2 フェイジーランドのおとぎ話

2
フェイジーランドのおとぎ話
竜のルーダを地下牢からたすけた事
と魔法の時間
(おやすみの前にお話してあげて下さいね。)
作〜マイケル・ラドゥーガ
訳〜中山利一
編集〜近藤五百子
イラスト〜アンドレイ・グッドコフ
下のアドレスで 10 のおはなし全てがダウンロード出来ます。
www.phasieland.com
ね
しあわ
おとこのこ
寝るのがこわくなくなったフェイジーは、とても 幸 せな男の子になりました。オート
さんぽ
おな
す
ミールや友だちと散歩に行くことと 同 じくらい、スヤスヤとゆっくり寝るのが好きになりま
りゅう
はなし
しん
した。でも、小さな 竜 ルーダの 話 は、みんなが信 じてくれたわけではありません。
た
もり
き ち
つく
「ぜったいオートミールの食べすぎだよ。」オビーは森に基地を作る手を止めフェイジー
をバカにしました。
ほんとう
「ちがう、みんな 本 当 の話よ。」と、アストラはフェイジーをかばいました。「そうよね、
わたし
おし
私 がそう教 えてあげたのよね、フェイジー?」
さいしょ
し
「そんな事ぼく、最初 から知ってたさ。」
い
たす
「えっ、それって何?正直に言いなさいよ。私があなたを悪い夢から 助 けてあげたんで
しょ?」
は
おんなのこ
フェイジーは、ちょっと恥ずかしくて女の子 に助けられたとは言えませんでした。し
こころ
い
かし、 心 の中では“ありがとう”と言っていたのです。
ふつ か かん
りゅう
こと
たの
す
次の 2 日 間 、フェイジーはかわいそうな 竜 の事はわすれて 楽 しく過ごしましたが、
つぎ
よる おも
こと
お
その 次 の夜 、思 いがけない事が起きたのです。
じめん
した
はし
きかん しゃ
せきたん
フェイジーは、地面の下 を走 る機関車 のボイラーにシャベルで 石 炭 をくべている
ゆめ
む
はし
く
きてき
とつぜん
夢 を見ました。向こうから走 って来る機関車に汽笛をならすと 突 然 、ボイラーから、ル
と
だ
き
すす
なみだ
う
さけ
ーダが飛び出して来ました。ルーダは、 煤 だらけで、 涙 をいっぱい浮かべて叫 びまし
た。
たす
お
「 助 けて!フォーに追われてる!」
「フォー?フォーってだれだい?」フェイジーがたずねました。
おやぶん
おこ
にんげん
「フォーは、竜の 親 分 さ!親分を 怒 らせちゃったんだ。 人 間 とは友だちになっちゃい
たす
くらい
けない決まりなのに、よりによって人間を 助 けちゃったから、信じられない 位 怒っちゃ
な
たんだ!」ルーダは、泣きながら話しました。
きみ
なに
「そいつは、 君 に何 をしたんだい?」
ぼく
かざん
なか
ろう
と
「フォーは僕 を火山の 中 の牢 に閉じこめたんだ。助けて!助けてくれないと、もう君に
にど
あ
いき
ひ
つめ
は2 度と会えない!」そう 息 もきれぎれに言うと、ボイラーから火のついた 爪 があらわ
ひ
ひ
れ、ルーダをつかんで火の中へとグイグイ引っぱりこみました。
かあ
お
もちろん、フェイジーはルーダを助けてあげたかったのですが、お 母 さんに、起こさ
あさ
れてしまいました。そう、朝 が来たのでした。
ひる
もり
き ち
あつ
なに
昼 になると、フェイジーは森 の中の基地にみんなを 集 め、夢の中で 何 があったの
しん
か話しました。オビーはまたもやフェイジーの言うことを信 じようとせず、フェイジーの話
わら
と
しを 笑 い飛ばしました。
しんぱい
いき
たす
しかしアストラは 心 配 して、ため 息 まじりに言いました。「かわいそうなルーダ。 助
けてあげられないの?」
「でもルーダなしで、どうやって僕がフェイジーランドにいるかどうかって分かるの?」
まほう
じかん
し
「あら、“目ざめの魔法の時間”を知らないのかしら?知りたい?」
ことば
「し、知ってるよ、思い出せないだけさ!」っと、強がってみましたが言葉につまりました。
ねむ
かんぜん
さ
まほう
じかん
「 眠 りから 完 全 に覚める前に、ぼんやりしている“目ざめの魔法の時間”って言う時間
め
い
があるの。その時にね、目を閉じたまま自分の行きたい所に行けるように心の中で繰り
ねん
返し 念 ずるのよ。これがダメな時は、もう一つ方法があるのよ。じっと目を閉じたまま、
ね
くうちゅう
体を動かさないで、ベッドから起きあがったり、寝がえったり、 空 中 に浮いたりするイメ
ぬ
ージをするの。するとフワッと体から抜け出せて、行きたい所に行けるのよ。」
くうちゅう
う
すがた
かお
アストラは 空 中 に浮く 姿 を見せようとしましたが、とってもおもしろい 顔 をしてし
よこ
ぱら
わら
まったのでフェイジーとオビーは、横 っ腹 をかかえてゲラゲラ笑 い出しました。
ふた り
きず
はん
2 人は、 傷 つきやすいアストラを怒らせてしまい、アストラは、 半 ベソをかいてしま
い
いました。フェイジーは、「ごめん」ってすなおに言おうとしましたが、その時、森の中の
そとかべ
わら
ごえ
基地の 外 壁 からイヤな笑 い声 がしました。
「やい、小さいブタどもはどこだ?こんなもんこわしてやる!」と、スパーはさけびました。
そと
ふた り
ぼう
いし
き ち
外 を見ると、スパーとそのなかまの 2 人が棒 と石 で基地をこわそうとしていました。
だん
ところ
よ
アストラは、とびあがって 段 ボールのドアをやぶり、スパーたちの 所 にかけ寄りま
ゆび さ
した。そしてフェイジーたちを 指 差し、
とも
さけ
「このマヌケたちをやっつけて!もうアンタたちは、友 だちじゃないわ。」と叫 び、スパー
くる
たちといっしょになって、アストラは、狂ったように基地をこわしました。
まも
としうえ
フェイジーとオビーは、いっしょうけんめいにそれを守 ろうとしましたが、年上のスパ
ちから
ーの 力 にはかないませんでした。
かえ
しか
家に 帰 ってみると、フェイジーは、キズとあざだらけ。おまけに、おかあさんに 叱 ら
あら
れました。「また、ドロの中であそんでたのね?なんど洗 えばいいのかねー、お前は。」
フェイジーが何を言ってもムダでした。
おとな
ぐち
大人は、子どもの事を分かってくれません。フェイジーは、ムッとしてキズ 口 につい
あら
お
かんが
ゆう
はん
たドロを洗 い落としました。そしてどうやってルーダを助けるかを 考 えながら夕 ご 飯
を食べました。
夜ねる時には、“目ざめの魔法の時間”になにをするかをしっかりと思いえがいてか
ねむ
はい
よなか
ら、スーッと 眠 りに 入 りました。そして夜中に眠りがうすくなって目がさめかけた時、フ
そうぞう
なに
お
ェイジーはすぐにルーダのそばにいる自分を想像 しました。しかしどうやっても 何 も起
こりませんでした。
ね
次に、アストラが言っていたように体を動かさず、ベッドから起きあがったり、寝がえ
くうちゅう
ようす
えが
せいこう
ったり、 空 中 に浮いたりする様子を思い 描 きました。しかし、どれも成 功 しませんでし
た。
あきら
つぎ
でも 諦 めません。また 次 に“目ざめの魔法の時間”が来た時にがんばることにしま
した。なんとしてでもかわいそうな友だちを助けてあげなくてはいけません。
その夜、次に“目ざめの魔法の時間”が来た時には、もう朝がそこまで来ていました。
ゆめ
おも
だ
あまりにも 夢 がハッキリしていたので、はじめは“目ざめの魔法の時間”を 思 い出せま
せんでした。
おな
こと
さいしょ
でも、すぐに思いなおして夜中と 同 じ事 をしてみました。最初 はルーダのそばに行
き
そうぞう
くことを強く念じたのですが、効きませんでした。次に空中に浮く事を想像 してみたら、
今度はできたんです!空中にフワっとしたのです!
へん
かん
すごくハッキリしていて、 変 な 感 じがして、何かとてもこわくなってしまい、ベッドの
うえ
よこ
上 に横 たわる自分の体の中にもどって目を開けてしまいました。
「えっ、うわ!」フェイジーは、おどろいて言いました。
いっかい
アストラは、ウソをついていなっかたのがやっと分かりました。もう 一 回 やってみよ
よろこ
いさ
う、ルーダに会えるまで。そうしたらあの小さな竜を助けられる!フェイジーは 喜 び勇
の
ひといき
んで起き上がり、キッチンへ行って、リンゴジュースを飲んで 一 息 つきました。そして、
かなら
き
次の“目ざめの魔法の時間”には 必 ずフェイジーランドに行くと決めて、また、眠りにつ
きました。
まど
たいよう
のぼ
次に“目ざめの魔法の時間”が来た時、もう窓 の外には太 陽 が 上 っていました。フ
ところ
ェイジーはそのまま目を閉じて、ルーダの 所 にいる自分を心で強く思い描き続けまし
あな
た
た。フェイジーは、どうにかしようとしているうちに、気がつけばほら 穴 の中に立ってい
ました。
さけ
「やったー、できたー!」と、フェイジーは、おどろいて叫 びました。
みまわ
あつ
ようがん
みずうみ
ま
しま
あたりを見回すと、そこは 熱 い 溶 岩 の 湖 でした。その湖の真ん中には島 があ
つか
くさり
すわ
って、その島の真ん中に 疲 れきったルーダが 鎖 につながれて 座 っていました。
「あっ、やっと来てくれたんだ!助けて!」
も
こ
「すぐ行く!」フェイジーは、スイスイと燃えたぎる溶岩をとび越えて走り、ルーダをつな
う
あと
い
とき
いでいる鎖を石で打 ちはじめました。 後 もう少しと言 う時 に大きな溶岩のかたまりが
くうちゅう
みみ
とも
空 中 に浮かび上がりました。 耳 をつんざくようなおたけびと共に、メラメラとした火と共
りゅう
うし
む
に大きな 竜 があらわれ、その後ろに小さな竜の群れがあらわれました。がまんできな
あつ
いほど 熱 さが襲ってきました。
じゃあく
こぶん
邪悪なフォーとその子分たちでした。
い
や
ころ
「生きたまま焼き殺 されたくなければここから出て行け!」
りゅう
む
ねん
とも
フェイジーは 竜 の群れを小さくするように心で 念 じながら、「友だちは、友だちを見
こんかい
なに
お
すてたりはしない!」と叫びました、しかし 今 回 は、 何 も起こりません。
竜は、ただ笑いました。
「ハハハ、おれたちは大人だ。そんな子どもだましがきくか!」フォーは、どなりました。
らんぼう
も
ようがん
ひ
フォーは、おびえるルーダを 乱 暴 につかみ、燃えさかる 溶 岩 へと引きずりこもうと
しました。
すこ
フェイジーは、もう少 しであきらめる所でしたが、いい事を思いつきました。そうです、
こころ
ちから
つか
あな
こおり
心 の 力 を 使 って、燃えるほら 穴 を 氷 の穴にかえはじめたのです!
こご
て
するとどうでしょう。竜たちは凍 えてふるえ出し、フォーは、うっかりルーダを手から
はなしてしまいました。
かえ
むらさき
「かならず、し 返 ししてやるからな!」 フェイジーがけむくじゃらの 紫 の竜のルーダ
と
さ
おおごえ
に乗って飛び去ると、フォーは 大 声 で叫びました。
こいぬ
さむ
小ちゃい竜はネコや子犬のように毛むくじゃらだったので寒 さはヘッチャラだったの
です。
き
まんぞく げ
「これで、あいつらが来た時の逃げ場所が分かったよ。」ルーダは、満 足 気に言いまし
ゆき
ふた り
た。 雪 のつもった大きな山のてっぺんでキャンプファイヤーをたいて、 2 人はそれを
かこ
囲 んで座りました。つもった雪はみんなアイスクリームです。2 人は、座りながらアイス
クリームをほおばりました。
するととつぜん「フェイジー、アストラは好き?」と、ルーダがききました。
「だれ、アストラだって?そんな子ぜったい好きじゃないし・・・」
なかなお
「でもどうやったら、 仲 直 りできるか知ってるよ、ぼく。」
「いいよそんな事、べつに・・・」
けっきょく
まー、しかし友だちは、友だち。 結 局 ルーダは、どんな女の子でもフェイジーと仲
おし
よくなりたくなっちゃう方法を教 えました。
しあわ
朝になって起き上がり、フェイジーは 幸 せいっぱいで、オートミールを食べながら
じっこう
ルーダのアドバイスをどうやって実行するか考えていました。
マイケルおじさんからのメッセージ
しんあい
こま
た
親 愛 なるお友だちしょくん。これで君たちは困 った友だちを助けて、食べたいだけ
アイスクリームを食べる方法が分かったろ?
わす
忘 れないで、これはヒ・ミ・ツ。
いちばんたいせつ
まほう
君たちが思い出さなきゃいけない 一 番 大 切 な事は、“魔法の時間”さ。この時に、
かんたん
フェイジーランドに 簡 単 に行ったり来たりできるんだ。
ぜんぶ
分かったと思うけど、全部がすんなり行くと言うわけではないんだよ。フォーが出て
来たので、それはよく分かったんじゃないかな?フェイジーはまだまだやる事がいっぱ
いあって、ルーダがそれを助けてくれる。アストラは僕らのヒーローとケンカしておこっ
てるけど、もちろん何とかなるだろうね。
べんきょう
さてさて、フェイジーランドと、ぼくらのヒーローがこれまで 勉 強 した事はわすれな
いでね。