全身疾患の画像診断 (顎骨に影響する全身疾患)

2015/1/8
顎骨に影響する全身疾患について
全身疾患の画像診断
(顎骨に影響する全身疾患)
2015年1月9日(金)
担当:林 孝文
1)代謝・内分泌疾患
(1)くる病rickets・骨軟化症osteomalacia
(2)副甲状腺機能異常
(3)甲状腺機能異常
(4)副腎機能異常
(5)下垂体機能異常
[(6)糖尿病]
[(7)生殖腺機能異常]
(8)骨粗鬆症
2)先天性遺伝性疾患
(1)鎖骨頭蓋骨異形成症(鎖骨頭蓋異骨症)cleidocranial dysostosis
(2)大理石骨病osteopetrosis
(3)McCune-Albright症候群(多骨性線維性異形成症)
(4)骨形成不全症osteogenesis imperfecta
(5)下顎顔面異骨症(Treacher Collins 症候群)
(6)頭蓋顔面異骨症(Crouzon症候群)craniofacial dysostosis, Crouzon syndrome
(7)口腔・顔面・指趾症候群oral-facial-digital syndrome; OFD syndrome
(8)Apert症候群Apert’s syndrome
(9)基底細胞母斑症候群basal cell nevus syndrome, Gorlin-Goltz症候群
(10)家族性大腸ポリープ症(Gardner症候群)
(11)Pierre Robin症候群Pierre Robin syndrome(Pierre Robinシークエンス)
(12)Papillon-Lefèvre症候群
(13)von Recklinghausen病(神経線維腫症, neurofibromatosis)
(14)外胚葉異形成症ectodermal dysplasia
(15)軟骨形成不全
(16)ガーゴイリズムgargoylism・Hurler症候群Hurler syndrome
(17)Down症候群Down syndrome(21トリソミー症候群)
(18)ピクノディスオストーシスpyknodysostosis
[(19)プロゲリア(早老症)progeria]
[ 3)血液疾患と感染性疾患
[ (1)白血病]
[ (2)血友病]
[ (3)鎌状赤血球貧血]
[ (4)梅毒]
[ (5)結核]
1)代謝・内分泌疾患
(1)くる病rickets・骨軟化症osteomalacia
A. 腎性骨異栄養症(腎性くる病)
renal osteodystrophy
• 慢性腎不全に伴う変化の総称であり、二次性
副甲状腺機能亢進症が関係する
• 全身骨の吸収と同時に骨硬化性変化も生じる
B. 低リン酸酵素症(低フォスファターゼ症)
hypophosphatasia
• 組織非特異型アルカリフォスファターゼの欠損
が原因
• 低身長、骨変形、骨折
• 乳歯の早期脱落に特徴がある
• 内分泌系の疾患や系統疾患(systemic diseases)が、
歯や顎骨に変化をもたらす場合がある。具体的な口
腔所見やエックス線所見としては以下が挙げられる。
①
歯の形成・発育の促進や遅延
②
歯の萌出の促進や遅延
③
歯質や歯髄の欠如・形態の変化
④
歯の欠如や過剰歯の発現
⑤
歯根膜腔・歯槽硬線および歯槽骨梁の変化
⑥
骨密度の変化
⑦
骨形態の変化
⑧
骨疾患の発現
1)代謝・内分泌疾患
(1)くる病rickets・骨軟化症osteomalacia
• ビタミンDの欠乏や代謝障害により生じる骨
の石灰化障害
• 小児に生じ成長障害をきたしたものをくる病、
成人に生じた場合を骨軟化症という
• 乳幼児では歯の形成障害、エナメル質形成
不全がみられる
• ビタミンD欠乏性くる病では象牙質発育が遅
延し、歯髄腔と根管が広くなる
• 成人では歯槽硬線や骨梁が菲薄化あるいは
消失する
1)代謝・内分泌疾患
(2)副甲状腺機能異常
A. 副甲状腺機能亢進症hyperparathyroidism
• 副甲状腺ホルモンの過剰分泌と高カルシウム
血症
• 原発性(副甲状腺腫や過形成など)と続発性
(腎不全に伴うものなど)に大別される
• 歯槽硬線の消失、下顎管壁・上顎洞底線の
消失、骨梁のレース様変化
B. 副甲状腺機能低下症hypoparathyroidism
• エナメル質の減形成、歯根の外部吸収、萌出
遅延など
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1)代謝・内分泌疾患
(3)甲状腺機能異常
A. 甲状腺機能亢進症hyperthyroidism
• バセドウ病Basedow disease:甲状腺刺激ホル
モン受容体に対する自己抗体が過剰刺激を
与えるため甲状腺ホルモンが過剰産生される
• びまん性甲状腺腫、頻脈、眼球突出
• 歯の発育促進と早期萌出、骨塩量の低下
B. 甲状腺機能低下症hypothyroidism
• クレチン症:先天性甲状腺機能低下症
• 歯の発育と萌出遅延、顎骨の発達不良
1)代謝・内分泌疾患
(5)下垂体機能異常
A. 下垂体機能亢進症hyperpituitarism
• 下垂体腺腫や過形成→クッシング症候群
• 巨人症gigantism・先端巨大症acromegaly
• 先端巨大症:下顎の水平方向への肥大、下顎
枝の肥大、歯槽の厚さと高さの増大、歯間離開
と開咬、下顎角の直線状、下顎下縁の湾曲など
B. 下垂体機能低下症hypopituitarism
• 顎骨は小さいが歯の大きさは正常
• 歯の萌出と完成が遅延
1)代謝・内分泌疾患
(8)骨粗鬆症
1)代謝・内分泌疾患
(4)副腎機能異常
A. 副腎性器症候群
• 先天性副腎皮質過形成などによる性ステロイド
の分泌過剰(女性仮性半陰陽などを生じる)
• 歯の発育と萌出の促進
B. クッシング症候群
• 副腎皮質ステロイドホルモンの過剰分泌:下垂
体腺腫等によるもの(ACTH依存性)と副腎腺腫
等によるもの(ACTH非依存性)に大別される
• 顎骨の皮質骨は菲薄化し海綿骨は骨梁が不規
則な網目状となる
1)代謝・内分泌疾患
(6)糖尿病
1)代謝・内分泌疾患
(7)生殖腺機能異常
• A. 早期性思春期症(生殖腺機能亢進症)
• B. 晩発性思春期症
80代・女性,骨粗鬆症
• 骨基質と骨ミネラルの比率が変化することなく骨
量が減少し骨の脆弱さが進行した状態
• 低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、
骨の脆弱性が増大し骨折の危険性が増大する
疾患(WHO)
• 骨形成速度よりも骨吸収速度が上回ることで骨
量の低下をきたす
• 下顎骨基底部の皮質骨では、内側面の骨吸収
による不整化と内部の粗鬆化により厚みが減少
する
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2)先天性遺伝性疾患
(1)鎖骨頭蓋骨異形成症(鎖骨頭蓋異骨症)
cleidocranial dysostosis
10代・女子,鎖骨頭蓋骨異形成症
• 常染色体優性遺伝で家族性に発生
• 鎖骨が部分的あるいは全部欠損(両肩を前
方で重ねることができる)
• 頭蓋では泉門開存・鎖骨欠損
• 上顎の劣成長に伴う下顎前突・高口蓋
• 乳歯・永久歯の萌出遅延、乳歯の晩期残存、
埋伏歯と過剰埋伏歯の混在など
2)先天性遺伝性疾患
(2)大理石骨病osteopetrosis
• 破骨細胞の機能不全により骨格形成異常と
骨密度の増加をきたす疾患
• 早発型(常染色体劣性遺伝)と遅発型(常染
色体優性遺伝)に大別される
• 骨は未熟骨で覆われ、脆く骨折しやすい
• 全身の骨硬化、骨髄炎、貧血
• 顎骨では歯槽硬線と下顎管壁の肥厚がみら
れ、歯槽硬線は硬化した骨と区別困難となる
• 乳歯・永久歯の萌出不全、多数の埋伏歯
2)先天性遺伝性疾患
(3)McCune-Albright症候群
(多骨性線維性異形成症)
• 全身の骨に多発する線維性異形成症
polyostotic fibrous dysplasia、皮膚の色素沈
着、女児における性的早熟を3主徴とする
• 原因不明
• 線維組織の多い初期には透過像、中期には
骨組織の増生に伴って透過像と不透過像の
混在像、後期にはスリガラス状の不透過像
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2)先天性遺伝性疾患
(4)骨形成不全症osteogenesis imperfecta
• 常染色体優性遺伝(新突然変異や常染色体
劣性遺伝もある)
• 先天的なコラーゲン生成異常により引き起こさ
れる全身性結合組織疾患
• 骨粗鬆傾向、易骨折性、青色強膜、難聴
• 乳幼児では予後不良
• 皮質骨の菲薄化、象牙質形成不全
2)先天性遺伝性疾患
(5)下顎顔面異骨症(Treacher Collins 症候群)
• 常染色体優性遺伝
• 眼裂外側の下方傾斜、下眼瞼外側欠損、耳介形成不
全、頬骨の欠損、下顎骨発育不全、上顎では高口蓋・
口蓋裂
• 特に両側性のものをTreacher Collins症候群という
• およそ出生10,000人に1人の割合
• 第一第二鰓弓症候群first and second branchial arch
syndromeは第一・第二鰓弓由来器官の形成不全で、7
割が片側性(hemifacial microsomia)である
• さらに眼球結膜の類上皮腫や、耳の変形や脊椎の変
形を合併すると、Goldenhar症候群(眼球耳介椎骨形
成異常症)と呼ばれる
10代・女子,Goldenhar症候群
2)先天性遺伝性疾患
(6)頭蓋顔面異骨症(Crouzon症候群)
craniofacial dysostosis, Crouzon syndrome
• 常染色体優性遺伝
• 頭蓋顔面骨の早期癒合によって特徴的な顔貌
を呈する
• 両眼隔離や眼球突出
• 頭蓋骨に指圧痕
• 中顔面の低形成に伴う下顎の相対的前方突出
• 高口蓋・口蓋裂、部分的先天的歯牙欠損など
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2)先天性遺伝性疾患
(7)口腔・顔面・指趾症候群
oral-facial-digital syndrome; OFD syndrome
• 口腔・顔面・指趾の先天性形態異常
• 口腔では分葉舌、小帯の過形成、口蓋裂、顔
面では鼻翼の平坦化・内眼角解離、指では合
指・短指など
• 歯数の異常や小下顎症を認める場合がある
2)先天性遺伝性疾患
(9)基底細胞母斑症候群
basal cell nevus syndrome, Gorlin-Goltz症候群
2)先天性遺伝性疾患
(8)Apert症候群Apert’s syndrome
• 常染色体優性遺伝
• 頭蓋骨冠状縫合の早期癒合による尖頭症、
指趾の合指症を主徴とする
• 上顎骨の形成不全、中顔面の劣成長
• V字状に狭く高い口蓋・口蓋側歯肉の肥厚
(偽口蓋裂)
20代・女性,基底細胞母斑症候群
• 常染色体優性遺伝
• 皮膚の多発性基底母斑・基底細胞癌、顎骨
の多発性顎嚢胞(角化嚢胞性歯原性腫瘍)、
骨格異常(二分肋骨、脊椎の側弯など)を3主
徴とする
• トルコ鞍の異常(bridging)、手掌の小陥凹、
大脳鎌の石灰化などがみられる
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2)先天性遺伝性疾患
(10)家族性大腸ポリープ症(Gardner症候群)
• 常染色体優性遺伝
• 大腸の多発性ポリープ、多発性類表皮嚢胞、
線維腫、多発性骨腫などを合併する
• 顎骨では多発性骨腫や多発性骨硬化症が高
頻度にみられる
• 多発性埋伏過剰歯や多発性集合性歯牙腫を
伴うこともある
2)先天性遺伝性疾患
(11)Pierre Robin症候群Pierre Robin syndrome
(Pierre Robinシークエンス[連鎖])
• 常染色体劣性遺伝?
• 小下顎症(下顎低形成)・舌下垂・軟口蓋裂
• 胎生9週以前における下顎の形成不全により、
舌が後方に下垂して二次的に軟口蓋裂を発
生させると考えられている
• 哺乳困難、気道閉塞
2)先天性遺伝性疾患
(12)Papillon-Lefèvre症候群
• 常染色体劣性遺伝
• 手掌と足裏の過角化症、歯の支持組織の破
壊に特徴がある
• 高度の歯周炎によって歯槽骨に著明な吸収
が生じ、歯が早期に自然脱落する(中切歯部
と第1大臼歯部で顕著)
• 側面セファログラムにおいて顕著なオトガイ
の後退がみられる
2)先天性遺伝性疾患
(13)von Recklinghausen病
(神経線維腫症1型, neurofibromatosis type 1)
50代・女性,von Recklinghausen病
• 常染色体優性遺伝
• およそ出生3,000人に1人の割合
• 皮膚のカフェオレ斑(色素斑)と多発性末梢神
経線維腫
• 虹彩小結節、脊椎側弯症
• 顎骨では神経線維腫が下顎管内に生じる場
合があり、骨変形や欠損をきたすことがある
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2)先天性遺伝性疾患
(14)外胚葉異形成症ectodermal dysplasia
2)先天性遺伝性疾患
(15)軟骨無形成症achondroplasia
• 胎生期の外胚葉由来の組織異常を特徴とする
疾患(2つ以上の組織の異常)
• 無汗型(伴性劣性遺伝)と発汗型(常染色体優性
遺伝)に大別される
• 皮膚、爪、汗腺、毛髪や歯に異常がみられる
• 無汗型は男児が大部分であり、無汗症・減毛症・
無歯症が3大徴候
• 皮膚は乾燥し髪の毛は細く、老人様顔貌
• 部分無歯症あるいは完全無歯症
• 歯の形態異常
• 旧名・・軟骨形成不全・軟骨異栄養症
• 常染色体優性遺伝
• 軟骨内骨化の障害により長管骨の成長障害
をきたす疾患
• およそ出生20,000人に1人の割合
• 低身長で特に手足が短い
• 大きな頭蓋、前額部の突出、鼻根部の陥凹
• 歯の萌出遅延、埋伏歯、歯の形態異常、下
顎骨の発育不全
2)先天性遺伝性疾患
(16)Hurler症候群Hurler syndrome
2)先天性遺伝性疾患
(17)Down症候群Down syndrome
(21トリソミー症候群)
• 遺伝性ムコ多糖代謝異常(常染色体劣性・性染
色体劣性遺伝)によりムコ多糖が細胞内に蓄積
• 常染色体21番のトリソミー(3本組)
• 低身長、知的障害、脊柱後彎などの骨関節異常、
角膜混濁、肝脾腫、巨大舌・気道狭窄、睡眠時
無呼吸、特徴的顔貌(ガーゴイリズムgargoylism)
• 歯の転位、歯間離開、萌出位置・方向の異常
• Hunter症候群は類似しているが角膜混濁はない
• 知的障害、先天性心疾患、低身長、肥満、筋
力の弱さ、頸椎の不安定性、斜視、難聴、特
異的顔貌(鼻が低く鼻根部が扁平で幅広い・
眼裂斜上など)
• およそ出生800人に1人の割合
• その他、サンフィリッポ症候群、モルキオ症候群、
マロトー・ラミー症候群など
• 開咬、反対咬合、高口蓋、巨大舌、上顎切歯
の形成不全(円錐歯)や欠如、歯周炎など
2)先天性遺伝性疾患
(18)ピクノディスオストーシス
pyknodysostosis, pycnodysostosis
2)先天性遺伝性疾患
(19)プロゲリア(早老症)progeria
• 常染色体劣性遺伝
• 低身長だが四肢・体幹の均整がとれている
• 鎖骨頭蓋骨異形成症に類似しているが鎖骨欠
損は少ない
• 全身の骨に広範なびまん性骨硬化
• 上顎骨の低形成・下顎角の扁平化(直線状)
• 下顎切痕が深く関節突起・筋突起が長く見える
• オトガイの後退、咬合異常、歯の萌出遅延
3)血液疾患と感染性疾患
(1)白血病
(2)血友病
(3)鎌状赤血球貧血
(4)梅毒
• ハッチンソン歯(上顎中切歯の変形)
(5)結核
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