「小水力発電について」(イームル工業使用資料)(PDF形式:3.15MB)

小水力発電について
事業用発電設備の考え方と選択
イームル工業株式会社
顧問
沖 武宏
EAML
1. 小水力発電設備の分類
● 自家消費発電 ⇒ 小水路で個人(地域団体)で行う手作り発電
● 付帯設備発電 ⇒ 水道、利水(工水等)等に付帯させる小型発電
● 全量売電設備 ⇒ 発電事業として長期間の運転価値を持つ
自家消費発電設備
付帯発電設備
事業用発電設備
家1軒分ぐらい
数10kw程度
100kW以上
手作り感覚
数千万円体の投資
億円単位の投資
自家消費
自家消費または売電
売電
割高
⇒お金以外の価値
既存設備の状況によっ
ては大きな価値を生む
地域の河川を利用する
投資対効果が重要
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2.設置可能地点とその留意点
 事業用小水力発電所可能地点
一般河川
砂防/治山ダム
農業用水
ダムの維持放流水
工場排水
景勝地遊歩道の利用
 付帯設備利用設置可能地点
下水処理排水
上水道
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3.事業用小水力発電所設備概要
■ 設備の構成は、設置場所や条件等により大きく異なる。
■ 設備は、大きく土木設備、水車発電機器、送電設備に分けられる。
● 土木設備は、取水設備、ヘッドタンク、除塵設備、水圧管、放水路など
● 水車発電機器は、水車、発電機、配電盤など
● 送電設備は、送変電機器、送電線路など
水力発電設備の全体
取水設備
配電線
発電所内部
ヘッドタンク
水圧管
余水路
河川(用水路)
発電所
水車
放水路
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発電機
変圧器
配電盤
4.発電使用水量の決め方
水量選定基準
河川の年間流量を多い順に日数で並べた下記流況曲線によって決める
小水力発電の使用水量は通常 常時出力=渇水量(355日)
最大出力=低水量(275日)以上
*流況曲線は実測または流域面積による比例算出で作成する
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実測年間日流量のグラフ(流況曲線作成資料1)
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流域面積での流量算出(流況曲線作成資料2)
近傍本流観測所(測水所、取水堰、ダム等)のデータを利用、
同水系の流域面積比で下式によって算出。
流量既測水地点
ca=Bkm2
QB
ca=Akm2
計画取水地点の流量(QB)
QA
QB=QA×Bkm2 /Akm2
(流域が異なる場合や流域面積比が50%より小さい場合は、相関をとることが
望ましい。)
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5.配電線連系に伴う問題点(電力会社と事前協議)
 再生可能エネルギーの発電力が配電線の消費電力を上回ってくると、線路
の電圧が上昇する(配電線は需要家へ電力供給する設備で逆流は無い)。
 連系点の電圧が適正値(101±6V)を逸脱しそうな場合、他の需要家の電圧
を適正に維持するために連系を拒否される。
 誘導発電機の場合、配電線連系時に突入電流により瞬時の電圧降下が発
生するため付帯設備(限流リアクトル)で調整するが、90V以上が保証されな
いと認められない。(線路容量を改修すれば可能だが大きな負担となる)
100/200V
6600V
配電用変電所
需要家
負荷
潮流(電流)
~ -
負荷
逆潮流(配電線に電気を送り返す現象)
107V
適正電圧範囲
(101±6V)
小水力発電所
~ -
需要家
逆潮流あり
電圧
95V
90V
逆潮流なし
配電用変電所の変圧器からの距離⇒
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資源エネルギー庁資料修正
6.事業用水車の特徴と選択
 水車には、落差や流量の違いにより、様々な種類がある。
 落差や流量に合せ、最も適した水車を(効率、スペース等)選定する。
低落差はカプラン水車領域だが、小水力では価格対応で水中タービンが多い
衝動水車
反動水車
速度のエネルギー利用
高落差用
中落差用
圧力のエネルギー利用
中落差用
低落差用
ペルトン水車
クロスフロー水車
フランシス水車
流入
流入
参考文献:一部水力ドットコム
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水中タービン
流入
●ペルトン水車(高落差)
ペルトン水車のしくみ
回転
流入
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●フランシス水車(中落差)
※最も使用されているタイプ
フランシス水車のしくみ
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● クロスフロー水車(中・低落差)
クロスフロー水車のしくみ
ハウジング
ケーシング
ガイドベーン
水車ランナ
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● カプラン水車(プロペラ水車)
 2m~数10mの低い落差に適用
 カプラン水車とは;
・GVとRVが可動できる水車で、変流量に対応可能
・部分負荷でも高効率な運転ができる
 プロペラ水車とは;
・フランシス水車と同じ反動形の水車
GVとRVが固定の水車で、一定流量で運転
 カプラン、プロペラかは、流況等により使い分け
注)GV=ガイドベーン、RV=ランナベーン)
マーベル社資料(日本小水力発電提供)
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● 水中タービン発電機
発電機
増速機
ガイドベーン
ランナ
A :発電機部
B:増速機部(直結型には存在しない)
C:水車部(GV固定、RVステップ切替)
特徴
落差20m以下、流量1㎥/s以上
低落差水車で最も高効率
季節による流量調節はRV切り替えで
対応可能(GV固定)
可変速タイプはRV固定運転範囲拡大
水中設置のため建屋不要で洪水時の水
没がない(総建設費が低い)。
適合場所
河川、ダムの維持放流、農業用水路、
工業用水・浄水場
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水中タービン設置例(模型写真)
水中タービン発電機
上水槽
導水路
入口弁
放水室
ドラフトチューブ
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7.発電機の選択
○同期発電機(自立発電)
○誘導発電機(連系受電発)
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8.水車発電機制御盤(屋外タイプも可能)
調速機制御盤
発電機監視盤
補助継電器盤
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9.メンテナンス上から機器選定の留意点
 水車
河川水直接使用のため水車は性能以上にゴミ対策構造を検討
長期(数十年)連続使用に耐える材質等を選択
付属補機(調速機、水位調整器)はトラブル発生多く長期使用実績確認
 発電機
室内温度対策を考慮(換気扇または風道設置)
絶縁材料進化でコイル温度が100度以上で設計されている
軸受管理(予備設置)
転がり軸受は耐用時間に注意(5万時間程度)
すべり軸受は油質、油量チェックで長期間使用できる(数十年)
 メーカー選定の留意点
トラブル対処への即応と長期継続(運営側に専門技術者はいない)
地元企業との連携が必要(建設時の工事等で技術移転)
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10.可能性調査依頼前の検討事項(専門事業者又はメーカー)
 H(有効落差)とQ(使用水量)の概略を決める
 水車発電機の出力(kW)を決める
kW=9.8×H(落差)×Q(流量)×0.7(水車発電機効率)
 経済性評価
売電料金による総投資額限度の想定
年間発電量kWh= kW×年間発電時間
年間売電料金= kWh ×売電単価
* 総建設費(土木設備、電気設備、用地漁業補償費)
総建設費/年間kWh 300円程度以下
総建設費/kW
200万円程度
*総建設費の内、水車発電機器価格は次表を参考
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水車発電機の概算価格(高落差ほど安価になる)
 電気設備(受電、送電、非常電源))は出力に比例せず、5千万程度
 低落差領域水車として、水中タービン発電機は1/2程度(20m以下)
機器価格(百万)
【1,000kW未満】
落差(m)
水車発電機器の価格(ハイドロバレー計画ガイドブックの算出式より)
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まとめ
小水力発電は貴重な再生可能エネルギーとして大きく認められる時代となり、
多方面で関心が高まっている。
しかし65年前中国地方で始まった全量売電式の小水力発電は、地域社会に
大きく貢献したが、時代が変わると共にその経営は厳しい状況も経験した。
小水力発電は他の再生可能エネルギーに比べ、24時間365日安定した発電
が続けられ、地域資源の開発と経済効果、環境問題への貢献に役立つ。
事業用小水力発電の建設には多額の資金と時間が必要で、事業の立ち上げ
には最も負担が大きい、このリスクを考慮してFIT制度の長期継続が望まれる。
小水力発電における水車発電機器は、維持業務を地域の事業者が受け持つ
ことで安定した発電が続けられる、建設時点から事業者の構成にメンテナ
ンス担当部門を組み入れることが長期安定運転に役立つ。
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