Title 債権に基く妨害排除についての考察 Author(s) 好美 - HERMES-IR

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債権に基く妨害排除についての考察
好美, 清光
一橋大學研究年報. 法學研究, 2: 165-310
1959-03-31
Departmental Bulletin Paper
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http://hdl.handle.net/10086/10120
Right
Hitotsubashi University Repository
概亭、
第一章
諸外国における処理の仕方
序 論
債権に基く妨害排除についての考察
第二章
第一節ドイツ法第二節フランス法第三節
わが法の欠陥と諸説
第一節わが法の欠陥ー債柚の性質と関聯して1
第四章
雇傭契約上の使用者の債権
利用権的債権−不動産賃借権を中心として1
第三章
第二節し不可侵性理論等
第五章
総 括
第三節 債権者代位権の利用
第六章
第一章序
債権に基く妨害排除についての考察
論
英米法
ハ◆
好美清光
一六五
一橋大学研究年報 法学研究2 一六六
脚 物権と債権の絶対権・相対権への分類は、単にドイツの古典的理論であったのみならず、現在においてもドイ
ツの通説・判例を支配し、その論理の必然として債権の第三者による侵害可能性は一般に否定されている。わが不可
侵性理論の権利の不可侵性・排他性への分類は、これに挑戦しその後の学説の修正を受けつつも、第三者による債権
侵害の不法行為責任を肯定する現在の圧倒的通説を形成することにより、ドイツの古典的理論を克服したかにみえた。
しかるに大審院判例が、不可侵性理論の勝利の余勢を駆り、従来の確立された伝統的理論を破って不可侵性を理由
にここで問題の債権に基く妨害排除請求権を肯定して、この問題を提起するや、当時の不可侵性理論を強調するもの
がいちはやくこれに賛意を表明したことは当然ともいえるが、その後の学説・判例は必ずしもヒれに従わず、現在、
し レかイ
し し
わが民法の解釈論上稀にみる諸説の紛糾を惹起している。すなわち、権利の不可侵性に基き一般的に肯定︵款彊骸f×困ー
可侵性理論に拠りながら加害者の故意・週爽等を要件として肯定︵評塀顧堀㈱鉢博士、︶、特に賃借権等の利用権的債権悶占有
ササ コリヨしし チ しド ヨ ししし
を取得すれば物権化するとして肯定︵餓腰轍蝦即︶、貯有と結合した賃借権は物権となるとして肯定︵融艸︶、対抗力ある賃借
イ ウ ド セコレ トリヒ
権に出剰殿縞蔽蔽棲教授、習借権と雇傭契約上の使吊者,の債権にめみ加害者の故意乃至害意を要件として肯定︵糖腰︶、特
に諸丸み物権的諸矧ガ圏附与ぎ糾た債権を除き利用の側面を占有訴権で侮護すべしとして一般的に否定︵馴鵤観搬栖.︶、
債権の上への所有権を認めこの所有権に基き肯定︵購躰柵戦︶、不法行為に基く損害賠償として原状回復を認めその一環
として処理︵灘跡藷教授、︶等ル。また、判例・多数説による債権者代位権の特定物債権保全のための利用もこれらの機能
の一翼を担い、これを肯定するか否かの問題と債権に基く妨害排除請求権をどの程度に肯定するかということとは不
◆
可分の相互関聯をもち︵棚撫駅蛾磯鰍厳と︶、更には、占有訴権の・ーマ法的仮の保護的機能から現代における相対権とされ
,
いや
償権に基く妨害排除についての考察 一六七
体につき﹁﹃理の当然なり﹄などというような大上段の修飾を施し、⋮⋮いかにも客観的根拠があるかのようにょそお
いて、私がここで、或は単に抽象的論理的方法でわが諸説の何れかを支持し、或は孤立的に直ちに債権の概念それ自
だとすると、本問題に関して一応考えられうるあらゆる結論の出つくしているかにみえるわが国における現状にお
なっていないかにみえるのが印象的である。
ち侵害可能性についてはざイソにお﹁いで盛テ説の対立があるが、こと妨害排除請求権についてはさほど議論の対象には
ところで、分類をするのにすらも困難を感ずる程のわが諸説の紛糾から諸外国に眼を転ずると、陵権腸第三者にぽ
糾せる諸説の単なる古典的概念論理的批判のみでは問題の解決とはならないという考察の在り方の困難さを倍加する。
学説にも亦近代企業における労働力の組織づけの権能という類似の考慮が働いているというまぎれもない事実が、紛
際的特殊性に起因するいわゆる物権化の一環としての配慮があり、雇傭契約上の使用者の債権につき肯定せんとする
権等にのみ肯定せんとする学説にも近代法上債権の範疇に組み入れられているとはいえその債権としての沿革的・実
に、伝統的理論を打破せんとする積極説には現代取引社会における債権保護の重要性に対する考慮が働き、特に賃借
パンデクテン体系をとる民法の二大根幹たる物権・債権の分類を始め主要な諸制度にまたがっている。これに加える
対権たる債権の特別の対外的効力として把握されてきた債権者代位権、占有訴権、不法行為、賃借権、雇傭契約等々、
かくして本稿の問題は、わが国においては、物権と区別された債権の性質、物権の本質とされた物権的請求権、相
定するか否かの考慮に際し無視することはできない︵棚噛脚馴紬拠来︶。
た債権の本権保護訴権的機能への変遷を認めるか否かという問題も亦、占有を伴った債権に基く妨害排除請求権を肯
◆
︵1︶
一橋大学研究年報 法学研究2 一六八
って﹂新説を押し出すことは、いたずらに更に紛糾を増大させるだけで、本問題の今後の発展のためにいかほどの意
味を持ちうるかは疑問とならざるをえない。むしろ、同じく資本主義経済の社会構造をとる諸外国においても近代の
債権の重要性、従って法的保護の要請はわが国に劣らない筈であるのに、何が故にわが国においてのみかくも諸説の
紛糾を生ぜざるを得ないのか、果してわが諸学説は相対権概念をとるドイツを始めとする諸国に誇るべきわが法理論
の成果と評価しうるのか、或は反対に、本問題を契機に紛糾せざるをえなかった法律上乃至は事実上の特殊開日本的
事情・経緯があるのではないか、ということこそまず明かにされなければならないように思われる。
しかるに、かかる考慮でわが諸説をみると、その古くからの議論にも拘らず、多くは各々が自説をただ平面的に主
張しあっているのみで、特殊”日本的な経緯・問題の所在は明かにはされておらず、況んやその中におけるこれら諸
説の意味・相互関聯をさぐるということは全く放置されているようにみえる。ためにひいては、従来の諸学者がいか
なる理由でその多くは法律的構成の脆弱と思える諸説のうち一をとり他を排斥したのかという必然的な選択の理由.
基準すらも必ずしも明かではないように思われる。
二 今一度、・ーマ法的ドイツ法のドグマを打破したと誇ったわが不可侵性理論を始めとするこれらの諸説を掘り
起し、その紛糾せざるをえなかった特殊”日本的事情・経緯をさぐり、そのこととの関聯の中で諸説相互の絡み合い
と諸説の法律的構成を検討し、それらを整理することから始めなければ、我々の議論は無数の学説の渦中で空転し混
乱を増すだけで、わが国における本問題の解明は充分にはなされえないのではないかと思われる。そして本稿は、ま
さにそのような意図で出発する。始めからいわゆる﹁債権に基く妨害排除請求権﹂に関する私自身の結論と法律的構
ヤ ヤ ヤ バ
口▽
◆
/◆
え、純粋取引法上の債権とは異る特異な地位を債権法上占め夫ぐにつき別途の考慮を要する問題を包蔵し、これを債権一般の中へ埋
ヤ ヤ
響を与え、かつ債権一般につき妨害排除を肯定する特殊絆日本的理論の代表的なものであり、後の二者は、同じく債権であるとはい
借権︵朗︶.及ぴ雇傭契約上の使用者の債権︵醐Vを骨格としよう。前者は、本問題を最初に提起して古くからわが判例・学説に大きな影
ヤ ヤ
三 日本稿は、ドイツの古典的通説的相対権概念のドイツにおいてもつ意味とそれを克服したわが不可侵性理論等︵︸轟︶、更に賃
︵2︶
れうる手段・前提ともなるであろうと考えられるからである。
は外国の解釈論のわが解釈論への孤立的機械的導入、或は反対にその形式的批難、という不完全な結果を幾分でも免
その全体構造の中での位置づけを意識しうることにより、個別研究のややもすれば陥りがちな、或は単なる沿革乃至
前提ともなると思われること、更にひいては、本問題に関する個々の点について後日なされるぺき検討においても、
認識を有しているということが、それら個々の諸説のもつ意味を知り、従ってその批判・選択の手掛りを得る手段・
ヤ ヤ
的ではあるが、一応のものではあれ、特殊“日本的事情とその中における諸説の位置づけについての何らかの具体的
難さを熟知しながらあえてこのような企てをするのは、これを完全になすことは究極の目的であろうと同時に、逆説
構造の理解、が前提とされ必要となろうからである。もとより非力な私のよくなしうる業ではない。かかる諸種の困
広汎な知識、及び、いわゆる債権に基く妨害排除に関聯して諸制度の果している現実の機能の有機的相互関聯・全体
ヤ ヤ ヤ
き理解はもとより、諸外国において、先に挙げたわが国で問題となっている諸制度がいかに扱われているかの正確、’
しかし、実は右の本稿の目的自体難問であろう。これを充分になしうるためには、わが古くからの諸論稿の誤りな
ヤ ヤ ヤ
成を抽象的に展開することは直接の目的とはしない。
ヤ
債権に基く妨害排除についての考察 一六九
魎
一橋大学研究年報 法学研究2 一七〇
没して論ずることは問題の所在をすら見失わせる愕れがあるからである。勿論、これら以外の諸問題・諸説についても、先に述べた
本稿の目的に必要な限りで適宜本文乃至註において触れていかねぱならないことはいうまでもない。そして最後に、それらを総括
するこ と に す る ︵ 鰍 ︶ 。
ヤ ヤ
ヤ ヤ
ロ特に明言しない限り、妨害予防の問題は本稿では除外する。占有訴権並ぴに物権的請求権の承認される限りではその肯定され
ヤ ヤ
るべきは異論はないであろうし、加害者の主観的要件等を附加せんとする揚合にはドイツやフランスにおいては妨害排除とは異っ
ヤ ヤ
た特別の考慮が必要とされ、ここで包括的に論ずることは議論を混乱させる堰れがあるからである。なお、ここで妨害排除とは、一
応、いわゆる返還請求をも含めて用いる。
爾辮諺矯銭惣繍碍結離齢瓢誰縫騒魏舞擁鐵輝縫撤蘇騎噂
方いかんが諸説の対立惹起の原因の一つをなしていると思われる本問題に関する諸説の検討・整理に当っては、特に有効な手段と
なろう。
︵4︶ *
四と同時に、諸説の法律的構成の在り方をも検討しなければならない。いかなる意欲、いかなる法的保護の要請に導かれているに
ヤ ヤ
もせよ、立法論ならぬ現行法の解釈論として主張されている以上、﹁﹃法神的構成﹄を伴わざる限り無力であり﹂﹁決して法律として
実現せられるカを有するものではない﹂ことも一応承認せざるをえないから。
︵1︶ 尾高朝雄﹁法の解釈﹂法哲学会編・法の解釈所収九頁。なお来栖﹁法の解釈と法律家﹂私法一一号二〇頁以下参照。
︵2︶ その意味では、本稿は次の機会に別の角度からなされるであろう債権それ自体に焦点を絞った検討のための準備作業であ
るとも云える。
︵3︶ この立揚に対しては、法の社会化等を説くことはよいとして、そのことからひいてはこの前提そのものまで否定せんとす
ーサ
◆
’初
’◆
るかにみえる立揚からの反対が当然に予想されるが、市民法に関する限り﹁﹃法律の道徳化﹄は﹃裁判規範としての法律﹄の
﹃道徳化﹄乃至は﹃社会規範化﹄を意味するに過ぎ﹂ず︵末弘﹁民法講語上﹂八頁︶、このように、﹁民法典を明確に裁判規範
として把握することは、民法の規定を正しく理解しまた解釈するために必要である﹂︵川島﹁民法講義第一巻序説﹂一七頁︶と
考える。この基本的態度それ自体は、現在の民法学者に関する限り有力な諸学者により承認され実践されている立揚であり、
それを本問題へ私なりに実践するにすぎない本稿において、詳論の要はないであろう︵例えば、末弘﹁前掲書﹂二−二一頁、
末弘.戒能改訂﹁前響﹂二⊥七頁、金妻﹁私法の方法論に関する一藁﹂近代捲存る債権の優越的地位・学術馨・
四七七頁以亜、現在このことを強調されるのは川島教授である、同﹁前掲書﹂、﹁債権法総則講義﹂六一頁以下、六七頁以下、
﹁民法解釈学の諸問題﹂のはしがきを始め同書所収論文、﹁市民社会における法と倫理﹂法社会学における法の存在構造所収・
特に一五一ー五頁、なお同書所収論文二五〇頁以下、舟橋﹁民法総則﹂五頁、来栖﹁法の解釈における制定法の意義﹂法協七
三巻二号、特に一二−三頁︵なお同﹁末川先生還暦記念論文集・民事法の諸問題﹂及ぴ前記﹁私法一一号﹂所収論文︶、校正の
段階で出た磯村哲﹁債務と責任﹂︵民法演習皿所収︶特に五頁以下等。民訴学者がこの立揚をとるであろうことは民訴法の基本
構造から或は当然の成行ともいえるが、兼子﹁実体法と訴訟法﹂、特に四二−五九頁、更に三ヶ月﹁民事訴訟の機能的考察と現
象的考察﹂法協七五巻二号特に六頁。これらの諸論稿を参照されよ。︶。もとよりかく云うことが、決して、歴史的並ぴに法社
会学的研究を傷つけ乃至は軽視してよいということを意味するものではなく、またそれらの諸成果及ぴ社会的諸利益の考量を
︵4︶ 附点とも、我妻﹁前掲論文﹂五六〇頁。
解釈論の中へとり入れるのを拒否することを意味するものでもないことは、自明のことであって断るまでもない。
* なお、引用文﹁ ﹂中の︵ ︶は原文のまま・︹ ︺は私の註記・学説の紹介中﹁ ﹂のないものは私が適当に纏め
たもの。わが国の文献・判例の引用等は本文中に割註ですることもある、不統一を免れえないであろうが予め御了承を乞う。
債権に基く妨害排除についての考察 一七一
弓
一橋大学研究年報 法学研究2
第二章諸外国における処理の仕方
一七二
既にわが国でも屡々紹介乃至批判されている権利の概念自体の定義等については先に述ぺた本稿の目的にとって必要
な限りで後に振り返ることにして、妨害排除の取扱を具体的に考察することから始める。なお、債権︵一般︶に基く妨
害排除と債権侵害による不法行為の成立とが諸外国においては不可分の関係にあることと、ドイツの相対権概念及ぴわ
が不可侵性理論等のもつ意味の再検討の手掛りを得ることとのために、両者をあわせて検討する。賃借権等の特殊の債
権については後に改めて検討することとし、ここでは特に意識することはしない。
第一節 ドィッ法
︵1︶
一 立法過程
︵2︶
日 物権は物の上への直接の力であり、従って第三者のすべての侵害を排除する絶対的効力を有し、債権は債権者
と債務者との相対的な対人的法律関係であり、その効力︵≦一詩二眞︶は両当事者間を越えない、として物権と債権を
︵3︶ ︵4︶ 、、
峻別した法典起草者は、第一草案︵翻獅遡1︶七〇四条二項︵ザ銀甑祖鷹条︶み﹁他人の権利﹂︵鼠ωカ8耳①ぼ霧︾注Ro昌︶には
いわゆる絶対権のみが属するとレた。従って例えば、ローマ法においてすらもアクイーリァ法︵8該巳弗厨>ρロ⋮器︶
︵5︶ へ6︶
の原則により例外的に損害賠償を肯定されていた未分離果実の債権的収取権の侵害についても、同条の権利侵害とは
︵7︶ 、 、
︵8︶
◆,
看倣されない。第二委員会も同様である。そこでは第三者の債権侵害に対する債権者保護とも関聯してEI七〇四条
〆辱
沸4
債権に基く妨害排除についての考察 一七三
は公平︵国臣的犀①δにも合致しない、﹂としてア︸れを排斥しながらも、﹁一方、故意の揚合のためには七〇五条ヨ規知
彼の利益︵H算R8$︶を侵害するが彼の権利︵国o。耳︶をではない。提案された賠償義務は過失による殺害の揚合に
賠償すべきであるとの提案に対し、﹁原則︵勾Φαq。一︶にかかるもののために例外を設けるべき理由はない⋮⋮、これは
第二委員会も亦、例えば、定期金︵ヵΦ暮︶の支払を生存中なすべき義務者を殺害した者は受領権利者の蒙る損害を
渡を請求することができる、﹂とする。
︵13︶
露識潟鰍卜瞭駒さの原則により果実の収取を承認すべき義務者に、適宜、果実の侵害により取得した損害賠償請求権の譲
七〇四条一項ヨ銀甑紅癌条︺により﹂﹁独自の損害賠償請求権が与えられるであろう﹂し、しからずとしても、﹁二三八条
為となるときに﹂認められるとする。従って先に挙げた未分離果実の債権的収取権の侵害についても、﹁多くの揚合に
︵B﹄
ており、ただそれは七〇四条二項の権利侵害としてではなく、﹁彼の行為が他の根拠から債権への加害の故に違法の行
ヤ ヤ
︵例えば債権の目的物の破壊により︶、その他人に対して損害賠償の義務を負わされることがありうる﹂ことは肯定し
理由書は、﹁債権関係に基く権利の侵害も亦違法であ﹂り、﹁第三者も亦、彼が他人の債権に損害を加えるときには
のでないことは勿論、これに何らの保護をも与える必要はない、としたのではなかったことを看過してはならない。
国 しかしそれにも拘らず、第一草案の起草者も第二委員会も、第三者の債権侵害に対する債権者保護を無視した
ロロ
すぺき理由はないとして、拒否された。
して、或は直接の損害.間接の損害という区別に対する疑問、及び偶然の要素により加害者の賠償義務の範囲を伸縮
︵10︶
に代る種々の規定が提案されたが、それらは、或は損害の予見可能性という草案の制限をも除去しようとしていると
ハ ロ
◆
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淋対︺で充分である﹂、とし、更に、﹁第三者の債権侵害は、多分、財産︵く。円.一一8Φ.一、。。葺。犀︶の侵害として現れ、﹂その
タレ
﹁侵害を惹起する行為がこの財産の上への被害者の利益の保謹を目的とする法規に転触するときは、第一提案罫鰻訊麗
めレ
嚇対︺の規定に該当する、﹂とする。
ゆレ
N 国 これを要するに、法典起草者は、EI七〇四条二項︵罫鰻孤狸︶にいわゆる﹁権利﹂には絶対権のみが属するとして、
ドイッ普通法以来の絶対権・相対権の区別を不法行為法においても貫こうとした。しかしそれにも拘らず1否、そ
れなればこそー第三者の債権侵害に対し、或は保護法規違反の不法行為としてEI七〇四条一項︵罫紙訊に︶により、或
は良俗違反の不法行為としてEI七〇五条︵コ鵬知︶により、或はこれらの不法行為とならない揚合にもEI二三八条︵貯
一知︶の代償請求穫より、債権者の保護を図ることを考慮していた.否、むしろ、ドイッの民法草案の仕組みの下で
〆事
◆
︵ ここにいわゆる﹁絶対権には疑いもなく所有権と物の上へのその他の権利とが属する。﹂なお、その外に同条同項に明記さ
5︶
ヤ ヤ
れている生命・身体・健康・自由及ぴ名誉については、﹁これらの至重な財が権利と名づけられうるか否かはまさしく疑問と
︵ 草案の条文、第二委員会における諸提案条文等を訳記したところ意外に多くの紙面を要するので削除した。御諒承を願う。
4︶
︵ 3 ︶ プ。イセン法の因①〇一一けN霞留9Φの廃止を想え︵竃9ぞ9目ψNH目の﹂︶。
︵ ピo試くρ昌ψ押H昌の﹄,
2︶
︵ 馨
。 ①
昌
Φ
の ①
ω
①
g 3
ω
u
Φ 自︷ψN。
ぎ
鐘 α 弩 国 ξ 弩幽
蓉 韻 ① 注 g 自○
げ 巨 ・ ① ω 胤弩
垂 。 一 6 寄 喜・
1︶
㍗−公番一竃にム・致す垂−なる、−考えられていた.
一ま、EI七〇四条二項︵卿隅泓鴛墜︶の﹁権利﹂には債権を含まないと解して、前述の他の諸規定によって保護を図る
!、
吻
債権に基く妨害排除についての考察 一七五
第三者による債権侵害の問題は、現行法の下においては、不法行為法の原則的規定たる八二三条一項の﹁その他の
二 現行法下における学説・判例
︵15︶ b同08犀o=ρ悶ψ鴇N■ ︵16︶ 三章一節一、並ぴに同所註︵11︶参照。
︵14︶ 閲H。け。犀。=。︸目¢8ρなお法定扶養義務者等の殺害による揚合︵ド民八四四、八四五条︶は事情を異にする︵箒答︶。
より給付の目的物を奪われたことに対し損害賠償を取得し或は請求するときに殊に役立つ︵℃冨聾δ9︶。﹂︵一Hの■亀︶。
︵13︶ 竃o江く①・HH¢葦o。・なお、Eー二三八条につき理由書は云う、本条は﹁債務者が第三者の不法行為によってその第三者に
︵12︶ 冒O菖<ρ目ψ刈のN
︵10︶ 第五提案につきb88ざ一一ρ目の■象9 ︵11︶ 第六a、七提案につき、b88犀〇一一ρ堕鴇一.
駅ひ陸特に第一、第五、第六a、第七の諸提案。
︵9︶謹一・即・算・一一Φ量国。ヨ・昌の一。三体乙一Φ署舞①uΦの§吸α①。・国昌葺鼠呂。の窪韓ユ喜窪o①のΦ§。昌の■匿ψ
︵8︶ 冒o江くρ目ω。V斜N
かはここでは問わないことにする。
σ⇔Φ弓目Φ9$巴ω貰δ二p信耳①国き色§堕一〇8ψN9なお本文で﹁債権的﹂ということが現代法におけると正確に合致しうる
︵7︶冒。牙ρ口の・ミ射山β。げu①腕呂・塘αq−評呂匿①p目吻§≧β年○、ρ諄。げ9uδ︿Φ量N琶αQq①の雲量臼
ということが存するから﹂とする︵3藁︶。 ,
︵6︶ 冒o証くΦ︶目φ避qそれは﹁かかる権利の概念中に、すぺての第三者は之を尊重せねぱならず侵害することは許されない
おける権利侵害と看倣﹂した︵冒9オρH一の’認oo︶。
されるぺきであるが、それらも亦加害の狭い解釈によっては屡々欠けていた保護を必要とするから﹂﹁七〇四条二項の意味に
嶺
一橋大学研究年報 法学研究2 一七六
権利﹂︵oぼ釜♂一蒔窃因零騨︶侵害にこれが該当するか、という問題を中心として論じられる。草案と同趣旨の諸規
定をもつドイツ民法においては、通説・判例は先にみた法典起草者の見解を踏襲してこれを否定する。戦後の文献も
亦、この立揚に立つ者が圧倒的に多い。もとよりその外に、原則的には通説・判例の立揚に立ちながら一部につき肯
定する折衷説、及ぴ全面的に肯定する立揚︵硝碇織α呼︶もある。しかし、折衷説は少数とはいえ現在も残っているが、肯
︶ ︵1︶
定説は現在ではなくなったかにみえる。まさにわが国とは逆の現象を呈しているわけである。
一 通説・判例 通説・判例の八二三条一項の﹁権利﹂侵害該当性否定の根拠の主なものは、
t ヤ ヤ
︵イ︶第三者による債権侵害は、i前述の用益賃借人の果実収取権についての例外を除き 沿革的にローマ法以
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
︵2︶
来否定されてきている。
︵ロ︶指導的判例は、形式的根拠として、國O國の用語法は立法者が債権への適用可能性を意図したものであれば三
︵3︶
六五条、四一二条、四三七条におけるようにそれを明定した筈である、という。
、 、 、 、 、 ︵4︶ ︵5︶
︵ハ︶ここで重要な債権の概念構成とも関聯する理論的根拠としては、、多くは、或は二四一条を引合いに出すなどし
て、物権及びその他の絶対権はすぺての人に効力を生じ、従ってすぺての人はこれを尊重しなければならないが、債
権は契約の相手方たる債務者のみを拘束し、債務者に対してのみ義務を負わせ乃権利であり、従って第三者は、債務
者または債権者自身を或は債務の目的物を侵害することができ、それによりたとえ給付不能を惹起させるとしても、
︵6︶
これは債務の法帯︵国①9諾募&Y債務関係の無体の紐帯自体への侵害とはなりえない、という既にわが国でも周知
う
の相対権なる概念構成を理由とする。しかしこれに対しては、後述のように同じ通説の立揚に立つ者からも反対のあ
、鼻
◆
石・
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ることは注目すぺきである。
ヤ ヤ
︵二︶以上の沿革的・形式的及び理論的根拠と並んで、この立揚が強調し、かつ看過してはならないのは、その実際
的根拠及び体系の斉合性の間題である。その主なものを挙げる。
㈲第三者の債権の目的物であることを知っているだけで 否、過失によって知らなくても︵孤犯狂際︶1直ちに買
︵7︶
主がその第三者に対して責任を負うということになれば、起草者が意識的に廃止したプ・イセン州法の閑8騨N目
ω8冨が迂路を経て再び入り込むことになるー否,菊8窪国葭ω8ぽよりより大きな効力を認めることになる。
︵8︶ ︵9︶ 、、 ︵10︶
㈲債権者の利益は、八二三条一項︵腿歓で︶によらずとも、八二三条二項︵馳破で︶の保護法規違反の不法行為、乃至は八ニ
ヤ ヤ
六条︵蝋憶聾の良俗違反の不法行為となるときは、1これらはいかなる権利侵害をも要しないーこれらの規定によって
︵n︶
保護されうる。なお、八二六条の説明は註記にゆずる。
@引渡を受ける前の買主の正当な利益は、二八一条の代償請求権により充分に救済されうるし、反対の立揚では本
︵皿︶
条の存在意味は殆んどなくなるであろう。
⑥既に占有を取得している償権者−例えば賃借人等1は、その有する占有権の八二三条一項該当性により保謹
されうる。
︵B︶
︵h︶
㈲不動産については、第一の買主は、仮登記︵弘知︶をすることにより第二の買主に対してーいわば物権的に1保
謹されうる。
qり債権譲渡人が善意の債務者から弁済を受領し或は債務を免除して償権自体を消滅させる揚合︵姻鴛︶には、譲渡入は
債権に基く妨害排除についての考察 一七七
〇
㌔
や
り
一橋大学研究年報 法学研究2 一七八
四〇二条︵徽噛縢轍獄柳撮融Y二四二条︵媚購臓尖︶から明かなように譲受人に対して債権に影響を及ぼすことをしない義務を
︵16︶ ︵17︶
︵b︶
負うので、譲受人は譲渡人に対して契約違反としての責任を追求しうる。
㈲右の揚合以外の直接に債権自体を消滅させる揚合には、八一六条二項︵赫哨捌舗︶で救済されうる。
㈲しかも折衷説のように、ω図の揚合に限って八二三条一項の権利侵害にあたるとして、間接の損害と区別すべき
本質的根拠はない。ωの閑は、直接の被害者にのみ損害賠償請求権を承認するが、その損害が第三者の行為の直接の結
果か問接の結果かは問わない。
︵18︶
ω肯定説のようにすぺて過失で足る︵弘知︶とすれば、過失は損害の発生自体については要せず、かつ債権は物権と異
︵19︶
り無数に成立しうる結果、賠償義務の範囲が無限に拡がり殆んど耐えられない結果となろう。
0反対の立揚では、法典が明かに例外として規定している八四四条︵酷碇熾礒礒灘儲加殺Y八四五条︵龍碇甥確礒灘儲勘殺︶は無
︵20︶
意味となり、その存在意義は説明しえず、体系の斉合性が破られる。
︵1︶ 通説の参照しえたものを一纏めに挙げておく。い冒o犀巴邑帥三8Uすωoげ帥自Φ霧R鋸9℃臣oげけ即βの皿口oユ四βげ8昌閏陣ロ色≡ザ
鴨p一。。℃。。ψb。ど○。同目きpu段ω&鼠。島。歪鼠塁冥8げα8。呂撃8ユω。ゴゆ①§巨蔭。p言α曾国婁σq即げΦ頃弩o①−
旨嘗一茜”這OOψ曾R︵以下、閃①馨ω9ユ津と略記ど目9ρqロ日σ旭一9犀皿げα忠いΦあ9一麟這8ψ路o。 Uo路ρくo茜一色−
畠①注Φ評韓。旨品αΦの器窪廿盆ω巴一αQ9鍔呂鷺①。耳ρ=8。㈱Bωし鴇 国注①暴⋮・︸需ぼげ■ρげロαQ■閃‘H。︾島,
ド8い鷲。・一。の・ま。︵ゆ鼠①お窪訂吋︾島■轟ど国●︸田、一ω9gu段ω。げ&g壁。ゴ山昏σ貯の・の。ω。喜‘一8いψま脳
》
o。一αヨ魯目−巨一Φ暮富一b”ωg茜,o①ω①尽す冨︸けp一。8ψ。。漕の。一・・=B①岩おu霧霧。窪α段。一崖Φ一器昌の。暮一身巽匡一f
覚
<①﹃醇呂轟留の2ぎげ蒔Φ虞g緊ω巴の毒①二讐9Φ頃孚鼠一毒堕G8σ箪印
吻
目ヨ4 HH,HH■轟>口自、一〇NoQ ㈱ oQN一 HH出① の,
債権に基く妨害排除についての考察
NOh︵卑目αの弓の出﹃倖げo↓︾口山ー︶︸の叶四口阜凶目四①び 囚O臣目‘HHω、O匪β山,一〇NO㈱oo卜oQ
ω&ロ瓦繋這8蹴蹟Oψ轟軌oo2通説をとる戦後の文献としては、国a①菖卑営P
s置励O鼻一の■高ω軌い国一一コΦoOΦ嘘信甲■oげヨ跨嵩コ博のoげβ一α賊ooげρ一〇軌鼻吻H二一ど伽ωN轟一
励oo卜oωψ驚曾︾oぼ=8⇔お一中・切Q煙O>ロ中一30。吻oo舘・ざψ茸押判例は
ひ軌中
一七九
︵5︶ 園○朝8いま ︵ 第
一
草案から現行法に至 る ま
四 一条の経緯をも詳論する︶。
で
の
二
務 者
給 付
要 求 す
こ と
で き
。 給付は不作為たることもできる﹂。
︵4︶ド民二四一条 ﹁債務関係により債権者は
債
に
を
る
が
る
も、特にこの理由を挙げるものは見当らない 。なお、○・ρぎの畠Rの批判、後述。
とごo。OP曾蒔Φ昌力9げ
へ 匹 が、
3
P 各鳶区別さ
て い る 。 その後の学説・並びに判例は屡々この判例を引用するけれど
れ
て
規
定
さ
れ ︵3︶ 国○宅﹄象勢三六五条、四一三条では ご 句〇三Φ窪昌頓自..とごき号8ロ因8窪窪..が、四三七条ではこ閃oaRE茜窪..
い、簡単にはOo陣ヨm5P閃9冨畠コ津ψ
碧一POo,εどローマ法、ゲルマン法、普通法 、 プ・イセン法等における取扱いについては○・ρ罰8冨詳鋭勲9に詳し
︵2︶○興言きp囚。ヨ目HH軌︾監﹂8。㈱
oo“o沖呂の■一お轟︵ただし、ここでは折衷説へ転じているy国昌ロ9R臣き9菖ー
一貫してこの立揚をとる、例えぱ涛の㎝8 脇曾鵠、B含o。bo一品9旨一一S℃その他前掲殉O因oヨ目■参照。
H 創ハ ℃”一暫口山戸 国 ○ ω ﹄ 一 ℃ 頓 α , 一 頓 ︾ q b 、 一 ■ O ω ひ
O甲ω,団Qbo︸㈱ QcNひーU Φの 刈ひ一 一 <O﹃げO昂■
のOげ以一α賊Ooげ計 ω ︾眞ゆ,一〇高O の、ω軌N︸]国ののΦき ωoゴ償一α目Φoげ∬一℃高Oω,轟ひoo胤■“.犀・Ω♂︼︿oヨ一β,閃O国−一 O訪βφ,︵一〇軌い︶HH㈱OoNρ
目>oの﹂刈NN節閏①o置の旨ロ島一扇山g
一
鵯び。島。。。σ膏ひq,の雷①訂げ’︸ひ︾監口。旨㈱
Q。鴇くNの,卑配こUΦヨげ§㌍U塁9一茜,因こ目G一軌の■団頓い 国琶Oド 内9
自のω 亀①仁けω〇一ピ げ 昏 ﹃ 鹸 , 閃 ‘ H 一 〇 一 〇 の , N O O 論 ︸
霊零ぽ?頃窪一。り爵ρ閃の炉冥︾臨幽。。卜∂い︼。。ψ葦9Z窪ヨ雲F訟き留島−
一いN鉾国も℃塁乏ぎ駐9巳P評&①寡①p
HO ︾仁山,ω■ O轟QQ ︵帥昌創Φ目oo ㌦吋Oゴ①﹃ >目鵠︶ く■ ハ弓昌♪ ︼︾①槽 帥=のO日Φ一βΦ 臼の臨
N ︾二訪ー一〇〇轟の,一一〇い○, O。 悶一のOげO聴匂一︾一〇
殺
一橋大学研究年報 法学研究2 一八○
︵6︶ やの日・⇔象卑 匁¢囚oヨヨ・﹂互角︸曽三98益甲■Φげ旨讐三・の・ρψOご ℃寅糞置一瓢P︸国①。ぎゅH∋その他結論
的に述ぺている通説がこれを前提することは勿論である。卑暮﹃<α貸一・Oo葺ヨp昌P国oヨ一昌一励oo舘︸ωP
︵7︶竃9ぞρ目ψ陰,㍉目ψω﹂臣呂特o目︵”ヵ9騨N霞ω8冨︶の理論は、当時はすでに普通法理論によっても支持され
ていず、プ・イセン法も亦、の①。。Φ訂Pげ9α魯国面窪言目の忠妻2げく・ω冒巴一〇。認翻♪一怠で廃止したといわれる︵竃o鉱,
話㍉口ψい︶。ドイッ民法の起草者がこれを採用しなかったのは、対物権と対人権の峻別、物権法領域と債権法領域との限界
を曖昧ならしめる結果となるからであった︵ぎ箆一︶。
︵8︶寄受農響冨の起源の詳細な検討は、︸尋暴目■N畦o§寒ぎ翁冨&8β冴§蜜津ρ9の葺ΦN毒
ωδσN黄警Φごのoσ自味房鼠鯨︵むに︶ω=籍蹄一簡単な沿革については、目昌げ昌o歴O腕μ昌α薗茜Φ山900葺のoげo昌b辱ぞ葺80げ諾︸
一℃8ψぐo。 国き一貫○旨昌q鉱鷺α窃U①艮の畠窪唱ユ︿舞冨。騨の”這おψ$等参照。
︵9︶○。旨巨きロ扇Φ器。窪津闇の■。。一五。馨一σρ国・ヨ日・ロω・一い。。命
︵10︶ 目言ρψい巽馬∴ρρツ零げ①サω,蹟ゆーひど国匿茜08旨甲boげヨ即ロPψ旨9プロイセン州法の刀①o霧Nβ嘆の8げΦに
足るから。殉9穽N貫ω8一おとド民八二六条による揚合との取引関係における具体的妥当性の比較につき、鵠①。ぎの牌鼠づ山吋蕊
おいては、第二取得者は第一の譲渡についての認識を要する︵溜>■肉H一ゆ︶に対し、ド民八二三条一項は過失ある不知で
α①ω留o訂目8窪・ψ一憲の挙げる事例を見よ。なお艮訂ρω・い践︾昌5Pは、ドイツ民法において、八二三条一項に第
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
三者の債権侵害が該当するとした揚合、次のような奇妙な現象を生ずる、と指摘する。Bが物の所有者でAに賃貸し、Aがそ
れをCに売却した揚合、Cは、Bの物への権利の存在を知り又は重大な過失により知らなかった揚合を除き、引渡を受けると
その物の所有権を取得する︹動産の即時取得ード民九三二条参照︺。従って、Cが軽過失の揚合にはBは再ぴ自己の物を手に
入れることはできない。然るにこれに反し、Bが元来所有者でなく所有者Aから買いその後Aが更にCに売却してしまった揚
〆1
㌻
﹄餌
◎・
合には・BはδがBの償権を薯響智ない揚合書、︹反対説に従うと︺BはCに打ち勝つことができる.こ髪る、と.
︵11︶ ω八二三条二項につき、○①降ヨ費一コ閃霧冨呂コ軌ぴ¢o。曾ρρ固の。一一の目”ω,一鴇1き ○。匡一冒麟一一p”ω、o。O㌣2。信旨帥pロ”
旨一αこ国。・器斜¢まo。︸国O囚○ヨ旨、Hψ&μ昌ψ刈αごヵQ鶏博象o。 一ホサN鶏︵後述︶。
ω’。・罫○・■男診g。。,一い自扇o囚。ヨβHψ義西§置伽。。ま目轟葛田。励払轟ひ。。2①毒聾葛互の。崔,
㈲八二六条につき自§き串尋きβ宏払ξ憲吾。げま島一・ご凄N①払箏○①擁琶曽一一昌局。ω砕の。①﹃鋒
ヨきPOo,o。O狸ヵρ鶉堕呂o。■なお、八二六条の適用もないとの少数の説もあった、一、αq一、ρρ固醗。ぽ擁︸ψ一獣>昌一昼9
ヤ ヤ ヤ
第三者の債権侵害は本条で救済される揚合が多いので、少しく説明を加えておく。八二六条は、要件として権利ではなく財
蔭の損害と故意と良俗違反とを要求するのみ。そして債権が財産︵くRヨ猪雪︶であるア一とはドイツ普通法以来承認されてお
り︵ω豊箪−。・遺。βHの乙轟ρの■い参≦まω量蹟帥βぎ鼻費H罫仁島£ω・一刈。。忌Φ↓昌げ鴬吋αQ﹄年H一α①算Φ昌・
用いられた手段・目的と手段との釣合の相関関係等を綜合して︵国暮①08ヨωき魯ヨきPψOミ︶、しかも生活規範の性質に
H>島諭器ψまじ、良俗違反か否かは、加害行為自体のみならず、そのなされる意図、達成されるぺき目的の性質.価値、
即応する褻暴の意識生ける法意識によって評価さ砦ぺ馨のとえる︵雪・①§目串UΦ一⋮帥昌昌あ豪一国ωωΦ鷺あ
≒O︶。したがって二重契約の揚合でも、第一の契約の単なる認識では足りないが︵国Oo。ω一ω鴇︶、害意を以て債務者と共謀し
た揚合︵因O爵、ごo。︶には不法行為となる、とするなど弾力的評価がなされうる。抵当権設定の債権契約の存する.一とを知り
ながら、先に設定した第三者︵四90窓昌9摯Z味、o。N︶、他人の地役権設定の債権契約を害する意図で所有権譲渡を受けた
第三者︵因OO旨昌98客戸o。o。︶等、良俗違反の不法行為を肯定した無数の判決がある︵更に後述︶。
︵皿︶・①善・馨閏霧魯﹃異ω,・・器一・・∋↓蟹の・いN・。 琶渥§注る。匡一昌ゆ一一一一・の・・。。い琶帥コ。島・。Nいヨ団。㎜
○■ρ霊零げ段−幹冥OIoo、ω。蹟N融︵ただし彼は本条のみでは債権者の充分に救済されえない揚合のあるア︶とをも詳論する
債権に基く妨害排除についての考察 一八一
一橋大学研究年報 法学研究2 一八二
が金銭賠償の額に関し、ここでは直接には関係ないy閃○鶏、象o。﹂一♪8納
︵B︶○段琶象一pψo。9Qρ固。。92の﹂ま2℃一彗。一︷島。。器=一♪肉o鉾象﹂β§。。’幻o象二3g茎8。。’
なお、冒9貯ρ昌ψ翼ooと園の語・器㏄は、八二三条一項の﹁権利侵害﹂となるか同条二項の保護法規違反となるかにつ
き、共に過失で足り単に理論上の争にすぎないので、何れとも決定しなかった︵U彗窪NU8H曽幽a等ぱ二項に該当するとす
︵M︶ 国一一一一90。↓信甲U巴一旨卑昌Pの・押国8Fのoげ包α♪㈱一〇〇﹄刈ーなお、ρ○δ同犀ρ∪﹄や界目ψ9一はこれを因8げけNロ擁
るが、詳論は控える︶。ただ、これは殆んど金銭賠償が間題となる、後述ガ註︵5︶参照。なお後述四章三。
︵
望90の補償物をも意味する、とする。
︵15︶ 国昌ロ。。。①昌の白魯ヨきPOo■鈎¢3曾悶O冑℃象o。;=噸89なおこの解釈については折衷説をとり、かつ債権の上の
所有権なる観念を認めるいoo一壬畦αの反対のあること後述コ註︵10︶。
︵16︶ 例えば、受取証書持参人の弁済受領︵三七〇条︶、債権者が債務者に虚偽の譲渡通知をした揚合の被指定人の弁済受領︵四
〇九条︶、資絡証書持参人の弁済受領︵八○八条︶、相続証書被記載人の相続財産処分︵二三六六条︶等の揚合。
︵17︶浮濤8①霊ωき魯ヨきPの■曾国塁。ぎω﹂謡一篇Hの。ぎの●まp
︵18︶ 勾○警や象鴫・なお、立法過程における同旨の見解については前述した。レオンハルトの批判は後述コ︵イ︶◎。
︵19︶○Φ旨・・きPω■。。9ρρコ訟畠9ψ一おー罫↓旨Nρo。’いい9殉Q貫呂。。’
︵20︶ ○。鴎叶ヨの口一一一・ω・o。い粘こρρ頃.あoげoサψ一禽怖 自霞68實塁−■oげヨp嵩Pψ旨曾因O㎝評象oo甲なお本節一註︵14︶。
に 通説.判例の批判 償権侵害の可能性自体の解釈論を直接には目的としない本稿では些細な点の解釈論的可否
㌣
を吟味することは必要ではない。本稿の目的との関聯で纏めておく。
‘
ヤ ヤ ち
◎
債権に基く妨害排除についての考察 一八三
八二三条一項の﹁権利﹂に債権は含まれないとの結論は当然には出てこない、と批判する。同じく通説の立揚に立つ
︵3︶
うのであれば、債権においても給付を不能乃至困難ならしめることによりその侵害は可能といわねばならず、従って
所有権侵害も人と物との間の権利関係自体ではなく権利の対象たる﹁物﹂の侵害にすぎない、これを所有権侵害とい
のが少くない、ということである。例えばフイッシャーは、通説的な純粋概念的説明をするならば、物の殿損による
もない。のみならず、ここで注目すべきことは、同じ通説に属するものの中にもこの理論的根拠自体には反対するも
る。ドイツにおいても次にみる肯定説・一部につき折衷説が、かかる概念論理上の操作に甘んじないことはいうまで
いても同じ構造をとる。がそれにも拘らず、これらの諸国においては債権の第三者による侵害は一般に肯定されてい
うることは明かであり、この点については後にみるであろうフランス法︵押眠牝︶、明文のないわが法及び英米法にお
まり意味がない。あえて二四一条の明文をまつまでもなく、債権者は債務者に対してのみ契約上の義務の履行を求め
ヤ ヤ ヤ ヤ
或は批判されてきたところであり、今ここで再ぴ孤立的抽象的にその当否を断定するのは1現在ではもはやーあ
︵ハ︶ 債権のいわゆる相対権概念に基く理論的根拠については、この概念自体既にわが国でも古くから論じられ、
︵2︶
からはいかなる根拠も引き出せない。
が、同じく通説の立揚に立つフイソシャーも指摘するように、条文の上では表現の統一はとれていず、形式的用語法
︵ロ︶ 形式的根拠も正当ではない。起草者の意図が八二三条一項の権利に債権を含ませないとしたことは既にみた
ヤ ヤ
要請こそこの問題の意識され提起される所以であるから。
︵1︶
︵イ︶ 単なる沿革的根拠は否定の理由とはなりえない。特殊目現代の取引社会における債権の重要性“法的保護の
b
テイーツ、及び近時エソサーもこの理論自体には反対する。
一橋大学研究年報 法学研究2 一八四
︵4︶
︵二︶ 更に立法過程以来いわれるように、損害の直接性の有無により取扱を異にすぺき根拠はないとしても、その
こと自体は債権侵害を否定する理由とはなりえない。
︵5︶
︵ホ︶ 以上のように通説の内部からすらも多くの弱点を指摘・批判されながらも、ドイツの通説の圧倒的多数及び
判例が依然として債権を彼らのいわゆる相対権とする古典的概念構成を踏襲しており、かつそれを可能ならしめてい
るのは、先にみたところからも窺えるように、実に特殊”ドイツ現行民法の諸規定の構造に基因すると解すべきこと
は更に反対説に一瞥を加えて後、詳論しよう。
︵1︶ 直接この問題との関係においてではないが、例えぱωぢ三yUお︺霞翼駐o一話囚9あq巳a8自9創一一茜浮冨昌因9馨ρ
>3三く︷霞げ霞卯国軌︵一〇。Oド︶Pま胤・は、古典的債権概念を批判するのに、このことを強調する。
︵2︶ ρρコ蓉冨∂ψ謀空︵前掲の条文は、償権とその他の権利とを書き分けているが、九九条、一〇〇条、一〇三条の
ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ
﹁権利﹂には対人権である用益賃借権も属するし、一〇六八条の﹁権利の上の用益権﹂は対人権をも含み、更に一二七三条以
下の﹁権利の上の質権﹂は債権の上の質権︵一二七九条︶をも含む︶。
︵3︶ Qρコの昌①きψoQ一1♪ψ試・なおそこで、物権は物に対する直接の関係であり、債権は債務者を介してのみ物とかか
わりを有するにすぎないこととの関係については、債権質を例に拳げて論じている。
︵4︶ ↓一9ρψ鵠押閏器R響ψ&ooは、通説の理論的根拠は法律的な︵山ε畦o︶侵害については適切であるが、事実上の︵3
盆90︶侵害については然らず︵第三者による給付の不能化︶、しかもわれわれは、﹁相対的﹂債権関係の存在をそれ自身として
》
o
保護に価するものであることを承認するので、局外者も亦これを尊重しなけれぱならない、としながらも、八二六条等の保護
噂
、葛
︵5︶ 間接の侵害も該当するとの途も、論理上、残されている、窪昌く範・ρρエ8冨5の・o。Oh
の現行法上存することを理由に、通説の結論を支持する。
﹀ ︵1︶
債権に基く妨害排除についての考察 一八五
レオンハルトである。要約すると、①債権の処分行為は物権的性絡をもち、物権的行為に外ならない、㈲無権限者が
@これらと異り、その理論構成として﹁債権の上の所有権﹂なる観念をもち込んで同様の結論をとるのが、周知の
の対象物化︵くΦ茜①鵯塁鼠注ぎ菖轟︶、客観的財産概念︵oげΦ窪貯ΦくRヨα鵯塁σ①讐浅︶を肯定して折衷説をとる。
︵4︶
の権利侵害と同列に置かれる︵αq一99鍔雲亀窪︶べきである、とする。ギールケはつとに、ドイツ法の観念から債権
︵5︶
位であり、債権者へのこの権利の帰属関係のーしかしこれのみの1第三者による無権限の侵害は、八二三条一項
質上一個の絶対的な、すべての人に対し排他的な、それ故にすべての人に対する保謹の資絡づけを必要とする法的地
㈲ラーレンツは、近時の債権の重要性・独立の財産対象物化に着目して、債権の償権者の財産への帰属関係は、本
︵3︶
承認されるべきであるとし、
効力として、侵害・殿損の不作為を要求する絶対権が発生し、これに対する責ある侵害に対しては一項による保護が
@通説から折衷説へ転じたエルトマンは、相対権としての債務者に対する給付請求権︵一魏︶と並んで、副次的外部的
︵イ︶ その例外的に肯定する揚合についての理論的根拠は種々である。主なものを挙げると、
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
係の喪失の揚合には権利侵害となり、八二三条一項に該当する、と解する。
︵2︶
利侵害とはならないとするが、例外的に債権自体の直接の侵害、すなわち第三者の有効な処分等による債権の帰属関
三 折衷説 折衷説は、債務者自身または給付の目的物の殿損等の揚合には、通説・判例と同様、債権の概念上権
◎
一橋大学研究年報 法学研究2 一八六
他人の債権を有効に処分しうる揚合、債権者を保護すべきは緊急の要請であり、債権者はこの揚合右の行為を禁止す
べき対世権、就中、責ある侵害者に対する損害賠償請求権を持たねばならない、価しかし単なる債権者が八二三条に
より保護を受けえないことは諸学者に争いがないにも拘らず、彼らは債権の直接の侵害の揚合には責任を生ずるとせ
んとする、しかし八二三条によればこれらの論者のように侵害の直接性・間接性により区別すべき根拠はない、この
根拠を証明するためには、﹁直接的な権利﹂の侵害︵象o国ぎ三鱒一目oqき胤①ぎロpB幹oぎ鶏窃因9窪︶のみが義務
を負わせる、という言葉で置き代えられるべきであり、そしてこの権利は、権利の上の用益物権・質権と異り、完全
な支配権であり、従って債権の上の所有権に外ならない、㈲そして第三者の侵害は、この債権の上の支配権旺所有権
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
へ向けられるのである、として前述の折衷説の肯定する揚合における債権の第三者による侵害可能性、従って八二三
︵ 6 ︶
条一項該当可能性を論証しようとする。
︵・︶この立揚の説く実際的根拠は、判例・通説による債権者保護の具体的妥当性の批判的検証という態度をとる。
しかし、折衷説が債権譲渡後の譲渡人の弁済受領を始めとする第三者の有効な債権自体の処分についてのみ判例・通
説と侠を分つ以上、判例・通説も八二三条二項・八二六条等による保護は等しく承認し、かつここで問題となってい
る揚合については、八一六条による不当利得返還請求権によりえ、或は揚合により契約上の責任を追求しうる結果、
その差異は極めて僅少なものーしかも金銭賠償の金額の差異 にすぎないことに注意しなければならない。ラー
レンツは両者の差異の僅少なことを明言し、通説から折衷説へ転じたエルトマンも、誰か過失により他人の債権をそ
︵7︶ 、、︵8︶
)
の価値を充分にはカバーしない反対給付で有効に処分してしまった揚合に殊に八二三条一項による保護の必要性があ
導
)
債権に基く妨害排除についての考察 一八七
的差異の僅少なことが、囚6P空き。ぎ国&o彗きロをして、○Φ苫ヨp三一とは逆に、折衷説から通説へと転ずることを可能
必要というわけではない。というのは、大抵他の法規の助け1殊に八一六条1で充分だからである﹂という。なお、この実際
︵9︶ ○Φ詳ヨ程Pま答彼も亦ラーレンツと同様、﹁勿論、この保護︹折衷説の説く八二三1による︺が、ここで必ずしも屡々
渡における譲渡入等が過失︵不知︶で有効な処分をするということが実際上どれほどあるであろうか。
︵8︶ 故意を除外するのは、この場合は八二六条︵良俗違反の不法行為︶によりうる︵国①oぎの一&O︶からか。しかし、債権譲
ヤ ヤ
けだし大抵の場合、契約上の賠償請求権及び不当利得に基く請求権︵八一六n︶が存するであろうから﹂という。
︵7︶ ピ彗魯評H¢5︾昌葺Nは、八二三条一項へ折衷説の説く場合が該当するという問題は、﹁実際上は余り重要ではない。
︵5︶○●黛Φ蒔ρ目ω■ひ。鉾¢。。℃罵。 ︵6︶需9冨昼一げ答
︵4︶ ■舞o震﹂寓阜債権の独立の財産対象物化について近時同旨≦Φω8↓ヨ帥ロP留9窪富9“N︾β中這鴇ψoo,
hだけであろうかo
︵2︶ 前述本節二一︵二︶の及ぴ同所註︵16︶の諸揚合。 ︵3︶ ○Φ陣茸程Pま答
︵
o冨コ勾”曽Oρ︾白霞など。戦後の文献としては■跨o菖”びΦげぴ・α窃ω昌ロ一今・HG鴇ψ一9αR器ぎΦ・目むまψω零
ゆQ炉一80¢ひO卑一qR器一げρ国①8ロ身のoげ三身甲角切○炉一〇巽ψ頓B卑なお外に参照しえなかったが国げげ①oぎUβヨー
富ぼげ己①の窪摂匁﹂︵N︶㎝&一■コ∋○。二暴ロp国。ヨ戸一二>爵一8。ゆ。。Nい﹂α”■8昌貧9巴一堕ω。ご芽・拝
け豊帥ρ﹃ぼげ己霧ま邪甲a︾色﹂。一。ψ8ご02Φ詩ρu。葺ω&窃牢貯暮冨。け“目這嵩堕。。8卑局自88盆ρ
︵−︶9・目ρの遂け①ヨα窃ユ。暮の畠9累凝、界︻=8Nの﹂。N。ーい 田嵩註堕︾塁鷺二9F匹pαq①§げけ︾ψおー∋冒寧
る、という例を挙げるにとどまる。
︵9︶︵10︶
≧
、 、、、 、 ︶
一橋大学研究年報 法学研究2 ︸八八
︵10︶ レオンハルトは先に挙げた自説を補強するため次のように通説並ぴに他の折衷説を批判する。ω原因関係に基く請求権は
ならしめた実際上の大きな原因でもあろう︵本章本節二一註︵1︶参照︶。
法定債権譲渡の揚合には存しない︵巴蒔:ωひ曾ω縁9ム;ψまω︶。しかし通説︵国≡お08艮あ−い①げヨ帥昌Pゆ舘斜ご師a︶は四
権︶は、いかなる処分行為も行われず、いかなる利得も存しない場合には役立たない︵び8口げ即己﹂寓傘︶。しかしこの揚合に
一二条により準用される四〇二条、二四一条から債権に影響を及ぽすことをしない義務を認める。㈹八一六条︵不当利得請求
つき、頃Φoぎω昌三時・ψ参Oは、譲渡を知っていれぱ良俗違反の不法行為︵八二六︶となり、更に準事務管理︵六八七︶、
謹渡契約に基く損害賠償請求権により新債権者の保護に欠けるところはない、とし、国昌匿8雪臣き呂目践一P一9今も、事情
によっては良俗違反の不法行為となる、とする。m先に触れたように、四〇二条は旧債権者の同条所定の義務を規定するにす
ぎず、通説のように同条から原因関係に基く旧債権者の一般的義務は引出せない、それは債権の上への所有権を認め、この所
有権に基く不作為請求縮としてのみ是認しうるとする︵巴碍4堕9・oo・籍9膨霧○昌αこω・ω象︶。その可否につき、ここで結
論を出しておく要はない。
ただ、レオンハルトが﹁不作為請求権﹂といい、また、﹁所有権﹂といっても、それは、右の揚合の八二三条一項該当性の理
論づけの手段にすぎず、それ以上に包括的な物権的請求権を認めんとするものではないことに注意する必要がある。このこと
は、彼が、﹁各論﹂において、ドイッで論議されたいわゆる一般的不作為訴権を否定するにあたって、債権をもち出してしてい
る議論からも窺える︵︿ひq一・切霧830Q。訟oQ内﹂︶$ψO茸︶、エルトマンも同様である、後述三章二節五参照。
佃 折衷説の批判 ︵イ︶ 通説の大部分並ぴに判例が彼らの古典的権利概念の論理・演繹的操作で第三者による債
権侵害を否定するのは我々の意に満たないものを感じさせるが、それはそれなりに立揚の一貫性はあった。しかるに
ノ鳳
㌻
q
債権に基く妨害排除についての考察 一八九
いが、それは実際上金銭賠償に関することであってここでの妨害排除とは直接にはかかわりのないものであろうこと、
︵・︶ 折衷説をして通説・判例と挟を分たせるに至った些細な実際的差異について詳細に吟味する余裕も必要もな
組みとの具体的な関聯においてのみ理解することのできる特殊目ドイツ法的事情による、と考えざるをえない。
ヤ ヤ ヤ ヤ
来ドイツにおいて折衷説が少なからぬ学者によってとられてきたのは、これまた、すでにみたドイツ民法の特殊の仕
したにすぎず、便宜論以上の意味を見出し難い。それにも拘らず、後にみるフランス、英米及びわが学説と異り、従
﹁権利﹂侵害該当性を論理的に説明する手段としての理論構成のために、唐突として所有権なる既存の法概念を借用
が通らない。要するに彼の理論は、債権の処分行為の性質、並ぴに第三者の債権侵害に対する折衷説の説く揚合の
︵2︶
とするか、或は通常の所有権と同様債権の上の所有権についても一般的に物権的請求権をも肯定するのでなければ筋
関係阻所有権自体は依然として権利者に属するーによっては侵害とされず従って八二三条一項の権利侵害とはならない、
ツのみならず、わが国でもなされているのでここで詳論するまでもないー彼の債権の全面的支配たる所有権が右の
ヤ
揚合にのみ侵害されうるとするならば、通常の物の上の所有権も、物の一部殿損乃至不当侵奪ーこの揚合、物の帰風
ヘー︶ 、 、 、 、 、
害とされうるのか、の疑問を打ち消すことはできない。レオンハルトに至っては、1その理論的批判はすでにドイ
付の目的物の殿損による債権の価値実現の阻害によっては侵害とされず、ひとり債権の有効な処分の揚合に限って侵
ールケらの云わんとすることは傾聴すべきものを含むとはいえ、それにも拘らず、何が故に、債務者自身の拘禁・給
の救済をも無視しえず、ためにその考察方法に一貫性と徹底性を欠くように思われる。エルトマン、ラーレンツ、ギ
折衷説は、この通説的概念による侵害不可能性理論を捨てえず、さればとて通説によってはカバーしえない些細な点
ヤ ヤ
お
一橋大学研究年報 法学研究2 一九〇
及び既にみたように、法典起草者が意識的に八二三条一項に債権を包含させないことを前提として、その例外として
明定した八四四条・八四五条の規定の存在との体系的斉合性は、折衷説並びに次にみる肯定説の立揚によっては破ら
れざるをえず、この点に関する通説からの批判に対してはこれらの立揚からは、明かに事実に反する注意的規定との
︵3︶
言い逃れ以外には説明しえないというドイツ民法特有の障碍の存することを述ぺるにとどめておく。
︵1︶ 我妻﹁権利の上の所有権といふ観念について﹂︵法協五四巻三、四、五号︶は、レオンハルト、後述の勝本博士の所説への
批判をもあわせて、教えられるところが多い。なおそこに、債権の上の広義の所有権を肯定する普通法等の諸学説、及ぴ、そ
れが、物権的妨害排除請求権をも肯定する趣旨のものではないことも述ぺられている。なお、近時の文献としては、い即お養︸
Hψミo。hが我妻教授に近い批判をしている。∪巳oぎ芦∪おくoaヨαQ一凶9蝿旨凶O鉱面P什Oユの3需勾9罧伊這蟄も、債権の
上の所有権は債権に外ならず、反対の立揚では﹁所有権の上の所有権﹂なる観念を必然ならしめる、という︵ω。軍旨”幹湊
南こψ親︶。帥琴げく笹一国旨器08星の−U①げ旨彗P¢黒■
会雑誌一一巻一〇号︶ーは、レオンハルトにならって債権の上の所有権なる観念を肯定し、更に、ここで問題の債権に基く
ラ
︵2︶ 前述三註︵10︶参照。なお、勝本﹁債権の所有権的関係﹂民法研究①所収ー︵なお奥野健一﹁債権に関する考察﹂法曹
︵
妨害排除請求権をも、この観念から承認する。これがレオンハルトの意図を遙かに越えるものであることは勿論であるが、純
粋の物権的請求権を肯定する趣旨なら限りない実際上の弊害を惹起するし、逆に、かつての大審院判例で問題となった利用権
的債権にのみ肯定する意図ならぱ、所有権観念としては不徹底な便宜論的性格が指摘されなければならない。むしろ、U三。・けー
ヤ ヤ
ユ騨塁匠層OぎαQ一δげ①ロ昌負℃o諺α巳一〇げo男Φoげけρ旨δユ昌鵯冒ぽ壁¢畠の・一器怜の肯定する、債権が物に化体した場合1そ
の典型は無記名債券︵日民八六皿︶1につき個別的に問題となるにすぎず、それもしかし、金銭が物としてではなく金銭債
,亀
D
、鳶
債権に基く妨害排除についての考察 一九一
休 妨害排除 以上の錯綜した諸説の対立にも拘らず、こと妨害排除の問題に眼を転ずるや、この点については殆
︵2︶塁9︿撃国9置の。巨一身ひψ占P
ラ
かった折衷説をとる文献あり。
■Φげ帰すα。のびO﹃㌍戸昌這8ω、器頓卑︸08鈴o置い①ぼσ含8σξ騨戸HN>qP一8N¢笥ρなおこの外にも参照しな
げ吋琶管即。匡①目ω貫一℃。。の・ωN累忌①ωωρ∪①あ。巨江のω肇§のαq①署量5一。。。︵u冨幹︶ω.賂3囚。幕碁
α。。。切○炉一。。。。。のるご因=一一一Φ一一びΦ。ぎ∪器げ母ひq・○。。。。gげ■出ξ島器α窪ε。ぽカ。一。昼H一。。3ω﹄NごHω鼻o。ω。ま駿㌦︻げ−
︵−︶の琶邑。﹃あ。げロ匡︿①塘藝昌一の堕。・暫膏量 霞套毯Nの﹂3盲界宰国一蚕。び麿§①三昌留けΦヨ
はなく、ドイツ法の特殊の仕組みに基因すると解すべきことはすでに述べてきたところからほぼ知りえ転亮。
限りでは見当らないし、また窺い知ることすらもできないが、それを、直ちに債権保護の軽視の現れと理解すべきで
面的に正当であるとは思えないがー既に述べた。この立揚をとるものは減少の一途を辿り、戦後の文献では私のみた
一項の権利侵害となるとする。この立揚に対する反対説からの現行法の諸規定に基く諸批判はー必ずしもすぺてが全
パ レ
為により債権者に損害を生ずるときは債権侵害となるのは当然である、という理由で、第三者の債権侵害は八二三条
ラ
伍 肯定説 肯定説は、法文の﹁その他の権利﹂︵①ぽ8塁け蒔窃力8窪︶という一般的用語法、並ぴに第三者の行
︵3︶ ︿αq一■ρρ霊8ぽきの■ま命折衷説等はこの点には一般に触れない。
ニストリヤンスキーに近い見解を示す。
行くべきものが多いであろう。なお平野﹁日本資本主義の機構と法律﹂︵日本資本主義社会と法律所収︶一五三−四頁は・ド
ヤ
権として把えられつつあるように、大部分は民法の次元を越えて独自の有価証券理論の中へ吸収されそこで処理される方向に
◎
んど議論はされていないのが印象的である。
一橋大学研究年報 法学研究2 一九二
レ
これは次の理由によると思われる。ドイッ炭法においては損害賠償に関する一般規定によれば︵紅肥軌︶、賠償の方法
は原状回復を原則とし金銭賠償を例外とする建前をとっており、これがそのまま不法行為責任としての損害賠償にも
︵2︶ へ3︶
イレ ヤ ヤ
︵5︶ 。
適用されるので、先にみた不法行為の成立に関する諸説の対立にも拘らず、妨害排除の問題は、占有の取得により占
有訴権によりうる揚合を除けば、結局金銭賠償と同様に不法行為に基く損害賠償一般の一適用例に帰するにすぎない
従って繰者に対する不法行為−鑑侵轟、一、兜︶という舌に茎、通説判例のよう筋鷺害︵禁、蘇二項、︶とい老艮せ
よーーの肯定されるかぎり︵で︶、一般に妨害排除の許されることは当然のことであり、問題はむしろ、いかなる限度
まで第三者の債権侵害に対する原状回復としてなされうるか、ということにあろう。二四九条の原状回復については、
一般に、過去に存したと同様の状態への回復のみならず、侵害行為がなければ達成していたであろう状態−加害行
を要求することができる、と説かれるが、この理は不法行為ー従って第三者の債権侵害による揚合 についても同様
為にょって形成されている賠償権利者の経済的地位と加害者の義務に相応する行為があれば形成されていたであろう状態との差ー
ハ る レ
である。
マロ
すなわち、判例は、債権の相対効を強調して反対の結論をとったものもあるが、明かにこれを変更し屡々著書並が
にその後の判例にも引用される一九二四年一月二五日のライヒスゲリヒト第二民事部の指導的判例に代表されるよう
ハ レ
に、二重売買による不法行為︵瓢影︶につき、物権と区別された債権の相対効の問題を論ずることなく、専ら二四九条所
,
定の損害賠償たる原状回復の意義の面から、原状回復とは第三者による債権侵害の行為がなければ経験法則上すべて
亀
駆◎
てq
の蓋然性により生じたであろう事物の発展をも把握すべきものであり、従って例えば、第三者の加害行為がなければ
債権者が債務者の給付すべき目的物を取得していたであろうと評価される揚合には、債権者は第三者に対し、債務者
へのみならず、債権者自身へ直接に引渡すことをも要求しうる、と解している。この理は、右判例のように八二六条
︵9︶ ︵10︶
の良俗違反の不法行為の揚合のみならず、八二三条二項の保謹法規違反の不法行為についても同様である。学説もこ
︵n︶ ︵12︶
れを支持乃至当然のこととして前提する。
ハむレ
︵h︶
なお、損害賠償として原状回復の認められるドイツにおいては、二八一条の代償請求権が、あたかもわが債権者代
︵蔦︶
位権の特定物債権保全のための利用と同様に機能しうるかが問題となるが、必ずしも全面的には利用されえないと解
すべ き で あ ろ う 。
︵1︶ ドイツのいわゆる﹁一般的不作為訴権﹂はここでの問題とは直接にはかかわりはない︵後述.三章二節五︶・
︵2︶ 原状回復とはいえ、物の殿損・滅失・身体傷害の揚合についてみれば、始めから金銭賠償だけを認めるのと実際上異なら
ない︵山田︵晟︶.来栖﹁損害賠償の範囲およぴ方法に関する日独両法の比較研究﹂我妻先生記念論文集上二〇三頁︶。
︵3︶ 法律上の建前がそうであるにとどまり、実際上は財産上の損害については金銭賠償が圧倒的に利用されており、大戦後の
は信義則をここにも持ち込んでことを決したが︵頃&①ヨ嘗Pω・Σ︶、・前掲書の引用する炉ρい言α帥F¢拝く・8・oo・≒
物資の窮乏と貨幣価値の不安定は債権者の原状回復の要求と債務者側の金銭賠償によって免れんとの要求を増加させ、裁判所
も述ぺるように、それは戦後の異常時の現象であって、﹁正常な平和時には、債務者側の債権者への金銭支払の<Φコく①陣雲口の
は、決して債権者の立揚の悪化を意味せず、却って、よりよきこと︵<0388霊茜︶と便利とをこそ意味する。﹂揚合が多いで
あろう。﹁けだし、正常時には債権者は金さえあれば無雑作に原状回復をしうる﹂から。されぱ、国ω。りoきψ翼は、ドイツ民
債権に基く妨害排除についての考察 一九三
一橋大学研究年報 法学研究2 一九四
法が原状回復を原則としたことは﹁不適当である、正常な経済生活においては、通常、円滑な金銭賠償が好まれる﹂という。
現御における債権の重要性ということが、直ちに妨害排除の承認の要求へ結ぴつくものではなく、現代社会なるが故に却って、
物の商品化、価値化、代替性化の現象のために、その要求を伴わない場合のあることを示すものとして留意すぺきである。実
際上特に考慮さるぺきは不動産に関する債梅であろうことは、後にみる英法の取扱からも窺えるところである︵二章三節四︶。
︵4︶局目①。8霧ーピ①ぎ彗−紹斜。・。D’℃ひ島一。。一の’。。ど○Φ旨塁3く・蓄葺言島。。駆。。¢一馨い国帥昌。F㈱。。8Hく・
H■¢くま︸Ooω8ぎ一㈱80ω。ひNざ■碧窪N”昌励$¢ωひ辞旨区oヨ騨昌Pω・ω凝・
︵5︶ この点は後に賃借権を検討する際に論及する。なお、占有訴権は侵奪乃至不法の私力行使後一年に限られる︵八六一−四
条︶から、その期間経過後不法行為に基く原状回復として︵時効・八五二条参照︶返還を請求しうると解すべきか︵山田.来
栖・前掲論文二〇三頁、二〇五頁註︵八︶︶、占有権の性質上否定すぺきか︵田中︵整︶﹁占有訴権の機能的変化と占有権に関
する一考察﹂阪大法学一三号一一一頁註鋤︶明言したドイツの文献を見出せない。因○駅㊤・鵠曾旨伊Nごは、賃借権者の占
有の妨害に基く不法行為責任として金銭賠償が問題の事案であるが、判決は一般論として賃借権に対する妨害の排除は占有訴
権によるぺしとする、尤も、占有訴権の一年の出訴期間経過後のことまではそこでは念頭におかれていないであろうが。
︵6︶国臣①。8墓−い魯§臣︸¢ω払。。ど○①旨ヨ塁二二の・&南・払ひ畠・
︵7︶ 閃O一8・む℃︵.一九二二・一・二三第六部︶、︹事案︺は次の通り。甲はその家屋の調度品等の一部を二〇、○○○マルク
で原告に売り、原告から割賦払の最初の払込金五〇〇マルクを受領。しかるに甲は同日引続き他の調度品と共にそれを被告に
二四、六〇〇マルクで売却。後日、原告が残代金を支払って目的物の引渡を要求したところ、甲は、父親の所有物だから契約
を解除すると云ってこれを拒否。原告は、被告が高値を提供して、右のように云えと勧めて契約違反を誘致したとして、被告
,
を相手に訴を提起して、すでに甲に支払った五〇〇マルクの残額一九、五〇〇マルクの支払と引換に目的物の引渡を請求。︹判
、
い◎
債権に基く妨害排除についての考察 一九五
は前註︵7︶の閃O一8玉らを引用して、、・・シンの引渡をではなく、ミシンの占有と非占有との差額を補償する金銭給付を命
裁判所は被告甲に対する請求のみ認容して、その部分は確定。原告の控訴により控訴審は、被告乙に対する請求をも認容。乙
告は甲乙両名を相手どって、八二六条に基き、代金支払と引換に右五台のミシンの連帯債務者的引渡を請求して訴提起。地方
すぺての在庫晶と共に彼の全営業を乙に七〇、○○○マルクで売却して直ちに引渡してしまっていた、ということが判明。原
〇〇マルクで原告に売る。原告が、後日、代金支払と引換に、その引渡を要求したとき、甲はその前日に右五台のミシンを含む
︵10︶ 幻O一〇〇。・総︵一九二四・一・二五・第二部︶、︹事案︺は次の通り。甲は自己の営業財産に属する五台のミシンを三一、五
︵9︶ わが積極学説︵例えば、柚木・松坂博士、仮定的に我妻教授︶は、﹁債権の性質上﹂という理由でかく解する。
︵8︶ 例えぱ閣昌昌ooo段瑳−U①げ目帥昌Pωい一ψoo甜国9Fω8げ窪けoo,一旨︸菊○匡炉b。O曾一ホ誤V 5夢鴇O■
と第二の買主との間には、かかる請求権を基礎づけうるであろう法律関係は存しないから。﹂とした。
は売主による第二の売買契約の取消に基いてのみ主張されよう。かかる請求権は第一の買主には属しない、けだし第一の買主
を売主はそのとき第一の買主け原告に売買契約に基き引渡さねばならぬであろうfという訴権も亦存しない。かかる請求権
のみが義務を負うーを要求することはできない﹂⋮⋮更に﹁被告”第二の買主にその物を売主に返還させるIIそしてそれ
との差額である。﹁しかし第一の買主は第二の買主に対して⋮⋮その物の彼︹第一買主︺への引渡ーそれは単に対人的に売主
一の買主は第二の買主に対して八二六条に基き損害賠償を請求しうるが、それは売主のなすぺき給付とそれに対する反対給付
を契約に違反して更に第三者に売って引渡し、かつそれが第三者の良俗違反の不法行為によって誘致されたとするなわぱ、第
に存したような閃oo嘗国母留鼠①はωOωによれぱ売買契約によっては基礎づけられない⋮⋮。売主が他人に売却した物
に対する純粋に対人的な請求権である︵伽&ωゆ○ω︶。ドイツ帝国の以前の地方法︵例えばプ・イセン︸般州法−条文略すー︶
決︺はこれを棄却していう。原告と甲との売買契約は﹁売られた物の引渡と、その上への所有権の取得を請求する買主の売主
q
一橋大学研究年報 法学研究2 一九六
ずべきであるとして上告。︹判決︺は上告を棄却して云う。当裁判所は﹁ωO閃二四九条によりまず生ずぺき原状回復へZ暮信,
養冒曾韓色三嶺︶の概念のそのような狭い理解には賛成しえない。もとより物の原告への引渡によっては それは前に判決
された揚合[勾○一8一&呂と全く同様であるが﹂原告は売買の目的物を彼の売主から未だ引渡されていなかったとい
う限りでは、損害惹起の事件の前に存した状態は正確には回復されないであろう。しかし,:..。損害賠償を義務づける事態
︵dヨω5p伍︶が生じなかったならば存したであろう状態︵N島5ロα︶を回復すべき二四九条の規定は、単に以前の状況︵oop,
昌ポoQ①︶をのみならず、損害を惹起する出来事がなけれぱ経験法則上すぺての蓋然性により生じたであろう事物の発展をも把
握するものである。本件においては、原告は、甲と乙との良俗違反の協働がなければ、甲との彼の契約に基きその引渡請求権
を甲に対し直接に貫徹することができたであろうし、そしてまた1特別の事情の存しない場合肯定されるように1実現も
していたであろう。﹂として、第三者乙も亦ミシンの引渡の貴を負うとした。なお、因○一8り台Oを変更したものであるが連
合部民事法廷を開く必要のないことをも法規を引用して論じている。蝕露〇一一く牲’涛O囚〇一5ヨ・H伽Nお¢ミ伊
なおこれより先の崖90富詔旨戸8︵むOα︶Z戸o。ooψξ一南に、同趣旨の第五部の一八九六年︵一九〇六年の誤植であ
ろう︶二月一七日判決がある。甲が他人から買って未だ所有権移転︵︾βφ器讐昌の︶を受けてない土地に、原告のために通行地
役権の設定を承諾してあったところ、甲の息子乙が売主から所有権移転を受け、かつ地役権行使を妨げるであろう建物を建て
た。原告は甲乙を相手どり、地役権行使を妨げる限度であ建物の除去とその登記を請求して訴提起。判決は、乙についても不
法行為が成立するとして、損害賠償たる原状回復として、右請求を認容。
︵11︶ 前註︵10︶の判決の外、例えば勾Q一象一球O卑︵一九四〇・一一・二七・第二部︶も、前掲因O一〇〇。一$。及ぴ次註
︵12︶ 因の一&︾Nミ︵一九三四・二・五・第六部︶。︹事案︺は簡単化すると、原告の夫と、甲と被告とは兄妹の関係にあるが、
︵12︶の判決を引用して同旨。
,鶏
D
・q
債権に基く妨害排除についての考察 一九七
の判例は否定して債権的請求権に制限し︵沁○=9巽︶︵雲9<屯,沁O内oヨ5 H㎝さoooど一︶、学説は分れる︵<笹,国≡5−
ヤ ヤ ヤ
的請求権﹂である揚合、第三者に対する金銭賠償につき、かつての判例は代償請求権の適用を肯定したが︵ヵ〇一雷・oc轟︶現在
ヤ
八一条の意味では被告は第三者ではなく債務者にあたる、︿魑寓呂ヨきP砕ごO︶。原告の債務者に対し有する権利が﹁物鞭
義務を生ずるとしたが、結論的には、本件は損害賠償の問題ではなく本来の契約当事者間の契約内容に基くとする︵従って二
由を、前註︵10︶の閃○一〇〇。・総を引用して斥け、いかなる過失もなくても二八一条により受領したものを新債権者に引渡す
決︺は、被告の、二四九条の原状回復は被告が債務者︵11甲の相続人︶に返還することを要求しうるだけである、との上告理
所有権を取得︵︾ρ鼠霧一5閃︶したので、原告は契約解除に異議を唱えて所有権譲渡を求めて訴を提起した事案であるが、︹判
文書契約で売り、原告が引渡を受けて管理していたところ、被告はその後契約解除の通知をして、甲の相続人から被告自身が
ら購入し未だ所有権移転を受けていない土地を或る種の取極めの下に原告に﹁譲渡のために﹂︵N霞卜9話9昌的︶と題する私
︵15︶ この点を肯定.否定ともに明言する文献を見出しえない。幻¢=ど賠℃︵一九二五・九・二六第五部︶では、被告が甲か
れていないわが民法の下においては、本制度による債権者の妨害排除は問題となりえないし、また、されてもいない。
︵14︶ わが国でも、ドイツ民法典に倣って解釈論上代償請求権は一般に肯定されているが、損害賠償としての原状回復の肯定さ
︵B︶ 前述本節二↑︵二︶⑥の説明、同所の註︵9︶︵10︶及ぴ前註︵8︶の説明乃至文献参照。
認容。
護法規違反の不法行為となるとして、損害賠償たる原状回復として、前掲註︵10︶の園の一〇〇。℃紹を引用して、原告の請求を
提訴。︹判決︺は、被告の行為は刑法二八八条︵強制執行を無効化ならしめる財産処分行為︶に該当し、民法八二三条二項の保
告とが共謀して甲から被告へ右相続分を公正証書契約で譲渡した。原告は、被告に対し、その引渡と自己への登記を請求して
原告が死亡せる夫の相続分の返還を甲に求めて上級地方裁判所で勝訴したところ、その執行︵Nロσqユ融︶を免れるために甲と被
葦
一橋大学研究年報 法学研究2 一九八
8零霧−■呂ヨ磐Pψむど︻るお冒︾HψむO>昌βごが、この点は我々の問題とはかかわりはない︵ここでは原告の債
務者に対する債権的請求権が問題であるから︶。第三者から債務者が既に取得し、かつ債権者に引渡すぺき本条の﹁賠償﹂
ヤ ヤ ヤ
︵国歪聾9︶には、債務者の取得した所有権その他の物権、占有を含み、また原物であれ価格であるとを問わないとされるので
︵顛O囚oヨ目・ゆ鵠一¢雛ω︶、その限りで、債権者の原状回復的保護のために本制度は機能する、と解することができよう。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
更に、債権者が、例えば賃借人のように、滅失した目的物自体ではなく、その一定期間の使用のみを請求しうる場合には、二
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
八一条の類推により当該期間の使用に対応する部分についての賠償または賠償請求権を請求しうる、とされる︵聾三80震臣、
ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
い魯導きPψ一頴︶。しかし、債務者の第三者に対する損害賠償請求権を越えて、我々の債権者代位権の特定物債権保全のた
ヤ
めの拡張の機能するように、債務者︵例えぱ賃貸人11所有者︶が第三者に対しその返還︵乃至狭義の妨害排除︶を要求する物
ヤ ヤ
権的請求権を有する揚合に、債権者が本制度を利用して第三者に対し直接行使しうるかについては明かでない。債権者が物権
的請求権のみの譲渡を受けるということ自体不可能なことであり、かつ、本条の目的は、債務者が債権者に給付すぺくかつそ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
れが不能となった物に代って︵餌昌象①聾毘Φ島震の8幕︶存続して、債務者の財産となったもの、或はなるぺき請求権を把
ヤ ヤ
握すべきものであって、第三者が更に他に売却等して占有を喪失すれば権利の消滅する性質の物権的請求権には適用なきは自
明とするのであろうか︵く箪知O匡黛ω卸U跨①自︾H¢這9︶。
三 総 括
ドイツにおいては不法行為法の原則的規定たる八二三条一項の﹁権利﹂侵害をめぐって債権の性質に関聯する諸説
の対立があることをみたが、ここで再び抽象的孤立的に債権の概念のみを観察してその何れが正しいかを断定するの
は、あまり意味があるとは思えない。ここではさしあたり、次のことを指摘しておくことで十分であろう。
、℃,
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∼◎[
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日 詳細な不法行為規定を有するドイツ民法においては、八二三条一項の﹁権利﹂侵害に第三者による償権侵害を
︵1︶ ︵2︶
含むと解さなくても、債権者は第三者に対し、二八一条の代償請求権、八一六条の不当利得返還請求権による保護は
︵3︶ ︵4︶
勿論、更に不法行為法の枠内においても、或は8葺oざαq冒︾ρ巳凱器に対する8鼠03嵩のように法文上の原則的
規定たる八二三条に対する重要な補充的機能を営むべく制定され実際上は不法行為制度の中心的地位を占めている良
俗違反の財慶侵害という形で︵瓢紅︶、或はまた公私法にまたがる保護法規違反の加害行為という形で︵無二庭︶保護されう
るので、﹁最も著しく我々の法律感情を害する諸揚合には、切○ω禦欧収鶴罪噌戯也によっても亦満足な結果が導かれうる﹂。
へ5︶
従ってまた、債権の性質についての一見華々しい議論にも拘らず、その実質をさぐってみれば、折衷説の意図する通
説・判例との差異は極めて些細なものであり、肯定説と通説・判例との差異すらも、極言すれば、原則として︵献都拠置
ユ囎勒幽節C駐硫︶過失で足るか︵知、豪︶故意以上のものを要するか︵瓢紅︶の差異にすぎない、ともいえる。
口 妨害排除の問題ば、肯定説並びに折衷説のみならず、古典的相対権概念をとる通説的見解の下においても、占
有取得後は占有訴権によりうることは勿論であるが、取得前にも1八二三条一項によるにせよ、八二一二条二項乃至は八
二六条にょるにせよ1実質上右の第三者の債権侵害による不法行為の成立する限りで、その効果たる損害賠償の一態
様としての原状回復として、諸説の紛糾を惹起することなく肯定されており、しかもわが積極説すらも﹁債権の性質
上﹂という理由で固執している債務者への返還のみならず、事情によっては債権者自身への直接の引渡をも要求しう
ると解して、却ってわが諸積極説よりも弾力的態度をとっていることが注目される。
国 一般論としていえば、相対権としての債権の古典的概念構成について不可避的に再検討を迫る問題はその対外
債権に基く妨害排除についての考察 一九九
︸橋大学研究年報 法学研究2 二〇〇
的な面であろう。そして、債権者代位権︵蓮札倣剛鰍蹄峨伽蛇繭批Kい︶、詐害行為取消権︵鞍都継副ッ疑搬榔錯⑭曜研︶、及び代償請
求権︵一蘇︶については、あえて債権の古典的概念構成を変更するまでもなく夫々の法定の要件と効果によりそれなりの
理論づけが可能であってみれば、結局問題となるのは、第三者の債権侵害による不法行為の成立による金銭賠償、及
︵6︶
ぴ第三者に対する妨害排除についてであろう。わが国で債権概念の再検討がこの問題をめぐってなされたことは偶然
︵7︶
ではない。そしてまさにこの点につき、ドイツ民法典においては債権を相対権と解しても1否、起草者や通説・判
︵8︶
例によればその方が1先にみたように一応妥当な保護が得られる仕組みになっている以上、ドイツにおいては古典
的相対権概念を再検討し変更する実際上の必要性は一応存しないことになろう。この特殊”ドイツ法的事情こそ、後
にみるであろうフランス・英米そしてわが国におけると異り、現在に至るまでドイツの通説の大多数及ぴ判例をして、
その当否を意識すると否とに拘らず、古典的相対権概念を踏襲させかつそれを可能ならしめている原因である、とい
わねばならない。これらの事情を看過して、或はわが法の解釈論として不法行為法上の保護を全然否定し、或はドイ
ツの理論は概念法学の誤りであると即断・批難し、或は債務者の法主体性を尊重するものとして形式的に支持してき
︵9︶
たわが諸学説は、その限りで、何れもマトを外れた議論をしてきた、との感を禁じえない。
︵4︶国の器↓ψま2●
一〇四頁以下。
︵1︶ 原田﹁民法第七〇九条の成立する迄﹂日本民法典の史的素描所収三三七頁以下、 末川﹁権利侵害論﹂昭三一版四四頁以下
参照。
︵2︶ 原田・前掲 、 末 川 ・ 六 四 頁 以 下 、
︵3︶ 竃o怠<o︸=の。韻轟鯵
、亀
●
q
債権に基く妨害排除についての考察 二〇一
もしれない。この点を一瞥しておきたいと思う。
者にょる侵害との結ぴ付き、及ぴそれと関聯するであろう妨害排除の問題の処理の仕方は、わが七〇九条の﹁権利﹂侵害が﹁違
ヤ ヤ
法性﹂と置き代えられるぺきものとされている現在、ドイツ法における理論よりも、却って我々の問題に直接に示唆を与えるか
原則的規定たる一三八二条のみが問題となると思われるので、同条にいわゆる閣象一8.、とドイツで相対権とされる債権の第三
を招来する恐れがあることは先にみた。一方、フランス民法においては、第三者の債権侵害による不法行為貴任に関してはその
従来わが国で多く引合いに出されたドイッ法の理論をそのままわが法にもち込むことは、よかれあしかれ、マトはずれの結果
ヤ ヤ
第二健即 7ランス法
の立揚を擁護していることをも想え︵屡々引用してきた諸箇所の外、目8ぎの魯三昏・¢“。Rをも参照︶。
︵9︶ 概念法学を批難し利益法学を説くことで著名なヘックが、古典的相対権概念を踏襲し、かつ、ここでの問題に関して通説
︵8︶ 八四四条、八四五条との斉合性の破れることを度外視しても。
述の妨げとはなり え な い 。
定で決せられうるし、しからずとしても、ドイツ民法においては八二三条二項、八二六条でまかなえるので、本文の以下の論
︵7︶ その外に債務者による債権侵害がある。が、これは1請求権の競合理論と関聯するがー、契約関係についての特別規
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
︵6︶ 例えばわが国でいわれる、債権の執行可能性の保証のための例外とか、公平とか。
ψ&や因O鴇︸出oo,も同旨を明言する。
︵5︶ ○①詳ヨ践一P悶o韓のoげ旨hド¢oo9なお↓一9ρψお∼○・ρ悶一〇。Oげoツの,一象旧国目一80R彦−びOげヨ即昌Pω■O冨 目oO置
蚕
一橋大学研究年報 法学研究2 二〇二
一 概 観 フランス民法においては、第三者の債権侵害による不法行為責任としては二二八二条のみが問題とな
︵1︶
る。従って先にみたドイツにおけるような錯綜した議論はみられず、しかもその侵害可能性は一般に肯定されている。
そしてフランス民法における不法行為責任としての損害賠償も、金銭賠償とともに原状回復︵ポH曾畦葺一曾撃奉−
︵ 2 ︶
98︶が肯定されているので、占有訴権による保護を度外視すれば、第三者の債権侵害に対する妨害排除請求権が、
︵3︶
不法行為に基く損害賠償としての原状回復の一適用例として処理されうることは、結局ドイツにおけると同様である。
︵−︶寓一。Fギp一ab寅一占巨匹。﹃釜℃9毯区一猷2芭①温よ阜︵む器︶ロ。ξ一ひ。夏,㍉獣−一h訊︸目■。けび■三欝。窪ρ、勾−
巴ま些8言ρδg嘆p8話α。﹃お碧9壽げ一一まg<一一①α①一一g・・①一一Φg8導㌶。三亀ρδーH。よ阜︵一8。。︶昌。ロ一論gヨ
ωp<書。斜ギ巴菰α①ポ冨巷g器匡濠。一色①る。ひ阜︵ら蟄︶け﹂ロ。m一お①3凱皆琶即︾呂蔓g寄F瞠き一9園首。誹
9野ヨΦぎも同じ︵9応冒目三舘Φ慧9昌。一鵡︶。ただし、フランスで多く問題となる債務者の契約違反へ加担︵8日覧すa︶
する第三者の責任につき、Uo9£βΦ闇↓β一な匹窃o乞品暮す一の窪αq9一働葺ヴ<HHけ。一ドNひのみは契約の存することを知
りながらその否認を助けるという理由で契約責任とする︵o一ab畦い巴oF昌。謀ひ︶。
︵2︶ い巴OFβ。函ooooOけのこピ器窪β血戸目H轟。ひ今︵這8︶昌。・bo8い9ω凱ω簿く暮冨き壁目昌。・。治加9の∴ただしい一8δ−
貸6閃首①井Up詠℃騨旨けδ昌匹ロbま甘B8鼠霧一帥お巷9易呂三a山訟ざ言巴一ρ︵跨曾ob騨﹃δ這呂︶は金銭賠償のみとす
るようであるが、これに対するラ・−、サヴァティエの反論は後に触れる。
︵3︶ なお、8麟o昌℃陣三審ヨおについては後に触れる。
二 侵害可能性の理論的根拠 フランスにおいては種々の点でドイツと事情を異にする。第一に、ドイツ民法八二
,亀,
●
三条一項には﹁権利﹂という関門があるに対し、フランス民法ニニ八二条はより包括的な㍉程措、.があるかという
、 、 ︵1︶
、
ヤ◎,
の、
ことが問題であること、第二に、債権の相対性につきドイツ民法二四一条は﹁債権関係﹂︵の畠三穿①詩普ぎ一の︶とい
ヤ ヤ ヤ ヤ
、、 ︵2︶
う権利概念を聯想させる表現をとるに対し、フランス民法二六五条は﹁合意﹂︵一〇ω8轄Φ暮ざ塁︶というより社会
的事実関係を聯想させる表現をとること、更に第三に、既に述べたようにドイツにおいては八二三条一項の﹁権利﹂
に債権を含まないと解してもその他の不法行為規定により救済されうるが、フランスにおいては一三八二条が唯一の
︵3︶
ものであること。これらの結果、フランスにおいてはドイツと著しくその思考方法を異にし、ドイツの通説的見解が
その八二三条一項につきとるように債権の相対権という権利概念から演繹的にではなく、債権を組成する契約に基く
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ
債権者の利益の社会経済的事実関係が把握され、従って、契約当事者としての債権者の債務者から給付を受けるべき
事実上の利益が第三者によって侵害されうることは当然のこととして肯定され、従って、その侵害を不法行為の成立
要件たる貯客①の一般原則の一適用例として処理している。
すなわち、サヴァティェ及ぴマゾオによれぱ、契約の相対効を規定する一一六五条は、第三者には他人間の契約上
の債務を履行すぺきいかなる積極的行為をする義務もなければ或は第三者は被害者と保険業者間に保険契約の存する
ことを理由にその賠償義務を免れるなどのいかなる利益も受けないという意味で、他人間の契約の﹁効果﹂︵臨9︶は
ヤ ヤ
︵4︶ 、
第三者には及ばないというだけであって、他人間にかかる契約関係が存在するという事実そのものも亦第三者に対し
ヤ ヤ ヤ
ては存在しないとはいっていない、両者を区別することは重要である、とされる。更にサヴァティエは、第三者は契
︵5︶
約上の義務は負わないとしても、だからといって意識的に︵8蒙99き︶債権者の権利を殿損することは許されない。
かかる行為をしても勿論彼は契約上の義務違反とはならないが、不法行為責任の原因としてより高く承認された﹁他
ヤ ヤ ヤ ヤ
債権に基く妨害排除についての考察 二〇三
一橋大学研究年報 法学研究2 二〇四
︵6︶
人を害してはならない﹂という﹁一般的義務﹂︵倉<○貯αq魯禽鉱︶には違反している。これを否定するには、一一六五
へ7︶
条から他人を意識的に︵8議90巨目。旨︶害してもよいとする権利を見出さねばならないであろうが、本条から第三者
に与えられる権利は、合意︵α霧窪讐αQo旨讐諾︶がなされていても第三者はそれを調査する必要はないということ、
轟、 ︵8︶
︵9︶︵10︶
従って他人が第三者の悪意、すなわち侵害した契約の存在を第三者が認識していたということを証朋したときにのみ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
責を負うという証拠上の有利な地位に立つということーしかしそれだけのことーであるにすぎない、とする。
︵11︶
かくしてフランスにおいては、ドイツの通説的意味での相対権概念をとらず、かつ事実的側面を把握してかなり広
汎に第三者の不法行為責任が肯定されている。
︵−︶胤.⋮3については、すでに、岡松﹁無過失賠償貴任論﹂︵選書︶五〇九頁以下、末川﹁権利侵害論﹂︵昭三一年版︶一四一
頁以下、石本﹁過失の理論と歴史﹂民商雑三二巻特に四二七頁以下、更に近時、野田﹁フランス民法における鼠旨oの概念﹂
︵我妻先生記念論文集上︶一一一頁以下、のすぐれた諸研究がある。これらを参照。
︵2︶ フ民一一六五条﹁合意︵一①の8pく①暮δ房︶は契約当事者間における外、その効力を有せず、合意は第三者を害することな
く、かつ合意は一二二条︹第三者のためにする契約︺に予想された場合の外、第三者を利することなし﹂。
ドイッ民法二四一条は債権者の債務者に対する権利のみを規定し、第三者に対する関係には触れていないので、或る意味で
は、債権の相対効については、却ってフランス民法がより明確であるともいえる。
︵3︶ .﹄の.一とはパンデクテン体系をとるドイツ民法とインスティッチオーネン体系をとるフランス民法の構造的差異とも関聯
しようが、本文のようにいうことの妨げとはならないであろう。
P
︵4︶ 竃器o彗一9戸H昌。舘oo︸ωρ<碧一巽︸戸Hロ。一食。
も
,
、盈﹃
債権に基く妨害排除についての考察 二〇五
︵9︶ 以上、ω貰β自oきfH一一。猛命
様に解すぺしとする︵勢く葺一實し■H昌。軍曾U巴oロしσα■︶。
ないならぱ別であるが、登記法は第三者の安全の確保のためではあっても悪意のそれの利益のためではないとして、前者と同
ェ、ラ・オは、前者については、譲渡の方式は第三者を安全ならしめるためのものであって悪意の者にプレミアムを与えるた
ヤ
めではないとして判例を支持するが、後者については、不動産の善意の取得者が取得後に未登記の第一の権利を知ったにすぎ
謀︵一①088旨囲β以α三窪図︶を要求している︵の即く諄o茸戸一口。一&︾﹂ゴ一。89い巴oF#。刈獣σ訪参照︶。サヴァテイ
欠飲から利益を得んがために、第二の契約を先に登記して第一の契約を無効化ならしめんとする債権者と第三者間の詐害の共
約の存在を第二の契約者たる第三者が登記以外の方法で認識︵8葭6誘目8︶していただけでは足りず、第一の契約の登記の
譲渡された債権の悪意︵旨壁そ巴紹♂一︶の取得者の責任を肯定し、一方、登記されるぺき契約については、未登記の第一の契
︵第三者に対しては公正証書ーなお日民四六七条参照︶を要するが、判例は、原則に忠実に右方式がとられていなくても既に
あるが、特に債権譲渡の揚合と登記されるぺき契約については問題がある。債権譲渡については一六九〇条により一定の方式
ヤ ヤ
︵8︶ 第三者の主観的要件としては他人間の契約の存在の認識を要し、かつ単なる認識で足ることは一般に認められるところで
︵U霧︷践厨冒吟臨o蟄菖誘︸O鳩①の“㌣α胃〇一窃α目9富αO昌三3︾魯βπ9︶を論じている。
︵7︶ の騨く魯一醇︾﹂ロ。のま9幹は、﹁他人を害しない一般義務﹂違反︵前註︵6︶︶の﹁免責事由、即ち他人を害しうる権利﹂
承認されているようである、詳細は野田前掲論文参照。
↓巴号諾唱舘昌良お帥四β貫E︶を論じている。なお鼠旨oの内容として、広い意味での﹁義務違反﹂をおくことは一般に
︵6︶ ののく簿凶曽︾.Hロ。。いUΦけoq一は、雷ロびの要素として、﹁他人を害しない一般義務の違反﹂︵<δ鼠謡oロ自ρ匿<o旨頒魯ひ−
︵5︶ 契約上の権利の殼損されうることは当然のこととして前提視されていることに浅意。
、い
︸橋大学研究年報 法学研究2 二〇六
︵m︶ なおこの外に、二重契約による債権侵害の第三者の責任の根拠として、適法な行為をする権利はすぺての他の権利と同様
に乱用され易く、他人を害する意図でなされるときは乱用であるとの権利乱用理論や、b寅三£↓↓巴菰色①ヨ①葺,盆号o旨
o一≦一#。盆蒸’目ロ。おNのようにパウリアナ訴権︵詐害行為取消権、一一六七条︶は﹁不正の︵竈す3︶行為から生ずる
補償︵ぎ8ヨ巨叡︶の訴権﹂であると解され︵o一菰℃雪冒巴2一﹄。認やH︾︶、この精神からして、第三者の詐害の意思︵8塁−
oξの剛β呂芭、すなわち侵害に加担する契約の認識あるときは不法行為貴任も生ずぺし、ともされる︵び巴2二三今参照︶。
なお、バウリアナ訴権が債務者と第三共犯者の責任を根拠づけることにつきω髪暮すき目。ひOρなお本章本節三註︵7︶。
︵11︶ 契約違反への誘致による不法行為については、使用人、出演契約者、商業取引について多くの判例が報じられかつ学説に
より支持されている。ここでは、商業取引に関する判例に現われた事例を若干挙げておく。ω商業取引においては屡々買手の
る転得者は、この制限を課した人に対して責任を負う︵ピ巴oF旨。認P㏄薯暮すき戸H昌。一摯参照︶。回製造業者が直接の
権利に制限を加える。例えぱ、転売の最低価格を遵守すべき約款の存することを知りながら、この制限に違反して之を購入す
買主に輸出を禁止した商品を、それを知りながら輸出した転得者も同様︵い巴OFロ。認廿の帥く跨一曾=9阜参照︶。的既に他人
との売買または賃貸借契約の存することを知りながら、当該目的物を自分に売らせ、賃貸させ、または抵当権を設定させる第
三者も同様。榊他人に譲渡しないと約束された物、例えぱ劇揚優待券、鉄道の連絡乗車回数券を、そのことを知りながら取得
した第三者も同様︵U巴oFb。お∋ω国く牌ユ零=σ負参照︶。余りに広きに失しないかとの感はあるが、限られた資料による軽
卒な評価は慎むべきであろう。右と異り、契約によらない事実上の侵害については殆んど論じられないようであるが、この点
については後述本節三註︵8︶参照。
ひ
三 妨害排除 不法行為に基く損害賠償として金銭賠償と並んで原状回復が肯定されることは先に一言した。原状
も
吻
債権に基く妨害排除についての老.察 二〇七
契約によらない事実上の債権侵害に対する不法行為に基く原状回復は、あまり論じられていないが、占有を取得し
︵7︶
債権保全のために同様の機能を営んでいる。
為取消権︵8試8評巳一窪蕃︶も、フランスにおいては制度の沿革を離れて、二重契約による債権侵害の揚合特定物
いる。以上の処理の仕方はへ先にみたドイツにおける原状回復のそれと結局は同様であると思われる。なお、詐害行
︵6︶
合、債権者平等の原則を破る一種の︵先取︶特権︵ロ冨8旨Φ留質貯まαqΦ︶を与える結果となることが肯定されて
︵ぎ8一達巨昌︶責任を負い、従って債務者の契約上の壁客①と第三者の不法行為上の鼠三①とは共通の責任に結合さ
︵5︶
れ、第三者のなすべき回復︵﹃9畦跨δ昌︶は債務者のなすべきそれに準ずることとなり、従って債権者には、この揚
抵当権の取消、及び債権譲渡の取消も同様である。そしてこの揚合、第三者は、不誠実な債務者とともに連帯して
︵3︶
約をそれにとって代らせ回復させることとなる。第一の売買契約に抵触する・悪意の第三者と債務者間に締結された
︵4︶
害した第二の契約を たとえ登記がされていてもー取消し、第二の契約によって無効化ならしめられた第一の契
して、既に第一の売買契約の存することを知りながら不動産を取得しかつ第一の買主より先に登記をして右契約を侵
て処理されうる。これをフランスで多く論じられる二重契約による債権侵害に関していえぱ、裁判所は、原状回復と
ところで、第三者の債権侵害に対する債権者の妨害排除についても、この不法行為の効果としての原状回復によっ
量に属する、と解されている。従って原状回復の態様は、具体的事件に応じて多様でありうる。
、 , ︵2︶
復のいずれを命ずるか、また両者を組み合わせて命ずるか、及ぴ原状回復の具体的方法については、裁判官の自由裁
ヤ ヤ ヤ
︵1︶
回復の具体的内容として如何なる範囲のものが包含されうるかについては問題がないではないが、金銭賠償と原状回
尋
一橋大学研究年報 法学研究2 二〇八
た債権についての占有訴権による保護で実際上足りているからであろうか。しかし、理論上はーいかなる程度の処置
が具体的になされるかは別として−不法行為に基く原状回復の保謹を受けることを否定すべき理由はないであろう。
︵8︶
︵1︶ 判例は広く認める。㌻ロオは、本章本節閣註︵2︶に挙げたU・困需ユの9駐①に対する反論をもあわせて、判例が原
状回復として命じたもののうちには、工事の差押処分・破壊等、的確には蒜℃醇諄δロが問題ではなく、損害を消失させまた
は反覆を予防する孜術的処置もあるが、損害は既定の事実であり、それが恰も生じなかったかのようにすることはできないこ
とで、金銭の支払も、将来において継続する損害を遮断するための技術的処置にすぎない、として判例を支持する︵び巴oF昌。
o。o。b。︶。サヴァテイエは、用語の争に帰するとして炉ヵ60旨に反対しながらも、権限なくして抑留された物の返還、他人へ
の侵害の停止、他人の氏名の不正使用の中止等は、詠6貴暮一9ではなく、鼠廊露ロ○口が問題となる明白な損害︵弓厳甘e8︶
を生じたときに、それに附帯して現れるにすぎないとし、建築家によってなされた欠陥のため建築物の耐久性が危ぶまれると
きの欠陥の除去、名誉殿損者の訂正の広告など毅損された事物の状態の回復︵器8島試昌試2史一昌帥審8︶がま冨声該曾で
あるとするが、前者の場合にも別の観点から、これを金銭賠償と併合して請求しうるとする︵の帥く跨δ♪目口。隣$い99け
H昌。5N参照︶。
︵2︶ 留奉怠震碁・目口。$Nこい巴2昌。o。陶ただし、損害より大なる賠償を命ずること︵留く卑富きび置・︶、及ぴ、何人も絶
対に行為を強要されない︵房ヨo冥器9器践壁o酔ロヨ8屯宕器警︶の原則により、被告の個人の自由を侵害する賠償の方
︵3︶ 留く暮ゆΦ帰蓉﹂昌。一轟ざ戸目昌。8ρなお前述本節二註︵8︶参照。
法を命ずること、はできない︵一﹄δF⇒。O曾留く葺δ噌﹂玄黛累器Φ塁9戸目昌昌。88︶。
噛
︵4︶︵5︶留毒け醇トH昌。峯N. ︵6︶の薯呂9一H=一。ひ。o
“
い◎
債権に基く妨害排除についての考察 二〇九
り、家畜と同様主人の所有物に近いものであったから。
、 ︵4︶
の同意とはかかわりなく主人に対する多くの拘束を課せられ、それは、当時未発達の契約というよりは、むしろ身分に基くものであ
ヤ ヤ ヤ ヤ
る主人の保護、そして両者の訴訟形式の混同の過程等は、未だ我々の問題と同一に論ずることはできない。彼等の法的地位は、自ら
は持てないが、それが実質上いかなる保護を受けているかを知ることは、ややもすれば劃一的・観念的になりがちな我々に、
︵1︶
保護の必要性等に関して却って示唆を与えうるかも知れない。そのような意味で一瞥を加えておきたいと思う。
ヤ ヤ
一 債権侵害の沿革的概観 主従関係︵目霧け醇帥匿器ミ帥暮︶における従者の労働力の第三者の暴力による喪失に対する主
へ2︶ ︵3︶ 、、
人の保護、一三四九年の大黒死病による労働者の激減に直面しての農業労働者確保のための一連の立法による労働者の誘致に対す
ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ
法体系を異にする英米法の議論が、大陸法の基本体系に関聯するここでの問題の解釈理論として直ちに利用しうるとの期待
第三節 英︵米︶法
合の賠償の方法は明かでない。
すぺく︺判決された債務者に対してにせよ、泳廊β島9一しなけれぱならない﹂という。ただし、そこに引用された判例の揚
物の・運送またはその他の債務の履行を妨げる盗人は、その不履行によって害された債権者に対してにせよ、債権者に︹給付
うるのを妨げる第三者は、その不履行のもたらした損失を蒙る者が債権者であれ債務者であれ、責を負う。⋮⋮かくて、特定
︵8︶ 留く葺一震罫﹂ロ。一≒σδは、一九四九年以後の若干の判例を引用して、﹁矧暮Φある行為により契約が正確に履行され
一−四二頁参照。なお同・民商雑一八巻二、四、五号。
︵7︶ 前述本節二註︵10︶。なおこの点については、この態度に批判的な松坂﹁帥9ろ昌勺即巳一窪冨について﹂民商雑三一巻四号
◎
︵5︶
一橋大学研究年報法学研究2 一二〇
近代的債権の第三者による侵害に基く不法行為責任は、周知のダ巨一2く,の岩︵一八五三︶により、従来の主従
︵6︶
関係を越えた人格的労務︵需誘雪巴。。霞≦8︶を目的とする債権侵害につき肯定され、ぎ≦窪ダ閏亀一︵一八八一︶
を経て、一八九三年8Φ目需詳魯<・国ロ誘。二により人格的労務に限らず一般の契約違反の誘致も訴えうることが明
︵7︶
かとされ、更には9≦、溶い践、︿,U琶一ε幻5げ900、ピ氏。︵一九二六︶にみられるように誘致以外の手段によ
︵8︶ 、 、
る契約侵害にも拡大され、今日では契約違反への誘致のみならず、償務者自身に侵害を加え或は契約の目的物を破壊
ヤ ヤ
することにより債務の履行を不能乃至困難ならしめることによる契約関係の侵害に対しても不法行為貴任の肯定され
ることは疑問がない。この英法の法理は米国にも導入され、二三の州を除いて大多数の州において承認されている。
︵9︶ ︵10︶
︵1︶英︵米︶法の検討については、その歴史的考察は不可欠であろタ。特に、妨害排除については、動産並ぴに不動産保護の
諸訴権がいかなる社会的背景の下にいかなる諸訴権相互のからみ合いの中で変質を遂げ現在に至ったか、を跡づけることなく
しては十分な理解に達しえない。しかしまた、すぐれて歴史的な背景をもつこれらの諸訴権の検討が直ちにわが法の解釈理論
として利用しうるものでもない。わが法の問題の所在を見極めんがための手掛りを得んとするにすぎない本稿においては、現
代法を中心として本稿の目的に関係する限りで結論的に拾い上げて綴ることで満足する外はない。
なお、引用する判例のうち、既にわが国に紹介されているものは、紙面節約のため事案を掲げないこともある。
︵2︶ ただし≦営留耳い騨≦98拝㎝①島・C8eド$﹁物の売買のようなより一般的性格の契約に関する例がない訳ではな
いが、それは極めて稀であった﹂。
︵3︶○&言き。①oh9ぴ。弩。βN9国貸く一目脚9Φのけ餌菖30胤匿げ。瑳Φβ霧曽素目■
︵4︶ 以上、男■中oop図巳ρHロ山=o菖αqげ器8げ900三壁oFま閏即吋ダr肉Φ<,ひa雲詔ρ ρ嗣Oρ↓℃Φ馨Φき冒8鷹霞R8Φ
,事
P
、身
︵9︶9壱①旨①5謡一1N■ ︵10︶の逡βひNご9な①旨Φ擁﹄Qρ
旨旨99畦審馨U轟巴b3げ一〇ヨ。。一︵一〇敏︶8 塚本﹁英国不法行為法に於ける債権侵害﹂新報五七巻一六二〇頁等。
︵8︶ 口8畠畠↓い閃いま︵直接参照しえず︶。箏案については≦ぎ留年8曾b避一声け富8誹9冒5篤霞魯8≦算げ8,
<・O岩を利用し、その基礎を拡げた、と評している︶。
トに根拠をおくぺき事案であったのに、当時の英国の裁判所においてはこの法理が殆んど発展していなかったため、いβ目一2
労務︵需誘9・巴の巽≦8︶に限られるか、ということにあった︵なおの3、β鶏oコBは、本件は被告による不正のボイコッ
圧力を加える目的で、原告との取引を停止することを労働争議の脅迫により誘致。問題は契約違反の誘致に対する訴は人格的
︵7︶ 口o。8]一〇ω配い原告と建築材料の購入契約をしていた或る建築業者に対し、同業組合の役員である被告が、原告に
︵6︶ 口o。oo二ひ◎のU鵠い特殊煉瓦の製造方法を知っている労働者を競争相手方が誘致した事案。
張した判例がなかったわけではない︵鑑0跨需葺の5謡一員Hαp︶。
数意見は@を肯定︵留胃ρひ鶏IO旧≦ぎ瀞耳8一による︶。ただし、この以前にも、ヨ舘3特きα器ミ講馨関係を越えて拡
しからざれば従来のサ㌧ハントの誘致に関する原則はこれに適用されるか、にあった。裁判所は一致して㈲を否定したが、多
ない契約をした≦お昌窪歌手を、情を知りながら他劇揚の被告が誘致した事件。問題は、ω≦¢のロ9はサーバントか、@
︵5︶ 口o。訟]N国勲国舘ひ︵ただし直接参照しえず︶。特定期間専ら原告側劇揚に出演し原告の承諾なくして他劇揚に出演し
法学研究三〇巻一号三五頁以下参照。
’ξ爵9旨ヌ9力巴暮δ一あ占=翁<ー炉閃oダ認o。①一る。8ンくぎゅ巴侮﹂9禽∴小林﹁英法における債権の侵害と不法行為H﹂
⇔
債権に基く妨害排除についての考察 二一一
債権侵害の理論的根拠 英米法においても亦、契約の効力は当事者間にのみ及ぴ、債権者は一般第三者に対し
二
、 、 、 、 ︵1︶
一橋大学研究年報 法学研究2 一二二
契約上の権利を行使しえず、その意味では相対的効力を有するにすぎないことは大陸法におけると異らない。それに
も拘らず、英米法においては、ドイツ民法八二三条一項に関するドイツ、及ぴわが国のように観念的な権利概念では
ヤ ヤ ヤ ヤ
なくして、フランス及ぴドイツ民法八二六条に関するドイツと同様、具体的な契約関係の第三者による事実上の侵害
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
が問題とされ、従って今日、契約の第三者による侵害の可能性はむしろ当然視され、それを論証するためにかつての
︵2︶
わが国におけるように、権利の性質論と関聯する特別の理論づけはなされない。すなわち、かつては第三者の不法行
為責任の根拠を悪意︵三之≡︶または意趣︵ω℃津Φ︶の意味における犯意︵目呂8︶に求めることを示唆した判決も
あったが、◎巳p昌ダU雷跨Φきにおいて竃8轟鹸窪窪卿は、﹁その[旨邑曙ダ○諾]判決は犯意ある意図の故ではなく
︵3︶
ーそれはその訴権の眼目ではなかったと吾人は思うー、知りながら︵すo≦貯αq蔓︶なされた法律上の権利侵害︵鎚≦〇一彗凶書9
一茜亀門蒔窪︶が訴訟原因であり、法律によって承認さ払た契約関係に干渉すること︵8ぼ3篇9Φ︶は、その干渉を正当ならしむる
に足る事由︵。。二B9①艮甘昌浮讐凶曾8弓9①ぎ3篤雪窪8︶がなけれぱ法律上の権利侵害である、という理由で正当であった、﹂
と述べ、この原則が、爾来第三者の債権侵害に屡々適用されてきている。かくして現在では、正当事由なくして故意
︵4︶ ︵5︶
に他人の原告との問に締結した契約の破棄を誘致乃至惹起した者は損害が生じたときには原告に対して不法行為責任
︵6︶ ︵7︶ ︵8︶
を負う、ということが、より詳細な理論づけを伴うことなく英法上の確立された原則となり、問題はむしろ、消極的
な側面から、契約侵害があった揚合いかなる事情があれば右の免責事由の抗弁︵q臥窪89置ω什58江曾︶がされう
るか、ということにある。
︵ 9 ︶
麟、
︵m︶
その具体的事例をここでいちいち検討することは本稿の目的にとって必要ではない。これを要するに、英米法にお
禽
▲﹃
いては、契約関係の事実上の面に着眼し、従ってその第三者による侵害の可能性は当然視され、我々の債権の相対効
ヤ ヤ
との関係での問題等は、かかる侵害が不法行為責任を生ずるかにつき考慮されるべき免責事由︵一房け5審江窪︶の有
ヤ ヤ
無の評価において処理されること、及ぴ、それがわが不法行為法におけるいわゆる﹁違法性﹂の評価と類似の機能の
ものであろうこと、を確認しておけばここでは足りる。
︵1︶ bo一一〇身、のb泣8首一窃9Ω∪再声。“嵩の阜︵ち8︶一$1αρ一B・なお、いわゆる﹁第三者のためにする契約﹂について
は英法と米法とで取扱を異にするがここでは考慮を要しない︵鑑ω一ヨ甥oP国きαげ8犀9島①U9ミ99暮声9スお汝︶NOO
切o≦op<’国包一[ドoooo昌ひO国U鵠o。。o節の帥胃P象9≦.巨P①一ρひO一ー
例えば、ωp頃PΩ胃一︶魯$サb曙昌ρ≦ぎ留一“の鼠ヨ94らの本問題に関する標題を見よ。
9器ρ ぎ=8置ぐo簿ω呂。︶
︵3︶
口8占︸ρ凹ρ︵直接参照しえず︶。り逡昌ρ℃轟1ど留一ヨ8ρ○ロ跨o■聖<9↓95さa︵這ホ︶爲ー甜の3qρ
︵2︶
︵4︶
oh閲魯曳βρO軌■
等に引用され て い る 。
︵5︶
の巴e曾ρま押≦ぎ留一ρ$Pなお、通常の不法行為は過失で足る︵鑑℃曙昌ρ一8︶に反し、第三者の契約侵害は、
ひ刈9
︵6︶
または聲暮①の意味におけるヨ巴ざ①は不要であるが、故意︵日認識︶を要すると一般に解されている︵≦冒留一ρ
8ど8∋ω巴ヨ9一ρま分b曙器レ8ー一2ただし彼は動機ヨ9オ①も屡々考慮の要がある、とする︶。米国の判例は屡
自や≦二一
$担
々要 件 と し て誉巴8Φなる用語を用いるが、それは≡ミ三または。。首8を意味せず、その具体的内容は必ずしも一致せず、
は
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ん
ど
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巽 従っ て 実際
な 用 語 に な っ て い る こ と 、 留 属や
I参
N照。ただし、O鷺℃Φ−
債権に基く妨害排除についての考察 二一三
Q
)
一橋大学研究年報 法学研究2 一二四
三9︵慕Nー鳶︶は或る揚合には過失についてら責任を認むぺし、とする。なお、三9けR自自器暑琶一関係に起源を持つ雇
主の債権の第三者による侵害は過失で足るとされているが、使用者の債権を検討する際に触れるであろう。
︵7︶ ただし、○貰需旨震は、従来余り論じられていない﹁保護される利益﹂を明確にしたい、として次のような示唆ある主張
をする。約束者︵鷲9艮ω9︶に関して被約束者︵層oヨ一ω①①︶が有する利益︵一馨雪霧け︶は契約の履行を受けることにある。彼
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
はまた、契約に基く権利の履行を妨げるかも知れない第三者からそれを自由にする点で、第三者に関しても利益をもつ。不法
ヤ ヤ ヤ ヤ
行為を原告の利益という観点よりむしろ原告の権利︵コの算︶という観点から定義づけようとする企てと、侵害の方法を定義づ
ヤ ヤ
けようとする企てとは、屡々誤れる結果を招来している。原告は契約により権利を有するからこの権利を破壊する侵害は不法
ヤ ヤ
行為を構成するという考え方︹後述のように我国ではかつても現在もある︺からすれば、契約上の権利のないときは原告は第
三者を訴ええず、逆にまた、すぺての権利は絶対的で無条件のものであうからいかなる干渉も法の救済を受けうる不法行為
︵臼一轟箪脅8一嶺︶を構成する、ということになろう。これは、契約に基く原告の権利の制限された性格を看過している。被
約束者の約束者に対して有する権利は、必ずしも第三者にとってその権利への干渉を差し控えるべき権利を意味しない。問題
は、それがいかほどに第三者に対して保護されるぺきかということである。先例は第三者に対するこの権利を財産権︵餌冥o−
o
需暮鴇鼠閃算︶と呼ぶのを常としてきたが、そのことを認めるとしても、われわれはそれによってはいかほどに或はいかなる
種類の侵害に対してその利益は保護されるかを決定することはできなかった。何故なら、諸財産権︵鷲8臼蔓ユαqげ厨︶に与え
られる保護は権利の性質によって異なるからである。われわれは、その利益がいかなる程度に或はいかなる侵害に対して保護
されるか、そしてされるべきかということに関心を持つ程には、それが財産権か否かには関心を有しない︵謡Nl高︶、と。
︵8︶ ただし、近時、控訴院はU’ρ↓ぎヨ。。2一き○ρ<,U窪匹昌口獣呂○宣ひまにおいて、その要件をより厳格にしよう
とする。屡々引用する︸、3、諾︵9R話暮■罐巴一︶8三窪メむ匁︶は、この判決を詳細に扱っている.、
,禽
●
ン
’揮、
債権に基く妨害排除についての考察 一二五
︵
一 英法の財産権の体系は、我々の物椎・債権のそれとは異り、その封建的法理の影響の下に、物自体の特定回復を請求しうる物
論的に拾っておき、後に総括することで満足する外はない。
三 妨害排除 妨害排除請求権については、その大陸法との差異は顕著である。ここでは英法について現代法を中心として結
による契約侵害にはいかなる揚合にも免責嘉由はありえない、とされていることを記すにとどめておく。
︵10︶ のΦρ○畦需馨o♪N&1ひごb醇犀レ$1富 ≦冒留耳ひ宝−頓あ匙琶目αb象ーひ暴力・脅迫等、それ自身不法な行為
の評価と同じことであり、二重契約等についてのキメの細い検討は我々にも示唆を与えると思われるが、詳論は控える。
には、不可避的に政策の問題︵ゆ2霧慧目9℃巳一2︶であるとする。要するにこれらは、結局、我々のいわゆる﹁違法性﹂
の利益は必然的にすべての他の利益を犠牲にさせるほど絶対的なものではなく、結局諸利益のバランスの問題であり、基本的
期間の定めのある契約については行為者の目的等にょり揚合を分けて考察する︵N参IN9︶。留属ρひo。一1ざ一も亦、被約束者
地から、任意に終了しうる︵一實Bぼ卑三Φ暮葦ε契約についてはよりよい条件の提供により違反を誘致するのは特権があり、
二重契約につき、第一の契約の存在を認識していなかったら免貴され、しからざれぱ免責されない、とし、或は自由競争の見
︵
前註︵7︶に述ぺた○彗廊葺零は、社会的諸利益の比較により責任発生の有無は決すぺしとして、免責事由につき、例えば
一σ罫︸≦冒留置﹂﹃傘︶。ドイツ民法八二六条の取扱と全く同様といえよう︵本章一節一=註︵11︶回参照︶。
契約破棄者に対する誘致者の関係−⋮違反の誘致の目的﹂が綜合的に﹁考慮されなけれぱならない、﹂とされる︵の巴旨o昌ρ
囚ω鴇轟−軌︶﹁破棄された契約の性質、その契約に対する当事者の地位、違反の理由、違反を誘致するために用いられた手段、
うが︵≦三留一“8轟︶、ヵo日雪判事も云うように︵Q冨日oお即昌Oo緯○ρダωoβ夢≦巴霧竃⋮Φ3唄、①号審怠oP口8呂N
︵9︶ 正当事由の限界は一義的に定義づけられていないし︵留ぎぢ一具ま∋鑑︸曙き弘81一い︶、またそれは不可能でもあろ
尊
一橋大学研究年報 法学研究2 一二六
的訴訟︵お巴零二〇εを基礎とする物的財産権︵審巴鷺ε霞芝︶と、人に対し金銭賠償を請求しうるにすぎない人的訴訟︵一︶①諾9
属し、その他はすぺて後者に属するとされてきた。
昌巴85目︶を基礎とする人的財産権︵究窃曾巴冥8巽蔓︶に分けられ、前者には土地の自由保有物権︵ぼ8ぽ匡霧鼠5︶のみが
︵1︶
︵1︶ 田中和夫﹁英米私法概論﹂︵昭二四︶一一一頁以下、一三七頁。
れ、土地自体の回復を請求しうるこどとなり、その手続の実効性と簡便さは自由保有物権者をしてその有した冗長煩
二 不動産 人的財産権のうち不動産定期賃借権︵Φωけ葺oh自巻畦ω﹂Φ器呂・犀霧け緯①︶については、その社会経
︵
済的重要性が承認されるにおよぴ、ニニ世紀から一五世紀末に至るまでの徐々の発展により且①9ヨ①旨の訴が認めら
︵1︶
︵2︶ ︵3︶
︵5︶
雑な物的訴訟を捨てて種々の擬制により怠Φ9ヨ。旨の訴を利用せしめることとなり、一八三三年の男Φ紅零8段受
︵4︶
瓢日一鼠ぼ8により既に用いられなくなった物的訴訟は廃止され、&Φ9目①旨の訴は8試曾h8昌08話q9一きq
の名の下に現在では土地への権限︵鼻一①︶を有するすべての者のために、土地の占有の不正の侵奪︵寅パぎの︶または
︵6︶
適法な占有期間満了後の不正の抑留︵α9a巳夷︶に対する占有回復のための普遍的手段となっている。
︵7︶
そして右の訴提起権者は、﹁即時に占有すべき権利﹂︵吋蒔算8一巨旨Φ象緯Φ℃8器匿2︶を有する者である。従って、
土地所有者であっても、例えばこれを一定期間︵8擁㊤け9旨亀巻貰の︶賃貸してあれば、その期間中は原告適格は
なく、それは賃借人に属する。即時に占有すべき権利を有する限り、侵奪された当時に既に現実の占有を有していた
︵8︶
か否かを問わない。
︵9×10︶
この外に、土地の侵奪に対する自力救済手段としてユ讐けoぼ。あ暮qが認められるが、その権利者も亦占有すべ
!9
喚
︵4︶
︵5︶
田中・一四二頁。
一八七三年践①甘&8昌お霧叶にょる︵のpぎ一g阜山一辞卑≦一ロ留一ρ摯O︶Q
≦ぼゆ。一ρい一9 ︵9︶の。ρωp目ヨoaる一い
ω匙目9益.曽♪田中・四〇五頁以下。 ︵7︶ ≦目ゆ色ρ軍9
無権限者の揚合については、冒ω3暮ご︵第三者の権利︶の抗弁との関係で議論があるが
︵6︶
︵−o︶
︵8︶
∼<≡詩一ρ鵠QoハωとヨO昌ρ一〇。汐田中・前掲。
ω恥OI
いを対比せよ︶、本稿との関係には影響はない。
︵11︶
債権に基く妨害排除についての考察
(oo
・σ
二一七
彗o孟る鼠1ひと≦言常β
に
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き
、
≦
三
留
一
ρ
お
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轟
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照
。
︵
ω3
巴︶
日 9 ム N 一 い噂
≦ 一
︵ 2︶ 擬 制 の 方法
︸一5Φ一ρ出O。
訴権を中心として﹂︵同四号︶、同﹁近代イギリス法における借地権の性質﹂︵法律時報二九巻三号︶等のすぐれた研究参照。
リスにおける土地賃借権の発展﹂︵熊本商大論集一、二号︶、同﹁英国絶対王制期における賃借小作権の構造−所有と利用の
的法社会学的見地からの、甲斐道太郎﹁中世英国における不動産賃借権について﹂︵近畿大﹁法学﹂一巻一号︶、水本浩﹁イギ
︵1︶ ≦目留耳89留一彗9一ρ曽∋田中・一一二、一二五−六、一三六、一四二頁Q英国不動産賃借権の発展につき、歴史
護手段を有しない。
に対する永久の損害を与える揚合の。霧oの訴による保護等を度外視すればー一般第三者に対し観念的な権利の保
︵U︶
これらの要件に合致しない限り、我々の債権者はもとより、所有者ですらも 復帰利益︵おお誘δ轟量ぎ$お9︶
由裁量に属するとはいえぼ甘菖二自が発せられるであろうが、これは占有保謹を目的とする。
︵12︶ ︵13︶
き権利を有するものであり、更には、土地への零霧麗器が継続する揚合には︵8暮ぎ巳お嘗霧冨脇︶、裁判所の自
︵n︶
鳶
一橋大学研究年報法学研究2 一二八
︵12︶ 乏三留耳嵩ざ旨どω巴ヨ2ρま伊なお、インジャンクションについては、内外の文献をも掲げた柳川俊一﹁英米法に
おける仮処分︵H且∈一9δ昌︶の研究﹂︵司法研究報告書︶を挙げておく、ここでは特に四九−五二頁。
︵14︶ ω①o”ω旺旨§ρ8い9器ρ更にヰ塁霧器身困ポ鉱自18二呂胤9旨Φω旨Φ℃同。津。ロ臼等。なお、差止命令の許されるニ
︵13︶ω巴馨鼠る。ひΦ;Φρ凱き旨①耳い。y
ューザンス︵一崔房騨目8︶も亦、占有者の保護のためであることは窪①ε霧ωと異ならない、所有権者等の復帰権者︵話<o議δ,
一一9︶も永久の損害を生ずる揚合でなけれぱ不可なることも同じ︵の巴ヨo呂る舘ふ舘9。。oρ︸≦一島。耳云轟1μ&邸olO︶。
ヨ動︵吼動産が金銭賠償のみの許森発的財産警畢ることは誓述べたが、婁募訴は物の撮寄態ら
世においてはコモン・!上動産の特定回復を強制しうる手段は存レなかったことになる。加うるにα。江.一戸一①の訴にはーくp鐙①吋。h
︵3︶
しめた。これは一二世紀まで跡づけうる古い沿革をもつ。この訴においてもしかし、裁判所は動産の占有回復と金銭賠償の択一的
︵4︶
判決をして≦旨9α馨嘗歯塁︵間接強制的差押令状︶で強制するにとどまり、被告は自己の選択により履行しえたから、結局中
︵5︶
︵6︶ ︵7︶
す≦︵免責宣誓︶が認められていたという欠点もあって、ヰo<霞の訴が形成されるや、その拡張によりα。江旨.の領域は侵されそ
の機能は著しく衰退し、かかる状態は一八三三年・毒の窪○口婁くが廃止されるまで続いた。一八五四年O。ヨ.昌。、一ピ帥∼く一、.。。。α一一同。
︵8︶
︾9ψ認は、裁判所にその齢曲劫蟄により動産の特定回復を強行しうる権限を附与し、かくして、人的財産権とされた動産にも
物自体の回復を請求する途が開けた。これは一八七三年の浮o甘9霧93>9と跨。ヵ=一。9浮。ω一一b﹃。ヨ①○。一一吋けに、従来の
︵9︶
意味での胤窪旨ω9琴試9はなくなったとはいえ、受けつがれた。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
■・
かくして動産については、現在においても、何人と難も自己の権利として物自体の返還を裁判上請求することはで
略’
L身、
冷ー
、 、 、 、 ︵10︶
きず、裁判所の自由裁量に基いて、揚合により物の返還を受けうる可能性があるにとどまる。そして自由裁量とはい
え、実際上は、従来の判例法に従い、金銭が相当な補償︵践2緯①8目需塁注o旨︶となりうるときは許されず、それを
もってしては当事者間に完全な正義を実現しえない揚合にのみ認められる。従って、原告にとって特別の価値・利益
ヤ ヤ ヤ
のない物−普通のピアノ等通常の商品等iについては、裁判所は物自体の返還を命じない。
︵n︶
そしてこの訴の提起権者も亦、不動産についての&89お暮の訴と同様、﹁即時に占有すべき権限﹂を有する者に
限られる。従って、所有者であっても、即時占有の権限を有しないところの特定期間︵胤曾餌穿&け臼目︶のげ践ざで
代金未払で売主に物を留置されている買主・質権設定者等であれば1復帰権者の揚合は侵害が永久的損害を与える性質
のものである揚合を除き 訴ええないし、他方げ巴一8夷Φ旨︸覧Φ凝8︵質権者︶等でも、彼が即時占有の権限を有
︵12︶
する限り訴えうる。
︵13︶︵n︶
なお、このように裁判上の返還請求が制限されかつ動産は時間の経過により追求が困難となるため、自力救済たる
お5匠昌瞬9讐o駐︵お8唱寓自9畠葺琶ω︶が重要となるが、これも占有すべき権利を有する者に限られる。
︵1︶ ㈲ 中世以降近代までの動産保護の諸訴権の歴史的発展については、有泉﹁英国動産法に於ける占有と所有﹂︵不法行為
理論の操作的構成昭三二版所収︶に詳しい。簡単な歴史的概観は≦冒留耳巽oo9器4なおの亀目9益ミ09器ρ等。
@ぼ①巷霧の︵≦冒b巴ρQ&ーN︸象ゆ︸い睾−沖QQ巴岳2一9鐘oo9器ρ︶とヰ○<零の訴︵≦ぼゆ〇一負睾Qogoっ①ρこω包ヨO昌9
ます︶とは金銭賠償を求めるものであり︵鑑の巴ヨ8負旨一ふ旨9器ρ凱有泉・七五、八○、一一〇頁︶、お覧薯冒の手続は
主として違法差押の取消に用いられ︵ノくぎ諭一ρ渣坦象ω1∋の巴ヨ8ρB一︶、帥℃掃巴9一鴛8ロ冤は過去のものとなり︵有
債権に基く妨害排除についての考察 二︸九
’
一橋大学研究年報 法学研究2 二二〇
泉六七頁以下︶、復帰利益への永久的侵害に対するO霧oの訴︵ω包目o昌9鵠軌9の8︶は、債権者とは直接関係しないから、
これらの諸訴権は、ここでは一応考察の対象から外してよいであろう。
︵2︶ その理由につき、有泉・六三頁参照。
︵3︶ ≦ぎめ巴9翁o。i沖器ω1分ω巴日8ρ鵠一ー♪Qご9。。8←有泉・八六−九二頁参照。
︵4︶ その理由として、≦ぎ留一ρ象o。は、中世の動産は非常に滅失し易く︵需ユ。。ゴ陣三①︶裁判所は回復の強制に責任を持ちえ
なかったことと、当時、すぺての物は法律上価格を有すると看徹され、原告が価格を得れば、彼はその得ぺきすぺてを得たこ
とになる、ということによる、という。なお有泉・八八−九頁・前註︵2︶所掲箇所参照。
︵6︶ ≦ぎ留5象o。”ω巴ヨ9ρ卜。o。ど有泉一一二−三頁参照。
︵5︶ ω巴ヨo昌ρいご1分≦ぎゅ9山”零oo喝象ど有泉・前掲。
︵7︶ ヰo︿醇の訴の案出された理由につき、ωaヨ8ρま昌 ≦ぼ留一ρ睾P拡張の方法は、留一旨8辞b。o。曾≦ぎ譜匡︸鴇9
有泉・一一一−二頁。なお、返還拒否の事実が、08<震巴曾の証拠上の推定の事情にとどまるか、成立要件自体たりうるか
につき、の助目言O昌 9 N c Q や
︵8︶ ぞぎ詩一9ぴ5←有泉6一一二ー三、一二五頁Q
︵9×10︶ ω巴ヨ9P諺∋≦ぎ留一ρω雛︸有泉一二三頁以下。 もっとも、○○β目o昌U魯乏b88α霞Φ︾oけの制定前にも、
衡平法裁判所によって、珍稀物等については、その自由裁量権の行使により特定回復の救済が与えられることはあった︵の箪ー
ヨ9拝一げ5旧田中・四一一頁︶。なお、田中﹁英米法の基礎﹂︵六版︶二〇一ー三頁。
、
︵n︶ ≦冒35強分詔ぎ一9益る罫 ちなみに以上のことは、本稿で問題の不法行為の場合のみならず、契約当事者間におけ
,■・
る契約に基く債務の特定履行︵ω℃Φ05。需篤9巨き8︶においても同様である。従って、土地の売買や賃貸借については特定
事
v◎
履行が認められるが、動産については原則として認められない結果となる︵bO一一〇9、の09壽ヌ9蜜o。19米法につきω一ヨー
霧oP軌茸1ひ一詳細な事例を掲げる末延訳﹁条解米国契約法﹂二三九−六四頁︶。
︵12︶ 留一ヨ898ρQ田19≦ヨ蔚一貸QまふまIy2賓訂茜く、頃壁色器♪[一〇。8]NO切NONるO曾有泉・一一六頁︵90<雪
の訴につき︶。 ただし、げa一9であっても何時でも返還を要求しうる︵話9旨p三①暮≦⋮︶げ巴一目①艮に基くのであれぱ
即時占有の権限を有する︵ω巴ヨ9αω8・旨9≦冒留耳呂ひ︶。その他の揚合には所有者は・彼のおお議δ壁ぞ旨審器警へ
の永久的侵害︵物の破壊・有効な処分等︶ 物の侵奪・不正の抑留では不可 のある揚合に限ってB器の訴による救済
を受けうるのみ︵ω巴目9ρ鴇ひ︶。無権限の現実占有者と︸毯3詳諒の関係は、のとヨo昌ρ8ρ≦三留一α﹂呂ρO象層い総1
ひρなお本文を含めて以上の訴提起権者に関する説明の多くは、諸著書において貫o<震の訴についてなされているが、3亭
巨おの訴についても同様であること、の巴簿89鴇9≦ぎゅ巴9雛9
︵13︶ ω巴簿9ρむ9田中・概論四一一頁、なお、≦ぎゅΦ耳鴇一−帥
︵14︶ なお、凶三壺9す一が考えられないではないが、前提としては原則に従いぼ霧富霧については占有、8ロ8議δPユ9ぎ器
については占有権限が問題となろうし、更に裁判所の自由裁量に属するとはいえ、金銭で充分な補償となるときには許さない
傾向にあるとされるから︵≦ぎ臨巴9蹟曾の巴日8q”ま曾柳川・前掲箇所の外、三七頁、五八頁︶、実際上、動産につきどれ
程の実効性を持っているかは疑問である。
ヤ ヤ
四総 括第三者の債権︵契約︶侵害による不法行為の成立についての示唆ある取扱については改めて要約するまでもな
ヤ ヤ
い。妨害排除の問題に眼を転ずるや、現在の大陸法と異り、かのゲヴェーレ保護にも似た特殊の取扱に遭遇した。その理論をわが解
釈論へそのまま利用することは不可能であろうから、本稿の目的との関聯で纏めておこう。
債権に基く妨害排除についての考察 二二一
』
》
一橋大学研究年報 法学研究2 二二二
日 第一に、近代大陸法におけるような権利の物権・債権への分類、ひいては観念的物権に基く物権的請求権と不
︵1︶
法行為に基く損害賠償としての原状回復との峻別乃至二本立がなされていない。例えば、我々の物権的請求権にも比
すべき不動産保護訴権が英法では不法行為法の著書でも論じられている。これは、本稿の目的に焦点を合わせた検討
を著しく困難ならしめる原因でもあるが、実体法と訴訟法の分離された近代大陸法と異り、あたかも・ーマ法の霧江o
にも似て、具体的侵害︵“不法行為︶に際して≦旨を得る要件が充たされているか否かということが関心事であり、
︵2︶
その︷曾目。。98江目を中心として法理が発達してきた、という沿革に基こう。第二に、不動産賃借権はいわぱ物
権的保護を受けている、と同時にまた、ー動産・不動産ともにー侵害に対する権利保護と占有との関係が現在に
おいても1所有権においてすらも完全にはー断ち切られていない。このことは、絶対的・観念的に物権的請求権
によって保護されるという意味での我々の物権、その王たる所有権すらも、いうまでもないことであるが、特殊n近
︵3︶
代法の歴史的所産であることを、ゲルマン法のゲヴェーレとともに、再確認させる。以上の意味では、訴権法体系か
ゆ
ら実体法体系への移行の未完成、物権と債権の峻別の未成熟として、その後進的性絡を指摘することも或は可能であ
ろうが、それにも拘らず、本稿の目的に関する限りでは、ドイッやフランスにおけると実質上機能的には類似の保護
が見出されるように思われる。すなわち、ドイツ並びにフランスにおいても、占有取得後の債権者には占有訴権によ
る保護が与えられるし、更に、侵奪された当時占有を取得していなかった債権者についての不法行為に基く原状回復
︵4︶
■・
としての債権者自身への返還請求も,具体的には、抽象的債権一般についてではなく、物の処分権者との関係におい
︵5︶
て、英法的表現を借りれぱまさに﹁即時占有すべき権限﹂のある債権についてのみ肯定されるであろうから。
、事
、◎
債権に基く妨害排除についての考察 二二三
代
に
お
け
る
債
権
の
重
要
性
と
い
う
ヤ般につき妨害排除請求権を認むべ
て は 別 と し て 、 現
こ と か ら 直 ち に 、 民 事 法 上ヤ
債 権 一
部分ではないであろうか。この取扱は、ドイツにおいて損害賠償一般につき原状回復を法律上原則としていることが、
れレ
却ってわずらわしいとして必ずしも好まれていないと云われていることとも考え合わせて、不動産に関する債権っい
ゆレ
近代的意味.現象と実際的感覚こそ、沿革の形式を現在に至るまで踏襲することを可能ならしめている中脚の重要な
ヤ ヤ
民事法上の裁判上の救済方法として妨害排除請求権を肯定すべき必要性は原則としてさほど存しない、という特殊旺
物についてはその物自体の追求を裁判上企てることは却って実際上利益でない揚合が多い、すなわち動産については
及び所在に追求することがその性質上必ずしも容易でないという不動産と異る動産の特殊性、更には裁判上の救済が
ロ
実際上必ずしも迅速には行われないであろうという事情等が絡み合って、合理的経済人にとっては、金銭で購いうる
ゆる商品交換社会とも規定される資本制生産社会における動産の商品化・価値化・代替性化という特殊h近代的現象、
例法国としての史的背景の単なる保守的墨守のみとして我々にとって無視されるべきではなく、屡々指摘されるいわ
ハ ロ
ば
、
そ
れ
は
中
世
の
農
牧
時
代
に
お
い
て
妥
当
し
た
ハ沿
マ革
ロ並ぴに判
稿 の 目 的 と 関 聯 さ せ つ つ 臆 測 を 述 べ る こ と を 許 さ れ る なら
った現在ですらも、何が故にかかる沿革に拘泥しこれを是正しようとの動きを示さないのか、ということである。本
う沿革的説明には異論をはさむ余地はないが、更にここでの問題は、法律上一応裁判所の自由裁量に属することとな
ハ ロ
回復はかつては普通法裁判所の命ずる金銭賠償では不充分な場合の衡平法裁判所による補充的救済方法であったとい
法においてもー金銭では購いえない特に個人的価値のある物を除いては、その返還請求は認められていない。特定
国 第三に、動産については、1我々のいわゆる債権者は勿論、所有者ですらも1不法行為法においても契約
聖
し、
︻橋大学研究年報
法学研究2
︵12︶
ニニ四
との実際上の必要性は、 現代社会なるが故に却って、 必ずしも生じないことを窺わせるに足りよう。
︵1︶ 9、≦冒ゆΦ一ρ頴oo,
︵2︶ 有泉・六三頁、一二四頁、なお高柳﹁英米法源理論﹂︵五版︶一七頁以下、田中.基礎二二六−四〇頁参照。
︵3︶ 有泉・一二八頁参照。ゲルマン法のゲヴューレとの関係でこのことを強調されるのは、川島﹁所有権法の理論﹂。
︵4︶ ただし、フランス民法では、動産についての占有訴権は明文上は認められていない。以下、フランス法に言及する際いち
いちこのことを断るのを略する。
︵5︶ ドイツ法・フランス法について先に検討したところから明らかであろう。
︵6︶ 前述本節三ヨ註︵9︶︵10︶、ω巴ヨo嵩ρ識∋田中・概論四一一、二八七頁、同.基礎一四〇1二頁、高柳.三一頁。特定
履行につきbo一一〇〇寄、○○暮養9︸渣oo−9堕ヨ℃ωoP蜜↑ー伊田中.概論二八七頁。
︵7︶ 前述本節三三註︵2︶︵4︶と同所に掲げる文献参照。
︵8︶ 制定法に対する英国法律家の考え方につき、高柳・三三頁、五一頁以下、田中.基礎三三頁以下、一〇二頁参照。
︵9︶ 更に、動産については仮に発見しえても、口β詩90苫菖の法理︵乃至善意取得︶が問題となろうし、また、被告が他に
処分すれば目的を達しえない。
︵10︶ なお・侵奪された動齢の被害者への取戻については、刑事法上の仮還付・還付の制度︵日刑訴一二三条、一二四条、三四
七条等︶が、強力な権力を有する捜査機関並ぴに刑事裁判所を通じて最も実効性ある保護を実際上与えている事実をも想え。
国ぼ自oFの旨昌巳o㎎⋮蔭山窪oQo巴oδ讐①α霧ヵ8げ星ψまが、﹁占有保護の大部分は、元来どこでも刑事裁判所と警察に属
働,
する。動歯については、窃盗と横領に対する占有者の刑法上の保護で現在実際上充分である、独立の占有保護手段は動産につ
ゆ
、章
︸ゆ,
いては殆んど利用されていない。それゆえにフランス艮法典においては動産の独立の占有保護は廃止されている、﹂と云うと
き、動産について占有訴権をも要しないと云い切ることは問題であろうが、少くとも、彼は以上述べてきた事情を洞察してい
る、といえる。 なお、自力救済︵器9ぎP凶亀碧○牙︶は珍奇物等に制限されないこと、特定回復の許されない理由の一つ
ヤ も
として裁判所が執行の監督に貴任を持ちえないことが一応挙げられるが︵中世につき≦ヨ津5象o。︸本章本節三ゴ註㈲参照。
特定履行につき、の一ヨ廟oP象勲boζ○畠.mOO算旨9ふおい田中・概論二八七−八頁︶監督困難な点については同様であるぺ
き珍奇物等主観的価値ある動産については特定回復乃至履行が許されるのであるからこの理由は決定的なものとはなりえない
︵ωゆ一一一霧OP軌&戸3はこのことを肯定する︶こと、を想え。 英法の実用主義的傾向については高柳・一四〇頁。
︵11︶ 本章一節二六註︵3︶参照。
︵
︵12︶ このことは一般論としては肯定されている、例えば加藤﹁不法行為﹂一二五頁、山田・来栖・前掲論文二三一頁参照。
第三章わが法の欠陥と諸説
第一節わが法の欠陥ー債権の性質と関聯してー
があり、しかも後者については、わが積極説すらも﹁債権の性質上﹂という理由で否定する、債権者自身への直接の引渡をも揚合に
以上の検討から、ドイツ.フランスにおいては債権保護手段として占有訴権と不法行為に基く損害賠償としての原状回復請求権
より要求しうるとされていること、英法においても、動産については別として、実質上、類似の保護が与えられていること、をみた。
占有訴権についてはわが国でも同様であり後に賃借権を検討する際に論及することにして、ドイツ・フランスにおける後者の取扱
債権に基く妨害挑除についての考察 二二五
一橋大学研究年報 法学研究2 ニニ六
を、わが学説のいわゆる﹁債権の性質﹂と関聯して、いかに評価すべきであろうか。
ロ ヤ ヤ
一 いわゆる絶対権を物権に限ることはローマ法の跨菖○ぎお目.鴛江。一コ唱①陸ωoロ鈴旨一の誤解に基くも.のであっ
た・との議論が麓・しかし・少くとも、権利の物権と債権とへの分類が普通肇者の単なる論理的田心考の所産とし
て排斥されるべきものではなく、すぐれて近代市民社会的背景と意義の下に生れ、その運行を可能ならしめる特殊”
近代的意味を有するものであ歪とは、今荏辱指摘されている.押代市民社会を支える所有権の私的自由の要求
と契約自由の原則・自由競争とは、物権・債権の分離・峻別によって確保され、それはまた、土地支配と結合された
団体的身分的拘東からの個人の解放とその法主体性の確立を意味する、虞封建制社会と区別された資本主義社会の
ハ ロ
メルクマールを、﹁土地所有規範の解体と資本“賃労働範疇の成立との内面的連関において把握﹂しようとの経済史
家の試驚・あことの別の角度からの表現に外馨奈と蟹慧.サヴィ†の説く羅︵・げ痘§︶も亦、
決してローマ法の訴訟方式とからんだ8ユoぎH︶雪8冨目の単なる踏襲ではなく、右のような個人の法主体性に対
する近代的意識に支えられたものであった。すなわち、所有権に代表される物権を﹁物の上への権利﹂︵鼠の閃。。騨
き①ぼ9008ぽ︶とした後、近代的債権について彼はいう。他人に対して﹁第一に可能な関係は、物に対すると同様に我汝
の恣意の領域に引き入れ、かくて我々の支配に服させることである。この支配が絶対的なものであるとするならぱ、それにより他人
には印由︵零9ぎεとバ格︵零誘o巳巨升簿︶の概念は消滅させられよう。俄罠格者1︵掲①㎏の。一一︶を支配せげ縷。
ヤ ヤ ヤ ヤ
我々の権利がた除︵ピ窪ω昌︶の上への所有権であるならば、それは実際・ーマの奴隷関係の如きものである。.⋮−我々が他の人格
窺,
者︵汐富8︶を支配するについて、彼の印由を破壊することなく存する特別の法律関係を考えようとするならぱ、それは,・−−所有
,鳩
◎−
債権に基く妨害排除についての考察 二二七
である、とも観念され、ひいては、それが現在においても、先に検討したようにドイツの通説的見解を支配している
ハ れ ロ
利︵日絶対権︾訂oξ富刀9詳︶であり、債権︵対人権︶は特定人旺債務者に対する権利︵陥相対権因Φ一彗貯①閃9窪︶
されうる仕組みを採ったこと、等の事情を考え合わせると、普通法理論において、物権︵対物権︶は万人に対する権
民法典が先にみたように債権の相対権であることを前提して第三者の債権侵害を肯定しなくても債権者は実質上保護
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
までには第三者の債権侵害に対する債権者保護の社会的要請は必ずしも強いものではなかったろうし、更にはドイツ
民法典においても物権とされているということ、及び、普通法時代においては恐らくはローマ法の伝統を打破する程
的に承認されてきた諸権利が、パンデクテン体系の成立に伴い、物権の範晴に組み入れられ、ひいては近代”ドイツ
︵9︶ ︵10︶
このことと、・ーマ法以来物自体を追求する4巴く冒象。葺δに代表される・諸種の絶対的訴権による保護を歴史
給付を請求する権利﹂︵対人権︶にすぎず、﹁権利者を債務の目的たる物と直接には関係させず﹂﹁債務者による給付が
マ ロ
物の獲得のための通過点となる、﹂とされる。ここに自由競争・債権者平等の原則.債権の物権への故なき干渉の排除
ロ
等も可能となる。わが国で﹁排他性﹂は物権にのみあり債権には存しないといわれるのも、この.︼とに照応しよう。
との結合から解放された自由な法主体者間の自由意思を基礎とする権利義務関係として﹁債権者の債務者に対し⋮
ロロ
かくして物権は、封建的・身分的爽雑物を捨象した﹁物を直接支配する権利﹂︵対物権︶とされ、債権は、土地支配
権︵○ぴ一蒔讐δロ︶と名づける、﹂と。
行為者の勘曲から生じて我汝の意思に従わされるものと観念される。弛段醇ρ個別的行為へ−の・支配のかかる関係を、我漁は債
︵5︶
権とは異った、他の人格者を全体としてではなく、その人ぬ個捌鮒薦に関するものでなけれぱならない。その行為は、そのとき、
妙
⋮橋大学研究年報 法学研究2 二二八
ことは、いわば当然の成行であるともいえよう。そのわが法への導入については後に述べる。それはとにかく、いわ
ゆる物権的請求権が、近代法典においては物権とされている権利にのみ附与され、債権には存しない、として構成さ
れていることは、その歴史的存在からも、物権・債権峻別の特殊“近代的意義からも否定しえないし、またすべきで
︵E︶
もない。資本制社会における債権の事実的経済的重要性︵債権の優越的地位!︶に伴い債権者の法的保護を強調する
ことはよいとしても、その保護に急なる余り、わが国にみられたように、以上のことを無視して、この差異そのもの
をも一般的に抹消せんとする試みは、近代法の基本体系のみならず、それを支えまた逆にそれに支えられている近代
市民社会の運行そのものの否定に通ずる、といわねばならない。
︵1︶ O巳,冒ωfH<”一−押嶺∼♀冒の,ぎo。壁く剛闇一●
︵2︶ 後述の、末弘﹁第三者ノ債権侵害ハ不法行為トナルカ﹂法曹記事二四巻、特に三号一三四頁註︵十二︶参照。なお、後に
賃借権を検討する際に触れるが、冒お−因βロぎ一−≦窪鳴5幻o巨す&9因o島ダN︾ロヰ一〇象⑳おψ一賂暁凱船田﹁羅馬法﹂
︵3︶ これらの点につき、我妻﹁近代法における債権の優越的地位﹂︵学術選書︶四章、橋本﹁社会法と市民法﹂︵学術選書︶九
二巻二六三頂、原田﹁日本民法典の史的素描﹂九一頁参照。
〇頁以下、特に一一二貝以下、川島﹁所有権法の理論﹂四四頁以下、一〇二頁以下、同﹁債権法総則講義第︸﹂㎝頁以下、一
一頁以下、二一頁以下等参照。なお﹁封建制﹂なる概念は多義に用いられているが︵上原専禄﹁封建制概念の多様性﹂思想昭
二五年二月号一頁以下、同﹁封建制度研究における︸傾向﹂独逸中世史研究所収特に一一〇頁以下、世良晃四郎﹁封建制社会
の法的構造﹂法学理論篇23九頁以下、増田四郎﹁西洋中世世界の成立﹂八章等参照︶、ここでは、本文のように述べておくこと
が許されよう。近代市民社会と異る封建制社会の法的構造については、さしあたり、世良・前掲書を挙げておく。
噸−
,
︶,
︵8︶
︵7︶
︵6︶
︵5︶
所有者に3一くぎ象o彗δ︵所有物返還訴権︶︵峯お函βロ犀巴−≦窪碧お励Noo¢嵩oo㌘O①讐げξ頓㍉㈱N舘の■総轟︶と勢o江〇
林﹁物権変動の対抗要件と物権の排他性﹂神戸法学雑誌一巻二号二七一頁以下、特に二八一頁以下参照。
U窪一ぎ茜﹂㈱8ψ轟。。ー
u。ヨσ弩αq㌔塁︹一。響①p刈︾注■H励8の●ミ︸窪g零。響ρ目ω・ρ
ω婁凶一毫の寡Φ旨号。・ぽロ凝①旨家ヨ毯冨ロにΦ畠叶90。。8ψ器。。め
債権に基く妨害排除についての考察 二二九
︵10︶ パンデクテン体系の成立については、当時︵一七世期末以来︶の諸著書の目次等を年代順に列挙し、自然法に触れる
ゲルマン法におけるゲヴェーレとの関係については、川島﹁所有権法の理論﹂。
絶対的諸訴権の・ーマ法以来近代法に至るまでの概観は一纏めにして囚8一ざ斜因αヨ跨ぎ。。閑Φ。算■目G8ψ一〇。Q卑なお、
ψひ鴇︶。なお質権・ゲルマン法の知①亀鼠簿窪等問題はあるが、ここでは直接には関係しないので略する。.︸れらもあわせて
ひまy、o旨℃げ旨Φ島δ︵永借権︶にも所有権類似の保護が与えられた︵甘誘−囚⋮ぎブ≦9αqΦ斜励⊃。Oψ賦どUΦ曽.一げβ﹃僻⑳駅O
に範をとった帥&2箕弩隻房が承認され︵す艮琶琶−諄お8鷲3、壽己。旨ゴ夷諭器ψ毯諭§ω・
囚∈蔚巴−≦窪鴨﹂吻o。o。ω・鼠9Uoヨげ震鱒吻N綴ψ爲O律︶、雲需39霧︵地上権︶には後期・ーマ時代に所有権保護訴権
物の所有者に対し、後にユ帝時代にはすべての人に対する妨害排除訴権として認められ︵その他の保護手段も合わせて愚富,
勿論 で あ る が、器署犀霧︵地役権︶には市民法上償ω話守自9臣︵凸968蔦塁o。曾艮︶が、始めは99δ一6磯象畦すと逆に
ε
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三ψ鉾U震三︺霞σR”鷲訟ω■ひ睾︶のあることは
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地 役 権 否 認訴
除 訴 権 ︶ ︵ 冒富
2 − ≦ 臼 一 的g
︵9︶
年七月の封建制より資本主義への過渡期の問題の特輯号の林、増田等をはじめとする諸家の論稿を見られよ。
の間で議論がないではない。例えば、ドソブ、スウィージー論争、更に高橋教授の所説を機縁としてなされた、﹁思想﹂昭二六
︵4︶ 高橋幸八郎﹁市民革命の経済的基礎構造﹂法律時報三〇巻七一頁以下。なお、この点とも関聯して厳密には経済史学者等
砂
の。薯”巳N﹄彗国三の汁Φg旨且。・・馨α。=・①亀毘。募昌馨ε葺N①一響ぎ出呂Φ益p≦讐蕊養三・職・る。。募窺受&。矯
一橋大学研究年報 法学研究2 二三〇
鳶︵G旨︶勾α目甲>耳ー¢鴇oo卑なおそこで20σ霧三αqΦ霞o墜ヨ妙跨Φ昌①≦冒冨目器Ω≦一〇〇富なる論文を引用して、日
本民法にも言及し て い る の が 興 味 を 引 く 。
︵11︶留︿酋受﹄の■いo。y≦一鼠の昌巴ρ℃ρ&舞§・﹂o︾魯諭&ω﹂ヌ
︵12︶ 以上の意味で、一部教義学の説くように﹁排他性﹂のあることから論理演縄的に物権的講求権が導き出されるのではなく・
逆に、物権的請求権等物権的諸効力によつて保証されている状態から帰納的に導き出された概念として﹁排他性﹂を把握すぺ
きであるとの見解︵林﹁物権法﹂九頁以下、二九頁︶、並びに、絶対権・物権の絶対性ということから物権的請求権が生ずるの
ではなく、そのような保護を受け承認されているもの︵こと︶を絶対権︵物権の絶対性︶というとの主張︵川島﹁所有権法の
理論﹂一三二頁︶は首肯することができ、そのような意味での絶対権︵性︶の概念を否定することは不可であると思う。
なお、物権の本質につき、ダ、ぎ訣9Φこ︵一〇>=串劾Qo。ψ一a卑︶が、﹁すぺての権利は人と人との間に存し、人と物との
間にではない﹂、物権の内容は他人が物に作用することを禁じ権利者の物への作用を妨げてはならないとの消極的な禁令であ
る、とする点については、ドイッにおいて、物に対する直接支配に本質を求める通説的立揚から、例えば、囚o匿震︵菊Φo窪
段一一α℃﹃。sΦωの︸NΦ算。。畠﹃凶津hP℃円一く碧雰o中窪ρ卑q霞○終o一一≦鷲“三︵蕊o。N︶ooーひ︶は﹁すぺての新しく発生した所有
権は全人類をそのにわか雨でぬらし、各ζの新しく掘られた鉱石::捕えられた魚は、少くとも人間の住んでいる限り、北極
ψいε︶は﹁それは権利が外部世界へ投げかける影、私の有する物を他人は有しないという積極的なものから消極的なものへ
までも達する権利の振動を惹起する⋮⋮﹂ことになるとし、甘忠ぼ㎎︵勺霧巴<o≦旨ζ一一茜自震菊9辟ρ一けRぎ鵯冒げ擁σ一〇
の伝波︵qのびΦ↓。。。一N一一一︼四︶に外ならない⋮⋮﹂と云い、UΦコ一び=夷︵H吻器ψ鳶≧三一、ω︶も﹁第三者に対する物の返還請求
︵1、一、一畠、貯騨二。、一︶は−:・結果にすぎない、﹂とするなど反対が多いが、これらの論議も、ここでの問題に関する限り、論理構成
.嬉,
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り
債権に基く妨害排除についての考察 二三一
ある。勿論、債権は近代法上物権とは分離・峻別された建前をとり、従って物の非処分権者でもその物につき有効な
︵3︶ 、、、、、
は、これらの要請を否認する結果に陥ってはならないということであり、また逆に、それを確保しうれば足りる筈で
がための手段としての存在理由を有するにすぎない筈である。だとすれば、本稿との関係で債権において重要なこと
、 、 ︵2︶
にみた債務者の法主体性、正常な自由競争口契約自由の原則、更には債権の物権への故なき干渉の排除等を確保せん
殊“近代法的意味は、実はかかる概念構成自体が目的として独自の存在理由を有するものではなく、それによって先
ヤ ヤ
権・対人訴権の単なる沿革を度外視すれぱ、債権が債務者1のみーに対する請求権であるとされてきたことの特
ヤ ヤ ヤ
いかなる作用をも及ぼしうべきものではないと解さなければならない、とするのも疑問である。・ーマ法の対物訴
︵1︶
二 日 しかしまた、以上のことから直ちに逆に、債権はその性質上債務者以外の第三者乃至給付の目的物につき
憾ながらノイナーについては直接参照しえず、奥田.法学論叢六四巻一号一﹁一六頁以下による︶。
張していず︵二章一節二に註︵1︶、なお後述︶、債権にも︸般的市民義務を肯定したノイナーも物権的請求権は否定する︵遺
︵1︶︵2︶︶、及ぴ、債権にも一般人の不可侵義務を肯定したシユタウプもいわゆる物権的請求権を肯定すぺきことまでは主
︵
批難する︶ 、また、普通法以来、広義乃至狭義の﹁償権の上の所有権﹂親念を肯定したドイツの諸学説︵二章一節二四註
嵩o江<ρ口H¢boを、﹁すぺての権利は人と人との間の関係である。⋮⋮生ける意思主体の間にのみ権利関係は考えうる﹂と
して通説を批判し、ρOδ詩ρU段国旨∈震8Φぎ霧び偽夷・O塁O訂﹃Fα塁α窪け溶富零︸OO器Nも、通説的立揚に立つ
巳お冨勾9年ρ甘Φユコ鵯宣年¢爵ψ翼は更に、質権においては裁判所が介在する結果﹁直接的﹂な支配とはいえないと
簿霧留ヨ国一碗Φ馨ロ目・︾苫ダh阜O貯り博ρ図−一鴇︵這治︶ψホ轟陣も同じー︵なお一︶巳舞ご碧邑鼻Uぎ嘘互お一一聾℃①簑曾
のための視点の差異にとどまり、本文に述べるところを左右せんとするものではなくーなお近時、bo9βUδ︾壼づコ8げ①
喪
ヤ ヤ
一橋大学研究年報 法学研究2 二三ニ
ヤ ヤ ヤ ヤ
債権契約を締結することができる︵賜殿駄論鉱細物動砒損外顔照借等、︶。たしかに、かかる債権については私の右に述べた考慮は
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
問題となりえないであろう。しかし、物の処分権者との間に締結された債権契約においては別個の考慮が可能と思わ
ヤ
れる。もとより処分権者はこの場合でも同一物につき幾重にも有効な債権契約を締結することはできる。しかし、特
定物債権︵売買・賃貸借等︶については、処分権者たる債務者がその自由意思により有効な債権契約を締結した以上、
その後これを任意に履行しないときは、債権者は、現行法上、債務者のその後の意思及び他の平等な債権者の存在を
、 、 、、 ︵4︶
顧慮することなく、債務者からその物自体の引渡を強制的に執行して物を取得することができる。いわゆる債権者平
︵5︶ 、 、 、
等の原則なるものは、債権の実現過程に至るや、債務者の破産の揚合か、金銭債権について保証されえているにすぎ
︵6︶
ないことに留意すべきである。債権に対する国家の強制力によるかかる保証を、・債務者の法主体性に対する不当な
︵7︶ 、 、 、
侵害﹂であり、債権者平等の原則に反する、と考えることは逆であろう。むしろ、国家権力の保証による近代法上の
債権の独立の財産権性の裏付・確立をこそ、ここに認めるべきである。だとすれば、かかる権利としての債権に、債
ヤ ヤ ヤ
務者に対する物の引渡の直接強制のみならず、右の債権者と平等の地位にある他の債権者及ぴそれ以上の地位にある
物権者以外の第三者に対しても、その物の直接の引渡を含む妨害排除による保護を与えても、わが法の解釈論として
はともかく、そのことが直ちに債務者の法主体性の下当グ侵害であり、債権者平等の原則の否定であるなどというこ
とは、空虚な形式論か、概念の手段と目的との顛倒との感を禁じえない。少くとも、債権をそのようなものへと保護.
︵8︶
強化することが、弊害を惹起するとは考えられない。
口 このようにみてくると、問題は、従来わが国でみられたように、或は債権を相対権であるとして直ちに第三者
、薙
葡
鞍
ヤ ヤ ヤ
畷越唄巧即齢畷鍵輪遺鼻欝q醍盤莚賑等﹂糎離軸醐ヌ礎鞭け一る一曙罵︶1その解釈論上の理論的根拠は後に賃借権を検討する際
動産賃借権等のみは占有を取得すれば物権的︵妨害排除︶請求権を生ずると解しようとの意欲すらも︵姻褒磯謎鹸隷鰍獺、
権利の抽象的一般論的な性質乃至概念自体︵綱職駅骸腿勲勒が︶から、かかる配慮の不可能なことは明白であろう。特に不
かなるものが考えられうるかにある、と考えざるをえない。
者乃至は平等な地位にある債権者である揚合とを使い分ける右の考慮を可能ならしめる具体的・技術的方途としてい
がら、債務者が処分権者である揚合としからざる揚合とを区別し、加うるに更に第三者が無権限者である揚合と物権
請求権が生ずると解釈することを可能ならしめてみたりすることにではなくして、現行法上等しく﹁債権﹂とされな
に対する妨害排除の保護を全然否定すべきものとしたり、或は何らかの理窟をつけて債権からもかの絶対的な物権的
ル
ご
債権に基く妨害排除についての考察 二三三
これが、よかれあしかれ、近代法上の﹁債権﹂なるものの宿命であることを我々は明確に認識しなければならない。
としてはその理論の一貫しない妥協的便宜論的性格を.露呈せざるをえない、ことが指摘されねばならない。とともに、
る賃借権者乃至は相手方に対する関係を除外するとすれば、かの絶対的観念的な物権的請求権︵訓鶏脇棚哨糀融強職恥豹㈹︶
至は抗弁しうる、という不当な結果がしのぴ込まざるをえないか、或は、民法上同じく賃借権でありながら特にかか
になされた契約に基く正当な権限者︵砺購僻齢嫌職徽髄︶に対して、 占有訴権のみならずー本権的請求権を行使し乃
の不法占有を受け継いだ者︵“魚眺駅倣趾都頓痛砧と︶すらも、一般第三者はもとより、処分権者︵醐鰍都所︶またはその者との閲
れている現行民法の下においては、例えば、不法占拠者等の無権限者を債務者として締結された賃貸借契約に基きそ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
にゅずり 、結果論のみをここではいえば、賃借権が原則として物権と区別された理念型債権として把握・構成さ
ヤ ヤ
駆燃
一橋大学研究年報 法学研究2 二三四
そして私は、まさに先に述べた私の考慮を可能ならしめつつ債権保護を強化する既成法典上の方途として、先に検
討したドイツ法ラランス替存る第三者の債権侵虫農聾.︶蜜る不法行為の成立する揚合の墨・賠償として
の原状回復の取扱を見出す。そこで多く問題とされていた二重売買等契約による侵害の揚合も、それが正常な自由競
争を逸脱した恥P・違瀕な競争・取引と評価される限り︵戯の欲髄亜ズ吻朧ガ臨轍⑳畷蠣趣男︶、第三者は債権者に対する関係にお
︵9︶
いては事実上の無権限者と同様に法的には看徹されえよう。次に、わが償権者代位権制度の特定物債権保全のための
利用も一応考えられる。先に述べた配慮がこの両者の揚合につき可能であることを、ここで、揚合を分っていちいち
叙述する必要はないであろう。債権者代位権については更に後にみよう。
︵10︶
国 ともかくも、かかる意味で、先に検討したドイツ法・フランス法における不法行為の効果としての原状回復の
取扱は是認することができる、といわねばならない。フランス法における債権はもとより、従来わが諸学者によりI
l古い時代の諸説は度外視してもー権利の概念のみの孤立的抽象的導入により或は第三者に対する保謹を無視するも
のとして誤りであるとされ或は債務者の法主体性を尊重する特殊“近代的な意義をもつものとして形式的に支持され
てきたドイツ法における相対権としての債権すらも、かの身分的・封建的ヒェラルヒーの下に教会法並びにレーン法
ヤ ヤ ヤ
に起源を発したプ・イセン州法の寄げ§曇身の廃止による物権・債権の購壕拘ら謹騨蜘、︵器擁︶、
そのことから直ちにローマ法的対人訴権︵職跡四︶へ復帰したのではなく、実質は、私の先に述べた近代取引社会に即応
すべき配慮を可能ならしめつつ、第三者の債権侵害に対し、金銭賠償のみならず揚合によっては︵債務者の意思を顧慮
.,
することなく︶第三者から債権者への直接の引渡をも含む妨害排除によって強力に保護されている権利であり、かつ諸
,蔓
寮,
︵3︶ ドイツ民法典の、プ・イセン法におけるヵ①。9N竃留。富の不採用を想え︵二章一節二↑註︵7︶参照︶。
ラ
︵2︶ 一般論としてではあるが、法﹁概念﹂につき、我妻﹁私法の方法論に関する一考察﹂︵前掲書︶特に五五一頁以下参照。
︵1︶ 現在相対権概念を支持・強調されるのは川島教授である、例えば﹁債権法総則講義第一﹂七四頁以下、七九頁以下。
学説もそれを当然視乃至是認していることを見落してはならない。
︵n︶
,わ
債権に基く妨害排除についての考察 二三五
が、・ーマ法を継受した普通法理論においては再ぴ両者の区別は意識されなくなった、とされる︵<笹,竃p、、、けN一ψ旨ひ卑”
はローマ法におけると異り明確に区別され、概括的に云えば刑事的人的色彩のものから民事的財産的なものへと変遷してきた
︵暮富−囚βロぎり妻窪鴨きの・嵩9ψ鴇属・原田﹁・ーマ法﹂ 一六二頁︶。ゲルマン法においては、ω。げ一一峯と寓.一h一一一一一凶と
8江oについてすらも同じ、冒塞−囚一琶ぎ一−≦o一褒雪”ψ一占︶、ユ帝時代に始めて執行吏による物自体の強制履行が認められた
ついても・債務不履行につき、古典時代には金銭判決︵8β留ヨ一冨餓o需窪巳貧β︶のみが与えられ︵なおア一れはqΦ一くぼ山一,
である。概言すれば、・ーマ法においては訴権の附与されなかった〇三薙誉o養叶員巴δが広汎にあり、〇一︶一、αqp二。。ぞ⋮ωに
論的に述ぺておく外はない。いうまでもないが、現在みるようなかかる国家権力による債権の保証自体、近代法の歴史的所産
的分離にも拘らずi頃p津⋮験のの畠三創への原則的な融合・統一を論証することから始めるぺきであろうが、ア︶ア一では結
︵7︶ このことは、ω号三qと国即出菖口閃とのかの歴史的発展を詳細に跡づけ、近代法における1実体法と手続法とへの形式
︵6︶ この揚合についてではないが、川島前掲書五九頁より。
主義をとる︵ド民訴八〇四条、八六六条、八六七条、競一〇条1⑤、一一条H︶。ことは立法政策の問題である。
︵5︶ 兼子﹁増補強制執行法﹂一六一頁以下参照。更に本章三節で述ぺる。なおドイツでは、金銭債権についても差押者の優先
権者平等の原則である、ともいえよう。
︵4︶ 他の債権者は、債務不履行を理由に債務者に対し損害賠償を請求しうるのみ。ある意味では、.︼れア一そ自由競争であり債
0
一橋大学研究年報 法学研究2 二三六
国葭げ、一①励︸ω、亀ω卑︸私法史ではないがミソタイス・世良訳﹁ドイッ法制史概説﹂五七頁、=一一五頁、三二三頁以下︶。なお、
いかに発展させられるかは知りえないが、本稿との関係で債権の掴取力︵N一おユ評ヨ器窪︶に着目すること自体は、於保﹁債
権の特質﹂法学セ、・・ナー一九五六年五月号一七頁以下も示唆しておられる。校正の段階ででた、従来の諸学説を手際よく要
約.批判された磯村哲﹁債務と責任﹂︵民法演習皿特に四頁以下︶参照。本文を変更すぺき必要性は認められない。
︵8︶ なお、本章三節一国参照。なお、債権者は﹁債権の性質上﹂第三者に対し債務者へ返還することを要求しうるのみ︵柚木・
松坂博士.仮定的に我妻教授︶と解しても、更に債務者に対し︵他の償権者の存在及ぴ債務者の意思を顧慮することなく︶自
己への引渡を強制しうるのであるから、単に二重手間となるだけである。一方、我妻教授・柚木博士等も、特定物債権につき
債権者代位権制度を借用するときは、直接自己への引渡を要求しうるとされる。そこで理由として挙げられる考慮はここでも
同じく妥当する筈であり︵我妻﹁債権総論︹一六︺三、︹三三︺以下、柚木﹁判例債権法総論﹂上二三頁、一八二頁以下、一九
三頁以下︶、また、後者についての考え方が、論者のいわゆる﹁債権の性質﹂と勢蜘どいかに調和しうるであろうか。
︵9︶ この点は不可侵性理論を検討する際に︵本章二節︶更に論及する。なお我妻﹁物権法﹂︹七七︺ω︵e︶参照。
︵10︶ .一こでは、実体法上の理論が訴訟において結果的に変容を蒙ることがありうるのは、民訴法の弁論主義等のしからしめる、
一般論として云えることであって、ここでのみそこまで考慮の要はないことを附言するにとどめる。
︵11︶ 二章一節二↑註︵9︶︵10︶に引用する文献︵なお同章同節二六註︵8︶︵13︶︶の外に、犀9耳Nロ融留90に関聯して、
ラ
U巽一一び一一褒U舘げ嘗㌍即、ρU①暴。げ勇。一。一あ一が即。農。昼≡︵轟曇Pド8。。︶㈱ひ。玉の■§︸ρO一①詩ρq即F目
︵
,
既に明かなように、わが国においては、民法上の救済のみでは不充分な特別の法益について、個々的に、
㈱一8の■ひ一一戸戸一,︾一一旨■一伊
三 日
4
q
ヤρ
∀,
原状回復乃至差止請求を認める特別立法がなされてきているとはいえ︵郷圧畷セ談ハ触診だ射磁諜靴断鹸醜勉署董知嶽剛天︶、
これらの特別の保護に浴しない法益については、不法行為法上の救済方法としては金銭賠償に限定されており︵鰻光些一
比塗︸継︶、ドイツ・フランスにおけるように不法行為に基く損害賠償としての原状回復という方途は閉ざされている。
︵1︶
物の利用︵の①ぼ雲9︶から価値︵≦①詳︶へと重点の推移している商品交換社会においては、原則的にはそれで足り
ようが、しかし、近代法上ー物権的請求権の附与されない 債権として構成され、かつ価値的側面を把握するのみ
では十分な補償とはなりえない債権については問題が残る。わが賃借権の物権化の問題は改めて検討するが、まさに
ヤ ヤ
このことこそ、わが諸説が債権保護の強化のために紛糾せざるをえなかった特殊臣日本的事情の一つであって、罪は、
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ドイツの通説・判例がーードイツ民法の解釈論としてー債権の相対権概念を踏襲してきたことにも、物権のみを絶
ヤ ヤ ヤ ヤ 対権とした近代法におけるいわゆる物権・債権の分類自体にもなかった、といわざるをえない。
ヤ ヤ ヤ
ロ わが国に生じた二つの特殊陸日本的理論・現象は、まさにこの欠陥を埋めるべきものとして、我々は理解する
乙とができよう。第一は、ここでの問題に関する限り、はじめ物権・債権峻別の民法の基本体系それ自体を否定して、
権利に共通の不可侵性から債権にも物権と同様いわゆる物権的請求権を承認して債権の効力を強化せんとし︵鰍麻繊翻
燃︶、その後右の基本的態度を踏襲しながら、これに故意過失更には違法性等の要件を附加して、右の立揚の実際的弊
害を除去し取引の疎害を回避せんとする︵鮮塀甑f柚木.︶一連の立場︵杯駒鰻碓纏輪︶であり、第二は、債権者代位権制度を、そ
︵2︶
の沿革を離れて、特定物債権保全のために借用せんとする判例並ぴに多数説の立揚である。勿論、保護手段の多けれ
ば多い程よいとレて両者を共に肯定する立揚も生じうる︵糀鰍畑︶。前老は、ドイツの相対権概念を誤りであると批難・
債権に基く妨害排除についての考察 二三七
一橋大学研究年報 法学研究2 二三八
克服して創設されたわが誇るべき理論であった筈であるが、その後の承継者をみると、論者は物権的請求権と同質の
ものであることを強調するにも拘らず、不法行為におけると同一要件を附加して、実質的には、フランス及び論者に
より克服された筈の相対権概念を踏襲しているドイツにおいてすらも何の困難もなく肯定されている不法行為に基く
原状回復と同一方向の意味を持つ歩みを辿ってきているのは皮肉ながらも興味深いし、かつ、特殊ロ近代的意味を有
する債権としては、その保護を強化せんとして物権・債権の差異を無視して抽象的な権利乃至概念の一般論から如何
に債権の内在的効力を大きくしようとしても、結局は必然的に落ちつかざるをえない一つの方向であることは既に検
討してきたところから明かであろう。
四 次に以上の視点から、わが法の欠陥をカバーすべきこの二つの特殊“日本的理論・現象を検討しなければなら
ない。しかし、ここで更に次のことが指摘・留保される必要がある。第一に、先にみたところから窺えるようにドイ
ヤ
ツ・フランスにおける不法行為に基く原状回復は占有訴権によりえない占有取得前の債権保護のために利用されてい
たに反し、わが不可侵性理論に基く妨害排除は、これを肯定した大審院においては占有取得後の不動産利用権にのみ
︵3︶ 、 、 、 、 、 、
、 、 、 、 ︵4︶
利用され、不法行為と同様故意過失等の要件を附加する近時の不可侵性論者の志向も亦主としてこの点にあり、両者
︵5︶
には形式的要件の類似にも拘らずその保護の意欲の対象にはズレがあるということ、第二に、債権者代位権制度の利
ヤ ヤ ヤ ヤ
用は、殆んど、 ︵登記請求権と︶債権に関して云えば、占有取得前の不動産の利用権的債権︵殊に賃借権︶の保護の
ためになされているということ、従って、これらの立揚をわが国で維持すべき、先にみた特殊U日本的事情に基く必
,︾
然的な、必要性があるかという問題は、これもわが国特有の現象を呈している不動産賃惜権に代表される利用権的債
蒐
檎
債権に基く妨害排除についての考察 二三九
いうことと、不法行為に際し被害者をいかほどにいかなる方法で救済してやるか、ということとが同一でなけれぱならないと
列において比較すること自体がおかしいし、契約当事者間において本来なすぺき債務の履行に国家がいかほどに干与するかと
簡便な金銭賠償のみによったのである。︶、阻却事由としての正当防衛と積極的な不法行為の効果とは次元を異にし、両者を同
議事速記録︵日本学術振興会謄写︶四一巻一七八−九丁、二〇六丁。事実は、意識的に諸外国におけるような原状回復を排し、
︵民法修正案理由書四一六条︵現四一七条︶七一二条︵現七ニニ条︶七二二条︵現七二三条︶の説明、なお、法典調査会民法
て肯定されていたと解する、というにあるようである。理の当然として肯定し前提していたというのは明かに事実に反するし
るから同様であるぺきである、、国七二二条が四一四条四項に関する四一七条のみを引用したのは原状回復は﹁理の当然﹂とし
拠は、日正当防衛︵七二〇条︶さえ認められるから﹁理の当然﹂、口契約当事者間において直接強制︵四一四条︶が認められ
済﹂法経研究一巻一号1ただし直接参照しえず﹂浜田稔﹁不法行為に関する一考察﹂私法一七号。浜田氏の解釈論的根
尤も現行法の解釈論として損害賠償としての原状回復を肯定せんとする説がないではない、清水兼男﹁不法行為と現実的救
原状回復との差異を抹消して一般的に英法のインジャンクションと同様のものを提唱される。
たるを失わない﹂といわれ、末弘博士は後に﹁民法雑記帳﹂二二八頁以下二三六頁以下では、物権的請求権と不法行為に基く
︵1︶ 勿論通説である。ただ、戒能﹁債権各論﹂四六三頁は原状回復につき﹁此の点は現行法上もなお考慮せらるぺき問題の一
た問題を振り返ることにしよう。
うるものであるか否かを検討しておくにとどめ、賃借権等を個別的にみた後に、本稿全体を総括する際に更に残され
いうことである。従って、ここではさレあたり、これらの立揚の法律的構成がわが現行法の解釈論として検証に耐え
権それ自体による妨害排除請求権、及び占有訴権等を検討して、それらとも関聯させて評価されなければならないと
が
一橋大学研究年報 法学研究2 二四C
いう必然性もない︵不法行為における﹁賠償責任の社会化﹂の動向を想え︶。また、不法行為の救済方法の沿革︵原田慶吉﹁畏
法七〇九条の成立するまで﹂日本民法典の史的素描所収参照︶からも、抽象的にも、﹁理の当然﹂に認めなければならないな
どという理論もない︵なお田中︵整︶民商雑三三巻三七三頁の批判参照︶。ことは立法政策の問題である、と考える︵通説の
態度であろう、加藤・二一三頁以下参照︶。
︵2︶ 川島﹁離婚慰藷料と財産分与との関係﹂我妻先生記念論集上二七五−七頁は、これらの点についても示唆多い。
︵4︶ 柚木﹁判例債権法総論上﹂一七頁 二二頁は、公示、直接支配を問題とされ、更に、同﹁債権に基く妨害除去請求権﹂︵神
︵3︶ なお、二章一節二六註︵5︶参照。
︵
戸法学雑誌五巻一、二号︶一二五頁は不動産貸借権の如きが主たる対象となる、とされ喝。松坂﹁民法提要.債権総論﹂︸四
頁は、公示方法の有無が重大な意義をもつ、とされる。
︵5︶ 最も多いであろう売買等については、形式主義をとるドイツにおけると異り、わが国では意思表示のみで︵通説.判例︶
物権を取得し物権的請求権を行使しうる、ということも、両者において異った現象の生ずる原因の一つであろう。また、ドイ
ツ・フランスでは先にみたように詐害的共謀に対する債権者保護に大いに活用されるが、わが国では、債権者代位権における
と異り、詐害行為取消権の規定︵四二五条︶からの反対解釈が心理的に作用するのか、この点は殆んど問題とされていない。
第二節 不可侵性理論
一 9 不可侵性理論に基く妨害排除請求権につヤては、その背景となり、かつそれと不可分の関係に立つ不可侵
,P
性理論の第三者の債権侵害による不法行為責任︵閥金銭賠償︶の肯定への特殊H日本的役割とその限界から一瞥する
、4
妙、
債権に基く妨害排除についての考察 二四一
九条への孤立的抽象的導入の結果、実質上はドイツの通説・判例とは反対に、第三者の償権侵害に対する債権者の不
︵3︶
法行為法上の保護を全く否定するという不当な結果に陥った有力学説があり、或は一見ドイツの折衷説と似て実は非
︵4︶
なる債権の帰属自体の消滅する揚合にのみ肯定する折衷説も行われた。大正三年の末弘博士の論文はこのような時期
ヤ ヤ ヤ
他の不法行為諸規定による保護を考慮することなく、その八二三条一項の﹁権利﹂と相対権との概念のみのわが七〇
ある。民法典制定後の諸説は第一の途を選び、古くから、債権も対世権・不可侵権を伴い、従って一般人には不可侵
︵2︶
義務ありとして、債権侵害による不法行為の成立を肯定するものが多かった。ところが一方、或はドイツ民法のその
またドイツの不法行為諸規定の総計と同じ範囲を把握するものとして、拡張し、侵害の事実的側面を把握することで
権と同じく絶対権であるとすることであり、第二は、わが七〇九条の﹁権利﹂を、フランス・英米と同様に、そして
つの方途が考えられよう。第一は、七〇九条の﹁権利﹂をドイツの通説的意味での絶対権であると前提して債権も物
れ、諸国に類を見ざる不当な結果となる。されば既に立法過程においても、理論的根拠は朋かでないが、債権の第三
︵1︶
者による侵害が本条の﹁権利﹂侵害となることは﹁勿論﹂のこととして肯定されていた。これを肯定するには一応二
イツの通説的見解と同様絶対権と解するときは、相対権とされる債権の第三者に対する不法行為法上の保護は否定さ
責任は実質上肯定されることは先にみた︵即障彫醐撫撹︵二︶︵b︶、︶。しかるにわが法においては、七〇九条の﹁権利﹂をド
貯暮Φが問題となるにすぎないフランス︵一雍八︶︵節璋﹂、及ぴ英米︵一一葦一塙︶と同様、第三者の債権侵害に対する不法行為
ドイツにおいては、その八二三条一項の﹁権利﹂を絶対権と解しても、八二六条・八二三条二項により、結局、
必要があろう。私が先に諸外国における第三者による債権侵害の取扱を検討した理由の一つもそこにあった。
ル
一橋大学研究年報 法学研究2 二四二,
に発表され、先にみたドイツ民法八二三条一項のみに関するドイツの通説的概念構成の踏襲に基く形式論理的操作に
︵5︶ ︵6︶。
よる岡松博士の抵抗に会ったとはいえ、その後のわが判例・学説を肯定説へ導くのに大きな影響を与えたといえよう
︵2︶ 二上﹁相対権の絶対的効力﹂明三七年法協二二巻一号一〇八頁以下、池田﹁第三者二依ル債権ノ侵害﹂明三九年法協二四
︵1︶ 法典調査会民法議事速記録︵日本学術振興会謄写︶四〇巻一五七丁、穂積陳重起草委員答弁。
巻一〇号一四三三頁以下、団野﹁損害賠償論﹂明四二年三〇頁以下、中島﹁民法釈義﹂一巻.明四四年四八頁︵なお同三巻大
十年三一−二頁、 ﹁不作為債権論﹂大八年一七二頁以下︶、横田﹁債権各論﹂明四五年八四三頁以下︵ただし故意を要すとす
る︶、菱谷﹁不法行為論﹂明四五年四七頁以下、富井﹁民法原論﹂一巻大三年一〇九頁等。
︵3︶ 石坂﹁債権ハ第三者二依リテ侵害セラルルヲ得ルヤ﹂改纂民法研究下一頁以下、﹁日本民法第三編債権第一巻﹂一〇頁以
下、松本︵蒸︶﹁註釈民法全書一巻﹂六一頁以下︵なお、同﹁債務者及ぴ第三者の共同行為に因る損害賠償責任﹂大二年私法
論文集二巻二六〇頁以下は、債権の侵害は不可能としながら、財産不可侵権を肯定して、実質上、不法行為責任を肯定せんと
する︶、外に岡松博士。
︵4︶ 川名・東大講義︵末弘・後掲法曹記事所収論文五一頁より︶、なお同﹃債権法要論﹂大四年二一頁以下同じ。ドイツの折
衷説は、ひ⑪外P、保護法規違反の不法行為︵八二三条二項︶、良俗違反の不法行為︵八二六条︶の場合も責任を肯定するこ
と、二章一節二︵三︶。
︵5︶岡松﹁第三者の債権侵害﹂大五年京都法学会雑誌一巻一一号一頁以下、一二号五〇頁以下、同﹁債権の性質﹂大九年新報
三〇巻七、八、一一号、なお外に鳩山︵旧説︶﹁註釈民法全書二巻﹂五一五頁。
︵6︶ 例えぱ、鳩山︵改説︶﹁増訂日本債権法総論﹂六頁、同﹁増訂各論﹂下八六七頁、穂積﹁民法総論﹂上九四頁、平沼﹁民
、、屯
順
b、
法総論﹂一一二頁以下、磯谷﹁改訂債権法論﹂︵総論︶一七頁、 ︵各論下︶八四〇頁等。現在の諸学説は掲げる要もないであ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ろう。ただ、川島﹁債権法総則講義第一﹂七九頁,及ぴこれを支持する前田︵耕︶﹁第三者による債権侵害﹂愛知大法経論集
ヤ ヤ
一六集は、債権の相対権概念から八二六条等に至るまで、ドイツの通説的立揚を殆んどそのままとり入れ、実質的にはわが現
在の通説とほぽ同様の結果となる。本稿ではこの点には深入りしない。判例としては、大判・大四二一丁一〇・刑録二一・二
七九、大四・三・二〇民録二一・三九八、大五・一一・一二民録二二・二二五[、大一一・八・七刑集一・四︷○等Qなおす
でに東控明三七二二・一五聞二〇〇・一一あり。
鳳㊥墓−譲を−象 他の諸説−同様旨法上不 成立ス メニハ常二
必ズ権利侵害アルコトヲ要ス﹂と解されていた博士においては、第三者の債権侵害による不法行為責任を肯定せんが
ためには、従来のわが積極説と同様、債権の第三者に対する権利性目絶対権性を論証することが必要であった。そこ
で博士は、ドイツの古典的通説的な絶対権・相対権なる権利概念をこれまた抽象的孤立的に分析して批難し、権利の
ヤ ヤ
性質を排他性と不可侵性なる概念に分類し、物権の他の権利と異る特質は﹁排他的二物ノ直接支配ヲ為スコトヲ内容
卜﹂し従って﹁一物上二二個以上ノ同種ノ権利成立シ得スト云フ﹂意味での﹁坤他憧﹂のみであって︵苅湘勲塘嗣蔀縣︶、
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
物権者が物を支配することを第三者が妨げてはならないと同様に、債権者の債務者からの給付による享益行為を第三
者が妨げてはならないのは﹁当然ノ事理﹂で、その意味では債権も絶対権であり︵⋮∼一薫以下、︶、之に﹁不可侵性﹂の伴
うべきは﹁事物ハ卦鮒﹂であって、かかる﹁﹃不可侵性﹄ヲ犯スモノハ即チ﹃不可侵義務﹄﹂に違反し違法である︵㎜鳥︶、
として、物権・債権を間わず権利に当然伴うべき不可侵性に対応する不可侵義務違反こそ不法行為責任の根拠である、
債権に基く妨害排除についての考察 二四三、
㌧
〃
一橋大学研究年報 法学研究2 二四四
とされた。
︵3︶
しかし博士の立論からすれば、その論理の必然として、第一の売買契約を知り乃至は過失で知らずにその物を取得
した第二の買主は、第一の買主の債権を侵害しているのであるから、権利の通有性たる不可侵性の第三者に負わせる
不可侵義務に違反し違法でみり不法行為責任を負う、ということになる筈である。しかるに博士は、一方では﹁物権
、 、 ∼ 、 、 、 、
二排他性アリトノ理由ヲ以テ直二物権ノ不可侵性ヲ推論セントスルハ明カニ不当﹂で﹁一物上二二個以上ノ同種ノ権
ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ
利成立シ得スト云フコト﹂︹”排他性︺と﹁物権ノ行使ハ第三者之ヲ妨害ス可ラスト云フコト﹂︹畦不可侵性︺﹁トハ全
然別問題一である︵基琵︶とされながら、不可侵性を問題としているここで、債権の侵害されていることは肯定されな
がら、債権には 不可侵性とは﹁全然別問題﹂な筈の 排他性、優先性の存しないことを根拠に、先の例の揚合
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
は﹁常二違法性存セサルカ為メ不法行為トナルコトナシ﹂とされる︵醐舗臣隔朗︶。ここに博士の理論の破綻が現れている。
の の ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
しからば博士においては、違法とされる不可侵義務違反と違法とされない不可侵義務違反とがあり、従って不可侵義
務違反が必ずしも違反でなく、権利に当然伴う不可侵性も侵害することの許される不可侵性と侵害することの許され
ない不可侵性とがあることになる︵哨鉢貼膵磁斯翻輪、︶これは言葉の矛盾である。かかる二重性格的な﹁不可侵性﹂・﹁不可
侵義務﹂を基準として持ち込むことでは到底充分な解決をうることはできない︵凱露ψ麺雁填一︶。
国 博士においては当然の前提とされていた七〇九条の絶対権たる﹁権利﹂侵害の、﹁違法性﹂への昇化・拡大をも
たらした末川博士によって、間題は全然逆の思考方法によって進められた。すなわち、末川博士は、末弘博士の否定
せんとされた物権と債権の差異を肯定することから出発して、債権の侵害可能性を、債権の近代社会における独自の
4、
サ
。 甘∼
債権に基く妨害排除についての考察 二四五
理由で、すべての法主体によって尊敬されねばならず、否より正確には、何人によっても妨げられることを許さない。この一
セン法を擁護しpーマ法的ドイツ民法第一草案を批難する立場に立つが、そこで、﹁いかなる権利も、まさに権利であるという
三五頁註︵十二︶︶。ω9βすUδ囚o冨9q犀けδ旨山R象一韻一ざげoβ国8げけρ︾8巨<3円σ畦㌍痢炭“加︵お2︶は・プロイ
︵3︶ これが、従来のわが積極説、及ぴ、博士も引用されるシュタウプの説等の承認の上に立つことは明かである︵前掲論文二
るのではないか、とされるが、債権侵害の考え方自体には変化はみられない。 ’
︵2︶ 末弘﹁債権各論﹂︵大七年︶一〇一一頁。なお同﹁民法講話﹂︵大一五年︶上一一六頁に至ると、﹁違法の利益侵害﹂で足
志林一七巻一〇号一二号、同﹁中島博士の新著に引用された余の所説について﹂法協三九巻五号。
︵1︶ 末弘﹁第三者ノ債権侵害ハ不法行為トナルカ﹂大三年法曹記事二四巻三号五号。なお外に、同﹁債権の排他性について﹂
害を肯定する点においては同一の志向を有するので、その破綻はここではあらわとはならなかった、ともいえよう。
と思われる。しかし、博士の不可侵性理論もその後のこれを克服した諸学説も、何れも結果的には、第三者の債権侵
の下で第三者による債権侵害の不法行為責任を肯定するための過渡的役割を果したことで消え去るべきものであった、
させられ、その限界の具体的検討もより詳細なものとなっている。所詮、末弘博士の理論は、わが不法行為法の規定
︵6︶
る思考方法が見出せる。末弘博士の不可侵性理論を克服した末川博士の基本的立揚は我妻教授等によって支持・発展
︵4︶
フランス・英米・そして八二六条についてのドイツにおけると類似の、権利の概念からではなく事実の側面を把握す
のは、不法行為の肯定される限りで、その結果として認められうるにすぎない︵蘇訓腐錦訓嚴賂臓粘昭︶。 ここに、先にみた
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
で不法行為となる、とされる。従ってここでは、末弘博士の前提とされ、基準とされた不可侵性・不可侵義務なるも
存立の認められる構造に求め、かかる侵害の事実上存する揚合、それが今日の法律秩序の下で違法と評価される限り
、 、 、 、 山
ル
一橋大学研究年報 法学研究2 二四六
般的不可侵義務︵匙蒔cヨ9器室9釘ε門[芭硫ε聖o窪︶は各鳶の権利に対する一般的人間義務︵2蒔①ヨΦ三①三2あ呂①一∈臣c窪︶
る﹂︵¢嶺”ψ旨︶という。
として法秩序の本質から生ずるものであ﹂り、かかる意味で﹁すぺての権利は絶対性を有し﹂、﹁従って対人権も亦絶対権であ
の の
︵4︶ ここにまた、末弘博士によっては排他性なきため﹁常二違法性存在﹂せず、と硬直な判断を受けた二重売買等についても、
先にみた諸外国におけると同様、不法行為が成立しうるとの弾力的評価の容易に可能な基盤が与えられた、といえよう。
︵5︶ 我妻﹁事務管理等﹂一二四−五頁、﹁債権総論﹂︹一六︺︹二︺。なお、石本﹁前掲書﹂一〇一頁以下、牧野﹁信義則と第三
者﹂民法の基本問題第四編、特に一九六ー三二〇頁に更に岡松・末弘・末川博士の諸説の批判がある。
二 ところで、債権に基く妨害排除については、判例が論議の口火を切った。大正四年以来右にみた不可侵性理論
を強調するア一とにより不法行為責任︵”金銭賠償︶を肯定してきた大審院︵欄關︶も、妨害排除請求権については、大正
十年二月に至っても消極的態度をとったが︵軟レ地○跡に栖卜叱親版蝦程遡一監一一藤難縫︶、同年十月に至るや、専用漁業権の
賃借権につき﹁権利者力自己ノ為メニ権利ヲ行使スルニ際シ之ヲ妨クルモノアルトキハ其妨害ヲ排除スルコトヲ得ル
能翫卵諏順末弘.︶、翌十一年には、河川法により私権の目的たりえない河川についての知事の許可による河川占
ハ権利ノ性質上固ヨリ当然ニシテ其権利力物権ナルト債権ナルトニヨリテ其適用ヲ異ニスヘキ理由ナシ﹂とし︵状か漁
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
配叱
,4
σ
.畢
の使用権︵巫り僻圏賄鵬健賠無徹り︶につき、物権・債権を問わず﹁飛恥侵惚﹂により妨害排除を請求しうると明言した︵蓄
更に翌十二年には、末弘博士の大正十年十月の判決に対する賛成批評︵鮪︶にカを得たか国有財産の寺院境内地として
用権につき、権利たる以上反対規定なき限り﹁総テ対世的性質﹂を有するとして肯定し︵款牝粒壁馳駈恨嫌卵騰殖一五頁.︶、
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
撫殿
鳶
債権に基く妨害排除についての考察 二四七
石本博士、我妻教授等により克服されたかにみえる不可侵性なる概念が、ここにまでも、新たな構成を再ぴ施されて
ような大上段の修飾を施すという方法で案出し支えられ︵蝿幅解舗隅蟷紋払勲瀦鮮会編.︶、 かつその後、先にみたように末川・
となった、と私には思われる。まず基本的には、﹁当然ノ事理﹂﹁事物ノ当然﹂という恰も客観的真理ででもあるかの
まさにこのときから、特殊”日本的な不可侵性﹁理論の混乱と矛盾一︵即肌淑弥姻謙甜耀耀勲恥畷躰伽財伽魏狸熾蚊.︶とはあらわ
有する債権にも妨害排除の効力を認めていい馨ある.として前記判例隻持えた︵齢鰍鯨︶い
には排他性を要せず﹁不可侵性﹂で足る。然らぱ物権に妨害排除の効力を認める以上︹排他性こそ有しないが︺同じく不可侵性を
カを変更され、﹁排他性﹂は同一物の上に第二の相妨ぐべき内容の﹁権利﹂を成立させない効力であり、事実上の侵害を排除する
ハヨレ
碩以︶。ところが同年同月の前記積極判例が出るに及んで、雨士は卒然と博士のいわゆる不可侵性・排他性の概念の効
いわゆる不可侵性なるものは不法行為責任を生ずる根拠となりうるにすぎないとされてきた︵味佛﹁吻講撒断解細馬蘇一P
ヤ ヤ ヤ ヤ
は、大正十年十月に至るまでは、物権的請求権を博士のいわゆる物権の排他性から生ずると理論構成され、と同時に、
ヤ ヤ ヤ
先の大正三年の論文により絶対権・相対権なる権利の分類を否定することにより債権侵害を積極に解した末弘博士
猷紘瀞臣款雑話%こ︶。その後の判例は必ずしもこれに従っていない。
レ
ったものであることに留意しておく必要がある︵硬繁痢醐植明噛醐賄剛纏獅秘繍雌が遭鯉鱒跡辣礫の脳謬誌渦魏緯鴬麓ポ融難働槻圃⑩
かということともからんで近時わが訴訟法学者の間でも論じられているいわゆる訴訟物理論との関係にこそ問題のあ
済されうるものであり、むしろ、当事者が占有訴権によって﹁請求の原因卒実﹂を構成・主張しなかったのではない
梱牝糊応眠韻に騰鑑繭靴甑.︶。しかしこれらの判例の事案自体は、民法上は伝統的理論により占有︵乃至準占有︶訴権で救
レ
一橋大学研究年報 法学研究2 二四八
登揚してきたこと自体が問題となろう。物権の王たる所有権ですらも、それが現在のようないわゆる物権的請求権に
レ
よって保護され観念的所有権とされるに至ったのは特殊日近代法の歴史的所産であり、加うるに、わが現行法におい
てすらも、物権とされながらも現実支配と結合され未だ観念的物権の次元にまで高められていない“物権的請求権に
よる保護の否定された諸権利ー留置権︵︸翫証絵︶・動産質権︵︷一雑辺諫婁葱Y動産先取特権︵ 薙︶1の存在すること等を
想うとき、近代法のかかる歴史的存在そのものを、﹁理論上誤っているというのみでは、理論上説明されたことには
さレ
なら﹂ず︵酬鵡晶蜥晴罐糀吻膿騰酔か彫︶、物権と区別された債権の特殊性を無視して不可侵性等権利乃至概念の一般論.抽象
論から演繹するのは順序が逆であって、先にみた不法行為責任におけると同様何らの解決もつかないのではないか、
と思われるからである︵ 誹 算 ゼ 瀟 籍 鄭 加 範 ∼ ポ 關 節 ︶ 。
具体的にみよう。いわゆる物権的請求権は権利者のあるべき物支配に対する客観的侵害状態があれば加害者の主観
的要素等を問うことなく生ずるものであることは近代法の確立された原則であるが、これが権利の通有性たる不可侵
性なるものから生ずるのであれば、債権においてもこの理は異るべき筈はない。従って論理の赴くとア一ろ、第一の契
約を知らずに物を取得した第二の買主ですらも、客観的には第一の債権を侵害しているのであるから︵蛛協肝翻講諾暁翻贈
眺鍬耽励淀祉︶、第一の買主は第二の買主に対して物の引渡等妨害排除を請求しうる.一とをも肯定せざるをえ、.感い。否、
ヤ ヤ
債権が物権と分離され無権利者との間になされた他人の物の売買や賃貸借ですらも債権契約としては有効にされうる
以上、かかる債権についても権利に当然伴うぺき不可侵性からは同様のことが問題となろう。しかしア一れらは、先に
.噂
みた物権と債権の分離によって確保されている現代取引社会の運行の麻痺を意味しよう︵躰違︶。されば博士も、その
4
、ρ
セ,
活用を如何なる限度に止むるを妥当とすべきかは慎重に研究されねばならぬ問題である︵嚇醐糊︶、
をおこうとして苦慮され る ︵ 競 胸 暖 働 瑠 蹴 ゆ 斬 麟 は ︶ 。
として何らかの限界
ヤ ヤ
︵1︶ これらの判例を、裁判所が占有訴権で救済した、と解する説︵川島・来栖教授︶があるが賛成しえない。これは、理論の
︵2︶ 大判.昭五.七.二六︵評︸九民一一四五、聞三一六七・一一︶は賃借権につき占有訴権によるぺしとする。反対に・
当否は別として、一部訴訟法学説をもって直ちに裁判所の実際であるかの如き誤れる即断が前提となっているからと思われる。
大判.昭五.九.一七︵評一九民一二八○︶は同じく賃借権につき前掲大一〇・一〇・一五判例を引用して肯定、大判昭六・
四.二八︵聞三二七〇.一〇︶は国有財産の寺院境内地としての︵無償?︶使用権につき、前掲大一二年判例を引用して肯定・
最高裁は否定−後 述 。
︵3︶ なお、吾妻﹁意思表示による物権変動の効力﹂︵東京商大研究年報・法学研究2︶一二三頁註︵二︶によれば、講義にお
︵4︶ ローマ法における特Φ一<一、一象。帥一.。すらも、古典時代には金銭賠償訴権であってユ帝時代に至って始めて物自体の取戻が
いて、改説することを朋言された由。
可能となったことQσ﹃ω、囚=一一犀Φ一,≦Φ一一の①嘆℃ψぐOF¢鴇ど原田﹁・ーマ法﹂︸六二頁︶、ゲルマン法における不動産につ
ーレの不存在、9自﹃♂蒔①ヤ>コ禽ゆ一一αq による制限された保護、・ーマ法の継受︵刃①器讐δ菖によるお一ぐ5象3ロP8ぼ〇
いての現実的ゲヴェーレから観念的ゲヴェーレヘの保護の拡大、動産についての寓壁α≦”ぼo寓ρ口qの原則、観念的ゲヴェ
一一囲や8味5一旨①巳島9の流通等を想え︵℃置一一一貫¢OO。1お曾国岱び器斜ψおO。庸‘ω・自OR旧石田﹁財産法の動的理論﹂四
章︸〇七頁以下、川島﹁所有権の観念性﹂法協六〇巻一〇号、六一巻一号、八号、六二巻六号、同﹁所有権法の理論﹂特に︸
〇二頁以下︶。なお本章一節一。英法においては、現在でも所有権保護と占有との関係が断ち切られていないこと、殊に動産に
債権に基く妨害排除についての考察 二四九
一橋大学研究年報 法学研究2 二五〇
おいては、所有権にすらも鞭秒いいでの返還請求権は認められていないことは前述した︵二章三節三、四︶。
︵5︶動産籍に物欝請求肇譲したのは﹁籍者ヲ羅ス告−厚キニ過クルノ恐ア告以テ﹂であ.た︵民法修正輩
由書三四九条︵現三五三条︶︶。なお動産先取特権については﹁取引ノ安全ヲ保護スル必要二本ツク﹂︵前掲書三三三条︶という
が・それは善意取得︵一九二条︶で充分で理由とはなりえない。一方、ドイツ民法においては、動産質権にも物権的請求権が
承認え︵=三七条︶・蒙叢特権は楚纂とえて纂の効召有する︵茄瓶毯.・、の両者の糞は、担保物権の中心
を交換価値の把握にあるとして観念的物権の次元にまで高めたか否かによろう︵川島﹁所有権法の理論﹂ 一二五頁︶。わが民
法におけるこれらの権利への物権的請求権の否定を、権利に伴うは理の当然である筈の不可侵性からは、例外規定があるから
との形式論以外に、いかなる説明がされうるであろうか.、或は、論者により損害賠償の基礎ともされる不可侵性自体が明文上
否定されている、とでも理論上解されるのであろうか。
三 その後の不可侵性論者が、博士によっては未解決のまま残された物権とは異る債権の限界づけとその解釈論上
の理論構成に腐心せざるをえなかったのは当然であろう。
侵醐讐、・−マ法的近代法の物権・債篠別の構成自体に欠陥があるとして︵肋薫羅︶、両者ともに不
可侵性に拠りな萱特篠笹ついてはその限界として加害者の﹁故意過失﹂を要するとし、紳は憲でも損害
賠償債権の発生には故意過失を要することが我民法の採る原則である。これは侵害が客観的違法として損害賠償の原因となるため
には主鶴逡を妻するとな葱のである.然らぱ同様に侵害砺害排除並禄止の請求を許すに至る為ほやはり状態の譲
と共に主観的違禁兼賞わら楚籟豊婆発生さ芸籍神であると解すべきではあるまい葭とされる︵繭顯糠、︵粥
、“
琴氏の﹁籟的莚﹂とはい袈る趣旨か必ずし晶か寒いが︵職鐘肋弊菱笹、それはともかく、物権
,4
セ、
債権に基く妨害排除についての考察 二五一
従来の﹁不可侵性﹂に基くそれとの二本立を理論上肯定された上、博士によれば、﹁効力の強さにおいて前者が後者に遙
ヤ ヤ ヤ
であるー排他性からも生ずるとされ、従って物権については、右の新たに肯定された﹁排他性﹂に基く請求権と、
ヤ ヤ ヤ ヤ
求権は、ー末弘︵轍Y平野・柚木︵旧︶説においては妨害排除とはかかわりのなかった筈のーしかし末弘博士の初期の立揚
の後改説されて、先の末弘博士の改説とは反対の方向へ再び抽象的な概念の効力を変更され、物権に基く妨害排除請
ヤ ヤ
的請求権の沿革及び近代法上の確立された大原則の否定であって、到底維持しうるものではない。されば博士は、そ
者が侵害の対象たる権利を認識しまたは認識しうべかりしものであることを必要とする、﹂と。しかし、これは物権
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 ︵1︶
は、無意識裡に、まさにこの途へ進まれた。すなわち、物権・債権を問わず客観的違法性とともに、﹁侵害
ヤ ヤ ヤ
、偽哩
故意・過失等を要するとする外はない。
に基く妨害排除請求権との間の理論的破綻を弥縫せんとすれば、残された途は、論理上、物権的請求権にも加害者の
ヤ ヤ ヤ
ことを肯定し、それに平野氏のように取引の安全を顧慮して債権については放意過失等を要するとして、しかも物権
口 末弘博士のように物権・債権を問わず権利の通有性たる不可侵性なるものから物権的妨害排除請求権が生ずる
なされてはいないことになる。
れない。理論の破綻であり、債権についても、既存の制度の一要件を便宜的に借用してみたにとどまり何らの論証も
故意過失を要件とする、との結論を承認せざるをえまい。しかるに氏はこれらの権利についてはかかる要件を要求さ
の文の冒頭の﹁権利﹂を﹁所有権﹂等と代置してもそのまま妥当し、従って所有権等に基く物権的請求権も加害者の
並ぴに占有取得後の不動産賃借権の侵害に対する損害賠償も加害者の故意過失を要する以上、氏の立論によれば、右
蒼
一橋大学研究年報 法学研究2 二五二
かに凌駕するものであ﹂る、とされ、従って﹁強力なる物権的請求権が是認せられるのに、それより効力弱き妨害除去請求権を共
に認めることは無意義であるから、わが民法の解釈としては、物権に基く物権的請求権は排他性に基いてのみ⋮⋮把握すべきもの
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
と﹂され︵舳諌b蝋鵬備文︶、これに対し、債権に基く妨害排除請求権は、末弘︵轍Y平野・柚木︵旧︶説と同様、不可侵性
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
の上にのみ把握されて、更に、それに違法性と故意過失をも附加される︵備鵬臨獣声︶。従って博士の立揚では、特別法等
ヤ により対抗力を具備した賃借権は、物権ではないが、その有する排他性に基き物権的請求権は論理の必然として生ず
るし、反対に、たとえ不動産賃借権が占有等の公示方法を具備していても、法律上排他性の附与されていない限り、
妨害排除請求権は、侵害の客観的違法と加害者の故意過失があって始めて生ずる、ということになる︵㌃二顯謁凝吃虹紐
徽蒸鰹紗、嘉翰雛・畿爆鰐凝藪暴耀響醸灘骸窺蓑躯轟鍛、懇嵯袈髪縛糞撰擁響襲・﹂︶.
まず物権についていえば、博士らのいわゆる﹁排他性﹂は物権においても登記・引渡等の対抗要件︵葛砒鯨︶の具備
しない限り存しない筈であるのに、他方、博士︵目判例・通説︶が、一七七条二七八条との関係では、登記・占有な
ヤ ヤ
く従って排他性を取得して炉ない物権者も事実上の妨害者に対しては物権的請求権を行使しうる、とされるとき︵舳躰
︵2︶
融論櫓琵︶、 これが、いわゆる﹁排他性の上にのみ﹂把握される前述の博士の立揚といかに調和しうるであろうか。
・4』
■
呈示された今,従来のように物権的請求権によって支えられ幻惑されることなき独自の論証が意識され要求されねば
ってカバーされていた。柚木博士によってこの覆いが取り除かれ、不可侵性に基く請求権が債権に独自のものとして
においで、は、近代法上その存在の自明視される物権に基く物権的請求権も同じく不可侵性から生ずる、との説明にょ
債権に関しては、不可侵性なるものから何が故に妨害排除請求権が生ずるかという最も根本的な間題は、末弘博士
制吻
旧説時代の説明︵紬淋卿鵬關渤櫛融騰強、猷碩いな︶をそのまま引用されて、﹁純理論的にみて債権に基く妨害除去請求権が債権
ヤ ヤ ヤ ヤ
てその法的保護の態様に差異のあることは不思議ではないからである。しかるに博士は、先にみた末弘博士と同様の
妨害排除請求権が生ずるということは、歴史的にも理論的にも近代法の伝統に反し、かつ、権利の種類・性質に応じ
︵3︶
ならない。債権から不法行為責任のみならず、その内在的な効力として、﹁物権的請求権とパラレルな﹂ものとしての
物
権に基く物権的請求権を、不可侵義務違反にではなく排他性に基いてのみ把握されるに至った現在、
不可侵性に基く債権に独自の﹁純理論﹂は、﹁債権︵柑B鷹効椛︶に不可侵性が認ぬられ、その侵害に対する損害賠償請求権が認
められるに至った現在、更に進んで妨害除去請求権︵漸州駒繍陶胴辣︶が債権︵附隊臆畑権︶に認められる︵繍勧扱鷹寮︶べきである⋮⋮﹂、とい
うことにしかならないであろう。近代法上その存在の自明視される物権に基く物権的請求権の支柱・幻惑を取り除く
とき、遺憾ながらここには何らの﹁純理論﹂も見出しえないし、また、ありうるものでもないと考える。
更に、不法行為責任とは無関係な、﹁物権的請求権とパラレルな制度として把握﹂されながら、不法行為と同様の要
件を附加されることの根拠については、平野氏にみられるように、妨害排除講求権は事前及ぴ進行中の保護であり、
損害賠償請求権は事後の救済であるから、支配権の特性上別段の結果の認むぺき揚合を除いては、﹁その成立要件を共
同に⋮⋮するむのと解することが妥当であると考える﹂として七〇九条のいわゆる﹁類推﹂によるとされる︵断軍︶。し
かし、七〇九条の故意過失は不可侵性なるものから内在的に生ずる制約ではなく、立法政策上の外在的なものにすぎ
債権に基く妨害排除についての考察 二五三
『
》
の不可侵性によって基礎づけられうる可能性は﹂これで﹁充分に立証せられていると思う。﹂と附言されるだけである
)。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
識倣
改説された物権に関する前半の部分を除き、残部を旧説の前提を捨象して加工することにより浮彫りにされる博士の
(揃
一橋大学研究年報 法学研究2 二五四
ヤ ヤ
ない。先にみた物権と区別された債権の特殊性を無視して権利乃至概念の一般論から導き出すことによる不当な結果
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
を、﹁類推﹂の名の恣意的な用法の下に既存の他の制度の一要件を便宜的に借用して弥縫せんとされるにとどまり、不
法行為貴任とは異る物権的請求権とパラレルなものとしての不可侵性からの解釈論上の納得のいく理論づけはここに
は見出しえないように思われる。
︵4︶
︵・︶論奇摺穫薦柱﹂葛働膝論﹂劃.な需記債毯三再おいては、﹁故意・堤を必要
としないけれども﹂と断り、右は﹁違法﹂の内容であるとされたが、同﹁前掲論文﹂︵神戸法学雑誌五巻一、二号︶一二三頁
において、これが故意・過失の問題に外ならなかったことを了解されておられる。
︵2︶ ﹁潜在的排他性﹂とでもいうぺき新しい概念を更に作らなければ説明できないのではないか、恰も山中博士の﹁債権的物
権﹂のように︵山中﹁偵権総論﹂九頁以下、二〇頁以下、同﹁権利変動論﹂法政論集一巻三号二八七頁以下、.なお=二八頁、
三三一頁、なお同﹁占有理論﹂法学理論篇六六頁︶。なお、この点は対抗要件と物権変動との問題に関聯する。対抗要件の具備
しない限り物権変動はなく物権的請求権は生じない、とする説もあるが︵鳩山﹁不動産物権変動の得喪変更に関する公信主義
及ぴ公示主義を論ず﹂有斐閣学術選書㈲所収、吾妻﹁前掲論文﹂東京商科大学研究年報・法学研究2所収︶、通説・判例に従っ
﹁所有椛法の理論﹂二一三−七四頁等参照︶。なお林教授の﹁排他性﹂の理解につき、本章一節一註︵12︶。
ておきたい︵我妻﹁不動産物権変動に於ける公示の原則の動揺﹂法協五七巻︸号、林﹁物権法﹂五四頁、七二ー三頁、川島
︵3︶ 柚木、前掲論文一二四頁。なお、末弘︵戒能改訂︶﹁民法講話﹂上一〇三頁も、損害賠償の問題たる不法行為とは区別す
ぺし、とする︵戒能博士の加筆になる︶。
“
︵4︶ 立法論としては、ドイツ・フランス・英米と同様の結果を導くぺく特に債権侵害には加害者の故意を要するとすることも、
織
冷、
債権に基く妨害排除についての考察 二五五
いわねぱならない︵誹攣琳ポ隔に︶。
権と共通のものをこの概念自体から抽象的・演繹的方法で引き出そうとする在り方にすべての原因と問題がある、と
して案出されたにすぎなかった概念を、その余勢を駆って手段的沿革を離れてここにももち込み、しかも物権的請求
は﹁権利﹂侵害の関門の﹁違法性﹂への解放によって昔日のように強調することはもはや不要となったがー争段と
またまわが不法行為規定の下において、債権につき七〇九条所定の﹁権利﹂なる一要件を論証せんがためのーそれ
附与されれば特殊”日本的な論者の腐心は一切無用のものとなる、と考える。これを要するに、不可侵性理論は、た
けるように不法行為に基く損害賠償としての原状回復がわが民法にも附与されない限り治癒しえないし、またそれが
の原状回復と同一の意味をもつ方向を辿っている。右にみたその構成の諸種の弱点は、結局、ドイツ・フランスにお
失、違法性等を附加することにより、先に述べたように、客観的には、諸国における不法行為に基く損害賠償として
乃至はそれとパラレルなものとして意識しておられるが、平野氏以後のそれは、不法行為法におけると同様、故意過
四 以上、末弘博士以来の不可侵性理論の変遷とその法律的構成を検討した。論者は何れも物権的請求権それ自体、
うる、と解することも平等の資格で主張しうることにならないであろうか。
から、債権侵害にも適用される七〇九条とは別個に、物権的請求権と同様、加害者の主観的要件を問わず金銭賠償をも請求し
博士の立論で足るとすれば、逆に、物権侵害に対する損害賠償は物権的請求権と前後して相合して権利を防衛する制度である
ヤ ヤ
ない︵勿論、ド民八二三条一項、日民七〇九条等の過失責任主義の特殊H近代的意味はここでは度外視してのことである︶。
或は不法行為一般につき無過失で足るとの方向へ行くことも可能で、権利の通有性なる不可侵性なるものと犠触するものでは
>
︷橋大学研究年報 法学研究2 二五六
五 なお、債権者代位権の利用を否定される松坂博士は、先に検討した末弘・平野説を支持してこられた︵融傾幽鰍唖
だ︶。この点は再云の要はない。しかるに近時、債権侵害による不法行為責任については末弘博士等にみられるよ
咳
.ヲ
で詳論することはできない。ここでは妨害排除に限って、一般的不作為訴権を債権に基く妨害排除へ適用することの
︵2︶ 、 、 、 、■
主張されるのかは、すべて﹁一般的不作為訴権﹂なる用語に預けられて明かでない。
ロ
問題を一般的不作為訴権一硬へ移してしまうと、周知のようにドイツで多くの議論を捲き起した問題であり、本稿
て﹁適したもの﹂としても︵畷群恥胴鞭坊掴臨纏祉脚寧態蛾タ司憩脇槽鯉壁九︶、 それをいかなる根拠に基き現行法の解釈論として
な理由のないことは先に述ぺたことから明かであろう︵駄醐照諏ぴ︶。また、妨害排除を肯定することが仮りに理想とし
意過失を要しない︵械灘畷畷恥物︶のは何故であろうか。排他性・公示方法のないことから故意過失へ直結しうべき必然的
ねばならないのではないか。逆にまた、占有・登記前のH排他性・公示方法を現実に具備していない物権について故
ヤ ヤ ヤ
博士の立論からいくと、これらを具備した債権︵例えば占有を取得した利用権的債権︶については右の要件は不要となら
かなる関係に立つかは明かにされておられない。排他性・公示方法の存しないことが故意.過失を要する理由である
権﹂なる用語をここに導入されたことが注意を惹くが、これが博士において、従来支持されていた不可侵性理論とい
の具備しない権利であるから・轡法惚のみならず、加害者の蜘愈・通蜘をも要する、とされる︵駅鰍槻腰臥瓢権︶。﹁一般的不作為訴
を認めることは不法行為制度の目的に一層適したものといわねばならない﹂、とされ、更に、債権は物権のように排他性.公示方法
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ さつ
存する揚合にその排除を請求し、または侵害の虞がある揚合にその予防を請求しうべき一般的不作為訴権︵d旨Φ目一p。・馨一養。。匹茜。︶
うに不可侵性を強調されながら、妨害排除請求権については、損害賠償は過去の損害の填補であるから、﹁権利の侵害状態が
欄欺
聖
債権に基く妨害排除についての考察 二五七
たかにみえるが、実際上拡張されこの差異の抹消されたものは、債権ではなくして、名誉・信用・不正競争法により
ヤ ヤ ヤ
条一項にもみられるドイツ民法の基本構造としての絶対権たるヵΦ。算と切①。算殺三との厳格な区別は一励抹消され
ールである加害者の主観的要件が不必要とされる結果、両者は重り合い区別しがたいといえよう。かくして、八二三
︵10︶
観的要件の撤廃、ということになる。とはいえ、物権的請求権と不法行為に基く原状回復との差異の重要なメルクマ
︵9︶
権の保護の拡大、第二に不法行為として救済されない揚合への保護の拡張、すなわちこれは加害者の故意過失等の主
ハ レ
応、第一に明文上は物権的請求権の附与されていない対世的支配権的性格を有する法益因Φ。算茜暮への物権的請求
のためのものである。以上からも窺えるであろうように、ドイツで一般的不作為訴権の名の下になされる拡張は、一
従ってここで間題のいわゆる﹁一般的不作為訴権﹂︵象①巴一αqつ目巴諾O暮Φ二器窪養ω匹轟o︶は、これら跡外の揚合
ヤ ヤ ヤ
︵7︶
江蓉ぎd暮雲冨器霞饅 の 悶 ㌶ 鴨 と 呼 ば れ る ︶ 。
として原状回復の肯定されているドイツにおいては、さほど困難ではない︵従って、不法行為的不作為訴権&①3一蒔−
の要件は客観的にのみならず主観的にも具備していなければならないので、この程度のことは、元来不法行為の効果
更に侵害の虞あるときは不作為の訴が認められるとした。不安による侵害状態は存続しているともいえるし不法行為
︵5︶ ︵6︶
については損害賠償としての原状回復が明文上認められている。始め、ライヒスゲリヒトは、不法行為が既に行われ
ては問題はない。この理はわが法においても同様である。更に、屡汝述べたように、不法行為責任が肯定される揚合
︵4︶
︵3︶
号権︵訓伊鯉︶及び不正競争法特許法等により妨害排除請求権の明定されている揚合、及び契約に基く不作為債権につい
意味のドイツとの差異を指摘して、一一一一一。述べるにとどめる外はない。ドイツにおいては、物権︵猟暇Y氏名権︵租一Y商
炉
一橋大学研究年報 法学研究2 二五八
れレ
特別に禁止されていない営業侵害等に限られていることに注意しなければならない。ア︺れらは、わが国でならば絶対
権的支配権的性格のものとして、あえて一般的不作為訴権なるものを肯定しなくても、物権的請求権等の類推により
その保護は可能であったろう性質のものであり、ドイツの消極説もそのことを強調する。そしてまた、積極説の理論
︵12︶ ︵13︶
づけの弱いことも印 象 的 で あ る 。
︵ U ︶
それはともかく、かくして、いわゆる一般的不作為訴権なるものは客観的違法状態があれば足り故意過失等は問題
とされ加いものをいい、ここで問題の妨害排除について故意過失等の問題とされる揚合は、ア︶れとは関係なく、まさ
に不法行為責任そのものに外ならない。しかるに博士は、不法行為制度の目的に適するといわれるだけで、直ちに、
︶ ︵16︶
︵獅
疑問の多い一般的不作為訴権を、しかもドイツの積極説すらもその適用を否定する支配権ならざる債権のために肯定
され、更にこれに、先にみた理由の下に故意過失等を付け加えられる。従って博士の所説は、﹁一般的不作為訴権﹂
ヤ ヤ ヤ
というのは名目にすぎず、実質は、ドイツの不法行為責任としての原状回復そのものをわが現行法の解釈論として肯
定されることを意味するにすぎず、先に検討した、そして博士も支持してこられた不可侵性理論からの理論づけの困
︵∬︶
難さを、﹁一般的不作為訴権﹂の名の下に回避されたにすぎない結果となっている。より詳細な論証のなされない限
り、わが法の解釈論として軽々に支持しうぺきものではない、と考える。
︵1︶ 例えば○Φ耳ヨ睾P囚o誉目・<03ΦB轟窪㈱o。鵠及ぴ国昌昌①oo震霧−■①げヨ器P⑳卜。UN所掲の無数の文献と判例を見よQ
︵2︶ わが国では、妨害予防について、ドイツの議論もあわせて、否定説をとる石坂﹁一般的不作為の訴﹂改纂民法研究上一四
》
八頁以下・田島﹁不法行為と権利侵害予防の訴﹂法商研究創刊号一=二頁以下がある。前者は時代のズレを感じさせる点もな
威
々
債権に基く妨害排除についての考察 二五九
︵13︶ U①。一一一一即吋鼻ψα畠は、積極説の理論的根拠を逐]反駁した後、唯一の基礎づけは実際上の必要性が残るだけだとして、
正競争法一条一条の二参照。
九巻九号一四三四頁以下参照。ただし、大部分は立法によって解決されたといえよう、独禁法一九条二〇条二条七項、なお不
いては問題が残る、七〇九条該当可能性についてではあるが鈴木﹁流通の対象としての企業と侵害の対象として企業﹂法協五
︵12︶ 例えぱ、我妻﹁事務管理等﹂ 一九八頁、戒能﹁債権各論﹂四六三頁、加藤﹁不法行為﹂二一三頁参照。尤も営業侵害につ
︵11︶ 国一三①8零霧白Φげヨ帥昌P¢ONO︾ψOoo9ピ8コゴゆa甲ψいqoo
ま08毎の白畠ヨ彗Poo,ONNい
︵占有妨害排除訴権︶一〇〇四条︵所有権に基く妨害排除︶の類推に求め、8試o県露忽8頒跨9すという。のぎ﹃︿唾・国亭
︵m︶前註︵9︶の判例は、悪.過失蚤芋籔的侵害が乾楚るとし、その法律的根拠竺二条︵氏名権︶八六二条
︵9︶ 閑O①ρ団︵一九〇五.一。五・第六民事部︶営業上の信用を害する言辞の流布の禁止
︵8︶<αQ一■U①o旨貰鼻ψ禽。。︸ψひ芦
国と前提を異にし、わが国における程の困難さは存しないといえようー物権的請求権・占有訴権等を想えf。
権に肯定することは、先に詳論したように元来不法行為責任として坤除が同一要件で認められているドイッにおいては・わが
︵7︶前註︵3︶.ただし、.一れは妨害予防である.なお、妨害藤藁磐、不蓉為の主観的要件の存すること秦件儘
︵5︶ 閃○畠、一三︵一九〇一.四.一一、第六民事部︶不正競争。︵6︶ ■8昌げ碧負閃89益■伽象ひψ宝9
︵3︶ 詳細は国ロロΦ。。①目仁の,■Φげヨpβロ︸㈱bo踏¢窯N参照。 ︵4︶ ︿旭,国誉88段塁きΦげ日壁Pゆト⊃総ψOo。一h
判されており、妨害排除に関しても参考となる。
ヤ ヤ
いではないが、後者はドイツの諸著書に引用されている判例をも取り上げて、諸説を引用しつつ否定説の立揚から肯定説を批
診
一橋大学研究年報 法学研究2 二六〇
﹁注意さ紮けれ察らないのは、ライヒスゲリヒーの業的翁決は殆んどすぺて舞的主張の陳述関するもの君った、
ということである。しかし・そこではかかる特別の訴は必要ではない。けだし、正当な見解によれば被侮辱者は.︼こでは彼の
対世的人格権に基く請求権暑するから﹂、という.冒・①§き雰ぎ馨ω・§は、国Φ。窪免Φ。募のβ!のドイッ法
における余りにも厳絡な区別・枠の故に、﹁保護に価するか、保護の必要性があるかを顧慮することなく、不作為訴権を拡大
する危険が生ぜしめられた・︹そうでなけ段︺ライ呉ゲリ旨は、営蓼妨害え歪となく営む利益.名替を股誉れ
ない利益等のような特定の保護に価すると認められる閑8ま諮暮のために、個別的な類推適用という途を歩んでいたであろ
うに﹂、という。
︵u︶判例は﹁正義の命令﹂という︵器。。き§穿磯葛§。き筥Φぎ澤ω・。琶.外に田島.前註︵2︶論文参照.
ヤ ヤ ヤ ヤ ペ
近時の積極説をみると、ピ畦窪斜昌ψお一Rは、排除については慣習と妥当を、予防については実体法とはかかわりのな㌔
﹁純粋の訴訟上の法律制度﹂だとし、騨器サoo,ム£は、排除、予防と鴻﹁訴訟法の制度﹂であり、乱用を避け要件をきめる
のは裁判所の使命だとして、何れも実体法上の理論づけを放棄しているようであり、従来の反対説の批判には答ええていない。
︵15︶ わが国では否定説が通説であろうか︵我妻﹁事務管理等﹂一九七頁以下、加藤﹁不法行為﹂二一三頁以下参照︶。少くとも
積極説を明言するものは余り見当らないようである。
︵b︶例えぱ・Φ量婁¢一旨は、響弥について、参不作為訴肇絶対権塞く葉轡のみ肯定する.
.事
︵∬︶博士が﹁慈繋作為籍﹂といえながら、旨島きΦぎこ幕殊再き竃轟。とされず、単にq一一け。吋一帥ののロ昌ひqの、
転轟Φとのみされておられるのは︵本文冒頭引用文参照︶、このことと何か関係があるであろうか。
織
、声
第三節 債権者代位権の利用
債権に基く妨害排除についての考察 二六一
から、債権者が第三者に請求しうる範囲も債務者が第三者に請求しうる範囲を越えない本制度の利用は、第三者には
なる、という。これに対し、制度の沿革を離れることを自認する積極説は、債権は本来債務者に対する請求権である
国 消極説は、これを許せば債務者の法主体に対する不当な侵害となり、債務者の財産関係に対する不当な干渉と
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
質面での論議こそ、ここでの我々にとって重視すぺきであろう。
力についてすらも沿革を離れようとされるのでは筋が通らない︵噛協鴛測鳩倣峨励鶴灘嘱諸纏弦沸硲健し︶。何れの立揚にせよ、実
極説の多くが、ここでは制度の沿革に固執して積極説を批難しながら、他方では民法の大根幹たる債権の概念乃至効
害行為取消権の利用により特定物債権の保全されえているフランスとは事情を異にすることに留意すべきである。消
化を図る活路を何処に見出すかがここでの我々の問題だからである︵躰堕一簸︶。不法行為責任としての原状回復及び詐
制度の単なる沿革ばここではさほど重視すぺきではない、と考える。先にみたわが法の欠陥を埋めて債権保護の強
ヤ ヤ ヤ
解釈論として形式的には、わが法の明文規定に反するものでないことも異論はない、といえる。
ロ 右の制度の沿革を度外視すれば、特定物債権の保護のために利用することは、詐害行為取消権︵細㌍駈︶と異り、
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
O 本来沿革的には、総債権者のために債務者の責任財産の維持を図る制度であることには異論はない。
少数の説は反対する。本稿の目的に関する限り、議論はここではほぼ煮つまっている。
︵2︶
︵1︶
一 債権者代位権の特定物債権保全のための利用による債権保護の強化については、判例・多数説はこれを是認し、
資
一橋大学研究年報 法学研究2 二六ニ
もとより、債務者にも不当な損害を与えないから、明文にも反せず実質上も弊害を生じない本制度の利用により特殊
ヤ ヤ ヤ ヤ
の債権の効力を強化することには充分に是認すべき理由がある、とする。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
問題は、消極説のいう債務者に対する侵害・干渉の﹁不当﹂の具体的な内容は何かにかかる。論者は明云しない。
前にも触れたが︵一轟肝節︶、債務者が自由意思により賃貸借契約等を締結し、かつ現にその目的物を所持するときには、
債権者は、その後の債務者の意思︵及び他の債権者の存在︶を顧慮することなく、その物を強制的に取得することが
できる︵更に、金銭債権の揚合には、債権者は債務者の第三債務者に対して有する金銭債権・有体物引渡請求権等を、債務者の意
思及ぴ民法上の債権者代位権とはかかわりなく、強制執行法上、差押・取立てることもーそれが金銭債権であれぱ独占的にでも
ー保証されている︵鎌○子蛎踊輔融糊轍斯灘階︶︶。しかるに右の揚合、たまたま第三者の不法占拠等により賃貸目的物を債務者
が所持せず、かつその有する返還請求権をも行使せず、更には第三者の債務者に対して負う返還義務を免除すること
もせず、いたずらに放置して契約上の義務を履行しようとしないときに、債権者が目的物の引渡を第三者に要求すれ
ば、本来契約締結者芝して強制的にでも債権者への引渡義務を負う債務者の法主体・財産関係への不当な侵害・干渉
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
となる、と云うとき、論者の保護せんとされるものの実体は﹁契約は守らなくてもよい﹂との債務者の恣意のみでは
ないであろうか。債権保護を強化せんとの判例・多数説の意図への反対理由としては、説得力なき形式論との感を免
︵3︶
れ得ない。先に検討したように、フランスはもとより、債務者の法主体を尊重するものとして一部消極論者の支持す
る相対権をとるドイツの通説・判例の立揚においてすらも、不法行為責任としての原状回復という方途で、債権者は
ヤ ヤ ヤ
}
第三者に対し直接に自己へ引渡すことをも要求しうる、とされていることがここで想起されるぺきである。
織
夏
債権に基く妨害排除についての考察 二六三
を利用する必要はないとされる1後述四章四註︵24︶参照。
ヤ ヤ
は原則的には拡張することを肯定され︵登記請求権につき︶、ただ、賃借権にはそれ自体による請求権を認めるべきで、本制度
お一〇〇頁、外に三潴・勝本・磯谷等︵松坂・債権者代位権の研究・三八頁註︵七︶参照︶。なお、吾妻﹁債権法﹂四四−五頁
︹三二︺ここでは特に︹三三︺、柚木﹁判例債権法総論﹂一七七頁、特にここでは一八五頁、山中﹁債権総論﹂一一四頁、な
六・二九聞三八六九・一〇︵以上何れも不動産賃借権︶。鳩山﹁増訂改版日本債権法総論﹂一八六−七頁、我妻﹁債権総論﹂
︵1︶ 大判・昭四・一二・一六艮集八・九四八、昭五・一一二一九評二〇民一三〇、昭七・七・七民集一一・一五〇二、昭一〇・
そのこととの関聯の中で、再び残されたこれらの問題を振り返ることにしよう。
ー賃借権等特殊の債権につき個別的にそれ自体による妨害排除請求権を検討し、それで保護が充分か否かを確認し、
しも重り合わない︵搬跡プ猛離㌫舶躰㈱翫齢駄諦収輌賭砕洪に︶。 以下、1登記請求権の困難な問題を本稿で論ずることはできないがー
仮りに必要であれば、本制度を利用する方がより障碍が少い、と私には思われる。しかし、両者の保謹の範囲は必ず
ヤ ヤ
二 以上の検討から、現行法の解釈論としては、先にみた一連の不可侵性理論を支持するのは著しく困難であり、
ない揚合をカバーすることができ、或は保護手段を併存させることは構わない、という。
ついては、第三者に対する直接の保謹は無視乃至放棄されるようである。積極説は、他の手段によっても保護されえ
しつつも、それは各々の権利の性質から解決すべきである、とする。債権に関していえば、末弘・松坂博士の所説に
ヤ
ついては既にみたが、川島教授は、後にみるように特に物権的諸効力を附与された賃借権の外は占有取得前の債権に
㈲ 消極説は、判例による登記請求権及び賃借権保護のための本制度の利用が重要な機能を営んでいることを承認
》
一橋大学研究年報 法学研究2 二六四
︵2︶ 松坂﹁債権者代位権の研究﹂一頁以下、三一頁、特にここでは三五頁、同﹁債権者代位権﹂︵綜合判例研究叢書民法の︶九
﹄頁、川島﹁債権法総則講義第一﹂五九頁、末弘・判民大一〇年一四八事件、同﹁民法雑記帳﹂二二九頁、外に岡村︵松坂・
研究三八頁註︵八︶参照︶。なお、以下の論述ではいちいち引用箇所を掲げないが、前註︵1︶及ぴ本註所掲箇所にある。
ヤ ヤ
︵3︶ なお、第三取得者との関係について云えば、債務者から更に他の者が債権を取得するときは、権利行使の早い方が物を取
得すぺきは当然であり、またそれで足り、他の者が物権を取得するときは、両者間においては対抗要件の問題に帰する。物権
取得者が対抗要件を具備していても、債権者が第三債務者から結果的には物を取得することが有りうるであろうことは、民訴
法の弁論主義・当事者処分権主義等一般の問題にすぎず、ここでのみ実体法上の議論を左右する理由とはなりえない。
第四章利用権的債権 −不動産賃借権を中心としてi
閥 問題の所在 二 伝統的理論 三 対抗力等なき利用権的償権 四 対抗力等物権的諸効力ある賃借権
ヤ ヤ
不動産賃借権に代表される利用権的債権については、以上の外に更に別個の考察を必要とする。すなわち、ここでの問題は、先に
みた債権一般についてのドイツやフランスにおける不法行為責任としての原状回復と同一方向への志向のみならず、賃借権が近代
︵ 1 ︶
法上債権の範疇に組み入れられたこと自体に問題をはらむ物権的請求権それ自体の承認が問題となるからである。それ自体一個の
大きな研究問題であるが、本稿の目的からは一応の検討をここで加えておかざるをえない。
︵1︶ 国ぼぎ戸Uす]畦蜂﹃o﹃oピoαQ一〆一〇一〇〇ψ8hは云う、﹁使用並ぴに用益賃貸借をローマ法で債権として烙印したこと
は、イェーリングが洞察したように、ドイツにおいては存しない社会的力関係に基いたのであり、ここでは使用並ぴに用益賃
鷲ノ
貸借は、債権よりはむしろ・ーマ的物権に近いにも拘らず、それはなお・ーマ的圧力の下に債権に組み入れられた。このこと
鴫
、尊、
債権に基く妨害排除についての考察 二六五
も、肯定された︵蛾鑓醸諏壕ポ紳蜷断蕊延配昨︶。対抗力ある賃借権についての最高裁の態度には多くの学説の支持がある
物権と債権の差異の最も根本的な点で物権と同一の効力を有するという理由でー﹁妨害排除請求権をもつ﹂との理論を
前述の対抗力ある賃借権についての最高裁の態度が確立されるに及んで、これを支持して、﹁排他性ある賃借権は﹂
いたという意味で肯定すべきことを年来主張してこられたが︵鞭喧駐乞轍偲×鰍臓顧儲塑罪狙符蛋孤恥臓薯︶、@更に近時、
示方法を伴うことによって物権化しつつある﹂とされ、債権が﹁か㌧る効力を取得するときは、これと共に第三者の侵害を排除す
ヤ ヤ
る効力をも取得すると解すべきである﹂、との理論を立てられ、その一環として、前述の大審院判例をも占有を取得して
ヤ ヤ ヤ
ω不動産の利用権的債権についてのみ、﹁現行法制の下において物資の利用を目的とする債権は漸次何等かの形式における公
ヤ
無のみを問題とする。一連の不可侵性理論等︵秣弘脚塀賜か柚︶については既にみた。我妻教授は、一般的には否定され、
︵ 4 ︶
院時代の不可侵性理論をとらず、更に後述の我妻教授の理論に拠る上告理由をも失当であるとして、専ら対抗力の有
五条・建物保謹法・処理法等により対抗力を具備した賃借権は物権的効力を有し妨害排除請求権を生ずるとし、大審
、 、 、 ︵3︶
高裁は、ω債権には排他性がないから第三者に対する妨害排除請求権を肯定することはできない、㈲ただし民法六〇
、 、 、 ︵2︶
戦後の判例で実際上妨害排除請求権が問題となった債権も不動産賃借権のみであることは注目すべきである。諸学説
︵1︶
の意図する債権保謹も亦主としてこの点にある。戦後の判例は、下級審では学説の紛糾を如実に反映していたが、最
ヤ ヤ ヤ
かの不可侵性理論によった大審院判例の事案はすべて占有取得後の不動産利用権に関するものであったが︵館璋二︶、
ヤ ヤ ヤ
一 問題の所在
が悪名高い状態を惹起した﹂、と。
診
︵5︶
一橋大学研究年報 法学研究2 二六六
が、先の我妻教授の一般理論に対しては他の有力学説からの反対が少くない。すなわち、前述の不可侵性理論の立揚
からはもとより、川島・来栖教授も反対して、特に物権的諸効力を附与された賃借権は別として、民法上の賃借権一
般については、その他の利用権的債権と共に占有訴権による保護で充分であり、かつそれによるべきであるとされ︵馴
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヨ磁鰍鵬馴器蟻瑚か酔馳穐頂親樫﹁聾灘3塊麹︶、吾妻教授も従われず︵驚凄一薇轟酷㌫繊蹴則八︶、幾代教授は、川島・来栖教授の立
揚に立って、更に、対抗力を附与された賃借権でも登記による揚合は別としてそれが占有によるのであればその占有
訴権で充分であり、かつそれ以上に及ぶべきでもない、とされる︵艦臥撮鍬︶。
かくしてここでの問題は、一応、出有取得後の利用権的債権は物権的妨害排除請求権を生ずるか、対抗力等を附与
された賃借権は如何という二点にあり、これにー特に前者に 占有訴権の問題がからむ、といえよう。
︵6︶
︵1︶ 最高裁・下級裁の判例を網羅的に挙げる古山判事﹁不動産貸借権の対外的効力︵綜合判例研究叢書民法︵1︶一頁以下特に
一=1三五頁︶参照。
︵2︶昭二八麟一二・一四・第一小・民集七・=丁一四〇一、昭二九・七・二〇・第三小・民集八・七・一四〇八。
︵3︶ 昭二八・一二・一八・第二小・民集七・一二・一五一五、昭二九ニマ五・第二小・民集八・二・三九〇、昭二九・六二
七・第一小・民集八・六・ニニ一、昭二九・一〇・七・第一小・民集八二〇二八一六・昭三〇・二・一八・第二小・民
集九・二・一九七、昭三〇・四・五・第三小・民集九・四・四三二、昭三〇・一〇・一八・第三小・民集九9一一・一六三三。
︵4︶ 例えぱ前掲民集七・一二・一四〇二−三。判例の理解につき同旨・古山三二−五頁、柚木前掲論文一三三頁、我妻﹁債権
各論﹂中巻一︹七二八︺。なお川島・法協七三巻一一〇頁、於保・民商雑三一巻五〇頁、幾代・民商雑三〇巻三一六頁、中川
淳・民商雑三一巻五六九頁等の判例批評は、占有の有無により区別せんとしかつての大審院判例を踏襲している、と理解され
翁,
■
η、
債権に基く妨害排除についての考察 二六七
者は、賃借人の手中にある物自体に対して即座に訴訟上追求することができ1賃借人は賃貸人に対し損害賠償を請求し
護の手段をもたなかったし、逆にまた、賃貸人から所有権またはその他の対物訴権を附与された権利を取得した第三
にとどまった。従って、賃借人は賃貸人以外のいかなる第三者に対しても自己の賃借権︵一〇8試08&蓉菖oお一︶保
︵1︶
り、占有訴権による保護の顧慮すらも与えられず、僅かに賃貸人に対する対人訴権たる8試08β費往が附与された
社会経済的地位のものによって構成されていた当時の賃借人には、法曹によっては賃借物に対する対物訴権はもとよ
対物訴権︵8江oぎ器目︶と、特定人に対してのみ訴求しうる対人訴権︵8江oぎ需おo壁ヨ︶に区別され、劣弱な
訴権法体系をとるローマ法においては、訴権は、物自体に対して訴訟を提起しその物自体を追求すると観念される
まず従来の伝統的な理論を一瞥しておくことは、紛糾せる我々の問題の解明にも有用であると思われる。
二 伝統的理論
しえないので、一言ここで断っておくにとどめたい。
ろう。なお、山中博士の独自の理論︵三章二節三註︵2︶文献︶は、簡単に扱うには不適当であり、かつ私にはただちに支持
︵6︶ 岡村博士の賃借権物権論︵本章三註︵6︶文献︶にまで検討の範囲を拡げることは本稿の目的にとって必要ではないであ
商雑三三巻三号五三頁もこの立揚に立ち、更に中川前掲の理由をも挙げる。
しからざれば権利は空虚となるとして。柚木博士が物権的請求権を権利の排他性に基き把握することは先にみたが、田中・民
︵5︶ 我妻教授と同じ理由によるものは明石﹁占有訴権﹂︵民法演習H所収︶九〇頁。中川淳・民商雑三〇巻四号二一二頁は、
るが、賛成しえな い 。
レ
一橋大学研究年報 法学研究2 二六八
うるのみー、その結果として囚程胤ぼざ耳ピげ3が行われた。これを逆に、丙⇒亀ぼ8算蕊。隷目83であれば、
、 、 、 、 、 、 、 ︵2︶
すなわち賃借権が対抗力を取得すれぱ︵物権となり︶物権的請求権を生ずる、という論理の必然性はそこにはないし、
︵3︶
か﹂る観念は訴権法体系をとるローマ法の預り知らないものである。他方、・ーマ法的権利の峻別を知らない中世ゲ
ルマン法の領域においては、物の事実上の支配を基礎として、賃借人もゲヴェーレの保護を受け、従って因鈴焦ぼ−
︵4︶
一。緊菖。騨目一9①が行われていた。従って両者を現代の実体法体系の観点で云えぱ、前者は元来物を追求することが
できるから物権であり、後者は物を直接支配しゲヴェーレの公示を備えれば︵物権となり︶追求力を附与される、とい
︵5︶
う逆の思考方法に立つ、ということが一応許されよう。
・ーマ法の包括的継受は、従来の地方法の影響により長期の解約乃至立退期間の保証によりその厳格な原則は緩和
︵6︶
されたとはいえ、因雲団ぼざ巨屋卑oの原則を 一部の地方を除きードイツヘもたらした。一部の地方で踏襲さ
れてきたゲルマン法の観念はプ・イセン一般州法へ受け継がれ、賃借権は動産不動産を問わず占有の取得︵乃至登記︶
︵7︶
にょり﹁物権﹂となる、と規定された。従ってここでは、対人権たる賃借権も、ゲルマン法におけると同様、理念型
︵8a︶
債権と異り物とのかかわりを有し、生成しつつある物権として把握されえたし、また、対抗力の存在と賃借権の現代
︵8b︶
法的意味における﹁物権﹂性口物権的請求権による保謹とは同一視されえたと云えよう。オーストリi民法も亦、登
へ9︶
記により物権となるとして類似の立揚に立つ。ところが、フランス民法︵一疑四︶は、解約留保の特約なくかつ公正証書
︵10︶
等所定の方式のとられた揚合に、囚窪コ三。算這。ミ冒♂ぢの原則をとったが、それは債権であるとされた。
■
一方、先に一言した・ーマ法の継受により、ドイッ普通法においては、賃借権が債権に組み入れられ物権的請求権
ぐ
ヤ
債権に基く妨害排除についての考察 二六九
配.利用ということと、賃借権の物権性凹物権的請求権の発生とは、別個の問題であることを明確にし、従って、賃
においては、再び、賃借権に賃借物の第三取得者に対抗しうる効力を附与するということ、乃至は物の事実上の支
を破る︵らず︶﹂︵”対抗力の有無︶と物権・債権の区別との同一視の現象も生じたが、フランス・ドイツの近代法典
実上随伴していた、そのことと、ゲルマン法のゲヴェーレの思考方法との混合により、その後、逆に、﹁売買は賃貸借
ヤ ヤ
は峻別されていたが、ーまさにそのことの故にー対人訴権には、結果的に﹁売買は賃貸借を破る﹂という現象が事
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
以上の素描から次のように云えよう。・ーマ法においては対物訴権の附与される権利と対人訴権の附与される権利
論を崩すことなく、賃借権は占有の取得により対抗力を取得した後と錐も債権であり、従って物権的妨害排除請求権
︵m︶
は生ぜず、その保護は占有訴権によるべきであるとの立揚を一貫して堅持している。
借権に基く物権的請求権を肯定する一部の学説をも生んだとはいえ、判例並ぴに圧倒的通説は、物権・債権峻別の理
︵18︶
ゲルマン法的ゲヴェーレの要素の混入・妥協は、或はコーザックのように五七一条を根拠に賃借権物権論を唱えて賃
き占有の取得を条件に囚㊧鼠ぼ8算蕊罫鉢冒詰$の原則が採用された。このローマ法的物権・債権峻別の体系への
︵∬︶
ギールケらの反対に会い、第二委員会において修正され、現行法︵伍批爺漁ガ翫砒此瞭射五︶にみるように、不動産賃借権につ
︵勝︶ ㊥︶
干の考慮を払ったとはいえ、口iマ法・普通法理論に従って囚即鼠耳8巨冒δ5の原則を採った第一草案︵瓶知︶は、
︵13︶ ︵H︶
念されたことは、先にみた理念型債権概念からすればむしろ論理の必然であったともいえよう。解約予告期間等に若
︵n︶ ︵12︶
わせるべく要求する権利を有するにすぎない、賃借人の物の上への作用は法律的には賃貸人の作用とみられる、と観
を否定されたことは勿論であるが、更にゾームにみられるように、賃借人は賃借家屋に住む権利はなく賃貸人に住ま
砂
↓橋大学研究年報 法学研究2 二七〇
借権は、それが債権である以上、対抗力の有無、物の占有・利用の有無に拘らず、物権的︵妨害排除︶請求権を生ず
るものではないとされており︵巣爾難徹慰齢励肌ど勃ω租牒蔽輔蹄依隙鮒隣鱒練紙魯瞳砂馳獅砧舗懸湘猟は鴎課鞭瀞慨︶、 その意味で、先にみた債
権たる賃借権に占有の取得乃至対抗力の具備によって物権的妨害排除請求権を肯定せんとするわが学説並びに判例の
傾向は、これまた、特殊“日本的な現象である、と。 ﹄
︵−︶u。ヨげ醇堕霊巳艮①pH︵一。8︶あ一N♪ω,>§■轟こ身民毒琶−壽轟①一あα斜玉鉾一一N︸甘Φ旨凶b零零簿N,
≦臣やおooOOo・一這戸︵岩田新﹁占有理論﹂五〇九頁以下訳ど国ぼごo宣○霊昌α蜀αq9ω8ざ星野﹁不動産賃貸借法の歴史と
理論﹂法協七三巻四号、三六頁、五五頁以下。なお・ングレー﹁対物権と対人権ー比較法制史的研究﹂︵福井訳.仏蘭西法学
の諸相・所収︶二二六頁以下。
︵2︶ ピ拳−国β昌犀巴−≦窪鵯昌㈱一ミ︸命く胆,︾昌誉,が∪Φ露げロ茜目㈱ごど介ψ8N協こ原田﹁・ーマ法﹂九四頁以下。な
お英法につき、幾代・イギリス法︵有泉編﹁借地借家法の研究﹂所収︶一八二頁、一八五頁以下参照。
︵3︶ ・ーマ法には﹁物権﹂という統一的な用語すらないことを想え︵原田.九四頁︶。
鵯1藍
︵4︶ =O訂6き伽o。♪ω・総黒∴b﹃凱貫励>層Oo・びい節平野﹁民法に於けるローマ思想とゲルマン思想﹂︵七版︶三六三頁
以下。なお、川島﹁所有権の観念性﹂法協六〇巻一〇号、六一巻一・八号、六二巻六号参照。
︵5︶ ρ9Φ詩PU﹂︶,茅目の■800︸平野・前掲書三六五頁註一七。
︵6︶u窪薯茜︸一げ一∋国色Φき家琶。・。塞寄。耳目︵一。㎝。︶ψいq。。も一畳貫ψ一象い
︵7︶誇一ピ。牙ρ目¢い。。一F程3這■ω﹄。。分霞﹃①斜の・u。。ど国き壁ψま・
︵8a︶○。9。詩ρuら。界昌の・。。還・
→
レ‘
債権に基く妨害排除についての考察 二七一
がではなく賃貸人が物の上へ行使するカの表現である。﹂と︵¢&O︶。
一唐瑳自9巨三はなく、特定の他人、即ち賃貸人が彼に占有させるという意思があるのみ。賃借人の握持︵U9窪銘8︶は彼
の■呂窯,続いて彼は云う、﹁それ故に物の法律上の占有者は賃借人︵冒一傘段︶ではなく賃貸人である。賃借人自身としてはき−
︵11︶ のoげβURωΦ讐段留の司o議o旨昌験ωおo耳︸No富oぼ痒肺R℃臨毒け一一,σ瀞算一ざげo因①o耳自震O囲窪≦跨ダ轟︵一〇。NN︶
前掲論文二八四頁以下参照。
えられており、従って賃借権に基く妨害排除請求は認められていないとされる︵二九一頁註︵二四︶参照︶。なおロングレー・
はなく、証書の確定日付の先立つ賃借人が優先すると解する︵二八三−四頁︶。しかし賃借権の物権化の現象は生じないと考
なお同書によれぱ、フランスの判例多数説は、二重賃貸の揚合にも対抗の問題の存することを肯定するが、占有取得の前後で
一頁所掲文献。フ民一七四三条自体については関口・フランス法︵有泉編・借地借家法の研究・所収︶二八一頁以下に詳しい。
︵10︶ 呂9貯①ロoo・総Pなお、フランスの通説が債権説をとることにつき末弘﹁債権の排他性について﹂志林一七巻一二号二
まー一&が与えている。
いo。隠こなお賃貸借法一般についての歴史的比較法的概観はb3ぎ堕UδO讐且の誉o訴ヨδ3巴ω自冒旭一爵霧因9犀G8印
︵9︶ 一〇九五条、のみならず、公信の原則をも認める︵囚3一一9ψ呂o。ε。オーストリ、ザクセン民法につき竃○ユ話目¢
との同一視が看取されよう。
ここには・ーマ法における対人訴権・対物訴権、現代法の債権・物権と﹁売買は賃貸借を破る︵らない︶﹂︵11対抗力の有無︶
ω﹂這︶と言い、更にプ・イセン州法の賃借権についても全く同様に述べている︵の■&い︶︵岩田・五〇九、五三三頁訳より︶。
毫も譲らない法律上の保護が与えられており、すなわち・ーマの言葉で云えぱ一霧嘗おを有している︵甘9ヨ酋ρ讐ρ
︵8b︶ なお、イエーリングは、囚讐端ぼ8年冒δ汀の普通法の原則の行われていない地方では彼ら︹賃借人︺には所有者に
短
一橋大学研究年報 法学研究2 二七二
︵12︶ 三章一節一参照。
︵13︶ そこで先に挙げた︵前註︵n︶︶ゾームの捉える債権は、﹁債権の存続する限りその使命は未だ果されていない。債権の充
足は同時にその消滅である。⋮:債権は手段であり物権は財産取引の目的である。債権の究極の目的は、物権︵又は物の価
値︶に変ずることにあり、その充足により消滅することにある。﹂︵の・爵象・︶ような取引法上の一回的給付を目的とする債権
にのみ妥当するものであり、賃借権の事実的経済的目的である物の継続的利用の側面は考慮の対象とはされていない。
︵14︶ <旭’竃o訂<ρ口ω■ωooい卑
︵15︶ ○・〇一〇鴨犀PUΦ擁国一旨≦自蔑Φ冒9切O切﹃ψ団轟自こ¢800凍∴の鼠匡げ’鋭勲○■︵︾8げ貯h国昏堕叩因・軌︵一〇〇〇一︶︶もそう
である。そこでは先に挙げたゾームの賃借権についての説明に対しても固有法の立揚から激しく批難する︵ψまe。
︵16︶ 勺8ε犀o二ρ目ψ一鴇卑
︵∬︶ なお、動産賃借権については、占有権の効力として九三一条九八六条二項により同様の保護が与えられているが、ここで
ヤ ヤ
は論じない。
︵18︶o・の8銅い①ぼげ,負匡薦、7目ひ︾魯劾器目一げ、ニム。暮N三舞。∴9馨犀−屋§一ρ目N\。。︸亀・㈱一。= 088〆H■刈︾仁頃吻むy目Q︸これに対する批判もあわせてHL9一営堕Oo’嶺ρψ一9中”¢Na論参照。なお、レーニン
グの賃借権物権論は、物権性のメルクマールを、物権的請求権にではなく、継続性等他の要素に求めることの結果にすぎない
︵Uα邑一韻”の●ミRψ一爲塗ψN$議■︶。
︵19︶ 例えぱ∪蜀9置囚oヨき目N︵一800︶⑳鶏ど凱卑ψooお茸○Φ二9蟄jP<03①臣,い塁紹鴇一19国一三〇8R霧,いo,
げヨ窪P励巳9く旭・≧旨一・一¢鵠N中ハH5お旨篇H伽茸F&旨国三①算2第一草案を批難したギールケも同様、ρ︵出,
,
o詩ρPコ戸目Oa・α旨二・≧一ヨー一〇。”ヵΩ$.認ρ一雷.曽い︵たぜし事案は不法行為に基く金銭賠償︶。なお、鵠8Fの?
{
、ρ
同じ結論。なお、五七一条をめぐるこれらの問題につき、b3ぼαq一¢嶺o。ーぐρ参照。
﹂﹃
げ巳山爵㈱一8ψ巽窪■は、主に債権扱いされる両詳の中間的地位にあると云うのが最も適切であるとするが、結局、通説と
三 対抗力等なき利用権的債権
日 先にみたゾームによってはいわば法の視野の外に放置された賃借権の一回的給付債権と異る物の経済的利用の
側面は︵難蓬難翌、その後、或は継続的債権関係︵身註島・窪<①慧一鼠量として把握毒・或は賃
︵2︶
貸借設定契約︵零一①3轟良且自αq零。旨樽お︶と賃貸借関係︵ピ一Φ笥Φ跨弩ぢ邑を区別すべきものとされ、更には交換的
機能を有する債権と対比された支配的機能を有する債権として利用の側面は﹁支配権﹂としての﹁使用収益権﹂とし
て把握されるに至った。しかし、事実上支配権として使用収益の機能の存することを肯定するとしても、そのことは
︵3︶ 、 、 、
ひとり賃借権のみならず、使用貸借に基く借主の権利も同様であることは論者も肯定するところであり、かつ、わが
︵4︶
民法が、ゲルマン法のゲヴェーレの体系乃至はプ・イセン州法の立揚をとることを承認するならともかく︵評溺己二騨好蜘
獣切よ︶、先にみたドイツ民法と同様に・ーマ法的分類を基礎とすることを承認せざるをえない以上、夢勢ど⑪物支配
︵旺公示︶の有無がではなく、法律上の直接支配との観念従って追求権”物権的請求権の有無こそが、それ以前に、
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
物権と債権とのメルクマールーの少くとも重要な一つーとして存在することは一応承認せざるをえ駕㎏であろう
からーわが現行法の解釈として未登記.未占有の所有権・地上権等︵排他性・対抗力・公示ともになし︶からも物権的請求権が
ヤ ヤ
生ずるとの判例.通説の立揚は、権利の不可侵性・排他性等の概念からではなく、この歴史的事実そのものによってのみ矛眉なく
説明しえよう、なお、三章一節一及ぴ同所註︵9︶︵12︶1、事実上の機能に着目して案出されたにすぎない使用収益権
ヤ ヤ ヤ ヤ
債権に基く妨害排除についての考察 二七三
一橋大学研究年報 法学研究2 二七四
ロ ヤ ヤ
等の概念をもち出して決衛卦の意味での直接支配・支配権と安直に同一視し乃至はすりかえて、直ちに、しかも不動
産賃借権にのみ、物権的妨害排除請求権を肯定することはできない。だとすれば、わが法の解釈として利用権的債権
に曲脊の具備することを条件に物権的な妨害排除請求権を肯定せんとすることに対しては、﹁物権的請求権に公示手
段を結びつけようとする誤を犯している﹂、との柚木博士の批判︵珀淋端湘働微駄榊一峯群難誌︶を一応正当としなければなら
ない。しかし、我妻教授も、かのドグマテイッシュな賃借権物権論をとられるのでも、わが法がゲヴェーレ体系をと
ることを全面的に承認されるのでも、そしてまた単なる使用収益の権能に基く物の占有から直ちに妨害排除請求権を
ヤ ヤ ヤ
導き出そうとされるのでもないから、教授の所説を古典的理論に基くいわば単なる抽象的論理的批判のみで誤りであ
マレ
るとしてかたづけることでは、未だ現在の我汝の問題の核心を突いたことにはなりえない。
国 ボアソナード旧民法において物権とされていた賃借権︵鋤雌欄嚇卜鱗吻穐第︶を﹁日本ノ慣習﹂に反するとして債権にー
︵8︶ ︵9︶ ︵10︶
組み入れた現行民法は、解約自由の原則︵躰条︶、譲渡転貸の不自由︵∼葬︶、そして無力を曝露した対抗要件としての登記
れロ
箪熟ハ勲︶を規定した。本来市民法上物権とされるべき構造を有し、かつ法典起草者も亦地上権を利用すべきことを
.資、
、騨
をも揺り動かし、民法の解約自由の原則︵拡条︶は借り手の他の貸家への﹁逃げる自由﹂から貸し手の一方的な﹁追い出
の不均衡の長期的相殺の可能性を前提として本来市民法上債権として規制されるべき賃労働者の借家権の構造の基礎
あった。加うるに、資本主義の発展に伴う賃労働者の都市への集中は借家の長期的持続的不足を招来し、需要.供給
よった結果、それはひとり個人住宅のみならず、漸く発展しつつあったわが資本制的営業の基礎をも危くするものカ
ハリロ ま
期待捻建物所有を目的とする欝等春イッ㌻ラン乏存ると異窺実には多くかかる債権としての賃借警
(艸
◎ー
“卿、
す自由﹂へと転化した。いわゆる賃借権の物権化ー市民法的なものも社会法的なものもひっくるめてーが要請される所
︵艮︶
以であった。立法として、まずいわゆる世情騒然たる地震売買の弊害を除去せんとして迂余曲折の後明治四二年に建
、、 ︵15︶
物所有を目的とする借地につき建物の登記を要件に︵灘吻蘇︶、 ついで大正十年借家につき帥洩を要件に︵麟嫁告瞭測激郷同︶、
更に昭和十三年に至り農地につき引渡を要件に︵膿糊︶、各々第三取得者に対する対抗力を附与し、その他賃借権の固定
ヤ ヤ
的存続の確保の措置がとられてきた。
その後間もなく︵昭和一五年債権総論第一刷︶、これら一連の現象を目して我妻教授が、先の一般理論の大前提、すな
わち﹁現行法制の下において物資の利用を目的とする債権は漸次何等かの形式における公浪方法を伴うことによって
ヤ ヤ ヤ ヤ
物権化しつ㌧ある、﹂といわれたことは疑いなく、またその限りでは異論の余地もない。しかし、その次に問題がある。
第一に、これらの特別法による規制ーその後の解約自由の制限︵昭一六年借家一条ノニ・借地四条の追加︶等をも含めてー
は、賃借人の賃貸人または第三取得者に対する契約上の権利の存続の︵いわぱ対内的な︶保護が直接には問題とされた
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
にすぎず、そのことと、ここで問題の一般第三者の侵害に対する︵いわば対外的な︶妨害排除の問題とがいかなる関係
ハハロ
に立つか、ということであり、第二に、仮りにこのような現象からひいては物権的妨害排除請求権をも解釈論上肯定
ヤ ヤ ヤ
するとしても、何が故にその具体的適用にあたっては、﹁現行法制﹂により現実に﹁公示方法を伴うことによって物
権化しつつある﹂個々の賃借権にのみならず、かつての大審院判例にみられるような対抗力等物権的諸効力の現実に
は附与されていない賃借権その他の利用権にまでも拡張・肯定されるのか、ということである。現実に対抗力等物権
的諸効力を附与された賃借権については、後に改めて検討する。
債権に基く妨害排除についての考察 二七五
ち ヤ
一橋大学研究年報 法学研究2 二七六
教授の一般理論は次のように理解しうるのではないであろうか。右に触れたわが国のいわゆる賃借権の物権化とい
う当時の一般的な社会的要請・気運の中では、一般第三者に対する物権的妨害排除請求権を承認することまでもその
一環たりうる可能性があったし、少くとも教授の意欲の対象とされたであろう。更に、それにも拘らず、実際上最も
︵17︶
問題となる借家権及び建物所有を目的とする借地権の特別法による保護は当時大都市に限られていたためにーその
撤廃は教授の理論の発表された後の昭和一六年 、特別法で保護されている賃借権についての個別的な理論づけをもっ
てしては、恰も平野氏にみられるように、建物所有を目的とする借地権及び借家権の保護についてすらも大都市以外
︵13︶
では右の教授の意欲は満たされえなかったであろう。更には、不可侵性理論に拠ったとはいえ先にみた大審院の積極
判例の存するという事実自体も看過しえない。そこで教授においては、後に触れる占有訴権の問題もからんで、次の
ようになった。個別的に対抗力等物権的諸効力を附与されて現実に、﹁現行法制の下において﹂民法の理念型債権とし
ての規制から脱皮しつつある賃借権としからざるものとを区別し前者について独自の検討・理論づけをするという方
向には進まれず、その具体的適用例とも関聯させてみると、前者に支えられて、占有等の公示があれば物権的妨害排
︵欝︶
除請求権を生ずるとの理論が、すべてに妥当すべくまず始めに意欲され案出された。両者を区別せずかくして作られ
たことに由来するその理論の漢然たる性格が、柚木博士から、一方では﹁対抗力ある土地賃借権の排他性を見落して
いる﹂し、他方では﹁物権的請求権に公示手段を結びつけようとする誤を犯している﹂︵湘淋︶と批難され、先にみたよ
うに判例並びに諸学説からも支持を受け難い所以であろう。
{
,■
しかも近時に至って、最高裁が対抗力ある賃借権は物権的効力を有し妨害排除請求権を生ずるとの態度を確立する
’
ぬ口
債権に基く妨害排除についての考察 二七七
得を条件にするのであれば、それは占有訴権による保護で足りるというにすぎない。かつては占有訴権の保護にすら
︵22︶
はないということを意味するものでないことは、既に川島教授等の強調されるところである。教授の理論が占有の取
もとよりかく云うことが、教授と異りその他の不動産賃借権を始めとする利用権的債権に何らの保護も与える必要
成しつつある賃借権につき個別的に検討し肯定していく方向で進められるべきであったし、また、あろうと考える。
のとおりに、現実に現行法制の下において対抗力を始めとする物権的諸効力を附与されて理念型債権から物権へと生
授の意欲は理解しうるが、むしろ問題は、かかる漠然たる一般論によってではなく、教授の理論の前提の厳密な意味
現行法の解釈論として納得のいく理論的並びに実際的根拠は存しない、と思われる。一歩先の方を押えんとされた教
授自身の右にみた経過の中での一駒として捉えてのみ我汝には理解しうるものであり、その支柱を抜き取られた現在、
なっているのではないかと思われる。要するに教授の主張は、以上の特殊口日本的な経緯とそしてその中における教
︵飢︶
かつ、擬制に基くのでなければもはやいわゆる﹁現行法制﹂下実際上厳密な意味では適用の余地のない無用の理論と
持つに至ると、 先に述べたその弊害乃至は妥協的性格とともに︵一一葬嘱︶ーその理論的根拠の薄弱性は露呈され、
︵30︶
法制﹂下何ら物権化せず理念型債権として規制される賃借権等の利用権約債権にのみ妥当すべきものとしての意味を
取得するわけでも解約自由が制限されるわけでもはたまた譲渡転貸が自由となるわけでもない匹その意味では﹁現行
を附与された賃借権がこれから抜けて右の別個の理論によることとなり、一般理論は、解釈論上占有により対抗力を
柚木博士の前半の批判は免れることができたが、その一般理論の支柱となっていた対抗力を始めとする物権的諸効力
や、排他性という点で物権と共通の性質を有することを理由にこれをも支持されるに至った結果︵城薯無噸騨巻︶、先の
ヤ
レ
一橋大学研究年報 法学研究2 二七八
も浴しなかった賃借権を始めとする諸利用権的債権にも現在ではその保護は拡大されており、かつ現代の占有訴権が
仮の保護のためのみの機能を営むものではなく 否、かつての占有訴権の機能の一たる権利者の仮の保護の機能は
近代法の所産たるより実効性ある仮処分制度がとって代ったー、むしろ主として相対権とされる債権の利用の側面
、、 ︵23︶
の保護のための本権保護訴権的機能を営むぺきことは、ドイツにおいては実際上それで処理されているのみならず学
︵24︶
を矛眉なくカバーするゲヴェーレの機能をもとり込んだものとして、詳細に論証されているところであって、より包
説も多く認めており、わが国でも川島教授により、我妻教授の理論の惹起するであろう妥協的︵二遵吻︶“対人的性格
︵%︶
︵26︶
括的な意図を有する本稿で、更にこの点を繰り返す要はないであろう。特別法により保護を受けている賃借権は別に
考察するとして、それ以外の利用権的債権につき、或は使用借権とその他の利用権的債権とを差別して、一般第三者
︵4︶
︵3︶
︵2︶
︵1︶
石田・二六頁、四三頁。なお、この点の混乱乃至は意識的な混同が諸説の紛糾の一つの原因でもあるが、ここでは結論的
石田・一二頁、我妻﹁償権各論﹂中巻︹五五一︺②︵ハ︶。
石田﹁債権契約の二大型﹂︵契約の基礎理論所収︶ 一頁以下。
ピα巳昌堕のー一軌h
ρ○曲震犀ρU四ロ震昌山oωoげ巳自く震げ障一け巨誘ρ一げoユ一彪の一鶴げ↓び‘象︵G一轟︶¢象U㌣
に対する保護を左右することの実際上の妥当性も疑わしいといわねばならない。
︵盟︶
︵5︶
,豫
支配権としての使用収益権を提唱された石田博士も物権的請求権は承認されないし、我妻教授も亦、同じく使用収益権能
る
に
と
ど
め
る に述べ
。なお、村教三﹁不動産賃貸借法史論﹂二九九頁以下参照。
︵6︶
、・噛,
、○−
秘賃
の存することを肯定される使用貸借に基く借主の権利についてはこれを否定される︵前註︵4︶︶。中川淳・民商雑三〇巻四号
一二二頁は、賃借権に使用収益権・支配権的属性ありとして、直ちに、公示あれぱ物権化し物権的請求権を生ずる、とされる。
なお、村・前掲書は、基本的には石田、岡村博士の立揚に立ち︵三三〇頁︶、不動産賃借権の支配権たることから一般的に排他
性をも承認し︵岡村博士も同様・志林︸七巻七号、一八巻五号、なお私法一四号︶物権的請求権を肯定される︵四一一頁︶。上
田・判例研究・神戸法学雑誌四巻三号五一三頁も同様。
︵7︶ 我妻・前註︵6︶︵4︶の外﹁債権各論﹂中巻一︹六五六︺等の細い心づかいをみよ。なお、後註︵20︶。
︵8︶ その事情につき、白羽﹁賃借権の物権化日﹂新報六二巻二号参照。醇風美俗たる﹁日本ノ慣習﹂の一たる高率賃借小作料
の実態につき、民法修正案理山書六一二条の説明参照。
︵9︶ この点については多くの法社会学的研究が発表されている。その後の特別法をも含めてその意味につき、渡辺﹁家主の解
約申入権について﹂法律時報二二巻五号、三宅﹁借家法による解約の制限と法の形態﹂法政論集一巻二号、なおこれらを詳細
に検討された川村﹁日本における借家法の構造日−借家法昭和十六年改正の法社会学的分析﹂新報六二巻四号、なお同﹁日本
における借家法の構造﹂私法十三号、同﹁解約自由の原則とその制限﹂ジ.一リスト一一八号等参照。
︵10︶ 川村﹁借家法の無断転貸と民法第六一二条﹂新報六三巻二、三号は、豊富な資料を駆使して、信頼関係の強調と六一二条
とが、特殊日本的な﹁資本制的矛盾と封建的矛盾との抱き合せ﹂であることを主張される。
︵11︶︵14︶ 川村﹁物権化の、市民法的構造と社会法的構造﹂民商雑三六巻三号、同﹁用益物権﹂法学セミナー一九五七年十月号
参照。なお鈴木﹁借地借家法の一本化論についての一疑問﹂前同民商雑及ぴ同三七巻二号。
︵12︶ 民法修正案理由書六〇七条の理由参照。
︵13︶ 。。一もΦ三9霧。。○ざ8島↑︵地上物は土地に従う︶の原則を採るドイツ︵フランス︶においては建物所有を目的とする借地は
債権に基く妨害排除についての考察 二七九
一橋大学研究年報 法学研究2 二八○
︵原則として︶物権たる地上権によるべきことを想え︵有泉編・借地借家法の研究・三頁註︵一︶、二三七頁註五︶。
︵15︶ 白羽・前掲論文に当時の資料の豊富な引用とともに、立法の事情・意味が詳しい。
︵16︶ このことは、戦後の賃借権に関する多くの法社会学的研究等の関心の所在にも現れている。ドイツ民法第一草案の第二草
案への変更︵前述二︶もそうである。近時のわが賃借権物権化の立法論としての論議も賃借権の財産権性・価値性の貫徹のた
めの譲渡可能性等同様の傾向にあり、妨害排除の問題は少くとも表面には問題として押し出されていない。
︵17︶ 川島﹁所有権法の理論﹂二二〇ー一頁。
︵18︶ 平野﹁民法に於ける・ーマ思想とゲルマン思想﹂︵七版︶︵初版は大一三年︶三六七頁以下は、賃借権の対抗力について、
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ
保護法,借家法を﹁右法律が限局された都市一部の賃借権だけを保護している以上は、右法律の適用なき不動産賃借人ー殊
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
に小作人︹これはその後昭一三年農調法八条により附与された︺ーの保謹は如何にして⋮⋮可能であるか。⋮⋮賃借権の物
権性は、個々の場合に従来の如く立法に侯たねばならぬであろう。しかも、私は其の時まで必ずしも従来の⋮⋮理論に従はね
︵19︶ 住居に関する諸多の特別法の制定されているドイツにおいては、労働法と同様に住居賃貸借法の独立領域性が意識され強
ぱならぬとは思はない。﹂としてゲヴェーレの法理を持ち込み対抗力を附与すぺきことを強調される。
調されている、国Φ段震ヨ勢ロPU霧ジ、〇一一崇露閃胃①oげ叶巴o。ω〇一げ韓曾肝る蒔8因9げ房αqoげ一〇ρ這お脳=首弓oどNロ旨>ロ剛げβ廷写
ωぼ舅奉&巴∈拐g8bリォ緯お魯貫︵菊8窪詳ω一墨計頃o漆這超ひ︶一3ざの砧伊なお三宅・前掲論文︵法政論集︸巻二号︶
は、借家権につき、市民社会における価値性の否定を指摘して、市民法上の賃借権との非連続的異質的性格を強調される。
︵20︶ 尤も、教授は、現在でも大審院判例をも占有を取得していたという意味で肯定され、また、占有を取得しても排他性を生
ヤ ヤ ヤ
じない不動産賃借権につき妨害排除請求権だけは認めるぺき場合があるように思われる、とされながら、他方、占有等を伴う
ことによって物権化したものにだけ認めるぺきであり、しかも、﹁物権化の程度に注意すべきである﹂ともいわれる︵中巻一
▲¶、
冨
㌧層、
債権に基く妨害排除についての考察 二八︸
産占有保持の特示命令︶を提起したという奇妙な状態を生ずる事件は実際上自分の知る限り法源には存しない︵ω、Nω︶、その
したことを立証されることを知りながら、冒3巳一〇三e葺旨05︵不動産占有回復の特示命令︶や貯9凌δ2ヨ暮毎玄︵動
なお、非権利者”盗人・強盗の仮の保護につき国一一⋮。プQ三一凶蜀鴨は、ローマにおいて盗人や強盗が、自分が窃盗や強盗を
8。一誉一〇︾島■一〇鴇⑰旨。ω﹂9
ヤ
︵23︶ U①筥げ弩αq︸H⑳一〇〇ざ¢aひ︵中世の仮の保護の機能を有したω∈一一誉p惨bo器○戸につきご碧8ゴ≦9やヵaの9ω㌻〇一5苧
とが大きな原因であろう︵なお後註︵24︶︶。
除請求権を肯定しようとしないのは、物権・債権峻別の理論の制約もあろうが、と同時に、それで保護が実際上足りているこ
六三頁以下、幾代﹁前掲判例批評﹂。先に一言したドイッの判例並ぴに圧倒的通説が、占有訴権によるべしとして物権的妨害排
︵22︶ 川島﹁債権法総則講義錦一﹂七六頁以下、同﹁所有権法の理論﹂一二八頁以下、一五九頁以下。なお、来栖﹁債権各論﹂
︵前同︶等が物権とされ、かつ処分乃至賃借権の設定が禁止乃至制限されてきていることも留意されてよいであろう。
︵21︶ なお、ここで更に、鉱業権︵昭二五鉱業法︶、租鉱権︵前同︶、採石権︵昭二五採石法︶、漁業権︵昭二四漁業法︶、入漁権
あり、擬制にすぎ な い の で は な い で あ ろ う か 。
と名づけて妨害排除を認め旧説を形式的に維持しようとされておられるにすぎないかのようである。用語の混乱を招くだけで
全然触れておられない。単に占有を取得しただけで、具体的には何らの物権的効力も附与されていないものをも漢然と物権化
いる賃借権を除き、具体的に、何がいかなる物権的効力があるからそれに該当するのか? の我々の知りたい問題の核心には
かなる効力がいかなる程度にあれぱ妨害排除を承認してよい物権化あり、とされるのか? 現行法上、対抗力をも附与されて
でもない。一体、かの大審院判例の事案において本文に述べた意味でいかなる物権的効力が現実にあったのか? 具体的にい
︹六〇八︺︹六五九︺︹六五六︺︶。債権総論に比し細かい心づかいがみられるが、これは破綻の弥縫のための伏線とみられない
り
一橋大学研究年報 法学研究2 二八二
ような者にまで保護が与えられたということは、恐らく、スコラ哲学的知識以外の何ものでもない︵¢8N︶、と云う。
︵24︶≦。。。響コ套芦寓日σ留ω留&竃お。耳ωも毘葺ωひ累程90。らき一■9。詩ρ留。富畦。畠又一£。。︶い>臨あ。。■
幹N9なお、毒〇一やに践器き♂すも、かつての占有保護の必要は仮処分がカバーし得.占有訴権は殆んど賃借人の占有妨害
訴権が問題となり、民法が賃借権を物権としていたら占有訴権はもはや不必要なものであったろうに・と云う。
︵25︶ 川島﹁所有権法の理論﹂一三六頁以下。なお田中︵整︶﹁占有訴権の機能的変化と占有権とに関する一考察﹂阪大法学一三
号、更に同﹁占有保護の根拠としての所有権保護論﹂同九号参照。
なお我妻教授も、﹁ローマ法の解釈としての学説の当否が、直ちに今日の占有制度としての当否を決定するものでない﹂ことを
︵26︶ 概括的図式的に権利者の仮の保護の機能の変化を現代法との比較により︵動産・不動産・保持・回復を問わず︶記すにと
指摘されてはおられる︵物権法︵昭二七年︶︹五四じ、なお︹五九〇︺︹五三三︺参照︶。なお林・物権法一四五−六頁。
どめる。 ω前審的非訟事件的性格︵O鎮ぎ鈴命二〇。こ霧δ臼ぎのけ■命嶺’∋宕窃−囚毒ぎ一−≦①轟霞”¢二〇〇︶は前述の仮処
分制度がとって代った。わが民訴法、裁判所法は所有権訴権と何ら異った取扱を考慮していず︵旧裁構法は区裁判所の管轄と
した︶、裁判所の二三の実務家によれぱ、実際上も、期日の指定、審理等につき格別の考慮は払っていないとのこと。のみなら
ず、占有︵訴︶権も所有権訴権と同様、仮の保護的機能を営む仮処分の被保全権利とされる︵嫌柵院囎畑強欄踊蜥鑑任に咽冥︶。 @
所有権証明の困難さをカバーする機能︵冒諺−囚⋮ざコく窪笛oJψにい︶は現在の所有権証明の容易さにより殆んど必要でな
い。 ⑲右と関聯して、二面訴訟における立証責任の決定の機能︵Q銃ご異鼻、ま03甘の“﹃鈴︵嶺。∋ピ諺−内畦舜巴−
≦魯鴨斜¢匡oo︶は、 一面訴訟をとる現在は実体法上の法律要件の抽象的客観的な解釈問題で殆んどつきる。
︵27︶ なお、諸説のうちには次のような反論がある。詐取された場合には占有訴権では救済されない、と。権利者であれば、詐
ヤ ヤ
、憶”
欺による意思表示︵交付の契約関係︶を取消して、その回復を求めれぱ足ろう。物権的請求権によっても、相手方の契約関係
.盛▼
﹁酸
債権に基く妨害排除についての考察 二八三
は、当該賃借物の第三︵取得︶者への譲渡等が有効になされることが予定され前提されているので、物権と分離され
つ意味を一瞥してみる必要があろう。まず注意されなければならないのは、対抗力︵胴鰐紳爾酪甜梓︶を取得しうる賃借権
ここで更に、ドイツにおいて占有訴権で足るとされていることの、対抗力の存する揚合における適用範囲とその持
権が生ずる、と解することはできない。しからば、特殊陸日本的な判例並びに諸学説の現象をいかに理解すべきか。
得者に対する権利の抽象的孤立的な対抗力・排他性等の概念自体から、直ちに論理演繹的に、物権的︵妨害排除︶請求
後も債権である以上、先に伝統的理論についてみたことはわが法についても一応妥当する筈である。従って、第三取
ヤ ヤ
ツ民法五七一条等と同様﹁売買は賃貸借を破らず﹂の効力を附与せんとするにすぎず、対抗力︵揃鵬砥味︶を附与された
ない。しかしわが六〇五条を始めとする諸法による対抗力の附与も、プロイセン州法オーストリー民法と異り、ドイ
︵1︶
しかも債権であるとされた賃借権と物権的請求権との関係を如何に理解していたかは、混乱もみられ必ずしも明かで
旧民法において物権とされていた賃借権を債権へ変更したわが法典起草者が登記により対抗力を取得しながら︵駄細︶
四 対抗力等物権的諸効力ある賃借権
るのかこそまず問題とされるぺきである、と思う︵来栖・前掲論文︵私法一一号︶参照。なお、二章一節二六註︵5︶。︶。
︵
わが国でのみ、侵奪後一年以上も︵なお二〇〇条二項も︶裁判上の出訴の保護を与えるぺき実際上の必要性が果してどれ程あ
ヤ ヤ
いては占有妨害が多く問題となろうし、しからずとしても、賃借人・使用借人等に、理論的困難を冒してまでも、しかも特に
ヤ ヤ
の抗弁があれぱ、矢張り、交付の契約関係を詐欺を理由に取り消さなけれぱ目的を達しえない。出訴期間が短いとの反論もあ
ヤ ヤ ヤ
る。物権、特に所有権との関係での歴史的存在形態である。・ーマ時代の所有権訴権の出訴期間の変遷を考えよ。不動産にお
や
た理念型債権としてのー無権利者でもなしうる1賃借権一般ではなくして、所有権者によってなされた、少くと
一橋大学研究年報 法学研究2 二八四
ヤ ヤ
も所有権者が譲渡等の処分行為によって拘東されざるをえない者によってなされた賃貸借契約に基く賃借権に限られ
る、と解されることである。ここに自ら、漢然と賃借権は占有を取得すれば物権的請求権を生ずるとの主張ではしの
︵2︶
ぴ込む余地のあった・弊害乃至妥協的性格を露呈せざるをえない賃借権は閉め出されるわけである。次に対抗力を取
得するには、第一に、原則として譲渡または負担︵国Φ一器盲轟︶の前に賃借人に既に引渡︵qげ①二塁雲夷︶がなされて
いることを要する。この揚合、ωその後所有権を取得した第三者は、五七一条により賃貸人の賃貸借関係︵に基く権
︵3︶
利義務︶を代位することになり、従って賃借人は第三取得者に対し1従来の賃貸人に対すると同様のーその利用を承
︵4︶
︵5︶
地上権︵一一一麹︶、用益権︵餅麹一一︶、居住権︵一菊九︶を取得した第三者も賃貸人と同様の賃貸借契約上の義務を負い、従って賃
認すべき対人的請求権を有し、あえてここで問題の妨害排除を云々するまでもない。回次に物への負担、すなわち、
︵6︶
︵7︶
借人が契約内容に相応する利用を要求する対人的請求権を有することはωの揚合と異らない︵細靴馳︶。更に、の賃借人
の使用を害するにすぎない権利、すなわち、地役権︵肝麹︶、制限的人役権︵餅知九︶の取得者は、前二者の揚合と異り、
︵8︶
賃貸人と賃借人の契約関係には入らないが、賃借人の使用を妨げてはならない不作為義務が明定されている︵細靴馳︶。
︵9︶
これらの場合、右の特定承継人が賃借権の存在を認識していたか否かを問わないことは勿論である。第二に、賃借人
が引渡を受ける前に既に目的物が第三者に譲渡され乃至は負担を加えられているときは、特定承継人が賃貸人の賃借
φ
、ー
人に対する義務の履行を引受けたときにのみ︵願賄私勤同︶、引受者に対しーてのみー対抗力を取得することができ︵伍
︵10︶
齢購五︶、 この揚合賃借人が右引受者に対し対人的請求権を有することは第一の揚合と異らない。以上のことは、
払煉
資
外、すなわち、原則的な揚合についていえば、既に取得している占有を妨害乃至侵奪する事実上の第三者乃至は債権
ヤ
ようになろう。実際上ドイツにおいて契約法関係とは別個に妨害排除請求権が特に問題となりうるのは、右の揚合以
土地のみならず住宅その他の揚所の使用賃貸借︵艦細︶及び用益賃貸借︵細訊野︶についても妥当する。以上のことから次の
←
債権に基く妨害排除についての考察 二八五
された契約に基く賃借権であること、及び、この揚合、所有権取得者乃至用益物権者は賃貸人の賃貸借契約上の義務.
つい蓬蓬そ蕃有募至は所有権者がその者の馨の処分行為揚束喜るをえないぎ・てな
害排除の問題を検討することはなおざりにされていたかにみえるが、ここで問題の対抗力ある賃借権︵鐙瑠鷲価彫砧鮪︶に
ら物権的請求権を導き出そうとし或は賃借権につき漠然と物権化が強調されてきたため、この区別を意識して特に妨
ところで、わが国では民法典の法文が簡単で、かつ、従来或は抽象的・演繹的に不可侵性・排他性等の概念自体か
者以 外 の 者 に 対 し て は 勿 論 占 有 訴 権 に よ る 。
取得前の賃借権が義務引受者以外の者に対しては対抗力を有しない以上やむをえないであろう。占有取得後は、引受
いて不法行為となる揚合︵蜥箪傭働肱瓠燦葡賭齢晦批螂︶には不法行為責任として原状回復を求めることになろう。これは占有
の第三者に対しては、賃貸人に妨害排除すべきことを請求するか、或は先にみたように特に賃借人に対する関係にお
占有取得前には、賃貸人の義務の履行を特に引受けた特定承継人に対してはその履行を求めれば足りるが、それ以外
についてすらも古典的債権理論を適用、踏襲することを可能ならしめる事情が見出せる。第二の例外的な揚合には、
えてそれ以上の保護を与えるべき必要性は存しないことになる。ここにもドイツで、対抗力を具備した不動産賃借権
者平等の原則に立含他の愉権者に対する関係であろう。従って、この場合には占有訴権で保護されることができ、あ
ヤ
地位を承継乃至並び負うと解され、従ってあえて権利に基く物権的妨害排除の議論をするまでもなく、ことは契約法
一橋大学研究年報 法学研究2 二八六
︵11︶
上の対抗力︵盟甑離嬉簡︶の解釈問題により、賃貸借契約上の義務の履行としての引渡乃至は妨害排除を請求しうると
解すべきことはドイツにおけると異らないであろう。処理法一〇条の賃借権も同様である。従って、特に妨害排除請
︵E︶ ーf︷ 膨 ㌧
求権が問題とされる必要があるのは、かかる契約法上の義務を承継乃至並び負わない二重賃借または事実上の侵害の
揚合等であろう。これらの揚合にはドイツにおけると異る別個の考慮を要する。わが法では占有取得,前でぢ,当然に一
らトコ ヒ ロヒ
般的に対抗知劉具備す劉則魁あ樹の倒︵爆琳諭籟談射遜働鰍噸鴎鯨鰍?︶、︶、 これらの揚合には、ドイツにおけるように占有訴
権のみでは、対抗ガを具備しながら1賃貸人に要求する外−一一重賃貸の揚合はこれも無力であり、債権者代位権にもより
えない1何らの救済を歎貿けえないどいう結果が生じうξ。ここにドイツ法以上の権利保護手段が特にわが国で必
要とされる所以があり、そしてその限りで、わが国特有の理論・現象の生ずることを、容易に理解することができよ
う。しかし、物権的請求権が権利の抽象的な不可侵性・排他性等の概念や対抗力︵朗酪一離置謀︶ということから、論理・
演繹的に生ずるものではないことは屡々述べた。
そこで私は次のように考えたい。まず・苅抗力を取得した賃借権には、もはや先にみた自由競争・債権者平等の原
則の確保、物権への故なき干渉の排除等、物権・債権峻別の目的とするこヨヘの配慮は、物権と同様法律上不要なら
ノ
しめられているから、これに物権的妨害排除請求権を肯定しても法律的な意味では弊害は生じな藤といえる。ここ
に特殊“日本的な必要性の前に踏み切ることを法律上可能ならしめる第一の契機が存する。更に、わが国における賃
﹂顕
借権への対抗力の附与は、先に一瞥したように、諸特別法により、理念型債権として把握されている民法上の賃借権
頑
複
債権に基く妨害排除についての考察 二八七
評価するのは妥当でなく、更に、前述の揚合以外でも、右の諸特別法の物権化の現象は、民法の賃借権をも、それが
有を目的とする借地、借家、農地の揚合、物権法における不動産公示の原則である登諭を特別法における曲脊以下に
ついては、これを肯定しなければ保護に欠けることのある特殊”日本的事情のあることは前述したが、更に、建物所
り、かかる意味で物権的妨害排除請求権を肯定してもよいと思う。民法第六〇五条により対抗力を取得した賃借権に
︵18︶︵19︶
ハロロ
取され、対抗力の問題も1孤立的にドイッ民法典の次元でではなくーこれらの現象の一環として理解されるべきであ
リ︵縮鯨︶、更に法定更新︵囎鰍一慈射︶、解約制限︵儲墜⑤紅条︶等契約自由の原則を制限する権利保護の強化の現象は明かに看
ねレ
としても完全な物権とすることの可否は問題とされているが、ドイツ民法におけると異り対抗力も強行法とされてお
足るとの議論の生じうる余地があるし、また、建物所有を目的とする借地権に比較すれば﹁正当事由﹂といういわば
めロ
浮動的事情︵離墜⑤肛練︶に左右される不安定な面のあることも否定できないし、更には特に借家権については、立法論
︵M︶
捉えれば引渡を要件とすることにおいて一見ドイツ民法の次元に来たにすぎず、従って幾代教授のように占有訴権で
︵岱︶
求権を肯定する条件は熟しているとみたい。借家法並ぴに農地法上の賃借権︵略縁条巽熟地︶については、対抗力のみを
定的存続の確保のための諸措置︵礎鋤蘇攣瞭射噛魂知1︶と一体のものであり、両者の物権的諸効力の附与により、物権的請
二の契機が存する。より具体的にみよう。建物保謹法により対抗力を附与された借地権は、借地法による賃借権の固
に把握することを要求しかつ可能ならしめている。ここに物権的妨害排除請求権を承認することを可能ならしめる第
意味をもち、これらは合して対抗力謝る賃纏蜀馴闇溜が引物剛﹁ど型衡発展しqづある慰の﹂,レロ酬的,
にー市民法的な意味においてにせよ社会法的方向においてにせよ1一連の物権的諸効力を附与することの一環としての
←
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
フ事柄デアリマスト人権ニシテモ往々ニシテァル⋮⋮ソレダケノコトデ物権デアルトハ申サレマセヌ⋮:成程人権ト云フコト
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
云フコトニナリマスト中々夫レダケノコトデナクシテ総テ物権二関スル規定ガ当嵌マリマス⋮⋮此第三者二対抗ガ出来ルト云
後ノ効カハ不動産物権ノ登記シタルモノト同一トス﹄︵理由書六〇八条︶。しかし他方、﹃人権ナレハトテ⋮⋮登記シテ第三者ニ
ヤ ヤ
対抗スルコトヲ得ルモノトスルハ毫モ妨ナキナリ⋮⋮填国民法ノ如ク登記ヲスレハ人権変シテ物権ト為ルトスルニモ及ハサル
ヤ ヤ
ナリ﹄︵理由書第七節前註︶。そして、梅﹃第三者二対抗スル即チ実際ノコトヲ云ヘバ不動産ヲ譲受ケタ人二対シテ矢張リ約定
ヤ ヤ ヤ
借賃ヲ出セバ共土地二住マウテ居ルコトガ出来ル其土地ヲ耕作シテ居ルコトガ出来ル権利ヲ与ヘルト云フコトデアル、物権ト
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
査会民法議事速記録︵日本学術振興会謄写︶三三巻五丁、なお民法修正案理由書第七節第二款前註参照︶。更に、﹃登記シタル
規定ハ掲ゲナイコトニシテアリマス⋮⋮︹右の︺規定ノ如キハ明文ヲ置カナクテモ知レ切ッタ事柄︹?︺デアリマス﹄︵法典調
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
︵1︶ 賃借権一般につき、梅﹃第百三十六条︹旧民法’占有及ぴ本権の物上訴権︺モ削リマシタ・.“・.・本案デハ是迄訴権二関スル
ヤ ヤ
ともに占有取得後は占有訴権によるべきである、と考える。
︵23︶︵盟︶
得した賃借権については・物権鶉害排除漿肇書定し・口からざる賃借権一盤ついて縫の利用権的債讐
れば扉釈論上は別暑解すべ蓬由はない・アあような薫秦件の否痴勢姦めとする物権的諸勢叢
く、権利の救済手段の他に存しない場合のあること、及びその後にきたるぺき借地法・借家法による保護をも考慮す
︵22︶
抗力・優先効を附与された賃借権についても、占有乃至登記の公示方法を伴わない点の立法政策上の妥当性はともか
へ21︶
豊とが可能で騒ご墾の掻をあわせて妨害排除講求肇墓すべ奪のと思う.処理法︵藷攣・︶蛋爵
対抗力を附与されて理念型債権にとどまるぺき桓楷から解放されている限り、その原理を修正しつつあるものと解す
一橋大学研究年報 法学研究2 二八八
1
,励
ガァッテハ第三者二対抗ガ出来ヌコト︹?︺デアリマスガ立法者ノ万能力デサウ言フコトハ差支ナイト思フ︵前掲速記録三三
{
、
L鐸
債権に基く妨害排除についての考察 二八九
債権法各論﹂下四六六頁以下、来栖﹁債権各論﹂六五頁、八八頁。所有権・用益物権両者につき、我妻﹁債権各論﹂中巻一、
︵11︶ 所有権取得者につき、大判大一〇・五・三〇・民録二七・一〇一三︵民六〇五条、建物保護一条に関し︶、鳩山﹁増訂日本
︵10︶ 国き。F噸No。植N駕¢■2即μ畠○①詳ヨ程P㈱鴇oo”N,
︵9︶○①答ヨきp吻鴇ど&︸国O国o昌葺⑳鴇一のる象 距騨8F吻鴇一弘隔■
と明言する︵費聾○■ゆ鴇ざOご︶。
︵8︶ カO囚oヨ旨。目㈱鴇N¢N$IN90①旨ヨ践一P㈱鶏ざHダF㌣=帥8F㈱鴇ざ9プランクはこれを﹁対人的請求権﹂
︵7︶匁き。置吻鴇一ふ2ヵ○囚o目目H⑳鴇Mω﹄ひo,
鶏ざ浮80Φ旨ヨ 碧 一 P ㈱ 鴇 N 一 置 ︶ 。
及ぴ、第三者の権利の範囲︵賃料請求権等︶等については問題があるが、本文に述べることには影響はない︵<αQ一,国琶oFゆ
︵6︶ この揚合、所有権取得と異り、賃貸人と並んで︵昌3臼︶権利・義利を負うのか、代って︵卑昌の8二①︶か、ということ、
︵5︶国聾鼻あ鴇一ふ曾菊○因o目日諭鴇一幹まタ
ない︵<⑫一■Oo#目卑昌P㈱鴇一.曾℃蜀昌oF㎝鴇どNF頓げ︸ρ仁oげ国ppΦ8①塁筋−いΦげヨ碧一P伽一器︾一一ヨ。一︶。
か、法定移転︵㎎霧9注畠ΦOげ99おロロ吸︶と解するか等、ドイツで議論の存するところであるが、ここではそこまでは触れ
︵4︶ 第三取得者と賃借人との関係は、賃借権︵に基く権利義務︶を、いわゆる状態債務関係︵N自ω鼠昌駐o乞貫象δけ︶と捉える
︵3︶曳き。鮮H跨翻鴇一ー鶏。■
なお、動産賃借権については本章二註︵17︶。
︵2︶ 具体的事例の詳細は、国程oぎ㈱鴇一﹂ダOo旨諺ロ一目﹄<03。ヨ■建綾鴇一ー鴇℃参照。更に箔9因o田日■諭鴇一る騨
巻八i一一丁︶。
》
一橋大学研究年報 法学研究2 二九〇
︹六〇七︺︵六五七︺︹七二六︺、我妻・有泉﹁コンメンタール﹂六〇五条︵三七九頁︶。なお我妻教授が、用益物権取得の揚合
にも、所有権取得の場合と区別することなく、賃貸人が離脱するーいわゆるまげ窪でなく聾幹9δに用益物権者が承継
するーと説明されておられるのはやや問題たりえよう︵前註︵6︶参照︶。なお、古山七頁、鳩山四六八頁は、用益物権は
無効・効力停止乃至不成立と解されるが、賃借権を債権であると解する限り、疑問である。
︵12︶ ω 二重賃貸の揚合、現行法上、借家であれぱ登記︵民六〇五条︶と引渡︵借家一条︶により、建物所有を目的とする借
地であれば、建物の登記︵建物保護一条︶と借地の登記︵民六〇五条︶により、両賃借権がともに対抗力を有するという現象
が生じうる。前者については登記と引渡の、後者については両登記の時間的先後により何れが優先するかを決する外ないであ
ェックしうるであろうか。
ろう︵古山・九頁、我妻︹七二四︺参照︶。農地の揚合も借家と同様のことが考えられるが、当局の許可︵農地三条︶の点でチ
回 債権者を本文のように物権取得者と別異に扱うことには問題がないではない。まず民六〇五条、建物保護一条が同意義
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
に解されるぺきこと我妻・︹六五七︺︹七ニプ︺、古山・五頁以下参照。前掲最判昭二八・一二・一八民集七・一二・一五一六
ヤ ヤ
は、処理法一〇条の﹁対抗﹂につき、これらと同意義であると解し︵それは正当、古山一五頁参照︶、更に、﹁物権を取得した
第三者に対抗できるのみならずその土地につき賃借権を取得した者にも対抗できる﹂として妨害排除︵建物収去.土地明渡︶
ヤ ヤ
を肯定した︵醜神童コ訪詑甑躍っ︶。しかし、債権については﹁対抗﹂は、﹁売買は賃貸借を破る﹂を制限する目的のものであり︵我
妻︹七二六︺︶、従って第三権利取得者に従来の賃貸人と同様の契約上の義務を負わせる意味を有するにすぎず︵ドイツの圧倒
的通説−前述。なお我妻︹六五七︺も︶、だとすれば、か㌧る義務を負う“賃貸借関係を移行させる、のに不適当である債権
、,・
者︵我妻︹七二六︺参照︶は、当然には﹁対抗﹂の概念の中には入って来ない筈である。第一の賃借権は第二の賃借権を否認
ヤ ヤ
することができる地位には立つ︵我妻︹七二六︺︶としても︵ただし、物権におけると異り、第二の賃借権も債権契約としては
一や
賛
債権に基く妨害排除についての考察 二九一
︵17︶ その外に、農地については、小作料の統制︵農地二一条以下、九二条︶、賃貸借の原則的許可制︵三条、九二条︶等の公法
なる.︸とOゴ09霞.一一塁Pま、創なお、わが農地法の強行規定と解すぺきことは云うまでもない︵我妻︹七七六︺︶。
器貫お8ψα9ヵ8話什箆零δぼ9一多斜>︻飾一〇宏ψ一〇。ピただし後註︵22︶の一九四二年︽ω9の一条四号は強行法
とができる、bす一8ぎ㈱鴇ど♪国ロロ①8Rβo。−いΦげヨ憩一P㈱一鴇目bo㌦ 切Φ9震日卑昌P因○旨ヨo旨鷲N仁三︽δ9誘o酎一一9領の−
︵16︶ ドイツ民法五七︸条等の対抗力は.債権法の原則に従い補充的・任意規定であり、賃貸借契約により排除乃至変更するこ
︵15︶ 鈴木﹁居住権の法的構成﹂法学雑誌四巻三、四合併号一二四頁以下参照。
︵聾︶ 幾代・前掲判例批評︵民商雑三〇巻一一=六頁︶。
る﹂も民六〇五条、保護一条と同様﹁対抗﹂の意に解すべきこと、我妻︹七五じ︹七七三︺なお前註︵一二︶@の文献参照。
︵13︶ 借家一条の﹁物権ヲ取得シタル者二対シ其ノ効力ヲ生ス﹂と農地一八条の﹁物権を取得した第三者に対抗することができ
人の負う義務の履行として契約法上の間題として処理されうることになろう。
て﹁物権化し﹂などと云って物権的請求権を承認するまでもなく、新所有権取得者に対すると同様、賃貸人と同様に第二賃借
ないと思う。また、仮りに判例のように第二賃借権を対抗の問題と解することができれぱ、第二賃借人に対する関係は・あえ
念的な権利に基く物権的︵妨害排除︶請求権とをーその間に何らの考慮も理論づけもなくーただちに直結することもでき
ある。その意味でまた、債権における﹁対抗﹂の問題︵これは移転乃至並ぴ負う契約上の義務の履行の問題につながる︶と観
求権の承認されるべき筋合もない、との立揚が実際上も理論上も可能なわけである。物権取得者と一応別途に考察する所以で
第二賃借権に対する対抗力ある第︷賃借権の権利保全のためには占有訴権で足り、また物権でない以上それ以上の物権的な請
かということとは別個の問題であり、しかも例えばドイツのように、対抗力ある賃借権が占有取得後に限られている揚合には、
ひ
有効に成立しうるア一とに注意︶、そのことと、第二の賃借人が賃貸人の第一の賃借人に対して負う契約上の義務を同様に負う
}
一橋大学研究年報 法学研究2 二九二
的規制の介入、借家︵借地も同様︶についても地代家賃統制令が一応問題となろうが、後者については昭和二五年改正による
除外例︵その意味はここでは触れない︶の現象があり、これらは本稿の目的にとって本質的なものではないと思われるので挙
げなかった。なお、川村﹁日本における借家法の構造H﹂新報六二巻四号、同﹁解約自由の原則とその制限﹂ジュリスト一一
八号は、賃料統制の問題は、中小地主・家主対国家独占資本の矛盾・対抗関係であって、地主・家主と借地人.借家人との矛
盾・対抗を問題とする借地借家法とは矛盾の質を異にすることを分析・強調される。外国における賃料統制緩和の現象は有泉
編・前掲書一五一頁以下一七三頁一七六頁二七二頁等。
︵18︶ なお農地と都会の借家とでは侵害の可能性a多少はありうるであろうし、現にドイツの一九二八年賃借人保護法︵≧ω。,
ヤ ヤ
匡O︶三一条二項は、二重賃貸の揚合、届出又は許可された使用賃借人︵竃一99︶は然らざる賃借人に対し直接に賃借揚所の
ヤ ヤ
引渡を請求しうる旨規定したが︵︿騨い9三函ψNま箪︶、用益賃貸借関係︵り8耳<Rげ弩言δ︶についてはア︸のようなこと
は問題とならなかった︵勲葬O■幹ミOいF>ロヨ■一〇嘉︶︵なお田旨98霊のき①ご一β一一P伽一呂︾一一旨・一は、本条は、右賃
借人に対してのみ返還請求しうるに止るから、賃借権を物権とするものではない、物権なら一般第三者の侵害に対しても本権
訴権が附与されるぺきであり、かつ賃借人はレヒツシャインの保護を受けるぺき筈だ、という︶という事情があるが、.︸れら
のことは本文の解釈論としての結論を左右する理由とはなりえないであろう。
︵19︶ なお、我妻︹七五二︺︵・︶は、借家法一条の﹁引渡﹂を﹁占有改定﹂で足ると解するのが妥当であろう、とされる。ド民
五七一条の引渡︵Oげ9蜀器臣αq︶が現実の占有移転を要すると解されている︵︿箪国ロ醤8震臣白魯巨即ロPゆ一呂︾昌5軌︶
ことは別としても、処理法の揚合は止むをえないとして、賃借人の既に存することの事実上の認識可能性があって始めて、第
三取得者に契約上の義務を負わせる合理的根拠があり︵び5︶、しからざれば第三取得者に酷で、かつ、仮装契約により取得
‘鶏
者を詐害することも容易となり、自由な不動産取引の安全・余地を不当に狭めることにならないであろうか︵なお後註︵22︶
“
噂
鋤
債権に基く妨害排除についての考察 二九三
権法﹂二〇五頁︶︵なお教授は債梅侵害による不法行為の成立についても同一の主観的要件の下に賃借権及ぴ使用者の債権にの
事実上の侵害の揚合には認識を条件に肯定され、更に対抗要件の具備する揚合には加害者の悪意を認定すぺし、とされる︵﹁債
ついては、解釈論としての理論的根拠は明かでないが、ω二重契約による場合には、賃借権の存在の認識と害意を要件に、@
︵24︶ 吾妻教授は異論を唱えられる。債権一般には否定され、特に賃借権︵1及ぴ後述の雇傭契約上の使用者の債権ー︶に
味はもちえないと思う。
択一的に云うならぱ、その面では物権となっており物権に基くと解すぺき︵幾代・前掲︶であろうが、それすら幡決定的な意
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
︵23︶ これらの賃借権が﹁債権﹂に基く妨害排除といえるか、と静態的に問うことは無意味であり、むしろ、同じく静態的二者
o三顔界︶¢Nタは、本規定を理論的にも政策的にも不当とする。わが処理法につき類似の立法論的批判、我妻︹七二八︺。
$卑一用益物権取得者に対して︵ド民五七七参照︶も同様に解すべきこと菊8器窪ρま箆︶。U巳畠①芦︵じす<o&冒αq一5艮百αq
借人に対しても︺賃貸人に代位する、と規定してド民五七一条を拡張している︵<吟因8器9ρω﹂oo一自﹄閃Φ9震ヨ田一Pψ
︵21︶ 処理法二条一四条等の﹁優先して﹂が﹁対抗﹂の意に解すぺきこと、古山一四頁以下、なお我妻︹七二八︺。
ヤ ヤ
︵22︶ 一九四二年賃借人保護法︵三の昌○︶一条四号は、賃貸借契約締結後土地所有権を取得した者は︹未だ引渡を受けない賃
︵20︶ 我妻︹五九九︺は本稿の目的に関する限りこの揚合にこそ適切であると思われる。
四参照︶、﹁占有改定﹂でよいと云い切る方向での保護の拡大の志向の妥当性には疑問を禁じ得ない。
て評価するにつき拡大・観念化する方向こそとられるぺきであって︵川島・法協七三巻一一〇ー一頁、林・﹁物権法﹂︹五九︺
判例研究・一橋論叢四一巻二号特に九一頁以下参照︶、此彼同一には論じえない。むしろ、現実の占有自体を社会観念によっ
れは一九二条の善意取得による保護・チエックがあることとも関聯して理解しうることであって︵拙稿﹁即時取得と占有改定﹂
及ぴ鈴木・有泉編前掲書一八頁参照︶。動産物権変動の対抗要件︵一七八条︶としての﹁占有﹂は無意味となりつつあるが、こ
乾
一.橋大学研究年報 法学研究2 二九四
み認められる、二〇五−六頁・尤も二九九頁参照。︶。実体法の解釈論として対抗要件の存在から直ちに悪意を認定すぺしと解
ヤ ヤ ヤ ヤ
することは、証拠法上の自由心証主義︵民訴一八五条、なお刑訴三一八条も同じ︶に抵触する擬制で無理であろう。過失を除
外することは、結果的には先にみた諸外国に近くなるが、現行法の解釈論的根拠は不明である︵不法行為についていえば、過
矢の具体的認定と違法性の評価において操作する外ないであろう、なお加藤﹁不法行為﹂六六頁註︵二︶参照︶。更に教授の立
ヤ
揚では、二重契約による揚合には第二の契約者の害意のない限り第一の賃借権は対抗力を有しながら救済されえない揚合が生
じようし、更には債権者代位権の利用を不必要︵四五頁︶とは云えないように思われる。それはともかく、主観的要件を要求
し、かつ賃借権及ぴ使用者の債権にのみ限定される教授の所説には、先にみた賃借権への物権的請求権の承認への志向と、債
ヤ ヤ
権一般への不法行為責任としての原状回復的方向とが、混在していると我々は理解することができるのではないであろうか。
そしてそのことが、所説の現行法の解釈論的根拠の把握を困難にしているのではないであろうか。
第五章雇傭契約上の使用者の債権
一 賃借権への妨害排除請求権の承認の傾向と関聯して、近時、吾妻教授は、賃借権とともに、雇傭契約上の使用
者の債権につき、﹁近代的生産組織にあっては、労働者の労働力に対して、使用者はこれを組織づける権能を持つので、第三者が
濫りに介入して労働者の引き抜きをやる等の揚合には、使用者はその妨害に対して、妨害の停止を求め:−る必要がある﹂、として、
㈲二重契約による揚合には、第三者が雇傭関係の存在を知り、かつ使用者を害することを目的とすることを条件に、@純然たる事
実上の侵害の場合には、契約上の権利の存在を知ることを条件に妨害排除請求権を肯定したい、とされ︵踊駿鮎嶺騰鰍叶謝頑ぎ痴聴︶、
噺
松坂博士もまた、すでにみた博士の所説の必要性の例証として、直ちに教授のこの例を援用しておられる︵囎繊銀醜選謬
→
禽
債権に基く妨害排除についての考察 二九五
る自己の労働力の直接支配・処分自由の法的承認でなければならない。すなわち、労働者の自己の労働力への直接支
法的規制から、近時の直接支配の承認11物権化と対比すべきものは、雇傭契約においては、近代的生産組織における
ヤ
使用者による労働者の労働力の直接支配ではなく、むしろそれを押しのけて、主体的意思の担手たる労働者自身によ
ならないことも詳論の要はない。従って、賃借権の、賃貸人を介してのみ賃借物とかかわりを有するにすぎない債権
としての保護も、市民法上の人格者︵評誘9︶としての保謹を前提とし、むしろこれを実質上も貫徹せんがために外
ヤ ヤ ヤ
三 近代的債権としての雇傭契約は、これと異り、土地支配と結合された団体的身分的拘束からの個人の解放と、
ヤ ヤ
労働者”債務者の法主体性を前提とすることは先にみたが︵鮪哩︶、近時の諸労働立法による労働者の人間︵鼠o塁畠︶
れるからである。
の拘束を課せられた半自由人であり、従って彼らの労働力は直接に主人の支配にも服すべきものとされていたと解さ
︵6︶ 、 、 、 、
ここでは間題となりえない。彼らは家畜と同様の物としての奴隷、乃至は彼らの意思・契約とはかかわりのない多く
窪αωR奉暮︶に発し、二二四九年の大黒死病による労働者の激減に伴う主として農業労働力の確保のための一連の
︵6︶
労働者法令が、主人に逃亡労働者の逮捕、他の主人の召使となっている労働者への追跡の権利を附与したこと等は、
して僕脾︵の①巴且Φ︶の誘致が挙げられること、英法においても亦、第三者の債権侵害の問題は主従関係︵日器8↓
︵5︶
権の対象物であったこと、ゲルマン法においても第三者のいわゆる債権侵害による不法行為責任の肯定される揚合と
︵4︶ 、
二 ・ーマ時代の労働の主たる担手である奴隷が、物口有体物︵冨の8弓興巴Φの︶とされ、対物訴権乃至は占有訴
︵1︶ ︵2︶ ︵3︶
頁︶。従来わが国では論じられたことすらなかった問題かと思われるが、私なりに考察しておこう。
競
一橋大学研究年報 法学研究2 二九六
配の承認に応じて、かつてのいわば物権的直接支配から人格者︵田誘9︶としての労働者の自由意思を介してのみか
ヤ
かわりを有するにすぎない債権的支配への退化の現象こそ、近代の使用者の・労働者の労働力に対する法的地位の変
遷であり、ここでの我々の問題は、右の事実の全面的承認の上にのみ配慮されなければならない。しかも、労働力が
労働者の人格と事実上不可分の関係にあるここでは、労働力は、市民社会においては等価交換の法則に従って商品と
して売買されるぺきものであるとはいえ、通常の商品と異り、その直接強制は許されないものとされる︵輔伽榔灘儲徽噸旧
㌻濃誠饗諜強、︶。
勿論、近代的生産組織における使用者の労働力の組織づけの権能は、古代乃至は封建社会と区別された近代市民社
会における抽象的な対等二個人の結び付きの次元を更に越えた、特殊口現代的な問題として登揚したものであり、さ
ればこそ、1市民法学上ではなくー労働法学上、いわゆる個別的労働の揚における使用者の権能を事実上の力関
ロ
係と合意の上に把握するか、或は更にこれらを越えた法律的意義を認めるか等の論議がなされている。しかし、少く
ヤ
とも、ここで問題の一般第三者との関係においてこの使用者の権能を捉える限り、労働力に対する排他的直接支配の
ヤ
されない︵鰭魂陥︶ここでは、市民法上は労働力に対する債権的規制として第三者とはかかわりを有するにすぎず、少く
承認されず︵筏蒜鷹羅隙働財鵬聴荊獄㍊3劃.一一蜘謎勲瀞る︶、かつ労働力と不可分の労働者の主体的自由意思を否定することの許
ヤ ヤ
とも、これに、物権的請求権をめぐっての市民法上の物権・債権の対比において賃借権の物権化と同様の現象として
理解し、第三者に対する物権的︵妨害排除︶請求権をも承認することは、雇傭契約からもいわゆる労働契約からもでて
画
こないし、またその志向自体妥当でもない︵蠕繧棘轍舳パ助騰ガ腋調晴加顧噛ば勝馳畿励肱描駐諮龍撒節渤権︶。
→
鋭
債権に基く妨害排除についての考察 二九七
とは、我が法におけると同様、確立されている。ただ、特に消極的約束のある揚合には問題がある。はじめ、かの
︵イ︶ 債務者に対する労務︵需誘95一の9≦8︶の特定履行︵8850需臥a露彗8︶が原則として許されないこ
︵9︶ 、、、、、、、、、、 ︵m︶
が許されうるかは問題となった。この点は債務者︵”労働者︶に対する関係から述べていく必要があろう。
ど、かなり絞られている。ともかくも、それ以外で不法行為となる揚合にも、妨害排除的な差止命令︵ぎ甘旨菖8︶
︵8︶
契約期間満了後にやめるべきことの誘致も同様であり、これら以外の揚合については揚合を分って種々論じられるな
ヤ
く任意に解約しうる︵梓R日ぼ与ざ暮昌ε雇傭契約については不法行為とならず、回期間の定めのある揚合にも、
かし、労働者の誘致による債権侵害については、正当事由としての自由競争の法理の支配により、ω期間の定めがな
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ゆ ヤ
権については、誘致の揚合を除き︵”暴力等による揚合︶、故意を要しないとされているがここでは直接には関係はないー。し
、、 、、 ︵7︶
故意の契約侵害が正当事由がなければ不法行為となることは既にみた︵︸舞陀璽、︶ 尤も、特に雇用契約上の使用者の債
ω 二重契約による侵害に対する妨害排除については英︵米︶法の議論が示唆を与えるように思われる。第三者の
護の必要性に関しても別個の考慮が可能であるように思われる。この点を揚合を分って検討しよう。
とは異り、使用者の組織づけの権能の外に更に別個の考慮が要請され、或は、.伝統的理論に従って消極に解しても保
のみならず、給付の目的物たる労働力が事実上労働者の人格と不可分の関係にあるここでは、或は、特定物債権等
ヤ ヤ
い︵籍嬢畷擁も魔齋簾締騒麗軌↓ン規鯉蔚熔麟腓暴が雛μ勘び嫌妙掛勲ρ樋齢虫、溢輸羅惨鯉腿禁顎漿駿耶“薫胡%債︶。
回復の認められていないわが法においては、解釈論上、しかも特に使用者の債権にのみ肯定しうぺき根拠は見出せな
四 問題となるのは第三者の不法行為責任の肯定される揚合であるが、この揚合にも、不法行為責任としての原状
鮮
一橋大学研究年報 法学研究2 三九八
︵H︶
い信旨一瑠く●≦轟一一Rにおいては、特定期間他の劇揚に出演しないとの消極的約束のあることを理由に他への出演を
︵EV
禁ずる差止命令が認められた。しかし、それは、≦ぼ暑○&○富日一B一〇ρ︿・頃畦α⋮農づにおいて、﹁それに類似の
︵13︶
事件において従われるには変則︵きo目巴曳︶と看徹す、しかもそれは拡張すると非常に危険な変則である﹂とされ、
︵U︶
その後の判例も、特に労務については消極的約束の意義を厳格に解して差止命令を許さない態度をとり、更には消極
︵婚︶
的約束のある揚合にも、それを許せば労働者の人格保護に欠ける結果となるとして許さない態度をとってきている。
ヤ ヤ ヤ
︵ロ︶ この労働者の人格保護の精神は、ひいては、二重契約により消極的約束の存する契約の違反を誘致し不法行
︵16︶
為責任を負う第三者に対する責任追求の在り方にも影響を与えずにはおかない。すなわち菊oぐト出色望一茜一貰禽
距3ヒ畦旨○ρ<・田。。一醇脅o爵Φ房は、右のように当該労働者﹁に対する差止命令が許されえないならば、被告会
社をも制止すべきではないと解する。けだし、一連の差止命令の究極の結果は、恰も吾人が﹂当該労働者﹁に対する
差止命令を認め、そして実際には﹂、当該労働者が﹁労務︵需誘○塁訂R鼠8︶の特定履行を判決されたかのようにな
︵ロ︶
るからである。﹂として、第三者の責任についても亦金銭賠償のみが問題となりうるとした。かくして現在英法におい
ては、特に雇傭契約上の労務︵需お8巴ω段≦8︶に関しては、労働者に対する差止命令は、それが当該労働者を間
接に強制する結果となるときは、たとえ明示の消極的約束が存しその違反の制止のためであっても認められず、従っ
て、それを唆かし雇う第三者に対しても亦、一連の差止命令は事実上当該労働者に始めの契約の履行を強制する結果
..貸,
となるという理由で否定され、ただ労働者並びに第二の雇主に対する金銭賠償のみが肯定され、従って、当該労働者
︵ 蛤 ︶
が仕事を選択することを事実上妨げることはできない、といわれる。
4
責
強制労働が禁止され︵瑚薙︶、更に、労働者の使用者への封建的身分的拘束を排除せんとして一年以上の契約が禁止され
︵19︶
レ姻瞭蜘︶、実際上も期間の定めのない”解約自由な契約が大部分であるわが法においても、第二雇主がいかなる意
前述のわが法の解釈論上の困難さは勿論であるが、それを度外視しても、労働力に対する直接強制が認められず、
φ
債権に基く妨害排除についての考察 二九九
務の提供が可能な結果、実際上解決してしまう、というまさにこの雇傭契約上の使用者の債権の特殊性のゆえに、従
解放が先ず先決問題であり、同時に、これをなしうれば使用者の債権保護という問題は、労働者の自由意思による労
的物たる労働力が労働者の人格と不可分の関係にあるということ、従って、労働者の第三者による不当な拘束からの
ヤ ヤ ヤ
働者の人格保護のための特殊の考慮は事実上要請されないというにすぎない。更にしかし、この揚合にも、給付の目
原状回復のでてくる筋合のものではあるまい︵鰍嫌邸卵鋤際法︶。ただこの揚合には、右の二重契約による揚合のような労
主観的意思いかんにより、理論卦、或は使用者の債権が物権化し、或は不法行為の効果︵臓脆︶として金銭賠償と並んで
国 労働者の意に反する不当監禁等による事実上の侵害の揚合にも、債権に対する第三者の加害行為の方法乃至は
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
自由意思主体たる労働者の人格保護の観点からー政策的にも妥当ではないと思う。
般的に雇傭そのものの差止を承認せんとすることは︵敷男ユ⑪細叫ユ知駅難襟肱射鰍︶ 第二の雇主保護の観点からではなく、
競争の事実があればその差止・原状回復等を請求する︵郷︷織孕︶ことにより、個別的に制禦していくべきであって、一
同様でなければならない、と思われる。むしろ、第三者の債権侵害自体については金銭賠償︵隅詫細統蛛七︶で甘んじ、引
︵20︶
抜による競争会社の企業活動を、或は無体財産権としての特許権等の侵害があればその停止を求め、或は所定の不正
図を有するにもせよ、当該労働者が自由意思により第二の契約に応じた以上、その志向するところも英法におけると
(餅
皿橋大学研究年報 法学研究2 三〇〇
来の理論を破って解釈論上の法律的構成の困難さをあえて冒してまでも、使用者の債権に基く妨害排除請求権を肯定
せんと意欲する必要性も存しないのではないかと思われる。給付の目的物たる労働力を内在せしめ、かつその前提と
ヤ ヤ ヤ ヤ
なる労働者の人間としての自由は、それ自体何ものにもまして強力に保謹されるべきものであり、かつ既にされるこ
ヤ
とが可能であるからである。労働者自身の人格権に基く妨害排除請求権・自力救済としての正当防衛︵眠鼓知−条、︶は度
外視するとしても、使用者としては、逮捕・監禁罪︵㎝紅二︶等刑事法上の犯罪として加害者を告発︵剤辮紅︶して警察権の
発動を促し、或は英法の冨げ。器8も霧に範をとって﹁現に、不当に奪われている人身の自由を、司法裁判にょり、
迅速、且つ、容易に回復せしめることを目的﹂として制定された︵諏身鰍︶人身保護法︵調鞠二︶による救済請求権︵訊知課蟻︶を
行使して、労働者自身の不当拘束からの速かな解放・救済を図ることこそ、結局は、ここでの目的たる使用者の債権
保護のためにもより実効的な手段であり、かかる手段の存するここで、こと人身の不当拘束に関して、更に、冗長に
ヤ ヤ
執
行
方
法
を
も
た
な
い
し て か つ 強 力 な
民 事 訴 訟 法 にヤ
よ る 債ヤ権保護という迂路を見出さんがために、あえて民法の解釈論
上の理論的困難を冒さんとすることが、果して現実にいか程の意味をもちうるかは疑問である。英法の不法行為法の
著書において、差止命令︵ぎ甘蓉菖8︶は暴行︵舘鶏巳δY殴打︵σ”9①qY不法監禁︵鼠討巴ヨ鷲房8日①旨︶・⋮を
ヤ ヤ ヤ
除いて︵①図8讐︶すべての不法行為の救済に役立つ、とされ、そして不法監禁の救済方法としては自力救済・人身保
︵21︶
護令状︵富富器8も霧Y金銭賠償のみが挙げられ、差止命令は除かれている事実は、右のような意味で、我々の問
題にも示唆を与えるのではないであろうか。
,、噛、
五 このようにみてくると、雇傭契約上の使用者の債権につき第三者に対する妨害排除請求権を肯定しうべき解釈
噂,
φ
︵3︶
︵2︶
︵−︶
当時の北欧法もあわせてρρ勺あoげo斜U一〇<〇二〇9βロ鹸山霧O宣ロび蒔oけ30﹃房巴ω瞠コoユ象&3コ緯惹ご匡殴Oo,お一ψ
0巴■H塁ひ■命一9 ︵4︶の豊,H一隣,罫ま9
O巴,目富戸N。一辞旨αお−囚巨一犀①一−≦窪oqoび㈱&。Hψ弓隔,
岩お−囚窪詩巴−≦聲吸R︸㈱窓o。,Hψ卜。お一船田﹁羅馬法﹂三巻一五四頁。
ドイツ普通法においてもこの揚合は肯定されていた︵顕勲ρψま︶、オーストリー法も同じ︵勲鋭ρ鉾総︶。
二章三節一参照。なお、小林・前掲︵法学研究三〇巻一号︶特に五五頁、五九頁。
債権に基く妨害排除についての考察 三〇一
︵9︶ bo一一〇。FO旨Oo耳声2︵お8︶汝o一米法につき、末延訳﹁条解米国契約法﹂伽鴇汐二五八−九頁参照。
二月五日労働法第一編二三条もともに、ぐo密U巴2=一。コo。簿ω←の零葺一R﹂昌。一轟ど冒欝9皿ρH昌。一奪︵Oソ
の亀目9ρ励O伊ωやま㌣b聖ロρεタ昌・おー参照。更に二章三節二註︵9︶参照Qなお、フランス法については一九三二年
︵8︶ 不法行為となる揚合もあわせて、O貰需暮Φ辞&属畦fい知Φ∼謡高9器ρら留胃ρま国畦く●い因雪■鵠ひーざご
︵7︶ 巧冒ゆ巴ρ3舘ω巴ヨ9島”呂o。廟勺留昌ρ︵Oξ審馨U①αq巴℃3巨①目ρ這累︶89小林前掲論文参照。
本稿での議論とが い か に 結 ぴ つ く の で あ ろ う か 。
︵6b︶
吾妻教授はこの立揚に立たれる、﹁業務命令とその法的性格﹂一橋大学研究年報・法学研究−所収。なお、その立揚と
︵6︶
轟9
︵5︶
ついても同様である。
から法律的構成の無理を冒すべき必要性も存しないように思われる。このことはその他の類似の契約、または揚合に
︵22︶
自体妥当でもなく、また、暴力による不当拘束等による事実上の侵害の揚合にもあえて民法上の債権保護という観点
論上の根拠はなく、加うるに、まさに雇傭契約の特殊性のゆえに、二重契約による侵害の揚合には肯定せんとの志向
ゆ
一橋大学研究年報 法学研究2 三〇二
︵10︶ 米法につき末延訳諭拐ρ二五九−六一頁参照。なお、以下の叙述は英法に限定する。
︵11︶ 口o。器]一∪≧勲08轟︵直接には参照しえず、。井&9、ノ1、臣牙o&○げ①一巳B一〇ρ<臼=畦︵一︻一一碧一一一一︵一〇。ε︶NOげ畠o。︸
aOIご勺o一一8F象ご。これは、かの第三者の償権侵害を肯定した指導的判例ピ瑳二2一、、の︸、o︵一〇。緯︶︵二章三節口、及ぴ
同所註︵5︶参照︶の本来の債務者≦帥鯉一實嬢に対する事件。
︵招︶ 口o。旨]N9一茸9被告は、特定期間﹁彼の時間のすぺてを会社の業務に捧げる﹂と契約してあった。裁判所は、それだ
けでは消極的約束は存しない、として金銭賠償を請求しうるのみ、とした。
︵13︶ 一σ箆‘畠oo■
︵14︶ 例えば、閏ゴコ一βコダ国碧浮oδヨ9<口oo8]一〇げ鶏トにおいては、原告酒商会の外交員である被告は、一〇年間、﹁通
常の勤務時間中彼のすぺての時間を商会の業務に捧げ、直接にも間接にもいかなる方法によってであれ、他のいかなる業務に
も彼自身つくことを約束したりついたりせず、本合意の存続期間中、商会以外の飽のいかなる人と共にも、或はそのためにも、
いかなる業務も営まない、﹂と約束してあった。期間満了前、他の酒商会に勤務したので原告は差止命令を請求。ヵoヨ雪判事
は、包括的な差止命令を許せば労務の特定履行を強制するのと同じことになる、として却下。
ピ曾叶目段く﹂W9ざ9[一80]一〇プ鴇一においては、ボクサーである被告は、原告に、七年間、被告の拳闘の試合の取極
めを狸曲静Pすることを任せた︵H一菖留旨p犀①爵碧図2篇ゴ巴一げの話叶富鶏騨遭冨一茜o目oロ$︶。被告の契約違反に対する原
ヤ ヤ
告の差止請求に対し、裁判所は、契約の効果についての独立の消極的約款がなけれぱ不可として却下。
︵15︶ 例えば、菊Φぢ−︾由巴一切弩牲鴛彗匹問一お≧巽ヨOρダ国邑段きα○けぎ遷口露呂Oげ89においては、被告︵発明
者︶は、原告会社に、五年間﹁雇傭期間中いかなる他の仕事にもつかず、会社の利益増進のために彼の最善を尽す⋮⋮﹂と約
束してあった。期間満了前、他の競争会社に勤務したので差止請求。原告は、切ξ彗窪く■ω畦9cδ糞9く︵前註︵14︶参照︶、
.負
毒
債権に基く妨害排除についての考察 三〇三
︵22︶ なお、第[組合員の違法ピケソティングによる第二組合員の就労阻止の場合等には、実際上の必要性も存しようが、これ
済方法ではなく、かつ自明のことだからであろう︶。
︵21︶ 妻ぎ瀞β㎝駅や疑ざ㈱ま℃﹄N図oo匙巳9P伽o。Oりい結︵ただし彼は自力救済をも挙げないが、これは、訴訟上の救
︵20︶ これは支配権的絶対権的性格のものとして一般に承認されている、例えば我妻﹁事務管理等﹂一九八頁。
︵19︶ 労働関係民事裁判例集等に報じられる解雇事件の諸判例から容易に窺えよう。
法は差止命令ではなく金銭賠償である、と特に断っている。
︵18︶ 娼昌一一ρさ9なお、の践日8Pゆ凛戸︵σ︶やいひNも、前註︵16︶の判例を引用して、新雇主に対しての通常の救済方
︵16︶︵17︶ [一〇ま]OげひOPひ一〇。19箏案は前註︵15︶参照。
もとより、雇傭契約以外の供給契約等については、消極的約束はゆるく解され、差止命令が発せられている。
ヤ ヤ ヤ
死か積極的捺印契約の特定履行かに追い込むであろう揚合には差止命令は許されないであろう、﹂とされた。
期魯三霞ゆ8島o諾皿o呂﹃霧曹ぎρ<・2①デ○ロ[這鴇]一国切8P曽ρにおいても、前掲諸判決を引用して﹁被告をして餓
ま峯℃■ひ51刈×として却下Q
ある。若し吾人が契約条項に従ってこの男を制止するならぱ、彼はのらくらして餓死するであろうと思われる﹂︵炉菊霧器F
人に仕えてはならないが、世界は彼が独立して事業を起すことには依然として開放されている、と告げることは愚かなことで
吾人にはまゆつぱものと思われる。乙の被告即ち賃銀で傭われる労働者︵器署讐ロ一︶に、彼はその︹賃銀労働者の︺資格で他の
営む途は開けている、と主張。裁判所は、契約違反による金銭賠償は肯定しうるとしたが、差止命令については、﹁右の区別は
家営業をすることすらも禁止されていたが、本件では勤務︵器署冒頓︶することが禁じられているだけで自己の計算で事業を
O冨密一5臣一<・≦o降曾びξ口2呂≦2N弓においては契約条項は労働者︵の霞く聖旨︶が他に雇傭されることはもとより自
疹
一橋大学研究年報 法学研究2 三〇四
らは労働法上の争議理論の揚の中で綜合的に解決すぺき性質のものであって、これから使用者の第二組合員に対する債権のみ
を分解して、債権・物権という市民法上の次元に引戻してここで考察すぺき筋合のものではあるまい。
第六章総 括
國 以上の、わが国特有の理論の必然的に要請される特殊陸日本的事情としからざるもの、及び夫々に相応する諸
理論の成立の経緯とその法律的構成等の検討から、はじめに諸説を一瞥したときの疑問︵導文︶については次のように答
えることが許されるように思われる。わが諸説乃至現象には、わが法の欠陥乃至は特殊事情に必然的に要請されるも
のもあるが、諸国に誇るぺきわが法理論の成果と評価するよりは、むしろ、物権遥区別された債権の特殊性を無視し
薩般乃堕断段柄に案出され琉慨念か協の抽象陣演繹酌想考労隣々質ぼめい必ずしも実際上の必要性も存し
ないのに特殊U日本的な紛糾を惹起したにすぎない揚合も多い、と。従って、これらの検討を基礎に、解釈論として
の法律的構成と保護の必要性との相関的な考慮の中で諸説を整理すれば、それらの間を縫って私なりのわが法の解釈
論としての解決もつかめそうに思える。もとよりはじめに述べたように本稿では私自身の解釈論的法律構成を抽象
的に展開すること自体を直接の目的として出発したわけではなく、また、本稿の検討を基礎に更に別の角度から焦点
を絞って債権を検討したいと思う。しかし、紛糾せる諸説の検討は、少くとも現在のわが国における本問題の解明と
しては、却って先に述べた方法を始めからとることは、概念の矛盾と混乱の迷宮へ陥ち入るか、法律的構成なき結論
L﹁
を呈示しうるだけか、或は債権保護を放棄するかのいずれかへ陥ち入る危険があり、必ずしも稔りあるものではない
噂
窺
債権に基く妨害排除にいつての考察 三〇五
ての債権の保護が実際上要請され、不法行為責任としての損害賠償たる原状回復が機能しうるが、意思主義をとり対
国 物権変動につき形式主義をとるドイツにおいては、登記乃至占有取得前の純粋取引法上の物権取得の手段とし
もなく或はあえて民法上の法律的構成の困難さを冒すべき必要性も存しないであろう︵乾︶。
ついては、特にこれを他の債権と区別して肯定しうべき解釈論上の根拠は見出せず、かつ肯定することは或は妥当で
㈲ 雇用契約上の使用者の債権のような給付の目的が債務者の人格と事実上不可分の関係にある債権︵乃至揚合︶に
害排除的に干渉すべき性質のものでもなければ、しうべき根拠もないであろう︵撤灘.諏澱栴繍瑚囎識ぴ臨痴顯、︶。
権者代位権.詐害行為取消権・強制執行法上の諸制度を利用すれぱ足り、それ以上に債務者の財産関係へ債権者が妨
国 金銭債権については、ことは総債権者のための責任財産を減少させるという点でかかわりをもつにすぎず、債
理であろう︵彫羅悩3.
ツ・フラヒス法に対するわが法の欠陥を真正面から埋めんとの意味を有するとはいえ、現行民法の解釈論としては無
口 同じく、不法行為責任としての原状回復を肯定して本問題をもその一環として処理しようとすることは、ドイ
ない︵雛解﹃飾に㎎面臨一P 略 鴻 眠 凋 ︶ 。
e 債権一般につき、﹁債権の上の所有権﹂なる観念を肯定して解決を図らんとすることは理論上も実際上もとりえ
が法の解釈論的結論を出すのに必要な限りで、整理するにとどめよう。
二 先に検討した諸外国並びにわが国のすべての問題点並ぴに学説に再びここで触れる要はないであろう。私のわ
ことを示すようにも思われる。
’¢
一橋大学研究年報 法学研究2 三〇六
ヤ ヤ
抗要件を要する第三者につき制限説をとるわが法︵燗調.︶の下では、かかる揚合多くは物権的請求権を行使しえ、債権
としての保護の必要性は少いといえよ盗聾譜搬卿蠣轍遵.
ノし
因 右の揚合の外、動産の賃借権等については、占有取得後は占有訴権によりうることは勿論であるが、その外に
更に物権的妨害排除請求権による保護を考慮することは、その性質上、原則として不要であろう︵虻蝉節麹一一誤騨齢Wパ訥︶。
なお、実際上動産につき利用されることは殆んどないであろうが、占有取得前の保護につき後記局。
三 このようにみてくると、我々が本問題につき考慮すべき債権は、矢張り、実際上債権に基く妨害排除が古くか
ら判例で問題とされ、かつ多くの学説の専ら考慮の対象としている不動産賃借権に代表される利用権的債権である、
ということになろう。この点に関しては、
ヤ ヤ
㈹ 不可侵性理論の案出されたこと自体の、当時果した特殊“日本的役割は高く評価されるべきであるが、その余
勢を駆っての妨害排除への導入によるその手段的沿革を離れた概念の一般論からの抽象的・演繹的思考方法は、或は
物権と区別された債権の特殊性を無視しているために弊害を惹起せざるをえないか、或はわが法の採らない不法行為
責任としての原状回復と同一のものを迂路を経て肯定するという意味を持つ途を辿らざるをえないためその法律的構
成に治癒しえない弱点・矛盾をもつ。加うるに、それが、大審院判例にみられるような、そしてまた論者が強調する
ように、占有取得後の利用権的債権の保護を志向するものである限り、近代法上本権訴権的機能を営むべき占有訴権
による保護で実際上充分であり、その限りで、理論上支持しえないのみならず実際上も採る必要もない、と思われる
も
︵犠編貯纒錨騨羅騒︵箆︶︶。
ゆ
φ
債権に基く妨害排除についての考察 三〇七
占有訴権乃至は因によっては保護されえない。この揚合、賃貸人に排除を請求了るのみでは実際上その保護に不充分
得しても物権的諸効力の附与されずかつ占有未取得︵焔靖撫舗耀瞼麓砿︶の利用権的債権なるものは現実に存在し、これらは
周 登記前乃至は占有未取得のため対抗力を始めとする物権的諸効力を未だ具備しないか、或は現行法上占有を取
排除請求権による保護をも附与してよい、と考える︵網購聾な︶。
された債権としてとどまるべき桂棺から解放され法的には何らの弊害も生じなくなっている以上、これに物権的妨害
念型債権から物権へと生成しつつある権利として動的に把握することが可能であり、対抗力を附与されて物権と区別
的事情があり、加うるに、特別法による物権化の要請としてのその他の物権的諸効力の附与とあいまって、法律上理
由に対抗力と物権性U物権的請求権とを峻別して占有訴権によらしめる伝統的理論ではその保護に欠ける特殊11日本
自体から論理演繹的に物権的請求権は生ずると解することはできないが、ドイツにおけるように債権であることを理
殉 民法並びに特別法上対抗力︵鯛臨窮維叶︶を附与された賃借権については、抽象的な対抗力・排他性という概念
様に評価しえよう︵醐璽型、蕊お、︶。
思われ、当時の特殊H日本的な経緯と意欲との生んだ一駒として捉えてのみ理解しうるものであって、圏の後段と同
弊害乃至は妥協的性格を露呈せざるをえないか、或は擬制を犯すのでなければ理論的・実際的根拠は存しないように
ととなり、それ以外の理念型債権として規制さ礼ている利用権的債権に適用されるべきものとなった現在では、その
いた対抗力を始めとする物権的諸効力を現行法上附与されている賃借権がこれから抜け出て別個の理論︵誕︶によるこ
囚 利用権的償権は占有なる公示方法を異備すれば物権化し物権的請求権を生ずるとの主張も、従来それを支えて
苓
一橋大学研究年報 法学研究2 三〇八
である以上、物権への故なき干渉と債権として甘受すべき正常な自由競争の阻害とを避けつつ債権者を保護する手段
が実際上要請される︵三璽鞭噸調章︶。ドイツ・フランスにおいては不法行為に基く損害賠償としての原状回復︵硬窮諺
面為︶がここで機能しうるし︵彫聾一璽一︵六︶、︶、英法においては即時占有の権限を有する限りわがいわゆる物権的請求
鳶
も一
日本的な在り方として、恰好の足掛りをえたものとして解釈法学としては首肯しうる現象である、と考える。そして
てくると、近時の判例並ぴに多数説が前者を採らず後者を利用しているのは、法的保護の要請に対する充足の特殊旺
を離れるとはいえ、わが現行法の明文規定に抵触するところはなく、かつ何らの弊害も生じない︵一謡︶。このようにみ
ず、前者は、その解釈論的構成に種々の治癒しえない弱点・矛眉を有するに反し︵鷹潭紅繭一訂蹴、︶、後者は、制度の沿革
観的要件の具備の有無が常に問題となるであろうに反し、債権者代位権の利用にはそのような障碍はない。のみなら
実上の侵害の揚合をもあわせて、ここでの債権には何らの公示手段も存しないので債権者の債権に対する加害者の主
評価される程の詐害的共謀による侵害がいかほどあるかは問題であろうし、更には、それ以外の契約による乃至は事
与えうる。しかし、少くとも占有未取得の賃貸借・使用貸借等の利用権的債権について正常な自由競争を逸脱したと
謀による侵害をも把握しうる可能性があり、他方後者は、加害者に債権侵害の故意過失等の存しない揚合にも保護を
る不法行為責任としての原状回復にみられるように︵㌍振一︵歯一︵駄蟻騙ン輪錆級糖調櫛彫鯉薩︶、債務者と第三者との詐害的共
可侵性理論︵嬉緯紅聴訂五、︶と債権者代位権の利用︵臨遼二︶が考えられる︵旺韓肝蹄一邸肱お︶。前者は、ドイツ・フランスにおけ
けると同様の途の閉ざされているわが法の下では、この揚合の法的保護の要請に応える手段として、一連の近時の不
権と同様の保護が承認されている︵享筆一編︶。英法のような物的保護訴権はいうまでもないが、ドイツ・フランスにお
ヤ ヤ ヤ
聡灘
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債権に基く妨害排除についての考察 三〇九
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からこの問題を論ずることは妥当でもないであろうが、その外に、既に本稿の検討から明かなように、利用権的債権
ことに対する批判等すでに種々論じられており、あえて私が触れる要もなければ資格もなく、更には本稿の観点のみ
⇔ なお、立法論に論及するならば、立案中の借地権・借家権の物権化については、借家権を借地権と一本化する
択しようとするにすぎない。
体的に選択するか、が問題であることに留意すべきである。そして、既に検討してきた理由の下に、私はこの途を選
においてすらも事情によっては可能なこの揚合の債権保護を全然無視乃至放棄する立揚、等の間において、何れを具
とどまる立揚、或はまた、英法においてはもとより、フランス法においてもそしてまた相対権概念を踏襲するドイツ
呈せざるをえない試み、或は法律として実現せられる説得力を有する筈もない法律的構成なき結論のみを示しうるに
と、既に検討してきたよう榎或は同様に権利乃至概念の沿革を離れながらその法律的構成に諸種の欠陥・弱点を露
つつ法的保護の要請を充足させるわが現行法の解釈論としての特殊日日本的な在り方として、本制度を利用すること
ツ.フランス或はイギリスにおけると同様の保護手段の附与されていないわが法において、これらに代る機能を営み
体に基く物権的妨害排除請求権乃至は占有訴権による保護の与えられえないここでの揚合のために、先にみたドイ
いる不動産賃借権に代表される利用権的債権につき、対抗力等物権的諸効力の現実に附与されて承認しうる賃借権自
の問題は、かかる一般論・抽象論にはなく、よかれあしかれ近代法上物権と区別された債権の範疇に組み入れられて
持つ制度をそれと異る目的のためにも利用するということ自体が望ましい在り方であるとはいえない。しかし、我々
私も亦これに従い、かつその限度でとどめるべきであると思う。勿論、抽象的にいえば、一定の目的のための沿革を
算
一橋大学研究年報 法学研究2 三一〇
についても物権取得の手段としての債権についても、何らかの形で不法行為責任としての原状回復を肯定する.︸とに
より、弊害を生ずることなくー占有取得前の 債権保護を強化する余地のありうること、及びわが現行法は1
債権者代位権を利用しうる利点のある反面iその面においてはドイツ民法・フランス民法に比し償権保護に弱いう
らみのあることを指摘しておくことは必要であろう、と思われる。
四 結論的に以上の検討を通じてえられた私のわが現行法の解釈論としての方途を纏めると、一般的には債権に基
く妨害排除請求権は否定し、特に対抗力を始めとする物権的諸効力を附与された利用権的債権には物権的妨害排除請
求権をも承認し、その他の占有取得後の債権については物の利用の側面を占有訴権で保護し、これらで保護に欠ける
揚合については債権者代位権の利用により保護を図る、ということになる。
附記 余りに広範囲の問題を扱ったため、問題点を跡づけることに追われて平板に流れ、個別的問題の検討に掘り下げの不
充分な多くの点を残したことを最も遺憾に思う。ただ、従来諸説の紛糾を生じながらさほど理論の進展のみられないかにみえ
る本問題に関して、本稿の検討・整理が一層の諸説の進展のための機縁・踏台ともなりうれば、と念願することによって、よ
り焦点を絞った別の角度からの検討を期しつつ、発表する外はない。
も︻
犯しているかもしれない誤解を濯れつつ、引用・批判させて頂いた諸先生方の御寛恕をお願いするとともに、各位の御教示
レ
を賜われば幸いと思う。
淘