食育ソムリエNOW フードシステムでの食育活動の 可能性と今後の展開について JC総研 基礎研究部 主任研究員 か と う み き 加藤 美紀 はじめに 食育とは、単に摂取カロリーや栄養バランスに気を付 けた正しい食事スキルを身に付けるだけではない。食材 を通して農業や生産者のこと、 食文化を知り、 心豊か な食生活を実現することも含めるものだ。 高度化、 複 雑化により分断してしまった農と食の2つの世界を食育 がつなぎ、 食材を通して農業や生産者、 食文化を伝え ることこそこれからの時代に求められる活動といえる。 一方、農産物直売所が全国各地に広がり、消費者は いういでたちの一団がいた。 地域の新鮮で安心な農産物を購入する機会を得ること 第1回の食育プログラム参 ができた。農産物直売所は、消費者との交流拠点とし 加者たちである。 て期待を集めているが、現状では地場食材を販売する 今回の食育プログラムは、 機能を発揮するのみにとどまっている。 消費者の地場 ニンジンの間引き作業であ 食材への関心を地域や農業、生産者にまで広げるには る。 バスに乗り込み、農産 何が必要なのか。 JA千葉みらいとJA静岡市では、 物直売所へニンジンを出荷 個々に行われている栄養面での食育、 料理する視点で する生産者の嶌田氏の圃場 の食育、生産面での食育をフードシステムという一連の へと向かった。 千葉市とい つながりのなかで効率的・ 効果的に実践することで消 えば政令指定都市であり、都市近郊というイメージが 費者との連携を強化し、食文化や主体的な経済活動を 強いが、車を30分も走らせると、自然豊かな農地が広 地域に取り戻そうとする取り組みが行われている。 がる地域へと行くことができる。 参加者からも千葉市 本報告では、 こうした先進的な食育の取り組みを紹 ほ じょう にこういう場所があるとは知らなかったという声が聞こ 介し、 地域や農業の活性化につながる食育活動のあり えてくる。バスを降りると嶌田氏がお出迎えしてくれた。 方について考えてみたい。 圃場前の農道には嶌田氏の軽トラックが止まり、 荷台 には水の入った大きなタンクが載っていた。圃場で汚れ ① JA千葉みらい「しょいか〜ご」の取り組み JA千葉みらい「しょいか~ご」は、今年9月から4回 にわたり特産のニンジンをキーフーズにした食育プログ 46 た手や長靴の泥を洗うためにという嶌田氏の心遣いが とてもうれしい。農作業の傍ら、受け入れのためにい ろいろ準備してくださったことに頭が下がる。 ラムを企画している。 すべてのプログラムに参加した人 圃場に入る前に食育ソムリエの資格を持つ直売所の はニンジンの生産方法から流通、加工、消費までの一 店長からニンジン栽培の方法や種類などの講義を受け 連の流れを学習できる内容となっている。9月中旬の朝 る。 教室で話を聞くより畑で受ける青空授業はとても 10時、 買い物客でにぎわう店舗に長靴に日よけ帽子と 楽しいから不思議なものである。教育教材も写真など JC総研レポート/2014年 冬/VOL.32 【食育ソムリエNOW】 フードシステムでの食育活動の可能性と今後の展開について 食育ソムリエNOW を使ってとても分かりやすいように作られている。 JA 千葉みらいでは小学校の出張授業などにも対応するた め、自分たちで資料を作り、楽しく地域農業を知っても らえるようカリキュラムのストックがされているそうだ。 次に、 嶌田氏から本日の農作業について説明を受け る。農作業の中身は小さな苗を引っこ抜くという単純な うね ものであるにもかかわらず、参加者は汗を拭き拭き畝の 最後まで楽しそうに作業を進めていた。土に触れること や、 いろいろな人と話しながらする作業は働くこと本来 のうれしさや楽しさを実感させてくれるのかもしれない。 く風が気持ち良いことなどは圃場に行かなくては分から 間引き作業が終わると、嶌田氏のお宅におじゃまさせて ない感覚である。また、石原社長自らがレクチャーして いただけるという素敵な提案があった。 参加者が農道 入れたお茶の試飲会も好評であった。良質の茶葉で丁 を歩くこと5分、大きな農家のご自宅へ到着した。 コン 寧に入れたお茶は味わったことのない甘みがあり、多く テナと大きな板の即席テーブルには、新米のおにぎり、 の参加者から驚きの声が上がった。 お茶は農産物と違 旬の野菜のお料理が並んでいた。参加者は故郷の実家 い、 加工された形で消費者の手に届くものである。 加 を訪れたような感覚と、農家の食卓を味わえるという経 工前の形が見えにくい商品だけに、 生産から加工、 流 験に感動していたようだ。 生産の現場を知り、 農家や 通、 消費までを丁寧に伝えることが重要となってくる。 農業の価値を理解することが、生産者と消費者のより良 こうした食育がお茶の魅力を引き出し、新たなニーズを い関係づくりにつながることは間違いない。 生むことにつながるはずだ。 ② JA静岡市「茶業センター」の取り組み 食育を通して生産者と消費者の連携強化に向けて JA静岡市でも10月より4回の食育プログラムを企画 効果的な食育活動のポイントは、 生産者の思いを上 している。キーフーズはお茶。近年、消費量が低下傾 手に引き出し、消費者が興味を持つ形で情報を伝える 向にあり、かつペットボトルの普及により家庭で急須を 橋渡し役をJA担当者が担っていることにある。また、 使ってお茶を飲む機会が減少していることから、JA静 食材とともに、 地域、 生産者、 農業の情報を食育とし 岡市 「茶業センター」が食育プログラムを考えたもので て伝えていることも重要である。まさにJAにしかできな ある。本物のおいしさや正しいお茶の入れ方を伝えるこ い食育活動といえる。 と、 生産からお茶になるまでの工程、 さらにお茶畑の 景観を1つの価値として伝えるという内容である。 フードシステムでの食育活動は消費者の意識を大きく 変え、食だけでなく農業や環境などへと関心を広げるこ 第1回は茶畑の散策と秋摘み新茶の収穫体験を実 とが期待できる。加えて、生産者にとっても消費者の反 施した。 約15人の参加者が、 午後1時にJA直営の直 応をじかに知ることができるので、 食文化や農業、 環 売所に集合し、バスに乗り約30分で茶畑に到着した。 境の価値を再発見できるようだ。食や農業に関する問題 農業生産法人ネクトの圃場をお借りしたお茶のワーク 意識の共有と問題解決に向けた取り組みを消費者と構 ショップが行われた。 ネクトの石原社長から秋に摘む 築できるフードシステムでの食育をぜひみなさんの地域 新茶の特徴や摘み方を教えてもらい、 参加者はお茶の でもすすめてほしい。 消費者による地域支援型農業が 木や葉に直接触れながら新茶の収穫を楽しんだ。茶畑 国内外で注目されている今、 食育をツールに“食 ”と で新茶を収穫後、 お茶が荒茶になるまでの工程を見学 “農”をつなぐ活動に期待したい。 した。 お茶の花がきれいなこと、 お茶には丸い堅い実 がつくこと(これがまた、とてつもなく苦い) 、茶畑に吹 【食育ソムリエNOW】 フードシステムでの食育活動の可能性と今後の展開について JC総研レポート/2014年 冬/VOL.32 47
© Copyright 2025