相談員に求められる潤滑油的マネジメント実践

経営・業務マネジメント
スキルアップ特集
業務
マネジメント編
「もう勘弁してください!」
「何とかしろ!」
スタッフの不満,上司の指示の板ばさみをうまく立ち回る
潤滑油的マネジメント実践
「できる相談員がいる施設はうまくまわっている」を実現!
相談員に求められる潤滑油的マネジメント実践
廣岡隆之 社会福祉法人あいの土山福祉会 エーデル土山 副施設長 事務局長
介護福祉士,社会福祉士,介護支援専門員。「介護現場の人材育成」「キャリアアップシステムの構築」「社会福祉施設における安
全衛生対策の必要性」「福祉職場の中間管理職・リーダー層の悩み,トラブル解決法」「エーデル土山の人材育成システム」「エーデ
ル土山の執行室制度」「エーデル土山のオリジナル教本」など,研修講師,発表多数。また,他法人への出張講師も多数務め,施設ご
との諸問題に対して多くの個別相談にのっている。
施設・事業所における相談員の立場
介護事業所における相談員の立場は,事業
がポイントとなります。
▶利用者情報を的確に
所によって異なりますが,多くの事業所に共
介護・看護スタッフに伝える重要性
通する部分があります。それは,純粋な相談
介護・看護スタッフはシフト制で勤務して
業務(利用者,家族への相談業務など)以外
います。したがって,口頭での申し送りでは,
の役割を求められていることです。相談員の
「言った・言わない」
「聞いた・聞いていな
相談業務以外の業務特性として,
「セクショ
い」などのトラブルが発生します。また,緊
ン間の連携調整」
「看護スタッフとの医療対
急時の連絡などでつながらないケースがある
応調整」
「組織的に中間管理職として求めら
と,
「相談員はしっかりしてよ!」など,いら
れる役割」などの人材マネジメントとしての
ぬ不満が蓄積されてしまいます。そこで,利
役割があります。相談員は施設の調整を担う
用情報のポイントをまとめた「ショートステ
かなめ
「要」のようなポジションであるため,相談
イ利用予定表」
(資料)を作成することで,
員がその役割を果たしているかどうかが,事
的確に情報を伝えることができ,かつ注意す
業所が円滑に機能するかどうかの鍵を握って
べき点も一目で分かります。
いると言っても過言ではありません。
資 料 は, 当 施 設 で 実 際 に 使 用 し て い る
本稿では,図1に示す「事業所・組織的な
「ショートステイ利用予定票」です。これを
マネジメントの領域」について,どうすれば
介護・看護スタッフ,厨房,居宅支援事業所,
円滑な施設運営につながるのかという部分を
事務所に社内メールで配信し,各セクション
説明していきたいと思います。
で印刷して情報共有を図っています。これ
施設・事業所内で連携,調整が
求められる場面
相談員の事業所・組織的なマネジメントと
して,セクション間の連携調整が求められま
す。しかし,それは一方的な橋渡しではなく,
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相互的な「協力体制」を構築できるかどうか
相談援助&業務マネジメント Vol.6 No.1
は,現場において必要な情報をなるべく見や
すく作成したもので,初回利用時はこれに加
えて「アセスメントチャート」があります。
▶重度の利用者受け入れを介護スタッフに
伝えなければならない場合
ショートステイの受け入れも相談員の仕事
図1
相談員が特別養護老人ホームで求められている役割
ショートステイ受け入れ調整
リスクマネジメントの
中核的役割
相談業務
相談員
(利用者・家族・外部機関・病院・居宅事業所)
看護職員との医療対応調整
セクション間の連携調整
事務業務(契約・記録)
組織として求められる役割(中間管理職)
利用者対応・相談業務の領域
事業所・組織的なマネジメントの領域
ですが,時には重度の利用者で,特に夜間に
さんの疲労回復を図りましょう。我々がAさ
不眠や混乱がある方を受け入れる場合もあり,
んの介護をすることで,1つの家族が助かる
この際には介護スタッフに心理的な抵抗が芽
ことにつながります。
生えます。こういった場合は,次の点に留意
このような情報を,前述した「ショートス
して周知し,理解を求める必要があります。
テイ利用予定票」
(資料)に記載し,周知す
▷不眠時の具体的な対応方法を周知する
ることがあります。一見,Aさんの利用情報
夜間不眠時対応の実例
とは関連性のない内容と思われるかもしれま
・家族から預かった手紙を見てもらう。
せんが,家族状況が見えると見えないとで
今夜はお泊まりなので,ここで泊まってく
は,現場スタッフの心の持ちように大きな変
ださいね。私たちは必ず明日,迎えに来ます。
化があります。
娘○○より。
▷法人理念などの原点を日頃から周知しておく
・孫の写真を見せる。
現場スタッフに,
「何のために介護をして
孫の写真を見せながら話をすることで,落
いるのか」
「事業所にはどういった使命があ
ち着いてもらう。
るのか」という理念を繰り返しアナウンスし
・好物を持参してもらい,寂しさを紛らわせ
ないと,時として自分を見失うことがありま
てもらう。
す。事業所の理念を繰り返し周知すること
食べ物は夜間不眠時に非常に効果的である。
は,直接ケアを行う現場スタッフにとって,
▷家族の「日頃の負担」
「思い」
「ショートス
自分たちの役割について原点回帰するものと
テイを利用することで考えられる効果」
して非常に有効です。ですから,相談員は率
などを周知する
先して日頃から理念の方向性を現場に周知し
家族状況の実例
ていくことが大切です。理念を浸透させると
家族状況は奥さん1人で,利用者A氏の介
いう作業は,一見遠回りのように見えて,実
護をしています。子どもはおらず,おしどり
は困難事例受け入れの一番の近道となり得る
夫婦として,共に支え合ってきました。奥さ
のです。
んは,今回ショートステイに預けることに非
▶職種間の連携強化~事業所看護スタッ
常に罪悪感を持っています。しかしながら奥
フと居宅ケアマネジャーの場合
さんの疲労はピークに達しており,ここは
介護サービスは,1つの職種だけで完結し
ショートステイを利用してもらうことで,奥
ないことは言うまでもありませんが,特に居
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資料
ショートステイ利用予定票
氏名
エーデル土山 ショートステイ
介護度
備考・特記欄
要介護5
●ベッド横緩和マットは2枚設置でお
願いします。
●19時臥床後入眠傾向なく,何度もア
クシデント発生。
→入眠傾向なければ,眠剤服用まで職員
と同行動を行う。
大正 年 月 日
95歳(男・女 )
9
住所
時刻
準備品
クッション
送迎
居室
ラバー
排泄
緊急連絡先
顔写真を添付すると現
場スタッフはイメージ 【入れ歯保管場所について】
しやすいです。
☞前回,退所時の付け忘れあり。本人
入所 9時00分
が入れ歯を外してしまい,紛失の恐
れ が あ る た め,現 在 の 保 管 場 所 は
ワーカー室になっていた。今後も付
退所 16時30分
け忘れの可能性が高いため,居室の
洗面台保管に変更する。
車いす(個人持ち)
除圧座クッション(施設)
甲賀市土山町○○○○
必要・不要
希望− 迎・送・不要
ベッド・衝撃緩和マット2枚
ベッド柵カバー(降りる側のみ)
【言語】単語のみ
前回の利用時
【移動】車いす(個人持ち)
での改善点な
ど,今 回 の 利 【移乗】全介助(1人介助可能) 用で留意しな
ければならな 【排泄】終日おむつ
い部分を記載
【入浴】チェアー浴 【着脱】全介助
しておきます。
【洗面】全介助 【睡眠】眠剤( 有・無)
必要・不要
家族の緊急連絡 【食事】全介助(入れ歯上下あり)
先は最低でも3 ※食べられそうなら自力摂取を促す
終日おむつ対応 パッド(大) カ所は確保して
【内服薬】
おきましょう。
①○○−○○○○
(自宅)
朝食後:膝の痛み止め,血圧の薬
②090−○○○○−○○○○(A氏:娘夫)
③090−○○○○−○○○○(B氏:娘)
夕食後:メマリー
急変時家族意向
急変時の救急搬送,体調不良時の早期退所につ
いて家族了承済み。
家族状況
利用中,家族の遠出はなし。体調が悪ければ早
期の退所依頼済み。
搬送先
居宅
ケアマネジャー
○○病院
○○事業所:○○ケアマネジャー
TEL:○○−○○○○
主治医
○○医師 TEL○○−○○○○
内服
食事箋も同時に記載することで,
情報を一枚にまとめます。
就寝前(20時頃):メマリー,ハルシ
オン,セロクエル,デゾラム
家 族 が 利 用 中,
旅行に行くなど
で遠方に外出し
ないか事前確認
をします。
どのような点においてリスク
発生の可能性があるのか,☆
で示すと分かりやすいです。
【リスクレベル】
①転倒 ☆ ②転落 ☆☆☆
③誤嚥 ☆ ④皮膚剥離 ☆
⑤徘徊 ☆ ⑥トラブル ☆
主食 粥 副食 極小きざみ 朝食 パン粥 牛乳 飲める 食器 箸・スプーン
アレルギー なし あり( )
おやつ ゼリー・プリン 食べられない物 なし あり
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相談援助&業務マネジメント Vol.6 No.1
図2
宅サービスを提供している事業所では,医療
看護スタッフと居宅ケアマネジャーの連携をサポート
看護スタッフ
相談員
居宅ケアマネジャー
リスクの高い利用者の受け入れについて,居
宅介護支援事業所のケアマネジャー(以下,
居宅ケアマネジャー)と看護スタッフの思い
が相反し,事業所の相談員が板挟みになる
ケースがあります。このような場面で,看護
まず,健康状態,
安全第一を考え
る。けがのない
よう無事に在宅
に帰したい。
利用者だけではなく,家族
状況,本人の背景(生活環
境,介護力,経済力)を見
ている。サービスを利用す
ることで,家族負担を軽減
したい。
スタッフと居宅ケアマネジャーが反発してし
共通目標
まうと,事業所の稼働率や評判の低下にもつ
円滑なサービス利用
ながる恐れがあります。
そしてまた,在宅介護を支えるという観点
からも,両者の連携は切っても切れない仲と
言えます。相談員が間に入り,両者の共通目
標である「円滑なサービス利用」につなげて
・看護スタッフに,家族の状況,サービス利
用の目的を的確にしっかりと伝える。
・看護スタッフが当該利用者の受け入れにつ
いて尽力していることを伝える。
いきます(図2)。
双方(看護スタッフ,居宅ケアマネジャー)
▷例:リスクの高い利用者受け入れのケース
の思いや立場を,相談員がそれぞれに代弁し
看護スタッフの安心につなげるために相談員
ましょう。そして,積極的に相談員が双方の
ができること
中に入り,
「要」としての役割を果たします。
・緊急連絡先の確保をしっかりしておく(最
共通目標はあくまで「円滑なサービス利用」
低でも3カ所の連絡先を確保)
。
あることに主眼を置きます。
・サービス利用前に診察を受けてもらい,内
相談員は「あくまで中立」の立場を守り,
服薬などを事前に処方してもらい,利用時
いずれかに肩入れするのではなく,
「円滑な
に確実に持参してもらう。
サービス利用」につながるように配慮しま
・主治医に,サービス利用についての可否の
す。絶対に,チームワークが乱れるような
確認と注意点を聞いておき,看護スタッフ
「悪口」や「不満」を口にせず,問題提起と
に伝える。
して取り扱うようにしましょう。
薬の持参,主治医の確認について,居宅ケ
アマネジャーに協力要請し,実行してもらう
▶職種間の連携強化
~介護スタッフと看護スタッフの場合
ことにより,居宅ケアマネジャーが受け入れ
どの事業所でも,介護スタッフと看護スタッ
について協力している姿勢が看護スタッフに
フに多少の「価値観の違い」があるのは,職
伝わり,リスクの高い利用者の受け入れにつ
種の違いから仕方がないことですが,この違
いても理解が進みます。
いがあまりに大きく,職種間の軋轢が激しく
居宅ケアマネジャーの安心につなげるために
なってしまうと,利用者の安全を確保すると
相談員ができること
いう基本的なことすら危うくなることがあり
・事業所の緊急時の対応などを伝えておく(オ
ます。介護現場において「介護」と「看護」
ンコール体制)
。
の連携は不可欠で,両者が対立している施設
➡続きは本誌をご覧ください
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