ゲリラ豪雪による道路通行止め時のスノーモービルの活用に向けて 町田敬*1*3,関根伸幸*2,町田誠*1*3,高橋和雄*3,牧野康二*4,井田博雄*5*6 1. はじめに なお,緊急を要し,あらかじめ文書により協議又 平成22年12月末から翌1月にかけ,記録的な降雪により福 は申請を行ういとまがないときは,道路の使用に 島県内の国道49号,鳥取県内の国道9号,福井県内の国道8号 関する協議又は道路使用許可の申請は口頭(電話 において,長時間に渡り多数の車両が道路上に滞留する事態 を含む.以下同じ.)でなされ,必要な書面は事 が相次いで発生した.これらの事案を踏まえ,平成23年2月 後に提出されることとなるが,口頭でなされたも に国土交通省と警察庁は,道路管理者による滞留車両や路面 のについても,書面で提出されたものと同様に取 状況の確認等の道路管理のための作業において,道路運送車 り扱うこと(この場合には,当該協議又は申請に 両法やこれに基づく命令の規定に適合せず,自動車登録番号 ついて確実に記録を作成すること.). 標又は車両番号標を表示しないスノーモービルであっても, (2)道路の使用に関する協議に対する回答 道路使用に関する協議と道路使用許可を受けることによりス (1)アに掲げる場合には,当該警察署長は,当該作 ノーモービルを使用すことが可能となった.1.1に警察庁 業の緊急性及び必要性を勘案して,スノーモービル 通達の原文を示す. の使用を含む当該通行止め区間における作業の実施 本文においては警視庁通達を受け,道路通行止め時のスノ が差し支えないものと認められる場合には,(3)イの ーモービルの活用にむけての道路管理者の取り組みとスノー 条件として付すべき事項について必要な意見を付し モービル団体による災害バランティア活動について報告をす た上で,当該道路管理者に対し,速やかにその旨を る. 回答すること.なお,緊急を要し,あらかじめ文書 1.1 警察庁通達(警察庁丁規発第10号 丁交指発第19号) により協議するいとまがないときは,口頭により道 1概要 路管理者に対する回答を行うこととするが,この場 通行止め区間においては,道路運送車両法(昭和26年法 律第185号)第3章又はこれに基づく命令の規定に適合せ ず,同法による自動車登録番号標又は車両番号標を表示し 合には,当該協議について確実に記録を作成するこ と. (3)道路使用許可の申請に対する対応 ないスノーモービル(以下単に「スノーモービル」とい ア(1)イに掲げる場合には,当該警察署長は,当該 う.)であっても,道路交通法第80条第1項による道路の 通行止め区間に係る道路管理者にスノーモービル 使用に関する協議を行い,又は同法第77条第1項による道 を使用した道路管理のための作業の指示又は依頼 路使用許可を受けることにより,道路管理者又はその指示 の事実を確認した上で,当該作業の緊急性及び必 若しくは依頼を受けた者が行う滞留車両や路面の状況の確 要性を勘案して,公益上やむを得ないと認められ 認等の道路管理のための作業にスノーモービルを使用する る場合には,速やかに道路の使用を許可すること. ことができる. なお,緊急を要すると認められる場合には,口頭 2通行止め区間においてスノーモービルが使用される場合 により当該申請者に許可(イによる指導事項及び の手続 許可条件を含む.)を通知し,事後に許可証を交 (1)道路の使用に関する協議又は道路使用許可の申請 道路管理者において,通行止め区間における滞留 付することとするが,この場合には,当該許可の 内容等について確実に記録を作成すること. 車両や路面の状況の確認等の道路管理のための作業に イアにより道路の使用を許可する場合には,当該 スノーモービルを使用する必要があると判断した場合 申請者に対し,当該通行止め区間以外の道路にお には,次の区分により,当該通行止め区間を管轄する いてスノーモービルを運転することはできないこ 警察署長に対し,道路の使用に関する協議又は道路使 とを指導するとともに,道路交通法第77条第3項 用許可の申請がなされる. により,次の事項を条件として付すること. ア道路管理者に所属する職員が当該作業全般について 管理を行う場合道路の使用に関する協議 イ ア以外の場合道路使用許可の申請 (ア)必要な箇所に監視員等を配置するなど,当該 通行止め区間への一般交通の進入等を防止する 措置を講じること. *1 町田建設株式会社 *2国土交通省北陸地方整備局長岡国道事務所 *3 MFJ関東新潟県スノーモビル部会 *4 MFJ関東新潟県支部 *5 MFJ関東 *6 災害ボランティアバイクネットワーク関東 (イ)スノーモービルの運転者は普通自動車を運転す ることができる運転免許を受けている者に限 (3)駆動装置の説明 スノーモービルの変速機はギアの切り替えではなく写 り,運転中は運転免許証を携帯させること. 真5に示す駆動および従動ブーリー(滑車)やディスク (ウ)スノーモービルの運転者に対し,道路上の歩行 の径を変化させて連続的に変速が行われる無段変速機で 者や障害物に十分に注意し,交通事故を防止する ある.このため,写真6に示す駆動と従動ブーリーを繋 ため,道路及び交通の状況に応じて安全な速度と ぐVベルトは,アクセル操作方法によっては即座に消耗 方法で運転するよう指示すること. または切断する事があるため,点検交換方法の説明が行 (エ)スノーモービルの運転者に対し,道路管理のた めの作業に従事していることを明瞭にするための われた. 腕章,ベスト等を着用させること. (4)実走行訓練 スノーモービルの操縦の基本は,ハンドル操作だけで (オ)その他当該地域の実情に応じて交通の安全と円 はなく,体重移動によって駆動するキャタピラーの横滑 滑を図るため必要と認められる事項 りを助長させる技術が必要である.実走行訓練として写 3留意事項 (1)道路の使用に関する協議又は道路使用許可の申請に対 真7に示す操縦の基本となる体重移動練習を行い写真8 に示す実走行訓練が行われている.基本的な操縦訓練を する迅速な対応本通達に基づき通行止め区間において道 習得する実走行訓練においては,平成25年度から(一財) 路管理のためにスノーモービルが使用されるのは,大規 日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)公認のスノ 模な降雪等により滞留車両が生じている場合等であるこ ーモービルインストラクターによる指導が行われている. とから,本通達に基づく道路の使用に関する協議又は道 路使用許可の申請に対しては,迅速な対応を行うこと. これまで当講習においては,初心者がより安全な操縦技能 (2)道路管理者との事前の確認大規模な降雪等があった場 を習得できるよう「走る・曲がる・止まる」の基本項目に重 合に通行止め区間におけるスノーモービルの使用が予定 点を置き講習を行っており,半日の講義および走行訓練で, される道路管理者にあっては,通行止め区間となること 基本的な安全操縦技能と知識が習得可能であった. が予想される場所を管轄する警察署長に対し,あらかじ めその旨を連絡することとされていることから,当該連 絡を受けた場合には,当該道路管理者との間で,通行止 め区間においてスノーモービルが使用される場合の具体 的な手続に関する事項等について,あらかじめ確認を行 うこと. 2. 大雪時のスノーモービルの活用 写真1 講義風景 写真2 車体構造の説明 2.1 道路管理者による走行訓練 国土交通省北陸地方整備局においては,スノーモービルの 走行訓練を平成23年度から実施している.訓練内容は,以下 の内容で実施されている. (1)車体構造と操作方法の講義 写真1,写真2に示すように座学講義によって,スノ ーモービルの車体構造や走行原理の説明が行われている. 特に安全走行に関して,過去の事故事例から安全確認の 写真3 アクセルレバー 写真4 アクセル安全装置 写真5 変速機の説明 写真6 Vベルトの説明 方法や対処方法について講義が行われた. (2)実車での車体構造と安全装置の確認 走行の基本となるアクセルは,オートバイと異なりスノ ーモービルは,写真3に示すように親指一本で操作するレ バー式アクセルである.また,寒冷地で使用されるためア クセルワイヤー等の凍結による暴走事例が過去に発生して おり,アクセル安全装置が取り付けられた車両があるため, 安全装置の動作確認方法の説明が行われた. 写真7 体重移動練習 写真8 実走行練習 写真9 大型専門トラック 写真10 平ボディートラック 2.2 スノーモービルの種類 警察庁における通達においては,スノーモービルとは「ス キー及びカタピラを有する雪上車」とされている.そのスノ ーモービルには,排気量やキャタピラーの幅や長さなどによ って,使用用途が大きく異る機種となっており,想定される 条件に合致した機種を選択する必要がある. 例として大雪によって通行止めとなった道路においては, 写真11 普通車+牽引トレーラー レースに用いるスポーツモデルの機種を選択した場合は,低 速での徐行運転は困難となる.また,構造的な問題として凍 結路面においては,ゴム製のキャタピラーが空転し走行不能 となる場合や,トンネル内など無雪箇所の通行が困難な場合 がある.これら車体の構造的な問題は,キャタピラーにピン (2)牽引ボートを使用した搬送 ①キャタピラーの幅が異なる2種類のスノーモービ ル+牽引ボート (写真12,写真13) ②4輪キャタピラーバギー+牽引ボート (写真14) を取り付けた仕様に変更する方法や前方スキー部に車輪を取 り付ける方法によって,問題を解消する工夫が必要となる. また,現在では一般的なスノーモービルに限らず,雪上を 走行する車両として4輪キャタピラーバギー(排雪板付き) などがあり緊急時への活用が期待されているが,本通達に準 ずるかの判断には,協議および確認が必要である. 2.3 スノーモービル災害ボランティア 二輪車においては,これまで阪神淡路大震災や新潟県中越 写真12 STでの搬送 写真13 WTでの搬送 ST:キャタピラー幅38㎝ WT:キャタピラー幅61㎝ 地震,東日本大震災において,高い機動性により,人命救助, 物資の運搬,情報伝達など威力を発揮した実績がある.平成 26年4月に二輪車の災害ボランティアを統括する「災害ボ ランティアバイクネットワーク関東」(隊員数662名)の支 部組織として,新たにスノーモービルの高度な運転技術を持 ち合わせた隊員により構成されたスノーモービル災害ボラン ティアが結成された.二輪車業界を母体とした広いネットワ ークを活用した広域な災害支援体制を図ることが可能となっ 写真14 4輪キャタピラーバギーでの搬送 ており,実運用へ向けての検証訓練が設立と共に実施しされ ている. (3)無雪悪路での走行と安全確認 スノーモービル災害ボランティアの検証訓練においては, 以下の内容で実施された. ①スノーモービルスキー部への簡易車輪装着 (写真15,写真16) ②4輪キャタピラーバギーでの走行 (1)搬送車両の確認 ①大型専用トラックでの積み下ろし (写真 9) ②平ボディートラックでの積み下ろし (写真10) ③普通車+牽引トレーラーでの積み下ろし (写真11) 表1 運搬車両の運用検証結果 車両分類 専用 平ボディー 項目 トラック トラック *Max 写真15 無雪悪路走行 写真16 簡易車輪の装着 普通車+牽 引トレーラ ー 搬送能力 自動車運転 免許区分 大(10 台) 中(4 台) 少(1 台) 大型 中型 普通 (要登録) 居住性 広 狭 中 車両所有数 小 大 中 (4)排雪板付き4輪キャタピラーバギーでの除雪検証 ①圧雪の除雪能力の検証 (写真17,写真18) 3. まとめと課題 大雪災害に備え,道路管理者とスノーモービル災害ボラン ティアや車両を保有するスキー場との連携を事前に取り図る 事により,大雪災害時においてより迅速な対応が可能である と考えられる.現状においては,スノーモービルの活用を図 写真17 圧雪除雪 写真18 排雪板 るには図1に示すような,関係機関とスノーモービル災害ボ ランティアとの相互の連携が必要不可欠と考えられた. スノーモービル災害ボランティアの検証訓練の結果,搬送 積み下ろしに関しては,全車種において単独作業が可能であ 図1に示すような連携を構築するためにも,今後は道路管 理者の課題として以下の事が考えられた. ったが,表1に示すように運搬車両ごとに優劣がある結果が 得られており,状況に応じた組合せによる派遣が必要とされ 緊急時の移動手段として周知 た. 基本操縦技術の講習 搬送能力の検証については,スノーモービルのキャタピラ 車体の確保や運搬方法の具体的な検討 ー幅が狭いST(幅38㎝)においては,牽引ソリに4名で250 交通管理者との事前協議 ㎏程度の搬送が可能であり,キャタピラー幅が広いWT(幅 車両保有団体との協定等の締結 61㎝)では,6名で350㎏程度の搬送が可能であった.4輪キ ャタピラーバギーにおいては,8名で500㎏程度の搬送が可能 また,スノーモービル災害ボランティアにおける今後の課 であった. 無雪悪路走行においては,スノーモービルにおいて簡易車 輪を前方スキー部に取り付けることにより,走行が可能とな 題として,隊員の育成と確保を行い,より実運用を想定した 訓練と派遣体制を整備する必要があると考え,以下のような 課題が解決が必要と考えられる. り取り付けも短時間で行えることが分かった.4輪キャタピ ラーバギーに関しては,そのままの状態でより劣悪な悪路に ボランティア隊員の育成 おいても問題なく走行可能であった. 平常時訓練の実施 4輪キャタピラーバギーの除雪能力の検証においては,排 運用方法や派遣体制の確立 雪板が氷化した圧雪の剥離をも行える能力があり,道路脇の ボランティアとしての活動の線引き 雪壁や積雪の傾斜を均しながら走行することが可能であるこ 関係団体への広報活動 とが検証された. 多種多様な雪上走行車両の許可の確認 また,検証会においてスノーモービル自体のスタックや転 倒等を考慮すると,単独行動を厳禁とした複数台組合せでの 派遣体制の構築が必要であるとされた. 図1 スノーモービル活用への関係機関における相互連携
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