防衛アプリケーションでのRF干渉信号のストリーミング、解析

Keysight Technologies
航空宇宙/防衛アプリケーションでの
RF干渉信号のストリーミング、解析、再生
Application Note
はじめに
レシーバにbrick wallフィルタが使用され、増幅器やミキサによる歪みの発生は皆無、さらに、コマンド・センタ
がスペクトラムの変化を常に調整する、そのような完璧な環境が存在すれば、
「ジャム」という言葉は朝食か音楽
ライブのセッションでしか意味をなさないものになるはずですが、実際には干渉信号がなくなることはありません。
干渉信号には、意図的ではないものと意図的なものがあります。意図的ではない干渉信号はRF環境に常に存在し、
携帯電話、無線リンク、コードレス電話、地上波テレビ放送、医療電子機器など、さまざまなものが原因となり
ます。意図的な干渉信号とは、ビクティム・レシーバ(被干渉受信局)の動作を妨害する目的で作成された干渉信
号です。
ここでは、意図的な干渉信号を中心に説明します。最終目標は、不要な信号をなくすことです。
提案するプロセスには、以下の4つのステップがあります。
– フィールドでの信号の捕捉
– ラボでの解析
– 信号のシミュレーションと再生
– 干渉信号を除去する手法
意図的な干渉信号は間欠的、かつ、過渡的な現象であるため、信号を数秒、数分、または数時間、捕捉しなけれ
ばならない場合があります。解析中に全容を把握するには、捕捉データはギャップフリーでなければなりません。
これはすべて、キーサイト・テクノロジーとX-COM Systems社の市販(COTS)のハードウェアとソフトウェアを
使って実現できます。このシステムを使用すれば、テラバイト(TB)のデータから必要なデータを抽出して、詳細
な解析を行うことができます。また、元の信号忠実度がプロセス全体(捕捉、解析、シミュレーション、再生)を
通して保持されます。すべての構成品がCOTSであるため、ソリューションの性能がトレーサブルで、従来のア
プリケーションの再配備も容易です。
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問題
ソリューション
一般的な問題として、例えば通信を妨
害したり、レーダ・システムをジャミ
ングしたり、ビクティム・レシーバを
だましたり妨害したりする目的で、意
図的な干渉信号が絶えず送信されてい
ます。このような信号は、単発の間欠
的な過渡信号であるため、原因を表示
したり特定したりすることは通常、困
難です。
上記の問題で特に難しいのは、障害を
引き起こす信号を含む全てのスペクト
ラム・データを捕捉して、解析するこ
と で す。 こ の た め に は、 数 秒、 数 分、
または数時間、スペクトラム・データ
を収集しなければならない場合があり、
信号捕捉
RFダウン
コンバート
波形の
デジタイズ
ギガバイト(GB)単位またはテラバイト
(TB)単位のディスク容量を消費する可
能性があります。
ほとんどの場合、記憶容量は、最も簡
単に解決できます。より難しいのは、
忠実度の高いデータを連続して収集す
ることです。膨大なギャップフリー・
データの収集と保存に成功した後は、1
回以上の干渉イベントを特定がするこ
とが課題になります。タイム・ドメイン、
周波数ドメイン、変調ドメインにて有
意な信号情報を各イベントから抽出す
ることで、イベントを正確に理解する
ことができます。
キーサイトのソリューションは、「捕捉
された干渉信号は情報である」という
考え方に基づいています。有意な信号
情報の抽出が、迅速で正確であればあ
るほど、ビクティム・システムへの影
響をより正しく理解することができ、
解決策の作成と配備にかかる時間を短
縮できます。
図1に、ソリューションのブロック図を
示します。前述のように、本システムは、
プロセスの主要なステップである捕捉、
解析、シミュレーション、再生に対応
しています。
解析とシミュレーション
データの
フォーマット
と保存
図1. 捕捉された干渉信号を実用的な情報に変換するためのシステム・ブロック図のフロー
信号解析と
信号作成
信号再生
波形発生
RFアップ
コンバート
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信号捕捉と解析
X-COM IQC5000Aデータ・
信号の捕捉/解析では、シグナル・ア
ナライザ、データ・レコーダ、外部デー
タパックの3つのハードウェアを使用し
ます。これらを、図2の左端と中央のセ
クションに掲載しています。
Keysight Xシリーズ シグナル・
アナライザ: この図には、キーサイ
トの最高性能のシグナル・アナライザ
であるPXAを掲載しています。必要な
性能に応じて、MXAまたはEXAを使用
することもできます。Xシリーズ シグ
ナル・アナライザをフロントエンド・
ダウンコンバータおよびIFデジタイザと
して使用すれば、最初のプロセスであ
る信号捕捉から、信号忠実度を最大化
することができます。
レコーダ:本レコーダに、シグナル・
なデータ・セットのプリプロセッシン
アナライザからのデジタルI/Qサンプル
グと、疑わしい信号の位置特定があり
の ス ト リ ー ム が 入 力 さ れ ま す。
ます。Spectro-Xの検索エンジンで波形
IQC5000Aは、I/Qデータをフォーマッ
を識別して「フィンガープリントを採
トし、外部マーカ・イベントでタグ付
る」ことができ、
「切り取りと保存」機
けし、タイム・スタンプとGPSスタン
能を使って、
89600
ベクトル信号解析
プを追加してからデータパックに送信
(
VSA
)
ソフトウェアで信号を再生する
します。
ことができます。
X-COMデータパック:
本ユニットは、最大2 TBの内部容量、 Keysight 89600 VSAソフトウェ
ア: 業 界 最 高 の ベ ク ト ル 信 号 解 析
または8 TB/16 TBの外部容量で構成で
(
VSA)ソフトウェアを使えば、非常に
きます。
複雑な信号を複数のビューで表示でき
ます。70種類を超す規格と信号タイプ
ソリューションのソフトウェアを使っ
をサポートする機能が内蔵されていて、
てさまざまなポストプロセッシング動
ビット・レベルの変調解析が可能です。
作が行えます。
解析とシミュレーション
信号捕捉
RFダウン
コンバート
X-COM Spectro-X信号解析ソ
フトウェア: 主な機能の中に、大き
波形の
デジタイズ
Keysight PXA Xシリーズ
データの
フォーマット
と保存
信号解析と
信号作成
X-COM IQC5000A
シグナル・アナライザ
(データパックおよび
再生モジュール内蔵)
信号再生
波形発生
RFアップ
コンバート
Keysight MXG Xシリーズ
またはPSGマイクロ波信号発生器
ソフトウェア・ツール:
Spectro-X
89600 VSA
RFエディタ
図2. COTSのハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより、忠実度の高い、捕捉、解析、シミュレーション、再生を実現
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信号のシミュレーションと再生
システムには、シミュレーションと再
生用に、信号作成ソフトウェア、ベー
スバンド・ジェネレータ、ベクトル信
号発生器が含まれています。これらを、
図2の一番下と右端に掲載します。
X-COM RFエディタ:本ソフトウェ
アは、記録されたファイルを含む信号
シナリオを作成するために使用できま
す。機能として、波形のクリッピング、
ステッチング、データ変換、フィルタ
リング、ルーピングがあります。得ら
れた波形をIQC5000Aにダウンロードし
て再生することができます。
X-COM IQC5000A再生モジュー
ル:本ベースバンド・ジェネレータは、
Keysightベクトル信号発生器:
具体的なモデルとして、PSG、EXG、
および新しいMXGがあります。ベク
トル信号発生器は、I/Q変調をアップ
コンバートし、無線信号の信号源と
して機能します。
ベクトル信号発生器のI/Q変調入力をド
ライブするために使用します。
結果:信号捕捉と解析
図3. 捕捉したスペクトラム・データの観測。注目すべき4つの領域を抽出
実際の干渉信号シナリオに基づいた簡単
なケース・スタディを使って、ソリュー
ションの機能を説明します。PXAシグナ
ル・アナライザを使用して初期の信号収
集を行い、40 MHz帯域幅の捕捉信号が
IQC5000Aレコーダと2 TBデータ・パッ
クにストリームされます。ギャップフ
リーで10分間捕捉し、120 GBのデータ
を作成しました。
干渉信号からの情報
Spectro-Xを使用して捕捉データを観測
し、注目すべき干渉信号を確認します。
600秒間、フルに捕捉した信号に対して
振幅対時間のオーバビュー測定を実行
した結果、注意が必要になりそうなふ
るまいをしている4つの期間が抽出され
ました(図3)。
約400秒∼ 500秒の領域を解析すると、
この信号は802.11b Wi-Fi伝送であるこ
とがわかりました。このセグメントを
除 去 す る よ う に 設 定 す る こ と で、
Spectro-X内の検索ツールの焦点を、動
きの激しい残りの50 ∼ 140秒、230 ∼
350秒、510 ∼ 540秒の領域に絞り込む
ことができます。その結果、周波数ド
メイン解析によって以下の情報が得ら
れました。
– 領 域1: 約50 ∼ 140秒 の ス パ ン に は
合計137,000個の搬送波信号が含ま
れていました。
– 領域2:約230 ∼ 350秒のスパンでは、
IEEE 802.11gトランスミッタが動作
していましたが、未知の信号も、オー
バビューに鮮明に表示されました。
この未知の信号は、約5秒間発生して
います。
– 領域3:約510 ∼ 540秒のスパンでは、
任意の搬送波信号が20,000回発生し
ました。
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領域2に焦点を絞り込むことで、図4に
示すように、スペクトログラムおよび
スペクトラム残光表示フォーマットで
興味深い結果が得られました。スペク
トログラム表示(トップ)で、2個の干渉
バースト信号が規則的な搬送波信号の
スペクトラムを妨害しています。
Spectro-Xの「Standard Search(規格
の検索)」機能を使用して、802.11g信
号と思われる規則的な搬送波を識別し
ました。図5に示すように、検索パラメー
タには、「Confidence Limit
(信頼度リ
ミ ッ ト )」( こ の 場 合、40 % に 設 定 )、
「Candidate Types
(候補となる規格の種
類 )」( こ こ で は802.11a/gに 設 定 )、
「Time Limits(キャプチャ・データ内の
観測したい時間範囲)」(250 ∼ 300秒
に設定)があります。
「Confidence Limit
(信頼度リミット)」
により、理想的な無線規格と類似して
いる信号を抽出することができます。
このリミット値は、理想的な無線規格
信号を基準として、抽出したい捕捉信
号の基準信号に対する相関性レベルを
定義したものです。100 %未満の値を
使用することで、干渉信号がビクティ
図4. スペクトログラム(トップ)で、疑わしい干渉信号が規則的な搬送波信号の部分に侵入
ム信号に与える影響の深刻度を判断す
る手がかりが得られます。
この場合、検索で、802.11gの基準信号
と類似した92,000個を超える信号のイ
ンスタンスが発見されました。予想どお
図5. 「Standard Search
(規格の検索)」ダイアログ・ボックスを使用し
て、候補となる無線規格、相関レベルなどのパラメータを選択
り、干渉信号が現れたときに深刻な劣化
が発生した領域がありました。図6に示
すように、相関が80 %以上から50 %未
満に低下しています。
図6. 検索結果のサマリで信頼度の高い領域と低い領域を抽出
07 | Keysight | 航空宇宙/防衛アプリケーションでのRF干渉信号のストリーミング、解析、再生 - Application Note
相関性の低い領域ではそれぞれ、スペ
クトログラム表示を使用して結果を解
析しました(図7)。これにより、干渉信
号が動作している5秒のスパンが特定さ
れました。
関連するI/Qデータを89600 VSAソフト
ウェアにエクスポートし、さらに詳細
に解析しました。干渉信号が出現する
前までは、図8に示すように、変調品質
の主要なインジケータはすべて良好で
した。干渉信号がアクティブになると、
最悪の影響が現れました。干渉信号が
送信されるにつれ、パイロット搬送波
とペイロード信号は完全に遮断されま
した(図9)。
シナリオの背景
図7. Spectro-Xの60 μs
(トップからボトム)スペクトログラム表示で、802.11g信
号の基準シーケンス(3 ∼ 11 μs)とペイロード(11 μs以降)を妨害している干渉信号
を表示
このシナリオは、インターネット・カ
フェでのものです。意図的でないジャ
マーは電子レンジによるもので、スタッ
フがペストリーやサンドイッチを温め
るたびにWi-Fi接続が遮断されました。
これは比較的無害な状況ですが、無線
機通信、テレメトリ・リンク、航続距
離演算、シグナル・インテリジェンス
(SIGINT)、システムの相互運用性など
に影響を与える干渉信号が関係するシ
ナリオにもここで示した手順が有効で
す。最も頻繁に使用される以下の3つの
一般的なシナリオ、戦域で記録した信
号をラボで再生、ラボ記録した信号を
ラボで再生、ラボで作成した信号の特
定範囲の再生にも対応しています。
図8. 干渉信号出現前:OFDMコンスタレーション表示(左上)、EVM
(右上)、および
スペクトラム(左下)は正常
図9. 干渉信号がアクティブ:OFDMコンスタレーション表示(左上)が不規則になり、
EVM(右上)は不安定、周波数スペクトラム(左下)に大きなスパイクが存在
08 | Keysight | 航空宇宙/防衛アプリケーションでのRF干渉信号のストリーミング、解析、再生 - Application Note
まとめ
関連カタログ
さまざまな種類の干渉信号がクリティ
カルな防衛システムに影響を与える可
能性があります。したがって、デザイ
ナには、電磁界スペクトラムで実際に
何が起こっているかを解析できる「RF
鑑定ツール」が必要です。有効な緩和
戦略と解決策を開発する最初のステッ
プは、有益なRF鑑定情報を抽出するこ
とです。
– Brochure:『Xシリーズ信号解析』、カタログ番号5990-7998JAJP
こ こ で 示 し た よ う に、 キ ー サ イ ト と
X-COM社は連携して、広い周波数範囲
で高い信号忠実度を実現し、ギャップ
フリー・データを長時間連続して捕捉
できる測定/解析システムを提供して
います。これらの信号を捕捉した後は、
特定の種類の干渉信号を検索し、詳細
に 解析す るこ と が で きま す。 信号は、
ソフトウェアで処理して、別の干渉信号
シナリオをシミュレートすることもで
きます。さらに、記録したデータは、電
磁界環境
(EME)シミュレーションや相
互運用性テストで使用するために、その
まま、再ブロードキャストできます。
– Brochure:『PXA Xシリーズ シグナル・アナライザ N9030A』、
カタログ番号5990-3951JAJP
– Brochure:『89600 VSAソフトウェア』、カタログ番号5990-6553JAJP
– Solution brochure:『RF Interference Troubleshooting』、
カタログ番号5990-9511EN
– Solution brochure:『RF Interference Analysis』、
カタログ番号5990-9243EN
– Solution brochure:『Spectrum Management Solution』、
カタログ番号5990-9089EN
– Application note:『Capturing Events of Long Duration or High Data Volume』、
カタログ番号5990-7734EN
– X-COM、Spectro-X、RFエディタの詳細については、
www.xcomsystems.com をご覧ください
このソリューションを特定のニーズに
利用できるかどうかについては、キー
サイトのソリューション・パートナー
であるX-COM社にお問い合わせくだ
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www.keysight.co.jp/find/xcom
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キーサイトとキーサイトのソリューション・
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有の問題に対処できるように支援します。
プログラムの詳細、キーサイトの
パートナー/ソリューションについては、
以下のWebサイトをご覧ください。
www.keysight.co.jp/find/solutionspartner
X-COM Systems社は、システム・デザイン、
信号シミュレーション、テスト・アプリケー
ション用のRF信号の記録/解析/再生ソ
リューションを提供しています。
www.xcomsystems.com
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ケーション、サービスの詳細については、
以下のWebサイトをご覧ください
www.keysight.co.jp
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myKeysight
www.keysight.co.jp/find/mykeysight
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© Keysight Technologies 2013 -2015
Published in Japan, January 6, 2015
5991-0768JAJP
0000-00DEP
www.keysight.co.jp