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尋常性痤瘡治療における
十味敗毒湯の桜皮配合の意義
尋常性痤瘡のような化膿性皮膚疾患に用いられる十味敗毒湯は,華岡青洲に
よって創製された漢方処方である.その処方には桜皮
(ヤマザクラの樹皮)が配合
されているが,出典の違いから桜皮の代わりに樸樕(クヌギの樹皮)が用いられる
こともある.
これまで十味敗毒湯の作用機序は,荊芥,甘草などの生薬による抗菌作用が主体
と考えられてきた.それらに加え新たに桜皮による皮膚局所でのエストロゲン様
作用および線維芽細胞からのエストロゲン分泌亢進作用も関与していることが
示唆された.
今回われわれは、更に桜皮には痤瘡の制御に働く,5α-リダクターゼ阻害作用,
P.acnesに対する抗菌作用,リパーゼ阻害作用およびSOD
(Superoxide Dismutase)
様活性を有することが推察されると考え検討した.
遠野弘美ほか.別冊 BIO Clinica 3
(2): 124-131, 2014
2014年12月作成
GR-105
痤瘡形成因子と桜皮の作用点
桜皮のリパーゼ阻害作用
痤瘡形成には男性ホルモンのテストステロンを活性型のジヒドロテストステロン
(DHT)
にする5α-リダクターゼ活性が
高いこと,アクネ菌
(P. acnes)
の増殖,炎症増悪の原因でもあるリパーゼ作用や活性酸素など多面的な因子が関与して
いる.十味敗毒湯の構成生薬の一つである桜皮には,抗炎症作用や鎮痛作用があることから皮膚疾患に有用であると
考えられている.
アクネ菌が産生するリパーゼは,皮脂中のトリグリセライドを分解して脂肪酸を遊離し,この脂肪酸の刺激により放出
された炎症因子は皮膚を刺激して炎症や角化を亢進させ痤瘡を悪化させる.
■ 桜皮熱水抽出エキスは1mg/mLの共存でリパーゼ阻害作用が確認された.
120
基礎研究で明らかになった桜皮の主な作用点
遊離したオレイン酸量
男性ホルモン
5α-リダクターゼ
DHT
皮脂腺の活性化
5α-リダクターゼ阻害
P. acnesに対する抗菌
女性ホルモン様作用
皮脂分泌の亢進
(%)
リンパ球の誘引
遊離脂肪酸の産生
10
40
8
菌数
阻害率
(log)
7
添加濃度(mg/mL)
5
4
試験方法
テストステロンに5α-リダクターゼ粗酵素液,桜皮
熱水抽出エキス,
β-NADPHを加えて37℃で30分間
反応後,HPLCによりテストステロン濃度を測定した.
50
40
30
20
10
0.003
0.005
0.01
0.02
医療法人社団智徳会志木駅前皮膚科外来を訪れ,尋常性痤瘡と診断された女性患者44例に対し,クラシエ十味敗毒
湯エキス製剤6.0g/日・分2と外用薬にクリンダマイシンリン酸エステル製剤を12週間併用投与した.全般改善度は皮
膚所見を5段階で評価し,著明改善68.2%
(30/44例),改善9.1%
(4/44例)
で改善以上は77.3%であった.なお,調
査期間を通して調査薬剤に起因すると思われる副作用は認められなかった.
1
0
テトラゾリウム塩XTT還元の阻害活性により
SOD様活性を検討.
XTTを50%阻害するときの桜皮熱水抽出エキス
濃度を測定した.
60
桜皮配合十味敗毒湯の臨床効果
6
2
2
(%)
試験方法
濃度(mg/mL)
3
1
桜皮熱水抽出エキス 桜皮50%エタノール
*
(1mg/mL)
抽出エキス
(1mg/mL)
70
0
桜皮熱水抽出エキス
(5mg/mL)
桜皮50%エタノール抽出エキス
(5mg/mL)
対照
9
XTT還元の阻害活性
■ アクネ菌に対して桜皮抽出エキスの共存により
経時的に菌数の減少が確認された.
50
0
対照
80
テストステロンは皮脂腺に存在する5α-リダクターゼにより生理活性の強いDHTに転換され,DHTは皮脂腺を刺激して
皮脂分泌を亢進,角化細胞の角化亢進を起こす.これにより増殖したアクネ菌(P. acnes)
は,遊離脂肪酸を産生し,
白血球の遊走に基づく炎症反応を引き起こす.
10
* n=3
20
■ 桜皮熱水抽出エキスは5μg/mL程度と比較的低濃度でSOD様活性が認められた.
SOD様活性
桜皮の5α-リダクターゼ阻害作用およびアクネ菌に対する抗菌作用
(%)20
40
活性酸素は痤瘡の発生,進行,瘢痕の形成に非常に深い関わりを持つ.この活性酸素の毒性を軽減するSODの働きは
生体防御において重要な役割を果たす.
リパーゼ阻害
治療
30
60
桜皮のSOD様活性
炎症性の痤瘡
■ 桜皮熱水抽出エキスは2mg/mLの濃度で
約25%の5α-リダクターゼ阻害作用を示した.
トリオレインからのオレイン酸遊離量を測定
することでリパーゼ活性を算出.
トリオレインに桜皮熱水抽出エキスおよび桜皮
50%エタノール抽出エキスとリパーゼ溶液を
加え,37℃で30分間反応させ,産生した遊離
脂肪酸を銅試薬法で定量した.
80
0
角栓の形成/コメド形成
P. acnesの増殖
試験方法
100
0
6
12
時間
18
24
試験方法
P. acnes JCM6425を用い,桜皮熱水抽出エキス
および桜皮50%エタノール抽出エキスを5mg/mL
となるように培地に加えて経時的に菌数を測定した.
30
これまで十味敗毒湯の痤瘡に対する作用機序は,荊芥や甘草など抗菌作用が主体と考えられてきたが,
それらに加え桜皮による皮膚局所でのエストロゲン様作用や5α-リダクターゼ阻害作用,アクネ菌に対する
抗菌作用,リパーゼ阻害作用およびSOD様活性を有するなど新たな作用が確認された.十味敗毒湯には
出典の違いにより一部構成生薬の異なる製品があるが,今回の検討から桜皮が重要な役割を担っている
ことが考えられる.