統合型リゾート(IR) ~ゲーミング(カジノ)における会計論点 ~ 2015 年 1 月 IR ビジネス・リサーチグループ リーダー 有限責任監査法人トーマツ パートナー 仁木一彦 ※当該資料中、意見に亘る部分は著者の私見であり、著者の属する法人等のものではありません。 Ⅰ. はじめに 「特定複合観光施設(IR)」で運営されるカジノ施設で行われるゲーミング(カジノ)は日本において新しい業種・業態であり、日本の 会計基準上でゲーミング(カジノ)特有の会計基準や会計慣行は確立されておらず、また、日本で任意適用が認められている国際 財務報告基準(IFRS)においても、同様に規定されていません。 日本基準に規定されている全業種に共通の事項については、会計基準や会計慣行に従って会計処理を行いますが、日本基準に 規定されていないゲーミング(カジノ)特有の会計処理については、ゲーミング(カジノ)先進国である米国の会計基準を参考に、日 本基準において公正妥当と認められる会計処理を行うことになると考えられます。 米国基準では、財務会計基準審議会(FASB)の業種別会計基準として Accounting Standards Codification(ASC)924 – Entertainment – Casinos、米国公認会計士協会(AICPA)の業種別監査・会計ガイドとして Audit & Accounting Guide(AAG)– Gaming がそれぞれ公表されており、ゲーミング(カジノ)特有の会計基準が明文化されています。ASC924 – Casinos および AAG – Gaming に記載されている主な業界特有の会計に関する事項は以下の通りです。 ガイダンス Audit & Accounting Guide: Gaming 会計基準 ASC 924 - Casinos 924-10 全般 Overall §1 業種の概要 Industry Overview §7 営業ライセンス、プロジェクト開発、及び 開店準備・立ち上げコストGaming License, Project Development, and Preopening and Start-Up Costs 924-280 セグメント報告 Segment Reporting §2 範囲と適用性 Guide Scope and Applicability §8 第三者に対する管理資産 Managing Properties for Third Parties 924-405 負債 Liabilities §3 ゲーム収益及びゲーム関連収益の概要 Overview of Gaming and Gaming Related Revenue §9 保証 Guarantees 924-605 収益認識 Revenue Recognition §4 ジャックポット負債 Jackpot Liabilities §10 長期性資産 Long-Lived Assets 924-720 その他の費用 Other Expenses §5 参加契約及び類似の契約 Participation and Similar Arrangements §11 その他の会計論点 Other Accounting Topics 924-740 法人税 Income Taxes §6 ロイヤルティ及びインセンティブ・プログラ ム Loyalty and Incentive Programs §12 政府系カジノ Governmental Gaming Entities 出典:Accounting Standards Codification 924 – Entertainment – Casinos, Audit & Accounting Guide– Gaming よりトーマツグループ IR ビジネス・ リサーチグループが作成 ここでは、カジノ施設で行われるゲーミング(カジノ)における収益と、それに関連してジャックポット負債や、インセンティブおよびロイヤ ルティプログラムの会計論点について、これらの米国基準を元にご紹介します。 Ⅱ. ゲーミング(カジノ)における収益 カジノ施設ではテーブルゲーム、スロットマシーン、カードゲーム等様々なゲームが行われます。カジノ施設における収益の獲得活動は、 カジノ事業者が顧客とのゲームに参加し、その両者が勝負の結果として金銭またはその他の経済的価値を得たり失ったりする可能性 のある活動(カジノ活動)と ゲームには直接参加せず、場を提供しゲームを運営することで、手数料を受け取る活動(カジノ関連活動) に区分されます。カジノ活動にはテーブルゲーム(ブラックジャック、ルーレット、バカラなど)やスロットマシーン、ビンゴなどが含まれま す。カジノ関連活動にはポーカーやトーナメントゲームなどが含まれます。 カジノ活動における「総カジノ収益」は、一般的に顧客の賭け金の総額ではなく、賭けを行ったゲームの勝ち負けの差額により算定され ます。さらに総カジノ収益は、後述のジャックポット負債の増減やインセンティブによって調整された後、カジノ関連活動の収益が加算さ れ、「純カジノ収益」が算定されます。 Ⅲ.ジャックポット負債 ジャックポットとは、スロットマシーンのようなゲームで顧客が勝った場合に支払われる賞金のことです。さらに、顧客の賭け金のうち一 定割合が将来の賞金として累積されるプログレッシブ・ジャックポットと呼ばれるものがあります。企業は将来、累積された賞金を支払う 義務を負うため、賞金が累積された期間にわたってジャックポット負債を計上し、賞金が支払われた時点でジャックポット負債を取り崩 します。ジャックポット負債の増減は、純カジノ収益を算定する際に加減算されます。 Ⅳ.インセンティブおよびロイヤルティプログラム インセンティブとは、無料で顧客に提供されるゲームプレイの権利や、現金値引き、コンプリメンタリー(コンプ)と呼ばれる宿泊や飲食の ことを指します。 インセンティブプログラムには、会員ステータスに応じた差別化や、マーケティングのために顧客に付与される「差別的インセンティブプ ログラム」と、ポイント・ロイヤルティプログラムとして顧客に付与される「非差別的インセンティブプログラム」の 2 種類があります。 前者は、無料プレイなどのインセンティブが顧客に提供されるまで、その義務を負っていないことから、提供された時点で、インセンティ ブに係る費用の計上を行います。一方後者は、無料プレイなどのインセンティブが顧客に提供される前にその義務を負っているため、 提供する義務を負った時点で、収益の繰延べ、あるいはインセンティブに係る費用の即時計上を行います。 本記事に関して、より詳細な調査資料をご希望の場合は、以下までお問い合わせください。 IR(統合型リゾート)ビジネス・リサーチグループ [email protected] 著者紹介 仁木 一彦(にき・かずひこ) IR ビジネス・リサーチグループ リーダー 有限責任監査法人トーマツ パートナー 【経歴】 IR ビジネスに係るプロジェクトの業務責任者を複数務め、IR ビジネス参入を検討する企業だけでなく、国や地方自治体に対するサポー トも手がける。IR ビジネスに関係の深いエンタテインメント、メディア、不動産、ホテル等でのコンサルティング業務経験を多数有する。 企業の透明化・健全化に関する分野を中心に専門分野は各種規制対応、コーポレートガバナンス、内部統制、内部監査、不正対策、リ スクマネジメント、コンプライアンス、CSR 等。著書に『図解 ひとめでわかる内部統制 第 3 版』(東洋経済新報社)、『図解 ひとめでわ かるリスクマネジメント 第 2 版』(東洋経済新報社)など多数。 トーマツグループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有限責任会社)のメンバーファームおよびそれらの関係 会社(有限責任監査法人トーマツ、デロイト トーマツ コンサルティング株式会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社および税理 士法人トーマツを含む)の総称です。トーマツグループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり、各社がそれぞれの適用法令 に従い、監査、税務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー等を提供しています。また、国内約 40 都市に約 7,800 名の専門家(公認会計士、税 理士、コンサルタントなど)を擁し、多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています。詳細はトーマツグループ Web サイト(www.deloitte.com/jp)を ご覧ください。 Deloitte(デロイト)は、監査、税務、コンサルティングおよびファイナンシャル アドバイザリーサービスを、さまざまな業種にわたる上場・非上場のクライアン トに提供しています。全世界 150 を超える国・地域のメンバーファームのネットワークを通じ、デロイトは、高度に複合化されたビジネスに取り組むクライアン トに向けて、深い洞察に基づき、世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを提供しています。デロイトの約 200,000 名を超える人材は、“standard of excellence”となることを目指しています。 Deloitte(デロイト)とは、英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(“DTTL”)ならびにそのネットワーク組織を構 成するメンバーファームおよびその関係会社のひとつまたは複数を指します。DTTL および各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体で す 。 DTTL ( ま た は “ Deloitte Global ” ) は ク ラ イ ア ン ト へ の サ ー ビ ス 提 供 を 行 いま せ ん 。 DTTL およ び そ の メ ン バ ー フ ァ ー ム に つ いて の 詳 細 は www.deloitte.com/jp/about をご覧ください。 本資料は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応す るものではありません。また、本資料の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個 別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本資料の記載のみに依拠して 意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。 © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC. Member of Deloitte Touche Tohmatsu Limited
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