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MNEXT
ロングテール市場下のネクスト・マーケティング
-ローカルの強みを生かしたブランドマーケティング
構成
はじめに
1.最近のヒット商品の特徴
2.現代の市場、顧客、ローカル
3.ブランドマーケティングの展開
おわりに
はじめに
「ローカルの強みを生かしたブランドマーケティング」というテーマですが、大きく四
つに分けてお話します。ひとつは、最近のヒット商品の特徴を概観した上で、これから商
品・サービスを売っていくためには、これまでのマーケティングの基本的な考え方を大き
く修正する必要があるという話です。お客様のネットワークが非常に重要であるというの
が結論ですが、このことを含め、現在の市場、お客様をどう捉えればいいのかを整理しま
す。二番目は、その上で地域の強みを生かしたマーケティングをどう考えていくのかとい
う話をします。三番目は、これまでの旧態依然としたレガシーなマーケティングの成功原
則とは異なる新しいマーケティングの原則についてです。特に4Pについての基本的な考
え方をお話しします。最後に、アメリカで生まれたマーケティングの本質、ブランドマー
ケティングの成功の鍵とは何かについてお話しします。
copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
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1.最近のヒット商品の特徴
(1)最近のヒット商品
2005 年のヒット商品として、リバティジャパンの「かむかむレモン」やシャープの「A
QUOS」など 30 の商品があげられます(図表1)。
図表1.ヒット商品の事例(2005~)
商品名
(企業名)
Q10AA
(資生堂薬品)
かむかむレモン
(リバティジャパン)
暴君ハバネロ
(東ハト)
男前豆腐
(三和豆友食品)
キットカット
(ネスレ)
みち子がお届けする
若狭の浜焼き鯖寿司
(海の恵み)
商品イメージ
販売実績
商品名
(企業名)
商品特徴
・04年売上105億円
・04年9月健康食品
売上でトップ
・美容、抗酸化がキーワード
のサプリメント
・CVS週販平均の倍の
売れ行き(14個/週)
・柔らかな食感のチューイング
キャンディ
・噛めば噛むほど味が変わる
・10億円がヒットの
・世界一辛いハバネロ唐辛子を
目安のスナック菓子で 使った激辛スナック
25億円を販売
・暴君ハバネロの物語も展開
・1日で18,000パックの
売り上げ実績を持つ
・おたまで掬った形の豆腐
・自社サイトではテーマソング
も流す
・チョコスナックNo.1
・鹿児島方言「きっと勝っど」と
だが、受験シーズンは
ゴロ合わせで受験の縁起菓子に
1.5倍の売上
・月間100万円がヒット
・福井でしか食べられない伝統
の目安だが羽田だけで
料理・浜焼き鯖寿司の空弁
月間270万円
商品イメージ
販売実績
商品特徴
AQUOS
(シャープ)
・04年度の販売台数
は120万台
・シェア40%を見込む
・30年の液晶技術により、
他社に真似できない美しい
画面。亀山工場のブランド化
iPodmini
(アップル)
・02-04年までで
全世界で1,000万台
を販売
・HDDを持ち歩く、ホイール操作、
カラフルなデザイン等、常識を
破った携帯音楽プレーヤー
玄人志向
(バッファロー)
・看板商品のグラフィック
ボードの売上はNo.1
を維持し続けている
・マニュアルなし・サポート
なしのPC関連パーツ
D70
(ニコン)
・04年、80万台販売
・シェア30%を見込む
・処理スピード、連写枚数、
起動時間などで秀でる普及
型デジタル一眼レフカメラ
ハンドロールピアノ
(山野楽器)
・04年6万台を販売
・王様のアイデアの売上
No.1の実績も持つ
・くるくる巻いて持ち運べる
49鍵、100種の音色を持つ
電子ピアノ
歌うトランペットEZ-TP
(ヤマハ)
・本物のトランペットが
年間1.2万台の市場
・半年で5,000台を販売
・演奏経験が無くても誰でも
簡単に吹ける電子楽器
コペン
(ダイハツ)
・発売15ヵ月で計画の
2倍の1万7,000台を
受注
・軽のオープンツーシーター
・細部は職人が作り込む ティーダ
(日産自動車)
・発売後2週間で
1万台を超える受注
・サニーの後継。1500cc小型
セダン。ハイクラスミディ
アム・コンパクトを実現
マジェスティ
(ヤマハ)
・02年2万台を出荷
・クラスシェアは40%程度
・快適性と走行性能、洗練さ
れたデザインを追求した
大人向けの大型スクーター
ハーレーダビッドソン
(ハーレージャパン)
・04年出荷台数約1.2
万台。401cc以上の
国内シェアNo.1
・頑健な個性と自由を明確に
表現する大型バイク
・同じ名前を持つ2人の少女
の物語。巧みな心理描写に
引き込まれる
スープストック
(スマイルズ)
・99年1号店オープン後、 ・「無添加・食べるスープ」が
26店舗に急拡大
コンセプトのスープ専門店
HEARTLAND
(ハートランド)
・月商3,200万円
売上高日本一のバー
・六本木ヒルズの隠れ家的存在
・主力商品はハートランドビール
舞妓はんのおしろい
(サナ)
・年間販売予定5万個
を上回る20万個を
5ヶ月で販売
・京都・上七軒の舞妓、梅わか
さんの協力で開発された桜色
のパウダー、香りのおしろい
ラミシール
(ノバルティスファーマ)
・初年度(97年)40億が
02年には270億へ
・爪白癬治療薬
・医師の処方が必要な医療用
医薬品の成分転用のスイッチOTC
三九本草坊医薬の
ティーバッグ式漢方薬
(999)
・当初、月1,000箱の売
上がティーバック化
で月1万2,000箱へ
・カップの湯で煮出す漢方薬
ナナ
(矢沢あい)
・単行本12巻、2,200万
部を販売(90億円)
超立体マスク
(ユニチャーム)
・04年120億円の市場
で36億円の売上
・増産が間に合わず
・生理用品の不織布製造技術
を活かした立体構造マスク
電車男
(中野独人)
・小説50万部
・秋葉原オタクの男性が電車
・2ヶ月間でスレッドに で酔っ払いから助けた女性
3万8,000件の書き込み と恋をしていく物語
白鳳堂の化粧筆
(白鳳堂)
・海外6割、国内5割
のシェアを誇る
・04年度売上11億円
・熟練職人の手作り化粧筆
・いたち、リス等の獣毛のみ
を使用
冬のソナタ
(NHK)
・最終回の視聴率21%
・小説122万部
・ソフト売上45億円
・美しい景色、透き通る言葉、
主人公達の純愛
萌える英単語
もえたん
(三才ブックス)
・年間発行部数18万
・04年アマゾンの和書
部門の第一位
・二次元美少女がナビゲート
する英単語集
・シリーズ5作品で
250万部を販売
・素早い単純計算や音読で
脳を刺激するトレーニング帳
サマンサタバサ
(サマンサタバサジャパン)
・売上高2005年2月期
で102億円
・5年間で4倍近い成長
・海外高級ブランドを思わせる
デザインのバッグ・宝飾品の
製造販売
RD-Style
(東芝)
・1機種で2万台/年で
ベスト5に入るが、
2機種で達成
・電子番組表「WEPG TM」や
「ネットdeダビングTN」など、
PC連携に注力した唯一の機器
脳を鍛える大人のドリル
(くもん出版)
今年の動きでは、シャンプー・リンス
図表2.ヒット商品の事例(2006~)
で、98年末から首位を守り続けたユニリ
ーバ・ジャパンの「ラックス スーパーリ
ッチ」を久しぶりに逆転した、資生堂の
「TSUBAKI」、本も映画もヒットしてい
る「ダヴィンチ・コード」、任天堂「DS
ライト」があります。また、
「脳トレ」も
凄い勢いで売れてます(図表2)。今もヨ
ドバシ新宿西口本店のゲーム館では行列ができます。商品が入荷すると、「いま商品が入荷
しました。これからご案内させていただきます」と西口本店の玄関でアナウンスが入りま
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すが、それを合図にぞろぞろと行列を作ります。販売員もくたくたです。皆さん同じ質問
をするからです。「在庫はありますか」「白はありますか」「ありません」。それをずっと毎
日、電話でもやり続けています。これが脳トレの現実です。それから表参道ヒルズです。
開業から僅か1年で日本の人口にも匹敵する約1億人を集客した森ビルの六本木ヒルズに
続き、表参道ヒルズもお客様を集めています。最近のヒット商品の一例として、こうした
ものが挙げられます。
(2)ヒット商品の共通点
さて、私どもでは、ヒット商品の独自分析を毎年行っていますが、最近のヒット商品は、
これまでの傾向とは違うということが指摘できます。これまでのヒット商品というと、1970
年代の第二次消費革命時には、カラーテレビ、クーラー、カーの3C が代表的です。また、
近年では視聴率が 50%を割り込み、凋落が喧伝されていますが、NHKの紅白歌合戦は、昔
は 70%台の視聴率を誇っていました。過去のヒット商品といえば、誰もが知っている商品・
サービスであったということができます。
しかし、最近のヒット商品はどうも様子が違います。これを、私どもなりに整理してみ
ると、つぎの四つになります。
ひとつは、非常に趣味性が高い商品・サービスだということです。逆にいうとオタク好
みともいえます。「男前豆腐」というのが大ヒットしています。以前は三和豆友食品が、今
は男前豆腐店という分社独立した企業が製造販売しています。この「男前豆腐」は、阪神
百貨店から売りに出されています。同社の「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」も大ヒットし
ています。シェアが約 12%あります。お豆腐の好きな人は本当に豆腐が好きでよくご存知
かもしれませんが、こういうものがヒットしているということを知っている人は非常に少
ないと思います。
ふたつは、マス広告の投下量が非常に少ないという特徴があります。昨年のヒット商品、
資生堂の「Q10AA」は、ドラッグストア 10 社を組織化して販売に火を点け、マス広告を投
入したのは発売時から数ヶ月経過してからでした。マス広告の投下量に依存せずにヒット
した商品が多いことが指摘できます。
三つめに、取扱店が非常に少ないことです。例えばスーパーや商店街の中で、すぐ買える
ような商品・サービスではないということです。日本全国に 1,500 の商店街があり、スー
パーは1万店舗を数えますが、そういうところには置いていない。すぐ手に入るものでは
ないというのが特徴です。
最後に、相対的に高価格であるということです。例えば、豆腐はスーパーでは2丁で 100
円程度です。
「豆腐屋ジョニー」は1丁 320 円と、普通の豆腐より3倍は高い値段です。そ
れでも飛ぶように売れています。
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このように整理すると、これまでのヒ
図表3.ヒット商品の共通点
ット商品とは違うという印象を強く受け
趣味性が高い(「オタク」好み)
趣味性が高い(「オタク」好み)
ざるを得ません。まず、商品の趣味性が
マス広告の投下量が少ない
マス広告の投下量が少ない
高く、好き嫌いで選ばれる商品だという
ことです。これまでの考え方では、すべ
取り扱い店が少ない
取り扱い店が少ない
ての人に受けるものをつくるということ
がベースでした。しかし、
「これは非常に
相対的に高価格である
相対的に高価格である
オタク性が高いものではないか」と言わ
れるような商品・サービスがどんどん売れています。また、これまでの定石では、よいも
のを安くして、大量宣伝広告をし、これに合わせて取扱店への配荷量を最大化して売って
いくのがよいとされていたわけです。ところが、最近のヒット商品では、ヒットしてから
広告したり、また広告費も十分絞り込まれています。任天堂「DS ライト」も松嶋菜々子を
使っていますが、これもヒットした後でテレビ広告を投下しています。チャネルにしても、
スーパーを敢えて取扱店とせず、相対的に高価格設定です。このように、最近のヒット商
品は、これまでの傾向とはだいぶ違うことが指摘できます。
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(3)成功の分岐点
なぜこのようなことが起こったのか、成功の分岐点という視点で整理してみます。近年の
ヒット商品が、どんな層に入っていったのかというのをトレースしてみると、ネットワー
クの入り方が違うということが分かってきました。どのように商品の情報が共有され、お
客様の間でどのように情報が伝わっているかという、情報の伝わり方と情報の流れ方に成
否が大きく左右されるということが分かってきました。
まず、マス・ネットワークです。これはマスに向けて大量の広告宣伝を行い、一挙にも
のを売っていくという売り方です(図表4)。他社に真似のできない原料で差別化した商品
を作り、それを圧倒的な宣伝量で告知し、告知と同時点に店頭で配荷が最大になるように
するものです。こうしてつくってきたものがナショナルブランドです。キッコーマンであ
り、キリンビールであり、松下であり、資生堂のブランドということです。マス・ネット
ワークでのお客様の情報の入り方は、ある人からある人に一方向で情報が流れていくとい
うものです。肝心なお客様同士の横の情報共有というのがありません。これが、森永製菓
の「小枝」、「ハイチュウ」やスバルの「インプレッサ」などのお客様への入り方だったわ
けです。つまり個に入っていくような入り方で、魚の漁獲方法にたとえれば、投網を投げ
るようなお客様への入り方だったわけです。
図表4.成功の分岐点
1
―顧客ネットワークの違い
マス
マス
ネットワーク
ネットワーク
MN
MN
2
ランダム
ランダム
ネットワーク
ネットワーク
RN
RN
スモールワールド
3 スモールワールド
4
„水平的な関係による情
報伝達が行われる。規則
性はあるが、時に遠方へ
一気に伝達、更に伝達
先で近隣に伝達される
„階層的な関係による情
報伝達が行われる。「ハ
ブ」的な存在の人による
情報伝達がなされる
ネットワーク
ネットワーク
SWN
SWN
スケールフリー
スケールフリー
ネットワーク
ネットワーク
SFN
SFN
互いの
やりとりは
ない
„既存のマス宣伝。情報伝
達は一方向であるためリ
ンクが弱いと考えられる
„全くランダムなコミュニケー
ション。
„情報伝達プロセスの予測
が困難
小枝
ハイチュウ
インプレッサ
多様で分散的な
市場の商品
サービス
かむかむレモン
RD-Style
キットカット
ティーダ
ベガ
iPod mini
ディーガ
アクオス
NANA
ネットワークウォークマン
電車男
ところが、それとは違う入り方をしている商品・サービスがあります。スモールワールド・
ネットワークやスケールフリー・ネットワークというものです。これらが、誰も知らない
ヒット商品を生み出しています。例えば、歌謡曲で 100 万枚の大ヒットでも、世代間では
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共有されない歌があります。私は、突然、ジャニーズファンになり、亀梨君や山下君が好
きで、「青春アミーゴ」や「抱いてセニョリータ」を「いい歌だ」と思っています。女子中
高生には分かって貰えると確信していますが、会社ではなかなかわかってもらえません。
でもミリオンセラーとなり、大ヒットしています。そういう構造になっているというのは、
実は、スモールワールド・ネットワークやスケールフリー・ネットワークと言われるよう
なネットワークに入っていっているんだということです。
私どもの分析では、
「かむかむレモン」や東芝「RD-Style」、シャープ「AQUOS」、日
産「ティーダ」、ソニー「WEGA」や「ネットワークウォークマン」の一部が、スモール
ワールド・ネットワークの中に入っていっていました。また、スケールフリー・ネットワ
ークの代表的な事例として、ネスレの「キットカット」があげられます。これは、何も広
告宣伝をしたわけではなく、自然発生的に九州から大ヒットしてきました。コンビニでチ
ョコレートを買うのが女子高生の楽しみのひとつですが、鹿児島弁の「きっと勝つど」と
いう語呂合わせから、受験生の縁起担ぎの話題にも上り、そういうネットワークからヒッ
トしていったということです。また、アップルの「iPod mini」もスケールフリー・ネット
ワークに入りヒットしました。
「iPod mini」のマーケティングは、お洒落な若者が集まる裏
原に「iPod mini」を置いていくことでした。同じような事例では、サントリーのアイスコ
ーヒーに参入時の大田区でのサンプリングがあげられます。缶コーヒーのヘビーユーザー
であるブルーワーカーが多いのが大田区です。中小企業の人たちがものづくりで汗を流し
ている地域です。そういう人たちにサンプリングしていくわけです。それでどんどん広が
っていった。その結果、
「ボス」というブランドをつくっていったわけです。
結論からいうと、広くお客様に受け入れられたいと考えるなら、一方的なマス・ネットワ
ークより、スモールワールド・ネットワークあるいはスケールフリー・ネットワークに入
っていく仕組みをつくった方がいいということです。
では、スモールワールド・ネットワークというのは何かというと、ダンカン ワッツらが
提唱していますが、一見、全然つながっていない人同士でも、大体5人を介すると必ずつ
ながっているという理論です。情報は、1人ずつ、1人ずつというように、伝えていかな
いと伝わらないと思えるのですが、1人の人に入れば、情報がワープしていき、ワープし
ていくことによってどんどん情報が伝わっていきます。それがスモールワールド・ネット
ワークということです。理論的には、リンクする、あるいはリーチという言い方をします
が、こうした特性を持った人をつかまえれば、その人が自動的にどんどん情報を流してい
きます。マス宣伝広告というのはそれを無視して一挙に認知を広げていくものですが、そ
れよりも、お客様がお客様に伝えてくれるネットワークを使っていくということが最近の
ヒット商品の大きな特徴であるということが分かってきました。「男前豆腐」は、未だにマ
ス広告は行っていないと思います。では、なぜはやったのか。北海道の国産大豆 100%を使
って味が濃厚で、価格も高いのですが、うまいに決まっているわけです。一度食べれば絶
対忘れない。後は、どうやってお豆腐の好きな人に食べて頂くかということと、どうやっ
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たら他社製品との違いが分かってもらえるかという、それだけを考えればいいわけです。
そこで考えていくと、お豆腐好きな人は、スーパーでなんか買いません。百貨店で買う。
ならば、阪神百貨店に置けばいいじゃないかということになります。さらに、店頭で分か
ってもらうにはどうしたらいいかと考えます。これまでの豆腐は四角のパッケージで白ば
っかりでつまらない。売り場を真っ黒にしてしまえ、そこに男という字を書け。そうする
と圧倒的に目立つわけです。こうして、豆腐好きのお客様のネットワークを使ってどんど
ん広がっていく。世の中におもしろい豆腐がある、ジョニーというものがある、男豆腐と
かというのもあって、変わっているけれど、味が濃くておいしい、今まで食べたことない
味だ。そんなふうにして情報が流れていくわけです。こうしたネットワークを使うという
ことです。マーケティングとしては、スモールワールド・ネットワーク、あるいはスケー
ルフリー・ネットワークというものをうまく使いながら、一切宣伝広告をしないで、イン
ターネットの情報提供だけで豆腐の世界観というものを表現するだけで大ヒットを生み出
し、2年で売上二十数億円達成という、ビジネス成功物語であるわけです。
こういうマーケティングは、実は強者に勝てるマーケティングということです。例えば、
ビール業界では、200~300 億円の広告宣伝投下量がないと参入できないのですが、そうい
った広告宣伝投下量が参入障壁になっていたところでも、勝てるチャンスができてきたと
いうことです。あるいは今までブランドができなかったところでも、できるようになって
きたというです。ブランドができない領域というのは、プレハブ住宅や家具などの業界が
ありますが、新しいブランドをつくれる領域ができ、同時に、弱者が強者に勝てる機会が、
今のブロードバンド時代にはできてきたということです。
2.現代の市場、顧客、ローカル
(1)市場とネットワーク
つぎに、市場と顧客ネットワークの関係を整理していきます。
まず、マス市場というのは、ネットワークはひとつで、お客様のリンク数、つまり情報
を伝える友だちの数という意味ですが、それが非常に少なく、リンク間のつながりが非常
に弱い。リンク、つまり友だちの間隔が正規分布、釣鐘形のような形をしているようなネ
ットワークと考えられます。マス・ネットワークと言ってますが、二段階のネットワーク
になっていて、キーマンがいて、そのキーマンの下に階層的にお客様につながっていくネ
ットワークです。
つぎに、多様化市場です。1980 年代に分衆とか少衆とか言われましたが、これはネット
ワークが多数あってネットワークを構成している個人のリンク数、つまり友だち数は結構
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多いが、リンクのつながりは弱いネットワークと考えられます。先ほどのランダム・ネッ
トワークに近いと思われます。こういうネットワークに入ると、シェア1%~2%ぐらい
の市場になってしまいます。ヨーロッパの化粧品のスキンケアとかメーキャップが該当し
ますが、ブランドの上位シェアが最大でも3%~5%ぐらいしかない。それぐらい多様化
してしまっている世界です。
さて、われわれが今直面しているのは、断片化市場ではないかと考えます。ネットワーク
がまるでタコ壷のように多数あり、みんながタコ壷に入って周りが見えないような状況の
市場ではないかということです。水族館でタコを観察していると、本当に、壺に入ってま
ったく仲間を作りません。壺のなかで独自の世界を形成し、他のタコには関心もないし、
何をしているかもわからないでしょう。注意書きにはタコはタコ同士ですぐ喧嘩をして仲
間をつくりませんと書いてあります。現代の市場は、このようなタコ壷市場なのではない
かと思います。「ヤバイ」という言葉をいい意味で使う若い世代と悪い意味に解釈する年配
の世代などのように、世代間の落差が大きくなっています。戦後、戦後という話をしてい
ると、戦後は、ベトナム戦争後というようなことを最近の若い人たちは言うそうです。言
葉が通じない、認識していることに大きなズレがあります。だから本当にタコ壷です。そ
ういう意味でもまったく断片化してしまっていると言うことができます。断片化した市場
のネットワークは、先述のように、スモールワールド・ネットワーク、あるいはスケール
フリー・ネットワークです。マッキントッシュのように、伝道師のようなお客様がいるよ
うなネットワークが、スケールフリー・ネットワークです。ハーレーもそうです。タトゥ
ーをして、同じ格好した人が店に集まっています。アメリカでも同じです。そういう人が
伝道師です。スタイル、生き方です。シャネルも同じです。シャネルが売っているのは、
革命と戦争の時代の自立した女性の生き方、つまりココ・シャネルの生き方です。伝道師、
つまり圧倒的にブランドを信じ込んでいる人がいて、他のお客様を説得するぐらいのエネ
ルギーがある人がいるのがスケールフリー・ネットワークの特徴です。そういう人に入り
図表5.市場と顧客ネットワーク
主 な ネ ットワ ー ク の 特 徴
市場
ネ ットワ ー ク
数
リン ク 数
リン ク の 強 さ リン ク の 分 布
クラスター
係数
ネ ットワ ー ク
タイプ
マス市場
(大 衆 )
ひ とつ
少ない
弱い
正規分布
低い
マ ス ネ ットワ ー ク
(二 段 階 ネ ットワ ー ク な ど )
多様化市場
(分 衆 、少 衆 )
多数
多い
弱い
正規分布
低い
ラ ン ダ ム ネ ットワ ー ク
ス モ ー ル ワ ー ル ドネ ッ トワ ー ク
(水 平 型 )
正規分布
断片化市場
(タ コ 壷 )
多数
少ない
強い
高い
ベキ分布
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ス ケ ー ル フ リー ネ ットワ ー ク
(階 層 型 )
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込めば、マス広告を打つよりも圧倒的な力を持つわけです(図表5)
。
(2)現代のマーケティングの新しい原則
これまでのマーケティングの原則では、できるだけ多くのマスを狙い、すべての層で受け
るものを作り、反復記憶を活用します。我々は、毎日約1時間半テレビを見ていますが、
その間にコマーシャルを見る回数は約 1,600 本です。ほとんどコマーシャルは覚えていな
いと思いますが、それを毎日行って残ったものが広告の効果ということです。それからマ
ス宣伝広告の大量投下に合わせて店頭配荷量を最大にする。これら一連の推進は、機能分
業で進められます。パーソナル顧客をベースにしています(図表6)
。
図表6.マーケティング原則のヘキサゴン
レガシーなマーケティング原則 すべての層に
うける
マスを狙う
機能分業で
進める
店頭配下量
最大
新しいマーケティング原則 個客
ベース
お洒落なオタク
を追え
反復記憶を
活用
ネットワーク
ベース
勢いづくり
スーパー
スポットを
見つけ出す
マス宣伝広告の
大量投下
特定層に仕える
深く心に迫る
F×3
ネットワーク
を活用せよ
そんなマーケティングがレガシーだと捉えると、私どもが発見した原則は、つぎのよう
になります。おしゃれなオタク、特定層を狙い、その心に深く迫る。反復記憶ではなく、
生き方やスタイルといった次元まで、深く迫ろうということです。それから「F×3」、友
だちの友だちは友だちというネットワークに入っていこうということです。そして、スー
パースポットを見つけだそうということです。これは、IKEAという家具チェーンが、
大塚家具の5分の1程度の約1万アイテムの品揃えだが、店舗面積は約 2.5 倍あるという巨
大なスポットを展開している事例があげられます。そこの集客が最近すごいということで
今年上半期のヒット商品にもあげられています。商品・サービスを買うところにとんでも
ないスーパースポットができているわけです。230 万冊の品揃えのアマゾンが出現したこと
で、池袋のジュンク堂、渋谷のブックファースト、丸の内の紀伊国屋書店といった 20 万点、
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30 万点の品揃えをする巨大書店が逆に生み出されました。家具では、IKEAより先に、
大塚家具センターがあり、家具を求める新婚家庭の6割までを集客するというのができて
います。こうしたスーパースポットが出てきて、圧倒的な集客力のもと、ショールーム的
な役割を果たしています。このスポットでの集中が重要になっています。そして、機能分
業で進めるのではなく、勢いの方が大切ということです。
「男前豆腐」というのは、伊藤社
長が1人でやっています。四十数人の社員しかいません。つまり勢いのほうが大事なんだ
ということです。キリンがアサヒのシェアを5年ぶりに抜いたというニュースが出ていま
すが、これも宣伝効果が効いたというよりも、
「のどごし・生」の宣伝でやっているグッさ
ん(山口智充)の勢いある店頭営業の姿と同じことを、キリンの営業マンが実際の店頭で
展開しているわけです。顧客向けの広報というのが、流通向けの広告になっています。勢
いというのは非常にマーケティングにとっては重要になります。そんなふうに、私どもが
考えている新しい原則を整理すると、ヘキサゴン(六角形)としてご提示できます。
(3)ローカルの強みの源泉
こうした新しいマーケティング原則の
図表7.地域(ローカル)の強さの源泉
上で、ローカルの強みを考えます。ここ
限られた資源
限られた資源
水、空気、土地、風景
水、空気、土地、風景
産業集積
産業集積
すり合わせ
すり合わせ
顧客の選択の厳しさ
顧客の選択の厳しさ
高品質
高品質
知識の外部性
知識の外部性
情報コンテンツ、人材
情報コンテンツ、人材
で、ローカルといっているのは、東京に
対して地方であるという意味ではなく、
「地域性」ということです。この地域(ロ
ーカル)の強さの源泉を理解し、ローカ
ルなブランドをつくり、ヒット商品をつ
くり出していくということを考えていき
ます(図表7)。
ローカルの強みのひとつめは、この地域固有の水、空気、土地、風景です。変えられな
いものということです。変えられないものが資源です。限られた資源、レントということ
です。レントをきちっと入れようということです。
「男前豆腐」の場合は北海道の大豆です。
北海道の大豆というのは収穫量が限られています。世界中で農薬で汚染されていない土地
は、アメリカと日本だけです。そして日本流の濃い味の大豆をつくれるというのは日本し
かないわけです。そうすると数量は限られ、味がそこで限定されてしまうわけです。そう
いう強みを持っているわけです。それが水、空気、土地、風景ということです。限られた
レント、つまり資源を使いましょうということです。
ふたつめは、
「近さ」ということを通じ、すり合わせが可能であるということです。シャ
ープの液晶の亀山工場には、液晶パネルをつくる工場と、液晶のテレビを組み立てる工場
が同じところにあります。パネルとテレビの組み立ての間でトラブルが起こったときに一
挙に問題解決することができます。つまり近接性が強みになっています。それが地域の強
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みということです。集積性があることが強みになります。集積性が近接性を生み、近接性が
問題解決のスピードの早さを生み、グローバルに強くなっているということです。トヨタ
の強みも同じです。トヨタが海外に出ていくときは、ワンセットで出ていきます。ローカ
ルな強みというのは産業集積のすり合わせの強みということです。
三つめに、お客様の選択が厳しいことも強みになります。例えば、盛岡の食料消費の特徴
を調べると、ナンバーワンにカレーがあがってきます。寒いからカレーが好きなのでしょ
うか。そうすると盛岡で辛い味の文化が花開きます。それが盛岡冷麺です。たまたま女性
の方が少なかったので韓国からお嫁さんをいただきました。それが歴史的に蓄積され盛岡
冷麺をつくっていっています。それが盛岡冷麺の、つまり厳しいお客様が厳しい商品を育
てていくということです。インシュリンという高血糖症、糖尿病の人には不可欠のものが
ありますが、これに強いのはオランダです。オランダがいちばん糖尿病患者が多い。つま
り需要が高い品質をつくりだしていくわけです。世界でいちばん薄いクーラーをつくった
のは日本ですが、これも狭くて暑いからです。厳しいお客様、選択の厳しさというものが、
高い品質のものをつくっていくということです。顧客の選択の厳しさというのは財産にな
ります。
最後に、知識の外部性ということです。イノベーションが必要なためにどんどん知識が集
まる。その地に集まっていくというのが財産になるということです。これだけ金融のグロ
ーバル化が進んでいく中で、スコットランドにあるグラスゴーに金融の専門家が集まりま
す。スコットランドにはアダム・スミスを生み出した経済学の歴史もありますが、スコッ
トランドに行かないとリスク情報がわからないからです。世界中のリスク情報というのは、
人と人との組み合わせで伝わり、スコットランドにしか集まってないからです。植民地政
策で人脈を通じ、ずっと形成されたネットワークがあるためです。これが知識の外部性と
いうことです。スコットランド経済を支えているひとつのクラスターは、この金融クラス
ターです。情報コンテンツ、人材がありますから、他地域では真似ができない。経済学で
いうところの外部性、externality が強さの源泉であるということです。
3.ブランドマーケティングの展開
さて、マーケティングとは、Product、Price、Place、Promotion の四つの P のミックス
を通じて顧客説得する仕組みです。この4Pを展開していくわけですが、最終的には、お
客様のネットワークに対し、4Pを通じた顧客説得をして、商品・サービス、コンテンツ
を受け入れていただく活動です。自分たちのつくっているレントを生かしたブランド、あ
るいは商品・サービスのマーケティングを考えていくために、この4Pを考えていく必要
があります。
プロダクトについては、製品の多様性をどうするか、品質をどうするか、デザインをどう
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11
MNEXT
するか、ブランド名をどうするか、サイズをどうするかを考えないといけません。プライ
ス、プレイス、それからプロモーションというのはどんな販促行動をしてメディアミック
スをするのか、あるいはインターネットをどう利用するのか。流通チャネルをどこに置く
か、バーチャルショップだけでいくのか、それとも実際の物販店を置くのか、それを考え
ていくのが4Pです。これが現在の売れる仕組み、マーケティングを考えるということで
す。これを考える上で、レガシーマーケティングの原則に対する新しいマーケティング原
則を先ほど紹介しました。ここで、さらにご提案したいのは、これからのマーケティング
の各論を考えていく上での眼のつけどころです。
図表8.ブランドマーケティングのミックス
ものづくり
-
4P
マーケティング・ミックス
P
roduct
製品サービス
z製品の多様性/品質
zデザイン/機能
zブランド名/パッケージング
zサイズ/サービス
z保証/返品
研究開発
R&D
P
rice
価格
zリスト価格/ディスカウント
zアローワンス/支払期間
z信用条件
製造・オペレーション
P
P
部品材料
調達
lace
営業
流通チャネル
zチャネル/カバレッジ
z品揃え/立地
z在庫/輸送
顧客
ネットワーク
romotion
プロモーション
z販売促進/広告
zセールスフォース
zパブリック・リレーションズ
zダイレクト・マーケティング
zインターネット
(1)市場の捉え方
1)顧客の分布
ひとつは、市場をどう捉えるかです。web2.0 の時代と言われており、それも踏まえて検
討していきます。これまで、いろいろなものは、正規分布すると言われていました。平均
値を中心に、0、-1、1、2 と考え、1σ(標準正規分布では 1~-1)で、68.26%をカバー
し、2σの間で 95.44%のものが存在すると考えられていました。商品の一般的な品揃えで
も、これが大体あてはまります。この範囲から外れているものの品揃えは薄くなっていま
す。ところが、いろいろ分析していくと、正規分布になってないということがだんだん分
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12
MNEXT
かってきたわけです。それがベキ分布です。平均と標準偏差で表現できるようなマーケッ
トになってない。もっとベキ分布になっている。不均等分布になっているということです
(図表9)。所得分布が典型的です。4兆数億円を寄付するようなアメリカの投資家もいれ
ば、チベットのように年収が 1,000 円以下の地域もあります。それぐらい圧倒的に違う分
布になっています。日本で金融資産を4億以上持っている方は 140 万人います。いちばん
の金持ち地域は日本全国でみると、六本木6丁目、六本木ヒルズで、問題の村上さんとホ
リエモンが住んでいるところです。そこがいちばんお金持ちが多いわけですが、140 万人に
対し、港区の人口は8万人しかいないので、お金持ちは、日本全国にばらけていることに
なります。実は東京には集まっていないということになっています。それが所得のベキ分
布ということです。このベキ分布を使おうというのが、現代のマーケティングということ
になります。
図表9.伸長や体重などの分布と所得
正規分布
ベキ分布
売上数量
68.26%
95.44%
99.7%
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
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2)死に筋カット
ベキ分布を使った初歩的なやり方が、ABC 分析による死に筋カットです。例えば、縦軸
に売上数量をとり、横軸にお客様を順番に並べてみますと、こうしたベキ分布が得られま
す。20%のお客様で売上数量をこれだけ占めているとなりますと、これを横を 100%、縦
を 100%と変換し直しますと、有名なパレート分布を描きます(図表10)。20%の商品で
80%の売上を占めるといったことが分かります。2-8の法則とか、20:80 の法則と言わ
れたり、マーフィの法則などと言われたりします。セブンイレブンは、菓子パンだけでも
週 20~30 の新製品が導入されますが、翌週に生き残るのは1個か2個です。それくらいの
新製品回転率でやっています。多様な新商品をどんどん品揃えしていきますが、売れ筋と
いうのは実は2割だということです。棚のスペースは限られていますので、BC にランクさ
れる死に筋商品をどんどんカットします。カットしては新製品を入れるという繰り返しが
死に筋カットの仕組みです。それがセブンイレブン、イトーヨーカドーの仕組みであり、
10 年前までは成功してきたやり方です。これが今、行き詰まっています。だからセブン&
アイグループの中で、いちばん儲かっているのはヨークベニマルです。それは、ヨークベ
ニマルではパートのおばさんが品揃えしているからです。だからお客様がいちばん欲しい
ものがわかるわけです。
図表 10.死に筋カット
ベキ分布
パレート分布
売上数量
100%
80%
20%
0%
20%
100%
死に筋
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3)ベキ分布とロングテール
このベキ分布をうまく利用しているのがアマゾンです。約 230 万の書籍を品揃えをして
います。ブックファーストの約 20 万冊の品揃えの約 12 倍です。アマゾンでは、上位 10 万
位の本で売上の約 64%を占めています。セブンイレブンのやり方では、10 万位以下の品揃
えはしないということになります。ところがアマゾンは品揃えする。10 万位から 230 万位
まで揃えることによって約 36%の売上を上げています。つまり収益を出してくれるのはこ
こだ、感動してくれているのはここだ、ここのお客様こそが大事なんだということをやっ
ているわけです。それがロングテールということで、市場のとらえ方を変えようというこ
とです。
こういうことをやれるというのは、ネット上だと 230 万のデータを入れるのと、10 万の
データを入れるのとでは、コストに大差がないからです。いくら品揃えを増やしてもコス
トは増えない。ところが 230 万冊の品揃えの本屋をつくろうとすると、渋谷のブックファ
ーストを 12 店持つ必要があり、膨大なコストがかかります。いちばん重要なのは、リアル
店舗とバーチャルなネット上の店舗の組み合わせで、こういうベキ分布のお客様をどうや
って獲得していくのか、そんな考え方をこれからしていく必要があるということです。そ
のキーになるのがやはり顧客ネットワークということだと思います。
図表 11.ベキ分布とロングテール
64%
売上数量の水準
1~10
万位にランクインした本
1~10万位にランクインした本
36%
(ロングテール)
10万位以下の本
10万位以下の本
10万位
230万位
販売ランキング
(注)数値は推定値 (出所)各種資料より推定
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(2)製品の拡張
1)情報コンテンツ
つぎに、これからのプロダクトをどう
図表 12.健康茶市場の競争
考えたらいいかというです。鉄鉱石は 1
【難消化性デキストリン入り飲料の認知浸透状況】
トン 1 万円です。鋼板にすると 1 トン 10
緑茶習慣(伊藤園)
万円です。車にすると 1 トン 100 万円で
す。豆腐で考えてみると、スーパーの特
売では 2 丁 100 円です。
「男前豆腐」の
ように国産大豆と天然水で作った豆腐は
1リットルの価格
325円
115円
190g缶の価格
100円
やや渋みの
ある緑茶味
難消化性
デキストリン
味
ウーロン茶味
有効成分
難消化性
デキストリン
成分含有量
6.0g
5.2g
デパートでは 1 丁 300 円以上で売られて
18.0%
います。さらに、上野の「笹雪」や一ヶ
月以上の予約待ちの東京タワーの近くに
できた「うかい」などでの豆腐懐石では
健茶王(カルピス)
330円
25.5%
知っている
5.2%
買ったことがある
4.4%
4.3%
今後(も)買いたい
4.5%
約 8,000 円になります。他方で、加工す
Base for % :1,025
ると価値が減少するものもあります。ス
2003年JMR生活総合研究所調査より
ーパーの特売日では、水を加工した醤油や焼酎は何も加工していない「天然水」よりも安
く売られています。この差は、加工にあるのはなく、情報やコンテンツが付加されること
によって価値が増殖されたと考えた方がいいと思います。
難消化性デキストリン入り飲料というものがあり、伊藤園の「緑茶習慣」、カルピスの「健
茶王」など、3~4年前ぐらいに出た製品があります。(図表12)そのときに分析した結
果も合わせて考えると、これからは、いかに情報が需要創造していく上で重要であるかが
指摘できます。「難消化デキストリン入りで、それは血糖の上昇をゆるやかにする効果があ
る」という情報提示をすると、一挙に飲用意向が高まります。さらに、血糖値で悩んでい
る人や太りすぎで悩んでいる人とか、緑茶習慣や健茶王に好意を持っている人になってく
ると、さらに飲用意向が上がってくるという結果です。商品だけでは、その価値が伝わら
ないということです。情報コンテンツがあって、はじめて商品・サービスが売れるという
ことです(図表13)。
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図表 13.情報コンテンツによる補完
【デキストリン入りお茶飲用意向の変化】
【事前の状況別 情報提示後の飲用意向】
提示した情報
● とうもろこし由来の食物繊維
●糖質の吸収をおだやかにする働きがあり、
食事と一緒にとると、食後の血糖値の
上昇をゆるやかにする
情報提示後
「買ってもいい」
15.7
+46.6p
82.8%
+25.0p
血糖値の悩み
なし
N=840
62.3
「ぜひ・まあ 飲んでみたい」
情報提示前
あり
N=185
あり
N=161
緑茶習慣・
健茶王への好意
57.8%
73.9%
+16.1p
なし
N=864
57.8%
全体
N=1,025
緑茶習慣・
健茶王の
購入経験
あり
N=70
77.1%
+15.7p
なし
N=955
61.4%
Base for % :1,025
スーパーの売り場に行くと、「ここはまるでテレビ局ではないか?」と感じることがある
と思います。特に食品売り場です。「ためしてガッテンで紹介されました」「おもいッきり
テレビで紹介されました」といったPOPが目立ちます。だいたいみのもんたが言うとめ
ちゃめちゃ売れます。健康商品というのはいかがわしいのですが、このいかがわしさが、
みのもんたとぴったりで、とても説得力があります。だれが説得するか、どう説得するか
なんですけれども、とにかく圧倒的に多いのは「ためしてガッテン」と「おもいッきりテ
レビ」でとりあげられると圧倒的に売れます。そんなふうに、説得の仕組みが根本的に変
わってきています。
2)補完関係
東京の人が季節を感じるのはどこがいちばん多いかというと、スーパーです。空気でも
ないし木でもない、森でもない。食品スーパーというのは、何をつくろうかという、悩み
を考えているお客様、つまり主婦の悩みの解決の場です。だからまず野菜から入り、メニ
ュー提案があって、ものが売れていくわけです。「暑いですから、牛肉の特売をしているの
で、きょうは冷しゃぶです」という提案があって初めて肉と野菜が売れるわけです。それ
が情報を出すということです。
だから、情報コンテンツでの補完が大切になります。これからは商品・サービスと情報
を一体で考えていかないとだめです。例えば、携帯電話と同じということです。携帯電話
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は通話ができて情報交換ができて、いろいろなコンテンツが楽しめるから携帯電話として
の機能を果たすということです。それと同じことがあらゆるもので起こっているというの
がとらえどころだと思います。
(3)価格差別化
1)一物一価と裁定
今まで経済学の世界では「裁定」という考えがあり、あるところで高く売っていて、あ
るところで安く売っていると、安いところで買い、高く売るという裁定取引が懸念される
ため、一物一価の法則が成り立つと言われてきました。
ところが、ネットの世界になる、あるいは流通が多様化する、または、お客様の機会費
用がどんどん上がっていくといった前提条件が変化しています。お客様の機会費用は平均
的には1時間で 6,000~7,000 円ぐらいがかかるわけです。そうするとその時間をかけるの
に見合うものでないと買えないということになります。こうなると、値段はすべてオーク
ションになります。一物一価ではなく、まず自分が買いたいお金で買うというのが基本原
則です。
2)希望支払価格と機会費用の格差拡大
それを実証してみたのが、私どものフ
27 枚撮り・ISO400-3 本パックは、カメ
ラ量販店では 950 円くらいで売っていま
購入意向価格(
円)
ィルムの希望支払価格の調査研究です。
図表 14.価格差別化
■ 27枚撮り・ISO400-3本パック 最頻利用チャネル別の需要関数導出結果 6,000
5,000
4,000
すが、お客様を希望支払価格で並べてい
P = -949.66Ln(Q) + 4845.9
R 2 = 0.6786
3,000
きますと、3,000 円、4,000 円で買って
2,000
もいいという人が5~6%ぐらいいます。
1,000
そういう人たちには、950 円でなく、
850円
3,000 円、4,000 円払ってもらったらい
0
20
40
60
80
100
いというのが価格差別化戦略ということです。950 円という値段で線を引くと、実はこの価
格より上の人たちにとって余剰、消費者余剰が発生していることになります。消費者余剰
が発生している部分というのは、消費者に余剰を与えると同時に、メーカー、売り手がも
らってもいいというのが経済的な原則です。(図表14)
だからオークションになってくる。価格はすべて平等である必要はないのです。例えば、
ソフトやコンテンツがバージョンによって値段が違ったりとか、あるいは教育関係者だけ
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アカデミーパックと称して低価格設定されているのは、教育関係者の方というのはセグメ
ントをしていきますと、所得が若干少なかったり、いろいろな条件がありますので、それ
は教育関係者だけは安くしたほうが得だという計算が働いた上での設定になっているので
す。これからのマーケティングというのは価格について価格差別化というのを考えたほう
がよいというのが、プライスについては申し上げたいことです。
(4)チャネル差別化
1)チャネルの価格競争
日本の流通業は徹底的に価格競争をしています。日本の情報家電メーカーの売上は、10
社合計で約 50 兆円、日本のGDPの 10%を占める巨大産業ですが、利益は1兆円そこそこ
しかありません。今儲かっていると騒いではいますが、利益では、トヨタ1社にかないま
せん。あるいはサムスンにもかないません。アジアでナンバーワンの株式時価総額を持っ
ているのはサムスンです。サムスンが8兆~9兆円といわれており、松下電器が最大で6
兆~7兆円しかないといわれています。来年から株式交換が成立すると、サムスンが松下
を買えるという条件ができてしまいます。それぐらい日本の家電メーカーは儲かってない。
なぜ儲からないかと、流通段階で価格競争をするからです。価格競争をしていくと、価格
は限界費用、つまり利益がゼロのところまで競争するというのが経済原則です。ネットワ
ーク経済の大原則というのは、価格=限界費用=利益ゼロまで自由競争していくというこ
とで、これでは絶対儲からないわけです。(図表15)
図表 15.チャネル差別化
低収益の流通システム
低収益の流通システム
メーカー
メーカー
価格競争
高収益の流通システム
高収益の流通システム
競合他社
競合他社
価格=限界費用=利益ゼロ
小売
小売
小売
小売
価格競争
価格=限界費用=利益ゼロ
消費者
消費者
価格選好
メーカー
メーカー
品質競争
競合他社
競合他社
系列化
価格差別化
系列化
小売
小売
品質競争
小売
小売
固定客化
消費者
消費者
消費者
消費者
家電日本市場
固定客化
品質選好
車種別ディーラー制
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消費者
消費者
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2)チャネルの差別化
こうした原則がある中、自動車はなぜ儲かっているかというと、流通を差別化している
からです。車種別ディーラー制という仕組みです。お客様にとっては、車種別ディーラー
制というと、レクサスがある店に行くと、クラウンを扱っていないので、その場で比較で
きないため、迷惑な仕組みです。しかし、チャネルが差別化されていますので価格が維持
されているわけです。また、ソニースタイルもうまい仕組みを持っています。家電量販店
でもVAIOを品揃えしていますが、ネット上のソニースタイルが扱っているVAIOと
は、商品仕様が少し違っています。ネットの方がスペックのバリエーションが豊富で、よ
り高スペックなものが多く、その分、価格も高い。だから価格競争が起こらないような仕
組みになっているわけです。このように、ネットとリアルとの仕組みをうまく使うという
視点が重要です。リアルのチャネルだけを使っていくとか、ネットの中だけで競争したり
とか、同じような平等な仕入れ条件でチャネル差別化をしないと、必ず利益が出なくなり
ます。これが今の状況です。そういう意味でチャネル差別化というのはこれからのマーケ
ティングの中で、ぜひとも考えていく必要があります。資生堂で儲かっている「Q10AA」
というのがありますが、これはドラッグストア10社会というのを組織し、そこだけは特
別な条件対応をしたということがあります。選別をし直したわけです。チャネルは差別化
を考えていく必要があります。
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MNEXT
(5)顧客説得の仕組み-プロモーション
1)ネットワークの攻略
最後に、プロモーションによるネットワーク攻略の鍵というのはどこにあるかを整理し
ます。それぞれのネットワークには、それぞれのネットワークの攻略の鍵があります。
マス・ネットワークでは、まず、ユーザーの大量獲得、それから大量宣伝投下による反
復です。つまり短期で反復して、徹底的にユーザーの大量獲得を狙います。それにより大
きなインパクトをつくりだしていくというのがマス・ネットワーク型の市場を攻略する場
合のポイントです。この事例には、日清食品があげられます。毎日毎日深夜になると同じ
広告ばかり流している。深夜枠の広告費は安いので、徹底的にそこばかり入れています。
また、おもしろい広告で有名なキンチョーがあります。広告でインパクトをつくっていっ
て徹底的に反復し短期記憶に入り込むというやり方です。それがマス・ネットワークの攻
略の鍵です。この場合、大変お金がかかります。200 億円ぐらいかけないとブランドはでき
ないということです。(図表16)
図表 16.ネットワーク攻略の鍵
マスネットワーク
MN
スモールワールドネットワーク
SWN
スケールフリーネットワーク
SFN
互いの
やりとりは
ない
攻略の鍵
„ ユーザーの大量獲得
„ 大量宣伝投下(反復)
„ 集中宣伝投下(短期)
„ 大きなインパクト
攻略の鍵
攻略の鍵
„ ユーザーの質的獲得
„ 伝達経路の長い層
伝達経路の長い層
„ 多様で異質な縁関係
„ 情報の質
„ ユーザーの質的獲得
„ ハブユーザー獲得
„ 圧倒的な友人数
„ 伝道師的な説得
小枝
かむかむレモン
RD-Style
キットカット
ハイチュウ
ティーダ
ベガ
iPod mini
インプレッサ
ディーガ
アクオス
NANA
ネットワークウォークマン
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電車男
MNEXT
つぎに、スモールワールド・ネットワーク、スケールフリー・ネットワークですが、こ
ちらは、これは頭で勝負していく、ネットで勝負していくということが攻略の鍵です。ユ
ーザーを質的に獲得をしていくということです。
スモールワールド・ネットワークの攻略は、伝達経路の長い人、多様で異質なネットワ
ーク、情報の質で攻略するということです。最も多様で異質なネットワーク関係を持つの
は、家族です。性差、世代差、年代差がこれほど多様な社会集団というのは家族以外にあ
りません。ご主人のスーツ選びにもっとも影響力を行使しているのは奥さんです。奥さん
が炊飯器を買うときにもっとも影響力を行使しているのはご主人です。家族が、もっとも
多様性のある情報の交換がされる場所になっています。地縁、血縁、社縁と言いますが、
ネットワークを攻める上で重要な鍵はファミリーです。そこで、例えばおじいさんから小
学生の女の子まで情報が流れるわけです。だから家族を攻めるということは、一挙にワー
プしてネットワーク情報を広げることに非常に大きな役割を果たします。「かむかむレモ
ン」などは、小学生の子どものお子さんがいる家庭のご主人や奥さんは分かっているわけ
です。こういうものをつくりだしていくということです。そこを攻略していくと、お客様
がお客様を説得していくメカニズムができていきます。
スケールフリー・ネットワークの攻略は、伝道師をつくりだすことです。圧倒的な友人
数を持って、伝道師的な説得をつくり出すということです。お客様に関する様々な情報を
調査されると思いますが、携帯電話に登録されている名簿の数というのをお聞きになった
らいいと思います。今の中学生で、いちばん少ない人で 250 人です。とにかくネットワー
クの広い人はすごい数を登録しています。芸能界の人たちのネットワーク、つまり携帯電
話の登録数というのはすごいです。250 以上です。だから、携帯電話のメモリは 1,500 以上
ないと今は売れないのです。それぐらいネットワークを持っている人というのは中にはい
るわけです。そういう人に入り込むと、一気に広がるメカニズムがあるわけです。そうい
う人を選ぶということです。そういう人をとれるようにしておくということが、スケール
フリー・ネットワーク攻略の鍵になります。
2)信頼とソリューション
最後に販売とマーケティングのお話をします。販売というのは自分たちの製品をベースに、
販売促進を通じて売上増加し、利益をつくりだしていくということを指します。マーケテ
ィングは、オハイオ州立大学ではじめてマーケティングという講座がつくられたのは 1905
年であると、Rバーテルズというマーケティング研究者が言っていますが、それからいく
と凡そ 100 年の歴史ということになります。マーケティングでは、お客様のニーズがあっ
て、総合的な4Pを通じて、お客様の満足を通じることによって初めて利益を出していく
と考えます。それが販売とマーケティングの違いです。儲けることは悪いことじゃないの
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22
MNEXT
ですが、その前にやることがあり、それはお客様の満足を満たすことだというのがマーケ
ティングの考え方です。結果が儲けるということです。そういう意味で、企業は何のため
に存在しているかといったら、お客様のために存在していると考えるのがマーケティング
です。それがマーケティングの理念ということです。ブランドマーケティングの成功の鍵
というのも、やはりそこにあります。
マーケティングの本質というのはお役
図表 17.販売とマーケティング
立ち競争と考えますが、お客様が何かを
出発点
手段
目的
販売概念
製品
販売
販売促進
売上高増加
による利益
マーケティング
概念
顧客ニーズ
統合的
マーケティング
顧客の満足
による利益
説得されて受け入れ、この車を欲しい、
このサービスが欲しい、このコンテンツ
が欲しいというふうに、お客様がアドバ
イスを受け入れてくれるというのはどう
いうことかというのを、いろいろ調べて
いくと、販売者を助言者として信頼して
いるかどうかになります。信頼というこ
とと、販売員が顧客の悩みを本当に悩ん
でくれているかというふたつの条件が合
図表 18.マーケティングの本質
―お役立ち競争
ったときにはじめてお客様は購入のアド
販売員の顧客の悩み
販売員の顧客の悩み
への関心
への関心
バイスを受け入れてくれるということで
+
購入アドバイスの
購入アドバイスの
受入れ
受入れ
+
す。それがマーケティングの本質という
+
コンサルティング行動
コンサルティング行動
の表示
の表示
ことです(図表 17)。
アメリカでもっとも信用されない職業
+
+
の第1位は車のセールスマンです。2番
紹介者の活用
紹介者の活用
目は弁護士です。最も信用されないのが
車のセールスです。つまりお客様をだま
+
販売員の助言者
販売員の助言者
としての信頼
としての信頼
【事例】 モスバーガーの故清水社長、アメリカの車No1のセールスマン、
カーリースのNo1の営業マン、ノードストロームなど。
すというふうにアメリカのお客様は思っ
ています。そんな中、アメリカのナンバーワンの車のセールスマンというのは何をしてい
るかというと、毎日車で高速道路を会社に行く前にくるくる回っているのです。アメリカ
の車は、トヨタの車と違いますから故障します。お客様が、高速道路で故障して止まって
いると、そこにセールスマンがスッと寄ってきて、車を直してあげます。そして、絶対に
名前を告げずに立ち去ります。助けられた人は、大喜びで、必死で助けてくれた人を探し
ます。お客様が必死で探して、その人に別のお客様を紹介してあげるのです。つまり、販
売者、助言者としての信頼という条件を満たしているわけです。故障車を直すことで信頼を
得て、車のことを本当に考えてくれているんだということで関心を示すようになるわけで
す。(図表 18)
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23
MNEXT
おわりに
ブランドマーケティングの成功の鍵
昔のモスバーガーの清水社長は、1人ひとりのフランチャイズの店主に対して、売れな
くなってくると指導されていました。どんなふうに指導されるかというと、トイレきれい
かと。お店ごみごみしてないかと店主に聞くわけです。店主は「トイレはきれいで、お店
も掃除しています」と答えます。「じゃ、店の前掃除してるか」と聞かれます。店主も「し
てます」と答えます。「それでは、お客様が駅からお店に来る間の道を掃除してるか」と聞
くわけです。マクドナルドは駅前にありますが、モスガーバーは駅から遠いところにあり
ます。「駅からわざわざお客様が歩いて来られるんだから、そこを掃除しないでどうするん
だ」となります。そこからフランチャイズ教育が始まります。だからモスバーガーは一時
期マクドナルドを追い上げました。それがマーケティングの本質ということです。それが
あってはじめてブランドはできるということです。ルイ・ヴィトンあるいはエルメスもそ
うですが、ルイ・ヴィトンは、ヨーロッパ大陸を演奏して旅行している人の楽器を運ぶた
めのバッグをつくっていた会社です。演奏者にとって楽器というのは命より大事です。壊
れると大変です。だから、ルイ・ヴィトンは、壊れないバッグを必死になってつくりまし
た。その結果がルイ・ヴィトンというブランドになっているのです。歴史的蓄積、それが
ブランドです。お客様の満足、お役立ち競争を通じて何ができるかということから考えな
いとブランドはできません。広告宣伝を強化してブランドができるなんて思うなというこ
とです。ブランドマーケティングの本質というのはこういうところ、つまりお客様のお役
立ち競争であるということです。
そして、その上で、ローカルな強みを生かしたブランドマーケティング、パワーマーケ
ティングの実践ということです。プロダクト、プライス、プレイス、プロモーションの各々
で考えていただきたい要素をご案内しました。これを組み合わせて、それぞれの商品をベ
ースにしてお客様のネットワークというものを攻めていく。その組み合わせが、現代のマ
ーケティング、現代の売れる条件をつくっていくマーケティング、お客様に喜んでいただ
きながらマーケティングを展開していくということだと思います。それが今、勝つ、パワ
ー・マーケティングということです。(図表 19)
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MNEXT
図表 19.パワーネットマーケティング
ものづくり
マーケティング・ミックス
P
roduct
製品サービス
z希少な固有資源
z情報コンテンツ
z補完関係
研究開発
R&D
P
rice
価格
z支払希望価格
z価格差別化
製造・オペレーション
P
流通チャネル
zチャネル差別化
zシグナリング
z戦略営業
z機動集中
P
部品材料
調達
lace
営業
romotion
プロモーション
z信頼創造
zソリューション
zWeb2.0
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顧客
ネットワーク