失敗事例との対比で学ぶ! サービス担当者会議で求められる 「段取り力」 「連携力」 「プレゼン力」 どうしてうまくいかないの? サービス担当者会議が失敗する理由と改善ポイント 梅原利光 UMEHARA_Toshimitsu 三島総合病院附属介護老人保健施設 介護福祉士長 三島市錦田地区地域包括支援センター センター長兼主任介護支援専門員 介護保険制度では, 「高齢者の自立支援」 「利用 を共有できずに進むことになります。 者本位のサービス利用」が基本理念とされ,これ この会議の目的は,事務的確認と言えます。ケ を実現するサービス提供の手法としてケアマネジ アマネジャーは,サービスをスムーズに提供する メントが制度的に位置づけられています。サービ ために調整はしていますが,サービス事業者の意 ス担当者会議においても,利用者本位で進めるこ 見を重視するあまり,利用者や家族を説得したり とが求められます。 します。場合によっては,利用者や家族ができな しかし,多くのケアマネジャーに聞いたところ, いことを強調して,サービスが入るように調整し ①利用者本位ではなく「サービス担当者本位の会 たりします。 議」であることが明らかになりました。そして, このような調整は,サービス事業者側からは配 その会議の特徴として,②ケアマネジャーが目的 慮ある調整に見えますが,利用者や家族は置き去 なく迷走してしまうことや,③ケアマネジャーに りにされ,無視されたという印象を持つものです。 目的があるのに結果が出ないということが起こっ 利用者や家族の思いが反映されないままサービス ています。 が提供された場合,サービス提供している時に, そこで,本稿では,①~③の内実を明らかにし 利用者や家族からクレームが生じるケースもあり た上で,どのようにしたらそれを防止・改善でき ます。 るのかを紹介します。 筆者は,このようなサービス担当者会議を「サー サービス担当者会議が失敗する 理由とは? あるサービス担当者会議において,ケアマネ 2 2010年3月日本福祉大学大学院社会福祉学研究科社会福祉 学専攻修了。社会福祉士,精神保健福祉士。静岡県介護支援専 門員連絡協議会研修委員,静岡県介護支援専門員主任介護 支援専門員演習指導者,三島市介護支援専門員連絡協議会研 修委員,社会福祉士実習指導者。 田中千枝子編集代表,日本福祉大学大学院質的研究会編集: 社会福祉・介護福祉の質的研究法―実践者のための現場研究, P.117∼131,中央法規出版,2013.の執筆担当。 ビス担当者本位の会議」と呼んでいます。 サービス担当者本位の会議を 発生させる要因 ジャーは,サービス事業者との事務的な確認作業 サービス担当者本位の会議に陥る要因は,2つ が主になってしまい,利用者や家族の思いを十分 あります。1つ目は, 「目的がなく錯綜する」こ に引き出せず,メンバーに伝えることができませ とです。2つ目は, 「目的が果たせなくて錯綜す んでした。そのため会議は,利用者や家族の思い る」ことです。 達人ケアマネ vol.9 no.3 図1 失敗事例から得られた事前すり合わせのプロセス 目的がなく錯綜する会議 ―事前準備の不足が要因 サービス内容の確認など,事前に ある程度事業者とのすり合わせが 必要であった。 事前すり合わせ の必要性を認識 する 事前に気になる点は,メンバーに 確認し,すり合わせをする習慣を 身につける。 事前すり合わせ を習慣化する 事前の情報収集用紙を作成して,情 報収集をしたら,すり合わせが楽に なった。 その後, するようにしている。 事前すり合わせ の方法がある サービス担当者会議の後,何を目的に集まった のか分からないとメンバーが思う会議では,司会 を務めるケアマネジャー自身が会議の目的を明確 にとらえていないまま参加しています。そのため, 会議の場において,目的を明確化するための情報 を収集するなどします。また,ケアマネジャーは 目的を明確化できていないので,いちいちサービ ス担当者の意見に揺らいでしまいます。そして時 間がなくなり,ケアマネジャーは議論をまとめる トを提案します。それは,①事前準備の大切さを ことができなくなってしまいます。 認識し,その具体策として,②ケアマネジャーと メンバーにとっては,このような会議は,具体 しての準備,③メンバーへの準備をすることで 的なことが話し合えず,結論がない会議となり, す。そして,④面接のスキルアップをする,⑤方 利用者や家族にとっては,疲労する会議になって 法論でスキルを補うことです。 しまいます。 ①~③については, 「準備」としてまとめるこ 目的が果たせない会議 ―スキルと方法論のなさが要因 とができます。④と⑤については, 「技術」とし てまとめることができます。準備はケアマネジャー あるサービス担当者会議において,ケアマネ の資格を持っている方であれば十分にできること ジャーは,サービス内容の統一を図るという議題 です。しかし,スキルについては,ある程度の経 のつもりで行いましたが,細かい介助法などいろ 験が必要になるかもしれません。そのため,まず いろな対応があり,細かいところに論点が集中し は準備ができるようになることを提案します。 てしまいました。この会議は,ケア内容の改善を 目的としていましたが,情報交換で終わってしま 事前準備の大切さを認識し, 行動につなげる い,得策が見いだせない結果となりました。 準備の中で大切なことは,ケアマネジャーが事 このように,議題が拡散した場合は,司会者で 前準備の大切さを認識して,それを行動に移して あるケアマネジャーは,収拾がつかないという経験 いけるようにすることです。 をしています。その理由は,ケアマネジャーのファ 図1の「失敗事例から得られた事前すり合わせ シリテーション能力が低いからと考えています。 のプロセス」は,筆者の知るケアマネジャーたち サービス担当者会議の改善の ポイント が,自分の失敗した経験を振り返ることによって 得たものです。失敗の経験から内在化し,習慣化 だけでなく,具体的な方法まで発展させたところ サービス担当者会議を,サービス担当者本位か に意義があると思います。今後,事前すり合わせ ら利用者本位の会議にするために,5つのポイン の方法論として発展することを期待したいです。 達人ケアマネ vol.9 no.3 3 図2 会議のイメージを持って臨むためのプロセス ①事前に議題を把握する 焦点を当てるのかを検討します。また,③議題が ②議題を明確化する 複数ある場合は,早急性などから今回検討か次回 検討かを選択して,段階を経て話し合うこともあ ③議題に優先順位をつける ④司会進行のポイントをつかむ ⑤アジェンダを作る 図3 グループダイナミックスを活用するための根回し ①利用者と家族が会議の目的を理解して参加できるよ ● うにする ②利用者と家族は希望や意向を明確にしてから参加で ● きるようにする ③ ●メンバーが会議の流れを理解して参加できるようにする ④ ●メンバーがアジェンダを理解して参加できるようにする ⑤メンバーがアドバイスや提案を持って参加できるよ ● うにする 利用者や家族 の希望や意向 を踏まえて ります。さらに,④話し合いのポイントを考える ことにより,話の流れをイメージすることができ, ⑤アジェンダ(会議の検討事項)をつくることが できます(図2) 。 メンバーとしての準備 サービス担当者会議は,司会のケアマネジャー だけが準備すれば利用者本位の会議になるという わけではありません。メンバーの協力が必要不可 欠です。なぜならば,会議にはグループダイナミッ クスが存在するからです。そのため,ケアマネ ジャーは,利用者や家族そして各サービス担当者 に, 「事前に根回し」をする必要があります。具 専門的な意見交換ができる会議 集中して短時間で進める会議 体的には図3のように行います。 サービス担当者会議において,ケアマネジャー はグループダイナミックスを活用するために,あ ケアマネジャーとしての事前準備 会議には「何をするのか」というテーマの設定 具体的には,利用者や家族に開催目的や参加人数 が必要不可欠です。そして,テーマを明らかにし の情報提供をします。そして,会議についての利 て,どのように進めるかを準備することが,司会 用者や家族の意向を聴いておきます。また,ア を務めるケアマネジャーに求められます。そのた ジェンダを作り,各サービス担当者に渡すことに め,ケアマネジャーは,事前に利用者や家族そし より,事前に議題や検討事項を理解した上で参加 て各サービス担当者に問題点や話し合ってほしい できるようになります。 ことや気づきなどを収集して,それをまとめてか つまり,メンバー全員が会議のシナリオを理解 らサービス担当者会議を開催することになります。 した上で参加できる準備ができているということ つまり, 「事前に会議のテーマを収集し,統合 になります。このことにより事前にアドバイスや する」ことが求められます。ここでは,ケアマネ 提案を用意してもらえ,意見交換がしやすくなり ジャーがどのように準備をしているのか,そのプ ます。その結果,サービス担当者会議を集中して ロセスを紹介します。 短時間で進められることにつながります。 ほしいこと,課題などをFAXや口頭で聞くなど 面接のスキルアップをする―会議に おいても求められる日頃の面接スキル してきちんと把握します。そして,②どの議題に グループダイナミックスを活用するために,事 メンバーに対して,①事前に会議の議題として 4 らかじめ参加メンバー全員に働きかけをします。 達人ケアマネ vol.9 no.3 ➡続きは本誌をご覧ください
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