DART-MS を用いたフレーバーリリース現象測定技術の開発 〇佐川岳人 1,工藤由貴 2,西口隆夫 2,川向孝知 3,塩田晃久 3,渡辺淳 4,星大海 4 1 エスビー食品(株),2 バイオクロマト(株),3 エーエムアール(株),4(株)島津製作所 【目的】喫食時に感覚として認識する食品の香りには、食物の物理的変化に起因するフレ ーバーリリース現象も大きく関与すると考えられるが、その現象は数秒間という短時間での 変化であるため、それを連続的に質量分析計で検知する事は困難であった。そこで、本研 究では、まず喫食時に近い状態で気相中に分散した揮発性成分を、秒単位という短時間 で迅速かつ安定的に測定できる手法の開発を行った。さらに、その手法を用いて、フレー バーリリース現象の検知・計測ツールとして適用できる可能性について検証を行った。 【方法】香りを感覚として感じる状況を想定して、大気圧下でのイオン化が可能でサンプリ ングからの時間追従性の高い、リアルタイム直接質量分析法(Direct analysis in real time mass spectrometry analysis: DART-MS analysis)を採用した。システムは、イオン源に DART-SVP (IonSense Inc.)を採用し、質量分析計としては LCMS-8030 (島津製作所)を 使用した。揮発性成分の効率的なイオン化と質量分析計への取り込みを行うために、揮発 成分分析用デバイス(バイオクロマト)を用い、分析試料中のとなる揮発性成分は窒素ガス を用いて分析用デバイスまで移送した。試料としては、スペアミントをイメージして L-カルボ ンと D-リモネンを任意の濃度で添加して作成したモデルチョコレートを用いて、溶解時の フレーバーリリース現象の確認を行った。モデルチョコレートは、乳糖 (50%)、グラニュー糖 (10%)、ラウリン系加工油脂 (40%) を用いて調整した。L-カルボン、D-リモネンの添加濃度 はそれぞれ L-カルボンの濃度を 0,1%に固定し、D-リモネンの濃度を 0, 0.01, 0.03, 0.05 % となるように添加し、計4種類の試料での測定を行った。 【結果】モデルチョコレートの溶解過程で、L-カルボンおよび D-リモネンのイオン強度の増 加現象が確認することができた。また、L-カルボンと D-リモネンの気相へのリリース挙動は、 傾向が異なるものであった。本分析法は、揮発性成分の迅速分析法として有効であり、フ レーバーリリース現象をリアルタイムに計測するための有用な手法となりうることが示唆され た。
© Copyright 2024