渡辺 篤史 - 代官山音楽院

 ・管楽器技術者を志したきっかけ
なった点などはしっかり伝え、次につなげられるようにし
私は管楽器を高校に入ってから始めました。今、代官山音
ます。また、修理をする際にオーナーには予算という辛い
楽院に通っている多くの学生は中学校から始めている人が
懐事情もあります ( 笑 )。
多いと思います。中には小学生時代から経験している人も
少なくないと思います。私の場合は中学校の頃は音楽から
離れた環境に居ましたから、音楽のイロハを全て高校に
入ってから学びはじめました。
そんな中で、高校 2 年の時に進路をどうするかという話題
になった時、その当時私は部活一辺倒だったので特に何も
考えておらず、
『さぁどうしよう?』という状態でした。
そんな時に部活の顧問の『お前は楽器の修理とかやればい
いんじゃないのか?』という一言に流され、鵜呑みにして
今の私があります。
ただ、卒業してから恩師の顧問の先生からは楽器修理をで
きる人が身近にいると助かるなぁという、安易な考えだっ
たと言っていましたが、当時の私は物を直したり、壊した
楽器として良い状態にするのには、お金が掛かるのは当然
りする事が好きだったので、自分の心にスイッチを入れた、
です。でも、その楽器の良い状態というのは、あくまでオー
とても心に強く響き残っている言葉です。
ナーの考えが一番優先度が高いと思っています。どうして
それから、壊れた楽器を直している人を見ていると、単純
も、私たち技術者は技術的に良い状態を固定観念でお客様
にかっこいいなぁ〜、自分にもできるんじゃないかなぁ〜、
に押し付けてしまう事が多いんです。なので、前述したよ
という考えが強くなり高校 3 年になって直ぐに本格的にに
うにオーナーと沢山話をして、説明をして理解してもらい、
楽器修理の道に進もうと決心しました。
私自身もオーナーの事をよく理解して、最良の状態を創造
し ( 考え出し ) て修理をする様に心がけています。付随す
リペア工房を訪ねて
渡辺 篤史
る事なのですが、私は修理後の吹奏検査は本当に少ししか
しません。長く ( 私は平均 1 分かけません ) 吹奏検査をす
ると、自分の好みを追求し始めてしまい、オーナーの意向
が反映できなくなってしまうからです。実は、この事は管
楽器の工場に指導や検品に行っても同じことを念頭に置い
て行なっています。日本の様に物が豊かで月給で働いてい
る人が多い工場と海外の工場では雇用形態や考え方、楽器
についての知識など大きく違っています。その点を理解せ
ずに、仕事をしてしまうと国も人間性も風習も違う海外で
の仕事は信頼を得る事が出来ないと私は考えています。
講師(夜間科担当)
・独立するにあたって、必要だと感じるものは
・管楽器技術者の仕事で大切なこと
本当に難しい質問ですね ( 笑 )。沢山あると思いますよ。
質問の趣旨から外れてしまうかもしれませんが、私個人が
たとえば『お金』
、というのは冗談ですが、おそらく一番
楽器を修理する ( 造る ) 時に最も大切にしている事 ( 念頭
必要とされるのはチャレンジする心だと思います。独立と
に置いている事 ) を、お話しします。
いうのは、様々な事を自分で責任を持ち、判断し、実行す
グローバル管楽器技術学院卒業。都内楽器店で勤務後、島村楽
器株式会社に入社。店舗にて管楽器全般に対して小学生からプ
それは、その楽器のオーナー ( これから使うであろう人 )
る事が必要になってきます。その時、何より求められるの
ロまで幅広い年齢とジャンルを対象に修理や改造を手掛る。在
職中は島村楽器商品開発課を兼務し海外の管楽器工場で製品開
の国や環境、音楽のジャンルや風趣などを常に考える事で
は自分がその仕事をやってみようとするチャレンジ心では
す。
ないでしょうか?独立すること自体はそんなに難しい事で
中学生と大人、始めて半年の方と 20 年以上の経験者とで
は無いと思います。でも、今まで自分がやって来なかった
は使い方も感じる物も、使われる環境も大きく違ってきま
事をやって行かなければいけないし、技術面でも誰も教え
す。私の中では楽器のオーナーが最も気持ちよく使える状
てくれる人が居ない訳ですから、出来る、きっと出来ると
態にする事が、最も重要だと考えているからです。そのた
自分を信じて『まず、やってみるか!』とチャレンジする
め修理をした楽器の状態や内容の説明には多くの時間を費
心が必要になってくるのだと私は考えています。ただ、人
やします。サックスのオーバーホールをした時なども気に
間は誰かに教えてもらわなくても、チャレンジする事で進
渡辺 篤史
発や指導も行い、海外工場技術者からの信頼も厚い。また管楽
器の修理技術以外の知識や技術も豊富である。現在は当学院夜
間科を担当しながら、Forestone Japan 製造 / 開発責任者として
国内での楽器組み立てから海外展示会での顧客対応、海外楽器
店やプレーヤーの技術サポートや技術指導を行い、更に自己の
工房を運営しジャンルを問わず修理を行っている。
歩・進化する生き物だと思いますから、基本的には誰でも
・入学を検討されている方へメッセージ
一定の技術と強い心があれば出来ると思いますよ。
修理技術者というのは、技術力です。ですが、それ以上に
心が大切な職業です。代官山音楽院では多くの講師がこの
・リペアマンとしてのやりがいとは
大きな心を持って授業・指導をしています。もし、自分の
今、私は修理の業務の他に新品のサックスの組み立て、調
夢を叶える道に代官山音楽院があるのであれば、まず学院
整も行っています。その中で修理 ( リペア ) という点でや
に来て見学し講師や在校生の声を聴いてみてください。自
りがいというと、やはり修理して代金を払って頂きながら
分の夢が実現できる夢だと必ず確信できると思います。
尚且つ感謝されるという事の嬉しさだと思います。堅い事
をいうと、修理の世界もビジネスです。修理品を持って
来て下さる人はお客様ですよね。そんなお客様が修理の代
金を支払い、さらに直ったことに感動し、感謝をしてくだ
さる事が多くあります。簡単に言えば、これがリペアマン
のやりがいとして最も大きなところでしょう。他にも、修
理した楽器で楽しそうに演奏している方や本番直前に壊れ
てパニックに陥っていた学生の楽器を修理し、コンクール
本番で自分の実力を出し切る演奏をしている学生さんなど
を見る事も、この修理で得た情報や技術を新製品に活かし
ていく事が出来るという点も大きなやりがいの一つですよ
ね。
・講師業務について
講師として、基礎の伝授と修理をする技術者として知って
いてほしい事や忘れてほしくない事をしっかり伝える事だ
と思っています。学生は出来なくて当然なので、出来るよ
うになってもらう為にはどうしたらいいか?これが最も難
しい点で今でも毎日勉強です。言葉と行動の両方、時には
無言も必要な場合もあります。上手く行かない学生が悩む
のが、とても辛い事もあります。でも、学生は皆、夢を持っ
て入学してきています。その夢を実現させるためには、厳
しい事も言う勇気を持ち、夢を膨らまして現実にしてもら
う事をいつも願って授業をしています。実は、楽器を直す
事より、圧倒的に学生に技術を教える事の方が知識も技術
も必要なんです。ですから、私の知識や技術は入学してく
れた学生のおかげでもあるんです。日々、学生に感謝、そ
の上で厳しい授業と指導、そして試験ですかね ( 笑 )