Title 国際組織設立文書の解釈プロセス(二) - HERMES-IR

Title
Author(s)
Citation
Issue Date
Type
国際組織設立文書の解釈プロセス(二) : 法創造的解釈を
めぐって
佐藤, 哲夫
一橋大学研究年報. 法学研究, 19: 3-180
1989-07-31
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/10070
Right
Hitotsubashi University Repository
国際組織設立文書の解釈ブロセス(二)
国際組織設立文書の解釈プロセス
ー法創造的解釈をめぐってー
目 次
序論−問題の所在−
設立文書の解釈における国際司法裁判所の推論の分析
分析の視角
国際連合の構造及ぴ任務をめぐる諸事件
国が国際連合加盟国になることの承認の条件︵憲章第四条︶
国が国際連合加盟国になることの承認に関する総会の権限
国際連合に勤務中に被った損害の賠償
国際連合行政裁判所が下した補償裁定の効果
国際連合のある種の経費︵憲章第一七条第二項︶
佐 藤 哲 夫
3
(二)
条約の解釈と設立文書 ︵以上﹃法学研究﹄16 一九八六年に掲載︶
第第第
第第三二一
第第第第第二一章章章
五四三二一節節
款款款款款 設一条序
一橋大学研究年報 法学研究 19
南西アフリカをめぐる諸事件
4
第三節
第一款 南酉アフリカの国際的地位
第二款 南西アフリカ地域に関する報告と請願についての問題の表決手続き
第三款 南西アフリカ委員会による請願人の聴聞の許容性
第四款 南西アフリカ事件︵エチオピァ対南アフリカ、及びりベリァ対南アフリカ︶︵一九六二年及ぴ一九六六年︶
第五款 安全保障理事会の決議二七六︵一九七〇年︶にもかかわらず、南アフリカがナミビア︵南西アフリカ︶に
専門機関をめぐる諸事件
居すわっていることの国々に対する法的効果
第三章 設立文書の解釈における国際司法裁判所の推論の分析
︵未完︶
小括 ︵以上、本号︶
国際連合行政裁判所の判決第二七三号の再審査請求
国際連合行政裁判所の判決第一五八号の再審査請求
ユネスコに対する苦情に基づくILO行政裁判所の判決
行政裁判所の再審査請求をめぐる諸事件
一九五一年三月二五日のWHOとエジプトとの間の協定の解釈
国際民間航空機関理事会の管轄権に関する提訴
政府間海事協議機関の海上安全委員会の構成
第 第 第
六第第第五第第第四
節三二一節三二一節
款款款 款款款監
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
本稿の目的は、国際組織設立文書の法的性質という観点からその法創造的解釈のプ・セスを分析することである。
第一章において問題の所在を指摘した後、第二章においては、条約解釈の性格及び解釈枠組みの観点から設立文書の
法的性質を扱った。以上の分析を基礎とした上で、第三章においては、本稿の分析素材として重点を置いている国際
︵−︶
司法裁判所の判例を扱う。
第一節分析の視角
一 本稿における判例分析の重要性
本稿において国際司法裁判所の判例が有する分析素材としての重要性が、まず、指摘されなくてはならない。第一
に、判決およぴ勧告的意見が実際に何が国際法であるかに関する最高級の証拠を提供するものだという評価について
︵2︶
は、既に触れた。裁判所において、国々は自らの威信を賭け、全力を上げてその主張の立証を試みる。そしてその相
互の応酬を踏まえて、﹁世界の主要文明形態及び主要法系﹂を代表する最も優秀と考えられる国際法学者たちが判断
を下すのである。従って、第二に、ある争点について多様な複数の国際法的評価及ぴ解釈が可能であるとしても、そ
れらの中の主要な十分に説得力ある評価及び解釈は、多数意見及び少数意見の中に読み取りうると合理的に仮定する
ことができよう。第三に、設立文書の法創造的解釈の問題は、国際連合の政治的機関の具体的活動の中で争点となる
と同時に、裁判所においても法的次元で争点となってきた。この問題の従来の研究が裁判所の判例の分析に重点を置
いているのも、この故である。
二 分析の目的
5
一橋大学研究年報 法学研究 19
本章の判例分析は、具体的事件及ぴ争点における国際司法裁判所の判断が適切であるか否かを評価することを目的
とするのではない。若干の論点に関して評価を付加した部分もあるが、本分析の目的は、設立文書の特殊性という観
点からの、裁判所のアプ・ーチの仕方、推論の流れ、解釈方法、そしてそれらの基礎となる基本的な価値判断−指
導理念ー等の析出に置かれている。この様な立揚は、前記の判例の評価の延長線上に位置付けられよう。他方で、
各判例を全体として扱うものではないことを確認しておきたい。分析は設立文書の特殊性と関わりを持つ範囲に限ら
れているのであり、一般的な判例研究を意図するものではない。
三 分析の方法
本章の判例分析の具体的方法は、多数意見と少数意見︵個別意見及び反対意見︶との比較である。本分析の前記目
的は、多数意見と少数意見との相違及び対立を比較検討することによって、最も合理的に達成されうるであろう。
︵3︶
判例において少数意見︵個別意見及び反対意見︶を公表する制度については、その長所と短所をめぐって様々な議
論があるが、多くの揚合、﹁特に困難な論争的な問題においては、判決は対立する見解に照らしてのみ適切に評価さ
れうる﹂ことには疑問の余地はないであろう。ロゼーヌは述べる。
︵4︶
﹁適用法規の面から判決或は勧告的意見の真の意義を十分に理解するためには、単に訴答書面−当事者がいかに
争点を提起したかを示すーだけでなく、判決に付された少数意見ー事件について審議した際の裁判所における
︵5︶
議論の主要な方向を示すーをも調べなくてはならない。﹂
四 客観性の確保と分析対象の包括性
6
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
判例分析における客観性の確保は、分析対象の包括性に向けられなくてはならない。ある命題を立証しようとする
論者は、往往にして、その命題に好都合な判例の好都合な部分のみを集めることによって論理を構成しようとするが、
ここでは不都合な判例や不都合な部分は無視或は除外されているのである。この様な自らの理論構成に好都合な部分
のみのつまみ食いを避けることは、客観的な判例分析の大前提であろう。このために本分析においては、国際司法裁
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
︵狙︶
判所において国際組織或は設立文書が間題となったと考えられるすべての事件を基本的に対象とすると同時に、各事
件の分析においても、具体的個別的争点での理由付けのみに留まらず、可能な限り、推論の流れや判断枠組みをも扱
っている。
︵−︶ 判例分析の参考文献については、各事件ごとに示したが、以下の文献は多くの事件に共通して参考になるため、ここに一
一2目男2>目02き■>≦切く↓=国 一客鵠国2>目02きOoq国↓︵一〇軌ooy匂■=,を。く男Nζr↓雷一ζ固ω男ごo閣z臼o勾↓寓国≦o勾ro
括して示しておく。高野雄一編著﹃判例研究、国際司法裁判所﹄︵一九六五年︶、雪■自↓男震畠﹂日嵩U国く曽O召男日爲
目畠−N<o一9︵一〇〇。ひy国’ω、K>寓男霧一P↓雷>凄身↓国召昌鼻昌02︵一〇〇。圃︶.
Ooq召︸Nくo一の・︵一〇訟卸一80︶︸O.コ↓N蜜>q智畠目寓国■>ミ>20℃”o臼σq寄o問↓寓国舅目”z﹀目oz>■Ooq菊↓o問冒ω−
︵2︶ 拙稿﹁国際組織設立文書の解釈プロセスeI法創造的解釈をめぐってー﹂︵一橋大学研究年報﹃法学研究﹄16、一九
︵3︶ 例えば、国餌ヨ耳pU請鴇ミき恥§織噛蔑き幾黛ミO黛ミ§恥きき恥、ミミ醤ミ軌§ミ9ミ∼&、§欺驚”一NN田お臼窮一胃呂刃
八六年︶七七頁。
>q。。r詞zu一〇冨田α署国z月目o国塁則国o鵠弓q乞oくαピ民国刀刃国o=弓認O︵一〇軌争鴇︶⋮>ロ即⇒鼻円鳶淘o鳶o、卸ミ蔑織ミミ亀醤“U請鴇ミ詮恥
O黛蔦§防誉∼ミ恥§ミ軌§ミ﹂ξミ魯ミ帖§一一轟冒↓げ勲Oo蜜prO。No。oo︵一〇訟︶篇,国房の≧ヌ∪お鴇竃壱o>zo曽震ぎ目
O国≡o乞o。>↓目出国をo幻■OOOG”↓一IO︵Goo轟y
︵4︶国gヨp日一β↓壽卜§§亀‡8匙ミ恥o、き恥、ミミ醤ミ軌§ミ9ミ、。、∼§§鋭o§ミミ、こ§量駿§織切さ象§馬§
9葬ミ切田βド切■ヲ↓ビいンO︵一〇UO︶一崔■︾一↓葛■>≦﹀20男召9uq雷寓↓鵠一2葛召亀一〇2きOoq胃o勾匂q甲
7
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵5︶ω昂8国釜国㍉雷ピ蓑蔓。雰>。目爵。:鵠穿↓男釜ぎ堵き08召§︵N邑賊雲a﹂。。。頓︶●
昌臼回bo︵一〇〇〇ひ︶.
第一に、常設国際司法裁判所が判断を下した事件は扱われていない。これは、一方では裁判所の位置付けが国際連盟と国際連
︵鼠︶ 本章では扱わなかったが国際組織或は設立文書に関わりのある事件について、若干の説明をしておくことが必要であろう。
諸事件の本稿文脈への関連性がそれほどは強くないという判断、さらには判例分析から引き出される結論には国際司法裁判所
合とでは異なっている.一と︵二つの裁判所の判例の間に断絶があるというものではないが︶、他方では常設国際司法裁判所の
の諸事件で十分であるという判断等によるものである。常設国際司法裁判所の位置付けの相異を前提としたうえでその諸事件
いては、﹁平和条約の解釈﹂に関する勧告的意見︵第二段階︶︵一九五〇年︶は既に第二章︵拙稿︵注2︶一二〇1三頁︶で扱
を分析することに異論があるのではないが、本稿では前記の判断から扱われていない。第二に、国際司法裁判所の諸事件につ
った。﹁北ヵメルーン﹂に関する事件︵先決的抗弁︶︵一九六三年︶及ぴ二九四七年六月二六日の国際連合本部協定第二一項
の仲裁裁判義務の適用可能性﹂に関する勧告的意見︵一九八八年︶は、本稿の文脈においては特に扱う必要はないと判断する。
﹁国際連合行政裁判所の判決第三三三号の再審査請求﹂に関する勧告的意見︵一九八七年︶は、本章第五節で扱う三つの勧告
国が国際連合加盟国となることの承認の条件︵憲章第四条︶
︵6︶
第二節 国際連合の構造及ぴ任務をめぐる諸事件
的意見の分析を前提とすれば、特に扱う必要はないと判断する。
第一款
一九四七年、総会において採択された質問の内容は、﹁国際連合における加盟国の地位をある国家に認めることに
関して、安全保障理事会あるいは総会において、その投票によって自らの立場を明らかにすることを憲章第四条によ
って求められる国際連合加盟国は、この加入承認に対する同意を同条第一項に明示的に定められていない条件にかか
らせる法的な権利を有するか。﹂というものであった。本勧告的意見において裁判所は九票対六票で否定的結論に達
︵7︶
8
国際粗織設立文書の解釈プロセス(二)
したのであるが、アルヴァレス、アゼヴェドが個別意見を、バドヴァン︵副裁判長︶、ウィニァルスキー、マクネァ
リードが共同反対意見を、そしてゾリチッチとクルイロフが反対意見をそれぞれ述べた。以下、多数意見と共同反対
意見の推論を分析する。
一 多数意見の推論の分析
ω 多数意見は、最初に若干の点を関する予備的考察︵間題の範囲の確定、裁判所の管轄権︶を行った後に本論に
入る。
まず、第四条一項が加入申請国に要求する五つの条件ーe国であること、⑭平和を愛好すること、日憲章の義務
を受諾すること、四この義務を履行する能力があること、国との義務を履行する意思があること、1を想起し、こ
れらのすぺての条件が、機構の判断−安全保障理事会と総会、そして最終的にはその構成国の判断iに付される
ことを指摘する。
似 多数意見は、基本的に文言的アプ・iチに基づいて、間題の第一の部分に対して否定的な結論に到達する。そ
の推論の核心は以下の通りである。
﹁第四条に掲げられた条件の限定的ないし非限定的性質︵8声08お一一邑冨蔑a8昌一言器暮5︹英語では、網羅
的︵窪一峯霧怠ぎ︶ないし非網羅的性質︶を決定するように求められたから、裁判所は、まず同条の言文に照合して
みなければならない。:⋮
⋮他のすべての平和愛好国に開放されている︵蜜①目げoお三℃冒些①d三盆山2鉢§5虜ε魯仲o毘o算q
℃鶏8−一〇ぐ凶おω蜜3ω註旨一・⋮一一︶窪く。簿o。<窪嘗害①日耳8α・ωz㊤♂一〇霧¢艮①㎝ε島臼暮H8卑暮ω饗。52①。。︶﹂
9
一橋大学研究年報 法学研究 19
いう文言は、列挙された条件をみたす国が加入承認に必要な資格を有していることを示している。使用された言葉
との自然な意味は、これらの条件の列挙を単に説明的または例示的雪89呂<。3。器ヨ唱5一ぞoなものではなく、
限定的なものとみなすように導く。もし所定条件とは無関係な他の条件が要求されうるとしたら、この規定は、そ
の意義と価値を失うであろう。ゆえに、第四条第一項に掲げられた条件は、単に必要条件であるのみならず、十分
条件でもあるとみなされなければならない。
また列挙された条件は、それに政治的考慮が上積みされ、当該条件をみたす申請国の加入承認を阻止することが
できるという意味で不可欠な最少限を表示するにとどまると主張することもできない。このような解釈は、﹁これ
らの条件をみたすいかなる国も︵8暮卑暮§§黛傍韓ミ“塁ミミミ§砺︶[英語では§史器畠9ミ凸﹂加入が承認
されることを定めている第四条第二項の文言と調和しないであろう。それは、結局メンバーに対し、新しい条件を
要求することで不確定の、実際上無制限な裁量的権限を認めることになるであろう。このような権限は、加盟国の
資格と憲章の原則およぴ義務の遵守の間に設定される密接な関連により、明らかに加入承認に関する法的規制を構
成するところの、まさに規制の性質そのものと相容れないであろう。言葉の自然な意味が指示する解釈とは別の解
釈を容認するためには、確証されなかった決定的理由を必要とするであろう。
さらに第二項の本文のみならず、その精神も、これらの原則および義務とは無関係の考慮が、右の原則およぴ義
務を遵守する国の加入承認を阻止することができるという観念を排斥する。もし憲章の起草者が、この規定の適用
上そこに定められた条件とは無関係の考慮を導入する自由をメンバーに認めようとしたのであれば、必ず異なった
起草を採択したであろう。
裁判所は、条約本文を十分に明らかであると考える。したがって、条約本文がそれ自体として十分に明らかであ
10
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
る場合には、準備作業︵け声轟長屈9曽暮島おの︶に依拠する必要がないという常設国際司法裁判所の不変的判決
例から逸脱すべきだとは思わない。
︵8︶
さらに裁判所は、その採用する解釈が、安全保障理事会の仮手続規則第六〇条の基礎にあることを確認する。﹂
一一バドヴァン・ウィ一一アルスキー・マクネア・リード判事の共同反対意見の推論の分析
ω 多数意見との異同に関する予備的説明の後に次の様に出発点を定める。
﹁前述の問題が裁判所に提出された理由は、関連条項がその間題に対して直接に疑いない解答を与えるほど明確と
は思われなかったということである。いずれにせよ、それが総会の見解であったし、我々もそう思う。従って、我
︵9︶
我は解釈間題に直面しているのであり、条約解釈に関して一般的に承認された規則を適用しなくてはならないと考
える。﹂
こうして、まず、関連条項である第四条第一項は、特に第二項を考慮に入れた上で、憲章の他の諸規定と国際法の諸
原則によって示される全体的な法的文脈の中で解釈されるべきことが指摘される。
図 以上の一般的な解釈枠組みの中において、第一の考慮は、単なる宣言によって自動的に加盟国の地位を得るこ
とになる加入条項︵p8。ωの一99窪β9器器ロ.器富巴9︶のシステムと、一定機関の決定を介する加入承認︵包巨ω,
︶のシステムとの相違に向けられる。憲章は、二つの主要な政治的機関の介在を必要とする後者のシステムを創
設した。この点は、反対意見の推論における基本的論点であり、その核心は以下の通りである。
﹁加入承認に関する勧告或いは決定を示す決議は、政治的性格の決定であり、政治的機関によってなされる。[我
我]全員の意見では、第四条第一項の規定する資格を申請国が有しているかの決定を目的とする政治的要因の審査
11
。。一
一橋大学研究年報 法学研究 19
を含むものである。⋮..,新加盟国の加入承認はすぐれて政治的な行為である。政治的機関の主要な任務は、問題を
その政治的な側面において、すなわちあらゆる観点から審査することである。こうして、そのような機関の決定を
なす責任を有する構成国は、あらゆる側面から問題を考慮しなくてはならず、従って、その議論と投票を政治的考
ン ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
慮の上に基礎づける法的な権利を有するのである。これが、第四条第一項が明示的に要求する資格の一つの欠如以
︵10︶
外の理由に基づく反対を提起する、安全保障理事会或いは総会の構成国の立揚である。﹂
信 第四条第一項の要求する条件を満たさない国の加入を承認しない義務は当然課されるのであるが、国々が決定
に際して有する自由を制約することになる何らかの他の法的制限は存在するのか? 法的な規則・原則に対する制限
は明確に確立されない限り推定されえないし、疑いある揚合はこの規則・原則が適用されるというのが、常設国際司
法裁判所がしばしば適用した解釈規則であり、本件において、そのような制限を確立する条項は存在しないことが指
摘される。
ここで第四条第一項の解釈が問題となるが、まず、当該条項は、そこに示された資格が本質的︵窃器昇一巴Y必要
︵口①。①の、帥一同。︶であることは示しているが、十分︵。。=臼9。旨︶であって、それらを満たせば必然的に加入承認がなされ
なくてはならないとは言っていない。この条項の表現は義務的ではなくて許容的な調子であり、機関及びその構成国
がその決定を他の考慮に基づかせる法的権利を奪う旨の如何なる確定的な意図の証拠も含んでいない。
そして、この見解は憲章起草者の意図とも合致するとされる。すなわち、
﹁条約解釈における準備作業︵梓同帥毒負冥9p声ぢ富ω︶への依拠の価値についての一般的な検討及び評価を試み
ることなく、そのような実行が正当化される場合があるとすれば、それは、条約を交渉した者が条約の特定の条項
に与えた意味に関する彼等の正確な意図を、解釈決議或いは類似の規定の中に示した揚合であることが、認められ
12
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵n︶
なくてはならない。これは、まさしく第四条第二項に関してなされたことである。﹂
こうして、反対意見は、ダンバートン・オークス提案及びサン・フランシスコ会議における一連の関連文書に依拠
する。これらの考慮及びその他から、﹁われわれの意見では、憲章は第四条第一項に示された資格を本質的なものと
する一方、十分とはしていない。もしそれらを十分と見なしていたのであれば、その旨を言わずにはおかなかったで
︵12︶
あろう。この点はあいまいのままに残されるには重要すぎるものの一つであった﹂という結論に達する。
㈲ この様な理由から、反対意見の回答は以下の如くとなる。
﹁[第四条によって、加入承認に関して投票する加盟国は]政治的決定に参加しているのであり、従って、自らの
同意を関連性があると思われる如何なる政治的考慮にも依存させる法的な権利を有する。しかしながら、この権限
の行使において、加盟国は誠実の原則に従い、国際連合の目的と原則に従って行動し、そして憲章の違反をなさな
︵B︶
いような仕方で行動する、法的義務を有する。﹂
三 考 察
ω 先の引用に明らかな様に、多数意見は基本的に文言的アプ・ーチに依拠している。しかし、﹁条約本文を十分
に明らかであると考え﹂て、準備作業への依拠を排除したことには問題がある。実際、裁判官の構成が大きく割れ、
共同反対意見が、逆の結論に達したことを考えれぱ、準備作業を検討した上でそれが反対意見の論旨を支持しないこ
とを1支持しないと仮定して1示すべきであったと思われる。その意味で、用語の自然な意味からの演繹にのみ
︵糾︶
依拠する解釈方法は困難な解釈プロセスを不当に単純化する危険を犯しているという批判にはもっともな点がある。
③ 他方、多数意見と共同反対意見とは、一見正反対の結論と思われるが、本質的・実質的には大きく異なるもの
13
一橋大学研究年報 法学研究 19
ではないという点も指摘される。すなわち、共同反対意見が政治的考慮を働かせるにあたって、誠実の原則や国連の
︵15V
目的・原則の遵守を条件として制限を加える一方で、多数意見も次の様に第四条の条件を柔軟に理解しているからで
ある。
﹁第四条は、合理的に、かつ、誠実に同条の条件に帰せしめることができるどんな事実的要素を考慮することも禁
じていない。そのような要素を考慮することは、所定条件のきわめて広範かつ柔軟な性質の中に含蓄されている。
︵16︶
適切な関連のある、すなわち、加入承認の条件に結びつけられるどんな政治的考慮をもしりぞけるものではない。﹂
個 以上の分析を踏まえた上で、設立文書の解釈方法との関連で何等かの所見が導き出されるであろうか。憲章の
特殊な性格との関連性が指摘されることは確かにある。例えぱ、ハドソンは述ぺる。
﹁憲章は通常の条約ではない。それは組織化された国際社会の基本的な構成法︵富旨8冨葺耳δ轟=霧什甚ヨ。昇
9些。o茜慧言&8日臣直巳ξoh暮暮窃︶である。その様なものとして、その解釈は必ずしも伝統的方向にそって
アプ・ーチされるべきではない。[憲章第二条第六項、第四条、紛争の平和的解釈手続に示されるように、憲章は加
︵18︶ ︵19︶
盟国をのみ対象とするものではない。]従って、憲章の解釈は、文書の共同体的性格︵。日ヨ昌一蔓。富声9R亀9。
︵17︶
5鴇ヨ白o葺︶に効果を与える仕方でアプローチされるべきである。﹂
この様な意見が具体的に何を意味するのかは明らかでないが、アルヴァレス判事やアゼヴェド判事に対して好意的
な点から判断すれば、自動的加入に結ぴつく普遍性の原則がサン・フランシスコ会議で拒否されたことを認めながら
も、その方向の重要性を強調するものと理解される。
︵20︶
シモンはこの点で一層直接的に、次のように述べる。
﹁[加入承認の投票において国々が有する裁量的権能への制限は]、裁判所によって採用された文言の論拠を越えて
14
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵21︶
国連の実効性に不可欠と判断されるある原則の考慮によってはじめて説明され得る。そして、この原則は意見の全
体を通して背後に見い出される”つまり、国連の普遍性への傾向が問題なのである。﹂
多数意見の基本的に文言的アプ・ーチの背後に国連の普遍性の促進という実質的な価値判断もあるとすることは、
必ずしも誤りであるとは思われない。しかし、シモンが続けて述ぺるように
︵犯︶
﹁裁判所による設立条約の解釈は、機構の権限の具体的内容を拡大し、加盟国の保留する権限の範囲を制限するこ
とによって、機構の目標の発展を促進しようと実際努めてきた﹂
とまで一方的に結論するのは、本勧告的意見の正当な評価ではないと言わなくてはならない。
多数意見の一人であったドゥ・ヴィシェは、本勧告的意見との関連で次のように述べているのが示唆的と思われる。
﹁;・⋮裁判所は、国際組織の目的と文言の尊重とを一致させようと、条約的基礎を損なうことなくその発展を助長
しようと努めた。⋮⋮機構の目的・原則と文言の尊重との同等の考慮の中で、健全な解釈は、条約がその表現であ
︵23︶
る複数の意思の均衡︵一.8巨3お︶に留意するのである。﹂
︵6︶ 本勧告的意見には、次のような文献がある。■首φ≧ミ跨§卜鳶ミO§駐§硫9§ミミ武ミ恥qミ鳳&之ミ軌§漁&>3
一﹂胃ビrN。。・。︵Gお︶脚エ⊆ヨび①ン﹄織ミ霧§むミ恥qミ馬&≧ミ帖§防撃切勾員イゆ﹂轟、い.い■。o︵むミ︶一園R一昼﹄織ミ迄§
融§肉ミヘ畠§≧“畿§偽q這鴇︵9ミ萄ミトヘyい。男問く爵o雪勇き旨u鶉o胃壱鵠髪>目o畢r︸冨目o令o。一︵一〇おygo聲
等魂蓋鴇脳§ミ勢q註eミ肋ミ軌む&ミ恥ミぴミ罫曽欝ミ馬q醤ミ織≧ミ賊§ひ軌o>ヌ旨●一胃、rい刈〇一︵一〇軌ひ︶o賊いO召ののる
国。nの誕ωoz一竃男多目身書■>︵婁UO言>竃N嵩δ2$N︵一〇〇〇轟y皆川﹁国連加入問題に関する国際司法裁判所の勧告的意
見について﹂︵﹃国際法外交雑誌﹄第五〇巻第二号、一九五一年︶一四九頁、同﹁国際連合の加入問題﹂︵﹃国際連合の十年﹄一
︵7︶ 多数意見を構成する九名は、ゲレ・︵裁判長︶、ファベラ、ハックワース、ドゥ・ヴィシェ、クレスタッド、パダウィ・
九五七年一四二頁。
15
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵8︶ヒ募o蔓○且三9900邑監o房9盈巳婁90hpoo馨¢8鼠①旨訂邑言一昌9。q鼻巳z鋒。島︵≧け互①わo=ぎ
.ハシャ、ス・モー、アルヴァレス、アゼヴェドである。
︵9︶寧”暮。。い謄
O募拝實yロ宝oo]H・ρ﹄・爲占・皆川﹃判例集﹄一四三頁。
︵10︶ ミ己緯ooい
この点に関して、多数意見は個別的に反論を加えている。すなわち、
配する二の条約規定の遵守からのがれさせることができない。機関がその決定の理由を選択する自由を有しているかどうか
﹁他方、機関の政治的性質は、条約規定がその権限に対する制限またはその判断の規準を構成する揚合には、その機関を支
を知るためには、その組織法の条項に照合してみるべきである。この場合には、第四条が、この自由の行使される枠組み、
広い評価の自由を伴う枠組みを定めている。ゆえに、一方政治機関の任務と他方所定条件の限定性との間にいかなる矛盾も
存在しない。﹂
睾︾鍔国>。一●
ミ‘暮嵩OI一●O鼻 o国<一ωωo=国コ℃閃o匹局蜜国o、毫目国国や勾閣巳>昌02芒目9>舅国国20障o旨髪目鶉2﹀目02>r℃q切=o 三℃
=臼■>ご目召>畠﹂日鵠目U国く曽o℃=国2弓g一z目力2﹀↓δzき■>≦b5K月匿国碧目開2>↓一〇2きOoご召雛︵一30。︶閣
o︸
﹄隣 帥叶ON’
9︸
﹄織 即一〇ρ
噛斜、一鉢ooN
ミ暮摯・皆川﹃判例集﹄一四三頁。
︵11︶
︵13︶
︵B︶
︵15︶
︵欝︶
︵一8いy
︵16︶ 08良菖o器oh︾αヨ一の巴o目O雷ρ簑㌣黛ロ0300
る梓$皆川﹃判例集﹄一四三頁。
︵17︶ 属ロ房oP﹂恥§跨防ご醤、o暮馬q註馬&≧ミ&誤㍉ ﹂き跨ミ黛O慧獣§&ミoミGミミ翰ご9ミミ§勲
ひ旨い訟い︵一宝o。︶
16
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
ファインベルクも本勧告的意見に関連して次の様に指摘する。
﹁裁判所の意見は、もし、文言の分析において、機構の性質及ぴその目的から引き出される一層一般的な秩序の考慮と組み
合わされたのであれぱ、より確固たるものとなり、より多くの説得力を有することになったであろう。裁判所は、憲章を
うに、無秩序な国際社会︵8∋ヨ巨き審︶を法的に組織化された社会︵器巳ひ芯︶に変えることを期待された世界憲法的憲章
﹃多数国間条約﹄と性格づけるけれども、この揚合には、他の多くのものと類似の多数国間条約ではなくて、連盟規約のよ
として考えられうる国際文書が問題となっていることには疑いないのである。我々は既に、その様な機構の使命が普遍的に
なることしかありえないことを強調したのであり、憲章が解釈・適用されなくてはならないのは、普遍性へのこの期待の精
閃o言ぴRαq︸い.&ミ裟§爵§§ミ§ミ“§ぴミ的恥騨9&譲警恥≧ミ帖§砺隻勘馬.ミ窒ミ的ミ篤§爵偽之&帆§恥q獣塁o。o寄,
神においてである。﹂
︵18︶ アルヴァレス判事は、その個別意見の大部分を使って、既に本稿第二章第四節三において紹介した一般的考察を展開した
oq団Fu房oo¢器boOい讐い&︵一〇器1一︶、
後に本件の問題を扱う。政治的考慮による例外を認めるけれども、彼は、第四条第一項の条件が制限的。網羅的であることを
認めた後に、普遍的国際社会の性質、国連の目的及ぴその普遍性指向の考慮から、条件を満たす国は加盟国となる権利を有す
︵19︶ アゼヴェド判事によれば、一旦国家がすべての条件を満たしていることが認められれば、その国家の加入申請の拒否は権
ると考える。OO&窪O冨縁>α日一器δ口O霧ρ簑、貰83ρ簿Σ,
︵20︶普遍性に対する過剰な期待は誤りであるが、国際法の発展にとって大きな意義を有することは明らかと思われる。グ・ス
利侵害と考えられるかもしれない。ミ■簿o。一■
は述ぺる。
的により集権的な社会へと変容することを、同様に国連がその様な社会の機関へと変容することを意味するであろう。.・.⋮メ
﹁⋮⋮国際法の発展が国際組織の発展と密接な関係にあるとすれぱ、普遍性の達成は、現在の分権的原始的国際社会が比較
ンバーシップの普遍性は、このプ・セスにおける、決定的ではないが重要な要因なのである。﹂
17
一橋大学研究年報 法学研究 19
O﹃8即肉§議§。、9ミ跨誉q這∼&之ミご虜ミ馬§守ミ急骨ぎい●O”o探一国。。望誘oz一竃男蜜目o乞書い>≦
︵21︶ qω髪oヌピ、一貿男男跡目>目睾這U一〇騨一臣冨の舅>肩留U.易舞2一跨目自一笥男蜜目o暴島の一3︵Go。一︶
o﹀員N>昌02軌oo怠ひ8︵Goo轟︶●
︵22︶ ミ‘舞一求。
︵23︶ UO<一誘&oき襲噂ミロo匿嶺緯呂ρ
第二款 国が国際連合加盟国となることの承認に関する総会の権限
︾200零
一九四九年、総会は、﹁候補国が必要多数を得ないため、または加盟国勧告決議に対する一常任理事国の否定的投
︵25︶
票のため、安全保障理事会がその加盟を勧告しない時、憲章第四条第二項に従い、国家は総会の決議によって国際連
︵餌︶
合のメンバーとして認められうるか﹂という内容の問題について裁判所の勧告的意見を求めた。裁判所は、一二票対
二票で否定的結論に達した。以下、多数意見の推論を分析するとともに、反対意見を述べたアルヴァレス判事の推論
も簡単に見てみよう。
一 多数意見の推論の分析
多数意見は、憲章の解釈権限或いは質問の政治的性格を根拠とする抗弁を却下した後に、文言的アプ・iチに依拠
し て 以下の様に述べる 。
﹁裁判所は、[国連憲章四条二項の]本文の意味について、なにも疑いをもたない。それは、加盟承認を行うのに
二つのことを要求している。1安全保障理事会の﹃勧告﹄と総会の﹃決定﹄である。勧告が、決定に先行するの
18
国際紐織設立文書の解釈プ・セス(二)
は、当然の事理である。﹃勧告﹄という語およぴその前にある﹃基づいて﹄という語は、勧告が、加盟を承認する
決定の基礎であり、そしてこの決定は、勧告に基づくという観念を含蓄する。これらの行為はともに、四条前項に
いう機構の判断を構成するに不可決なものである。ここに考察中の条項本文は、総会が、安全保障理事会の勧告に
基づいてのみ、加盟承認を決定しうるにすぎないことを意味する。それは、二つの機関ーその結合した行為が、
加盟承認の行われうる前に必要であるーのそれぞれの役割を決定する。いいかえれば、安全保障理事会の勧告は、
それによって加盟承認が行なわれる、総会の決定の先決条件である。
裁判所に提出された書面による陳述の一つにおいて、四条二項に異なる意味を付与しようとされた。おもうに、
条約の規定を解釈し、適用するように求められる裁判所の第一の任務は、その規定があらわれている文脈において、
その自然な、普通の意味︵ロ舞旨巴目αo乱一冨蔓日舞巳品︶により、それらに効果を与えるように努めることだ
といわなければならない。関係のある言葉が、その自然な、普通の意味により、文脈において意味をなす揚合には、
それで問題は解決される。他方において、もし言葉が、その自然な、普通の意味において、あいまいであるか、ま
たは不合理な結果を誘致するならば、その時は、そしてその時にのみ、裁判所は、他の解釈方法に頼って、これら
︵26︶
の言葉を用いたときに、当事国は実際に何を意図していたのかを確かめるようにしなければならない。﹂
本件において、多数意見は、用語の自然で通常の意味を与えるのに何らの困難も見いださないし、その結論は憲章
の構造によって、特に総会と安全保障理事会との関係によって十分確認されると考える。すなわち、
﹁総会が、安全保障理事会の勧告がない場合に、ある国の加盟を承認する権限をもつと見倣すならば、安全保障理
事会から、憲章がそれにゆだねた重要な権限を奪うことになるであろう。それは、機構の重要な一つの任務の遂行
において、安全保障理事会の役割をほとんど無にすることになるであろう。安全保障理事会は、単に案件を研究し、
19
一橋大学研究年報 法学研究 19
報告を提出し、助言を与え、 そして意見を述べさえすればよいという意味になる。これは、四条二項がいっている
ことではない。﹂
︵27︶
一一アルヴァレス判事の反対意見の推論の分析
アルヴァレスは、その反対意見の大部分を使って、既に本稿第二章第四節三﹁設立文書から離れた自由な立揚﹂に
おいて紹介した一般的考察︵特に解釈方法︶を展開した後に、本件の問題を扱う。
安全保障理事会の勧告がない揚合において二つの状況が区別される。第一は、加入承認を求める国が安全保障理事
会で必要多数を得なかった揚合であり、第二は、必要多数を得たけれども常任理事国の一つが拒否権を使用した揚合
︵28︶
である。この第二の場合は特別に考えるべき状況であり、﹁私は、総会は拒否権を評価できると思う﹂と述べる。
アルヴァレスの解釈では、拒否権が設定された時、その唯一の対象は平和及ぴ国際的安全の維持に関する事項であ
ったし、第二七条の文言も他と切り離してみれぱ明白であるとしても、国連の性質と目的とを考慮すれぱもはや明白
ではない。こうして、
﹁たとえ、新加盟国の勧告に関して安全保障理事会の常任理事国によって拒否権が自由に行使されることが認めら
れても、総会は、この権利が濫用されたか否かを依然として決定することができるのであり、もしその回答が肯定
︵29︶
的であれば、理事会による勧告なしに加入承認の手続をとることができる。﹂
この解決策は、国連憲章の精神−国連は普遍的傾向を有し、第四条の条件を満たす国はすぺて加入承認の権利を
有するーとも、良識 加盟国問題で、一国の反対が他のすべての加盟国の意思を妨げうるとするのは、ナンセン
スであろうーとも、合致すると指摘される。
︵30︶
20
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
三 考 察
ω 本件で興味深い点は、加入承認事件で反対意見を述べた六名の判事がその時の多数意見の推論と基本的に同様
パぬロ
の推論を採り、結果的には、アルヴァレスとアゼヴェドという二人の特異な判事を除いて、﹁実際上、全会一致﹂で
文言的アプ・ーチが採用されたことである。この点は、多数意見の分析で引用した部分に加えて、次の様に個別に指
摘された。
﹁裁判所は、条的規定中に使われた言葉にその自然な通常の意味を与えることによって当該規定に効果を与える.︸
とができるとき、何か他の意味を与えようとすることによってそれらの言葉を解釈する.︸とはできない。本件にお
いては、裁判所は、問題の言葉の自然な通常の意味を確かめるのに、またそれらに効果を与えるのに、何らの困難
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
も見い出さない。裁判所に提出された陳述書の若干のものの中で、裁判所は憲章の起草に先立つ準備作業を調べる
ように求められた。しかしながら、前記考慮に鑑みて、裁判所は、本件においては準備作業に依拠することは許さ
パぬレ
れないと考える。﹂︵ 傍 点 筆 者 ︶
③ 本稿の文脈では、次の点に注意を引いておきたい。すなわち、多数意見は、結論を支持する根拠として、機関
の一貫した実行に依拠している点である。多数意見は述べる。
﹁第四条が加入事項において機構の判断を委ねる機関は、総会は安全保障理事会の勧告に基づいてのみ加入を決定
できるという意味で、条約文を一貫して解釈してきた。特に、総会手続規則は﹃安全保障理事会が申請国の加盟を
勧告する場合﹄のみ:⋮[申請の考慮・決定を予定する]。規則は、単に、安全保障理事会が加入を勧告しない揚
合には、総会は新たな検討のためにその申請書を安全保障理事会に返送することができると述べるにすぎない。こ
21
一橋大学研究年報 法学究研 19
︵33︶
の最後の措置は何度かとられた⋮⋮。﹂
理解することは、﹁実際上、全会一致﹂で拒否されたのである。当該事項での総会と安全保障理事会との関係を﹁一
㈹ 加入承認という事項における総会と安全保障理事会との関係を、アルヴァレス判事の様に、総会の優越として
︵鱗︶
種の権能のバランス﹂であり、﹁憲章の特徴の一つ﹂と考えるならば、二つの機関の平等なバランスを破壊し、安全
︵35︶
保障理事会から総会へ機構の重心を移し、均衡を覆すことは、たとえ国連の普遍性という価値を促進するとしても、
憲章に合致しないものとして却下されたのである。フェルゼーユは述べる。
﹁[アルヴァレス等の結論は、]私の見解では、憲章の現実の規定の下では全く受け入れられない。 如何にそれ
︵36︶
らの規定がそのようであることを遺憾と考えようとも。法を改正することは司法裁判所の任務ではない。と言う訳
は、それは疑いなく改正であろうから。﹂
︵24︶構成は、パドヴァン︵裁判長︶、ゲレ・︵副裁判長︶、ハックワース、ウィニァルスキー、ゾリチッチ、ドゥ。ヴィシェ、
︵25︶ 構成は、アゼヴェド、アルヴァレスである。
マクネア、クレスタッド、バダウィ・パシャ、クルロイフ、リード、ス・モーである。
︵26︶注≦・o蔓o℃巨目800旨℃9980h9。o呂。β一>ω器日σ蔓︷o;ぎ>α巳ω巴o昌oh卑ω鼻。けo夢。d算a2幾o昼
ロ濃O]HOこ㍉Io。・皆川﹃判例要録﹄三九−四十頁。
︵27︶ ミ‘暮9同上八三頁。
︵28︶ ミ‘碑一9
︵29︶ ミ‘彗Nρ
︵30︶ ミ‘暮卜oド
ァセヴェド判事の推論は十分に理解し難いが、患章中の﹁決定﹂という用語の特異な理解に基づいて、拒否権の行使は平和
22
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
﹁従って、もし、安全保障理事会からの報告において、総会が、申請国は理事会のいずれかの七理事国の投票を得たと認め
と安全に影響する事項以外については全く排除されるとし、次の結論に達する。
るならぱ、総会は、申請国を受け入れ、又は拒否することを自由に決定することができる。﹂ミこ暮穽
以上の点については、国言日帥ξ一〇P日奮卜&S§純、、8匙ミ恥呈き鴨﹄ミミ慧ミ軌§ミ9ミ∼蔓、§畿驚、﹄ミミ醤ミ篤§ミO下
鷺獣磯ミご§§﹄﹃ミミ醤ミ⇔︸NO切固β吋■切,Hz↓、r■・どNoo占ご∪犀P一目寓国■>ミ︾20℃国oo国uq男国o勾↓属国冒↓国男−
蜜目身き∩8胃雷冒。。目臼S∴8︵むo。α︶・及ぴ皆川﹁国際連合の加入問題︵注6︶﹂一四九ー五十頁を参照。
Ooヨ℃①8昌80臣穿oOg段巴>器①5げ一鴫O霧P襲憾ミロo言ま笥簿o。■
︵31 ︶ ■帥暮o弓8鐸”簑憾§口90一♪暮一NP
ミこ簿9
︵32︶
︵33︶
︵35︶
一●菊5塁ρ冒匹u一3δ乞o。舅鵠閑z>目o客﹀葛ω国↓82↓国ひ島oご勾冨禺30房日勾≧旨ω8誘↓旨q目鵠o田o国o>竃望,
︵糾︶
国×℃o。。ひαo罫Ω8お$ωo。一一pH■ρい国o包凶夷のまω︵一30︶
︵36︶
︸,甲≦,く男Nこピる↓臣一〇男一ω第qu国2自o吋目国毛o刀500q胃N一︵一8α︶、
2 ↓岡0
ω毫↓男z>↓δz>岳。。器O︵一〇這y
︵37︶
国際連合に勤務中に被った損害の賠償
第三款
︵38︶ ︵39︶
㈲被害者又は同人を通じて権利を有する者に生じた損害の賠償を得るために、国際請求を提出する資格を有し
一九 四
八 年 、 国連総会は、国連職員が任務遂行中に損害を被った揚合に、国連は、責任ある政府に対して、⑥国際
連合、
に
つ
い
て
、
裁判所の勧告的意見を要請した。一九四九年の回答は、⑥に全会一致で、㈲に一一票対四票で、
ている か等
肯定的であった。
23
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵㈹︶
第一の質問に関しては、多数意見は問題を次の三つの形に分割して取り扱った。
機構は国際請求を提出する能力を有するか否か。
機構の国際的権利の総計は、本件において示されている様な国際請求を提出する権利を含んでいるか否か。
機構の非加盟国に対して請求をなしうるか否か。
これら
で 、 第一は、法人格の問題であり、第二は機構の目的と機能との関連であり、第三は対抗性の問題であ
の
中 ると理解することができる。
③ 第一の法人格の問題について、多数意見は次のように出発点を定める。
﹁憲章の条項それ自体によって解決されてないこの問題に答えるためには、憲章が機構に与えようとした性格を考
︵姐︶
慮してみなけれぱならない。﹂
このアプ・ーチに従って、多数意見は、まず、憲章が、国連を共通の目的の達成に当たって諸国の行動を調和す
るための中心とする︵第一条第四項︶だけにとどめず、その中心に機構を備えつけ、それ自身の使命を与え、機構
に対する加盟国の地位を明確に定めたことを指摘する。さらに、機構を一方の当事者とする条約の締結という実行
︵42︶
がそのような機構の性質を確認してきたことなどを指摘した後に、﹁機構は、国際人格者であるという結論に達す
る。﹂すなわち、
﹁裁判所の意見では、機構は広範囲の国際人格及び国際的平面における行為能力によってのみ説明されうる任務を
遂行し、かつ、権利を享有することが予定されていたし、実際にも遂行し、かつ、享有しているのである。それ
は、現在において最高のタイプの国際機構であり、もしそれが国際人格を欠いていたとしたら、その創設者の意
24
多数意見の推論の分析
③②①(1》一
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
思にそうことはできないであろう。その加盟国は、機構に一定の任務を、それに付随する義務及び責任とともに
︵43︶
与えることによって、その任務を有効に遂行することを可能にするため必要な権限を付与したものと認められる
ぺきである。﹂
圖 以上のように、法人格の間題に肯定的解答を与えた後、第二の間題を設定する。
第一に、﹁国際連合⋮⋮に生じた損害﹂ーもっぱら機構それ自身の利益、その活動の手段、機構が管理するその
財産及び利益に生じた損害1については、﹁機構が、これらの損害について請求を提出する能力を有していること
は明らかである﹂と簡単に肯定される。
︵覗︶
叫 第二の﹁被害者又は同人を通じて権利を有する者に生じた損害﹂に関する多数意見の推論が最も重要な部分で
ある。
多数意見は、まず、在外国民の外交的保護に関する伝統的規則から引き出されるアナ・ジーの関連性を否定する。
すなわち、この規則の適用対象の相違−国と機構﹂例外の存在、その基礎にある考え方の点からして、伝統的
規則は否定的回答を支持することにはならないし、他方、憲章一〇〇条に示される機構と事務総長・職員との間の法
的絆を国籍の絆と同一視することはできず、肯定的回答を正当化することもできない。こうして、多数意見は次のよ
うにその出発点を設定する。
﹁裁判所は、ここでは新しい事態に直面しているのである。この事態から生じる問題に対しては、それが、国際法
︵45︶
の原則に照らして解釈される憲章の諸規定によってどの様に規律されているかを明らかにすることによってのみ答
えることができる。﹂
まず、憲章解釈のアプ・ーチが一般的理論的次元で展開される。すなわ吻、
25
一橋大学研究年報 法学研究 19
﹁憲章は、明示的に、機構に対し、その賠償請求の中に被害者又は同人を通じて権利を有する者に生じた損害を含
める資格を付与していない。故に、裁判所は、機構の任務に関する諸規定及ぴその職員が当該任務の遂行に際して
演じる役割は、機構が、その職員のために、そのような情況において被った損害の賠償を得る目的で請求を提出す
る限られた保護をその職員に保証する権限を含んでいるかどうかを調ぺることから始めなければならない。国際法
上、機構は、憲章中にはっきりと述べられていないとしても、必然的推断によりその任務の遂行に不可欠なものと
して機構に付与される権限を有しているものと見なされるべきである。この法原則は、常設国際司法裁判所により、
一九二六年七月二三日の勧告的意見第十三号において国際労働機関に適用されたところであり︵ω窪拐切29鼻
マ一〇。︶、それは国際連合にも適用されるべきである。﹂
︵菊︶
続いて、この黙示的権限の法原則を国際連合に適用し、職員の機能的保護の資格を次のような推論によって具体的
に導 き 出 し た 。
﹁既述の機構の目的およぴ任務を考慮して、機構は、その職員に世界の動乱地において実行されるべき重要な使命
を委託する必要を認めることがありうるし、また実際にその必要を認めてきた。そういう使命は、必然的に、人々
が普通にはさらされない異常な危険に職員をしぱしぱさらすことになる。これと同じ理由により、この情況におい
て職員が被った損害は、時として、その者の本国が外交的保護に基づいて賠償請求を提起することを正当化されな
いか、または少くとも提起する意向をもたない、そのような態様で発生するであろう。その任務の効果的かつ自主
的な遂行を確保するためにも、またその職員に有効な支持を与えるためにも、機構は、職員に適当な保護を提供し
なけれぱならない。
機構の任務遂行が依存する条件として、機構の職員を保護する必要は、すでに認識されている。一九四八年一二
26
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
月三日の決議の前文は⋮⋮これが、総会の満揚一致の意見であったことを示している。
このために、機構の加盟国は、一定の約束を結んだ。そのあるものは憲章中に、他のものは補充協定中に掲げら
れている。これらの約束の内容をここで述べるには及ばない。しかし、裁判所は、加盟国により憲章第二条第五項
において受諾された、機構に対し﹃あらゆる援助﹄を与える義務の重要性を強調しなけれぱならない。機構の効果
的活動、その任務の達成および職員の仕事の独立性と効果性は、これらの約束が厳格に遵守されるように要求する
ものであることを想起する必要がある。そのためには、義務の不履行を生じる揚合に、機構は、責任がある国にそ
の不履行の救済を求め、とくに、その不履行により機構の職員に生じた損害の賠償をその国から得ることができる
のでなければならない。
職員がその任務を満足に遂行しうるためには、職員は、この保護が機構によって保証されており、機構に頼るこ
とができると感じているのでなければならない。職員の独立性、その結果として、機構それ自身の独立行動を担保
するためには、職員が、その任務の遂行において、機構の保護以外の保護に頼る必要がないことが肝要である︵も
ちろん、職員がその領土にいる国によって与えられるべき、一層直接的かつ即時的な保護は別として︶。とくに、
職員がその本国の保護に頼る必要があるのではいけない。もしそうであるとしたら、職員の独立性は、憲章第一〇
〇条が適用する原則に反して、危くされるであろう。最後に、きわめて重要なことは、職員が1強国または弱国
のいずれに属しているかを間わず、国際生活の複雑な事情により多く、またより少く影響されている国のいずれに
属しているかを問わず、またその任務の遂行に同情的なまた同情的でない国のいずれに属しているかを問わずー
その任務の遂行において、機構の保護のもとに置かれていることを知っていることである︵この保証は、職員が無
国籍である揚合には、さらに一層必要である︶。
27
一橋大学研究年報 法学研究 19
機構に委託された任務の特徴およびその職員の使命の性質を考慮するならぱ、一定の範囲内で、その職員の機能
︵47︶
的保謹︵犠二昌。註。コp一℃戦。叶。畠。昌︶を行なう機構の資格が、憲章により必然的に推断されることは明らかになる。﹂
㈲ 第三の対抗性の問題には、ここでは触れない。
一一 ハックワース判事の反対意見の推論の分析
ω ハックワースは、質問1⑥について、多数意見の結論には同意するが、それは異なる理由からであり、また質
問1㈲については、同意できない。
図 まず質問1㈲について、ハックワースは、多数意見とは異なって、黙示的権限の法理の適用によって、肯定的
解答を導き出す。すなわち、憲章第一〇四条、第一〇五条第一・二項、及び特権免除条約を指摘した後に、次のよう
に述べる。
﹁もし機構が、契約をなし、財産を取得及び処分し、訴訟を提起し、そしてその資格のある特権免除を主張するこ
とができるのであれば、機構は私的団体との他に政府とも交渉を行なうことができなくてはならないと、論ずるこ
とができる。従って、機構は自分自身のために請求をなすことができなくてはならない。これらの特定の権能と自
己保存の固有の権利とに合致する他の如何なる結論も、どうあっても引き出され得ないであろう。機構は、加盟国
に責任のある違法行為に対して機構の保護のために必要な措置を取る十分な権限を有していなけれぼならず、そし
て実際に有しているのである。任務の遂行中に職員に対してなされた違法行為によって槻樽が被ヂだ如何なる損害
も、同様にしてその権限内であると言えよう。
︵侶V
これは、黙示的権限の法理の適切な適用である。﹂
28
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
㈹ 質問1㈲については、事情は異なるとされる。﹁解答するにあたっては、我々は、私的請求に関する諸国の伝
︵紛︶
統的慣行と機構に関する明示の条約規定とをみなければならない。﹂国際的実行については、現在まで国家のみがそ
のような請求を提出する権限を有するとみなされてきたことが示される。また、機構に関しては、その様な権限を有
することを示すものは憲章中にも他の協定中にも存在していない。﹁同様に、この目的のために依拠すべき黙示的権
限は存在しないと、私は確信する。﹂
︵50︶
以上の理解に基づいて、ハックスワァスは、黙示的権限の法理に依拠する多数意見の推論を根本的に批判する。す
なわち、
﹁多数意見の中で、憲章は、機構は﹃その損害賠償請求﹄の中に被害者又は同人を通じて権利を有する者に生じた
損害を含める資格を有すべき旨、明示的に規定してはないが、そうした権能は必然的推断によって与えられるとい
う結論に達すると、述べられている。これは、機構の職員に託された任務の実効的かつ自主的遂行を確保し、精神
的支持を与えるためには、この権能の行使は必要である、という仮定に基づいていると思われる。
私的請求を保証する権限が﹃必然的推断﹄によって機構に与えられるという結論は、権能の個別的付与の揚合に
欠敏を満めるために裁判所によって下された規則の下では、是認されるとは思われない。
機構は、委任され、列挙された権限の機構である、という事実を否定することはできない。加盟国が付与しよう
と望んだ権限は、憲章の中か、加盟国の締結した補足的協定の中に述べられていると考えられるべきである。明示
されていない権限は自由に推定されることはできない。黙示的権限は、明示的権限の付与から流れるのであり、明
示的に付与された権限の行使に﹃必要な﹄権限のみに限定されるのである。ここで問題となる権限行使の必要性の
存在は示されなかった。職員がその任務遂行中に生じたものに限定されるとしても、機構が職員に代わって請求の
29
一橋大学研究年報 法学研究 19
保証人となるべきであるとする決定的な理由はない、たとえ何らかの理由があるとしても。これらの職員は依然と
して各々の国家の国民であり、そうした請求を扱う慣習的方法は、十分に有効に利用されうるのである。機構の威
信と能率は、上記㈲の下での疑問の余地のない権利の行使によって守られるであろう。ここにおいてさえ、権限を
この様にして、国家の国民保護の機能と機構の職員保護の機能との間のアナ・ジーは、憲章の規定も起草者の目的も
推定することが必要であるが、上に述べた様に、その必然性は自明である。私的請求の分野におけるもう一つの特
︵51V
別の権限の行使が、機構又はその職員による任務の実効的遂行に必要であるとは示されなかったのである。﹂
逸脱するものであると批判し、機構のその様な資格は﹁もっと堅実な基礎の上に基づかなくてはならない﹂と指摘し
︵52︶
た。
㈲ 職員の国際的地位を規定する憲章第一〇〇条の解釈においても、ハックワースは多数意見と異なる。すなわち、
第一〇〇条︵類似の規定はICAo、IMF、IBRD、ILO等の多くの機構においても見い出される︶の目的は、
機構に対する職員の忠誠︵一薯埠ざま畠な︶を確立し、加盟国にその地位の尊重を要請するにとどまるのである、と。
また、職員に認められる特権免除も、職員の個人的利益のためではなく、機構の利益のためであって、その違反に基
づく講求は、質問1㈲ではなくてー⑥に属するものであると指摘される。
個人のための請求について、国際法上唯一の救済は国籍国政府を通じてのものである。
﹁この点に関する国際法は十分に確立されているのであり、国際条約による揚合は別として、アナロジーに基づい
§ ︵53︶
て、国家ではなく、従って国民を有しない組織が、まるで国家の如く、そして国民を有するかの如く行動すること
カできるとする理論は、私の意見では、正当な根拠を有しない。﹂
もし職員のために請求をなすことを望むのであれば、条約による方法が残されていると、述べられた。
30
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
三 考察
ω 国際連合が法人格を有するか否かという問題については、総会の第六︵法律︶委員会の討議において、国々は
必ずしも意見の一致をみていなかったのであるが、裁判所の前においてはこの点での疑念は示されなかった。既に見
た様に、裁判所もこの点を全員一致で肯定したのである。
③ 本稿の文脈で最も重要な点は、職員が任務遂行中に被った損害の賠償 質問1㈲1を請求するための機構
の資格、及びその前提条件として、職員を保護する機構の機能的保護権限をめぐる推論である。アメリカ合衆国は、
︵騒︶
国際請求の基礎は請求者の国籍国が被った損害であるが故に、質問1㈲については国連は資格を有さないとした。裁
判所の前で展開されたその他の議論はすべてこの点で肯定的であり、多数意見はそれらを要領良く統一的にまとめて
いると言うことができよう。
︵55V
この点については評価が分かれる。一方では、小川教授は次のように述べる。
﹁我々は裁判所が国際連合にたいしてその機能を遂行するために最も効果的な権限を与えようと欲したことは理解
できるのであるけれども、国連自身の受けた損害についてだけでなく、その職員の蒙った損害にたいする賠償の請
求まで行なう資格があるかどうかという点については、この間題について反対意見を述べた上記の裁判官同様の疑
問を抱かざるを得ない。裁判所は既に確立されている原則を修正し又はそれに重要な例外を認めるような意見を述
べるに当っては、もっと明確かつ十分な根拠を示さなくてはならない。もしも畠自9昌ξo臣。芭ヨωの原則から
離れてまでも、国際連合がその職員の利益を保護するためにこのような請求権を有していると裁判所が判定するた
めには、効果的な任務遂行の必要という黙示的権限の援用のみでは不十分ではないだろうか。裁判所の意見はこの
31
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵56︶
点において、法文上課せられている権限の範囲を超えるものではないかという感じを我々に与えるのである。﹂
他方では、反対意見に示される見解は、職員が無国籍者であったり、被告国の国籍を有する者である可能性を忘れ
ているのであって、そのような場合、彼らは任務にふさわしい正当な請求の手段を奪われることになってしまうと指
︵訂︶
摘される。
本件における黙示的権限の法理の適用をめぐる相異について、ライトは次のような評価を下している。
﹁基本的には、裁判所と反対意見の判事とは、国際文書と国際法を解釈しようとする時の自由さにおいて異なった。
裁判所の判断するところでは、国連の権限は憲章の目的を遂行する上での必要性と便宜性から推定することができ
る。また、職員、及び国連の利益と国連に対する損害は柔軟に︵ぎ霞巴ぐ︶解釈されるべきである。そして一般的
には、アナ・ジー、法の一般原則、人々の法的良心、及び現代国際生活の必要︵窪お自9$︶が、国際法の下にお
ける権利・義務を決定するに当たって考慮されなくてはならないのである。
裁判所は、アメリカ憲法を扱った時にマーシャル︵ζ胃。。げ巴一︶最高裁判所長官によって、また国際連盟規約を扱
った時に常設国際司法裁判所によって示された傾向を表明した。その傾向とは、機構が機能し、その目的を達成す
ることができるように、機構の権利と権限を十分広く解釈するというものである。もし安定性が回復されるべきで
あるならぱ国際法と国際機構は世界の変わりつつある状況と人々の変わりつつある希望とに絶えず適応していかな
ければならないと認める国際法学者は、裁判所のこの傾向を歓迎するであろう。縮小しながらも十分に規律されて
おらず、相互依然しながらもその状況に十分気づいていない世界においては、国際社会の要請を柔軟に扱うことが、
︵59︶
たとえその取扱いが伝統的な国家主権を制限し、こうした状況に最も気づいていない国々による反抗を引き起こす
危険を含んでいるとしても、多分より安全であろう。﹂
32
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
︵37︶ 本勧告的意見には、次のような文献がある。口彗αq︸≧黛携§卜醤蕊O黛恥箋o蕊9§ミミ誌∼富qミ鳳匙≧ミ軌§漁開魯ミ尋
一竃男睾目身きω↓自富爲↓禺d蜜目u2﹀目o器蜀o占。。︵一8一︶︸評σq一。8コ噛ミ恥§ミ焼§ミミ繋ミ恥ミ蝋§§戚ミ恥卜§
、画§、ミ﹄ξミ帖跨影慧﹃&き馬鳶賄ミ鯉§&馬蕾q藝&≧ミ帖§孕参>蜜こ﹂昌ドい&o︵ちおどρ≦田。。・。切男p目寓国
。﹃葬落§§ミ電獣菊国o冒F目。。80器ω一〇︵一〇軌oy
︵38︶構成は、パドヴァン︵裁判長︶、ゲレ・︵副裁判畏︶、アルヴァレス、ファベラ、ゾリチッチ、ドゥ・ヴィシェ、マクネァ、
クレスタッド、リード、ス・モー、アゼヴェドである。
︵39︶ 構成は、ハックワース、バダウィ㌦ハシャ、クルイロフ、ウィニァルスキーである。
︵40︶ この点については、勾帥ヨ㌣匡o昇巴αP㌧ミ馬§§ご醤ミト茜ミ、馬義§ミ貸博a醤“﹄§、ミ&bo亀ミ恥o、㍉ミ塁醤ミ軌§ミO篭碧撃
︵41︶&<ぎ曼○忌三〇昌8幻£魯声江98﹃一三邑8ω5①﹃a冒浮。ωRく帥899①d鼻&2壁8切”[Gお]一,ρい旨o。,
即叶
ミミミミミミミミミ義
旨O,皆川﹃判例集﹄一 三三頁。
同上。
皆川
一〇N
一〇ひー¶●
一〇。㌣命皆川﹃判例集﹄
一〇。N占、同上。
一三五−六頁。
一〇。N■皆川﹃判例集﹄一 三五頁。
﹃判例集﹄一三四頁。
舘鰍舗皆匝
這oo甲
33
簿ミミ§‘食ω霞β<.中野帰、rダ=ど旨令蹟一︵むNO︶がすぐれている。
) ) ) ) ) ) ) ) ) )
( ( ( ( ( ( ( ( ( (
皆川﹃判例集﹄一三二頁。
51 50 49 48 47 46 45 44 43 42
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵52︶ ミ‘緯一〇〇■蜀o﹃国﹃牲o︿、mR凶ユo跡ヨー鴇恥 &‘暮N一γoo,
︵53︶ ミ己緯卜oOO。国oHω帥α帥≦一悶四鴇即、のR一賦含ω旨”鴇恥&こ辞さo一一、
︵餌︶ ■o雰巽o︷芸od三8αonけ暮窃o噛>巳霞一g︸H臼ρ︾空o&﹃鵯麟け8■
︵55︶ この点に関する議論を若干紹介しておこう。
第一に、機構が一定の黙示的権限を有する点が指摘されている。例えば、フェラーは次のように述ぺた。
任務の遂行に必要で適切な一般国際法上の実体的権利を有している、というものである。﹂
﹁要するに、[国際法上の実体的権利に関する]我々の立揚は、国連は、憲章又は明示の国際的合意の下の権利に加えて、
ω一卑oヨo暮げ圃]≦5蜀詳N日㊤瑛一〇¢、&■曽辞=?N、
oo3叶o日。幹冴罵﹃・男Φ一一9一・ρ一、包o呂一昌αqの暮ま︸砺寵ミ零国図℃o審αo置民器臭聲げ①o置一。ρ旨国oaヨ⑳ω舞OoQ噛即且
上げるが、外国人の揚合でも、彼が政府の職員であるようなときには、同様に当該職員に代わって請求をしうる。しかし、こ
第二に、質問1㈲の論点はフィッモーリスによって明快に分析された。すなわち、国家は国籍に基づいて私人の請求を取り
果する同国へ直接損害に関してのみ請求しうる。伝統的な実行と学説によれぱ使用人自身のための如何なる請求iすなわち
こでの法的な絆は異なっている1国籍に対して、雇い主と使用人の関係。後者の揚合には、国家は、使用人への損害から結
彼又は彼の扶養家族の被った損害に関する請求1も、彼の国籍国によってなされなくてはならない。従って被告国は、被害
者個人への損害に関する如何なる請求も、それが彼の国籍国によって提起されない限り、拒否することができる。
従って、国家実行のアナ・ジーに基づいたのでは、国連とその職員との間における雇い主と使用者という単なる関係は、機
構が使用人への損害によって自らに被った損害に関する請求を提起するのを可能とするのにすぎない。この関係は、それ自体
では︵℃R零︶被害者やその扶養家族にかわって請求することを可能とはしない。そのような請求をなすためには、国連と職
な関係を、単に機構と職員との間の国籍の絆の欠如だけでなく、職員とその国籍国との間の国籍の絆の存在という事情にもか
員との間に、雇い主と使用者との通常の関係以上の、国籍に類似した性格の特別の関係が存在しなければならない。この特別
かわらず、何らかの形で基礎づけることが困難の核心なのである。
34
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
フィッモーリスは、この基礎を、多数意見の採用した憲章第一〇〇条の定める国際的忠誠や任務遂行にとっての不可欠性な
どの考慮の中に見い出すのである。壁一鉢お一−伊
ちなみに、機能的保護の権限の実際の行使においては、各具体的事情に応じて、様々な点が問題となろう。蟄ミ醤叫§ミミ
=畦身”Ωミ§防ミ﹄ミミ醤ミ軸§ミO蒔RミNミ賊§頓き㌍落価ミo、噛ミミ誉き§馬受﹂恥§声鴇切知員イ切・H言、[r蟄ひ
︵一8一y
︵駆︶ M[O⇒凶αq層 ↓評恥国ミ鷺㌣ミ喬馬帖o醤a馬Goミ鴫牒o、∼§砺蔑“恥 駄もへ刈1、℃噺P 一轟 N国一目ooO国男一男弓 冑α閑 >qのい卸2u一ωO=国ω α問男国2月日一〇国国の 菊国O寓弓
︵56︶ 小川芳彦﹁国際司法裁判所と法の創造︵一︶﹂︵﹃法と政治﹄第一五巻第四号、一九六四年︶六一九、六三五−六頁。
︵58︶≦ユαqヌ日壽∼ミミ、塁偽§ミ帖電皇馬富qミ∼匙之ミ帖§動参︾罫一﹂胃、けい80ふ蹟ふ︵這おy
ヒ客u<9民男謡畠目お ざ 頓 b o o o も ︵ お 鴇 ︶ ,
第四款 国際連合行政裁判所が下した補償裁定の効果
国連行政裁判所における敗訴に関係して、総会はICJに対して、﹁国際連合行政裁判所規程及びその他の関連文
書と関連記録を考慮して、総会は、勤務契約が本人の同意なしに終了された国連職員に対して有利に下された行政裁
︵58︶
判所の補償裁定の実施を何らかの理由によって拒否する権利を有しているのか﹂という内容の法律間題について、勧
告的意見を求めた。裁判所は、九票対三票で否定的結論に達した。アルヴァレス、ハックワース、カルネイ・各判事
多数意見は大きくわけて二つの部分から構成されている。前半は総会の質問に対する直接の回答であり、後半
多数意見の推論の分析
は反対意見を述べた。以下、多数意見に加えて、ハックワース判事の反対意見の推論を分析する。
11︶
35
一橋大学研究年報 法学研究 19
は諸政府の主要な主張の審査及びそれらに対する反論である。
③ 前半において、多数意見は、まず、総会の質問の趣旨について検討し、問題の設定を行う。すなわち、﹁行政
裁判所が司法機関、諮問機関それとも総会の単なる付属委員会、そのいずれのものとして設立されたか﹂を考察の対
象として設定する。
多数意見の回答の主要部分を構成する、この考察対象への回答の推論は文言的アプローチによってなされた。その
核心は以下の通りである。
﹁[行政裁判所規程第一条・第二条・第一〇条]の規定および用語は、行政裁判所の司法的性質の証拠である。﹃裁
判所﹄、﹃判決﹄、﹃請求に基づいて判決を下す﹄といった用語は、一般に司法機関に関して用いられる。上記の第二
条および第一〇条の規定は、本質上司法的性質をもつものであり、たとえば、国際司法裁判所規程における第三六
条第六項、第五六条第一項、第六〇条前段のように、司法裁判所に関する規程や法律の中で一般に定められる規則
に合致している。それらの規定は、国際連合の職員規則第三条と著しい対照をなしている。・⋮
⋮行政裁判所の裁判官の独立性は、⋮⋮第三条第五項によって保障されている。・
これらの規定は、初めの本文でも、また改正された本文でも、行政裁判所は、請求が十分な理由のあることを認
めるときは、争われた決定の取消し、または援用された義務の特定履行を命じることを規定している。機構の行政
職員の長に対し、そのような命令を発する権限が諮問機関や付属委員会に付与されることはほとんどありえなかっ
た以上、これらの規定は、行政裁判所の司法的性質を確認するものである。・⋮
行政裁判所規程の関連規定に関するこの検討によって、行政裁判所は、総会の諮問機関︵器<δqoおき︶また
は単なる付属委員会︵ω号o巳言魯①8目巨措。︶としてではなく、その任務の限られた範囲内で、上訴を許さない
36
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵59︶
終局判決を宣言する独立の、真に司法的な機関として設立されたことが明らかになる。﹂
㈲ 後半において、多数意見は、一転して、目的論的或いは機能的アプローチに依拠する。その推論の核心は以下
の通りである。
﹁国際連合を拘束する判決を下す権限をもつ裁判所を設ける総会の法的権限に対して異議が唱えられた。それゆえ、
総会が、憲章によりこの権限を与えられているかどうかを考察する必要がある。司法機関を設けるための明文規定
はなく、また反対の指示もない。しかしながら、本裁判は、その意見ー国際連合に勤務中被った損害の賠償・勧
告的意見同・ρ︾勾ε9富Gお︶や一〇。NIにおいて、次のように述べた。
﹃国際法上、機構は、憲章において明示的に述べられていないが、必然的推断によりその任務の遂行に不可欠な
ものとして機構に付与される権限を有しているものとみなされるべきである。﹄
ゆえに、本裁判所は、まず第一に、職員と機構との間の関係に関する憲章の諸規定は、機構のために、勤務契約
から生じる紛争を裁判する司法裁判所を設ける権限を必然的に含んでいるかどうかを調べてみなければならない。
[憲章第一五章の諸規定、特に第一〇一条に言及した後に]本裁判所の意見では、機構と職員との問に生じること
あるべき奨争を処理するため、それ自身の職員に対し、なんら司法的または仲裁的救済手続を与えないでおくこと
は、個人のために自由と正義を促進する憲章の明示された目的、およびこの目的を促進しようとする国際連合の不
変的関心とほとんど両立しないものである。
こういう事情だから、本裁判所は、機構と職員との間で公平に裁判を下す行政裁判所を設ける権限は、事務局の
能率的運営を確保し、最高水準の能率、能力および誠実を確保するという至上の考慮を実現するために不可欠であ
︵60︶
ったと認める。こうする能力は、憲章の真意の必然的推理︵冴お。窃蟹曙冒富邑ヨ。9︶によって生じる。﹂
37
一橋大学研究年報 法学研究 19
ニ ハックワース判事の反対意見の推論の分析
ω ハックワース判事の考え方は、行政裁判所の性質、訴訟の当事者、総会の予算に関する権限などの諸論点にお
いてすべて多数意見と対立するが、その基本的相違点であり、本稿の観点からも重要である、行政裁判所の性質の問
題ー総会の補助機関として認定するか司法裁判所として認定するかの問題−及びその背後にある黙示的権限の理
解に焦点をあてて分析をする。
吻 ハックワース判事の推論も基本的に文言的アプローチであると言える。すなわち憲章第七条第二項﹁必要と認
められる補助機関は、この憲章に従って設けることができる﹂の﹁この憲章に従って﹂という部分が、第二二条﹁総
会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる﹂につながるとして、次のように指摘する。
﹁従って行政裁判所を設立する規程を総会が承認した時、総会は第二二条に基づく権限の行使においてそうしたの
であると結論されなくてはならない。憲章中には、他のどこにもそのような受権は見い出されない。そして、司法
的、準司法的、非司法的のいずれであろうと、総会による別の種類の機関の設立のための明示又は黙示の受権は、
憲章中には他のどこにも見い出されえないのである。
⋮⋮従って、主張されたように、裁判所規程が憲章第一〇一条に基づいており、それ故第二三条の効果から免れ
ると言うことはできない。この議論は法的根拠を有しないとして却下されなくてはならない。
︵61︶
こうして、合理的な結論は、行政裁判所は第二二条の受権に従って総会の行為によって設立された総会の補助機
関である、というものである。﹂
38
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
ハックワース判事は、﹁その任務の遂行に必要と認める補助機関﹂の意義を次のように敷衛する。すなわち、補助
機関は、文字通り補助的従属的資格で行動し、主要機関を拘束することはできず、主要機関は補助機関の行為や勧告
を受諾・修正・拒否することができなくてはならない。総会は、その問題へのコントロールを放棄するような仕方で
その任務を補助機関に付与することはできない、と。
︵62︶
圖 ハックワース判事は、次に、多数意見が司法裁判所を設立する総会の権限を黙示的権限ー第一〇一条第三項
を実施する権限1に依拠させている点を批判する。
﹁黙示的権限の法理は、合理的範囲内で明示的権限の実施を意図するものであって、それに取って代わったり、変
更したりすることはできない。総会は、その任務が憲章の第一〇一条或は他の条項に関係しようと否と、その任務
の遂行に必要かもしれない補助機関を設立するための明示の権限を憲章第二二条によって与えられていた。この受
権の下で、総会はその任務の遂行に必要な如何なる裁判所を設立することもできる。従って、この明示の規定を前
にして、異なる種類とされる裁判所を設立するために黙示的権限の法理を援用することは許されないし、そのよう
︵邸︶
な結果になったと結論する正当な理由もない。﹂
三 考 察
ω 多数意見が行政裁判所規程の分析に基づくのに対して、ハックワース判事は、憲章の明示規定に基づいて、総
会の機関設立権限は補助的機関の設立に限定され、従って、行政裁判所は補助的従属的機関であり、その判決はそれ
を設けた総会を拘束できないと主張したわけである。
多数意見は、この見解に対して個別的に反論を加えている。
39
ヤ ヤ
40
﹁この見解は、総会は、行政裁判所規程を採択するにあたって、それ自身の任務を遂行するために必要とみなす機
して、多数意見は損害賠償葎の登と養的筒一の推論裏し、同様の仕方で黙示的霞の概念蓬用し
的権限は、審査中の特別の措置が絶対に必要と︵呂毘暮。ぐ霧器昇巨︶と見なされうる限度で行使することができ
まず、黙示的権限により総会自身を拘束する決定を行う権限を持つ裁判所を設ける必要は少しもなかったし、黙示
てみよ う 。
③ 黙示的権限の限定的な理解に基づいて提示された諸政府の主張に対して、多数意見が加えた回答についても見
たのであり、ハックワース判事の推論及ぴ黙示的権限の理解との対立が再現されたのである。
(砧)こ
相異によって決定されたものと評価することも可能であろう。
設立文書を基礎とする機能的立揚から黙示的権限の法理を法原則として認めるかという、黙示的権限の法理の理解の
事のように条約の枠組み内に限定する厳格な立揚からのみ黙示的権限の法理を認めるか、或いは、多数意見のように
黙示的権限の法理の理解の相異が果たした決定的役割を考慮するならぱ、この勧告的意見の結論は、ハックワース判
会の権限に対する異なった理解が存在していたと言うことができる。そして、この総会の権限に関する相異において
以上のような、行政裁判所の性質の認定をめぐる対立の背後には、当該行政裁判所を設立しうるか否かに関わる総
る権限を与えられているが、しかし、特定事件を裁判し、または他の方法で処理する権限は与えられてい蕉肥。﹂
有する、職員関係を規律する権限を行使していたのである。事務局に関しては、総会は、憲章により、規則を設け
裁判所を設けることにより、総会は、それ自身の任務の遂行を委任していたのではない。総会は、憲章に基づいて
は、総会に司法的任務を付与しておらず、職員と機構との間の関係は、憲章第十五章の範囲内に入る。⋮⋮⋮行政
関を設けたのだという仮定に立っている。しかし、本裁判所は、この基本的仮定を容認することができない。憲章
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
るだけだと主張された。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
この主張に対する多数意見の回答は単に次のようであるにすぎない。
ヤ ヤ ヤ ヤ
﹁疑いもなく、総会は、その権限を行使して、判決に対し終局性を与えずに、裁判所を設けることが可能であった
であろう。しかしながら、実際には、長い審議の後、この行政裁判所に対して、﹃終結とし、上訴を許さない﹄判
︵66︶
決、そして国際連合を拘束する判決を下す権限を与えることを決定したのである。裁判所を創設する権限が行使さ
れるべき諸措置の明確な性質およぴ範囲は、ただ総会のみが決定すぺき問題であった。﹂
︵67︶
多数意見は、ここでは、﹁絶対に﹂という言葉を支持してもいなければ、却下してもいない。総会の決定に委ねて
しまっている。この点には確かに疑問が残ると思われる。例えば、エリュi・ラウターパハトは、司法審査の抑制と
の関連からこの点をとらえて、暫定的ではあるが次のような結論を示している。
﹁⋮⋮裁判所が示した抑制は、機構は当該状況が何を必要とするかの最良の判断者であるとする考え方と合致する
︵68︶
と思われ、従って、この限りで、裁判所の抑制は、機構の目的の一層実効的な達成に向けられている。﹂
⑬ 次に、総会の憲章上の明示的権限に対して法的制限を課する黙示的権限は、法的に是認されないと論じられた。
第一に、総会が、その実施の義務を負う補償裁定を下す権限をもつ裁判所を設けることは、総会は、﹁この機構の
予算を審議し、かつ、承認する﹂と規定する憲章第一七条第一項によって付与された権限をそれ自身から奪うことに
なり、この予算権限に関する規定に違反することになると主張された。
︵69︶
この主張は反対意見を述ぺた判事の支持を受けたけれども、多数意見は次のように反論している。
﹁しかし、予算承認の任務は、総会が、提議された経費を承認し、または承認しないという絶対的権限を有してい
ることを意味するものではない。なぜなら、その経費のある部分は、すでに機構が負った債務から生じ、この限度
41
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵乃︶
で、総会は、これらの債務を履行して支払うほかはないからである。﹂
第二に、行政裁判所を設ける総会の黙示的権限は、その裁判所に、事務総長の権限内に属する事項に干渉すること
を可能とするまで拡げることはできないと主張された。
この点についても多数意見は次のように述べて却下する。
﹁総会は、いつでも第一〇一条の規定により、職員に関する事項について事務総長の権限を制限し、または統制し
うるであろう。憲章により付与された権限に基づいて行動しながら、総会は、行政裁判所の干渉を、その干渉が行
︵71︶
政裁判所にその規程により付与された管轄権の行使から生じうる限りにおいて許容したのである。﹂
︵72︶
ア︸うして、多数意見は、黙示的権限は明示的権限に法的制限を課すことはできないという考え方を、認めなかった
と理解される。
︵58︶構成は、マクネァ︵裁判長︶、ゲレ・︵副裁判長︶、ウィニァルスキー、 クレスタッド、パダウィ、リード、ス・モー、
アルマンド・ウゴン、コジェフニコフである。
︵59︶ >身ぎ曙○且巳o⇒曾国浮。けo︷>語&ωoh9日b。嵩魯oβ冨&。ξ 浮Od巳梓a2舞一〇冨>q旨一昌一簿声広<①↓ユぴロロ貫
︵60︶ 凶野異頴−o。・皆川﹁判例集﹂一五〇ー一頁。
[這象]Hρ匂・蟄−鈎皆川﹁判例集﹂一四六−八頁。
︵61︶ ミ‘碑9刈ooも。
︵62︶ 蕊‘暮這D
︵63︶ 一縞‘諄oo?一巴
︵64︶ ミ‘馨9.皆川﹁判例集﹂一五三頁。
︵65︶ Uo<誇90さ襲感ミ8けoβ象一a●
42
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
︵66︶ 団隷9鉱>毒aωO田・も尽ミ8富お舞軌o。■皆川﹁判例集﹂一五一頁。
︵67︶ 損害賠償事件における多数意見とハックワース判事との間の黙示的権限概念の理解の相違に基づく対立と見れぱ、多数意
見が﹁必要性﹂の程度・性絡を﹁絶対に必要﹂であると考えていないことは明らかと思われる。静恥ミい。甲■窪言も8耳
︵68︶ 国﹄■き8弓8耳日ぎU。お一εヨ①暮9浮。い即譲亀冒冨嘆轟謡9巴○お即三N畳自ξ9。∪。。慰o拐9ぎ8旨帥菖目包
簑感ミ昌08一♪緯Nまも。
︵69︶ 国瀞90h>毛畦駐O霧Φも鳶ミ8器お簿誤︵≧︿碧oNyo。軌︵=p島毛o﹃穿y8︵■。≦〇四旨。ぎy
↓ユげ口p㊤一9一認菊国oq田﹃u器ooq召鴇P畠O︵一鶏?H<︶,
︵70︶ ミー界$・皆川﹁判例集﹂一五二頁。
︵72︶ =●ピ麟口8弓8浮”旨腎ミロo言一♪暮応⊃嵩、
︵71︶ ミ‘異ひρ皆川﹁判例集﹂一五二頁。
︵73︶
第五款国際連合のある種の経費︵憲章第一七条第二項︶
一九六一年、国連総会は、中東及ぴコンゴにおける国連軍の活動について総会決議で認められた経費が国連憲章第
一七条第二項の意味における﹁この機構の経費﹂を構成するか否かについて、裁判所の勧告的意見を要請した。一九
六二年 の 回 答 は 、 九 票 対 五 票 で 肯 定 的 で あ っ た 。
︵ 7 4 V ︵ 7 5 ︶
一 多数意見の推論の分析
ω 多数意見は、便宜上、次の三つの部分に分けることができる。①勧告的意見を与える裁判所の権限に対する異
議の却下。②第一七条第二項の﹁機構の経費﹂の意味。③UNEF及びONUCの支出が﹁機構の経費﹂を構成する
43
一橋大学研究年報 法学研究 19
か否か。本稿の文脈上、以下の分析では、②と③とを扱うことにする。
③ まず、第一七条第二項の﹁機構の経費﹂の意味を扱うに当たって、多数意見は、国連憲章の解釈に関するその
基本的態度を次のように定めている。
﹁提出された問題にたちかえって、裁判所は、それが憲章第一七条第二項の解釈を伴うことに注目する。裁判所が
国際連合憲章を解釈しなけれぱならなかった以前の事件では、裁判所は、条約の解釈に一般に適用される原則や規
則に従ってきた。裁判所は、憲章がある特徴をもつ条約であるにもかかわらず、多数国間条約であると認めたから
である。裁判所は、憲章第四条を解釈するにあたって、﹃憲章の構造﹄および﹃憲章により、総会と安全保障理事
会との間に設定された関係﹄を考察することになった。本件においても、同じような問題が裁判所に出されている。
裁判所は、その第四条の解釈を、関係機関が実行上﹃首尾一貫してこの条文を解釈してきた﹄、その仕方を考慮す
ることによって支持したのである︵国が国際連合加盟国となることの承認に関する総会の権限H・ρ旨園名曾盆
一3ρ℃やcoも.︶。﹂
︵76︶
個 憲章第一七条第二項の﹁機構の経費﹂の意味を検討する多数意見の推論は、以下の三つの部分に分けることが
できる。①当該解釈問題の範囲の決定。②第一七条の本文の文脈における﹁機構の経費﹂の解釈。③憲章の一般的構
︵77︶
造の文脈からの﹁機構の経費﹂の解釈。ここでは、②と③を扱えば十分であろう。
多数意見は、当該解釈間題の範囲を決定した後、﹁機構の経費﹂の意味の検討−上記②及び③1に取り掛かる
に当たって、その推論におけるアプ・ーチの仕方を次のように設定した。
﹁第一七条第二項の本文は、﹃機構の経費﹄といい、それ以上その経費の明確な定義を与えていない。まずいかな
る機構の経費も、その目的を実現する、すなわち、この揚合には、国際連合の政治的、経済的、社会的、人道的お
44
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
よぴその他の目的を実現する費用に支出された金額であるという一般的命題から始めることができるであろう。次
になすぺきことは、裁判所がこれから審査するように、ここで問題となっている諸活動を認めた決議は、国際連合
の目的を実現しようとするものであったかどうか、そして当該支出は、これらの活動を推進するために要したもの
であるかどうかを審査することであろう。・⋮
第一七条第二項における、﹃経費﹄という言葉の解釈を同条第一項における﹃予算﹄という言葉に結びつけるあ
る種の議論を導いたのは、おそらく、経費を予算に掲げられた諸項目と単純に同一視したことによるものと思われ
る。この両方の揚合とも、﹃通常の︵8讐目︶﹄または﹃行政的︵器ヨ巨弩豊お︶﹄という品質形容詞を言外に含
めて解すべきだと主張される。そのような限定が憲章の本文にはなにも表示されていない以上、その意味に解釈で
きるとすれば、それは、そういう限定が全体として考察された憲章の諸規定から、または憲章を実施するためにそ
︵78︶
う解釈することを不可避的にする憲章の特別規定から、必然的に推断されるぺき揚合だけに限られるであろう。﹂
四 以上の設定に基づいた上で、まず第一七条の本文の文脈から﹁機構の経費﹂の意味を解釈するのであるが、こ
こで多数意見は第一七条の第一項と第二項とを区別して検討している。第一七条第一項の検討において、多数意見は、
第一に憲章起草者の意図から、第二に機構の慣行に照らして、﹁通常経費﹂或は﹁行政的経費﹂と解釈すべきという
主張を却下している。まず憲章起草者の意図については、次のように指摘している。
﹁まず第一に、第一七条第一項の﹃予算﹄という言葉に関しては、明らかに、﹃行政的予算︵器昌三m嘗緯ぞΦげ鼠−
鴨富︶﹄と﹃実行的予算︵εo鍔註8巴げ鼠αq9ω︶﹄との区別の存在が憲章起草者の念頭になかったわけではなく、ま
た機構の初期の歴史においてさえ機構の意識になかったわけでもない。第一七条の起草にあたって−.−.もし第一項
を国際連合機構それ自身の行政的予算に限ることが意図されたとすれば、﹃行政的﹄という言葉は、第三項におけ
45
一橋大学研究年報 法学研究 19
ると同様に、第一項にも挿入されたであろう。さらに、機構もまた、総会によって承認されるべき予算と異なる、
もう一つの予算をもつことが予想されていたのだとすれば、憲章は、この別の予算とそれを承認すべき機関につい
︵79︶
て言及するところがあったであろう。﹂
次に、機構の慣行との関連では以下のように述べている。この点は、本稿における重要な論点に密接に関わる。
﹁同様に、総会がその第一会期において、国際避難民機関憲章を作成し、承認したとき、その機関の予算は、﹃行
政的﹄、﹃実行的﹄および﹃大規模の組み替え﹄の項目に分けられるべきことを規定したが、一九五〇年に全会一致
で採択された国際連合の財政規則︵国尽琴芭男轟巳辞一9の︶には、なんらそういう区別は導入されなかったし、当
該規則は、この点で、いぜんとして変更されていない。この規則は、単に﹁予算﹂といっているだけであり、﹃行
政的﹄と﹃実行的﹄との間に、なんら区別を設けていない。
総会のその後の会期−第一六会期を含むーにおいて、﹃実行的﹄予算を区別する考え方についてたぴたび言
った。
及された。⋮⋮しかし、これらの討議の結果、そのような区別に基づく二つの別個の予算が採択されたのではなか
実際には、機構の慣行は、条文の明白な意味と完全に両立している。機構の予算は、初めから、この点について
提案された﹃行政的予算﹄のいかなる定義にも入らない項目を掲げていた。こうして、たとえば、﹃技術援助の拡
大計画﹄および﹃特別基金﹄1この両方とも寄付金によって維持されているーの設定に先立ち、そして現在で
はこれらに加えて、機構の年度予算は、技術援助のために支出される資金を掲げている。会計年度一九六二年の予
算には、六四〇万ドルの金額が経済開発、社会活動、人権活動、公共行政および麻薬取締りの技術計画のために計
上されている。第五委員会の討議中に、すべての技術援助費は、通常予算から除外すべきだという提案があったけ
46
国際組織設立文書の解釈ブ・セス(二)
れども、これらの項目は全部第五委員会の第二読会で反対投票なく採決された。このように予算化された前記活動
の﹃実行﹄性は、予算の見積りにおける説明の示すところである。⋮⋮
年度予算の決議に、国際の平和および安全の維持に関する経費を掲げるのが総会の一貫した貫行である。一九四
七年以降毎年、総会は、﹃平和および安全の維持﹄に関して生じる﹃不測かつ特別の経費﹄につきあらかじめ備え
てきた。⋮⋮不測かつ特別の経費に関するこれらの例年の決議は、一九四七年から一九五九年までどの年度でも反
対投票なしで採決されてきた。但し、決議が論争的な項目ー朝鮮での国連戦闘員に対する勲章授与1の明細を
掲げていたことにより反対投票があった一九五二年、一九五三年および一九五四年は別である。
国際連合の行政および予算手続の検討に関する一五力国作業部会の一九六一年の報告は、さまざまな提案に関す
る意見の大きな相違を明るみにだしながら、次の宣言が反対なしで採択されたことを記録しているのは注目すぺき
である。
︵80︶
﹃22 可能な侵略を防止するために行なわれた調査および観察は、国際連合の通常予算の一部として資金が調達さ
れるべきである。﹄﹂
第一七条第二項についても、同様の結論に達する。
㈲多数意見は、第一七条の本文から、憲章の一般的な構造及び仕組みにおける第一七条の地位という広い文脈に
おける検討に進む。ここでは、国際の平和及び安全の維持のための活動から生じる経費は、第一七条第二項の﹁機構
の経費﹂に該当せず、安保理によって、第四三条に従って交渉される協定を通じて処理されるという主張を、検討・
却下するのであるが、この点での多数意見の理由は以下の三つに整理できよう。
第一に、第七章の下での強制行動を例外として、国際の平和及び安全の維持に関する安保理の責任は、﹁主要な﹂
47
一橋大学研筑年報 法学研究 19
なもの1第二四条1であって﹁独占的﹂なものではない。
第二に、総会は、第一四条や第三五条等に基づき、関係国の同意を得て、強制行動に至らない措置−平和維持活
動1を勧告・組織しうる。第一一条第二項の﹁行動﹂は、強制行動である。
︵81︶
第三に、第四三条は第一七条の一般規則を破る特別規則をなすという主張 安保理の指令によってとられる強制
︵82︶
行動の費用の割り当ては、安保理によって第四三条が予定する特別協定の中で取り決められるーは、容認されない。
㈲ 以上のようにして、憲章第一七条第二項の﹁機構の経費﹂の意味を、一方では第一七条の本文の文脈から、他
方では憲章の一般構造の文脈から検討した後、次に、多数意見は、質問の中で列挙された支出の審査lUNEFと
ONUCの支出が﹁機構の経費﹂を構成するか否かーに移る。当該支出の審査に関する多数意見の推論は、①一般
的検討、②UNEFの支出の具体的検討、③ONUCの支出の具体的検討、の三つの部分から成っている。
ω 一般的検討において、多数意見は、まず、国連の目的との関連性という形で、そのアプ・iチを定める。
﹁認められた実際の支出が、﹃憲章第一七条第二項に規定するところの経費﹄をなすものであるかどうかを決定す
るにあたっては、裁判所は、支出が国際連合の目的の一つでない目的のためになされた揚合には、それは、﹃機構
︵83︶
の経費﹄とみなすことができないであろうという意味で、前記の支出を国際連合の目的との関連性により検討しな
ければならないことを認める。﹂
こうして多数意見は、国連の目的との適合性という観点から、以下のようにその推論を展開しているが、ここでは
議論の余地のあると思われる推定の問題が含まれている。
﹁⋮⋮機構が、国際連合の目的の一つと明示されたものを達成するために適当であったという主張を正当化する行
動をとるときは、そのような行動は、機構の権能外のものではないと推定されるぺきである。
48
国際粗織設立文書の解釈プ・セス(二)
国々の法体系には、しぱしば、立法行為または統治行為でも、その効力を決定するためのある手続が存在してい
ヤ ヤ ヤ
るが、これに類似した手続は、国際連合の構造の中に見いだすことができない。憲章の起草中になされた、憲章の
最終的解釈権を国際司法裁判所に委ねるという提案は受諾されなかった。裁判所がいま与えている意見は、勧告的
意見︵ミミ砺ミ疑oロ三8︶である。したがって、一九四五年に予想されていたように、各機関が、少なくとも第一
次的には、それ自身の管轄権を決定しなければならないのである。たとえば、安全保障理事会が国際の平和および
安全を維持しようとして、ある決議を採択するときは、そしてこの決議における委任または授権︵ヨ目3富9
斜暮ぎ貯緯一9︶に従って、事務総長が財政上の債務を負うときは、これらの金額は、﹃機構の経費﹄をなすものと
︵糾︶
推定されなければならない。﹂
㈲ 以上の一般的推論で、多数意見は、﹁裁判所の意見の基礎として十分であろう﹂と指摘するが、提出されてい
る他の議論を考慮に入れるのが適当であると認めるとして、UNEEとONUCの支出の検討に進む。
UNEFについては、まず第一に、その任務を検討するとして、反対投票なしで採択された総会の関連決議を引用
した後に、次の様に結論する。すなわち、この国連軍は、強制のために使用されたのではなく、また国連の主要な目
的を達成するために行われた。従って、事務総長は、機構の財政上の債務を負う権限を正当に行使したのであり、そ
の結果として生じる経費は、第一七条第二項に規定する﹁機構の経費﹂である、と。
第二に、支出の検討のために、三分の二の多数決で採択された総会の関連決議を考察した後で、﹁裁判所は、UN
EFの経費は、毎年総会により憲章第一七条第二項に規定する機構の経費として取り扱われてきたものと結論する。﹂
⑨ ONUCについても、まず第一に、その任務を検討するとして、反対投票なしで採択された安保理の関連決議
49
一橋大学研究年報 法学研究 19
等を考察した後で、次のように結論する。すなわち、その活動は、安保理が第三九条により侵略行為を犯し、又は平
和を破壊したものと決定した国に対する武力の行使を含むものではなかった。安保理及び総会の授権に従って事務総
長が国連に代わって負った財務上の債務は、機構の債務を構成する、と。
って﹁機構の経費﹂であると決定したことを承認した。
第二に、支出の検討のために総会の関連決議を考察した後で、裁判所は、総会が、当該支出を第一七条第二項に従
ニ スペンダー判事の個別意見の推論の分析
ω スペンダー判事の個別意見は、導入部に続いて、①第一七条の解釈、②憲章の解釈に関する一般的所見、③国
際連合内部における実行i解釈に対するその効果或は解釈基準としての価値、の三つの部分からなる。ここでは②
に重点を置いて検討することにしよう。
図 憲章の解釈に関する一般的所見では、本稿で対象としている間題を正面から扱っている。この部分の推論は、
①解釈一般について、②国際組織設立条約の解釈について、③国連憲章の解釈について、の三つの部分から成ってい
る。
まず解釈一般については、言葉は可能ならばその通常の自然な意味に読まれなくてはならない、という解釈の基本
原則の存在を指摘する。スペンダー判事は、しかしながら、このような指示がしばしば理想論にすぎなくなることも、
認めている。すなわち、一方では、通常の自然な意味の発見が極めて困難であり、ある人にとって通常で自然な意味
が、他の人にとってはそうではないことがありうるし、簡単な言葉の中にも曖昧さが隠されていることがあることを
認める。また他方で、契約時の当事者の意図が、契約の性質と主題によって、常に同じ重要性を有するものではない
50
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
ことも認める。この点で、次の指摘は重要である。
﹁特に、憲章のような多辺的条約の場合には、原構成員の意図は、その用語だけから引き出される揚合は例外とし
て、明白な困難を伴っている。さらに、他の国々が加入を認められ、機構が最終的に﹃憲章に掲げる義務を受諾す
る他のすべての平和愛好国﹄︵第四条︶を含むことになることは、最初から予定されていたのであるから、憲章起
草者の意図は、当事者が一定で変わらず、条約の性質と主題が異なる他の多くの条約の場合における意図よりも、
重要ではないと思われる。重要なのは、最初に憲章を起草した国々の意図ではありえないーその意図が本文の中
︵85︶
に見い出される揚合は例外として。重要なものは、憲章自体が規定しているものt第四条の言葉を使うと、﹃憲
章に掲げる﹄ものーである。﹂
こうして、結局、言葉の意味は、如何なる仕方で書かれようとも、主題とその使用されている文脈に依存するとさ
れる。
解釈一般については上記の様な態度を取りながらも、スペンダー判事は、国際組織の設立文書については考慮すべ
き特殊な要素があるとする。多くの重要な示唆を含む故に、以下に全文を引いておこう。
﹁一定の所与の目的を達成するための恒久的な国際的機構或は組織を設立する憲章のような多辺的条約の解釈にお
いては、特別に考慮すべき事柄がある。
その規定は、必然的に、広く一般的な用語で表現された。それは、知られておらず、予測されておらず、そして
実際に予測不可能であるものに、備えようとしているのである。その文言は、時々なされるかもしれない改正を条
件として、恒久的に存続することが意図されていたことを、少なくとも存続することが期待されていたことを、示
している。それは、発展しつつある国際社会の中で変わりゆく条件に、そして予測されない多様な状況と事態とに、
51
一橋大学研究年報 法学研究 19
適用されることを意図されていた。その規定は、国際関係の垣常的な変化に自らを適応させることを意図されてい
た。その所与の目的を達成するための国際的機構を設立したのである。
次のように確信をもって主張しうる。その特定の規定は、その文脈或は憲章中に見い出される何らかのものが、
より狭く制限的な解釈を強制しない限り、広く自由な解釈を受け入れるべきである、と。
憲章中に述べられた目的は、その本文を解釈する際の主要な考慮であるべきである。
現在の逆の傾向にもかかわらず、裁判所の第一の任務は、準備作業或は機構内において現在まで従われてきた慣
行ではなく、憲章それ自体の言葉を見ることである。その目的を達成するために、憲章は何と規定しているのか?
文脈の中で読まれた特定の規定の意味が、その解釈として裁判所を満足させるに十分なほど明白であるならば、
準備作業にも国連内で従われる慣行にも依拠すぺき法的に正当な理由も論理的な理由もない。
憲章は、矛盾を避けてそのすべての用語に効果を与えるように、全体として読まれなくてはならないのはもちろ
んである。どの言葉も、どの規定も、不必要なものとして、無視されたり、扱われたりすることはできない。1
︵86︶
このことが、全体として読まれた憲章の用語に効果を与えるために、絶対に必要でない限り。﹂
このようにして、スペンダー判事は、準備作業と慣行を排除する一方で、設立条約の一般的文言に依拠した目的論
的解釈を主張するのである。
最後に、設立条約の解釈における以上のような考慮を、国連憲章に適用した揚合の所見を述べている。その関連部
分を以下に引用しよう。
﹁憲章の全体に広がり、それを支配する目的は、国際の平和と安全の維持であり、それに向けて、平和に対する脅
威を防ぎ、除去するために、実効的な集団的措置を取ることである。
52
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
憲章の解釈は、この目的を妨げるのではなくて、その実現に向けられるべきである。もし、その規定について二
つの解釈が可能であるならば、目的達成を制約するのではなくて、促進するものが選ばれなくてはならない。
一般規則は、条約中に使用される言葉は、条約作成時にそこで有していた意味を有するように、読まれるぺきで
ある、というものである。しかし、この意昧は、達成されるべき目的と両立しなくてはならない。憲章の場合のよ
うに、戦争の惨害から永遠に将来の世代を救うことに、人間の福祉と尊厳を促進することに、そして国際正義の下
に平和を確立し永遠に維持することに、その目的が向けられている揚合には、前記の一般規則は、憲章中の言葉が、
憲章起草者の心の中にあったような主題の状況・発生・表明のみを含むことができるにすぎないことを、意味する
ものではない︵塁夜間における婦人の使用口ρHい留ユ霧之切20﹄ρつ鴇N︶。
彼らの中の最も賢明な者も、一九四五年以後の数年間に起きた政治的、軍事的、そしてその他の点でのとてつも
ない変化を予想することはできなかった。⋮⋮憲章起草者が合理的になすことができたすべては、創設される機構
が達成をめざす目的を設定し、これらの目的の達成のために機関を設立し、これらの機関に一般的な表現で権能を
付与することであった。しかしながら、これらの一般的表現は、将来を予言する能力を人間が有しない故の制約か
らは自由であり、変わりゆく世界の攻撃に十分対処しうるのである。
憲章によって各機関に付与された権限の性質は、時と共に変わるものではない。しかしながら、付与された権限
の範囲は、常に変わりゆく状況と条件を含み、歴史の展開と共に、憲章作成時には予想されておらず、予想されえ
なかった新しい間題と状況を含むことができる。こうして、憲章は、その言葉をけっして歪めたり、混乱させたり
することなしに、機構と各機関に付与された権限が新しい予想されなかった状況や出来事に適用されうるように、
︵87︶
解釈されなくてはならない。﹂
53
一橋大学研究年報 法学研究 19
㈹ 国際連合内部における実行−解釈に対するその効果或は解釈基準としての価値ーの部分は、スペンダー判
事の反対意見の圧巻であると思われる。しかしながら、この問題点は、筆者の考えでは、本稿の中心的問題に直接関
わる故に、後に理論的検討を行う際に取り上げて、十分な分析を加えようと思う。ここでは、スペンダー判事が、多数
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
意見が国際連合内部における実行に依拠していることを批判し、次のように述べたことを指摘するにとどめておこう。
﹁国連の機関によって従われた慣行は、二国間条約に対する当事者の締結後の行動と同一の価値を有しうるのであ
り、こうして憲章の当事者︵憲章発効以来、常に増加してきた︶の意図の証拠を提供し、解釈の基準をなすという
考え方を受け入れることに、私は、困難を覚える。同様にして、国連の機関の従う一般的慣行は、権限を越えて
︵口穽牌㊤≦.。.︶おり、事実上、憲章改正の結果となるけれども、それでも解釈の基準としての効果を持ちうるとい
︵鴎︶
う、時時主張される見解を受け入れることもできない。﹂
三 ウィ国一アルスキー判事の反対意見の推論の分析
ω ウィニァルスキi判事の反対意見は、導入部に続けて、関連決議の合憲性審査の必要性、解釈権限の所在、解
釈方法、無効の問題、決定と勧告の区別などに及ぶ。ここでは、解釈方法に関わる所見を見てみよう。
③ まず、基本的な解釈方法についてであるが、ウィニアルスキi判事は多数意見の目的論的な推論に批判的であ
り、この態度は憲章という多辺的条約の性質についての異なる理解に基づいていると考えられる。
﹁[多数]意見は、憲章第一項に掲げられた機構の目的に大きな重要性を付与する。実際、これらの目的、特に国
際の平和と安全の維持は、一定の決議を、たとえこれらが憲章に合致していなくとも、法的に正当化しうる。そし
て、いずれにせよ、目的の考慮は憲章の解釈の指針とならなくてはならない、と主張された。しかしながら、本件
54
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
においては、この議論に重要性を付与しようという誘惑にかられるとしても、そうすることは確かにできない。逆
に、そこから安易に結論を引き出さないように注意しなくてはならないのである。
憲章は、国連の目的を非常に広い、そしてそのためにあまりに不確定な用語で述べている。しかし、⋮⋮機構が
如何なる手段によってもこれらの目的を追求する権限があるということは出てこないし、程遠いと言える。国連の
機関がこれらの目的の一つを達成しようとする事実は、その行動を合法的とするには十分でない。憲章は、長い煩
雑な交渉の結果である多数国間条約として、注意深く、機関を設立し、その権限と行動の手段を決定したのである。
起草者の意図は、例えば安保理の投票の揚合に見られるように、注意深く確立された権限領域のバランスを犠牲
にするよりは、むしろ有効な行動の可能性を放棄することにあったことは明白である。国連がその目的を追求する
ことができるのは、明白に限定されたその手続によってのみである。国連は、時には、国際の平和の維持或は憲章
第一項に示された他の目的にとって有益であろう行動を取り得ないことが有りうる。しかし、機構はそのような仕
方で構想され、設立されたのである。
同様の推論が、有効性の規則︵嘗器の日お冨く巴。9ρ轟目需お緯︶として知られる解釈規則に、そして多分よ
︵89︶
り緩やかに、黙示的権限の法理にも、適用されるのである。﹂
③ ウィニアルスキー判事は、同様に、実行の持つ意義についても消極的である。
﹁裁判所に提出された質問に対する肯定的回答を正当化するために、実行が依拠された。機構の技術的な予算慣行
は、法律問題である当該質間には、重要性を持たない、厳密に法的な観点からは、ここに確かな結論を許しうる性
質のものを見い出すことは困難である。⋮⋮本件においては、論争は、一九五六年における最初から生じたのであ
る。・
55
一橋大学研究年報 法学研究 19
..−従って、本件においては、実行は、裁判所に向けられた質問に対する肯定的回答を是認する解釈方法を提供
することも、℃門倉。梓..一。αq。∋︵法を越えて︶に、ましてや。9霞巴。σq。ヨ︵法に反して︶に形成された機構に固有な
パぞ
法規範の創造に貢献しえた、と主張することは困難である。﹂
四 考 察
ω 本勧告的意見は、憲章の解釈に関わる一連の勧告的意見の中で多分最も困難で最も意義深いものであると言わ
れる。その通りであろう。本意見は、単に憲章第一七条第二項の﹁経費﹂の解釈にとどまらず、勧告的意見を与える
パのレ
裁判所の権限、質間の解釈、安保理と総会の権限関係、巳叶β二H8の問題、解釈方法等に及ぶ、多くの問題を扱っ
ている。ここでは、本稿の文脈に従って、解釈方法の観点から若干のコメントを加えよう。
パリレ
③ 解釈方法の観点からの本意見の分析としては、ティエリー︵自臨雪曙︶のものがある。まず、本意見において
用いられた解釈方法全般に対する、彼の適切な分析を見よう。
﹁憲章は、実際、十分に広く複雑な法的文書であって、特にその設立の際に予期しえなかった法的発展については・
様々な対立さえする解釈を許すのであり、これらの解釈は、その一貫性が問題とされず、絶対的そして不変の﹃法
的真理﹄の観点からは、評価されることはできないのである。
.一の多数国間条約の準備作業と起草者意図の探究とに鼓吹された説明に基づいて、憲章の保守的な解釈を考え出
すことができる。逆に、﹃機構の優越的要請という条約の精神﹄を利用した、より﹃ダイナミックな﹄解釈に好意
的な態度を示すこともできる。
56
国際親織設立文書の解釈プロセス(二)
実際・可能な幾つかの解釈の間の選択は、二つの要因に依存する。第一は、いわば、主観的ー解釈者の傾向で
ある。この観点からは、裁判所は、その構成によって、総会に敵対的な精神によって動かされているのでは必ずし
もないと、認める理由がある。第二は、客観的−解釈方法である。新しい法的事実或は状況について下される評
価は、その評価のために選択される基準に直接依存するのである。:⋮この主題に関しては、機構の目的の考慮と、
機構の従った法的慣行と、そしてその機能の要請とに基づいた推論に対して、裁判所が与えた重要性に注意するこ
とが必要である。
第一に、意見の中で裁判所が示した見解は、国連の目的から、及び機構の機関の行動がア︶れらの目的に合致する
ことから引き出される考慮に対して裁判所が与える重要性に、由来している。裁判所は、意見の中で、﹃国際連合
の目的との関連性により検討されなければならない﹄UNEFとONUCの支出についてと同様に、それらの活動
自体についても、何度も繰り返して、この基準に言及した。
裁判所は、機構の目的に基づく推論に対して優先性を与えたのであり、機関の権限に関わる推論を二次的にしか
認めなかったという結果が、裁判所の意見から生じると述ぺても過言ではない。
第二に、裁判所が国連の慣行に付与した法的重要性を確認すべきである。国連の慣行は、七月二〇日の意見の中
で、極めて多くの回数言及されている。裁判所は、例えば国連の予算が行政的経費と同様に実行的経費を含んでき
たことを示すために、機構の予算の慣行について長々と詳述した。UNEFとONUCの経費を承認する総会の諸
決議は、特に事務総長の宣言に照らして、その経費の法的性質に関する総会の意図、その意見が何であったかが、
各々、明らかとされるように醍慮して、分析されたのである。
57
一橋大学研究年報 法学研究 19
それらのいずれの揚合にも、裁判所は、歴史的観点からのみ機関の慣行を引いたのではなく、それらに法的価値
を付与したのである。機構の機関の態度が、裁判所にとって、十分に継続的と、そして繰り返し全会一致の表決に
基づくと思われるとき、裁判所は、この継続性と表決の中に、有効性の推定を見い出すのである。
こうして、裁判所が慣行に付与する価値は、二つの異なる種類の関心に基づいているように思われる。一方で、
裁判所は、国々の態度が含む矛盾を指摘することを望む。すなわち、国々は、自らの投票で一定の措置を承認しな
がら︵或は安保理の常任理事国のように、この措置を妨げる権能を有しているときにそのようにしなかった︶、裁
判所の前でこれらの非合法性を主張するのである。⋮⋮他方で、裁判所は次のことを認めていると思われる。すな
わち、冥冒帥富oδ︵一見して︶に憲章に或は国連の目的に矛盾しない慣行が、機構の機能の要請に合致すること
が示されたとき、この情況は、この慣行に有利となり、有効性の推定を構成する。
最後に、国連の主要な司法機関の資格で、機構の制度的発展の基礎にある事実上の条件を考慮に入れるという裁
判所の配慮は明白と思われる。裁判所は、憲章を解釈する際に、機構が置かれた具体的情況の中において、機構の
機能の要請を考慮するように努めた。可能な二つの法的解決策を前にして、裁判所は、UNEFの根拠に関してな
したように、憲章によって付与された目的を考慮してその責任を確保することを機構に可能とする解決策を選択す
る、少なくとも排除しないのである。
・.[最近の国連の発展は、安保理の機能麻痺を克服しようという努力の結果であり、総会や事務総長の役割の
拡大.増大は、憲章の設立したシステムに責任遂行を許さない政治的情況に対する答えであった。]もし、慣行が
58
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
機構の機関間の関係を修正したとすれぱ、それは、一定の政治情況の中における、そして目的達成のために憲章の
︵93︶
定めた方法に対して憲章の目的が優越しなければならないと見なされることを考慮したうえでの、機構の機能の要
請によるものである。﹂
⑧ 次に、国際組織設立文書の解釈方法の中で、具体的に、目的論的推論の適用について見てみよう。以上の説明
から明らかなように、この点に関しては、多数意見及ぴスペンダー判事に対するウィニァルスキi判事という二つの
対称的なアプ・ーチの対立の存在が確認される。ティエリーが指摘するように、多数意見は実質的に目的論的推論に
依拠しているのであるが、そのようなアプ・ーチが採用されるべき理由・必要性は、スペンダー判事によって、詳細
に展開 さ れ た 。
スペンダー判事のアプローチは、準備作業と機構内の慣行を排除し、設立文書自体の文言を重視する一方で、設立
文書が広く一般的な用語で表現されている点に目的論的推論の適用の根拠を見い出している。ここには、起草者の意
図は、国際組織が変わりゆく国際社会の中で実効的に機能し続けていくことを期待していた、或はそのように推定さ
れるべ き だ と い う 基 本 的 理 解 が あ る と 思 わ れ る 。
他方、ウィニァルスキー判事のアプ・ーチは、設立文書が広く一般的な用語で表現されている点を同様に認めなが
らも、設立文書も利害関係の考慮に基づく国家間における政治的現実的な交渉の結果にすぎないという側面を重視す
る。ここには、起草者の意図は、目的の遂行は与えられた手段・手続きによってのみであるというものだ、或は少な
くとも憲章においてはそうであるという基本的理解があると思われる。同じ立揚に立つコレツキー判事は次のように
述べている。
﹁私は、機構の目的を参照するにとどまらず、憲章の諸規定、諸規則を、厳格に遵守し、適切に解釈する必要性を
59
一橋大学研究年報 法学研究 19
強調する用意がある。さもなくぱ、﹃目的は手段を正当化する﹄というずっと前に放棄された定式に行き着くこと
︵餌︶
になろう。﹂
叫 次に、機構の機関の慣行が設立文書の解釈において持ちうる法的な意義についての問題がある。この点につい
ては、多数意見が憲章の解釈基準としての法的意義を機関の慣行に与えているのに対して、スペンダi判事、ウィニ
ァルスキー判事のいずれもが批判的である。既に指摘したように、筆者の考えでは、この対立は本稿の中心的問題に
直接関わるのであり、後に理論的検討を行う際に取り上げることにするが、この点に関するグ・スの所見を引いてお
こう。
﹁もし裁判所の立派な推論が十分に説得的でないとすれぱ、これは、総会の質問への回答を見い出すために、裁判
所が、勧告的意見の要請によって間題とされた決議の中で総会によって使われた言葉に、大きく依拠したという事
実によって説明されうる。裁判所の推論は、裁判所に提出された質問にというよりも、論点を明確にするために以
下の如く定式化されるような別の質問にむしろ向けられていたという印象が避け難いと思われる。すなわち、・⋮;
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
コンゴにおける国連の活動及ぴ⋮⋮UNEFの活動に関する多くの総会決議の中で承認された支出は、総会⑪励騨
では、機構の経費を構成するか? この質問は、しかしながら、裁判所の前にはなかった。それにもかかわらず、
裁判所の推論と諸政府の議論の多くの部分はこの質問に向けられていたと思われるのである。⋮:
⋮裁判所に提起された問題は、法的観点からは、決議自体を無視することによって、より良くアプ・ーチされ
たであろう。言い換えれば、もし、実際に一九五六年に生じ、一九六〇年に再び生じた間題が、理想的にそうある
ぺきであったように、UNEF及びONUCの最初の財政決議が採択される前に、或は採択直後に、或は加盟国の
遅滞が確定された後すぐに、意見を求めて裁判所に提出されていたのであったならぱ、見事な一連の決議は裁判所
60
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
の前にはなかった、又は一つあったにすぎなかったであろう。問題は、その時には明らかに、引き受けが提案され
た或は実際に暫定的に引き受けられていた経費が、第一七条第一項、第二項、或は両項の下で総会の予算権能内に
入ると、法的に考え得るかということであったであろう。裁判所は、その時には、一続きの決議に依拠することも、
それらに証拠的価値を与えることもできなかったであろうし、絶え間ない論争の中で一定期間にわたり繰り返され
︵95︶
た総会の一曝・9邑け︵独断的定言︶とは無関係に、憲章の中に、﹃機構の経費﹄の基準を探究する義務があったで
あろう。﹂
㈲ 国際組織の設立文書ーここでは国際憲章ーの解釈権限の所在も問題となっている。この点に関する判事た
ちの立揚は、詳細な点は省いて、便宜上、以下の三つに分けることができよう。
︵96︶
第一は、総会の解釈が最終的・拘束的とするものである。スペンダー判事とモレッリ判事の見解である。
︵97︶
第二は、明らかに機構の目的の達成のためになされたと考えられる決議は、合憲・有効なものと推定されるとする。
多数意見とフィッツモーリス判事の見解である。
︵98︶
第三は、総会の最終的な解釈権限を強く否定する。ウィニァルスキi判事の見解である。
この問題点も、本稿の文脈では、重要と思われるので、後の理論的検討の部分において、より広い視点から考察す
ることにしよう。
︵73︶本勧告的意見については数多くの文献があるが、主要なもののみ以下に掲げよう。香西茂﹁国連の平和維持活動と経費の
分担義務−国際司法裁判所の勧告的意見1﹂︵﹃法学論叢﹄第七六巻第一・二号、一九六四年︶一〇二頁。︾日o冨巴おぎ讐↓雨
︵一〇象︶一989閏も§防舘o\ミ恥qミ馬匙≧ミ軌§動\ミ等§鳴・き。。篭諾O憾ミミ軸§象月壽迅織ミ恥ミ黛O禽ミ§。、匙恥、ミ恥§ミ帆§ミ
qミ覧匙之ミご§h鞭、§⇔塁G§恥1﹄Ooミ蕊ぴミ帖§ミき恥卜R琶o、噛ミ塁ミミ刷§ミO喰繋ミ硬ミご斧轟才∪ヲ客㍗H宮日ドい一嵩
61
一橋大学研究年報 法学研究 19
スピロフーロス スペンター フィッ
[G9]
62
9§。、誉蔑“♪旨一写.rO召垂N>↓δ三︵まu︶い国。αQ頓㌔§㌣き馬誉薦GQ旨§靴9ミミoミ噸§§⋮、悪ミ&§的
魚ミ=§§§§ミGミミ。\∼§誉導爵ミ§Gミ&醤肉尋§§皇ミ馬q蔦ミ≧ミ§漁爲9εヌず寄く﹂舘。
︵まN︶こ騨§㍉蕾導窒等§違ミぎ、q蔦ミさ畿§肋定醤§§鱗、§器愚壽§亀、§ミy鵠9霧。舅h>U■
寄く・這︵まい︶脚冨8p切ミ鷺﹂せ§ミ守ミ書o§ミ憂§&。、§qミ幾≧§§﹄bミ黛ミ宴ミ§ミ玉N
ω召・<・切﹂胃、ゼい。一︵ま刈︶も鼠β旦ぎミ旨ご、ミ㊤ミ§。、§、ミ馬§ミ§ミ9ミご、ミ誉§9ミ&醤
閏尋恥誤恥防。、導鴨q蓑恥織≧§§漁一9顎。髪K・ω﹂z昌、■﹄討︵まい︶ 評塁評。㍉ぎ朗愚§携∼ミ讐ミ&§
自ミ、、§恥卜as。受ぎ9ミミ.、ふo。ε鍔一■身髪2さ。2きいひ。。︵まひ︶る一ヨヨ。且の烏謡§﹂§馨§義霧&
ミ馬、ミ黛§ミG。ミごミ§ミ→﹄Gミ鳶窯乞N一量塗く扇ー冒、r︸田﹂翁︵まい︶る毯。一どq這ミさ畿§恥凝醤§ミ鴨
、モレッリである。
2蝕o富︵≧浮一。一ざ評﹃おβ喜ρ o隔g。9霞醇y
構成は、ウィニァルスキー︵裁判長︶、バドヴァン、モレ ノ・キンタナ、コレツキi、ブスタマ
︾α︿一ωO﹃冤 ○℃一昌凶Oコ Oコ OO﹃梓P凶自 国図℃OロロOω Oh梓げ① d昌一押Oq
一﹂芦嵩N・皆川﹃判例集﹄一六九頁。
℃訂3&︸讐博ミ8εβ葺卜。Ng
一ンェサ
馬ミ§・G馬、§§砺黛S§§警偽さ融§硫s§︵﹂ミミミ奪ミ魂ミ慧馬ミミ&9ミ5。。身さヒ鶴男髪♀窃目
§§§﹂ご召.冒節o・畢い・O・。。鴇︵ま轟︶皿目一・ぎど誉身§偽§9ミ織ミ黛9ミミミミ焼§§辞∼送§魯8
ツ
︵75︶
︵76︶
︵77︶
H
ミ‘簿嶺P皆川﹃判例集﹄一七〇1一頁。
O①詳pぎ国図鷲房島O田ρ簑、ミ8言ま︾暮賦oo19皆川 ﹁判例集﹂一七〇頁。
︵79︶
壁一緯一$ム一■皆川﹃判例集﹄一七一ー二頁。
この点を補って、多数意見は、次のように述ぺている。
︵80︶
︵81︶
ン一アである。
︶ 、 、ぐ。 、 。 、 “ 、 、
︵舛
ツモーリス 田中、
構成は アルファロ︵副裁判長︶ ・タゥィ、顧維鉤
舅o胃舅目召>目蜜いるミ︵一8N︶,
、.
︵78︶
O プ
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
明を確認する。﹂
﹁機構の実行は、その歴史を通じて、第二条第二項の最後のセンテンスにおける﹃行動﹄という用語についての前述の説
︵82︶その根拠は、簡単に言って、第一に、UNEFとONUCは第七章の強制行動ではない。第二に、実際の強制行動の経費
ミ‘暮ま9 皆川﹃判例集﹄一七五頁。
を、それにずっと先立つ協定の交渉においてすぺてを予想することは不可能である。第三に、安保理のすぺての措置の経費が
第四三条の特別協定を通じて賄われなくてはならないとする議論は、安保理が他の条文に基づいて行動する可能性を排除する
OΦ耳鉱昌国もo屋窃O器ρ簑、ミぎa昼諄まy皆川﹃判例集﹄
一七六頁。
ことになるが、安保理が事態を監視しうることには第七章が言及しているところである。
﹄導︼簿一〇〇頓1 9
ミ‘緯一〇〇轟IU.
ミ‘暮一〇〇ひIy
ミ■︸暮一〇〇〇も9
国織 帥けNいOード
ミ‘魯80●
ω一日日oロ畠¢︾簑㌧§ロ03蕊︸簿oo摯。
薗︸
日匡o睡ざ簑憶ミ昌03お噂舞N$もP
留恥oロ穿駐℃o一昇臨go図即ヨ℃一。”︾旨Φ養巴口讐p簑、ミ,88¶潮
Oo詳巴昌国区℃o房窃O霧o︸簑憾ミロ08まい曾まoo,
O﹃o脇”旨腎ミ昌03Nρ暮一N−oo■
O。﹃梓巴昌国N℃o冨霧O器ρ簑感§昌o梓oま︸暮一〇。ρ8轟・
63
ミ‘緯ま。。・皆川﹃判例集﹄一七七頁。
( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( (
96 95 94 93 92 91 90 89 88 87 86 85 84 83
) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) )
﹃判例集﹄一七七頁。
64
︵97︶ ミ己馨まo。■皆川
南西アフリカの国際的地位
︵99︶
第三節 南西アフリカをめぐる諸事件
︵98︶ ミ‘緯器汐
第一款
一九四九年、総会は、裁判所に勧告的意見を要請する次のような質問の決議を採択した。すなわち、南西アフリカ
の国際的地位は如何なるものであり、そしてそれより生じる南ア連邦の国際義務は如何なるものであるか。特に、㈲
南ア連邦は、南西アフリカ委任状の下で依然として国際義務を有しているか。もしそうとすれば、その義務は如何な
るものか。㈲南西アフリカ地域に対して、憲章第一二章の規定は適用されるか。もしそうとすれば、如何なる態様に
おいてか。⑥南ア連邦は、南西アフリカ地域の国際的地位を変更する権限を有しているか。
一 一 般 問 題 及 び 質 問 ④ に つ い て
︵畑︶
多数意見は、一般問題に関しては、全員一致により、南西アフリカは国際的委任状の下にある地域であるとし、質
問⑥に関しては、一二票対二票により、南ア連邦は、連盟規約第二二条及び委任状に述べられた国際義務並びに地域
ω 多数意見は、三つの個別間題の検討が一般問題への十分な回答となるから、一般問題を切り離して考察する必
ω 多数意見の推論の分析
るべきであること等とした。以下、多数意見とマクネァ、リード両判事の個別意見とを分析する。
住民からの請願を伝達する義務を負っていること、監督の任務は国連により行使され、年報と請願は国連に提出され
一橋大学研究年報 法学研究 19
まず、連盟規約第二二条に基づく国際的委任の制度は、非併合の原則と当該人民の福祉及び発達をはかることは
﹁文明の神聖な信託﹂をなすという原則とを実施するものであったことを指摘した後に、次のように述べてこの委任
の制度が一つの国際的地位を生み出したことを認める。
﹁国際規則によって支配される委任の目的は、国内法によって支配される契約関係の目的をはるかに越えるもので
あった。委任は、その地域の住民およぴ人類一般のために、国際目的−文明の神聖な使命︵信託︶iをもつ国
際制度として創設されたのである。ゆえに、国内法上の委任の観念または国内法上の他のいかなる法的概念からも、
アナ・ジーによって、結論をひきだすことはできない。委任に適用される国際規則は、この地域のために、南アフ
︵⋮︶
リカ連邦を含むすぺての連盟国によって承認された一つの国際的地位︵琶の冨εけぎ富旨暮δ冨一︶を設定したので
ある。﹂
図 多数意見によれば、南ア政府が引き受けた国際義務は二種類ある。第一は、当該地域の行政に直接関係し、連
盟規約第二二条にいう﹁文明の神聖な信託﹂に相応するものであり、第二は、実施の機構に関係し、国際連盟の監督
及ぴ規約第二二条の﹁使命遂行の保障﹂に相応するものである。
﹁[第一群の義務]は、文明の神聖な使命の本質そのものを表わしている。あらゆる点で、その存在理由および最
初の目的は変っていない。その履行は、国際連盟の存在に依存するものでなかったから、それらの義務は、この監
督機関が消滅したというそれだけの理由で、失効することはありえないであろう。またこれらの規則に従って、地
︵規︶
域の施正を行なってもらう人民の権利も、それに依存することはありえないであろう。﹂
そして、この見解は次の三点によって確認されるとする。第一は、委任統治地域に関する限り、如何なる国又は人
65
要はないとして、ただちに質問⑥の検討にとりかかる。
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
一橋大学研究年報 法学研究 19
民の権利も連盟の解散によって消滅しないことを前提とする憲章第八○条第一項。第二は、委任状の失効には触れて
いず、反対に新たな取り決めが締結されるまで委任が存続するという確信を表明している連盟総会の解散決議。第三
は、義務存続を認める南ア政府の声明、である。
圖 第二群の義務に関する多数意見の推論が本稿の文脈では特に重要である。ここでは、理事会が連盟の決議によ
り消滅した以上、この監督の任務は、憲章により創設された新しい国際機構によって遂行されるべきかどうか、そし
て南ア連邦は、この新機構の監督に服し、かつ、それに年報を送付しなければならないかどうかという間題が提出さ
れている。そして、多数意見は、監督の必要性に依拠した目的論的解釈によって、肯定的回答に達したのである。す
なわち、この問題に対する肯定的な答を導く決定的理由があるとして、次のように述べる。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
﹁国際的監督に服し、かつ、年報を提出する受任国に帰する義務は、委任統治制度の中で重要な地位を占めるもの
である。連盟規約の起草者がこの制度を設けたとき、受任国に委託された文明の神聖な使命の達成を実効的に保障
するため、委任統治地域の施政を国際的監督に従わせることが重要であると考えていた。憲章の起草者も、国際信
託統治制度を組織したとき、同じことを考えていたのである。そのような監督の必要は、委任統治につき用意され
ていた監督機関の消滅にもかかわらず、存続している。国際連合が、まったく同一ではないけれども、同様の任務
を委託された他の国際機関を提供しているのに、監督に服する義務は、当該監督機関が消滅したというそれだけの
理由で消滅してしまったと認めることはできない。
この一般的考慮は、上でその本文を解釈したような、憲章第八○条第一項によって確認される。⋮⋮その目的は、
確かに委任統治地域の人民の権利の現実的保護を確保するにあった。しかし、この人民の権利は、国際的監督がな
く、また監督機関に報告を提出する義務がなくては、実効的に保障されないことになろう。
66
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
一九四六年四月一八日の決議により、国際連盟総会は、すでにこれと同様の見解を表明していた。⋮⋮この決議
は、国際連盟が行なってきた監督の任務が国際連合によって続行されることを前提とするものである。
そのような監督を行ない、報告を受理し、審査する国際連合総会の権限は、憲章第一〇条の一般的表現からひき
だされる。同条は、総会に対して、この憲章の範囲内にある問題または事項を討議し、ならびに、このような問題
または事項について国際連合加盟国に勧告をする権限を与えている。この権限は、総会により⋮⋮実際に行使され
た。
以上の理由によって、裁判所は、国際連合総会が、この地域の施政に関して、従前国際連盟理事会が行なってき
た監督の任務を行なう法的資格があり、そして南アフリカ連邦は、総会の監督に服し、総会に年報を提出する義務
︵鵬︶
があるという結論に達する。﹂
⑧ マクネァ判事の個別意見の推論の分析
ω マクネァ判事は、委任統治制度の法的性質は規約第二三条に基づくものであり、その領土の行政に関して如何
なる権利・義務を受任国が有するかは国際合意である委任状に依存すると考える一方、規約第二二条の客観的性質も
承 認 する。すなわち、
﹁一群の大国又は多数の大小国が多数国間条約によって新しい国際的制度又は地位を創設し、それがやがて現実の
締約国の限界を越えて、それに客観的存在を与える一定程度の承認と持続性を取得するということが時に起こる。
︵期︶
これは、公的利害が関係するとき、そして大戦の終わりにおける平和条約の取り決めの際に、しばしば生ずる。﹂
この実例として、オーランド諸島の非武装化の制度とウィンブルドン号事件におけるキール運河の国際水路制度とに
言及し、委任統治制度には一層強くあてはまるとする。
67
一橋大学研究年報 法学研究 19
また、委任条の諸条項は、部分的に契約的であるが、部分的に﹁処分的︵象眉8三お︶﹂でもあり、人的︵需屋9a︶
に加わえて﹁物的︵お巴︶﹂な権利・義務も創設したとする。つまり、委任状は、対物的︵首器ヨ︶ 対世的︵①お騨
oヨコ霧︶に有効な占有及び統治︵行政的・立法的︶の一定の権利を受任国に認めたのである。こうして、委任状は、
南西アフリカに対して、対物的に有効なある地位を創設し、この地位は、連盟の消滅後も存続する永続的要素を有し
ていると指摘する。
ω 委任統治制度の法的性質を以上のように理解した上で、マクネァ判事は連盟解散の効果について考察する。ま
ず、南西アフリカに関して、連盟の任務は終了するとしても、委任状の終了を示すものは何もない点から、第一に、
連盟自体に対して負う義務は終了すること、第二に、現在では不可能となった連盟の実際の協力をその遂行に必要と
するものをのぞいて、連盟の加盟国であった国々に対する義務は存続すること、第三に、南西アフリカの委任という
国際的 地 位 は 存 続 す る こ と 、 を 指 摘 す る 。
他方、委任状遂行の監督については、二つの機構が用意されている。第一は、司法的監督であり、委任状第七条の
定める強制的管轄権は、ICJ規定第三七条によって明示的に保存された。第二は、連盟理事会による行政的監督で
あるが、こちらは失効したとされる。すなわち、
﹁この監督は失効した。何故ならば、連盟及びその理事会及び常設委任統治委員会ー①報告書を受領し、②それ
らに満足の意を示し、③それらを検討し、助言することを予定された諸機関1はもはや存在せず、その結果とし
︵鵬︶
てこの義務を遂行することは不可能となったから。﹂
圖 リード判事の個別意見の推論の分析
樹 リード判事の推論は伝統的な条約法理論の観点からなされている。彼は、委任状から生じる南ア連邦の実質的
68
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
な国際義務の存続に関する回答部分については多数意見に同意するが、国連に対する責任及び国連による監督、そし
てその理由づけの部分について対立する。
リード判事は、委任統治制度下の義務に、三っものー①住民の福祉の確保・保護の義務︵文明の神聖な信託︶、
②宣教師・国民に関する等の連盟加盟国の利益保謹の義務、③①と②の監督・実施に関する法的義務ーを認めるが、
それらの共通点として、連盟加盟国は委任状の規定の解釈又は適用に関する事項において、受任国に対して法的利益
を有することを指摘する。そしてこの点との関連から以下のように立論する。
﹁多数国間条約の当事国は、その数や重要性の如何に関わりなく、他の当事国の法的権利を害しえないことは、国
際法の原則である。連合国は、⋮⋮法律上、連盟又はその法的権利が害されることのある連盟加盟国の同意なしに、
連盟から[国連に]任務を移転することはできなかった。従って、連盟の解散前に、憲章が発効し、国連が誕生し
ても、国連加盟国ではなかった多くの国々の法的権利は、南西アフリカを含む委任統治地域に関しては、完全に有
︵ 鵬 ︶
効なままであったのである。﹂
図 以上の原則を踏まえた上で、リード判事は、連盟解散の効果について多数意見と異なる点として、次の二つを
指摘する。
第一は、連盟加盟国の権利・法的利益が存続していることであり、第二は、監督・実施に関する前述③の義務に関
するものである。後者について、pcIJの強制的管轄権がIcJに移転された点については間題はないが、連盟に
対する報告と責任及び連盟による監督に関する義務については困難が伴うとする。すなわち、これらの義務の遂行は
理事会と常設委任統治委員会の直接の参加を必要とするが、連盟は一九四六年の決議で、連盟の解散とともに委任統
治に関するその機能が終了することを認めている。こうして、
69
70
﹁[南ア]連邦は、もはや存在しない理事会に報告を送付したり、存在しない常設委任統治委員会に責任を負った
︵旧︶
り、その監督に従うことは不可能である。﹂
従って、これらの義務は、連盟及び委員会の消滅によって遂行不可能になったと結論される。
﹁裁判所の意見では、第七五条およぴ第七七条は、この問題が否定的に答えられるべきことを示している。この二
多数意見は、以下に示す如く、文言的アプ・ーチに基づいている。
① 多数意見の回答
以下、反対意見を代表するものとして、ドゥ・ヴィシェの主張を主に取り上げる。
旨︶、クルイ・フ、アルヴァレスが反対意見を書いた。多数意見は、この反対意見に対して、逐一反論を加えている。
言的アプローチによって否定的回答をなしたが、ドゥ・ヴィシェ︵ゲレ・、ゾリチッチ、バダウィ・パシャも大体同
を課しているのか否か、ということであり、本稿の文脈での重要性はこの点にある。多数意見︵八票対六票︶は、文
質問㈲後段の趣旨は、憲章は、南ア連邦に対し、この地域を信託統治協定によって、信託統治制度の下に置く義務
定のもとにおくことができる。本章は、この意味で当該地域に適用される。﹂
るのである。南西アフリカは、委任統地地域であるから︵第七七条a︶、第一二章の諸規定に従って、信託統地協
の制度は、第七五条および第七七条によれば、信託統地協定によって、この制度のもとにおかれる地域に適用され
﹁委任統地のもとにある地域は、憲章により、自動的に新しい国際信託統地制度のもとにおかれたのではない。こ
二 質問のについて
︵
質問㈲の前半については、以下の趣旨で、全員一致で肯定された。
一橋大学研究年報法学研究19
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
つの条文の表現は許容的である︵﹁この制度の下におかれる︵2一忘霞8導簿話ロ蓉ひωも。o昂8泳吸ヨ。︶﹂︶。その
いずれも、当該地域が信託統治制度のもとにおかれる今後の協定に言及している。﹁協定︵88巳”おお。∋。葺︶﹂
は、委任統治のもとにある地域については、受任国を含む直接関係国の同意を予想している︵七九条︶。関係国は、
自由に協定案の条項を受諾し、拒否しうるはずである。いかなる関係国も、他の関係国に対して、その条件を押し
つけることはできない。さらに、第七七条第二項は、単に特定の条項に関してのみならず、信託統治制度のもとに
︵鵬︶
おかれる地域に関しても、協定を前提とする。﹂
② 反対意見の主張と多数意見の反論
ω ドゥ・ヴィシェの主張は、憲章第一二章の規定は、南ア連邦に対して、信託統治協定を締結する法的義務を課
してはいないけれども、協定締結のために交渉を開始する義務を課しているというものである。
まず、ドゥ・ヴィシェは、その依拠する条約解釈の原則を以下のように示す。
﹁条約の諸条項は、全体として考察されるだけでなく、そのいずれもが他のために有効性︵&卑暮器︶を失うの
を可能な限り避けるように、解釈されなくてはならないということは、承認された解釈規則である。この規則は、
国連憲章のような憲法的性格の条約の解釈には特に適用されるのであり、本件の揚合のように、その諸条項が明確
︵靭︶
に定められた国際制度を創設し、それ故、相互に補完的であると考えられうるときには、なおさらそうである。﹂
図 ドゥ・ヴィシニは、憲章第八○第二項を重視する。彼の意見では、本条項は、明白に、協定締結のために可能
な限り早く交渉を開始すべきことを受任国に命ずるものであり、受任国が、一方で連盟の消滅を援用しながら、他方
で憲章の予定する唯一の制度︵信託統治制度︶に服するのを拒否しようとするという事態を防ぐことを正に意図して
いたのである。ドゥ・ヴィシェは、先の解釈規則に依拠すれば、次のような結論に導かれるとする。
71
一橋大学研究年報 法学研究 19
﹁第七五、七七、七九条の用語は、信託統治下に置くことは後の合意締結に依存するものであり、受任国は合意案
の条件を受託するも拒否するも自由であるという意味で、許容的である。⋮−しかしながら、これらの許容的な諸
条項と第八○条第二項とを、及び信託統治制度を委任統治制度の代わりとするという憲章起草者の明白な意図とを
調整するには、次の点を認めざるをえない。すなわち、受任国は、合意案の指定の条件を拒否する自由を有するが、
︵m︶
協定締結のために誠実に交渉を開始し、進める法的義務を有することである。﹂
圖 この結論は、次に示すような様々な要素によっても支持される。
には、交渉開始はしばしぱ協定締結への決定的な一歩である。
第一は、交渉開始の心理的価値であり、交渉の目的が既存の国際制度を形成する原則の具体的適用にすぎないとき
第二は、第七七条第一項のカテゴリi⑥のみにある﹁自発的に﹂という言葉の存在である。カテゴリー㈲・㈲とカテ
ゴリi⑥の下の地域の相異、及び両規定の対称性を考慮すれば、この言葉は明確な意図をもって挿入されたとされる。
第三に、憲章の創設した国際制度は、もし受任国が協定締結のための交渉義務を認めないのであれば、全く理論上
の存在にすぎなくなってしまうであろう。ドゥ・ヴィシェは続けて指摘する。
﹁協定締結のために交渉を開始する義務は、国際協力の最小限を代表するものであり、それなくしては憲章が予定
し、規律する制度全体が崩壊することになろう。この点との関連では、国連憲章のような偉大な国際憲法的文書の
解釈においては、通常の条約の解釈において一般に優先される個別主義的概念は、十分ではありえないことが想起
されなくてはならない。憲章第七六条の下で、﹃信託統治制度の基本目的﹄は、﹃この憲章の第一条に掲げる国際連
合の目的﹄に合致する。信託統治協定のために交渉を開始する義務を認めることによって、受任国は、当該協定の
︵田V
条件の受託.拒否の自由を失うことなく、特に重要な領域において、国連の至高の目的に適合することになる。﹂
72
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
四 以上のようなドゥ・ヴィシェの主張に対して多数意見の反論は文言に依拠した慎重なものと思われる。例えば、
﹁[﹃自発的に﹄という]言葉だけでは、全体として考察された第七七条及ぴ第七九条からひき出される原則に勝つこ
︵麗︶
とができない。地域を信託統治の下に置く受任国にかかる義務は、直接的に表示されるべきであったであろう﹂と指
摘される。さらに、第八○条第二項は、単に委任統治地域の下にある地域に加えて、第七七条㈲・⑥の地域にも関係
︵聰︶
しており、これらの地域に交渉開始の義務を見い出すのはできないとも指摘される。
このような多数意見の慎重な態度は、以下の引用に明白であると思われる。
﹁確かに、連盟国は、委任統治制度を規約第二二条にいう文明の神聖な使命を実現する最善の方法とみなしたのに
対し、国際連合加盟国は、国際信託統治制度を同様の使命を実現する最善の方法とみなした。また憲章が唯一の制
度、すなわち、国際信託統治制度だけを予想し、それを規律していることも事実である。憲章は、それと並んで委
任統治制度を予想せず、また規律もしていない。このことから、受任国は、憲章の指示する正常な方針に従う、す
なわち、信託統治協定を締結することが期待されたのだと結論することができる。しかし、裁判所は、これらの一
般的考慮から、そのような協定を締結し、または交渉する受任国の義務をひきだすことはできない。これらの考慮
︵⋮⋮︶
がもたらしうる政治的または道義的な義務︵留<o富℃o一三2霧2ヨ臼き区︶に関して意見を述べることは、裁判
所としてなすべきことではない。﹂
一一一質問◎について
質問⑥に関しては、全員一致により、南西アフリカ地域の国際的地位を変更する権限は、 単独ではなく、国連の同
意を得 て 行 動 す る 南 ア 連 邦 に あ る と さ れ た 。
73
例えば、リドーは次のように述ぺる。
︵田︶
が適用されていると見ることができよう。
度を補強証拠として援用することによって国連総会の監督権限を承認したのであって、ここには、黙示的権限の法理
多数意見は、監督必要性の存続という実質的理由を背景として、国連憲章及び連盟解散決議を解釈し、当事者の態
である。
③ 質問㈲後半における多数意見とマクネァ及ぴリード両判事の反対意見との対立が、本稿の文脈では、最も重要
同様に、条約法の権威として著名であったマクネア判事が、騙図で紹介したように、多少異なった角度からではあ
︵肪︶
るが、国際制度の客観的性格を承認したことも示唆的である。
立した地位を有する、或いは取得することになり、従って、その存在は、その文書の失効、或いはその条件の実質
︵恥︶
的変更、或いはその一方の当事者の消滅によって、影響を受けないのである。﹂
れ自身は契約的性格ではなくて、むしろ本質上客観的で自己充足的な性絡を、つまりそれらを創設した文書から独
次のような主張の根拠となる。すなわち、ある種の国際制度は、形式上、契約文書にその起源をもつけれども、そ
﹁ポイントは裁判所自身の意見の中では多分あまり明示的には述べられなかったけれども、南西アフリカ事件は、
で、フィッツモ;リスは次のように理解する。
として創設され、すべての連盟国によって承認された一つの国際的地位を設定したことの意義が重要である。この点
ω 質問⑥前半に関連しては、委任統治制度の下で、委任状が、文明の神聖な信託という国際目的をもつ国際制度
四 考 察
一橋大学研究年報法学研究19
74
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵囲︶
﹁黙示的権限の方法の使用によって、義務の存在から、監督及びコント・ールの制度の存続の必要性が引き出され
る。﹂
︵掴︶ − ︵伽︶
このような目的論的推論に対しては、伝統的な条約法理論の観点からのリード判事によって、或いはマクネァ判事
︵m︶
によっても、批判されたが、その他の多くの学者によっても問題とされてきた。例えば、太寿堂教授は次のように述
べる。
﹁[連盟の監督機能が国連によって代行されることが可能なのかどうかの問題]に関しては裁判所の意見には飛躍
があると思われ、主文にも賛成できない。裁判所は連盟の監督機能が明示に国連に移管されていないことを認めて
おきながら、監督の必要性が依然存続しているという理由で、つまり一種の目的解釈によって、問題を肯定に解し
た。しかしこの理由だけでは薄弱であるばかりでなく、裁判所が憲章第一二章の適用可能性の問題で、信託統治協
定を交渉し締結すべき義務があるならば、直接的積極的に明記されていなければならないと述べている推論の方法
に、矛盾するのではないかという疑問が生ずる。監督権が国連にあるというならぱ、全く新しい義務とはいえない
にしても、南アは監督に服する義務を負うのであるから、このことも直接的な形で明示されていなければならない
のではないか。従って、国連あるいは国連総会が、連盟あるいは連盟理事会を継承していること、あるいは少なく
とも委任統治に関する機能を引き継いでいることを積極的に証明することが必要であろう。ところが連盟解散決議
にも、四六年二月一二日の国連総会決議にも、連盟の機能を国連に継承するという意図を推定しうるような根拠は
︵鵬︶
見当らない。﹂
以上のように見解の対立を説明した上で、最後に二点指摘しておこう。第一に、本論点を国際組織間の承継の間題
として扱う考え方も確かにあるが、多数意見は条約解釈の問題として結論を引き出しているのであり、判事間の相異
︵鵬︶
75
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵悩︶
は、基本的には、関連する国際文書の解釈へのアプ・ーチにおける相異に基づくものと考える方が適切であろう。
第二は、条約解釈のアプ・iチにおける相異という観点から見た時の、判事間の対立の意義である。両判事︵特に
リード判事︶やその他の学者の批判においては、監督の﹁必要性﹂の果たす役割を、国際条約としての委任状という
考え方の上で、或いは少なくとも伝統的な条約解釈の枠内で考慮しているために、その果たした役割が﹁飛躍﹂であ
︵伽︶
ったと、すなわち有効性の原則などの目的論的解釈の限界を越えるものと考えられたと思われる。これに対して、多
数意見は、監督の必要性の対象である文明の神聖な信託という国際目的は、単なる契約関係の目的をはるかに越える
ものであり、客観的な国際的地位を有する国際制度が問題となっていると考えている。従って、ここでは通常の条約
︵鵬︶
とは異なる国際的地位・制度を創設する条約という枠組みの中で、推論の適否は判定されなくてはならない。この枠
組みの中において、多数意見は、文明の神聖な信託の達成を実効的に保障するためには、国際的な監督が必要である
として、﹁必然的推断﹂の法理を適用することが可能であると考え、その結果として国連の監督権限を肯定した、と
理解されよう。
圖 質問㈲に関しての交渉の義務の有無をめぐる判事間の大きな対立も興味深い。
確かに、多数意見の批判するように、第八0条第二項の﹁その他の地域﹂に交渉の義務を認めざるをえなくなるの
︵脚︶
は、反対意見の﹁致命的﹂、或いは﹁基本的﹂弱点と指摘される。しかしながら他方で、アルヴァレス判事の如く協
定締結の義務まで承認するのは無理としても、質問⑥後半におけるような多数意見の大胆な目的論的推論を前提とす
︵鵬︶
るならば、協定交渉の義務を承認することは全く無理ということもできないと思われる。ドゥ・ヴィシェ判事は、
﹁国連憲章のような偉大な国際憲法的文書の解釈﹂において、有効性︵亀簿暮蔚︶の原則の適用を提唱したのであっ
て、裁判所は、八票対六票という少差で、文言的アプ・iチから踏み出すのをとどまったと言うことができよう。
76
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
︵99︶ 本勧告的意見に関する文献としては、就中、次のようなものがある。一・U8夷U・q嵩ω8臣≦国弩>男一〇之鼠>≡リロヲ
U一〇・芒島︵一ミω︶㌦ω,ω8竃言甲ωOq↓自≦国胃艶男一9>客o↓属国d三目02>↓一〇z9﹀z旨↓男z﹀↓一〇zき竃>zO︾目一zU一ω,
噂q鵠︵一〇認ごN8三貫↓ぎギoミ馬ミ皇≧霜ミミa嘗国ミ恥§ミ帖寒ミ9藁く一男跨目Fo田8q刀ω“。ミ︵むo。7目y
︵㎜︶ 構成は、バドヴァン︵裁判長︶、ゲレ・︵副裁判長︶、アルヴァレス、ハックワース、ウィニァルスキー、ゾリチッチ、
>亀︿一8蔓○豆三ggご8簑緯δβ一望緯島9ω8誓−≦窃け>豊8”口30]Hρ﹄﹂旨・皆川﹃判例集﹄一八八頁。
ド・ヴィシェ、クレスタッド、バダウィ・パシャ、クルイロフ、ス・モー、アゼヴェドである。
︵描︶
HZ↓げ
マクネァの見解に関して、太寿堂教授は、非常に興味多いものではあるが、それらを全面的に肯定しうるためにはなお論
ダ一哺o。︵一30︶皆川教授も同旨と思われる。皆川﹃判例集﹄一九六頁。
、
さ
“ 、
ミ 醤
§ ミ
ミ
o q寵
§㍉ミミ℃蕊§賊黛題麟ミ斜切§防ミミき恥卜a聾ミω知胃.イω。
円ぎ貯 ミ 喬 醤叙
& ミ §o
馬 噛 醤 、ミ
軌 § ミG
、 、 誤識
ρ閃胃窪>舅δコ一日属閂■>ミ>zo勺召80男国o胃↓爵一乞↓問刀顎目o宕自Ooq召o勾冒。。月一畠o。︵一〇〇。ひ︶り霊言ヨ窪ユ8、
ミ・逼け軍ρ皆川﹃判例集﹄一九三−四頁。
蕊‘簿三ρ皆川﹃判例集﹄一九三頁。
峯層舞ご。・皆 川 ﹃ 判 例 集 ﹄ 一 九 三 頁 。
、織 ⇒梓一〇〇〇lOO,
,噂
、織 帥け一Qo刈IoQ,
o讐
ミ‘碑旨P皆川﹃判例集﹄一九二頁。 ︵鵬︶ 達‘簿一〇〇y
ミ‘馨一a■ ︵柳︶ ミ;緯一α9
親‘緯一鴇■ ︵郡︶ ミこ暮嶺O●
ミこ鋒富9皆川﹃判例集﹄一八九頁。 ︵鵬︶ ミこ簿一ま当皆川﹃判例集﹄一九〇ー一頁。
)))))))))))
論叢﹄第六四巻第一号、一九五八年︶八八、九九頁。
証を要すると、慎重な態度を示している。太寿堂鼎﹁西南アフリカの国際的地位−国際司法裁判所勧告的意見研究﹂︵﹃法学
77
115114113112111110108106104102101
(((((((((((
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵即︶ 内田久司﹁南西アフリカの国際的地位﹂︵高野雄一編著﹃判例研究、国際司法裁判所﹄一九六五年︶三三二頁。砺ミミ魯
︵m︶ 園置雷F簑、 ミ ロ 9 0 ω 鈎 暮 N 9 。
U印耳o超8窪い簑篭馨口9①一♪簿NNooIρ
︵m︶ リード判事は、委任統治制度に関する連盟の任務、権能及ぴ貴任を国連が承継した可能性を、国際法の合意主義的観点か
ら否定して、次のように述べる。
﹁[そのような継承は]、連盟と国連の性質から、或は両組織の任務の間の類似性から、引き出される含意や推定に依拠させ
ることはできなかった。そのような継承は、連盟、国連及ぴ受任国の明示的又は黙示的同意がなくては、事実上も法律上も、
一耳霞=簿凶9一巴ω3貫ωo︷ωoq芸−≦。。・倖>ま80四ω①”簑、着50富一〇ど暮一認。
包含されることはできなかったのである。﹂
︵伽︶ マクネァ判事は、国連の行政的監督権限を認める根拠を逐一批判した後に、次のように述ぺる。
ることを裁判所が正当化できる如何なる法的根拠も、見い出しえない。それは、連邦政府に新しい義務を課することになり、
﹁これらの事情の下で、私は、委任状の行政的監督及ぴ報告書の受領と検討をなす目的のために国連を連盟理事会に代置す
︵捌︶の爵馬恥固言目9琶8∼ミミミ㍉§きミ帖§ー禽s携§織穿、ミ§1国§蝉§黛意匙誉♂§亀ミ恥妄ミ沁o、§
司法立法︵甘象巳巴一品邑騨ユ呂︶の一つとなろう。﹂ミ◎鋒ま学鯨
国鴇﹀窃壱頃Ozoc匿o問︼いo刃o冨02≧⇒N♪鴇Ioo︵一8軌y
国ミミミミ軌§ミGミミ魚∼§篭驚織貸蕊ミ恥トミ戚ミ“∼ミ憧.砺bミ帖&&§驚りO﹀三切男εo国国o・o・﹀器壱H2月胸勾2>目02>いい﹀ミ噂
︵棍︶ 太寿堂﹁前掲︵注価︶論文﹂九六−七頁。
︵鵬︶ Hき富も8茎襲感ミp9。一♪暮ミPこの点に関する議論及ぴ批判は、O匡F⇔§驚篭§き、ミミ醤ミ画§ミ孚窒ミ斡ミ&基︾
の論理を中心にー﹂︵﹃法研論集︵早大大学院︶﹄第八号、一九七二年︶三三頁、同﹁国際機構の代替と任務の事実上の継続﹂
云巨詳知Oo毛■rρo。ω︵一〇象︶及ぴ遠藤安彦﹁国際連合による国際連盟委任統治任務の継承と終了ー国際司法裁判所
︵﹁法研論集︵早大大学院︶﹄第一一号、一九七四年︶一頁等を参照。
78
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵摺︶国魯p円詳、ミミ醤ミ艦§ミ9ミ馬.偽﹂織蕊ミ疑O冨這§§ミ驚、ミ“§ミ帖§ミ9ミ§。、肋。ミ㌣ミ婁﹂、蔵ミ玉一胃ドい
ρ刈ooい8︵這蟄︶●
︵撚︶ 例えば、カーンは、マクネァ及ぴリード判事の見解が支持されるぺきとする︵国昏P§碑oごし、内田教授も、実定
法の立揚からは、これら両判事、特にリード判事の接近方法が支持されるとする。内田﹁前掲︵注搬︶資料﹂三三三頁。
︵伽︶ ドゥ・ヴィ シ ェ は 述 ぺ る 。
﹁国際組織の実効性は、その権限の範囲にのみではなく、その行動の継続性にも同様に依存する。特に後者が、高度に人道
的啓蒙的目的を有する国際制度によって示される時には。南西アフリカの国際的地位に関する一九五〇年七月一一日の国際
Uo<一。。。q昌oン簑特ミ88賦讐彗二9
司法裁判所の勧告的意見を指導したのは、権利の継続性の理念である。﹂
︵卿︶ 国即げP簑感ミ8器旨♪暮℃い
︵伽︶ アルヴァレス判事は、新国際法理論の展開の後に、南ア連邦にかかる協定締結義務は、委任統治制度と信託統治制度との共
存を予定しない憲章の精神から引き出されるとする。H算①目緯一8巴望馨59ω29−ゑ¢警︾壁89超簑、ミ葛aδ一逼=o。い。
第二款南西アフリカ地域に関する報告と請願についての問題の表決手続
一九五四年、国連総会は、裁判所に対して、南西アフリカ委員会が作成した報告及び請願に関する審査手続中の特
別規則Fl憲章第一八条第二項に基づいて三分の二の多数決制を採用していた は五〇年意見の正しい解釈であ
るかについて、勧告的意見を求めた。裁判所は、全員一致で、肯定的回答を与えた。バドヴァン、クレスタッド、ラ
︵伽︶
ウターパハト各判事が、個別意見を述べている。
多数意見の推論の分析
79
一橋大学研究年報 法学研究 19
ω 多数意見は、﹁総会が行うぺき監督の程度は、委任統治制度の下で適用されてきた監督の程度を超える.一とが 0
できず・そしてできる限りこの点で国際連盟理事会が従ってきた手続に適合すべきである﹂という五〇年意見を二つ
8
に分けて考察する。
図 第一に、右の引用文の前半は総会が従うぺき投票制度を含むものと解釈しうるか。多数意見の推論は文言的ア
プ・ーチに依拠していると考えられる。すなわち、
﹁総会によって行使される監督の任務は、一般的に、南西アフリカ委員会の報告と観察に基づく行動の形を取り、
同委員会の任務は、常設委任統治委員会によって行使された任務に類似している。﹃監督の程度﹄という言葉は、
このように行使される実質的監督の範囲︵程度。蓉。旨︶に関するものであり、総会の集団意思が表明される仕方
︵方法ヨ昏昌臼︶には関しない。
従って、これらの言葉は、もしその通常かつ自然の意味が与えられるならば、手続事項に関すると解されるべき
パけロ
ではない。それらは、監督の措置及び手段に関するものである。﹂
この解釈はその用語を使用させた事情によっても確認されるとして、多数意見は、一九五〇年意見当時の事情の分
析にょってその結論を補強している。
團第二に、規則Fは引用文の後半に反しないか。後半は、監督が行使される方法、性質上手続的な事項に関する。
この点については、裁判所が後半を作成した時には総会の投票制度は考慮されていなかったという指摘とともに、次
のような説明が加えられている。
﹁ある機関の組織法は、普通その機関が決定に到達する表決方法を定める。表決方式は、その機関の構成および任
務に関するものである。それは、機関の組織様式の一つの特徴を成す。三分の二の多数決または単純多数決により
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
決定を行なうことは、総会の特徴の一つであり、これに対して、全会一致の規則が、国際連盟理事会の一つの特徴
であった。これらの二つの方式は、相異なる機関の特徴であり、したがって組織法の改正なしには、その一を他を
もって代えることができないものである。総会に連盟理事会の全会一致の原則を移植することは、単に手続の導入
なのではなく、帰するところ、総会の特徴の一つを無視することになるであろう。したがって、総会の表決方式を
︵田V
国際連盟理事会のそれに一致させる問題は、克服しえぬ法的障害をひきおこす⋮⋮。﹂
このような国際組織法上の一般的規則と推定される仕方で説明された理由から、総会の投票制度は、監督実施に当
って準拠すぺき手続中に含まれないと考えなくてはならない、とされる。
叫 しかし、総会は、規則Fの採択時も質問⑥の裁判所への付託時も、﹁手続﹂は投票制度を含むという仮定で進
んでいたと思われる。多数意見によれば、しかしながらこの揚合においても、規則Fと五〇年意見との間に矛盾はな
いとされる。すなわち、
﹁⋮⋮委任統治地域としての南西アフリカの施政に対し監督を行う総会の権限は、憲章の規定︹一〇条︺に基づく
ものである。その監督を行うに当って、総会は、委任状より逸脱してはならないが、そうした監督を実施するため
決定を行なう権限は、それ自身の組織法に淵由する。
⋮⋮総会が、その監督の任務を行なう権限をひきだすのは、この憲章からである。そして総会が、前記の任務に
関して、決定を行なうことを規律する規則を見出さなければならないのは、この憲章のわく内においてである。総
会が、一方、南西アフリカに関する報告およぴ請願の受理、審査において憲章に依拠しながら、他方、憲章所定の
ものとはまったく性質を異にする表決方式に従って、これらの報告および請願に関する決定に到達することは、法
︵麗︶
的に不可能であろう﹂。
81
一橋大学研究年報 法学研究 19
さらに、﹁できる限り﹂という言葉は、総会は連盟理事会とは異なった文書の下で活動するという事物の性質上、
法的又は実際的考慮によって必要とされる調整と修正を許容することを意図していたのであり、総会は、規則Fを採
択するに当たって、法的可能性の枠内で行動した、と結論される。
二 考 察
ω 間題点の一つは、五〇年意見の関連文言が果して多数意見の考えるように明瞭なものかどうかである。多数意
見は、自然な通常の意味という文言的アプ・iチに依拠しつつ、それを使用させた事情の検討によって確認する方法
をとっている。
他方、ラウターパハト判事は、その個別意見の中で、多数意見のような回答方法が﹁可能﹂であるとはしながらも、
特に南ア連邦の依拠した法的論争に答えるのは﹁不可欠﹂であると指摘する。すなわち、﹁監督の程度﹂という表現
は、二つの意味ー監督の手段及ぴ︵投票等︶の方法1を有する。表決手続は監督程度を決定するし、受容された
慣行は手続事項の中に表決を含んでいる。ラウターパハト判事は述べる。
﹁これらの理由のために、私は、言葉の通常かつ自然な意味が監督程度の概念から表決方法を除外していると認め
るのをためらう。﹃監督程度﹄という用語の通常かつ自然な意味は、抽象的には存在しない。⋮⋮それは、裁判所
が 当 面 す る 状 況 及 び 問 題 と 関 連 す る の で あ る 。 ・ ⋮
もちろん、一九五〇年意見を与えた時に、表決の問題が裁判所の考慮外であったということはありうる。このこ
とは、表決手続が事態の本質的要素ではないことを意味するものではない。反対に、解明を要請する事態との関連
で一九五〇年の裁判所の意見中の明白な空隙︵σqε︶に直面して、すべての利用可能な解釈手段によって欠訣︵一㌣
82
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
︵鵬︶
2轟︶を埋めるのが本裁判所の任務である。﹂
え方に異を唱える。すなわち、原則的には、基本文書が集団意思の形成・表明の仕方を規定している時には、その基
③ ラウターパハト判事は、総会が憲章第一八条以外の表決手続に従いうるかという点に関しても、多数意見の考
本文書が至高のものであり、これは、外部の文書によって付与された任務の遂行に関しても同様である。しかし、連
盟において、それと対立する実行と原則がある。︵・ーザンヌ条約の解釈に関する意見の中で常設国際司法裁判所は、
条約の明文規定があれば、理事会は多数決しうるとした。又、小数民族保護条約等は、何らかの多数決制の規定を含
んでいた。︶こうして、﹁如何なる事情の下でも総会は憲章中に規定された表決制度以外の仕方によって行動すること
︵團︶
はできないということを、絶対的な規則として言うことはできない﹂と結論される。
このようなラウターパハトの理由づけと、先に引用した多数意見の国際組織法上の一般規則的言明等とを対比すれ
ば、次のようなリドーの評価にも一理あると思われる。すなわち、
︵燭︶
﹁憲章の尊重の必要性を援用することによって、裁判所は、国連の権限に有利な一九五〇年意見の解釈を与えてい
る⋮⋮。﹂
︵鵬︶ 構成は、ハックワース︵裁判長︶、バダウィ︵副裁判長︶、ゲレ・、ウィニァルスキi、ゾリチッチ、リード、ス・モー、
アルマンド・ウゴン、ゴジェフニコフ、ムハマド・ザフルラ・カーン、モレノ・キンタナ、コルドヴァである。
︵欄︶>︹一≦8蔓○ロ嘗88くo彗αq甲08α弩oo目◎垢。。け一〇房幻。算一・αq8即80誹帥&剛。葺δ昌ω9昌8﹃巳昌αQ島Φ↓。三8qo賄
ω2爵,≦o曾ヒュg”[一3呂ドρい趨,
︵m︶ 歳●−鋒試。
︵翅︶ 歳■一簿獣●
︵罵︶ ﹄野界319ωg巴ωoくo﹃N葺養感ミ83ま︸舞8P
83
一橋大学研究年報 法学研究 19
南ア連邦の主張の実質的論点を検討したクレスタッド、ラゥターパハト判事にとって、質問⑥への肯定的回答の理由は以下
ヤ ヤ ヤ
の点にある。すなわち、南ア連邦にとって、同意投票した理事会決議が法的拘束力を有していたのに対して、国連総会決議は、
︵X一器界呂嵐評馨o。。。、︶を創り出すとしても、一般的に勧告的効力しか有せず、厳密な法的意味では拘束力を有しない。つま
誠意をもって妥当な考慮を払うぺき﹁若干の法的義務﹂︵雷暮。も8算蕊野鉢二鋳︶又は﹁道徳的或は政治的性格﹂の義務
り、連盟理事会の決議より低い法的効果しか持たない故に、三分の二の多数決で採用されたとしても南ア連邦に連盟時代より
過重な義務を課すものではない、とされた。この点は、多数意見に対する補強効果をもつことになり、太寿堂教授は、多数意
︵餌︶ ミ‘暮=一・
見に加えてこの理由によるならば、主文には異論はないとする。太寿堂﹁前掲︵%︶論文﹂一〇六頁。
︵描︶ 困“。9∼簑憾ミコo梓①呂一暮ま伊防寵ミεωぎoP讐感ミロo梓。Nど暮一〇〇。●
但し、次のような批判的な見方のあることも考慮しておく必要があろう。すなわち、ジェニングスは、一九五〇年意見にお
引用した後で次の様に述べる。
けるマクネァ判事の指摘ー国連が連盟理事会に取って代わりうる法的根拠は見い出しえない旨︵注mの引用を参照︶1を
﹁その﹃法的根拠﹄を発見し、次いで、性質の全く似ていない二つの組織による監督を、程度の点で比較するという、一九
一。目冒撃§馬、ミミ醤ミ帆§ミGミミ、防﹄き請ミ疑o黛ミ§§ミ恥﹁ミ§偽箏ミ匙ミ馬§O§偽畿§防O§もミミ蒜切。ミ魯,ミ遷
五五年判事の試みは、一九五〇年反対判事の健全さと賢明さを示しているにすぎないと、私には思われる。
﹄、蕊ミ”爵↓影暴>自δ畜o問↓雷O召目閉oo8一胃くo。PS︵一〇鴇︶.
第三款 南西アフリカ委員会による請願人の聴聞の許容性
一九五五年、国連総会は、南西アフリカ委員会が南西アフリカ地域の事項に関する請願者に口頭聴聞を与えること
は、五〇年意見と両立するかという問題について、国際司法裁判所に勧告的意見を求めた。裁判所は、八票対五票で
︵鵬︶ ︵摺︶
84
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
肯定的回答を与えたが、ラウターパハト判事が長い個別意見を述べ、五人の判事が共同反対意見を述べた。
一 多数意見の推論の分析
ω 多数意見は、質間に対する自らの回答と、反論に対する批判との二つの部分から構成されている。ここでは前
者を考察する。
図 多数意見は、まず、質問に対する自らの理解を示して、質問は総会が南西アフリカ委員会に対して請願人への
口頭聴聞を許与する権限を付与することが五〇年意見と両立するかである、とする。
多数意見は、次いで、五〇年意見の主文の要旨−受任国の義務は監督機関の代替によっても損われず、総会は委
任統治地域の施政の有効的かつ適切な監督を遂行する法的権限を有するーを指摘した後に、その出発点を次のよう
に定める。すなわち、
﹁南西アフリカ委員会が請願人に対して口頭聴聞を許与することが、これらの事情の下で、一九五〇年七月一一日
の裁判所意見と両立するかという間題を決定するに際して、裁判所は、先の意見の全体及びその一般的趣旨と意味
︵ 協 ︶
に留意しなければならない。﹂
多数意見は、五〇年意見が、受任国の義務は拡大されてはならないことを述べると同時に、監督の必要性が存続し
ていることをも指摘していることを説明した後に、次のように述べてその目的論的態度を明らかにする。
﹁[五〇年]の意見の一般的趣旨と意味はこうである。かつて国際連盟理事会が行使した南西アフリカ委任状に関
する監督機能の国連総会による継承の基礎にある至高の目的は、委任統治地域の施政の有効な国際的監督の維持を
通して文明の神聖な信託を保護するにあったということである。
85
従って、[同]意見の如何なる特定の文章を解釈するに当っても、反対の明示の言葉がない限り、意見の至高の
︵匠の︶
目的又は主文と両立しない意味を付与することは許されない。﹂
③ ここで、国際連盟の制度下で請願人への口頭聴聞の許与の間題の扱われ方が簡単に顧みられる。すなわち、常
設委任統治委員会は当該問題を審議したことはあるが、理事会に特定の勧告はしなかった。理事会は、受任国の見解
ある。従って、裁判所は、意見要請の基礎にある特定の事情、及ぴ一般的問題の両方に関連して答えられるぺきであ
定状況−南ア連邦による五〇年意見の拒否・義務不履行ーから生じた間題に総会が言及していることは明らかで
問題を扱う。すなわち、勧告的意見の要請は一般的用語・抽象的質問でなされているが、提出された書類によって特
ω ラゥターパハト判事は、最初に、裁判所の対立の主要な原因である、勧告的機能の行使の仕方に関する予備的
ニ ラウターパハト判事の個別意見の推論の分析
行使の方法を規律したことからして、裁判所の意見では、理事会は、もし適当と認めた時は、常設委任統治委員会
︵蜘V
に対して請願人に口頭聴聞を許与する権能を付与する権限を有していた。﹂
制定された。これは、理事会の監督機能をより有効にすることを目指した新機軸であった。請願権を設定し、その
﹁請願権は、一九二三年一月三一日に、連盟理事会によって委任統治制度に導入され、それに関する一定の規則が
した。しかしながら、次の節で多数意見は次のような結論に達する。すなわち、
るとも述べた。多数意見は、こうして、連盟下においては口頭聴聞が許与されたことはなかったことを明白であると
他方、理事会への報告書の中で、報告者は、特殊な揚合に、理事会は適切かつ必要と思われる例外的手続を決定しう
ー口頭聴聞の許与にすぺて反対1を得た後に、従来委員会が従ってきた手続を変更する必要がない旨決定した。
一橋大学研究年報 法学研究 19
86
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
る、とされる。ラウターバハト判事の結論は、簡単に言って、受任国の必要とされる協力がある時は、口頭聴聞の許
与は五〇年意見と両立しないが、協力が欠如する時は両立する、というものである。以下、一般的問題と特定の事憎
とに区別して回答される。
③ ラウターパハト判事は、端的に、南ア連邦の協力が得られる通常の状況の下では、口頭聴聞の許与は連盟下で
の監督程度を越え五〇年意見に反すると認める。この点で多数意見の推論を批判する以下の指摘は引用する価値があ
ろう。彼は述べる。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
﹁連盟理事会は口頭聴聞を許与せず、明示的に拒否したけれども、監督に関する内在的権限によって口頭聴聞を許
与する権限を有していた⋮⋮という見解に実質的に依拠することはできないと考える。[連盟理事会から国連総会
への]権能の移転は、総会による監督程度は委任統治制度下で適用されたものを越えることができないという、
[五〇年]意見で定められた支配的規則に従ってのみなされうる。私は、裁判所の本意見の実質的な根拠として、
あの制限規則を、必ずしも現実に適用された制度ではなくて、一定状況で適用されることができた或はされたかも
しれない制度に言及するものと考える解釈を受け入れることは、困難であると思う。黙示的権限の理論は、もし依
拠されれば、監督の程度を越えてはならないとする規則を1大幅に1無意味とすることになろう。連盟理事会
は、その主張される内在的権限の行使によって、委任状と明白に矛盾するのではない如何なる監督手段も導入する
ことができたのであるから、総会によってこのようにして導入された如何なる監督手段も、委任統治制度下で﹃適
用される﹄監督を越えると考えることはできない、と。私は、一九五〇年の勧告的意見の主要な制限規定を言葉の
︵⋮⋮︶
形骸に堕さしめることになるそのような解釈を受け入れることができない。﹂
㈹ 他方で、ラウタ㌧ハハト判事は、五〇年意見にある国際的監督が空文化した状況において質問に答えるに当っ
87
一橋大学研究年報 法学研究 19
ては、﹁裁判所は、確立した解釈原則と適用可能な法の一般原則によって導かれなくてはならない﹂と考える。
第一に、五〇年意見は、法的文書と同様に、全体として読まれなくてはならない。制限規定を文字通り維持するこ
とは、制度自体の目的・効果を破壊することになってしまう。また、事態の原因が南ア連邦あるのであるから、監督
の全体的効果が同程度であれば個々の点でより厳格であっても構わない。
第二に、五〇年意見の認めた客観的制度としての南西アフリカの地位は、南ア連邦の態度を考慮し、その一般的目
的の点から、効果が与えられなくてはならない。持続的効力をもつ法的文書が当事者の一方の行為によって文字通り
適用できない時には、その点で当該当事者を利させるのではなくて、できる限りその原初的目的に最も近い方法で適
用されなくてはならないことは、健全な法原則である。
第三に、約束の履行を拒否する当事者が、その約束に依拠できないことは、良識と信義の規則である。この点で、
本件においては、裁判所は監督の一手段を他の手段で代替させることができるだろうか。個人間の契約では通常はな
されない。ラゥターパハト判事は続けて述べる。
﹁しかしながら、[本件は]契約でも、或は契約類似の通常の条約の場合でさえない。⋮⋮[五〇年意見で]解釈
されたように、単なる契約関係を越えた国際的地位−国際制度 を創設する多辺的文書の運用と適用の揚合で
ある。そのような文書の本質は、個々の当事者の態度、地位、或は存続自体における変化にもかかわらず、その有
効性︵βま一ぐ︶が持続することである。その持続的有効性は、その運用が持続されること、そして原文書の司法
的な解釈と適用によってその目的のために工夫された手段が結果的に正当なものとなることを意味する。それらに
よって創設された制度の統一性と運用は、一当事者の行為その他の結果として生じうる障害やギャップの故に失わ
れることは許されない。⋮⋮この性質の文書との関連で、法−司法的に解釈された存在する法1が、何らかの
88
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
特定のつながり或は部分における障害の故に制度全体が停止するのを防ぐために、障害を取り除いたり、欠敏を埋
めたり、或は代替的工夫を採用したりするための手段を見出すのは、まさに設立された制度が統一体であるからで
ある。これは、通常の条約の規定違反の場合とは異なるーその場合には、違反は、原則として、その終了を通告
︵ 毘 ︶
し、損害を請求する権利を、その被害者に与える。﹂
㈲ 次いで、ラウターパハト判事は、本件における状況が上記のような法原則の適用を必要とし、許すことになる
か、を問題とする、南ア連邦の協力拒否の結果として生じた状況を分析して、受任国からの年報はなくなり、監督程
度は低下し、そこにギャップが存在すること、及び住民からの書面請願も従来の実効性を失ったことが指摘される。
以上の状況下で、ロ頭聴聞は、五〇年意見と根本的に矛盾するのではなく、かつ制度の本質的目的を実施するために
必要な手段であると言えるであろうか。ラウターパハト判事は、この問いに対して肯定的に回答するのである。
三 共同反対意見の推論の分析
ω 五人の判事は、評価されるべきことは、口頭聴聞の許与と五〇年意見との両立性であることを強調する。すな
わち、裁判所は、その回答の要素を五〇年意見の中に求めるべきであって、同意見の範囲外の事実的法的な考慮、特
に南ア連邦の態度の中に求めるべきではない。これらの事実は同意見後のものであり、同意見の意味と範囲を決定す
るための評価の要素を提供することはできないのである、と。言い換えるならば、
﹁さらに次のように言える。監督の実施に従うことへの南ア連邦の拒否がこの聴聞を正当化する性質の新しい要素
を構成するか否かが問題となるのは、一九五〇年意見の正確な解釈は請願人の聴聞が同意見と両立しないと述べる
ことに導くことが確定された揚合においてにすぎない。ここでは、もはや一九五〇年意見の意味に関わってもいな
89
90
ければ、請願人の聴聞が同意見と両立するか否かー粋純に法的問題であり、その点で裁判所に提出されるべき性
質のもの を究明するものでもなく、当該拒否という事実が、監督権限者に、この点で一九五〇年意見の遵守か
ら離れるア一とを正当化する根拠となるかを問題としているのである。そのような質間は提出されうる。しかし、そ
れへの回答を指導すべき考慮は法的考慮の範囲を越え、政治的要素というその評価が裁判所の領域に属さないもの
︵協V
を含むのである。そしてそのような質問は裁判所に提出されなかった。﹂
図 五人の反対判事によれば、南西アフリカ地域、受任国としての南ア連邦にかかる国際的義務、及び、監督の実
施について以前の制度を維持するという考えは、五〇年意見中に何度も述べられ、同意見の精神が確認するものであ
る。こうして、五〇年意見の分析その他から、現状の維持の意味は、監督において連盟理事会が有していた権限では
なくて、実際に適用された監督に言及するものであると指摘される。従って、
コ九五〇年意見は以前の実行に言及したのであり、そして常設委任統治委員会は請願人の聴聞を利用しなかった
︵剛︶
のであるから、南西アフリカ委員会によるその様な聴聞は︹五〇年]意見と両立しないであろうと認めることに導
かれる。﹂
四 考 察
ω 確かに問題の焦点は、質問の受取り方ー提起された問題をそのまま受取るぺきであって、事件の背景を考慮
内田教授は指摘する。
立つような回答を与えてよいかーに関するものであった。この点で重要なのは五五年意見の揚合との比較である。
すべきではないのか、或は総会が意見を要請した主旨をくみとり、事情を考慮した上で現実の問題を解決するのに役
︵踊︶
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
﹁⋮⋮注目されるのは、裁判所が本間題においては、五五年の意見の揚合と異なって、質問に対し抽象的にではな
く、具体的事情︵南ア連邦の非協力︶に対する考慮をも背景にして︵ラウターパハトの個別意見ほどに徹底してい
ないが︶回答していることである。こうした行き方は五五年にはラウターパハトが個別意見でとった立揚であった。
︵蜘︶
逆に、本問題における共同反対意見の裁判官は五五年の多数意見に近いアプローチを示しているわけである。﹂
このような五五年意見と五六年意見との対比、そして五六年意見において多数意見が﹁[五〇年]意見の全体及ぴ
その一般的趣旨と意味﹂つまり有効な国際的監督の維持を通しての文明の神聖な信託の保護に大きく依拠したことを
考慮するならば、この推論において目的論的考慮が重要な役割を果たしたことを認めなくてはならないだろう。リド
ーは、端的に、次のように述ぺる。
﹁そこには再ぴ、憲章によって予定されていない状況を処理するために、設立文書によって予定されていない権限
︵⋮⋮︶
を機構の機関に付与しようとして有効性の理論に訴える裁判所の解釈方法が見られる。﹂
③ ラゥターパハト判事は、確かに、一般的問題の次元では、黙示的権限の法理の適用を認めなかったのであるが、
本件の特定の事情を前提とした揚合には、単なる契約関係を越えた国際制度を創設する多辺的文書の特殊性を積極的
に認めていることに注意すぺきである。
[G訟]
︵燭︶構成は、ハックワース︵裁判長︶、ウィニァルスキー、 クレスタッド、リード、コジェフニコフ、ム マド・ザフルラ。
︵騰︶ >α≦8﹃鴫○口aoロoコ>qヨ一の巴玄=ξo︷=o貰ぎ鵯o︷ b魯三〇潟誘σ︾浮oOoヨヨ一窪8昌ω2昌ミo論︾まoP
カーン、ラウターパハト、コルドヴァである。
︵卿︶ 構成は、バダウィ︵副裁判長︶、バドヴァン、ス・モー 、アルマンド・ウゴン、モレノ・キンタナである。
目■O■匂●boy
91
一橋大学研究年報 法学研究 19
﹁この口頭聴聞の間題は、一九二六年常設委任統治委員会によって気づかれており、委員会は右の許容が不可欠であるよう
な揚合のあることを予想して問題を理事会に付託したのであるが、翌二七年、理事会はこの措置を認める理由はないと決議
した。ただ理事会の判定の基礎となった報告書の中には、情報入手が不可能な事情ある時には、理事会は必要適切と思われ
るような例外的な手続を定めることができる、という文言があった。思うに連盟時代には委任統治機能は比較的円滑に遂行
されており、従ってこのような例外的措置を認める必要はなかったのであろう。南アの態度は正にこの措置の必要を痛感さ
せるものではあるが、このような事情を考慮することが裁判所に許されるであろうか。﹂太寿堂﹁前掲︵注価︶論文﹂一一〇頁。
内田﹁前掲︵注m︶資料﹂三四七−八頁。ザックリンは次のように述ぺる。
146
次のような太寿堂教授の説明を補っておくのが適切であろう。
内田﹁前掲︵注御︶資料﹂三四六頁。
謡■u暮MO■
ミ‘簿$●
一賊‘緯鼻ooIP
﹄“4暮轟ρ
ミ‘暮N℃■
)))))))
第四款
南西アフリカ事件︵一九六二年及び一九六六年︶
︵⋮⋮︶
︵柳︶
男置8F憩博ミ目 0 8 ω 潮 舞 卜 o 驚 ■
N8
即 け●
N砺
象ミミ魯ω一〇三ヨ一簑、ミ一一〇3遷い霧嶺oQ.
鷺
一
P
簑
感
ミ
昌
o
言
8
u の要請への回答は﹃その一般的趣旨と意味﹄−−に照らしてのみ与えられうる、と決定した。﹂
ーチしなかった。一九五五年意見の狭いアプ・ーチと対照的に、今回、裁判所は、一九五〇年意見の広い検討を選ぴ、総会
﹁意見の要請は、一九五五年のものと実質的に同一の性質であったけれども、裁判所は、その任務に、同じ仕方ではアプロ
)
92
ミ‘暮Ooo9
145144143142141140139
(((((((
(
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
エチオピアとりベリアは、一九六〇年に、南西アフリカ委任状の存続とその下での受任国としての南ア連邦の義務
に関して、委任状第七条と裁判所規程第三七条に依拠して、南ア連邦を相手どり裁判所に提訴した。原告の請求内容
は、ω南西アフリカ委任状の有効性、③住民の福祉増進、軍事基地不構築等の受任国義務違反と違反を止める義務、
⑧年報・請願不提出等の国連による監督への服従義務違反と違反を止める義務の確認を求めるものであった。被告南
ア連邦は、先決的抗弁を提出し、次の諸点を争った。ω連盟解放によって、委任条は、⑥その全体㈲特に第七条が、
規程第三七条の意味での﹁現行条約﹂ではない。図原告は委任状第七条が訴訟資格︵δ。島ω3鼠一︶として要求する
﹁他の連盟国﹂ではない。團両国と南アとの間に存するとされる紛議は委任状第七条の﹁紛争﹂ではない。両国又は
その国民の利害がそこに含まれていない。㈲当該紛議は委任状第七条の意味での﹁交渉により解決できない﹂段階に
達していない。裁判所は、一九六二年の判決において、南ア連邦のすべての抗弁を却下し、本案を審理する管轄権を
もつと判示した。表決は八票対七票であった。他方、裁判所は、一九六六年の判決では、原告が請求主題に対する法
︵團︶
︵励︶
的利益を欠くという結論に達して、原告の請求を退けた。表決は七票対七票の同数後、裁判長の決定投票で八票対七
票となったのであった。一九六二年において共同反対意見を述べたフィッツモーリスとスペンダー判事の推論が一九
六六年判決の推論の基礎となっていると思われる故に、以下、一九六二年及び一九六六年判決の推論を、解釈方法と
いう視点から分析、紹介しよう。
一 一九六二年判決の推論の分析
ω 多数意見は、当事国間に紛争が存在することを確認するとともに、 委任統治制度の起源、性質、及び特徴につ
いて簡単な説明を加えた。
93
94
﹁委任統治制度の本質的な諸原則は、主として、後進地域人民の一定の権利の承認、連盟に代る﹃受任国﹄として
任状の濫用或は違反に対する保章の最後のとりでとなるのであって、一層必須ですらある。
国による﹁神聖な信託﹂の完全履行を確保する通常の保証であるのに対して、裁判所に特に割り当てられた役割は委
第一に、各委任状における文明の神聖な信託の保護は委任統治制度の本質的特徴である。連盟の行政的監督は受任
対的なものではない。このような解釈方法が、当該字句を含む条項或は文書の精神、目的及ぴ文脈と両立しない意
パゆロ
味を結果する揚合には、同原則に有効に依拠しえない。﹂
﹁この主張は、規定中に用いられた字句の自然な、通常の意味に基づくものとされる。しかし、この解釈規則は絶
的に失ったのであり、委任状第七条の﹁他の連盟国﹂はもはや存在しない旨の主張に対して、多数意見は述べる。
個 第二の抗弁について。連盟解散によってすべての加盟国はその加盟国としての地位及ぴそれに伴う権利を必然
年意見でも全会一致であり、今日でも裁判所の意見を反映すると述べる。
されなかった旨の主張を、いずれも、委任状等の検討によって却下するとともに、委任状は依然有効とする点は五〇
第一の抗弁について。委任状は理事会の執行行為にすぎず、﹁宣言﹂と記されており、規約第一八条に従って登録
⑧ 次いで、多数意見は、四つの先決的抗弁を順次検討していく。
遂行を可能ならしめるために付与された単なる道具にすぎない。要するに、委任統治制度下の各委任状は、委任統
パハレ
治地域人民の﹃福祉と発展﹄の増進を至上目的とする新しい国際制度を構成する。﹂
⋮委任統治地域及ぴその住人に関わる受任国の権利は、受任国の義務にその根拠をもち、いわぱ、その義務の
る﹃文明の神聖な信託﹄の承認、にある。・⋮
先進国が当該人民に対して行使する信託制度の設定、組織された国際共同体としての連盟及ぴその加盟国に課され
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
第二に、受任国を訴追する権利は、裁判所による保護を確保する最も信頼すぺき手続である。
第三に、連盟解散総会において、解散後も種々の委任状を実行可能な限り存続させる合意がすべての連盟加盟国の
間でなされたことが立証される。
四 第三の抗弁について。多数意見は述ぺる。
﹁裁判所の考察を要請する問題は、当該紛争が、委任状第七条に予想され、裁判所規程第三六条の意味における
﹃紛争﹄であるか、である。
被告の主張は、﹃委任状の規定の解釈又は適用に関する﹄委任国と他の連盟国との間に生じる﹃如何なる紛争に
ついても﹄と述べる委任状第七条の規定の自然な、通常の意味に反する。使用されている文言は、広く、明白かつ
正確であり、如何なる曖味さも例外も許さない。⋮⋮この条項の規定の明白な範囲と意味は、連盟国が、受任国に
よる委任統治地域の住民並びに国際連盟とその加盟国に対する義務の遵守に、法的権利又は利益を有すると理解さ
︵旧︶
れていたことを示している。﹂
規約第二二条が裁判所の強制管轄を規定していない点に基づく主張も、第七条が規約第二二条を実施する性質のも
のであり、﹁受任国は⋮⋮を認める﹂とある以上、問題とならない、として却下される。
㈲ 第四の抗弁について。多数意見は述べる。
﹁過去における集団的交渉においてデッド・ックに逢着した事実とさらに本件における訴答書面と口頭陳述がこの
デッド・ックの存続を明らかに確認している事実は、これ以上交渉しても解決に導く合理性がないという結論を不
可避とする。
95
本件において、紛争は後者ではなく前者の規定にのみ関連する。こうして、﹁問題は、行為規定の遂行に関して受
96
[被告は国連内の集団的交渉と被告・原告間の直接交渉は異なると主張するが]問題なのは、交渉の形態よりも問
題の実体的争点に関する当事者の態度と見解である。当事者が依然として強硬なことが口頭陳述から明らかである
︵鰍︶
限り、紛争が当事者間のこれ以上の交渉によって解決されうると考えるべき理由はない。﹂
判決は、原告の請求却下に至る多数意見の推論自体とその推論への反論に対する批判という二つの部分から成
一九六六年判決の推論の分析
こうして、多数意見は、四つの先決的抗弁をすべて却下し、紛争の本案について裁判管轄権を有すると決定した。
る。
定める条項−行為規定ーと、各委任状によって異なるが、連盟加盟国に委任統治地域に関する一定の権利−宣
的規定は大きく二つのカテゴリーに分かれる。地域住民に関する及ぴ連盟とその機関に対する受任国の義務と権能を
多数意見は、本問題を扱う前に、南西アフリカ委任所を特徴づける構造に言及する。すなわち、各委任状中の実質
てのi問題である。﹂
︵ 励 ︶
ではなくて、その最終申立の中で述べられた請求主題に関する申請者の法的権利又は利益の1本件本案事項とし
の問題である。つまり、裁判所に出訴する資格の問題︵これは一九六二年における裁判所の決定の主題であった︶
﹁.・⋮.事件の本案に関連するが先行的性格を有する問題があった。すなわち、手続の現段階における申請者の資格
③ 多数意見はその出発点を次のように定めた。
(11二
教師の行動の自由等1を直接に付与する条項−特別利益規定1である。
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
ハ ロ
任国は連盟加盟国に対して個別に直接の義務を負っているか否かである。﹂
圖 この間題を処理するにあたって、多数意見はその姿勢を次のように定める。
﹁申請者が裁判所に出訴するのは国際連盟の前加盟国としての資格においてである。⋮⋮従って、[委任状に関し
て申請者の有する権利が、行為規定の正当な履行を個別的に要求できる権利を含むか否かを決定するためには]裁
判所は、委任統治制度が創設されつつあり、委任文書が作成されつつあった時点に、自らを置かなければならない。
裁判所は、決定的時点であるその時における状況を、そしてその状況に照らして存在していたと思われる或は合理
的に推定される関係者の意図を、考慮しなくてはならない。:⋮この基礎の上にのみ当事者の法的権利の正しい評
価はなされうる。⋮⋮歴史的文脈における法的概念の意味はその概念がその文脈において理解されていた仕方を参
照することによって探究されなくてはならない。
従って、本件における当事者の権利義務の如何なる検討も、文書の文言特に委任統治制度の創設によって﹃文明
の神聖な信託﹄の概念に法的表現を与えることを意図した規定を、当時の状況の中において考察することに主に基
づいて、なされなくてはならない。
この検討は、委任統治制度がその枠組みの中で組織された国際連盟という機構の法的性格と構造に注意を払わな
パぼレ
くてはならない。なぜならば、それらは、当該制度の機能の態様ー如何なる方法で、如何なるチャネルによって、
そして如何なる手段に依拠することによってーを不可避的に決定したからである。﹂
㈲ このような姿勢に基づいた上で、多数意見は、連盟規約、委任状、及び委任統治制度の運用における連盟−
加盟国及び機関1の機能の態様等を検討し、次のような結論に達した。
﹁⋮⋮裁判所は、連盟の時代においてさえ、連盟が存在していたときの加盟国としてでさえ、申請者は、﹃文明の
97
一橋大学研究年報 法学研究 19
神聖な信託﹄に合致した委任状の適正な遂行を要求する1集団的機構的活動に従事する中での1連盟の権利と
独立して、又はそれに加えて、自ら主張しうる別個の自律的な権利を、国家としての個別的資格において、有して
塞・﹂
はいなかったと考える。この権利は連盟にのみ付与されていたのでありその権限ある機関を通して行使されたので
㈲ 次いで、多数意見は、その見解に対する反論を順次批判していく。ここでは、それらの中から、人道的考慮の
主張及ぴ﹁必要性﹂の議論に対する批判を取り上げる。
前者について、多数意見は次の様に述べる。
﹁⋮⋮人道的考慮がそれのみで法的権利義務を生ぜしめるに足る⋮⋮と主張された。裁判所はそのようには考えな
い。裁判所は司法裁判所であり、法的形式で十分な表現を与えられている限りにおいてのみ道徳的原則を考慮する
ことができる。:
人道的考慮は、国連憲章の前文部分がその後に規定された個別の法的規範の道徳的政治的基礎をなすように、法
規則の鼓吹的基礎をなしうる。しかしながら、そのような考慮は、それ自体法規則であるのではない。⋮⋮﹃利益﹄
の存在は、それ自体で、この利益が特に法的性格であることを伴うのではない。⋮⋮[﹃文明の神聖な信託﹄の実
施にすべての国が利益を有するとしても]この利益が特に法的性絡を帯びるためには、神聖な信託それ自体が道徳
的人道的理想以上の何ものかにならなくてはならない。法的な権利義務を生み出すためには、法的表現を与えられ、
法的 形 式 を ま と わ な く て は な ら な い の で あ る 。 ⋮ ⋮
要するに、神聖な信託の原則は、特定の委任状に関する限り、それのみで︵℃霞器︶全体としての制度の外で法
98
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
的権利義務を生ぜしめるように作用しうる残余的な法内容を有するのではない。そしてこの制度内でも、そうした
︵㈱︶
権利義務はそのための実際の規定がある限りにおいてのみ存在しうるにすぎないのである。﹂
㈲ 後者、﹁必要性﹂の議論は、多数意見によれぱ、次のように要約される。すなわち、理事会は受任国に対して
ヤ ヤ ヤ
自らの見解を課す手段を有しておらず、裁判所から得る勧告的意見も受任国に対して拘束的ではない故に、委任状は
意のままに愚弄されえた。従って、神聖な信託の遂行の最終的な保証として、各連盟加盟国が当該事項に法的権利又
は利益を有すると見なされることが、そして最終的手段として直接に訴訟を起こすことができると見なされることが
不可欠であった、と。
このように理解された﹁必要性﹂の議論に対して、多数意見は次のような批判を加える。すなわち、委任状の行為規
定に関して、理事会が受任国に対してその見解を課しうることはけっして意図されず、採用された制度はむしろ慎重
にこれを不可能としたものである。また国際的領域では最後の手段として訴訟手段により強制されえない義務の存在
が常に例外というよりも原則であった。さらに、申請者の主張を受け入れるならば、理事会が受任国の委任実行に満
足でも、連盟国がその違法性を主張して独立に裁判所に訴えうることになるだろう、と。こうして、多数意見は述べる。
﹁裁判所は、﹃必要性﹄の議論は全体として、結局、超法的性格の考慮に基づくもの、後知恵の産物と思われると、
結論せざるを得ないと考える。⋮⋮この必要性は、たとえ存在するとしても政治的領域にある。それは法の見地よ
りすれぱ必要性を構成するものではない。もし裁判所が、[後のでき事の結果を回避するために]、委任制度が設け
られた時に、もともと考えられていたような現実の特徴・構造に全く無関係な要素をいわば救済措置としてこの制
ヤ ヤ
度の中に今読みとるべきだとしたら、司法裁判所としての任務をこえて事後立法過程︵嚢慧魚、§き層08紹︶に
たずさわることになるであろう。・:
99
一橋大学研究年報 法学研究 19
裁判所は、文書はその基礎となる目的の達成を確保するために最大の効果を与えられなくてはならないとする目
的論的な解釈原則を適用することによって、﹃欠峡を埋める﹄プ・セスにたずさわりうると主張されるかもしれな
い。⋮⋮裁判所が合理的に解釈のプロセスと見なされるものを越え、そして訂正ないし修正のプ・セスにたずさわ
らなければならなくなるような事情の下で、[目的論的な解釈原則]が適用されえないことは明らかである。権利
︵㎜︶
は、その存在が望ましいように思われるという理由だけで、存在するものと推定することはできない。﹂
一一一考 察
︵田︶
一九六二年と一九六六年の判決は様々な問題・論点に関わっているが、本稿の文脈において解釈方法という視点か
ら見た揚合、問題は一九六六年判決における田中耕太郎裁判官の反対意見によって適切・明快に分析されていると思
われる。ここでは、連盟の解散と委任状の存続との関係、及び﹁必要性﹂の議論の批判に対する反論という二つの点
を取り上げよう。
ω 連盟の解散と委任状の存続との関係について。まず田中判事は委任状が他の種類の条約とは区別される特徴を
次の三点に見い出す。第一に、委任状は、﹁文明の神聖な信託﹂の達成という両当事者に共通の目標を有し、立法条
約に類似している。第二に、委任統治制度の目的の性質に基づいて、委任状は長期の永続性という特徴をもつ。この
制度の目的は委任統治地域の物心両面の福祉及び社会的発展の促進であり、即時的又は多少の期間で実現されうるも
のではない。第三に、委任状は受任国に対してその貴任の履行についての強固な道義心を要求する。それは、信義則
に基づく契約︵げo畠ま。85賃8げ︶であり、権利よりも義務に重きを置いている。こうして田中判事は述べる。
100
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
﹁以上に示された委任統治制度及び委任統治協定の性質及び諸特質から、委任状において契約的要素が存在する二
とは否定され得ないが、制度的要素が契約的要素に対して優位を占めると、結論することができる。委任統治制度
の内容及ぴ機能のすぺてを、契約的、つまり営良≦9巴蓉8、そして主観的な観点から説明することはできない。
︵㍑︶
制度的、つまり8瀞9三ω§、そして客観的な観点からも考慮することが必要である。﹂
以上のような委任統治制度の理解を踏まえた上で、次に委任状の存続の問題を扱う。
﹁連盟の解散に伴って、委任状は存続するのか消滅するのか、従って委任状によって創設された権利及び義務は存
続するのか消滅するのかに関する論争は、最終的には、法の解釈に関して存在する方法論の基本的な相異1つま
り、主意主義︵<o一昌5膏ヨ︶と客観主義︵098註く訪ヨ︶との間の対立1に帰するものである。この論争は、法
はその制定時に当事者が予想しなかった、或はできなかった一定の効果を、条約や協定に付与することができない
のか、或は逆に、法は、解釈を通して、当事者の当初の意図には含まれていなかった一定の法的効果を創造するこ
とによって法律行為の欠飲を埋める機能を果たすことを期待されうるか、に関わるものである。
厳格な法的形式主義の観点からは次のような結論となる。すなわち、委任状が、二当事者、つまり一方で国際連
盟と他方で受任国との間の契約と考えられる限りにおいて、連盟の解散は、必然的結果として、委任状の完全な消
滅をーそのすべての法的結ぴつきとともに1引き起こし、何もその後には残らない、と。これが、被告の議論
が依拠する基本的立揚である。・
⋮⋮しかし、[五〇年]意見が基本的に依拠するのは、﹃文明の神聖な信託という国際目的を有する国際制度﹄と
いう考えであり、合 意 的 要 素 で は な い 。
⋮一つの制度としての委任状というのが、この意見の出発点であり、そして連盟の解散にもかかわらず委任状
101
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵鵬︶
が存続することを正当化する最も強力な根拠なのである。﹂
﹁一九五〇年の勧告的意見と一九六二年の判決が、委任状の契約的側面とともに制度的側面を承認したことは、委
任統治制度に、連盟の存続を越えた永続性と、当事者の当初或は以後の意図から独立した客観的存在とを付与しう
る。この承認は、委任統治制度の科学的な解釈方法の産物にほかならず、ここでは、この制度の精神、目的、及び
社会的実在性が重要な役割を果たす。この解釈方法は、厳格な法的形式主義と対比して、社会学的或は目的論的と
呼ばれうる。社会学的性質の制度としての委任状の概念に依拠することによって、我々は、伝統的概念法学ーこ
れによれぱ、容易に、連盟の解散とともに委任状は消滅したと主張することになろうーから一歩踏み出すことに
なる。
委任状の存続の問題について述べたことは、国際的監督の継続及ぴ国際連合による連盟理事会の代替に適用され
︾ ︵応︶
うる。後者の問題の解決は、前者と同じ方向で見い出されるべきである。国際連合による国際的監督の継続は、国
︵脳︶
際的制度として委任状が存続することの論理的帰結である。﹂
⑫ ﹁必要性﹂の議論について。一九六六年判決が徹底して批判した﹁必要性﹂の議論についても、田中判事は適
切な分析を加えている。
﹁国際的監督の存在、つまり国際連合に対する被告の貴任に関する裁判所の意見は、﹃必要性﹄の理論に基づいて
おり、裁判所は司法裁判所として自らに課された制限を越えることはできないと、主張される。
疑いの余地なく、法に基づく裁判所は、法が何であるかを宣言するものであり、立法するものではない。しかし
現実には、どこにボーダラインを引くかは、極めてデリケートな困難な問題である。裁判官は言うまでもなく、法
を宣明するのである。しかし裁判官とても機械的に機能するのではない。裁判官達の司法的活動において、創造的
102
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
機能がある程度作用することは、否定され得ない。裁判官に許されていないことは、現実の法体系、法制度あるい
は基準と無関係に法を確定することである。裁判宮には、法体系、法制度あるいは基準の存在理由から論理的に推
ヤ ヤ ヤ ヤ
論されるところは、これを宣言することが認められている。後者の揚合、法律あるいは当事者の意図の中の欠敏は
埋められることになる。
国際的監督の継続に関する限り、以上述べた結論は、法を解釈するための裁判所の機能をこえたものだとして批
判することにはならない。この点について裁判所は、一九五〇年の意見において、必要だからとか、望ましいから
ということで法の創造を行ったものではない。法にも事実にも全く正当性をおかなかったということはない。いろ
いろな要因によって、個々にまた全体として、国際連合による国際的監督の継続を充分に確認することが出来る。
これらの要因は、連盟の解散にもかかわらず委任統治は存続するということ、委任統治制度における国際的監督の
重要性、組織化された国際共同体として、特に、未だ完全な自治に到達していない諸人民に対する﹃神聖な信託﹄
、と国際信託統治制度の設立をめぐって、消滅した国際連盟との政治的・社会的同質性によって特徴づけられる国際
連合の出現、被告側も国際連合の加盟国であるということ、そして最後に憲章が期待しているような信託統治協定
を締結することを被告側が拒否していることである。
監督が存在しないことによって委任統治制度が機能しなくなってしまうということを回避する必要があるという
意味で、監督の必要性への考慮は、決して否定されてはならない。しかし、上述した考え方を単に必要性とか、望
ましいからということから導き出そうとするものではない。全体としての委任統治制度の存在理由並びに理論構成
ヤ ヤ ヤ ヤ
より、導き出してゆこうとしているのである。
それ故に、社会的及び個別的次元の必要性は、解釈及び立法手段による法の発展の重要な指導原則の一つを構成
103
一橋大学研究年報 法学研究 19
するということが認められなければならない。
このような解釈方法は、裁判官達を成文法の厳格な解釈から解放し、裁判官達の司法活動における創造的任務を
強調したものとして﹃自由な科学的方法﹄あるいは﹃自由法学﹄︵..菩器器3段。冨ω9自叶臨の需、、9.、零9おo算、、︶
の方法の名の下に、主として・iマ法系の諸国において四分の三世紀にわたって知られている。同じ方法が国際法
の領域で排斥さるべきであるとする理由は存在しない。但し、反対の立揚をとるなら話は別である。この立揚は、
主権の概念に由来する強力な主意主義に固執するもので、法の名宛人の意思及び意図とは独立した客観的で独立し
た存在を法に求めようとする法の考え方とは一致しない。
要するに、我々の当面する諸問題に関して意見が分れるのは結局のところ、解釈のこれら二つの方法に帰せられ
︵鵬︶
る。つまり、目的論的あるいは社会学的であるか、概念的あるいは形式的であるかである。﹂
︵瑠︶ 参考文献としては以下のものを参照。内田久司﹁南西アフリカ事件︵管轄権︶﹂︵﹃前掲書︵注卿︶﹄二四二−五七頁。皆川
洗﹁南西アフリカ事件の判決﹂︵﹃法律時報﹄第四四八号、一九六六年︶四一ー五頁。小寺初世子﹁南西アフリカ事件判決につ
いて﹂︵﹃国際法外交雑誌﹄第六五巻第五号、一九六七年︶四三四−四六頁。斎藤恵彦﹁田中耕太郎裁判官の小数意見全訳−
所︶﹄三八、一九八七年︶一ー七二頁。杉原高嶺ユ般利益にもとづく国家の出訴権e⇔﹂︵﹃国際法外交雑誌﹄第七四巻第三
一九六六年七月一八日付の国際司法裁判所南西アフリカ事件第二段階判決1﹂︵﹃研究報告︵東京外国語大学海外事情研究
号︵二五三−九四頁︶第四号︵三〇九ー四二頁︶一九七五年︶
︵籾︶ 構成は以下の通り、八票は、アルファロ︵副裁判長︶、バダウィ、モレノ・キンタナ、顧維釣、コレツキー、ブスタマン
テ.イ.リヴェロ、ジェサップ、ムバネフォ、七票は、ウィニアルスキー︵裁判長︶、バドヴァン、スピロプーロス、スペン
ダー、フィッツモーリス、モレッリ、ヴァン・ヴィク。
104
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵蜘︶ 構 成 は以
通 り 。 八票
ペ ン ダ ー︵
︶ィ
、ニアルスキi、スピロプーロス、フィッツモーリス、モレッリ、
下
の は
、
ス 裁
判
長ウ
︵競︶
ミ‘緯ωホー9
ミ‘暮O&.
ミ‘簿呂9
ωg爵≦。除aユ80器β男器=邑畠qOげ一8ユ8即ロ8N]一.ρ︾ω鐸
グロ、
ク 。 七 票 は 、 顧維
長 ︶コ
、レツキー、田中、ジェサップ、ネルヴォ、フォースター、ムバネフォ。
ヴ
ァ
ン
・
ヴ
ィ 釣
︵
副
裁
判 ︵珊︶
︵拐︶
︵悩︶
ミ‘暮8。
ミ‘暮器■
ω8芸≦①曾>聴一80霧①の︸ω①8且℃富ωP[一〇ひひ]一’ρ﹄・一Go。
︵螂︶
︵珊︶
︵卿︶
二れらの諸点については、例えぱ、旨U口αq貰鼻讐、ミき30P暮ま令ヌ鵠㌣刈∋oo●腔o巳ヨあ尽ミぎ58一簿ミo。ー
ミ4韓≒ーoo甲
、職‘葺い令伊
ミこ暮NP
︵靭︶
︵瑚︶
︵韻︶
︵励︶
︵醜︶ 蕊‘籔まγo。。斎藤﹁前掲訳︵注蝿︶﹂一八頁。
い8を参照。
い訟−○。︵○℃三gぎ&三α審ま象鍔ω島gヨ目$︶を参照。
委任統治制度の特徴に関する類似の指摘については、ω2夢≦o玲まユS9器肋”写魯旨一轟蔓○σ一①ao房堕ロ8呂一.ρ旨
︵協︶ミ‘暮まP斎藤﹁前掲訳︵注麗︶︶一九−二〇頁。
︵姻︶ ミ‘緯ミ9斎藤﹁前掲訳︵注期︶﹂二六頁。
ザックレリンは述べる。
﹁南西アフリカ事件の結果を形成した哲学及ぴ司法的アプ・ーチにおける相異を最も明確に示すのは、スペンダー及ぴフィ
105
一橋大学研究年報 法学研究 19
ッツモーリス判事と、ジェサップ判事との間の衝突である。﹂ N8一︷一旦簑、ミ8富聲鉢器ひ■
同様にして、南アフリカの国籍裁判官ヴァン・ワイクは、条約文の文言的解釈との関連で目的論的解釈原則を制限的副次的
に理解すぺきと主張した︵ωo暮び≦。ω什>ま80霧β源①一言言帥蔓〇三9野屋ロ8呂ピρ﹄﹄凝も一、︶し、他方、ネルヴ
ォは、一九二〇年のみならず、一九六六年の現在における状況をも考慮して委任状を解釈すべきと主張した︵ωo暮げ≦①も・け
>三80霧3望8呂■鼠器[むま]Hρ匂・“ω9ま㌣δ。砺器ミおU誘昌並お○℃三呂oh甘畠のo︸。ωω看︵厚$蔓ぎ37
︵描︶ 一九六二年の共同反対意見において、スペンダー閥フィッツモーリスは、必要性の議論を同様な論旨で批判したが、その
℃﹃09こoロy幾‘暮象O19
際に、二の点での対立を﹁本件の核心︵9。訂胃け亀芸。冥窃o暮o器①︶﹂と形容している点寮示唆的である。oo99>監8
︵贈︶
安全保障理事会の決議二七六︵一九七〇年︶ にもかかわらず南アフリカがナミビァ︵南西アフリカ︶に居
︵価︶ ω8g≦$け>窪串O器8ω80区℃鼠聲[むま]Hρ︸、応。まあ.斎藤﹁前掲訳︵注嬬︶﹂二六−八頁。
0器β℃器一ぎ一言qOげ一g菖8ω口8N]Hρ一■頓一〇〇69
第五款
すわっていることの国々に対する法的効果
国連総会が、南西アフリカの委任統治を終了させる旨決定した後、安保理も決議二七六︵一九七〇年︶において、
南アフリカ当局がナ、・、ビァに居すわっていることは違法であり、従って、南アフリカ政府がナミビァに関して執った
一切の措置は違法かつ無効であると、宣言した。そして、同年に次のような問題を裁判所に付託することを決定した。
﹁安保理決議二七六︵一九七〇年︶にもかかわらず、南アフリカがナミビアに居すわっていることは、国々に対し、
︵鵬︶ ︵塒︶
いかなる法的効果を持つか。﹂
裁判所の意見は次の通りであった。一三票対二票で、00南アフリカの居すわりは違法であり、南アフリカは直ちに
106
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
一
ハ その占拠を終止する義務がある。一一票対四票で、図国連加盟国は、南アフリカの居すわりの違法性等を承認し、
切の関係を断つ義務がある。圖国連非加盟国は、③の範囲内で、国連に援助を与えなければならない。
一 多数意見の推論の分析
ω多数意見は、大きく三つの部分に区分することができる。第一は、裁判所は意見を与える管轄権を有しない、
或はその管轄権の行使を拒否すぺき旨の南アフリカ政府の先決的性格の抗弁の棄却に関する部分。第二は、提出され
た問題が含む一連の重要な争点の分析に関わる部分。第三は、第二の結論に基づいて、国々に対して生じる法的効果
を扱う部分である。本稿の文脈では、第二の部分に注目したい。
図 第二の部分は一連の争点を扱っている。
第一に、本稿の文脈では最も重要な点であるが、多数意見は、提出された問題の基礎にある争点として、連翌規約
第二二条の内容及び範囲とC式委任統治の性質を検討する。C式委任統治はその実際的効果において併合と大差ない
ものとする南アフリカ政府の見解に対して、多数意見は、規約第二二条と南西アフリカ委任状とに言及した後、次の
ように結論している。
﹁要するに、規約の関連規定およぴ委任統治条項それ自体の規定は、委任統治の目的を達成するための明確な法的
義務の設定についていっさいの疑いを排除するのである。
⋮[連盟規約第二二条の最終条文の採択に先立3交渉の結果は、いかに達成困難であっても、併合という観
念の排斥であったのである。委任統治制度の明瞭な意義が、その諸原則を具現する明文規定に、その制度の目的に
反する解釈を与えることによって無視できるという主張は支持することができ蕉肥。﹂
107
一橋大学研究年報 法学研究 19
この結論を補足するものとして述べられた以下のような理由づけが重要である。
﹁当該文書の採択後の出来事も考慮されるぺきである。[同盟および連合国の実行に言及]⋮:
さらに、国際連合憲章の中で確立されたような、非自治地域に関する国際法のその後の発展によって、自決の原
則︵冥日。苞Φoh器罵α9。H目言緯一8︶は、すべての非自治地域に適用されるようになった。.⋮
これらの考慮はすべて、本件に関する裁判所の評価に密接な関係を有する。締結された時の当事者意思に従って
文書を解釈する第一次的必要性を忘れることなく、裁判所は、規約第二二条に具体化された観念はー﹃近代世界
ノ激甚ナル生存競争状態﹄と関係人民の﹃福祉及発達﹄i静態的ではなくて、定義上発展的︵。くo一暮δ冨蔓︶な
ものであったし、それゆえにまた﹃神聖ナル使命︵信託︶﹄の観念も発展的なものであったことを考慮しなければ
ならない。したがって、連盟規約の当事国は、これらの観念をそのようなものとして受けとっていたとみなされる
べきである。なればこそ、裁判所は、一九一九年の制度を考察するにさいして、この間半世紀に生じた変化を考慮
しなければならず、そしてその解釈は、国際連合憲章を通じて、また慣習法によるその後の法の発展によって、影
響されずにとどまることができないのである。さらに、国際文書は、その解釈の時に広く行なわれている全体の法
体系の枠内で解釈され、適用されるぺきである。本件手続が関係をもつ領域では、上述のように、この五〇年が重
要な発展をもたらした。これらの発展は、神聖な信託の最終目的が、関係人民の自決と独立であったことについて、
ほとんど疑いを残していない。他の領域と同様に、この領域でも、諸国民の法の一団︵8壱易言同置σq。旨言旨︶は
著しく豊富になっており、裁判所は、その任務を忠実に果さなければならないとしたら、これを無視することがで
︵即︶
きないのである。﹂
108
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
以上のような点に徴して、多数意見は、C式委任統治に関しても、A式またはB式の委任統治の場合と異なる目的
をC式委任統治に帰するような解釈を認めることができないとする。
③ 第二に、国際連盟の消滅及び国際連合の成立とともに生じた事態を考察する。多数意見は、監督必要性の存続
という実質的な理由に基づく一九五〇年意見に基本的に依拠して、次のように述ぺる。
﹁⋮⋮国際連盟は、委任統治の監督の任務を遂行するように委託された国際組織であった。その任務は、委任統治
の不可欠の要素であった。しかし、それは、委任統治制度が初めの監督機構の消滅とともに必然的に崩壊したこと
を意味するものではない。委任統治制度の継続が連盟の存在と不可分に結びつけられていたかどうかという問いに
対する答は、神聖な信託を遂行するために設立された制度は、その目的の達成前に消滅するものと推定するア︾とは
できないということでなければならない。委任統治制度から生じる受任者および監督者の責任は補足しあうもので
あったし、そのいずれか一方の消滅は、この制度の存続に影響を及ぼしえなかったのである。
一つの制度を国際的監督を改善しようとする他の制度をもって代えることをはばむ困難によって、連盟の解散と
︵撚︶。
ともに、国際的監督の完全な消滅をきたしたと考えるのは、委任統治制度の至上の目的と相いれなかったであろ
う﹂
多数意見は、国連憲章第八O条、連盟総会決議、南アフリカ政府の実行、国連の実行などを解釈することによって
上記結論の理由づけを行っているが、その論拠が基本的に一九五〇年意見を出るものではないア一とは、ナ、、、ビァに関
︵則︶
する﹁勧告的意見の要請に先立つ出来事の簡単な要約﹂という多数意見自体の指摘に明らかなように思われる。
㈲ 第三に、総会の決議或は安保理の決議に関する様々な異議を扱う。本稿では、次の二つの点に関する異議を却
109
一橋大学研究年報法学研究19
下するにあたって多数意見が提示した理由づけに注目しておこう。まず、国際連盟規約は、連盟理事会に対し、受任
国の失行により委任を終了させる権限を付与していなかったという異議に対して、次のように述べている。
﹁この異議が有効であるためには、連盟時代に設けられた委任統治制度は、違反による終了の権利が、人道的性質
の条約に含まれる人間保護に関する規定を除くほか︵ウィーン条約六〇条五項に明示されているように︶すべての
条約について存在するものと推定されなけれぱならないという法の一般原則の適用を排除していたことを明らかに
する必要があるであろう。そのような権利の存在に関する条約の沈黙は、条約の外で、一般国際法の中に源泉を有
し、そして条約が締結されるときに通常予想されない事情の発生に依存するところの権利の排除を意味するものと
︵怖︶
解釈することができない。﹂
次に、憲章第二四及び二五条に基づく拘束的決定の適用範囲について、多数意見は、文言的アプ・ーチ︵文脈的方
法︶に依拠して、次のように述べる。
﹁憲章第二五条は、憲章第七章に基づいて採択される強制措置︵。鼠曾8目Φ耳目①器呉①の︶に対してのみ適用され
ると主張された。憲章中にこの見解を支持するなにものも見いだすことができない。第二五条は、強制措置に関す
る決定に限られるものではなく、憲章に従って採択される﹁安全保障理事会の決定︵菩①α①。芭o冨o津ぽ留8ユξ
9目畠︶﹂に適用される。さらに、同条文は、第七章ではなく、第二四条のすぐ後、憲章中の安全保障理事会の任
務および権限を取り扱う部分に置かれている。もし第二五条が、もっぱら第四一条および第四二条に基づく強制措
置に関する安全保障理事会の決定にかかわるものであるとしたら、いいかえれば、拘束力を有するのは、そのよう
な決定だけであるとしたら、そのときは、憲章第四八条および第四九条によってこの効力が確保されているのだか
︵鵬︶
ら、第二五条は余計なものとなるであろう。﹂
110
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
ニ フィッツモーリス判事の反対意見の推論の分析
ω フィッツモーリス判事は、まず最初に、多数意見は委任状の存続が必然的に︵需8鴇貰ξ︶国連の監督役割を
伴ったという立証されていない仮定に基づいていると指摘するとともに、その基本的立場を次のように述べている。
﹁私の解釈は、当時の関係者の意図であったと思われるものにー正統な︵自葺a寅︶仕方でー基づいている。
裁判所の見解は、異なった、そして私とは相入れない哲学の結果であり、五〇年後に新しい異なった実体及ぴ機関
︵旧︶
の意図となったものに基づいている。﹂
図 第一に、監督権限が国連に承継されたか否かとの関連で、次のように述べる。多数意見の推論では、報告義務
は委任統治制度の不可欠な部分であり、もし同制度が存続したのであれぱ報告義務も存続しなくてはならない。従っ
て︵9曾903︶、同義務は、国連の総会に特別に報告する義務として存続している、と続いている。しかし、この議
論の最後の部分は、論理的厳格さと必然性を欠くだけでなく、明らかな誤謬を含んでいる。この故にマクネア及ぴリ
︵旧︶
iド両判事が反対意見を書いたのであり、この反対意見に私も同意する、と。
フィッツモーリス判事は、一九五〇年意見で多数意見が依拠した憲章第一〇条及ぴ第八○条とを考察した後で、そ
の文言重視の姿勢を次のように示している。
﹁⋮⋮﹃連盟は依然存在するが、もし消滅する時には、国連加盟国であるすぺての受任国は、委任統治地域に関す
る各自の義務を国連機構に対して、直ちに負うことになるものとする。﹄と読むことを可能にするものは第八○条
中には絶対に何もない。南西アフリカが国連信託統治制度の下に置かれないであろうことが明らかになった時に第
一〇条及び第八○条のような規定から導き出そうとされた結果を成し遂げるためには、憲章は[正に上記のこと]
111
一橋大学研究年報 法学研究 19
を、述べておくべきであった。しかし憲章はそのようなことは述べていず、これらの規定は、個別にも併せても、
︵㈱︶
そのような演繹を支えるものではない。﹂
樹 第二に、連盟が委任状の一方的な取り消し権限を有していたか否かという問題に否定的に答えるにあたって、
フィッツモーリス判事は黙示的権限の理論に対する制限的な理解を示している。すなわち、彼の理解によれば、多
数意見の理論は、委任統治制度のような制度においては、明示されなくても、固有な取り消し機能が存在するのであ
る、とするが、
﹁主権国家が関わり、問題が、単に法的地位について宣明するだけでなく、その国家を、物理的に行使している行
政的役割から追い出すことに関わる揚合には、黙示的或は固有な権限の理論に依拠することはできない。関連文書
の中において、これらの権限に具体的表現が与えられていることが必要であろう。::
、 、 、 ︵㎜︶
従って、主権独立国及びそれらの構成する主要な国際組織を含む法体系においては、自然な推定は、国家をその
保持する地位から一方的に追い出す権能のような過激なものは存在しないとするものではなくてはならない。﹂
國第三に、国連の権限の限界を示すにあたって、総会の黙示的権限の範囲及ぴ機構の実行の持つ意義についても
触れている。すなわち、上記の制限的な理解を敷術して述べる。それなくしては機能できないような純粋に内部的対
内的手続き的な行政権能−委員の選任、会合の日時の設定、議題の決定、職員規則の制定、国連主催下の外交会議
開催の決定、等−以外には、総会は黙示的権能を有さない。行政的であろうと勧告的であろうと、そのすべての権
︵捌︶
能は憲章中に正確に規定されているのであり、残余はないのである、と。
確かにフィッツモーリス判事も、一方ではいかなる機関も付与された個別の任務を遂行するのに必要な権能を有す
112
国際縄織設立文書の解釈プロセス(二)
るものと推定されなくてはならないことを認める。この点で、裁判所が損害賠償事件において提示した黙示的権限の
法理の定式を引用するのである。
しかしながら、この定式に加えられた次のような説明に注目しなくてはならない。
﹁これは、もし既存の個別の義務に関わり、それに限定されているものとして読まれるならば、受け入れられうる。
ヤ ヤ
しかし、推定によって︵ξ㊤駿08器o=ヨ讐8葺9︶、任務の拡大をもたらそうとするならぱ、話は全く別であ
る。例えば、︵憲章第四、五、六及び一七条の他に︶総会が、討議し勧告するだけでなく、執行的行動を執り、拘
︵慨︶
束する個別的でない権能を有するものと推定される場合のように。﹂
機構の実行の持つ意義についても消極的であり、つぎのように述べる。
﹁同様に、機構の、或はその特定の機関の実行は、その任務の一つの行使の仕方を修正することはできる︵例えぱ、
単なる棄権は拒否権の行使とは推定されないという、安保理における拒否権の揚合のように︶けれども、そのような
ヤ ヤ
実行は、原則として、任務自体を修正拡大することはできない。十分に規則的で長期にわたる実行によって、修正的
な効果を有する新しい黙示的合意が生じうることを、いかなる絶対的な意味においても否定しないけれども、推定は
︵邸︶
その逆である。特に、設立文書が自らの改正を予定し、その実施手段を特別に定めている組織の揚合はそうである。﹂
一一一考 察
OO 本稿の文脈で最も重要な点は、多数意見の推論の分析において第一に指摘した点、すなわち国際文書の解釈方
法についてである。多数意見が認めるように、ここで間題となっている国際文書は、委任状であり、条約の性質を持
︵悩︶
つ国際合意であると同時に一つの制度たる性質をも有する混合的性質の特殊な型の文書である。こうして、制度的性
113
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵騰︶
格を有する条約の解釈方法が問題とされるのである。
この解釈方法の特殊性は、本多数意見をフィッツモーリス判事の反対意見及ぴ一九六六年判決の多数意見と比較し
てみることによって明確に示される。後者が、合意締結時における当事者の意図を探究することを目的とするのに対
して、前者は、そのような必要性を指摘しながらも比重を解釈時の視点に移しているのである。多数意見を厳密に読
︵描︶
むならば、ここでは二つの点が区別されることに注意しなけれぱならない。
第一は、規約第二二条に具体化された観念自体が、静態的ではなくて定義上発展的なものであったという点である。
ここでは規約第二二条及ぴ委任状が問題となっているのであるが、同じ考慮が設立文書にも適用されうると主張され
るかもしれない。すなわち、国家間の権利義務関係を単に契約的に規定するのではなくて、設定された一定の目的を、
将来にわたって状況の変化に適応しつつ、実効的に遂行し続けることを期待されていると推定される国際組織を設立
する設立文書は、その性格上、静態的ではなくて定義上発展的な規定を多く含んでいる、と。
第二は、国際文書は、その解釈のときに広く行われている全体の法体系の枠内で解釈され、適用されるべきという
指摘である。文言上明らかなように、この指摘は単に委任状や設立文書にとどまらず、すべての国際文書を対象とし
︵囲︶
ていると思われる。一九六六年意見の基本哲学との相違が端的に示された点であると思われる。
③ 多数意見は、上述のように発展的なアプ・ーチを採る一方で、第一に、条約の沈黙は法の一般原則の適用を排
除するものではないとする積極的な推定、及び第二に、条約文言に基づく安保理の拘束的決定権限の広い解釈の採用
に示されるように、様々な解釈方法を、必要に応じて適宜使用している。そして、それらのいずれの点も、国家主権
を重視する立場のフィッツモーリス判事によって批判されている。第一の点については、フィッツモーリス判事の反
対意見の中で触れた。第二の点については、次のように述べる。
114
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
﹁私は、裁判所の意見が[憲章第二四条]に与える極めて広い解釈に同意することができない。・⋮:第二四条第二
ヤ ヤ ヤ ヤ
項は、[平和維持]の目的のために安保理に与えられた個別の権能は指示された章︵W、皿、皿及びM︶中に規定
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
されていると、明示的に述べている。通常の解釈規則によれば、これは、平和維持に関する限り、︹安保理の権能]
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
は他の何処にも見いだされ得ず、これらの章が許す限りでのみ行使され得ることを意味する。従って、拘束的権能
を含めて、安保理の個別の平和維持権能が何であるかを決定するために参照されなくてはならないのは、[上記各
章の諸規定]である。もしこれがなされれば、第m章の下で、或は多分一定の揚合には第皿章の下で理事会が行動
しているときにのみ、その決議は加盟国に対して拘束的であることがわかる。他の揚合には、その効果は勧告的或
︵醜︶
は奨励的であるにすぎないであろう。﹂
こうして、多数意見もフィッツモーリス判事も、各々の仕方で文言的なアプ・ーチを展開しているのであり、背後
︵囲︶
にある価値判断の相違が決定的な役割りを果たしていることが明らかと言える。
㈹ 本勧告的意見において反対意見を書くと同時に、一九六六年意見において指導的役割を果たしたフィッツモー
リス判事の司法哲学は、メリルスによって次のように簡潔にまとめられている。特に国際組織法及び解釈に対するア
プローチにおいて、
﹁[国際組織]を﹃組織化された世界共同体﹄或は他の崇高な抽象概念﹃の表明﹄と考えることからは程遠く、フ
ィッツモーリスは、⋮⋮各設立文書によって個別に付与された権能以上の権能はほとんど有していない基本的に契
約的な実体として、国際組織を考えた。こうして、ナミピア意見において黙示的権能に対して狭いアプ・ーチが取
られ、ある種の経費事件において総会の財政権能に対して慎重な態度が取られ、南西アフリカ事件において承継問
題に対する鍵として同意が強調されたのである。:
115
一橘大学研究年報 法学研究 19
⋮フィッツモーリスの解釈に対するアプ・ーチは、彼の国際法の考え方が基本的に保守的であるが故に、厳格
であった。ナミビアと南西アフリカの事件は、いずれも、現在の政治的理念と過去のものとの激しい緊張から生じ
︵旧︶
たのであり、この点を強調するものであった。﹂
このようなフィッツモーリスのアプ・ーチには批判が加えられている。例えば、ザックリンは次のように述べる。
﹁⋮⋮[フィッツモーリス]の法的推論の厳格さと実証主義的解釈の極めて高い水準とには敬服しうる。⋮−しか
し十分には説得されることなくではあるが。⋮⋮それは、単に解釈及び司法機能に対する厳格なアプ・ーチである
だけではなく、静態的なアプ・ーチでもある。それは、自らの内的論理を維持するために、国際法及び国際機構を
︵珊︶
恒久的に非実効的な状況に委ねるアプローチである。﹂
叫 最後に、フィッツモーリス判事とは対称的に、設立文書の特殊性を積極的に肯定するドゥ・カスト・判事の見
解を簡単に紹介しておくことが有益と思われる。ドゥ・カスト・判事によれば、法的文書の様々なタイプの間に区別
がされるべきと、特に次の三つの特徴を考慮することが有益と考えられる。第一は、各当事者が自分の利益を追及し、
最大を獲得し最少を与えるように努めた交渉によって支配された条約、第二は、国際組織が国家に一定の権能或は特
︵醜︶
権を与える条約、第三は、国際組織を設立する条約及びそのような組織の決議、である。彼は、設立文書について、
次のように敷術している。
﹁多辺的条約、国際組織を設立する条約特に国連憲章は、特殊な解釈規則に従う。
国連憲章は、条約法条約の枠内に位置付けられるとは思われない。その解釈においては、類推によって、契約に
関する国内法の規則を適用すべきではなく、むしろ法律及び規程の解釈のための規則を適用すぺきである。
116
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
総会と安保理は、憲章中に規定された目的を促進する責任を有することが忘れられてはならない。ジ︼れらの機関
は、起草者の有りうぺき意図によって拘束され続けることはできない。これは、単にそのような意図を知ることが
困難である故だけでなく、解釈は必然的に発展の過程を経験し、国内法におけるように、現在の状況と将来の予測
されうる要請とに適応しなければならない故でもある。文書はその起草者から切り放されて自らの生命を生きるの
である。﹂
︵鵬︶
︵撤︶ 本勧告的意見については、以下の注で引用されるものの他、次のような文献がある。宣β富卜.aミ肋警ミ9ミ、ミ恥§黛,
§苫ミ魯∼§畿驚亀ミ駐∼ミ醤、ミ♪ま男薯目o雪雰書u国o刃○昌襲↓男蜜昌02き一〇&︵一〇認︶甲∪夷aP8富O黛ミ§
§防oミ︾ミ婁這、ミ魯︵≧黛ミ守言Yミ恥↓惑ミo鷺旨村蕊繋§、鳶oooQω8望>男一〇彊いSまN︵一〇Σ︶引Uロσq巽貸≧a§軌ミ貸
︵象ミ魯ミ婁﹄、ごミ︶㌦円ぎ9ミ∼.⇔O黛這§り象ミ鳶﹄、ミミ、恥肉恥落§冬§職、きも恥ミ偽誉・ミ恥肉ミミ♪二〇〇ピq竃望>一・
目召器客>目ozき■、;︵一〇VNど口。。る。一け曙p㌧ミミミミ帖§ミト喬亀§“w壽﹂き函ミ壕O慧§§§之黛ミ&貴焼§§鉢頓O脚
砺。ミ評ミ更﹂、蕊ミ︵之“ミミ象︶トミ叫ミ篤§§匙ミ恥q§ミミき∼ミ戚落・蔑馬§恥。、ミ馬国ミミミミ軌§ミqミミo\∼§ミ晒一
国o<ぎ9円鳶ミミミqミミO鷺這§§之黛§&ミな譜§諄8200&opOミ9ミ&o琶題aミ&≧§肉もミ篤§驚象§馬
︵畑︶ 構成は、ムハマド・ザフルラ・カーン︵裁判長︶、アムーン︵副裁判長︶、パディラ・ネルヴォ、フォースター、ベンゾン。
∪国z<国刃︾冒見ピい勲勺o口oくa︵這コ︶.
ペトレン、ラックス、オニエマ、ディラード、イグナシオ・パント、ドゥ・カストロ、モロゾフ、ヒメネス・デ・アレテヤガ
である。
︵籾︶ 構成は、フィッツモーリス、グロである。
︵m︶ 構成は、フィッツモーリス、グロ、ペトレン、オニエマである。
︵m︶ >畠く一ωo蔓O℃巨80昌U。σq巴Oo冨β器目8︷o﹃ω33のo;ゴ①9暮一目&ギ8880︷ωo亀・>崩﹃凶gぎz帥ヨ一σす︵ωo耳げ
名8一>三8︶29三9玲塁&品留霊﹃一q99色即80言江8Nま︵むきyワミニ︻・ρ一・いρ皆川﹃判例集﹄二〇四頁。
117
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵椛︶ ミ‘簿呂占’皆川﹃判例集﹄二〇五頁。
︵柵︶ ミ、−簿S占・皆川﹃判例集﹄二〇六頁。
︵桝︶ ミこ暮&■皆川﹃判例集﹄二一四頁。
︵坊︶ ミ‘暮ミ●皆川﹃判例集﹄二一六頁。
︵脚︶ ミ‘暮Nbo9
︵恥︶ ミ‘簿頓㌣9皆川﹃判例集﹄二二〇頁。
︵撚︶ ミこ緯Nω命
︵籾︶ ミ‘簿ωω9
︵⋮⋮︶ 蕊こ緯卜o鶏Ioo.
︵槻︶ ﹄織‘緯●NooN●
︵捌︶ 、叙‘碑Noo一●
︵悩︶ 多数意見は次のように述ぺる。
︵柵︶ 舞
なぜなら、たとえ委任が、実際に主張されているように、一つの制度︵一湧窪耳一9︶たる性質を有するものと見られるとし
﹁この総会の行動の審査にさいして、違反による条約関係の終了を規律する国際法の一般原則を考慮するのが適当である。
ても、それは、このシステムを創設し、その適用を規律してきた、当該国際協定に依存しているからである。一九六二年に
裁判所が指摘したように、﹃この委任統治条項は、ほとんどすぺての他の委任統治条項と同様に﹄﹃混合的性質を有し、そし
ある。.﹄︵一・ρ一・幻名o﹃房這貫,鴇一︶。裁判所は、その判決において、委任統治条項は、﹁−事実上およぴ法律上、条約
て新しい国際制度を設ける特殊な型の文書﹄であった。﹃それは、明確な合意︵帥山臨巳富品﹃8ヨo葺︶を具体化するもので
︵帥け.。p蔓。﹃。。昌<。コ江。昌︶の性質をもつ国際合意である﹄という結論を下した︵一・ρ旨即弓9言辱9・ついωO︶。﹂
ミ・簿&。皆川﹃判例集﹄一二五−六頁。
118
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵螂︶ 広瀬善男﹁民族自決権と国連の権能ーナミピァの国際的地位に関する一九七一年の国際司法裁判所の勧告的意見ー﹂
︵﹃明治学院論叢﹄第二〇四号﹃法学研究﹄二号、一九七三年︶一、四五頁。
︵悩︶ 国o一一8吋9卜.§鈎8誤ミミ受魯ミ∼ミ醤己ミ§§馬、§焼§魯ミ≧黛§帖ミ恥︵砺ミー騨へ﹂、蕊馬蕊醤y旨>22q≧勾国
問”>2ゆ>一〇〇﹂国u”o胃壱↓国勾2︾目oz>いNoo一”8?命
︵卿︶ 切需ミ亀=。<o器さ↓鳶這ミ9ミ㌣ミ恥亀﹄、篭“§O篭邑§い﹂≧違噛蕊ミ醤ミ軌§ミ∼ミ§零ミ㌧ミ馬8愚ξる高舅目、r知Oo竃p
いO■ご一︵一〇誤y
﹁確かに、もはや、国際法は・:・条約という変化しない形の中に本来暫定的な意思の合致を確定的に結晶化させることによ
この点で、次のようなシモンの指摘を無視することができないとおもわれる。
ウて、一定時における国家間関係の状態を安定化させる試みとして考えられる時代ではない。そうであるが、もし裁判官が、
機構の機能の発展的必要性に法を適用させるという外観の下で、﹃起草者の意図ではなくて現代生活の要請﹄のみを考慮し
て解釈しうると考えるのであれば、司法的任務を疑いなく逸脱することになろう。この故に、国際組織の設立条約の本質的
て﹄のみ解釈されるぺきという:・新しい動態的発展的方法の採用を引き起こしたと主張するのは、極めて行き過ぎである
動態性が、国際判例において、当事者の当初の意図の探究に基づく伝統的静態的厳格な理論を放棄させ、﹃未来に目を向け
ことを明確に示している。﹂∪’oo写oコ裟、ミ唇8§一暮轟ホーひ・
と思われる。[そのような方法が使用されたとしても]判例の子細な検討は、その態度が一般的絶対的なものからは程遠い
こうしてシモンは、本文の第二の論点を第一の点の枠内で理解しようと試みる。すなわち、﹁条約の締結時に当事者によっ
て﹃定義上発展的な﹄ものとして考えられた概念のみが、法的環境の変容を考慮し、その意味を﹃諸国民の法の一団﹄の新た
文書︵3耳ぎ耳置ヨ雲=暮oヨ註o冨一︶﹂という表現とは相入れないと思われるが、論理的であり、説得的でもある。
な状況に適応させて、解釈されなくてはならない。﹂︵ミ‘簿轟お占ρ︶この理解は、多数意見のフランス文の﹁あらゆる国際
︵娚︶ 2帥ヨ一げ置O霧ρ簑感ミ唇梓。旨ど暮N3.
︵娚︶ この争点は極めて議論のある所であり、ここではこれ以上踏み込まない。例えば、ヒギンズは多数意見を支持し、デュガ
119
一橋大学研究年報 法学研究 19
iドは多数意見を批判する。霞器一β円壽﹂“蔑肋ミ黛O誉ミ§§之黛ミミ曼ミミ忌q≧尋登ミ賊§ω﹄§b黛§鳶§魯、
萬ミミ軸鎗&ミ恥9ミ馬ミ、”践H冨ド節Oo冨戸いρさ。NρNo。ひ︵這認︶㎜∪おp三り≧貸ミミa︵きミ魯モ婁﹄、ミミ︶、↓壽
9ミw.恥O驚蔚ミ♪曾ミ壽﹄、ミミ、恥隷落§郵§亀㌔き落恥ミ恥、ミ鳳ぎ肉ミミ恥も愚ミぎ冨まざ鉢認占ρ
<●甲穿月ドい.一〇〇潮卜。ωo。lO︵GまINN︶●
︵蜘︶冒①三一5防魯oミミ軋㌔慧§黛ミ§、ω9ミ§ぴミ凡§馬ミ富∼ミ蝋落ミ織§驚。﹃導亀ミミ糞馬戦§ミ9ミ∼。、∼§蔑冬轟o。田幻芦
︵M︶ N臼E一P讐、ミ8言O汐舞ω8’
︵珊︶ ミ‘暮一〇〇鼻9
︵悦︶ 2費ヨ一げすO器。堕簑憾ミ昌go一Nど暮一〇。ド
第四節 専門機関をめぐる諸事件
︵幽︶
第一款 政府間海事協議機関の海上安全委員会の構成
一九五九年第一回総会は、設立条約第二八条⑥に従い、海上安全委員会を構成する八ヶ国︵最大船腹保有国︶を選
出したが、一九五八年度の・イド船腹登録簿統計表の数字に基づく第三位のりベリァと第八位のパナマを、いわゆる
便宜置籍であり、その登簿トン数は真のトン数ではないとして選出しなかった。こうして、一九五九年一月、政府間
海事協議機関IMCO︵現在の国際海事機関IMO︶の総会は、一九五九年一月十九日に選出されたIMCOの海上
安全委員会は、機構設立条約に合致して構成されているか否かについて国際司法裁判所の勧告的意見を要請する決議
を採択した。裁判所の判断は、九票対五票で、否定的なものであった。
︵獅︶ ︵珊︶
多数意見の推論の分析
120
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
ω 多数意見は、大きく、①三つの主張の要約、②第一と第二の主張に関わる﹁総会の自由裁量権﹂についての㈲
条文の検討と㈲起草過程の検討、③第三の主張に関わる﹁最大船腹保有国﹂の検討、からなっていると考えられる。
③ まず最初に、多数意見は、総会が委員会のメンバi選出において自由裁量権を有するとする一連の主張を次の
ように要約する。
﹁裁判所において、総会は、第二八条⑥に基づき付与されていると称される自由裁量権により、リベリアとパナマ
の選出を拒否することができたと主張された。この立論の実体は、次の通りである。すなわち、総会は、機関のど
の加盟国が﹃海上の安全に重大な利害関係を有する﹄かを決定する自由裁量権を付与されており、したがって、八
の最大の船腹保有国を選出する任務を果すにあたって、その判断では、このような利害関係を有していない国々を
選出される資格を欠くものとして除外する権限をもっているというのである。さらに、この自由裁量権は、どの国
が﹃最大の船腹保有国﹄であるか否かの決定にも及ぶと主張された。
まず第一に、委員会のすべての加盟国に適用される﹃選出する︵色09巴︶﹄という表現の中に、選出されるべき
各加盟国に関する個別的判断とその加盟国の資格に関する自由な評価を含むといわれる選択︵。一戸o一8︶という観念
を見つけようとされた。⋮:
第二に、﹃海上の安全に重大な利害関係を有する︵蕃≦おき喜℃9蜜鼻一一#①お簿言旨胃三ヨoω騨富蔓︶﹄.一と
は、委員会の構成員となる資格において主要な条件であり、﹃八の最大の船腹保有国﹄の一つである.︼とは、副次
的な 条 件 で あ る と 主 張 さ れ る 。 ・ ・
さらに、﹃船腹保有国﹄という言葉は、多くの要因の審査を包含する意味を有しており、総会は、委員会の選出
︵彫︶
にあたり、その自由裁量権を行使して、それらの要因を考慮に入れることができたのだと主張される。﹂
121
一橋大学研究年報 法学研究 19
個 多数意見は、三つの主張を以上のように要約した後に、第一と第二の主張に共通する基本的争点である﹁選出
において総会は自由裁量権を有しているか﹂の検討に移る。まず、基本条文であるIMCO設立条約第二八条⑥の解
釈にとりかかるのであるが、そのアプ・iチの仕方を次のように設定する。
﹁条約第二八条⑥の用語は、その自然かつ通常の意味で、その文脈において普通に有する意義で解釈されなけれぱ
ならない。他の解釈方法に訴える必要があるのは、このようにしても、いずれかの点で、条文の意味がどちらに
もとれる揚合だけである︵国が国際連合の加盟国となることの承認に関する総会の権限一・ρ旨男名9富一3ρ
℃●・。●︶。﹂
︵凹︶
凶 これに続く部分で、多数意見は、以上のアプ・ーチに基づく推論を展開して、自由裁量権について否定的な結
論に達する。この部分が本意見の中心と考えられる。
﹁第二八条㈲の表現からして、委員会の優越した支配力があらゆる事情のもとで﹃最大の船腹保有国﹄に付与され
るべき.一とを、起草者が慎重に考えていたことは明らかである。⋮⋮用いられた言葉1﹃そのうち八以上の国は、
最大の船腹保有国でなければならない﹄1は、その自然かつ通常の意味において、起草者のこの意図を表わして
いる。
﹃海上の安全に重大な利害関係を有する﹄という言葉は、明らかに第二八条⑥にいう各グループにつき要求される
委員会の構成員となる資格を表示するものである。しかし、規定全体の文脈において、この利害関係を有すること
は、八の最大の船腹保有国に関しては、用いられた言葉の結果として含まれているのである。⋮;
この解釈は、本条の構造と調和する。・
自由裁量権に基づく立論は、総会に、その自由裁量権を行使するだけで、どの国が海上の安全に重大な利害関係
122
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
を有するか有しないかを表決によって決定し、そしてどの国であると、その船腹トン数の大きさまたは他の資格を
無視して、委員会の構成員となることを拒否することを許すことになるであろう。そのような解釈は、第二八条⑥
の大部分を余計なものとし、そして総会の自由裁量権を海上安全委員会を構成するための最高原則としてうちたて
る効果を伴うであろう。裁判所の意見では、これは、本条の基礎にある原則と矛盾するものである。
第二八条⑥の基礎的原則は、最大の船腹保有国が委員会で支配力をもつぺしということである。この原則と調和
︵凹︶
しない本条のいかなる解釈も是認することができない。﹂
㈲ 以上のような結論に達する一方、多数意見は、その理由を示すことなく、起草過程の検討を行なう。本意見の
実質的な推論の部分一四ぺージ中四ぺージに及ぶ起草過程の検討の後に、多数意見は、その結論部分で次のように述
ぺる。すなわち、第二八条の三つの草案を通じて、総会は支配的数の最大船腹保有国を委員会に任命しなけれぱなら
ないとする意図は変わっていない。第二八条の言葉は、命令的・拘束的な意味を有しており、まさしく条約起草者の
︵珈︶
意図にそうものである、と。
㈲ 最後に、多数意見は、第三の主張に関わる﹁最大船腹保有国﹂の意義を考察する。
まず、第三の主張として要約されたオランダ及びイギリスの意見を取り上げて指摘する。
﹁[そのような解釈の下では]、﹃そのうち八以上の国は最大船腹保有国でなければならない﹄という命令的な言葉
は、無意味なものとして放置されることになるであろう。本条にそういう解釈を与えることは、少くとも八対六の
割合で八の最大の船腹所有国︵..昏。、・ごお。ω叶ω臣マo薫三お轟註9一ω︶の委員会における優越を確保するため条文中
にはめこまれた構造は傷つけられ、くずれることになろう。裁判所は、そのような結果をもつ解釈を容認すること
︵鋤︶
ができない。﹂
123
一橋大学研究年報 法学研究 19
れぱならないことは明らかであり、第二八条⑥が予想するものとして検討に値するのは次の二つである。第一は、私
多数意見は続けて述べる。どの国が最大船腹保有国であるかを決定するために、何らかの測定基準が適用されなけ
有.国有を問わず、旗国の登簿トン数であり、第二は、一国の国民が受益者として保有するトン数である。多数意見
は、次に示すように、①IMCO条約の慣行と、②国際慣行及ぴ海事慣行とに基づいて、第一の基準を採用する。す
なわち、多数意見は、まず、①﹁条約の一定条文及ぴそれらの条文を実施する上で従われてきた実際の慣行は、この
問題の裁判所の審査にある光明を投じる﹂として、条約の効力発生に関する第六〇条と総会による理事会の二加盟国
︵蹴︶
の選出に関する第一七条◎とを検討する。次に、②﹁登簿トン数の規準は国際慣行及ぴ海事慣例と最もよく調和する
︵鵬︶
規準である﹂として、一九三〇年の満載吃水線条約等の諸条約に言及するのである。
ω 以上のようにして、三つの主張を却下した後で、多数意見は、その到達した結論の正当づけをも試みている。
すなわち、条約目的との調和或はIMCOの任務の実効的遂行という考慮に依拠する形で次のように述べている。
﹁裁判所が第二八条⑧に対して与えるこの解釈は、条約の一般目的および海上安全委員会の特別の任務と両立する。
条約により設立された機関は、協議機関であるにすぎず、そして海上安全委員会は、機関の権限内の事項を審議し、
理事会および総会を通じ、加盟国に対して安全規則の提案を勧告する任務をもつ機関である。これらの勧告を有効
に実施し、そして多くの、さまざまな面において海上の安全を促進するためには、世界の現存トン数の大部分に対
して管轄権を行使する国々の協力が不可欠である。裁判所は、この条約の目的と調和しない、そして総会に対し、
登簿トン数という点で、一国が先頭の八国のうちに列するという事実を無視して、その国に海上安全委員会の構成
員となることを拒否する権限を与えるような、第二八条㈲における﹃最大の船腹保有国﹄の解釈には賛成すること
︵期︶
ができない。﹂
124
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
二 反対意見の推論の分析
クレスタッド裁判長とモレノ・キンタナ判事の二人が反対意見を書いているが、いずれの反対意見の趣旨も、多数
意見による三つの主張の要約に尽きると思われる。以下、二点のみ指摘しておこう。
第一に、クレスタッド裁判長によれば、総会が﹁海上の安全に重大な利害関係を有する﹂︵第一条件︶と判断する
国々の中から﹁八つの最大船腹国﹂︵第二条件︶を選出するという解釈は、第二条件を余計なものとはしないのに対
して、多数意見の解釈は、第一条件を︵八の最大船腹保有国に関する限りは︶余計なものとすることになる。これは、
通常の解釈方法に合致しないものであると指摘される。
︵獅︶
第二に、モレノ・キンタナ判事は、・イド船腹登録簿統計票の数字に決定的な機能を与えることを批判して、次の
様に述べる。もし条約起草者の意図がそのようであったならば、彼らは、この目的を達成するために、選出の手続き
︵瓢︶
を選ぶのではなくて、職権による︵。×03。δ︶任命の手続きを選んだであろう、と。
三 コメント
︵㎜︶
OD 本意見は、条約解釈の様々な方法を使用しているといえる。本意見を条約解釈の観点から分析した研究は、①
自然な通常の意味、②条約を一体として読む、③準備作業、④条約の明白な目的、⑤当事者の条約締結後の慣行、⑥
同時代の慣例、という六つの解釈方法が使用されたことを指摘している。本稿の文脈で特に興味深い点は、当該研究
の結論 に お い て 述 べ ら れ た 次 の よ う な 意 見 で あ る 。
﹁裁判所が、意思主義者、目的主義者、文言主義者のアプ・ーチを別々に特徴づける解釈の諸原則を使用したこと
125
一橋大学研究年報 法学研究 19
は、一貫した解釈理論を展開しなかったことを意味するものではない。裁判所が自らこれらの諸原則に割り当てた
関係は次のことを示している。すなわち、裁判所は、まず第一に、通常の自然な意昧の文言主義的原則に依拠する。
他の諸原則については、理論上の信頼がどうであれ、文言的分析を確認するため、或は条文自体の中のあいまいさ
︵㎜︶
を解釈するためにのみ、利用するにすぎない、ということを。﹂
③ 以上に指摘したような様々な解釈方法を使用した推論の適切性の評価自体については、票決の九票対五票の対
立が示すように、批判はある。
例えば、シモンズは、多数意見の結論は条約解釈の確立した諸規則と合致するかという視点から、次のような批判
を述べる。すなわち、現実の条文に基づく通常の自然な意味の原則は、﹁決定﹂の用語を﹁選出﹂の用語に取って代
わらせることに導くのか? 一体性の原則は、海上の安全への利害関係がすべての候補の不可欠な資格であるという
結論に導くのではないか? 準備作業からは、上記の利害関係が自明のもの︵裁判所の用語︶として見なされること
を意図されていたとは思われない。実効性の原則が意味するように関連条文のすべての部分に﹁理由と意味﹂を与え
ることは、IMCOの総会に自由裁量的選出権能を付与することによってのみなされうるのではないか? 要するに、
本意見は、条約解釈の諸規則の適用においては期待はずれであり、IMCOの目的と任務との関係では役に立たない
のである、と。
︵鵬︶
︵㎜︶ ︵川︶
これらの批判の根底には、﹁便宜置籍船﹂の問題及び﹁真正な関係︵σq魯三8=昌︶﹂の考慮があることは明白であ
る。しかし、これらの問題は裁判所での争点ではなく、裁判所は、IMCOの設立文書の用語に従って選出の有効性
について判断するように要請されたのである。このような観点から宮崎教授は次のように指摘する。
﹁﹃便宜置籍船﹄問題は好ましくないことであり、その是正が望まれるが、﹃真正な関連﹄を基準として便宜置籍船
126
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
︵蹴︶
を除外しようとする意見は立法論的議論で、設立条約の補充、改正がなされぬ限り、裁判所の勧告的意見が支持さ
れるものと解釈される。﹂
実際にその後第二八条は一九六五年に改正︵一九六六年発効︶されて、最大船腹保有国としての八理事国の選出には
﹁最大船腹登録量﹂と﹁海上の安全への重大な利害関係﹂の二つの基準が総会の判断によって適用されることになり、
結局、多数意見が却下した主張及び反対判事の意見に合致するものに変わった。さらに同規定は、一九七四年の改正
︵㎜︶
七八年発効︶によって、﹁海上安全委員会はすべての加盟国で構成する﹂とされている。
︵桝︶ 本意見に関する文献としては、以下のものがある。9臣曾鼻﹂蔑向G§砺ミ馬ミ救ミミ噸榔ミ8§腎3ミ§§G§慧魯
>署2ご>舅国弟>著>田u国u菊o胃髪目男2>目02>rωいo。︵一〇ひO︶一ωぎヨo包辞§ミ9誤識∼ミ帖§&鳳壽ミミミミ恥旨瀞受G。−
頴§蕊融§黛篭蕊§恥魯馬.ミ繋ミい§帖§帖ミ箋鷺ミ塁§ミ恥ミミ恥s誤ミミミ&馬魯ミ≧§暗ミ帖§§ミ帖識§恥糺ミo。凄き這qPα
ミミミ題魚国ミqP一N同冨、u馳Oo寓型炉◎。象︵一8いど↓鳶噛ミOOO黛ミ§㌔﹄砺ミ魯き↓§ミ黛国ミ恥鳶ミミ誉い一uq目
い一る。。o。︵G9ご甲鼠曙段㎝”日爵2自δ年=凄gω霞℃の8下$︵這鶏ど嘉納孔﹁政府間海事協議機構条約第二十八条﹂
︵﹃国際法外交雑誌﹄第六三巻第六号、一九六五年︶四八一頁、同﹁便宜船籍と﹃ジェヌイン・リンク﹄﹂︵﹃神戸法学雑誌﹄第
一四巻第四号、一九六五年︶六五一頁、同﹁政府間海事協議機構条約の改正と便宜置籍船国﹂︵﹃神戸法学雑誌﹄第二八巻第四
︵栃︶ 構成は、カーン︵副裁判長︶、パドヴァン、ハックワース、ウィニァルスキ⋮、バダウィ、アルマンド・ウゴン、コジ呂
号、一九七九年︶三六九頁。
フニコフ、コルドヴァ、顧維鉤、スピ・プーロス、スペンダー、アルファ・の一二人中の九人である。
︵挽︶ 構成は、クレスタッド、︵裁判長︶、モレノ・キンタナの二人に前記からの三人である。
︵柳︶>身ぎqO℃巨999口ω簿象98什ぎ寓雪菖§留h。蔓O。日日凶ぎ。。二ぎ一暮雰oo話匿目。暮巴目p葺ぎ。09毘−
畠菖話○お器一鋸ぎp[一*o]Hρ﹄・頃o。も・皆川﹃判例集﹄四〇二−三頁。
︵撚︶ ミ‘霧一鉛ムρ皆川﹃判例集﹄四〇三頁。多数意見は、第一の主張の要約に際して、次のような文言的コメントを加え
127
(一
一橋大学研究年報 法学研究 19
多数意見は、﹁真正な関連﹂の観点を簡単に却下している。
128
ている。
﹁第二十八条における﹃選出する﹄という言葉の意味は、孤立させて、その慣用または通常の意味に依拠し、そしてその意
味を同条で用いられているこの言葉に付けることによって決定することはできない。言葉は、その用いられている文脈から
意味を取得するものである。文脈が広い選択を含蓄する意味を要求する揚合には、それに従って解釈されなければならず、
これは、その言葉の用いられている文脈が制限的意味を要求する揚合には、そういう意味が与えられなけれぱならないと同
ミ‘緯ま?ピ皆川﹃判例集﹄四〇三−四頁。
ミ‘鉢猛o。,皆 川 ﹃ 判 例 集 ﹄ 四 〇 二 頁 。
様である。
︵刎︶
9
0
むざ諄嵩oo、
H竃O
O O 霧 9 旨 、 ミ昌
この点は、国々の提出した陳述書から明らかであるし、モレノ・キンタナ判事はこの問題点を具体的に取り上ゆてもいる
ω言ヨo呂切淘奪ミ8言G♪簿o。早9ω8巴800一=p邑も壱ミ8s一罫g翫令軌●
ミ‘簿8一●
>ω言α﹃ぎ目﹃①帥昌冒8弓﹃o梓緯一〇P簑憾ミ昌90一£甲
・一
﹄爲 即け一NN
D讐
﹄園 即け一㍉頓、
ミ‘暮旨o十皆川﹃判例集﹄四一〇ー一頁。
ミこ鉾一$■皆川﹃判例集﹄四一〇頁。
ミ‘碑まN・皆川﹃判例集﹄四〇八頁。
ミ‘暮まひ・皆川﹃判例集﹄四〇七ー八頁。
ミ‘韓ま令伊皆川﹃判例集﹄四〇六−七頁。
210209208207206205204203202201200199
((((((((((((
))))))))))))
国際組織設立文書の解釈プロセス(二〕
﹁裁判所は、最大の船腹保有国の決定は、もっぱら当該国において登録されたトン数に依存するという結論に到達したから、
勧告的意見を求めて裁判所に付託された問題に答えるため、真正な関係に基づく主張をこれ以上検討することは筋違いであ
る。﹂
ミ‘暮旨ド皆川﹃判例集﹄四一一頁。
︵㍑︶ 宮崎編﹃基本判例双書国際法﹄︵一九八一年︶九九頁。
︵鳴︶ 嘉納﹁前掲︵注桝︶論文︵政府間海事協議機構条約の改正と便宜置籍船国︶﹂三九六−四三七頁。
︵四︶
第二款 国際民間航空機関理事会の管轄権に関する提訴
一九七一年八月、インドは、国際民間航空︵シカゴ︶条約第八四条、国際航空業務通過協定第二条を援用して、国
際民間航空機関︵ICAO︶理事会の決定について、国際司法裁判所に提訴した。理事会の当該決定は、パキスタン
が行った﹁申請﹂並ぴに申し立てた﹁苦情﹂に関して、ICAO理事会が自らの管轄権ありとしたものであった。裁
判所は、理事会に提起された紛争の実体ではなくて、パキスタンが付託した事件を審理し、決定する理事会の権限と
いう純然たる管轄権問題を扱うことになった。インドは、裁判所に対して、理事会がパキスタンによりその申請及び
苦情において提起された諸問題を処理する管轄権を有しない旨宣言する様に求め、パキスタンは、このインドの提訴
の却下と理事会の決定の確認を求めた。裁判所の判決は、ω提訴を審理する本裁判所の管轄権と働事件の本案を審理
するICAO理事会の管轄権という二つの部分からなり、ωについては十三票対三票によリパキスタン政府の抗弁を
︵踊︶ ︵蹴︶
却下して管轄権の存在を認定し、③については十四票対二票によリインドの提訴を棄却して理事会の管轄権の存在を
︵脚︶
認定した。
本件においては、多数意見の推論を分析した後、論点にそくして個別意見・反対意見の若干を分析することにする。
129
一橋大学研究年報 法学研究 19
一 多数意見の推論の分析
− 提訴を審理する本裁判所の管轄権
ω 多数意見は、判決の前半部分で、インドの提訴を審理する裁判所自身の管轄権に対してパキスタンの提出した
抗弁を扱う。まずパキスタンの抗弁を要約し、若干のコメントを加えた後に、個別的な抗弁の検討に入るのであるが、
それらは以下の三つの争点に関わるものとして理解できる。
第一は、紛争の本案において、インドは諸条約が当事者間において効力を有していないと主張している以上、その
裁判管轄条項を援用することはできないし、裁判所規定第三六条第一項の﹁現曾諸条約﹂の条件も満たしていないと
いうものである。
第二は、当該裁判管轄条項の正しい解釈によれば、ここで問題となっているような中間的又は先決的な決定に対し
てではなく、付託された紛争の本案に関する理事会の最終的決定に対してのみ本裁判所への提訴が認められていると
いうものである。
第三は、通過協定第二条第一項に基づくパキスタンの﹁苦情﹂に関わる特殊な管轄権の問題である。
文脈では、多数意見が以上の推論に付け加えた次のような一般的所見が重要と思われる。
③ 多数意見は、パキスタンの抗弁をそれぞれ却下し、裁判管轄条項により管轄権を付与されると認めた。本稿の
﹁事件の.︸の部分から離れる前に、そしてこれは、提訴に関して、問題が持ちこまれた最初でもあるので、裁判所
は、この主題について若干の一般的な所見を述べておくのが有益であると考える。事件は、通常の国家間紛争を装
って裁判所に提出されている︵そしてそのような紛争がその根底にある︶。それにもかかわらず、裁判所における
130
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
手続において、一方の当事者が攻撃し、他方の当事者が弁護しているのは、第三の組織体IICAO理事会1
の行為である。問題のその面では、シカゴ条約および通過協定により予想された本裁判所に対する提訴は、ICA
Oに関して設立された一般的制度の一要素とみなされなければならない。このように、解釈または適用に関する理
事会の決定につき裁判所に対する上訴手続を規定しておくことによりーこれは、通信の領域における初期の条約
中にすでに現われている型の上訴手続であるーシカゴ条約は、加盟国に、そして加盟国を通じて理事会に、それ
らの決定に対するある程度の裁判所の監視を確保する可能性を与えたのである。この限度で、これらの条約は、民
間航空機関の望ましい活動のため裁判所の授助を得ているわけで、それゆえ理事会に対する第一の保証は、それ自
身の権限に関する決定が、その行動を支配する諸条約の規定に適合しているか否かを決定するため手段があるとい
うことの認識に存する。したがって、条文中のなにものも異なる結論を要求しないとすれぼ、理事会のそれ自身の
管轄権に関する決定についての提訴は受理されなけれぱならない。理事会の決定の有効性を裁判所が監視するとい
︵㎜︶
う観点から、管轄権に関する監視と本案に関する監視とを区別すべきいわれはなにもないからである。﹂
H 事件の本案を審査するICAO理事会の管轄権
ω 多数意見の後半部分は、①問題の設定とその消極的側面の検討、②その積極的側面の検討、③理事会の決定手
続き上の正規性欠敏の三つからなっている。
図 多数意見は、まず、出発点を次のように定める。
﹁問題は、理事会がパキスタンの要請により、かつ、この提訴に従うことを条件として管轄を引き受けた紛争の本
案を調べ、終局的決定を下す権限を有しているかどうかである。この問題に対する答は、明らかに、インドの抗弁
に照らして考察されたパキスタンの主張が、シカゴ条約または関連通過協定の﹃解釈または適用に関する⋮⋮意見
131
一橋大学研究年報 法学研究 19
の相違﹄に等しいような性質をもつ紛争の存在を明るみにだしているかどうかにかかる。肯定される揚合には、一応
︵脚︶
︵冥言帥富。8︶理事会は権限を有するものと推定される。﹂
多数意見は、インドとパキスタンの主張を具体的に検討し、間題の消極的側面及び積極的側面のいずれにおいても、
肯定的結論に達する。
圖 最後に、理事会の決定手続上の正規性欠敏の問題が扱われる。インドは、理事会の当該決定には様々な手続き
上の正規性欠飲の蝦疵があり、従って当該決定を無効と宣言して理事会に差し戻すべきであると主張した。
多数意見は、次のように述べて、この主張を却下した。
﹁しかし、裁判所は、この問題に立ち入ることを必要また適当とさえ考えない。わけても、申し立てられた正規性
欠敏は、なんら根本的な点で公正な手続の要件を害するものでないからである。本訴訟手続における裁判所の任務
は、理事会がこの事件で管轄権を有するかどうかについて決定を下すことである。これは客観的な法律間題であり、
その答は、理事会で生じたことによって左右されえないものである。裁判所は、理事会が管轄権を有していたし、
また有していると判断するから、もし実際に手続上の正規性欠訣があったとすれば、事態は、理事会が間違った仕
方で正当な結論に達したのだということになろう。が、それにもかかわらず、理事会は正当な結論に達したことに
裁判所の管轄権ーシカゴ条約第八四条の解釈
個別意見・反対意見の推論の分析
なろう。他方において、裁判所が、理事会には管轄権がなかったし、またないと判断したのであれば、その揚合に
︵珈V
は、なんら正規性欠飲が存在していなくとも、管轄を引き受ける理事会の決定は破棄されたであろう。﹂
(11二
132
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
裁判所の管轄権︵判決の前半部分︶は十三票対三票によって肯定されたのであり、反対した三人の判事の主要な理
由は第八四条の異なる解釈にあると思われる。しかしながら、この異なる解釈を採用する根拠は、多数意見によって
十分説得的に批判されており、本稿の文脈では、具体的に検討する必要はないと考えられる。
他方、個別意見の中に注意すべき点がある。例えぱ、ラックス判事は管轄権の理解に関して次のように述ぺる。本
裁判所は、従来自らの管轄権を決定するに際して極めて慎重であり、国々に対して明示的に受諾した以上の義務を課
さないように、裁判管轄条項を厳格に解釈してきた。しかし、他の機関の決定からの提訴の場合には、同じ考慮は逆
の方向に働く。つまり、提訴権の制限的解釈は第一次機関の管轄権の拡張解釈ー当該国家のより重い義務ーを伴
うのであり、国々が誤った決定と考えるものから救済を求める権利を制約することは提訴の制度の目的自体を損なう
ことになる、と指摘する。
︵泌︶
他方、ドゥ・カストロ判事は、国際組織にとって司法的監視の必要性を指摘する。すなわち、国際組織にとって、
複雑な法的決定及び設立文書・内部規則の解釈・適用を監視するコント・ール機関は必要である。実際に、ICAO
︵脱︶
理事会の行政的技術的な性質は、条約解釈について司法的機関への提訴の広い可能性を不可欠のものにしている、と。
⑧ ICAO理事会の管轄権−理事会の決定における手続の問題
ICAO理事会の管轄権はは十四票対二票によって肯定されたのであり、二人の反対判事の反対理由はいずれも理
事会での決定手続の不正規性にあった。
この争点については、一方で、ディラード、ドゥ・カストロ、アレチャガ等の判事が、不正規性の具体的検討をし
︵鵬︶
た後に、本件では無効とするほど重要なものではなかったと結論し、多数意見を基本的に支持しているが、他方で注
意すべき指摘もなされている。例えばラックス判事は、次のように述べる。規則からの逸脱のすべてが決定の効果に
133
一橋大学研究年報 法学研究 19
影響するわけではないが、若干のものは当事者の権利・利益を害しうるのであるから、当事者が手続きの不正規性を
申し立てた時には、裁判所は当該事項を審理すべきである。裁判所が、理事会の決定手続き中に見い出しうる形式的
暇疵について判断すること、或は当該機関の注意をその点に引くことは、多数意見が一般的所見の中で述べた理事会
の決定に対する裁判所の監視の中に入るものである、と。
︵謝︶
同様に、アレチャガ判事も、第八四条の提訴権は、実体的側面に限られるのではなく、第一次機関に委託された準
司法的任務を支配すぺき不可欠の手続き原則に合致して有効に決定されたか否かという手続き的側面にも及ぶのであ
り、この点は多数意見の一般的所見によっても支持される、と述ぺる。
︵獅︶
この点に対する反対判事の批判は一層強い。モロゾフ判事は、多数意見は﹁目的は手段を正当化する﹂と言うに近
いとし、正しい司法的決定に誤った仕方で到達することはできず、結論とそこへ到達する仕方・形式とを区別するこ
︵珈︶
とはできない、と述べる。さらに、ナゲンドラ・シン判事は体系的で詳細な批判を展開している。彼は、具体的な手
︵珈︶
続上の争点を検討し、結局、当該決定は無効として理事会に差し戻されるべきであると結論する。
一一一考 察
ω 個々の論点には若干議論の余地のあるものがあるとしても、多数意見の全体的な推論については、票決の大き
な差に示されるように、特に問題はなく、説得的妥当なものであったと思われる。以下、国際組織及び設立文書との
関わりの観点から、若干のコメントを加えよう。
③ 多数意見の一般的所見に指摘されるように、本件は、通常の国家間紛争を装いながらも、ICAO理事会とい
う第三の組織体の行為が間題となっている。通常の国家間紛争においては、裁判所の管轄権は、当事国の合意に基づ
134
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
くのに対して、本件では、ICAOの設立条約であるシカゴ条約等の裁判管轄条項に基づくものであった。マナンは、
裁判所の管轄権の基礎の相違が、その推論において決定的な重要性をもったとする。すなわち、本件が同等に有する
︵拠︶
﹁通常の国家間紛争﹂の側面よりも、﹁有効性の監視﹂の側面に重点を置いたと指摘するのである。
確かに、一般的所見に示された﹁ICAOの望ましい活動のための裁判所の援助﹂或は﹁裁判所による理事会決定
の有効性の監視﹂等の考慮は、多数意見の推論に時折顔を出す底流となっていると考えられるし、既に指摘したよう
︵脚︶
に、個別意見の中でも強調されている。この限りにおいては﹁目的論的解釈﹂ということもできよう。
㈲多数意見が理事会の手続問題を具体的に検討しなかったことに対しては、本判決の中では、比較的批判が多か
ったと思われる。確かに、この点での未検討が、一般的所見に示された﹁ICAOの望ましい活動のための裁判所の
︵珈︶
援助﹂という観点から﹁理事会決定の有効性が監視される﹂という考慮とは、必ずしも適合しないと批判される余地
があると考えられる。ICAO内の事情に詳しいフィッツジェラルドは、理事会が司法的機能を遂行するのに適した
︵謝︶
機関ではないことを指摘するとともに、裁判所などから指針が与えられるべきことを強調している。
四 最後に、ドゥ・カスト・判事が設立文書の特殊性に言及している点を見ておこう。
重大な違反によりシカゴ条約は当事者間で終了或は停止されたというインドの主張を検討するにあたって、ドゥ.
カスト・判事は、諸条約の異なる性質を、特に二国間・多数国間条約と国際組織の設立条約との間の相違を、考慮し
なくてはならないとして、設立文書の説明を展開する。
﹁組織を設立するあらゆる条約において、次の二つを区別すべきである。①条約の誕生において一般法︵一賃σq曾,
。冨房︶に服する、組織の設立文書。②組織の生活と機能を規律する諸規則ー特別法︵一舞ω℃。9巴一の︶を創設す
る基本法。学者がこのタイプの条約を﹃立法条約﹄の中に分類するのは、この特殊性の故である。
135
各組織は、その法人格の性質の如何にかかわりなく、すぺての構成員が服する一般規則を備えた基本法を有する。13
構成員の相互間の権利と義務はこの基本法に由来する。構成員間の法的関係が一連の独立した二国間諸条約によっ
て規律されていると考えるのを妨げるのは、組織が法人格者であるという事実である。組織の生活は、二国間諸条
約の集まりによってぱらばらに規律されているのではない。組織の構成員は、基本法によって互いに結びつき、そ
の関係は基本法によって規律されている。そのような関係は、組織の構成員の地位から結果するものであって、二
国間諸条約の当事者の地位からではない。これは、正に組織の本質に関わり、共通利益によって要請され、組織の
機能と実効性にとって必要なものである。
この基本法に由来し、組織の他の加盟国に対する義務に違反する国は、当事者間の一つの二国間条約に違反する
のではなく、組織の基本法に違反するのである。そのような違反の効果は、その基本法によって規律される。ウィ
︵窺︶
ーン条約中の国際法の一般的規則が適用されるのは、補足的な仕方においてにすぎない。﹂
ある。ICAOは法人格を有し、固有の目的を持ち、目的・原則・機能の促進のために紛争処理制度も備えている。
こうして、シカゴ条約と通過協定の基本法的意義を考慮してインドの主張を考察しなくてはならないと考えるので
さらに、加盟国の無差別の原則及び加盟国の義務が終了する仕方を定めるニグループの諸規定が存在する。このよう
③ 条約及ぴ通過協定の特別規則は、ウィーン条約第六〇条の規則を適用する可能性を排除している。
図 シカゴ条約の規則は、国家が他の国家との間で条約が消滅したと宣言する可能性を認めていない。
ω 組織を設立する条約は、固有な規則に服し、ウィーン条約第六〇条の規則には服さない。
髪慮から、ドゥ勇スー覇事笈の四つの結論を引き出して聴・
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
四 インドの主張する条約第八四条と通過協定第二条の解釈は、それらの条項の文言と目的のみならず、ICAO
という国際組織の制度にも反している。
︵脳︶ 本判決に関する文献としては、以下のものがある。国90R巴斜↓富凄爵ミ馬ミ亀90、ミミミ畿§ミqミミo、∼§ミ馬
きミ恥﹂、鳶ミ葡匙ミ軌蒜ミミ馬∼ミ騎§ミ§県馬書8﹄OGミ§黛旨O>乞﹀冒蔓イ切﹂言、rい一鵠︵お翼︶嚇記暮鼠おR、
卜.§ミ織ミ、奪特馬8§恥§黛ミミ8ミ慧馬§R辞G§qミミ馬、9﹄9ト譜ミミミ9ミ帖ミ恥§ミ帖§ミ魯∼§蔑驚︵ミミ
黛∼§岳籍9§ミ魯﹄.9﹄9翻一〇>22募一旨第>若>一のo国男o一↓2臣召>↓一〇釜rN8︵這蕊y
§§ミ一〇認y団o。園国︿島o身覧き旨∪胃o胃冒臣召自一〇2き℃岳=oONU︵一℃翼︶“召即巳p﹄意ミ8§ミミミ騨8ミー
︵跳︶ 構成は、アムーン︵副裁判所−裁判長代理︶フィッツモーリス、ネルヴォ、フォースター、グ・、ベンゾン、ラックス、
︵獅︶ 構成は、カーン︵裁判長︶、ペトレン、オニエマである。
ディラード、イグナシオ・パント、ドゥ・カスト・、モ・ゾフ、アレチャガ、ナゲンドラ・シン︵国籍裁判官︶である。
︵鵬︶ ︾唱$一国。一畳漏εけげ。甘ユ巴一&go搾ぎ8︾09g巨︵一注すく・評ζωけき︶み這認]一・ρ旨9−一・皆川﹃判例集﹄
︵卿︶ 構成は、モ・ゾフ、ナゲンドラ・シンである。
二三四頁。
︵㎜︶ 裁︸緯$当ρ皆 川 ﹃ 判 例 集 ﹄ 二 四 一 頁 。
︵即︶ 嵐‘緯$皆川﹃判例集﹄二三四1五頁。
︵脚︶ 疑‘葺旨ω。
︵蹴︶ ミ‘舞冨ム●
︵撚︶ 凶3舞Oo。占Oど一匁ー勢
︵晒︶ ﹄斜霧誤臼
︵獅︶ ミ‘緯嶺O、
︵脇︶ ミ‘暮賦㌣避
137
一橋大学研究年報 法学研究 19
233232231230239228227
(((((((
、戚 帥け 一α轟ー一刈O,
冒国ロぎ一防ミ憾ミ昌♀o曽♪暮ω09
138
,︸
﹄斜‘緯ωO一閣
ミ‘簿ω蹟,
一〇︾OO霧o”防ミ憾ミロ〇一〇曽oo℃緯旨℃1いρ
閏犀NOo轟一ρ偽ミ感ミ昌90曽♪暮まooIMρ一〇〇粋
﹄匙‘舞一旨.
︵謝︶
一九五一年三月二五日のWHOとエジプトとの間の協定の解釈
見を裁判所に求める決議を採択した。裁判所は、一二票対一票で、両当事者にかかる相互的義務を提示した。
︵獅︶ ︵蹴︶
規定1にかかわりなく、地域事務局を移転しうるか否かについて見解の相違が存在することを考慮して、勧告的意
る決議を採択した。保健総会は、WHOが一九五一年のエジプトとの間の協定第三七項−交渉および予告に関する
である。中東における緊迫した政治状況の故に、東地中海委員会は、地域事務局を地域の他の国に移すことを勧告す
ば、WHOに対して与えるぺき特権、免除及び便益を決定し、かつ、他の関係事項を規律するために締結されたもの
ていたが、この交渉は遅々として進まず、結局、一九五一年に当該協定は署名・発効した。この協定は、前文によれ
事務局の所在地で活動を開始する少なくとも五ヶ月前に、地域事務局の受入れ協定を締結するための交渉は開始され
ンドリア衛生事務局の活動を引き継ぐという協定を締結した。他方、WHOの地域事務局が一九四九年七月に旧衛生
WHOは、その発足後、一九四九年に、エジプトとの間において、WHOの東地中海地域事務局として、アレクサ
第三款
)))))))
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
剛 多数意見の推論の分析
ω 多数意見は、問題の背景と考えられる事実と法を説明・要約した後で、間題の実質的審理に入り、保健総会で
の﹁見解の相違﹂が含む諸論点を指摘する。そして、そのような諸論点の指摘から、多数意見は、その回答の対象と
すぺき﹁真の問題﹂を、当該﹁移転が如何なる条件の下で如何なる態様に従って行われうるかという間題に対して適
用される法的原則及び規則は何か﹂であると設定する。
︵蹴︶
③ 多数意見は、対立する二つの見解及びその基礎となる解釈を要約した後に、そのアプ・ーチを次のように設定
する。この部分は、本意見の基本的方向を決定するカギとなるパラグラフである。
﹁地域事務局の所在地をアレクサンドリァに定め、そして置くことが一九五一年の協定に包含されるかどうかとい
う問題に関して、いかなる見解が抱かれようと、また第三七項の規定が事務局のエジプトからの移転の揚合に適用
されるかどうかという問題に関していかなる見解が抱かれようと、ある法的原則および規則がそのような移転の揚
合に適用される事実に変りはないのである。それゆえ、今や裁判所は、これらの法的原則および規則を検討しなけ
︵闘︶
ればならない。﹂
多数意見は、このアプローチに基づいて、その推論を次のように展開する。
コ九四九年から一九五一年まで、エジプトにおける機関の地域事務局に関して、エジプトと保健機関との間で達
した相互的理解により、それらが別個の合意であるか、単一の法律行為の個々の部分であるかを問わず、エジプト
と機関との間には、契約的な法的制度が創設されて、それがいぜんとして今日における両者の法律関係の基礎にな
っている。さらに⋮⋮エジプトが機関の加盟国であるという事実そのものがエジプトおよび機関にかかるある種の
相互的な協力と誠実の義務を伴うのである。エジプトはアレクサンドリアに地域事務局を受け入れることを申し込
139
一橋大学研究年報 法学研究 19
み、そして機関はその申込みを承諾した。エジプトは、事務局の独立と有効性のために特権、免除および便益を与
えることに同意した。その結果、エジプトと機関との間の法律関係は、受入れ国と国際機関の関係ーまさにその
本質は、一連の協力および誠実の相互的義務︵ヨ客舞一9壽暮δ富9006窮声怠o拐慧ασQoah巴葺︶であるー
になったし、現在もそうである。⋮
⋮⋮要するに、地域事務局のエジプトからの移転の揚合に生ずる事態は、その性質上機関とエジプトとの間の協
︵㎜︶
議、交渉および協力を要求する事態なのである。﹂
③ 次に多数意見は、様々な受入れ協定を分類・整理した後に、本件との関わりでそれらの協定が持つ意義を指摘
するQ
﹁第一に、それらは、受入れ協定の改正、終了または廃棄に伴う諸問題を解決するため自己にかかる相互的義務の
存在が国際機構およぴ受入れ国によって承認されていることを確認する。しかし、それらはそれ以上のことをなし
ている。当該規定の適用が意図されるコンテクストにおいて、それらの義務の含蓄に関する機構と受入れ国の見解
を反映するものと推定されなけれぱならないからである。それゆえ、裁判所の考えでは、それらの規定は、裁判所
がここで扱っているような事態において、機構と受入れ国の誠実に協力すべき相互的義務がなにを包含しうるかに
︵ ㎜ ︶
つき一般的指示を提供するものである。﹂
多数意見はつづけて述ぺる。
﹁当該義務がなにを伴いうるかに関するそれ以上の指示は、条約法に関するウィーン条約第五六条第二項および国
と国際機構との間または国際機構の間で締結される条約に関する国際法委員会の条文案の対応規定のうちにみいだ
される。それらの規定は、前に述べたように、廃棄の権利が条約の性質上それに含まれているとみられる揚合、そ
140
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
の権利の行使は、予告しかも少なくとも一二ヵ月の期間の予告を行なうことに条件づけられる旨はっきりと規定し
ている。明らかに、これらの規定も誠実に行動し、条約の他方の当事者の利益に合理的な考慮を払うべき義務に基
︵矧︶
づくものである。﹂
國 最後に、多数意見は、以上の推論に基づいて前記の﹁相互的義務﹂の内容を以下のように示す。第一に、両当
事者は、移転問題に関して誠実に協議しなければならない。第二に、移転が決定される揚合は、協力の相互的義務に
より、両当事者は、移転を整然と、かつ両方への損害を最小にするため、協議し、交渉しなければならない。第三に、
移転を望む当事者は、整然かつ衡平な移転のため、他方の当事者に対して、相当な期間の予告を行わなければならな
い。以上の一般的な法的原則及び規則の具体的な実施において何が合理的かつ衡平であるかは、必然的にその特別の
事 情 によってきまる。
﹁あらゆる揚合に機関と受入れ国の双方にとって最重要の考慮は、憲章中に表明されているような機関の目的を促
︵蹴︶
進するため誠実に協力すぺき両者の明白な義務でなければならない。﹂
二 考 察
ω 多数意見の推論の分析から明らかなことは、多数意見の基本的方向を決定したカギとなるパラグラフの重要性
である。すなわち、保健総会の質問である﹁当該移転への協定第三七項の適用可能性﹂については判事の間に基本的
な対立があったのであり、多数派の容易な形成は因難であったと思われる。多数意見は、自ら﹁真の法律問題﹂を設
定し、この真の法律問題の解決されるべき一般的な法的枠組がゆがめられるとして、第三七項の適用可能性の間題を
実質的に回避した。つまり、第三七項の問題とは無関係に、ある法的原則及び規則が適用されることを示そうとした。
141
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵鵬︶
このアプ・ーチは﹁妥協の産物﹂と考えられよう。第三七項の問題に関して基本的に対立する二つの見解から、衡
︵謝︶ ︵獅︶
平の考慮に基づいて両当事者の利益の合理的な保護という共通項を引き出している。多数意見は、この操作を提起さ
れた間題の﹁解釈﹂︵パラグラフ︵三五︶︶として行ったが、むしろ﹁代替﹂或は﹁再構築﹂であると指摘されうるだ
︵濁︶
ろう。それ故に、モ・ゾフ判事は、これを﹁法的奇跡﹂と形容し、偽りの基礎に法的外観を与えるものであると考え
るとともに、本意見は質問への肯定的回答を与えるものではないと主張したのである。
他方、このアプローチは若干の判事から積極的な支持を受けてもいる。例えば、エル・エリアン判事は、質問解釈
のこのような権能は司法機関に内在的なものであるし、勧告的意見の目的・存在意義に内在的な実効的解釈の原則に
︵騰︶
合致するものであるとする。同様に、モスラー判事は、司法機関としての義務によって正当化されると考え、セッ
︵㎜︶
テ・カマラ判事は、裁判所の判例法に合致すると考える。
③協定第三七項の解釈をめぐる対立については、本稿の文脈から二点指摘したい。
第一に、第三七項の文言的解釈は同項の不適用説を支持すると思われる。すなわち、第三七項の文言的解釈に間題
を限れば、この点は不適用説の諸判事によって強く主張された他、適用説の立揚のモスラi判事によって承認されて
もいるのである。
例えば、セッテ・カマラ判事は、条約法条約第三一条︵解釈に関する一般的な規則︶が慣習法として適用されうる
として、文脈を考慮し、目的に照らした用語の通常の意味に従い、さらに第三二条の解釈の補足的手段に従い、誠実
︵掬︶
に第三七項を解釈した結果、事務局の移転は第三七項の範囲外であると結論した。同様に、ラックス判事は、文脈と
︵鮒︶
条文全体に照らした用語の通常の意味から出てくる否定し難い結論に言及している。
さらに、適用説を支持するモスラー判事も次のように述ぺる。もし﹁改正︵おく巨9︶﹂という用語が通常の意味
142
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
で理解されるならば、全面的廃止ではなく部分的変更の導入を示すのであり、協定の適用停止は改正とは考えられな
︵魏︶
い故に、第三七項は本件に適用可能であるかは疑わしく思う、と。
第二に、第三七項の適用説は、目的論的推論に依拠していると考えられる。適用説が基づく基本的な判断・考慮は
次のようなエル・エリァン判事の説明に示されていよう。
﹁口九五一年協定の第三七項は]協定の唐突な廃棄或は混乱した終了を避けるための保障を規定するものである。
︹それは、当事者間の協議及ぴ廃棄のための二年の予告期間を要求するのであり、この要求・保障は事務局の安全・
安定を確保しようという当事者の意図を示している。︺
.⋮・第三七項は廃棄ではなく改正の条項であると主張された。⋮⋮私は第三七項のそのような制限的解釈を支持
する議論は十分に正当化されえないと思う。立法経緯も国際組織の一般法も、私を第三七項の実効的解釈を選択す
る こ と に 導 く 。
アレクサンドリァにある地域事務局の所在地の移転は、一九五一年本部協定からその対象を一挙に奪うことにな
る故に、その改正を含んでいる。第三七項に規定される保障が所在地の移転に適用されないと主張することは、協
定の一当事者に技術的な理由によってこれらの保障を出し抜く権能を与えることを意味し、協定諸条項の改正請求
︵邸V
の結果として生ずる廃棄のために定められた手続きに従うことなく、文書の目的自体を無にすることを許すもので
ある。﹂
同様の考慮は、アゴー判事においては、受入れ国内への国際組織の﹁設置︵陣ぎ房ωヨ。暮︶﹂の概念自体の正確・
完全な定義という視点から展開されている。すなわち、領域的基礎を欠く法主体である国際組織の受入れ国内への
143
一橋大学研究年報 法学研究 19
﹁設置﹂は、当該組織が目的遂行に向けて活動する上での必須条件︵巴冨ρ墨ロ8︶である。このような﹁設置﹂の
概念は、﹁法的﹂概念であり、単なる事実上の物理的な設置にとどまらず、不可欠な法的要素をも含む。受入れ国内
で国際組織が享有する法的地位の決定は、法的事実として理解される設置に不可欠な要素であり、それらの諸要素の
実現が一度にか、別個徐々にではあるかは問題ではない、と。モスラー判事も、事務局の設置とその法的地位を規律
︵雅︶
する合意とは切り離せないことから、設置の交渉から一九五一年協定の締結までを継続的プ・セスと考えて、当該移
転問題への第三七項の適用を認めている。
︵獅︶
他方、不適用説の判事も、設置にとって法的地位の決定が重要なことを認めてはいるのであるが、協定条文の解釈
等に基づいて、第三七項の適用を否定するのである。例えば、小田判事は、協定と事務局設置との関係をそれらの経
緯等に照らして検討し、否定的結論に到達するとともに、次のようにも指摘する。
﹁もし事務局がアレクサンドリアになかったのであったならば、WHO・エジプト協定が締結されなかったであろ
うということは、確かに正しい。しかしながら、このことは、アレクサンドリァヘの地域事務局の設置が当該協定
中に含まれているという主張を正当化するものでは決してない。実際にそのような合意が文書中に含まれていない
︵郷︶
ならば、その第三七項の交渉と予告の規定が地域事務局の移転を規律しないのは当然のことである。﹂
︵凱︶
圖 国際組織の権能についても多数意見は若干のコメントを加えている。確かに、弁論の中で﹁国際組織の主権的
意思﹂という概念が使われたし、アラブ首長国連邦を代表して、ヤシーンは、次のように述べている。
﹁[自らの所在地を移転させる旨の国際組織の自由の存在は︺推定される。なぜならぱ、国際組織の望ましい活動
に必要な故に正当化されるからであり、この理由で、当事者の共通意思を合理的に反映しうるのである。国家の主
権に対する制限を推定することができないように、国際組織の基本法上の権能に対する制限を推定することはでき
144
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
ない。﹂
︵瑚︶
このような主張に対して、多数意見は、バランスのとれた判断を下している。
﹁裁判所は、世界保健総会において、また裁判所に提出されたいくつかの書面・口頭の陳述において、国際機構を
その本部および地域事務局の所在する揚所を決定し、必要なときは変更するなんらかの形の絶対的権能を有するも
のとみなす傾向があったことに注目する。しかし、国の方でも、その領域に機構の本部およぴ地域事務局を受け入
れることに関して主権的決定権を有する。そして機構の決定権は、この点で国のそれと同様に絶対的なものではな
いのである。裁判所がその初期の勧告的意見の一つで指摘したように、国際機構の性質には、それがなんらかの形
の﹃超国家︵の后9あ5岳︶﹄とみなされることを正当化するものはなにもない︵国際連合に勤務中被った損害の賠
償、勧告的意見︵Hρ旨国巷9富這お・℃﹂這︶。国際機構は国際法の主体であり、そのような資格で国際法の一
︵蜘︶
般規則、それらの憲章またはそれらが当事者である国際協定に基づいて課せられる義務により拘束されるのであ
る。﹂
︵蜘︶
このような判断は、多数意見の諸判事に共通するものである。
︵蹴︶ 本意見に関する文献としては以下のものがある。ωぎoP卜、帖ミ塁憾蕊ミ帆§騨賊、§“ミ“ミ鴇§ミ的ミミ恥ミ§馬、9ミ■
堕職∼、閏晦随凝一〇〇頓国q︿q国o協z跡閑>日o国g5昌壱↓男z>目oz>い℃目切=o刈3︵一〇〇。一どOoヨげ㊧8∼卜R順§防幾§亀ミヘミ§瀞ミ
2﹀目02>ド器頓︵一〇〇〇〇y
乱ミ切ミ㌣昏黛&唆o苫ミ魯馬、9ミ◎動魯ミミミOミミ軌ミミ醤ミ帖§ミ辞∼裳畏&♪ま>22q>夷国閂犀>乞め﹀田o国u菊o肩一z目閏牢
︵獅︶ 構成は、ウォルドック︵裁判長︶、エライァス︵副裁判長︶、フォースター、グロ、ラックス、ナゲンドラ・シン、ルーダ、
モスラー、小田、アゴー、エル・エリァン、セッテ・カマラである。
︵獅︶構成は、モ・ゾフである。
145
一橋大学研究年報 法学研究 19
9串』命“○ρ
ラ ド
疋) o o ℃ ゆ
皆伊皆避皆
川皆川皆川
訳川訳川訳
三訳三訳三
四三四三四
五四三四二
146
︵脚︶ 協定第三七項の不適用は、ラックス、ルーダ、小田、セッテ・カマラ、モロゾフの各判事によって支持されている。
いうエジプトの申込みと後者によるその申込みの承諾、または地域事務局の所在地を決定するWHOの権限のある機関の一
﹁︹この︺見解は、アレクサンドリァにおける地域事務局の設置は、アレクサンドリァ事務局の活動をWHOに委譲すると
方行為をエジプトが受諾したことから生ずる合意に従って、一九四九年七月一日に行なわれたものであるとするにあった。
この見解の支持者は、一九五一年の協定は、エジプトにおける地域事務局の設置が完了した後に結ばれた別個独立の取引で
あって、その条項は、もっぱら地域事務局の免除、特権およぴ便益について規定するものであると主張する。﹂
ぎ爵8qoロ巳8g冥R屈①馨一g。=ぎ蓄§目舞。寒ω許喜ま一野牙①gg①≦寓〇四呂国αqぞ“ロ。・。。]卜
一九八一年︶三三九ー四〇頁。
ρ一もρ皆川洗訳﹁一九五一年三月二十五日のWROとエジプトとの間の協定の解釈﹂︵﹃国際法外交雑誌﹄第八○巻第三号、
協定第三七項の適用は、グ・、モスラー、アゴi、エル・エリァン、の各判事によって支持されている。
﹁反対の見解の支持者は、地域事務局の設置およぴアレクサンドリァ事務局のWHOとの統合は、一九四九年には完了して
いなかったという。それらは、複合過程における一連の行為によって達成されたのであり、その最終的かつ確定的段階が一
WHOに委譲した行為と一九五一年の受入れ協定とは、単一の法律行為の密接に関連する部分であり、その行為によって、
九五一年の受入れ協定の締結であったのである。この見解を抱く者にとって、一九四九年アレクサンドリァ事務局の活動を
アレクサンドリァに地域事務局を設置することが合意されたのである。﹂
勢 帥 即 9} ㊤
け r卜 d■ d』 e卜
鐸”緯8占・皆川訳三四〇頁。
︵瑚︶
頁四1二頁
。頁四1。
。頁三
。頁
o
︵
蹴 ︶﹄鮮 ㊤けゆρ
︵鮒︶
1
︵㎜︶
︵躍︶
寂糞嵐ミミ
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
ωぼg闘尽§8審トン累
=αも。
簿oo悼O・
薫=○ 9。。。も巷ミ8冨8N讐暮這伊
防
8轟緯N斜y
9ヨ98 F
尽
ミ 8
8
噂
ミ‘簿o。卜。9
) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) )
国老o。。Φ
ひR犀身02く。ヨ弩。旨畠。昼菊ε号=2①≧筈。ω旨。目①レα募o蔓○営巳ggぎけ震冥。馨一go︷昌。>σq﹃8,
一お甲
旨y
嵩ωー刈●
一翼占 ●
一Noo。
=O.
一〇〇轟1ひ■
嵩O。
一N軌。
ミ謡凝ミミミミミミミ
帥暫塑ρ騨騨帥ゆ費帥
θ』d』d』けけd』けr←梓仲
︵㎜︶
︵籾︶
︵蹴︶
oβ一α。竃■K塁ω8P藁一帥梓N描曽c。,
O器。も尽ミ8$舘ざ緯o。Oもρ皆川訳︵注蹴︶三三九頁。
切爵畿■
る=。㌣ω︵旨9。ωy一NN︵﹂●§巴。吸︶し象も︵︾>α。。︶しひ。。−N。︵︾甲卑凶雪y切ミ§︸&‘舞一8︵一・§﹃ー
≦頃○
国巷oω①
旨O昌け oh誤5喜ま一び簿蓄8夢。を田o費且国尊℃“一。oこ.国8象・σpωN。。。る一。︵一。。。一ソ
( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( (
oNo<︶●
147
257256255254253252251250249248247246245244243
一橋大学研究年報法学研究19
第五節 行政裁判所の再審査請求をめぐる諸事件
本節で扱う諸事件は、それぞれ、①勧告的意見の要請に応じるか否か、②質問に対する回答の二つの部分から構成
されている。②の部分は、職員の雇用契約等をめぐる争点に関わるものであり、本稿の文脈においては、十分な関連
性を持たないと考えられる。従って、ここでは、①の部分のみを扱う。
︵矧︶
第一款 ユネスコに対する苦情に基づくILO行政裁判所の判決
事務局長によって契約更新を拒否されたユネスコ職員デュバーグは、訴願委員会の支持を得た後に、ILO行政裁
判所に苦情を持ち出し、勝訴した。ユネスコの執行委員会は、ILO行政裁判所規定第一二条に基づき、行政裁判所
の管轄権を争うために国際司法裁判所の勧告的意見を要求した。裁判所は、九票対四票で、意見の要請に応じる旨決
︵㍑︶ ︵鳴︶
定した。
一 多数意見の推論の分析
多数意見は、質問がユネスコの活動に関わる法律問題であることを認めるが、その後の推論は次の二つの論点に関
ヤ ヤ ヤ
するも の で あ る 。
第一は、意見が拘束的となることと勧告的意見との関わりである。この点についての多数意見の考え方は、次の通
りである。
﹁[I﹂0]行政裁判所規程一二条に基づき、このように要請された意見は﹃拘束力を有する﹄であろう。意見の
148
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
こうした効果は、憲章および裁判所規程により、勧告的意見に対し付与された効果を越えるものである。しかし当
該規程は、[ユネス乙執行委員会にとっては、行動の準則であるにすぎない。裁判所の意見に基づいて、それに
よりとられるぺき行動を決定する準則である。それは、けっして本裁判所の活動の仕方に影響するものではない。
それは依然としてその規程および規則により決定されるのである。またそれは、本裁判所が意見を構成する推理お
よびそれ自体の内容に影響するものでもない。したがって、本裁判所の意見が拘束力あるものとして受諾されるこ
︵川︶
とは、意見の要請に応じられてはならぬ理由となるものではい。﹂
第二は、意見を与えるに際してユネスコによって採用された便法と裁判所の司法的性格に由来する要請との両立性
である。一般に承認された慣行によれば、判決に対する法的救済は、各当事者に平等に開かれ、各当事者は、問題の
審査を求められた裁判所に対して、その申立を提出する平等の権利を有している︵訴訟手続きにおける当事者の平等。
畠裁判所規程第三五条第二項。︶この点で次の二つの不平等が問題となる。
まず、行政裁判所の判決に苦情を申し立ててICJの勧告的意見を要請する権限は、行政裁判所規程第一二条によ
って執行委員会にのみ与えられており、職員には与えられていない。この不平等は次のように処理される。
﹁しかし、かくいう不平等は、実際上、本裁判所における不平等を構成するものではない。その不平等は、裁判所
による問題の審査に先だつものである。それは、どういうふうに裁判所がその審査を引き受けるかに影響するもの
ではない。また本件において、判決に対する、当事者間の平等の欠如は、職員が行政裁判所における手続で勝訴し、
したがって、かれらとしては、なにも苦情を申し立てる間題がなかったのであるから、いくぶん名目的なものであ
る。こういうわけで、本裁判所としては、行政裁判所規程第一二条の法律的正否に関し、意見を述べる必要はない。
裁判所は、本件の事実だけに止めなければらぬ。この点で、裁判所としては、執行委員会だけが、この手続を開始
149
一橋大学研究年報 法学研究 19
する権利を有していたという事情は、勧告的意見の要請に応じない理由を構成するものではないというだけで十分
︵獅︶
である。﹂
次に、勧告的意見の結果は両当事者の権利義務関係に影響を及ぼすのであり、双方の側がそれらの見解及ぴ弁論を
提出しうる地位にあるべきであるが、裁判所規程及ぴ規則はユネスコの出廷は認めるが職員の出廷は認めない。この
不平等は次のように処 理 さ れ る 。
﹁本裁判所が直面したのは、その障害であった。この障害には、一方、ユネスコを介して、裁判所が職員の意見を
入手しうるようにした手続と、他方、口頭手続を省くことによって立ち向かわれた。裁判所は、将来、このように
採用された手続に関し、その与えた承諾およぴ行なった決定によって、拘束されるものではない。本件において、
採用された手続は、関係者側の反対をなにも生ぜしめなかった。それは、有利な判決を与えられた職員の弁護人に
より同意された。当事者平等の原則︵冥冒。邑oo︷。ε呂な9浮。駐註霧︶は、適正な司法の要求から生ずるも
のである。これらの要求は、本件におて、書面による陳述が、職員に代り、ユネスコを通じて提出された事情によ
って減損されなかった。最後に、口頭手続は行われなかったけれども、裁判所は、十分な情報が入手されたことを
確認する。この点からみて、なぜ本裁判所は、その勧告的意見を要請することを許可された国際連合の専門機関が
直面している問題の解決に力を貸してならないのか、決定的理由はなにもないとおもわれる。勧告的意見に関する
裁判所規程第六五条の許容的性質にもかかわらず、ただ決定的理由のみが、本裁判所をして、この間題で、行政裁
判所規程により、職員の司法的保護のために設けられた制度の運営を危くする、消極的態度をとらしめうるにすぎ
ないであろう。どんな表見的ないし名目的な平等の欠如も、その主要な目的をあいまいにし、またそれを無効にす
︵獅︶
ることを許されてはならない。﹂
150
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
一一反対意見の推論の分析
パ レ
各反対意見の趣旨は共通しており、以下のように要約しえよう。
⑥ 行政裁判所の上訴審としての機能をIcJに与える提案は、サン・フランシスコ会議で否決されており、当事
㈲ ユネスコの仲介は職員の事実上及び法的な平等を確保するものではないし、口頭手続きは争点の明確化に必要
者適格や適用法規等の点でIcJ規程が予想・準備していないものである。
なものである。
⑥ 職員はICJの意見要請の資格がなく、行政裁判所規程第一二条は当事者間の明白な不平等を確立するもので
ある。
④ 国及び国際機関は、IcJ規程第六六条に従って口頭手続への参加を要請できるのであり、意見付与の拒否権
を有することにもなりかねず、裁判所をディレンマに追いこむ。
三 考 察
本稿の文脈からは次の点に注意を引きたい。すなわち、本件における意見付与に対しては合理的と考えられうる反
対理由が存在するにもかかわらず、多数意見が具体的便方の中に事実上の当事者平等を見い出そうと努めた点である。
この点についてエリュi・ラウタ㌧ハハトは次のように述べる。
﹁ここで裁判所の考察した争点は、厳密にはもちろん、機構の権能の決定に関するものではない。しかしながら、
裁判所は、[I﹂o行政裁判所規程及びIcJ規程という権能創設の]文書によって決定されるべき自らの管轄権
151
一橋大学研究年報 法学研究 19
の範囲という問題に直面していた。そして⋮⋮重要なことは、裁判所は、国際組織とその職員間の関係を規律する
制度の目的の完全な達成に必要であるという根拠に基づいて、自らに一層広い行動範囲を与える解釈を採用したこ
とである。﹂
︵鵬︶
ここでは、国際組織の一般的利益に結ぴつくべきものとしての目的の考慮が重要な役割を果たしていると思われる。
︵鮒︶ 本勧告的意見については、以下のような文献がある。国巽身一∼ミ詠§ミ§。、馬富﹂斜§蝋ミ⇔受ミ焼ミ︾&§§馬o﹃ミ恥トい
9︸↓壽﹂§梼ミ黛O黛ミ§。、ミ亀ミミ醤ミ帖§ミ9ミ∼。、∼§∼§禽Oミ&塾録触象9ひH胃ド廼oo竃●炉ρ呂o。︵一。鶏︶一
8ミミ脳、9≧向動09層﹄ミ笥偽§物ミ∼ミ受憂鎗8&賭恥、寂黛N訪釜q>同召男>著>閉禺男o肩を↓身蜜昌02﹀Fいooい
∪。■8鼠旨。β9ミ恥賊ミミミミ騨§ミ恥辞斎駐Rー鳶聴§ミ的§﹃ミぴ§ミ&ミミ婁ミ母辞馬、9卜8物ミ謹慧蕊
︵鯉︶ 構成は、ハックワース︵裁判長︶、バダウィ︵副裁判長︶、バドヴァン、ゾリシス、リード、アルマンド・ウゴン、コジェ
︵一〇uひ︶⋮鍔中爵臣島・η﹂円臣■睾oo<男竃器国竈5く爵弩身H貿男曇目身きo智塗一N>目02。。︵這令︶●
フニコフ、ラゥターパハト、モレノ・キンタナである。
︵脳︶註身。qo豆巳自。昌一且σQ§器。h些。匿巨酵什﹃即馨①↓菩∈巨g芽。H目げ。ヨ豊。口巴寓ぎ貫○お畳切やけ一8・2口
︵脇︶ 構成は、ウィニァルスキi、クレスタッド、カーン、コルドヴァである。
oo日豆巴算の冨区。>αq巴富什9。d鼻&2畳8の国98江8巴一ω。一¢・昏。ゆ呂o巳耳巴○おき一N毘op[む象]H。ρ﹄。。。ρ
皆川﹃判例要録﹄二 八 五 − 六 頁 。
︵鰯︶ ミ層暮o。¶9皆川﹃判例要録﹄一八頁。
︵聯︶ 弍‘葺o。9皆川﹃判例要録﹄一八−九頁。
︵雄︶留ミ“・る二。“−㏄︵≦一昌酵畳︶し8−嵩︵一︷一9。的酔器︶ヒわ−U︵民鼠・︶騨邑一頓軌ム。。︵9鼠。奉︶●
︵瑚︶ い即暮o壱8算”簑、ミβ08ひo。り暮おド
152
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
︵㎜︶
第二款 国際連合行政裁判所の判決第一五八号の再審査請求
国際連合職員ファスラ氏は、契約の延長を求めて、行政裁判所に請求を提出した。一九七二年に行政裁判所は判決
を下したが、ファスラ氏はこの判決に異議を提起し、行政裁判所判決再審査請求委員会に申し立てた。同委員会は、
行政裁判所の判決第一五八号の再審査請求には、行政裁判所規程第一一条に言う実質的根拠があると決定し、国際司
法裁判所の勧告的意見を要請することになった。裁判所は、一〇票対三票で勧告的意見の要請に応じる旨決定した。
︵㎜︶ ︵罰︶
一 多数意見の推論の分析
ω 多数意見は、行政裁判所の判決を再審査するための手続として導入された行政裁判所規程第一一条を全文引用
した後に、当該条項の手続の合法性・妥協性に若干の疑いが表明された旨に触れた。そして、本件が当該手続に基づ
く最初の機会である故に、本裁判所の意見を与える権限及び意見を与える妥当性についてまず検討すると述べる。
働 意見を与える本裁判所の権限︵手続の合法性︶に関して。
第一に、規程第三四条が係争事件に関する裁判所の管轄権を国家間紛争に限定しており、個人が訴訟当事者である
事件の司法的再審査に勧告的管轄権は、利用されえないと主張される。多数意見は、ILO行政裁判所に関する一九
五六年の意見に依拠して、背景に存在する紛争とは無関係に裁判所の任務は提出された間題に答えることであり、そ
の手続で論議されるのが国の権利でないという事実だけでは規程第六五条の明文をもって付与された権限を奪うのに
十分ではありえないとして、当該主張を却下する。
第二に、意見を要請する行政裁判所判決再審査請求委員会の適格性が問題とされた。まず、当該委員会は憲章第九
六条により勧告的意見を要請することができる﹁国際連合の機関﹂の一つと見なされるような団体ではないと主張さ
153
154
れた。多数意見は、次のように述べて、この主張を却下する。
生ずる法律間題について﹂勧告的意見を要請すると規定するが、第一一条が当該委員会に意見の要請を許可している
第三に、当該委員会の適格性は、別の形でも問題とされた。つまり、憲章第九六条第二項は﹁その活動の範囲内で
員関係を規律する総会の権限は、本裁判所による前記裁判所の判決の再審査を開始するための仕組を設けることを
︵蹴︶
目的とした機関を創設する権限をも包含することになる。﹂
な審判を行なうため裁判所を設ける権限﹄を包含していると判断した︵ま♪℃己。。・︶上の推論から必然的に、職
り、総会は職員関係を規律する権限を与えられていることを指摘し、そしてこの権限は﹃機構と職員との間で公平
ではない﹄と明言した︵Hρい園名o.一の一3♪や9・︶。しかし同時に、本裁判所は、憲章第一〇︸条第一項によ
法的任務を付与しておらず﹄、総会が行政裁判所を設けたとき、それは﹃それ自身の任務の遂行を委任していたの
なるほど、国際連合行政裁判所が下した補償裁定の効果に関する意見において、本裁判所は、憲章は﹃総会に司
である。
を設ける総会の権限に加えられた唯一の制限は、当該機関が﹃その任務の遂行に必要﹄なものであるべきことだけ
際、第二二条は、明文をもって、特別の機関の必要を評価することを総会に任せており、同条によって、補助機関
ある。それゆえ、補助機関を設ける総会の権限に縮少解釈を下すことは、憲章の明瞭な意思に反するであろう。実
えている。右の二つの条文とも、その目的は、国際連合がその目的およぴ任務を効果的に遂行できるようにするに
る。さらに第二二条は、明文をもって、総会に対し﹃その任務の遂行に必要と認める補助機関を設ける﹄権限を与
では最も幅のある表現で、﹃必要と認められる補助機関は、この憲章に従って設けることができる﹄と規定してい
﹁憲章第七条は、﹃機関︵○賊αQ餌昌︶﹄という題目のもとで、第一項に六つの国際連合の主要機関を挙げた後、第二項
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
﹁法律間題﹂は﹁その活動﹂ではなく、行政裁判所の活動の範囲内で生ずるものである、と。
多数意見は、第二条により委員会に委託された任務は、請求を受理し、実質的根拠の有無を決定し、肯定的な揚
合に勧告的意見を要請することである旨を確認した上で、次のように述べて、この主張を却下する。
﹁これらの任務から生じる委員会の活動の範囲は、明らかに狭いものである。しかし、第一一条に基づく委員会の
活動は、その活動が一部をなすところの職員関係の規律における総会の任務という一層広いコンテクストで観察さ
れなけれぱならない。これは、総会による、勧告的意見を要請するそれ自身の権限の委任︵α。一。σqp虹8︶ではない。
特別の任務を有し、その任務の遂行上、勧告的意見を要請する権限を付与された補助機関の創設である。.
実際に、委員会の主要な任務は、勧告的意見を要請することではなくて、各々の揚合に請求には実質的根拠があ
り、したがって勧告的意見を要請すぺきであるかどうかを決定するために、判決に対する異議を審査することであ
る。⋮⋮したがって、当該問題は、本裁判所の見解では、委員会自身の活動の範囲内において生じる問題である。
︵郷︶
なぜなら、行政裁判所の判決からではなく、委員会自身に提起された右の判決に対する異議から生じる問題だから
である。﹂
團 意見を与える妥当性について。この妥当性は、IcJの司法機関たる性格に関わり、司法手続を支配する原則
との両立性として問題とされた。
第一は、国々から構成された政治的機関である委員会が司法的審査の手続に挿入されている点である。多数意見に
よれば、委員会の任務の遂行と司法的手続の要請との間に必然的な予盾はなく、各々特定制度の事情や条件次第とさ
れる。本件では、委員会規則が任務の準司法的性質を考慮に入れていること、また、決定理由が述べられず傍聴も禁
じられることは望ましくないが、全体としての再審査手続からその司法的性質を奪うものではないこと、及びその他
155
一橋大学研究年報 法学研究 τ9
の理由から、多数意見は当該主張を却下する。
第二に、手続開始の権利を当事者ではない加盟国に付与している点については、多数意見は、本件が職員の請求か
ら生じている故に関連性を有しないとして却下する。
第三に、職員と事務総長・加盟国との間の本来的な不平等については、多数意見は、一九五六年のILO行政裁判
所に関する意見を想起して、現実的平等を確保する適当な手続により匡正されうるという見解を維持した。
の手続における裁判所の任務は、事件を審理しなおすことではなく、提出された問題に答えることである。自分の見
第四に、本件は実質的に係争事件であることが強調されるが、多数意見によれば、本件手続は勧告手続であり、こ
解を提出する公正・平等な機会を当事者に確保し、十分な資料を入手するという要件は本件では満たされたとされる。
第五に、勧告的意見が拘束的である点についても、多数意見は、一九五六年意見に依拠して、その効果は当事者間
の独立した文書から生じるのであり、意見を拒否する理由とはならないとする。
ることを拒否すべき決定的理由はないという結論に達する。
以上のようにして、多数意見は、第一一条の手続の合法性と妥当性のいずれの側面においても、意見の要請に答え
一一個別意見・反対意見の推論の分析
本稿の文脈においては、特に紹介すぺき推論はないと思われる。個別意見・反対意見の重要な点は多数意見の検討
の対象とされており、次の考察で若干言及すれば十分であろう。
三 考 察
156
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
ω 本意見において、再審査請求手続の合法性が間題とされた。多数意見は、﹁補償裁定﹂事件の黙示的権限の推
論に依拠して、本件においても、職員関係を規律する総会の権限は、再審査手続の開始を目的とした機関を創設する
権限を包含すると判断した。同様に、委員会の主要な任務は請求に実質的根拠があるか否かを審査することであり、
本件は委員会自身の活動の範囲内で生じる間題であるとした。
勧告的意見を与えるべきでないとした三人の反対判事は、いずれも委員会の適格性を反対理由の一部としている。
例えば、オニエマ判事は、職員関係を規律する総会の権能の有効な行使として委員会の創設を承認しながらも、第一
︵躍︶
一条の四つの根拠は委員会の狭い活動範囲で生じえないとする。グ・判事は、委員会は本来の制度的意味における機
関ではなくて不定期の集まり或は会議にすぎないし、委員会の活動は請求を裁判所に送るか送らないかであって、送
︵舗V
られる法律間題は委員会の活動とは全く関係ない、とする。
こうして、反対意見の趣旨に照らして見れぱ、多数意見は、総会の権能と委員会の任務のいずれをも、機構の目的
の実 効 的 遂 行 と い う 観 点 か ら 積 極 的 に 理 解 し て い る 。
ω 委員会の適格性は、司法的原則との両立性からも問題とされた。多数意見は、基本的に一九五六年のILO行
政裁判所事件での意見に立脚し、制度に内在する不平等も現実的平等を確保する適当な手続によって匡正されうると
した。この点での多数意見の一連の推論は、司法的要素との根本的予盾がない限り、再審査制度を可能な限り機能さ
せようとする強い目的指向性に導かれていると考えられる。実際、アレチャガ判事は次のように述ぺる。当該司法的
再審査制度の本質的特徴は、効力の争われる判決は、IcJによってその異議が十分に根拠あるものと認定されると
きにのみ、国連機関によって無効と扱われうる点にある。再審査請求委員会のような機関が手続開始の任にあたると
︵欝︶
いう事実は、この前進的一歩をくじくほどの重大な欠陥と考えられないし、当該制度の目的を阻害すべきではない、
157
一橋大学研究年報 法学研究 19
158
と。多数意見のこのような目的指向性は、次のようなグ・判事の立揚によって浮きぼりにされる。グ・判事は、意見
を与えるか否かは各事件の個別事情ごとに判断するという多数意見と同一の立場に立ちながらも、﹁適正な司法の要
求﹂に照らして否定的結論に達しているし、再審査手続は﹁くじ引き︵一9霞δ︶﹂ではないとまで述べて政治的機関の
恣意性・秘密性を批判しているのである。
︵節︶
︵鮒︶ 本勧告的意見については、以下のような文献がある。園信N苓卜.a蔑硫S誤ミ鳳ミ母辞ミ9ミ篤ミミ蓉欺§ミ魯∼§畿驚§轄
風ミ、ミミ凝§諜馬.§帖§魯ミ魯§§魯謄惹、ミ§ミ帖§§凄躊§恥ミ㌔こ恥&ミ&§ミ鼠ミミ詮ミ黄警砺≧ミ焼§砺
qミ3ミ︾2乞ご≧召男﹀客噸≧のu国o召昌一竃国勾乞君一〇2き総O︵一〇蕊︶・
︵㎜︶構成は、ラックス︵裁判長︶、アムーン︵副裁判長︶、フォースター、ベンゾン、ディラード、ドゥ・カスト・、アレチャ
︵蹴︶ 構成は、グロ、オニエマ、モロゾフである。
ガ、ウォルドック、シン、ルーダである。
︵躍︶ >身厨oqO℃ぎ一g8︾℃筥一8二8臣o賊園o≦o毛o一冒壽oBo暮乞o■凱o。o津箒q三8匹2四窪8ω>α昆三9β識くo目二9奉ど
﹄野緯辱命皆川﹃判例集﹄一五八ー九頁。
ロ鶏呂Hρ一﹂認占●皆川﹃判例集﹄一五七−八頁。
国際連合行政裁判所の判決第二七三号再審査請求
︵珊︶
ミこ舞舘㌣9応09●
歳4NaI命
ロゼーヌも否定的である。Oo・園8塁畜・目臣■>≦>客σ勺震o目B曾畠国舅目”客嵩δ乞︸いOOq胃$O︵這訟y
ミこ緯獣沖い器ミ旨蕊‘暮認o。︵冨990<y委員会が勧告的意見を要請する法律問題が委員会の活動範囲内かについて
ミ‘緯BNIoo,
翅哲は沓む響
第三款
(( (((
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
モーティシェッド民は、一九八○年一〇月に国連行政裁判所に訴えを提起し、行政裁判所は、判決第二七三号でそ
の訴えを支持した。一九八一年に合衆国政府は、国連の法律顧問代理に書簡を送り、行政裁判所規程第一一条に基づ
いて、行政裁判所判決再審査請求委員会に対して国際司法裁判所の勧告的意見を求めるように要請した。一九八一年
に再審査請求委員会は、行政裁判所規程第一一条に従って、同年に下された行政裁判所の判決第二七三号の再審査請
︵脚︶
求には実質的根拠があると決定し、国際司法裁判所の勧告的意見を要請することになった。国際司法裁判所は、九票
対六票で勧告的意見の要請に応じる旨決定した。
︵獅︶
一 多数意見の推論の分析
ω 多数意見は、一九七三年意見と同様に、勧告意見の要請に応ずる権限を有するか否か、要請に応ずぺきか否か
を審査する。
権限については、第一に裁判所の司法的任務との両立性、第二に憲章第九六条との両立性の観点から再審査手続を
検討する必要性を指摘しながらも、いずれについても、一九七三年意見の立揚を修正すべき根拠はないとする。
働 要請に応ずべきか否かについても、一九七三年意見と同じ検討を始める。
まず、委員会が政治的機関であることと司法手続の要求との両立性は各特定制度の事情や条件によって決まるとし
て、一九七三年意見と同様の立揚に立つ。この関連で、本手続で加盟国︵合衆国︶が再審査請求を提出することで演
じた役割は、原訴訟手続への第三者の参加であり、司法手続の根本原則に反すると主張された。多数意見は、第一に、
加盟国は再審手続の開始に法律的利害関係を有すること、第二に、加盟国が請求を提出した揚合でも、一旦委員会が
その請求に実質的根拠があると決定すれば、勧告的意見の要請は、その加盟国ではなくて委員会から出ることを指摘
159
一橋大学研究年報 法学研究 19
する。
に、勧告的意見の拒否が行政裁判所の判決の地位を不確かなものにするであろうことが主張された。多数意見は、一
次に、勧告的意見の範囲との関わりから、第一に、勧告的意見が係争問題に関して終結的効果をもつことが、第二
九七三年意見或は一九五六年意見に基づいて、これらの主張が意見拒否の理由にもならず、意見の内容にも影響しな
いと指摘する。
また、加盟国がイニシァチヴをとって委員会に訴えることは、憲章第九七条に基づいて機構の行政職員の長である
事務総長の権限を侵害し、事務局の国際的な性質に関する第一〇〇条に抵触するとも主張された。多数意見は、加盟
国の講求が、行政裁判所の判決が終局的になるのを遅らせることを認めるが、これは再審査手続の発動がもたらす通
常の結果であるにすぎないと指摘する。
最後に、当事者平等の原則が扱われる。多数意見は、一九七三年意見において外観的名目的平等の欠如ではなくて
現実的平等の確保を重要視したことを想起し、本件においても、当事者の見解提出の公正・平等な機会及び正義の執
行を可能とするに十分な資料という要求が満たされていることを確認する。
偶 しかし、間題は、単に裁判所の前での平等に限らず、委員会の介入を伴う再審査手続の段階でも検討されるぺ
きとされる。再審査手続では、一方当事者−国際連合1が、相手当事者である職員が出した再審査請求の運命を、
政治的機関の意見を通じて決定する権利を有している。さらに、再審査請求委員会の構成国が請求提起国である揚合
には、当該政府は、自ら請求を提出し、討議に参加し、表決にも参加しうるのであり、この根本的不平等が実際的レ
ペルでも存在するかの検討が以下なされる。
まず、行政裁判所の構成に関する正規性欠敏が指摘される。すなわち、裁判所規程に基づいて三人の裁判官によっ
160
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
て構成されるぺきにもかかわらず、四人の裁判官が着席していたのである。多数意見は、過去において多くの揚合何
の説明もなしに三人をこえる裁判官が出席して開廷してきたのであり、この慣行に異議が唱えられたことはないこと、
及びこの構成は、一見したところ、何ら不公正な裁判に帰結していないことを指摘するにとどまる。
次に、委員会の手続における多くの著しい正規性欠鮫が指摘される。
第一に、再審査請求委員会の構成国であるシエラ・レオネがその資格のないカナダによって交代され、しかもカナ
ダは委員長に決定された。さらに、この委員会の不適当な構成はいずれの書面陳述でも問題とされなかった。
第二に、合衆国の請求は、その宛先が誤っていた上に、請求の根拠を示すぺき旨の仮手続規則の要件にも合致せず、
形式的暇疵があった。その結果、モーティシェッド氏弁護人は、結局委員会が選択した二つの特定根拠に対してあら
かじめ論評を加えることができなかった。多数意見は、この形式的暇疵は理論的レベルで設定された不平等を実際的
レベルで悪化させた も の で あ る と 考 え る 。
第三に、合衆国の請求が審査された委員会の手続に参加する機会を与えるように求めるモーティシェッド氏の弁護
人の要請を委員会が容れなかったことは、委員会の準司法的任務という観点からは驚くぺき正規性欠飲であった。多
数意見は、委員会は、本件のような揚合には、請求国と職員との間の理論的レベルにおける基本的不平等を緩和する
ために、合衆国の参加を差し控えさせる等の措置をとる義務があったと指摘する。
圏 以上のような正規性欠峡にもかかわらず、そして委員会が準司法的任務を遂行する機関にふさわしい平等への
配慮を示さなかったにもかかわらず、多数意見は、裁判所が国連機構を援助する任務を受け入れなけれぱならないと
考える。本稿の文脈において重要であるこの理由は次のようなものである。
﹁確かに、本件における手続を始めから終りまで特徴づける正規性欠歓は、本裁判所がこの要請を審査のため受理
161
一橋大学研究年報 法学研究 19
162
することを拒否するための﹃決定的理由︵8旨℃o臣お話霧o濡”声﹃8ω衆o芭く霧︶﹄をなすものと認めることがで
きるであろう。しかし、国際連合が最高の実例である国際組織の安定性および能率は、世界秩序にとってきわめて
重要なものであるから、本裁判所は、国際連合総会の補助機関がその活動を堅固、かつ、確実な基礎におくことで
援助を怠ってはならない。司法的役割を危くされ、信用を損なうことは、本裁判所が、要請を審査のため受理する
ことを不適当とする決定的理由であったであろうが、本件はそれに該当せず、したがって、裁判所は、司法的抑制
︵甘島o巨器の窪巴暮”欝8凱巨3怠9甘巳o巨お︶の考慮により、要請された意見を与えることが阻止されるべきだ
とは思わない。本件において、そのような拒否は、実際上総会の権威に挑戦した行政裁判所に対するきわめて重大
な申立を未決定のまま放置することになるであろう。上記二六節で指摘したように、本裁判所の自由裁量に対する
いかなる制限も間題とはなりえないが、裁判所は、係わりあう重要な法的原則を最終的に解決するために、﹃機構
の活動に対する参加﹄を拒否するつもりはないが、同時に、裁判所は、さまざまな正規性欠献を指摘しなけれぱな
らない。本裁判所が、その真に司法的な任務を遂行することができるのは、これらの正規性欠訣から身をかわすよ
︵矧︶
うに思われることによってではない。﹂
二 個別意見・反対意見の推論の分析
本稿の文脈においては、特に紹介すべき推論はないと思われる。 個別意見・反対意見の重要な点は多数意見の検討
考察
の対象とされており、次の考察で若干言及すれば十分であろう。
一一
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
本稿の文脈では、多数意見が、勧告的意見の付与を拒否する﹁決定的理由﹂をなすものと認めることができる多く
の著しい正規性欠敏の存在にもかかわらず、あえて拒否すぺきではないとした理由に注目したい。ここには、﹁国際
連合が最高の実例である国際組織の安定性及ぴ能率﹂のために裁判所は援助を怠るべきではないという強い目的指向
性がある。票数が九票対六票と大きく割れたことに示されるように、又多数意見自体が認めるように、本件において
意見の付与を拒否すぺき主張には強力な根拠があると言える。このような状況にもかかわらず、多数意見があえて拒
否すぺきではないとしたことは、国際組織の安定性及ぴ能率に対する目的指向性が如何に強いものであるかを示して
いると考えられる。
この点を特徴づけるものとして、次のようなルーダ判事の意見が参照される。
﹁裁判所は、意見を付与する主要な理由を、﹃国連総会の補助機関がその活動を堅固、かつ、確実な基礎におくこ
とで援助すべき﹄必要に基づかせる。疑いなく、これは、裁判所が保護すべき非常に重要な価値である。⋮⋮[し
かしながら、勧告的意見の服する限界は]、勧告的管轄権を行使するときでさえ、裁判所は、依然として裁判所で
あり、そのようなものとして、この再審査過程のあらゆる段階において司法的過程の要求を保護することを第一に
義務づけられるという事実から生じる。私にとって、これは掛酌すべき至高の考慮であり、裁判所の任務の正に本
質が、国連機関への援助の必要の故に、犠牲にされることはできない。意見の付与は裁量的権能内である故に、裁
判所は、本件において、いずれの価値が一層重要であるかを選択しなくてはならない1国連の他の機関への援助
︵魏︶
か、再審査手続の司法的性格の要求の保護か。﹂
︵麗︶ 本勧告的意見については、以下のような文献がある。↓国く臼巳9卜.§融S漠ミ∼ミ徽§ぎ9ミ帖ミ馬§ミ帖§ミ籍、§ミ恥
§8楓ミ馬ミ己艶§義W、§ミ誉ミ辞§§誉辞﹃螢ミ§ミ焼§ミ蘭鷺§驚ミ醤。ミ隔§舅ミミ醤ミ&ミ帖ミ防融ミ徽辞恥
163
一橋大学研究年報 法学研究 19
≧ミ帖§q這題︵§箋馬ミミ誉詳恥yNo。>乞累q﹀一禺第﹀著ヒω目舅o一↓壱円男z>↓︻ozき$N︵一〇〇。N︶⋮菊言凶ひ噸ト、§携“§−
砺ミ瓠ミ織魯ミGoミ帆ミミ醤ミ帖§ミ魯、誤畿驚織黒NO風巽ミミ這o。い野義﹄、“瀞ミ恥蔚ミ辞§9醤辞魯慢母ミ§ミ帆§織裳凄鴨§馬ミ
㍉ミ矯ミ﹃こ守§ミ&§戚ミ向聴ミ受替的≧ミご義qミ3一〇〇一〇舅z>■uこ舅o胃一蕎男z>目ozき︵ρq之国︶団ひ︵這o。⇔y
︵晒︶ 構成は、エライァス︵裁判長︶、セッテ・カマラ︵副裁判長︶、ナゲンドラ・シン、モスラー、アゴー、シュヴェーベル、
ジェニングス、ドゥ・ラシャリエール、ムパイエでいる。
︵捌︶ >α≦8蔓○喩巳88︾℃三一8甑8臨o﹃幻o≦o≦9冒岳ヨo算20■N蕊9夢①d巨匿畠Z簿δ房>自言ぎ馨β怠<o早ぎ巨葺
︵㎜︶ 構成は、ラックス、モロゾフ、ルーダ、小田、エル・カー二、ベジャウィである。
[60。呂Hρ一乙ミーo。。皆川洗﹁資料 国際連合行政裁判所の判決第二七三号の再審査請求﹂︵﹃国際法外交雑誌﹄第八三巻第
第六節 小 括
︵魏︶ ミこ暮鴇下oo。
一号、一九八四年︶一一〇頁。
一 は じ め に
ω 本章で展開した一六の判例の分析から、如何なる結論を導きだすことができるであろうか? 第一章︵序論
問題の所在︶において結論を先取りする形で既に指摘したように、筆者は、判例は明確なまとまった理論を提示しう
る十分な段階には質的にも量的にも未だ達していないと考えている。確かに、判例分析に加えた考察は、各事件が比
較的豊かな含蓄を有することを示している。こうして、都合の良い部分を使った体系的理論の構築への誘惑にかられ
ることになる。判例研究に基づく学説の中には、統一的かつ詳細な理論を構築しているものもある。しかし、そのよ
︵蹴︶
うな理論には疑問点も多く、一面的とも思われる。そもそも設立文書の解釈枠組みが、何らかの一貫した体系の支配
164
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
の下にあるのか自体が、まず問われなくてはならないであろう。
以下の小括においては、本稿の問題点にアプ・iチする際の足掛かり・枠組みとして確認できるものを提示すると
共に重要な争点と考えられるものを指摘することにしよう。なお、各判例分析において国際組織設立文書の解釈との
関わりで様々なコメントを加えたが、それらをここで繰り返すことはしない。判例分析全体を通して基本的に共通し
て言える論点に限られる。
③ 小括に先立ってここでは、判例分析の鳥徹図を示すために、各判例における票数を多数意見及び少数意見の主
要な判事名と共に図示しておこう。
︿反対意見﹀
︿多数意見V︹一二票対二票︺ ︿反対意見V
総会の権限事件︵隅九五〇年︶
加入条件事件︵一九四八年︶ バダウィ・パシャ等
︿多数意見﹀︹九票対六票︺
︵当事国意思主義的アプ
ハックワース アルヴァレス
︵文言的アプ・ーチ︶ ︵目的論的アプ・ーチ︶
マクネァ、リード
・iチ︶
︵文言的アプ・ーチ︶
ハックワース
ドゥ・ヴィシェ等
マクネァ、リ﹃ド アゼヴェド
目的論的アプ・ーチ︶
︵文言的及ぴ ︵文言的アプ・iチ︶
︿多数意見﹀︹九票対三票︺ ︿反対意見﹀
補償裁定の効果事件︵一九五四年︶
ウィニアルスキー等
ウィニアルスキi等
︿反対意見﹀
損害賠償事件︵一九四九年︶
︿多数意見﹀︹一一票対四票︺
︵文言的アプ・ーチ︶
クルイ・フ
ハックワース
︵目的論的アプローチ︶
ドゥ ・ ヴ ィ シ ェ
マクネァ、リード等
165
ω国連の監督権限
︿反対意見V
ハックワース等
︿多数意見﹀︹一二票対二票︺
166
マクネァ、リード
ウィニアルスキー等
マクネァ、リード
︵文言的アプ・ーチ︶
ドゥ・ヴィシェ
︵目的論的アプ・ーチ︶
︿反対意見﹀
ある種の経費事件︵一九六二年︶
︿多数意見﹀︹九票対五票︺
ハックワース等
︿反対意見﹀
図交渉義務
ウィニアルスキー
コレツキー
田中 、 ジ ェ サ ッ プ
スペンダi、モレッリ
︿多数意見﹀︹八票対六票︺
ドゥ・ヴィシェ
バドヴァン等
ハックワース
クルイロフ、ゲレロ
︵目的論的アプ・ーチ︶
︵否定︶
マクネァ、リード
︵文言的アプ・ーチ︶
ウィニアルスキー
︿多数意見﹀︹全員一致︺ ︿個別意見﹀
表決手続き事件︵一九五五年︶
バダウィ・パシャ等
スペンダー
︵否定︶
ウィニアルスキー等
フィッツモーリス等
ω設立文書の目的論的解釈
︵肯定︶
多数意見 スペンダー
③機構の機関の実行の意義
︵肯 定 ︶
多数意見
ハックワース、リード クレスタッド
︵文言的アプ・ーチ︶ ラウターパハト
会
が
最
終
的
に ①総
解 釈 ”スペンダー、モレッリ
ゥィニァルスキー等 バドヴァン
偶憲章の解釈権限の所在
② 合 憲 性 の 推 定 が 働 く“多数意見、フィッツモーリス
︿多数意見﹀︹八票対五票︺ ︿反対意見﹀
聴聞の許容性事件︵關九五六年︶
南西アフリカの国際的地位事件︵一九五〇年︶
③ 加 盟 諸 国 に 帰 属 す る“ウィニアルスキー
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
︵目的論的アプ・ーチ︶
ハックワース
リード、クレスタッド等
南西アフリ力事件︵一九六二年・
ω一九六二年
.・ドヴァン
バダウィ等
︿個別意見﹀
ラウターパハト
一九六六年︶
︿共同反対意見﹀
スペンダー
︿多数意見﹀︹八票対七票︺
ジェサップ、バダウィ
︿反対意見﹀
フィッツモーリス
モレノ・キンタナ
ウィニァルスキー
コレツキi、アルファロ
顧維釣等
モレッリ等
ナミビア事件︵一九七隅年︶
︿反対意見﹀
ω違法”終止の義務
く多数意見V︹一三票対二票︺
︵文言的アプ・ーチ︶
フィッツモーリス
︵目的論的アプ・ーチ︶
カーン、ディラード
グロ
同右に加えて
︿反対意見﹀
ラッハス、アレチャガ等
図 加盟国・非加盟国の義務
く多数意見V︹一一票対四票︺
同右
ペトレン、オニエマ
︿反対意見﹀
IMCO事件︵日九六〇年︶
︿多数意見﹀︹九票対五票︺
カーン、ペトレン
︿反対意見﹀
モレノ。キンタナ等
クレスタッド
︿反対意見﹀
ICAO事件︵一九七一一年︶
︵文言的アプ・ーチ︶
︿多数意見﹀︹八票対七票︺
︵目的論的アプ・ーチ︶
③一九六六年
︵文言的アプローチ︶
フィッツモーリス
︿多数意見﹀︹一三票対三票︺
ωIcJ管轄権
ネルヴォ等
コレツキi、顧維釣
ジェサップ、田中
スペンダー、モレッリ
フィッツモーリス、グロ
ウィニアルスキー等
167
ノ
大学研究年報 法学研究 19
一・
ラックス、アレチャガ
オニエマ
ラックス、アムーン、シン グロ
ティラード、アレチャガ オニエマ
ドゥ・カストロ等
ハックワース、バダウィ ウィニアルスキー
︿多数意見﹀︹九票対四票︺ ︿反対意見﹀
ーLOAT事件︵一九五六年︶
ウォルドック、ルーダ等 モロゾフ
︿反対意見﹀
モロゾフ、シン
図ICAO理事会の管轄権
く多数意見V︹一四票対二票︺
同右
WHO事件︵一九八O年︶
モロゾフ
UNAT二七三号事件︵一九八二年︶
ラゥターパハト等 力iン、コルドヴァ
リード、バドヴァン クレスタッド
ウォルドック
ラックス、ルーダ、小田
︿反対意見﹀
エライアス
モスラi、アゴー
︿多数意見﹀︹一二票対六票︺
フォースター
エル・エリアン
ジェニングス等 小田、エル・カー二
モスラi、シュヴェーベル モロゾフ、ベジャウィ
エライアス、シン、アゴー ラックス、ルーダ
︿多数意見﹀︹九票対六票︺ ︿反対意見﹀
シン
︿反対意見﹀
UNAT一五八号事件︵一九七三年︶
条約文言の第一次的重要性
︿多数意見﹀︹一〇票対三票︺
二
ω そ
、 条約文言が十分に明確であれば、多くの揚合争いの対象とはならず、裁判所に付託されないことが
も
そ
も 或は十分に明確ではなかったと言うことができる。
指摘され
な い 。 確かに、一六の事件のほとんどの場合において、争点に直接関わる条約文言は存在しな
な
く
て
は
な
ら いか、
168
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
③ 例外は総会の権限事件である。ここでは、憲章第四条第二項の文言の明確さの故に、立法論を展開した二人の
判事を除いて﹁実際上、全会一致﹂で文言的アプローチが採用された。加入条件事件において多数意見の文言的アプ
・iチを批判した六人の反対判事も、本件においては準備作業への依拠と共に立法論的目的論を却下し、多数意見の
、 、 、 、 、 ︵捌A︶
文言的アプ・ーチに同意している。こうして、条約文言の明確さが間主観的に十分であれば、その文言的アプ・ーチ
の結果が機構の実効性確保を促進するか否かの考慮から基本的に独立して、条約文言の尊重の考慮が支配的要因にな
る。ある種の経費事件における﹁裁判所は、条約の解釈に一般に適用される原則や規則に従ってきた﹂という指摘の
通りである。通常の条約の解釈枠組みにおいて文言の考慮が決定的な指導理念として機能するのと同様に、国際組織
設立条約の解釈枠組みにおいても、明確な条約文言の尊重は支配的な指導理念として機能すると考えられる。この結
ヤ ヤ ヤ
論は、加入条件事件における多数意見の文言的アプ・iチとIMCO事件における多数意見の文言的アプ・ーチとに
︵捌︶
よって支持されると言える。
三 解釈の指導理念と具体的解釈方法
ω条約文言の第一次的重要性の留保のもとであるが、一六の事件のほとんどを通して、国際組織設立文書の解釈
における指導理念は、機構の実効性確保であると言えよう。具体的には、国連職員の機能的保護権、司法裁判所とし
て行政裁判所を設置する総会の権限、平和維持活動を展開する国連の財政的権限、委任統治地域に対する国連の監督
権限、監督の具体的実施を確保する手続と権限、ICAOの望ましい活動のための援助、WHOの目的を促進するた
め誠実に協力する義務、等の争点を機構の実効性を確保する仕方で推論している。さらに、一連の行政裁判所判決事
件において、特に国連行政裁判所判決第二七三号事件においては勧告的意見の付与を拒否する﹁決定的理由﹂の存在
169
170
を認定しながらも、国際組織の安定性及ぴ能率のための援助を優先させたのである。
地位事件における交渉義務の存否をめぐる目的論的アプローチと文言的アプ・ーチとの対立と後者の勝利である。こ
て機能し、機構の実効性確保に役立つ目的論的アプ・;チを除外するのである。典型的には、南西アフリカの国際的
確保という指導理念を制約する揚合があることも認めなくてはならない。ここでは条約文言が一定の解釈枠組みとし
鰯 しかしながら、既に提示した文言の第一次的重要性︵明確な条約文言の尊重という指導理念︶が機構の実効性
効性確保に有益な効果をもたらしうることが指摘されなくてはならない。
とを必要に応じて適宜使用している。ここでは文言的アプ・iチも、解釈の対象となる条約文言次第では、機構の実
なる。実態は、機構の実効性確保という指導理念に基本的に基づきながら、目的論的アプ・ーチと文言的アプ・ーチ
個 こうして、国際組織設立文書と目的論的アプローチとを短絡的に結ぴ付けることは誤りであることが明らかに
対立を機構の実効性確保の指導理念の下に統合するために問題の解釈︵代替︶を行った。
ビア事件において目的論に依拠した。WHO事件においては、第三七条の適用説︵目的論︶と不適用説︵文言︶との
的論に依拠し、第三抗弁で文言に依拠した。南西アフリカ事件︵一九六六年︶において必要性の議論を却下し、ナミ
おいて目的論に依拠した。甫西アフリカ事件︵一九六二年︶においては、第二抗弁で文言に基づく主張を却下して目
事件における国連の監督権限については目的論に依拠し、表決手続事件において文言に依拠し、聴聞の許容性事件に
行政裁判所の性質認定には文言に依拠し、総会の設立権限については目的論に依拠した。南西アフリカの国際的地位
すなわち、加入条件事件において文言に依拠し、損害賠償事件において目的論に依拠した。補償裁定の効果事件では、
という解釈の指導理念の下で、目的論的アプローチと文言的アプ・ーチを必要に応じて適宜使い分けているのである。
似 他方で、具体的な解釈方法の多様性が指摘されなくてはならない。すなわち、多数意見は、機構の実効性確保
一橋大学研究年報 法学研究 19
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
れらの二つの指導理念の間の調整は、 争点に直接関連する条約文言の明確さがどの程度の間主観性を有するかという
基準に基づくと推定される。
四 設立文書の解釈枠組みをめぐる対立の存在
ω 本稿第二章第四節において概観した学説の対立が再現されたと、或はむしろ学説の対立は判例における判事間
の同様の対立の反映であったと指摘することができよう。設立文書から離れた自由な立揚に属する判事は、アルヴァ
レス、アゼヴェド等極少数に限られ、判例の直接的結果にはほとんど影響を及ぼしてはいないと思われる。他方で、
条約解釈の枠組み内に限定する厳格な立場と設立文書を基礎とする機能的な立揚との対立は、大部分の判例において
顕在化したといえる。例えば、損害賠償事件における多数意見と反対意見︵ハックワース等︶の対立、補償裁定事件
における同一の対立、南西アフリカの国際的地位事件における国連の監督権限をめぐる多数意見と少数意見︵マクネ
ァとリード︶の対立、交渉義務をめぐる多数意見と反対意見︵ドゥ・ヴィシェ等︶の対立、ナミビア事件における多
数意見と反対意見︵フィッツモーリス等︶の対立、WHO事件における第三七条の適用説と不適用説の対立である。
ω 以上のような対立の存在と多くの場合における機能的立揚の勝利は、次のことを示していると思われる。すな
わち、本稿第二章第三節で提示した通常の︵非設立的︶条約を対象とする条約解釈の枠組みに照らして解釈すれぱ、
その枠組みを越えて文言の修正と考えざるをえない解釈が問題となっていた。そして機能的立揚の勝利は、国際組織
設立文書の解釈が通常の条約解釈の枠組みとは若干異なった解釈枠組みの支配の下に置かれるようになってきている
ということである。この設立文書に固有な解釈枠組みが如何なるものであるかについては、必ずしも十分に明らかで
︵瓢︶
はない。ドゥ・カスト・判事等が少数意見の中で多少の議論を展開させているが、幾つかの複雑・困難な論点が関わ
171
ってくることは明らかである。判例分析の中で言及された若干の点について以下に指摘しよう。
ていく。組織の実効性を確保するという考慮と共に、組織自体の一貫した実行が、設立文書の解釈に何らかの影響を
から独立した国際組織の基礎となる一方で、組織自体も自らの判断で設立文書の関連規定を解釈し、実行を積み重ね
③ しかしながら、他方で、﹁組織的﹂要因を排除することもできないと考えられる。設立文書は、個々の加盟国
依拠した理論は、現実の説明力の点で、無視することのできない価値を持っていることを認めなくてはならない。
立文書は、﹁制度﹂の中でも体系としての統合程度の高いものであろう。その意味で、設立文書の﹁制度﹂の側面に
③ 伝統ある﹁制度理論﹂に依拠するシモンの主張は、一定の説得力を持っていると言える。有機的組織を伴う設
実施のために条約起草者の選択した手段として組織的構造を伴うとしても、﹁組織的﹂要素は、法的制度の本質的要
︵捌︶
素からは程遠い。法的制度は、目的実現に充てられた相互依存的規範の全体として分析されなくてはならない、と。
れた法的体系︵本来の意味での﹁制度﹂︶を生みだしうる唯一の条約ではない。もし国際的制度の創設が、共通目的
はなく、条約体系の統合程度と呼びうる複雑な基準なのである。設立条約は、相対的自律性と特定の構造とを付与さ
めていないのであり、解釈方法の選択における決定基準は、設立条約と通常の条約とを対立させる﹁組織的﹂基準で
力の機構と統合の機構︵EC︶との間にも、又設立条約と通常の条約との間にも解釈推論に関して絶対的な区別を認
考察はシモンの長大な書物である。シモンは判例の詳細な分析の後に次のように結論する。すなわち、裁判官は、協
ω 本稿第一章第二節︵若干の学説発展史︶において紹介したように、本問題の今日までの研究の中で最も詳細な
国 ﹁組織的﹂要因の関連性と制度理論
五 設立文書に固有な解釈枠組みに関わる若干の論点
一橋大学研究年報 法学研究 19
172
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
及ぽし得ると考えるのは合理的な推定である。﹁組織的﹂要因を却下するシモンの主張の慎重な分析は、その根拠が
︵矧︶
必ずしも十分に説得的でない二とを示している。ある種の経費事件において、裁判所は機関の実行に大きく依拠し、
スペンダー判事等はこれを強く批判した。設立文書の持つ﹁制度﹂の側面に加えて、﹁組織﹂の側面をも考慮するこ
︵㎜︶
とが不可欠であると考えられる。
一一時際法と設立文 書
ナミビア事件における多数意見とフィッツモーリス判事との対立の根本には、時際法の問題があったと言えよう。
時際法とは、一般的にはパルマス島事件の判決を引用して、﹁法的事実は、それに関する紛争が生じる時、或は解決
される時に有効な法にではなく、その事実と同時代の法に照らして、評価されなくてはならない﹂という法理として
理解されている。確かに、多数意見は、国際文書はその解釈の時に広く行われている全体の法体系の枠内で解釈され、
︵脚︶
適用されるべきと主張し、フィッツモーリス判事は、合意締結時における当事者の意図の探究を主張した。このよう
ヤ ヤ ヤ
な時際法の適用の適否をめぐる対立の基礎には、委任状の法的性質を如何に理解するかという争点が存在すると思わ
れる。すなわち、フィッツモーリス判事が委任状の条約︵契約︶的側面に依拠するのに対して、多数意見は、制度的
側面に依拠し、定義上発展的な観念を具体化するものとして、委任状を理解しているのである。こうして、設立文書
に対する時際法の適用の適否の問題が議論される必要がある。また、先に指摘した設立文書を解釈・適用する機構の
機関の実行の問題︵﹁組織的﹂要因の問題︶も、設立文書の締結後の実行を設立文書の解釈において如何に位置付け
ヤ ヤ ヤ
るかという視点から見れば、時際法の問題と結びついていると思われる。
三 国際組織の対外的機能と対内的機能との区別
ω 黙示的権限の法理の適用範囲さらには設立文書の解釈理念にとって、対象となる権限や活動が当該組織の対外
173
一橋大学研究年報 法学研究 19
的機能に関わるものか、或は対内的機能に関わるものであるかの相異は、如何なる意義を持つのであろうか。
図 肯定的主張がある。例えぱ、フィッツモーリス判事は、ナミビァ事件の反対意見の中で、黙示的権限の法理に
対する制限的な理解を示して、それなくしては機能できないような純粋に内部的対内的手続き的な行政権能のみに黙
示的権能を限定した。また、モラヴィエツキは、この区別の背後にある理由を次のように説明している。対内的機能
︵㎜V
においては、機構の存在・存続・効率的機能が問題となり、機構への参加の事実から論理的に導き出される不可欠・
最低限の義務が関わるにすぎない。そしてこれらの義務は、比較的に限定的であり、加入時に予測可能である。対外
的機能においては、高度の不確定性が伴い、国々が広範囲の黙示的権限を承認したと見なすことはできない。こうし
︵蹴︶
て、黙示的権限の法理の適用に関する限り、対外的機能と対内的機能とに異なる法原則を適用することが正当化され
る、と。
圖 この区別は論理的であり、その限りで説得的でもある。しかし問題もある。第一に、対外的と対内的の区別の
基準である。一見明白とも思われるが、具体的事例を分類し始めれば、必ずしも明白ではない。例えば判例分析にお
いて設立文書の解釈枠組みをめぐる対立が顕在化し、多数意見が目的論的アプロ;チをとった事件の争点を想起すれ
ば、職員の機能的保護権、司法裁判所として行政裁判所を設置する総会の権限等があるが、はたしてこれらを対内的
機能と考えてよいのであろうか。第二に、この区別は国際司法裁判所の多数意見の推論の分析によって支持されない
と考えられる。多数意見が目的論的アプローチをとった平和維持活動を展開する国連の財政的権限や委任統治地域に
対する国連の監督権限を対内的機能と考えるのには無理がある。また、前記のフィッツモーリス判事の主張が反対意
見であった事実がこの点を示していると言えよう。こうして、この区別は、論理的ではあるが、問題を残してもいる。
四 設立文書の解釈権限の所在
174
国際組織設立文書の解釈プ・セス(二)
ある種の経費事件において、国連憲章の解釈権限ー他の機関及び加盟国を法的に拘束するという意味での有権的
解釈権限ーの所在をめぐる意見の対立が存在した。判例分析においては、対立の存在を指摘するに留まり、それ以
上の検討は控えた。誰が解釈するかの間題は、如何に解釈するかの問題と不可避的に結ぴついている。条約の解釈が
法の解釈としての性質を持ち、解釈者の実践的な価値判断を少なくとも部分的に含む以上、解釈プ・セスの分析には、
解釈権限の所在をめぐる検討は不可欠である。他方で、この解釈権限の所在をめぐる問題は、設立文書中の関連規定
の有無及ぴその内容に依存するものであり、状況は各設立文書によって異なる。こうして、様々な設立文書の実証的
比較的考察がなされる必要がある。
六 疑問点”判事の推論における国貫性の欠如
先に図示した判例分析の鳥瞼図は、少なくとも本稿の問題意識からするならぱ、若干の判事の推論が一貫性を欠い
ていることを示していると思われる。これは、個々の事件における様々な要因、さらには各判事の有する国際法観等
からの説明の中に求められるぺきであろうか。例えば、損害賠償事件と補償裁定の効果事件とにおいて文言的アプ・
iチに依拠して反対意見を述べたハックワース判事は、南西アフリカの国際的地位事件において国連の監督権限に関
して目的論的アプ・;チに依拠する多数意見に属する。逆に、前二事件において目的論的アプ・iチに依拠した多数
意見に属するマクネァ、リード両判事は、後の揚合に文言的アプ・ーチに依拠して対立する。ある種の経費事件にお
いて目的論的アプ・ーチを展開したスペンダー判事は、南西アフリカ事件︵一九六二年・一九六六年︶において保守
的な立揚に立つ。ある種の経費事件おいて目的論的な多数意見に属するフィッツモーリス判事は、ナミビァ事件にお
いて文言的アプ・ーチに依拠した長い反対意見を述べている。以上の例に示されるような一貫性の欠如と一見思われ
175
一橋大学研究年報 法学研究 19
︵卿︶
るものが、設立文書の解釈枠組みをめぐる以上の結論に如何なる影響を有するかは、 明らかではない。
︵珊︶例えば、シモンである。拙稿︵注1︶七八頁の注︵68︶及ぴ七五頁の注︵62︶及ぴ本稿注︵謝︶を参照。その他、以下の
oヵo>z一ω>↓6zoo 2目国”2>目oz>r国oo︵一〇$y ω曾男oqく国菊−寓﹀竃国国>ざ ■国の oo竃℃幣↓国20国oo ⋮国8旨悔切o国oo o刀o>z一の>目o∼ω
ものを参照。︸■男日宰ダ甘霞ヨ9δ該。。莞目召亀δzき田田8竃客旨oご雷ω得80需完≧詠。n8語目昌2田o霧
毫目召>ゴo客>嵩ω︵這8︶,Qo巳OP吋鳶ミ。ミ9ミ鳳﹄蓑ミ恥﹄ミミ憶匙ミ軌§&9誤ミミき馬S§ミ魯♂岩>竃・一・舅目、r
年︶二八八、三一三i二二頁。
■㍉£︵這ay古川照美﹁国際組織に対する国際司法裁判所のコント・ール﹂︵﹃国際法外交雑誌﹄第七八巻第三号、一九七九
︵捌A︶裁判の客観性の文脈の中において、碧海教授は﹁明晰さ﹂の概念を次のように説明している。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
ヤ ヤ
﹁・⋮ある概念⋮⋮が﹃明晰である﹄ということは、一般的に言えば、任意の事物や事象︵行為をふくむ︶の名称を告げら
である、と言ってよいであろう。﹂碧海純一﹁裁判の客観性についての覚書﹂︵﹃ジュリスト﹄第五五四号、一九七四年︶三
れたぱあい、その事物・事象が当の概念の外延に属するか否かについて人麦のあいだに高度の間主観的一致が得られること、
︵捌︶ ロゼーヌも文言の第一次的重要性を承認していると思われる。ロゼーヌは、裁判所に付託された解釈問題を以下のように
四、三五頁。
分類し、コメントを加える。まず、権限の付与の問題に関わるか否かという基準によって大きく二つに分ける。第一の権限付
与に関わらない揚合においては、争点は設立文書の条約的要素に関わるものであり、裁判所は条約文言に表明された条約的要
素に対する当事者意思の発見に依拠する保守的態度を採用した。例えば、航空機撃墜事件︵一九五九年︶やIMCO事件であ
る。第二の権限付与に関わる揚合においては、裁判所は条約的要素及ぴそれに対する当事者意思を関連性のないものとして無
ヤ ヤ ヤ
視し、憲法解釈の技術を用いて設立文書をあるがままに解釈した。ここで重要なことは、まず、設立文書自体から直接に︵必
要であれば、普通の注釈的︵臼品&。巴︶方法の適用による﹁解釈﹂によって︶回答が与えられるか否か、という先決的間題が
設定されることである。この先決的問題が肯定的に答えられる揚合には、問題はそれで終わる。例えぱ、総会権限事件である。
否定的に答えられる揚合にのみ、あらゆる解釈方法が利用されることになり、次の三つの特徴が指摘される。①準備作業及ぴ
176
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
原当事者の意思に対する無関心、②機関の実行も考慮した憲章全体の文脈の中での分析、③機関の実行に依拠し、機構の目的
文言の明確さが問主観的に十分であれば、その文言的解釈によって問題は終わることになる。菊89器\偽き恥q§防ミミ軌§
の完全な実施を目指す目的論的アプローチである。例えば、損害賠償事件やある種の経費事件である。こうして、設立文書の
Oo蜜ご三9Nδ蜜国曽qu一駆。一層$−o。O︵一8ひy
o、§噛ミミミミ帖§ミ♀窒§頓ミ賊§§、ミ恥§ミ帆§ミ↓還ミミ勾慧恥ミ帖§偽§ミ恥G&慧“ミ帖§o、き恥卜貸導o、↓§ミ萄漁這
︵獅︶ グ・スの意見では、裁判所は、①国連の主要機関として勧告的意見を与え、②国際法の機関として判決を下すという、二
重の機能を有する。そして国際法の解釈・適用に関するアプローチにおいても同様の二重性が対応しているという。すなわち、
国際法の機関としての機能では、関係国の同意に基づいて適用法を厳格に解釈し、司法立法に対しては極めて消極的である。
他方、国連機関としての機能では、国連憲章及ぴ関連文書を動態的に解釈していることを指摘する。この指摘は、本稿におけ
る①通常の条約の解釈枠組みと②設立文書の解釈枠組みとの区別にも対応していると思われる。もっとも、グ・スの論旨は、
連機関として憲章等を動態的に解釈する勧告的意見は無視されることが多いことを指摘するにある。すなわち、法的解釈にお
国際法の機関として関係国の同意に基づいて適用法を厳格に解釈する判決が一般に遵守されて実効性を有するのに対して、国
いて有効性︵実効性︶の原則を適用した結果が政治的解決において実効性を欠いているという皮肉な状況が存在する。こうし
てグ・スは、現在の分権的国際社会においては国家の同意が不可欠なことを強調し、裁判所の推論における目的論の突出に批
された設立文書の解釈枠組みが、国々によりどの程度まで法として受け入れられているかについて、慎重であるぺきことを示
判的である。確かに、目的論に依拠した勧告的意見が実効性を欠くことが多いという事実は、通常の条約の解釈枠組みと区別
器OIいρ鴇?ど台ω︵一8刈︶一U一窪ρN国ωω>話OzHz弓国力z>目02き一㌧毛>zoO菊O﹀置N︾目ozQo獣︵600高︶,
していると思われる。O﹃8のー↓ぎ噛ミミ3ミ&醤ミ9ミ馬皇∼§ミ恥§“ミ恥qミ馬匙≧ミご§り誌O男暑爵F田ω8q窃呂ρ
︵踊︶ ∪●oo⋮o1U、冨↓勇第曽>目oz壱冒9>一雷富。。男≧諒ωu.o器菱一ω自δ語毫鵠刃z﹀日δ釜島。。1竃o刀田98目o閣・。
︵卿︶ シモンは、第一部の結論において、国際司法裁判所の判例とヨー・ッバ共同体司法裁判所の判例の検討は二つの裁判所の
82く睾目o請胃8zQ﹃國oz旨罷望8δz之塁冨まα−O一︵一〇〇。一︶■
177
一橋大学研究年報 法学研究 19
間に、推論方法の点で根本的な相違がないことを示していると強調する。しかし、異質性の存在は否定するとしても、量的な
相違の存在は承認している。さらに、設立条約と通常の条約との相違については、設立条約の解釈が特別の解釈方法の使用に
いう司法政策を実施してきたことをはっきりと承認している。こうして、シモンは述べる。
よって特徴づけられるわけではないことを強調するけれども、裁判所が機構から任務の実効的実現に必要な手段を奪わないと
ように特徴づける否定し難い特殊性を示すものである。﹂糞”鉾ミρ
﹁国際裁判所の解釈実行のこの支配的方向は、明らかに、通常の条約と比較して﹃憲法的﹄指向性をもつ条約の解釈をこの
他方で、シモンは、裁判所が多様な解釈方法を使用することから、十分な証明なしに、判例が、機構の契約的起源と上位の
的﹂要素と﹁制度的﹂要素との相互浸透の結果であり、結局、問題はこの二つの要素の配分の程度であるとして、ここに条約
目的との両方の考慮或は均衡をめざす﹁慎重さ﹂や﹁明白な曖味性﹂を示していると、指摘する。そして、この理由は﹁関係
の連続性を認めることに行き着くのである。ミ■−暮ミ?o。■
以上のシモンの推論は、設立文書の﹁制度﹂の側面を論ずるものであり、﹁組織﹂の側面を論じてはいない。同様に、機構
︵㎜︶ 切ミ恥﹃恥、一■鎧秤臼饗。一詳一↓鳶oミ乳愚§馬ミo\ミ恥卜§。\﹄ミミ醤ミ帖§ミ孚窒ミ磯ミ軋§ミミ恥b&§§ωo、、ミミ醤ミ帆§ミ
の機関の実行の持つかもしれない意義も、関連部分︵ミ一暮鴇o。もど奪令参︶において十分に議論されているとは言えない。
肋聴&ミ馬§恥ミ§§ミ篭鳶織、ミ鷺ミ偽ミご漢帖ミミ貰ミ§ミ鼻ω冒o=20zo鵠o一〇一cω増禺ω℃男oq目一〇。N︵這o。高︶︸ω暮p
字き§ミ勲一器閑国8国F雷ω8q器鴇O︵一〇ま︶ 菊。ロ850§ミ§恥唖幾馬注。虜偽ミ誉醤ミ軌§魯..㌣ミ避§戚達ミミ畿§ミ♪、、
9ミ婁o、q§偽ミミミ、誤馬ミ§恥ミ恥&﹄ミミ醤ミ帖§ミミ讐獣Nミ蝋§肋きミ恥卜a6魚円§ミ帖塁ーミミいbミ識“ミミ葡&ミ恥§恥
︵掬︶ 一巴雪山o︷℃ρぎ霧O霧o噂N男国ア舅巳い>認胃召r>箸>琶切o。ωン鼻&ぎ娼﹀男く>zoO召z弓国zoく90蜜国目oUお−
&ミ恥之ミ帖§.、葬融器ミめミ塁o、ミ恥O、讐ミ磯ミ篤§、﹁”一ひエ旨o富c巽。。霞旨ダ簿℃or肩8ω霧︵むo。o。︶■
︵㎜︶ 本稿第三章第三節第五款のナミピァ事件における﹁ニ フィッツモーリス判事の反対意見の推論の分析﹂の凶を参照。同
目oz夷くo男身↓男2湾一〇z>ピ■﹀ミ一℃O︵這o。O︶,
様の考え方は、加盟国が機構に共同して資金を拠出する一般的義務にも適用された。9暑巴一・国図℃。房窃9郵簑、ミ目言N9
178
国際組織設立文書の解釈プロセス(二)
簿いOOQ﹄
︵蹴︶ 防器ミ旨03聲防奪ミぎ富No。μ簿。8,
︵蹴︶ 鼠o冨且8亘卜鵡ミ葡鵡§馬。、暮馬噛蕊馬§ミ馬§ミミ鴇ミ軸ミ焼§︾賦勺o仁。m=鴫.国。冒日、r炉コ,翼−o。O︵一〇〇。αy
一九八六年︶を以下のよう
* 本章の研究において、昭和六三年度文部省科学研究費補助金︵奨励研究A︶と昭和六二年度公益信託山田学術研究奨励基金
大学研究年報﹃法学研究﹄
、
助成金を受けた。
[訂正] ﹁国際組織設立文書の解釈プ・セスO﹂
に訂正する。
七七頁四行目 oP<3一︵G&yやまド←&・︿9一︵Gホyや罫
16
一〇一頁二〇行目 国際裁判所の機能のこの側の←国際裁判所の機能のこの側面の
一〇二頁一五行目 ω8器︸簑憾ミbg①℃G。←oo8昌ρ簑博ミ8富お
一〇三頁八行目 ω8器︸養博ミg富鶏←ωε器も惹ミ8εホ
同一八行目 国際法委員会条約草案←国際法委員会条約法草案
二五頁二行目 条的規定←条約規定
同八行目 有効性の原則で←有効性の原則や
一一九頁七行目 越える←超える
一三五頁一三行目、二圭ハ頁二行目、三行目、六行目 頭初←当初
179
(一
九九頁一一行目 ︵32︶注︵88︶及び︵m︶参照←︵32︶注︵38︶及び︵52︶参照
⑩⑨⑧⑦⑥⑤④③②①
一橋大学研究年報 法学研究 19
⑭⑬⑫⑪
一四二頁一二行目 [最後]草案←[最終]草案
一四三頁二行目 力を排揮する←カを発揮する
一五五頁五 行 目 基 本 的 ← 基 本 点
一七九頁一七行目 通用され←適用され
180