工業会活動 ISO/TC20/SC1「航空宇宙電気系統の要求事項」WG15 におけるLEDタキシー・ライト規格開発打ち合わせ報告 ISO/TC20SC1/WG15「LEDパワーライト」にて我が国より提案したLEDタキシー・ ライト*1についての規格内容についてUTAS(ドイツ)及びエアバス社と打ち合わせを 行ったのでここに報告する。 *1 タキシー・ライト:夜間飛行機が地上走行時にパイロットの前方視界を確保するため、主に前部脚に 取り付けられ前方路面を照らす照明灯。 1.概要 UTAS :Mr. Andre Hessing, Mr. Christian 開催場所:UTC Aerospace Systems Schon, Mr. Anil Kumar Jha (リップシュタット・ドイツ) (Advanced Product Development) 開催時期:12月10日∼11日 エアバス社: 出席者 Mr. Carsten Kohlmeiner-Beckmann 日本側:MHI 相川氏、小糸製作所 大川 (Lighting Systems, Hamburg), Mr. 氏、中村氏、SJAC 藤貫 Jesus Robledo Bueno(Lighting Systems, Madrid) 写真1 会議風景 2.議事内容 (1)LEDタキシーライトの照度の評価方法に 色を多く発光する特性を持つ)が同じ照度で も明るく見えるかについて、青色光の比視感 関するプレゼンテーション 度*3の存在をもって説明した。また青色光を 小糸製作所 大川氏よりなぜ青色LED励起 含む新たな評価方法案について提案した。 YAG セラミック蛍光体(青の補色である黄 *2 58 この説明に対して、UTAS、エアバス社と 平成27年1月 第733号 もに理解し、新評価方法についても正しいと 不適切との意見であった。ガイドラインで 評価した。 は、製造者がそのガイドラインから外れて ただしUTASとしては既存の評価方法(赤 製造することを許容しており、ユーザーが と緑の色を中心に評価する方法:黒体放射の 高機能なものを望んでもそれを強制できな 原理と人間の明視時の比視感度を用いて明る いこと、またより高度な機材の製造能力が さを測る)はすでに何十年も使用されており、 ある製造者にとっても製品差別化が出来な LED照明の明るさを測る尺度としては不適切 いためである。 だとしても業界、照明関係者での標準となっ ている。また、UTASで製造しているすべて ②新たな評価方法の提案を却下すること のLED照明は従来の評価方法にのっとって設 UTAS、エアバス社とも従来の評価手法 計 さ れ 検 査 さ れ て 客 先 に 支 給 さ れ て い る。 を維持するとの強い意向であった。UTAS 従って従来の評価方法を継続しても、問題は は前述の通り、従来方法でチェックした製 生じないと述べた。 品を出荷しており、エアバス社としても新 エアバス社からは、新たな評価方法を適用 測光法に則った測光器が現在販売されてい するためには、LED光源の明るさに対する人 ないことから、時期尚早と判断した。これ 間の認知についてより詳細に評価をすること により、日本から新たに提案した青色光を が必要とのコメントがあり(人間は目で受け 含む新たな評価方法は不採用となった。 た情報を脳で処理して初めて光の「明るさ」 ただし、日本提案は、将来LED照明の評 及び「色」を感じることが出来る。これは年齢、 価に使うべき妥当な手法ではあることは 人種その他の影響を受けると考えられてい UTAS、エアバス社ともに認知したことで、 る)、新評価方法の適用にはまだ時間がかか 日本案についてISO TC/SCによって発行さ るのではないかとの見解であった。 れる参考出版物である技術報告書(TR: これに対して当方から、日本では、すでに Technical Report)としてまとめて発行する 自動車業界が、青色を明るさの評価を加味し ことは了解を得た。これにより、当該技術 て現状の測定値に係数を加えた方法(LEDタ の著作権のISOへの帰属が明確化される。 キシー・ライトの評価法とほぼ同じ)で白色 又将来の規格化も容易になる。 LEDヘッドライトの評価を開始しており、今 後様々な業界の白色LEDの評価に用いられる であろうことを説明した。 *2 YAG:イットリウム・アルミニウム・ガーネッ ト複合酸化物(Y3Al5O12)。 *3 比視感度:ヒトの目が光の各波長ごとの明るさ を感じる強さを数値で表したもの。 (2)LED タ キ シ ー ラ イ ト の 設 計 指 針(ISO/ ③光線のカットライン*4、照度範囲、照度 分布の記載を行うこと 光源がLED化したことで、設計の自由度 が増し、配光制御が容易になってきたが、 現在用いられているSAE ARP 693では光軸 上の1点の最低照度を規定しているのみで、 配光制御によりパイロットの視認性を向上 TC20/SC1での提案)について することを考慮に入れていない。そこで、 ①ガイドラインではなく設計標準とすること 自動車ヘッドランプと同様に光線のカット UTAS、エアバス社とも、実施義務を伴 ラインをタキシーライトに設けることでパ わないガイドラインを公表するだけでは、 イロットの視認性向上対策を行う。なお、本 59 工業会活動 件はUTASとしてもこれから製品化するも ⑦光度について のである。エアバス社としてもこの光線の 最低光度はSAE ARP 693とし、一定時間 カット機能を織り込み、SAE ARP 693より高 を経過してもその値を満足するようにす 度な規格としてほしいとの意見を受けた。 る。従って、LED灯具使用開始時の明るさ 日本側としても本内容で検討を進める。 はLEDの光度の劣化特性に合わせて設計す なお、照射範囲の規定とその許容値、配 る。(劣化が大きいLEDでは明るく、劣化 光分布、配光禁止領域の設定については今 が小さいLEDでは最低光度に近い値を初期 後の打ち合わせを行い、設定していく。 値とする。) *4 カットライン:灯具の光束を特定の角度の範囲内 に制限することで生ずる暗部と照射部の境界線。 ⑧色について タキシーライトの色は白熱灯を基準とし て「アビエーション・ホワイト」と規定さ ④寿命について LED灯は長時間使用するうちに明るさが れている。しかし、LED灯が白熱灯に比べ 暗くなるとともに色合いが白から黄色に変 青みを帯びた白色光のため、 「アビエーショ わっていく。この色合いの変化もLED灯の ン・ホワイト」に許容される色空間*7 の範 寿命の定義に含めることとした。 囲を広くとる必要があるが、そのことの可 なお、エアバス社からは灯具寿命は16,000 能性をさらに検討することで合意した。 時間ほしいとの意見が出された(白熱灯で は100時間程度)。 ⑤ランウエイ・ターンオフ・ライト*5 につ いて *7 色空間:三種の視細胞からの三つの出力を基に 色を識別しているので、三つのパラメータ(X, Y, Z)によってすべての色が表現できる。これらを 基本軸として空間を構成することで任意の色を 空間内のベクトルとして表現できる。このよう な色を表すための空間を色空間とよぶ。 要求事項はタキシーライトと照射方向以 外はほぼ同じで、同じSAE ARP 693に記載 (3)今後の方針について されており、タキシー・ライトと一括して 2月16日までに今回の打合せで検討・議論 検討することとした。照射範囲もターンオ された事項につき、必要な作業を踏まえたう フ・ライトを含めたもので設定を行う。 えで規格案を再度提出することで合意した。 *5 ランウエイ・ターンオフ・ライト:地上走行時 に左右に旋回するときに点灯し、旋回方向のパ イロットの視界を確保する。 3.所感 ⑥ランディング・ライト について *6 競合相手との打ち合わせであり、お互いに 相手の能力の探り合いであった。ただし、エ 飛行時の使用が前提であり、地上走行時 アバス社も加わり話をすることができ、現在 に使うタキシー・ライトやランウエイ・ター 使われているSAE ARP 693よりも良い規格を ンオフ・ライトとは同一に扱えないので、 作成することで合意できたことから、実際の 今回の規格案には織り込まない。 運用に適用される可能性が見えてきた。 *6 ランディング・ライト:着陸時に使用し、滑走 路を上空から照らすことで、パイロットの視界 を確保する。 60 また、青色の明るさ評価については、一定 の理解を得ることができた。これを周知の事 実としてTRとして発行することを認めてもら 平成27年1月 第733号 うことで、我が国の技術力の評価と今後の高 今後は、早急な規格化を図っていきたい。 光度照明利用時のガイダンス、ひいては将来 ISO/TC20/SC1国内委員会関係者各位の積極 の規格のベースとすることの可能性が見えて 的な協力に対し、感謝する。 きたことも成果である。 写真2 出席全メンバー 相手側後列左より、Mr. Andre Hessing(UTAS)、 Mr. Carsten Kohlmeiner-Beckmann(Airbus)、 Mr. Jesus Robledo Bueno(Airbus)、 Mr. Christian Schon(UTAS)、 Mr. Anil Kumar Jha(UTAS) 〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部部長 藤貫 泰成〕 61
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