木質構造の試験業務について

特 集
木材の利用促進政策と今後の展望
試験業務・設備紹介
木質構造の試験業務について
西日本試験所 試験課 主任 早崎
洋一
▌1.木質構造試験の概要
木質構造は,軸組構法,枠組壁工法,木質プレハブ構造,
丸太組構法,大断面木造に大別され,当センターでは,これ
ら各工法の構造試験業務を行っており,木質構造試験依頼の
多くは,軸組構法に関するものである。最近では,
「公共建
築物等における木材の利用の促進に関する法律」の施行,
「直
交集成板(以下,CLT という)」の JAS 規格制定などにより,
中層大規模木造建築物に関する試験依頼も増加傾向にある。
木質構造の試験方法は,試験目的に応じて多岐に渡る。例
えば,壁量計算で設計するための壁倍率を取得する場合は,
性能評価のための「業務方法書」に従って壁の面内せん断試
写真 1 壁の面内せん断試験の一例
(合板耐力壁)
験(写真 1)を実施し,壁倍率の性能評価を受けて国土交通
大臣の認定を取得することになる。また,軸組構法の耐力壁
に使用する Z マーク表示金物以外の接合金物は,
「木造軸組
工法住宅の許容応力度設計( 2008 年版)」に記述されている
試験方法を参考にして,その接合金物を用いて製作された継
手・仕口部について試験を行い,その接合金物の性能値の確
認を行う必要がある。
大断面木造の設計では,その接合部の仕様に応じて性能を
確認する必要が生じる場合があり(写真 2)
,接合部に関する
試験は,主として以下の 4 種類に大別される。①接合部の剛
性・耐力・靭性などを接合部への直接加力により求める試
験(接合部加力試験)
,②接合部の剛性・耐力を計算で求め
るための主材,側材などの材料の支圧強度試験(支圧試験)
,
③接合部の剛性・耐力を計算で求めるための接合具の強度
写真 2 木質接合部の引張試験の一例
(引きボルト接合部)
▌2.木質構造の試験規格について
構造設計ルートが決まり,試験が必要になる部位が決まれ
試験(接合具試験)
,④接合部の剛性・耐力に対する含水率,
ば,次に,試験規格を選定する必要がある。前述の通り,壁
荷重継続期間などの影響に関する各種調整係数を求めるた
倍率の評価に伴う面内せん断試験が必要であれば,指定性能
めの接合部を用いた試験(調整係数試験)である。
評価機関の「業務方法書」により試験を行い,軸組構法の接
このように木質構造の試験方法は広く存在するが,適切な
試験方法の選択には,計画している木質構造物の構造形式と
構造設計ルートをきちんと判断し,そのために必要な試験・
評価を把握しておく必要がある。
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合金物試験であれば,
「木造軸組工法住宅の許容応力度設計
( 2008 年版)」を参考にして行うといった具合である。
接合部の試験では,
「木質構造設計規準・同解説 −許容応
力度・許容耐力設計法− 付録 2. 接合部の標準試験法」が参
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考となり,また,木質接着成形軸材料,木質複合軸材料,木
表 1 新規導入した試験装置一覧
(西日本試験所)
試験装置
質断熱複合パネル,木質接着複合パネルの試験(曲げ試験,
クリープ試験,荷重継続試験等)であれば「
( 2007 年)枠組壁
工法建築物構造計算指針」が参考となる。
1000kN
構造物曲げ
試 験 装 置
最大載荷荷重:1,000kN(押引)
最大試験体高さ:4.4m
最大試験体幅:2m
最大支持スパン:10m
大 型 面 内
せ ん 断
試 験 装 置
載荷:水平,鉛直
最大水平載荷高さ:4.5m
最大試験体幅:4m
200kN
構 造 物
試 験 装 置
載荷:鉛直
最大試験体高さ:2m
最大試験体幅:2.1m
構
反
載荷:水平,鉛直
反力床サイズ:10m × 8m
アンカーサイズ:M27
アンカーピッチ:@ 500mm
アンカー許容耐力:190kN/ 本
木質材料の試験では,
(公財)日本住宅・木材技術センター
の「構造用木材の強度試験マニュアル」があり,JIS(日本工
業規格)の試験であれば,
「 JIS Z 2101(木材の試験方法)」
,
JAS(日本農林規格)の試験であれば JAS 規格(例えば,
「製
材」
,
「直交集成板」など)に準拠する。
また,当センター発行の「設計施工・技術開発・品質管理
に携わる技術者のための建築材料・部材の試験評価技術」で
も,木質構造部材の試験について記載されているので試験計
主な仕様
力
画の参考になれば幸いである。
造
床
▌3.当センターの試験設備・試験業務について
当センターでの木質構造の試験業務は,中央試験所・構造
グループ(埼玉県)
,西日本試験所・試験課(山口県)にて行っ
ている。試験設備は,面内せん断試験装置,鉛直載荷試験装
置,曲げ試験装置などを所有しており,各種木質構造試験に
対応している(試験装置などの詳細は,当センターのホーム
ページを参照願いたい。
)
。
西日本試験所では,昨年度に試験設備拡充のため,新構造
試験棟・新材料試験棟を新設した。写真 3 に新構造試験棟・
新材料試験棟の概観を,表 1 に新構造試験棟に新規導入した
試験装置の概要を示す。図 1には,新構造試験棟平面を示す。
写真 3 新構造試験棟・新材料試験棟の概観
図 1 新構造棟平面図
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特 集
木材の利用促進政策と今後の展望
新構造試験棟建設後の木質構造の試験業務では,初年度,
大型面内せん断試験装置を用いて柱−梁接合部の曲げモー
メント抵抗試験(写真 4)
,小屋梁−柱接合部の水平加力試験
(写真 5)を実施した。また,1000kN 構造物曲げ試験装置で
は,製材重ね梁の支持スパン 9m の実大曲げ試験(写真 6)を
実施し,構造反力床と大型面内せん断試験装置併用して耐震
シェルターの水平加力,鉛直載荷試験を実施した(写真 7 お
よび写真 8)
。
今年度は,大型面内せん断試験装置を水平加力 500kN ま
で行えるよう改造し,CLT を用いた壁の面内せん断試験
(写真 9 および写真 10 )を実施した。今後は,構造反力床に
専用ジグを設置し,大断面の木質構造接合部のモーメント抵
抗試験(十字型,L 型,T 型試験体)も試験予定である。
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写真 6 製材重ね梁の実大曲げ試験
写真 4 柱−梁接合部の曲げモーメント抵抗試験
写真 7 耐震シェルターの水平加力試験
写真 5 小屋梁−柱接合部の水平加力試験
写真 8 耐震シェルターの鉛直載荷試験
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写真 9 CLT を用いた壁の面内せん断試験
(有開口試験体)
写真 11 実大振動台実験
(木造軸組構法,3 階建て)
▌5.むすび
当センターでは,依頼者の要望に応じた柔軟な試験対応の
ため,中央試験所,西日本試験所とより一層の連携体制で試
験業務を執り行っていく。
今後も当センターで実施した試験結果・評価が木質構造
の発展のため,寄与すれば幸いである。
写真 10 CLT の用いた壁の面内せん断試験
(無開口試験体)
▌4.実大振動台実験等の試験業務について
当センターでは,所有する試験装置の規模を超える試験に
ついても,必要に応じて他機関の試験装置を借用して試験を
行い,試験報告書の発行を行っている。
この最たるものが実大振動台実験であり,当センターでは
2003 年に「木質構造物の振動試験研究会」を発足させ,標準
的 な 振 動 試 験 方 法 を 提 案 するための 検 証を 重 ね てきた
(写真 11)
。
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【参考文献】
・ 木造耐力壁及びその倍率の試験・評価業務方法書,
(一財)建材試
験センター
・ 木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2008 年版),
(公財)日本住宅・
木材技術センター
・ 設計施工・技術開発・品質管理に携わる技術者のための建築材料・
部材の試験評価技術,
(一財)建材試験センター中央試験所
・ 木質構造接合部設計マニュアル,
(一社)日本建築学会
・ 木質構造設計規準・同解説 −許容応力度・許容耐力設計法−,
(一
社)日本建築学会
・ 2007 年 枠組壁工法建築物 構造計算指針,
(一社)日本ツーバイ
フォー協会
プロフィール
早崎 洋一(はやさき・よういち)
西日本試験所 試験課 主任
従事する業務:構造試験
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