【改訂版】 応急手当講習テキスト (上級救命講習) 宇都宮市消防本部 目 次 Ⅰ 応急手当の基礎知識 ・・・1 1 応急手当と救命処置 ・・・1 2 救命の連鎖と市民の役割 ・・・1 ① 心停止の予防 ・・・2 ② 心停止の早期認識と通報 ・・・2 ③ 一次救命処置 ・・・2 ④ 二次救命処置と心拍再開後の集中治療 ・・・3 3 突然死を防ぐために ・・・3 ① 子ども ・・・3 ② 成人 ・・・4 4 心臓や呼吸が止まった場 ・・・4 5 応急手当をまとめてみると ・・・5 Ⅱ 救命処置 ・・・6 1 心肺蘇生法の手順 ・・・6 ① 反応を確認する ・・・7 ② 大声で叫んで周囲の注意を喚起する(助けを呼ぶ) ・・・7 ③ 119番通報をしてAEDを手配する ・・・7 ④ 呼吸を確認する ・・・7 ⑤ 胸骨圧迫をおこなう ・・・8 ⑥ 人工呼吸を行う(口対口人工呼吸) ・・・9 ⑦ 胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせ(心肺蘇生法)を続ける ・・・10 2 AED使用の手順 ・・・11 ⑧ AEDの準備 ・・・12 ⑨ 心電図の解析 ・・・14 ⑩ 電気ショック ・・・14 ⑪ 心肺蘇生の再開 ・・・14 ⑫ 心肺蘇生とAEDの手順の繰りかえし ・・・14 ⑬ 救急隊に引き継ぐまでの対応 ・・・15 ⑭ 特に注意をはらうべき状況 ・・・15 3 気道異物の除去 ・・・16 ① 気道異物による窒息 ・・・16 ② 窒息の発見 ・・・16 ③ 119番通報と異物除去 ・・・16 Ⅲ 乳児に対する応急手当 ・・・18 1 救命処置 ・・・18 2 乳児に対する救命処置の手順 ・・・20 ① 反応を確認する ・・・20 ② 大声で叫んで周囲の注意を喚起する(助けを呼ぶ) ・・・20 ③ 119番通報をしてAEDを手配する ・・・20 ④ 呼吸を確認する ・・・20 ⑤ 胸骨圧迫を行う ・・・20 - 1 - ⑥ 人工呼吸 を行う(口対口人工呼吸) ・・・20 ⑦ 心肺蘇生(胸骨圧迫と人工呼吸)を続ける ・・・21 ⑧~⑪ AEDの使用 ・・・21 3 乳児に対する気道異物の除去 ・・・22 ① 反応がある場合 ・・・22 ② 反応が無くなった場合 ・・・22 Ⅳ 止血法 その他の応急手当 ・・・23 1 出血時の止血法 ・・・23 2 傷病者の管理法 ・・・25 3 搬送法 ・・・27 4 けがに対する応急手当 ・・・29 5 熱傷(やけど)に対する応急手当 ・・・31 6 溺水(水の事故)に対する応急手当 ・・・32 7 その他の手当て ・・・33 Ⅴ その他 ・・・34 1 119番通報と救急車の呼び方 ・・・34 2 応急手当と感染症 ・・・35 3 応急手当の実施に伴う法的責任 ・・・35 - 2 - Ⅰ 応急手当の基礎知識 1 応急手当と救命処置 私たちは,いつ,どこで,突然のけがや病気におそわれるか予測ができません。こ のようなとき,病院に行くまでに,家庭や職場でできる手当のことを応急手当といい ます。 けがや病気の中で最も重篤で緊急を要するものは,心臓や呼吸が止まってしまった 場合です。急性心筋梗塞(心臓の病気)や脳卒中(脳の病気)などは,何の前触れも なく起こることがあり,心臓と呼吸が突然止まってしまうこともあります。プールで 溺れたり,喉にお餅を詰まらせたとき,あるいは,けがで大出血したときも,何もし なければ心臓と呼吸が止まってしまいます。 このような人の命を救うために,そばに居合わせた人ができる応急手当のことを救 命処置といいます。 救命処置には,傷病者を救命するために大切な心肺蘇生法,AED(自動体外式除 細動器)を用いた除細動,異物で窒息をきたした場合の気道異物の除去があります。 応急手当には,出血に対する圧迫止血や楽な姿勢をとらせる体位,傷病者の搬送法 やけが・やけどの手当,その他の応急手当(熱中症・けいれんなど)などがあります。 2 救命の連鎖と市民の役割 傷病者を救命し,社会復帰させるために必要となる一連の行いを4つの輪で構成さ れる「救命の連鎖」 (図1)といいます。 1つ目の輪は「心停止の予防」 ,2つ目は「早い通報(心停止の早期認識と通報) 」 , 3つ目は「一次救命処置(心肺蘇生とAED) 」 ,4つ目は「二次救命処置(救急救命 士や医師による高度な救命医療) 」をいいます。この4つの輪が途切れることなくす ばやくつながることで救命効果が高まります。 この連携プレーのどれか一つがかけても,命を救えるチャンスは少なくなってしま います。最初から3つの輪は,救急隊に引継ぐまでの間の現場に居合わせた市民によ り行われることが期待されています。市民により心肺蘇生法が行われたほうが,行わ れなかったときより生存率が高く,市民がAEDを使用し電気ショックを行ったほう が,救急隊の到着を待つことなく早期に実施できるため,生存率や社会復帰率が高い ことが分かっています。 心停止の予防 早期認識と通報 - 1 - 一次救命処置 二次救命処置と 心拍再開後の集中治療 ① 「心停止の予防」 (1つ目の輪) 子どもの突然死の主な原因には,けが,溺水,窒息があり,その多くは日常生活で 十分に注意することで予防できるものです。心臓や呼吸が止まってしまった場合の救 命処置も大事ですが,突然死を未然に防ぐことが一番効果的です。 成人の突然死の主な原因は,急性心筋梗塞や脳卒中です。これらは,生活習慣の改 善によりその発症のリスクを低下させることも大切な予防の1つです。しかし, 「救命 の連鎖」における心停止の予防とは,そのような初期症状に早く気付き,少しでも早 く救急車を要請することです。これにより,心停止になる前に病院で治療を開始でき る可能性が高くなります。 ② 「心停止の早期認識と通報」 (2つ目の輪) 心停止を早く認識するためには,突然倒れた人や,反応のない人を見たら,直ちに 心停止を疑うことが大切です。心停止の可能性があれば,大声で応援を呼び,119 番 通報とAEDの手配を頼み,傷病者のもとに少しでも早く救急隊やAEDが到着する ように行動します。心肺蘇生法のやり方がわからなかったり,忘れてしまった場合で も,119 番通報の電話を通して心肺蘇生法の指導を受けることができます。 ③ 「一次救命処置」 (3つ目の輪) 「一次救命処置」とは,心肺蘇生法とAEDの使用により,止まってしまった心臓 と呼吸の動きを助ける方法です。 ア 心肺蘇生法とは 図2 心肺蘇生法とは,胸を強く圧迫す る「胸骨圧迫」と,口から肺に息を 吹き込む「人工呼吸」により,止ま ってしまった心臓と呼吸の動きを助 ける方法です。 脳は,心臓が止まると 15 秒以内に 意識がなくなり,3~4分以上その ままの状態が続くと回復が困難とな り,心臓が止まっている間,心肺蘇 生によって脳や心臓に血液を送り続 けることがAEDの効果を高めると ともに,心臓の動きが戻った後に後 遺症を残さないために重要となりま す。命が助かる可能性は時間ととも に減少していきますが,その場に居 合わせた人が心肺蘇生法を実施した 救命の可能性と時間経過 場合には,その減少の仕方がゆっく りになります。 (図2) イ AED(自動体外式除細動器)とは 心臓が止まるのは,心臓がブルブルと細かくふるえる「心室細動」により生じ る場合が少なくなく,このような場合には,できるだけ早く心臓に電気ショック - 2 - を与え,心臓のふるえを取り除くこと(これを「除細動」という)がとても重要 です。 AEDとは,コンピューターによって自動的に心室細動かどうかを調べて,電 気ショックが必要か否かを決定し,音声メッセージで指示をしてくれるので,一 般の人でも簡単で確実に操作することができます。心室細動になってから電気シ ョックを行うまでの時間が遅れるごとに,生存退院のチャンスが低下することが 知られています。 最近では公共施設,学校,デパート,催し物ホール,駅など,いろいろな場所 にAEDが設置されており,その場に居合わせた人によりAEDを活用してもら うことで,今まで救急隊を待っていたのでは助からなかったかもしれない人々の 救命につなげることを目指す動きが広がっています。皆さんも緊急時に備えて, 図3のように設置されているAEDが自分の職場や通勤途上のどこにあるかを普 段から把握しておいて,万が一のときに,このAEDを使用し救命に役立ててく ださい。 (図3) ④ 「二次救命処置と心拍再開後の集中治療」 (4つ目の輪) 救急救命士や医師が, 薬や器具などを使用して心臓の動きをとり戻すことを目指し, 心臓の動きがとり戻せたなら,専門家による集中治療により社会復帰を目指します。 3 突然死を防ぐために 突然,心臓や呼吸が止まってしまった人を救うためには,そばに居合わせた人が救 命処置をすることが大事です。何の前触れもなく突然訪れることもありますが,その前 触れが見られることも少なくありません。この前触れに気付き,救急車を早く要請でき れば,助かる可能性が大きくなります。 ① 子ども 子どもの突然死の主な原因には,けが(外傷) ,溺水,窒息などがあります。その多 くは日常生活の中で十分に注意すれば予防が可能なので,何よりも突然死につながるよ - 3 - うな事故を未然に防ぐことが大事です。自動車に乗せるときのチャイルドシート使用, 自転車に乗るときのヘルメット着用,保護者がいないときの水遊びの禁止,幼児の手の 届くところに口に入る小さなもの(トイレットペーパーの芯を通過するような大きさの もの)を置かないことなどが重要です。 ② 成 人 成人がある日突然に死亡する主な原因には,急性心筋梗塞や脳卒中があります。急 性心筋梗塞や脳卒中の場合は,その初期症状に気付き,少しでも早く病院に行って治 療を始めることが重要です。自分で病院に行こうと病院に行くまでの間に悪化する可 能性もあるので,下記のような症状が急に起こったら,ためらわずに 119 番通報をし て救急車を依頼することが重要です。傷病者はしばしば 119 番通報を遠慮しますが, 強く説得してでも 119 番通報し,救急車が来るまでそばで見守り,容体が変わらない か注意してください。万が一,反応がなくなり,普段どおりの呼吸もなくなってしま ったら,直ちに心肺蘇生法を始めてください。 ア 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈と呼ばれる心臓の筋肉(心筋)に血液を送る血管が血 の塊(血栓)で詰まることで発症します。急性心筋梗塞になると,大事な心臓の 筋肉が死んでしまい,心臓の動きが弱まったり,心臓が突然止まってしまう不整 脈を起こしたりします。急性心筋梗塞の症状は, 「重苦しい」 「締めつけられる」 「圧迫される」 「絞られる」 「焼けつくような感じ」などと言われますが,この症 状は必ずしも胸だけに起こるわけではありません。胸以外に,背中,肩,両腕や 胃のあたり(みぞおち)に不快感を感じることもあります。重症の場合は,痛み のほか,息苦しさ,冷や汗,吐き気,嘔吐などを伴うことが多く,症状の強さに も個人差があり,高齢者や女性,糖尿病の人では症状が軽く,分かりにくいこと も少なくありません。 イ 脳卒中 脳卒中は,脳の血管が詰まったり,破けて出血したりすることで発症します。 脳の血管が詰まると,脳に血液が行かなくなるので,そのままにしていると,脳 梗塞といわれる状態になってしまいます。脳梗塞になると脳の神経細胞が死んで しまい,脳梗塞の部位によっては,手足(多くは体の片側)に力が入らなかった り,しびれたり,言葉がうまくしゃべれなかったり,ものが見えにくくなるなど します。重症の場合は,目が覚めなくなり,呼吸が止まって死んでしまいます。 また,脳の血管が破けて脳の表面に出血するとくも膜下出血が起こります。特徴 は,生まれて初めて経験するような激しい頭痛が突然生じます。 4 心臓や呼吸が止まった場合 心臓や呼吸が止まった人の治療は 1 分 1 秒を争います。図2をみると,心臓や呼吸 が止まった人の命が助かる可能性は,その後約10分の間に急激に少なくなっていき ます。このような時,まず必要なことは「すぐに 119 番通報する」ことです。119 番 通報が早ければ早いほど病院に早く到着できますし,病院に到着するまでの間も,救 - 4 - 急隊員による応急処置をより早く受けることができます。 しかし,それだけでは十分ではありません。救急車が到着するまでには全国平均で 約8分間かかります。もし,救急車が来るまで手をこまねいていては,助かる命も助 からないことになります。 そこで, そばに居合わせた人による救命処置が行えるよう, 心肺蘇生法やAEDの使用方法を身につけておくことが大切になるのです。現場に居 合わせた「市民」から「救急隊」へ, 「救急隊」から「医師」へ,命のバトンを引き継 ぐ「救命のリレー」 (図4)を途切れさせないために,多くの市民が勇気をもって行動 に移し,救命の第1走者として「救命のリレー」をスタートさせてください。 (図4) 5 応急手当をまとめてみると 応急手当をまとめてみると次のようになります。 応急手当 救命処置 呼吸や心臓が止まったとき 心肺蘇生法 (胸骨圧迫と 人工呼吸など) AEDの使用 (自動体外式除細動器) 喉にものが詰まったとき 止血法 その他の応急手当 気道異物の除去 (腹部突き上げ法など) 楽な姿勢をとらせる方法(保温,体位など) 傷病者の運び方(搬送法) 出血に対する応急手当(止血法) けがに対する応急手当 熱傷(やけど)に対する応急手当 溺水(水の事故)に対する応急手当 熱中症に対する応急手当 その他の応急手当(けいれん,歯の損傷) - 5 - Ⅱ 救命処置 主に市民が行う一次救命処置「心肺蘇生法とAED」の流れ 処置 (反応なし) ②大声で叫び応援を呼ぶ ③119番通報・AED依頼 ① 反応を確認 観察 ④ 呼吸をみる 普段どおりの 呼吸あり 気道確保 応援・救急隊を待つ 回復体位を考慮する 呼吸なし 死戦期呼吸(P7参照)は呼吸なしとして扱う ⑤胸骨圧迫 ●強く(成人は少なくとも5cm・小児は胸の厚さの約1/3) ●早く(少なくとも 100 回/分) ●絶え間なく(中断を最小限にする) ●圧迫解除は胸がしっかりもどるまで ⑥人工呼吸 ●人工呼吸ができないか,ためらわれる場合は胸骨圧迫のみを続ける ⑦心肺蘇生(胸骨圧迫 30 回+人工呼吸 2 回)を繰り返す ⑧AED装着 ●電源を入れる ●電極パッドを装着する ⑨ 心電図の解析 電気ショックは必要か? ⑫繰り返し 必要あり ⑫繰り返し 必要なし ⑩電気ショック1回 ⑪その後ただちに胸骨圧迫から 心肺蘇生を再開 ⑪ただちに胸骨圧迫から心肺蘇生 を再開 強く,速く,絶え間ない胸骨圧迫を! 救急隊に引き継ぐまで,または傷病者が目を開けたり, 普段どおりの呼吸が出現するまで心肺蘇生を続ける - 6 - もしもし 1 心肺蘇生法の手順 大丈夫ですか? ① 反応(意識)を確認する ● 傷病者の肩をやさしく叩きながら 大声で「大丈夫ですか」または 「もしもし」と呼びかけながら, 反応があるかないかをみる。 !ポイント ・ 傷病者に近寄る前に周囲を見渡して 安全であることを確認する。 ・ 呼びかけなどに対して目を開ける, 何らかの返答がある,または目的のある仕草があるなどが認められない場合は 「反応なし」と判断する。 ・ 心停止直後に時折認められる「死戦期呼吸/あえぎ呼吸(しゃくりあげるよう な途切れ途切れの呼吸) 」や「けいれん(引きつるような動き) 」は「目的のある 仕草」と認められず, 「反応なし」として対応する。 誰か来て ② 大声で叫び応援を呼ぶ ● 反応がない場合は, 「誰か来てください! 人が倒れています!」などと大声で叫んで 周囲の注意を喚起する。 ください! ③119番通報をしてAEDを手配する ● そばに誰かがいる場合は,119 番通報を 依頼する。また,近くにAEDがあれば それを持って来るよう依頼する。 ● 誰もいない場合は,119 番通報をまず行う。 また,AEDが近くにあることがわかっていれば,AEDを取りに行く。 ④ 呼吸を確認する ● 傷病者の胸と腹部の動き(呼吸をするたび上下する)を見る。胸と腹部が動いて いなければ,呼吸が止まっていると判断します。 ● 普段どおりの息(正常な呼吸)があるか調べる。 ● 約10秒間かけても,呼吸の状態がよくわからない場合は,呼吸がないものと 判断する。 !ポイント ・ 普段どおりの息(正常な呼吸)でないものとして,心停止直後の「死戦期呼吸」 (しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸)がある。 ・ 「反応はない」が普段どおりの息がある場合は,気道確保を行い,傷病者を注 意深く観察しながら,応援や救急隊の到着を待つ。必要なら傷病者を横向きに寝 かせる。 (回復体位) - 7 - ⑤ 胸骨圧迫を行う ● 胸の真ん中(胸の左右の真ん中にある縦長の平らな 骨「胸骨」の下側半分が圧迫する位置) ● その位置に一方の手のひらの基部 (手掌基部)をあて,その手の上に もう一方の手を重ねて置く。 (重ねた手の指を組むとよい) 胸骨に当てる部分 ● 肘をまっすぐに伸ばし,肩が圧迫部位 (自分の手のひら)の真上になる姿勢をとる。 ● 傷病者の胸が少なくとも5cm 沈み込む程度 の圧迫を繰り返す。 ● 圧迫のテンポは,1分間に少なくとも 100回 垂直に圧迫する ★悪い例 斜めに圧迫しない 肘を曲げて圧迫しない - 8 - !ポイント ・ 胸部圧迫位置は必ずしも,服を脱がせて確認する必要はない。 ・ 圧迫は手のひら全体で行うのではなく,手のひらの基部(手掌基部)だけに力 が加わるようにする。 ・ 圧迫と圧迫の間(圧迫を緩めている間)は,胸が元の高さに戻るように十分に 圧迫を解除する。 ・ 圧迫する位置がずれることがあるので,自分の手が傷病者の胸から離れてしま わないように注意する。 胸骨圧迫30回 ●胸の真ん中(胸骨の下半分)を圧迫 ●強く(少なくとも胸が 5cm 沈み込むまで) ●速く(少なくとも1分間に 100 回のテンポ) ●絶え間なく(30 回連続) ●圧迫と圧迫の間は力を抜く ⑥ 人工呼吸を行う(口対口人工呼吸) 胸骨圧迫を30回続けたら,気道を確保し人工呼吸を2回行う。 ア 気道を確保する(頭部後屈あご先挙上法) ● 片手で傷病者の額を押さえながら, もう一方の手の指先をあごの先端, 骨のある硬い部分にあてて持ち上げ, 気道を確保する。 !ポイント ・ 指であごの下の柔らかい部分を 圧迫しない。 ・ 顔がのけぞり(頭部後屈) ,あご 先が持ち上がる(あご先挙上)姿勢 によって喉の奥を広げ,空気(息) を通りやすくする。 頭部後屈あご先挙上法 イ 人工呼吸 ● 頭部後屈あご先挙上法で気道を確保したまま,吹き込んだ息が傷病者の鼻から漏 れ出さないように,額を押さえている方の手の親指と人差し指で傷病者の鼻をつま む。 ● 口を大きくあけて傷病者の口を覆って密着させ,息を吹き込む。 ● 息は傷病者の胸が上がるのが見てわかる程度の量を約1秒間かけて吹き込む。 ● 吹き込んだら,いったん口を離し,傷病者の息が自然に出るのを待ち,もう一度, 口で口を覆って息を吹き込む。 - 9 - !ポイント ・ 1回目の吹き込みで胸が上がらなかった場合は,2回目の前にもう一度,頭部 後屈あご先挙上法をやり直してから吹き込む。 ・ 口対口人工呼吸を行う際は,感染防護具を使うことを推奨。 (一方向弁付き呼 気吹き込み用具など) ・ 感染防護具を持っていない場合,持っているが準備に時間がかかりそうな場合, 口と口が直接接触することに躊躇する場合などは,人工呼吸を省略してすぐに胸 骨圧迫に進む。 人工呼吸2回 ●口対口で鼻をつまみながら息を吹き込む ●胸が上がる程度 ●1 回約1秒かけて 2 回吹き込む ●10 秒以上かけない ⑦ 胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせ(心肺蘇生法)を続ける ● 胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせを絶え間なく続ける。 30:2 胸骨圧迫 人工呼吸 - 10 - !ポイント ・ 疲れてくると圧迫が弱くなったり,テンポが遅くなったりしがちなので,常に 意識して,強く,速く圧迫し続けるように心がける。 ・ もし,他に手伝ってくれる人がいる場合は,1~2分を目安に役割を交代する。 心肺蘇生法を続ける ● 救急隊員などの熟練した救助者が到着しても,救急隊員の指示があるまで,心肺 蘇生法は中止しない。 ● 心肺蘇生法中,普段どおりの息をしはじめた場合,あるいは目的のある仕草が認 められれば,心肺蘇生法をいったん終了するが,反応が戻るまでは気道確保や回復 体位が必要となる場合があるので,繰り返し反応の有無や呼吸の様子をみる。 回復体位 ・ 反応はないが正常な呼吸をしている傷病者で,吐物や吐血などが見られる場合や救助者 があなた一人のみで, やむをえず傷病者のそばを離れる場合には,横向きに寝た姿勢にする。 ・ 傷病者の下になる腕を前に伸ばし, 上になる腕を曲げ,その手の甲に 顔を乗せる。 ・ 上になる傷病者の膝を約90度に 曲げて,姿勢を安定させる。 ・ ただし,傷病者の下になっている 腕の血管や神経が圧迫され,損傷を きたすことがあるため,長時間の同じ回復体位は避ける。 2 AED使用の手順 ・ AEDは,音声メッセージと点滅するランプで実施することを指示します。 ・ AEDによる心電図解析や電気ショックなど,やむをえない場合を除いて,心肺 蘇生法をできるだけ絶え間なく続ける。 ・ 安全に使用するため,以下の手順で行う。 AEDを持って来る ● 傷病者に反応がないことがわかったら,誰かにAEDを持ってくるよう依頼する。 ● 他に誰もいない場合,AEDが近くにあることがわかっていれば,救助者自身が 自分でAEDを取りに行く。 !ポイント ・ 緊急時に備えて,自分の職場や通勤途上のどこにAEDがあるかを普段から把 握しておく。 ・ AEDのマークが貼られた専用ボックスの中に置かれている。 ・ 専用ボックスを開けると,警告ブザーがなるが,そのままにしてAEDを取り - 11 - 出して,すぐに傷病者の元に戻る。 ⑧ AEDの準備 ● 心肺蘇生法を行っている途中でAEDが届いたら,すぐに使う準備に移る。 !ポイント ・ 傷病者の頭の近くに置くと操作しやすい。 ◇ 電源を入れる ● AEDの電源を入れる。 (機種によって電源ボタンを押すタイプとふたを開ける と自動的に電源が入るタイプがある) ● 電源を入れたら,音声メッセージとランプに従って操作する。 【AED(主な種類) 】 AEDには,いろいろなタイプの機種があるが,基本的な機能は共通している。 - 12 - ◇ パッドを貼り付ける電極 ● 傷病者の胸から衣服を取り除き,胸をはだける。 ● AEDのケースに入っている電極パッドを袋から取り出す。 ● 電極パッドや袋に描かれているイラストに従い,2枚の電極パッドを直接貼り付 ける。貼り付け位置は,胸の右上(鎖骨の下で胸骨の右)と,胸の左下側 (脇の下5~8cm下,乳頭の斜め下)に,シールをはがして直接貼り付ける。 電極パッドの貼り付け位置を図示 服の胸を開いて電極パッドを貼り付ける !ポイント ・ 服を取り除けない場合は,衣服を切る必要がある。 ・ 電極パッドは,肌にしっかり密着させる。 (電極パッドと肌の間に空気が入る と電気がうまく伝わらない)アクセサリーなどの上から貼らないように注意する。 すき間があいているのでよくない ・ 機種によって,電極パッドから延びているケーブルの差込み(プラグ)をAE D本体の差込み口に挿入するタイプがある。 (音声メッセージに従う) ・ 成人用と小児用の2種類の電極パッドが入っている場合,成人に小児用の電極 パッドを使用しない。 ・ 小学校に入るまでの小児(未就学児)に対しては,小児用パッドが入っていれ ばこちらを使用する。また,小児用モードの機能がある機種は,小児用に切り替 えて使用する。これらがなければ,成人用の電極パッドを使用する。 - 13 - ⑨ 心電図の解析 ● 電極パッドがしっかり貼られると, 「体から離れてください」との音声 メッセージが流れ,AEDが自動的に 心電図の解析を始める。 ● 周囲の人に傷病者から離れるよう 伝え,誰も傷病者の体に触れていない ことを確認する。 ⑩ 電気ショック 電気ショックの指示が出たら ・ AEDが自動的に心電図を解析し, 電気ショックが必要である場合は, 「ショックが必要です」などの音声 メッセージが流れ,自動的に充電を 開始する。 ・ 周囲の人に傷病者の体に触れない よう声をかけ,誰も傷病者の体に触 れていないことをもう一度確認する。 ・ 充電が完了すると,連続音やショックボタンの点灯とともに電気ショックを行 うように音声メッセージが流れる。 ・ 音声メッセージに従って,ショックボタンを押し電気ショックを行う。 ・ AEDから傷病者に強い電気が流れ,傷病者の体が一瞬ビクッと突っ張る。 ⑪ 心肺蘇生の再開 ・ 電気ショックのあとは,すぐに胸骨圧迫から心肺蘇生法を再開する。 「ただちに胸骨圧迫を開始してください」などの音声メッセージが流れる。 音声メッセージに従って,胸骨圧迫を再開する。 ショック不要の指示が出たら ・ AEDの音声メッセージが「ショックは不要です」の場合には,ただちに胸骨 圧迫から心肺蘇生法を再開する。 ⑫ 心肺蘇生法とAEDの手順のくりかえし ● AEDは2分おきに心電図の解析を始める。その都度「体から離れてください。 」 などの音声メッセージが流れる。傷病者から手を離すとともに,周囲の人にも離れ るよう声をかけ,体に触れていないことを確認する。 ● 以後も同様に心肺蘇生法とAEDの手順をくりかえす。 - 14 - ⑬ 救急隊に引き継ぐまでの対応 ● 救急隊員などの熟練した救助者に傷病者を引き継ぐまで,心肺蘇生法とAEDの 手順をあきらめずに繰り返す。 ● 傷病者が普段どおりの呼吸をしはじめる,あるいは目的のある仕草が認められて 心肺蘇生法をいったん終了できても,再び心臓が停止してAEDが必要になること もあり,AEDの電極パッドは剥がさず,電源も入れたままにしておく。 ⑭ 特に注意をはらうべき状況 ア 傷病者の胸が濡れている場合 ・ 電気が体表の水を伝わって流れてしまうため,AEDの効果が不十分になる。 ・ 乾いた布やタオル等で胸を拭いてから電極パッドを貼り付ける。 イ 貼り薬がある場合 ・ ニトログリセリン,ニコチン,鎮痛剤,ホルモン剤,降圧剤などの貼り薬や湿 布薬を剥がし,残っている薬剤を拭き取る。 ・ 貼り薬の上から電極パッドを貼り付けると電気ショックの効果が弱まったり, 貼り付け部位にやけどを起こすことがある。 ウ 医療器具が埋め込まれている場合 ・ 皮膚の下に心臓ペースメーカーや植込み型除細動器が埋め込まれている場合は, 胸の硬いこぶのような出っ張りが見える。貼り付け部位にこの出っ張りがある場 合,電極パッドは出っ張りを避けて貼り付ける。 医療器具が埋め込まれている 出っ張りを避けて電極パッドを貼る - 15 - 3 気道異物の除去 ① 気道異物による窒息 ・ たとえば食事中に食べ物が気道に詰まるなどで息ができない状態。 ・ 窒息の予防として,高齢者や乳児は細かくきざんだ食べ物をとる方法がある。 ・ 万が一窒息してしまった場合は,以下の対応をする。 ② 窒息の発見 ● 相手が苦しそう,顔色が悪い,声が出 せない,息ができないなどがあれば窒息 している可能性がある。 ● 呼吸ができないことをまわりに伝える 方法として,親指と人差し指でのどをつかむ 仕草(窒息のサイン)がある。 ● 強い咳ができる場合は,自然に異物が排出される こともあるので注意深く見守る。咳が弱くなったり, 窒息のサイン 咳が出なくなった場合は,迅速に対応する。 ● もし窒息への対応が途中でわからなくなったら,119番通報をすると電話を通 してあなたが行うべきことを指導されるので,落ち着いて指示に従う。 ③ 119番通報と異物除去 ア 反応がある場合 ・ 傷病者に「喉が詰まったの?」と尋ね,声が出せず,うなずくようであれば窒 息と判断し,以下の行動に移る。 ・ 119 番通報を誰かに依頼するとともに,ただちに腹部突き上げ法や背部叩打法 を試みる。 ・ 傷病者が咳きをすることが可能であれば,できるだけ咳きを続けさせる。咳きが できれば,異物の除去にもっとも効果的である。 ・ その場の状況に応じて,やりやすい方法を行う。どちらか一方を行っても効果 のない場合はもう一方を試みる。 イ 反応がなくなった場合 ・ 傷病者がぐったりして反応がなくなったら,心停止に対する心肺蘇生法の手順 を行う。 ( 「テキスト」P7を参照) ・ 心肺蘇生法の途中で口の中に異物が見えた場合は,取り除く。見えない場合に は,異物を探すのに時間を費やすことはせずに,心肺蘇生を繰り返す。 - 16 - 腹部突き上げ法 ● 傷病者の後ろにまわり,ウエスト付近に手を回す。 ● 片手で握りこぶしを作って,その親指側を傷病者のへその上方でみぞおち よりやや下方に当てる。 ● その上をもう一方の手で握り,すばやく手前上方に向かって圧迫するよう に突き上げる。 ※ 注) ・ 腹部突き上げ法を実施後,腹部の内臓をいためる可能性があるため,救急 隊に伝えるか,速やかに医師の診察が必要である。 ・ 妊婦,1歳未満の乳児には,行ってはならない。 はいぶこうだほう 背 部 叩打法 ● ひざまずいて,傷病者を自分の方に向けて側臥位にする。 ● 手のひらの基部(手の付け根に近い部分)で,左右の肩甲骨の中間あたり を力強く連続して叩く。 側臥位の方法 座位の方法 - 17 - Ⅲ 乳児に対する応急手当 1 救命処置 救命処置は,小児に対しても成人との違いをできるだけ気にせずに実行できるよ 工夫されています。子どもたちの命に危険が迫っているときは,年齢をきにするこ となく心肺蘇生を行うことが効果的です。しかし,1歳未満の乳児に対しては,体 の大きさが違うことなどの理由から,さらに適した救命処置のやり方があります。 乳児に行う救命処置で特に注意するのは以下の点です。 ● 胸骨圧迫の方法 ● 人工呼吸を開始するタイミングと実施要領 ● 気道異物の除去方法 そばにいるご両親はわが子の急変に戸惑って,とっさには動けないかもしれませ ん。思い出した「何か」が心配蘇生法のわずかな部分であってもいいので,勇気を もって実施して下さい。 「何か」をすることで,こどもの状態が悪くなることはあり ません。胸骨圧迫を行うことがためらわれるなら,人工呼吸から始めてよいのです。 息を吹き込むだけで状態が良くなるかもしれません。ためらわずに息を吹き込んであ げてください。 それでも改善しなければ, 続けて胸骨圧迫をして下さい。 「何もしない」 より「何か一つでも」勇気をもって行うことが大切なのです。 - 18 - 乳児の一次救命処置「心肺蘇生法とAED」の流れ 処置 (反応なし) ②大声で叫び応援を呼ぶ ③119番通報・AED依頼 ① 反応を確認 観察 気道確保 応援・救急隊を待つ ④ 呼吸をみる 普段どおりの 呼吸あり 呼吸なし 死戦期呼吸(P7参照)は呼吸なしとして扱う ⑤胸骨圧迫 ●強く(指2本で胸の厚さの約1/3) ●早く(少なくとも 100 回/分) ●絶え間なく(中断を最小限にする) ●圧迫解除は胸がしっかりもどるまで ⑥人工呼吸 ●準備ができしだい開始 ●人工呼吸ができないか,ためらわれる場合は胸骨圧迫のみを続ける ⑦心肺蘇生(胸骨圧迫 30 回+人工呼吸 2 回)を繰り返す ⑧AED装着 ●小児用電極パッド(小児用モード)を使用する ●小児用がない場合は成人用電極パッドを使用する ⑨ 心電図の解析 電気ショックは必要か? ⑫繰り返し 必要あり ⑫繰り返し 必要なし ⑩電気ショック1回 ⑪その後ただちに胸骨圧迫から 心肺蘇生を再開 ⑪ただちに胸骨圧迫から心肺蘇生 を再開 強く,速く,絶え間ない胸骨圧迫を! 救急隊に引き継ぐまで,または傷病者が目を開けたり, 普段どおりの呼吸が出現するまで心肺蘇生を続ける - 19 - 2 乳児に対する救命処置の手順 ① 反応を確認する ● 声をかけながら反応があるかないかを確かめる。足の裏をたたいて,刺激する ことも有効。 ② 大声で叫んで周囲の注意を喚起する(助けを呼ぶ) ● 反応がなければ,大きな声で助けを呼ぶ。 ● 協力者が来たら「あなたは 119 番通報してください」 「あなたは AED を持ってき てください」と具体的に依頼する。 ③ 119番通報をしてAEDを手配する ● そばに誰かがいる場合は,119 番通報を依頼する。また,近くにAEDがあれば それを持って来るよう依頼する。 ● 誰もいない場合は,119 番通報をまず行う。また,AEDが近くにあることがわ かっていれば,AEDを取りに行く。 ④ 呼吸の確認する ● 胸や腹部の上がり下がりを見て,普段どおりの呼吸をしているか判断する。 ⑤ 胸骨圧迫を行う ● 圧迫の位置は,両乳頭を結ぶ線の少し足側を目安とした胸の真ん中。 ● 圧迫方法は,指2本(中指・薬指)押す。 ● 1分間に少なくとも 100 回の速いテンポで 30 回連続して圧迫する。 ● 圧迫の強さ(深さ)は,胸の厚さの1/3を目安 として,十分に沈む程度に,強く,速く,絶え間な く圧迫する。乳児だからといって,こわごわと弱く 迫しては効果が得られない。 ⑥ 人工呼吸を行う(口対口鼻人工呼吸) ● 子どもの場合には呼吸が悪くなって心停止になることが多いため, 胸骨圧迫より も早く人工呼吸を行えるのであれば,人工呼吸を2回行ってから心肺蘇生を行っ てもかまいません。 ● 乳児の大きさでは,口対口人工呼吸を行うことが 難しい場合がある。この場合は,口と鼻を同時に自 分の口で覆う口対口鼻人工呼吸を行う。 - 20 - ⑦ 心肺蘇生(胸骨圧迫と人工呼吸)を続ける ● 胸骨圧迫を 30 回と人工呼吸を2回 の組み合わせを絶え間なく続ける。 ⑧~⑪ AEDの使用 ● 乳児にも AED を使用できる。 ・AED に小児用電極パッド(小児用モード)が備わっている場合には,それを用い る(切り替える) 。もし,小児用電極パッド(小児用モード)が備わってない場合 は,成人用電極パッドを用いるが,小児用パッドよりも大きいので,パッドが触れ 合わないよう配慮する。 ・電極パッドを貼る位置は,電極パッドに表示されている絵に従う。 !ポイント ・ 小児用パッドの中には,胸と背中に貼るタイプもある。 - 21 - 3 乳児に対する気道異物の除去 苦しそうで顔色が悪く,泣き声も出ないときは気道異物による窒息と判断して, ただちに 119 番通報を誰かに依頼し,異物除去を行う。 ① 反応がある場合(背部叩打法及と胸部突き上げ法を実施する。 ) ア 背部叩打法は,片方の手で乳児のあごをしっかり持ち,その腕に胸と腹を乗せ て頭が下がるようにしてうつ伏せにし,もう一方の手の付け根で背中の真ん中を 力強く数回連続してたたく。 イ 胸部突き上げ法は,片方の腕に乳児の背中を乗せ,手のひら全体で後頭部をし っかり支えながら,頭が下がるように仰向けにし,もう一方の手の指2本で胸の 真ん中を力強く数回連続して圧迫する。 (心肺蘇生の胸骨圧迫と同じ要領) ② 反応が無くなった場合 ア 乳児に対する心配蘇生法の手順を開始する。 イ 心肺蘇生を行っている途中で異物が見えた場合は,それを取り除く。 !ポイント ・ 乳児に対しては腹部突き上げ法を行わない。 ・ 口の中に異物が見えない場合,やみくもに口のなかに指を入れて探らない。また, 異物を探すために胸骨圧迫を長く中断しない。 - 22 - Ⅳ 止血法 その他の応急手当 応急手当とは 心肺停止を除いた一般的な傷病の悪化を回避するための最小限の手当。 1 出血時の止血法 一般に体内の血液の 20%が急速に失われると出血性ショックという重篤な状態に なり,30%を失えば生命に危険を及ぼすといわれています。 したがって,出血量が多いほど,止血手当を迅速に行う必要があります。 大出血の止血方法としては, 出血部位を直接圧迫する直接圧迫止血法が基本である。 直接圧迫止血法 出血部位を圧迫し,止血をする ● きれいなガーゼやハンカチ,タオルなどを重ねて直接傷口に当て,手で圧迫する。 ● 大きな血管からの出血の場合で片手で圧迫しても止血しないときは,両手で体重 をのせながら圧迫止血する。 !ポイント ・ 止血の手当を行うときは,感染防止のため血液に直接触れないように注意する。 ・ ビニール・ゴム手袋の利用。それがなければ,ビニールの買い物袋などを利用 する方法もある。 ・ 止血するために手足を細い紐や針金で縛ることは,神経や筋肉を損傷するおそ れがあるので行わない。 ・ ガーゼなどが血液で濡れてくるのは,圧迫位置が出血部位からずれている,ま たは圧迫する力が弱いなどが考えられるため,出血部位を確実におさえることが 重要。 - 23 - ショック状態への対応 1 ショックのみかた ● 顔色を見る。 ● 呼吸を見る。 !ポイント ショックの症状 ・ 目はうつろとなる。 ・ 冷汗が出る。 ・ 表情はぼんやりしている(無欲状態) 。 ・ 唇は白っぽいか紫色(チアノーゼ) 。 ・ 呼吸は速く浅くなる。 ・ 体は,こきざみに震える。 ・ 皮膚は青白く,冷たい。 2 ショックに対する応急手当 ● 傷病者を水平に寝かせる。 ● 両足を15cm~30cmぐらい高く上げる。 ● ネクタイやベルトをゆるめる。 ● 毛布や衣服をかけ,保温する。 ● 声をかけて元気づける。 ショック体位(足側高位) !ポイント ・ 頭にけがのある場合や,足に骨折がある場合で固定していないときは, ショック体位をとってはならない。仰臥位とする。 - 24 - 2 傷病者の管理法 ① 安全の確認 傷病者に近寄る前に,周囲の安全を確認し,状況にあわせて自らの安全を確保し てから近づく。特に,車が通る道路に人が倒れている場合には気をつける。 ② 衣服のゆるめ方 ● 傷病者にとって楽な姿勢をとらせ,衣服やベルトなどをゆるめる。 ● 衣服は,傷病者の動揺を与えないように,できるだけ安静にしてゆるめる。 !ポイント ・ 救命処置が必要なら,そちらを優先する。 ・ 傷病者に意識がある場合は,よく説明し,希望を聞きながら衣服をゆるめ,無 理強いしない。 ③ 保温(傷病者の体温を保つ) ● 悪寒,体温の低下,顔面蒼白,ショック症状などが見られる場合は,傷病者の体 温が逃げないように毛布などで保温する。 ● 服がぬれているときは,脱がせてから保温をするようにする。 !ポイント ・ 地面やコンクリートの床などに寝かせるときの保温は,身体の上に掛ける物よ り,下に敷く物を厚くする。 ・ 熱中症を除き,季節に関係なく実施する。 ④ 体位の管理法 ● 傷病者に適した体位(姿勢)を保つことは,呼吸や循環機能を維持し,苦痛を和 らげ,症状の悪化を防ぐのに有効である。 ● 傷病者の希望する,最も楽な姿勢(体位)にして安静を保つ。 ● 体位を強制してはいけない。 ● 体位を変える場合には,痛みや不安感を与えないようにする。 ア ぎょうが い 仰 臥 位(仰向け) ・ 背中を下にした水平な体位。 ・ 全身の筋肉などに無理な緊張を 与えない。 ・ 最も安定した自然な姿勢。 ・ 心肺蘇生法を行うのにも適している。 - 25 - イ しつくっきょく い 膝 屈 曲位 ・ 仰臥位で膝を立てた体位。 ・ 腹部の緊張と痛みを和らげる姿勢。 ・ 一般的に,腹部に外傷を受けた場合や 腹痛を訴えた場合に適している。 ふくがい ウ 腹臥位 ・ 腹ばいで,顔を横に向けた体位。 ・ 食べた者を吐いているときや,背中に けがをしているときに適している。 そくが い エ 回復体位(側臥位) ・ 傷病者を横向きに寝かせ,下あごを前に 出して気道を確保し,上側の手の甲に 傷病者の顔を乗せ,上側の膝を90度 曲げ,後ろに倒れないようにする体位。 ・ 窒息防止に有効で,反応(意識)のない 傷病者に適している。 オ 半座位 ・ 上体を軽く起こした体位。 ・ 胸や呼吸の苦しい傷病者に適している。 ・ 頭にけがをしている場合や,脳血管障害 の場合に適している。 カ 座位 ・ 座った状態でいる体位。 ・ 胸や呼吸の苦しさを訴えている傷病者 に適している。 キ ショック体位(足側高位) ・ 仰臥位で足側を高くした体位。 ・ 貧血や出血性ショックの傷病者に 適している。 ・ 頭にけがをしている場合には,適して いない。 (仰臥位にする) - 26 - 3 搬送法 応急手当がなされた傷病者を搬送したり,危険な場所にいる傷病者を安全な場所に 移動させる場合の方法である。傷病者の搬送は,傷病者に苦痛を与えず安全に搬送す ることが大切である。 ① 担架搬送法 ● 担架搬送は,傷病者の応急手当を行った後,保温をして,原則として足側を前にし て搬送する。搬送中は,動揺や振動を少なくする必要がある。 ② 担架を用いない搬送法(徒手搬送法) ● 担架等が使用できない場所で,事故現場から他の安全な場所へ緊急に移動させる ために用いられる。 !ポイント ・ 徒手搬送は,いかに慎重に行っても傷病者に与える影響が大きいことを認識し て,必要最小限にとどめるべきである。 ア 1名で搬送する方法 ・ 背部から後方に移動する方法で, おしりをつり上げるようにして移動 させる。 ・ 背負って搬送する方法で,傷病者の 両腕を交差または平行にさせて, 両手を持って搬送する。 ・ 横抱きで搬送する方法で,小児,乳児や 小柄な人は横抱きにしたほうが搬送しやすい。 - 27 - ・ 毛布,シーツを利用する方法で, 傷病者の胸腹部を圧迫することが 多いので注意する。 !ポイント ・ やむを得ない場合にとどめ,努めて複数の者による搬送を心がける。 イ 2名で搬送する方法 ・ 傷病者の前後を抱えて搬送する方法。 ・ 手を組んで搬送する方法。 !ポイント ・ 傷病者の首が前に倒れるおそれがあるので,気道の確保に注意する。 ・ 2名がお互いに歩調を合わせ,搬送に際して傷病者に動揺を与えないように する。 - 28 - ウ 3名で搬送する方法 3名で搬送する場合の注意事項 ・ 足側の膝をつき,頭側の膝を立てて折り膝とする。 ・ 両腕を傷病者の下に十分入れる。 ・ 3名が同時に行動する。 4 けがに対する応急手当 ① 骨折に対する応急手当 ア 骨折の部位を確認する ・ どこが痛いか聞く。 ・ 可能であれば,痛がっているところに変形や出血がないかを確認する。 !ポイント ・ 確認する場合は,痛がっているところを動かしてはならない。 ・ 骨折の症状 激しい痛みや腫れがあり,動かすことができない。 変形が認められる。骨が飛び出ている。 ・ 骨折の疑いがあるときは,骨折しているものとして,手当をする。 イ 骨折しているところを固定する ・ 変形している場合,無理に元の形に戻さない。 ・ 協力者がいれば,骨折しているところを支えてもらう。 ・ 傷病者が支えることができれば,自ら支えてもらう。 ・ そえ木を当てる。 ・ 骨折部を三角巾などでそえ木に固定する。 腕の固定 雑誌を利用した前腕部の固定 - 29 - 足の固定 ダンボール等を使用した下肢の固定 !ポイント ・ そえ木は,骨折部の上下の関節が固定できる長さのものを使用する。 ・ 固定するときは,傷病者に知らせてから実施し,顔色や表情を見ながら固定 する。 ② ねんざ・打ち身(打撲)に対する応急手当 ● 幹部を冷水などで冷やし,内出血や腫れを軽くする。 ③ きずに対する応急手当 ア きず口の手当 ・ きず口が砂などで汚れているときは,速やかに水道水などきれいな水で十分に 洗い流す。 イ 包帯法 ・ 包帯は,きずの保護と細菌の侵入を防ぐために行う。 ・ きずを十分に覆うことのできる大きさのものを用いる。 ・ 出血があるときは,十分に厚くしたガーゼ等を用いる。 ・ きず口が開いている場合などは,原則として滅菌されたガーゼを使用し,脱脂 綿や不潔なものを用いてはならない。 !ポイント ・ 包帯は強く巻くと血行障害を起こし,ゆるすぎると包帯がずれたりするので注 意して巻く。 ・ 包帯の結び目は,きず口の上を避けるようにする。 ウ 三角巾 ・ 体のどの部分にも使用できる。 ・ きずの大きさにとらわれずに使用できる。 ・ きず口にはガーゼ等を当ててから,三角巾を用いるようにする。 ④ 首を痛めている場合の応急手当 ア 首が痛いか聞く ・ 次の症状があるか聞く。 首が痛くないか? 呼吸は苦しくないか? 手足を動かせるか? 手足に力が入らないか? - 30 - !ポイント ・ これらの症状が一つでもある場合は,首の骨を痛めていると判断する。 イ 首が動かないようにする。 ・ 意識があれば,動かさないように伝える。 ・ 頭を両手で支え,動かさないようにする。 ・ 声をかけ,元気づける。 !ポイント ・ 傷病者の置かれた周囲の状況が安全であれば, 頭が動かないように両手で支えて固定し, 救急隊に引継ぐまで不必要な移動は行わない。 ・ 傷病者の置かれた場所が危険な状況であるなど やむを得ない場合に限って,安静に必要最小限の移動を行う。 5 熱傷(やけど)に対する応急手当 やけど(熱傷)は,熱いお湯や油が体にかかったり,炎ややかんなどに触れたりす ると起こる。あまり熱くない湯たんぽなどでも,体の同じ場所に長時間あたっている とやけど(低温熱傷)になることがある。また,塩酸などの化学物質が皮膚について やけど(化学熱傷)になることがある。 ① やけど(熱傷)の応急手当の方法 ● 水で冷やす すぐに,水で冷やすことが大切。痛みが軽くなるだけでなく,やけどが悪化する ことを防ぐこともできる。 !ポイント ・ できるだけ早く,水道水などの清潔な流水で十分に冷やす。 ・ 靴下など衣類を着ている場合は,衣服ごと冷やす。 ・ 氷などを使って長時間冷やすと,冷えすぎてしまい,かえって悪化するおそれ があるので注意する。 ・ 広い範囲にやけどをした場合は,体全体が冷えてしまう可能性があるので,冷 却は 10 分以内にとどめる。 ② やけど(熱傷)の程度と留意点 やけどの程度は,やけどの深さ(皮膚の状態)と広さできまる。 ● 浅いやけどの場合 ・ 一番浅いやけどは,日焼けと同じで皮膚が赤くなりひりひり痛みますが,水ぶ くれ(水泡)はできない。 ・ よく冷やしておくだけで,ほとんどは病院に行かなくても自然に治る。 - 31 - ● 中くらいの深さのやけどの場合 ・ 水ぶくれができるのが特徴。 ・ すぐに水で冷やした後,ガーゼやタオルで覆って水ぶくれが破れないように気 をつけて,できるだけ早く医療機関を受診すること。なお,水ぶくれが破れても 薬などを塗ってはいけない。 ・ ガーゼやタオルで覆いきれないような大きな水ぶくれになったときは,救急車 を呼ぶことを考慮する。 ● 最も深いやけどの場合 ・ 水ぶくれにならず,皮膚が真っ白になったり,黒く焦げたりして,痛みは,あ まり感じない。 ・ 治りにくく,手術が必要になることもある。必ず医療機関を受診する。 !ポイント ・ 老人や小さい子どもは,熱傷の範囲が狭いときでも,命にかかわることがある ので注意する。 ・ 火事などで煙を吸ったときは,やけどだけでなく肺が傷ついている可能性があ るので注意する。 ・ やけどが大きい場合や,顔面や陰部のやけどまたは皮膚が焦げていたり白くな って痛みを感じないような深いやけどの場合は,すぐ 119 番通報する。 6 溺水(水の事故)に対する応急手当 ① 溺れている人の救助 ● 溺れている人をみつけたときは,直ちに 119 番通報し救助を求める。発見者が一 人の場合には,大声で応援を呼んでAEDの手配をする。 ● つかまって浮くことができそうなものを投げ入れ,ロープがあれば投げ渡して, 岸に引き寄せる。 !ポイント ・ 海,川,湖では,救助者が巻き込まれて溺れるケースが多いため,うかつに救 助に行くことはせず,日ごろから訓練を受けている消防職員やライフセイバーな どの専門の救助者に任せることが原則。 ・ 溺れている人が水没したら,水没箇所をわかるように目標を決めておき,到着 した専門の救助者に伝える。 ② 心肺蘇生法の実施 ● 反応(意識)がなく,普段どおりの呼吸をしていなければ心肺蘇生法を実施する。 ● 水を吐かせるために傷病者の腹部を圧迫しない。 - 32 - 7 その他の手当 ① 熱中症に対する応急手当 暑さや熱によってからだに障害がおきることを熱中症という。熱中症は,その原 因や症状,程度によって「日射病」 , 「熱痙攣」や「熱疲労」など様々な呼び方をさ れている。重症の熱中症は緊急を要する危険な状態である。 ア 熱中症の症状 ・ 手足の筋肉に痛みを訴えたり,筋肉が勝手に硬直したりすることが最初の症状 になることもある。 ・ 次第に具合が悪くなって体がだるいと訴えたり,気分が悪くなり吐き気がした り頭痛やめまいが生じることもある。 ・ 立ちくらみや頭がボーッとして注意力が散漫になる。 ・ トンチンカンな言動がみられれば危険な状態。 !ポイント ・ 大量に汗をかいているうちはまだよいが,汗をかかなくなり皮膚が赤く乾いて くると,自分で体温の調節ができなくなり体温が上がり,命にかかわる危険な状 態となる。直ちに 119 番通報する。 ・ 熱中症は必ずしも炎天下で無理に運動したときだけでなく,特に乳児や高齢者 はクーラーのない暑い室内や車の中に長時間いるだけでも熱中症になる。 イ 熱中症の応急手当の方法 ・ 涼しい環境に避難させる。 風通しのよい日陰やクーラーが効いている室内などが適している。 ・ 衣服を脱がせ,体を冷やす。 体から熱を奪うためにうちわや扇風機で風をあてることが最も効果的である。 氷嚢などが準備できれば,首,脇の下,太ももの付け根などにあてると冷却の助 けになる。 !ポイント 体の冷却はできるだけ早く行う必要がある。 ・ 水分,塩分を補給する。少量の塩を加えた水か,塩分の含まれているスポーツ ドリンクを飲ませることが効果的である。 ・ 医療機関での受診 自分で水が飲めない状態であれば,無理に飲ませずに直ちに 119 番通報する。 ・ 楽な体位にする。 傷病者の楽な体位をとるが,特に立ちくらみがあるような場合は脱水が進んでい るので,ショック体位にすると楽になることがある。 ② けいれんに対する応急手当 ● けいれんしている傷病者に対しては,発作中の転倒などによるけがを予防する。 ● 階段などの危険な場所から遠ざける。 - 33 - ● 舌をかむことを予防する目的で,口の中に物を入れることは避ける。 ● けいれん発作後,反応がなければ気道を確保する。意識がはっきりしない状態が 続く場合や初めてけいれんをおこした場合には,回復体位にして 119 番通報する。 ③ 歯の損傷に対する応急手当 ● 歯ぐきからの出血は綿球などを用いて圧迫により止血する。 !ポイント ・ 抜けた歯は,牛乳内に保存し持参して,できるだけ早く歯科医を受診する。そ の際,歯の付け根に触らないよう注意する。 Ⅴ その他 1 119番通報と救急車の呼び方 救急自動車を要請する場合は,まず119番(消防本部の通信指令課)にあわて ないで,はっきりと状況を通報し,救急車の出場を要請します。 <救急の場合> 消防本部 あなた(通報者) はい、消防です。火事ですか、救急ですか? 救急です。 どうされましたか? 交通事故です。 (その他、急病、けが等) 住所(場所)はどちらですか? ○○町○○銀行(目標物)の南東交差点です。 (携帯電話の場合は必ず市町村名から) どんな状況ですか? 車が電柱に衝突しています。 (交通事故の場合、 「けが人○人」 「車から出 られない」等具体的に) あなたのお名前と電話番号(通報している電 ○○です。電話番号は○○○-○○○○で 話)は? す。 ※<火災の場合> 消防本部 あなた(通報者) はい、消防です。火事ですか、救急ですか? 火事です。 何が燃えてますか? ○階の住宅が燃えています。 (その他、住宅・車・枯草が燃えている等) 住所(場所)はどちらですか? ○○町○○番(番地)○○号の△△宅です。 (携帯電話の場合は必ず市町村名から) 近くの目標物は? ○○病院の東(西、南、北)です。 あなたのお名前と電話番号(通報している電 ○○です。電話番号は○○○-○○○○で 話)は? す。 - 34 - 【注意事項】 1 携帯電話から 119 番通報するときは, 所在目標をはっきりと確かめてから通報する。 また, 自動車の運転手が通報する場合には, 安全な場所に車を停車してから通報する。 2 マンション等から 119 番通報した場合,救急隊が中に入れるようにオートロックを 解除する。 口頭指導 口頭指導とは,119 番通報時に通信指令員が通報者やその場に居合わせた人に 対して,救急車が到着するまでの間,適切な応急手当を指導することにより,救 命効果の向上を目的として行われている。通信指令員から電話を通じて応急手当 の口頭指導があった場合は,指導に従い可能な限り実施する。 反応がみられない,呼吸をしていない傷病者に対しては通信指令員の指導に従 って,ただちに胸骨圧迫を開始する。 2 応急手当と感染症 応急手当を行うことによって肝炎やHIV/AIDS(ヒト免疫不全ウィルス/エ イズ)ウィルスなどに感染する危険性はきわめて低いと考えられていますが,ゼロで はありません。 感染の多くは血液を介するため,傷病者が出血している場合には,その血液に触れ ないようにすることが大切です。特に,応急手当として止血を行う場合にはゴム製ま たはビニール製の手袋,あるいはその代用としてビニール袋などを使用して,傷病者 の血液が直接自分の皮膚につかないように気をつけてください。 また,心肺蘇生法で口対口人工呼吸をする場合においても,傷病者に出血がみられ たり,救助者の手指・口などに傷がある場合には,簡易型の感染防護具(一方向弁付 き感染防止用シートまたは,人工呼吸用マスク: 「テキスト」P4を参照)などを利用 して,口と口とが直接接触しないようにすることが推奨されています。もし,どうし ても感染が心配で,口対口人工呼吸ができない場合には,人工呼吸を行わずに胸骨圧 迫だけでも行ってください。 3 応急手当の実施に伴う法的責任 ● 応急手当,特に心肺蘇生法などの救命処置は,傷病者の命を救うためのもので す。したがって,あなたが救急現場に居合わせたときには,ためらわずに勇気を もって救命処置を実施してください。その場合,救命処置を試みたことにより, 法的な責任が問われるのではないのかと心配になるかもしれません。 ● このことについては,例えば,米国の各州には「よきサマリア人法」という法 律があり,緊急時に市民が進んで勇気を持って善意から行った行為については, 法的な責任は問われないこととされています。 日本においては,この「よきサマリア人法」に類する法律はありませんが,一 般市民が善意で実施した応急手当については,原則として,その結果の責任を法 - 35 - 的に問われることはないと考えられています。 大切なことは,必要な場合には勇気をもって一刻も早く応急手当を行うことで す。 ● 市民によるAEDの使用に関しては,平成16年6月に厚生労働省の「非医療 従事者による自動対外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会」の報告書が 取りまとめられ,救命現場にたまたま居合わせた市民がAEDを用いることは, 一般的に反復・継続的にAEDを用いる可能性がないため医師法違反にはならな いことも確認されています。 【引用・参考文献】 「 〔改訂4版〕心肺蘇生法の指針(市民用) 」 (株)へるす出版,2010 - 36 - メ モ - 37 -
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