IAS19の概要とその動向 日本年金数理人会 第63回研修会 堀田晃裕、青井知幸、柴田伸一 (退職給付会計基準委員会) 2015年2月2日 退職給付会計基準委員会の活動 2 退職給付会計基準委員会 定款第4条(事業) 本会は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。 (2) 退職給付会計に関する業務を行うために必要となる実務基準等の制定及び改廃を行うこと。 委員会規則第2条(常任委員会) 本会に、次の常任委員会をおく。 (11) 退職給付会計基準委員会 委員会規則第13条(退職給付会計基準委員会) 退職給付会計基準委員会は、退職給付会計に関する実務基準の制定ならびに改廃、および関連する事項を所掌する。 平成26年度事業計画書 2.事業計画 (2) 企業年金関連事項に関する提言 ・国内外の年金制度改革の動向、会計基準の改正も踏まえた、年金財政運営方法に関する中長期的な検討や企業 年金制度に関連する事項に関する検討・提言 (4) 実務基準等の改編、整備と周知徹底 ・企業年金関連の法令や会計基準等の改定等に即した、実務基準等の迅速な制定、改編、整備と周知の推進 ・国際的な実務基準等の整備動向の把握および当会の実務基準等のあり方の検討 (6) 調査研究の充実 ・企業年金および関連分野に関する調査研究の実施 (10) 国内外の関係機関への情報発信及び情報交換等 ・関係機関が公表する公開草案に対するコメント提出等を通じた貢献 3 実務基準 退職給付会計に係る実務基準 制定:1999年9月2日 以下7回改定 1999年10月15日、1999年11月10日、2000年11月15日、2002年5月14日、 2003年11月12日、2008年2月27日、2008年12月19日 退職給付会計に関する数理実務基準及び退職給付に関する数理実務ガイダンス 全文改定:2012年12月25日 改定:2013年4月1日 両会の公益社団法人への移行に伴うもの 改定:2014年1月20日(数理実務ガイダンスのみ) IAS19の改定(Defined Benefit Plans: Employee Contributions)に伴うもの 改定:2014年11月25日(数理実務ガイダンスのみ) IAS19の改定(Discount rate: regional market issue)に伴うもの 4 調査報告 国際会計基準(IAS19)の適用に関する海外調査と示唆 2011年3月 オーストラリアにおける国際会計基準(IAS19)の適用に関する調査と示唆 2011年7月 国際会計基準19号(IAS19、被用者給付(Employee Benefits))における死亡率の取扱いに関する国際調査 2012年12月 退職給付会計基準における死亡率に関する検討報告書 2013年4月、修正:2013年7月 5 コメント対応 ASBJ IASB IAS19ディスカッションペーパー (2008/3→2008/9) 2008 2009 論点整理 (2009/1→2009/4) 2010 退職給付に関する会計基準公開草案 (2010/3→2010/5) IAS19公開草案 (2010/4→2010/9) アジェンダコンサルテーション2011 (2011/7→2011/11) 2011 ISAP1公開草案 (2011/7→2011/9) ISAP3趣意書 (2012/7→2012/9) 2012 2013 日本版ESOP公開草案 (2013/7→2013/8) 2014 修正国際基準公開草案 (2014/7→2014/10) 6 IAA IAS19修正公開草案(従業員拠出) (2013/3→2013/7) 概念フレームワークディスカッションペーパー (2013/7→2014/1) ISAP3公開草案 (2013/10→2014/3) ISAP3ファイナルドラフト (2014/9→2014/11) IFRSとIAS19 7 国際会計基準審議会(IASB)と国際会計基準(IFRSs:IASおよびIFRS) 現在、IFRSsは世界の100以上の国・地域で採用されている 国際会計基準審議会(IASB) IFRS財団(IFRS Foundation)内に設けられている、独立民間非営利の基準設定機関(所在地はロンドン) 高品質かつ国際的な“国際会計基準”の開発・設定を行う 審議会メンバーは世界の各地域より16名 国際会計基準(IFRSs:IASおよびIFRS) IAS=International Accounting Standards・・・IASBの前身であったIASC(2001年まで)が設定した会計基準 IFRS=International Financial Reporting Standards・・・IASBが設定した会計基準 原則主義(Principles-Based)の基準となっている ⇒IFRS財団の中には、IASBと別にIFRS解釈指針委員会(IFRS-IC)が設けられており、IASおよびIFRSの適用に関 する疑問等を検討し必要に応じて解釈指針が開発されている IAS1:財務諸表の表示 IAS2:棚卸資産 : IAS19:従業員給付(Employee Benefits) : 8 日本のIFRSへの対応状況 現在、日本国内のIFRS任意適用企業は50社を超える(予定含む) 2007年:「東京合意」・・・コンバージェンスの加速化に向けたASBJとIASBの合意 2008年までの短期コンバージェンス(日本基準とIFRSの重要な差異を解消)の完了 2011年までのコンバージェンス完了を目標 2009年:金融庁 IFRSロードマップ公表 2010年3月期からIFRSの任意適用を認める 2015年~2016年からの強制適用可否判断を2012年に 2011年:金融担当大臣 声明 2015年3月期の強制適用はない 仮に強制適用するとしても5~7年程度の充分な準備期間が必要 2012年:金融庁「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」 2013年:金融庁「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」 IFRSの強制適用の是非等については未だ判断すべき状況にない 国内企業のIFRS任意適用促進のため、任意適用要件を緩和(「上場企業」「国際的な事業」の要件を撤廃) 「我が国に適したIFRS」の観点からIFRSのエンドースメントに取り組む 2013年:自民党「国際会計基準への対応についての提言」 2016年末までに任意適用300社程度を目指す 2014年:ASBJ 修正国際基準(JMIS)草案を公表 2014年:金融庁 企業会計審議会内に「会計部会」を発足・・・IFRS任意適用の拡大促進を図る 9 米国のIFRSへの対応状況 現在、米国では国内企業についてのIFRS適用は認められていないが、米国内で上場している米国外企業では500社程 度がIFRSを適用 2002年:「ノーウォーク合意」・・・コンバージェンスに向けたIASBとFASBの合意 2008年:IFRS適用に向けたロードマップ公表 2014年からの強制適用可否判断を2011年に 2010年:IFRS適用に対する方向性を再認識する声明およびワークプランを公表 2011年:IFRS強制適用可否判断を延期 2012年:SEC ワークプランで支持されたファイナル・スタッフ・レポートを公表 IFRSを取り込むか否かの方針決定に関する内容は含まれず 10 2008年ディスカッション・ペーパーと改訂IAS19(2011) 2008年:ディスカッション・ペーパー「IAS19 Employee Benefitsの改訂に関する予備的見解」 背景:遅延認識や複数の選択肢の存在による、利用者の誤解の可能性や比較可能性への懸念 ディスカッション・ペーパーの内容(主なもの) 退職給付制度の分類方法を変更 ⇒拠出ベース約定(contribution-based promise)と給付建て約定(defined benefit promise)に ・給付建て約定に分類されるものは最終給与比例制度のみ(?) ・拠出ベース約定の債務は公正価値(Fair Value)で評価し、再測定の差異をP/Lで即時認識 給付建て約定の遅延認識に関する予備的見解 ・制度資産/退職給付債務の変動のすべてをB/Sで即時認識、過去勤務費用をP/Lで即時認識 等 給付建て約定の表示アプローチ ・P/Lへの表示とOCIへの表示の区分方法について3つのアプローチ案 2011年:改訂IAS19 ディスカッション・ペーパーの内容のうち、退職給付制度の分類方法以外の多くの内容が反映された形 (当期・過去とも)勤務費用・利息をP/Lで、再測定の差異はOCIで即時認識しノンリサイクル(コリドーアプローチ等 によるP/Lでの遅延認識の廃止) 制度改訂による過去勤務費用の即時認識(制度改訂と縮小の会計処理の統一) 期待運用収益の概念を廃止、制度資産と退職給付債務の差額(Net)に割引率を乗じる方法に 退職給付債務の算定における、将来死亡率改善の反映 11 IAS19の概要 12 従業員給付と退職後給付 従業員給付の定義 制度の分類に関連した定義 IAS19.8(一部) IAS19.8(一部) 従業員給付とは、従業員が提供した勤務と交換に、又は雇用の 終了と交換に企業が与えるあらゆる形態の対価をいう。 退職後給付制度とは、企業が従業員に対し退職後給付を支給す る正式又は非公式の取決めをいう。 短期従業員給付とは、従業員が関連する勤務を提供した年次報 告期間の末日後12か月以内にすべてが決済されると予想される 従業員給付(解雇給付を除く)をいう。 確定拠出制度とは、退職後給付制度のうち、企業が一定の掛金 を別個の事業体(基金)に支払い、たとえ基金が従業員の当期及 び過去の期間の勤務に関連するすべての従業員給付を支払うた めに十分な資産を保有しない場合でも、企業がさらに掛金を支払 うべき法的債務又は推定的債務を有しないものをいう。 退職後給付とは、雇用関係の完了後に支払われる従業員給付 (解雇給付及び短期従業員給付を除く)をいう。 その他の長期従業員給付とは、短期従業員給付、退職後給付及 び解雇給付以外のすべての従業員給付をいう。 解雇給付とは、次のいずれかの結果として従業員の雇用の終了 と交換に支給される従業員給付をいう。 (a) 通常の退職日前に従業員の雇用を終了するという企業の決 定 (b) 雇用の終了と交換に給付の申し出を受け入れるという従業員 の決定 13 確定給付制度とは、確定拠出制度以外の退職後給付制度をいう。 複数事業主制度とは、次のような確定拠出制度(公的制度を除く) 又は確定給付制度(公的制度を除く)をいう。 (a) 共通支配下にない複数の企業による拠出資産をプールし、か つ (b) 当該資産を複数の企業の従業員に給付するために使用し、掛 金及び給付水準が、当該従業員を雇用する企業を識別するこ となく決定されるもの 確定給付制度-財政状態計算書 財政状態計算書 IAS19.63 企業は、確定給付負債(資産)の純額を財政状態計算書に認識 しなければならない。 IAS19.64 確定給付制度が積立超過である場合には、企業は、確定給付 資産の純額を次のいずれか低い方で測定しなければならない。 (a) 当該確定給付制度の積立超過 (b) 資産上限額(第83項で定める割引率により算定) IAS19.8(一部) 確定給付負債(資産)の純額とは、積立不足又は積立超過に、確 定給付資産の純額を資産上限額に制限することによる影響を調 整したものをいう。 積立不足又は積立超過とは、次の(a)から(b)を控除したものをい う。 (a) 確定給付制度債務の現在価値 (b) 制度資産の公正価値(もしあれば) 資産上限額とは、制度からの返還又は制度への将来掛金の減額 の形で利用可能な経済的便益の現在価値をいう。 確定給付制度債務の現在価値とは、当期及び過去の期間の従業 員の勤務により生じる債務を決済するために必要な将来の予想 支払額の現在価値(制度資産控除前)をいう。 14 (各項目の関係) 積立不足の場合 積立超過の場合 資産上限額 の影響 資産上限額 の影響 確定給付負債 の純額 積立不足 積立超過 確定給付資産 の純額 確定給付 制度債務の 現在価値 制度資産の 公正価値 15 制度資産の 公正価値 確定給付 制度債務の 現在価値 確定給付制度-確定給付費用の内訳 確定給付費用の内訳 IAS19.120 企業は、確定給付費用の内訳を次のようにして認識しなければ ならない。ただし、他のIFRSが資産の原価に含めることを要求又 は許容している場合を除く。 (a) 勤務費用(第66項から第112項参照)を純損益に (b) 確定給付負債(資産)の純額に係る利息純額(第123項から第 126項参照)を純損益に (c) 確定給付負債(資産)の純額の再測定(第127項から第130項 参照)をその他の包括利益に IAS19.8(一部) IAS19.122 その他の包括利益に認識した、確定給付負債(資産)の純額の 再測定は、その後の期間において純損益に振り替えてはならない。 しかし、企業は、その他の包括利益に認識した金額を資本の中で 振り替えることができる。 確定給付負債(資産)の純額に係る利息純額とは、時の経過によ り生じる当期中の確定給付負債(資産)の純額の変動をいう。 IAS19.123 確定給付負債(資産)の純額に係る利息純額は、確定給付負債 (資産)の純額に、第83項に定める割引率を乗じて算定しなけれ ばならない。両者とも年次報告期間の開始日時点で算定し、拠出 及び給付支払による確定給付負債(資産)の純額の期中の変動 を考慮に入れる。 16 勤務費用は、次のものからなる。 (a) 当期勤務費用(当期中の従業員の勤務により生じる確定給付 制度債務の現在価値の増加) (b) 過去勤務費用(制度改訂(確定給付制度の導入若しくは廃止 又は変更)又は縮小(企業が制度の対象となる従業員数を大 幅に削減すること)により生じる、過去の期間の従業員の勤務 に係る確定給付制度債務の現在価値の変動) (c) 清算損益 確定給付負債(資産)の純額の再測定は、次のものからなる。 (a) 数理計算上の差異 (b) 制度資産に係る収益(確定給付負債(資産)の純額に係る利 息純額に含まれる金額を除く) (c) 資産上限額の影響の変動(確定給付負債(資産)の純額に係 る利息純額に含まれる金額を除く) 数理計算上の差異とは、次のものから生じる確定給付制度債務 の現在価値の変動をいう。 (a) 実績による修正(事前の数理計算上の仮定と実際の結果との 差異の影響) (b) 数理計算上の仮定の変更の影響 (各項目の関係) 確定給付費用の内訳 <発生源> 確定給付制度債務の 現在価値 勤務費用 制度資産の 公正価値 資産上限額の 影響 当期勤務費用 過去勤務費用 清算損益 純損益 利息純額 再測定 17 確定給付制度債務に 係る利息費用 制度資産に係る利息 収益 資産上限額の影響 に係る利息 数理計算上の差異 制度資産に係る収益 (上記を除く) 資産上限額の影響 の変動 (上記を除く) その他の 包括利益 数理実務基準・ガイダンスとIAS19 18 退職給付会計に関する数理実務基準 本実務基準は、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」という。)から公表されている「退職給付に関する会計基準」、及び、「退職給付に関す る会計基準の適用指針」(以下、併せて「退職給付会計基準」という。)に沿って、企業等(以下、「依頼者」という。)からの依頼により、退職給 付会計に関する債務及び費用の計算、助言、並びに、それらに関連する業務(以下、「本専門業務」という。)を行う場合に、公益社団法人日 本年金数理人会(以下、「年金数理人会」という。)の会員、又は、公益社団法人日本アクチュアリー会(以下、「アクチュアリー会」という。)の 会員が遵守するべきものである。 本実務基準が前提とする退職給付会計基準は次の通り。 退職給付に関する会計基準 平成24年5月17日公表 退職給付に関する会計基準の適用指針 平成24年5月17日公表 4. 専門能力 会員は、本専門業務を依頼されたときは、自己の能力及び経験その他に照らして、それを引き受ける専門能力を有していると判断した場合 でなければその業務を行ってはならない。この専門能力には、最新の退職給付会計基準、それに関連する会計基準の理解、及び、年金数理 人会とアクチュアリー会が合同で公表する「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」の理解が含まれる。 (注)退職給付会計基準が国際会計基準(IAS)第19号(Employee Benefits)(以下、「IAS19」という。)とのコンバージェンスを意図したものと なっていることから、会員は、本専門業務を行うにあたって、IAS19、及び、それに関連する会計基準の理解が望まれる。 19 退職給付会計に関する数理実務ガイダンス 本ガイダンスは、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」という。)から公表されている「退職給付に関する会計基準」(以下、「会計基準」とい う。)、及び、「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」という。)に沿って、退職給付会計に関する債務及び費用の計算、 助言、並びに、それらに関連する業務(以下、「本専門業務」という。)を行う場合に、参考になる数理的な実務を説明する教育的資料である。 本ガイダンスの理解は、「退職給付会計に関する数理実務基準」において、公益社団法人日本年金数理人会の会員、又は、公益社団法人 日本アクチュアリー会の会員が、本専門業務を行うにあたって有するべき専門能力に含まれるとされている。 本ガイダンスが前提とする会計基準、及び、適用指針は次のとおり。 退職給付に関する会計基準 平成24年5月17日公表 退職給付に関する会計基準の適用指針 平成24年5月17日公表 会計基準、又は、適用指針が改正され、当該改正を織り込むための本ガイダンスの改定が行われるまでの間に、当該改正に沿って本専門 業務を行う場合においては、当該改正による本ガイダンスへの影響を考慮するべきである。関連するその他の会計基準や法令通知などが改 正された場合についても、同様である。 会計基準及び適用指針は、国際会計基準(IAS)第19号(Employee Benefits)(以下、「IAS19」という。)とのコンバージェンスを意図したも のとなっているが、両者の間には違いがある。本ガイダンスは、本専門業務の理解の助け、又は、対比としてIAS19に言及する場合があるが、 IAS19に関して参考になる実務を説明する意図をもって作成したものではない。 本ガイダンスが参照するIAS19は、2014年9月に公表されたAnnual Improvements to IFRSs 2012-2014 Cycleによる改定(Discount rate: regional market issue)までを含む。 20 退職給付会計に関する数理実務ガイダンス 目次 第1節 退職給付 1.1 対象となる退職給付 1.2 退職給付債務の対象となる制度 第2節 個人データ 2.1 個人データのチェック 第3節 計算基礎 3.1 計算基礎の分類 3.2 割引率 3.2.1 イールドカーブ 3.2.2 割引率の設定 3.3 給付改定の予想 3.4 予想昇給率 3.5 ポイント制における予想ポイントとポイント単価の予想 3.6 キャッシュ・バランス・プランの予想再評価率 3.7 退職率 3.8 死亡率 3.9 一時金選択率 3.10 複数の退職給付制度を採用している場合の計算基礎 3.11 連合型の年金基金等に加入している場合の計算基礎 第4節 計算基礎 4.1 割引率の変更に関する重要性 4.1.1 割引率に関する退職給付債務の変動率の推定 4.2 割引率以外の計算基礎の変更に関する重要性 21 第5節 退職給付債務 5.1 退職給付債務 5.2 退職給付見込額の期間帰属 5.2.1 期間定額基準 5.2.2 給付算定式基準 5.3 勤務費用 5.4 利息費用 第6節 近似、省略など 6.1 合理的な近似及び省略 6.2 データ等の基準日 6.2.1 データ等の基準日から期末までの期間の調整 6.2.2 割引率等に関する合理的な補正 第7節 その他 7.1 平均残存勤務期間 7.2 過去勤務費用 7.3 複数事業主制度における個別企業の退職給付債務等 7.4 厚生年金基金の代行部分 計算基礎の分類 第3節 計算基礎 3.1 計算基礎の分類 IAS19では、数理的な仮定は、偏りがなく、相互に整合的でなけ ればならない、とされ、退職給付の提供に関する最終的な費用を 決定する変数の、企業の最良の見積りである、とされている。また、 数理的な仮定は、financial assumptionsと demographic assumptionsに分類され(予想昇給は financial assumptions に 属するものとされるが、インフレーション、年功(seniority)、昇進 (promotion)、労働市場における需給等を考慮に入れるものとさ れている)、financial assumptions は、給付が支払われる見込み の全体にわたる期間を対象として、期末における市場の期待に基 づかなければならない、とされている。 IAS19.75 数理計算上の仮定は、偏りがなく、かつ、互いに矛盾しないもの でなければならない。 IAS19.76(一部) 数理計算上の仮定は、退職後給付を支給する最終的なコストを 算定する変数についての、企業の最善の見積りである。数理計算 上の仮定は、次のものから構成される。 (a) 受給資格のある現在及び以前の従業員(及びその被扶養者) の将来の特徴に関する人口統計上の仮定。人口統計上の仮 定は、次のような事項を扱う。 (i) 死亡率(第81項及び第82項参照) (ii) 従業員の離職、身体障害及び早期退職の比率 (iv) 制度の規約で利用可能な支払形態の選択肢のそれぞれを 選択する制度加入者の比率 (b) 財務上の仮定。ここでは次のような事項を扱う。 (i) 割引率(第83項から第86項参照) (ii) 給付水準(従業員が負担する給付費用を除く)及び将来の 給与(第87項から第95項参照) IAS19.80 財務上の仮定は、債務を決済する全体の期間についての、報 告期間の末日時点における市場の予測に基づかなければならな い。 22 割引率 第3節 計算基礎 3.2 割引率 適用指針第93項(結論の背景)では、「時期や金額が異なる支払 から構成される退職給付債務をより適切に割り引くべきと考えた ことや、国際的な会計基準における考え方との整合性を図るため に、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映した割引率を使用 することとした。」とされている。 IAS19.83(2014年9月改訂) 退職後給付債務(積立てをするものとしないものの双方とも)の 割引に使用する率は、報告期間の末日時点の優良社債の市場 利回りを参照して決定しなければならない。そのような債券につい て厚みのある市場が存在しない通貨については、当該通貨建の 国債の(報告期間の末日における)市場利回りを使用しなければ ならない。社債又は国債の通貨及び期日は、退職後給付債務の 通貨及び見積期日と整合しなければならない。 適用指針第93項で言及されている「国際的な会計基準における 考え方」として、IAS19では、割引率は、期末における優良社債の イールド(yields)を参照することとされ、このような優良社債に関 して厚みのある市場がない通貨については、当該通貨建の政府 債の市場イールドを用いる旨が示されている。 IAS19.85 割引率には、給付支払の見積時期を反映させる。実務上、企業 はしばしば、給付支払の見積時期及び金額並びに給付を支払う べき通貨を反映した単一の加重平均割引率を適用することによっ て、これを達成する。 参照する債券の種類については、次の各項が参考になる。 第4節 計算基礎の変更に関する重要性 4.1 割引率の変更に関する重要性 IAS19には、重要性の判断に関する数値的な基準は示されてい ない。 23 死亡率 第3節 計算基礎 3.8 死亡率 IAS19では、将来の死亡率の変化の見込みを織り込むことが記 載されている。 IAS19.81 企業は、死亡率の仮定を、雇用中及び退職後における制度加 入者の死亡率の最善の見積りを参照して決定しなければならな い。 IAS19.82 給付の最終的なコストを見積るために、企業は、例えば、死亡率 の改善の見積りで標準死亡率表を修正することにより、死亡率の 予想される変動を考慮に入れる。 24 給付算定式基準 第5節 退職給付債務 5.2.2 給付算定式基準 給付算定式基準を用いる場合、留意するべき点として、例えば、 以下のような点がある。 ①期間帰属させた給付に基づく計算 給付算定式基準では、上記の引用のように、給付算定式に従って 各勤務期間に帰属させた給付に基づくこととされており、また、給 付算定式に基づく退職給付の支払に条件が付されているときで あっても、当期までの勤務に対応する債務を認識するために、当 該給付を各期に期間帰属させる旨などが規定されている。これら の規定は、IAS19と同様に「給付(benefit)」の概念を基にしたもの である。 ②著しい後加重 著しい後加重の場合にあたるかどうかの判断基準に関しては、適 用指針第75項(結論の背景)では、「給付算定式に従う給付が著 しく後加重であるときには、当該後加重である部分の給付につい ては均等に期間帰属させる必要がある。しかし、国際的な会計基 準では、給付算定式に従う給付が著しく後加重といえるのはどの ような場合であるかなどについては具体的に定めていない。審議 の過程では、これらについて、より具体的な考え方を本適用指針 の中で示すべきかが検討されたものの、そのような考え方を特定 することにより、かえって国際的な会計基準との整合性が図れな いおそれがあると考えられたことから、これを示さないこととし た。」とされている。 25 IAS19.67 企業は、予測単位積増方式を用いて、その確定給付制度債務 の現在価値及び関連する当期勤務費用並びに過去勤務費用(該 当がある場合)を算定しなければならない。 IAS19.70 確定給付制度債務の現在価値及び関連する当期勤務費用(並 びに該当する場合には過去勤務費用)を算定するにあたり、企業 は、制度の給付算定式に基づいて勤務期間に給付を帰属させな ければならない。しかし、後期の年度における従業員の勤務が、 初期の年度より著しく高い水準の給付を生じさせる場合には、企 業は、給付を定額法により次の期間に帰属させなければならない。 (a) 従業員による勤務が、制度の下での給付を最初に生じさせた 日(当該給付が将来の勤務を条件としているかどうかにかかわ らず)から、 (b) 従業員によるそれ以降の勤務が、それ以降の昇給を除けば、 制度の下での重要な追加の給付を生じさせなくなる日まで。 IAS19.72 (一部) 給付が将来の雇用を条件としている(言い換えれば、給付が権 利確定していない)場合であっても、従業員の勤務は確定給付制 度に基づく債務を発生させる。その後の各報告期間の末日にお いて、従業員が給付の権利を得るために将来の勤務を提供しな ければならない量は減少するので、権利確定日前の従業員の勤 務は推定的債務を生じさせる。確定給付制度債務を測定するに あたり、企業は、ある従業員が権利確定のための要件を満たさな い確率を考慮に入れる。 給付算定式基準 第5節 退職給付債務 5.2.2 給付算定式基準 ⑥給付額が、複数の給付制度の合計として規定される制度 IAS19には、このような給付設計に関する記述はない。 ⑦ポイント制 ポイント制は日本の独自性が強い給付設計であると考えられるが、 IAS19に関して、これまでの検討経緯では各国の具体的な制度に 踏み込んだ議論は十分行われておらず、したがって、IASBにおけ る議論は日本のポイント制を直接取り扱ったものではないことに 留意する。 ⑧キャッシュ・バランス・プラン IAS19は、累積型の給付算定式を念頭においたものになっておら ず、このような制度における適用方法が不明瞭であることから、適 用指針第76項で紹介されているような議論がある。 2008年3月にIASBから公表された論点整理(Discussion Paper) では、IAS19を改正して、キャッシュ・バランス・プランを含む累積 型の給付算定式について、contribution-based promisesというカ テゴリを新たに設け、これに属するものについては、退職給付債 務を公正価値で評価することが論点として示されたが、その後、 検討は中断している。 26 また、2010年3月にIASBから公表された公開草案(Exposure Draft)では、給与の累積をもとに給付を規定する制度の場合にお いて、著しく後加重であるかどうかの判断に将来の昇給を考慮す るべきかどうかが不明瞭であることから、これを明確にする案が 示された。 すなわち、このような制度は平均給与に勤続期間を乗じたものを もとに給付を規定する制度と経済的に同一であることを踏まえ、 IASBとしては、経済的に同一な制度は、制度の規定方法にかか わらず退職給付債務は同様となるべきであるとの考えから、給与 の累積をもとに給付を規定する制度の場合には、将来の給与の 上昇を著しい後加重の判断要素とすることを明記する案が示され た。 しかし、このような制度については、その設計の意図から、将来の 昇給を織り込むべきではないという反対意見もあり、また、 contribution-based promises に関する抜本的な見直しとの関係 が強いと考えられることから、2011年6月に公表された比較的大 きな基準の改定では取扱わないこととされ、その後も改定されて いない。 給付算定式基準 第5節 退職給付債務 5.3 勤務費用 IAS19では、被用者、又は、第三者(例えば、政府)による拠出の 取扱いについて、それが自由裁量による場合には、当該拠出の 支払いによって勤務費用を減じるとし、それ以外の場合には、例 えば、勤務に関連するものの場合には、掛金について給付の期 間配分の定めに従った期間配分を行うこととされるが、拠出の額 が勤務の年数に対して独立の場合には、当該拠出によって勤務 費用を減じる取扱いが認められること等が記載されている。 IAS19.93(2013年11月改訂) 制度の正式な規約に示されている従業員又は第三者からの拠 出は、勤務費用の減額(勤務に連動している場合)となるか、又は 確定給付負債(資産)の純額の再測定に影響を与える(勤務に連 動していない場合)。勤務に連動していない拠出の一例は、制度 資産に係る損失又は数理計算上の差損から生じた積立不足を削 減するために拠出が要求される場合である。従業員又は第三者 からの拠出が勤務に連動している場合には、当該拠出は勤務費 用を次のように減額する。 (a) 拠出の金額が勤務年数に応じて決まる場合には、企業は当 該拠出を総額の給付について第70項で要求しているのと同じ 帰属方法を用いて(すなわち、制度の拠出算定式を用いるか 又は定額ベースのいずれかで)各勤務期間に帰属させなけれ ばならない。 (b) 拠出の金額が勤務年数とは独立である場合には、企業はこう した拠出を、関連する勤務が提供される期間の勤務費用の減 額として認識することが認められる。勤務年数とは独立である 拠出の例としては、従業員の給与の固定割合であるもの、勤 務期間を通じて固定金額であるもの、あるいは従業員の年齢 に応じて決まるものなどがある。 A1項は、関連する適用指針を示している。 27 IAS19の動向 28 改訂IAS19(2011)公表後の動向 IASBは2012/12にアジェンダコンサルテーション2011のフィードバック・ステートメントを公表 2011 Work Plan 作 業 プ ロ グ ラ ム ( ) 2012 2013 2014 2015 アジェンダ コンサルテーション2011 ▲ 2011/7 意見募集のため の文書を公表 2016 アジェンダ コンサルテーション2015 ▲ 2012/12 フェードバック・ステー トメント*を公表 ▲ 2015年に意見募 集のための文書 を公表予定 「優先的調査研究プロ ジェクト」(現在は「短期・ 中期のプロジェクト」) IAS19に関連するもの として「割引率」を識別 「より長期の調査研究プ ロジェクト」 IAS19に関連するもの として「退職後給付(第 2フェーズ)」を識別 * フィードバック・ステートメントでは、今後3年間で優先する調査 研究プロジェクト(優先的調査研究プロジェクト)、調査はするも ののその性質と複雑性のためIASBが論点整理又は調査研究 文書の公表を今後3年以内に予定しないプロジェクト(より長期 の調査研究プロジェクト)等の作業プログラムを示している IASB/IFRS-ICにおける議論 個 別 の ト ピ ッ ク ス 29 改訂IAS19(2011)公表後~ 2014/12までに9つのトピック について議論 うち2つ:改訂基準公表 うち2つ:検討中 従業員 拠出の 会計処 理 割引率: 地域市 場におけ る論点 ▲ 2013/11 改訂基準公表 ▲ 2014/9 年次改善 2012- 2014 年サイクルの 中で改訂基準公表 (参照) IFRS Web Site: http://www.ifrs.org/Pages/default .aspx Work Plan for IFRSs IASB Update IFRIC Update Meetings diary 作業プログラム(Work Plan) アジェンダコンサルテーション2011のフィードバック・ステートメントで、退職後給付(第2フェーズ)が「より長期の調査研究 プロジェクト」として識別されている 概要(フィードバック・ステートメントの記載内容) 割引率 退職後給付 (第2フェーズ) 「優先的調査研究プロジェクト」(現在は「短期・中期のプロジェク ト」に分類)として識別 IAS19に限らず、多くの基準が、将来キャッシュ・フローの見積り のために使用しなければならない割引率を特定又は参照してい る。様々な基準で、個々の基準の目的に応じて、異なる割引率 を特定している この調査研究プロジェクトでは、IFRS における割引率の要求事 項を調査し、これらの相違がなぜ存在するのかを説明し、IASB が対処すべき不整合があるのかどうかを評価する 2014/6のIASBでプロジェクトの進め方 を議論 2014/9のASAF*会議で議論 2015Q1にIASBで議論の予定 「より長期の調査研究プロジェクト」として識別 IASBは、IAS19「従業員給付」の改訂(2011)を完了した際に、 年金及び関連する給付のより根本的な見直しの一環として検討 を要する事項があることを示唆している 当初、次回のアジェンダコンサルテー ション2015後まで準備作業は行われな い予定であった IFRS-ICにおける「拠出ベース約定」に 関する議論および提言を受けて、 2014/9のIASBでプロジェクトの計画を 検討 2014/12のASAF会議で議論 2015Q1-Q2にIASBで議論の予定 * ASAF: the Accounting Standards Advisory Forum 30 進捗状況 退職後給付(第2フェーズ) 「拠出ベース約定」に関する調査研究プロジェクトを開始することを決定。2015年にリサーチ・ペーパーを公表する予定 背景 IASBは、2011年にIAS19を改 訂した際、年金及び関連する 給付についてより抜本的な見 直しの一部として検討すべき 問題があることを指摘した。こ れらの問題は、拠出ベース約 定(給付が拠出に加えて約定 リターンに依存する退職後給 付の約定)に関連する論点を 含んだ広範なものである アジェンダコンサルテーション 2011の結果、IASBは当プロ ジェクトの複雑性を踏まえ、当 プロジェクトを長期プロジェクト として識別した IFRS-ICは、拠出ベース約定 を含む制度の会計処理を明ら かにする解決策の開発を試み たが、最終的には2014/5にプ ロジェクトをアジェンダから削 除することを決定 31 2014/9 IASBでの暫定決定 IASBは、退職後給付の会計 処理をレビューする調査研究 プロジェクトの計画を検討 このレビューは広範囲となり、 純粋なDCから純粋なDBまで の範囲の制度について、報告 企業の観点から、健全な財務 報告を提供するモデルの開発 に焦点を当てる DCとDBの両方の特徴を組み 込んだ混合的な制度設計の幅 が拡大しつつある こうした制度は、IAS19を開発 した際には想定されていな かったものであり、IAS19に とって問題となりつつある 拠出ベース約定に関連する論 点、検討課題 DBO:将来キャッシュフローに 関連するリスクの価値を適切 に反映しない 拠出ベース約定:制度資産に 対する投資リスクを実質的に は企業は負担しない⇒現在の 会計処理では反映されず、過 度な積み立て不足を表示して いる場合がある キャッシュ・バランス・プラン 債券利回りを基礎とするも の⇒大きな問題は生じてい ない 株式指標を基礎とするもの ⇒重要な問題が生じている 現行の測定方法について免除 規定を設定⇔恣意的な境界 概念フレームワークにおける 負債の定義及び認識規準⇔ 権利が未確定の給付、将来の 昇給の上昇を義務に反映する 現行の要求事項 リサーチ・ペーパー ディスカッション・ペーパーの公 表については未決定。現時点 では2015年にリサーチ・ペー パーを公表する予定 リサーチ・ペーパーでは、次の 事項について検討を行うことを 予定 (1) 年金制度について、純粋 な確定拠出型から純粋な 確定給付型まで様々な形 態があることを前提として、 概念的に健全で堅牢な測 定モデルは何かについて 議論する (2) 当該測定モデルのコスト 及び便益を評価するため、 年金制度の動向に関する 情報を提供する 個別のトピックス IASB及びIFRS-ICで議論されたIAS19に関するトピックスは以下の9つ (2014/12末時点) No 議題 1 拠出ベース約定の会計処 理-2011年改訂の影響 2 拠出ベース約定の会計処 理 3 従業員拠出の会計処理 最新の状況 アジェンダに追加 しないことを決定 アジェンダに追加 しないことを決定 改訂基準公表 5月 2012年 7月 9月 △ △ △ 4 割引率:優良社債の定義 5 6 7 8 9 アジェンダに追加 しないことを決定 割引率:税引前・税引後 アジェンダに追加 しないことを決定 割引率:地域市場における 改訂基準公表 論点 制度改訂又は縮小時の再 検討中 測定 独立した受託者が管理する 検討中 確定給付制度からの返還 の利用可能性( IFRIC14) 確定給付制度において保有 アジェンダに追加 する長寿スワップは、制度 しないことを[暫定 資産の一部として公正価値 的に]決定 で測定すべきか、適格保険 契約として他の基礎で測定 すべきか 1月 2月 3月 △ △ △ △ △ ○ ○ △ △ ○ △ 5月 2013年 7月 9月 △ △ △ 10月 11月 12月 1月 5月 △ △ △ △ △ ○ ○ △ 2014年 6月 7月 9月 ○ ☆ 11月 ☆ △ ○ △ △ ○ ○ △ ○ △ △ △ △ △ △ △ △ 32 11月 IFRS-ICで議論 ○ IASBで議論 ☆ 改訂基準の公表 個別のトピックス 「改訂基準公表」のトピックス 33 No.3 従業員拠出の会計処理 従業員拠出の取扱いについて、一定の要件に該当する場合、実務上の「便法」の使用が許容される 概要 検討状況 改訂基準 の内容 従業員及び第三者(以下「従業員等」)の確定給付制度への拠出 に係る会計処理の明確化および一定の要件に該当する場合の 実務上の「便法」の使用を許容するもの 2013/11に改訂基準公表 2014/7/1以後に開始する事業年度から適用(IAS8に従い過去に 遡及して適用)、早期適用も可能 勤務費用の減額 従業員等の拠出が勤務に連動している場合、以下のとおり勤務 費用を減額する ① 従業員等の拠出が勤務年数により決まっている場合:当該拠 出を負の給付として勤務期間に帰属 ② 従業員等の拠出が勤務年数と独立である場合(例:給与× (勤務期間を通じて、又は、年齢により決まる)一定率):当該 拠出に関連する勤務が提供された期間の勤務費用の減額と して認識することを許容 負の給付の期間帰属 上記①の場合、従業員等の拠出は負の給付として「制度の拠出 計算式」又は「定額法」のいずれかを用いて勤務期間に帰属 【従業員等拠出の取扱いに係る概念図】 従業員又は第三者への拠出 制度の正式な規約に示されている(又は当 該規約を超えた推定的債務から生じている) 勤務に連動 勤務年数に 応じて決定 勤務年数と は独立 裁量的 勤務に連動 していない (例えば、積 立不足を削 減) (1) 各勤務期間 に帰属させ ることにより 勤務費用を 減額 (第93項(a)) 関連する勤 務が提供さ れた期間の 勤務費用を 減額 (第93項(b)) 再評価に影 響 (第93項) 制度への支 払時に勤務 費用を減額 (第92項) (1) この点線の矢印は、企業がいずれかの会計処理の選 択を認められていることを意味している。 34 No.6 割引率:地域市場における論点 優良社債についての市場の厚みは「国」レベルではなく「通貨」レベルで評価するべきであることを明確化 概要 検討状況 優良社債について厚みのある市場が存在するかどうかの評価を、国レベルではなく、通 貨圏レベルに改訂するもの 2014/9に年次改善 2012-2014 年サイクルの中で改訂基準公表 2016/1/1以後に開始する事業年度から適用(IAS8に従い過去に遡及して適用) 早期適用も可能 退職後給付債務についての割引率を見積るために用いる優良社債は、当該負債と同じ 通貨建のものであるべき旨を明確化 優良社債についての市場の厚みは通貨レベルで評価すべきであることを明確化 改訂基準 の内容 35 改訂前IAS19.83 割引率は優良社債の市場利回り を参照して決定しなければならな いとしているが、そのような債券 について厚みのある市場が存在 しない「国」では、国債の市場利 回りを使用しなければならないと している 個別のトピックス 「検討中」のトピックス 36 No.7 制度改訂又は縮小時の再測定 制度改訂又は縮小が発生した後の期間における費用についてIAS19を修正する方向で検討 概要 検討状況 制度改訂又は縮小の場合における確定給付負債(資産)の純額の再測定(以下「再測 定」)に関する論点について、IAS19に従った会計処理の明確化を検討 2014/5、2014/7のIFRS-ICで議論、その改善案をIASBの年次改善に提案予定 (2014/11のIFRS-ICで提案の範囲を再確認) 今後は、IASBで議論される予定 制度改訂又は縮小における論点 検討 ポイント 37 論点1 事象発生後の期間に係る利息純額を算定する際に、そ の事象発生日現在の再測定を考慮に入れるべきか 考慮する方 向で検討 論点2 事象発生後の期間に係る勤務費用及び利息純額の計 算について更新後の数理計算上の仮定を使用すべきか 更新する方 向で検討 IFRS-ICの考え方 上記の論点1および論点2の方向性は、いずれもIAS19を修正する必要があるが、こ れは、目的適合性が高まった情報を生み出すことになり、また、IAS19とIAS34「期中 財務報告」のB9との間の整合性が高まることになる 改善案は期中における再測定の頻度に影響を与えない。再測定の頻度は、 IAS19.58及び99、IAS34.B9のような既存のガイダンスに従う IAS19が著しい市場変動が生じている場合に再測定を要求しているかどうかは IFRS-ICの検討の対象外とした(再測定する場合には、事象発生後の期間に係る当 期勤務費用および利息純額は更新後の仮定を使用すべきことを再確認) IAS19.BC64 年金制度に重大な事象又は変更 が発生するとしても、企業は事象 発生後の期間に勤務費用及び利 息純額の計算に対する仮定を更 新すべきでないことを示唆 IAS34.B9 企業は期中報告期間の年金コス トを、重要な市場変動及び重要な 一時的な事象(制度改訂、縮小 及び清算など)に関して修正する IAS19.58 確定給付負債(資産)の純額を、 十分な定期性をもって算定しなけ ればならない IAS19.99 過去勤務費用又は清算損益を算 定する前に、確定給付負債(資 産)の純額を、制度資産の現在 の公正価値及び現在の数理計 算上の仮定を用いて再測定しな ければならない No.8 独立した受託者が管理する確定給付制度からの返還の利用可能性 (IFRIC14) 特定のケースにおいて資産の認識が厳しくなる方向で議論が展開 概要 独立した受託者(トラスティー)が管理する確定給付制度からの返還の利用可能性に関 して、IFRIC14の要求事項の適用の明確化を検討 検討状況 2014/5、2014/7、2014/9のIFRS-ICで議論、その改善案を今後のIASB会議に提示予 定 検討 ポイント 以下の状況において、事業主が積立超過の返還に対する無条件の権利を有している のかどうかについて議論を展開。また議論した質問は、将来給付の発生に対してクロー ズドで将来の勤務費用がない制度に関するもの(i.e. 将来掛金の減額を通じて利用可 能な経済的便益はない) 受託者が、制度の加入者のために行動しており、事業主から独立している 受託者が、制度に積立超過が生じている場合に、当該積立超過を、加入者に支払わ れる給付の増額又は年金保険の購入による制度の清算(あるいはその両方)によっ て使用する裁量を有している 受託者が、報告日現在でこうしたパワーを行使していない IFRS-ICの考え方 IFRS-ICは次のことを明確にするためIFRIC14の修正を提案すべきだと考えた 返還の金額に、第三者(例えば、制度の受託者)が他の目的に使用する一方的な権 利を有する金額を含めるべきでない 受託者が年金約定を変更せずに年金保険を購入するか又は他の投資の意思決定 を行う一方的なパワーは、投資の意思決定を行うパワーである 第三者が制度の終了を一方的に決定できる場合、徐々の清算を前提とした積立超 過の返還に対する無条件の権利を有していない 制度改訂又は清算が受託者の決定によって生じる場合、 (i) 清算又は過去勤務費用に係る利得又は損失⇒純損益で認識 (ii) 資産上限額を再評価し、資産上限額の修正をその他の包括利益に認識 38 個別のトピックス 「アジェンダに追加しないことを決定」のトピックス 39 No.1 拠出ベース約定の会計処理-2011年改訂の影響 2011年のIAS19の改訂が拠出ベース約定の会計処理に影響を及ぼすのかどうかを検討 概要 2011年のIAS19の改訂(例えば、確定給付制度債務に関するリスク分担の特徴の取扱 いを明確にした修正等)が、拠出ベース約定の会計処理に影響を及ぼすのかどうかを 検討 検討状況 IFRS-ICはこの論点をアジェンダに取り上げないことを決定 しかし、拠出ベース約定の処理を扱う提案に向けての作業を進めた(次ページのアジェ ンダで検討を実施) 検討 ポイント 40 IFRS-ICのアジェンダ決定(2012/9) 2011年のIAS19の改訂が、リスク分担の特徴の取扱いを明確化したことに留意 IASBは、この改訂において、拠出ベース約定に固有な要素を取り扱う意図がなかっ たことに留意 したがって、IFRS-ICは、当該約定が従業員と事業主との間のリスク分担契約の要 素も含んでいる場合を除いて、2011年改訂により拠出ベース約定の会計処理の変 更は生じないと予想 IASBが、改訂IAS19.BC148で、拠出ベース約定及び類似する約定の測定に関する 懸念への対処は、2011年の修正の範囲を超えるものであると表明したことに留意 No.2 拠出ベース約定の会計処理 拠出ベース約定の会計処理に関する議論が再燃 概要 拠出又は想定拠出に対するリターンを保証している従業員給付制度に関する会計処理 を検討 検討状況 (この論点を進展させる際に直面した困難のため)IFRS-ICはこのアジェンダをプロジェ クトから削除することを決定 検討 ポイント 41 議論の背景 IASBが当面、拠出ベース約定の会計処理を扱わないという決定や、そのような年金 契約の会計処理に関する継続的な懸念を踏まえて、2002年から2006年にかけて検 討された解釈指針案D9「拠出金又は名目的拠出金に係る約束された収益を有する 従業員給付制度」の公表時に行った作業をIFRS-ICで再検討 主な論点 ①対象とする従業員給付制度の範囲 論点整理における拠出ベース約定と比べ狭い範囲に限定(該当する制度の例:毎 年の給与の一定割合とその利息による累積で給付額が規定される制度で、利回 りが例えば特定の株価指数に連動するようなもの) ②従業員給付制度の測定方法 割引率:IAS19が求める利率(通常、優良社債の利回り)と給付を定める利回りと の差の取扱い 高い方の選択権の測定:オプション価値の測定方法 IFRS-ICのアジェンダ決定(2014/5) これらの制度の使用が拡大しているため、この論点の重要さに留意 IFRS-ICは、退職後給付に関するIASBの調査研究プロジェクトに関する進展を歓迎 No.4 割引率:優良社債の定義 金融危機により割引率決定に関する実務が多様化 概要 退職後給付債務の割引に使用する率に関する追加ガイダンス(優良社債の定義)の公 表に関する検討 検討状況 (範囲が広すぎて、効率的な方法で対処することはできないと考えたことから)IFRS-IC はこの論点をアジェンダに追加しないことを決定 検討 ポイント 42 主な論点 IAS19で割引率を決定する際に参照する「優良社債」の「優良」とは、「絶対的な基 準」又は「相対的な基準」か? 議論の背景 Ÿ 一般的な過去の実務によると、上場会社の社債が、認められている格付機関が付与 する最上位2段階の格付け(例えば、「AAA」と「AA」)のいずれかを受けている場合 には通常、優良社債と考えられてきた 金融危機により、「AAA」又は「AA」の社債の数が、著しく減少 IFRS-ICのアジェンダ決定(2013/11) IAS19.83は「優良(high quality)」という用語を使用⇒絶対的な信用度を反映するも のであり、社債の所与の母集団についての相対的な信用度の概念(例えば、「最優 良(the highest quality)」という用語を使用した場合であれば、これに当てはまる)で はないことに留意 優良の概念は一定期間にわたり変化すべきではない No.5 割引率:税引前・税引後 特定の法域で割引率を税引前又は税引後とするかの議論が浮上 概要 検討状況 検討 ポイント 43 確定給付制度債務の計算に関するガイダンス、特に、IAS19に従って確定給付制度債 務の計算に使用する割引率は、税引前又は税引後の率のいずれとすべきなのかを検 討 (確定給付制度債務の計算に使用する割引率は税引前とすべきであると考え)IFRS-IC はこの論点をアジェンダに追加しないことを決定 要望提出者の法域における税制 企業は、制度に対して行う拠出金について損金算入を受ける 制度は、受け取った拠出金及び稼得した投資収益に係る税金を支払う。しかし、 Ÿ 制度は、支払った給付について損金算入を受けない IFRS-ICのアジェンダ決定(2013/7) IFRS-ICは以下より確定給付制度債務の計算に使用する割引率は税引前とすべきであ ると考えたŸ IAS19.76(b)(iv):確定給付制度債務の測定の文脈の中で、支払うべき拠出金及び給 付に係る税金のみに言及 IAS19.130:制度資産に係る収益を算定する際に、企業は、制度資産の運営管理に 係る費用及び制度自体による未払税金(確定給付制度債務の測定に使用された数 理計算上の仮定に含まれている税金を除く)を減額する IAS19.BC130:当該債務の測定は、制度が実際に保有する制度資産の測定とは独 立したものとすべき No.9 確定給付制度において保有する長寿スワップは、制度資産の一部として公正 価値で測定すべきか、適格保険契約として他の基礎で測定すべきか 長寿スワップの測定について明確化を検討 概要 企業の確定給付年金制度において保有されている長寿スワップの測定について明確化 を検討 2014/11のIFRS-ICで議論した結果、アジェンダに追加しないことを[暫定的に]決定 検討状況 検討 ポイント 44 長寿スワップの測定に関する論点 要望提出者は、企業が次のどちらにすべきかについて質問を提起 (a) 長寿スワップを単一の金融商品として会計処理し、IAS19.8及び113並びにIFRS13 「公正価値測定」に従って、制度資産の一部としてその公正価値を測定する(公正 価値の変動はその他の包括利益に計上する) (b) 長寿スワップを2つの構成要素に分離し、その構成要素の一方について、 IAS19.115を適用して、適格な保険証券についての他の測定の基礎を使用する IFRS-ICの考え方 アウトリーチでは、長寿スワップの使用が一般に広がっているという証拠は示されな かった こうした取引が生じている場合に、最も一般的な実務は、長寿スワップを単一の商品 として会計処理し、IAS19.8及び113並びにIFRS13を適用して制度資産の一部として 公正価値で測定することであると理解している この分析に基づき、IAS19の適用に不統一が生じるとは予想しない 「長寿スワップ」とは? 年金制度の加入者が予想よりも 長生きする(又は早期に死亡す る)リスクを移転(年金制度から 外部、通常、保険会社又は銀行 にリスクを移転)する取引 年金制度が長寿スワップを契約 した場合、固定額を支払い、変 動額を受け取る。これらの金額 は純額で清算される 欧州、特にイギリスを中心にこ のような取引きが見られる
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