気象台だより No.5(2014.12.24) 平成 26 年を振りかえって -高解像度

気象台だより No.5(2014.12.24)
平成 26 年を振りかえって
-高解像度降水ナウキャストとひまわり 8 号-
今年1月からスタートした、この「気象台だより」ですが、不定期と謳っているとは言
え、4 月 7 日に No.4 を出して以降、だいぶ間が空いてしまいました。4 月以降、広島市で
の豪雨や御嶽山噴火等、全国的には様々な災害が発生しました。しかし、幸いにも福島県
では甚大な災害は発生せず、ほっとしたこともその一因かも知れません。
さて、今年もあとわずかという時期になりましたが、新年を迎える前に、特に 4 月以降
の気象庁業務に関わる技術的な進展の中から 8 月 7 日より新たに提供を開始した「高解像
度降水ナウキャスト」と 10 月 7 日の「静止気象衛星 ひまわり 8 号」打ち上げを紹介して、
今年最終の気象台だよりとしたいと思います。
まず、はじめに高解像度降水ナウキャストについてですが、従来のレーダー降水ナウキ
ャストとの主な違いは以下の3点です。
① 気象庁レーダーの解像度が向上
気象庁レーダーは C バンド(5.3GHz 帯)の電波を用いたドップラーレーダーで、降
雨(雪)域の位置、降雨(雪)強度などを測定しています。従来の降水ナウキャストの
解像度は 1km でしたが、処理装置の更新により 250m に解像度を高めています。
福島県とその周辺は、仙台、新潟、東京(柏市)の各レーダーによって観測が行われ
ています。
② 国土交通省 X-バンド MP(マルチパラメーター)レーダー(XRAIN)の利用
このレーダーは C バンドより短波長の X バンド(9.5GHz 帯)の電波を用いているた
め、降雨による減衰が激しいのが弱点ですが、電場の振動面を鉛直面と水平面に局在化
させた電磁波(それぞれ鉛直偏波と水平偏波という)を利用して、雨粒の扁平度を観測
することにより、高精度の雨量推定が可能となっています(強い雨ほど雨粒の形が扁平
になることを利用)
。
福島県とその周辺は、岩沼局(宮城県亘理郡亘理町)、伊達局(福島県伊達郡桑折町)
、
田村局(福島県田村市)
、氏家局(栃木県さくら市)
、中ノ口局(新潟県燕市)
、京ヶ瀬局
(新潟県阿賀野市)によって観測が行われています。
③ 降水予測手法を改善
従来の降水ナウキャストでは、基本的に過去 1 時間程度の降水域の移動や地上・高層
の観測データから求めた移動速度で降水域がそのまま移動すると仮定し(延長予報)
、そ
の上に降水域の発達や衰弱の傾向を加味して予測を行います。
高解像度降水ナウキャストでは、鉛直方向の降水分布も考慮して 3 次元で予測を行い、
予測後半では、対流予測モデルにより、雨粒の発生や落下等を考慮するとともに、従来
の降水ナウキャストでは行われていなかった積乱雲の発生予測も行って、予測時間後半
での精度向上が図られています。
高解像度降水ナウキャストは気象庁ホームページ(http://www.jma.go.jp/jp/highresorad/)
ですぐに利用できます。表示域の拡大・縮小や鉄道・道路など地上のランドマークなど利
用者自身で表示をカスタマイズする機能もありますので、いざ豪雨と言う時に有効に活用
。
できるよう、PC やスマートフォンで日頃より慣れ親しんでいただきたいと思います(図 1)
図1 高解像度降水ナウキャストの事例(平成 26 年 12 月 20 日)
続いて、10 月 7 日に打ち上げられた「ひまわり 8 号」ですが、世界最初の次世代静止気
象衛星として以下のような特徴を持っています。
① 空間分解能の向上
赤外域で 2km、可視域で 0.5~1km と従来のひまわりに比べ、倍となっています。
② 高頻度観測
観測に要する時間を大幅に短縮し、従来 30 分掛かったフルディスク観測(全球観測)が
10 分で行えるようになります。また、幾つかの特定領域の観測を高頻度で行うことが出来
ます。例えば、日本付近を 2.5 分毎に観測を行うことができ、台風発生時には台風周辺域の
高頻度観測を行うことができます。
空間分解能の向上と併せて、夏季の積乱雲の発生・発達の監視などへの活用が期待され
ます。
③ 観測チャンネルの大幅な増加
現在運用中のひまわり6/7 号搭載の放射計は、可視1バンド、赤外4バンドの計 5 バン
ドですが、ひまわり 8 号では可視 3 バンド、近赤外・赤外 13 バンドの計 16 バンドに増え
ます。このチャンネル増が世界最初の次世代静止気象衛星たる所以です。この多チャンネ
ル化により、従来作成できなかったような新たな衛星プロダクトの作成が可能になるとと
もに、数値予報への取り込みによってより高精度の大気解析が可能となり、予報精度向上
など様々な方面での活用が期待されます。
例えば、可視 3 バンドは青:0.47μm、緑:0.51μm、赤:0.64μm で構成されますので、
カラー画像の作成が可能となります。ひまわり 8 号の初画像が気象庁ホームページに公開
されていますので、是非御覧いただきたいと思います(図 2)
(http://www.jma-net.go.jp/sat/data/web89/himawari8_first_image.html)
。
ひまわり 8 号は来年、平成 27 年の夏頃に正式な観測運用を
開始する予定となっています。
図2 ひまわり 8 号による可視 3 バンド合成カラー初画像
(平成 26 年 12 月 18 日午前 11 時 40 分撮影)
以上、高解像度降水ナウキャストとひまわり 8 号について簡単に紹介しましたが、今後
も新たな防災情報や注意すべき事項などについて、この気象台だよりで適宜解説を行って
いく予定です。
今年最終の気象台だよりに最後までお付き合いいただいたことに感謝申し上げます。
では、良いお年をお迎え下さい。
(福島地方気象台長 高橋清利)