10分でわかる経済の本質(特別編) 2014年の回顧と15

EY Institute
05 January 2015
10分でわかる経済の本質(特別編)
2014年の回顧と15年の展望(世界経済編※1)
~15年もディスインフレ傾向は根強いが、
先進・新興国では小幅の成長加速
執筆者
Ⅰ.世界経済全体 【実質経済成長率:14年+3.3% ⇒ 15年+3.5%】※2
2014年の世界経済を振り返ると、年後半に米ドル高と原油安が進んだこと、および、主要国で
ディスインフレ傾向が強まったことが最大の特徴と言えるだろう。このうち米ドル高は、①米国で
は金融政策の正常化に向けた取り組みが着実に進み、利上げ開始が意識されるようになる一
方、②日欧では景気のもたつきから追加金融緩和に対する期待が高まるなど、米国と日欧の金
融政策の方向性の違いを反映して、対円や対ユーロを中心に米ドル買いが進んだ結果と整理
することができよう。また、原油価格は12月中旬にはいずれの銘柄も55~57ドル程度と、約5
年7カ月ぶりの安値を記録した(14年12月前半だけで2割程度の下落)。こうした原油安は、①
「シェール革命」で世界的な原油増産の動きが広がる中、11月のOPEC(石油輸出国機構)総会
において加盟国間で減産に向けた合意に至らず、供給過剰懸念が強まったこと、②世界的に景
気の先行きに対する不透明感が強まる中、IEA(世界エネルギー機関)が15年の世界石油需要
市川 信幸
EY総合研究所株式会社
経済研究部
チーフエコノミスト
の見通しを引き下げるなど、さらなる需要減が意識されるようになったこと、③米ドル高は米ドル
建てで決済される商品の価値低下につながるため、米ドルで決済される原油をはじめとする商
品市況に低下圧力がかかっていることなどを反映したものと整理できるだろう。原油をはじめと
する商品市況の下落は、輸出減や交易条件の悪化を通じて資源国の景気下押しにつながって
<専門分野>
► 経済・金融動向に関す
る分析・予測
► 経済・金融動向および
金融政策の解説
いるほか、対外収支の悪化を通じて通貨安をもたらしている。
特に、資源輸出への依存度が高いロシア経済については、原油安に欧米による経済制裁の影
響も加わり、景気後退懸念が強まっている。このため、資金の海外流出圧力が強く、通貨ルーブ
ルが急落している(14年12月前半だけで3割程度の減価。<図表1>)。こうした中、ロシア中銀
は通貨防衛のため、12月11日(9.5→10.5%)、16日(10.5→17.0%)と立て続けに政策金利を
引き上げたほか、ルーブル相場の安定に向けた為替介入も行っているようだ。ただ、ロシア中銀
も、ロシア経済について先行き2年間はマイナス成長※3とみていることもあり、今後も資金の海外
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流出は続き、ルーブルには低下圧力がかかり続けるものと懸念される。こうした中、ロシアは、比
較的流動性の高い外貨準備を、輸入額との対比でみて15カ月分程度保有しているとされるが、
それでも、全く問題がないとは言えないだろう。直ちに外貨準備が枯渇することはないにしても、
通貨防衛のための為替介入により、外貨準備が目に見えて減少していく中で、万が一の場合に
どういった救済策があり得るのかは、今後重要な論点になり得るだろう※4。
図表1 原油価格とロシア・ルーブル相場の推移
出典:日本経済新聞
(注)原油価格はNYMEX・WTI先物
一方、国際商品市況の低下傾向やマクロの需給緩和を背景とした主要国のディスインフレ傾
向についてみておくと、まず①欧州では低インフレが長期化しつつあり、デフレ転落の懸念も強
まっている。次に②日本では、消費税率引き上げ(5→8%)の影響を除くと、物価上昇率が1%割
れの状況に戻りつつあるほか、③中国でも資産デフレが財・サービス価格のディスインフレにつ
ながっているようにみえる。さらに、④景気の好循環が続いている米国ですら、物価だけは政策
目標を下回る状況が続いている。
このように、14年は、国際金融・資本・為替・商品市場における市況変動が非常に大きかった
ほか、ウクライナやイラクの政情不安など多種多様の地政学リスクにさらされたわけであるが、
その割には、意外にも世界経済の成長率は相対的に安定していたと言えるだろう。世界全体とし
ては、13年(+3.3%)並みの成長率を確保したものと見込まれる【+3.3%】。こうした意外な安定
の背景には、先進国の中央銀行がそろって金融緩和、とりわけ量的な金融緩和を進めた結果、
世界中がいわゆる「カネ余り」の状況に覆われていたことがあるとみられる。このため、今後は、
英米を中心に金融引き締めに転じる中央銀行が出始める中で、地政学リスクが一気に顕在化す
るといった場合などには、世界経済の様相が一瞬にして急変し得ることに留意が必要だろう。
以上の点を踏まえ15年の世界経済を展望すると、原油価格が一時的に1バレル50ドル割れと
なる可能性もある中で、主要国を中心としたディスインフレの傾向は根強く残ると思われる。そう
した中、概して、原油安の恩恵を受ける先進国や新興国(特に東南アジア)では、緩やかな景気
持ち直しが続く一方、資源国では「輸出減⇒景気後退⇒資金流出⇒通貨安⇒利上げ⇒景気後
退」という悪循環が続くだろう。このように、原油安の影響は、①先進国・新興国経済の持ち直し
と、②資源国の景気後退の綱引きという形で現れるはずだが、世界経済全体としてみた場合に
はプラスの効果が上回るとみられる。というのも、約30年前に北海油田の増産から原油価格が
急落した際も、結局は交易条件が改善した先進国経済の主導で、世界的な景気拡大につながっ
た例があるからだ。ただ今回は、①経済状況が問題なく堅調であるのは米国くらいで、②欧州は
底割れしないものの緩慢な成長が続くほか、③日本も持ち直しはするもののペースは緩やかで
あり、さらに新興国のうち、④中国が計画的な減速を目指していることなどを考え合わせると、大
幅な成長加速は望みにくいだろう。
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2014年の回顧と15年の展望(世界経済編)
なお、米国の量的金融緩和の終了に伴う悪影響は、日本やユーロ圏の追加金融緩和の実施
により、ほぼ相殺されると思われる。10月31日の追加金融緩和後の日銀は、資金供給を年間
80兆円増加させる意向であるほか、ECB(欧州中央銀行)もバランスシートを1兆ユーロ程度拡
大させる方針を表明している。これらを合算すれば約2兆ドルとなり、FED(米国連邦準備制度)
が量的金融緩和第3弾(いわゆる「QE3」)で供給した資金量(約1.6兆ドル)を補える計算になる
<図表2>。したがって、FEDの量的金融緩和終了後も、日欧の金融緩和が世界経済を下支え
する面があると期待してよいだろう。以上を勘案すると、15年の世界経済は、ディスインフレの傾
向が根強い中、先進国や新興国が主導するかたちで、小幅ではあるものの成長率を加速させる
ことも十分可能であると考えられる【+3.5%】。
図表2 先進国中央銀行の資金供給量の推移
出典:ECB、FRB、日本銀行
以下では、14年10月公表のIMFによる見通しも参考にしつつ、米国、欧州、中国の順で、主要
国経済の回顧と展望、および主要な論点を整理する<図表3>。
図表3 IMF世界経済見通し(2014年10月7日公表)
2013年
2014年
2015年
3.3
3.3(▲0.1)
3.8(▲0.2)
先進国・地域
米国
ユーロ圏
ドイツ
フランス
イタリア
英国
日本
1.4
2.2
▲0.4
0.5
0.3
▲1.9
1.7
1.5
1.8( 0.0)
2.2( 0.5)
0.8(▲0.3)
1.4(▲0.5)
0.4(▲0.4)
▲0.2(▲0.5)
3.2( 0.0)
0.9(▲0.7)
2.3(▲0.1)
3.1( 0.0)
1.3(▲0.2)
1.5(▲0.2)
1.0(▲0.5)
0.8(▲0.3)
2.7( 0.0)
0.8(▲0.2)
新興・途上国
ロシア
中国
ブラジル
南アフリカ
4.7
1.3
7.7
2.5
1.9
4.4(▲0.1)
0.2( 0.0)
7.4( 0.0)
0.3(▲1.0)
1.4(▲0.3)
5.0(▲0.2)
0.5(▲0.5)
7.1( 0.0)
1.4(▲0.6)
2.3(▲0.4)
世界全体
出典:IMF
(注)実質成長率(単位%)、▲はマイナス。括弧内は2014年7月見通しからの修正幅(%ポイント)
※1 日本経済編を別途掲載の予定。なお、本稿の内容は、14年12月18日時点で利用可能な情報に基づいている。
※2 【 】内は、筆者による見込み、ないし、予測を示す(以下同じ)。なお、1980年以降の世界経済全体の平均成長率
は+3.6%である。
※3 原油価格が1バレル60ドルとの前提の下で、15年は▲4.7~▲4.5%、16年は▲1.1~ ▲0.9%。
※4 欧米の制裁を受けているロシアが国際通貨基金(IMF)の支援を受けることは難しい面もあろう。
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Ⅱ.米国 【実質経済成長率:14年+2.3% ⇒ 15年+3.0%】
14年の成長率は当初、2%台後半に加速(13年2.2%)するとの期待が強かったものの、1-3月
期に中西部を襲った異例の寒波の影響もあり、結局、13年並みの成長率にとどまったとみられ
る【+2.3%】。
一方、15年は、05年以来10年ぶりの「3%台成長」に復帰できる可能性もある【+3.0%】。とい
うのも、このところ米国では、「雇用増→所得増→消費増→雇用増」という好循環がますます強く
なっているからである。例えば、11月の非農業部門就業者数の前月比増加幅は32.1万人(10
月同24.3万人)と加速し、これにより、米国で「雇用の拡大が順調」と判断される一つの基準であ
る月間20万人増を10カ月連続で達成したことになる。また、11月の失業率は5.8%と、10月(同
5.8%)に引き続き、08年7月以来6年3カ月ぶりの低水準を維持している。米国の雇用環境は目
立って改善していると言えるだろう。さらに、原油安を背景としたガソリン価格の低下が消費マイ
ンドを刺激していることも見逃せない。12月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は93.8
と、11月(88.8)から大幅な改善を示した。こうした雇用や消費マインド面での改善を背景に、こ
のところ消費も明確に活発化してきている。11月の小売・飲食サービス売上高は、自動車、家電
などの増加を背景に、前月比+0.7%(10月同+0.5%)と加速したほか、9、10月の伸びも上方
修正されており、小売販売は極めて堅調だ<図表4>。14年4-6月期、7-9月期の実質成長率
(前期比・年率)は、それぞれ+4.6%、+3.9%と高い伸びを記録したが、10月入り後も、GDPの
3分の2を占める個人消費が堅調であることを考えると、米国では10-12月期も比較的高い実質
成長率を確保したものと考えられる<図表5>。
図表4 非農業部門就業者数(NFP)増加幅と小売・飲食サービス売上高の推移
出典:BLS、UnitedStates Census Bureau
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図表5 米国の実質GDP成長率と消費者物価上昇率の推移
出典: BEA
当面、ガソリン価格の反発の可能性が低いとみられる中、雇用・所得増や消費マインド改善の
傾向は、15年入り後も維持され、米国経済の柱である個人消費は引き続き堅調に推移するもの
とみられる。また、成長率加速に対する期待の高まりや長期金利の低下(10年物国債利回りは
2%近傍まで低下)を反映して、設備投資も順調に推移すると期待されるほか、住宅投資にも復
調の兆しがうかがわれるようになってきている。このため、米国経済については、14年のような
寒波の襲来、地政学リスクの高まり、金融政策の誤り、中間選挙(オバマ民主党の敗北)の結果
を踏まえた政治の混乱といったかく乱要因による悪影響が小さなものにとどまれば、成長率の加
速、ひいては、05年以来10年ぶりの「3%台成長」の達成も十分可能だと思われる。
ここで、15年の世界経済に大きな影響を与える可能性がある米国の金融政策について簡単に
みておこう。米国の中央銀行であるFEDは、14年10月の連邦公開市場員会(FOMC、金融政策
を決定する会合)で、いわゆる「量的金融緩和(FEDが市場から国債や住宅ローン担保債券を購
入して市場に資金を供給すること)」を終了し、市場の関心はFEDが利上げに転じる時期に移っ
ている。利上げ開始が予想より早ければ、量的緩和により供給された投機性の高い資金(いわ
ゆる「緩和マネー」)の流出により、外資依存度の高い新興国において、通貨安や株安が生じる
可能性も出てくる。市場では15年半ばに利上げ開始という予想が主流になっているが、このとこ
ろ個人消費主体に高めの成長が続いている状況を眺め、15年春ごろに前倒しされるのではな
いか、という見方も強まっている。
ただ、①FEDとしても、04年夏以来11年ぶりの「利上げ開始」であり、やはり慎重にならざるを
得ない、②FOMCにおける15年の投票権者の顔ぶれをみると、ハト派(緩和選好的)が多い、③
全体として、利上げが遅過ぎるリスクよりも早過ぎるリスクを回避したがっている、④消費者物価
上昇率がFEDの目標値(2%)に達していない、といった事情などから、利上げの時期は15年半
ばよりむしろ後ずれする可能性もあることに留意すべきだろう。12月開催のFOMC後の声明文
においては、従来の「相当な期間(for a considerable time)政策金利を据え置く」の表現が、
「(利上げ開始まで)忍耐強くなり得る(can be patient)」に変更された。ただ、こうした「フォワー
ドガイダンス(先行きの金融政策の方向性に対する示唆)」の書きぶりの変更について、声明文
は、「新たなフォワードガイダンスは、これまでのものと一貫性をもつ(consistent)」として、FED
が利上げを急いでいないという印象を市場に与えている。なお、10月に量的緩和が終了したと
言っても、FEDは利上げ開始までは、購入した債券の残高を維持する方針を打ち出しているた
め、量的にみても、当面は緩和的な状況が維持されることになる点も正しく認識しておく必要が
あるだろう。
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併せて、14年中間選挙(11月4日)の結果の経済面への影響について簡単にみてみると、ま
ず、①「TPP(環太平洋経済連携協定)」については、共和党は基本的には自由貿易の推進に積
極的であることから、交渉の進展が期待できるだろう。ただ、共和党は議員の多くが農業団体を
支持母体にしているという現実もあり、合意のための基準は引き続き高いものにとどまるとみら
れる。次に、②「債務上限問題」については、15年3月15日に現在の債務上限が期限を迎える
ため、再び「政府閉鎖」に陥る可能性はゼロではないが、院内総務に選出される見通しのマコネ
ル上院議員が、「政府機関の閉鎖や政府のデフォルトは回避する」と明言していることから、可
能性は小さいとみておいてよいと思われる。一方、強い悪影響があるとすれば、③「シリア・イラ
クへの地上戦力投入」であろう。上院軍事委員長に内定したマケイン上院議員は、「イスラム国」
への空爆の強化や米地上部隊のイラクへの派遣を主張している。仮に実施されれば、国際金融
市場ではリスク・オフ(リスク回避)の色彩が強まり、安全資産である円買いや、株売りの動きが
一気に強まる可能性も出てくる。なお、中間選挙における共和党の勝利は、④「FEDの独立性」、
特にその理事会であるFRBの独立性にも影響を及ぼす可能性がある。以前より共和党は、議会
の監査権限を使って、FRBによる金融政策決定をより細かく監視することを求めてきた。今回、
上院でも共和党が過半数を占めたことから、15年1月より上院銀行委員会では共和党が主導権
を握ることになるが、その結果、FRBの監視強化を求める法案が提出され、成立する公算が大
きくなったと言えよう。こうした動きがFRBの独立性を脅かすものと市場で捉えられた場合には、
相場変動が不規則になる可能性もあることに留意が必要だろう。
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Ⅲ.欧州(ユーロ圏)【実質経済成長率:14年+0.8% ⇒ 15年+0.9%】
14年は公的債務危機の悪影響が弱まることから、13年のマイナス成長(▲0.4%)から、一転し
てプラス成長を達成したとみられる【+0.8%】。公的債務危機の悪影響については、13年末か
ら、アイルランド、スペイン、ポルトガルが相次いでIMF、EU(欧州連合)の公的支援から脱却し
たほか、ギリシャも国債発行を再開したことなどから、ほぼ消失したのではないかと期待する声
も聞かれていた。ただ、①労働市場の硬直性や②財政政策の不統一といった構造的要因に加
え、③経済ファンダメンタルズに比して割高なユーロ相場、②過度の緊縮財政、⑤多額の不良債
権を抱えた金融機関の信用創造能力の喪失といった要因を基本的背景として、14年は低成長・
低インフレの傾向が強まったと言えるだろう。4-6月期には実質ゼロ成長(前期比+0.1%)に陥
り、消費者物価上昇率も9月には0.3%まで低下した<図表6>。その後、7-9月期には実質成長
率が同+0.2%と若干持ち直したものの、イタリアのマイナス成長が続いた(4-6月期前期比
▲0.2%→7-9月期同▲0.1%)ほか、ドイツ経済の反発力も鈍い(同▲0.1%→同+0.1%)ことが
目立つ内容であった<図表7>。ユーロ圏最大の経済規模を誇るドイツでは、中国やロシアなど
の経済減速を受けて輸出が不振(10月前月比▲0.5%)で、生産も伸び悩んでいる(同+0.2%)
ことなどから、景気が加速する兆しがみられない。ドイツの実質成長率は10-12月期も前期比+
0.1%程度にとどまる見込みで、ユーロ圏経済全体をけん引する力は乏しいとみられる。一方、消
費者物価上昇率は、エネルギー価格の下落を主因とした低下圧力を受けており、今後一段と低
下する恐れが高まっている。ユーロ圏では、当面、低成長・低インフレ傾向が続くものとみておく
べきだろう。
図表6 ユーロ圏の実質GDP成長率と消費者物価上昇率の推移
出典:Eurostat
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図表7 ユーロ圏内の主要国の実質経済成長率の推移
ユーロ圏
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
2012
10-12
▲ 0.4
▲ 0.4
▲ 0.3
▲ 0.8
▲ 0.8
2013
1-3
▲ 0.4
▲ 0.4
0.0
▲ 0.9
▲ 0.4
4-6
0.3
0.8
0.7
▲ 0.2
▲ 0.1
7-9
10-12
0.2
0.2
0.3
0.4
▲ 0.1
0.2
▲ 0.1
0.0
0.1
0.3
(前期比%、▲はマイナス)
2014
1-3
4-6
7-9
0.3
0.1
0.2
▲ 0.1
0.8
0.1
▲ 0.1
0.0
0.3
▲ 0.2
▲ 0.1
0.0
0.3
0.5
0.5
出典:Eurostat
15年については、IMFもECBも、ユーロ圏の成長率は小幅ながらも加速するとの見通しを公表
している(IMF:14年+0.8%→15年+1.3%、ECB:同+0.8%→同+1.0%)。しかし、①2014年
中に強まった「低成長・低インフレ」傾向が継続する、②各種の金融緩和政策も十分に効果を発
揮していない、③追加制裁が検討されているロシア向け輸出が先行き一段と低迷するとの懸念
が強まっている、④公的債務問題に端を発するギリシャの政情不安が再燃している、といったこ
となどを勘案すると、ユーロ圏の成長率は必ずしも順調に加速しない恐れもある。ユーロ圏経済
については、底割れはしないにしても、低成長が続くとみておくべきだろう【+0.9%】。
ここで、ユーロ圏では財政政策が不統一なため、景気浮揚の面から強い期待がかけられてい
る金融政策の動向についてみておこう。ユーロ圏では、ECBが14年6月の理事会から断続的
に、①マイナス金利(民間銀行がECBに預ける余剰資金に手数料を賦課)、②TLTRO(民間企
業向け貸出に見合う長期資金をECBが民間銀行に低利で供給)、③(住宅ローン担保債券や担
保付社債を含む)資産担保証券(ABS)の購入といった緩和策を講じてきた。また、ユーロ圏では
11月1日より、銀行監督体制の域内一元化をスタートさせたが、それに先立って域内銀行を対
象とした統一的資産査定を実施、25行の資本不足を認定し、資本の積み増しを求めている。さ
らに、11月の理事会では、ドラギ総裁が、追加緩和を準備している旨公表、具体的にはそれま
で理事会内の対立の火種になっていたとされる「ECBのバランスシートの拡大目標(約1兆ユー
ロ)」について、全会一致で声明文に明示したことを強調した。これにより、ECB理事会内の緩和
促進姿勢が一枚岩であることがアピールでき、市場の追加緩和期待をつなぎ留めることにもひと
まず成功したとされる。しかし、基本的には、不良債権処理に苦しむ銀行の信用収縮は今しばら
く続く可能性があり、従来の金融緩和策の延長で成長率の加速を達成することは難しいと思わ
れる。
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一方、ユーロ圏経済を再び混乱に陥れる恐れのあるギリシャの政情不安についてもみておこ
う。ギリシャについては、14年末に終了予定のEUの支援プログラムが15年2月末まで延長され
る方針が打ち出されたほか、支援終了後は「予防的な信用枠」を設定することで協議が行われ
ている。ただ、こうした中、ギリシャ政府は、次期大統領の選出手続きを前倒しして、12月17日
に開始することを公表した。これは、追加の支援条件を突きつけられて、国民の不満が再燃する
前に大統領選出の手続きを始めることを狙ったものだ。ただ、現状、大統領の選出に必要な議
員投票数(180票)を得られる候補は見つかっておらず、このままでは、法の定めに従って15年
早々にも議会が解散され、1月下旬から2月初旬にかけて総選挙が実施される可能性が高い。
その場合、単独政権を樹立できそうな政党が見当たらないため、総選挙後の連立協議が難航
し、政治空白が生じる恐れがある。また、緊縮財政に嫌気が差している国民感情を反映して、反
EU色の強い政権が誕生する懸念も強まっている。いずれにしても、 11月以降に明らかになった
ぜい
ギリシャの政情不安は、公的債務問題が完全には解決しておらず、ユーロ圏経済が基本的に脆
じゃく
弱であることを示していると言えるだろう。
したがって、15年のユーロ圏経済が成長加速するためには、①ECBが日米英流の「量的金融
緩和」つまり国債の大量購入に踏み切るとともに、②相対的に財政状況が良好なドイツなどが財
政面からの刺激策をとることが必要だと思われる。ただ、後者の財政出動については、ドイツが
15年の新規国債発行ゼロを優先目標として、財政出動は少額にとどめたい意向であるため、実
現は難しい。前者の量的金融緩和については、加盟国ごとに異なる国債が発行されているユー
ロ圏では技術的にも政治的にも難しい面があるとされてきた。ただ、11月21日の講演で、ECB
のドラギ総裁は「物価上昇率(11月実績+0.3%)を遅滞なく政策目標(2%未満かつ、その近辺)
に戻すことが重要だ」、「やるべきことをやる」として、追加金融緩和の必要性を主張した上で、
「買い入れる資産の規模やペース、構成を変化させる」という表現で、国債の購入もあり得ること
を強く示唆した。その後、12月4日の理事会では、追加緩和の決定が見送られたが、理事会後
に公表された声明文の書き振りが「バランスシート拡大を『予想する』」から『意図する』に変更に
なったこともあって、1-3月期中に量的緩和が決定されるとの見方が強まっている。こうした見方
が強まったもう一つの要因として、12月11日に実施されたTLTRO第2弾の実績が市場予想
(1,300~1,500億ユーロ)を下回る1,298億ユーロにとどまった結果、約1兆ユーロのバランス
シート拡大を達成するためには、国債買い入れが不可欠と判断されるようになったことを指摘で
きるだろう。ドラギ総裁は、「低インフレの長期化が期待インフレ率の低下につながるリスクを警
戒している」と発言しているが、現時点では、原油安を主因として、低インフレの長期化あるいは
物価上昇率のマイナスへの転化が懸念されているのが実情だ。こうした中、ドラギ総裁は理事
会での投票結果が割れることを覚悟の上で、早期に国債の買い入れに踏み切るものとみられ
る。
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Ⅳ.中国 【実質経済成長率:14年+7.4% ⇒ 15年+7.1%】
14年の成長率は、投資の減速を主因に、14年3月の全人代で公表された目標値(+7.5%)を
わずかながら下回るとみられる【+7.4%】。一方、15年については、政府の成長目標が+7%程
度に引き下げられる中、物価安定を背景とした消費の底堅さを反映して、目標値を上回る成長
率を達成することも可能だろう【+7.1%】。
14年の目標未達は、年初に、投資を中心に経済が減速したことが一つの原因になっている。
その背景として、①習近平体制は、投資中心から消費中心へと中国経済の構造転換を図ってい
る、②同体制が積極的に推進している「反腐敗運動」が、ぜいたく品の消費を手控えさせている、
③反腐敗運動が続く中、汚職に関与しているとの嫌疑をかけられることを嫌い、地方政府の幹部
が投資に対する認可を出したがらなくなった、といったことなどを指摘できるだろう。こうした中、
政府(国務院)は、構造転換を遅らせかねない「全面的な景気刺激」を避け、「部分的な景気刺
激」で何とか成長率の調整を図ってきた。
しかし、年後半には、不動産価格、とりわけウエートの大きい住宅価格の低下傾向が明らかと
なり、その影響もあって、7-9月期は前年比+7.3%という5年半ぶりの低成長を記録した<図表
8>。中国の新築住宅価格は、11月まで7カ月連続で前月比下落したほか、11月の消費者物価
上昇率は+1.4%まで縮小し(10月+1.6%)、政府の抑制目標(+3.5%)を大きく下回っている<
図表9>。資産デフレが財・サービスのディスインフレ傾向へと波及する恐れも強まっている。こう
した中、11月は輸出・生産・投資の伸びが鈍化したほか、12月には製造業の景況感が一段と悪
化している。消費は11月に若干加速したものの、投資の減速を補うには力不足である。また、住
宅価格の低下は、①地方政府の財政状況の悪化や、②シャドーバンキング(銀行の預金・貸出
以外の金融仲介ルート)商品の償還困難化といった問題にもつながっているようだ。中国では、
一部の地方政府は、歳入の多くを住宅価格の影響を受けやすい「土地使用権の売却収入」に依
存しているため、住宅価格の低下を受け地方政府の歳入が減少を余儀なくされているものとみ
られる。また、地方政府は、いわゆる「シャドーバンキング」の貸出先としても大きなウエートを占
めているため、地方財政の悪化は、シャドーバンキングの償還問題にも直結している。こうした
中、政府は、銀行システム全体に波及する恐れのあるデフォルトは回避する一方で、部分的な
デフォルトは容認するという姿勢に変わってきているとみられる。
図表8 中国の実質GDP成長率と消費者物価上昇率の推移
出典:中国国家統計局
(注)消費者物価(CPI)前年比は、前年同月比の四半期平均値
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図表9 中国の新築住宅価格前月比の推移
出典:中国国家統計局
(注)新築商品住宅価格前月比の70都市単純平均
このように、住宅価格の下落傾向や景気の減速、さらには原油安を受けてディスインフレ傾向
が強まる中、11月21日に中国人民銀行が、銀行の貸出と預金に関する基準金利の引き下げを
決定した(実施は22日)。貸出基準金利(期間1年)を0.4%引き下げ5.6%に、預金基準金利(同)
を0.25%引き下げ2.75%に設定した。貸出基準金利の引き下げには、不動産市況を下支えする
とともに、企業の資金調達コストを軽くする狙いがあるのだろう。中国では、13年7月に貸出金利
の下限規制が撤廃されたが、現時点でも、実際の住宅ローンや企業向け融資では、基準金利が
貸出金利の目安になっているとされる。このため、貸出基準金利を引き下げれば、住宅ローンや
中小企業向け貸出の金利低下につながるとみられているようだ。また、利下げ実施後には、人
民元の対ドル相場が基準値を下回るなど、人民元安基調に転じており、人民元安誘導を通じた
輸出の底入れが企図されている可能性もあろう。ただ、12年7月以来、約2年4カ月ぶりとなる今
回の利下げについて人民銀行は、「中立的な操作」だとして、「『穏健な金融政策』という政策の
方向性の変化を意味するものではない」と説明している。
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景気のこれ以上の減速を防ぐため、実質的には「全面的な景気刺激」策の発動に踏み切った
ようにみえるものの、不動産投機への警戒も解いていないとみられ、人民銀行は「強力な景気刺
激は必要ない」との声明を出している。確かに、このところの物価上昇率の低下で、実質金利が
高くなっていることを勘案すれば、貸出基準金利を多少引き下げても景気刺激効果は大きくはな
いかも知れない。このように、習近平体制が「全面的な景気刺激」や「強力な景気刺激」という表
現を避ける背景には、「新常態(ニューノーマル:成長鈍化を通じて安定に向かうこと)」を掲げる
姿勢が明確で、目下のところは、景気の減速にも慌てていないといった事情があるとみられる。
いずれにしても、中国では、中央政府が相対的に財政面での余裕をもっており、いざとなれば財
政出動が可能であるほか、金融政策面でも、全面的な金融緩和の余地(準備率の引き下げ)が
残されている。このため、14年については、7.5%「程度」とみられる範囲の成長率の達成は可能
だろう。
なお、人民銀行は金利の自由化を進める措置も併せて実施しており、銀行が設定できる預金
金利の幅を拡大している。今回、預金金利の上限は、従来の基準金利の1.1倍から、1.2倍まで
に引き上げられた。このため、今回の基準金利引き下げ後も、預金金利の上限は3.3%で変わっ
ていない(3.0%の1.1倍と、2.75%の1.2倍は、いずれも3.3%)ことに留意が必要である。預金者
の利下げに対する不満に配慮した面もあると思われる。
一方、15年の成長率については、習近平体制が「新常態」を掲げ、「成長よりも構造転換を優
先」し、「安定成長への移行」を進めていることから、14年12月の中央経済工作会議で討議さ
れ、15年3月の全国人民代表大会で公表される予定の15年の成長率目標は、+7%近傍に引
き下げられるとの見方が一般的になっている。こうした観点から、14年12月の中央経済工作会
議後に党・政府から示された討議の内容をみてみると、例えば、①中国経済はすでに「新常態」
に向かっており、経済成長の速度は「高速」から「中高速」に徐々に減速するという認識を示した
上で、②15年の経済政策面における重要課題の第1に、「経済の安定成長維持」を掲げている。
また、③そのための経済政策の方針としては「積極的な財政政策と穏健な金融政策」という組み
合わせを維持する一方、④金融政策については、特に「引き締めと緩和の程度が適正であるこ
とを一層重視する」との方針が付け加えられている。いずれにしても、「安定成長」が重要課題の
第1である以上、景気の予想外の減速に対しては、14年11月の利下げのような対応がとられる
と考えられ、実際には、当面、緩和的な金融政策が継続するものとみられる。なお、+7%近傍と
いう政府目標の水準については、1,000万人程度の雇用純増を確保できる成長率に相当すると
の説明がなされることが多い。
ただ、政府目標が+7%に引き下げられた場合でも、その目標値を上回る成長率を達成できる
可能性は高いと思われる。その根拠としては、①14年11月の利下げを契機として、一部の大都
市では住宅価格が下げ止まる気配がみられており、全国ベースでも、15年半ばには新築住宅
価格が底打ちするのではないかと期待する声が聞かれていること、②物価安定を背景とした実
質購買力の高まりなどから、個人消費が底堅く推移すると見込まれることなどである。一方、過
剰な投融資を調整するスピードが速すぎると、実績としての成長率が、引き下げられた成長率目
標を下回る恐れもあろう。要は、中央政府が「構造転換の進展速度と成長目標の達成」をどの程
度のバランスで優先するかにかかっていると言えるだろう。
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