さ12.5mの山留め工事に新
工法を適用し,山留め壁変位抑制効果および地下工事の
作業性の向上を実証した。支保工として,1段目に新工法,
2段目は従来の地盤アンカー工法を適用した。
5.2
地盤および山留めの概要
Fig. 9に,地盤概要および山留めの断面を示す。地盤は
地表から2m程度までの埋土および軟弱シルト層の下にN
値が3程度の非常に緩い砂がGL-4.5m付近まで堆積して
4
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カー解体を検討することが可能である。
いる。GL-4.5m~-12m付近はN値35~60以上の硬質な砂
礫地盤がレンズ状のシルト質粘土を挟んで堆積し,その
下部はN値60以上の固結したシルト質細砂と土丹の互層
が続く。現場透水試験により確認された地下水位は,
GL-6.5m付近であった。
山留め壁は,地下水位が高いため,遮水性を有するソ
イルセメント柱列壁(芯材:H-588×300×12×10,長さ15.5m,
間隔1.2m,ソイル:改良径850mm,長さ18.5m,間隔0.6m)
を採用している。掘削平面は,Fig. 10に示すように
72m×57mの長方形平面で,掘削深さはGL-12.5mである。
支保工は地盤アンカーを用い,1段目をすべて新工法
(水平からの傾角75度,間隔2.4m,自由長9.0m,定着長
7.0m),2段目を従来工法(傾角30度,間隔3.6m,自由
長4.5m,定着長7.0m)とした。アンカー軸方向の導入緊
張力は,1段目は430kN/本,2段目は520kN/本とした。
Fig. 10中のA~D測点において,固定式傾斜計による山
留め変位測定とロードセルによるアンカー頭部軸力測定
を実施した。
なお,ブラケットと山留め壁芯材は,溶接とした。本
事例では,接合部の設計荷重が比較的大きかったため,
引張り荷重が作用するブラケットの上面フランジは開先
を切り,山留め壁芯材と突合せ溶接とした。また,同溶
接部における山留め壁芯材の局部座屈を防止するため,
スチフナを設けた。Photo 1は,ブラケットおよび腹起し
を山留め壁頭部に設置した状況である。
5.4
山留め実測結果
Fig. 13に,山留め壁変位の実測値を示す。測点ごとの
ばらつきは小さく,A~D測点ともに同様の挙動を示した。
土質柱状図
0
1
2
3
4
7
9
10
⑥
②
⑰
すき取り
▼GL-2.0m
鋤取レベル
▼ GL-2 000
1次掘削
傾角75°
1次掘削レベル
④
▼ GL-4 000
▼GL-4.0m
⑤
▼B1FL
▼ B1FL
水位
⑯
砂礫
⑭
⑧⑨⑩⑪
⑦
傾角30°
12
13
2次掘削
▼GL-8.0m
▼GL-8.75m
2次掘削レベル
▼ GL-8 000
山留解析用レベル
▼ GL-8 750
シルト質粘土
▼B2FL
▼ B2FL
砂礫
⑬
11
砂礫
床付け
⑫
▼GL-12.5m
床付レベル
▼ GL-1 2494
土丹
14
15
カーを設置することが可能である。
5)
▼ 1FL
8
は比較のため,従来のアンカー工法を用いた場合の施工
ステップを示したものである。従来工法との主な相違点
を以下に示す。
1) 山留め壁施工後,1次掘削を待たずに1段目のアン
4)
1.0m ▼1FL
5
5.3
施工手順
Fig. 11に,新工法適用時の施工ステップを示す。Fig. 12
土丹
①
16
17 シルト質細砂
土丹
18
1段目アンカー緊張の時期は,アンカー設置直後に
限らず,1次掘削が進行した後でも可能である。た
だしこの場合,山留め壁背面側に,緊張力導入の
ための小型揚重機の設置スペースが必要となる。
本事例では,山留め壁施工地盤面(GL-2.0m)に
てアンカー(水平からの傾角75度)を設置し,
GL-4.0m掘削後に緊張力を導入した。
2段アンカーを解体後,「B2F立上り・B1F床躯体
Fig. 9 地盤概要および山留め断面
Ground Outline and Earth Retaining Section
A測点
57.0m
3)
⑮
⑱
③
6
2)
N値
10 30 50
埋土
埋土・
瓦礫
粘土質シルト
細砂
礫混り
細砂
工事」に引き続き「B1F立上り・1F床躯体工事」
まで連続して躯体工事の施工が可能である。従来
工法の場合,両者の間に1段アンカー解体工程が入
る。このアンカー解体の条件として,B1F床がア
ンカーに代わり反力を負担できるように,対面す
る山留め壁の間の床が施工完了している必要があ
るため,待ちの工程が生じていたが,新工法では
これを短縮することができる。
地下外周鉄骨と腹起しの干渉が全く無くなるので,
特殊形状の腹起し設置や,外壁コンクリートの打
継と腹起しとのレベル調整が不要になり,作業性
が向上する。
場内の躯体と干渉しないため,1段目アンカー解体
D測点
床付けレベル
GL-12.5m
B測点
C測点
72.0m
Fig. 10 山留め平面および計測位置
Earth Retaining Plan and Measurement position
時期の自由度が高く,地上躯体の施工が進んだ後
にアンカー解体工程を組むことが可能である。反
対に,1F床施工前であっても観測施工・次段階予
測計算により安全性を確認できれば,早期にアン
Photo 1 プランケットおよび腹起し配置状況
Brackets and Wales
5
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新工法
施工ステップ
概要図
1) 山留め壁施工
⑲ ⑱ 1.0m
⑥
⑥
④
③
②
②
⑱
⑮
⑮
▼1FL
▼ 1FL
すき取り
概略工程
1)
2) ブラケット取付け
1目盛り=4日程度
2)
3) 1段鋭角アンカー打設・定着
3)
▼GL-2.0m 4) 1段腹起し設置
⑰
⑰
4)
鋤取レベル
▼ GL-2000
⑤ 1次根切り
5) 1次根切り
5)
1次根切り
1次掘削レベル
④
▼ GL-4000
▼GL-4.0m
⑤
▼B1FL
6) 1段鋭角アンカー緊張
▼ B1FL
③
⑯
⑯
⑭
⑭
⑦ 2次根切り
⑧⑨⑩⑪
⑧⑨⑩⑪
6)
7) 2次根切り
7)
8) 2段ブラケット取付け
2次根切り
8)
▼GL-8.0m
▼GL-8.75m 9) 2段アンカー打設・定着
⑦
2次掘削レベル
▼ GL-8000
▼B2FL
10) 2段腹起し設置
▼ B2FL
⑬⑬
⑫ 床付け
工期短縮効果
30~40日程度
9)
山留解析用レベル
▼ GL-8750
10)
11) 2段アンカー緊張
11)
⑫
▼GL-12.5m 12) 3次根切り(床付け)
12)
床付レベル
▼ GL-12494
13) 基礎梁・B2F床躯体工事
14) 2段アンカー・腹起し解体
①
①
9.4m
床付け
13)
14)
15) 鉄骨工事
15)
16) B2F立上り・B1F床躯体工事
4.8m
16)
17) B1F立上り・1F床躯体工事
17)
1F床
18) 建屋内:地上床CON/
18)
19) 1段アンカー・腹起解体・埋戻
19)
Fig. 11 新工法適用時の施工ステップ
Construction Step of Excavation Using New Methods
従来工法
施工ステップ
概要図
⑲
⑮
⑮
1.0m ▼1FL
⑱ すき取り
⑱
概略工程
1)
2) 1次根切り
▼ 1FL
⑲
1) 山留め壁施工
1目盛り=4日程度
2)
3) 1段ブラケット取付け
1次根切り
3)
▼GL-2.0m
鋤取レベル
▼ GL-2000
⑰
⑰ ②1次根切り
③ ④⑤ ⑥
③④⑤⑥
1次掘削レベル
②▼GL-4.0m
▼ GL-4000
▼B1FL
4) 1段アンカー打設・定着
5) 1段腹起し設置
4)
5)
▼ B1FL
6) 1段アンカー緊張
⑯
⑯
⑭
⑭
⑦2次根切り
⑧⑨⑩⑪
⑧ ⑨⑩
⑪
⑦ 2次掘削レベル
▼ GL-8000
▼GL-8.0m
7) 2次根切り
6)
7)
8) 2段ブラケット取付け
▼GL-8.75m 9) 2段アンカー打設・定着
山留解析用レベル
▼ GL-8750
▼B2FL
2次根切り
8)
9)
▼ B2FL
10) 2段腹起し設置
⑬
⑬
⑫ 床付け
⑫
▼GL-12.5m
床付レベル
▼ GL-12494
10)
11) 2段アンカー緊張
12) 3次根切り(床付け)
13) 基礎梁・B2F床躯体工事
①
①
9.4m
14.0m
14) 2段アンカー・腹起し解体
15) 鉄骨工事
11)
12)
床付け
13)
14)
15)
16) B2F立上り・B1F床躯体工事
17) 1段アンカー・腹起し解体
18) B1F立上り・1F床躯体工事
19) 地上床CON工事/外周:埋戻
Fig. 12 従来工法適用時の施工ステップ
Construction Step of Excavation Using Conventional Method
6
16)
17)
18)
1F床
19)
大林組技術研究所報
6
8
実測変位mm
-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4
0
10
A測点
1次根切り
4
2段アンカー
2段アンカー
12
1段アンカー緊張後
床付け
12
14
2段アンカー
12
1段アンカー緊張後
床付け
12
2段アンカー緊張後
14
14
床付けGL-12.5m
床付けGL-12.5m
床付けGL-12.5m
2段アンカー解体直前
2段アンカー解体直前
2段アンカー解体直前
2段アンカー解体直前
16
2段アンカー解体後
-60
側圧kN/m
-40
-20
0
-20
0
変位mm
20
40
60
-80
-60
側圧kN/m
-40
(d)D測点
-20
0
0
0
0
2
2
2
1段アンカー
6
1次根切り
4
-20
変位mm
0
0
-10
2次根切り
8
10
2段アンカー
10
基礎天端
12
12
床付け
解析GL-4.0m
解析1段アンカー緊張後
解析GL-8.0m
解析GL-12.5m
解析2段アンカー解体後
A測点実測2段アンカー解体後
8
20
1次根切り
4
1段アンカー
6
2次根切り
8
2段アンカー
10
10
2
6
6
GL-m
8
4
16
2段アンカー解体後
(b)B測点
(c)C測点
Fig. 13 山留め壁変位実測値
Measured Displacement of Earth Retaining
4
GL-m
16
GL-m
-80
2段アンカー解体後
GL-m
(a)A測点
16
床付け
2次根切りGL-7.5m
床付けGL-12.5m
2段アンカー解体後
基礎天端
10
1次根切りGL-4.0m
2次根切りGL-7.5m
14
2次根切り
8
基礎天端
10
2段アンカー緊張後
10
6
8
1段アンカー緊張後
8
1次根切り
4
1段アンカー
2段アンカー
床付け
6
2
1次根切り
1次根切りGL-4.0m
2次根切りGL-7.5m
2段アンカー緊張後
実測変位mm
-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4
0
D測点
2次根切り
基礎天端
10
1次根切りGL-4.0m
2次根切りGL-7.5m
10
6
8
基礎天端
10
1次根切りGL-4.0m
8
C測点
4
1段アンカー
GL-m
8
6
2
2次根切り
GL-m
GL-m
B測点
6
2次根切り
2段アンカー緊張後
実測変位mm
-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4
0
10
1次根切り
4
1段アンカー
6
1段アンカー緊張後
8
2
2
1段アンカー
6
GL-m
実測変位mm
-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4
0
No.78 省スペース型地盤アンカー山留め支保工の開発
解析GL-4.0m
基礎天端
10
解析1段アンカー緊張後
側圧
(a)設計側圧
14
14
16
16
12
14
側圧
16
(b)設計側圧による変位
(c)側圧≒静水圧
Fig. 14 山留め壁変位計算値
Calculated Displacement of Earth Retaining
施工段階ごとの変位量をみると,山留め壁頭部への1段ア
ンカー緊張力導入時に壁頭部が4~8mm程度背面側に変
位した。掘削の進行とともに,山留め壁変位は掘削側に
徐々に進行したが,1段アンカー設置期間中を通じて頭部
が背面側(図中,マイナス側)に戻される形状を保持し
た。2次掘削時(GL-7.5m)の最大変位量は2~4mm程度
支保工盛替
が必要
であった。床付け直後(GL-12.5m)の最大変位量は4mm
程度であったが,基礎躯体施工中に経時的に変化し,5
~6mm程度まで増加した。2段アンカー解体により,各
測点ともに2mm程度変位が増加し最大7~8mmとなった。
従来工法
従来工法新工法
また2段アンカー解体後の山留め壁頭部は背面側に3~
6mm程度戻った状態を維持していた。
Fig. 14に,梁・ばねモデルによる山留め壁変位の計算
12
解析GL-8.0m
解析GL-12.5m
床付け
14
解析2段アンカー解体後
A測点実測2段アンカー
16
解体後
(d)側圧≒静水圧の場合の変位
⑮
▼ 1FL
⑱
⑥
③
②
④
⑤
地下鉄骨建方
鋤取レベル
▼ GL-2000
⑰
1段アンカーが干渉
1次掘削レベル
▼ GL-4000
地下鉄骨建方
▼ B1FL
⑯
支保工盛替
2段アンカー解体
が必要
⑭
⑧⑨⑩⑪
2段アンカー解体
⑦
2次掘削レベル
▼ GL-8000
山留解析用レベル
▼ GL-8750
基礎躯体施工
基礎躯体施工
▼ B2FL
⑬
新工法
従来工法
⑫
床付レベル
▼ GL-12494
①
新工法
Fig. 15 地下工事の作業性向上
Efficiency of Underground Construction Work
値を側圧の設定値とともに示す。設計時においては,Fig.
14(a)図に示す側圧係数0.3~0.4程度の側圧を想定し,床
付け時における変位量の計算値はFig. 14(b)図に示すよう
た。Fig. 14(c),Fig. 14(d)図は,仮に側圧を静水圧とほぼ
同等と仮定した場合の側圧分布および変位の計算値を示
したものであるが,実測値とほぼ同等の最大変位を示し
に最大約30mm,2段アンカー解体後は最大変位約43mm
であり,実測の最大変位は計算値の約20%程度に収まっ
7
大林組技術研究所報
No.78 省スペース型地盤アンカー山留め支保工の開発
ている。このことから,本事例においては,静水圧と同
等程度の側圧が作用していたと推察できる。ただし,今
回は安全側の結果となったが,既往の実績6)を考慮する
と,本事例のような水位の高い密実な砂質地盤では,側
圧係数0.3~0.4として山留めを設計することは妥当と考
えられる。山留めの挙動にはばらつきが生じやすいため,
設計時において全く余裕のない外力設定を行うと,危険
側に振れる場合もあるため注意が必要である。
なお,アンカー軸力の測定値は,測点ごとに若干ばら
つきは認められるものの,定着直後に400~450kN/本の範
囲にあり,その後の設置期間中において,温度応力によ
る変動を除きほとんど変化が認められなかった。
5.5
1)
2)
ペースが幅2m~5m程度に納まるため,従来は施
工が不可能であった敷地条件での地盤アンカー採
用の可能性が高まる。
2) 従来,掘削場内に設置していた仮設の腹起し材な
どを山留め壁の背面側にまとめて配置することで,
地下外周の本設躯体との干渉を回避でき,場内地
下工事の作業性が大幅に向上する。また,支保工
撤去時の作業地盤が原則として背面地盤の地表面
レベルとなることで高所作業が回避され,安全性
が向上する。
3) 地盤アンカーやブラケット・腹起しなどの接合部
材の設置作業を,山留め壁建込や本設杭工事など
の場内作業と並行可能である。また,アンカー撤
去時期の自由度が高く地下工事のクリティカルと
ならないため,工程短縮および労務の平滑化につ
ながる。
本工法を関東ローム地盤の実工事における試験施工
および水位の高い砂礫地盤における平面総延長約258m
の山留め工事に適用し,山留め壁変位の抑制効果を確認
した。特に後者の事例では,支保工を山留め壁の背面側
に配置することにより場内地下工事の作業性が大きく向
上し,上記1)~3)の効果を実証することができた。
施工上の効果
アンカー設置に必要とした山留め壁背面側の敷地
の幅は,2段アンカーで決定される9.4mに収まっ
た。新工法適用により,1段アンカーに必要な幅が
従来工法の14.0mに対し4.8mと2段アンカーより
も狭い幅に収まったためである(Fig. 11,Fig. 12)。
本事例は,Fig. 15に示すように基礎躯体施工・2段
アンカー解体後に地下鉄骨の建方工事が続く工程
であった。新工法では従来工法のような仮設の支
保工部材と本設躯体との干渉がなくなり,後工程
である地下外周鉄骨建方をすみやかに実施でき,1
参考文献
ヶ月強の工程短縮に貢献した。
3)
新工法適用により鉄骨建方の平面工区割の細分化
が可能となり,建方終了部分から随時B2F立上り
躯体の施工に着手できたため,労務の平滑化につ
ながった。
1)
日本建築学会:山留め設計施工指針,pp.190-196,
2002.2
2)
日本建築学会:建築地盤アンカー設計施工指針・同
解説,pp.99-131,2001.1
地盤工学会:グラウンドアンカー設計・施工基準,
同解説,pp.95-128,2000.3
日本建築学会:山留め設計施工指針,pp.174-178,
2002.2
3)
6. まとめ
4)
敷地外周が狭隘な条件下にも適用可能な省スペース
型の地盤アンカー山留め支保工を開発し,実工事に適用
した。本工法による主な効果は以下の通りである。
1) 地盤アンカーを水平に対し75度~90度程度の傾角
で設置することで,山留め壁の背面側に必要なス
5)
6)
8
日本建築学会:山留め設計施工指針,p.138,2002.2
宮崎祐助:実測に基づく山留め設計用外力に関する
研究,日本建築学会構造系論文集,第458号,pp.59-68,
1994.4