第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 第 11∼13 回は、主に sp3 炭素に結合したハロゲン化物イオンが脱離基として働く反 応について学んだ。今回は、周期表で一つ隣にある酸素官能基を sp3 炭素上に持つ化合 物の反応について学ぶ。具体的には、酸素にアルキル基が1つと水素原子が1つ結合し たアルコール、および酸素にアルキル基が2つ結合したエーテルである。 C OH C O C アルコール エーテル アルコール・エーテルの化学を学ぶ前に、命名法について述べておく。アルコールの 命名法では、接尾語「オール ol」をつけて水酸基の位置を表すことはすでに学んだ。こ れに加えて、 「アルキル基の名称と『アルコール』alcohol を並べる」という別の命名法 がある。後者の命名法は、基官能命名法である(第 11 回講義資料2ページ)。これに対 し て 、 す で に 学 ん だ 接 頭 語 ( ヒ ド ロ キ シ )・ 接 尾 語 を 使 う 命 名 法 を 置 換 命 名 法 substitutive nomenclature と呼ぶ。 置換 命名法 CH3CH2OH CH3CHCH3 OH エタノール ethanol 2-プロパノール 2-propanol CH3 CH3 C OH CH3 2-メチル-2-プロパノール 2-methyl-2-propanol 基官能 エチルアルコール イソプロピルアルコール t-ブチルアルコール ethyl alcohol isopropyl alcohol t-butyl alcohol 命名法 注1: 「イソプロパノール」 「t-ブタノール」という名称を使ってはならない。これは置換命名法 によっているように見えるが、「イソプロパン」「t-ブタン」という炭化水素が存在しないため、 誤りである。 最初にアルコールの求核置換反応・脱離反応について、学ぶことにしよう。 1. アルコールの求核置換反応と脱離反応 アルコールの OH 基は、電気的陰性な基であるから、原理的には脱離基として働く ことができるはずである。しかし、–OH は強い塩基であるため、脱離能は弱い。この ため、通常の SN1/SN2 や E1/E2 の条件では、–OH が脱離基として働くことはない。 –1– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 CH3CH2OH CH3 CH3 C OH CH3 Cl– DMSO O CH3COH 反応しない (SN2) 反応しない (SN1) アルコールの OH 基を求核置換反応や脱離反応で脱離基として利用するためには、 OH 基を「脱離能の高い別の脱離基」に変換する必要がある。よく使われる方法がいく つかあるので、順に紹介して行こう。 (1) 酸で OH をプロトン化する –OH は強い塩基である(共役酸の pKa = 15.7)。一方、H2O は弱い塩基である(共役 酸の pKa = –1.7)。このことから、アルコールの OH 基は悪い脱離基だが、これをプロ トン化して H2O の形にすれば、脱離能が高くなる。 H+ CH3CH2 OH CH3CH2 –OH H OH H2O 強塩基=悪い脱離基 弱塩基=良い脱離基 代表的な反応例を二つ挙げる。一つは、アルコールとハロゲン化水素が反応して、ハ ロゲン化アルキルを生成するものである。この反応は、特に三級アルコールについて有 用で、室温で容易に反応が進行する。 CH3 CH3 C OH CH3 H–Cl CH3 H – H O 2 CH3 C O CH3 H + Cl– CH3 CH3 C CH3 Cl– CH3 CH3 C Cl CH3 二級アルコール・一級アルコールでもこの反応は進行するが、加熱が必要である。二 級アルコールの反応が遅いのは、カルボカチオンが生成しづらいためである。一級アル コールはカルボカチオンを生成できないため、SN2 機構で反応が進行するが、求核剤(ハ ロゲン化物イオン)が弱いため反応は遅い。 もう一つは、酸触媒によるアルコールの脱水反応 dehydration である。この反応では、 酸触媒として硫酸を使うことが多い。 –2– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 CH3CH2 OH H–OSO3H H CH3CH2 O CH3CH2 OH H CH3CH2 H O CH2CH3 + H2O CH3CH2 O CH2CH3 ジエチルエーテル この反応は SN2 だが、E2 反応も同時に起きる。 CH3CH2 OH H–OSO3H H H CH2 CH2 O H CH3CH2 OH CH2 CH2 + H2O エチレン + CH3CH2 O H H 注1:高校の化学で、 「エタノールは濃硫酸で脱水されて、130∼140℃でジエチルエーテル、160 ∼170℃でエチレンが生成する」と暗記した人もいるだろう。上に示したのは、その反応の反応 機構である。前回に学んだ通り、温度が高い場合に脱離反応が優先する。 例題:次に示すアルコールを酸触媒で分子内脱水してアルケンを合成したい。反応が速 い順に順位をつけなさい。また、主生成物を予想しなさい。 OH OH OH 考え方:カルボカチオンが生成できる場合は、E1 反応が進行する。三級アルコールの 方が二級アルコールよりもカルボカチオンが生成しやすいため、速く反応する。一級ア ルコールからはカルボカチオンが生成できないため、E2 反応になる。酸性の条件では 強い塩基は存在しない(もし強い塩基が存在すると、酸と反応して「酸性条件」ではな くなってしまう)。したがって、E2 反応はゆっくりとしか進行しない。主生成物となる のは、なるべくアルキル置換基の多いアルケンである。 答:反応性の順位は3、1、2。生成物は順に以下の通りである。 (2) スルホン酸エステルに変える アルコールの OH を良い脱離基に変える二つ目の方法は、スルホン酸エステルに変 –3– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 換することである。まず、反応式を見てみよう。 CH3CH2 OH O Cl S O + CH3 + N 塩化 p-トルエンスルホニル p-toluenesulfonyl chloride O O S O CH3CH2 ピリジン pyridine CH3 + Cl– + N H p-トルエンスルホン酸エチル ethyl p-toluenesulfonate 塩化 p-トルエンスルホニル(「p-」は「パラ」と読む)の S 原子が特別な役割を果た す。普通の S 原子はローンペアがあるため求核性を持つのだが、この化合物の S 原子 は、電気陰性度の高い原子(O と Cl)が3つも結合しているため、強く正に分極して おり、従って求電子性を持っている。そこで、アルコールが求核剤として S 原子を攻撃 し、S–O 結合が新しくできる。 CH3CH2 OH + O Cl S O H O CH3CH2 O S Cl O CH3 CH3 ピリジンは弱塩基として働き、正の形式電荷を持つ酸素から H+を引き抜く。 H O CH3CH2 O S Cl O CH3 O CH3CH2 O S Cl O + N CH3 + N H 最後に Cl–が脱離して、スルホン酸エステルが生成する。 O CH3CH2 O S Cl O CH3 O CH3CH2 O S CH3 O p-トルエンスルホン酸エチル + Cl– (スルホン酸エステル) スルホン酸エステルは、スルホン酸の共役塩基部分が良い脱離基として働く。第 11 回に学んだ通り、塩基性が低い脱離基は脱離能が高い。スルホン酸は強酸であるため、 共役塩基は塩基性が低く、従って良い脱離基となる(第 11 回5ページの例題参照)。 –4– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 CH3CH2 O O S O CH3 + –OCH CH3CH2 OCH3 3 O + O S O CH3 良い脱離基 (弱い塩基) アルコールの OH 基が不斉炭素に結合している場合、求核置換反応の立体化学が問 題になることがある。スルホン酸エステルを経由する SN2 反応の場合、スルホン酸エ ステルが形成される段階では立体配置が反転しないことに注意しよう。これは、C–O 結合が切断されないためである。一方、スルホン酸エステルが求核剤によって置換され る段階では、通常の SN2 と同様に立体配置が反転する。C–O 結合が切断されて、新た に C と求核剤の結合が形成されるためである。 (S) OH O Cl S O CH3 –OCH (S) O S O 立体反転しない (C-Oは切れない) (R) 3 立体反転 (C-Oが切れる) O OCH3 CH3 p-トルエンスルホニル基(上の式の青い部分)は、よく使われるため “Ts” と省略す ることが多い。この記号を使うと、上式は下のように書くことができる。 (S) OH TsCl (S) OTs 立体保持 Ts = O S O –OCH (R) 3 立体反転 OCH3 CH3 (3) PBr3, SOCl2 と反応させる アルコールの OH 基を良い脱離基に変える第三の方法は、リンやイオウのハロゲン 化物と反応させることである。よく使われるのは、PBr3(三臭化リン)と SOCl2(塩 化チオニル)である。 CH3CH2 Br CH3CH2 OH + PBr3 CH3CH2 OH + Cl O S + HO PBr2 O CH3CH2 Cl + HCl + S Cl O –5– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 これらの反応は、前項の塩化 p-トルエンスルホニルの反応とよく似ている。PBr3 の 場合、まず正に分極した P に対して、アルコールが求核剤として反応する。このとき、 Br–がいったん PBr3 から脱離する。 CH3CH2 OH + Br Br P H Br CH3CH2 O P Br + Br– Br – H+ Br CH3CH2 O P Br 次に、「OPBr2」という部分が「よい脱離基」として働き、先ほど脱離した Br–が求 核剤として働いて、SN2 反応が起きる。生成するのは、臭化アルキルである。 Br CH3CH2 Br + + Br– CH3CH2 O P O PBr2 Br 塩化チオニルとの反応も、同様の機構で進行する。 CH3CH2 OH + Cl CH3CH2 O S CH3CH2 Cl O + Cl– O S Cl H O– – H+ O S Cl Cl CH3CH2 Cl + CH3CH2 O– O S Cl Cl O O S Cl PBr3, SOCl2 を用いてアルコールからハロゲン化アルキルを合成する場合、生成した ハロゲン化アルキルはアルコールに対して立体反転していることに注意しよう。これは、 ハロゲン化物イオンが求核剤として背面攻撃しているためである。従って、次に別の求 核剤を使って SN2 反応を行った場合、2回立体反転が起きることになる。 (S) OH (S) OH PBr3 立体反転 SOCl2 立体反転 (R) Br (R) Cl –OCH 3 立体反転 –OCH 3 立体反転 (S) OCH3 (S) OCH3 5ページのスルホン酸エステル経由の反応と、よく比べてみること。 例題:下のアルコールから化合物 A, B を合成する方法を提案しなさい。 –6– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 OH CN CN B A 考え方:アルコールの OH を CN に置き換えるので、いったん良い脱離基に変えてか ら–CN で SN2 反応を行えばよい。A は原料のアルコールと同じ立体配置、B は逆の立 体配置である。原料のアルコールを PBr3 で立体反転した臭化物に変えてから、SN2 反 応を行うと、原料と同じ立体配置の A が得られる。また、アルコールをスルホン酸エ ステルに変えてから、SN2 反応を行うと、原料とは逆の立体配置の B が得られる。 答: PBr3 NaCN OH DMSO Br A TsCl CN NaCN OH DMSO OTs CN B スルホン酸エステルの生成や、PBr3, SOCl2 の反応について、詳細な反応機構を記憶 する必要はない(上の説明で、薄い灰色の背景で示した反応式)。しかし、これらを使 ってアルコールを「活性化」させる方法は、記憶しておくべきである。上記の内容をま とめると、以下のようになる。 【アルコールの活性化法】 活性化法 プロトン化 スルホン酸 エステル PBr3 による 臭素化 SOCl2 による 塩素化 脱離基 R の立体配置 H 2O 保持 TsO– 保持 R–Br Br– 反転 R–Cl Cl– 反転 反応式 R–OH R–OH H+ R–OH2 TsCl, ピリジン R–OH R–OH PBr3 SOCl2 R–OTs 2. エーテルの求核置換反応と脱離反応 エーテルも、アルコールと同様に電気陰性の O 原子を持つ。しかし、アルコキシ基 RO– は強塩基であるため、脱離基としては弱く、求核置換反応や脱離反応を起こすこと は困難である。 –7– 名城大学理工学部応用化学科 有機化学Ⅰ 講義資料 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 CH3CH2OCH3 CH3 CH3 C OCH3 CH3 Cl– 反応しない (SN2) DMSO O CH3COH 反応しない (SN1) 従って、エーテルの場合も、求核置換反応・脱離反応を起こさせるためには、RO– を 「良い脱離基」に変える必要がある。ただし、エーテルは O に結合した H 原子を持た ないため、活性化の方法は限定される。 最もよく用いられるのは、プロトン化による活性化である。O へのプロトン化によっ て、脱離基が ROH 、つまりアルコールとなる。これは中性分子であり、弱塩基なので、 良い脱離基となる。 CH3CH2OCH2CH3 + H+ CH3CH2 H OCH2CH3 CH3CH2OH =弱塩基 =良い脱離基 この性質を利用したエーテルの有用な反応を二つ紹介しておこう。一つは、ハロゲン 化水素によるエーテルの開裂反応である。プロトン化されたエーテルに対して、ハロゲ ン化物イオンが求核剤として働き、ハロゲン化アルキルとアルコールが生成する。 CH3CH2OCH2CH3 + H Br CH3CH2 H OCH2CH3 + Br– CH3CH2 Br ハロゲン化アルキル (置換生成物) + HOCH2CH3 アルコール (脱離基) もう一つの有用な反応は、三級アルキルエーテルを酸処理することで、アルケンを生 成する反応である。この反応は E1 機構で進行する。すなわち、プロトン化されたエー テルからまずアルコールが脱離し、三級カルボカチオンが生成する。そして、このカル ボカチオンからβ水素が H+として引き抜かれることにより、アルケンが生成する。 –8– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 CH3 H CH3 H–OSO3H CH3 C OCH2CH3 CH3 C OCH2CH3 CH3 CH3 CH3 HOCH2CH3 カルボカチオン 三級アルキルエーテル H CH2 C CH3 CH3 CH3 C CH3 + 有機化学Ⅰ 講義資料 HOCH2CH3 CH3 CH2 C CH3 + H HOCH2CH3 アルケン 例題1:テトラヒドロフラン(右図、沸点 66℃)を塩酸と加熱すると、高沸 O 点の物質が生成する。何が起きたか説明しなさい。 考え方:この物質は環状のエーテルである。塩酸が存在すると、O がプロトン化される。 Cl–が求核剤として働き、SN2 反応が進行する。なぜ沸点が高くなるのかも説明する。 答:下のような反応が進行して、4-クロロ-1-ブタノールが生成した。この生成物はテト ラヒドロフランよりも分子量が大きく、かつ OH による水素結合が存在するので、沸点 が高い。 + Cl– + H–Cl O O H HO Cl 4-クロロ-1-ブタノール 例題2:メチルプロピルエーテルを過剰の HI とともに加熱すると、ヨウ化メチルとヨ ウ化プロピルが生成する。理由を説明しなさい。 答:まずエーテル酸素がプロトン化される。次に I–が求核剤として働き、SN2 反応が起 きる。このとき、エーテル酸素の両側のどちらの炭素原子に求核攻撃するかで二通りの 可能性があるが、メチル基の方が立体障害が小さいため、主にメチル基が攻撃を受けて、 ヨウ化メチルとプロピルアルコールが生成する。 CH3CH2CH2 O CH3 + H–I H CH3CH2CH2 O CH3 + I– CH3CH2CH2 O H + CH3–I 過剰の HI が存在するため、生成したプロピルアルコールも SN2 反応を起こし、ヨウ化 プロピル(1-ヨードプロパン)が生成する。 –9– 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 CH3CH2CH2 O H + H–I H CH3CH2CH2 O H + I– CH3CH2CH2 I + H2O 3. エポキシドの求核置換反応 酸素原子を含む三員環を持つエーテルをエポキシド epoxide と呼ぶ。 O H C C H H H O O エチレンオキシド ethylene oxide シクロヘキセンオキシド cyclohexene oxide 2,3-エポキシ-2-メチルブタン 2,3-epoxy-2-methylbutane エポキシドは、三員環に起因する大きな角度ひずみを持っている。このため、通常の エーテルに比べてエネルギーが高い。求核置換反応を受けると、開環して三員環構造が 解消されるため、エネルギーが低くなる。このことから、エポキシドは通常のエーテル よりもはるかに容易に求核置換反応を受ける。エネルギー図で表すと、下のようになる。 エネルギー エポキシド 活性化エネルギーの違い 通常のエーテル 反応座標 プロトン化されたエポキシドは、極めて反応性が高い。ハロゲン化物イオンはもちろ ん、通常のエーテルでは反応しない H2O やアルコールなどの弱い求核剤でも開環が進 行する。 – 10 – 名城大学理工学部応用化学科 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 有機化学Ⅰ 講義資料 O H2C CH2 H+ H O H2C CH2 Br– O H2C CH2 H+ H O H2C CH2 H2O HO H2C CH2 Br HO H2C CH2 OH H HO H2C CH2 OH エポキシドは、プロトン化されていなくても求核攻撃を受けて開環する。この時の脱 離基は塩基性の強いアルコキシドアニオンであるが、エポキシドのエネルギーが高いた め、悪い脱離基のままでも反応が進行できる。 反応完結後に加える O H2C CH2 –OCH 3 O H2C CH2 OCH3 HO H2C CH2 OCH3 H+ ここで、H+は反応が十分に進行した後で加える。最初から加えてしまうと、 OCH3 と反応してメタノールになってしまうため、望んだ通りの反応にならない。このように、 有機反応を実際の合成に活用する場合には、どの物質をどのタイミングで加えるかも重 要である。本講義ではこの点はあまり強調しないが、実際に合成実験を実施する際には 十分に検討していただきたい。 例題:1-ブチンにナトリウムアミド NaNH2 を加え、続いてエチレンオキシドを加えた。 十分に反応した後、薄い塩酸を加え、エーテル抽出で有機物のみを取り出した。生成物 は何か。 考え方:ナトリウムアミドは NH2–として反応する。これは強い塩基で、末端アルキン をアセチリドに変換する。アセチリドは強い求核剤なので、エチレンオキシドと SN2 反応を起こして開環生成物を与える。この生成物は O–を持っているが、最後に加えた 塩酸によってプロトン化されて、中性の生成物を与える。 答: CH3CH2 C C H –NH 2 CH3CH2 C C CH2CH2 O– CH3CH2 C C O H2C CH2 H+(反応完結後) CH3CH2 C C CH2CH2 OH – 11 – 名城大学理工学部応用化学科 有機化学Ⅰ 講義資料 第 14 回「アルコール・エーテル・エポキシドの反応」 4. まとめ ・ アルコールの OH 基は、脱離能が低いため、求核置換反応・脱離反応を起こさせる ためには活性化が必要である。 ・ アルコールの OH 基を強酸でプロトン化すると、H2O が脱離基となり、求核置換反 応および脱離反応が可能となる。これを利用した反応として、ハロゲン化水素による アルコールのハロゲン化、および酸触媒によるアルコールの脱水反応がある。脱水反 応では、置換生成物がエーテルで、脱離生成物がアルケンである。 ・ アルコールをスルホン酸エステルに変換することで、スルホン酸アニオンが脱離基 となり、求核置換反応および脱離反応が可能となる。よく用いられるスルホン酸基は、 p-トルエンスルホニル基であり、Ts と略記される。 ・ アルコールを PBr3 または SOCl2 と処理することで、それぞれ臭化アルキル、塩化ア ルキルに変換することができる。この反応は SN2 であり、アルキル基の立体配置は 反転する。 ・ エーテルの求核置換反応・脱離反応についても、活性化が必要である。最もよく用 いられるのは、プロトン化による活性化で、脱離基はアルコールである。これを利用 した反応として、ハロゲン化水素によるエーテルの開裂、および三級アルコールから 酸触媒によるアルケンの生成がある。 ・ 三員環エーテルであるエポキシドは、大きな角度ひずみを持つため、エーテルとし ては例外的に反応性が高い。酸性条件ではエーテル酸素がプロトン化を受けたあと、 炭素原子が求核攻撃を受けて、開環反応が進行する。また、酸が存在しない場合でも、 強い求核剤によって直接炭素原子が攻撃を受け、開環反応が起きる。 – 12 – 名城大学理工学部応用化学科
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