- 1 - Ⅰ.体外受精技術(In vitro fertilization, IVF) 1.生殖細胞の形成 1

発生工学(2014)
Ⅰ.体外受精技術(In vitro fertilization, IVF)
1.生殖細胞の形成
1-1.精子形成
精子は、精細管の管壁側に存在する精原細胞から、精母細胞、精子細胞と管腔に向かって分化しながら形成され
る 。 「 精 子 形 成 ( Spermatogenesis ) 」 は 、 精 原 細 胞 か ら 円 形 精 子 細 胞 に 至 る 細 胞 分 裂 を 伴 う 「 精 子 発 生
(Spermatocytogenesis)」と円形精子細胞から精子の形態が作られる「精子完成(Spermiogenesis)」の 2 つの過
程から構成される。
1-2.卵子形成
卵子のもととなる卵原細胞の形成は、出生前後に終了し、減数分裂を開始して一次卵母細胞となり、休止する。性
成熟に達すると卵胞が発育してグラーフ卵胞となり、卵子の周囲には卵丘が形成されて、卵丘細胞が膨化する。これ
に合わせて、卵子は減数分裂を再開し、第二減数分裂中期まで達する。
1-3.排卵
卵胞の膨張に伴い、卵胞表面にスチグマ(卵胞破裂孔)が形成される。成熟を完了した卵子は、スチグマから卵胞
が破裂する際に、卵胞駅とともに放出される。卵母細胞(排卵卵子)は、卵管采によって取り込まれ、卵管へ運ばれ
る。
2.受精過程
2-1.精子と卵子の接近
(1) 精子の受精部位への移動
子宮収縮により、卵管へ運ばれる。かなり多数の精子が卵管に移動するのは、射精後 30 分~1時間前後。
(2) 卵子の受精部位への移動
家畜:卵巣表面を卵管采が覆い、排卵された卵子は、上皮線毛により卵管に取り込まれる。
齧歯類:卵巣嚢が発達し、液に浮遊した卵子は、上皮線毛が起こす流れに乗って運ばれる。
・卵子の成熟
第二減数分裂中期
卵丘細胞(顆粒膜細胞)層の膨化
①排卵卵子を卵管が受け止めやすくする
②受精部位で、精子が卵子を認識しやすくする。
③卵子に到達した精子の先体反応に寄与する。
(3) 精子の受精能獲得(Capacitation)
精子が受精可能となる生理的変化
精漿由来の精子被覆抗原の除去
精子膜コレステロールの除去
超活性化運動(Hyperactivation)の出現
(4) 卵子の受精能
排卵後数時間から低下し、20時間以内に
失われる。
卵子および精子の受精能
卵子の受精能
動物種
保有時間
(排卵後)
18~20時間
ウシ
4~20
ウマ
8~12
ブタ
12~15
ヒツジ
約48時間
イヌ
6~8
ウサギ
20
モルモット
12
ラット
6~15
マウス
精子の受精能
獲得時間
(雌性生殖器内)
3~4時間
3~5
1.5
7
5~6
4~6
2~3
1~2
精子の受精能
保有時間
(雌性生殖器内)
24~48時間
72~120
24~48
24~48
約5日
20~32
22
14
6~12
最新家畜臨床繁殖学(1998、山内)より改変
2-2.受精の過程
(1) 先体反応(Acrosome Reaction) 精子細胞膜と先体外膜が部分的に融合して胞状化する現象。先体反応により、
先体内の酵素が放出される。
(2) 精子の透明帯通過
先体から放出される酵素により透明帯を溶かしながら、前進運動により透明帯を通過する。
(3) 精子と卵子の融合
囲卵腔に侵入した精子は、直ちに卵子細胞膜表面に接着し、膜融合により精子が卵子細胞
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質中に取り込まれる。
(4) 卵子の活性化
精子と融合すると、その刺激を受けて、第二減数分裂中期で停止していた卵子の成熟分裂が再
開する。
(5) 表層粒の開裂
精子との融合が始まると、卵子細胞膜直下に存在する表層粒が卵子細胞膜との膜融合により開
裂し、内容物が囲卵腔に放出される。表層粒成分により多精拒否機構が働く。
(6) 精子核の膨化
(7) 前核形成
(8) 前核の融合
精子核は卵細胞室内に取り込まれると核膜が分解し、内容物が膨潤する。
膨潤した精子核と、減数分裂を再開した卵子核は、それぞれ雄性前核と雌性前核に発達する。
雌雄両前核は、卵子の中央に移動し、核膜が消失して、染色体が混ざり合い、第一分裂の前期に
進む。
2-3.胚の発生
(1)
受精卵は、卵割を繰り返しながら卵管から子宮へと移動する。卵割が進むにつれて細胞数が増加し、ある
程度の細胞数になると、細胞間が密に接着するコンパクションを起こし桑実胚となる。次に、胞胚腔が形成
され胚盤胞となる。
(2) 胚盤胞になると、胎子になる内部細胞塊と胎盤になる栄養膜細胞に分化する。さらに内胚葉と中胚葉への
分化が起こる。胚盤胞は、拡張胚盤胞となり、透明帯から脱出して、子宮に着床する。
(3) 着床様式は、中心着床(一般の家畜)、偏心着床(齧歯類、ウサギ)、壁内着床(霊長類、モグラ)の3種があ
り、偏心着床や壁内着床をする種
では、胚盤胞の着床部位(定位)は、
一般に対間膜側である。
(4) 着床後の胚は、原腸形成、神経管
形成を経て大切が形成され、個体
の形態へと成長してゆく。
(5) 卵黄嚢上皮に出現した始原生殖細
胞 は、中腎 に隣 接して形 成 される
生殖隆起へと移動し、原始生殖巣
に集まって、生殖細胞へと分化す
る。
3.培養の基礎
3-1. 実験用の水
(1) 水道水中の不純物
培養環境を一定にするためには、何らかの手法を用いて、不純物を除去する必要がある。
無機物:無機塩、溶存ガス、重金属 など (特に、カルシウム、マグネシウムは影響が大きい)
有機物:環境ホルモン、メタン、洗剤 など
微粒子:鉄さび など
微生物:細菌類、藻類 など
(2) 水の種類
1. 水道水:品質は様々
2. 純水:精製されているが、純度は様々。
①イオン交換水(Deionized water):イオン交換樹脂を通して水中の無機イオンを除去する。安価で簡便だが、
不純物除去に限界があり、有機物は除去できない。採水量が増えるとイオンの除去能力が低下し、水質
が安定しない。微生物汚染を受けやすい。
②蒸留水(Distilled water, DW):不純物除去には有効。無機イオンも有機物もある程度除去できるが、沸点
の低い不純物は除去しにくい。精製速度が遅く、水質劣化の可能性もある。
③逆浸透水(Reverse osmotic water, RO water):逆浸透膜を通すことで不純物を 90%以上除去する。精製
後の水の水質が原水の水質の影響を受けるので、イオン交換を併用することも多い。
3. 超純水(Ultrapure water):純水をさらに精製したもの
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①再蒸留水(Double distilled water, DDW):蒸留水を再度蒸留したもの。精製されているが、作成に時間を
要す。1980 年代までは、培養用として主流。
②ミリ Q 水(Milli Q water):純水を半透膜などを通してさらに精製したもの。省エネで運用できるため、現在の
主流。ミリポア社が開発した採水装置が普及したため、この名で呼ばれている。
3-2.培地の分類
(1) 形態からの分類
1.固体培地 Solid medium
必要な栄養素等を含む成分を固形化したもの。コラーゲンゲル培地、寒天培地など。微生物での利用が主となる
が、接着性をもつ細胞や初期胚の包埋培養などにも用いられる。
2.液体培地 Liquid medium
「培養液」とも言う。種々の成分を超純水に溶かした培地。最も一般的に用いられる。
3.粉末培地 Powder medium
市販培地の販売形態の一つで、液体培地を凍結乾燥したもの。超純水に溶かし、液体培地として使用する。液
体培地に比べて、購入後の有効期間が長い。
(2) 構成成分の数からの分類
1.単純(組成)培地 Simple medium
無機塩と必要最小限のエネルギー源、抗生物質のみを含む培地
2.複合培地 Complex medium
単純組成培地にアミノ酸、ビタミンなど多様な成分を添加した培地
(3) 構成成分の明確さからの分類
1.完全合成培地 Chemically defined medium
精製された化学成分のみから調製することができる培地。組成が明確なので、培養条件が安定しており、再現性
が得やすい。市販の試薬の中には、完全に精製することが難しい物質(血中成分やホルモンなど)もあるので、これ
らを使用すると、完全合成培地とは言えなくなるので注意が必要。
2.半合成培地 Semi-defined medium
完全合成培地で不足する成分を補うため、血清や血清からの粗精製成分などを添加したもの。
3.天然培地 Natural medium
組織抽出液、血清など生体成分を主とする古典的な培地。生体内に近い環境を作ることができるが、詳細な組
成がわからないという欠点がある。
(4) 血清添加の有無からの分類
1.血清添加培地 Serum-supplemented medium
血清成分が添加された合成培地
2.無血清培地 Serum-free medium
血清成分を含まない合成培地。アルブミンなど完全に精製が困難な物質を含む場合もあり、完全合成培地では
ないこともある。
3-3.培地の基礎
(1) 培地の基礎となる塩類溶液
培地を開発する上で重要な、最も単純な等張緩衝液としては、以
下の4種が有名である。
・タイロード(Tyrode) 液 (1910)
・クレブス・リンゲル重炭酸緩衝液 (1932)
Krebs-Ringer Bicarbonate Solution (KRB)
・アール平衡塩類溶液 (1943)
Earle's Balanced Salt Solution (EBSS)
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平衡塩類溶液
Tyrode
NaCl
136.89
KCl
2.26
CaCl2
1.80
KH2PO4
0.36
NaH2PO4
Na2HPO4
MgCl2
0.49
MgSO4
11.90
NaHCO3
Glucose
5.56
浸透圧
315.25
mOsm
KRB
118.46
4.75
2.54
1.18
Earle
116.36
5.36
1.80
(mM)
Hanks
136.89
5.36
1.26
0.44
1.04
1.18
24.88
5.56
0.80
26.19
5.56
0.33
0.49
0.40
4.17
5.56
314.08
310.46
305.52
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・ハンクス平衡塩類溶液 (1949)
Hanks Balanced Salt Solution (HBSS)
この他に、ダルベッコリン酸緩衝液(PBS)などが有名である。
(2) 培地開発の考え方
1.等張液から始めて、成分の構成、濃度を変化させ、培養成績の最もよいものを検索していく。
→ 複数成分による複合効果の検討
SOM (Simplex Optimized Medium)、KSOM (Potassium SOM)
2.卵子や胚が存在する場所の生体液(卵胞液、卵管液、子宮液など)の成分を解析し、模倣する。
→ 微量成分までの解析情報はない
HTF (Human Tubal Fluid)、SOF (Synthetic Oviductal Fluid)
(3) 培地の構成
無機塩
- 等張液
エネルギー源
ピルビン酸 卵子形成期から1細胞期までは、必須の要素。その後も、取り込みは低下しない。
乳酸
2細胞期以降の胚で利用可能
グルコース 8細胞以降の胚で利用可能。ピルビン酸に対しての取り込み量は、増加する。
保護物質
高分子の成分が利用される。
ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)など
抗生物質
ペニシリンG カリウム、硫酸ストレプトマイシンなど
(4) 浸透圧
オスモル (Osmole) - 一定量の溶液の中で自由に動く粒子のモル数。
容量オスモル濃度 - 1リットルの溶液中の溶質のオスモル数
Osm(オスモル) mOsm(ミリオスモル)
※生体液の浸透圧は、280 ~300mOsm
※正確な測定は、浸透圧計を使用するが、理論値を計算して判断することもできる。
浸透圧(理論値)の計算法
1.
電解質の場合
個々の物質の濃度に解離したイオン数をかけたもの。硫酸基、リン酸基などは、まとめて1つのイオン数と
して数えるが、水素イオンは数えない。
2.
非電解質の場合
3.
上記をすべて合計する。
個々の物質の濃度に1をかけたもの。
(例)NaCl 130mM 、KH2PO4 30mM、グルコース 5mMの溶液
浸透圧=130×2+30×2+ 5×1=325 mOsm
3-4.培養環境
(1) 温度
原則的に、動物の体温に近い温度に設定する。実験動物では37℃、家畜では39℃が一般的。
(2) 気相
培養装置内の気体成分のこと。5 %CO2 含有空気が最もよく用いられるが、生体内の酸素分圧(約8 %)に合わせ
て、5 %CO2 、5 %O2 、90 %N2 の混合ガスも使用されることが多い。
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4.体外での卵子発育・成熟と体外受精
4.1.用語
卵子、初期胚を中心にみた作業過程の分類
・体外発育(In vitro growth, IVG)
小さな卵母細胞をフルサイズまで成長させる。
・体外成熟(In vitro maturation, IVM) 第一減数分裂前期の卵母細胞を第二減数分裂中期まで成熟させる。
・体外受精(In vitro fertilization, IVF)
受精能獲得した精子で、卵子を受精させる。
・体外培養(In vitro culture, IVC)
受精卵を移植可能なステージまで培養する。
それぞれを、連続表記する(例:IVM/IVF/IVC)のが一般的だが、一連の過程をまとめて IVGMFC といっ
た表記も使用される。また、総称として、体外胚生産(IVP)という表現も使われている。
4-2.体外受精の意義と問題点
意義
①経済価値の高い動物の有効利用
経腟採卵(OPU)法による反復採卵
②屠体卵巣の有効利用と低コストな胚生産
③不妊治療(生殖補助医療)
④研究手段 -核移植・遺伝子導入等
⑤希少動物保護・遺伝子資源保存
問題点
①移植胚の死滅・発生率の低さ
②過大子(ウシ・ヒツジ)
③倫理的側面
-
生命の人為的支配、
余剰胚問題(ヒト)など
4-3.体外発育
原始卵胞内にある発育開始前の卵母細胞や、第一次卵胞以降の発育途上の卵母細胞を、体外培養下で発育させ
ることを、体外発育(IVG)と呼ぶ。一部の動物種では発育途上の卵母細胞の体外発育に成功しているが、原始卵
胞の培養は、まだ研究段階である。
(1) 体外発育の方法
①
器官培養法
器官培養用ディッシュや培養用インサートを用い、卵巣を丸ごと培養
する。大きな卵巣には不向き。
②
卵母細胞-顆粒膜細胞複合体培養法
③
卵胞の組織培養法
④
ゲル包埋培養法
⑤
開放型培養法
単離した卵胞を、培養液の中で培養する。
原始卵胞の数
ウシ
ブタ
ヒツジ
アカゲザル
イエネコ
イヌ
モルモット
マウス
アナウサギ
210000
420000
105450
100000
74520
150380
29200
4270
75120
Gosden&Telfer(1987) J.Zool. 211,169より改変
コラーゲンゲルやアルギン酸ゲルに卵胞や卵母細胞-顆粒膜細胞複合体を包埋して培養する。
コラーゲンコートした培養プレート内で、卵母細胞-顆粒膜細胞複合体を培養する。
(2)
培地
基礎培地は、血清を添加した組織培養用の複合培地(TCM199、Waymouth など)が用いられている。ウシの
開放型培養系では、PVP の添加が良好な結果をもたらしている。また、エストラジオールなど、種々の添加剤が
用いられている。
4-4.成熟培養 (IVM:In vitro maturation)
(1) 核の成熟
卵巣から採取される未成熟卵母細胞は、第1 減数分裂前期で停止している。体外で成熟培養を行うことに
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発生工学(2014)
より、減数分裂が再開し、第2減数分裂中期まですすむ。卵子の成熟の確認は、囲卵腔の形成、第1極体の放
出により行う。標本を作製すると、第2 減数分裂中期像が確認できる。
(2) 細胞質の成熟
細胞質の成熟が不十分であると、受精後の表層反応が不十分で多精子受精となったり、受精精子の雄性前
核形成が生じなかったり、様々な異常が生じる。細胞質の成熟は、還元型グルタチオン(GSH) 量の増加や卵
成熟促進因子( Maturation Promoting Factor : MPF) 活性の増大により確認できるが、顕微鏡下の観察での判
定は難しい。
【細胞質の成熟のための添加物】
エネルギー源(グルコースなど)
、アミノ酸(システインなど)、性腺刺激ホルモン(FSH,LH )
血清蛋白質(BSA )、卵胞液などの生体液、還元型グルタチオン(GSH)、成長因子(EGF など)
(3) 卵丘細胞の膨化
卵子が成熟を始めると、卵子-卵丘細胞間のギャップ結合が閉鎖し、ヒアルロン酸の分泌が起こって、卵丘
細胞層の膨化が生じる。極体放出と合わせて、卵子の成熟過程が進行していることを確認する指標となる。卵
子-卵丘細胞間の結合が閉鎖すると、卵丘細胞から卵細胞質への減数分裂再開抑制因子(cAMP など)の移動
が途絶するため、減数分裂が再開し、核の成熟を促す。
4-5.
過剰排卵処置と採卵
家畜の卵子は、一般に、屠畜場に出荷された個体の卵巣(食用にされない)から、未成熟な卵胞内卵子を採取
し、体外で成熟培養したのち、体外受精に用いる。
一方、実験動物では、摘出した卵巣から未成熟卵を取り出して成熟培養することもあるが、過剰排卵処置をし
た個体から排卵卵子を採取した方が容易であるため、ホルモン投与して多数の卵子を排卵させ、卵管膨大部から
採取する。 マウスでは、PMSG
5~7.5 単位を腹腔内投与 し、40~48 時間後に hCG
5~7.5 単位を腹腔内投
与して過剰排卵を誘起する。マウスは、hCG 投与後 12 時間ごろから排卵するため、卵子が卵管膨大部に移動す
る時期(hCG 投与後 14~17 時間)に屠殺、開腹して、卵管を摘出し卵子を採卵する。
4-6. 精子の前培養
受精能獲得を誘起するための培養。体外受精と同様の培地を用
いるが、家畜では、誘起物質としてイオノフォアやカフェインを
添加することもある。受精能獲得は、精子自体には明瞭な形態的
変化がないので、超活性化運動の出現で受精能獲得を判断する。
4-7.
媒精
-
体外受精(In vitro fertilization, IVF)
前培養が終了し、受精能を獲得した精子を成熟卵子が入ったマイクロドロップに添加して、受精させる。卵子と
精子を一緒にする作業を媒精という。
5.初期胚の培養(IVC:In vitro culture)
5-1.胚発生の停止
哺乳動物胚の体外培養では、純系のマウスをはじめ、初期発生の過程(特に、ゲノム活性化時期)で胚発生が
停止する現象がみられる。これらの停止を回避するため、実験動物では EDTA などのキレート剤を添加する。ま
た、ウシでは体細胞との共培養を行う。
【発生停止時期】 マウス・ラット・ハムスター:2細胞期
ウシ:
8~16細胞期
ブタ:4細胞期
【発生停止をもたらす因子】
ハムスター:リン酸・グルコース
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ラット
:リン酸
ウシ
:グルコース
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5-2.発生培養用培地の開発
(1) 1970 年代後半から 1980 年代
組織培養用培地にエネルギー源と蛋白源を添加したものを用いたが、いくつかの問題点があり、最適な培養条
件とはいえなかった。
→
体外での発育遅延、発生停止、代謝抑制、生存性低下
(2) 1980 年代末から 1990 年代初め
複合培地を用い、体細胞との共培養を利用する方法が用いられた。得られる胚は形態的に良好であり、卵割率、
胚盤胞形成率もたかく、妊娠率も上昇した。しかし、組織培養の最適条件が、胚培養の最適条件であるかという
問題は、現在も結論が出ていない。
(3) 1990 年代から現在
培養環境に含まれる未知の成分の影響を除去するため、完全合成培地や半合成培地への移行が進められている。
5-3.共培養系
(1) 代表的な共培養用細胞
(Feeder 細胞)
初代培養細胞:卵管上皮細胞、卵丘細胞、顆粒層細胞、子宮上皮細胞など
株化細胞
:BRL (Buffalo Rat Liver) cell など
(2) Feeder 細胞の機能
①胚刺激因子 (Embryotrophic factor) の培地中への放出
②培地成分中や胚由来の阻害因子、毒性因子の除去
③胚ゲノムの活性化や正常な胚発生に必須の成長因子を放出して、胚の発生停止を克服させる
④活性酸素の毒性から胚を守る
(3) Feeder 細胞用培地
TCM199、MenezoB2、Ham’s F10 など。これらに、蛋白源として血清や BSA、エネルギー源としてグル
コース、ピルビン酸、乳酸などを添加する。
(4) 条件付け培地
Feeder 細胞を一定期間培養した培地中には、細胞より放出された様々な有効成分が含まれている。この培
地のみを利用して、胚を培養しようというもの。細胞との直接接触による影響がない。
5-4.無血清培地へ
(1) 血清の悪影響
蛋白源として添加される血清は、コンパクションの阻害、胚の死細胞数増加、内細胞塊の核凝縮増加といった
初期発生中の異常に加え、胎子発育にも影響を与え、過大子(特にヒツジ)、妊娠期間の延長、難産や新生子死の
増加といった以上が認められる。また、ウィルスやマイコプラズマなどを持ち込む可能性が高いこと、成分が一
定でないため、結果の再現性に問題があること、なども指摘されている。
血清に代わって使用される市販の血清アルブミン(BSA)も、完全な精製品ではないので、製品のロット間に差
がある。したがって、体外受精や初期胚培養には、BSA 添加培地が多用されるが、これは、半合成培地であり、
結果の再現性についての問題は、解決されていない。
(2) 半合成培地
基礎培地:SOF、CR1aa、CR2、CZB、KSOM、BECM、P1、G1、G2 など
添加物:必須・非必須アミノ酸
成長因子
-
-
初期発生に重要
胚盤胞への発生を助ける
グルタチオン、SOD、タウリン -
活性酸素の除去
システアミン、β-メルカプトエタノール
EDTA -
-
胚発生の増強、細胞内グルタチオンの増加
活性酸素抑制、キレート作用による金属イオン除去
コエンザイム Q10 -
抗酸化剤
(3) 完全合成培地の利点
①体外胚生産(IVP)システムの標準化を可能にする
②研究室間でのばらつきが少なくなる
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③動物由来成分を除外することで、病原体の侵入を防止できる
④胚発生に必要な物質を正確に研究することができる
5-5.Sequential culture media
胚発生中の栄養要求性は、コンパクション前は、グルコースを全く利用せず、ピルビン酸、乳酸、アミノ酸を
エネルギー源とするが、コンパクション後は、グルコースを利用するようになる。また、グルコースは初期の胚
発生に悪影響を与えるという報告もある。この問題を解決するため、初期胚培養の前半と後半で成分の異なる培
養液を用いる 2 液性の培地が開発されており、マウスやヒトで利用されている。
市販されている主なヒト用培地
メーカー
◎Sequential media
CooperSurgical Inc
Irvine Scientific
MediCult
Vitrolife
Cook
In Vitro Care Inc
LifeGlobal
FertiPro N.V.
◎Single step media
Irvine Scientific
LifeGlobal
6.胚移植
初期胚培養液
QA Cleavage medium
P+ Cleavage medium
P-1 medium
Complete P-1 medium
ECM medium
BlastAssist System Medium 1
ISM1
G-1 ver 5 PLUS
Sydney IVF Cleavage medium
IVC-ONE, IVC-TWO
HTF
FertiCult IVF medium
胚盤胞培養液
QA Blastocyst medium
P+ Blastocyst medium
MultiBlast medium
Complete MultiBlast medium
BlastAssisst System Medium 2
ISM2
G-2 ver 5 PLUS
Sydney IVF Blastocyst medium
IVC-THREE
Blastocyst
FertiCult G3 medium
Single Step medium
global
(Embryo transfer, ET)
体外受精や顕微授精(後述)で作出された受精卵は、2 細胞期程度の発生初期の場合は、個体の卵管へ、桑実
胚や胚盤胞まで体外発生させた胚の場合は、子宮へ移植する。移植に際しては、胚の発育ステージとレシピエン
ト(受卵)個体の発情周期を同期化させる。許容範囲は、前後 1 日程度と考えられており、大きくずれると受胎
率が低下する。
【体外における胚培養の考え方】
①
体外環境に長く置くことは好ましくない。
早期に卵管に戻すべきである。
②
胚の発生能力を見極めるために、胚盤胞まで発生した胚だけを移植することで、受胎率が向上する。
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