1 米の新規需要に対する超低コスト生産技術の確立(260KB)

米の新規需要に対する超低コスト生産技術の確立
1 普及に移す技術の内容
(1)背景・目的
米粉パン、飼料等米の新規用途への活用が試行されているが、定着には生産コスト
の大幅な低減が必須である。そこで、多収品種「北陸 193 号」を用い、高能率作業法、
資材費低減技術等を検討し、生産コストを 1/3 に低減する低コスト化技術の確立を目
的とする。
(2)技術の要約
チゼルプラウによる耕起・砕土作業および多収品種‘北陸 193 号’を用いることで、
鉄コーティング湛水直播栽培、移植栽培のいずれについても低コスト栽培が可能にな
る。
2 試験成果の概要
(1)種子は前々年産籾を利用することで通風加熱乾燥による休眠打破を行わず利用でき、
移植栽培はマット強度の点から 20 日苗が実用的である(表1)
。
(2)鉄コーティング湛水直播栽培の施肥法は、総籾数は少ない傾向にあるものの、同等
の収量が得られることから、基肥一発(シグモイドタイプ)または分施方法で、いず
れも窒素成分 10a当たり 10kg 程度とし、それ以上の施肥量による増収効果は見られ
ない(図1)。
(3)移植栽培の栽植密度は坪 40 株の疎植が可能である。移植栽培の施肥法は、コスト低
減や省力化の観点から基肥一発(リニアタイプ)または分施方法で、それぞれ窒素成
分 10a当たり 10kg、13kg がよい(図2)
。
(4)
(1)
、
(2)により‘北陸 193 号’における鉄コーティング湛水直播栽培は、播種時
期が5月下旬~6月上旬、鉄粉衣量は 0.5 倍量、10a当たりで、播種量は乾籾約4kg、
牛糞堆肥を3t施用し、施肥は硫安を用いる分施(0-4-3-3(基肥-播種後 50 日-出穂
20 日前-出穂 10 日前)またはシグモイド 120 日タイプを用い、いずれも窒素を 10kg
施すことが望ましい。
(5)
(1)
、
(3)により‘北陸 193 号’における移植栽培は、20 日苗を用い、栽植株数
は坪 40 株までの疎植が可能で、移植時期は育苗時の低温を避けるため5月中旬~6月
上旬とし、10a当たりで牛糞堆肥を3t施用し、施肥は硫安を用いる分施は窒素で
13kg(7-3-3(基肥-出穂 25 日前-出穂 15 日前)またはリニア 140 日タイプを窒素で
10kg 用いることが望ましい。
(6)チゼルプラウはロータリーに比べて、耕起および砕土の作業速度は速いものの、耕
起時の砕土率が劣り、これにより代掻き速度は遅くなる。しかし、田植速度は同等と
なるため、耕起~田植までの作業時間は 10a当たり約 0.9 時間短くなる(表2)
。
-1-
(7)
‘北陸 193 号’は主食用米に比べて、肥料費が高いものの多収であり、農薬費等が低
減できることで、60kg 当たりの生産費は、主食用米対比で湛水直播が 34%、移植が
31%となる(表3)
。
表1.’北陸193号’における栽植様式による種子量等の相違
栽植様式
種類
乾籾
発芽率
(%)
鉄コー (参考)
ティング 目標苗
乾籾
籾発芽 立本数 (g/箱)
率(%) (本/㎡)
箱数
(箱
/10a)
必要乾
籾量
(kg/
10a)
マット
強度
(g重)
20日苗
-
-
-
150
13.5
2.0
955
10日苗
-
-
-
200
11.3
2.3
140
10年産
97.0
77.0
-
-
3.5
-
鉄コーティング
70
湛水直播(散播)
9年産
90.0
71.5
-
-
3.8
-
注1)調査年次:2011年、調査場所:農業試験場、鳥取市向国安、移植の栽植株数は坪40株
注2)休眠打破は、移植・直播用種子10年産は通風乾燥50℃5日間、直播用種子9年産は無処理
注3)直播種子の苗立ち率は50%として必要乾籾量を算出
移植(坪40株)
70
60
粗玄米重
68.8
総籾数
69.9
70.1
600
539
650
550
450
422
50
総籾数(百粒/㎡)
粗玄米重(kg/a)
80
350
シグモイド10kg
分施10kg
分施19kg
施肥法
図1.’北陸193号’の鉄コーティング直播(散播)における
施肥法による収量の相違
注1)調査年次:2011年、調査場所:農業試験場、播種:散播、6月21日
注2)牛糞堆肥3t/10a、燐酸および加里は無施用、施肥法は以下
シグモイド10kg;120日タイプ、Nkg/10aで10kg 、分施10kg;硫安、Nkg/10aで
0-4-3-3(10kg)(基肥-播種50日後-出穂期20日前-出穂期10日前)、分施19kg;
硫安、Nkg/10aで7-3-3-3-3(19kg)(基肥-分げつ期-幼形期-幼形期の10日後
-出穂期) 施肥はNkg/10aで5-3-2(基肥-穂肥Ⅰ-穂肥Ⅱ)、穂肥Ⅰ:幼穂長1
mm時
注3)全処理無倒伏、図中の垂線は標準偏差(n=2)
-2-
527
450
85.0 85
79.6
400
110
a
100
90
75
70
穂数
101.5
96.7
355
88.3
395
75.4
350
粗玄米重
80
440
77.0
300
粗玄米重(kg/a)
519
81.4
467
500
90
400
94.6
91.7
ab
305
80
登熟歩合(%)
総籾数(百粒/㎡)
550
登熟歩合
286
300
b
252
70
b
b
236
60
穂数(本/㎡)
総籾数
600
200
鉄直播
分施19kg
移植
分施19kg
移植
分施13kg
移植
リニア15kg
移植
リニア10kg
栽植様式
施肥法Nkg/10a
図2.’北陸193号’における栽植様式による収量等の相違
注1)調査年次:2011年、移植:農業試験場、5月28日移植、坪40株、20日苗を使用、
鉄コーティング直播(散播):鳥取市向国安、5月30日播種
注2)牛糞堆肥3t/10a(場内)、4t/10a(現地)を散布し、施肥はNkg/10aで、分施は硫安を施用し、
分施19kg:7-3-3-3-3(基肥-分げつ肥-穂肥Ⅰ-穂肥Ⅱ-出穂期肥)、分施13kg:7-0-3-3-0、
リニアはハイLP800E-80を施用し、いずれもN量でリニア15kg、リニア10kgとした。
注3)図中の垂線は標準偏差(鉄直播n=3、移植n=3)
注4)全処理無倒伏、Scheffeの方法により、異なるアルファベット間には5%の有意差有、未表記には有意差無
表2.耕耘機械による作業精度等の相違
耕耘機械
作業内容
作業幅 作業時間 作業速度 土壌水分 砕土率
(m)
(hr/10a) (m/s)
(%)
(%)
耕起
2.1
0.30
1.14
28.3
砕土
2.1
0.23
1.61
28.7
チゼルプラウ
代掻き
1.9
1.25
0.34
-
田植
-
-
0.34
-
耕起
1.8
0.76
0.44
27.2
砕土
1.8
0.84
0.44
26.7
ロータリー
代掻き
1.9
1.06
0.44
-
田植
-
-
0.33
-
注1)調査年次:2011年、調査場所:農業試験場
注2)代掻きは作業幅1.9mの代掻ハロー、田植機は4条乗用を使用
12.8
18.7
-
-
28.0
10.3
-
-
表3.低コスト栽培技術を導入した場合の生産費の比較
品種
栽植様式
施肥法
収量
労働
時間
種苗費 肥料費 農薬費 その他
費用
合計
労働費
副産物
価額
生産費
計
(kg/10a) (hr/10a)
(円/10a)
湛水直播 分施19kg
883
19.5
1,956 11,620 6,420 38,187 58,182 27,300
0 85,482
北陸193号
移植
分施13kg
1015
20.4
1,554 9,940 5,785 42,777 60,056 28,560
0 88,616
主食用米 移植
慣行
476
32.5
4,307 8,988 9,127 70,283 92,705 45,542 2,753 135,494
注1)収量は’北陸193号’は粗玄米で主食用米は精玄米。
注2)主食用米の収量、労働時間、費用は、農林水産省が実施している平成17年~21年米生産費調査(鳥取県)の平均値。
注3)’北陸193号’の収量、労働時間、費用は、実証試験、「県農業経営指導の手引き」等を参考に試算したもの。
注4)’北陸193号’の作付け規模は10ha以上を想定している。主食用米の作付け規模は0.62haである。
注5)’北陸193号’の肥料費には、堆肥代6,300円を含む。
注6)乾燥調製作業及び費用は除く。
-3-
生産費
計
同左
主食用
米対比
(円/60kg)
5,809
5,238
17,079
(%)
34
31
100
3 普及の対象及び注意事項
(1)普及の対象
県内全域を適応地域とする。日南町(標高 500m)における栽培事例があり、玄米
収量確保等に支障はなかったが、低温寡照年等においては減収・成熟不能等の懸念が
あるため、山間部で日照条件の悪いほ場では注意を要する。
(2)注意事項
1)牛糞堆肥を 10a 当たり3t施用した条件下の、平坦地(農業試験場および現地)に
おける、5月下旬~6月中旬の移植および本田播種の試験結果である。
2)
‘北陸 193 号’の種子の入手は、県西部に許諾生産組織があるが、農業改良普及所、
農業協同組合に相談すること。
3)早い作期の場合は、育苗時の障害や苗立ち率の低下が懸念され、遅い作期の場合は
登熟歩合の低下による低収のおそれがあるので注意を要する。
4 試験担当者
作物研究室 主任研究員 高木瑞記麿
作物研究室 主任研究員 坂本 勝豊※
作物研究室 主任研究員 三谷誠次郎
作物研究室 研究員
中村 広樹
作物研究室 室長
松田 悟
※
現 中部総合事務所農林局副主幹
-4-