Chemo Therapy Report 閉鎖式混合調製器具による 抗がん剤

Chemo Therapy Report
CASE 3
閉鎖式混合調製器具による
抗がん剤曝露防止の有効性
片岡ヤス子
東京大学医学部附属病院
内科外来 主任副看護師長
はじめに
抗がん剤を取り扱う医療従事者の曝露の危険性につ
いて、欧米では個人用防護具の適正使用や作業環境にお
ける抗がん剤曝露の調査・研究が行われ、健康被害を防
止するためのガイドラインが制定されてきた。わが国で
酸紙と蛍光剤(フルオレセインNa)を使用した。ま
た、より過酷な条件として、半量投与も実施した(薬
剤が残っている状態での抜き刺し)
。
② 定量評価 従来法とケモセーフによる上記操作を経
験年齢の異なる看護師4人が各1回行い、足元、胸元、
も医療従事者の尿を用いた検討において、抗がん剤取り
手袋の飛散量をLC/MS/MSで測定した。検出限界は
扱いの有無に関わらず抗がん剤が検出され、変異原性が
足元、胸元0.1ng/シート、手袋0.3ng/双である。
認められたとの報告がある。看護師が抗がん剤を取り扱
う際の危険性は認識されているが、医療現場では十分な
対策が取られていないのが現状である。このことは、医
療従事者や治療を受ける患者、およびその家族にも抗が
結果
① 定性評価(表2) 従来法により、全量投与し、輸液スタンドからバッ
ん剤の曝露が及ぶ可能性を示唆している。最近では、抗
グを外して水平に輸液セットを付け替えた際、硫酸
がん剤曝露防止のための調製・投与方法の対策として閉
紙にはワゴン、胸元にそれぞれ数ヵ所の飛散を認め
鎖式混合調製器具が開発されている。
そこで、抗がん剤投与による曝露の現状を把握する
図1 従来法
ため、従来実施している方法(従来法)と閉鎖式混合調
輸液スタンドからバッグを
外して水平に輸液セットを
付け替える
製器具との比較試験を実施した。そして、看護師の作
業現場における抗がん剤曝露防止対策の一つの方法と
しての閉鎖式混合調製器具の有効性について検討した。
方法
抗がん剤投与での抗がん剤曝露防止において、閉鎖
式混合調製器具が有効であることを検証するために、
閉鎖式混合調製器具の一つであるケモセーフと従来法
図2 ケモセーフ
生理食塩液
でプライミ
ングした抗
がん剤バッ
グ
について比較した(定性評価、定量評価)
。
・従来法:抗がん剤に輸液セットを接続し、投与後に
生理食塩液でライン洗浄するまでの操作(図1)
・ケモセーフ:調製後、生理食塩液でプライミングし
た抗がん剤バッグを、点滴筒上部のニードルレスコネ
接続部
クターに接続し、投与後に外すまでの操作(図2)
抗がん剤バッグ
これらの操作後のワゴン、胸元、手袋、足元に飛散
した抗がん剤を評価した。定性評価では、フルオレセ
インNa(蛍光剤)を輸液に封入し模擬抗がん剤として用
い、定量評価では、シクロホスファミドを生理食塩液
に混合したものを用いた。
評価方法(表1)
① 定性評価 従来法とケモセーフによる上記操作を看
護師1人が5回繰り返し、ワゴンと胸元における飛散
の数と大きさを測定した。視覚で確認するため、硫
1
Evidence Report
点滴筒上部
のニードル
レスコネク
ターに接続
した状態
表1 評価方法
①定性評価(1人)
・従来法全量投与:5回
・従来法半量投与:5回
・ケモセーフ全量投与:5回
・ケモセーフ半量投与:5回
②定量評価(4人)
・従来法全量投与:各1回
・ケモセーフ全量投与:各1回
た。混合バッグ内の液を半量投与し、バッグ内に液
を残し輸液スタンドからバッグを外した場合では、
ワゴンに鮮明に大きく、多数の飛散を認めた(図3)
。
ケモセーフにより、全量投与後に外した場合、ワ
表2 定性評価結果
従来法:全量投与・半量投与でワゴン・胸元に飛散
:半量投与でワゴンに鮮明に大きく、多数の飛散
:全量投与・半量投与での胸元の飛散数は視覚的には同じ
ゴンと胸元の硫酸紙に飛散は認められなかった。半
量投与した場合も飛散は認められなかった(図4)
。
② 定量評価(表3)
従来法では、4人のうち1人の足元と胸元から、も
う1人の胸元と手袋からシクロホスファミドが検出さ
・従来法ではすべて飛散を認める
・薬液残量では飛散度が高い
*ケモセーフは飛散なし 曝露対策に有効
れた。ケモセーフでは1人の手袋からわずかにシクロ
ホスファミドが検出されたが、足元と胸元からは全
く検出されなかった。
表3 定量評価結果
YO
YC
YK
AR
足元
N.D
34.30ng
N.D
N.D
胸元
N.D
0.20ng
0.23ng
N.D
手袋
(右手・左手)
N.D
N.D
0.37ng
N.D
足元
N.D
N.D
N.D
N.D
胸元
N.D
N.D
N.D
N.D
手袋
(右手・左手)
N.D
N.D
N.D
3.55ng
考察
(2年目)(10年目)(16年目)(30年目)
従来法ではすべての実験で抗がん剤の飛散を認めた。
これは担当看護師だけでなく、同じ環境で働く医療従
事者や患者・家族にも抗がん剤の曝露がおよぶ可能性
があり、抜き刺しの回数を減らす、薬液をしっかり終
従来法
了してから次の点滴を行うなどの対応策が必要である。
ケモセーフでも手袋に極少量の抗がん剤の付着を認
めたが、足元(床)と胸元からは全く検出されなかった。
手袋への付着は、接続部に触れないようにするなどの
手技を徹底することで防止できるが、バッグからの抜
き刺しによる飛散は意識しても防止は難しい。した
がって、抜き刺しによる飛散を防止できたことは、閉
鎖式混合調製器具が抗がん剤の曝露対策の一つの手段
として有効であることが言える。
ケモ
セーフ
検出限界;テフロンシート:0.1ng/シート 手袋:0.3ng/双
図3 定性評価:従来法 ワゴン
全量投与
半量投与
図4 定性評価:ケモセーフ ワゴン
全量投与
半量投与
、TERUMO、ケモセーフはテルモ株式会社の登録商標です。
発行;テルモ株式会社
〒151-0072 東京都渋谷区幡ヶ谷2-44-1 URL:http://www.terumo.co.jp/
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Evidence Report
©テルモ株式会社 2011年6月
11T181-1PI10PI1106